バイデン、台湾有事の軍事的に関与にイエスと言う
いささか旧聞になりましたが、日米首脳会談とザ・クアッドが同時に終了しました。
岸田氏とバイデンの両人は、このウクライナ侵攻下の状況で、よくやっていると評価できます。
特に多くの方も指摘するとおり、この日米首脳会談で、米国人記者の「台湾侵攻した場合、米国は軍事的に関与するのか」という質問に対して、明確に米国から「イエス」という答えを引き出しました。
これだけで、もう後はいらないくらいの成果です。
リアルタイムでテレビで受け答えを見ていた私は、思わずへぇーと叫んでしまったほどです。
「両首脳は東京・元赤坂の迎賓館でワーキングランチも含めて2時間以上会談した後、共同記者会見に臨んだ。日米のプレスや政府高官が見守る中、バイデン氏は中国が台湾に侵攻した場合に軍事的に関与するか記者に問われ、断言した。
「イエス。そういう約束だ」
台湾有事の際の対処を明らかにしない歴代米政権の「あいまい戦略」を逸脱するもので、「首相を含め、あの場にいた人は誰も予想していなかった」(日本政府関係者)。実際、会見場で発言を聞いていたブリンケン国務長官やサリバン大統領補佐官らは顔を寄せ合い、相談を始めた」
(産経5月25日)
日米首脳共同声明「自由で開かれた国際秩序の強化」全文: 日本経済新聞 (nikkei.com)
テレビでは後ろにいたブリンケンやサリバンの顔まではわかりませんでしたが、ここで閣僚たちが平然としていては役不足です。
この場合、側近たちの仕事は漫才のボケ役ですから、ツッコミをした大統領に仰天してみせねばいけません。
で、その後ブリンケンはオースチン国防長官とともに「米国の方針は変わっていない」という軽い修正をかけています。
いつものパターンです。大統領が、「ロシアは潰す」と米国の本音を言えば、閣僚がその「失言」を修正してみせる。
「台湾防衛は武力で関与する」と言っても同じ。
大統領が本気かハッタリなのかわからない「暴走」をすると、閣僚がまぁまぁ、とのここはひとまず、と引き止めてみせる、というわけです。
トランプの時も似たパターンがありましたが、暴走王だったトランプなら、ああまたやってるね、済ますことができましたが゛言った主がバイデンというリベラルの眠い奴、ときには親中派とさえいわれてきた人物が同じことを言うと、妙に破壊力が増してしまいます。
結果、メッセージは増幅されて相手国に突き刺さるという、ズルイといえばズルイ。狡猾と言いたければ言え。
米国はこちらから一線を超える気はないが、中国がロシアのような振る舞いをすれば、躊躇なく武力でお相手するということです。
日米共同声明は、こんな強いトーンで中国に警告を発しています。
「日米両国は、ルールに基づく国際秩序は不可分であり、いかなる場所における国際法及び自由で公正な経済秩序に対する脅威も、あらゆる場所において我々の価値と利益に対する挑戦となることを確認する」
(日米共同声明)
日米首脳共同声明「自由で開かれた国際秩序の強化」全文: 日本経済新聞 (nikkei.com)
声明文にはたった一行に「あらゆる」と「いかなる」が重複して使われています。
これは一般論デハてく、ウクライナ侵攻を受けて自由主義陣営がかつてなく団結して戦っている今言っているから価値があります。
日米豪印のクアッドの共同声明にも反映されています。
【速報】「クアッド」首脳会談、岸田首相が会見…「力による一方的な現状変更は許してはならない」:写真 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)
「我々は、ウクライナにおける紛争及び進行中の悲劇的な人道的危機に対するそれぞれの対応について議論し、そのインド太平洋への影響を評価した。4か国の首脳は、地域における平和と安定を維持するという我々の強い決意を改めて表明した。
我々は、国際秩序の中心は国連憲章を含む国際法及び全ての国家の主権と領土一体性の尊重であることを明確に強調した。我々はまた、全ての国が、国際法に従って紛争の平和的解決を追求しなければならないことを強調した。
4か国は、自由で開かれたインド太平洋のビジョンを共有する地域のパートナーとの協力にコミットしている」
(ザ・クアッド共同声明)
日米豪印首脳会合共同声明|外務省 (mofa.go.jp)
このザ・クアッドの共同声明は、日米共同声明のこの部分と呼応しています。
