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2022年4月28日 (木)

ウクライナ戦争前夜まで

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小泉悠氏が、ウクライナ戦争前段までの状況について詳述していますので、これを下敷きにしてウクライナ戦争が起きた背景を探っていきたいと思います。
※『ロシシア軍全面新興ウクライナ戦争の背景』丸5月号

さて小泉氏は、今回の戦争に繋がる事態は、2021年春頃に生じたと見ています。
2021年4月、ウクライナ国境にロシア軍が集結を開始し始め、その数は11万と伝えられていました。
集結したロシア軍には、西部軍管区や中央軍管区の部隊も含まれており、全国動員がかかっていたようです。
この時点でロシアが戦争の意志を持っていたことは疑い得ません。

プーチンがやったことは、まず挑発して相手方の出方を見ることでした。
彼なりの観測気球を上げてみたのです。
その方法は、ドンバス地方(ドネツク・ルガンスク地域)で、親露派武装勢力を焚きつけて、キエフ合意違反を激増させたことです。
その数実に2021年1月から3月までに7000件にも及び、その大部分は親露武装勢力の仕業でした。
下の写真は、ウクライナ国旗を引き裂いている親露派武装勢力です。
まともな軍人は少数で、地域の半グレのような連中ばかりですので、規律がなく弱兵揃い。
そこでロシア軍が密かに彼らの軍服を着て戦っていたのは、公然の秘密でした。
下の写真はウクライナ国旗を破いていきがっている親露派武装勢力のものですが、まともな軍隊ならこんなことはしません。

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ウクライナの親ロシア派武装勢力が支配する東…:緊迫 ウクライナ情勢 写真特集:時事ドットコム (jiji.com)

この挑発を受けて、ウクライナ軍は必ずロシア軍は国境を超えてくると確信して、できるかぎりの武器弾薬を集積し、臨戦態勢に入ったそうです。

では、プーチンはなにを観察していたのでしょうか。もちろん米国の動向です。
というのは、ちょうどこの時期、偶然にも米国大統領選の結果、バイデンが政権が成立していたからです。
ロシアとしては、トランプが続いたほうか好都合だったと、小泉氏は見ます。
トランプは共和党独特の国際秩序維持の役割に消極的姿勢を持ち、自分の国の利害を前面に押し出す傾向があったからです。
おそらく彼ではNATOは団結できずに、武器支援は失敗に終わったことでしょう。

一方、バイデンは同盟重視を掲げ、プーチンから見れば「いつもの米国が戻ってくる」と感じて警戒しました。
ですからプーチンは、トランプのほうが組み易いと考えたのでしょう。

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バイデン政権誕生へ始動、コロナ対策メンバー発表へ - 社会写真ニュース : 日刊スポーツ (nikkansports.com)

実際、政権をとったバイデンは就任早々の2月、クリミア半島簒奪7周年にあたってロシアのクリミア半島領有を認めないと発言し、ウクライナに対する軍事援助を増強しました。
プーチンは恐れていた米国の関与強化が明らかになった、と考えて身構えたと思われます。

一方、ウクライナにとっては、百万の味方が現れたという思いだったはずです。
というのは、この2年前の2019年に政権の座についたゼレンスキーは、クリミアとドンバスの主権奪還を掲げつつ、現実にはロシアとの対話路線を模索せざるをえませんでした。
なぜなら、EUとNATOがウクライナに無関心を決め込んでいたからです。
しかし、バイデンが就任するとゼレンスキーはそれに勇気づけられたのか、プーチンとのつながりが強いとされる親露派の資産凍結に踏み切り、さらに8月の独立記念日には世界の首脳を集めて「クリミア・プラットフォーム」を作ることを発表しました。
これらのウクライナの動きに対して、4月に行われた米国-ウクライナの電話首脳会談で、バイデンは「ゆるぎない支援」を約束しています。
バイデンは11万の大軍を演習名目で国境付近に集結させているロシア軍に対して、牽制する狙いがあったと思われます。

