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2022年5月17日 (火)

ウクライナ戦争は世界食料危機をもたらす

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今回のウクライナ戦争は、世界の食糧供給にメガトン級の衝撃を与えました。
私たち日本人にはまだまだそのほんとう の衝撃波は届いていないのですが、最初の波は既に中東とアフリカを襲っています。
理由はひとつで、ウクライナ戦争の結果、小麦、トウモロコシ、ひまわり油の供給が激減してしまったからです。

世界の食料価格は、過去最高のペースで上昇し続けています。

「世界の食料価格は2月に過去最高に達した。ロシアのウクライナ侵攻で農産物貿易に混乱が生じており、食料コストは今後さらに上昇する公算が大きい。  国連食糧農業機関(FAO)が算出する世界食料価格指数は侵攻前ですでに2011年に記録したピークの近くにあった。侵攻後、世界的な穀倉地帯として知られる黒海地域からの輸出は混乱に陥った。穀物や植物油の価格は過去最高もしくは数年ぶり高値に跳ね上がり、消費者と政府に一層のインフレ圧力をもたらしている。飢餓が世界的に悪化する恐れもある」
(ブルームバーク3月5日)

下図はFAO(国連世界食糧機構)が出した世界市場の食料価格指数ですが、2月に4%近く上昇しました。
既にウクライナ戦争前から食品コストは2020年半ば以降で50%余り上昇していたところに、今回のウクライナ戦争が追い打ちをかけた形になりました。
食品価格上昇は小麦だけには止まらず、ウクライナが世界最大のひまわり油生産地だったために、植物油の価格までもが高騰した影響が大きいようです。

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https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-03-04/R88FNZDWX2PT01

原因はロシアが世界第2位のウクライナの穀物輸出を、海上封鎖によって止めてしまったからです。
そして穀物輸出第3位が当の原因を作ったロシアです。
下図をご覧いただくと、米国はブッチギリですから別にするとして、二位三位が今回の被侵略国と侵略国だということが判ると思います。

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朝日gloveプラス

ロシアとウクライナは欧州を支える穀倉地帯です。
ふたつの国が輸出している食糧は、世界で消費されるカロリーの実に12%を占め(国際食糧政策研究所による)、世界の穀物市場において小麦の約30%、トウモロコシの約20%、ひまわり油の80%以上の原産国は、ロシアとウクライナです。

この両国がウクライナ戦争で大打撃を被ってしまいました。
食糧経済の専門家の比喩を使えば、米国地図からアイオワ州とイリノイ州の二大穀倉地帯がいきなり消滅したようなものだそうです。
下図はウクライナのトウモロコシ生産地域の分布図で、2022年3月末時点のロシアの支配地域、侵攻地域(点の分布)を重ねたものです。

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https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-04-05/R9VC65T0G1LF01

「ウクライナの農場地帯では、秋の収穫期から倉庫に蓄えられ出荷を待つトウモロコシが合計1500万トンに上る。
その半分程度は外国に輸出されるはずだったが、買い手への引き渡しは難しさを増している。およそ1200億ドル(約14兆7500億円)の規模を持つ世界の穀物取引で、ウクライナとロシアは合わせて約4分の1を占める。両国からの供給の乱れは、すでに問題化していたサプライチェーンの障害や運賃の高騰、異常気象などと相まって、世界が食糧難に陥るとの見通しを強めている」
(ブルームバーク4月6日)

ウクライナ南部のアゾフ海の輸出港がロシア軍に押えられ、かろじて占領を免れたオデーサですら沖合をロシア海軍に封鎖されているために使用不可能な状態です。
穀物輸送船を運営する船会社は、安全のためにアゾフ海沿岸の港には入港することを拒んでいます。
これは仮にこの海上封鎖が解けても、ロシアが敷設した機雷などの危険があるために、安全を確認するために相当の時間を要するはずです。
これによって昨年秋に収穫されて保管されていた小麦などの出荷が、不可能となりました。

下写真はマリウポリ港の穀物積み出しの風景です。
いまだにウクライナ軍が頑強な抵抗を続けるアゾフスタル製鉄所のすぐ横にあり、現時点ではロシア軍が支配しています。

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A cargo ship at the Port of Mariupol, loaded with grain destined for Turkey, in the month before Russia’s invasion of Ukraine
ブルームバーク

