かつて歴代最も使えない防衛大臣がいました。名を岩屋毅といいます。
この岩屋という人物は、国防という難しい分野の専門知識をもっていない、防衛大臣という要職の意味がまるでわかっていない、だから大臣としてしてはいけない譲歩をするのが政治だと勘違いしてている、というまことに困った人でした。
こういうタイプは自民党に大勢いますが、選挙区から出してはいけません。
岩屋防衛大臣の事件簿その1。
まずひとつめは、2018年4月には、宮古島に駐屯する陸自部隊に保管してあった弾薬・ミサイル類を、地元反基地団体の抗議で撤去して、謝罪していました。
おいおいです。宮古警備隊は対艦ミサイル部隊ですから、ミサイル置かなきゃ一体なにしに行ったんですか。
「岩屋毅防衛相は2日の記者会見で、陸上自衛隊宮古島駐屯地(沖縄県宮古島市)の迫撃砲や中距離多目的ミサイルの弾薬について、島外に搬出するよう指示したことを明かした。地元への十分な説明がないまま弾薬を保管していたことに伴う措置で、岩屋氏は『不十分だった。おわびしたい』と謝罪した。
防衛省は今後、島内で駐屯地とは別の場所に、今年度末にも配備される地対空・地対艦ミサイル部隊の弾薬庫を建設する予定。完成し次第、島外に撤去した迫撃砲などの弾薬も保管する方針だ。ただ、使用する警備部隊との間に距離が生じることから、初動対処の任務に影響が生じることは避けられない」
(産経 2018年4月2日)
さぞ宮古警備隊の隊員たちはやってられんわ、という気分になったことでありましょう。
軍事挑発を繰り返す中国との最前線に派遣されてみれば、地元の左翼政党の抗議は正しい、武器・弾薬は撤去するというのですから、この大臣どちらの味方なのかと嘆いたことでありましょう。
まず間違いなく、弾薬庫がない基地を命じた世界唯一の防衛大臣であることは間違いありません。
岩屋という人は、防衛大臣でありながら宮古島に対艦ミサイル部隊を置く軍事的意味を致命的に理解できてていないのです。
宮古島警備隊の地対空と地対艦のミサイル部隊の任務は、尖閣諸島を含む島嶼部にいかなる侵攻があろうと、ただちにそれを排除することです。
何度か説明していますがもう一回宮古島と宮古海峡のことをおさえておきます。
宮古島とその周辺海域は、日本にとって、というよりもはや自由主義陣営にとっての海上防衛の要衝です。
こういうその点を押さえるだけで、その海域全体をコントロールできる地点のことを、チョークポイントと呼びます。
チョークは締めるという意味ですね。
中国の悲願は太平洋の広く深い海に進出することです。
なぜって、話せば長くなりますが、一言で言えば大陸国家から海洋国家に飛躍して世界の覇権国になりたいからです。
パクスアメリカーナからパクス・シニカにしてやる、これがグレート中国の野心です。
そのために中国は世界有数の大艦隊を揃えてきたのですが、その太平洋を狙う役割を与えられたのが北海艦隊で、その母港は青島にあります。
あのチンタオビールで有名なところですね。ビールだけ飲んでいただければ平和なんですが、中国はここから太平洋に何度となく艦隊を「出撃」させています。
太平洋に出ねば、中国海軍はいくら頭数が多くても大陸周辺でブイブイ言わせているだけの口先番長みたいなもので、世界の覇権とは無関係です。
なんとしてでも世界の派遣国になりたい、覇権国は海洋国家だ、だから世界一の海の太平洋に進出せねばならない、これが習近平の悲願でした。
冗談のように聞こえるかもしれませんが、この妄想はホンモノで、ですから太平洋を二分して米国と分け合おうぜ、という提案を習近平はマジにオバマ時代にしてしまったことがあったほどです。当然、米国からはご冗談を、と一蹴されました(あたりまえです)。
では、中国が太平洋に出るにはどの海上ルートを取ればいいのでしょうか。
チンタオに拠点を置く中国艦隊が出られる大きなルートは、たった三つしかありません。
①尖閣→宮古海峡ルート
②台湾西ルート
③南シナ海ルート
忌ま忌ましいことには、この三つとも中国を警戒する勢力が押えています。
①の宮古海峡ルートは日本が、②の台湾西ルートは台湾が押えていて下手に手を出すと米国が出てきます。
