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2022年6月

2022年6月29日 (水)

皆様、温かいお言葉をありがとうございました

106

皆さま。ご丁寧な弔辞、ありがとうございます。
無事に火葬を済ませることが出来ました。
亡き母も、皆様の温かいお言葉を喜んでいます。

さて、喪主という立場は涙することが許されません。
個人の哀しみより、その立場が重いからです。
しかし考えてみれば、恐ろしいばかりの多忙の中に立たされているから、救われているのかもしれません。

母と私は決して平坦な関係ではありませんでした。
時には、理不尽なほど母を憎んだ時期すらあります。
しかし今、こうして白磁の壺に納まった母を抱いて帰郷すると、その軽さに胸を絞られる思いです。
哀しみは、これからやってくるのかもしれません。
火葬までの時期は、この哀しみの緩衝の時間だったのでしょう。

享年98歳。天寿でした。
医師からなんて根性がある人だと驚嘆されたことは、私にとっても誇りです。


                     母の旅立ちから2日たって
                                                            ブログ主

まだ雑用が山ほど残っておりますので、更新再開は今少しお待ち下さい。

 

母が死去しました

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母が死去しました。享年98歳 でした。

長い患いでしたが、母の強さに改めて驚いております。

 

突然のことなので、予定は流動的ですが、今週中は葬儀その他で、更新は難しいと思われます。

よろしくご理解ください。           

 

2022年6月28日 (火)

福島 風評最大の煽り屋・武田邦彦氏が出馬

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武田邦彦氏が、参政党という聞いたこともない政党から出馬するそうです。
この人はいまは「保守論客」だそうですが、2011年の福島原発事故で最も執拗に煽りを続けた人物で、上杉隆、岩上安身、早川由紀夫らに並んで原発デマッター四天王と評されていました。

ただこの武田氏がほかの3人と違うのは、影響力が圧倒的だったことです。
岩上氏や、上杉氏といった左翼ジャーナリストは、その影響力が左翼業界限定だったのに対して、無名だった彼は「元原子力関係者」という肩書を最大限使って、一般家庭の主婦に浸透したことです。

そして彼のプロパガンダによって巨大な風評被害が起き、東 日本 対する差別が起きました。

それは福島県産や茨城圏産農水産物の不買を海、やがて西日本における被災地瓦礫の受け入れ拒否にまでつながっていきます。
そして武田氏の言説をテキストにした多くの主婦のサークルが生まれ、そしてその中から数万人の避難者を出しています。
彼女たちは家族をつれ、時には家族と離別して子供を抱えた自主避難民として、遠く四国、奄美、沖縄へと逃げていくことになります。

武田氏は実に精力的に公園をこなしていましたがその中のひとつが記録に残っています。

2014年2月の郡山市 講演会は 自治体 が主催者だったからです。

今にして思えば被災地自治体が、こんなことをしゃべる人間を招聘してしまうこと自体が驚きです。
過去ログから再収録しておきます。
究極の無責任男・武田邦彦氏の「不都合な真実」: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

郡山に住むことは法令違反しています
(2013年7月19日郡山市主催講演会の発言)

東北に済むことが「法令違反」だそうです。
ただし日本の法令ではなく、彼が作れと言っている架空の「法令」に反しているからにすぎませんが。
あるいは、武田氏の主張を知るには、2013年2月14日の武田ブログを見るといいかもしれません。

※http://takedanet.com/2013/02/10_6a83-1.html

原子力と被曝 福島で甲状腺ガン10倍。国は子どもの退避を急げ!
国は直ちに次の事が必要です。
1)高濃度被曝地の子どもを疎開させる(除染は間に合わない)、
2)汚染された食材の出荷を止める、
3)ガンになった子どもを全力で援助する。
4)除染を進める。また親も含めて移動を促進する。
5)「福島にいても大丈夫だ」と言った官吏を罷免し、損害賠償の手続きを取る。
6)日本の未来を守るために、大至急、予防措置を取ることを求めます。

ものすごいですね、こっちも。「甲状腺ガン10倍」「福島に居ても大丈夫と言った役人は罷免」だそうです。

そして「福島は全員疎開」です。

このような煽動を武田氏は、事故直後から執拗に行っており、「東日本の農産物は食べるな」と煽動したために、大きな風評被害をもたらました。

私は今でも武田邦彦と聞いただけで、吐き気がするという福島県、茨城県の農業者はたくさんいます。なにを隠そう私もそのひとりです。
そして彼の周辺には北関東を中心に多くの母親の信奉者サークルが生れました。彼女たちの中から多くの自主避難者が出たことは、ご承知のとおりです。
その数は千所帯を超えると言われています。彼らは関西、九州、四国、遠く沖縄にまで逃げて行きました。

ひとりの人物の煽動 が これほどまで多くの家族の運命を変えたことは、希有なケースではなかったでしょうか。

ところが、こう書いた武田氏は郡山市で「住むことは法令違反だ」といったわずか半年後にこう言ってのけます。

危険はありません。このブログで2011年5月から言っているとおり、逃げなくても大丈夫です
(2013年1月13日)

この発言は直接には福島第1の原子炉の現状について言っているのですが、添付された音声ファイルでは、「福島から逃げる必要はない」としかとれません。

全体を通じて大丈夫だというのが私の感じで、特に福島におられる人も含めて、逃げる必要はないというふうに思います。

彼はこのように過激な煽りの裏で矛盾だらけの言行をしているのですが、2011年末にはタケダ・ビリーバーにとってもっと衝撃的なことをも言っています。2011年末の鼎談での武田発言。


「僕は5ミリシーベルトまでは危険という事はないんだ。だから1ミリシーベルトは望ましい被ばくで、5ミリシーベルトまではまず安全と考えていいので、お母さんは1から5の間に入るように努力して下さい。
(中略)
 それは病室でも、子供でも5ミリシーベルトまでは医者が診て使ってる訳ですよ。ですから大体5ミリシーベルトぐらいは今までの歴史からいって大丈夫だという事は分かってます」

ここでは武田氏は、5ミリシーベルトまで「危険はない」と言い切っています
彼が、福島は1ミリシーベルトでないから「親まで含めて疎開しろ」と言って、1000人もの多くの家族が現に自主避難してしまったことに対する責任などどこを吹く風のようです。

彼が1ミリシーベルトと主張した理由がふるっています。


「(1ミリの勧告はという問いに対して)ICRPはNPOですし、えらい先生が皆集まってますから。それから今までの国際的な基準を決めてきたという実績もありますね。だから尊重しなければいけないんですが、あくまでも日本国民は日本国内の決定に従うべきだ。
従って現在私の認識は、日本の国内法が依然として1年1ミリシーベルトを基準にしている、という事で一年1ミリシーベルト

なんのことはない。彼はなにぶん「日本の国内法が依然として1ミリシーベルトを基準にしているから、法令に従えと言っていただけだ」と白状しています。な~んだ、科学的根拠ははゼロということですか。
それどころか、こんなスゴイこともチャラっと言ってのけています。


