ロシア軍がダメなのはT-72のせいではなく、練度とヤル気
終わってみれば、なーんだの「戦勝記念日」でしたね。
私は4時からリアルタイムであの死ぬほど退屈な演説を聞いていました(涙)。
腹部にガンをもらっているという噂が濃厚なプーチンは、結局開戦宣言もせず、核戦争にも言及せず、妙にまとも。
まぁこのままダラダラやるということでしょうか。
次回、もう少し考えてみます。
さて先日来、メディアはこぞって「ビックリ箱戦車」のことを取り上げています。
CNNがT-72のことを被弾すると砲塔が5階くらいまで飛ぶというのでついたあだ名が「ビックリ箱戦車」(Jack in the BOX)だったのがこの戦車の情けない一生の始まりでした。
Jack-in-the-box effect(Wikipedia)
メディアのネタ元のCNNも書いていますが、T-72が「ビックリ箱」の特技を持っているのは、ずいぶんと昔の湾岸戦争の頃からですから、かれこれ30年以上も昔前から知られたことです。
素人の私でさえだいぶ前から知っていたほどです。
まるで「ビックリ箱」、ウクライナで戦うロシア軍の戦車が抱える設計上の欠陥とは(CNN 4月29 日)
30年前には、T-72という新鋭戦車を前にして、米軍の戦車兵らはどんな怪物がでてくるのかとドキドキしていたものです。
スペックだけ見ると、T-72は西側戦車がたじたじとなるようなものでした。
T-72は、当時の西側諸国の主力戦車の主砲であった105mmライフル砲よりも強力な125mm滑腔砲を装備していますから、ドツキ合いになったらどう見てもT-72の勝ち。
また装甲も、世界に先駆けて鋼鉄にセラミックやガラス繊維などをサンドイッチした複合装甲を車体前面に採用するなど、72年当時は押しも押されもせぬ世界最優秀の戦車でした。(ウソみたいですがホントです)
ところが登場から20年後の1991年の湾岸戦争で、当時の米軍のM-!Aカイブラムスや英国のチャレンジャー1と対戦すると、まっかく歯が立たずに屈辱の1ラウンドKOを喫してしまいます。
しかもやられっぷりが派手で、砲塔ごとチュドーンと吹っ飛ぶのですから、この時ついたあだ名がJack in the BOX。
以来、一貫して世界で中露がからむ軍事紛争には必ず登場する渋いバイプレイヤーであるにもかかわらず、やられメカ役が染みついてしまいました。気の毒なこってす。
ウクライナ国防省
このネガティブ・イメージが強烈すぎて、T-72はさっぱり輸出が振るわなくなってしまいました。
しかも折り悪しくもソ連崩壊がダブってきますから、輸出品が軍事製品と原油とキャビアしかないロシアにとって死活問題でした。
そこで作ったのが、T-72の防御力と攻撃力と機動力をアップさせたという触れ込みのT-90でした。
早い、安い、うまい(かどうかしりませんが)ということで、けっこうベストセラーとなって、インドには実に3000両も買ってもらっています。
このへんもあって、インドはロシアとの腐れ縁が切れないのです。
今回のウクライナ侵略でも、まだ目が覚めないみたいで、困ったものです。
こんどのクアッド首脳会合で米豪に大いに言われて下さい。
ところが、輸出元のロシア軍はなぜかT-90より、T-72愛が強かったとみえて、幾度も改良に改良をテンコ盛りして使い続けています。
なんなんでしょうね、たぶん安いし、手慣れているのがよかったのか、ロシア陸軍はT-90の調達を減らして、T-72改造型のT-72B3Mへの改修を優先しました。
今でもロシア陸軍の主力はあいかわらずT-72B3Mですが、これがは開戦と同時に25%の損害をだして、いまやウクライナはロシア戦車の墓場とまでいわれるようになってしまいました。
原因は30年前から変化せず不動です。
CNNも書いていますが、砲塔が吹き飛ぶというアッパレなやられ様の原因は、砲塔の床下に砲弾を積んでいるからです。
板子一枚下は爆弾なのです。
T-72の車内配置(1)操縦手、(2)車長、(3)砲手、(4)自動装填システムと弾薬保管庫 Wikipedia
ですからいったん被弾するとなると、床下にリング状に搭載した40発の砲弾にたちまち誘爆し、爆発エネルギーは衝撃波となり、直上の砲塔を吹き飛ばしてしまうという悲惨なことになります。
直撃しなくてもたちまち引火して誘爆するそうです。オー、こわ。
もちろん乗員は苦しむ暇もなく吹き飛ばされてしまいます。ロシア軍の戦車兵にだけはなりたくありませんね。
これはロシア製の戦車特有の現象で、欧米日の戦車では発生することはないとされています。
というのは、西側の戦車設計者は弾薬庫にブローオフパネルという特殊な遮蔽版を設けて、爆発を逃がす仕組みがあるからです。
また米国のM1系列の戦車は、下図のように自動装塡を採用せずに装填手が壁で隔てられた弾薬庫から一発ずつ砲弾を取り出して主砲へ装填します。
そのつど隔壁は閉まるために、仮に被弾しても砲塔内には1発しか弾がないために砲塔内の誘爆リスクはミニマムです。
https://twitter.com/tank10907461/status/756499212515147777
米国防総省が指摘するように、ウクライナ戦争でもウクライナに投入されたT-72B3Mは撃破されまくりました。
やられるもやられたり、ウォーレス英国防大臣は、その数を最大580台と発表しています。
ウクライナ側は4月30日に、戦車1000台、装甲車両2500台と発表していますから、固いところで戦車だけで600台以上は撃破されたと思われます。
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戦争宣言すれば自称「特殊軍事作戦」の失敗を認めた事になるのでできずじまいで終始西側諸国&NATOに対する愚痴だけに終わった演説でしたね。
ベラルーシやカザフスタンの首脳なども欠席したとの話なのでよほどプーチン政権の求心力が落ちているか、見られたくないものを見せないためにあえて呼ばなかったのか…
いずれにせよ継戦するしか道はないがその道もいつまで続くかわからないというロシアの事情がよくわかるイベントだと感じました。
投稿: しゅりんちゅ | 2022年5月10日 (火) 11時39分