トルコとはけじめをつけるべき時期です
トルコの出しているNATO参加容認条件がわかってきました。やはりセコイ。
ロシア官営メディアのスプートニクは、こう伝えています。
「現時点で、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟に賛成できないと表明している唯一の国がトルコである。トルコは、テロ組織とみなすクルド人武装組織を支援しているとして両国を非難している。加えて、このスウェーデンとフィンランドは、2019年にトルコがシリアに侵攻し、クルド人勢力の一掃に乗り出した際に、制裁を科した国である。ブルームバーグのデータによれば、トルコ政府は、NATO加盟を申請したフィンランドとスウェーデンに対し、トルコが求める30人のテロリストの引き渡し、ロシアから地対空ミサイルS400を購入した後に発動された制裁の解除、そして最新鋭ステルス戦闘機F−35共同開発計画への参加などへの同意を両国受け入れの条件として提示した」
(スプートニク5月211日)
フィンランドとスウェーデンがNATO加盟を正式決定 知っておくべきこととは? - 2022年5月21日, Sputnik 日本 (sputniknews.com)
制裁の解除くらいは言っても、F-35なんて細かいことまで言わないかと思ったのですが、やはり出してきました。
馬鹿な話です。ロシアの高性能対空ミサイルシステのS-400を導入してしまったら、米国製ステルスを入れられるはずがないでしょうに。
S-400は、ウクライナ戦争にも投入されている最新鋭のロシア対空システムですが、ロシアがこんなお宝を売ってくれること自体に下心を感じないほうがどうかしています。
現代において、その国の最先端の武器体系を「買う」という意味は、軍事的な従属化、あるいは系統下に入ることを意味します。
国防の最新の秘密情報を開示してもらえるわけですから、それが代償となります。
小は自動小銃から大はこのような高性能ミサイルシテスムまで、大国はそうやって小国の安全保障の根幹を支配し、自らの陣営を作ってきました。
日本が海自のイージスシステムを導入できたのも、日本が米国ときわめて緊密な軍事同盟を結んで一体化しているからです。
ロシア兵器導入で米制裁の恐れ 「クアッド」一角のインド:時事ドットコム (jiji.com)
このS-400の場合、複雑なシステムを動かすには、トルコ側からロシアへ訓練に行き、ロシアからは操作と整備のための技術要員を派遣し合わねばなりません。
そこから人脈が生まれ、政治的なパイプができ、その国の中に勢力を築き上げ、やがて準同盟関係に、そして本格的同盟関係へと発展していきます。
その動きはトルコ内部で既に始まっているはずですが、このようにその国の高度の軍事システムを移植することは、その国に長い期間の「つながり」を作ってしまうことを意味します。
いわばトルコはNATOの一員でありながら、敵から武器を売ってもらうという二股をかけたわけです。
で、米国が怒るまいことか。報復として、直ちにF-35の供与を中止してしまいました。
もちろんS-400の中でF-35を飛ばしたら、そうとうなことまでステルスの秘密が暴露されてしまうからです。
そしてそれ以上に、ロシアのNATO分断策に乗ったトルコを制裁しないわけにはいかなかったのです。
かんじんのNATOはおとがめなしというところが、ルトワック翁がいう偽薬となってしまったNATOの情けなさでした。
当時のメルケルNATOは、ロシアを敵と考えなくなりつつあったのです。
ただし面白いのは、かといってトルコがロシアの従属国家になったわけではないという点です。
ロシアが旧ソ連圏のしゃもない独裁国に作らせた、CSTO(集団安全保障条約機構)に属する、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンなどとは違って、いちおうNATOに属する「主権国家」の立ち位置を持っています。
そのうえこれら旧ソ連圏諸国は正規軍が1万人ていどの弱小ですが、トルコは人口6千万人に対して65万人のNATO第2の兵員数ですから堂々たる軍事強国です。
このCSTOについて小泉悠氏は、その性格をこう説明しています。
「ロシアにとってのCSTOとは、特定の驚異に備える同盟ではなく、ロシアへの忠誠度を示すインディケーター(尺度)なのです。ロシアの同盟に入ると「親藩」扱いとなり、譜代や外様よりも忠誠度が高いとみなされるわけです」
(小泉悠『ロシア点描』)
ロシアから見た、国際社会の色分けはこのようなものです。
ロシシアにとって、米国というスーパーパワーと半世紀以上の戦いを続けてきたということの自負は大変なもので、冷戦の中で育ち、その終了期に青年期を終わったプーチンという男にとって、冷戦は決定的体験でした。
ソ連が崩壊したの後にロシア国内に生まれたは一斉に雪の下から割って出たような民主主義、協調外交という芽がでていました。
しかし、政権を握ったプーチンがとったのは「大国への回帰」という方法でした。
国力が回復しない前には爪を隠して西側と協調してみせ、原油の高騰によって棚からぼた餅風に大国にふさわしい軍備が回復するやいなやロシアをリーダーとするCSTOという「ロシア勢力圏」を作り、米国とNATOに対峙させようとしました。
kremlin.ru / CC BY 4.0 CSTO集団安全保障評議会
小泉氏によれば、この国際社会の階層をプーチンはこう見ています。