そこで③の南シナ海ルートから押さえて置くことにしたのが、悪名高い南シナへの進出でした。
中国は、水面下の岩礁の上に海底の土砂を吸い上げて驚くべき短期間で人工島を作ってしまい、ミサイルを並べ、長距離爆撃機が離発着できる滑走路も作り、軍港を作り上げましたが、当然国際海洋法違反ですから、国際司法裁判所が違法裁定が出てしまいました。
そこで改めてその重要性が再認識されたのが、①の尖閣諸島から宮古海峡に抜けるルートだったというわけです。
下の写真は2019年6月10日に、遼寧がロシア艦隊と合同訓練をしたときのものです。
中国は「親友」のロシアとよくこの海域で協同訓練というなの示威行為をしていきます。
令和元年6月11日 海自が撮影した宮古海峡を通過する空母遼寧
尖閣諸島から宮古島は南東に180㎞の距離にあり、尖閣諸島が東シナ海の入り口の扉だとすれば、宮古島は太平洋の出口に相当します。
これに水深図を重ねてみましょう。
海底地図 海上保安庁海洋情報部提供。海底地形名称・海上保安庁発行海図「南西諸島(No.6315)」に基づく笹川平和財団https://www.spf.org/islandstudies/jp/info_library/senkaku-islands/03-ocean/03_ocean001.html
この宮古海峡を抜けると、その向こうはいきなり沖縄トラフ(海溝)が広がっています。
上図画面左下から画面右・北東にかけて斜めに濃い青色で伸びているのが、沖縄トラフです。
沖縄トラフは深さが2200mもあって、大陸周辺の浅瀬だけしか知らない中国海軍にとって涎ダダ漏れのポイントです。
なぜでしょうか。
中国大陸周辺はまた上図の水深図を見ていただきたいのですが、白っぽく表示されている、水深100メートル以内の浅い海に囲まれている大陸棚です。
これは中国海軍の泣きどころで、戦略原潜は深く潜れないためにすぐに見つかり、その上有事には米海軍は大陸沿岸に沿って機雷を大量に敷設するでしょうから、あっというまに海上交易路が封鎖されてしまいます。
かつての大戦で日本が食らった機雷封鎖と同じめに中国は合うわけで、世界のエネルギーと食料を爆喰いしている中国はたちたまちエライことになります。
ですから、中国は私たち深い海にグルリを囲まれて生きてきた日本人にはわからない「深い海への憧憬」のようなものが存在するようです。
ちなみに、海上交易路が塞がれた場合に備えての陸上交易路が、ウィグルを通過する一帯一路のシルクロード経済ルートです。
ヒマラヤの天空に、パキスタンに繋がるカラコルム・ハイウエイを建設したのは、そのためです。
それはさておき、この沖縄トラフに潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)をたらふく積んだ戦略原潜を潜ませ、さらにはその先に拡がる約束の海に大艦隊を乗り出したい、これが「中華の夢」(by習近平)なのです。
宮古島の海だけではなく、空も中国にとって重要です。
この空域は、長距離爆撃機の航路です。
下図は2015年12月における、中国空軍のミサイル爆撃機を含む大編隊の航路です。
中国航空機編隊が飛行した経路 防衛省
この時飛行したH-6Kミサイル爆撃機は、主翼に長剣10型(CJ-10)長距離巡航ミサイルを6基装着することができる巡航ミサイルプラットフォームです。
H-6Kミサイル爆撃機 防衛省
CJ-10巡航ミサイルの射程圏は1500㎞以上と推定され、上海東方400㎞上空から東京を直接標的にできます。
グアムを攻撃するには、宮古海峡を抜けて、射程内にまで接近する必要があります。
そのためには、なにがなんでもこの宮古海峡を抜けねばならないわけです。
このように、中国軍にとってこの宮古海峡が持つ軍事的意味は、空中・海上・海中のすべての次元で極めて大きいのです。
この宮古島警備隊に与えられたのが、いかに重責かわかるでしょう。
それを、いとも簡単に左翼団体に屈してしまう、どこの国の防衛大臣なんでしょう、この男。
岩屋防衛大臣の事件簿その2。
2019年、日韓防衛大臣会談をやり、唯々諾々と韓国の言い分を丸ごと聞いてしまいました。
