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2022年5月

2022年5月31日 (火)

揺らぐ中露権力と新悪の枢軸

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北朝鮮のICBMとみられる弾道ミサイル実験に対して、国連安保理がまた機能不全におちいったようです。
国連のダメダメぶりとは、とりもなおさず常任理事会のダメぶりのことです。
こうまで露骨に中露で組んで拒否権行使されれば、何でこんな平和の敵に特権を与えているのか、なんともやりきれない気持ちになります。

「安保理で北朝鮮制裁を強化する決議案の採決が行われた。理事国15か国中、13か国が賛成したが、中露両国が拒否権を行使し、否決された。北朝鮮の核・ミサイル開発に関する安保理決議案で拒否権が使われたのは初めてだ。
ロシアのウクライナ侵略後、中国・ロシアの連携があらゆる分野で深まっている現状を象徴していると言える。
米国作成の決議案は、北朝鮮に対する石油輸出量の上限引き下げなどを盛り込んでいる」
(読売5月29日)
社説:北制裁に拒否権 国連を無力化する中露の横暴 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

いまさらですが、これは国連安保理決議第2321号に対する明白な違反です。
とうぜん明白な違反ですから(ああ、書いていて虚しい)さらなる厳重な制裁の強化で臨むのが筋ですが、なにぶんもっと上を行く違反の常連らが常任理事国ですからどーにもなりません。
機能不全というより、ないほうがまし。あるだけ有害な常任理事国制度でしたが、ウクライナ戦争を経てとうとう自分で決めた国連制裁決議すら遵守できなくなってしまったようです。

重症ですね。反社勢力が「世界秩序の責任者」だというのですからなんともかとも。
この度し難い国連の機能不全を解消するためには、国連における決定手続きを改革する必要が急務です。
日本を常任理事国にというリップサービスはさておき、ならず者に握られてしまった国連の意志決定プロセスの全面改革が必要です。
ただし、この改革をするには国連の規約改正をせねばならず、そのためには加盟各国の批准手続きという例の遠い道のりが待ち構えています。
国連総会での改正案の採択に必要な全加盟国の3分の2の賛成票を得るには、中国の息がかかったアフリカ・アジア諸国を切り崩し、各国が自国の憲法手続きに従って批准を完了しなければなりません。
つまりは、世界の今の構造自体を変えない限り、国連改革は絵に描いた餅にすぎないのです。

国連安保理では、米中がテーブルを叩かんばかりの激しいやりとりをしました。

「台湾やインド太平洋などで鋭く対立している米国と中国の覇権争いが韓半島に拡大する様相だ。米国が26日(現地時間)、国連安全保障理事会に上程した対北朝鮮制裁決議案が、中国とロシアの反対で可決に失敗した中、中国の張軍国連大使と米国のリンダ・トーマスグリーンフィールド国連大使は、それぞれ相手が韓半島の緊張を高めているとし、この問題と米中対立を結び付ける考えを明確にした。特に張氏は、「米国が韓半島と北東アジアに戦火を広げようとするなら、中国は決断に出るほかない」とし、軍事対応を示唆した」
(東亜日報5月28日)

中国は、バイデンが訪日の際に台湾有事に軍事介入を口にしたことにナーバスになっています。
ですから、それ自体は無関係な北朝鮮のミサイル実験と強引に結びつけて反対に回りました。

一方ロシアは、恥も外聞もなく北朝鮮の支援を求めています。
笑えることには、ウクライナ戦争前には軍事超大国を気取っていたロシアは、世界最貧国の北朝鮮に軍事支援を要請したわけです。
理由は簡単。戦車・歩兵戦闘車がやられすぎたからです。
ウクライナ軍の発表ですから誇張されている可能性がありますが、戦車だけで1338台というとてつもない数です。
ロシアの保有戦車は2800両といわれていますから、その半数を撃破されたことになります。
自衛隊の保有する戦車台数は640両ですから2回全滅した数に相当し、普通の戦争ならこれでジ・エンドですが、プーチンが始めた政治的戦争ですからやめさせてもらえないようです。

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Phillips P. OBrienTwitter

思わず耳を疑う要請ですが、今やロシアを軍事支援する国は皆無で、同盟国であるはずのベラルーシ、カザフスタンですら、冷やかな対応で、おざなりのリップサービスで済ましています。
負け戦には友人はいないという現実です。
数少ない好意的な国が、シリアとイランですが、いかんせん遠い。
その点、北朝鮮には佃煮にするくらい旧式戦車を保有していますし、陸続きですから頭を下げて譲って欲しいということのようです。
あの異様なまでにプライドの高いプーチンがと、微笑ましくなります。

ところで中国のおかれた状況もハンパではありません。
習近平がゼロコロナで暴走した結果、最大の経済都市である上海はボロボロ、ロックダウンは北京にまで広がり、大変な爪痕を残してしまいました。

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上海のコロナ感染者、1カ月ぶり5000人下回る ロックダウン続く | 毎日新聞 (mainichi.jp)

なにせ上海では紅衛兵ならぬ「白衛兵」が、自宅にまで押し入って消毒液をまき散らすのだそうです。
中国人ブロッガーはこの「入戸消殺」についてこう書いています。

「自宅は、個人、その家族にとって最も神聖な領地であり、勝手に他人が入ることが許されていいものではない。あえて進入してくる人間とは、強盗か暴徒かいずれにしても違法行為のはずだ。
なので、上海人は夢にも思わなかったのだ。この白い防護服のやつらが、自宅の鍵を出せといい、それを拒否すると、SNSで流れる動画が示すとおり、ドアを叩き壊し、家の中で暴れ、室内を破壊しつくすのである。
「家の鍵を出せ、というのは今年聞いた話で最も恐ろしい話だ。鍵をを渡さすか渡さないか、選択の余地はなく、鍵を渡した後は、家の中のいかなる生活の中の重要なもの、大切な宝物、ペットも含めて全部有毒なゴミとして、殺菌処置をされる。(略)
白衛兵が入室したのちは、その不動産権利は存在せず、噴霧器で消毒薬をまき散らされ、家のあらゆる場所、隠しておきたい秘密の場所まで全部消毒された」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.584 2022年5月12日)

一部で暴動にまで発展したこの上海ロックダウンは、ここを地盤とする李克強に向かい、さらにはご本尊の習に向かいました。
李は巧みにこの現政権への民衆の不満を、習3期目阻止へとつなげました。
いままで多くの中国の政変を予言したことで有名なユーチューバーの老灯によれば、習政権は終焉間近だそうです。

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習近平と李克強の権力闘争はあるのか?Part 2――共青団との闘いの巻(遠藤誉) - 個人 - Yahoo!ニュース

「習近平はゼロコロナ運動の過激なやり方、ウクライナ戦争でのプーチンとの準同盟化の失敗などで大衆の恨みが沸騰。全国の政治経済情勢が大きく乱れ、党内の各レベルの指導者も我慢の限界だという。もしこういう状況に歯止めがきかず、習近平が己のやり方に固執して、独断で突き進めば、中共集団指導体制は消滅の危機に瀕することになる。
このことから、党内では江沢民、曽慶紅、胡錦涛の長老たちがそれぞれ、党、政府、軍、警察の実力人物を協力して説得し、彼らの指示を得て、また王岐山、王滬寧とも連携して政治局拡大会議が招集されたのだという。
そうして会議席上で習近平問題について討論し、圧力でもって習近平に最終的に権力放棄を迫り第20回党大会で正式に引退するように迫った、という」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.585 2022年5月17日)

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手前左から胡錦濤元国家主席、江沢民元国家主席、温家宝元首相
中国共産党「長老」たちの権力闘争 江氏ら存在感: 日本経済新聞 (nikkei.com)

つまり、習は共産党長老や党内各派の怨念を抑えきれず、権力放棄することを表明することの見返りに、円満退任の道を与えられたそうです。
これを「提前交権、到站下車、平穏過度、不追責任」(権力の委譲を前倒しにして、政権の座を降りては平穏に過ごすならば、責任は追及しない)と呼ぶそうです。
次の党大会までは日常任務を李克強に託し、次期政権で習の「冒険的極左主義的方針」否定するとしています。

ですが、これはあくまでも噂であって、党内の習反対派たちがこうであったらいいのになぁということでしかない、と福島氏はコメントしていますので、老灯情報をまるごと信用しないようにして下さい。
ただひとつ言えることは、習の権力が急速に衰えてきており、国民の不満がこの孤独な独裁者に向けて集中し始めていること、そしてそれに反比例するかのように李克強への声望が高まり、次期党総書記・国家主席と期待する声が高まっているということは事実のようです。
だとするなら、中国は習が突き進んできた自由主義陣営との全面対決路線の一定の見直しが入るはずなので、面白いことになってきました。

とまれ、この習と李の対立は、中国国内でも報じられ始めているということ自体が意味を持ちます。
いままで確実とみられていた習の3期目が不確実化し始めたことによって、一気に流動化を開始し始めているようです。
7月に党長老が集まる北戴河会議の動向次第で、習は引導を渡される可能性が出てきました。

プーチンの権力基盤が揺らいでいることは誰の眼にも明らかですが、今やそのゆらぎは中国へと波及し始めたようです。
揺らげば揺らぐほどこの二国は、イランや北朝鮮などを吸引して、「新悪の枢軸」連合を固めていくことでしょう。

 

 

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ベビーカーが並ぶ写真が世界に呼んだ感動…ウクライナ難民の「母親に使ってほしい」(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース

ウクライナに平和と独立を

 

2022年5月30日 (月)

東部2州強奪に全力を注ぐロシア軍

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ユーチューブなど見ていると、ロシア軍は愚鈍な馬鹿で、勝利はもう目の前と言わんばかりのサイトが目につきます。
ちょっとお待ちを。それは早すぎるシャンペンと言うやつです。
戦況はそれほど単純ではありません。

ウクライナ東部のドンバス州とルガンスク州の完全制圧を狙うロシア軍は、ここに持てる限りの火力を投入し、東部2州からクリミア半島まで伸びる長大な「ロシア民族の国」を作ろうとしているようです。
そもそも、方向違いの北のキーウなどで寄り道したので膠着したわけですから、ここから撤退し、東部2州にすべての軍事力を注ぎ込み始めました。
そもそも「特別軍事行動」などという名称でいまだ「戦争」と呼びたがらないのは、この2州「解放」が元来の基本方針だったからです。
その意味でロシア軍は、元の方針に戻ったともいえます。

「【ロンドン時事】ウクライナ東部ドンバス地方ルガンスク州でロシア軍の猛攻を受けるウクライナ軍が「最後の拠点」としてきたセベロドネツクから「戦略的撤退」を始める可能性が浮上している。ガイダイ州知事が27日、見通しを示した。セベロドネツクの陥落はロシアによるルガンスク州の完全制圧につながるため、ウクライナ側は激しい抵抗を続けるが、包囲網強化で苦戦を強いられている。
知事は通信アプリ「テレグラム」への投稿で「ロシアが向こう数日間でルガンスク州を占領するのは不可能だ。われわれには防衛のための十分な力と手段がある」と主張した。一方で「(ロシア軍に)取り囲まれないため退却せざるを得ない可能性がある」と認めた」
(時事5月27日)
ウクライナ軍、東部拠点から「戦略的撤退」も=ロシア軍が包囲強化|ニフティニュース (nifty.com)

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破壊された街中を走行する親ロシア派の兵士が運転する装甲車=26日、ウクライナ・ルハンスク州/Alexander Ermochenko/Reuters
CNN.co.jp : ロシア軍との激戦で「厳しい防戦」 セベロドネツク市長

一時はセベロドネツク周辺で、ロシア軍によってウクライナ軍のほうが包囲されて撃滅される危険性すらでていました。
どうにか退路が確保されて、マリウポリのような事態は避けられたようですが、依然としてロシア軍の大規模な攻勢が続いています。
ここで守備隊が包囲殲滅された場合、東部2州は陥落していた可能性がありました。

ロシア軍は総司令官が代わったことにより(というより、それ以前にはあきれたことに統括司令官そのものが不在でしたが)、従来の失敗を総括しているようです。
最大の変化は、今まで薄く広く展開させてしまい4軸(方面)にも渡ったロシア侵攻軍を整理し、東部2州に絞りました。
いままで4方面がてんでんばらばらで、相互に支援できず、各個にウクライナ軍に撃破されるという事態を避けたわけです。
部隊戦術的においても、戦車を過信するあまり、ろくな歩兵の協同もなしに突っ込ませては片端からジャベリンの餌食となることを改め、十分な砲兵火力で存分に叩いて叩いて叩きまくる、伝統的ロシア軍の砲兵重視の戦法が復活しました。

イジュームからマリウポリまで伸びる補給線は各所でウクライナ軍のドローンに発見され、各所でゲリラ的な攻撃に遭遇して寸断されていたので、陸路でロシア本土とつながる東部を決戦場に選んだのです。

ところで、ロシアがドネツクを重視するにはわけがあります。

「プーチン大統領はドンバス地方を、ウクライナの古くからの石炭と鉄鋼の産地として見ている。プーチン氏が言う東部とは、南のマリウポリ郊外から北の国境まで続く東部の二大地域、ルハンスク州とドネツク州の全域を指す。
北大西洋条約機構(NATO)は、ロシア軍がウクライナの南海岸に沿って、ドネツクとクリミア半島をつなぐ陸の橋を建設しようとしているとみている。
英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のサム・クラニー=エヴァンス氏は、「重要なのは、(ウクライナ東部が)ウクライナ系よりロシア系の多いロシア語圏としてクレムリン(ロシア政府)に認識されていること」だと指摘する」(BBC4月15日)
「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」として独立国家と承認


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親ロ派トップ、謎の暗殺 ウクライナ東部で深まる混迷:朝日新聞デジタル (asahi.com)

上図をみればおわかりのように、開戦当時、東部地域の3分の2はウクライナが掌握していました。
そしてこの2州では広くロシア語が使われているかもしれませんが、ロシア語系住民=ロシア支持ではありませんでした。
たとえばマリウポリはウクライナで最もロシア語系住民が多かった都市ですが、ロシア軍は容赦なくこの活気ある都市を廃墟に変え、住民を大量虐殺しています。
そしてすべての占領地のように、このマリウポリにも「選別キャンプ」が作られて、「よいウクライナ人」と「悪いウクライナ人」を分類し、後者はどこかに連行して行方不明になりました。

「ウクライナ南東部マリウポリのベッツ・バレンティナさん(63)は、製鉄所「アゾフスターリ」の地下シェルターを出たあと、長男ボロディミルさん(40)とともに、親ロシア派勢力の「選別キャンプ」に送り込まれた。尋問の翌日、親ロ派の兵士が長男に言い放った。「お前はウクライナ軍人に違いない」。連れて行かれた息子の行方は、今もわからない」
(朝日5月29日)
親ロシア派の兵士に連行された息子 「私も連れていけ」母は叫んだ [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

また親露派支配地域では「兵隊狩り」が横行しています。


「ルハンスクで暮らす女性は匿名を条件に、BBCの取材に応じた。女性によると、街中ではロシア軍を多く見かけるといい、今は恐怖と警戒の雰囲気が漂っているという。「怖いです。とにかく恐ろしい」と女性は話した。入隊年齢に達した男性は地元の民兵に参加しなければならず、徴兵から逃れた人は身を隠しているという。
彼ら(分離主義者)は街頭で(男性を)動員したり、つかまえています。店にも、町中にも、路上にも男性はいません」
そのため、男性が多い仕事は全て閉鎖されているという。
「もうロシアになってしまいました。非公式ではありますが。みんなロシアのパスポートを持っています」
(BBC前掲)

この「兵隊狩り」は少年にまで及び、親露派地域ではかねてから子供用の軍事訓練施設が作られていたようです。

「ハルツイスクで行われている子ども向けの軍事訓練は「愛国ドンバス(Patriotic Donbass)」という組織が行っている。ドンバスとは、親露派が「ドネツク人民共和国」として一方的に独立を宣言しているドネツクとルガンスク(Lugansk)を含むドン川(Don River)流域の斜陽工業地帯を指す地元の呼称だ。。(略)
ツプカ氏によれば親露派制圧地域では最近、このような軍事クラブを設ける学校が増えており、付近の町だけでも他に4校があるという。しかし、単純な訓練を行っているところだけではない。中には、親露派の拠点ドネツクから東へ20キロほど広がる地雷地帯に駐屯する、ハルツイスクの分離独立派部隊に実際に入隊する生徒もいる」(2,015年7月5日)
ウクライナ紛争、少年兵を養成する親露派 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News


占領地では、早くも教育はロシア語だけになり、ロシアの教科書が用いられ、親露派議会と政府が作られ、ロシア軍が勝手に任命した知事がやってきました。
つまり「ロシア化」の既成事実化が非常な勢いで進行しているのです。
そして、クリミア同様にドンバスとルハンツク2州全体を併合する「住民投票」が次のステップとなるでしょう。
この2つの広大な地域を征服すれば、プーチンはこの戦争を「勝利」として宣言するはずです。

このプランに沿って、ロシア軍は戦略転換しました。
攻撃軸を一点に絞り込み、それがセヴェロドネツクです。
ここにロシア軍火力すべての軍事資産を投入し、砲撃による叩き合いの場に変えたのです。
ロシア軍がこのような戦略転換をすることを、ウクライナ軍は相当前から読んでいたようです。

「約一カ月間を耐え凌ぎ首都キーウ防衛に成功し、次の主戦場が東部ウクライナのドンバス地方になると見据えたウクライナ軍は、平坦な地形に強固な塹壕陣地が構築された場所での野戦で必要となる兵器が遠距離砲撃を行う砲兵火力になると判断。4月13日の演説でゼレンスキー大統領は必要な兵器リストの真っ先に榴弾砲と多連装ロケット発射機を載せました。
そしてこの予想は実際に現実のものになりました。現在の東部ウクライナの主戦場は壮絶な砲撃戦となって遠距離火力の叩きつけ合いとなり、榴弾砲と多連装ロケット発射機の投入数で勝るロシア軍がじわじわと押して優勢となっている状況です。ウクライナ軍は砲兵火力で劣っているせいで押されています」
(JSF 5月28日)
MLRS/HIMARS多連装ロケット発射機をウクライナに供与する重大な意味と転換点(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース

ドネツ川の渡河を見事に2回防いだ殊勲の兵器こそ、ゼレンスキーが要請していたM777155ミリ榴弾砲などの砲兵パワーです。
ウクライナ軍は、この優れた長距離砲とドローンによる精密偵察を組み合わせて教科書のような見事な防御戦闘を勝ち取りました。
しかしこのような貴重な勝利はもぎとったものの、全体としてはロシア軍の圧倒的攻撃力の前に苦戦を強いられています。

米国戦争研究所の最新の情勢報告を見ます。

5月27日 (月) 19:30 (東部標準時)
ロシア軍は5月27日、セヴェロドネツクへの直接攻撃を開始したが、まだ町を完全に包囲していなかった。 ロシア軍は、これまでの戦争中、建設された都市部での作戦をうまく行わず、セヴェロドネツク自体で急速に前進する可能性は低い。
ロシア軍は市内で着実かつ漸進的な前進を続けているが、ウクライナの守備隊を包囲していない。ウクライナ軍はウクライナ東部全域で防衛を維持し続けており、ロシアのほとんどの前進を遅らせている。
ロシア軍は漸進的な前進を続け、今後数日のうちにセヴェロドネツク包囲に成功するかもしれないが、イズユム周辺のロシアの作戦は停滞したままであり、ロシア軍は前進のペースを上げることができない可能性が高い。

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ロシアの攻撃キャンペーン評価、|5月27日戦争研究所 (understandingwar.org)

セベロドネツクは、現在、ロシア軍の猛烈な無差別撃を受けています。
ロシア軍はあらゆる重火器を集中しているようで、50年前の旧式のT-62戦車も投入したという情報もあります。
T-72を国外で物色しているという噂もあり、かつて供与した衛生国から買い戻しているようです。

一方、ウクライナ軍は、いったんはセベロドネツクへの補給路からロシア軍を排除したとの報告もありますが、詳細は不明です。
この補給路のほかに複数のルートが生きている可能性もあり、これが生きていれば、遅滞戦略も可能です。

ウクライナ軍は、日本のメディアの言うような、この地域からの「戦略的撤退」は考えておらず、増強し続けているといわれています。

 

 

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ウクライナに平和と独立を

 

 

2022年5月29日 (日)

日曜写真館 そこはかと薔薇の溜息らしきもの

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くれなゐのバラにして金をふくみたる 山口青邨

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リヤリストもロマンチストもバラの雨 山口青邨

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白薔薇おもおもしくも朝ぐもり 飯田蛇笏 

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のんど静かに芍薬の珠に告ぐ 岡井省二

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夢に入りてたわやめとなる薔薇の花 日野草城

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病癒えて力無き手や薔薇を折る  正岡子規

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とげ赤し葉赤し薔薇の枝若し  正岡子規

 

 

2022年5月28日 (土)

バイデン、台湾有事の軍事的に関与にイエスと言う

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いささか旧聞になりましたが、日米首脳会談とザ・クアッドが同時に終了しました。
岸田氏とバイデンの両人は、このウクライナ侵攻下の状況で、よくやっていると評価できます。
特に多くの方も指摘するとおり、この日米首脳会談で、米国人記者の「台湾侵攻した場合、米国は軍事的に関与するのか」という質問に対して、明確に米国から「イエス」という答えを引き出しました。
これだけで、もう後はいらないくらいの成果です。
リアルタイムでテレビで受け答えを見ていた私は、思わずへぇーと叫んでしまったほどです。

「両首脳は東京・元赤坂の迎賓館でワーキングランチも含めて2時間以上会談した後、共同記者会見に臨んだ。日米のプレスや政府高官が見守る中、バイデン氏は中国が台湾に侵攻した場合に軍事的に関与するか記者に問われ、断言した。
「イエス。そういう約束だ」
台湾有事の際の対処を明らかにしない歴代米政権の「あいまい戦略」を逸脱するもので、「首相を含め、あの場にいた人は誰も予想していなかった」(日本政府関係者)。実際、会見場で発言を聞いていたブリンケン国務長官やサリバン大統領補佐官らは顔を寄せ合い、相談を始めた」
(産経5月25日)

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日米首脳共同声明「自由で開かれた国際秩序の強化」全文: 日本経済新聞 (nikkei.com)

テレビでは後ろにいたブリンケンやサリバンの顔まではわかりませんでしたが、ここで閣僚たちが平然としていては役不足です。
この場合、側近たちの仕事は漫才のボケ役ですから、ツッコミをした大統領に仰天してみせねばいけません。
で、その後ブリンケンはオースチン国防長官とともに「米国の方針は変わっていない」という軽い修正をかけています。
いつものパターンです。大統領が、「ロシアは潰す」と米国の本音を言えば、閣僚がその「失言」を修正してみせる。
「台湾防衛は武力で関与する」と言っても同じ。
大統領が本気かハッタリなのかわからない「暴走」をすると、閣僚がまぁまぁ、とのここはひとまず、と引き止めてみせる、というわけです。
トランプの時も似たパターンがありましたが、暴走王だったトランプなら、ああまたやってるね、済ますことができましたが゛言った主がバイデンというリベラルの眠い奴、ときには親中派とさえいわれてきた人物が同じことを言うと、妙に破壊力が増してしまいます。

結果、メッセージは増幅されて相手国に突き刺さるという、ズルイといえばズルイ。狡猾と言いたければ言え。
米国はこちらから一線を超える気はないが、中国がロシアのような振る舞いをすれば、躊躇なく武力でお相手するということです。

日米共同声明は、こんな強いトーンで中国に警告を発しています。

「日米両国は、ルールに基づく国際秩序は不可分であり、いかなる場所における国際法及び自由で公正な経済秩序に対する脅威も、あらゆる場所において我々の価値と利益に対する挑戦となることを確認する」
(日米共同声明)
日米首脳共同声明「自由で開かれた国際秩序の強化」全文: 日本経済新聞 (nikkei.com)

声明文にはたった一行に「あらゆる」と「いかなる」が重複して使われています。
これは一般論デハてく、ウクライナ侵攻を受けて自由主義陣営がかつてなく団結して戦っている今言っているから価値があります。
日米豪印のクアッドの共同声明にも反映されています。

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【速報】「クアッド」首脳会談、岸田首相が会見…「力による一方的な現状変更は許してはならない」:写真 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

「我々は、ウクライナにおける紛争及び進行中の悲劇的な人道的危機に対するそれぞれの対応について議論し、そのインド太平洋への影響を評価した。4か国の首脳は、地域における平和と安定を維持するという我々の強い決意を改めて表明した。
我々は、国際秩序の中心は国連憲章を含む国際法及び全ての国家の主権と領土一体性の尊重であることを明確に強調した。我々はまた、全ての国が、国際法に従って紛争の平和的解決を追求しなければならないことを強調した。

4か国は、自由で開かれたインド太平洋のビジョンを共有する地域のパートナーとの協力にコミットしている」
(ザ・クアッド共同声明)
日米豪印首脳会合共同声明|外務省 (mofa.go.jp)

このザ・クアッドの共同声明は、日米共同声明のこの部分と呼応しています。

「両首脳は、ロシアの行動を非難し、ロシアがその残虐行為の責任を負うことを求めた。両首脳は、ウクライナの主権及び領土一体性に対する支持を改めて確認した。岸田首相及びバイデン大統領は、国際社会の結束の重要性を強調し、ロシアに長期的な経済的コストを課すために志を同じくする国々と共にとる、金融制裁、輸出管理及びその他の措置を含む制裁を通じて、ロシアの侵略に対処する中でウクライナの人々との連帯を表明した」
(日米共同声明)

中国が台湾を武力侵攻するなら、ロシアに科している「金融の核爆弾」(金融制裁、輸出管理などの制裁)をするぞというメッセージです。
そしてその担保に、米国は武力関与することに「イエスだ」と一歩踏み込んで見せました。
この日米共同声明が、すこぶる効いた証拠に、中国はロシアと語らって、日本周回爆撃機ツアーをしてみせてくれました。
こういう時は、眠い顔をして大人然としているもんですよ、習大人。
トランプ支持の方々も、ここは両首脳をスタンディング・オベーションで迎えるべきでしょう。

ただし、ザ・クアッドはまだ出来てまもないので、やることが明確になっていないふわふわしたゆるやかな連合でしかありませんから、水やりとケアが大切な段階です。
インドに一定の配慮をしてこういう穏やかな表現に止めています。

「両首脳は、国連が、人権の尊重を含む、国連憲章に規定された共通の原則と普遍的価値に立脚した、ルールに基づく国際秩序の基盤であるとの認識を共有した。両首脳は、ロシアによるウクライナへの侵略を非難し、国連人権理事会の資格を停止するという前例のない世界的な結束を国連加盟国が示したことを称賛した。
両首脳は、国連安全保障理事会(UNSC)が加盟国を代表して国際の平和と安全の維持に主要な責任を有することを認識し、ロシアによる常任理事国としての無責任な行動と拒否権の乱用、特に他の加盟国に対する侵略についての説明責任から逃れようとする試みに深い憂慮を表明した」
(日米共同声明)

インドへの水やり人として、政府は安倍氏を任命しました。
ともすれば離れていきかねないインドに、安倍氏をおいてこの適任はいないでしょう。

「明治時代に設立され、日本とインドの経済・文化的交流を促進してきた親善団体「日印協会」の新旧会長交代式が24日、東京都内のホテルで開かれた。近く森喜朗元首相が退任し、新会長に自民党の安倍晋三元首相が就任。6月に正式決定する」
(時事5月24日)

これは安倍氏がインドをザ・クアッドに引き込んだ張本人だからです。
彼は訪印した際に、オープンカーでパレードまでしてもらった歓待ぶりでした。
リムジンじゃなくてジムニーなのがご愛嬌ですが、これはスズキが最初にインドに根づいた外国自動車会社だからです。

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安倍首相、沿道から手厚い歓迎 インド到着 - 読んで見フォト - 産経フォト (sankei.com)

また首脳会談では、国連改革についても合意しています。

「岸田首相と米国のバイデン大統領は23日の首脳会談で、安全保障理事会を含む国連の改革と強化の必要性で一致した。バイデン氏は安保理改革が実現した場合、日本が常任理事国に入ることに支持を表明。会談終了後、発表された共同声明にも盛り込まれた」(読売5月23日)
バイデン氏、日本の常任理事国入りを「支持」…国連改革の必要性で一致 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

現時点でこれはリップサービスの域を出ません。つまり接受国を喜ばして見せたサービスにすぎません。
残念ですが、まずもって敵国条項の含まれる国連憲章を改正する必要があり、この手続きだけでも気の遠くなるような時間を要することでしょう。
国連総会での改正案の採択には全加盟国の3分の2の賛成票を得る必要がありますから、中国の息がかかったアフリカ・アジア諸国は反対に回ることは必至です。
そのうえにこの加盟3分の2の国が、自国の憲法手続きに従って批准を完了しなければ効力が生じません。
したがって、米国の支持だけではどうにもならないわけです。
そしてそもそも集団的自衛権を否定した憲法を持つ国に、その資格はないはずですから、改憲してからまじめに考えましょう。
岸田さん、そこまでやり切って下さいね。

またトランプが構想していた第2国連結成のシナリオもありますが、どうかな、バイデンはそこまでは想定しているとは思えません。
たぶん常任理事国からのロシアの追放ていどは考えているはずですが、さてどうやるか。
このことについては、別の機会に考えてみたいとおもいます。

それはさておき、私が岸田氏に案外やるなと思ったのは、ほかに二つあります。
ひとつは防衛費増額までバイデンに言い切ったことで、国際公約となりました。

「岸田首相は23日、東京・元赤坂の迎賓館で、米国のバイデン大統領と会談した。ロシアのウクライナ侵略が、東アジアで覇権主義的な動きを強める中国に影響を及ぼすとの懸念がある中、日米同盟の抑止力と対処力を早急に強化する方針で一致した。首相は防衛力の抜本的な強化のため、防衛費の「相当な増額」を確保する決意を伝え、バイデン氏は歓迎した。被爆地・広島市で来年の先進7か国首脳会議(G7サミット)を開催する方針も表明した。 対韓姿勢についてこう釘を刺していることです」
(読売5月23日)
岸田首相「防衛費の相当な増額」伝える…対中国、日米同盟の抑止力強化で一致 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp) 

これで公明がなんと言おうと、後戻りが難しくなりました。
安倍氏は7パーセント前後とまでアドバルーンを挙げていますが、最大の敵は財務省です。

もうひとつは日韓関係について、よけいなおせっかいをして日韓関係を最悪なものに導いた過去がある民主党政権に、もう余計なことはしてくれるな、と釘を刺したことです。

「岸田文雄首相とバイデン米大統領が23日に行った首脳会談は、軍事や経済面で日米の脅威となっている中国への対応に多くの時間を割いた。さらに、首相はいわゆる徴用工訴訟や慰安婦問題を抱える韓国について、国家間の合意を無視してきた過去の経緯を挙げながら、日韓の関係改善に前のめりになるバイデン氏を説得した」
(産経前掲)

バイデンが日米韓の三国連携の引き出物として韓国への媚態を示するのではないかという危惧がありましたが、老婆心だったようで、なによりです。
バイデンが帰って、岸田さんがまた「検討することを検討する」モードにもどらないことを祈ります。

 

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ウクライナに平和と独立を

2022年5月27日 (金)

山路敬介氏寄稿 ウクライナ戦争の本質は「民主主義VS専制主義」完

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  本日で連載完了となります。ありがとうございました。
ウクライナ戦争をめぐって露呈してしまったわが国保守論壇の混乱を、きわめて明快に論評していただいて、私も勉強させていただきました。
                                                                     ブログ主