第1のグループは超大国です。米国、ロシア、中国などは強大な核を持つ国家で、かれらだけが真の意味での「国家主権」を持ちます。
第2は、これらの選ばれし超大国に追随する従属国グループです。このグループには核を持つ「半主権国」英仏と、それ以外の非核同盟国が属し 連枝、親藩から外様まで幾階層に分かれています。
ちなみに、わが日本はこのグループに属し、アメリカ幕府の親藩待遇です。
連枝としては英国、カナダ、オーストラリアなどのアングロサクソン系ファイブアイズが位置します。
ですから、いくら安倍氏が「ウラジミール、きみと私は同じ未来を見ている」と叫んでも、馬鹿か、こいつはとプーチンは思ったであろうと小泉氏はシビアです。
第3のグループは、インドやトルコのような反米意識をもつ主権国家で、「友好国」としてケースバイケースで協調したり反目できるゲーム相手という扱いになります。これが協商関係国家です。
「協商は互いに心を許していなからこそ成り立つということです。
むしろ、互いにいつ裏切られたり攻撃されるかわからないという恐怖心があるからこそ、相手を完全に怒らせないように気を使いあう。
マフィアのボス同士がよほどのことがないかぎり相手のシマを犯したり、メンツを潰さないように配慮し合うことに似ています」
(小泉前掲)
ロシアにとって、トルコが他のNATO諸国と区別されていることにご注意ください。
たとえば2017年以降、米国はロシア製武器を買った国には制裁を科すとしており、多くの国が制裁を恐れてロシア製武器の購入を手控えたのですが、例外が2国現れました。それがトルコとインドです。
インドは、ロシアからの兵器買いを止めず、ウクライナ侵攻に際して表だっての非難はせずに、ロシア産原油の輸入量はむしろ8倍にはねあがったほどです。
ザ・クアッドに入って世界を驚かせましたが、かといってインドは米国ジュニア・パートナー(格下の同盟国)にはなる気はさらさらないし、あくまで独立した大国でいたいのです。
小泉氏は、インドのロシア研究者から「日本は対中包囲網の一角としてインドに期待しているようだが、インドにはその意志はない」とまでいわれたそうです。
インドは恒久的に自由主義陣営に加担するわけではなく、今はザ・クアッドのカードを切ってみたていどのようです。
インドも平然とS-400を導入しています。
NATO加盟「同意せず」 トルコ、北欧2カ国に不満:時事ドットコム (jiji.com)
トルコもインドに似ています。
トルコは、ロシアから武器を導入してみたり、今回北欧2国のNATO加盟について拒否権を発動するというトンデモをやって我を張っています。
トルコは、権威主義国家(全体主義国家)として、ロシアと親和性を持ち、かつてのトルコ帝国の復権の野望を持つ点で、プーチンとエルドアンはよく似ています。
ちなみに、エルドアンがNATO加盟国でありながら、EU加盟を許されないのは、主に財政規律がデタラメで高インフレだからです。
それはエルドアンがイスラム原理主義的発想で、カネを稼ぐ自由主義経済を憎んでいるからです。
これでトルコ経済はガタガタになっていますが、いかに国民が苦しんでも意に介さないようです。
またオスマントルコ帝国への復権を目指す点は、イランと好一対です。
イスラム研究者の飯田陽氏は、この二国の類似点をこう書いています。
「・かつての帝国の中心であった。
・政治的イスラムと反欧米、半近代を組み合わせた政権によって統治されている。
・覇権国家となることをめざし、他国への領土親藩や軍事攻撃を行う拡張主義外交政策を実行している」
(飯田陽『中東問題再考』)
このようなトルコは冷戦期に、ソ連の弱い下腹を扼し、かつ黒海の首根っこであるボスポラス海峡を持つ戦略的要衝に位置したが故に、半ば成り行きでNATOに加わることを認められました。
いまでもその地政学的役割は決して低くはないので、西欧としてはNATOには入れても、以下の基準を満たさない国はEUに加盟させる気はないのです。
それは国連憲章第2章4条の「平和を愛する国家」という概念です。
1991年、ソ連圏が崩壊したことにともなって多数の国家群が生まれたことに対応して、EUが定めた「東欧及びソ連邦における新国家の承認の指針に関する「EU宣言」があります。
この宣言が、EUが加盟の許諾をする基準です。
①法の支配、民主主義、人権に関して国連憲章及びヘルシンキ最終議定書等を尊重すること。
②人種的民族的グループ及び少数民族の権利を保障すること。
③既存の国境の不可侵を尊重すること。
④関連軍備規制約束を受け入れること。
⑤国家承認及び地域的紛争に関する全ての問題を合意によって解決すること。
つまり、人権、少数民族の権利の尊重、国境の不可侵、軍備縮小、紛争の平和的解決などを、EUは国家要件として定めたことになります。
トルコはすべての項目でアウトです。
EU諸国としては実はトルコにはNATOも出て言ってほしいのでしょうが、あいにく対露関係でそうも言えない、だからズルズルここまできてしまったのですが、そろそろトルコとけじめをつけるべき時期になりかかっているのは確かなようです。
なぜなら、このウクライナ戦争とは自由主義同盟と全体主義国家との価値観をめぐる戦いだからです。
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ウクライナに平和と独立を
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