揺らぐ中露権力と新悪の枢軸
北朝鮮のICBMとみられる弾道ミサイル実験に対して、国連安保理がまた機能不全におちいったようです。
国連のダメダメぶりとは、とりもなおさず常任理事会のダメぶりのことです。
こうまで露骨に中露で組んで拒否権行使されれば、何でこんな平和の敵に特権を与えているのか、なんともやりきれない気持ちになります。
「安保理で北朝鮮制裁を強化する決議案の採決が行われた。理事国15か国中、13か国が賛成したが、中露両国が拒否権を行使し、否決された。北朝鮮の核・ミサイル開発に関する安保理決議案で拒否権が使われたのは初めてだ。
ロシアのウクライナ侵略後、中国・ロシアの連携があらゆる分野で深まっている現状を象徴していると言える。
米国作成の決議案は、北朝鮮に対する石油輸出量の上限引き下げなどを盛り込んでいる」
(読売5月29日)
社説:北制裁に拒否権 国連を無力化する中露の横暴 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)
いまさらですが、これは国連安保理決議第2321号に対する明白な違反です。
とうぜん明白な違反ですから(ああ、書いていて虚しい)さらなる厳重な制裁の強化で臨むのが筋ですが、なにぶんもっと上を行く違反の常連らが常任理事国ですからどーにもなりません。
機能不全というより、ないほうがまし。あるだけ有害な常任理事国制度でしたが、ウクライナ戦争を経てとうとう自分で決めた国連制裁決議すら遵守できなくなってしまったようです。
重症ですね。反社勢力が「世界秩序の責任者」だというのですからなんともかとも。
この度し難い国連の機能不全を解消するためには、国連における決定手続きを改革する必要が急務です。
日本を常任理事国にというリップサービスはさておき、ならず者に握られてしまった国連の意志決定プロセスの全面改革が必要です。
ただし、この改革をするには国連の規約改正をせねばならず、そのためには加盟各国の批准手続きという例の遠い道のりが待ち構えています。
国連総会での改正案の採択に必要な全加盟国の3分の2の賛成票を得るには、中国の息がかかったアフリカ・アジア諸国を切り崩し、各国が自国の憲法手続きに従って批准を完了しなければなりません。
つまりは、世界の今の構造自体を変えない限り、国連改革は絵に描いた餅にすぎないのです。
国連安保理では、米中がテーブルを叩かんばかりの激しいやりとりをしました。
「台湾やインド太平洋などで鋭く対立している米国と中国の覇権争いが韓半島に拡大する様相だ。米国が26日(現地時間)、国連安全保障理事会に上程した対北朝鮮制裁決議案が、中国とロシアの反対で可決に失敗した中、中国の張軍国連大使と米国のリンダ・トーマスグリーンフィールド国連大使は、それぞれ相手が韓半島の緊張を高めているとし、この問題と米中対立を結び付ける考えを明確にした。特に張氏は、「米国が韓半島と北東アジアに戦火を広げようとするなら、中国は決断に出るほかない」とし、軍事対応を示唆した」
(東亜日報5月28日)
中国は、バイデンが訪日の際に台湾有事に軍事介入を口にしたことにナーバスになっています。
ですから、それ自体は無関係な北朝鮮のミサイル実験と強引に結びつけて反対に回りました。
一方ロシアは、恥も外聞もなく北朝鮮の支援を求めています。
笑えることには、ウクライナ戦争前には軍事超大国を気取っていたロシアは、世界最貧国の北朝鮮に軍事支援を要請したわけです。
理由は簡単。戦車・歩兵戦闘車がやられすぎたからです。
ウクライナ軍の発表ですから誇張されている可能性がありますが、戦車だけで1338台というとてつもない数です。
ロシアの保有戦車は2800両といわれていますから、その半数を撃破されたことになります。
自衛隊の保有する戦車台数は640両ですから2回全滅した数に相当し、普通の戦争ならこれでジ・エンドですが、プーチンが始めた政治的戦争ですからやめさせてもらえないようです。
思わず耳を疑う要請ですが、今やロシアを軍事支援する国は皆無で、同盟国であるはずのベラルーシ、カザフスタンですら、冷やかな対応で、おざなりのリップサービスで済ましています。
負け戦には友人はいないという現実です。
数少ない好意的な国が、シリアとイランですが、いかんせん遠い。
その点、北朝鮮には佃煮にするくらい旧式戦車を保有していますし、陸続きですから頭を下げて譲って欲しいということのようです。
あの異様なまでにプライドの高いプーチンがと、微笑ましくなります。
ところで中国のおかれた状況もハンパではありません。
習近平がゼロコロナで暴走した結果、最大の経済都市である上海はボロボロ、ロックダウンは北京にまで広がり、大変な爪痕を残してしまいました。
上海のコロナ感染者、1カ月ぶり5000人下回る ロックダウン続く | 毎日新聞 (mainichi.jp)
