ウクライナ侵略は「浄化作戦」だった
「ブチャ虐殺」のいいわけとして、ロシア側はこんな言っていました。
ラブロフのいう「西側のデッチあげで挑発だ」いうのは、弁明ではなくただのポジショントークです。
ぜんぶ国内向けですから、何も言っていないのに等しい。
当事者のロシア国防省は、こんなコトを言っています。
「殺害された市民の映像をめぐり、「死後硬直が見られず、ウクライナ側が西側メディア用に制作したものだ」、「3月29日のトルコでの交渉後、ロシア軍はブチャを離れている」と主張した」
(FNN4月4日)
他にも、「ロシア軍による支配中に「ブチャで地元住民が暴力的事件を起こしたことは一度もない。自由に外出できた」とか、「人道支援物資を何百トン持ってきた」「すべてネオナチがやったことだ」とも言っているようです。
ネオナチうんぬんをここで言い出したのは、意味があります。
プーチンは、この戦争の「大義」はウクライナのネオナチからの解放、すなわち「非ナチ化」だ、と自分で言っているからです。
「NATOはウクライナの“ネオナチ”をあらゆる面で支援している、ウクライナの“非ナチ化”を目指さなければならない」
(2月24日プーチン演説)
プーチンは共産主義者ではありませんが、そのエッセンスである国家と社会の画一的統制を受け継ぎました。
異論を許さない全体主で国民を縛り上げていく時、その核になるキイワードが必要です。
それが「大祖国戦争」でナチスに勝利した、全人民は団結してナチスに打ち勝ったということを神格化してしまいます。
たとえば、今、プーチンは5月9日までにウクライナ戦争を終りにすると言っているようですが、これは対独戦勝記念日で、ソ連時代から続くロシア最大のイベントです。赤の広場で軍事パレードをして軍事力を誇示します。
これがロシアの、いやプーチンの絶対正義です。
絶対正義ですから、普遍的で国境を超えます。
たとえば、ロシアがクリミアに継いでシリアに軍事介入した2016年の対独戦勝利記念日の演説で、プーチンはこう言っています。
東京新聞
「ロシアは昨年以降、ソ連崩壊後旧ソ連圏以外で初めての本格的な軍事作戦をシリアで展開している。これを念頭に、プーチン大統領は演説で「今日のロシアの兵士や司令官は(第二次大戦に勝利した)英雄たちの後継者であることを証明した」と誇示した。
プーチン氏は「ソ連がナチスの支配から多数の国を解放した」と述べ、第二次大戦で果たしたソ連の貢献を強調。2014年のウクライナ危機以降、ロシアは欧米諸国との対立を深めたが「グローバルな脅威となったテロに勝利するため、ロシアは他国と協力し、軍事ブロックを超えた国際安保システムを構築する用意がある」と呼びかけた」
(毎日 2016年5月9日)
隣の国であろうとなかろうと、ウクライナが国家としてナチズムを蘇らせたと考えれば、ウクライナ人が何人殺されようと、女性や子どもが何人死のうと、許されることになります。
このようなことをプーチンは、チェチェンでもシリアでもやってきました。
これが「プーチン主義」です。
「露国防省は3日の声明で民間人殺害などへの関与を否定している。一方、国営のロシア通信は3日、ウクライナが親米欧・反露路線の「ナチ化」を志向しているとして「浄化」の必要性を指摘した。民間人殺害を正当化したと受け取れる内容で、露軍が制圧地域で「ナチ政権」を支持しているかどうかの大規模調査を実施することやエリート層の除去を主張している」(読売4月5日)
ウクライナ「浄化」が必要とロシアで報道、エリート層除去を主張 : 国際 : ニュース : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)
今回ウクライナ侵略の口実に使われたのが、「アゾフ連隊」でした。
「アゾフ連隊」こそネオナチで、彼らが東部でジェノサイドをしているのを止めねばならない、われわれロシア軍は平和維持軍なのだとプーチンは主張しました。
これはいいがかりです。「アゾフ連隊」の虐殺があったのかといえば極めて疑問です。
ウクライナ研究の第一人者、神戸学院大学の岡部芳彦教授はこう明解に答えています。
「一言でいうと、全くない。もちろん今回、8年間、戦争が2014年から続いてきた地域なので、当然戦闘が散発的に起こって、死者は、ロシア系武装勢力ですとか、ウクライナ軍にも出ている。