「両首脳は、ロシアの行動を非難し、ロシアがその残虐行為の責任を負うことを求めた。両首脳は、ウクライナの主権及び領土一体性に対する支持を改めて確認した。岸田首相及びバイデン大統領は、国際社会の結束の重要性を強調し、ロシアに長期的な経済的コストを課すために志を同じくする国々と共にとる、金融制裁、輸出管理及びその他の措置を含む制裁を通じて、ロシアの侵略に対処する中でウクライナの人々との連帯を表明した」
(日米共同声明)
中国が台湾を武力侵攻するなら、ロシアに科している「金融の核爆弾」(金融制裁、輸出管理などの制裁)をするぞというメッセージです。
そしてその担保に、米国は武力関与することに「イエスだ」と一歩踏み込んで見せました。
この日米共同声明が、すこぶる効いた証拠に、中国はロシアと語らって、日本周回爆撃機ツアーをしてみせてくれました。
こういう時は、眠い顔をして大人然としているもんですよ、習大人。
トランプ支持の方々も、ここは両首脳をスタンディング・オベーションで迎えるべきでしょう。
ただし、ザ・クアッドはまだ出来てまもないので、やることが明確になっていないふわふわしたゆるやかな連合でしかありませんから、水やりとケアが大切な段階です。
インドに一定の配慮をしてこういう穏やかな表現に止めています。
「両首脳は、国連が、人権の尊重を含む、国連憲章に規定された共通の原則と普遍的価値に立脚した、ルールに基づく国際秩序の基盤であるとの認識を共有した。両首脳は、ロシアによるウクライナへの侵略を非難し、国連人権理事会の資格を停止するという前例のない世界的な結束を国連加盟国が示したことを称賛した。
両首脳は、国連安全保障理事会(UNSC)が加盟国を代表して国際の平和と安全の維持に主要な責任を有することを認識し、ロシアによる常任理事国としての無責任な行動と拒否権の乱用、特に他の加盟国に対する侵略についての説明責任から逃れようとする試みに深い憂慮を表明した」
(日米共同声明)
インドへの水やり人として、政府は安倍氏を任命しました。
ともすれば離れていきかねないインドに、安倍氏をおいてこの適任はいないでしょう。
「明治時代に設立され、日本とインドの経済・文化的交流を促進してきた親善団体「日印協会」の新旧会長交代式が24日、東京都内のホテルで開かれた。近く森喜朗元首相が退任し、新会長に自民党の安倍晋三元首相が就任。6月に正式決定する」
(時事5月24日)
これは安倍氏がインドをザ・クアッドに引き込んだ張本人だからです。
彼は訪印した際に、オープンカーでパレードまでしてもらった歓待ぶりでした。
リムジンじゃなくてジムニーなのがご愛嬌ですが、これはスズキが最初にインドに根づいた外国自動車会社だからです。
安倍首相、沿道から手厚い歓迎 インド到着 - 読んで見フォト - 産経フォト (sankei.com)
また首脳会談では、国連改革についても合意しています。
「岸田首相と米国のバイデン大統領は23日の首脳会談で、安全保障理事会を含む国連の改革と強化の必要性で一致した。バイデン氏は安保理改革が実現した場合、日本が常任理事国に入ることに支持を表明。会談終了後、発表された共同声明にも盛り込まれた」(読売5月23日)
バイデン氏、日本の常任理事国入りを「支持」…国連改革の必要性で一致 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)
現時点でこれはリップサービスの域を出ません。つまり接受国を喜ばして見せたサービスにすぎません。
残念ですが、まずもって敵国条項の含まれる国連憲章を改正する必要があり、この手続きだけでも気の遠くなるような時間を要することでしょう。
国連総会での改正案の採択には全加盟国の3分の2の賛成票を得る必要がありますから、中国の息がかかったアフリカ・アジア諸国は反対に回ることは必至です。
そのうえにこの加盟3分の2の国が、自国の憲法手続きに従って批准を完了しなければ効力が生じません。
したがって、米国の支持だけではどうにもならないわけです。
そしてそもそも集団的自衛権を否定した憲法を持つ国に、その資格はないはずですから、改憲してからまじめに考えましょう。
岸田さん、そこまでやり切って下さいね。
またトランプが構想していた第2国連結成のシナリオもありますが、どうかな、バイデンはそこまでは想定しているとは思えません。
たぶん常任理事国からのロシアの追放ていどは考えているはずですが、さてどうやるか。
このことについては、別の機会に考えてみたいとおもいます。