私は、"放射線被ばくは線量によってはいい影響が出る"と思っています」「放射線ホルミシス仮説(※)は仮説なんかじゃないよ。あたりまえのこと

うわぁ、驚いた!おそらくホルミシス効果を認めている脱原発派って武田氏くらいじゃないかな。
考えてみれば武田氏って、3.11前には、原発容認どころか、レッキとした推進派でしたね。風向き見て転向したんでしたよね。地金が出ちゃいましたね。


もちろん3.11前までは、国民全体の原発への認識度はそんなていどだったともいえなくはありませんが、なんの自己切開もなしに、いきなり真逆の極端な立場に乗り移るのが問題でのです。

あの低線量被曝が体内細胞活動を活性化して健康になるというホルミシス仮説の信奉者ならば、「1ミリシーベルト毎時でなければ住めない」どころか、かえって健康になるじゃないですか。

これは傑作だ。彼が「郡山に住んではいけない」というのは、このDVDを聞く限り、ただそれが「法令」だったからと、あとホルミシス効果で健康になられては、自分の煽り本が売れなくなって困るからのようです。
武田氏は本心は、「大体5ミリシーベルトぐらいは今までの歴史からいって大丈夫だ」と考えていたそうです。
にもかかわらず、あれだけ吹きまくり一個3000円のガイガーカウンターを倍の6000円で売りさばいていたわけです。

 

商品の詳細         

今わが国では、上杉隆氏も岩上安身氏もかつての元気がなく、小出裕章氏も海外布教で多忙のご様子で、残る武田邦彦氏もこのように自爆してしまいました。
脱原発運動も山本太郎氏たちグループに乗っ取られて、飯田哲也氏までもが「隠れ推進派」とパージされる有り様です。
このように、「フクシマから逃げろ」説は今や風前の灯火だったところに現れたのが、武田氏みたいなせこい小物ではなく、超大物の雁屋氏だったわけです。

 

 

2022年6月27日 (月)

核禁止会議のバーチャルぶり

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私はこのような言論に出会うと辟易します。
朝日は、社説でこんなことを言っていました。

「「核なき世界」へ向けて、核を持たない国々が保有国へ対話を呼びかけた。保有国はしっかりと受け止めて協力の道を探る責任を自覚するべきだ。
核兵器禁止条約の初の締約国会議がウィーンで開かれた。34のオブザーバー国も含め、80以上の国・地域が出席した。
当初の想定の倍近い規模に膨らんだのは、ロシアによる侵略などで核戦争の脅威が高まった危機感のあらわれだろう。
会議の政治宣言は、核の力で他国に攻撃を思いとどまらせる核抑止論を「虚構」と断じた。そのうえで、核保有国も、その同盟国も、核依存を低減するための真剣な措置をとっていないと批判した。
この条約をめぐっては、反対する国との対立が心配されてきた。米国などは、米ロ英仏中に核保有を認めた冷戦期以来の核不拡散条約NPT)と路線が違うなどと主張している」
(朝日2022年6月25日)
(社説)核禁会議閉幕 廃絶へ対話求める重み:朝日新聞デジタル (asahi.com)

この核禁止締結国会議(核兵器禁止条約 Treaty on Prohibition of Nuclear Weapons・TPNW) の言っていることを要約すると、核抑止論はが虚構」で、核を保有していても「核戦争の脅威が高まる」、だから「核保有国は協力し合って核なき世界を作る」ために非保有国と話あえ、ということのようです。
これはかねてからの朝日の意見と同じですが、明日の理想の為に、今の現実を見ないようでは、気の毒ですが、たぶんあなた方の理想は実現することはないでしょう。

実は、私はこの核禁止条約(TPNW)が、国際条約として発効して最初の締結国会議が、ロシアのウクライナ侵略時期の後だったことに注目していました。
それは後述しますが、ロシアが核兵器を「使える兵器」としてしまった新たな現実をどう理解するのか、その禁を犯したロシアがNPT体制の一角を占めていることをどう考えるか、に興味があったのです。

この問題に誠実に向き合う姿勢を締結国会議が持つなら、ほんとうの国際条約としての力を期待できるのですが、どうやら無理だったようです。
核禁止会議は政治宣言で、「核抑止論は虚構だ」と断言しています。
つまり、核兵器を持っていても、核戦争を防げないからから捨てろという意味です。
ちょっと待って下さい。虚構に寄りかかっているのはどちらでしょうか。
今回、会議参加国が増えたのは、「ロシアによる侵略などで核戦争の脅威が高まった危機感のあらわれ」と朝日は書いていますが、彼らがこの会議に来たほんとうの理由は「核抑止論の虚構性」などという、反核運動団体の主張を改めて聞くためではなかったはずです。
そんな台詞は、手垢がつききっています。

非核の理想が人類通共通の「夢」であることは一面の事実だとしても、それが夢のままいっかな達成されないのは、この運動が実効性が担保されておらず、核保有国とそれが差し出す傘に守られた国々が参加しないこと、そしてその分厚い現実が世界秩序の根幹を作っているからです。
それを反核団体は、条約に参加しない日本のような非締結国が非核の理想を妨げている主犯だといわんばかりの主張を繰り返しました。
この条約づくりの主要な推進団体だったアイキャンなどは、ノーベル平和賞をもらって最初にしたことは、日本にきて左翼政党と日本叩きをしたことでした。

それはさておき、では、今のこの時期の状況が以前とどう大きく変化したのか、考えてみましょう。
ウクライナ戦争は、戦後の国際秩序を根底から変化させてしました。
それはプーチンという核を持った怪物が、核兵器使用を現実に口にしたからです。
超えてはならないはずの核のボーダーラインを、プーチンは超えてしまった、ここがそれ以前とそれ以後を大きく隔てるポイント・オブ・ノーリターン(引き返し不能地点)なのです。

プーチンはこのように言っています。
よく読んでみて下さい、意図的にぼやかしていますが、恐るべき発言です。

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「ウクライナ侵攻をめぐりロシアのプーチン大統領は、外部からの干渉が脅威となれば、「反撃は電光石火で行う」と欧米を強くけん制しました。
ロシア プーチン大統領「我々にとって受け入れがたい戦略的脅威を作り出すなら、反撃は『電光石火』で行われると認識すべきだ」
プーチン大統領は27日こう述べたうえで、反撃のための「手段はすべてそろっている。誰もが持っていないものもある」と述べました。核兵器の使用も辞さないことを示唆したもので、ウクライナへの軍事支援を拡大させる欧米を強くけん制した形です」
(TBS4月28日)

「反撃は電光石火で行われる」というのは、疑いようもなく、瞬時に勝敗を決してしまう性格の兵器、すなわち核兵器を指します。
世界の歴史で、ここまではっきりと核使用を明言した大国の主はたぶん初めてです。