ところが、このまま緊張が高まると見えたロシア-ウクライナ間は、一転してデタタント(緊張緩和)を迎えます。
4月22日、ロシア国防相がウクライナ周辺の軍事演習が終了したとして、集結したロシア軍に撤退を命じたのです。

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ウクライナ国境付近のロシア軍、衛星写真で活動が明らかに - BBCニュース

もっともこれはただのポーズにすぎず、ほんとうに撤退したのはごくわずかで、大部分のロシア軍はそのまま居すわっていたのですが、これに飛びついたのがバイデンでした。
この偽装撤収を、プーチンからのデタントの外交シグナルだと考えてしまったのです。

これを受けてバイデンは6月に米露首脳会談に合意し、さらに懸案になっていたノルドストリーム2に科していた制裁を大幅に緩和すると発表しました。
6月の米露首脳会談では、バイデンはウクライナのウの字も口にせず米露がデタントに入ったことを世界に大きくアピールしました。
バイデンは冷戦期を知っている政治家だけに、このプーチンの動きを冷戦期に何度かあった緊張と雪解けの周期にすぎない、本気で侵攻してくることはないだろう、いままでだってレッドライン寸前で互いにストップしたのだから、と考えてしまったようです。
完全なプーチンの意志の読み違えです。
プーチンのウクライナ侵略の意志は2014年のクリミア侵攻以来一貫して変わらず、その時期を見ていたにすぎなかったのですから、プーチンはバイデンなどだますのはチョロイもんだと舌をだしたはずです。

このデタントは淡く短い夢に終わります。
暗転はわずか2か月後の6月、英海軍が黒海にウクライナ軍への軍事援助引き渡しのために訪れた時に起きました。

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ロシア、警告射撃の映像公開 英駆逐艦のクリミア接近|全国のニュース|佐賀新聞LiVE (saga-s.co.jp)

英国海軍駆逐艦ディフェンダーがクリミア半島沿岸を航行中に、ロシア沿岸警備隊の発砲を受けた上に、ロシア空軍に進路に爆弾まで投下されたのです。
ロシアは領海侵犯だと主張しましたが、仮にそうであったとしても無害通航権があるわけですから、それに対して発砲したり空爆したりするのは正気の沙汰ではありません。
これで一気にデタント気分が吹き飛びました。

NATOは黒海に艦艇と航空機を集結させ、ロシアも負けじと集結したために緊張が高まりました。
デタントはあっけなく終わったのです。
そこに8月の米国のアフガン撤退がかぶりました。

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「アフガン撤退」が送る日本へのシグナル|テレ朝news-テレビ朝日のニュースサイト (tv-asahi.co.jp)

バイデンは8月中の撤退にこだわり、アフガンにおける米国の敗北を世界に印象づけてしまいました。
結果として、アフガンを中国に割譲してしまい、しかもアフガン政府とも同盟国とも一切の協議もしないで撤退してしまったために、同盟国との亀裂を作りました。
英国など、「スエズ動乱以来最大の裏切り」と激怒し、バイデンが「自国を守る意志がない国は守らない」などと時と立場をわきまえない発言をしたために、いらぬ同盟国の動揺まで引き起しました。韓国が本気で動揺したのはご愛嬌でしたが。
これは最悪のプーチンへの外交シグナルでした。
米国は本気で中国やロシアとはコトを構える気はない、何をされても口先非難しかしない、という誤った発信をしてしまったのです。
小泉氏は、バイデンが制裁緩和や軍備管理で弱腰だったと見ており、さらにはこの8月のアフガンからのあわてふためいたような撤退ぶりを目の当たりにして、「米国は世界秩序維持の役割から降りようとしている」と考えたとしています。
プーチンにゴーサインを出したのは、他ならぬバイデンなのです。

そして7月、このバイデンの弱腰に気をよくしたプーチンがおもむろに取り出したのが、ドゥーギン譲りのユーラシア主義宣言とでもいうべき思想的宣戦布告文書だったのです。
プーチンはここでロシアとウクライナの一体性を主張し、ウクライナは弟のような国だとしたうえで、彼らは誤って独立してしまった、自立する力などないために崩壊国家になった、そしていまや西側の東進政策の拠点にされてしまったのだ、これを許すわけにいかないと非難しています。