 

       ウクライナ戦争の本質は「民主主義VS専制主義」完
        ~戦後を左右する世論  あやうい認識はプーチンを利するだけ
                                                                                           山路 敬介

承前

注意したいのは、遠藤氏が言いたいことは米・露「どっちも、どっち」論だという事です。
八幡和郎氏の論考(クリントンが戦争覚悟でNATO拡大と開き直り | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp) )や、(ウクライナ:常識の10の嘘と怖い落とし穴 | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp) )も同様であり、遠藤氏のエルドアンの口を借りた「いくつかのNATO国がウクライナ戦争継続を望んでいる」と、停戦仲介国トルコ外相(遠藤誉) - 個人 - Yahoo!ニュース はもっともハッキリした誤謬です。
この種の論考の特徴は「欧米は善、プーチンは悪という善悪二元論で物事を見るべきではない」という事だったり、「侵略したプーチンは悪いが、「悲惨」や「暴力性」から見た感情的な価値判断に流されるな」という事になるでしょう。

こうした論考を読んで、私には韓国の慰安婦論法や徴用工問題のような「蒸し返し論法」を直ちに想起せざるを得ませんでした。
何よりも、2014年以降のNATOや米国、ウクライナやEUの血がにじむような努力の結果としての「ミンスク合意」成立の過程や、それを最終的に破ったプーチンのからくりについての認識が欠如している点が怠慢レベルに痛ましいと思うからです。

2014年からの事柄について、ミンスク合意からミンスク2に至るまで、これまでの研究者の確立した論考はすでに存在しています。こうした研究者の先行研究を無視する事でしか遠藤氏や八幡氏の「どっとも、どっち論」は成り立ちません。ミンスク合意とは正式には「議定書」と言って、これは国際合意です。
合意の効果は、それまでのお互いの言い分や行き掛りの一切を水に流し、ミンスクで合意された内容にそれらを収斂させる事で和解を図る目的の智恵です。そうして過去のわだかまりを解き、平和による一里塚を築くためのものがミンスクの国際合意です。

だから遠藤氏が言うような過去の米国がどうとか、クリントンがどうのという事は関係ないのです。八幡氏の博識も問題ではありません。
もちろん、言ってみる事はいいでしょう。ですが、それを根拠とした場合には中国や南北朝鮮がいつも行なう「歴史のある一部を切り取る方法による非難」と同様、蒸し返しの堂々巡りになるより仕方ありません。

問題は「ミンスク合意」。特にミンスク2が如何にして守られなかったか?それだけです。
そして、最終的にミンスク合意を破棄した責任は100%プーチンの側にあります。
沖縄先住民族論に理解があり、アイヌ問題に力を尽くした民族派の鈴木宗男氏は、「話し合いを拒んだのはウクライナの方で、侵攻の責任はウクライナにもある」とします。
その為の事実のいくつもを披露するのですが、それがまたロシア側に寄り添った事実のみあげつらうので、「やや、こんな人が国会議員? しかも維新の国会議員団副代表かい!」となるのは自然です。

2014年からの顛末でもっとも平明で分かりやすいものは合六強の論文があります。
「長期化するウクライナ危機と欧米の対応」は今でもネットで読めます。
これらの論考によるキモは、ミンスク2が破られた過程です。
ウクライナは合意を履行すべく住民投票を実施しようとします。しかし、ロシアはミンスク合意で約束した「軍を下げる事」をせず、ロシア軍政下での投票を強行せよと主張するのです。
ミンスク合意には「双方とも軍事力を下げる」と記されているのみで、この「双方」はロシア軍の事ではなく、「ウクライナ軍と反政府軍の事である」と強弁します。
まことに詭弁家プーチンきわまった言い分で、これではいかな中立派で当選したゼレンスキーでも肯じる事は不可能です。もし承諾したら憲法違反だし、ゼレンスキーは正真正銘の売国奴となっていたでしょう。民主主義下では絶対に無理な事を突き付けられたのです。
それでもゼレンスキーはプーチンとの会談を設け説得しようとしますが、相手を「弱い」と見るプーチンは一切の譲歩をしませんでした。
ゼレンスキーでさえ戦争準備をする他なく、プーチンの思惑通りになったのです。
この時点ですら、だれでも考えに至る事でしょうが、こうした過程を追うならば、2014年以降のプーチンはウクライナ全体を支配する野望があったと言わざるを得ません。
(それは失敗した第一次作戦の狙いにより明らかとなりました。)

そして、最終的にミンスク合意を破棄したのは、プーチンのロシアの一方的な通告によるものです。2/22のドネツクとルガンスクの併合を行政手続きした事で終わったのです。
「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」とは何か?ロシアが独立承認して軍派遣へ | ハフポスト WORLD (huffingtonpost.jp)
言うまでもなく、この責任はウクライナ側にはありません。
つづく2/24に実際の侵攻が起き、ブチャでの住民虐殺、ロシア軍による数えきれないほどの戦争犯罪が明るみに出ました。

遠藤氏のソースが中共幹部からのものが多い事は、過去記事からずっと読めば分かります。
それはある意味、貴重でもあります。しかし、決して「中共のひも付き」などではありませんが、本人が得心してプロパガンダに引っ掛かる典型的な例だと思います。
こうした言論がまかり通るならば、戦後の世界に悪い影響を与えずにおかない事を危惧します。まして「保守」と認識される論者の、最近の体たらくには目を覆いたくなるものです。

                                                                                                               (了)

                    文責 山路 敬介

 

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ウクライナ国歌を演奏する兵士、立ち上がる兵士たち | MCS Young Artists (mcsya.org)

ウクライナに平和と独立を

2022年5月26日 (木)

山路敬介氏寄稿 ウクライナ戦争の本質は「民主主義VS専制主義」その3

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                               ウクライナ戦争の本質は「民主主義VS専制主義」その3
                              ~戦後を左右する世論  あやうい認識はプーチンを利するだけ
                                                                                           山路 敬介

承前

話をもとに戻します。
国際政治学者のグレンコ・アンドリー氏の論考(「プーチンは習近平のポチである」日本人が知らない"中華秩序"に属するロシアの実態 中国という後ろ盾があるからウクライナに侵攻した | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)) によれば、プーチンは自ら中国の下に庇護される選択をしたのであり、そこから抜け出す意思も能力もないという事のようです。少なくともミアシャイマーの説く「三勢力鼎立状態」などすでになく、中華圏メンバーの様相を帯びて久しいのは間違いないのではないでしょうか。

ロシアは冷戦終結後、米国が主導する国際秩序を受け入れて共に国際ルールを確立する立場を望んだ時期があります。けれど、プーチン政権下で既存の秩序への挑戦者となり、中国とともに新たな秩序を模索する道を選択するしかなかったのです。これは経済のせいです。
にもかかわらず、ミアシャイマーの頭の中は今だに「ロシアを引き入れて中国を包囲すべし」とする地点に留まっています。しかし現実は進んでいて、中国が「ロシアを引き入れて米国を包囲」しようとしたのです。


ついでですが、よく言われる「代理戦争論」について。これも失当です。ウクライナはウクライナの国益を賭けて戦っているのであり、米国の代理人ではありません。米国や欧州・日本もそうですが、それぞれの国益に沿って判断し、ウクライナを支援しているのです。米国は開戦前からゼレンスキーにキーウからの避難、ポーランドへの亡命政権を勧めたところが、これを断っています。ゼレンスキーはNATOを呪い、ドイツを罵りさえしています。これを代理戦争だとした日には、血を流して戦っているウクライナに失礼でしょう。
このあたりの誤謬を篠田英朗氏が良くまとめています。
プーチンの「陰謀論」に踊らされる左派系言論人…ウクライナ「代理戦争」論の錯誤と罪悪(篠田 英朗) | マネー現代 | 講談社 (ismedia.jp)

なお、エマニュエル・トッドの文藝春秋の記事の方も、ほぼミアシャイマーの論考を踏襲したような案配です。中国のプロパガンダよろしく「米国に根本原因」があり、これは「代理戦争だ」とするならば、行き着く先はミヤシャイマー同様になる他ありません。
違いと言えば何時ものように「日本は早く核武装せよ!」と言っているくらいでしょうか。

トッドはシャルリエブド事件のさい、フランス中で起こったデモ行動を批判して総スカンを喰いました。この際のトッドの著書を私も読みましたが、どうも浮世離れというか、意図的に次元をずらした位置から説く学者さんらしい「高見からのお話」だった印象です。
フランスという「水」と、それに合わないイスラームという「油」。これをどうするかの有効策は示されていません。「合わないものは別々にするしかない」という飯山陽氏的リアリズムもそこにはありません。
そうしたフワフワとしたトッドの思考の特徴が出たように感じた記事でした。

たいそうな大家をけなして恐れ多い事ですが、ベルグソンは次のように述べています。
「一流の学者ほどと言って良い程だが、学者は自分の方法というものを固く信じているから、知らず知らずのうちに、その方法の中に入って、その方法のとりこになっているものだ。だから、いろいろな現象の具体性というものに目をつぶってしまう。」
ミアシャイマーはミアシャイマーの論理でのみ語っていて、その回答は個別具体的なケースに対応するものではありません。

2014年、ナショナルインタレスト紙にミヤシャイマーが書いた恐ろしい論文が載った事を憶えておられる方もあると思います。
まだ米中対立などなく、台湾についての米国のスタンスがハッキリしない中、「台湾にさよならを言おう」(say goodby taiwan)と題された記事は衝撃的でした。
ここで言う、いわゆる「台湾切り捨て論」はミアシャイマーのリアリズム理論によれば、それは全く正しいのです。しかし、台湾が中国に組み込まれた場合、次の目標は沖縄になるしかありません。決まって沖縄とアジアに睨みを効かす沖縄の米軍基地が狙われます。
ミアシャイマーの言説に従えば、アジア全域が中共の勢力圏になるしかありません。


■「戦争ハンターイ!」はいいが、肝心の「過程」がすっぽりぬけ落ちた遠藤誉氏の論考

 「ミアシャイマーやトッドのような大家と意見が合った」と言って小躍りする遠藤誉氏(ミアシャイマー「この戦争の最大の勝者は中国」と拙論「ウクライナ戦争は中国の強大化を招く」(遠藤誉) - 個人 - Yahoo!ニュース )ですが、この人の言っている事にはいつも違和感を感じます。同じ感覚は八幡和郎氏にも感じます。
「ウクライナ戦争は中国を利するだけ」とする遠藤氏ですが、いわゆる「ラスボス」が中国だとしても、本当にそうした事が言えるのか。

遠藤氏の論考の中には米議会における「習近平枢軸法」が下院で通った事は出てこないのは仕方ないでしょう。
しかし、習近平が米国の対ロシア制裁をいかに妨害・阻害するか、これを30日以内に、以降90日毎に評価する法案が近々上院でも通ります。
法案に関係する米行政府の中国への認識として、①ロシアウクライナ戦争を虚偽宣伝し、無数のウクライナ人を殺害した中国共産党は手助けしている。②もし中国共産党がロシアのウクライナ侵攻を実質的に支持していると判明した場合、速やかにかつ厳重に中国共産党にその責任を負わせるべき、となっています。
成立すれば、それでも習近平は堂々とロシアに喰い込み「漁夫の利」をむさぼる事が出来るでしょうか。

「習近平枢軸法」の狙いは幅広く、プーチン後のロシアの主導権から習近平の影響力を排除する事まで含まれていると見る向きが一般的です。
ウクライナ戦争に対する評価が中国内知識層で割れるなか、習の強力な願望をもってしても、現在ですらロシア支援に汲々とする中国が、米国や欧州の意に反して立場をハッキリさせる事が出来るとは思いません。
4/18中国の泰剛中米大使は「中・露は同盟関係ではない」と逃げを打ち、趙立堅報道官はロシアの戦勝記念日への評価に口を閉ざしています。中村逸郎氏は「習近平はプーチンを見限るだろう」と述べていますが、私は習派以外の中共首脳陣の考えは中露それぞれの「核の先制使用に関する取り決め」の差異が両者の間を大きく隔てる根本原因になると思っています。すいません。ここで言いたい事から話が逸れました。

遠藤氏の論考の中で(遂につかんだ「バイデンの動かぬ証拠」――2014年ウクライナ親露政権打倒の首謀者(遠藤誉) - 個人 – Yahoo!ニュース)というのがあります。
この記事は2014年~2015年当時、米政権が当時のヤヌコヴィッチ政権を亡命させ、親米ポロシェンコ大統領を据えた事実を述べたものです。
しかし、私には「え? それがどうしたの?」という感想しかわきませんでした。

私たちはマイダン革命において、オバマに近いジョージソロスなどが資金を提供・協力していた事を承知しています。それから後にも今のバイデン政権の面々が関わったのだと言いたいのが記事から伝わって来ますが、そのような事は当時から米保守派のニュースサイトで繁く言われていて、かなり「今さら感」があります。
なにより、そんな事はいまさら問題になる事ではありません。

                                                                                                        (続く)

 

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ウクライナの男性、妻と子の死をTwitterで知る「これは戦争犯罪」「何が起きているか知ってほしい」 | (huffingtonpost.jp)
                              ウクライナに平和と独立を

 

2022年5月25日 (水)

山路敬介氏寄稿 ウクライナ戦争の本質は「民主主義VS専制主義」その2

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                     ウクライナ戦争の本質は「民主主義VS専制主義」その2
                 ~戦後を左右する世論  あやうい認識はプーチンを利するだけ
                                                                                           山路 敬介


承前

一方、インドと同じ理由でロシアの破産を防ぎたいトルコは、有用なドローン供給をウクライナへ行なっていたにも関わらず、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟には反対する意向です。(トルコ大統領、北欧2カ国のNATO加盟に否定的 - 5/13産経ニュース) 内実は条件闘争なのでしょうが、エルドアンは「北欧諸国はテロリスト集団のゲストハウスのようなもの」と述べるなど、直接的にはクルド人問題を指しているにせよ、彼の価値観は馬淵睦夫氏など一部保守論客が言う「「伝統的な価値観と現代民主主義」は相入れない」とする傾向に合致します。

私たちはいわゆる「民主革命」だの、デモ活動だのの「裏の顔」にはウンザリしています。我が国にも選挙が近くなると「一人ハンガーストライキ」などするヒマな院生もあるようで、そうした行為はその主張とは別に特定政党による政治活動の延長線上にある場合が一般的です。ロシアや中国などの愛国主義が真に個々人のものではなく、「主持ちのイデオロギー」である事と同じようなものです。本当の「主権者の意思」がどこにあるか、我々は常に疑ってかかる必要があるケースが多すぎます。

しかし、武器を持たないそれらを「テロリスト活動」とは呼ばないし、それに対する武力を背景とした対処方法は「弾圧」です。まして、ブチャの惨劇を「CGによる加工映像」と言うほどに事実認識を逆転させ、ウソと誤謬に満ちた詐欺論法で破綻した前時代的な世界観を渇欲するプーチンに与する論者はもはや「保守」とは呼べないと思います。
最近つらつら思うに、馬淵氏やチャンネル桜の考え方は「保守」ではなく、民族主義者なのではないでしょうか。
グローバリズムの弊害を鳴らすのはいいし、日本人が忘れているナショナリズムの穏やかな復権も大切です。ポリコレなど行き過ぎた人権主義を諫める言説にも納得できます。
でも、民族主義は西側諸国との乖離を招くし、何より「絶対平和主義」と同じく戦後のハレーションで誕生した薄っぺらさを感じます。

ただ、最近のミアシャイマーやエマニュエル・トッドなどの論考に力を得た識者もいて、その辺りの誤謬を言っておく事がもっとも大切だと考え、本稿の目的とする事にしました。

• ミアシャイマー論考の間違いと地政学・リアリズムの限界

 近年、静かなブームになった地政学の分野は日本では奥山真司氏が嚆矢ですが、特に保守的な人たちに受け入れられて来ました。かつてのナチスが応用深化させて来たために、学問として戦後はあまり重視されてこなかった分野です。
地政学はこれまでの歴史であった事柄を説明するには有用・便利な概念で、リアリズムは軍事問題を理解するには欠かす事の出来ない考え方です。

しかし、ミアシャイマーの理論(世界的な米国際政治学者・ジョン・ミアシャイマー「ウクライナ戦争を起こした責任はアメリカにある!」【日本語字幕付き】 - YouTube )は、核を持つ大国(米・中・露)だけが決定権を持つ世界観に没入していて、最終的には「とにかく、(仮に)プーチンがどんなに狂っていても従わなければいけない」という論建てであり、国際法も国際秩序も一切必要とされないアナーキーな世界観です。批判に対しては「いや、それがリアリズムだ」と開き直って言わんばかり。これはもう一種のニヒリズムです。
しかし、これが中・露の論理そのままである事に、なぜミアシャイマー理論の支持者たちは気づけないのか不思議です。ようは「これまでの米国こそが、力の論理でやって来たのではないか?」というつもりなのでしょう。
プーチンを信頼するミアシャイマーの解決策は「東部二州とクリミアをプーチンに無条件で献上する事」だそうですが、それで収まろうハズがないプーチンの悪意をゼレンスキーはじめ欧米首脳陣はとっくに認識済みです。
ここのブログでは早くから「ミンクス合意」に着目していて、その事の評価がまるでないのもミアシャイマーの特徴です。この事は重要なので後に述べます。

実際のところ、西側諸国がやろうとしている現実はミアシャイマーよりも三周先に進んでいて、プーチンが例えばどんなに狂っていても「いかに「核の打ち合い」を回避しながら、民主主義を守るか?」を賭して闘っているものです。
ここで、まさにミアシャイマー的世界観に淫する力の信奉者、「プーチンのロシア」に絶対に負けるワケにはいかないのです。
ミヤシャイマーの訳書もある弟子筋の奥山真司氏が何を言うか楽しみでしたが、やんわりとですが、さすがに的確にミヤシャイマー論考の問題点を明らかにしています。
ミアシャイマーの“悲劇”…なぜロシアや陰謀論者たちに付け込まれてしまったのか? – SAKISIRU(サキシル)

地政学やリアリズムは公式が単純で理解しやすく、手早く答えを得たい保守の人々には喰いつき易いのですが、欠点はそこかしこにあります。
特に現代の戦争がハイブリット戦に変わっている事を念頭に入れていない点が致命的です。せいぜい歴史観や軍事的なパワーの観点からのみ論じ、政治・外交・経済・金融・世論・宣伝・情報などの諸領域が与える影響力を無視する事で、ミアシャイマー的誤謬が生じる余地があります。

また、根本問題を米・中・露の三者にしぼるバランス・オブ・パワーからの考え方からでしか着想出来ないのがガンで、それだとロシアに対立する立場の「米国に原因あり」という答えにしかなりようがありません。さらに、どんな状況下であっても「中・露が悪い事をするのは常に米国のせい」という自家撞着におちいってしまうのが必然です。
結果、無数にある事実群から、その為にする事実をくまなく探して根拠らしきもの(たとえば「NATO東進原因説」など)として据えてしまったりもします。すると、悪意に満ちたプーチンに譲歩すべきなのは、常に米国や民主主義国側という事になるしかありません。

ミアシャイマー論考での「米・中・露の勢力圏認識」は常にFIXされていて、未来永劫変わる事はありません。しかし、ロシアってのはどうでしょう? そもそもの前提として、すでに三大勢力圏として認識されるべき有力国では全然ありません。習近平もビックリの、通常軍事力の脆弱さも露呈しました。2000年代には原油高の為に多少良かった時期もありますが、ソ連崩壊後一貫して国力は下落の一途を辿っています。
国土こそ広いもののガタガタの経済は中国に国中蝕まれ、人口三分の一の韓国以下の経済力しか持ち得ません。

そう言うと、「核の問題を無視しているのでは?」との疑念がわく向きもあるかも知れません。しかし、「持っていても、撃てない」状況を作り出す事は可能だし、運用規律を厳しく制限する作業を常に怠らなかった日本を含めた欧米諸国の努力をミアシャイマーは無視しています。
バイデンは最初から「参戦しない」と表明し、飛行禁止区域の設定にも反対、戦闘機の提供、モスクワまで届く攻撃性ミサイルの提供をも拒んでいます。この事実はロシアが核を使う理由を失効させるものです。
ウクライナが好戦況を作り出すなかで、ロシアの戦争指導者のうち核を司る「五人の手」の誰かが反対すれば、それでプーチンの権威は地に落ち、指導者としての地位は失効します。そのようなリスクをプーチンが取れるかどうか。

また、小型戦術核を用いる可能性はどうか。
この可能性について、小野寺五典元防衛相は櫻井よしこ氏の番組で直接答えていません。
「もし、核で反撃するとなると、バイデン政権は日本はじめ西側諸国に同意を求めてくる事になる」とし、暗に「核報復はない」と言ったものと見て取れます。
ウクライナは核を持ったロシアと戦っており、ロシアの核を恐れる様子はありません。
ですが、ゼレンスキーは一部側近のいう「クリミアまで取り戻す」といった言葉とは違い、「2・24侵攻前までの状態に戻す事で勝利とする」と宣言しています。
もちろん「そこまでやらなくても衰退したプーチン後のロシアを相手に、時間をかけて外交で取り戻す事が可能」との判断でしょうが、同時にプーチンへのメッセージでもあります。このような状態のなか、プーチンは増々核を用いる機会を失していると確信出来ます。
もし使ったら、核の先制使用を禁じる中国の「ロシアからの離反」に最高の口実を設ける事にもなるでしょう。

(続く)

 

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AFP

ウクライナに平和と独立を

2022年5月24日 (火)

山路敬介氏寄稿 ウクライナ戦争の本質は「民主主義VS専制主義」その1

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 山路氏より労作を賜りました。ありがとうございます。
4回に分けて掲載いたします。
文節の区切り等の編集は原文を尊重して無編集です。

                                                     ブログ主

                                                  ~~~~

                                 ウクライナ戦争の本質は「民主主義VS専制主義」
        ~戦後を左右する世論  あやうい認識はプーチンを利するだけ
                                                                                           山路 敬介


 ウクライナ戦争の帰趨は、いまだ双方とも決定的と言える段階にありません。
ウクライナ軍は東部諸地域で露軍をだいぶ押し出しつつあるように見え、逆にドンバスでは後退戦を強いられています。ただ、欧米の強力な軍事支援を受けるウクライナ軍の優勢が次第にハッキリして来るものとみられ、ゼレンスキー氏が目標とする勝利(ゼレンスキー氏、ロシア軍を「侵攻前」まで撤退させれば「勝利だ」…交渉解決へ意欲も : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp) )までは、さほど時間をかけずに到達する可能性が高いと思います。

マウリポリは残念でしたが、立派にその役割を果たし終えた兵士たちは特筆すべき「称賛」に値します。プーチンは投降した兵士たちを人道的に遇すると約束しましたが、どうなるか真に心配です。ロシア下院議長が言うような処遇になれば、ますますウクライナや欧米からの憎しみを買う事になるでしょう。プーチンが捕虜交換に応じない選択ができるものかどうか、これからしばらくの戦況にかかっていると思います。

また、岸田政権は100%欧米側にたち、プーチン個人にまで制裁をかけるなど、プーチン政権との関係をほぼ完全に壊しました。「これまで築いてきた日露関係~云々」とか、「北方領土問題が後退する~云々」などとする実質が曖昧模糊とした意見や成果を排した事、ロシアから与えられる形式でのみ成立する利益に汲々とする事なく、大変勇気ある決断をしたと評価できます。
そこはただ、当初は「サハリン2の権益を放棄する」言及をしたにもかかわらず後に撤回するなど、岸田さんらしいふらつきも見られます。しかしながら、先のロシア側による入国禁止措置該当者のリストなど見る限り、経済人がたった一人しかいないなどの事実を見るならば、逆にロシア側の苦衷と悲哀に胸を塞がれる感じがしてしまいます。

総じて岸田総理の対応は高評価で、「わが国は祖国の為に戦うウクライナと共にある」とするなど、「たまには良い事をいうなぁ」、と感心した次第です。

激戦が続くいっぽう、混沌とする露国内情勢やロシアと一体化していると見られた友邦たちの態度を見ると、プーチンは中々の泥船状態に陥っている印象があります。
同盟国ベラルーシのルカシェンコ大統領は最近、「国内で領土や家族、子供の為に闘う国民を打ち負かすのは不可能だ」と述べるなど、以前から巧みな理由を付けてプーチンが望む「参戦」を拒否しています。(ベラルーシ大統領「ロシアの侵攻失敗」の認識示唆か(5/11 産経新聞)

もとより「NATOの脅威」など毛ほども感じていない同じ同盟国のカザフスタンも、当初から東部二地域の独立を承認せず、ロシアからの派兵依頼も断わり続けています。(カザフ、ロシアからの軍派遣要求を拒否 東部独立も承認せず 2/27朝日新聞デジタル)
傀儡親露派とロシア軍が不法に占拠するジョージアの南オセチアですら、ウクライナ侵攻非協力派が大統領選で勝利しました。(ウクライナ侵攻協力の現職敗北 親ロ派「大統領選」で―ジョージア:5/11 時事ドットコム)
ロシアは急遽、軍事同盟(CAST)会議を招集し締め付けを図ったようですが、落ち目のプーチンに彼らの面従腹背の態度を直す事は不可能でしょう。
プーチン大統領 軍事同盟に温度差で作戦に影響も? (油井'sVIEW) - 国際報道 2/17 NHK

これまでロシア側が躊躇していた中露国境を跨ぐアムール川にかかる鉄橋の開通式がロシア側により4/27に急遽行なわれ、「中露の関係強化が進んでいる」との報道が出ています。(中ロ間に初の川またぐ鉄道橋完成 両国の関係強化進む|4/29テレ朝news)
 ただ、ここに至るまでの経緯から不信の中国側は少なくとも軍事品の提供には慎重とされ、今のところプーチンの要望を満たしていません。からくも民間企業DJIのドローン供給程度に留まっているようです。けれど中国は国連などで行なった立場表明を変えておらず、西側の経済制裁によって不足した民生品や食料などを大量にロシア側に流入させています。後述しますが、米国が経済制裁の効果を薄めるような中国の行動を見逃す事はありません。本格的なロシア支援は今のところ難しいものの、この秋の習近平三選実現からはどうなるか。

また、中国の元駐ウクライナ・ロシア大使はロシア敗北を断言していて、その記事が当局によって数時間後に消されるなど、中国国内のドタバタぶりも見られます。(5/12 ニューズウィーク日本版)  この内容を興梠一郎氏がYouTubeで解説していて、良い参考になるのでぜひご覧いただきたいと思います。(https://www.youtube.com/watch?v=suhhP8Xmr3o)

これら以外にも「戦況の不利」が親ロシア国側に与えた負の影響を示す情報は多数あって、「ウクライナの勝利」が親露国内民主派勢力に「「ロシアからの解放」につながるかも知れない」、と考えさせたとしても不思議ではありません。その危険が指導者たちに参戦を躊躇させ、これらの国々がロシアの危急にも役立たずである一因でしょう。
いずれにしても、予想外の国際社会における自由主義陣営の歴史的結束がもたらした効用は大きいです。

ただ、不利な戦況にもかかわらず、プーチン自らが白旗を掲げる事はないように思います。(CNN.co.jp : プーチン大統領は「戦争の長期化に向け準備」 5/11米国家情報長官)
第一段階では、一気に首都及び東半分への侵攻して政権を排し、傀儡を通じて全土を支配する計画に失敗。第二段階の東部二州の全面奪取にも失敗。第三段階としてようやく交渉によってマウリポリを落とし、現支配地域を維持するための細々とした持久戦に戦線を移行させながら、次にはアゾフ海や黒海、黒海沿岸地域を掌握する野望を捨てていません。時間とともに自由主義陣営の結束の乱れや、固有の弱点が顕現化して来るのを待つつもりでしょう。黒海封鎖を厳重にして長期的にウクライナ経済を締め上げるなど手だては残されているし、あるいはモルドバなどへの侵攻に切り替えるという見方もあります。

けれど、ロシア国内では相次ぐ富豪の怪死(ロシア富豪の相次ぐ不審死に「非常に大きな見せしめ、口封じということ」5/6)、次々に石油備蓄の爆破や国内重要施設の火災がおき、複数の軍入隊事務所に火炎瓶が投げ込まれる(ロシアで爆発や火災相次ぐ 19件、ウクライナの破壊工作か(5/3時事通信)など、にわかに全貌を把握しづらい事件が頻発しています。ロシアのニュース専門放送局「RT」(旧称ロシアトゥデイ)が5/10、トムスク、キーロフ、サラトフ、マリエル共和国など国内5人の知事が一斉に辞任したと報じたとする情報も出ています。(ロシアの知事5人が異例の同日辞任!「プーチン降ろし」地方から伝播、ソ連崩壊と酷似してきた5/12日刊ゲンダイ)

英紙などによれば「ゲラシモフ参謀長を解任手続き中」とかで、たしかにゲラシモフは戦勝記念行事に出席していませんでした。
ウクライナ国防省は「ロシアでクーデターが進行中」とし、その流れは止められないところまで来ていると発表しています。(ロシアで「クーデター計画進行中」 ウクライナ諜報部門トップ見解5/15(毎日新聞)もっともこれはウクライナのプロパガンダの可能性もあり、直ちには信じられませんが、最近のロシア国内情勢に何らかの異変が起きている事は間違いないようです。英情報部からはプーチン重病説も飛び出しました。(プーチン氏は血液のがん、ザ・タイムズ報じる…5/16  読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)
また、ありとあらゆる手を尽くしてルーブルの崩壊危機に尽くしている金融当局ですが、政策金利20%で金の流れを止めた副作用が大きく、企業倒産が過去最高を更新し続けています。こんなメチャクチャなやり方では混乱にいっそう拍車をかけるだけのもので、落ちるところまで落ちた感じが否めません。
ロシアが仮に戦闘に勝利したとしても、これでは打ち続く経済制裁をはねのける事が出来ず、戦勝の果実を得る事は間違ってもないでしょう。

                                                                                                                                                     (続く)

 

 

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ウクライナで戦う約3万人の女性兵士たちの姿 SNSには笑顔で抱き合うグループ写真も(抜粋) | デイリー新潮 (dailyshincho.jp)

ウクライナに平和と独立を

2022年5月23日 (月)

トルコとはけじめをつけるべき時期です

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トルコの出しているNATO参加容認条件がわかってきました。やはりセコイ。
ロシア官営メディアのスプートニクは、こう伝えています。

「現時点で、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟に賛成できないと表明している唯一の国がトルコである。トルコは、テロ組織とみなすクルド人武装組織を支援しているとして両国を非難している。加えて、このスウェーデンとフィンランドは、2019年にトルコがシリアに侵攻し、クルド人勢力の一掃に乗り出した際に、制裁を科した国である。ブルームバーグのデータによれば、トルコ政府は、NATO加盟を申請したフィンランドとスウェーデンに対し、トルコが求める30人のテロリストの引き渡し、ロシアから地対空ミサイルS400を購入した後に発動された制裁の解除、そして最新鋭ステルス戦闘機F−35共同開発計画への参加などへの同意を両国受け入れの条件として提示した」
(スプートニク5月211日)
フィンランドとスウェーデンがNATO加盟を正式決定 知っておくべきこととは? - 2022年5月21日, Sputnik 日本 (sputniknews.com)

制裁の解除くらいは言っても、F-35なんて細かいことまで言わないかと思ったのですが、やはり出してきました。
馬鹿な話です。ロシアの高性能対空ミサイルシステのS-400を導入してしまったら、米国製ステルスを入れられるはずがないでしょうに。
S-400は、ウクライナ戦争にも投入されている最新鋭のロシア対空システムですが、ロシアがこんなお宝を売ってくれること自体に下心を感じないほうがどうかしています。