なぜ、このプーチンの核使用予告発言をスルーしてしまうのでしょうか。
ここをこそ核禁止会議は問題にすべきで、核超大国が核兵器使用を明言する前と後では本質的非核の意味が異なるのです。

そして次に、今、まさに核兵器を保有する段階に手をかけたイランと北朝鮮らに対して、核禁止会議が明瞭な態度をとるべきなのです。
プーチンはなにをしたのか、イランと北朝鮮はなにをしようとしているのか、それを問わない核なき世界への願望は虚妄でしかありません。

ここをボヤかして「核なき世界へ向けて、核を持たない国々が保有国へ対話を呼びかけた。保有国はしっかりと受け止めて協力の道を探る責任を自覚するべきだ」なんて、NHK青年の主張みたいなことを言っても無意味です。
なぜなら、核兵器を専制的に使用することを辞さない国は、そのことで利益を得ているからです。
そんな相手に対して、話合いで核を手放なそう、なんてキレイゴトを言っても、相手にもされません。
彼ら核を使う気がある核保有国は、3カ国揃って自らが劣勢だと認識しています。
だから、核で挽回できる、自分の立場をよくできると考えているから、核を脅迫の道具に使うのです。

「劣勢が補いきれない場合はどうするか。(略)戦争に負けそうになったら、1発だけ限定的に核を使用する。その核の警告によって相手に戦争の継続を諦めさせる、あるいは、ロシアにとって受け入れ可能な条件で戦争を停止させることができると考えたのです」
(小泉悠 『徹底分析 プーチンの軍事戦略』 月刊文藝春秋5月号)

今のロシアが典型ですが、戦争になって劣勢になったら核を使って形勢を逆転する、あるいは有利な条件で講和を結びたい、だから核を使うぞと脅すのです。
そういう相手に、非核国の声を聞け、なんて言っても無意味です。
やらんよりましといってあげたいのですが、逆にそんな「非核国の声」が聞こえれば聞こえるほど、プーチンは、おお、オレ様の核の脅しはバッチリ効いているんだな、と逆に確信を深めてしまうかもしれません。
核兵器とは、一般の兵器と異なり、相手国の恐怖を極限まで高めることの中で、初めて威力を持つ兵器だからです。

今回のプーチンの罪は多すぎて列挙することが難しいほどですが、そのひとつが核を本当に「使える兵器」にしてしまった罪です。
いままでは、核は使ってしまったら自分も同じように全滅してしまう、故に「使えない兵器」の最たるものでした。
その眠りを覚まして、実際に核で脅迫の道具にしてみせれば、いかに残虐な侵略しようともどの国も直接介入はできない、そのことを核保有国に理解させてしまいました。

いわば護身用に持っていたはずのピストルが、脅迫や強盗にも使えることを知ってしまったようなものです。
今までは、警官だけが銃を合法的に所持したのですが、その代わり警官が強盗につかったらシャレになりませんから、厳重に管理されていました。
署の銃器保管庫にキチンとしまい、鍵をかけて警官すら安易に持ち歩けないようにしたのです。
核兵器管理において、このことをNPT体制と呼びます。
核を責任持って管理する国は、国連常任理事国P5として国際秩序の安定のために尽くす代わりに、拒否権と核の保有という特権を認めされていたわけです。

しかしこの世界の警官役のひとりであるはずのロシアが、その拳銃を振り回して押し込み強盗を働き、殺戮を繰り返したのです。
しかも、あらゆる制裁を拒否権を使って潰すという念の入りようです。
つまりロシアは、戦後世界秩序の根幹を完全にぶっ壊してしまったのです。

その部分を、朝日は「ロシアによる侵略などで核戦争の脅威が高まった」とふんわりとぼやかしてしまっています。
それどころか、「会議の政治宣言は、核の力で他国に攻撃を思いとどまらせる核抑止論を『虚構』と断じた」とまで言い切ってしまいました。
そのとおり「核抑止は虚構」となりました。

核が「使える兵器」だと世界中に言いふらした男がいるからです。
それを誰のためにそうなったのかを問わないで、一般化してどうします。
虚構もなにも、プーチンは核を先制使用すると言って核のボタンに手をかけたのです。

また、よく非核運動家たちは、「核兵器を増産し合う軍拡競争に陥ってはいけない」などと言っていますが、核軍拡など起きていません。
米露は核軍縮を継続していますが、この第2次戦略兵器削減条約(START II)への参加を拒み、中距離弾道ミサイルに核弾頭を搭載して、あまつさえその照準を日本に向けている国があります。
それが中国です。
下図をみればお分かりのように、中国(最上部の薄緑線)は2010年からの10年間一個の核弾頭の削減も行っていないに対して、米露(米国青線、ロシア赤線)は削減し続けてきました。
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世界の核兵器保有数(2019年1月時点) | 国際平和拠点ひろしま

核禁止会議は、核を世界で初めて「使える武器」にしてしまったロシアと、今核兵器保有の前段のイランと北朝鮮、そして核軍拡を世界で唯一進めている中国を批判しなさい。
言う方向が間違っています。

本気で核廃絶をしたいのなら、まずこれらの現実に核戦争を起こす可能性がある国をこそ厳重に非難することです。
「話合い」とやらは、それからです。
今の悲惨から眼をそむけないことこそが、理想に達する唯一の道ではないのでしょうか。
さもなくば、核禁止条約はただの気休め、ないしは偽善にすぎません。












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 ブチャ市のソフィアちゃんは片手だけでなく、お母さんも失った。



ウクライナに平和と独立を

2022年6月26日 (日)

日曜写真館 むせび泣くあまりに高き蘭の香に

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われをにくむ人に贈らむ蘭の花 会津八一

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海近しサロメは赤き温室の蘭 野見山朱鳥

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われ等みな名もなき山の蘭の花 会津八一

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銀蘭や汝も黙せる明るさに 花谷和子

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蘭の香の言葉のはしにただよへり 米澤吾亦紅

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星空も生者の側に蘭溢れ 花谷和子

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夏の蘭まなざし育ちつつありぬ 飯島晴子

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蘭というきれいな玩具たまわりぬ 柴田美代子

 

2022年6月25日 (土)

なぜ岸田氏なら騙せる、と韓国は思うのか

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「外務省からは、韓国が3月に大統領選を控え、佐渡金山を「日本たたき」に利用する懸念が伝えられた。ウクライナ危機を抱える米国は日韓間の対立が深まることを憂慮しているとの見立てもあった。「簡単には通らないな」「今年やるのが良いのかどうか」。そんな慎重な思いが広がっていた」
 (NHK 2022年1月20日)

この対米忖度と韓国対応をダブらせて忖度してしまうのが、外務省の伝統的的発想であり、宏池会的哀しきメンタリティなのです。
外務省は、自分たちの米国に対する訪米工作の失敗を、無関係な韓国問題にすり替えました。
「ここで韓国を刺激して、登録反対に突っ走らせたら、ウクライナ危機を抱える米国は怒りますぞ、首相」というわけです。
外務省は、ウクライナでバイデン政権がピリピリしている時期に、こんなつまらない「憂慮」をしていたのかと、げんなりします。
この時期に最優先すべきは、佐渡金山の登録を引っ込めて韓国に融和し、これが米国への得点だと考えることなのか、それともロシアに明確な外交シグナルを送って戦争をさせないことに腐心していた米国と協調することなのか、どちらなのか考える必要もないことです。


