185_275

プーチンが何をいうのか注目されていた「対独戦勝利記念日」を前に、またもやネオナチ論をもちだしました。
まったく懲りない男です。

「ロシアのプーチン大統領は8日、第2次大戦で当時のソ連がナチス・ドイツの侵略に打ち勝ったことを祝う9日の対ドイツ戦勝記念日を前に旧ソ連諸国の首脳や国民にメッセージを送り、「人々に戦争の災禍をもたらしたナチズムの復活を許さないことが共通の義務だ」と強調した。ロシア大統領府が発表した」
(5月6日共同)

懲りないといったのは、つい数日前に、このウクライナ=ナチス論でイスラエル首相に謝罪したばかりだったからです。
それを言ったのは、ロシアの外務大臣・セルゲイ・ラブロフで、この人物は外交官として終了しました。
というか、ロシアは世界の外交の舞台から、これで追放されたと考えてよいでしょう。
それくらい度はずれて狂った発言だったのです。
今頃になって、イスラエル首相から抗議の電話をもらって、プーチンが謝罪しても遅いのです。
プーチンは即座にラブロフを更迭し、イスラエルに出向いて土下座するくらいの不始末です。
国連は常任理事国の任を解き、追放されても文句がいえないような発言です。

では、ラブロフは何を言ったのでしょうか。
例の得意のウクライナ=ネオナチ論がことの発端です。
「ロシアがウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチの集団だ」と主張していることに、これまでユダヤ系のゼレンスキー大統領は強く反発してきました。これについてロシアのラブロフ外相が「ヒトラーにもユダヤ人の血が入っていた」と発言したことから、イスラエルも猛烈に反発し、ロシアとの非難の応酬に発展しています。
ロシアのプーチン政権は、ウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチ集団だ」と主張し、ウクライナを非ナチ化するとして軍事侵攻を正当化していますが、これにユダヤ系のゼレンスキー大統領は強く反発しています。
これに対してロシアのラブロフ外相は1日公開されたイタリアのテレビ局とのインタビューのなかで、「『ゼレンスキー大統領がユダヤ人であるならナチ化するはずがない』というが、あのヒトラーにもユダヤ人の血が入っていたのでそのような主張はまったく意味がない」と、持論を展開しました」
(NHK5月4日)
「ヒトラーにユダヤ人の血」 ロシア外相発言にイスラエル反発 | NHK | ウクライナ情勢
このNHKの要約は、このラブロフ発言の核心をはずしています。
実は、ラブロフはこう言っているのです。
※5月1日、イタリアのテレビ番組「Zona Bianca」におけるインタビュー
https://www.nbcnews.com/video/lavrov-s-comments-about-hitler-and-antisemitism-condemned-by-israel-139084357912
伊東乾 無知で野蛮・冷酷なロシアを世界に知らしめたラブロフの失言 「ヒトラーはユダヤ人」発言で安保理常任理事国から追放も| JBpress によりました。ありがとうございました。
K10013610951_2205040346_0504061933_01_03
ラブロフ外相 NHK 

「ウクライナのゼレンスキー大統領は主張する。「いったいいかなる<ナチ化>が可能だと(ロシア側は)言うのだろう? 私自身がユダヤ人だというのに」と。
しかし、私の記憶が正しければ、いや、間違っているかもしれないが、ヒトラーもまたユダヤ系の出自を持っていた。だから(ゼレンスキーの)主張は、およそ意味をなしていない。
私はかつて、賢明なユダヤ系の人々から聞いたものだ。最大の反ユダヤ主義(アンティセミティズム)はユダヤ人自身から出てくる

政治的に敵対した者に対して安易に「ヒトラー」とか「ナチス」とレッテルを貼って悦に入るのは左翼業界の常套手段で、日本でも共産党系がよく安倍氏にやっていたことですが、ロシアはこれを戦争の大義にまで昇格させてしまいました。
プーチンは、このウクライナ戦争の大義を、「ネオナチからの東部2州の住民の保護」に上げているくらいです。 
ゼレンスキーはネオナチであり、ネオナチの力集団のアゾフ連隊を手先にしてジェノサイドを働いている、というのがプーチンの言い分です。
日本でもプーチン支持者たちは、執拗に同じことを喧伝していましたが、反論するのも馬鹿げたことなので無視しましょう。
ただひとこと岸防衛大臣がロシアに対して言ったように、「ナチスはあなた方のほうだ」と言っておけばよい。

そもそも、ヒトラーがユダヤ人であるかどうかは、すでに科学的には決着がついていることです。
なにを今さらの話で、ウライナの開戦理由にナチスをもって来ること自体が異常なのです。
このような安易なナチスのレッテル貼りは、
伊東乾氏によれば自らのことを北方ゲルマンだと信じているロシアエリート階層らの差別的本音から来ているとみています。
つまり自分らは誰よりも根強くユダヤ人を差別しているからこそナチスを嫌悪する、という裏返しの差別意識の現れなのです。

「実はこれとて、金髪碧眼の多い旧ソ連のロシア・エリートたちの間で戦後長らくささやき続けられた話の一つでしかありません。
ただ、国外持ち出しは不可、ロシア国内専用の<ホンネの風聞>です。
それを絶対に話してはいけない西側メディアのインタビューで老ラブロフは漏らしてしまった。(略)
これは相当、問題です。またこれを取り上げて「荒唐無稽」と評するものもありましたが、ヒトラーの生前、それもナチスが政権を奪取する以前からからこの種の風説はささやかれ続けていました。とりわけソ連では酷かった。(略)
根強くささやかれる都市伝説としては延命、特に「典型的なゲルマン・ヴァイキング」金髪碧眼の多いソ連では、後述するユダヤ人学生の大学入学制限などに関連して、根強くささやかれ続けてきた経緯があります」
(伊東前掲)