現代において、その国の最先端の武器体系を「買う」という意味は、軍事的な従属化、あるいは系統下に入ることを意味します。
国防の最新の秘密情報を開示してもらえるわけですから、それが代償となります。
小は自動小銃から大はこのような高性能ミサイルシテスムまで、大国はそうやって小国の安全保障の根幹を支配し、自らの陣営を作ってきました。
日本が海自のイージスシステムを導入できたのも、日本が米国ときわめて緊密な軍事同盟を結んで一体化しているからです。

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ロシア兵器導入で米制裁の恐れ 「クアッド」一角のインド:時事ドットコム (jiji.com)

このS-400の場合、複雑なシステムを動かすには、トルコ側からロシアへ訓練に行き、ロシアからは操作と整備のための技術要員を派遣し合わねばなりません。
そこから人脈が生まれ、政治的なパイプができ、その国の中に勢力を築き上げ、やがて準同盟関係に、そして本格的同盟関係へと発展していきます。
その動きはトルコ内部で既に始まっているはずですが、このようにその国の高度の軍事システムを移植することは、その国に長い期間の「つながり」を作ってしまうことを意味します。
いわばトルコはNATOの一員でありながら、敵から武器を売ってもらうという二股をかけたわけです。

で、米国が怒るまいことか。報復として、直ちにF-35の供与を中止してしまいました。
もちろんS-400の中でF-35を飛ばしたら、そうとうなことまでステルスの秘密が暴露されてしまうからです。
そしてそれ以上に、ロシアのNATO分断策に乗ったトルコを制裁しないわけにはいかなかったのです。
かんじんのNATOはおとがめなしというところが、ルトワック翁がいう偽薬となってしまったNATOの情けなさでした。
当時のメルケルNATOは、ロシアを敵と考えなくなりつつあったのです。

ただし面白いのは、かといってトルコがロシアの従属国家になったわけではないという点です。
ロシアが旧ソ連圏のしゃもない独裁国に作らせた、CSTO(集団安全保障条約機構)に属する、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンなどとは違って、いちおうNATOに属する「主権国家」の立ち位置を持っています。
そのうえこれら旧ソ連圏諸国は正規軍が1万人ていどの弱小ですが、トルコは人口6千万人に対して65万人のNATO第2の兵員数ですから堂々たる軍事強国です。

このCSTOについて小泉悠氏は、その性格をこう説明しています。

「ロシアにとってのCSTOとは、特定の驚異に備える同盟ではなく、ロシアへの忠誠度を示すインディケーター(尺度)なのです。ロシアの同盟に入ると「親藩」扱いとなり、譜代や外様よりも忠誠度が高いとみなされるわけです」
(小泉悠『ロシア点描』)

ロシアから見た、国際社会の色分けはこのようなものです。
ロシシアにとって、米国というスーパーパワーと半世紀以上の戦いを続けてきたということの自負は大変なもので、冷戦の中で育ち、その終了期に青年期を終わったプーチンという男にとって、冷戦は決定的体験でした。
ソ連が崩壊したの後にロシア国内に生まれたは一斉に雪の下から割って出たような民主主義、協調外交という芽がでていました。
しかし、政権を握ったプーチンがとったのは「大国への回帰」という方法でした。

国力が回復しない前には爪を隠して西側と協調してみせ、原油の高騰によって棚からぼた餅風に大国にふさわしい軍備が回復するやいなやロシアをリーダーとするCSTOという「ロシア勢力圏」を作り、米国とNATOに対峙させようとしました。

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kremlin.ru / CC BY 4.0 CSTO集団安全保障評議会

小泉氏によれば、この国際社会の階層をプーチンはこう見ています。
第1のグループは超大国です。米国、ロシア、中国などは強大な核を持つ国家で、かれらだけが真の意味での「国家主権」を持ちます。
第2は、これらの選ばれし超大国に追随する従属国グループです。このグループには核を持つ「半主権国」英仏と、それ以外の非核同盟国が属し 連枝、親藩から外様まで幾階層に分かれています。

ちなみに、わが日本はこのグループに属し、アメリカ幕府の親藩待遇です。
連枝としては英国、カナダ、オーストラリアなどのアングロサクソン系ファイブアイズが位置します。
ですから、いくら安倍氏が「ウラジミール、きみと私は同じ未来を見ている」と叫んでも、馬鹿か、こいつはとプーチンは思ったであろうと小泉氏はシビアです。

第3のグループは、インドやトルコのような反米意識をもつ主権国家で、「友好国」としてケースバイケースで協調したり反目できるゲーム相手という扱いになります。これが協商関係国家です。

「協商は互いに心を許していなからこそ成り立つということです。
むしろ、互いにいつ裏切られたり攻撃されるかわからないという恐怖心があるからこそ、相手を完全に怒らせないように気を使いあう。
マフィアのボス同士がよほどのことがないかぎり相手のシマを犯したり、メンツを潰さないように配慮し合うことに似ています」
(小泉前掲)

ロシアにとって、トルコが他のNATO諸国と区別されていることにご注意ください。
たとえば2017年以降、米国はロシア製武器を買った国には制裁を科すとしており、多くの国が制裁を恐れてロシア製武器の購入を手控えたのですが、例外が2国現れました。それがトルコとインドです。
インドは、ロシアからの兵器買いを止めず、ウクライナ侵攻に際して表だっての非難はせずに、ロシア産原油の輸入量はむしろ8倍にはねあがったほどです。

ザ・クアッドに入って世界を驚かせましたが、かといってインドは米国ジュニア・パートナー(格下の同盟国)にはなる気はさらさらないし、あくまで独立した大国でいたいのです。
小泉氏は、インドのロシア研究者から「日本は対中包囲網の一角としてインドに期待しているようだが、インドにはその意志はない」とまでいわれたそうです。
インドは恒久的に自由主義陣営に加担するわけではなく、今はザ・クアッドのカードを切ってみたていどのようです。
インドも平然とS-400を導入しています。

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NATO加盟「同意せず」 トルコ、北欧2カ国に不満:時事ドットコム (jiji.com)

トルコもインドに似ています。
トルコは、ロシアから武器を導入してみたり、今回北欧2国のNATO加盟について拒否権を発動するというトンデモをやって我を張っています。
トルコは、権威主義国家(全体主義国家)として、ロシアと親和性を持ち、かつてのトルコ帝国の復権の野望を持つ点で、プーチンとエルドアンはよく似ています。

ちなみに、エルドアンがNATO加盟国でありながら、EU加盟を許されないのは、主に財政規律がデタラメで高インフレだからです。
それはエルドアンがイスラム原理主義的発想で、カネを稼ぐ自由主義経済を憎んでいるからです。
これでトルコ経済はガタガタになっていますが、いかに国民が苦しんでも意に介さないようです。

またオスマントルコ帝国への復権を目指す点は、イランと好一対です。
イスラム研究者の飯田陽氏は、この二国の類似点をこう書いています。

「・かつての帝国の中心であった。
・政治的イスラムと反欧米、半近代を組み合わせた政権によって統治されている。
・覇権国家となることをめざし、他国への領土親藩や軍事攻撃を行う拡張主義外交政策を実行している」
(飯田陽『中東問題再考』)

このようなトルコは冷戦期に、ソ連の弱い下腹を扼し、かつ黒海の首根っこであるボスポラス海峡を持つ戦略的要衝に位置したが故に、半ば成り行きでNATOに加わることを認められました。

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西部トルコ(3) (nishida-s.com)

いまでもその地政学的役割は決して低くはないので、西欧としてはNATOには入れても、以下の基準を満たさない国はEUに加盟させる気はないのです。

それは国連憲章第2章4条の「平和を愛する国家」という概念です。
1991年、ソ連圏が崩壊したことにともなって多数の国家群が生まれたことに対応して、EUが定めた東欧及びソ連邦における新国家の承認の指針に関する「EU宣言」があります。
この宣言が、EUが加盟の許諾をする基準です。

①法の支配、民主主義、人権に関して国連憲章及びヘルシンキ最終議定書等を尊重すること。
人種的民族的グループ及び少数民族の権利を保障すること。
既存の国境の不可侵を尊重すること。
関連軍備規制約束を受け入れること。
国家承認及び地域的紛争に関する全ての問題を合意によって解決すること。

つまり、人権、少数民族の権利の尊重、国境の不可侵、軍備縮小、紛争の平和的解決などを、EUは国家要件として定めたことになります。
トルコはすべての項目でアウトです。
EU諸国としては実はトルコにはNATOも出て言ってほしいのでしょうが、あいにく対露関係でそうも言えない、だからズルズルここまできてしまったのですが、そろそろトルコとけじめをつけるべき時期になりかかっているのは確かなようです。
なぜなら、このウクライナ戦争とは自由主義同盟と全体主義国家との価値観をめぐる戦いだからです。

 

 

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ウクライナ女性兵、砲撃動画がTikTokで注目「医者になりたかったけど、居場所はここ」:朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)
ウクライナに平和と独立を

 

 

2022年5月22日 (日)

日曜写真館 あやめ色とはこの色と咲きゐたり

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あさまだき草にあやめのこむらさき 日野草城

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あやめ見よ物やむ人の眉の上 嵐雪

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常陸野はみどりのたひらあやめ咲く 藤田湘子

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一茎のあやめ雲呼び日を迎へ 山口青邨

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こなたにもこれがたけよりあやめ草 此筋

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待ち焦がれゐしごと濃ゆき花あやめ 後藤比奈夫

 

2022年5月21日 (土)

トルコ、北欧二国の加盟に反対

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トルコとクロアチアが、北欧二国のNATO加盟に反対しているそうです。
やれやれ、やっぱりあの国がゴネているのですか。
話し合い外交が3度の飯より好きなマクロンさえ、ミラン対戦車ミサイルを送ろうというこの時期に。
エルドアンは、女性首相が牛耳る北欧二国など生意気だ、スウエーデンとフィンランドなどロシアの餌になればいいと言いたいようです。

「エルドアン大統領は、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に対するトルコの反対を確認し、この問題に対処するためにアンカラに代表団を送るという北欧諸国の提案を拒否した。
「我々は、安全保障組織NATOに加わるためにトルコに制裁を適用する国々に『イエス』とは言わない」とエルドアンは月曜日の記者会見で述べ、隣国シリアでの軍事作戦を巡ってトルコへの武器販売を停止するというスウェーデンの2019年の決定に言及した。
トルコはまた、アンカラ、欧州連合、アメリカ合州国によってブラックリストに載せられたクルディスタン労働者党(PKK)を含む"テロ"集団をかくまっているとして、二つの加盟希望国を非難した。
「どちらの国もテロ組織に対して明確な立場をとっていない」とエルドアンは述べた。「どうすれば彼らを信頼できるだろうか」
(略)
トルコは、特に1984年以来、トルコ国家に対して武装蜂起を繰り広げてきたPKKに対する寛大さを示すストックホルムを非難している。
スウェーデン外務省は月曜日、スウェーデンとフィンランドの上級代表が、アンカラの反対に対処するための会談のためにトルコを訪問する予定だと述べた」(アルジャジーラ5月1日)
https://www.aljazeera.com/news/2022/5/17/turkey-confirms-opposition-to-nato-membership-for-sweden-finland

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エルドアン大統領  アルジャジーラ
Turkey accuses Sweden and Finland of harbouring 'terror' groups including the PKK [File: Yves Herman/Pool/Reuters]

このエルドアンという男は、何を勘違いしているのでしょうか。
今、NATO加盟国の一員としてトルコが聞かれているのは、ロシアの凶暴な侵略からいかに自由主義陣営が守れる国を増やしていくことなのかであって、自国の内政問題である少数民族問題ではありません。
クルド労働者党(PKK)とトルコがどのような関係にあろうと、グルド人をスウエーデンが人道支援していようと、なんの関係もありません。
スウエーデンがトルコのクルド民族対策をかねてから非難していようと、クルド人の引き渡しを33回も断ったとしても、それはNATO加盟国としての判断とどう関係があるというのでしょうか。
武器輸出をトルコに禁じていようと、NATOとどう関係あるのですか。

安全保障、それも一国的なそれではなく地域の集団安保体制のあり方を問われているのに、そんなことをまるで取引材料のように持ち出すのがヘンです。
クルド人を突き出せば、NATOに入れてやってもよいゾとか、おおイヤダ。よく恥ずかしげもなくこんなことを言えるもんだ。
これではNATO加盟が一国の反対でも通らないことに目をつけて、ネチネチと蒸し返しているイヤミなジジィにすぎません。

では、なぜウクライナがロシアの標的にされたのでしょうか。理由は3ツです。
まずひとつ目は、ウクライナが弱いと思われていたことです。
ロシアは強烈な力の信奉者で、弱きをくじき強きになびくのが習いでした。
いままで侵攻してきたのは、ろくな軍隊をもたない国ばかりです。
旧ソ連時代のアフガン、ロシアになってからのチェチェン、ジョージア、シリア、いずれも共通して弱小国ばかりです。
ですから今回も、軍事超大国のオレ様にかかれば数日でキーウを占領し、要人は全員ネオナチとして裁いてやる、程度に考えていました。

2つ目は、プーチンはウクライナなどしょせんは「人工的国家」にすぎない、ウクライナ民族とはロシア民族の亜種だから、国民はバラバラで戦う意志はない、むしろ我々をネオナチからの「解放軍」として歓迎するはずだ、と思っていました。
もちろん侵攻したその日にそれが重大な過ちであることを知るわけですが、時既に遅しで、ゼレンスキーは救国の英雄となり、その下にウクライナ国民は固く団結してしまったのです。
戦争は、ウクライナを真の民族国家に短期間で成長させてしまいました。

そして3つ目に、なによりロシアの食欲をそそったのは、ウクライナのNATO加盟が困難で非条約国の状態に置かれていたことです。
だから世界のどこの国も支援を送らず、孤立無援で戦うしかない、と思っていました。
実際は、米国とNATOは軍隊こそ送らなかったものの戦後最大の軍事支援を送り、戦うウクライナを支えました。
米国など、大戦以来初めてのレンドリース法を発動したくらいです。
現代において、同盟、即ち集団安保こそが戦争を未然に防ぐのだ、という認識が完全に国際社会に定着しました。
ですから、この時期にNATO加盟を拒否するという行為は、ほとんどロシア側についたも同然の利敵行為に等しいのです。

このように見ると、もっとも侵略されやすい国とは、①軍備が弱く、②国民がバラバラであり、かつ③非同盟国家だという条件があります。
あれ、どこかで見ませんでしたか、こんな国。
そうです、戦後左翼が理想とした「9条国家」とは、まさにこの三つの条件を揃えた国のことなのです。
日本は、③が日米安保がありましたからセーフでしたが、それすら「米軍がいるから戦争になる」なんて平気で言う人たちがいるんですからね。

それにしても困りましたね、こういう国は。
使えるネタならなんでも使う、意地汚く自国利害しか考えない、なんにでもかこつけてゴネる、というあざとい小人ぶりです。
ひと頃のムン政権が年中このスタイルでした。
輸出規制強化をされれば、まったく関係ないGSOMIAを持ち出してゴネる、スネる、キレる。

今回の件で露になったのは、いまやトルコは自由主義陣営の異物なのです。
大統領に過度に集中した独裁体制、少数民族弾圧と人権弾圧のひどさはロシアと何ら変わりません。
ですから、グダグダ言っていないで、NATOなどさっさと脱退してプーチンが作った独裁国家群である「ユーラシア共同体」にでも加盟したらいいのです。そちらのほうが居心地がいいですよ。
ただ、そこまでの度胸はないから、自由主義陣営の軍事同盟であるNATOにまだしがみついているのです。
実際、この戦争でロシアが目論見どおり4日で勝利していたら、あるいはやらかしたかもしれませんが。
いまやロシアの盟友ベラルーシですら、派兵要請をネグっているのですから、そんな自殺行為をするわけはありませんがね。

できるのはオレならプーチンとゼレンスキーどっちにも顔が効くぜとばかりに、停戦交渉の仲介役ていどですが、ロシアとウクライナ両首脳に電話をしてこんなことを言ったそうです。

「トルコ大統領府によりますと、エルドアン大統領はロシアとウクライナ両国の「常識ある行動と対話の維持が重要だ」と伝えました」
(テレ朝4月2日)

おいおい、「両国の常識ある行動」とはなんのことでしょうか。
それはロシアだけに言いなさい。
非常識の極みはロシアであって、ウクライナは至ってノーマルな祖国防衛戦争を戦っているにすぎません。
露ウ関係は、いわゆる紛争当事国関係ではなく、侵略国とその被害国という関係であって、前者は絶対悪なのです。
したがって喧嘩両成敗よろしく仲介にしゃしゃり出て、「まぁまぁご両人、そうイキリたたず常識を持って話しあえばまた友達に戻れます」的仲介なら、無意味なばかりか有害でさえあります。

エルドアンがこの仲介に乗り出した4月初めの時期は、ロシアがキーウ包囲撤退を断念し南部東部に軍を集中させている局面転換の頃でした。
ウクラナイナ軍の手ごわさをロシアが骨身に徹してわかり始めた戦局の転換点の時期でした。
しかしこの時期に停戦してしまえば、占領地はそのままロシア領土として既成事実化する危険がありました。
事実、南部ハリコフでは、住民投票という形でロシア領土化が始まっています。

つまりトルコが仲介の声を両国にかけ始めた3月末から4月の時期において、ロシアは短期戦争を断念して戦略配置を転換しようとしており、一方のウクライナもまた西側各国からの支援を得るための時間稼ぎが必要でした。
この奇妙な思惑の一致が、停戦交渉が開かれた理由でした。

しかしこの構図を根底から覆したのが、4月初めのブチャの大虐殺発覚でした。

「ウクライナに侵攻しているロシア軍の地上部隊が、首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで多数の民間人を殺害していた疑いが、現地入りしたウクライナ軍や報道機関の指摘で浮上した。他の都市でも露軍部隊による民間人殺害や暴行が報告されており、ブチャの惨状は氷山の一角とみられる。
2日、ブチャに入ったAFP通信の記者は、「静かな並木道に、見渡す限り遺体が散乱していた」と表現した。記者が確認した約20人の遺体は、いずれもジーンズやスニーカーなどを身に着けており、軍人には見えない服装だったという。
遺体は露軍の激しい攻撃で廃虚と化した市内各地に点在している」
(読売4月4日)

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読売

当然のことながら、この大虐殺発覚によってウクライナは停戦交渉を拒否しました。
このような民族浄化を計画し、実行する国とは話すことなどなにもない、徹底的に国外に叩き出すまで戦う、そうウクライナ国民は覚悟を定めたのです。

こうしてロシアから感謝をえようとしたえるとエルドアンの目論見は挫折しました。
面目を潰されて面白くないので、無関係な北欧二国のNATO加盟を妨害して、米国からなんらかの代償をもぎとってやるんだ、F-35の導入再開なんてどうだ、くらいの低次元のコトを考えているのかもしれません。

 

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ウクライナに平和と独立を

2022年5月20日 (金)

プーチンにガン入院説

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自分が引き起こしたウクライナ戦争によって、プーチンが得たものは、深甚な世界的孤立とNATOと接する国境線がかえって拡大したことでした。
この北欧二国の歴史的決断に驚いたプーチンは、フィンランドのニーニスト大統領に電話を入れて「ウチの国は無害だ」と言ったとか。
ミーニストは外交的上品さで返答したそうですが、内心こう言いたかったはずです。

「ニーニスト氏はボリス・ジョンソン英首相と共に、フィンランドと英国の安全保障協定に関する合意文書に署名。その席で、「NATO加盟は誰の不利益にもならない。ゼロサムゲームではない」とし、もしフィンランドが加盟することになれば、ロシアに対して 「原因は貴国だ、鏡を見よ」と告げるだろうと語った」(AFP5月12日)
NATO加盟「誰の不利益にもならない」 フィンランド大統領(AFP=時事) - Yahoo!ニュース

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マリン首相とニーニスト大統領 富山新聞
フィンランド加盟正式表明 NATO、週内申請へ|全国のニュース|富山新聞 (hokkoku.co.jp)

大統領が「原因はお前だ。鏡を見ろ」と言えば、来日したマリン首相は「ロシアは信頼できない国」と切って捨てています。
より正確に言えば、「信頼できない国」とは隣国をネオナチ呼ばわりして侵攻した国。
大量の民間人を拷問に賭けて殺戮した国。
街々を灰塵にせしめ、世界の非難を浴びると逆ギレして核で世界を脅迫する国。
プーチンという独裁者を戴く国が信用できないのです。
こんな人物が核のボタンを握り、人類絶滅への鍵を握ることに対する、いいようもない絶望感が世界に満ち溢れています。
ロシア国民は、責任を持って自らが選んだプーチンという最悪の独裁者を倒してもらわねばなりません。
かの国の民がプーチン倒さない限り、ロシアは誰からも信頼される国に戻ることはないでしょう。
ロシアという国は消せませんが、プーチンは消せるのです。

さて、そのプーチンが危ないという噂が出てきています。
危ないプーチンではなく、プーチンが危ないのです。
先月末、英国の大衆紙デイリー・メイルとザ・サン、ザ・ミラーが揃ってプーチンが癌にかかったという報道を出しました。
なにぶん飛ばしが多い英国大衆紙ですから、そうならいいねぇ程度で眺めていたのですが、どうも一定の事実である可能性が出てきました。
これら三紙の情報のネタ元は、ロシアのSNS「テレグラム・チャンネル」のGeneral SVRという軍事問題のサイトです。
General SVRはもちろんハンドルネームですが、SVRはロシア3大情報機関の一つロシア対外情報庁のことですから、そこの将官と名乗っているわけです。

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ソフトバンク社員が逮捕…ロシアスパイの籠絡テクニック | Smart FLASH/スマフラ[光文社週刊誌] (smart-flash.jp)

ビクトル・ミハイロヴィッチが運営していると噂されていますが、怪しいものです。
ただしこのGeneral SVRは、すでに1年半前からプーチンが癌であることを公表しており、継続的に情報をアップしていることから、西側から注目されているサイトです。

General SVRの情報をまとめると、プーチンは胃ガンが進行して医師団から手術を強く勧められ、当初4月後半に予定していたが延期され、5月9日の戦勝記念日が終わってから手術するという筋立てでした。
また別情報では、外国にいるあるオリガルヒが会話の中でプーチンは「血液のガン」だということを言っていたそうです。
こちらのソースは英国の高級紙であるザ ・タイムスです。
こちらも間接情報なのが気になりますが、特定の病名が登場しています。

「血液のガン」とは白血病か、悪性リンパ腫を指しますからおだやかではありません。
専門医の左門新氏によれば

「『血液がん』は主に白血病や悪性リンパ腫などです。がん化した血液細胞を消滅させる薬を投与する化学療法が一般的で、手術が必要というわけではありません。
ただ、薬でもがん細胞の増殖を抑えられなかったり、再発したりした場合は、より強力な薬を用いることになるので、その薬の影響でなくなってしまう正常な骨髄細胞を補充するために、骨髄移植を行う場合があります。高齢者の血液がんは悪性リンパ腫が多い傾向です」
(元WHO専門委員 左門新)

プーチンは今年70歳の高齢ですから、悪性リンパ腫の可能性が大きいといえるでしょう。
またソースは明らかにされていませんが、英調査報道グループ「べリングキャット」の調査員であるクリスト・グロゼフという人物によれば、ロシア連邦保安局(FSB)は地方長官に「大統領が余命数カ月であるとの臆測は無視するように」と通達を出したそうです。
実際、プーチン氏の出先には3人の医師が随行し、うち1人はがん専門医だという情報も伝わっています。
前出の左門氏によれば、医師の随行する理由は化学療法を投与するためだろうとのことです。

5年生存率は白血病が8~9割、悪性リンパ腫が6~8割だそうで、今日明日ポックリいくわけではありません。
ただし、どうやら近々に手術をするという情報が入ってきました。
これも確認をとりようがない未確認情報です。
申し訳ありませんが、クレムリンや中南海の奥の院に鎮座する指導者の健康状態については、こういった不確定な情報を積み上げて手探りするしかないのです。

「General SVRは、手術に関して、安全上の理由から、日程は確定していないものの、時間は「午前1時から2時までの夜間に開始される」としている。執刀医は全員、「複数段階のチェックをパスしたロシア人」で、「今晩から勤務に入った」と伝えた。医師らは「すぐにでも」手術を行うよう推奨しているという。
なおGeneral SVRは、ロシア外国諜報機関に所属していたビクトル・ミハイロヴィッチ(Viktor Mikhailovich)中尉(仮名)が運営していると噂されている。
プーチン氏の健康に関して、ロシアの調査報道機関「The Proect」は先月、プーチン氏が近年、がん治療の専門医エフゲニー・セリバーノフ(Evgeny Selivanov)氏の診察を35回以上受けていたと報じている」
(5月13日 Mashup)
プーチン大統領が手術?「影武者」使用の可能性も - Mashup Reporter

この情報は、プーチンが化学療法を受けているおそくらは主治医のエフゲニー・セリパーノフという名前まで特定されています。
General SVRは1年半前からプーチンは悪性リンパ腫に罹っていると伝えていることから、おそらくこの時期に彼は絶対の信頼を置いていたはずの自らの肉体の不調を知って、仕事の総仕上げとしてウクライナ侵略を考え始めたのかもしれません。
もちろん、2014年のクリミア侵攻からの延長線上ですが、最終的な決断を下したのはこのあたりかもしれません。

しかし、化学療法ではどうにもならず開腹手術が必要なまでに悪化したのが、皮肉にも総仕上げであるはずのクリミア侵攻前後だったようです。
そして相次ぐロシア軍の敗北により、いっそう肉体は耐えきれない苦痛によって悲鳴を上げ続け、まともな判断も下せない状況に立ち至ったのかもしれません。
一刻も早く手術をしろと主治医は何度も意見したはずですが、タイミングを失してしまい、「戦勝記念日」で一区切りし、短期の手術をすると決心したとも考えられます。
前にもアップしたことがある戦勝記念日の時のプーチンの写真ですが、なるほどこれは病んでいる老人の顔です。

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BBC

独裁者特有の苦悩は、、手術の間に寝首をかかれないか、ということです。
おそらく、今のプーチンは周囲の誰も信用していないでしょう。
しかし、彼が握りしめている軍事指揮権を手術中は手放さねばならない、術後も普通なら数週間は入院していろと言われるところです。
この権力の空白をどうするのか、プーチンは「戦勝式典」で見せたように、厭世的気分に襲われたことでしょう。

本来ならば、ロシア連邦憲法は、大統領が職務を遂行できなくなった場合の大統領代行者は首相ですが、現首相のミハイル・ミシュスチンはただの技術官僚であって、軍事にはまるで疎い人間で、とてもではないが戦争指導など任せられないと候補から外されたようです。
そもそも彼は無害な人間で、トップを狙う野心がないから首相にしてやっただけの男にすぎないのです。

そこで出てきたのが、頼りになるのは同じレーニングラード出身で、古巣のKGB派閥で元FSB長官にしてロシア連邦安全保障会議書記のニコライ・パトルシェフだったようです。
この二人が最近2時間も面談していたという情報もあるようです。

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ニコライ・バトルシェフ元FSB長官
ロシア安全保障会議書記、「米は生物兵器を開発している」 - Pars Today

バトルシェフはプーチンの最側近でプーチンに意見できる3人のひとりです。
防衛省防衛研究所の兵頭慎治氏は、バトルシェフについてこのように述べています。

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テレ朝
ロシア軍“士気低下”も…注目はプーチン氏に意見できる『3人組』専門家解説|テレ朝news-テレビ朝日のニュースサイト (tv-asahi.co.jp)

「ロシアのプーチン大統領の側近として“レニングラード3人組”という人たちが存在します。安全保障会議書記のニコライ・パトルシェフ氏、連邦保安局長官のアレクサンドル・ボルトニコフ氏、対外情報局長官のセルゲイ・ナルイシキン氏の3人は、レニングラードのKGB時代からプーチン氏と一緒に仕事し、忠誠を誓ってきた人でもあります。
なかでもキーパーソンなのは、安全保障会議書記のパトルシェフ氏です。KGB時代のプーチン氏の師匠のような人物で、プーチン大統領が全幅の信頼を置く唯一の人物とも言われます。
10年近く国内治安を担当する大臣をやった後、安全保障会議書記になりました。プーチン大統領が決定を下す、色々な情報をプーチン大統領に上げる場合に、必ずパトルシェフ氏を通じて上げることになりますので、今回の軍事侵攻においても非常に重要な役割を果たした人物だとみています」
(兵頭慎治 テレ朝3月28日)

ちなみに、最後まで未確認で申し訳ありませんが、プーチンはバトルシェフには、「あなたはロシアの権力構造の中でただ一人信頼に足る友人だ。もし、手術後の経過が悪く国家行政に支障が出るようになったら行政権もあなたに一時的に委託するつもりだ」と言ったそうです。

このバトルシェフに代わっても変化を期待することはできませんが、プーチン独裁体制が大きく揺らぎ出したことだけは確かです。

 

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泣き崩れる救助隊員 ブチャにて
                      ウクライナに平和と独立を

 

 

2022年5月19日 (木)

ウクライナ参謀本部、マリウポリを防衛隊は全ての任務を達成した

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ウクライナ軍参謀本部は5月16日、「マリウポリを防衛する部隊は司令部が要求した全ての任務を達成した」と発表し、守備部隊の指揮官に兵士の命を救うよう命じたようです。
この命令によって、アゾフスタルに立て籠もった守備隊は任務を解かれて降伏することになります。

「ウクライナ軍は5月17日未明、アゾフスターリ製鉄所Azovstal plant(Azovstal steelworks)を防衛する守備隊の任務を終了したと表明。声明で「マリウポリ守備隊は戦闘任務を遂行した」とし、守備隊を「われわれの時代の英雄」とたたえたほか、製鉄所に残る部隊の指揮官に兵士救出を命じた。マリウポリMariupolでウクライナ側の最後の抵抗拠点となっていたアゾフスターリ製鉄所から全ての兵士を退避させるために取り組んでいると発表した。数カ月にわたり激しい戦闘が続いたが、ロシア軍が同市を完全に支配することになるとみられ、ウクライナにとって大きな敗北を意味する。
ここ数週間に民間人は脱出。16日夜には負傷したウクライナ兵53人がロシア支配下にある南東部ノボアゾフスクの病院に搬送された。さらに211人の兵士が、親ロシア派勢力が支配するオレニフカの町に移送された。退避した兵士は全員、捕虜交換の対象になるという。まだ製鉄所に何人の兵士が残っているのかは不明だが、約600人が立てこもっていたとみられている。ウクライナ軍は残りの兵士救出に取り組んでいるとした」
(ロイター5月17日)
マリウポリ、ロ軍が全域掌握へ 製鉄所からウクライナ兵退避 | Reuters

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時事

ゼレンスキーがコメントを出しています。

「ゼレンスキー氏は16日の動画メッセージで「英雄が生きていてくれることが必要だ」と強調。要衝の陥落はもはや時間の問題で、投降を認めてもアゾフ大隊に同情的な国民の理解を得られると踏んだとみられる」
(時事5月18日)

また、ウクライナのメディアはこのように述べています。

「守備隊「マリウポリ」は任務を果たし、命を救うよう命じられた - 参謀本部
ウクライナ軍の参謀総長は、守備隊「マリウポリ」が割り当てられた戦闘任務を果たし、部隊の司令官は人員の命を救うよう命じられたと述べた。
参謀本部:「守備隊「マリウポリ」は割り当てられた戦闘任務を果たしました。軍最高司令部はアゾフスタールに駐留する部隊の司令官に、守備隊員の命を救うよう命じた。封鎖されたウクライナの守備隊を救出する作戦が進行中である。

