英国外交張り切る、AUKUSに日本の参加を打診
EU離脱後の英国外交には、目ざましいものがあります。
先日も、ボリス・ジョンソン英首相がキーウに電撃訪問してみせました。
しかも、表通りをゼレンスキーの案内で「散歩」してみせるという警護陣が頭をかかかえそうなことまでやって見せました。
「イスタンブール時事】ジョンソン英首相は9日、事前予告なしでウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問してゼレンスキー大統領と会談し、ウクライナに対する財政・軍事両面での追加支援を表明した。ロシア軍によるウクライナ侵攻開始後、国連安全保障理事会の常任理事国首脳がキーウを訪問したのは初めて」
(時事4月10日)
ジョンソン英首相、ウクライナ追加支援表明 キーウ電撃訪問、大統領と会談:時事ドットコム (jiji.com)
これを政治家のスタンドプレーとしか捉えられない元大阪市長を大いに悔しがらせていました。気の毒な人。
この元市長殿は、ミサイルが降り注ぐ中に行けなどと自分ができないことを、英国首相に命じていました。
「もうとにかくロシアを倒すことだけ、一般市民がどれだけ犠牲になってもやむなしっていう声がうわ~っと政治家の中から出てくるんですけど、いや、政治家だって、自分の命のことになったら、いつ行くかってことを微妙に判断してるじゃないですか。じゃ、いっちばんミサイルが飛んでる時に行きなさいよ が、と。だーーーれも行かないわけですよ」
(飯山陽氏による書き起こし note4月12日)
蟹は甲羅に似せて穴を掘るとはよくイッタもんです。
自分の尺度でしか見れないのです。
大阪市長の災害対応の感覚でウクライナ戦争を切ってみせて悦にいる始末。
その心理の奥には、どうやらこの人は大きなステージでスポットライトを浴びる人が出ると、嫉妬してしまうタチがあるようです。
口だけ達者ですから、そんなセコイ男の嫉妬を、さも政治的に意味あるかのようにしゃべり散らすから悪質です。
ホントこの男、国政に出てこなくてよかった。
吉本興業にでも拾ってもらって、時事漫談でもやったら。
閑話休題。
このウクライナ訪問は、ただの目立ちたがり屋ではなく、ウクライナ戦争後をにらんでいました。
ウクライナが和平交渉の中で行っていたことは、「中立化」の代償です。
ウクライナはロシアの要求の「中立化」を徹底的に値切り倒して、NATO加盟を取り下げることまで矮小化してしまいました。
もちろんかつてのフィンランドのような「親露のような、ではないような」というデリケートな立場になる気はいささかもありません。
だってウクライナというダビデは、ロシアというゴリアテの顔面に石ツブテを投げつけてうずくまらせしまったのですから。
そしていまやウクライナが戦っているのは、たんなる自国の独立のためだけではなく、自由と民主主義、法の支配を守るためだと宣言したからです。
我々ウクライナ人の戦いは、民主主義と全体主義の戦いなのだと宣言したわけです。
こうウクライナに言われては、自由主義陣営は指をくわえて眺めているわけにはいきません。
「中立化」の名の下にNATOに代替する具体的な多国間安全保障体制を構築せねばならないし、英国はそれに真っ先に手を挙げたのです。
集団のみならず、単独国としてもウクライナに安保を提供する用意があることを、まっさきにゼレンスキーに言いに行ったのでしょう。
このような従来の枠組みにとらわれずに、自在に各国と集団安全保障の幅を拡げていくのが、ジョンソン流のようです。
Wedge
また最近では、2022年3月14日、英国の主導する北欧10カ国の連合体JEF(Joint Expeditionary Force・統合遠征軍)が成立し、首脳を含む代表が初めて英国首相別邸で会合を開きました。
このJEF10カ国とは、英国、アイスランド、オランダ、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、エストニア、ラトビア、リトアニアで、出来たのは今を去ること10年も前になります。