あろうことか韓国国防相に、日本は国際法を守れなんて言わしてしまっています。
「チョン長官はこの日の会談を終えた後、記者たちと会って、「日本の防衛相と日韓の防衛協力についてよい会談となった」とし「哨戒機近接脅威飛行関連しても虚心坦懐に率直な意見を交わした」と述べた。そして「これから両国が緊密に協力しながら、今後このようなことが再発しないように発展させていこうのに意見を一致させた」と説明した。
この日の会談でチョン長官は、岩屋防衛相に韓国艦艇の射撃統制レーダー照射について明白な根拠があることを説明した後、日本哨戒機の飛行のための国際法遵守を強調した。問題の本質は海上自衛隊の哨戒機による近接脅威飛行形態にあるという理由からだ。
チョン長官は続いて「韓国と日本は、隣接する友好国として国際社会で起こるすべてのことについて緊密に協力して協力をする必要がある」とし「協力して発展させてべきという意見の一致を見た」と話した」
(中央日報 2019年6月1日)
韓国政府の宣伝画像。もちろん合成写真
こんなことを面と向かって韓国に言わせるくらいなら、日韓防衛大臣会談などやる必要はありません。というか、防衛大臣などいりません。
当時のムン政権は、極度の反日小児病患者の国でした。
日韓関係の条約や取り決めを一方的に廃棄するわ、慰安婦合意はちゃぶ台返しするわ、果てはこのレーダー照射事件のように軍事的挑発までするわ、と話にもならないために、日本は「信頼関係自体が崩壊しています。こんな時になにを話あっても無駄ですから、そちらの頭が冷えるまで接触しません」と言っていました。
それを米国がいらんお節介で中に入って対話を呼びかけてしまい、シャングリラ会合で日韓防衛大臣を開くことにしたのですが、日本は会談のテーマを対北一本にしぼって、それ以外はテーブルに乗せること自体を拒否すべきでした。
ここはふざけるなといって、机のひとつも叩かねばならないところですが、この腑抜け男は聞き役に徹してしまったようです。
中央日報
「また「隣接した友好国として、国際社会で起こっているすべての問題について緊密に協力する必要性がある。両国関係が改善できるよう積極的に努力していく」と述べて、北朝鮮問題をはじめさまざまな問題で連携することを確認したとみられます。
これについて韓国の連合ニュースは「出口のない攻防戦を繰り広げ、防衛協力を全面的に中断してきた両国が、少なくとも対話と交流正常化に向けた糸口を確保したと評価される」と肯定的に伝えています」
(NHK 2019年6月1日)
結果、この日韓防衛大臣会合を、「対話と交流正常化に向けた糸口を確保した」と韓国の思惑どおりにしてしまいました。
私が昨日書いたことは、日韓首脳会談をやるならやるで、ぜったいにこのような両国間のに起きたことをテーマを一切議題に乗せてはならないということでした。
乗せれば、必ず彼らの主張を一方的にガナってくるのは目に見えています。
ちなみに、それは保守政権となったいまもまったく同じです。
「知日派」大使の触れ込みで赴任してきたユン・ドンミン駐日大使は、6月26日の日経新聞のセミナーで、自称徴用工の解決方法についてこんなことを言っています。
①判決では日本企業が強制動員被害者への賠償を命じられたが、これを韓国政府が代わりに返済する。
②その際、韓日請求権協定に関連した企業が自律的に参加する財団を作り、賠償を支援する。
③関係した日本企業も参加する。
きっとこれがユン政権の考える落とし所のようです。
話になりません。
この代理弁済案は、いままでも慰安婦問題でも登場し、結局韓国が一方的に合意を廃棄したいわくつきのもので、対案として検討にも値しない下策です。
問題は、どちらの国がカネを出す、どちらがカネをたて替えるという金銭のやりとりではなく、条約の基本原則に戻れということです。
日本が一貫して「韓国が約束を守れ」という言い方をしてきたのは、慰安婦合意をしながら一方的に慰安婦財団を解体させてみたり、徴用工という個人請求権を蒸し返してみたりするような日韓の信頼関係を壊すことをするな、という意味です。
したがって、わが国は日韓基本条約を守れと言い続ければよいのであって、いまさら個別のレーダー照射時の哨戒機の高度がどーしたなどという議論に引き込まれてはならないのです。