参謀本部は、月曜日に重傷を負った53人の軍人の避難が始まったと報告した。彼らはノヴォアゾフスク(CADR「ドネツク人民共和補国」)の領土)の医療機関に連れて行かれた。
人道的回廊を通って別の211人の防衛隊員がイェレニフカに避難し、その後、交換手続きを通じてウクライナが支配する地域に戻った」と報告書は述べている。
アゾフスタルの領土に残っている守備隊を救出するための措置が、今も継続されていることに留意されたい。
一方、アンナ・マルヤール国防副大臣は、国防省、ウクライナ国軍、国家警備隊と共に、国境警備隊はアゾフスタル鉄鋼工場の領土に封鎖されたマリウポリの防衛隊を救出する作戦を開始したと述べた」
(ウクライナ・プラウダ5月17日)
Гарнизон “Мариуполь” выполнил задачу, приказано сохранить жизнь – Генштаб

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守備隊「マリウポリ」は命じた任務を果たしました - 参謀本部|ウクライナ・プラウダ (pravda.com.ua)

すでにアゾフスタル製鉄所に閉じ込められていた民間人は退避を完了しており、今回一刻も早く治療を受ける必要があった守備隊の重傷者56人もノボアゾフスク(ロシア軍占領下)にある病院に移送されました。
また、さらに211人の兵士がドネツク州の同じくロシア軍,占領下のオレニフカに移動しました。
ウクライナ参謀本部は、守備隊員は捕虜交換手続きを経てウクライナ軍支配地域に戻ると言っていますが、それにロシア側が応じるかは不明です。

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時事

両国間で合意が成立したのは、アゾフスタル製鉄所に閉じ込められていた守備隊の推定500~-600人の負傷者の退避のみで、負傷していない将兵の扱いはよくわかりません。
おそらくオレニフカに移動した211人の兵士というのも、重傷者以外の負傷者を指していると考えられており、参謀本部が「兵士の命を救え」という言い方をしているところから、いまだたぶん半数以上の兵士たちがアゾフスタル製鉄所地下に残っていると考えられます。
これら残留していると思われる兵士らの一部は、製鉄所内の瓦礫に埋まったままになっているとも考えられ、救出作業を急がねばなりません。

最大の問題は、相手が国際法無視の常連であるロシア軍であることです。
ロシアは、守備隊主力のアゾフ連隊をネオナチのテロリストで尋問すると言っています。
これは非常に危険な言い方で、ロシアは戦時捕虜の扱いを定めたジュネーブ条約の遵守義務ではないと言っているわけです。

投降したアゾフ連隊の兵士に対しての拷問、銃殺、強制収容所への流刑が心配されます。

「ウクライナ側は今後、ロシア兵の捕虜と交換を行いたい考えだが、ロシアの下院議長は、製鉄所の兵士について、「戦争犯罪人であり、裁判にかけるべき」として、否定的な考えを示したほか、ロシア捜査委員会は、刑事事件の一環として、兵士を尋問する予定だとしている。
またロシア検察庁は、ウクライナのアゾフ大隊を「テロ組織」と認定するよう最高裁に要請するなど、兵士らの帰還は厳しい状況」
(FNN5月18日)

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ウクライナプラウダ

日本のメディアは単純に「降伏した」「敗北」という表現を使っていますが、ウクライナ参謀本部はこのような言い方をしていることに注意してください。

「マリウポリを防衛した兵士のお陰で予備役編成や国際社会からの支援を受けとる貴重な時間を得ることが出来た。彼らは司令部が要求した全ての任務を達成したが我々にアゾフスタルの封鎖を解く力はない。今重要なのは彼らの命を救うことだ」

これは単に負け惜しみで言っているのではなく、マウリポリ守備隊に与えられた命令が南東部に侵攻してきたロシア軍1万数千をを一日でも長く足止めし東部戦線に合流させないこと、そして今欧米、特に米国から急送されているM777・155ミリ榴弾砲を前線に届ける貴重な時間を稼ぎ出すことが任務であったと思われます。

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BBC

BBCはアゾフスタル要塞で戦い続ける守備隊をこう評しました。
「現代のカレー守備隊だ。とてつもなく勇敢だが、恐ろしい」
カレー守備隊とはこのような意味です。

「第二次世界大戦初期の1940年5月、フランスのダンケルクから撤退する英仏軍を助けるために、近くのカレーでドイツ軍の攻撃を英・仏・ベルギーの混合部隊が犠牲を覚悟で戦った「カレーの包囲戦」のことだ。
この時ウィンストン・チャーチル英首相は、カレーの英国軍司令官にこう打電したという。
「貴官らが存続している1時間、1時間がBEF(英海外派遣軍)にとって最大の支援になっている。したがって政府は貴官らに引き続き戦闘を継続してもらうことを決定した。貴官らの置かれた崇高な立場に限りない尊敬の念を送るものである。撤退は行わない(くりかえす「行わない」)。また撤退のための船舶はドーバーへ引き返させることとした」
この命令に従ってカレーの混合部隊がドイツの装甲師団の猛攻に耐えている間に、ダンケルクから33万人の英国とフランス兵が撤退することができたが、混合部隊は戦死者300人、負傷者200人を出し3500人が捕虜となった」
(木村太郎4月25日)

その成果の一端は、5月8日にドネツ川を渡河しようとした1個BTG(ロシア軍の戦術単位)を砲撃によって全滅に追い込んだことにも見てとれます。
この時、驚異的な精度でロシア軍の頭上に降り注いだのが、この米国製の榴弾だったようです。
今後東部戦線では、正規軍同士の会戦型戦闘が行われる可能性が高く、榴弾砲、装甲車両、戦車などの絶対数が足りないウクラナ軍はそれを送って貰う時間を稼ぎだす必要がありました。 

この「捨て石」となったのがマリウポリ守備隊です。
彼らの合い言葉は、「我々は捨て石だが、犬死にではない」だったと聞きます。
アゾフスタル製鉄所とそこて戦った兵士らは、後々の世まで記憶に残されるべきことでしょう。

ところで、ロシア軍は支配地域において選別作業を行っており、このマリウポリにおいても「フィルターキャンプ」で選別し、「好ましくない人間」は矯正収容所に送り込むことを続けています。

「アンドリュ・シチェンコ・マリウポリ市長顧問は11日、マリウポリ市民の内いわゆる「フィルター・キャンプ」におけるロシア軍の厳重審査を通過しなかった「好ましくない」人物最大3000人が、ドネツィク州の被占領下オレニウカ町の元矯正収容所にて拘束されていると伝えた。
アンドリュシチェンコ氏は、「フィルタリングを通過しなかった者、マリウポリ近郊のフィルター・キャンプで『好ましくない』と認定された者は皆、ドネツィク州オレニウカ町(2014年から被占領下)の元第52矯正収容所へと送られている。(中略)拘束環境はこうだ。牢屋や満杯。計画時の収容所の限界収容数は850人だったが、目撃者によれば、現在そこには最大3000人が拘束されている。主にマリウポリ市とマリウポリ地区からの者だ」と伝えた。
同氏はさらに、オレニウカのその収容所はウクライナの軍人用ではなく、軍人の親族、元治安機関職員、活動家、記者や、愛国的なタトゥーをしている、などのロシア側が単に疑いを抱いただけの人物が拘束されていると説明した。拘束期間は最短で36日だという」
(ウクライナ・フォーラム5月17日)
マリウポリ市当局、露軍の「審査」を通過しなかった約3000人の収容先を報告 (ukrinform.jp)

この矯正収容所はの条件は非人道的で、すし詰めされて、横になることもできない状況のようです。

「加えて同氏は、「場所は人でいっぱいであり、横になることもできない。立ち続けるか、うずくまらねばならない。1日の水は、ボトル1本を10人で分ける。食べ物は毎日は出ない。トイレは1日1回。外へ出歩くことは認められていない。
何時間もの尋問、拷問、殺害の脅しと、協力の強制が伴う。運が良ければ、36日で解放されるが、何らかの紙に署名を強制される。どんな紙かは、目撃者は説明できていない。ただし、『協力』に関するものだと推測できる」と説明した」
(ウクライナフォーラム前掲)

ロシアの尋問の後に、相当数の市民が「行方不明」となっています。

シチェンコ市長は「ロシアが欧州の中心地に作り出した21世紀の真の強制収容所だ」と述べていますが、国際機関はマリウポリなどのロシア軍占領地に対して早急に実態調査をし、住民保護をするべきです。

 

 

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アゾフスタリ製鉄所地下の民間人たち。子どもが多数含まれていた。
ウクライナに平和と独立を

 

 

2022年5月18日 (水)

デニー知事建議書を出す

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返還50周年について私がなにも書かなかったので、いくつかのメールとコメントををいただきました。
なんでお前は、書かないのかと。
なぜ書きたくなかったのかといえば、この式典がまるで「偽善の祭典」のように見えたからです。

結論から言いましょう。
ウクライナは米欧の力を渇望して得られませんでした。
仮にNATO参加が認められていれば、ロシアは侵略するの止めたことでしょう。
武器支援がもっと早い戦争前に行われていたならば、ここまで悲惨なことにはならなかったはずです。
ウクライナに仮に米軍基地があれば、きわめて強い抑止の力になったはずでした。

また外交の力だけで侵略を防げるという説が流布しているようですが、妄想にすぎません。
ゼレンスキーは、むしろロシアと融和して切りぬけようとしました。
そのために米国からもたらされるロシアの侵略準備を信じてはいなかったようです。
これが緒戦のウクライナ軍の失敗につながります。
元空将の織田邦男氏はこう述べています。

「これはウォロディミル・ゼレンスキー大統領の責任が大きい。ゼレンスキー氏は、2021年11月から米国がリークする貴重なロシア侵攻情報を信じようとしなかった。
2月14日の時点でも「(米国は)誇張しすぎ」「すべての問題に交渉のみで対処する」と述べていた。予備役動員を命じたのも侵攻2日前である。
レズニコフ国防大臣は「侵攻寸前との発言は不適切」とまで言っていた。トップがこういう状況だから、空軍も即応態勢を上げないまま、ロシアの奇襲を受けた」
(織田邦男5月16日)
空自元最高幹部が解説、ロシアが制空権を取れない驚くべき理由 今後の戦況はウクライナ西部での制空権がカギ握る| JBpress 

外交の基礎は情報力です。
ところが日本は情報機関さえもたず、スパイ防止法すらない情報軽視国家ですから、これで外交で侵略を阻止できるはずもありません。
日本がウクライナにならないためには、米国の力が必須で必要なのです。
まだわからないのでしょうか、ウクライナは「9条の国」、専守防衛の国だから攻撃を受けたのです。
ウクライナ戦争ほど、私たち日本人に対して、どうしてお前はそう眠れるのだ、と問うているものはありませんでした。
その意味で、ウクライナ戦争は戦後日本人の価値観の根幹につながるものだったのです。

ところがここに真空地帯があります。
それは沖縄です。

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「平和で豊かな沖縄」へ/デニー知事、新たな建議書/辺野古新基地断念求める (jcp.or.jp)

この50周年に寄せた県の建議書なるものがあります。
地方自治体が政府に「建議書」を出すということ自体、かつての1971年、琉球政府屋良首席の沖縄返還を要望する「建議書」に、自らを重ねたのでしょう。

「沖縄の本土復帰を翌年に控えた1971年11月17日、琉球政府(後の沖縄県)トップの屋良朝苗(やらちょうびょう)主席は米国統治下にあった沖縄から東京へと向かっていた。その手にあったのは復帰に対する要望をまとめた132ページの「建議書」。そこには、住民約9万4000人(推計)が犠牲となった45年の沖縄戦を経て、米国統治による人権抑圧に苦しんできた沖縄の人たちが求める復帰の「理想」がつづられていた」
(2021年11月23日)
「へいりの様に踏みにじられた」建議書 沖縄復帰50年、変わらぬ願い | 毎日新聞 (mainichi.jp)

現県知事の建議書は、このように述べています。 

 「沖縄県としては、軍事力の増強による抑止力の強化がかえって地域の緊張を高め、意図しない形で発生した武力衝突等がエスカレートすることにより本格的な軍事紛争に繋がる事態となることを懸念しており、ましてや米軍基地が集中しているがゆえに沖縄が攻撃目標とされるような事態は決してあってはならないと考えております。 
本年2月に勃発したロシアによるウクライナ侵攻で、ウクライナの国民に甚大な犠牲が生じ、美しい街並みや空港、道路等の重要なインフラが徹底的に破壊されていく状況は、77年前の沖縄における住民を巻き込んだ悲惨な地上戦の記憶を呼び起こすものであり、これが過去のことではなく、今、現実に起こっている事態であることに例えようのない衝撃を受けるとともに、沖縄を取り巻くアジア太平洋地域の今後の情勢等について重大な危機感を持たざるを得ません」

おいおい逆でしょうが。
本気でこんなことを言っているとすれば、なにをこの2か月間見てきたのか。
ウクライナは「米軍基地が集中しているがゆえに攻撃目標とされた」と本気で思っていたとすれば、そうとうにレアな人です。
まったく逆に、ロシアはウクライナに「米軍基地がなかった」から攻撃できたのです。
NATO加盟を憲法にまで書き込んで強く求めていたのはどこの国だったか、白黒を逆に言ってはいけない。

NATOとは、ロシアを主敵と定めた米欧軍事同盟のことです。
とうぜんNATOに加盟すれば「米軍基地のある平和な国」となることが可能だから、ウクライナは加盟を切望したのではありませんか。

「トラップ」という軍事・外交上の概念をご存じでしょうか。
これは文字どおり罠のことで、その国、ないしは地域に踏み込むと自動的にその国以外を参戦させてしまうが故に自重するという抑止の仕組みのことです。
典型的な例としては、かつて38度線とソウルの間に配置されていた米陸軍第2師団がそうでした。
北朝鮮が南侵しようとすれば、かならず米軍基地にぶつかり、世界最強の米国を相手にせざるをえなくなる、だから南侵は出来ないというわけです。

沖縄の米軍基地も同じ「トラップ」機能を持たされていました。
米国からすれば、なにもこんな中国の弾道ミサイルの射程距離内に基地を置く必要はないのです。
のほほんとミサイルが届かない安全圏内のグアムで昼寝していればいい。
ところが危険を承知で、沖縄にまで基地を置き、有事即応部隊の海兵隊とアジア最大の空軍基地まで配備しているのは、沖縄を攻撃すれば米軍を相手にせざるをえなくなる「トラップ」役を自ら買ってでているともいえるのです。
したがって常に米国内でもそんな危険な場所から引っ込めろという声がでるのですが、頑としてそれを拒否して沖縄に駐留しているのは信頼の証だからです。
米軍が沖縄から出て行ければ、日本の軍事力では支えきらずに、東シナ海はたちまち中国の内海となり、沖縄は赤い海に浮く孤島となるでしょう。

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フィンランド、NATO加盟申請に向け始動-スウェーデンも追随か - Bloomberg

フィンランドやスウエーデンのケースを考えてみましょう。
この北欧二国は、「軍事紛争に繋がる」危険をもった米軍基地を追放して、「基地のない平和な国」を作るためにNATO加盟を急いでいるのでしょうか。
逆です。北欧二国は、米軍基地に来るように要請しているのです。
この両国共に戦後左翼の憧れの「永世中立国」だったはずですが、なぜ中立政策を廃棄してNATO加盟を決定したのか。
1国だけの力には限界があり、侵略の意図をもったならず者国家に侵略されるからです。
まるでウクライナのように。
だから自国の軍事予算を増額し、徴兵制を復活させ、集団安保体制を選択したのです。

ちなみに、この決定をした北欧2国の政権は社会民主主義政党です。
スウエーデンなどこれほど左の政権が生まれたのは初めてだとまでいわれましたが、彼ら北欧リベラル政権が選んだ安全保障政策は軍事予算増額と徴兵制,そしてNATO加盟でした。
素晴らしいリアリズムです。 日本なら極右扱いされるかもしれませんね。
こういうイデオロギーに曇らない安全保障政策を持っているから、左翼でも政権を取れるのです。
デニー知事が沖縄戦と重ねてウクライナを見ることまでは正しいのですから、もう少しイデオロギーに曇らない眼でみたらいかがでしょうか。


 

2022年5月17日 (火)

ウクライナ戦争は世界食料危機をもたらす

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今回のウクライナ戦争は、世界の食糧供給にメガトン級の衝撃を与えました。
私たち日本人にはまだまだそのほんとう の衝撃波は届いていないのですが、最初の波は既に中東とアフリカを襲っています。
理由はひとつで、ウクライナ戦争の結果、小麦、トウモロコシ、ひまわり油の供給が激減してしまったからです。

世界の食料価格は、過去最高のペースで上昇し続けています。

「世界の食料価格は2月に過去最高に達した。ロシアのウクライナ侵攻で農産物貿易に混乱が生じており、食料コストは今後さらに上昇する公算が大きい。  国連食糧農業機関(FAO)が算出する世界食料価格指数は侵攻前ですでに2011年に記録したピークの近くにあった。侵攻後、世界的な穀倉地帯として知られる黒海地域からの輸出は混乱に陥った。穀物や植物油の価格は過去最高もしくは数年ぶり高値に跳ね上がり、消費者と政府に一層のインフレ圧力をもたらしている。飢餓が世界的に悪化する恐れもある」
(ブルームバーク3月5日)

下図はFAO(国連世界食糧機構)が出した世界市場の食料価格指数ですが、2月に4%近く上昇しました。
既にウクライナ戦争前から食品コストは2020年半ば以降で50%余り上昇していたところに、今回のウクライナ戦争が追い打ちをかけた形になりました。
食品価格上昇は小麦だけには止まらず、ウクライナが世界最大のひまわり油生産地だったために、植物油の価格までもが高騰した影響が大きいようです。

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https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-03-04/R88FNZDWX2PT01

原因はロシアが世界第2位のウクライナの穀物輸出を、海上封鎖によって止めてしまったからです。
そして穀物輸出第3位が当の原因を作ったロシアです。
下図をご覧いただくと、米国はブッチギリですから別にするとして、二位三位が今回の被侵略国と侵略国だということが判ると思います。

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朝日gloveプラス

ロシアとウクライナは欧州を支える穀倉地帯です。
ふたつの国が輸出している食糧は、世界で消費されるカロリーの実に12%を占め(国際食糧政策研究所による)、世界の穀物市場において小麦の約30%、トウモロコシの約20%、ひまわり油の80%以上の原産国は、ロシアとウクライナです。

この両国がウクライナ戦争で大打撃を被ってしまいました。
食糧経済の専門家の比喩を使えば、米国地図からアイオワ州とイリノイ州の二大穀倉地帯がいきなり消滅したようなものだそうです。
下図はウクライナのトウモロコシ生産地域の分布図で、2022年3月末時点のロシアの支配地域、侵攻地域(点の分布)を重ねたものです。

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https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-04-05/R9VC65T0G1LF01

「ウクライナの農場地帯では、秋の収穫期から倉庫に蓄えられ出荷を待つトウモロコシが合計1500万トンに上る。
その半分程度は外国に輸出されるはずだったが、買い手への引き渡しは難しさを増している。およそ1200億ドル(約14兆7500億円)の規模を持つ世界の穀物取引で、ウクライナとロシアは合わせて約4分の1を占める。両国からの供給の乱れは、すでに問題化していたサプライチェーンの障害や運賃の高騰、異常気象などと相まって、世界が食糧難に陥るとの見通しを強めている」
(ブルームバーク4月6日)

ウクライナ南部のアゾフ海の輸出港がロシア軍に押えられ、かろじて占領を免れたオデーサですら沖合をロシア海軍に封鎖されているために使用不可能な状態です。
穀物輸送船を運営する船会社は、安全のためにアゾフ海沿岸の港には入港することを拒んでいます。
これは仮にこの海上封鎖が解けても、ロシアが敷設した機雷などの危険があるために、安全を確認するために相当の時間を要するはずです。
これによって昨年秋に収穫されて保管されていた小麦などの出荷が、不可能となりました。

下写真はマリウポリ港の穀物積み出しの風景です。
いまだにウクライナ軍が頑強な抵抗を続けるアゾフスタル製鉄所のすぐ横にあり、現時点ではロシア軍が支配しています。

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A cargo ship at the Port of Mariupol, loaded with grain destined for Turkey, in the month before Russia’s invasion of Ukraine
ブルームバーク

鉄道による内陸からの輸出ルートもあるにはありますが、ウクライナの鉄路はソ連式の広軌なために、積みかえねばなりません。

そしてさらに、この保管してある穀物は、ロシア軍が生活インフラを集中的に破壊しまくったために電気が供給できず、貯蔵庫内の換気システムや温度調節システムがダウンしている状況です。
これからの夏の高温に向けて品質が非常に不安です。
いったん腐敗やカビが部分的にでも始まると、瞬く間にサイロ全体に及ぶからです。
下写真は、2018年に撮影されたウクライナ・ユージヌイの穀物ターミナル倉庫内のトウモロコシですが、このような大規模穀物貯蔵施設は電気を切られた場合、その維持が死活問題となります。

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ブルームバーク

また国土が戦場となってしまったために、畑で働く農家や農業労働者が圧倒的に不足しています。
労働力だけではなく、トラクターやコンバインの燃料も不足しているために播種や刈り取りができません。

肥料も世界最大のカリ肥料輸出国が、こともあろうにロシアのために、供給がストップして、今後も見通せない状況です。
全世界のカリウム生産の20%を占めるロシアの輸出が困難になれば、価格がさらに上昇することは間違いありません。
この肥料の価格高騰の影響は、日本も含む世界中のあらゆる農業地域に及ぶでしょう。

ウクライナ農業としては、ここでどのように判断するのか、頭を悩ませていることでしょう。

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日経

一方、穀物輸出第3位ロシアも散々です。
自業自得で同情するに値しませんが、ロシア船籍の船舶はヨーロッパ各地で入港を禁じられているために禁輸状態です。
ロシアの輸出食糧は、パンの材料となる小麦が占めています。

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朝日globalプラス

穀物輸出は影響が大きいためにまだ制裁対象ではありませんが、欧米の銀行はロシアと関わる貿易業者への融資を渋っています。
欧米諸国の政府に罰金を科されたり、ロイズが保険を渋ったりすることを恐れているからです。
ですから、貿易業者はロシア貿易には近づきたがりません。
つまり貿易業者がいみじくも言うように、ウクライナは「手が届かない」のに対し、ロシアは「手が出せない」状況、というわけです。

一方ウクライナの穀物は小麦とトウモロコシが主力ですが、ウクライナは旧ソ連域内の輸出からEU向け輸出にシフトしています。
せっかくヨーロッパで販路を伸ばしたところで、今回の侵略に合ってしまい、ウクライナの農業生産者は地団駄踏んでいることでしょう。

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朝日globalプラス

そしてこの両国にとって、ヨーロッパに次ぐ販路が、実は中東でした。
世界人口のうち8億人が黒海地域からの小麦に依存しているために、低価格のロシア、ウクライナ産穀物に依存してきた中東や、トルコ、エジプト、アジアの一部の国々の食糧事情を直撃することでしょう。
特に、依存度が高いシリアやレバノンでは、ウクライナ産小麦が半数を占め、その上にひまわり油、大豆までもがウクライナに頼っていました。
このような国はまだまだ多く、これらの国から食糧パニックが開始されるはずです。

 

 

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オレストさんがアゾフスタリでカールシュ・オーケストラの曲「ステファニヤ」を歌っている。

ウクライナに平和と独立を

2022年5月16日 (月)

なぜウクライナで、ロシア軍は穀物を強奪するのか

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ロシア軍はナンでも盗みます。もはや軍隊というより組織窃盗団。
占領した街は、泥棒共の狩場です。
民家に押し入ってカメラや貴金属はあたりまえ、、人気盗品はアイフォーンで、ベラルーシに持ち込んだり、アホウはネットオークションにかけたり。
こんな危ないもの盗んでどーするんだというのが、チョルノービリ(チェリノブイリ)原発から盗んだ放射性物質。

「ウクライナ当局は10日、同国に侵攻したロシア軍が一時占拠したチョルノービリ原子力発電所の研究所から放射性物質を盗み出したと明らかにした。一方、首都キーウ周辺ではこれまでに1200人超の遺体が見つかっており、当局は戦争犯罪について調査していると述べた」
(BBC4月10日)
ロシア軍が放射性物質略奪か、キーウ州では1200人超の遺体 - BBCニュース

かつての大戦末期、ドイツに侵攻したソ連軍の非道ぶりはすさまじく、民家、商店は当たり前、避難民まで餌食にして、残虐非道の極みを尽くしました。

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人類史上最悪…犠牲者3000万人「独ソ戦」で出現した、この世の地獄(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(3/4) (ismedia.jp)

「前線のソ連軍将兵の蛮行も、その残虐さに引けを取るものではなかった。ソ連軍将兵は敵意と復讐心のままに、略奪や暴行を繰り広げたのである。
「ソ連軍の政治教育機関は、そうした行為を抑制するどころか、むしろ煽りました。ソ連軍機関紙『赤い星』にはこのように書かれています。
『もし、あなたがドイツ人一人を殺したら、つぎの一人を殺せ。ドイツ人の死体に勝る楽しみはないのだ』」
やられたらやり返す、そこにあるのは、剥き出しの憎悪だ。ソ連兵青年将校が見た戦場の証言を聞こう。
「女たち、母親やその子たちが、道路の左右に横たわっていた。それぞれの前に、ズボンを下げた兵隊の群れが騒々しく立っていた」「血を流し、意識を失った女たちを一ヵ所に寄せ集めた。そして、わが兵士たちは、子を守ろうとする女たちを撃ち殺した」
(大木毅『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』)

これが先日の「戦勝記念日」に、プーチンがまるで人類の偉業のように讃えた「大祖国戦争」の現実の姿です。
チェチェン、シリア、そしてウクライナ。
いくら時代が替わろうと、近代装備をまとっていようとも、このロシア軍の残虐な中身はまったく変わらないようです。

このウクライナ戦争の強奪が悪質なのは、それが組織的犯罪であることです。
農家からは大型ハーベスターを盗み、さらには小麦、向日葵の種などの農産品を盗んだそうです。
よその国の兵隊も補給がないと裏庭から鶏をくすねて来る、今日のパンに焼くために小麦を盗む、といった非行をはたらきますが、ロシア軍が違うのは軍上層部がからんだ組織強奪犯罪であること、そしてその非行が罰せられないことです。
いやそれどころか司令部から推奨され、ブチャ虐殺に手を下した部隊など「親衛」という名誉称号すら事件後に得ているほどです。

ところで考えてみればわかりますが、一口に70万トンの穀物といっても大変な量です。
国連WFP(世界食糧計画」が、2014年に南スーダンで実施した食糧支援計画は20万トン規模でしたが、備蓄のためのサイロを作り、送り出し拠点を作り、膨大な数のトラックを準備し、道路を整備し、中継基地を作ってやりきったようです。
2国間をつなぐ穀物 | World Food Programme (wfp.org)

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WFP

今回、ウクライナから略奪したという穀物は戦場を運ぶわけですから、とうぜん巨大なコンボイを作って警備部隊を張り付けて運搬したのでしょうが、武器弾薬、兵士の食糧まで枯渇しているといわれるロシア軍に、そんなことをする余力がよくあったものです。
こんなことをするためには、方面軍司令部からの命令がなければ出来ないことてす。

さすがに見かねた国連が警告を発しました。

「ジュネーブ共同】国連食糧農業機関(FAO)当局者は6日の記者会見で、ロシア軍が侵攻したウクライナから約70万トンの穀物を略奪した可能性を指摘した。「トラックで穀物をロシアに運び入れている事例を確認している」と述べ、トラクターなどの「農業機械も盗んでいる」とした。
 またロシア軍による海上封鎖で黒海沿岸の港湾施設が使用できないことにより、船舶を利用した穀物輸出ができない状態になっていると指摘。世界的な穀物の供給悪化と価格高騰に拍車がかかることに懸念を示した」
(5月3日共同)
ttps://news.yahoo.co.jp/articles/38ae925d4d50dcc9afa38e3e948d619554af3b3a

まぁ、FAO如きがなにを言おうと知ったこっちゃないのがロシアですから、今後も占領が続く限り盗みまくるでしょう。
北部ハルキウでも大規模な穀物強奪が起きたという報道がありますが、最大の被害例は南部のサポリージャです。   

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読売

穀物輸送の中継地となったと思われるヘルソン州の村からも、穀物1500トンがクリミア半島に持ち去られています。
これがただの兵隊の出来心ではないのは、現地消費しているのではなく流通させていることです。
どうやらロシア軍は盗んだ小麦をクリミア半島に持ちこんでいるようです。
上図で、強奪が発覚したサポリージャとクリミアを制するヘルソン、そしてクリミア半島の位置関係をご確認下さい。
サポリージャ→ヘルソン→クリミアという占領地ルートを使ったのでしょう。

「ウクライナ国防省は)ロシアのトラックの車列がロシア軍の保護の下、ザポリージャ州エネルホダルを出発したと主張。車列の最終的な行き先はクリミア半島だと指摘した」
(CNN5月11日)

おそらくウクライナはドローンで車列を追跡したのでしょうが、それがクリミアの彼らが「領土」と主張する地域に運びこまれているのが判ったようです。
つまりこれはただの強奪ではなく、「占領地軍政」の一環であり、彼らの「戦争経済」の一部なのです。

「米政府系「ラジオ自由」によると、ロシア軍はヘルソン州を3月に制圧すると穀物や野菜を強制的に取り立て、2014年に併合したクリミア半島に運び出した。ヘルソンの農作物をクリミアの商店に格安で流通させ、ロシア側のインフレを抑える狙いだという。
 ロシアがクリミア半島に創設した「クリミア共和国」政府は「農作物の安定供給は、ヘルソンの人々との経済協力のたまもの」と主張。ウクライナメディアによると、ロシア側はヘルソン州で通貨としてロシア・ルーブルを広めており、農作物収奪を通じてヘルソン州とクリミアを経済的に一体化させる思惑もある。
 一方、ロシア中部クラスノヤルスク地方の議会は4月27日、シベリアの食糧不足解決に向け、ヘルソン産の農作物を収用するとウェブ上で発表したが、ウクライナで批判が高まった後、「サイバー攻撃を受けたことによる偽情報」として取り消した。
 ウクライナ・ベラルーシ系の有力メディア「ゼルカロ」は、ロシア政府による食糧収奪は、スターリン体制が1930年代にウクライナで起こした大飢饉を思わせると論評。「ウクライナからパンを奪う行為は惨劇を生む」と訴えた」
(東京 2022年5月1日)

送り先がクリミア半島であることに注目してください。
2014年の第1次ウクライナ侵略の際に簒奪されたクリミア半島は、農業不毛の土地でした。
クリミアは掘っても海水まじりの水しか出ないため、淡水需要の85%までをウクライナのヘルソンから送られて生きていました。
併合前までクリミア半島には、本土から北クリミア運河を通じて淡水が供給されていましたが、今は止められています。