なにせ上海では紅衛兵ならぬ「白衛兵」が、自宅にまで押し入って消毒液をまき散らすのだそうです。
中国人ブロッガーはこの「入戸消殺」についてこう書いています。
「自宅は、個人、その家族にとって最も神聖な領地であり、勝手に他人が入ることが許されていいものではない。あえて進入してくる人間とは、強盗か暴徒かいずれにしても違法行為のはずだ。
なので、上海人は夢にも思わなかったのだ。この白い防護服のやつらが、自宅の鍵を出せといい、それを拒否すると、SNSで流れる動画が示すとおり、ドアを叩き壊し、家の中で暴れ、室内を破壊しつくすのである。
「家の鍵を出せ、というのは今年聞いた話で最も恐ろしい話だ。鍵をを渡さすか渡さないか、選択の余地はなく、鍵を渡した後は、家の中のいかなる生活の中の重要なもの、大切な宝物、ペットも含めて全部有毒なゴミとして、殺菌処置をされる。(略)
白衛兵が入室したのちは、その不動産権利は存在せず、噴霧器で消毒薬をまき散らされ、家のあらゆる場所、隠しておきたい秘密の場所まで全部消毒された」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.584 2022年5月12日)
一部で暴動にまで発展したこの上海ロックダウンは、ここを地盤とする李克強に向かい、さらにはご本尊の習に向かいました。
李は巧みにこの現政権への民衆の不満を、習3期目阻止へとつなげました。
いままで多くの中国の政変を予言したことで有名なユーチューバーの老灯によれば、習政権は終焉間近だそうです。
習近平と李克強の権力闘争はあるのか?Part 2――共青団との闘いの巻(遠藤誉) - 個人 - Yahoo!ニュース
「習近平はゼロコロナ運動の過激なやり方、ウクライナ戦争でのプーチンとの準同盟化の失敗などで大衆の恨みが沸騰。全国の政治経済情勢が大きく乱れ、党内の各レベルの指導者も我慢の限界だという。もしこういう状況に歯止めがきかず、習近平が己のやり方に固執して、独断で突き進めば、中共集団指導体制は消滅の危機に瀕することになる。
このことから、党内では江沢民、曽慶紅、胡錦涛の長老たちがそれぞれ、党、政府、軍、警察の実力人物を協力して説得し、彼らの指示を得て、また王岐山、王滬寧とも連携して政治局拡大会議が招集されたのだという。
そうして会議席上で習近平問題について討論し、圧力でもって習近平に最終的に権力放棄を迫り第20回党大会で正式に引退するように迫った、という」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.585 2022年5月17日)
手前左から胡錦濤元国家主席、江沢民元国家主席、温家宝元首相
中国共産党「長老」たちの権力闘争 江氏ら存在感: 日本経済新聞 (nikkei.com)
つまり、習は共産党長老や党内各派の怨念を抑えきれず、権力放棄することを表明することの見返りに、円満退任の道を与えられたそうです。
これを「提前交権、到站下車、平穏過度、不追責任」(権力の委譲を前倒しにして、政権の座を降りては平穏に過ごすならば、責任は追及しない)と呼ぶそうです。
次の党大会までは日常任務を李克強に託し、次期政権で習の「冒険的極左主義的方針」否定するとしています。
ですが、これはあくまでも噂であって、党内の習反対派たちがこうであったらいいのになぁということでしかない、と福島氏はコメントしていますので、老灯情報をまるごと信用しないようにして下さい。
ただひとつ言えることは、習の権力が急速に衰えてきており、国民の不満がこの孤独な独裁者に向けて集中し始めていること、そしてそれに反比例するかのように李克強への声望が高まり、次期党総書記・国家主席と期待する声が高まっているということは事実のようです。
だとするなら、中国は習が突き進んできた自由主義陣営との全面対決路線の一定の見直しが入るはずなので、面白いことになってきました。
とまれ、この習と李の対立は、中国国内でも報じられ始めているということ自体が意味を持ちます。
いままで確実とみられていた習の3期目が不確実化し始めたことによって、一気に流動化を開始し始めているようです。
7月に党長老が集まる北戴河会議の動向次第で、習は引導を渡される可能性が出てきました。
プーチンの権力基盤が揺らいでいることは誰の眼にも明らかですが、今やそのゆらぎは中国へと波及し始めたようです。
揺らげば揺らぐほどこの二国は、イランや北朝鮮などを吸引して、「新悪の枢軸」連合を固めていくことでしょう。
ベビーカーが並ぶ写真が世界に呼んだ感動…ウクライナ難民の「母親に使ってほしい」(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース
ウクライナに平和と独立を
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