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ウクライナに平和と独立を

2022年6月24日 (金)

岸田さん、「雰囲気リベラル」のキャラを使い倒して下さい

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岸田氏は不思議なキャラです。本音がよく分かりません。
清潔で、少年ぽくさえ見えるもの静かな紳士、という雰囲気だけをまとっている政治家で、芯になるべき政策が欠落しています。
「新しい資本主義」など単にスローガンであって、リベラル的分配政策を匂わすだけで中身がないのですから政策ではありません。

すると岸田氏が、かつての宏池会の領袖だった宮澤喜一元首相に似ていると考えると妙に納得してしまうのです。
考え方とやることが、反対方向にねじれているからわかりにくい。
宮澤さんも首相でさえなければ、「自衛隊を初めて海外に送り出した」という「汚名」を着たくはなかったはずですが、皮肉にもPKO法を作る矢面に立たざるをえなくなりました。
宮澤氏が在野にいたなら、皮肉な顔のひとつも見せて「憲法上、派兵はいかがなもんかねぇ」などと評論家づらをしておればよかったのに、です。

毎日新聞は、中島岳志氏(東工大教授)にこう言わしています。

「岸田文雄首相は、自分がトップリーダーなのにさまざまな人の顔色をうかがい、一貫性がない。この国をどこに持っていきたいのか、就任から8カ月以上たっても分からない。
岸田氏が尊敬するという大平正芳元首相ら自民党宏池会の政治家には、確かに聞く力はあったが、世界はこうあるべきだという哲学があったうえで、多様なものを吸収していた。岸田氏には哲学がなく、翻弄(ほんろう)されているに過ぎない。それは聞く力とは言わない。
支持率が比較的高いのは、安倍晋三元首相、菅義偉前首相の横柄な態度が若干弱まり、財務省中心の安定的な政治にシフトして、落ち着いて見えるからではないか。安倍、菅両氏は人柄が支持されていなかったので、それよりはましということだ。第1次安倍内閣後の福田康夫政権と似ている」
(毎日2022年6月16日)
哲学のない岸田首相 「聞く力」とは言えない | | 中島岳志 | 毎日新聞「政治プレミア」 (mainichi.jp)

おかしい、岸田はひさしぶりにオレたち寄りの首相だったはずなのに裏切りやがったのか、というリベラルの猜疑心めいたものが見えて微苦笑させられます。
私は中島氏と違って、岸田氏が参院選に大勝することがあっても、いまさら財務省寄りの増税に傾くことはありえないと見ています。
もしそう思っているなら、骨太の方針自体からプライマリーバランス目標年を削除したりはしませんし、金融緩和政策を黒田氏に止めさせるべく圧力をかけるはずです。

また産経は参院選後、保守対策で政調会長にした高市氏は無役に降ろされるだろうと見ていますが、これもどうでしょうか。
高市氏を野に放つことは危険ですよ。
彼女を党内要職につけているから、政局にならなかったのではなかったのでしょうか。
高市氏を無役に降ろせば、それは安倍派を敵にするという宣戦布告になります。

岸田氏も、宮澤氏に似たような巡り合わせなのかもしれません。
岸田氏は「雰囲気リベラル」の政治家です。
雰囲気こそが取り柄で、彼には政策がないのです。これを通したい、オレはこれをやりたいから政治家をしているのだ、というドロドロした執念を感じられません。
あえて言えば、岸田氏の執念めいたものは、「宏池会から首相を出す」ということだけです。

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岸田首相、就任100日「息つく間もなく駆け抜けてきた」…夜には安倍元首相と会食 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

ですから岸田氏が「わが国の防衛力を5年以内に抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する」と、明言してしまった時には、おいおい大丈夫かよ、と陰ながら心配したほどです。
仮に安倍氏が同じことを発言して、それに具体的に着手しようとしたら、2015年の安保法政の時のように「アベは人間じゃない。斬り殺してやる」というどこかの大学教授や、SEALDsみたいな連中が国会前にゴマンと湧いてくることでしょう。
辻本女史など、生きがいを取り戻して感涙にむせぶはずです。

しかし岸田氏が同じことを言っても、世論は妙に納得してしまいます。
防衛費増額について、55%の国民が支持しました。

「日本経済新聞社の世論調査で防衛費の増額について聞いた。国内総生産(GDP)比で1%程度だった目安を2%以上へ引き上げるべきだとの自民党内の意見に関し、賛成が55%で反対の33%を上回った。
支持政党別に分析すると与野党それぞれで濃淡が見られた。自民党支持層の賛成が64%だった一方、公明党は6割弱だった。立憲民主党は3割強、日本維新の会は7割弱だった。特定の支持政党がない「無党派層」は43%だった」
(日経2022年6月4日)
防衛費増額「GDP比2%以上」 賛成55%、反対33%: 日本経済新聞 (nikkei.com)

自民で64%、公明60%ですから、与党としては磐石の合意形成ぶりで、立憲の30%反対などはほとんど無視できる数字です。
だって立憲支持者が、参院選で自民に投票するはずがありませんからね。
第一、この参院選で、立憲は共産党と一人区で共闘を組めませんでした。

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泉代表に期待するのは「若さ」「発信力」 「方向性見えない」指摘も [立憲]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

「野党は改選1人区の戦いに警戒感を募らせている。平成28年の参院選以降、1人区では統一候補を立てて与党と事実上一騎打ちの構図を作ってきたが、今回は立憲民主党が支持団体の連合の意向も受け、共産党と距離を置く路線に転じ、共闘が後退したからだ」
(産経6月22日)
参院選 改選1人区、野党一本化は12選挙区に減少 立民・共産に溝 - 産経ニュース (sankei.com)

泉氏の上の写真など、痛々しいお手上げポーズにしか見えません。
枝野時代の左に傾き過ぎた路線を修正しようとして提案型野党を掲げても、それは国民民主にとられてしまえば、とるべきスタンスが見当たらないのです。

では中道右派はどうかといえば、これも無風です。

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松井一郎「日本のためにはまともな野党が必要だ」 | 国内政治 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)

岸田氏が密かに笑いをもらしたと思われることには、「自民よりちょっと右」という心憎いスタンスをとっていた維新が大失速したことです。
維新は、保守層から大量に支持者を取り込まねば勝てないのに、こともあろうに創設者の橋下徹氏が、あの「ゼレンスキーは白旗上げろ。日本は中国に妥協しろ」という脳が腐ったようなことを言い散らし、その上作法悪すぎの議論を吹っ掛けまくって、いまやゴキブリのように嫌悪されてしまいました。
そのうえ看板議員のひとりのはずの鈴木宗男氏に至っては、ロシアの完全な代弁者になり下がってしまいましたから、松井氏も頭の痛いことです。あの難波の食い倒れ人形のような顔も曇ったことでしょう。
篠田英朗氏からはこう皮肉られてしまいました。