併合後は、半島内に23カ所ある貯水池でかろじて淡水需要をまかなってきましたが、一昨年は降雨・降雪量が少なく、貯水量が危機的水準です。
困ったロシアは、地質調査会社が淡水を求めて、巨額の投資をしてアゾフ海沿岸海底の探査作業にまで手を出しているほどです。
当然、水がないような地域で農業が盛んなはずもなく、食料、水、そして電気までもがロシアから送られてきました。
おそらく黒海の制海権を握る半島突端のセバストポリ軍港がなければ、ロシアはこんな不毛の地に触手を伸ばさなかったでしょう。
だから、クリミア半島付け根にあって死活を握る要衝ヘルソンを、ロシア軍は喉から手がでるほど欲しいのです。
今、住民投票をして、ドネツクなどのように「ヘ人共」を作るべく動いていますが、ここをなにがなんでもロシアの領土として確定させてしまいたいようです。
もちろん先日見たように、国際法ではそんなものは認められませんが。

ところで、もうひとつの盗まれたウクライナ産穀物の行く先は、どうやらシリアのようです。

「(CNN) ウクライナ国防省の情報部門は11日までに、ロシア軍が占領地域で盗んだ穀物はすでに国外に送られているとの見方を示した。
同部門は「ウクライナから盗まれた穀物の大部分は、地中海を進むロシア船籍の乾貨物船の上にある」と主張した。行き先として最も可能性が高いのはシリアで、そこから他の中東諸国に密輸される可能性があるとしている。
同部門はまた、ロシアが引き続き、盗んだ食料をロシア連邦の領土や占領下のクリミア半島に運んでいるとの見方も示した」
(CNN5月11日)

ロシアがアゾフ海沿岸の占領を企む最大の理由は、ウクライナを内陸国にしてしまうことです。
ウクライナは、この南部地域に下図のように、主要な港であるマリウポリ、ベルジャーンシク、オデーサなどの積み出し港を持っています。

米軍は戦争勃発時から、ロシアはアゾフ海沿岸を占領するだろうと予測していました。
米全欧陸軍司令官だったベン・ホッジスはこう述べています。

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日経

「海岸線に攻撃を仕掛けて、ウクライナによる黒海やアゾフ海へのアクセスを遮断すればウクライナ経済に大打撃を与えられる。ウクライナ経済は農産品や鉄鉱石などの輸出に依存しているからだ。アゾフ海の港湾都市であるマリウポリやベルジャーンシク、黒海のオデッサに民間船がアクセスできなければウクライナ経済は崩壊する。それがロシアによる戦略的計画の一部だ」
(日経2022年2月12日)

現時点でオデーサを除き、ロシア軍は主要積み出し港すべてを押えています。
世界の穀物輸出量のうちロシア産とウクライナ産を合わせると小麦が約3割、トウモロコシは約2割を占めますが、これらの積み出し港が「ロシアの港」となり、アゾフ海が「ロシアの内海」と化した場合、穀物の海外輸出を国家財源とするウクライナは大打撃を被ります。
ポーランド経由の陸路もあるにはありますが、海運は一気に大量の穀物輸送ができるので、絶対に確保せねばなりません。

ウクライナ産穀物は輸出が不可能になっています。
ウクライナとロシアは、戦争前から世界有数の穀物生産国であり、そのうえその輸出先はヨーロッパより中東に多く輸出される特徴がありました。
これがウクライナの港をロシアが封鎖してしまったために輸出量が激減し、真っ先に干上がったのが中東、特に農業生産力が低いロシアの盟友であるシリアだったというわけです。
シリアだけではなく、中東や北アフリカ諸国を中心に軒並み食糧危機や物価高騰が爆発しています。
ロシアは世界規模の食料危機にまで火をつけてしまったのです。
ウクライナ戦争が与える世界食糧需給については次回に続けます。

 

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ロシア軍が壊した家にコウノトリが戻って来た、とウクライナの人々は喜んでいます。
ウクライナに平和と独立を

 

 

2022年5月15日 (日)

日曜写真館 つつましき夏のはじめや鉄線花

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花びらにアテネをのせて鉄線花 平井照敏

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鉄線の名は汝にこそ吾亦紅 鷹羽狩行

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おのが名を偽らず咲き鉄線花 鷹羽狩行

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鉄線花のむらさき自由自在かな 後藤比奈夫

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挫折後の藍あざやかなクレマチス 佐藤鬼房

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好きな花鉄線といひ案内する 高木晴子

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鉄線を愛しつゞけて為人 星野立子

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さゆらぎもせぬままに落ち鉄線花  鷹羽狩行

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鉄線花に紫衣の紫憑きにけり 後藤比奈夫

 

 

2022年5月14日 (土)

英国は北欧二国に核の傘を提供する

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迫りくるロシアの脅威を前にして、フィンランドとスウエーデンがNATO加盟の方向で揃いました。
NATO側にも特に大きな反対がないようなら、早ければ6月中に正式加盟となります。
とはいえ、学級委員会体質が抜けないNATOはスッタモンダが定番ですので1年くらいかかるかもしれません。
このブランクを埋めようというのが、ボリス・ジョンソンの北欧2国に対する安全保障協定の合意です。
この素早さがポリス外交の真骨頂ですが、これはウクライナ侵攻を阻止できなかったということに対する反省から生まれているのでしょう。

「イギリスは11日、スウェーデン、フィンランドの両国と安全保障協定に合意した。いずれかの国が攻撃を受けた場合、支援を行うという内容。
イギリスのボリス・ジョンソン首相は両国を訪れ、合意文書に署名した。両国をめぐっては、北大西洋条約機構(NATO)への加盟に関する議論が起きている。
協定には、イギリスが危機に置かれた際、フィンランドとスウェーデンが支援することも明記されている。
ただ、この協定は法的または自動的な安全保障に関するものではなく、要請があればイギリスが支援に向かうことを政治的に宣言するという位置づけだ
」(BBC5月12日)
英国、フィンランド・スウェーデンと安全保障強化で合意 - BBCニュース

要点を整理してみます。
ポイントの第1は、この北欧2国との安保協定が双務的なものだということです。
つまりいずれかの国が攻撃を受けた場合、相互に支援を行うという内容で、これは日米安保が安保法制で半歩前進したとはいえ片務的であることと対照的です。
わが国はせいぜいが、米艦艇を海自が守る程度のことしかできないのに対して、北欧2国は相互安全保障協定(mutual security agreements)であって、北欧2国にも英国防衛の義務を持たせています。
ちなみに、今回のagreementsは「協定」とも「合意」とも和訳します。合意のほうが柔らかい印象ですが、原文では同じです。

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英首相、スウェーデンとの安保合意文書に署名 - イザ! (iza.ne.jp)

第2に、これはNATO第5条のような自動参戦条項をもたず、要請に基づいての相互防衛義務です。

「ただ、この協定は法的または自動的な安全保障に関するものではなく、要請があればイギリスが支援に向かうことを政治的に宣言するという位置づけだ。
ジョンソン氏とスウェーデンのマグダレナ・アンデション首相は、ロシアがウクライナを侵攻している現状において、協力は「いっそう重要」だと述べた。
ジョンソン氏は、「もしスウェーデンが攻撃され、イギリスに支援を求めたら、私たちはそれを提供するだろう」とした。
ロシアがスウェーデンを攻撃した場合、イギリスはどう対応するのか明確にするようBBCが求めると、ジョンソン氏は、今回の協定によって「相手国からの要請があれば支援に向かう」ことになると述べた」
(BBC前掲)

「支援」の中身については英国は明確にしていませんが、それは当然でしょう。
手の内を見せる必要はないし、それはロシアの出方次第だからです。
航空機や陸上の随時派遣から核による反撃までいくとおりもあるからです。

明示されていませんが、とうぜん英国が提供する「安全保障」には核兵器も含まれているはずです。
英国は、SLBM(水中発射弾道ミサイル)を搭載した複数の潜水艦の運用を中心とした核戦力を有しています。

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イギリス最新の原子力潜水艦「アンソン」進水 就役は2022年以降の予定 | 乗りものニュース (trafficnews.jp)

この英海軍戦略原潜は、自国に接した北海、バルト海、フィンランド近辺までパトロールし、常に英国の核の傘にこの北欧2国を置くことになるはずです。
北欧二国にとっては、自国の危機に際して、協定に基づいて英国の核の傘による核抑止を用いることができることになります。
これはNPT条約で合法核保有国の傘を延長したもので、条約非核国のニュークリア・シェアリング政策の亜種かもしれません。

一方、英国にとっては、自国の核の傘を、ヨーロッパ全域の核の傘にまで拡げる最初の一歩となるわけです。
これはフランスからオーストラリアの原潜製造を横取りよろしく持っていった、アングロサクソン同盟の世界戦略と関わりがあるかもしれません。

第3に、この安保協定の位置づけが、ロシア、中国の自由主義陣営への脅威に対抗するためのものであることです。
いうまでもなく、北欧2国のこの行動は、「プーチンの戦争」に触発されたものです。
このウクライナ侵略が明示してしまったのは、戦争は現代でも突如として、かつ理不尽に始まりうる、そしてそれは核の脅迫を伴うという現実でした。
そして米欧は、プーチンの核の脅迫に対してなす術がなかったわけです。

いくらなんでも21世紀の世の中に19世紀のロシア帝国のようなマネはすまい、という常識が見事に覆ったのが今回の事態でした。
ところがヨーロッパ主要国は、ロシアを共通の脅威だとする認識すら薄れていました。
ルトワックが辛辣に評するように「NATOは麻薬」、あるいは安眠できるための睡眠薬と化していたからです。
「ヨーパの盟主」を気取るドイツなど、ロシアに対する警戒感を完全に忘れ、軍備を削り続け、気がつけば陸軍の動く戦車がヒイフーミー、ロシアに対するエネルギー依存度がベッタリ5割以上というていたらくでした。

それをよく現したのが、2022年1月21日の、ドイツ海軍総監のシェーンバッハが、シンクタンクの会合で言ったこの台詞です。
彼は、当時ウクライナ国境に集結する19万のロシア軍の脅威を知りながら、こう言ってのけたのです。

「プーチン氏が本当に求めているのは敬意だ。敬意を払うのは低コスト、いやノーコストだ。彼が本当に要求している、おそらくそれに値する敬意を与えるのは簡単なことだ」と発言した。
クリミア半島は消滅し、二度と戻ってくることはない、これは事実だ」

これがメルケル・ドイツの本音です。
武装解除をするだけでは済まずに、むしろロシアの意向に喜んで忖度していたわけです。

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プーチン大統領とメルケル首相、露国境を横断したウクライナ海軍の艦艇3隻を巡る事案を論議 - 2018年11月27日, Sputnik 日本 (sputniknews.com)

もう一方のNATOの盟主フランスは、会って話せば説得できるとばかりに毎日プーチンに電話を入れたそうですが、プーチンを止めることができなかったばかりか、自由主義陣営の分断に手を貸しただけに終わりました。
マクロンの大統領選のにおける対抗馬のマリー・ルペンに至っては、根からのプーチン好きなうえに、NATO脱退を唱えるのですから外交感覚を疑います。
今回の侵略を見ても日本のヒダリの方々は、「外交力で解決しろ」などと言っていますが、どこまで寝ぼけているのか。

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マクロンがプーチンと対面で会談 ウクライナ問題「向こう数日間が正念場」|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

それはさておき、これら独仏の対応に共通するのは、米国とその盟友英国に対する根深い反感です。
この反米意識は、ファーレフトからファーライトまで共通しているのですから、困ったものです。
しかもトランプはそれを増幅させてしまいました。

一方、米英とファイブアイズの動きは敏速でした。

「イギリスは急遽、対戦車兵器をウクライナに供与し、訓練要員として約100人を派遣。カナダも小規模な特殊部隊をキエフに配備した。両国ともアングロサクソン5カ国のスパイ同盟「ファイブアイズ」のメンバーだ。それに対してドイツは自らの武器供与を拒否した上、バルト三国のエストニアがドイツ製の武器をウクライナに供与することまで許さなかった。
そればかりか対戦車兵器を運ぶイギリスの軍用機はドイツ領空を飛べず、迂回ルートを取らざるを得なかったのだ。
ドイツ政府はロシアを国際金融決済システム(SWIFT)から切り離す金融制裁は欧州にも破壊的な影響を与えるため考えられないと独メディアに説明し、アメリカを激怒させた」
(ニューズウィーク1月23日)
ウクライナ危機で分断される欧州 米と連携強める英 宥和政策の独 独自外交唱える仏|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

米英は、昨年段階から緻密な情報戦をロシアに対して仕掛けていました。
宮家邦彦氏のまとめによれば、このような動きでした。
米国は2014年のクリミア侵攻以来、次はウクライナ全土に対して侵攻するだろうと予測していたようです。
そして自由主義陣営に対して、ロシア軍の動向を膨大な情報から抽出して警報を鳴らし続けていました。

侵攻10か月前の2021年4月には、早くも国防総省報道官はウクライナ国境付近の露軍の規模が拡大と指摘し、翌月5月にはブリンケン国務長官が「ロシアの脅威に懸念」を表明しています。
10月には、国務・国防の両長官がウクライナを直接訪問し、米国の支援を約束しました。
どこよりも早い対応で、11月には国防総省がウクライナ国境付近の露軍の「異常な活動」に再三警告を発し、この時点でウクライナへの軍事顧問派遣や武器など装備品の新たな供与を開始し始めています。
もちろんこの情報構築は、英国情報機関も協力しており、おそらくこの去年11月の時点で、米国と英国はロシアのウクライナ侵攻は時間の問題だと見ていたはずです。

そして軍事援助だけではなく12月にはバイデンが、ロシアが侵攻すれば強力な経済的措置で対応する、と警告しました。
これは後に、「金融の核爆弾」と呼ばれるようなSWIFT規制などで現実のものとなります。

今年に入って1月には、国防総省がロシアがウクライナ侵攻の口実を作る偽旗作戦をすると警告しました。
同月には、大統領報道官も「いつ攻撃が開始されてもおかしくない」とまで言い切っています。
この侵攻間近という情報は、当該国のウクライナはもとよりNATO諸国、日本、中国にも伝えられたといわれています。
驚いた中国は、訪中したプーチンに、侵攻は北京冬季五輪後とパラリンピックの間に済ませてくれと懇願したのかもしれません。
プーチンはショイグのいうとおり、4日間でキエフを落としてみせると豪語したのでしょう。

今年2月時点で、11日にはウクライナ滞在米国人に48時間以内の退避を求め、そして18日にはバイデン自身が、「プーチンは侵攻を決断したと確信している」とまで断言しました。
開戦日まで明確にするというのは異例でしたが、1週間遅れで見事に的中します。
開戦後も、ロシア軍の部隊編成、指揮官名、装備、戦闘能力、補給状況、士気に至るまで詳細な動向を連日発信し続けています。
あらためてアングロサクソンの情報能力の高さに驚嘆します。
昨年、空母クイーンエリザベスが来日し、第2次日英同盟が話題に登りましたが、思えば彼らの有する世界最高水準の情報能力こそが、同盟で得られる最大の贈り物なのかもしれません。

プーチンの誤算は、侵攻のみならず余りに安易に核の脅迫をしてしまったことです。
確かに自由主義陣営はたたらを踏みました。
飛行禁止区域の設定は、当のジョンソンすら拒んだのです。

核を使うぞ、という脅迫はそれほど強烈だったのです。
しかしこの核の脅迫がバラバラだったNATOを団結させてしまったのですから、皮肉なものです。

ロシアの核による脅迫をはねのけるためには、集団安保体制を作り、その中に対抗核戦力を位置づけるというNATOの防衛構想の原点に戻るしかないわけです。
それすらもNATO学級委員会ではなかなか定まらないのだから、英国が個別にハブとなってスポークとなる国々とハブ&スポーク的安保協定を作って「核の傘」を差し伸べていくということです。
当然その主導権は独仏ではなく、英国が握りますが、なにか文句があるんですか、という宣言です。

さっそくロシアが猛反発しているようですが、これにどのように対抗するかが英国の差し伸べた安全保障協定の最初の試金石になります。

 

※今日はほぼ完成した瞬間、PCがフリーズしてパー。なんせうちのPCはWindows7ですぜ(泣き笑い)。
前に故障してPC屋にもちこんだら、若い店員にへぇー、7っすかって言われたというもんです。
買い換えたいんですが、親指キイボードはもう生産停止しているんで、どうにもなりません。
このジサマPCは起きてくれない、年中死んだふり。いきなり怒りだす。
2時間かかった原稿を消されるとショックですわな。(号泣)
気を取り直て全面書き直したら、今度は脱字、誤字のテンコ盛りとなりました。
訂正しまくっています。すいません。

 

 

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ウクライナに平和と独立を

 

2022年5月13日 (金)

ハルキウでロシア軍は国境まで押し戻された

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プーチンが「戦勝記念日」であれほど騒いでいたドネツク地域で、ロシア侵攻軍が国境まで10㎞の地点まで押し返されつつあります。

「ロシアによるウクライナ侵攻で、ウクライナ軍は11日、東部ハリコフ州で攻勢を続けた。
州都ハリコフの東方にあるドネツ川沿いにまで露軍を押し返し、露側の補給路を絶つことを視野に入れつつあるという。ロシア国境から数キロの地点まで露軍を後退させており、ハリコフ方面でのウクライナ側の反攻作戦が成功しつつある。ロイター通信は「戦争の状況が変化した可能性がある」と報じた」
(産経5月12日)
ウクライナ軍 ハリコフ州で攻勢続ける 露軍の補給路遮断も視野に - 産経ニュース (sankei.com)

ロシア軍は北東部ハルキウ(ハリコフ)で数千人規模の地上部隊を展開していますが、ウクライナ軍がロシア軍をハルキウから東に押し戻しています。
ロシア軍はハルキウを制圧し、東部ドンバス地方のウクライナ軍を包囲殲滅する狙いだったとみられていますが、成功するどころか押し返されているようです。
ウクライナ軍はハルキウ州で全面的な反撃を開始しており、いくつかの村落を奪還しボルチャンスクに近郊に迫っているようです。
ただし、ウクライナ軍がボルチャンスクに向かうためには、ドネツ川を渡河する必要があるので渡河できるかが重要になります。
ロシア軍はドネツ川で大損害を蒙ったようです。

ルハーンシク州のセヴェロドネツィクに布陣するウクライナ軍を包囲するためロシア軍は今月8日、ドロニヴカ付近やベロゴロフカ付近でドネツ川の渡河を試みたがウクライナ軍(第80空中機動旅団の砲兵部隊など)に阻止され、50輌の戦車や装甲車輌、渡河機材の大部分を失い大隊全体に深刻な被害(1,000人~1,500人のロシア軍兵士が死亡した可能性があるらしい)を被ったと報じられている。
設置された舟橋が破壊される前にベロゴロフカ付近では「ロシア軍の一部(約80人)が対岸への上陸に成功した」と言われていたが、これもウクライナ軍に殲滅され、生き残ったロシア人は川を泳いで対岸に逃げたらしい」
(航空万能論5月13日)
ロシア軍の渡河作戦は大失敗、生き残ったロシア人も川を泳いで逃げる (grandfleet.info)

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ロシア軍はウクライナ橋を渡ろうとする「大隊全体を失う」|インディペンデント (independent.co.uk)

一方、州都ハルキウ周辺のロシア軍は塹壕を掘って防御陣地を構築して、ウクライナ軍と対峙しています。
また、イジューム方面ではロシア軍が軍を進めて、ウクライナ軍は後退しました。
まさにこちらで押すと、あちらが押し返すというシーソーゲームとなっています。

米国戦争研究所(ISW)はこのようなレボートを出しています。
要約部分だけ抜き出します。

「5月10日のウクライナ戦争戦況
・ウクライナのハルキウ北部での反攻はさらに進み、ロシア国境から10km圏内にまで迫っている可能性がある。
・ベラルーシ当局は、NATOと米国がベラルーシの国境を脅かしていると非難するレトリックをエスカレートさせているが、ベラルーシが戦争に参加する可能性は依然として低いままである。
・イジューム周辺でのロシアの作戦は依然として停滞している。
・ド人共とロシア軍は、マリウポリの廃墟の支配を強化するための取り組みを進めており、軍事装備を生産するための鉄鋼工場の再開を試みていると報じられるなどしている。
・ウクライナ東部のロシア軍はセベロドネツク地区を包囲する試みを続け、ポパスナからドネツク・ルハンスク行政区境まで到達したと報告された。
・ロシア軍とウクライナ軍は、南軸での目立った攻撃は行わなかった」
ロシアの攻撃キャンペーン評価、|5月10日戦争研究所 (understandingwar.org)

要衝のイジュームから州都ハルキウにかけての戦線で激戦が続いていますが、ここでウクライナ軍がロシア軍主力の2万、ないしは3万規模の部隊を包囲できれば戦況は大きくウクライナに傾きます。
ロシア軍もここを決戦場と覚悟したのか、防御陣地を作って守りに入っています。
ただし、ウクライナ軍の手元には、まだ西側の支援武器、特に戦車と装甲車両が充分に届いておらず、決定打に欠ける怨みがあります。

●戦争研究所の5月11日レポート

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ISW
●5月11日のウクライナ戦争戦況
・ロシア軍はセヴェロドネツク-ルビジネ-リシチャンスク地域のウクライナ軍陣地を包囲する努力を続けたが、確認された前進はしなかった。

・ロシア軍は、ポパスナを占領した後、スロビャンスクへの北の高速道路アクセスを確保するために、バフムートへの新たな前進を開始している可能性がある。
・ロシア軍は、西ヘルソン州での地位を固め、ムィコラーイウ州に押し込もうとしている。
・親ロシア派のメディアは、ウクライナ軍がこの重要な町のロシア部隊を遮断するために、イズユムの北40kmで反撃を行っている可能性があると報じたが、ISWは現時点でこれらの報告を確認することはできない。

ところで案の定、ロシア軍内部では指揮統制が崩壊の淵にあるようです。

「(CNN) 米国防総省高官は12日までに、ウクライナへ侵攻したロシア軍兵士や様々な階級の中堅将校内で司令部の進軍命令などを無視する動きを示す情報を入手していることを明らかにした。
中堅将校による命令への順守の拒絶は大隊レベルでも起きているともした。
これらの指揮系統の乱れは親ロシア派武装勢力が拠点を築くウクライナ東部ドンバス地域に配備されたロシア軍内で起きているとしたが、あくまで「仄聞(そくぶん)」段階の情報ともつけ加えた。
将校は命令に応じることを拒否、あるいは将校としての職務として当然視される命令への即座の対応を見せていないとした」
(CNN5月12日)
ウクライナ侵攻のロシア軍内で「命令無視」の動き、米国防総省高官(CNN.co.jp) - Yahoo!ニュース

そりゃあ、わけのわからない「プーチンの戦争」で部下を死なせたくないし、自分も死にたくないですよね。
特に下級指揮官は、陸上戦闘で下手な指揮をとって部下を沢山死なせると、弾が後ろから飛んでくるというのは古今東西よくあることです。
ベトナム戦争など、「大尉の墓場」なんて言われた時期があったそうです。
大尉は前線指揮官なので、狙撃兵らに真っ先に狙われるし、部下からも混戦の時に狙われたようです。
部下に撃たれて死にたくないから、指揮官は命令をサボタージュします。

元々ロシア軍は軍規が厳しいとはいえない軍隊でした。
対独戦におけるロシア兵の略奪・暴行のひどさは有名で、ドイツ人をして蛮族の侵入とまで言わしめたものでした。
また終戦後の満州引き上げにおいても、ロシア兵の日本人民間人への凄惨なまでの暴虐はいまでも語り継がれているほどです。
これはソ連崩壊時には全軍を覆い尽くす軍規の崩壊として現れました。

当時のロシア軍を取材した菊地征男氏はこのように述べています。

「軍事ジャーナリストの菊池征男氏は90年代に2回、ロシア軍の取材に成功した。その際、軍の内部で風紀が荒みきっているのを間近にしたという。
「軍律が緩んでいるというレベルの状況ではありませんでした。軍律が存在しないかのようなデタラメぶりで、あんな酷い軍隊は初めて見ました。
例えば、ウラジオストクの原潜を取材した時のことです。当時はソ連崩壊の直後で、ロシア海軍は水兵に満足な給与を払っていませんでした。住居を提供することもできず、水兵は潜水艦で寝泊まりしていました。そして勤務中でも、真っ昼間からウオツカをあおり、酔っ払っていたのです」
(デイリー新潮4月7日)
ロシア軍が残虐行為を行う単純な理由 専門家が証言する「緩みきったロシア兵」の振る舞い(デイリー新潮) - Yahoo!ニュース

ロシア軍が支配した地域に必ず見られる虐殺・レイプ・略奪、そしてドンチャ騒ぎをした酒宴の跡は、ロシア軍がいかなる軍隊なのか如実に物語っています。

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WSJ

「ロシア兵は子ども向け施設を占拠し、その入り口に塹壕(ざんごう)を掘った。地元の住民はロシア兵が去った後、そこで手を縛られた5人の遺体を見つけた。遺体には後頭部から銃撃された跡があった。別の潜伏地には、無線機器と文書が残されていた。
 ブチャの中心部では、スーパーマーケットだけでなく病院でも略奪を行ったロシア兵がいた。彼らはホストメリに設営した野戦病院で使うために、手術道具や備品を奪っていった」
(ウォールストリートジャーナル4月25日)
露軍「処刑場」と化したブチャの4階建てビル - WSJ

この開戦初期ですら軍規がたるんでいた軍隊が負け戦になって戦線が膠着してしまったらどうなるのか、想像するまでもありません。
ひょっとしたらロシア軍の戦死者が2万を超えた、というウクライナの発表のほうが事実に近いのかもしれません。

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こういう大量に戦死者がでているという噂は、いくら上が情報統制しても速やかに兵隊の間に拡がって拡散し続けます。
ロシアの兵隊の本音は、ウクライナ軍と生死をかけて戦うなんてマッピラ、さっさと略奪して国に帰りたい、でしょう。
負傷者は戦死者の4倍というのが経験則ですから、ざっくり8万。合わせて10万ですか。
19万の侵攻軍の半分強の損害となると、このドンバス攻勢がそろそろ最後になるかもしれません。

こうなったら、いくら将軍連が前線にでかけて将兵の尻を蹴飛ばしてもダメ。
かえって狙撃されて11名もの将官が戦死するという異常事態に陥っています。
参謀総長のゲラシモフまでもが、わざわざとネツクの前線に行って砲撃に合い死にかかったという噂は本当のようです。
「戦勝記念日」という軍最高のイベントにも出ないので、病院でうなっていたのでしょう。
ざまぁです。このゲラシモフとショイグだけは呪われろと思います。
こんな悪魔の戦争をプーチンと企画し実現した罪です。

この戦線が決壊すると、ロシア軍の戦略が根本から大きく崩壊し、東部戦線が全面崩壊する可能性もでてきました。
この東部戦線の崩壊は他の戦線にも波及するはずです。

 

 

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マリウポリのアゾフスタル要塞に立て籠もるアゾフ大隊の負傷兵
                              ウクライナに平和と独立を

2022年5月12日 (木)

もう少し国際法を勉強しろ、プーチン

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もう少し国際法で、このウウクライナ戦争はどのように判断されるか、考えていきましょう。
まず昨日、「侵略」の定義にウクライナ戦争が完全に当てはまることを既にみました。
「1974年12月14日に国際連合総会の第29回総会で採択された侵略の定義に関する決議 」の第1条から第3条において、、「他の国家の主権、領土、政治的独立」を侵し、「武力を最初使用」し「軍事的占領、武力による併合」の場合を「侵略行為」と定義づけています。

他国への武力行使に対して、現在の国際法は極めて非寛容です。
「現在の国際法」と言ったのは、国際法典がどこかにあるのではなく、その時代を背景に作られた合意、協定、条約類を一括して「国際法」と呼んでいるからです。
戦争諸法規のうちハーグ陸戦条約とかジュネーブ条約は健在ですが、大きく違うのは「侵略」の定義です。

第2次大戦前二あった宣戦布告などという要件は取り払われ、スッキリと74年国連決議一本において戦争行為は原則禁止されています。
つまり「先に武力行使したほうが違法」なのです。
武力行使とは、ある国が別の国から組織的、かつ計画的な軍事攻撃を受けた場合を指します。
今回のウクライナ戦争は、ロシアがウクライナに対して、正規軍を使って国境線を超えて計画的な攻撃を加えたのですから、国際法上弁解の余地なき「侵略」行為です。
これだけで充分にアウトです。

いくらNATOが侵略しそうだったから自衛の戦いをしたのだと言っても、現実にロシアに対する武力行使はいっさい行われていなかったし、その意図はありませんでした。
これはNATOや米国が、ウクライナ戦争に対して飛行禁止空域の設定も拒むなど一切の武力介入を控えていることでも明らかです。
また、ウクライナが大量破壊兵器を作って戦争を準備していたともプーチンは言っていますが、その証拠はまったくありません。
つまり、一方的な危惧に基づく妄想で、国境を超えて武力行使してしまったことになります。
ウクライナがNATOに加盟する意志を持っていたからといって、それは武力行使する理由にはなりませんし、NATOには加盟させる意志はありませんでした。

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もう少し深堀りしてみます。
プーチンは「戦勝記念日」の演説で、盛んにドネツク、ドネツク、ドンツクドンンドンと最大の戦争理由をドネツク地方の「解放」にあげていました。
実際にも、プーチンは参謀総長に対してドネツク州境まで勝ち取れ、と命じたとかいう噂も聞こえてきます。
このウクライナ戦争は、侵攻直前にドネツク州の半分ほどの「ドネツク人民共和国」(自称)とルハンスク州の一部の「「ルハンスク人民共和国」(自称)を国家承認したことから始まっています。

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BBC

このようなステップを踏んでいます。

第1段階・ドネツクとルハンスクの親露派を集めて武器支援を行い、内戦状態を作り出す。
第2段階・内戦が長期化する家庭で「ド人共」と「ル人共」という傀儡国家を作らせ「独立」を宣言させる。
第3段階・ロシアはこの二つの偽装国家に国家承認を与える。
第4段階・ふたつの傀儡国家に救援要請を出させて、集団的自衛権の行使を宣言する。
第5段階・要請に応えた形でウクライナ領内に侵攻する。

では、検証してみましょう。
最大のポイントは、この「ド人共」と「ル人共」というふたつの「新国家」が、国家としての要件を持っているかどうかです。
国家の成立要件は4ツあります。
国家の資格要件 - Wikipedia

①永続的な国民を有しているか。
②明確な国境線を有しているか。
③統治する政府が存在しているか。
④他国との外交関係を結ぶ能力があるか。

この二つの「新国家」の場合はどうでしょうか。
①の「永続的国民」らしき者はいるようですが、それが外部から強要されたものであるという証拠がありません。
脅迫による「国民」強要は無効ですし、ウクライナ政府はこの「国民」をウクライナ国民として処遇していますので、人為的二重国籍状態二なってしまっています。
ウクライナ政府がこの「国民」の国籍を剥奪するというなら別ですが、そうでない以上元々の国籍が優先されます。、
いわばISの自称「 国家」と同等の扱いです。

②「明確な国境線」らしきものは、ミンスク合意の結果ある暫定的なもので、国境線ではなく停戦ラインにすぎません。
プーチンはドネツク州ルハンスク州の州境まで領土を拡げろと命令していることからも判るように、今ある「国境線」はどちらも認めていないものにすぎません。

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「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」とは何か?ロシアが独立承認して軍派遣へ | ハフポスト WORLD (huffingtonpost.jp)

③統治している「政府」は、一方的「独立」によって生まれたものですが、ロシアという外部勢力の政治的軍事的支援があったことは明白です。
このような「独立」が違法であり無効であることはいうまでもないことです。

④このような「政府」が支配する「国家」を承認するのは、世界でもロシア一国だけです。
そもそもロシアが作った傀儡国家である以上、国際社会はこれを「国家」として承認しないでしょう。