当時のNATOは、ロシア宥和主義に凝り固まったメルケルおばさんに牛耳られていたために、ガタイだけが肥大し続けていたのに、本気でロシアの抑止装置になる気はなしという情けない時期でした。
この時期に、当時中立政策をとっていたスウエーデン、フィンランドを参加させた枠組みを作ってしまうというのが、さすがブリテン。
それが初めて意味を持つことが、参加各国に痛烈に響いたのが、今回のウクライナ侵略だったわけです。
今回のウクライナへの速やかな武器供与みると、JEFのなんらかの合意があったのかもしれません。
JEFの最大の利点はこのウクライナ侵略といった軍事的に急を要する事案が起きた場合、クラス委員会のようなNATOとは別枠で、それぞれの国の首脳同士の合意ひとつで、即応できることです。ヨーロッパの場合、空陸の兵力だけではなく、多くの小国に欠けている海軍力を提供するのが米英の2カ国である以上、この「ヨーロッパ連合艦隊」を形成するためには米英、とくにーロッパの当事国として英国が中軸になる必要があったようです。
「3月14日、英国が主導する北欧10カ国の連合であるJEF(Joint Expeditionary Force=統合遠征軍)の6カ国首脳を含む代表が初めてチェッカーズ(英国首相別邸)で会合した。エコノミスト誌3月19日号が報じたところによれば、彼らは、ウクライナが要請する武器その他の装備を「相互に調整し、供給し、資金を手当てする」ことに合意した。
また、彼らは、JEFは訓練と「前方防御」を通じてロシアの更なる侵略 ――北大西洋条約機構(NATO)を妨害しあるいはNATOの敷居に至らないようなウクライナの国境外での挑発を含め ―― を抑止することを狙いとする、と宣言した。
JEFは、その存在がほとんど知られていないが、10年前に即応部隊として設立され、英国、アイスランド、オランダ、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、エストニア、ラトビア、リトアニアの10カ国から成る。NATOと異なり、危機への対応の意思決定がコンセンサスを要しない点が大きな特徴である。
英国にとって、JEFを通じる活動はNATOの北辺における伝統的な軍事的役割を再構築し、同時に英国にとっての自然な同盟国との間にBrexit後の関係を作るものであると言えるだろう」
(Wedge 2022年4月6日)
ウクライナ情勢下で機能する英国主導の北欧連合JEF(Wedge) 3月14日、英国が主導する北欧10カ国の連…
いうまでもなく、JEFは訓練と前方防御を通じてロシアの更なる侵略を抑止するのが狙いです。
これはNATOが第5条の自動参戦条項に縛られて、かえって動きがとれなくなったことに対して、もっと機動的に動ける仕組みを作ろうというものです。
なんせNATOにはハンガリーやトルコのような親露国さえありますから、危機の緊急対応に腰が重いのです。
その英国が、インド-太平洋戦略として打ち出したのが第2次日英同盟構想ですか、さらにこれを具体的にする提案がありました。
なんとあのAUKAS(オーカス)に参加しないかという提案が英国から日本政府にあったようです。
産経
「米国、英国、オーストラリアの3カ国が、インド太平洋地域の安全保障枠組みとしてAUKUS(オーカス)を作りましたが、これはオーストラリアへの原潜供与にとどまらず、さまざまな装備の共同開発の強力のフレーム作りをに日本の参加を打診していることが12日、分かった。
極超音速兵器開発や電子戦能力の強化などで日本の技術力を取り込む狙いがあるとみられる。
日本政府内ではAUKUS入りに積極的な意見がある一方、米英豪3カ国とは2国間の協力枠組みがあるため、参加の効果を慎重に見極める考えもある。
複数の政府関係者によると、米英豪3カ国はそれぞれ非公式に日本のAUKUS参加を打診。極超音速兵器や電子戦能力のほか、サイバー、人工知能(AI)、量子技術などの先端技術分野で、日本の技術力との相乗効果に期待がある」
(産経4月12日)