6月12日の「ロシアの日」にロシア大使館で開催された式典でロシアとの友好を誓っていた鈴木宗男氏だが、さながら「日本維新の会」ならぬ「日本親露の会」代表と言うべき大活躍である」
(6月12日)
鈴木宗男氏に不都合な戦争の歴史 | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)

ウクライナ戦争以前には躍進を予想され、自民党票を右からかっさらっていくと思われていた維新は、このふたりの思わぬ大活躍で圏外に去りました。
もし予想どおりの躍進したなら、連立政権の一角に迎えねばならなくなるかもしれませんし、その場合、公明の処遇をどうするのかで岸田氏は悩んだことでしょう。

そしてなによりもの岸田氏への追い風は、立憲と共産党、社民党が金融引き締めを言い出してしまったことです。
金融引き締めは立憲、社民、共産という左翼政党陣営の共通政策となっています。
実に分かりやすい選挙の対立軸を作ってくれたものです。

それにしても、一体どういうセンスなのでしょうか。
日本は欧米と違ってまだデフレから脱却しきれていないどころか、コロナ前の景気を回復してもいないのです。
インフレ率を見る指標のコアコアCPI(食品、エネルギーを抜いた消費者物価指数)で0.8%ですから、インフレってどこの世界の話なんでしょう。
米国とは根本的に経済状況が違うのです。
米国はインフレ率が8.6%ですぞ。
だから金融引き締めを過剰なくらいにやる必要があったので、「日本だけが世界から取り残されている」ってなんのことですか。

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米国 - インフレ率 | 1914-2022 データ | 2023-2024 予測 (tradingeconomics.com)

今、金融引き締めをやれば、おお怖い、コアコアcplをマイナスまで後退させる気ですか、この人たちは。

安倍氏の代わりに黒田叩きでウップンを晴らしているメディアに乗せられたおバカさんたちが、立憲と共産党です。

物価上昇の最大の原因は、エネルギー価格です。

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消費者物価(全国22年2月)-コアCPI上昇率は22年4月に2%へ |ニッセイ基礎研究所 (nli-research.co.jp)

「原油高の影響でエネルギー価格の上昇率がさらに高まったことに加え、食料品の伸びが加速したことがコアCPIを押し上げた」
(ニッセイ基礎研究所2022年3月18日)

メディアはカップ麺が値上げしたからどーたらなどどうでもいいことを大げさに吹いて危機感をあおっていますが、今政府がすべきはエネルギー価格の引き下げです。
これがコアコアCPIで見られるように、物価情の主原因なのですから、ここを解消しないでどうするのです。
さっさと原発再稼働させるなり、あの利権の巣窟と化したFIT制度など止めれば、簡単に電気料金は下がります。
そしてこれから本格的に始まる食品値上げの波を絶つためには、輸入穀物や飼料輸入高騰に手を尽くすことです。

これは食品値上げだけではなく、国内畜産の保護にもつながりますからJAは諸手を上げて歓迎するはずですから農業票は固い。
それなのになんです、節電すればポイントあげる、ですか。大丈夫か、岸田さん。(脱力)
つくづく岸田氏には政策のセンスがない。
高市氏のような米国議会での政策づくりの経験もないし、いい政策スタッフがいないんじゃないでしょうか。

とまれ、野党の無策と迷走に助けられて、岸田氏にとって右も左も野党はまったく怖くありません。
ついでに政策がなくても怖くありません。
怖いのは、唯一党内の反主流派閥、つまり安倍派と麻生派です。
とりあえずは大宏池構想でつなぎ止められる麻生派は置くとしても、安倍派は高市氏のような隠れ安倍派まで入れれば優に100人を超えます。
岸田派はたしか45人くらいですから、親中路線で緊縮増税なんてやろうもんなら、まず間違いなく支持率は急下降し、安倍派からは拒否権を出されて、即政局突入でしょう。
そして次の総理総裁は高市氏が納まるかもしれません。
それはそれで私はかまわないのですが、せっかく総理になった以上、この「雰囲気リベラル」のキャラを徹底的に使い倒していただきたいものです。

 

 

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ウクライナ:世界は、ロシアによる「国際法違反」を前に団結しなければならない(UN News 記事・日本語訳) | 国連広報センター (unic.or.jp)

ウクライナに平和と独立を

 

2022年6月23日 (木)

飼料価格狂騰、トン10万円台に

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縁起でもありませんが、日本畜産も終了かもしれません。
というのは、日本畜産のビジネスモデルが破綻してしまったからです。
戦後日本は、主要に米国で過剰気味に生産される潤沢で低価格の穀物を輸入し、徹底した合理化によって国際競争力を持つ畜産品を作ってきました。
ですから、養鶏などは、もうこれ以上の合理化は無理という所まで削りまくっています。
ややっこしくなっているのは、牛などのように農水省が利権化して複雑化させているからで、それが抑えられている養鶏部門はスッキリした経営合理化が進んでいました。

この養鶏すら立ちいかなくなったのですから、もう末世です。
象徴的な出来事は、鶏卵業界トップのイセが経営破綻したことです。
最大の理由は飼料代の高騰、いや狂騰です。
イセのように薄利多売の価格競争で勝利してシェアを延ばしてきた企業は、規模が巨大であるために逆スケールメリット状態になってしまいました。

それも一過性のものではなく、どこまでも続く構造的な可能性が出ました。
今の飼料高騰はほんの始まったばかりで、その全体の姿は見え始めたばかりのようです。

下図をご覧いただければわかるように、2020年には節目の6万円/トンを軽々と突破し、21年にはなんと禁断の7万円台に突入、そしてこの22年7月にはとうとう破天荒の9万に達する勢いです。
遠からず、10万円台を突破するという悪夢が現実化する気配です。

かつて私が養鶏を始めた30年前頃は相場は4万円以下で、5万円を突破したときにはJA系の飼料屋に怒鳴りこんだほどです。
いや、私も若かった。今は、正直、戦う元気もありません。
個人が戦ってどうなるというレベルではないのです。

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日経

「飼料最大手の全国農業協同組合連合会(JA全農)は22日、2022年7~9月期の農家向け配合飼料の出荷価格を、4~6月期に比べ全畜種平均で1トンあたり1万1400円引き上げると発表した。上げ幅は約14%と過去最大で、新価格は同9万4400円前後とみられる。3四半期連続で過去最高値となる」
(日経6月22日)
JA全農、7~9月期配合飼料1万円超上げ 上昇幅最大に: 日本経済新聞 (nikkei.com)

ともかく値上がりのピッチが異常に速い。
わずか2年で2万円上げられたら、対応のしようがありません。
畜産は、牛、豚、鶏の分野を問わず、飼料コストが経費の大部分を占めます。