したがって、そもそもウクライナ東部2州には、「新国家」など存在していないのです。
このように力づくで新国家として承知することを「尚早の承認」と呼びます。

「尚早の承認」を押えておきます。

「国家の合併・併合,分裂・分離独立などによる新たな国家が既存国家によって国際法の主体として認められること。 そのための条件としては,まず国家としての実質(領土,国民,政府)が備わっていること,国際法を守る意思と能力を有していることなどがある。 それが備わっていない段階で承認を与えるのは〈尚早の承認〉として不法とされる」
(コトバンク)
尚早の承認とは - コトバンク (kotobank.jp)

したがって、本来当該国しか持たない国家主権に力づくで干渉するので、内政干渉です。
内政干渉は、明確な国際法違反であり、このよう新国家自体が違法であり、その「政府」が出した「要請」もまた違法無効です。
存在しているのはロシアの息がかかった「新国家」のただの武装グループだけですから、ロシアに対して集団的自衛権の要請をする主体そのものが欠落しているのです。

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一方ウクライナには完全な自衛権発動要件がそろっています。

「自衛権とは、急迫不正の侵害を排除するために、武力をもって必要な行為を行う国際法上の権利[1]であり、自己保存の本能を基礎に置く合理的な権利」
自衛権 - Wikipedia

では、NATOと米国のウクライナへの軍事物資支援はどのように考えたらよいのでしょうか。
中立法違反ではないのでしょうか。
いえ、いまは大戦時には存在した中立法自体が存在しないのです。

中立法は、大戦までの武力行使(戦争)自体が違法ではなかった時代背景においてだけ存在していた概念でした。
戦闘を交えている国家を「交戦国」とし、それ以外を「中立国」に分けて考えることで中立法は成立していました。
現代では、「国境の実力による改変」を企んで実行したこと自体が国際法違反ですから、中立国概念自体も存在しません。

侵略自体が違法である以上、あるのは「他国に侵略している違法国家」と、「自衛権に基づいて防衛している国家」の二つの区別しかなく、違法な侵略行為を止めるために合法的自衛権を行使している国を支援するのは、国際法上なんの問題もありません。

国際法の最大の欠陥は、これを執行する主体がないことです。
執行主体と罰則がない法律は実は無意味です。
理念的には国連がその役割を果たすべきでしたが、グテーレス事務総長が嘆くように国連は拒否権つき常任理事国に支配されて身動きがとれません。
ですから、常任理事国が違法行為の当事国だった場合、国際法を行使する者がいなくなってしまいます。
それ故、戦後においては、「違法行為を働く国」と戦うために、自衛権を行使する国を武器支援することが認められているのです。

このように一方的侵略戦争を始めて、数千人のウクライナ国民を殺戮し続けているロシアは、いまや言い逃れができない「絶対悪」に等しい存在なのです。

 

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ウクライナに平和と独立を

2022年5月11日 (水)

湿ったプーチン「戦勝」演説

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プーチンの「戦勝記念日」演説は、たいそう地味なものでした。
世界は、開戦宣言でもやらかすかと、逆説的に楽しみにしていたのですが、なし。
下の写真をみてやって下さいよ。覇気がないね顔。とうてい他国を蹂躙している独裁者の顔じゃありませんね。
他人ごとのような顔。戦争どころか、外界ぜんぶに無関心な顔つきです。

思わず、肝心のあんたがこんなつまらなそうな顔しちゃダメでしょうが、と説教を垂れたくなります。
顔は艶を失い、垂れ下がった瞼、焦点が合わない眼、口元は締まらない。
やはりガンの噂は本当だったみたいです。
それとも自分が裸の王様なことに、ハタと気がついてしまった、実は負けているとわかっちゃったとかね。

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https://www.bbc.com/japanese/61375859 

かんじんの演説は言い訳に終始しました。

「プーチン氏は、「キエフでは政府関係者が核兵器入手の可能性について語り、NATOは私たちの国に近い土地に関して探り始めた。そうした行為は、私たちの国と国境にとって、明白な脅威となった。すべてのことが私たちに対して、戦う必要があると物語っていた」と述べた(編注:ウクライナの首都キーウをロシア語ではキエフと発音する)。
また、ウクライナでの「特別軍事作戦」について、必要かつ「時宜にかなった」対応だったと説明。独立した頑強な主権国家による「正しい決断」だったとした。ロシアは今回の軍事侵攻を「特別軍事作戦」と呼んでいる。この戦勝記念日を機に正式に戦争を宣言し、国家総動員を発令するのではないかとの観測もあったが、そのような変化を示すものはなかったと、アダムズ外交担当編集委員は指摘する」
(BBC5月9日) 

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ダース プーチン

演説内容は、例によって嘘とノスタルジーと妄想の入り交じった正当防衛論です。
さぞ言っているほうも、聞かされたロシア国民も虚しかったこととお察しします。
戦争中の指導者ならば、スターリンよろしく立てロシア人民よ、祖国のために戦場へ赴け、くらい言いたかったでしょうにね。

演説冒頭から、「ロシアは侵略者と戦っています。それが唯一の正しい決断でした。主権国家である独立した国家の決断でした」と来ました。
まさに白を黒という奴で、脳みそがマトモに働いている人間には言えない台詞です。
「独立した主権国家」を一方的に侵略したのが、自分たちロシアだということは、認識の大前提です。
かつての独ソ戦はそうでしたが、ただ今現在が誰が誰の独立と主権を犯しているのか、どこの国の軍隊がどこの国の土地で、誰と戦っているのか、それすらわからないほど精神が狂ってしまったのでしょうか。

「国境の実力による改変」が侵略だというのは国際法のイロハです。
いい機会ですから、当該部分を抜粋しておきます。

●1974年12月14日に国際連合総会の第29回総会で採択された侵略の定義に関する決議
第1条
(侵略の定義)
侵略とは、国家による他の国家の主権、領土保全若しくは政治的独立に対する、又は国際連合の憲章と両立しないその他の方法による武力の行使であ って、この定義に述べられているものをいう。
第2条
(武力の最初の使用)
国家による国際連合憲章に違反する武力の最初の使用は、侵略行為の一応の証拠を構成する。ただし、安全保障理事会は、国際連合憲章に従い、侵略行為が行われたとの決定が他の関連状況(当該行為又はその結果が十分な重大性を有するものではないという事実を含む。)に照らして正当に評価されないとの結論を下すことができる。
第3条
(侵略行為)
次に掲げる行為は、いずれも宣戦布告の有無に関わりなく、二条の規定に従うことを条件として、侵略行為とされる。
(a) 一国の軍隊による他国の領域に対する侵入若しくは、攻撃、一時的なものであってもかかる侵入若しくは攻撃の結果もたらせられる軍事占領、又は武力の行使による他国の全部若しくは一部の併合
(b) 一国の軍隊による他国の領域に対する砲爆撃、又は国に一国による他国の領域に対する兵器の使用
(以下略)
侵略の定義に関する決議 - Wikipedia

これを提案したのは当時のソ連、つまりロシアの前身国家です。悪い冗談ですか。
一読してお分かりのように、「他の国家の主権、領土、政治的独立」を侵し、「武力を最初使用」し「軍事的占領、武力による併合」をしているのは万人の眼であきらかのように、ロシア自身です。
言い訳は効きません。

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Ruben L. Oppenheimer

ロシアは、2014年から始まった侵略戦争を完成させるべく、今回のウクライナ侵略に踏み切ったのです。
安倍氏がいう、「ウクライナが中立化をすれば侵攻はなかった」などということもありません。
NATOに加盟しようとしまいと、できないならなおさら、プーチンはウクライナを獲りに来たはずです。

ただそうは国際社会の手前言えないから、こじつけた理由がNATO東進脅威論と、ウクライナ=ロシア論です。
キエフは大ロシアの起源の土地であるぞ、祖先は一緒であるぞ、ありがたく思え、お前らウクライナ人は劣った弟のようなものであるぞ、というアレです。
ここから現実に存在するウクライナは幻想だ、人工的に作られた疑似国家にすぎないという妄想が始まります。
まぁ、これなら確かに侵略にはならないでしょうがね、プーチンの脳内だけでは。
気の毒にも世界でこれを正しいと思う人間が、親露派しかいないということだけですが。

そして「我々はドンバスのために、ロシアの安全のために戦っている。この世にナチスがいなくなるために戦っている」のだそうです。
手垢がついたウクライナ=ネオナチ論です。

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Ruben L. Oppenheimer

これについては先日ふれたからパスしますが、百歩譲ってそうだとしても、ネオナチが支配しているのはドンバス地域だけのはずです。

では、どうして全土を軍事攻撃しているのでしょうか。
ドンバス、ドンバスと盛んにこの地域の安全を戦争の大義にしたのですから、ならば百歩譲ってドンバス地域だけで戦っておればよろしい。
全土に戦火を拡げておいてなにを言っているのでしょうか。
ドンバス大事なら、そもそもベラルーシから軍を南下させて首都キーウを襲う必要もなかったし、メリウポリを襲って大量に市民を殺し、焼け野原にする必要もありませんでした。
ナチスから人民の「解放」なら、ブチャで大量虐殺を行う必要もなければ、避難民がいることがかわかっている学校や劇場を空爆する必要など、どこにもなかったはずです。

そしてとうとう「キーウでは核兵器の取得に関する話が進んでいた」なんて、まだ同じデマを言っています。
これはチョルノービリ(チェリノブイリ)を不必要に占拠して核兵器製造の有無を徹底調査したのでしょうから、どうです証拠がありましたか。
あったらとっくに鬼の首でも獲ったように大喜びしていますよね。
ウクライナが大量破壊兵器を作っているなんて、プーチンの幻だったのです。

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ウクライナで戦闘激化 ロシア軍、チェルノブイリ占拠: 日本経済新聞 (nikkei.com)

チョルノービリのホットスポットである「赤い森」に兵隊を送り込み、そこで塹壕まで掘らせて急性被爆者まで出しているのですから、バカですか。
百歩譲ってウクライナが核武装しようとしても、西側がそれを許しませんよ。
ウクライナが旧ソ連の核の一部を保有していたのに、それを取り上げたのは他ならぬ西側ですから。

プーチンはある意味でわかっているのです。
ウクライナに核を持たせたら、本気で「独立」するにちがいない、と。
ウォールストリートジャーナルは、昨日付けの記事に寄稿としてこんな記事を掲載しています。

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「存在しなかった安全」ブダペスト覚書署名から24年 (ukrinform.jp)

※『【寄稿】ウクライナの教訓 核兵器を手放すな
ウクライナは1994年のブダペスト覚書に従って核兵器を放棄したが、それは間違いだったようだ』
ウォールストリートジャーナル2022年5月10日

「ロシアの侵攻に対するウクライナ国民の予想外に強力な抵抗によって、1994年のブダペスト覚書に注目が集まっている。ウクライナは同覚書に従って、国内にあった核兵器を放棄した。ロシアと西側諸国はこの譲歩の見返りとして、かつて旧ソ連の一部だったウクライナの主権と領土保全を保障すると約束した。
その後、2014年にロシアはクリミア半島を併合した。クリミアは間違いなくウクライナの領土だった。当然ながらウクライナ国民は、20年前に核による抑止力を放棄したことで攻撃を受けやすくなったのではないかとの疑念を抱いた。
ロシアがウクライナ全土を支配下に置こうとしている今、ウクライナ国民は同じ疑念を抱いている。ロシアの行動を注視している悪意ある国々を含め、多くの諸国が自前の核兵器を求めることは避けられないだろう。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、こうした核兵器を持つことが他国への攻撃の許可証になること、核兵器を持たない平和的な国が侵略者の餌食になることを示した」
(WSJ 5月10日)

ブタペスト合意について、ウクライナフォーラムはこのように書いています。

「・ブダペスト覚書は、ウクライナ国内法「1968年7月1日付核兵器不拡散条約へのウクライナの加盟」が採択されたことに関連して、署名されたものである。この法律には、「本法律は、核兵器保有国からウクライナに対し、関連の国際法的文書への署名を通じて形成される、安全の保証が与えられた後に発効する」と書かれている。
・このようにして、ブダペスト覚書署名国は、「ウクライナの独立、主権、現存国境を尊重する」こと、「ウクライナに対して、今後一切の武器を使用しない」こと、「ウクライナの政策に影響を及ぼすことを目的とした経済的圧力を控える」ことが義務づけられたのである。
・同覚書にのっとり、当時世界第3の核兵器保有国であったウクライナは、自発的に核兵器能力を放棄し、非核国家となった。ソ連邦崩壊時、ウクライナ領内には、大陸間弾道ミサイル、戦術核兵器、核兵器を搭載可能な戦略爆撃機、戦略核兵器があった。ウクライナが独立した直後から、アメリカとロシアは、当時のウクライナ政権幹部に対し、できるだけ早く核兵器を放棄するよう説得し始めていた」
(ウクライナフォーラム『存在しなかった安全 ブタペスト合意から24年』2018年12月6日)

実際にこのウクライナに核を持たせるべきか否かで、西側にも議論がありました。
たとえば、最近ロシア擁護論ともとれることを言って論壇をにぎわせているジョン・ミアシャイマーは、ウクライナの非核化交渉の真っ只中の1993年に、「ウクライナは核保有国になるべきだ。核保有がスムーズに達成できるよう手助けするのが米国の利益にかなっている」と論じていました。

「ミアシャイマーの議論は、核を持った強いウクライナが、NATOに加盟せず、そのうえでロシアと欧州の緩衝地帯となってくれるであろうという、米国視点からの冷徹な戦略的利得の計算に基づくものであった。
言ってみれば、今のロシアのウクライナ侵略を正当化する論理(緩衝地帯であるはずのウクライナがNATO加入を検討しているから攻撃を仕掛ける)の裏返しである」
(秋山信将3月1日『「ウクライナは核を放棄したからロシアに侵攻された」という議論が見逃していること』)
「ウクライナは核を放棄したからロシアに侵攻された」という議論が見逃していること(秋山 信将) | 現代ビジネス | 講談社

秋山氏は核保有を維持していたら、かえって不安定になったろう、といいますが、もっとも政治が不安定で崩壊国家化していたのは親露派が政権を握っていた独立初期のころです。
彼らがロシアにそそのかされて非核化を強引に進めたのです。
ウクライナがNATOに加盟することで安定した国際的地位を得て、核を集団安保体制下で管理する仕組みに参加していれば、時間をかけて核軍縮に加わるということも可能だったはずです。
そうすれば2014年のクリミア簒奪も、2022年の全土侵攻もなかったでしょう。
NATOと米国は約束を守らず、核だけ取り上げてNATO加盟は先伸ばしにし続け、そしてとうとうこのウクライナ侵略を招いたのです。
西側には、ブタペスト合意を成立させた当事国として、道義的にも法的にもウクライナを保護する義務があります。

いずれにせよ、ウクライナには核兵器がないのは明白です。
核戦争をしたいのは自分のほうです。
そして今や、それも危険な火遊びだと気がつき始めているようです。
だから核戦争の時に大統領らが指揮をとる特別機「イリューシン80」を飛行させなかったのです。青空が見えていたのにね(笑)。
今、こんな頃こんな危ない機体を飛ばすと、西側を刺激しすぎるからでしょうがね。

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1機だけだと目立つので、空軍全部の飛行を中止させたのかもしれません。
正気に戻ったら、急に弱気になりましたか、結構なことです。

開戦宣言うんぬんも幻だったようです。
それはそうです。仮に百万のロシアの青年を徴兵したとしても、兵隊にするまでに最低で2年、モノになるまでに部隊で2年かかるのです。
自衛隊ですら、初め2年間の教育隊の頃はアルバイトみたいなものと言われています。
予備役や新兵を好きなだけ召集することが出来ても、その多くは怒って国外逃亡するか、今ロシアで作られつつある反独裁のためのレジスタンス運動に参加してしまうかもしれません。
第一、そんな使えない兵隊を大量に作られても困るのは現地部隊です。

戦争だけは続けたいようですから、具体的な継続した戦争計画を立て、それに沿って手順を考えることです。
さもないと、長引いたウクライナ戦争をロシアは戦うことができません。
それまでに、ウクライナ軍によって彼らの領土から叩き出されないといいのですがね。

 

 

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ウクライナに平和と独立を

2022年5月10日 (火)

ロシア軍がダメなのはT-72のせいではなく、練度とヤル気

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 終わってみれば、なーんだの「戦勝記念日」でしたね。
私は4時からリアルタイムであの死ぬほど退屈な演説を聞いていました(涙)。

腹部にガンをもらっているという噂が濃厚なプーチンは、結局開戦宣言もせず、核戦争にも言及せず、妙にまとも。
まぁこのままダラダラやるということでしょうか。
次回、もう少し考えてみます。

さて先日来、メディアはこぞって「ビックリ箱戦車」のことを取り上げています。

CNNがT-72のことを被弾すると砲塔が5階くらいまで飛ぶというのでついたあだ名が「ビックリ箱戦車」(Jack in the BOX)だったのがこの戦車の情けない一生の始まりでした。

Jack-in-the-box effect(Wikipedia)

メディアのネタ元のCNNも書いていますが、T-72が「ビックリ箱」の特技を持っているのは、ずいぶんと昔の湾岸戦争の頃からですから、かれこれ30年以上も昔前から知られたことです。
素人の私でさえだいぶ前から知っていたほどです。
まるで「ビックリ箱」、ウクライナで戦うロシア軍の戦車が抱える設計上の欠陥とは(CNN 4月29 日)

30年前には、T-72という新鋭戦車を前にして、米軍の戦車兵らはどんな怪物がでてくるのかとドキドキしていたものです。
スペックだけ見ると、T-72は西側戦車がたじたじとなるようなものでした。
T-72は、当時の西側諸国の主力戦車の主砲であった105mmライフル砲よりも強力な125mm滑腔砲を装備していますから、ドツキ合いになったらどう見てもT-72の勝ち。
また装甲も、世界に先駆けて鋼鉄にセラミックやガラス繊維などをサンドイッチした複合装甲を車体前面に採用するなど、72年当時は押しも押されもせぬ世界最優秀の戦車でした。(ウソみたいですがホントです)

ところが登場から20年後の1991年の湾岸戦争で、当時の米軍のM-!Aカイブラムスや英国のチャレンジャー1と対戦すると、まっかく歯が立たずに屈辱の1ラウンドKOを喫してしまいます。
しかもやられっぷりが派手で、砲塔ごとチュドーンと吹っ飛ぶのですから、この時ついたあだ名がJack in the BOX。
以来、一貫して世界で中露がからむ軍事紛争には必ず登場する渋いバイプレイヤーであるにもかかわらず、やられメカ役が染みついてしまいました。気の毒なこってす。

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ウクライナ国防省

このネガティブ・イメージが強烈すぎて、T-72はさっぱり輸出が振るわなくなってしまいました。
しかも折り悪しくもソ連崩壊がダブってきますから、輸出品が軍事製品と原油とキャビアしかないロシアにとって死活問題でした。
そこで作ったのが、T-72の防御力と攻撃力と機動力をアップさせたという触れ込みのT-90でした。
早い、安い、うまい(かどうかしりませんが)ということで、けっこうベストセラーとなって、インドには実に3000両も買ってもらっています。
このへんもあって、インドはロシアとの腐れ縁が切れないのです。
今回のウクライナ侵略でも、まだ目が覚めないみたいで、困ったものです。
こんどのクアッド首脳会合で米豪に大いに言われて下さい。

ところが、輸出元のロシア軍はなぜかT-90より、T-72愛が強かったとみえて、幾度も改良に改良をテンコ盛りして使い続けています。
なんなんでしょうね、たぶん安いし、手慣れているのがよかったのか、ロシア陸軍はT-90の調達を減らして、T-72改造型のT-72B3Mへの改修を優先しました。
今でもロシア陸軍の主力はあいかわらずT-72B3Mですが、これがは開戦と同時に25%の損害をだして、いまやウクライナはロシア戦車の墓場とまでいわれるようになってしまいました。


原因は30年前から変化せず不動です。
CNNも書いていますが、砲塔が吹き飛ぶというアッパレなやられ様の原因は、砲塔の床下に砲弾を積んでいるからです。
板子一枚下は爆弾なのです。

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T-72の車内配置(1)操縦手、(2)車長、(3)砲手、(4)自動装填システムと弾薬保管庫   Wikipedia

ですからいったん被弾するとなると、床下にリング状に搭載した40発の砲弾にたちまち誘爆し、爆発エネルギーは衝撃波となり、直上の砲塔を吹き飛ばしてしまうという悲惨なことになります。
直撃しなくてもたちまち引火して誘爆するそうです。オー、こわ。
もちろん乗員は苦しむ暇もなく吹き飛ばされてしまいます。ロシア軍の戦車兵にだけはなりたくありませんね。

これはロシア製の戦車特有の現象で、欧米日の戦車では発生することはないとされています。
というのは、西側の戦車設計者は弾薬庫にブローオフパネルという特殊な遮蔽版を設けて、爆発を逃がす仕組みがあるからです。
また米国のM1系列の戦車は、下図のように自動装塡を採用せずに装填手が壁で隔てられた弾薬庫から一発ずつ砲弾を取り出して主砲へ装填します。
そのつど隔壁は閉まるために、仮に被弾しても砲塔内には1発しか弾がないために砲塔内の誘爆リスクはミニマムです。

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https://twitter.com/tank10907461/status/756499212515147777

米国防総省が指摘するように、ウクライナ戦争でもウクライナに投入されたT-72B3Mは撃破されまくりました。
やられるもやられたり、ウォーレス英国防大臣は、その数を最大580台と発表しています。
ウクライナ側は4月30日に、戦車1000台、装甲車両2500台と発表していますから、固いところで戦車だけで600台以上は撃破されたと思われます。

Генеральний штаб ЗСУ / General Staff of the Armed Forces of Ukraine / 4/18 Facebook


ロシアは2020年には公式には13000台の戦車を保有してダントツ世界一ですが、大部分は保管状態が劣悪で使い物にならず、その数には大戦中のT-34まで含まれていたそうです。
ロシアメディアによれば稼働状態にあるのが2685台ていどだそうです。
ざっくり20%の戦車が、ウクライナでスクラップになってしまったことになります。
ちなみに我が国は減数し続けて667台、英国は227台ですから、ウォーレス大臣の国の戦車なら3回全滅しなければならない甚大な数字です。

ロシアもこのT-72の欠陥をわかっているはずですが、1992年に投入したT-72の後継型のT-80やT-90も同様の被弾にきわめて弱く、乗員保護が欠落した欠陥はそのままのようです。
この欠陥はレイアウトという本質的なものですから、改修しようがないのです。

では、どうしてこんな危ない砲弾の積み方をしているのでしょうか。
それは戦車のドクトリン(製造哲学)が違うからです。
ロシア戦車のコンセプトは、1台1台を安く上げて数で勝負というのが哲学です。
ですから装甲を西側からみれば貧弱にした代わりに、被弾面を最小にするためにきわめて車高が低いクラウチングスタイルを採用しました。
結果、薄べったい車体は天井が低く、まるで寝るような姿勢での運転を強いられ、装填手も省いて自動化するという極限まで切り詰めたために、因縁の弾薬庫は床下にしかレイアウトできなくなったのです。

この製造コンセプトは、相手がシリアやチェチェンのようなマトモな対戦車ミサイルを持たない武装戦力だった時期には目立ちませんでした。しかし、それがきわめて頑強な正規軍だとウクライナ軍相手のようにまったく違ったのです。
ウクライナ軍が多用する米国製ジャベリンや英国製NLOWは、トップアタック機能を持っていますから、いったんホップしてから戦車の泣きどころの砲塔上部めがけて落下してきます。

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一見頑丈そうに見える戦車も、天井はハッチがあるために厚くできず、床下まで厚い装甲に覆ってしまうと機動力が悪くなってしまいます。
だからトップアタックと戦車地雷は戦車の天敵なのです。
しかもジャベリンはタンデム弾頭といって、直列で2つの弾頭が一本のミサイルに納まっているという底意地の悪さ。
どんな厚い装甲もたてつづけに2発食らうわけですから、無事では済まず、狙われたらほぼ確実に撃破されてしまいます。

哀れ「やられメカ」呼ばわりされるT-72に代わって弁解すれば、現在、ジャベリンを撃たれて無事な戦車は世界ひろしといえど存在しません。
砲塔直上から食らったら、米国のM!でもチャレンジャーでも、はたまた10式でもやられてしまうはずです。
ですから、これだけT-72がやられたのは、あながちビックリ箱だけが原因ではないのです。
ロシア軍がよく動画でみるように、大きな道を機甲部隊が縦隊で長蛇の行進をするような無防備なまねをしているから、対戦車ミサイルの好餌となってしまいます。
本来は歩兵を随伴して、周囲を警戒しながら慎重に進むべきなのです。
下の写真は、ロシア軍戦車が2列で未知の市街地に侵入した時のもので、ウクライナ軍のドローンが撮影した動画も残っています。
左右から対戦車ミサイルで狙われ、
最初の攻撃で隊長車が被弾して炎上すると後続の戦車はてんでに逃げまどって更に損害を拡げています。
信じられないような練度の低さだと西側軍事専門家は言っていましたが、ロシア軍の劣化は海軍だけではないようです。
つまりロシア軍は「ビックリ戦車」が原因で弱いのではなく、軍隊そのものが根っこから腐っているのです。

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ウクライナ首都郊外でウクライナ軍、ロシア戦車隊を急襲か - BBCニュース

最後にもうひとつ、ウクライナ軍も同じT-72を使っていますから、念のため。
基本的にウクライナの軍編成も装備もソ連式です。
それに2014年以降、NATOと米軍の協力で西側スタイルで徹底的に訓練をしたのです。
しかし装備類はロシシアと一緒です。
3月24日、ブリュッセルで開催されたNATO首脳会議にオンライン参加したゼレンスキーが「みなさんは、合計して少なくとも約2万両の戦車を保有しています。そのうち1%の200両で結構ですので、わが国に譲ってください」という訴えをしていますが、この戦車は欧米の新型戦車ではなく古式ゆかしいT-72です。

結局、最後は戦術と闘争心、それを支える大義なのです。

 

 

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ウクライナに平和と独立を 

 

2022年5月 9日 (月)

ラブロフのヒトラー発言はなぜアウトか?

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プーチンが何をいうのか注目されていた「対独戦勝利記念日」を前に、またもやネオナチ論をもちだしました。
まったく懲りない男です。

「ロシアのプーチン大統領は8日、第2次大戦で当時のソ連がナチス・ドイツの侵略に打ち勝ったことを祝う9日の対ドイツ戦勝記念日を前に旧ソ連諸国の首脳や国民にメッセージを送り、「人々に戦争の災禍をもたらしたナチズムの復活を許さないことが共通の義務だ」と強調した。ロシア大統領府が発表した」
(5月6日共同)

懲りないといったのは、つい数日前に、このウクライナ=ナチス論でイスラエル首相に謝罪したばかりだったからです。
それを言ったのは、ロシアの外務大臣・セルゲイ・ラブロフで、この人物は外交官として終了しました。
というか、ロシアは世界の外交の舞台から、これで追放されたと考えてよいでしょう。
それくらい度はずれて狂った発言だったのです。
今頃になって、イスラエル首相から抗議の電話をもらって、プーチンが謝罪しても遅いのです。
プーチンは即座にラブロフを更迭し、イスラエルに出向いて土下座するくらいの不始末です。
国連は常任理事国の任を解き、追放されても文句がいえないような発言です。

では、ラブロフは何を言ったのでしょうか。
例の得意のウクライナ=ネオナチ論がことの発端です。
「ロシアがウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチの集団だ」と主張していることに、これまでユダヤ系のゼレンスキー大統領は強く反発してきました。これについてロシアのラブロフ外相が「ヒトラーにもユダヤ人の血が入っていた」と発言したことから、イスラエルも猛烈に反発し、ロシアとの非難の応酬に発展しています。
ロシアのプーチン政権は、ウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチ集団だ」と主張し、ウクライナを非ナチ化するとして軍事侵攻を正当化していますが、これにユダヤ系のゼレンスキー大統領は強く反発しています。
これに対してロシアのラブロフ外相は1日公開されたイタリアのテレビ局とのインタビューのなかで、「『ゼレンスキー大統領がユダヤ人であるならナチ化するはずがない』というが、あのヒトラーにもユダヤ人の血が入っていたのでそのような主張はまったく意味がない」と、持論を展開しました」
(NHK5月4日)
「ヒトラーにユダヤ人の血」 ロシア外相発言にイスラエル反発 | NHK | ウクライナ情勢
このNHKの要約は、このラブロフ発言の核心をはずしています。
実は、ラブロフはこう言っているのです。
※5月1日、イタリアのテレビ番組「Zona Bianca」におけるインタビュー
https://www.nbcnews.com/video/lavrov-s-comments-about-hitler-and-antisemitism-condemned-by-israel-139084357912
伊東乾 無知で野蛮・冷酷なロシアを世界に知らしめたラブロフの失言 「ヒトラーはユダヤ人」発言で安保理常任理事国から追放も| JBpress によりました。ありがとうございました。
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ラブロフ外相 NHK 

「ウクライナのゼレンスキー大統領は主張する。「いったいいかなる<ナチ化>が可能だと(ロシア側は)言うのだろう? 私自身がユダヤ人だというのに」と。
しかし、私の記憶が正しければ、いや、間違っているかもしれないが、ヒトラーもまたユダヤ系の出自を持っていた。だから(ゼレンスキーの)主張は、およそ意味をなしていない。
私はかつて、賢明なユダヤ系の人々から聞いたものだ。最大の反ユダヤ主義(アンティセミティズム)はユダヤ人自身から出てくる

政治的に敵対した者に対して安易に「ヒトラー」とか「ナチス」とレッテルを貼って悦に入るのは左翼業界の常套手段で、日本でも共産党系がよく安倍氏にやっていたことですが、ロシアはこれを戦争の大義にまで昇格させてしまいました。
プーチンは、このウクライナ戦争の大義を、「ネオナチからの東部2州の住民の保護」に上げているくらいです。 
ゼレンスキーはネオナチであり、ネオナチの力集団のアゾフ連隊を手先にしてジェノサイドを働いている、というのがプーチンの言い分です。
日本でもプーチン支持者たちは、執拗に同じことを喧伝していましたが、反論するのも馬鹿げたことなので無視しましょう。
ただひとこと岸防衛大臣がロシアに対して言ったように、「ナチスはあなた方のほうだ」と言っておけばよい。

そもそも、ヒトラーがユダヤ人であるかどうかは、すでに科学的には決着がついていることです。
なにを今さらの話で、ウライナの開戦理由にナチスをもって来ること自体が異常なのです。
このような安易なナチスのレッテル貼りは、
伊東乾氏によれば自らのことを北方ゲルマンだと信じているロシアエリート階層らの差別的本音から来ているとみています。
つまり自分らは誰よりも根強くユダヤ人を差別しているからこそナチスを嫌悪する、という裏返しの差別意識の現れなのです。

「実はこれとて、金髪碧眼の多い旧ソ連のロシア・エリートたちの間で戦後長らくささやき続けられた話の一つでしかありません。
ただ、国外持ち出しは不可、ロシア国内専用の<ホンネの風聞>です。
それを絶対に話してはいけない西側メディアのインタビューで老ラブロフは漏らしてしまった。(略)
これは相当、問題です。またこれを取り上げて「荒唐無稽」と評するものもありましたが、ヒトラーの生前、それもナチスが政権を奪取する以前からからこの種の風説はささやかれ続けていました。とりわけソ連では酷かった。(略)
根強くささやかれる都市伝説としては延命、特に「典型的なゲルマン・ヴァイキング」金髪碧眼の多いソ連では、後述するユダヤ人学生の大学入学制限などに関連して、根強くささやかれ続けてきた経緯があります」
(伊東前掲)