こういう歪んだ人種差別意識はロシアには深く浸透していたようですが、それを内輪の本音ではなく、こともあろうに外相がイタリアメディアにペラペラ得意気にしゃべってしまい、「これは賢いユダヤ人から聞いたんだ」とまで言ってしまうと、いくらなんでも本音を暴露しすぎだろうと思われてきます。

Ba8376dbs

なぜならヒトラー=ユダヤ人説は一種の都市伝説であって、科学的根拠はありません。
調べようにも骨が見つかっていないからで、ただヒトラーが金髪碧眼ではなかったということだけが根拠であるにすぎません。
ヒトラーの死を確信したいスターリンは執拗にその骨を探させてようやく拳銃の穴がある頭蓋骨の一片が見つかって、それが長い間ヒトラーのものだと思われていました。
しかしこれがヒトラーとなんの関係もない30代から40代の女性のものだったことが、後の米国のDNA鑑定でわかってしまいます。

これでヒトラーユダヤ人説の科学的根拠は消滅します。
ここまではラブロフやプーチンは、まだこんな都市伝説を信じているようなズレた人だと笑えるようなことですが、その後は笑って済ませられることではありません。
ラブロフはなんと、「私はかつて、賢明なユダヤ系の人々から聞いたものだ。最大の反ユダヤ主義(アンティセミティズム)はユダヤ人自身から出てくる」と堂々と西欧のメディアの前で言ってしまったのです。
つまりラブロフは、ヒトラーはユダヤ系と断定した上で、「最大の反ユダヤ主義者はナチスドイツはユダヤ人自身が作り出した」と言ったことになります。
おいおい、ボケましたか、ラブロフ。

これは重大な暴言で、こんなことをいえばヨーロッパ社会で公人として生きていくことが不可能になります。
なぜならば、このロジックに従えば、ユダヤ人600万人を殺したのはユダヤ人自身だということになってしまうからです。
国内各地でユダヤ人狩りを行い、やがて占領地においてもユダヤ人を探し出してはことごとく絶滅収容所に送ったのは、ユダヤ人自身だと言ったことになります。
アウシュビッツを作ってガス室にいれて皆殺しにしたのも茶色の眼を持ち、茶色の髪をしたヒトラーという名のユダヤ人で、命令されたのが金髪碧眼のアーリア人武装親衛隊だった、とラブロフは言いたいようです。
つまり、ジェノサイドはドイツ人がしたのではなく、ドイツ人に紛れ込んでいたユダヤ人がやったことだから、自作自演の茶番だったと言うわけです。

これでイスラエルが怒らないほうがおかしい。
即座にイスラエル政府は強い抗議を行います。

「この発言を受けイスラエルのベネット首相は「ナチスによるユダヤ人への迫害を政治的に利用するのは直ちにやめるべきだ」とする声明を出したほか、ラピド外相も「許しがたい発言で常軌を逸している」などと猛烈に反発し、ロシア側に謝罪を求めました」
(NHK前掲)

こういう人種差別意識をむき出しにしたことを自分の国の外相が発言した場合、即座に更迭して謝罪するのが普通の国の作法、すくなくとも文明国の常識です。
さもないと、その国全体がそうのような人種差別意識を共有していると思われてしまうからです。
しかしなんとロシア外務省は謝罪はおろかイスラエル政府をつかまえて、「そんな抗議をすること自体ネオナチに加担しているからだ」と逆ギレしたことを口走ってしまったのですから底無しの馬鹿揃いです。

「しかし、ロシア外務省のザハロワ報道官は3日、声明を発表し「ラピド外相の反歴史的な発言はイスラエル政府がウクライナのネオナチ政権を支持することを示している」と公然と反論しました」
(NHK前掲)

脳みそが腐った外相の下僚たちも同じように脳が腐っていたようです。
これで仲介に前向きだったイスラエルをウクライナ側に追いやっただけではなく、国際社会からかも、さもありなんロシアとはそういう国なのだと認識を新たにされてしまいました。 
たいへんな外交的失敗です。
しかもウクライナ戦争で、俵に足がかかって核兵器使用が取り沙汰されているプーチンの外相が言うべきことではありません。

戦後、もっともヒトラーに学んでユダヤ人や反政府的な人士を迫害してきたのは、当の旧ソ連とロシアでした。

「賢いユダヤ人」、即ち政府当局のいいなりになるユダヤ人と、政府に楯突き西欧型民主主義を持ち込もうとする「愚かなユダヤ人」に選別し、前者を使って後者を迫害させるというやり方はナチスがとった人種政策でした。
今回ウクライナ占領地でやっていることは、昔ながらのナチスやスターリンがやった選別政策の忠実なリピートです。
たとえば、占領地で「避難民選別センター」を作って思想来歴を洗い出し、「賢いウクライナ人」と「愚かなウクライナ人」に選別し、後者を拷問にかけて殺害したり、時にはサハリンへ流刑に処したりしています。
しかも家族丸ごと処分してしまうので、彼ら「愚かなウクライナ人」たちはは行方不明者として社会から消し去られます。
たぶん今回のウクライナ戦争で、戦闘によるもの以外の市民で数千単位の「行方不明者」が出ているはずです。

このようなことの一端がはしなくも露呈したのが、今回のラブロフの「失言」なのです。

 

Uauboos6

願わくば祈らせたまえ
               彼らの道に光あらんことを