ただ、大量虐殺というようなことは全くありません。ただ、ナチスというと、どうしても虐殺っていうようなことと結びつけないといけないので、こういう主張をされてるという形になります」
(FNN3月20日)
【専門家解説】ウクライナをなぜ「ナチス」呼ばわり? プーチン大統領の"極端な"歴史観…背景に「独ソ戦」(FNNプライムオンライン)
「アゾフ連隊」はプーチンのウクライナ侵略の言い訳に使われただけです。
今でも親露派の人たちが、なにかというと「アゾフ連隊」の存在を「ロシアにも言い分がある」とばかりに利用するのは滑稽だから止めたほうがよい。
それはさておき、そして始まったのが、ウクライナ侵略という「浄化作戦」でした。
メディア報道では、調査→拘束→尋問(拷問)→殺害のプロセスがバラバラに報じられているのでつながりがわかりにくいかもしれませんが、こういう流れです。
今、ロシアが占領地でやっていることは典型的な浄化作戦で、ウクライナ人を選別と淘汰のふるいにかけているのです。
まず占領地の全住民を大きくふたつに選り分けます。
まず「いいウクライナ人」と「悪いウクライナ人」に二分するところから始めます。
「いいウクライナ人」は、ネオナチ主義に染まっておらず、ロシアに協力的な者です。
一方悪いウクライナ人は、西欧風の自由主義的思想にかぶれて、反ロシア的な愛国心を持つ人間、ないしはそういう危険分子と連絡を取っている支持層です。
危険分子には、ウクライナの指導層、官僚層、宗教指導者、教育者、軍幹部とその支持層が入ります。
彼らはナチズムに骨の髄まで染まっているので、全員を「矯正不可能」として抹殺するしかありません。
集団墓地と銃乱射事件:キエフ地域での「ブチャ虐殺」の不思議な詳細 - News | WACOCA JAPAN
それを選別するためには、便利な道具があります。それがスマホです。
スマホを調べれば、ツイートの書き込みや電話先から、その人物の思想傾向や行動がわかります。
だから占領地で、ロシア軍が真っ先にスマホを取り上げて検閲するのはそのためです。
そして、西側思想のツイートをしたり、ロシア軍に対して批判的なことを発言していれば、「ネオナチ」の一丁あがりりです。
ひとりこのような危険分子は腐ったリンゴですから、リンゴ箱から取り除いてやらねばなりません。
さもないとリンゴ箱全体が腐ってしまいます。
ロシア軍はブチャの住民を殺すために広場に集めて、こう言ったそうです。
「キーウ州ブチャでは、ロシア軍が住民約40人を広場に集めた後、連行した5人の男性のうち1人をひざまずかせた状態で射殺。住民に向かって「われわれは汚れを清めるためにやって来た」と宣言した」
(東京4月4日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/169775
これこそが全体主義特有の選別思想そのもので、こちらこそ正統のナチズムです。
そして捕まえた人間は、なにせ「悪いウクライナ人」ですから、人権はありません。
後ろ手に縛って拷問にかけたり、時には殺害したり好き放題してかまいません。
このようなことは、なかなか表面に出ませんでしたが、今回慌てて逃げたために大量に証拠を残して行きました。
では、ロシアの言い分を検証してみることにしましょう。
まず、、世界に衝撃を与えた映像が撮影された日付から押えておきましょう。
ロシア軍は3月31日の夜からキーウ方面の部隊撤退を開始、4月1日の明け方までに戦術大隊3個~4個相当の部隊をベラルーシに向けて移動させ、他の部隊も次々と撤退を開始しました。
数万の部隊の移動が突然始まったために、混乱していたようで、ロシア軍の戦死者が多く置き去りにされているのか発見されています。
ということは、4月1日未明までロシア軍はブチャにいたことになります。
ウクライナ軍が街に到着したのは、4月2日以降のことでした。
では、下の遺骸が散乱する写真はいつ撮られたのでしょうか。
ロシアが主張するとおり、4月2日以降なら辻褄が合います。
これについて決定的な証拠写真がニューヨークタイムスからスクープされています。
Dead Lay Out in Bucha for Weeks, Refuting Russian Claim, Satellite Images Show - The New York Times (nytimes.com)