この昨年夏の時点で開戦はできるできないの次元ではなく、いつするのかの現実的テーマに移行します。
プーチンが囚われたのは一撃主義でした。
ほんのわずかな力を加えれば、ゼレンスキーは政権を放り出して逃げ出すだろうから48時間でウクライナは片づくはずだという非現実的な想定です。
そのために、本来は東部2州への侵攻だけでよいものを、あえて軍を分割して半分をベラルーシから南下させてキエフを奇襲し、ゼレンスキーら国家指導部を無力化する斬首作戦にこだわりました。
ここでウクライナの頭脳を叩き潰せば、ウクライナの軍も国民もヤヌコビッチのような傀儡政権を再び受け入れるはずだと考えたのです。

後にこれは戦線の無意味な広域化と、補給線の長大化、兵力不足といったロシア軍の力の分散を呼ぶ原因となります。

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https://usmail24.com/russia-breaks-ceasefire-to-shell-evacuation-routes-out-of-besieged-mariupol/

成功した場合の予定稿「ロシアの攻勢と新世界」を、RIAノーボスチ通信社が間違って公開したため、ほんとうにそのように考えていたことが世界に知れ渡ってしまいました。
世界はロシアが本気で4日間で勝てると信じていたことに驚きました。

なぜプーチン政権は、ここまで非現実的になってしまったのでしょうか。
根本的にはプーチンの「ロシアとウクライナは一体」というユーラシア主義思想がありますが、その権力構造が側近をみずからと同じ体質を持つ旧ソ連情報機関出身者たちで固めてしまったことにあります。

彼ら旧ソ連情報機関は、スパイらしい独特の思考様式と手段を偏愛します。
彼らにとって武力行使は、暗殺・拉致・斬首作戦など少人数による電光石火の作戦であって、旧ソ連軍の伝統の重厚長大の縦深作戦には興味がありませんでした。
東部地域からひたすら戦車と歩兵戦闘車の大軍で、津波のように押し寄せるという縦深作戦は否定され、空挺部隊と特殊部隊によるアントノフ空港からの斬首作戦が開戦直後に実施されました。
そしてそれが無残に失敗すると、戦争計画全体がバラバラになってしまい、自壊していきます。

このような流れを見ると、日本の親露派が流す情報がただの俗説にすぎないと、お分かりになったと思います。
彼らは戦争の原因をこう言っています。
いわく、「ドネツクでウクライナがドローンを飛ばしてプーチンを刺激したからだ」、「ドネツクでネオナチがジェノサイドを働いたからだ」、はたまた「キエフ合意を守らなかったウクライナが戦争を招いたのだ」、「ゼレンスキーが話あいを拒否したからだ」などという言い草は、以上の流れを見ればデタラメだとわかるでしょう。

 

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ウクライナに平和と独立を

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コメント

振り返ってみると改めて、ゼレンスキー氏の胆力に驚嘆します。それこそがプーチンの一番の誤算だったのではないでしょうか。

 遅くとも2014年のクリミア以来、プーチンは一貫してウクライナ侵略への意思を持っていた。そのための軍事的実際行動への着手は2014年春には開始されていて、ウクライナ国内では傀儡親ロ派勢力を使嗾して挑発行為を繰り返していた。

こうした事実を前にして、いかにわが国のリアリズムを自認しさえする一部保守派の親ロ的言説の根拠が誤りだか分かりますね。
そして、虎視眈々と用意周到だったプーチンの計画がとん挫したのは、自ら築き上げた体制による陥穽にハマった結果でした。

しかし、わが国一部保守派の親ロ的誤謬言辞はこれにとどまりません。
いわゆる「代理戦争論」、最近ではリアリズムの大家とされるミアシャイマーの一面的過ぎる「NATO東方拡大論」を応用、敷衍してまき散らしています。何とも情けなく思っています。

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