鉄道による内陸からの輸出ルートもあるにはありますが、ウクライナの鉄路はソ連式の広軌なために、積みかえねばなりません。

そしてさらに、この保管してある穀物は、ロシア軍が生活インフラを集中的に破壊しまくったために電気が供給できず、貯蔵庫内の換気システムや温度調節システムがダウンしている状況です。
これからの夏の高温に向けて品質が非常に不安です。
いったん腐敗やカビが部分的にでも始まると、瞬く間にサイロ全体に及ぶからです。
下写真は、2018年に撮影されたウクライナ・ユージヌイの穀物ターミナル倉庫内のトウモロコシですが、このような大規模穀物貯蔵施設は電気を切られた場合、その維持が死活問題となります。

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ブルームバーク

また国土が戦場となってしまったために、畑で働く農家や農業労働者が圧倒的に不足しています。
労働力だけではなく、トラクターやコンバインの燃料も不足しているために播種や刈り取りができません。

肥料も世界最大のカリ肥料輸出国が、こともあろうにロシアのために、供給がストップして、今後も見通せない状況です。
全世界のカリウム生産の20%を占めるロシアの輸出が困難になれば、価格がさらに上昇することは間違いありません。
この肥料の価格高騰の影響は、日本も含む世界中のあらゆる農業地域に及ぶでしょう。

ウクライナ農業としては、ここでどのように判断するのか、頭を悩ませていることでしょう。

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日経

一方、穀物輸出第3位ロシアも散々です。
自業自得で同情するに値しませんが、ロシア船籍の船舶はヨーロッパ各地で入港を禁じられているために禁輸状態です。
ロシアの輸出食糧は、パンの材料となる小麦が占めています。

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朝日globalプラス

穀物輸出は影響が大きいためにまだ制裁対象ではありませんが、欧米の銀行はロシアと関わる貿易業者への融資を渋っています。
欧米諸国の政府に罰金を科されたり、ロイズが保険を渋ったりすることを恐れているからです。
ですから、貿易業者はロシア貿易には近づきたがりません。
つまり貿易業者がいみじくも言うように、ウクライナは「手が届かない」のに対し、ロシアは「手が出せない」状況、というわけです。

一方ウクライナの穀物は小麦とトウモロコシが主力ですが、ウクライナは旧ソ連域内の輸出からEU向け輸出にシフトしています。
せっかくヨーロッパで販路を伸ばしたところで、今回の侵略に合ってしまい、ウクライナの農業生産者は地団駄踏んでいることでしょう。

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朝日globalプラス

そしてこの両国にとって、ヨーロッパに次ぐ販路が、実は中東でした。
世界人口のうち8億人が黒海地域からの小麦に依存しているために、低価格のロシア、ウクライナ産穀物に依存してきた中東や、トルコ、エジプト、アジアの一部の国々の食糧事情を直撃することでしょう。
特に、依存度が高いシリアやレバノンでは、ウクライナ産小麦が半数を占め、その上にひまわり油、大豆までもがウクライナに頼っていました。
このような国はまだまだ多く、これらの国から食糧パニックが開始されるはずです。

 

 

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オレストさんがアゾフスタリでカールシュ・オーケストラの曲「ステファニヤ」を歌っている。

ウクライナに平和と独立を

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コメント

アゾフスタリ製鉄所、とうとう無力化ですか…これで、ウクライナの東南部が繋がって奪還はさらに厳しくなり、内陸国化がさらに進む…ハルキウ奪還と釣り合いが取れるのでしょうか。

覚悟を持って申請したスウェーデンとフィンランドも、トルコに梯子を外されてしまって。本当に、ならず者ばかり得をする世の中ですね。

アゾフスタリが陥落したかのようなニュースは、ロシアのプロパガンダですからときをつけましょう。
あれは負傷者を搬出しただけです。
宇軍参謀本部も「命を救え。任務は達成された」としていますが、それが投降命令なのかどうかいまだ不明です。
いずれにしても,この守備隊は、ウクライナ軍が欧米空の支援装備を得るための貴重な時間を稼ぎだしたことだけは間違いありません。
「我々は捨て石だが、犬死にではない」という彼らの合い言葉を思い出します。

そうですね、いずれにしても敬意を表さずにはいられません。

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