『衛星画像は、ロシアの主張にもかかわらず、遺体が数週間ブチャに横たわっていることを示している』
たいへんにおもしろいので、全文訳してみました。
「ニューヨーク・タイムズ紙による衛星画像の分析は、キエフ郊外のブチャでの民間人の殺害は、兵士が町を去った後に起こったというロシアの主張に反論している。
週末にブチャの路上に横たわる民間人の死体(両手を縛られた者もいれば、頭に銃創を負った者もいる)の画像が現れたとき、ロシア国防省は責任を否定した。日曜日の電報の投稿で、同省は、3月30日頃に「すべてのロシア部隊がブチャから完全に撤退した」後、遺体が最近路上に置かれたと示唆した。
ロシアは、画像は「もう一つのでっち上げ」だと主張し、ブチャでの「ウクライナ過激派の挑発」と呼ばれるものに関する国連安全保障理事会の緊急会合を呼びかけた。
しかし、タイムズ紙によるビデオと衛星画像のレビューは、ロシア軍が町を支配していた3週間以上前に民間人の多くが殺されたことを示している。
遺体がいつ現れたのか、そして民間人がいつ殺された可能性が高いのかを確認するために、タイムズのビジュアル調査チームは衛星画像の前後の分析を実施した。画像は、3月9日から3月11日の間にヤブロンスカ通りに現れた人体に似た大きさの暗い物体を示しています。4月1日の映像が示すように、遺体はウクライナ軍がブチャを奪還した後に発見された正確な位置に現れる。さらなる分析により、物体は3週間以上その位置にとどまっていたことが示されている。
死因は不明である。いくつかの遺体は衝突クレーター(注・爆撃跡)と思われるものの横にある。他の人たちは放棄された車の近くにいた。遺体のうち3体は自転車の横に横たわっていた。白い布で両手を背中の後ろに縛られている人もいる。遺体はヤブロンスカ通りの半マイル以上に散らばっていた。
ヤブロンスカ通りで撮影された2番目のビデオには、さらに3人の遺体が映っている。1つは自転車の横にあり、もう1つは放棄された車の近くにあります。衛星画像は、放棄された車と近くの遺体が3月20日から21日の間に現れることを示している。
これらは、土曜日以降に発見された民間人の遺体のほんの一部です。AP通信は、少なくとも6人の死亡した男性がオフィスビルの後ろに一緒に横たわっている画像を掲載し、中には背中の後ろで手を縛られた人もいます。この建物は、ヤブロンスカ通り沿いで発見された他の犠牲者の西1マイルだ。
さらに1マイル進むと、タイムズ紙のカメラマンが、頭に銃創を負った男性が自転車の横に横たわっているのを発見した」
(ニューヨークタイムス4月4日)
お読みいただければわかるように、完全にロシアの弁解を粉っぱみじんにしています。
衛星写真が撮られたのは、3月20日から21日です。
ウクチイナ軍が街を解放したのが、4月2日。
ウクライナ軍が偽旗作戦をしたくても、その時は街にいなかったのです。
ミステリーでいうアリバイ成立です。
なお、ウクライナはこのブチャ虐殺に関わったロシア軍兵士を既に特定しており、ネットで情報を流して情報を集めようとしています。
判明している虐殺にかかわった部隊名は、第64自動車化狙撃旅団で1600人以上。氏名・生年月日・階級・パスポートナンバー等もわかっています。
「ワシントン=横堀裕也、田島大志】ウクライナ国防省は4日、首都キーウ(キエフ)近郊の複数都市で多数の民間人の遺体が見つかったことについて、このうちブチャで「戦争犯罪に直接関与した」とするロシア軍兵士の名簿を発表した。英BBCによると、約2000人が掲載されている。多数の兵士が関与したとの訴えに呼応する形で、欧米などはロシアへの非難をさらに強めている。
ウクライナ国防省は、露軍兵士のリストを氏名や生年月日、階級などとともにホームページ上で公開し、「ウクライナ市民に向けられた犯罪は、全て裁判にかけられる」と非難した」
(読売4月6日)
今まで虐殺は十数年後になってから調査されるために、証人がいなくなったり、証拠が散逸するケースが多かったのですが、今回はホットです。
虐殺者はウクライナ国内にいる可能性すらあります。
国際社会は、侵略非難と切り分けて、虐殺者の調査に早急に乗り出すべきです。
ウクライナに平和と独立を!
