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2022年5月10日 (火)

ロシア軍がダメなのはT-72のせいではなく、練度とヤル気

004

 終わってみれば、なーんだの「戦勝記念日」でしたね。
私は4時からリアルタイムであの死ぬほど退屈な演説を聞いていました(涙)。

腹部にガンをもらっているという噂が濃厚なプーチンは、結局開戦宣言もせず、核戦争にも言及せず、妙にまとも。
まぁこのままダラダラやるということでしょうか。
次回、もう少し考えてみます。

さて先日来、メディアはこぞって「ビックリ箱戦車」のことを取り上げています。

CNNがT-72のことを被弾すると砲塔が5階くらいまで飛ぶというのでついたあだ名が「ビックリ箱戦車」(Jack in the BOX)だったのがこの戦車の情けない一生の始まりでした。

Jack-in-the-box effect(Wikipedia)

メディアのネタ元のCNNも書いていますが、T-72が「ビックリ箱」の特技を持っているのは、ずいぶんと昔の湾岸戦争の頃からですから、かれこれ30年以上も昔前から知られたことです。
素人の私でさえだいぶ前から知っていたほどです。
まるで「ビックリ箱」、ウクライナで戦うロシア軍の戦車が抱える設計上の欠陥とは(CNN 4月29 日)

30年前には、T-72という新鋭戦車を前にして、米軍の戦車兵らはどんな怪物がでてくるのかとドキドキしていたものです。
スペックだけ見ると、T-72は西側戦車がたじたじとなるようなものでした。
T-72は、当時の西側諸国の主力戦車の主砲であった105mmライフル砲よりも強力な125mm滑腔砲を装備していますから、ドツキ合いになったらどう見てもT-72の勝ち。
また装甲も、世界に先駆けて鋼鉄にセラミックやガラス繊維などをサンドイッチした複合装甲を車体前面に採用するなど、72年当時は押しも押されもせぬ世界最優秀の戦車でした。(ウソみたいですがホントです)

ところが登場から20年後の1991年の湾岸戦争で、当時の米軍のM-!Aカイブラムスや英国のチャレンジャー1と対戦すると、まっかく歯が立たずに屈辱の1ラウンドKOを喫してしまいます。
しかもやられっぷりが派手で、砲塔ごとチュドーンと吹っ飛ぶのですから、この時ついたあだ名がJack in the BOX。
以来、一貫して世界で中露がからむ軍事紛争には必ず登場する渋いバイプレイヤーであるにもかかわらず、やられメカ役が染みついてしまいました。気の毒なこってす。

Generalstaffofthearmedforcesofukraine720

ウクライナ国防省

このネガティブ・イメージが強烈すぎて、T-72はさっぱり輸出が振るわなくなってしまいました。
しかも折り悪しくもソ連崩壊がダブってきますから、輸出品が軍事製品と原油とキャビアしかないロシアにとって死活問題でした。
そこで作ったのが、T-72の防御力と攻撃力と機動力をアップさせたという触れ込みのT-90でした。
早い、安い、うまい(かどうかしりませんが)ということで、けっこうベストセラーとなって、インドには実に3000両も買ってもらっています。
このへんもあって、インドはロシアとの腐れ縁が切れないのです。
今回のウクライナ侵略でも、まだ目が覚めないみたいで、困ったものです。
こんどのクアッド首脳会合で米豪に大いに言われて下さい。

ところが、輸出元のロシア軍はなぜかT-90より、T-72愛が強かったとみえて、幾度も改良に改良をテンコ盛りして使い続けています。
なんなんでしょうね、たぶん安いし、手慣れているのがよかったのか、ロシア陸軍はT-90の調達を減らして、T-72改造型のT-72B3Mへの改修を優先しました。
今でもロシア陸軍の主力はあいかわらずT-72B3Mですが、これがは開戦と同時に25%の損害をだして、いまやウクライナはロシア戦車の墓場とまでいわれるようになってしまいました。


原因は30年前から変化せず不動です。
CNNも書いていますが、砲塔が吹き飛ぶというアッパレなやられ様の原因は、砲塔の床下に砲弾を積んでいるからです。
板子一枚下は爆弾なのです。

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T-72の車内配置(1)操縦手、(2)車長、(3)砲手、(4)自動装填システムと弾薬保管庫   Wikipedia

ですからいったん被弾するとなると、床下にリング状に搭載した40発の砲弾にたちまち誘爆し、爆発エネルギーは衝撃波となり、直上の砲塔を吹き飛ばしてしまうという悲惨なことになります。
直撃しなくてもたちまち引火して誘爆するそうです。オー、こわ。
もちろん乗員は苦しむ暇もなく吹き飛ばされてしまいます。ロシア軍の戦車兵にだけはなりたくありませんね。

これはロシア製の戦車特有の現象で、欧米日の戦車では発生することはないとされています。
というのは、西側の戦車設計者は弾薬庫にブローオフパネルという特殊な遮蔽版を設けて、爆発を逃がす仕組みがあるからです。
また米国のM1系列の戦車は、下図のように自動装塡を採用せずに装填手が壁で隔てられた弾薬庫から一発ずつ砲弾を取り出して主砲へ装填します。
そのつど隔壁は閉まるために、仮に被弾しても砲塔内には1発しか弾がないために砲塔内の誘爆リスクはミニマムです。