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(19)飼料作物等:農林水産省 (maff.go.jp)

牛は粗飼料(牧草)を与えねばならないので3割台ですが、豚や鶏になるとコストの6割以上を飼料が占めています。
できるだけ青物やなどをやるなどしてその比率を減らす努力をしていますが、自ずと限界があります。

そして、その購入飼料のほぼ9割は外国産です。

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同上

ですから、カロリーベースで自給率を計算するという世界でも珍しいやり方をしている日本の農水省は、豚肉や鶏卵は9割が国内産でも自給率は10%以下というヒドイ数字にしています。
この農水省の過少な自給率評価のおかしさはさておき、今回は輸入飼料の高騰が日本畜産を真正面から襲っています。

私は現在の飼料高騰の原因は、中国のあさましいばかりの買い占めにあると見ています。
たとえば、飼料用トウモロコシはこうです。

「配合飼料価格高騰の要因はトウモロコシなど飼料穀物価格の相場上昇にある。中国が昨年後半からトウモロコシを大量に買い付け始めた。
トウモロコシのシカゴ定期は3月には1ブッシェル(25.4kg)5.4ドル前後で推移していたが、南米産地の乾燥による作柄悪化懸念や、4月に米国農務省が期末在庫率見通しを下方修正したこと、さらに中国からの強い引き合いを受けて同7.3ドルまで上昇した。
今後の見通しについて全農は、米国の夏場の受粉期に向け天候に左右されるものの、引き続き中国向けの旺盛な輸出需要が見込まれることや、期末在庫が低水準であることから「相場は堅調に推移するものと見込まれる」とする」
(全農2021年6月18日)

連動してこの高騰は、大豆にも及びました。

「大豆粕のシカゴ定期は3月には1t440ドル前後だったが、中国向けの輸出増大で大豆の期末在庫率が歴史的な低水準となったことに加え、米国の天候不良による作付け遅れ懸念から480ドル台まで上昇した。その後、作付けが順調に進んだことから現在は430ドルまで下落している。国内の大豆粕価格は為替が円安のため値上げが見込まれる」
(全農前掲)

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世界経済総予測2022 :中国の穀物爆買いで市場激変。22年は小麦需給ひっ迫のおそれ=柴田明夫 | 週刊エコノミスト Online (mainichi.jp)

そしてこれに船舶運賃の値上げがかぶりました。
これも中国の爆買いが原因のコンテナ不足が、バルク(船倉)輸送の飼料にまで波及したためです。

「世界の海運大手各社が5月中旬以降、コンテナの輸送運賃を相次ぎ引き上げた。昨年後半から続く海運費の高騰は、ベトナムでも輸入穀物や鉄などの原材料高騰を招いており、輸出入に依存する大手企業各社の収益を圧迫している。4月下旬ごろに天井を打ち一度は落ち着くかに見えた海上輸送コストの上昇傾向が止まらなければ、新型コロナウイルス感染第4波で需要の落ち込みが懸念されるベトナム経済のさらなる重しになりかねない」(アジア経済ニュース5月28日)
海上運賃再値上げが収益圧迫 コロナ前の数倍、業者「不合理」 - NNA ASIA・ベトナム・運輸

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海運コンテナ船の運賃急騰、生活じわり影響…食料品への価格転嫁広がる

そしてこの中国の爆買いによる相場急騰に加えて、さらにウクライナ戦争が影響を及ぼそうとしています。

「小麦は、ロシアのウクライナ侵攻によって世界的に供給が混乱する懸念が高まり、シカゴ穀物相場(先物)が高騰。3月上旬には史上最高値を付けた。その後下落したが、インドが輸出規制をするなど自国の食料確保を優先する動きも見られ、相場は再び上昇する。国連など国際機関は、今後の食料危機に懸念を示す」
(日本農業新聞5月24日)

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ウクライナ侵攻3カ月 農業への影響は? 資材高騰、円安、国産切り替え…(日本農業新聞) - Yahoo!ニュース

戦争の影響は、これから本格的に出始めます。
生産団体はウクライナ戦争が原因だ、と主張していますが、(たぶん説明しやすいからでしょうが)、まちがってはいませんが、本格的な高騰の波はこれからだ、ということもつけ加えたほうがいいでしょう。

「千葉県酪農農業協同組合連合会=千葉県酪連によりますと、新型コロナの影響によるコンテナ不足やロシアのウクライナ侵攻で輸入される穀物価格が高騰して飼料代が値上がりしているということです」
(NHK6月13日)
関東地方の生乳販売団体 飼料代高騰で年度途中値上げ交渉へ|NHK 首都圏のニュース

飼料価格の売買は四半期ごとに決定されます。
これは飼料の国際市場価格が、四半期ごとの先物取引でヘッジ売買さているからです。
3カ月刻みでその中で変動はありますが、おおよそは一定範囲内で納まります。
いまの3月期は3月1日からから6月30日までです。
ウクライナ戦争が始まったのは2月24日ですから、いくらなんでも1週間では影響が出るとは思えないのですが、上図を見ると侵攻のあった直後から3月初旬にかけて著しい高騰があります。
本格的にウライナ戦争の影響が出るのは、次の四半期である7月から9月期で、さらに秋口の10月期には凄まじい飼料の高騰ぶりが演じられるはずです。
もうお腹いっぱいなので、説明は省きますが、これに原油高、資材高騰、円安が加わるのは言うまでもありません。ダブルパンチどころか、クインテットパンチ。
もう矢でも鉄砲ももって来い、ヘルプレスという心境です。
たぶん10万円台に乗るはずで、もう日本で畜産が可能な環境ではありません。
だって、平たくいえば畜産農家の収入が半分になったということなんですから。

それにしても農水省は一体ナニをしているのか。今頃になってこんなとぼけたことを言っています。
今頃なにが「据え置き」ですか。飼料価格の1割下げることを目指す支援策だそうです。
さらに深刻化するだろう秋口には日本畜産には抵抗する余力は残されていないはずです。
普通ならば、倒れた群小の経営を巨大養鶏資本が買って独占を延ばしていくのですが、その巨大企業がイセに見られるように経営破綻しています。
ひょっとしたら、中国資本が入って、スーパーの棚には中国製の畜産品が並ぶかもしれません。
いや、あそこも国内向けがいっぱいいっぱいだから、米国製か、まえぁどちらでも一緒です。
なぜ、政府は2月24日に戦争が始まった時点で、対策を打たないのでしょうか。
この2月末の時点で、ウライナとロシアという世界二大穀物輸出国が戦争をすれば、小麦などの飼料価格がどう動くのかわからなかったら阿呆です。
いままで、なんのために統計数字をいじってきた
のですか、こういう危機的状況の対応に役立てるためではないのでしょうか。
いまになって選挙対策よろしく対策を小出しにするのですから、すべて出遅れ。
これから検討ですから、来年の末くらいにはなにか出てきますかね。