こういう歪んだ人種差別意識はロシアには深く浸透していたようですが、それを内輪の本音ではなく、こともあろうに外相がイタリアメディアにペラペラ得意気にしゃべってしまい、「これは賢いユダヤ人から聞いたんだ」とまで言ってしまうと、いくらなんでも本音を暴露しすぎだろうと思われてきます。

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なぜならヒトラー=ユダヤ人説は一種の都市伝説であって、科学的根拠はありません。
調べようにも骨が見つかっていないからで、ただヒトラーが金髪碧眼ではなかったということだけが根拠であるにすぎません。
ヒトラーの死を確信したいスターリンは執拗にその骨を探させてようやく拳銃の穴がある頭蓋骨の一片が見つかって、それが長い間ヒトラーのものだと思われていました。
しかしこれがヒトラーとなんの関係もない30代から40代の女性のものだったことが、後の米国のDNA鑑定でわかってしまいます。

これでヒトラーユダヤ人説の科学的根拠は消滅します。
ここまではラブロフやプーチンは、まだこんな都市伝説を信じているようなズレた人だと笑えるようなことですが、その後は笑って済ませられることではありません。
ラブロフはなんと、「私はかつて、賢明なユダヤ系の人々から聞いたものだ。最大の反ユダヤ主義(アンティセミティズム)はユダヤ人自身から出てくる」と堂々と西欧のメディアの前で言ってしまったのです。
つまりラブロフは、ヒトラーはユダヤ系と断定した上で、「最大の反ユダヤ主義者はナチスドイツはユダヤ人自身が作り出した」と言ったことになります。
おいおい、ボケましたか、ラブロフ。

これは重大な暴言で、こんなことをいえばヨーロッパ社会で公人として生きていくことが不可能になります。
なぜならば、このロジックに従えば、ユダヤ人600万人を殺したのはユダヤ人自身だということになってしまうからです。
国内各地でユダヤ人狩りを行い、やがて占領地においてもユダヤ人を探し出してはことごとく絶滅収容所に送ったのは、ユダヤ人自身だと言ったことになります。
アウシュビッツを作ってガス室にいれて皆殺しにしたのも茶色の眼を持ち、茶色の髪をしたヒトラーという名のユダヤ人で、命令されたのが金髪碧眼のアーリア人武装親衛隊だった、とラブロフは言いたいようです。
つまり、ジェノサイドはドイツ人がしたのではなく、ドイツ人に紛れ込んでいたユダヤ人がやったことだから、自作自演の茶番だったと言うわけです。

これでイスラエルが怒らないほうがおかしい。
即座にイスラエル政府は強い抗議を行います。

「この発言を受けイスラエルのベネット首相は「ナチスによるユダヤ人への迫害を政治的に利用するのは直ちにやめるべきだ」とする声明を出したほか、ラピド外相も「許しがたい発言で常軌を逸している」などと猛烈に反発し、ロシア側に謝罪を求めました」
(NHK前掲)

こういう人種差別意識をむき出しにしたことを自分の国の外相が発言した場合、即座に更迭して謝罪するのが普通の国の作法、すくなくとも文明国の常識です。
さもないと、その国全体がそうのような人種差別意識を共有していると思われてしまうからです。
しかしなんとロシア外務省は謝罪はおろかイスラエル政府をつかまえて、「そんな抗議をすること自体ネオナチに加担しているからだ」と逆ギレしたことを口走ってしまったのですから底無しの馬鹿揃いです。

「しかし、ロシア外務省のザハロワ報道官は3日、声明を発表し「ラピド外相の反歴史的な発言はイスラエル政府がウクライナのネオナチ政権を支持することを示している」と公然と反論しました」
(NHK前掲)

脳みそが腐った外相の下僚たちも同じように脳が腐っていたようです。
これで仲介に前向きだったイスラエルをウクライナ側に追いやっただけではなく、国際社会からかも、さもありなんロシアとはそういう国なのだと認識を新たにされてしまいました。 
たいへんな外交的失敗です。
しかもウクライナ戦争で、俵に足がかかって核兵器使用が取り沙汰されているプーチンの外相が言うべきことではありません。

戦後、もっともヒトラーに学んでユダヤ人や反政府的な人士を迫害してきたのは、当の旧ソ連とロシアでした。

「賢いユダヤ人」、即ち政府当局のいいなりになるユダヤ人と、政府に楯突き西欧型民主主義を持ち込もうとする「愚かなユダヤ人」に選別し、前者を使って後者を迫害させるというやり方はナチスがとった人種政策でした。
今回ウクライナ占領地でやっていることは、昔ながらのナチスやスターリンがやった選別政策の忠実なリピートです。
たとえば、占領地で「避難民選別センター」を作って思想来歴を洗い出し、「賢いウクライナ人」と「愚かなウクライナ人」に選別し、後者を拷問にかけて殺害したり、時にはサハリンへ流刑に処したりしています。
しかも家族丸ごと処分してしまうので、彼ら「愚かなウクライナ人」たちはは行方不明者として社会から消し去られます。
たぶん今回のウクライナ戦争で、戦闘によるもの以外の市民で数千単位の「行方不明者」が出ているはずです。

このようなことの一端がはしなくも露呈したのが、今回のラブロフの「失言」なのです。

 

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願わくば祈らせたまえ
               彼らの道に光あらんことを

 

2022年5月 8日 (日)

日曜写真館 鯉のぼり五色の風を蹴りにけり

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青天や烏を友に鯉のぼり 平畑静塔

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湖の風はらみ堅田の鯉幟 山口青邨

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大河とて太郎次郎や鯉幟 阿波野青畝

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寝ころんで山より高き鯉のぼり 佐伯のぶこ 

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からつぽはこんなに自由鯉のぼり 櫂未知子

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鯉のぼり遊ばす風となられけり ことり

 

2022年5月 7日 (土)

プーチンの核戦争、4つのシナリオ

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まずドネツク戦線の現状からいきましょう。
ウクライナ軍がハルキウとイジュームでロシア軍を完全に押し込んでおり、侵略軍は後退を余儀なくされたようです。

「米国防総省高官は2日、記者団に対し、ウクライナ軍が第2の都市、東部ハリコフの約40キロ東方にロシア軍を後退させたとの分析を明らかにした。
ロシア軍の後退について、米国防総省高官はウクライナ軍の「激しい抵抗」の結果だと強調。ロシア軍はハリコフを掌握したいはずだが、それを困難にしていると指摘した。
同高官によると、東部ドンバス地域(ドネツク州とルガンスク州)では一進一退の攻防が続き、ここ数日でロシア軍の前進はほとんど見られない」
(産経5月3日)
【フォト特集】「激しい抵抗」 露軍、ハリコフから40キロ後退と米国防総省高官 - 産経ニュース (sankei.com)

ウクライナ軍は、ドローンを使って正確な弾着観測をした後にNATO諸国から提供のあった新型火砲で精密な砲撃を加えており、ロシア軍はガードを固めることすらできず、ハリキウ(ハリコフ)の包囲を放棄し、40キロも後退したようです。
今まで温存されてきたウクライナ砲兵の能力は極めて高いようで、さらに戦車部隊も加わったかもしれません
ウクライナ軍は、いままでの防御戦闘から乾坤一擲の総力戦に出たようです。 
イジューム(下地図右側のロシア国旗の上から二番目)が奪還されると、ロシア軍に勝機はなくなります。

英国ウォレス国防相は、このように述べています。

「どのような戦闘部隊でも攻勢限界は何れやってくる問題で、キーウ方面のように攻勢が崩壊すればあっという間に泥沼から敗走に切り替わり、ロシア軍全体が崩壊する可能性もある」
(英タイムス5月5日)

ロシアの将軍たちは、プーチンの粛清を避けるためにお互いに向き合っている、とベン・ウォレスは言う|ニュース|タイムズ (thetimes.co.uk)

ロシア軍はキーウやマリウポリ包囲軍を東部戦線に移動させて勢力を増強させるなんて言っていましたが、元自衛隊の陸将らにいわせると下策の極みだそうです。
いったん負け戦が骨身に染みついた弱兵などが戦列に加わると、かえってそこから戦線が崩壊してしまうそうで逆効果です。
この連中は市民虐殺、レイプ、略奪などにまで手を染めていたクズ共ですから、司令部は生き証人を消すために磨り潰すつもりなのかもしれません。。


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未確認ですが、黒海でネプチューンによってフリゲート艦「アドミラル・マカロフ」が攻撃されて、大破したようです。
これはロシア海軍ご自慢のスティルス・フリゲートでしたので、ロシアのショックはハンパではないでしょう。

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更新:ロシア海軍軍艦アドミラル・マカロフ「ウクライナのミサイル攻撃後に発砲中」 - ユーロウィークリーニュース (euroweeklynews.com)

炎上沈没という情報もあるので、これが真実ならプーチンにとって「モスクワ」撃沈に並ぶ大打撃です。
とまれ、これで黒海艦隊は安穏とオデーサに近づくことすらできなくなりつつあります。
おそらくこの海域には、米軍のRQ-4グローバルホークが偵察飛行しているはずですので、ロシア艦隊の動向は逐一ウクライナに筒抜けのはずでした。
同じようにポーランド上空には米軍のAWACSが飛行して、ロシア軍の情報をウクライナに伝えているとみられています。
完全に情報戦でロシアは惨敗しているのですが、それをなめて沿岸に不用意に近づくから沈められてしまいます。

ロシア海軍の黒海の制海権は消滅寸前で、日本近海で対潜水艦ミサイルなどぶっ放してイキがっている場合ではありません。
ほんとうは太平洋艦隊を黒海に送り込みたいところでしょうが、あいにく黒海は入口のボスポラス海峡がトルコによって閉められているので不可能です。
このようにプーチンにとって暗黒の「戦勝記念日」になりそうな気配です。
悪神よ、去れ!

さて本日のテーマですが、仮に窮地に陥ったプーチンが核を使うことを決断した場合、どのようなシナリオがあるでしょうか。
小泉悠氏が、いくつかのシナリオを提示していますので、参考にしつつ整理していきます。

私は、プーチンの精神状況のレベルで考えてみたいと思います。

・シナリオ1・最悪ケース。完全に狂気にかられている状態。
・シナリオ2・中程度のケース。半ば狂っているが、完全に狂気とはいいがたい中間の状態。
・シナリオ3・理性が残されており、幕僚のアドバイスをきくことができるていどの状態。

まずシナリオ1の最悪ケースから考えてみましょう。
この場合、プーンチンはもはや自らが滅ぶくらいなら世界を道連れにすると思い定めています。
ですから、自分を追い詰めた張本人だと信じているNATOに「電光石火の一撃」を浴びせねば済まないと思っています。
イっちゃっていますから、合理的思考の枠から大きく逸れています。

これは権力内部に有力な反対派がいない場合に起きる、孤立型独裁者特有の思考回路です。
独裁者は自分の権力の延命と世界の破滅を同一視しやすいものですが、特に孤立した大国の独裁者は危険です。
たとえば北朝鮮の正恩もこのような衝動に駆られ易いタイプですが、しょせん最貧国なので限界があります。
同じ独裁者でも、元来集団指導体制をとっていた中国で、習近平がそのようなことに走ろうとすれば反対派か長老に暗殺されます。

一方プーチンはすべての権力を自分に集中してしまったために、権力内に反対派を持ちません。
したがって、彼がコントロール不能の狂気に陥った場合、果たしてはがい締めしてでも止める人物が現れるかどうかはなはだ不明です。

先程あげたウォレス英国防大臣はこうも言っています。

「側近の中でプーチンにウクライナ占領計画を中止するよう進言したものは誰もいない」
(英タイムス前掲)

この最悪のケースの場合、講和のためテーブルにゼレンスキーを座らせることを強制する「平和のための一撃」という美辞麗句で飾って、NATO加盟国を狙うかもしれません。
小泉氏はNATO諸国への核攻撃はシナリオからはずしています。
深刻な狂気であると想定した場合、NATO主要国を狙うでしょうが、確実に核の反撃をうけるうえに、軍事介入につながってしまいますから、そこまで重度ではないという条件で考えてみます。

この場合、もっとも危険な国はポーランドです。
旧ソ連圏でありながら、今は「NATOの手先」になっているボーランドほど憎い国はありません。
首都ワルシャワを狙うか、あるいはウクライナへの支援の拠点となっている地域の都市を狙うでしょう。
たとえば東部のジェシュフです。

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ウクライナまで70キロ、迎撃ミサイル並ぶ補給拠点…ポーランド市民に不安の声も : 国際 : ニュース : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

「国境から約70キロ・メートルのジェシュフは、ウクライナ向けの重要な補給拠点だ。地元報道などによると、軍の輸送機が頻繁に着陸し、トラックに装備を積み替え、ウクライナに向かう。ジェシュフ近郊では2月中旬以降、米国が派遣した欧州への増派部隊約2000人の大半が駐留しており、街中でも至るところで米兵の姿を見かける。
人道支援物資もここを経由する。国際機関や支援団体が臨時事務所を置き、各国もウクライナ西部リビウから移転した臨時大使館を構える」
(読売3月28日)

ただしここは米兵が駐屯し、防空網が緊密に張られていますからここを標的にするかは微妙です。
いくらなんでも主要国を狙うほど狂っていないことを祈ります。

小泉氏は、ウクライナの都市への核攻撃を想定しています。
ウクライナの継戦能力を絶つためには、①人口密集、②工業地帯、③軍事拠点、という三つの条件が揃わねばなりません。
広島、長崎には、それに加えて一方が海に開けた山に囲まれた都市であり、最大に原爆の効果を高めることができるという地形的条件が揃っていました。

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ロシア軍が南部拠点ヘルソン制圧、軍政表明で占領視野か…ウクライナ侵攻から1週間 : 国際 : ニュース : 読売新聞オンライン

ウクライナでこの条件にあう都市は、マリウポリか、ハルキウ(ハリコフ)、あるいは支援物資の集積所があるリビウなどです。
キーウ、オデーサ(オデッサ)も条件に合いますが、古都を破壊し尽くすことができるかです。

使用されると見られる投射手段は、小型低出力の核弾頭を搭載した巡航ミサイルです。

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巡航ミサイルを発射するロシア空軍Tu-95爆撃機
爆弾に「パリのために」と書き込み出撃 ロシア爆撃機  - 読んで見フォト - 産経フォト (sankei.com)

弾道ミサイルを使うと、西側都市への先制攻撃だと思われて反撃され、全面核戦争に発展しかねないからです。
小型核とはいえ、広島、長崎と同程度の被害が生じて、数十万人の死者が生まれます。

シナリオ2の、まだ多少正気が残っている場合も考えてみます。
ロシア軍には、実は核兵器をこのように使うことは想定されてはいませんでした。

「数年ごとに改定されるロシア軍の「軍事ドクトリン」を見ても(最後の改定は2014年)、限定的核使用の基準についての明確な記述は一切出てきません。
2020年に公表された「核抑止の分野における国家政策の基礎」でも、エスカレーション抑止についての記述はあるものの、「一般論としてはあり得るが、我が国がやるかどうかは回答を差し控える」と、お役人の答弁みたいな文章が書かれている。
こうした背景から、エスカレーション抑止は概念としては存在していても、ロシアの公式の核戦略として採用されていないのではないかと、多くの専門家は懐疑的に見ていました。あるいは限定核使用をちらつかせることで、欧米の恐怖をあおるだけの心理戦なのではないか、と考えられていたのです」
(小泉悠 『徹底分析 プーチンの軍事戦略』 月刊文春5月号)

しかしロシア軍は、ソ連からの伝統で悪い意味でのシビリアンコントロールの軍隊です。
ソ連時代は、ソ連共産党が絶対であり、今はプーチンが絶対なのです。
軍部は核戦争になりかねない恐ろしさを十分にわかっているはずですから、核兵器を弄ぶことには内心強い忌避感を持っているはずです。
どうしてもとプーチンから命ぜられれば、政治的威嚇手段として使う方法を選ぶでしょう。
警告としてウクライナ近海か、無人地帯に原爆を投下して、戦意を削ごうするかもしれません。

シナリオ3として、もっとも正気が残っている場合は、軍部は核ミサイルを成層圏にまで打ち上げて核爆発を起こす電磁パルス攻撃(EMP)を提示するかもしれません。

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電磁パルス攻撃:広範インフラ防護急務 技術・財政に課題 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

ただし、これが成功する確率は低いと米軍は見ており、そもそもこのような間接的攻撃はプーチンの好みではありません。
プーチンはもっとどぎつい、むき出しの暴力で叩きのめすのが彼の流儀ですから、説得に応じるかどうかはわかりません。

では、いずれのシナリオにせよ、ロシアが核攻撃を仕掛けた場合、米国はどのような対応をするでしょうか。
はっきり言って、不明です。

「ロシアのエスカレーション抑止戦略を懸念したアメリカは、2017年に図上演習を実施しています。
演習では、ロシアが在独米軍基地に限定核使用をおこなった場合を想定しましたが、一つのチームは限定核使用による報復をベラルーシにおこなうことを選択。もう一方のチームは、通常兵器による報復を選んだとされます。これは担当者によって、その時々の判断が大きくぶれることを示している」
(小泉前掲)

ロシアの小型核使用にどう対応するかは、バイデンとNATO諸国の首脳、国民の世論次第です。
シナリオ1という強度の核攻撃を受けた場合、なんらかの報復をしないと、同盟国は一斉に米国の核の傘に対しての不信を抱き、フランスのような独自核開発に向かうでしょう。

ただし唯一米国は、ロシアが核使用をした場合、米国がいかなる対応をするかについてのガイドラインを持っています。
2018年に作られた「核体制見直し」です。

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「米トランプ政権下で策定された2018年版「核体制見直し」では、ロシアが小型核を使った時には、アメリカも同規模の核を1発だけ撃ち返すと明記されています。潜水艦発射弾道ミサイルに低出力型核弾頭を搭載して発射する反撃パターンも示されている。
この低出力型核弾頭はすでに開発され、原子力潜水艦テネシーに配備されました」
(小泉悠前掲)

一発核ミサイルを撃たれたら、一発撃ち返す、ただし、それがどのような目標となるかは、そのときの世論次第で未定なのです。
ただし、いかなる対応を米国がしようと、プーチンの名が「21世紀最大の狂気の大量殺人者」と呼ばれることだけは間違いありません。

 

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ウクライナに平和と独立を。
彼らの行く手に光あらんことを。

 

2022年5月 6日 (金)

ロシアの「特別な一発」

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訪欧した岸田首相が、バチカンの主である教皇と面談したそうです。
なにをしにと思ったのですが、どうも法王庁が核兵器使用についてアピールを出したかったようです。

「そのうえで「教皇の平和へのメッセージと『核兵器のない世界』へのメッセージは、多くの日本国民の心に深く刻まれた。被爆地・広島出身の総理大臣として『核兵器のない世界』に向け、バチカンと協力したい」と述べ、両氏は、核兵器のない世界の実現など、人類共通の諸課題に対応するため協力を進めることを確認しました」
(NHK5月4日)
岸田首相 ローマ教皇と会談 核兵器なき世界実現へ協力確認 | NHK

岸田氏が言っているのは毒にもクスリにもならない一般的核廃絶論にすぎませんが、教皇はヨーロッパで核戦争が近づいていることに警鐘を鳴らしたかったようです。

教皇の危惧には根拠があります。
プーチンはまたもや核兵器の使用をほのめかしました。

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TBS

「ウクライナ侵攻をめぐりロシアのプーチン大統領は、外部からの干渉が脅威となれば、「反撃は電光石火で行う」と欧米を強くけん制しました。
ロシア プーチン大統領「我々にとって受け入れがたい戦略的脅威を作り出すなら、反撃は『電光石火』で行われると認識すべきだ」
プーチン大統領は27日こう述べたうえで、反撃のための「手段はすべてそろっている。誰もが持っていないものもある」と述べました。核兵器の使用も辞さないことを示唆したもので、ウクライナへの軍事支援を拡大させる欧米を強くけん制した形です」
(TBS4月28日)

いつもどおりのヤクザまがいの脅迫的台詞ですが、気色が悪いのは、「我々にとって受け入れがたい戦略的脅威を作り出すなら、反撃は『電光石火』で行われると認識すべきだ。反撃のための「手段はすべてそろっている。誰もが持っていないものもある」と言ったことです。
日本が同じ台詞を言っても、それはアニメかねといわれそうですが、ロシアは違います。
彼らが「誰もが持っていないもの」と凄む時には、エネルギーと核兵器を武器にするという意味と考えられています。

核兵器を政治的脅迫の神経戦に持ち出す国は、世界ひろしといえど北朝鮮とロシアしかありません。
ウクライナ戦争が始まってからも、ロシアは核の恐怖を煽ってきました。
侵攻からわずか4日目に、プーチンは戦略核抑止部隊に「特別態勢」への移行を命令して、世界を驚かせました。
その理由は、米国やNATOの介入阻止ですが、その目論見は見事に当たり、米英とNATO諸国は直接軍事支援に躊躇するようになります。
もっとも支援に積極的だった英国すら、ウクライナ上空を飛行禁止空域にすることを拒んでいます。
直接のロシアとの戦闘が、限定核戦争に発展する危険があるからですが、プーチンは見事にその意図を達成したわけです。

小泉悠氏によれば、ロシアは限定核戦争の軍事思想を持っています。
それが国防次官だったアンドレイ・ココーシンの核による「エスカレーション抑止」です。

「ロシアは弱いからこそ、核兵器を有効に活用しなければならない――軍事力縮小の担保として、核によるエスカレーション抑止の概念は登場したのです。(略)
劣勢が補いきれない場合はどうするか。2つ目の案が、前述のエスカレーション抑止です。戦争に負けそうになったら、1発だけ限定的に核を使用する。その核の警告によって相手に戦争の継続を諦めさせる、あるいは、ロシアにとって受け入れ可能な条件で戦争を停止させることができると考えたのです」
(小泉悠 『徹底分析 プーチンの軍事戦略』 月刊文藝春秋5月号)

戦争になって劣勢になったら1発だけ核を使って形勢を逆転する、あるいは有利な条件で講和を結ぶ、まさに今のロシアが置かれた軍事的状況そのものです。
ココーシン自身の考えはむしろ受け身で、あくまでもソ連崩壊直後の弱体化したロシア軍が置かれた状況に則して展開しています。
しかしこれは相互確証破壊という核戦争のセオリを一歩抜け出して、核の先制使用を構想するものでした。
しかし超大国として蘇った(とプーチンは思っている)現在のロシアが、安易に用いてよい軍事思想ではありません。
ロシア軍部もそれを分かっていて、ココーシン理論について口を濁してきました。

しかし、プーチンはこの間再三に渡って、核の先制使用を口にしています。
西側は、このプーチンの核を用いた脅迫を、限定的核兵器使用を示唆したものだと受け取りました。
法王の憂鬱はここから来ています。

さてこの2カ月間、ウクライナ戦争を追跡してきましたが、この戦争はきわめて「政治的」な戦争です。
ロシアはこの戦争を政治的動機で構想し、政治的な干渉を受けて軍事戦略が決定され、軍事指揮まで政治が介入し、それが故今や戦線は膠着し勝機を失いかかっています。

今のロシア軍の苦戦は政治的に強いられたからです。
たとえば、どうしてロシア軍はわずか19万という少ない兵力で侵攻を開始したのでしょうか。
19万とは、ウクライナ軍の陸上兵力とほぼ互角で、攻勢側3倍原則に則れば50万は欲しいところです。
しかもその少ない兵力を東部2州に集中させずに、ベラルーシから南下するキーウ包囲軍と、クリミア半島から東へ進軍する南部軍に三分割してしまいました。
結果として、戦線は徒に伸びきり、まるでガダルカナルからアリューシャン列島、中国まで戦線を拡大したために兵站が破綻した大戦中の日本軍のように、ロシア兵に飢餓すら発生しました。
腹を減らした兵隊たちは民家や商店を襲い、やがてそれが組織化し兵隊マフィアと化し、彼らは人外魔境へと堕ちて行きました。
これが昨日見た、ロシア軍の規律と士気の深刻な崩壊現象です。

この理由は、プーチンが軍事作戦に干渉したからです。
小泉氏はこのように述べています。

「今回の戦争は、政治の介入を受けていることが想像されます。
おそらく軍人の意見に対してろくに耳を傾けず、プーチンがトップダウンで始めたものの、予想外の苦戦にとまどっている。国家指導者が現場にあれこれと口出しして、軍事作戦にいい結果が出た例しはありません。
独ソ戦でドイツが赤軍に敗れたのは、ヒトラーが作戦に口を出し、軍人たちの反対にもかかわらず、兵力を分散させ、時間を浪費したためでした。プーチンはヒトラーの二の舞を演じているようにも見えます」
(小泉悠前掲)

小泉氏は、プーチンの「歴史好き」が禍して、ウクライナとロシアを同族視するあまり、ウクライナを侮っていたこと、クリミア簒奪があまりにも簡単に成功してしまったことに気をよくして、二匹目のドジョウを狙ったと見ています。
あまりにも簡単にクリミアを手にしたことが、プーチンの思考を狂わせてしまったようです。

プーチンはこの成功で一躍民族の英雄にのし上がり、磐石の独裁体制を固めたのですが、この万能感こそが罠でした。
スパイ出身で軍事的知識に乏しく、軍隊経験もないのに軍事作戦にクチバシを突っ込み、ゴマスリの制服組だけを周辺に置くスタイルが、プーチン流となっていきます。

プーチンによく似た指導スタイルをとった指導者は、ヒトラーです。

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悪意のレッテル貼りでそう言っているのではなく、国軍との関係が酷似おり、その失敗をトレースしているからです。
素人のプーチンに反対できない軍事官僚たちは、言うなりになったあげく失敗に失敗を重ねていくことになります。

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プーチン大統領の側近たち この戦争はどういう顔ぶれが遂行しているのか - BBCニュース

今やプーチンとロシア軍は、進みたくとも進めず、退きたくとも退けない状況に立ち至ってしまいました。
進めば、戦死者はたちまち2万人台に登り(すでに達しているかもしれませんが)、それは世論の厭戦気分を駆り立てるでしょう。
また退けば、それはプーチンの独裁者の終了を意味します。
また長期持久戦に持ちこもうとしても、それは西側の経済制裁が更に効き、部品を国産化できないロシアの貧弱な製造業は、なにも作れなくなる日が近いのは、ロシア中銀総裁が忠告するように目に見えています。

ひとことで言うなら、打つ手なしです。
理性的な指導者ならば、ここで和平交渉をして、わずかの占領地を確保することで満足するでしょうが、100か0の答えしか持たないこの男は「最後の勝利」まで戦おうとしています。
今、折から戦われようとしているドンバス会戦で勝利をつかめばよし、さもなくば、「最後の勝利」を手にするためには核兵器のボタンに手を伸ばすこともありえる、そうプーチンが考えていたとしてもなんの不思議もありません。

小泉氏はこのように述べています。

「このような膠着状態の中、ロシアが「エスカレーション抑止」と呼ばれる核戦略を取るのではないかとにわかに注目を集めています。エスカレーション抑止は一般的に、次の2つの考え方があります。
(1) 進行中の紛争においてロシアが劣勢に陥った場合、敵に対して限定された規模の核攻撃をおこなって、自身に有利な形で戦闘の停止を強要する。
(2) 進行中の紛争ないし勃発が予期される紛争に、米国などの第三国が関与してくることを阻止するために同様の攻撃をおこなう。
実際のウクライナでの戦況を見ると、ハリコフやマリウポリでは民間人への無差別攻撃がおこなわれ、子供も含めた多くの命が失われている。国民の死に対しては麻痺状態であり、生半可な脅しをかけるくらいでは、事態は打開できないわけです。ロシアが仕掛ける核攻撃は、ウクライナ軍や政府の士気を一気に挫くような、特別な一発でなければなりません」
(小泉前掲)

米国やNATOは、プーチンが核のカードを切る可能性がきわめて高まったと考えています。
ほかに今の袋小路から逃れるすべがないからです。
侵攻をしなければ落し所は数多くあったはずです。
両者不満でも、ミンスク合意に戻ることで折り合えば、戦争は回避可能でした。
何度も書いていますが、プーチンの戦争理由はことごとくいいがかりで、やる必要がない戦争だったからです。
しなくていい戦争を始めたプーチン: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

引き返し可能地点はいくらでもあったのにかかわらず、あえて戦争の道を選び、戦争の拡大に突っ走り、そしていまや戦線を膠着させました。
まったくヘルプレスです。
ブチャなどの大虐殺が発覚した以上、(しかもこれはロシアがしでかした残虐行為のほんの一角にすぎませんが)、ウクライナと自由主義陣営は決してプーチンを許すことはないでしょう。
細い糸のような解決は、ゼレンスキーとプーチンが直接会談することで講和の道を探ることですが、現時点でその可能性は限りなく少ないでしょう。
ただしゼレンスキーは、プーチンが核攻撃することを予想していますから、直接会談には前向きのようです。

では、仮にプーチンが核を使うことを決断した場合、どのようなシナリオがあるでしょうか。
小泉氏は、いくつかのシナリオを提示していますので、参考にしつつ整理しておきます。

私は、これをプーチンの精神状況の段階で考えてみたいと思います。

・シナリオ1・最悪ケース。完全に狂気に陥っている状態。
・シナリオ2・中程度のケース。半ば狂っているが、完全に狂気とはいいがたい中間の状態。
・シナリオ3・理性が残されており、幕僚のアドバイス聞くことができるていどの精神状態。

長くなりましたので、次回に続けます。

 

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ウクライナに平和と独立を

 

2022年5月 5日 (木)

ロシア泥棒軍団

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下っぱたちの戦意低下はぬきさしならないところまできているようです。
彼らはせっせと盗みに励んでいます。

ロシア軍は戦争初期から補給不足のために、地元のスーパーに押し入ったり、民家の空き巣狙いをしていたことが報告されていましたが、それは補給が途絶えて腹ペコだからという言い訳でしたが、いまはそんなかわいいものではないようです。

とうとうここまで来たかというため息がでるようなレベルで、軍は戦争末期になると規律が崩壊し、自軍の物資の奪い合いを始めたり、民家や商店に押し入ったりするようになります。
CNNがこのロシア兵のご乱行を報じています。

「CNN記者:「ここでロシア兵は料理をしていたようです。タマネギ、コーヒー、水や缶が見られます。ロシア軍が無秩序だったのが一番、目を引きました」
首都キーウ周辺から隣国のベラルーシに撤退したとみられるロシア軍ですが、規律の乱れが深刻な状態に陥っているようです。
ベラルーシのメディアが公開した映像です。

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 CNN

これはウクライナ国境に近いベラルーシ・マズィルにある宅配サービス会社の防犯カメラの映像で、2日に撮られたものだといいます。
映像には軍服姿のロシア兵が梱包作業をしたり、大きな荷物のサイズを計ったり、なかには興奮気味に兵士同士で握手をする姿が映し出されていました。
ロシア兵が持ち込んだのは酒や電動スクーター、なかにはウクライナのショッピングモールの袋とみられるものも。

これら品々はロシア兵がウクライナの住宅や店などから略奪したものとみられていて、ベラルーシから母国のロシアへ送られたといいます」
(CNN2月25日)