<独自>AUKUS参加、米英豪が日本に打診 極超音速兵器など技術力期待 - 産経ニュース (sankei.com)
松野官房長官がこの報道を否定したゾ、とロシア官営スプートニクが嬉しそうに報じていますから、水面下での打診だったのを産経がスクープしたのでしょう。
といっても、無下に断ったというわけではなく、岸田さんはまんざらでもないようです。
「岸田文雄首相が3月27日に行った防衛大学校卒業式の訓示で、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を目指す上で米国以外のパートナー国として挙げた2カ国が英豪だった。日本は英豪両国とそれぞれ「戦略的パートナーシップ」を結んでおり、防衛装備品・技術移転協定も締結している。
日本はFOIPに向けた取り組みを主導してきた。AUKUS参加に前向きな政府関係者は、台頭する中国に対抗する上でも米国と同盟国を中心とした枠組みが必要と主張する」
(産経前掲)
まぁ確かに日本は体質的に余りに長い期間に渡って日米安保という二国間安全保障のぬるま湯に浸ってきたために、多国間安全保障体制を本能的に忌避する傾向があります。
日米安保は米国がこう要請しそうだとわかればササっと動き、与党内がまとまらなければ必死に落とし所をみつけようとするいじましさがありました。
唯一米国の意志に反してやらかして失敗したのが辺野古移転で、あんな筋の悪い話を始めた日本が悪い。
ですから、そのような与党内の抵抗を押し切って「自由で開かれたインド太平洋」という戦略を打ち出してザ・クアッドを具体的に立ち上げたのは、たいへんな安倍氏の力業だったわけです。
今回も多国間安全保障体制守旧派から、AUKUSはオーストラリアへの原潜供与がメーンテーマだから日本には関われない、個別分野の是々非々でやったらどうかという意見が出てきたようです。
ニュークリアシェアリングにしても、多国間安全保障にしても、ろくな議論もせずに封じこめてしまう、これが岸田流のようですが、自民党内でもコチラの方が主流でしょう。
ただそんな近視眼外交ではたち行かないことが判ったのが、このウクライナ戦争のはずですが。
とまれウクライナ戦争をきっかけとして、世界の安全保障環境が激変することだけは間違いありません。
東京新聞
ウクライナに平和と独立を
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英国がウクライナに果たした貢献は他のNATO諸国、とりわけEUの盟主たるドイツやフランスとは比較になりません。
解放後のキーウに最初に訪問する資格は、英国にこそふさわしい栄誉でしたね。
中国製造の橋下の醜い嫉妬は、そのまま旧メディアとそれをよりどころにする視聴者の劣情を掻き立てもするし、汲むべき事柄の意味さえ消し去ります。
戦い抜いた戦後のウクライナの国際的地位は否が応にも高まり、旺盛な復興需要も見込まれます。フィンランドやスウェーデンのNATO加盟によっても、北欧勢をリードする英国がNATOの盟主に代わり得ると考えられます。さすがに旧覇権国ですね。
日本をパートナーにしたい英国の思惑は最大のチャンスですが、岸田さんには無理な相談です。安倍さんなら、少なくもこうした勢力的変化を敏感に感知するでしょうが、実にもったいない気がします。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年4月15日 (金) 14時51分
ウクライナ侵攻によってインドは対露において仲間にはなりえないと証明されてしまった以上、クワッドの上位互換的な枠組みであるAUKUSは安全保障上でも有効な手段ではあるんですけどね。
原発再稼働でもそうですが「核」と名がついたらすぐに思考停止するようなら今後半世紀ぐらいは広島、長崎、沖縄出身の首相はごめんこうむります。
でも「聞く力」がある総理らしいので
米国側がケツを叩き出すと手のひらを返すかもしれませんがw
投稿: しゅりんちゅ | 2022年4月15日 (金) 15時54分