やるならやるで、ガソリン価格のように、6万円台に下がるまで無制限に飼料会社に補てん金を支払うくらいはしなさい。
間違いなく、戦後最大の穀物高騰が始まっているのですから。
霞が関貴族のあなた方にはまったく期待していませんが、やるなら今ですよ。今しかない。
日本畜産は瀕死です。
中国の爆買いで叩きのめされ、さらにロシアの侵略で壊滅に追い込まれようとしています。
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西日本新聞
ウクライナに平和と独立を




2022年6月22日 (水)

昔ベンツ、今空母

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中国が8万トンもあるバカデカイ空母を進水させたので、大変だ大変だと騒ぐ人がいます。
それ自体は素直な心情ですから否定しませんが、どうぞ穏やかに穏やかに。テンションを上げすぎないように。 
中国にとって、今回の「福建」を作った第1の目的は、日米やASEAN諸国に対する軍事的威嚇ですから、むやみに騒ぐと、軍事威嚇の効果があったという間違った錯覚をかの国に与えてしまうことになります。
ですから、クールに突き放して対応したほうが、中国には嫌なはずです。

かつて佐藤守空将が、中国海軍の要人と面談したときに、こう言ったそうです。
「空母という大きな標的をありがとう。じゃぶじゃぶカネを使って下さい。なにかの時はすぐに沈めて差し上げますから」

これは虚勢ではありません。
ルトワックは『ラストエンペラー・習近平』の中で、空母という艦種が意味を持つのは、唯一だだッ広い海洋だけだと言い切っています。
沿岸近くや島しょ近くでは、陸地の滑走路から飛ばしたほうがはるかに大量の燃料と武装を積むことができるですから、特に空母はいらないのです。

2020年に、トルコのエルドアンがイスラエル沖で勝手に海底油田を掘ろうとしたところ、イスラエルはにべもなく「やったら掘削船を沈める」と警告したそうです。
怒ったエルドアンは、「われわれには大海軍があるんだゾ。お前らなんかたちまちノミのように潰してやる」と逆ギレしたところ、かえってきたイスラエルの答え。
「きみらはなにもわかっていない。そんな沿岸近くの艦艇などただの標的艦にすぎない」。
おそらく、実際にやったら陸上から飛来したイスラエル空軍機によって、数時間でトルコ艦艇は海の藻屑となっていたろう、とルトワックは見ています。

これを身に沁みて理解したのは、オデーサ沖で沈められた巡洋艦「モスクワ」の経験を持つロシア海軍でしょう。
沿岸付近の艦艇ほどもろいものはないのです。

このように、巨大な空母は狭い台湾海峡で使えば、台湾沿岸からの対艦ミサイル攻撃でズタボロになり、東シナ海で使おうものなら、陸自の宮古警備隊の対艦ミサイルと那覇まで進出してきたF-2の餌食となるでしょう。
しかも、中国空母というはずしようがない大きな標的を襲うのは、頭上からだけではありません。
海自が世界に誇る12隻のそうりゅう型潜水艦が、熱烈歓迎するはずです。
ルトワックは、この海自潜水艦隊の12隻だけで、中国人民解放軍の艦艇を100隻ほど沈められるだろう、と言っています。

そもそも、中国海軍に空母が必要かどうか大変に疑わしいのです。
東シナ海や台湾海峡にさらに航空戦力が欲しいなら、今でも台湾、尖閣に近い位置に航空基地をじゅうぶんに持っています。
とくに路橋基地など、那覇より50㎞も近い位置にあります。

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中国の防空識別圏(ADIZ):尖閣に向かってくる中国軍機とその発進基地 : 海国防衛ジャーナル (livedoor.jp)

「アラート機発進基地と尖閣諸島までの距離に着目すると、空軍の第8航空連隊・長興基地が687km、第85航空連隊・衢州基地が577kmと比較的近くにあります。
魚釣島まで最も近いのが、海軍航空隊が運用する寧波の路橋基地(Luqiao Airbase)で、370kmです。福州基地、福建水門基地も約400kmの距離で、アラート機の待機基地として候補に挙がっている模様です」
(海国防衛ジャーナル2013年11月26日)

では、グアムを狙って太平洋に進出しようとしても、入り口は何度も書いてきているように宮古海峡しかありません。
そしてここには宮古警備隊ががんばっているのです。
平時はともかく、有事にここを簡単に明け渡すことなどありえないはずです。

このように見てくると、中国は海軍力こそ超大国の証と思っているようですが、なにか深い勘違いをしているようです。
今のような中途半端な、戦力になるかならないかわからない空母など、鑑賞用オブジェにしかなりません。
観艦式に見栄えがするので、習近平の見栄心がくすぐられるだけのこと。
平時には空母の存在は、巨額の維持費と人件費を食い散らして、他の艦種の建造を圧迫し、艦隊のバランスを崩します。

元来、中国海軍は大変にバランスの悪いいびつな海軍なのです。
いってみれば超攻撃型海軍。
攻撃だけに偏って、守る方は苦手ですから、現代戦に必須の対潜水艦能力は劣り、機雷封鎖を打ち破る掃海能力にも乏しく、ひたすら弾道ミサイルを積む戦略原潜ばかりに比重が傾いた予算配分がされました。

このあたりは、潜水艦と機雷によって敗北した大戦の焼け跡から作られた海自と真逆です。
日本は対潜能力と機雷除去、防空に特化し、攻撃能力と戦力投射はほぼ持たないという、ある意味こちらもバランスが崩れた配分でした。
これもこれで問題は残るのですが、決定的に中国と異なるのは、日本は日米同盟が大前提になっており、米軍とワンセットで動いていることです。
なかでも海自は米海軍とまさに一体の存在です。

一方、中国は同盟国を持ちません。
あえていえばロシアですが、遠すぎる上に極東にはたいした海上戦力を持ちません。
気分としては、中国一国で自由主義陣営全部と戦っているつもりかもしれません。
ならば国際秩序の中で平和に暮らせばよいものを、中華帝国意識に駆られて中華圏を作ろうとするから紛争が絶えません。

海軍はこの中華圏づくりの先兵でした。
米国に負けない超大国になりたい一心で海軍建設をしたために、ひずみが出ました。
まさに政治的海軍です。
中国海軍は、常に政治のために海軍力を誇示するための道具にされました。

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中国、初の強襲揚陸艦が就役 台湾上陸も想定し海軍力誇示か - 産経ニュース (sankei.com)

ですから本来、充実させるべき艦類がおろそかになります。
大型空母など二の次三の次なのです。
空母の本家米海軍ですら、大型空母をもてあましています。

「米海軍は最適な艦隊編成に係る検討を継続的に実施しており、その中で空母機動部隊保有について疑問が呈されている。その理由の第一は建造費や維持費が膨大であることである。
2017年に就役した最新鋭原子力空母フォードの建造費はニミッツ級の約2倍の約1兆4,000億円にのぼる。これは、「電磁式カタパルト」や新型着艦制動装置の開発費が予想よりも膨らんだためである。更には、搭載航空機であるF-35Cの1機の値段は100億円を超えるとされており、航空機を含む空母1隻の値段は優に2兆円を超す」
(ロイター2021年1月21日)
空母は生き残れるか−米原子力空母が震える日(2)【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】 | Reuters