この日、ロシア兵らが送った盗品は実に2トンに及びぶそうです。
これらをベラルーシか、ロシア国内の盗品拠点に送っているようです。
下の写真は商店に押し入って盗みの真っ最中のロシア兵を監視カメラが撮ったものですが、右の兵隊は戦車兵が被る革製のヘルメットを被っていますから、歩兵だけではなく戦車兵も盗みに忙しいご様子です。

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「ウクライナ国防省によれば、ロシア兵は洗濯機、食洗器、冷蔵庫などの家電から、宝石、美術品、車、自転車、化粧品、子供のおもちゃまで、あらゆるものを持ち去っているという。
明らかに民間人からの略奪であり、強盗によって得たものだと同省はフェイスブックに投稿している。

過去5週間の間に、ロシア兵の電話による会話が多数傍受され、大胆な窃盗の内容が明らかになっているという。
「スーパーマーケットに行くようなもの」という冗談さえ聞かれるほど常態化しているようで、持ち込んだ袋いっぱいに「戦利品」を詰め込み、家族に自慢する会話などが傍受されている。
商店を襲ってアルコール類を手に入れた兵士は、本国のガールフレンドにウクライナのビールの味は最高だと事もなげに話したという」
(英タイムス4月6日)

https://www.thetimes.co.uk/article/pillaging-russian-troops-send-ukrainian-loot-back-home-2jcp9rwjh

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Footage shows televisions, clothing and precious metals being packed up
英国タイムス

特にアップルのIフォンが人気で、ロシア軍が制圧した地域では必ず盗まれますが、GPS盗難機能がついているために、この盗人がロシア軍だとすぐにバレてしまいました。
一般の軍隊では、携帯電話を勝手に持つこと自体が禁じられています。
秘密保全のためにはあたりまえです。
海自で人が集まらない理由は、スマホ使用禁止にあるとか。

ところがロシア軍はスマホが大好きで、通信機器が満足に機能しないために、兵隊同士が勝手に携帯で通信しあって、これをウクライナ軍に傍受されて攻撃をしかけられています。
「おい、イワン、オレの部隊にエライさんが来るってよ。たまんねぇな」なんて他の部隊のダチに通信してしまうそうで、ウクライナ軍は正確な狙撃でお出迎えして、あえなく将官はたった2か月で11人が戦死。
こんな短期間にこれだけの将官の戦死は、戦史上極めて稀な例であるとか。

ロシア兵は戦うのをそっちのけにして、今や職業的窃盗団と化していますから、そこに縄張りや利権が生じて、醜い内部抗争に発展します。

盗みは組織的になり、盗品を巡って兵隊マフィア同士が銃を撃ち合ってのバトルを繰り広げています。
まるで池袋のチャイナマフィアの抗争さながらです。

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「ヘルソン地方のキセリフカでのロシア軍間の銃撃戦に関する報告が届いている。50人のブリヤート人が、チェチェン人がウクライナの家から略奪した品物を盗んだ後、50人のチェチェン人に対して発砲を始めた。FSBが介入する前に双方で死傷者を出した」
(CNN2月25日)

それも得意気に「戦果」をSNSでアップするものですから、恥を世界にさらしています。

大型農業機械も盗まれています。  

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CNN

 ロシア軍が占領したウクライナ南部のメリトポリで、農業機械を販売店から盗んでロシア南部チェチェン共和国に送ったと、現地の実業家が訴えている。しかし盗まれた農業機械は全て遠隔操作でロックがかけられ、使用できない状態だった。民家の略奪の横行に加え、ロシア軍が農業機械や穀物、建築資材を盗んでいるという報告は、ここ数週間で増えている。しかしメリトポリの販売店から農業機械が持ち去られた事件は、ロシア軍の輸送手段まで使った略奪作戦の組織化が進んでいることを物語る。メリトポリは3月上旬以来、ロシア軍の占領下にある。販売店から持ち去られた農業機械は総額約500万ドル(約6億5000万円)相当。コンバインハーベスターだけでも1台30万ドルの価値がある」(CNN5月3日)
CNN.co.jp : ロシア軍が盗んだ大量の農業機械、遠隔ロックで使用不能に ウクライナ関係者証言

このハーベスターには盗難防止のGPSと遠隔ロックシステムがついていたたために、移送先がチェチェンであることがすぐにバレてしまい、遠隔ロックがかかって今はただの鉄の塊と化しているようです(笑)。
歩兵と戦車兵が盗み、それをトラック兵が運搬し、後方の兵隊が売りさばくといった、見事なロシア軍伝統の諸兵科連合です。
戦場ではまるでバラバラでしたが、ここだけは見事なチームワークです。

とうぜん機械が盗まれるくらいですから、穀物は真っ先に盗まれました。

「メリトポリ地域の別の関係者によれば、ロシア軍は穀倉地帯の同地で貯蔵庫に保管されていた穀物も盗んでいるという。
ロシア軍は地元の農家に対して50%対50%の利益分配を持ちかけているが、ロシアに占領された地域の農家は農産物を動かすことができない状態にある」(CNN前掲)

利益を半分よこすなら出荷してもいいぞ、とふざけたことを言っていますが、農家が拒否したためにカントリーエレベーター(収穫用サイロ)は止まったきりです。
また
南部の占領地からは、農作物が強制的にクリミアに移送されています。
戦争とは経済行為であるという古からの掟に、ロシア軍は忠実に従っているのがわかります。

しかしまぁ、たった2カ月間でここまで蛮族化するのですから、ロシアの民度も相当なものです。
一般の軍隊では、こういう兵隊の戦場における非行は野戦憲兵が逮捕しますが、ロシア軍にはそんなシャレた職種はいないみたいです。
それとも憲兵自らも盗みに走っているのでしょうか。

この窃盗は自軍の装備にまで及び、特に高価に売れる戦車の光学機器、電子機器が人気だそうです。
たとえばロシア第4戦車師団では9台だけしか動かず、残りは完全に分解され、エンジンさえなかったそうで、連隊長は悲憤して自殺してしまったそうです。
ロシア軍の連隊長が自殺、部品が盗まれ戦車が使えないことを悲観か? – Switch News(スウィッチ・ニュース) (switch-news.com)

一般のトラックなどでは、部品があまりに頻繁に盗まれるために、整備不良として放棄される車両が増加の一途を辿っています。
ちなみにトラックや歩兵戦闘車のタイヤは、本当はミシュランのコンバットタイヤを使わねばならないのですが、上層部が予算をネコババしたために安物の中国製タイヤで水増ししてしまったそうで、たちまちパンクするわ、ちょとした泥濘でスタックするわ、とさんざんだそうです。
西側の兵站関係者が、ひどいタイヤ使っていますねと感心していましたっけね。

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白樺の木々にかこまれた樹海で眠るロシア、軍用車の墓場 : カラパイア (karapaia.com)

ロシア軍の補給路には必ず、トラックの墓場のような場所が点々と残っていますが、これはウクライナによる攻撃によってではなく、自分の兵隊たちが部品を盗んで動けなくなり、捨てた車両が多く含まれるようです。

戦時になると、平時にため込んできたモロモロのロシア軍の腐敗が一斉に吹き出すということです。
プーチンは、3月に行われたロシアの春の徴兵の一環として、13万4500人の新規徴兵を命じる法令に署名しました。
開戦宣言でロシア青年を根こそぎ戦地に送り込みたいようです。

ところが一般人は兵隊に仕上がるまで2年間を教育に要し、さらに部隊配置されて使えるまで数年かかると言われています。
ですから、数だけ揃えてもそれはただの烏合の衆にすぎないのです。
特に戦車兵などは特殊な分野ですから、これだけ大量の戦車兵を喪失してしまったら、元に戻すだけで数年かかっても追いつかないだろうというのが、西側軍事筋の見立てです。
これではいくら開戦宣言なんかしても、勝てるはずがありません。
銃でおどさないと動かない兵隊と、泥棒を増やすだけです。

アゾフスタル製鉄所にロシア軍を突入させたようです。馬鹿なことを。
たぶん9日までに落とせ、とプーチンに厳命されたのでしょう。
いままで脱出を認めたので、もう市民はいない、残るはネオナチだけだとして皆殺しにするつもりかもしれません。
化学兵器を使う可能性があります。

 

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  ウクライナに平和と独立を

2022年5月 4日 (水)

ロシア軍トップ、死にかける

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ロシア軍の機密漏洩は深刻なようです。
ご承知のように、ひともあろう参謀総長、つまり軍トップのワレリー・ゲラシモフ上級大将が前線視察に来た時、頭上に砲弾が雨あられと降り注いだそうです。

「ワシントン=田島大志】米紙ニューヨーク・タイムズは1日、ウクライナ軍が東部ハルキウ(ハリコフ)州イジュームを訪れていたロシア軍制服組トップのワレリー・ゲラシモフ参謀総長を標的に、集中攻撃を行ったと伝えた。ゲラシモフ氏は直前に立ち去り、攻撃を逃れたという。
同紙がウクライナ軍と米政府高官の話として伝えたところによると、ウクライナ軍は、ゲラシモフ氏の現地入りを察知して4月30日夕、露軍が前線基地にしているとされる学校に激しい攻撃を仕掛けた。ゲラシモフ氏はこの日午前に学校を訪れていた。この攻撃で、露軍の司令官ら約200人が死亡したという」(読売5月2日)

ゲラシモフは事前に逃れていた、いや右足に負傷したとか、色々情報はあるようですが、彼に随伴していた幕僚とアンドレイ・シモノフ少将が戦死したようです。ただしすべて未確認情報です。

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ワレリー・ゲラシモフ 参謀総長
ゲラシモフ参謀総長が滞在する露軍司令部近くで爆発、多くの士官が死亡か (grandfleet.info)

ウクライナは「ゲラシモフでなく、ロシア軍の重要な拠点を狙った攻撃だ」と言っていますが、たぶんとぼけているのでしょう。
狙いましたなんて言ったら、暗号解読ができていることを自白するようなものですからね。

ウクライナ軍の情報収拾能力の高さはつとに有名になっていますが、西側、特に英国のインテリジェンスが全面協力しているといわれていますから、ロシア軍最高幹部が最前線の司令部入りしたという異例の動きも、事前に把握していたと思ったほうが自然です。

ゲラシモフが戦死していたら、局面が変わった可能性があります。
ゲラシモフは参謀総長としてショイグ国防相と並んで、今回のウクライナ侵攻の立案者です。
彼は1999年のチェチェン紛争の指揮を執り、市街地を焼け野原にし、市民を大量虐殺した張本人のひとりです。
プーチンの太鼓持ちで、側近の「プーチン7」のひとりです。
ゲラシモフは今回、ロシア軍が大苦戦した責任で俵に足がかかっていましたので、最前線までノコノコやってきたのでしょう。
ここで討ち取られてしまうことの損失は、ウクライナ戦争の趨勢に大きく影響するところでした。

このウクライナ軍の正確な砲撃は、いくつかの点でロシア軍の背筋を凍らせたはずです。
最大の恐怖は、ゲラシモフがこの時間に、このイジュームの第2緒兵科連合司令部に来ることがバレていたことです。
だとすると、大戦中に山本五十六が南方戦線視察途上で待ち伏せ攻撃によって戦死した事件のように、ウクライナはロシアの暗号を完全に解読していたことになります。
もちろんロシア軍は大慌てで暗号を変更したことでしょうが、一度解読された暗号はきわめて脆弱となって簡単に再び解読されてしまいます。
あまりにも将官クラスの戦死が多いのは、ひょっとしたらそうとう初期の段階から暗号はダダ漏れだったのかもしれませんね。
地形的な問題もありますが、あまりにもロシア戦車隊や補給部隊が待ち伏せ攻撃で大損害を出すことが多いのも、なんとなくうなずけます。
もちろんウクライナ軍は、暗号を解いていた、なんてオクビにも漏らさないでしょうから、事実がわかるのは誰かが回顧録を書くまでのお楽しみとになります。
私はロシア軍と情報関係者の中に英米の協力者がいるのに、100ルーブル賭けます。

第2に、ゲラシモフが攻撃を受けた場所がイジュームだったことです。

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ロシア国内で飛び交う「戦争」の言葉…プーチン氏また「誤算」、長期戦へ世論誘導か : 国際 : ニュース : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

イジュームは、ロシア軍が東部ドネツク、ルハンスク両州の全域制圧を目指すための集結拠点ですから、そこに設置した司令部がウクライナにピンポイント砲撃を食らっているということは、ロシア軍の東部戦線に安全地帯はもはやないということです。

しかしまだロシア軍は全面崩壊するには至っていません。
小川清史元西部方面総監(陸将)が、このような意見を述べています。

「通常戦力をもってきたロシア軍も、瓦解はしていないと思います。じゃないとこんなに、司令官クラス、少将クラス、准将クラスが全面に出て行って頑張っているわけですから、犠牲を払ってでも。
このラインというのは、結局、政治に対して軍のコントロールがきいていて、やる気も見せている、ただ兵士のレベルまでいくと十分教育訓練できていないかもしれないという問題はあるとしても、これがガーっと崩れるという風には私は見ていないので、後は政治決着をどれ位に持っていけるか。軍としてやれることはほぼやりましたと」
(5月3日)
自衛隊の元空将と元陸将が分析「ロシア軍はなぜ苦戦するのか?」(堀潤) - 個人 - Yahoo!ニュース

なるほど、しかし私はプーチンの「政治決着」は極めて難しい、というか到底飲めないようなことしか言わないでしょうから、ありえないと思います。
すると残るは、小川悠氏がいうように、プーチンは座して滅亡を待つより、小型核の使用に踏み切る可能性が出てきたとおもいます。
これについては稿を改めます。

※記事後半はテーマが別なので、切り離して明日に掲載します。

 

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ウクライナに平和と独立を 

 

2022年5月 3日 (火)

プーチン、開戦宣言の目的とは

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プーチンという男は頻繁にゴールポストを動かす人物です。
ウクライナ戦争当初は、ウクライナ東部の傀儡政権を支援するという名目で戦争ならぬ「特殊軍事作戦」として、「平和維持軍」と悪い冗談のような名を自称をしていました。
ところがこの「平和維持軍」は、キーウ攻略を目指してあえなく失敗。
すると「信頼醸成」といういう、これまた苦しい言い訳を言いながら撤退しました。
この後に残されて、世界が知って驚愕したのがブチャ大虐殺でした。

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悪夢の「ブチャ虐殺」生存者の証言...住宅街で起きた処刑、性暴力、拉致の一部始終|ニューズウィーク日本版(newsweekjapan.jp)

すると今度は東部と南部を結ぶ要衝マリウポリを攻めたてましたが、守備隊がアゾフスタリ要塞に立て籠もって頑強な抵抗をすると、「ハエ一匹逃がさぬ」とかいいながら突入断念。
ハエ一匹どころか、既に百数十人の市民が決死の脱出に成功したようです。
これが2回目のゴールポストの移動です。

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BBC https://www.bbc.com/japanese/61295458

そしておそらく3度目が近いと予想されています。
プーチンは、5月9日のなんじゃら記念日にウクライナに宣戦布告することです。
おいおい、じゃあ今ロシア軍が1万3千とも5千ともいわれる甚大な被害を出して戦っているウクライナ戦争はなんなの、とういうことになりますが、ま、それは置きます。
きっとこれは「戦争」ではなく、ただの「軍事行動」なのでしょう。言葉遊びですね。

「「短期間に成果を得られなければ、大規模動員の可能性を排除できない」と述べた。露軍が長期戦に向けた準備を進めている兆候もあるという。
 ウォレス氏は4月28日の英ラジオ番組で、ロシアがウクライナ侵攻を「特殊軍事作戦」と称してきたことに触れた上で、プーチン氏が戦勝記念日に、ウクライナへの「開戦」を表明するシナリオを挙げた。正式な戦争に切り替えれば、予備役の大量動員が可能になる一方、明確な「戦果」を上げるまで終戦が困難になる。
ウクライナ国営通信によると、国防省報道官は、露軍が東部ドネツク、ルハンスク(ルガンスク)両州(ドンバス地方)の制圧作戦で、「短期間に成果を得られなければ、大規模動員の可能性を排除できない」と述べた。露軍が長期戦に向けた準備を進めている兆候もあるという。
ウォレス氏は4月28日の英ラジオ番組で、ロシアがウクライナ侵攻を「特殊軍事作戦」と称してきたことに触れた上で、プーチン氏が戦勝記念日に、ウクライナへの「開戦」を表明するシナリオを挙げた。正式な戦争に切り替えれば、予備役の大量動員が可能になる一方、明確な「戦果」を上げるまで終戦が困難になる」
(読売5月2日)
ロシアが9日に「開戦」宣言か、大規模動員が可能…長期戦に向け準備の兆候 : 国際 : ニュース : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

たぶん、モスクワは長期戦になることを想定していると思われます。
というのはシナリオが、そう幾通りも描けないからです。
それは今まさに戦われようとしている、ドンバス突出部をめぐる大規模会戦でどちらが勝者となるかでおおよそ決定します。

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【詳報】ウクライナ侵攻17、4月22~28日(日本時間)の動き [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

高橋杉雄・(防衛省防衛研究所防衛政策研究室長)の分析を基にして考えていきます。
ウクライナ「運命の3週間」となる「ドンバス会戦」の行方:高橋杉雄 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト)

第1のシナリオは、ロシア軍がドネツク北部のウクライナ軍主力を包囲殲滅した場合です。
この場合、ロシアはルハンシク、ドネツク両州を完全に制圧できるのは当然として、ウクライナ軍が継続戦闘能力を喪失してしまいます。

ロシア軍は勝利後再編成を行って、今ウクライナ軍が奪還しつつあるヘルソンからマリウポリ、さらには未征服のオデーサへと矛先を向けて、懸案のJ字型ロシア支配地域を完成させ、モルドバの親露傀儡地域(自称「沿ドニエステル共和国」)と連結しようとするでしょう。
オデーサ攻略が成功すれば、ここでウクライナに停戦協議を持ちかけるかもしれません。
ここまでロシアが完全勝利することは考えにくいのですが、いちおう最悪シナリオとして可能性としてはありえます。

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第2が、ウクライナ軍の反攻が勝利した場合です。
ロシア軍がウクライナ軍主力の包囲に失敗し、またイジューム周辺の攻防で敗退した場合、軍事バランスの振り子は大きくウクライナ側に傾きます。
ウクライナ軍は占領地奪回を精力的に行い、ハルキウ周辺、ミコライウからヘルソン、あるいはドンバス方面ではマリウポリやメリトポリの奪回作戦が行われ、ロシア軍を駆逐していくことでしょう。
これが最良シナリオです。

現在世界各国から多くの支援物資が到着していますが、そうとうに楽観にすぎると思いますし、仮にドンバス地域で勝利してもウクライナ軍はロシア軍すべてを国境の外に叩き出すまで戦闘を継続するでしょう。
叩き出さずに占領地を認めてしまった、そこを事実上のロシア領にされて、国土が分断されてしまうからです。

第3に、どちらも決定的勝利を収められなかった場合です。
この場合は、戦線は硬直してしまい長期の膠着状態に入ります。
この膠着状態においては、互いに強固な防御陣地つくって対峙を続ける長期の消耗戦となります。
実は西側軍事筋はこの可能性が高いと見ているようです。

西側軍事筋だけではなく、プーチンもそう考えているフシがあります。
この場合、国家総動員体制を宣言するために開戦宣言をすることになります。
国家総動員令体制を取ると、徴兵によって大量に予備役の招集や新兵を粗製濫造することが可能です。
つまりロクな装備も与えず、満足な訓練もしない兵隊に、銃だけを握らせて、敵陣に突撃させるという、ロシアの古典的人海戦術が復活するかもしれません。

すでに一部ではその徴候がみられ、5月1日、ドンバス地域において強固に守備を固めて待ち受けているウクライナ軍陣地に向けて、ロシア歩兵が少数の戦車に随伴されて突撃をしたようです。
結果はもちろんフルボッコです。

「5月1日のドネツクとルハンシク地域では、ウクライナ軍が10回のロシアのファシスト攻撃を撃退した。
ウクライナの防御側は、2両の戦車、17両の砲兵システム、38両の装甲車と10両のその他の車両を破壊した。
防空ユニットは7機のUAVを撃墜した」
https://twitter.com/mhmck/status/1520871732076322817

10回もの突撃をしたということ自体、ロシア軍指揮官が極度に焦燥しているとしか思えません。
まるで第1次大戦の西部戦線のようですが、こういう人海戦術もどきの戦法を取った場合、たちまち戦死者と負傷者が山のように築かれます。
既にロシア軍は戦死者1万3千人(英国防省推定)で、負傷者はその4倍として5万2千人、合わせて6万5千人規模の損害を出していると考えられています。
いまでもロシア人のトラウマとなり、ソ連崩壊の一因となったアフガン10年の戦死者がそれでも1万5千人ですから、わずか2か月でそれに並んだのです。

ウクライナの発表した数字ではその倍で、戦死者2万3,500人となっています。

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https://twitter.com/UKRinJPN

とりあえず英国の数字をとるとしても、投入されたロシア軍全体が19万として34%の損害率ですから、通常の軍隊では戦闘能力を失った状態、すなわち「全滅」と判定されます。
士気はどん底で、兵隊は虐殺行為や盗みやレイプに走る者が増えています。
このような状態で戦闘を継続することは、民主国家では不可能です。
しかし、今やロシアがこのような損失を省みない自爆的攻撃方法をとり始めたということに注目下さい。
あるいは、塹壕戦で長期持久するていどなら新兵で充分だと考えているのかもしれません。
いずれにしても、そのためには兵隊の頭数が要ります。
そのために、国家総動員令に向けた開戦宣言が必要なのでしょう。

また西側の経済制裁はまだ本格的に効いていない状態です。
これは経済制裁という性格上いたしかたがないものですが、それがプーチンを強気にさせています。
本来、経済がわかる指導者ならば引け時を心得ているもので、落とし所を探ろうと模索するでしょうが、この男は経済と政治の境目がわかっていないために、政治的欲求を優先させます。
結果、行くところまで行ってしまいます。
たぶんプーチンは、自身が政治的に打倒されるまで戦争を止めないでしょう。
そして反プーチン勢力は微弱です。

英国王立連合軍防衛安全保障研究所はこのように見ています。
https://www.twitlonger.com/show/n_1ss15jb

「現在ロシアが抱える最大の問題は、兵站であり、兵站の機能不全が現在の戦況を生んでいる。そして、西側の経済制裁に関しては、エネルギーを持つロシアに有利に働いている。しかし、経済制裁というのは一種の兵糧攻めであり、即効性よりも遅行性が高い性質を持つ、緩やかに様々なものの欠品が本格化する。
その上で、エネルギー大国であるロシアであるが、その実態は決して安定したものではない。エネルギーサービス三社が撤退すれば、新規の油田カス電の開発もできなくなり、既存の設備も3月3日の米国制裁、そして、各国の制裁協力により滞ることになる。現在、ロシアの様々な施設で事故が発生しているが、これもサービス三社の撤退決定と、補修部材などの不足による可能性も高い」

つまり、長期化することの経済的リスクはかぎりなく大きく、それが継戦能力を削いでいくわけですが、プーチンは知ってか知らずか長期戦を選んだのです。
おそらく長期膠着状況に持っていければ、占領地でのロシア化も進行させることができ、国際社会の関心もそのうち低下するだろうから、J字型支配地域のクリミア化も可能かもしれない、経済はそこまで経済官僚どもにケアさせればなんとかなる、そうプーチンが算盤を弾いているとしても不思議ではありません。

この狂気に陥った男によって、更に地獄は延長されるのです。

 

●新緑の季節ですので、衣替えしました。

 

 

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ウクライナに平和と独立を 

2022年5月 2日 (月)

ウクライナ危機とキューバ危機を一緒にするな

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ジャンク情報の屑籠に入ったと思いきや、やはり生きていたのが、「逆キューバ危機説」です。
新聞広告で見ましたが、今月号の某宗教団体系論説誌は、特集に「ゼレンスキーは英雄じゃない」「ウクライナはキューバ危機だ」とデカデカと出しているようです。
ここまでプーチンが残虐非道をくりかえしても懲りない人たちです。
まぁゼレンスキーを英雄視しようとしまいと、主観の問題ですから置くとしても、客観的に解明できることにまで主観を持ち込んでしまっては困ります

え、誰の主観かって?もちろんロシアの主観にきまっています。
この「逆キューバ危機説」も、「東進脅威説」や「不拡大約束説」にしても、情報が幾重にもロンダリングされて来るために、どこかの識者がこう言っていると思い込んでいる人がいますが、出元はすべてロシアです。

日本でこれを言い始めたのは、ガルージン駐日ロシア大使です。

ガルージン駐日ロシア大使
「もしウクライナがNATOの加盟国になるとすれば、例えばモスクワまでのミサイル到達時間が数分間まで短縮されてしまう。それは明らかに脅威ですよ」
駐日ロシア大使単独インタビュー “ウクライナNATO加盟は脅威”:TBSニュース

これが侵略の理由というわけです。
脅威ならば侵略してかまわない、これは堂々正義の予防戦争だというわけです。
9.11以降、大量破壊兵器の拡散阻止を唱えた米国のイラク戦争もこのロジックを使っていました。
予防戦争とはこのように定義されています。

「9.11同時多発テロ以降論議されるようになった軍事戦略。従来型の先制攻撃論ではなく、危害を防止するために先制攻撃の前の段階で行う予防的行動である。従来の先制攻撃は今まさに攻撃しようとする意思を持った対象に適用されるものとされてきた。
緊急状況下での国家によるこの種の軍事行動は、自衛権の先制的行使として一定程度認められている。
予防的軍事行動は現時点で直接的な危険はなくとも将来的な危険性を防ぐための軍事行動であるが、もし各国がみなこの権利の行使を主張するなら、国際秩序の維持は不可能なものとなるだろう。最も重要な課題は脅威の定義や認定の基準、手続き方法、対抗手段を規定する仕組みを国際間で作り上げることといえる」
(野口勝三 京都精華大学助教授)

このように予防戦争論は、定着した安全保障政策ではないのです。
というのは、各国がすべてがこの予防戦争論を採用した場合、てんでの身勝手な都合で国際秩序を破壊するすることが可能となってしまう危険があるからです。
予防戦争論はもっと議論を絞り込んで練る必要がある未成の安全保障論なのです。
ましてや核大国であり、かつ、常任理事国で拒否権を持つ国が徒に予防戦争は権利だ、と主張するほど危険極まることはありません。

もっともガルージン大使は「外国軍が喉元に持ち込むのがけしからん」ということで、キューバ危機を例に出したようですから、外国軍持ち込みだとしたらどうでしょうか。
たしかに、キューバではR-14中距離弾道ミサイルを32基キューバに配備する予定でした。
それをケネディに止められて、ことなきを得たという話でした。

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「1962年のキューバ・ミサイル危機が始まる前、ソ連は32機のR-14 IRBMと16発の発射装置を搭載した2つの連隊をキューバに配備することを計画していた。米国が島の検疫を宣言した時までに、24発の1メガトンの弾頭が到着していたが、ミサイルや発射装置はまだ出荷されていなかった。核弾頭は撤去され、R-14のキューバへの配備は危機が解決した後キャンセルされた」
(ウィキ)

つまり、かつて米国はオレらに喉元にミサイルを突き付けられるのを拒否しただろう、今度はお前がウクライナに弾道ミサイルを配備しようとしているのだから予防的にウクライナを侵略してかまわない、というリクツです。
成り立つわけないでしょう、こんなリクツ。
ロシアが予防戦争論者の国であることは知れ渡りましたが、日本の親露派の皆さん、このロジックを認めるとたいへんなことになりますが、気がつかないのでしょうか。

たとえば今安倍氏が提唱している「非核三原則」を放棄し、ニュークリアシェアリングに踏み切っただけで、日本はシベリア・ロシアの喉頸に刃を突き付けたと判断されるでしょう。
そしてロシアは外国軍の核配備は脅威だから、日本を侵略してかまわないということになってしまいます。
たしかこの宗教団体系政党は、非核三原則の撤廃と独自核武装を提唱してきたはずですから、それを実現したとしたら、ロシアが侵略する口実を与えたということになりはしませんか。

仮に米国がウクライナにそんな射程距離が短い短距離弾道ミサイルを配備するとなると、PrSM短距離弾道ミサイルしか存在しません。
PrSMは核攻撃を目的として作られた弾道ミサイルではなく、通常弾頭しか搭載しない射程500~700㎞の戦術ミサイルにすぎません。Eqx2l4rucamfgto
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こんなちいさな戦術ミサイルをロシアの首都に発射しても、軍事的にはなんの意味もありません。
たちまちモスクワの周辺に張りめぐらされているS-300対空ミサイルシステムで、あえなく撃ち落とされるのがオチです。
だからこんな馬鹿馬鹿しいことを、米国は考えてもいません。

では、この1962年のキューバの状況が、2022年のウクライナに当てはまるか具体的に考えてみましょう。
結論から言えば、ゼンゼン重なりません。
キューバ危機はこのブログでも何回か取り上げていますが、米ソが核戦争一歩手前まで行ってかろうじて回避した事件でした。

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キューバ危機から世界を救った「米ソ交渉」緊迫の13日間|

このキューバ危機は1962年ですから、60年も前のことです。
当時と今の弾道ミサイル技術とは雲泥の差があります。
敵中枢を狙うために、もうこんなに近づかなくていい、というかむしろ近づきすぎた配備の方こそ危険なのです。
近づきすぎれば、発射場所を探知されて、逆にミサイル攻撃や空爆などで事前にやられてしまいますから、離れて配備するほうがよいのです。
しかし1962年当時は、弾道ミサイル技術が乏しかったので、できるだけ相手国に近づく必要があった、それで喉元のキューバまで前進配備したのです。

通常、核保有国が核保有国の敵国の心臓部を狙うためには、長射程かつ破壊力が大きいICBM、ないしは中距離弾道ミサイルを使用します。
核保有国同士が弾道ミサイルで首都を狙う以上、一発で仕留めねばならないからです。
そしてそれらは、ロシアからはるかに離れた米本土か、海中に潜ませており、仮に危機が高まったので前進配備せねばならないとしてもギリギリドイツの線です。

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それなのに、どうしてウクライナをNATOに入れてまで弾道ミサイルを配備せにゃならんのか不思議です。
百歩譲ってモスクワを狙うためにウクライナを加盟させたとしても、もっとロシアに近いフィンランドは即時加盟承認を受けていますし、ウクライナとほぼ等距離のバルト三国にもNATO軍が配備されます。
それなのになぜモスクワまで数秒と飛翔時間が違わないウクライナに、弾道ミサイルをわざわざ配備せねばならないのか、サッパリ私には理解できません。
ただしこれらの諸国への中距離・短距離弾道ミサイルの配備予定はないのですから、未加盟のウクライナにあるわけがないのです。
事実として、東欧へのミサイル配備計画は、ポーランドとルーマニアへのミサイル防衛システム(MD)の配備に止まっていて、攻撃的弾道ミサイルは配備されていません。

ビアスに言わせると、「外交官は祖国のために嘘をつくのが美徳だと考える職業」だそうですからガルージン大使はいいとして、私たち日本人がそれをまねる必要はありません。
安易にロシアのウクライナ侵略を肯定すると、次はわが身だということをお忘れなきように。

 

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キーウの独立広場
ウクライナに平和と独立を 

2022年5月 1日 (日)

日曜写真館 揺るるかな揺るるかな花ポピーとは

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ひなげしの花びらを吹きかむりたる 高野素十

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ひなげしの曲りては立ち白き陽に 山口青邨

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朱のポピー朱のバラ瓶に寒明くる 山口青邨

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野のポピー夕となれば朱に凋む 山口青邨

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ポピー咲く帽子が好きで旅好きで 岡本眸

 

 

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