それはさておき、私が岸田氏に案外やるなと思ったのは、ほかに二つあります。
ひとつは防衛費増額までバイデンに言い切ったことで、国際公約となりました。
「岸田首相は23日、東京・元赤坂の迎賓館で、米国のバイデン大統領と会談した。ロシアのウクライナ侵略が、東アジアで覇権主義的な動きを強める中国に影響を及ぼすとの懸念がある中、日米同盟の抑止力と対処力を早急に強化する方針で一致した。首相は防衛力の抜本的な強化のため、防衛費の「相当な増額」を確保する決意を伝え、バイデン氏は歓迎した。被爆地・広島市で来年の先進7か国首脳会議(G7サミット)を開催する方針も表明した。 対韓姿勢についてこう釘を刺していることです」
(読売5月23日)
岸田首相「防衛費の相当な増額」伝える…対中国、日米同盟の抑止力強化で一致 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)
これで公明がなんと言おうと、後戻りが難しくなりました。
安倍氏は7パーセント前後とまでアドバルーンを挙げていますが、最大の敵は財務省です。
もうひとつは日韓関係について、よけいなおせっかいをして日韓関係を最悪なものに導いた過去がある民主党政権に、もう余計なことはしてくれるな、と釘を刺したことです。
「岸田文雄首相とバイデン米大統領が23日に行った首脳会談は、軍事や経済面で日米の脅威となっている中国への対応に多くの時間を割いた。さらに、首相はいわゆる徴用工訴訟や慰安婦問題を抱える韓国について、国家間の合意を無視してきた過去の経緯を挙げながら、日韓の関係改善に前のめりになるバイデン氏を説得した」
(産経前掲)
バイデンが日米韓の三国連携の引き出物として韓国への媚態を示するのではないかという危惧がありましたが、老婆心だったようで、なによりです。
バイデンが帰って、岸田さんがまた「検討することを検討する」モードにもどらないことを祈ります。
ウクライナに平和と独立を
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コメント
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バイデンの失言の数々は最初のうちはボケてるんじゃないかと言われていましたが、ここまで何度も繰り返すのはワザとやっているとしか思えませんね。
中国も反応するにしても今の情勢下で露軍と共同でやらかしたのは悪手でしかないと思うのですが、そんな判断もままならないくらい今のキンペー体勢は混乱しているのかもしれません。
防衛費の増額に関しては財務省は強硬な反対をしないと思っています。
なぜなら消費増税への格好な言い訳になりますので…
投稿: しゅりんちゅ | 2022年5月28日 (土) 11時11分
「日米が中露と戦争しようとしている」論者から、道端の石に躓いても「アメリカが悪い!」な人や陰謀論者まで、縋って崇めて燃料にしたいであろう、出所した重信房子たんの御託宣
https://www.teny.co.jp/nnn/sp/news91h43im5n9v0lztxwd.html
「正義」や「大義」のためなら、どんな戦術をとってもかまわない、そんなかつてのあり方を反省、と言っているけれど、ロシアと中共がやっていることには言及無しなので、もちろんまだ信用しない。
結局アメリカが悪いんで後は頼んだと言われた気がする…と支持者に受け取らせ得るので、これは託宣と考える由。
でもそんな話に時間を浪費するのは勿体無い状況ですから、我が国政府にも合衆国政府にも、抜かり無く整えていって頂戴ねと思っておりまする。
投稿: 宜野湾より | 2022年5月28日 (土) 21時25分
長い間、米中の接着が両者からの「日本叩き」の原因となった時代がありました。
今は米中離反が本格化して、日本は中国側からの主たる標的になる立場に変わっています。困難な時代ですが、本来のきわめて真っ当な構図に戻ったとも言える。
岸田さんは上っ面は上手い事を言い、約束もしますが、それを今度は100%実行して頂かなくてはなりません。中途半端にしてスキを見せるなら、今度こそ日本の安全保障は危うい事になります。
そのためには、足して二で割る政治とは決別して、必要な事は必ずやるという自民党に変わってもらわなくてはならないですね。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年5月28日 (土) 22時39分