Cnfmuumaaa_te

https://twitter.com/tank10907461/status/756499212515147777

米国防総省が指摘するように、ウクライナ戦争でもウクライナに投入されたT-72B3Mは撃破されまくりました。
やられるもやられたり、ウォーレス英国防大臣は、その数を最大580台と発表しています。
ウクライナ側は4月30日に、戦車1000台、装甲車両2500台と発表していますから、固いところで戦車だけで600台以上は撃破されたと思われます。

Генеральний штаб ЗСУ / General Staff of the Armed Forces of Ukraine / 4/18 Facebook


ロシアは2020年には公式には13000台の戦車を保有してダントツ世界一ですが、大部分は保管状態が劣悪で使い物にならず、その数には大戦中のT-34まで含まれていたそうです。
ロシアメディアによれば稼働状態にあるのが2685台ていどだそうです。
ざっくり20%の戦車が、ウクライナでスクラップになってしまったことになります。
ちなみに我が国は減数し続けて667台、英国は227台ですから、ウォーレス大臣の国の戦車なら3回全滅しなければならない甚大な数字です。

ロシアもこのT-72の欠陥をわかっているはずですが、1992年に投入したT-72の後継型のT-80やT-90も同様の被弾にきわめて弱く、乗員保護が欠落した欠陥はそのままのようです。
この欠陥はレイアウトという本質的なものですから、改修しようがないのです。

では、どうしてこんな危ない砲弾の積み方をしているのでしょうか。
それは戦車のドクトリン(製造哲学)が違うからです。
ロシア戦車のコンセプトは、1台1台を安く上げて数で勝負というのが哲学です。
ですから装甲を西側からみれば貧弱にした代わりに、被弾面を最小にするためにきわめて車高が低いクラウチングスタイルを採用しました。
結果、薄べったい車体は天井が低く、まるで寝るような姿勢での運転を強いられ、装填手も省いて自動化するという極限まで切り詰めたために、因縁の弾薬庫は床下にしかレイアウトできなくなったのです。

この製造コンセプトは、相手がシリアやチェチェンのようなマトモな対戦車ミサイルを持たない武装戦力だった時期には目立ちませんでした。しかし、それがきわめて頑強な正規軍だとウクライナ軍相手のようにまったく違ったのです。
ウクライナ軍が多用する米国製ジャベリンや英国製NLOWは、トップアタック機能を持っていますから、いったんホップしてから戦車の泣きどころの砲塔上部めがけて落下してきます。

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一見頑丈そうに見える戦車も、天井はハッチがあるために厚くできず、床下まで厚い装甲に覆ってしまうと機動力が悪くなってしまいます。
だからトップアタックと戦車地雷は戦車の天敵なのです。
しかもジャベリンはタンデム弾頭といって、直列で2つの弾頭が一本のミサイルに納まっているという底意地の悪さ。
どんな厚い装甲もたてつづけに2発食らうわけですから、無事では済まず、狙われたらほぼ確実に撃破されてしまいます。

哀れ「やられメカ」呼ばわりされるT-72に代わって弁解すれば、現在、ジャベリンを撃たれて無事な戦車は世界ひろしといえど存在しません。
砲塔直上から食らったら、米国のM!でもチャレンジャーでも、はたまた10式でもやられてしまうはずです。
ですから、これだけT-72がやられたのは、あながちビックリ箱だけが原因ではないのです。
ロシア軍がよく動画でみるように、大きな道を機甲部隊が縦隊で長蛇の行進をするような無防備なまねをしているから、対戦車ミサイルの好餌となってしまいます。
本来は歩兵を随伴して、周囲を警戒しながら慎重に進むべきなのです。
下の写真は、ロシア軍戦車が2列で未知の市街地に侵入した時のもので、ウクライナ軍のドローンが撮影した動画も残っています。
左右から対戦車ミサイルで狙われ、
最初の攻撃で隊長車が被弾して炎上すると後続の戦車はてんでに逃げまどって更に損害を拡げています。
信じられないような練度の低さだと西側軍事専門家は言っていましたが、ロシア軍の劣化は海軍だけではないようです。
つまりロシア軍は「ビックリ戦車」が原因で弱いのではなく、軍隊そのものが根っこから腐っているのです。

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ウクライナ首都郊外でウクライナ軍、ロシア戦車隊を急襲か - BBCニュース

最後にもうひとつ、ウクライナ軍も同じT-72を使っていますから、念のため。
基本的にウクライナの軍編成も装備もソ連式です。
それに2014年以降、NATOと米軍の協力で西側スタイルで徹底的に訓練をしたのです。
しかし装備類はロシシアと一緒です。
3月24日、ブリュッセルで開催されたNATO首脳会議にオンライン参加したゼレンスキーが「みなさんは、合計して少なくとも約2万両の戦車を保有しています。そのうち1%の200両で結構ですので、わが国に譲ってください」という訴えをしていますが、この戦車は欧米の新型戦車ではなく古式ゆかしいT-72です。

結局、最後は戦術と闘争心、それを支える大義なのです。

 

 

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ウクライナに平和と独立を 

 

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コメント

戦争宣言すれば自称「特殊軍事作戦」の失敗を認めた事になるのでできずじまいで終始西側諸国&NATOに対する愚痴だけに終わった演説でしたね。
ベラルーシやカザフスタンの首脳なども欠席したとの話なのでよほどプーチン政権の求心力が落ちているか、見られたくないものを見せないためにあえて呼ばなかったのか…

いずれにせよ継戦するしか道はないがその道もいつまで続くかわからないというロシアの事情がよくわかるイベントだと感じました。

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