この立場は岸田政権も継承しているはずですから、仮にスペインで首脳会談をするにしても、このような個別の事件についての議論は一切テーブルに乗せてはなりません。
乗せるというなら、会談自体を拒否するべきです。
昨日の繰り返しになりますが、日本が韓国に言うべきは、自由主義陣営の一国として韓国が責任をまっとうする気があるのなら、対北制裁をキチンと守れ、核実験をやられたらしっかり国際制裁に加われ、中国とは原則的に対峙しろ、ザ・クアッドと連携して台湾を守れ、ということ以外にありません。
もし今の防衛大臣が岩屋なら、きっとニタニタと握手することが外交だなんて勘違いしてしまうんでしょうな。
そして岩屋元大臣の事件簿その3。
このような無能というのもおこがましい仕事をしていた岩屋は、昨今、またぞろこんなことを言ってアチラ系メディアの寵児になっているようです。
「そもそも「敵基地攻撃能力」との言い方は、わが国の防衛政策を語る言葉としてふさわしくない。攻撃を受けた際に、これを防ぐに他に手段がなくやむを得ない場合は反撃せざるを得ないわけだから「反撃能力」と称するのは理解できる。 反撃能力の対象に「相手国の指揮統制機能等も含む」と明記したことは、いたずらに周辺国を刺激するだけでなく、対処のための準備を促し、軍拡競争につながる恐れがある。(略)専守防衛は日本の専売特許ではなく、国際法、国連憲章の精神だ。反撃は許されるが、先制攻撃は許されない。それを変える必要はないし、変えてはならない」(東京 2022年6月3日)防衛費、最初にGDP比2%目標、適切ではない 自民・岩屋毅・元防衛相:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
この岩屋の主張は、日刊ゲンダイがすぐに拡散し、立憲民主や共産党の意見とまったく同じことを、安倍が任命した防衛大臣が言っているぞぉと拡散しました。
篠田英朗氏は即座にツイートでこう述べています。
「専守防衛は日本の専売特許ではなく、国際法、国連憲章の精神」。国際法に対する「憲法優越」説「一択」でなくなってきたとしたら、時代の変化を評価したい。
ただし、「専守防衛」は日本人が創作した概念で、国際法には存在しないよ。
2022年6月5日)
篠田英朗 Twitter
そのとおりです。「専守防衛」というのは日本だけの概念で、どの国にも通用しません。
こういう寝ぼけたことを、ウクライナ侵略の真っ最中に言えるという神経に感嘆します。
実は敵基地攻撃能力は奥行きの深い議論です。
移動式発射装置が主力の北朝鮮の弾道ミサイルに対して、実際にそれを破壊できるのか、破壊するにはどういう方法があるのか、飽和攻撃を受けた場合、日本だけで対処できるか、米国とどのように連携してキルチェーンを構築するのか、などが未解決の問題が山積しており、言葉だけが先行しているきらいがあります。
キルチェーンがなければ、敵地攻撃など絵に描いた餅です。
キルチェーンとは、①目標の識別、②目標への武力の指向、③目標を攻撃するかどうかの決心と命令を出し、④目標の破壊を指しますが、これらすべての段階で、米国が主で日本は従の位置にいます。
①目標の識別は米国の監視衛星が行い、日本に連絡し、そこでようやく②日本が危機と認識し、③それがいかなる脅威か、反撃すべきか否かを決断して命令を下し、④反撃する、という手順を踏みます。
日本には、現在単独で北の防空システムを破る長距離戦力投射の力はなく、米国任せにするしかないのが現状です。
それ以前に、攻撃の準備に入ったことを察知する力さえありませんし、そもそも反撃命令さえも米国との協議なしに単独で行うことは、日米同盟を毀損することを覚悟せねばなりません。
このような奥行きの深い議論をせねばならない時に、「日本は専守防衛ですから」の一言で済ませられる元防衛大臣とは一体なんなのでしょうか。
岩屋が次に登場するメディアは赤旗のようです。
ウクライナに平和と独立を
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