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さっさと戦車も戦闘機もウクライナに引き渡してあげて、クリミア含め全部奪還させて、もしロシアが核兵器を撃ち込んできたら全部迎撃してあげて、カウンターでプーチンの隠れてるエリアの複数候補にだけ徹底的に核兵器を撃ち込んで、全て終わりにしてしまえば良いのに。
なんて。考えてしまいます。ロシア人にもウクライナ民間人と同じか、それ以上に血を流して欲しい、と考えている自分がいる。
投稿: ねこねこ | 2022年4月 6日 (水) 09時57分
浄化。なんとおぞましい言葉でしょうか。
その本来の意味とは裏腹に吐き気を催します。
どうか、無駄に流される血がなるべく少なく済みますよう、彼方日本から祈ります。
投稿: あいうえお | 2022年4月 6日 (水) 16時20分
初めからあれが目的なのだから、我が国への脅威を除去しただけ、何が悪いの?くらいにいうのがプーチンロシアらしい筋じゃないのかと思いますが、俺はやってない、ウクライナの作り話だと言い張るのは、あれがとても悪いことだという認識があるからですかね。
残酷なくせに被害者仕草なの、心底うんざり。
投稿: 宜野湾より | 2022年4月 6日 (水) 21時24分
私は日本国内でのウクライナ報道に何か違和感があって、それはどこか、他人事(他国事)のように報道しているキライがあるからです。「ウクライナはロシアに地獄にされちゃったけど、ワシら日本は平和だから良かったねぇ、ウクライナはタイヘンだ、お気の毒さま」という、マスゴミの姿勢が面白くありませんわ。日米アンポさまさまの、平和ボケですわ。
もし中共がロシアのマネをして侵略してきて、一民間人である私をとっ捕まえて私のスマホを操作して、ここに書いているコメントなどを読んだとしたら、私なんぞイの一番に粛正されて後頭部をズドンですわ。
決して日本は安全地帯なんかじゃないので、ウクライナは近い未来の日本なのかも知れないのですわ。何も不安を煽るんじゃなくて、地政学的に見たら…というヤツで、中共、朝鮮、ロシアと国境を接している現実ですわ。過去、対馬はロシアに占領されたことがあるし、四島は占領されたままという事実もあります。竹島も盗られてる。明日は我が身だと考えておいても損することはありませんわ。
ケンポー改正、時と場合によっちゃあ先制攻撃も可能にして、核兵器を使用できるようにする、などなど。もうコロナ感染者数なんて騒いでないで、ここらで『国防』について盛り上げておかないと、いったい何時するんだろう?そのチャンスなのに!と思いますわ。よりによって、こんな時の首相が岸田さんだなんて、悪夢なら早く醒めてくれ。
投稿: アホンダラ1号 | 2022年4月 6日 (水) 22時51分
以下長文失礼します
この前のウクライナ人の強制移住の件といい今回の件といい、全くプーチンは大祖国戦争に惹かれるあまり当時と全く同じことをしているのでしょか?スターリンごっこも大概にしろと思います。私もプーチンが自由主義世界の基準でいう「マトモな」指導者ではないと思っていましたが、ここまで危険な人物だとは思っていませんでした。それにしても昨今のロシアの国際的デリカシーの無さはソ連以下かもしれませんね。文化財の破壊を予告したり、降伏しなければ住民を皆殺しにすると通告したり、第二次大戦の頃でさえこんなことを露骨に言う国はなかったというのに。
投稿: 中島みゆき | 2022年4月 7日 (木) 01時13分