「福建」と同じ電磁カタパルト式空母のジェラルド・フォード」は、建造費が1兆4千億円、航空機を入れれば2兆を超え、年間運用経費がざっと約350億円、人員が5千人となっています。
佐藤氏ではありませんが、中国さん、じゃんじゃん空母を作って海軍予算と人員を枯渇させて下さい。

本気でよい海軍を作りたかったら、対潜水艦能力を向上させた駆逐艦や、機雷を除去する掃海艇などを大量に作るべきです。
手薄な対潜哨戒機も必要です。
この対潜、対機雷分野で、中国海軍は日米に大きく水を開けられているのですから、ここから先に充実させるのが筋なはずですが、中国共産党の見栄でこういう馬鹿げた大型空母を作って悦に入っているのですから没了。 
このように空母を軍事的合理性で持つのではなく、「超大国になったんだから空母のひとつも持たにゃあ」というような田舎の成金、昔ベンツ、今空母のようです。

一方、日本は軽空母を4隻くらい作り、それにステルス戦闘機を載せ、長射程の対艦ミサイルを装備させる予定で、いつもは4つの護衛艦隊にバラバラに配置して、対潜ヘリによる哨戒任務をさせています。
しかしいったん必要ならば、一定海域に集合させて、一気に通常型空母と変わらない航空戦力を形成する、という仕組みです。
このほうが大型空母を一隻作るより、はるかに柔軟性があって現実的なやり方なのです。

ルトワックは、このように述べています。

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中国、南シナ海で最大規模の海上軍事パレード —— 空母「遼寧」、

「中国にとって究極にして最適な戦略とは次のようなものだ。
ひとつは中国が自国の領域として主張する『九段線』、もはくは『牛の舌』として知られる地図を引っ込めること。つまり南シナ海の領有権の主張を放棄することである。そしてもうひとつは空母の建造を直ちに中止することだ。この提言が最も正しい選択であることは、いまも変わらない」
(ルトワック前掲)

しかそれは習にとって「政治的に受け入れられないだろう。中国のメンツに大きなキズをつくるからだ」、とルトワックは言います。
中国は小国である時のほうがしたたかで強かったが、既に中国は「大国」それも「超大国」となってしまい退くことができないのだ、と。

「私の考えでは、習近平は『強大になるほど戦略的に弱くなる』という戦略の逆説(ストラテジック・パラドックス)にはまってしまったのである」
(ルトワック前掲)

中国さん、私たちは困らないのですから、見栄海軍をどんどんと作っていって下さい。

 

 

 

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【ウクライナの女たち②】私はふるさとを2度失った チェルノブイリと紛争:朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)

ウクライナに平和と独立を

 

2022年6月21日 (火)

中国空母、いきなり電磁カタパルトだそうです

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ロシアがポンコツ艦隊で日本をまわるっている頃、中国はよせばいいのに3隻めの空母を作ってしまったようです。
日本のメディアが大騒ぎしたので、見られた方も多いでしょう。

「【北京=三塚聖平】中国国営新華社通信によると、中国が上海市で建造していた3隻目の空母が17日に進水し、「福建」と命名された。国産空母としては2隻目。従来の中国空母より大型化し、艦載機の発艦能力を高める電磁式カタパルト(射出機)を備えている。
就役すれば、中国の空母は旧ソ連製を改修した「遼寧」(2012年就役)、初の国産「山東」(19年就役)と合わせた3隻態勢となる。習近平国家主席は「海洋強国」の掛け声の下、空母の整備を急いできた。習氏は、今秋の中国共産党大会で総書記として3期目入りを目指しており、海軍力増強を自らの成果としてアピールし、求心力を高める狙いとみられる。
新空母は原子力ではなく通常動力で稼働し、満載排水量は8万トン余り。従来の空母2隻は、艦首部分に傾斜をつけた甲板から艦載機を発進させるスキージャンプ式だったが、新空母は、リニアモーターの原理を応用した最新鋭の電磁式カタパルトを採用したと中国メディアが伝えている」(産経6月17日)
中国3隻目の空母「福建」が進水 - 産経ニュース (sankei.com)

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【中国】「世界中に展開して存在示す」“3隻目の空母” - YouTube

早くもそそっかしいものは「実戦投入か」なんて書いていますが、わきゃないでしょう。
進水して、一般的に任務に耐える状態になるまで最低でも約3年はかかりますが、それは根本的トラブルがなくうまくいった場合です。
空母で最も重要な機能は、重たい航空機をあの短くて狭い甲板から打ち出して、またそれを回収することです。
ですから、空母技術のキモは、カタパルトと着艦制御索だといってもよいほどです。

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カタパルトとは - コトバンク (kotobank.jp)

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隠れた最先端技術、米国の航空母艦のカタパルトによる発艦 | 実験とCAEとはかせ工房 (ezu-ken.com)

さてここで、なぜカタパルトが現代の空母に必須の装備なのか考えてみましょう。
カタパルトにこだわった中国の意図がわかります。

実はカタパルトとは、その空母の戦闘能力そのものです。
ホンモノの空母とニセモノの空母の離艦する様子を比較してみましょう。
まずはほんものの空母からです。これは米空母から離艦しようとするF/A-18です。

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同上

空母から機体重量15トンあるF/A-18を、長さ100メートルのカタパルトから打ち出して、離陸速度である200㎞/hまで加速します。
しかも何にも乗せずにただ飛ばすだけだと遊覧船になってしまいますから、さまざまな増加燃料タンクや、爆弾、ミサイルなどを積載しますが、その武装等を含めると倍の約30トン以上に達します。
簡単に30トンと言いますが,大型ダンプの空虚重量が10トン、最大積載量が6.5トンとして16.5トンを2台大空に吹き飛ばすんですから、大変なもんです。

これを米空母は、短い時間で戦闘機2個飛行隊(40~48機)ほど、打ち出すことが可能です。
これは中規模国家の戦闘機保有総数に匹敵します。

一方、怪しげな空母を見てみましょう。

実は、遼寧が離発着訓練している様子を見てもなにも搭載しない写真ばかりなので、武装を積んであるものを探すのに苦労したほどですが、ありました、これは対空ミサイルをたぶん4発つけている珍しい写真です。
シューターという射出要員が、米海軍とお揃いのイエロージャケットに身を包み、ポーズまでそっくりなのはご愛嬌です。
あながち冗談ではなく、30年前の「トップガン」があまりに熱狂的に中国人に迎えられたのを見て、指導部までが空母が欲しい、なんとしてでもほしい、これがなくては超大国になれんのだぁ、と思ったのが初めのようです。

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中国空母艦隊、J-15戦闘機がスキージャンプで発艦_中国網_日本語 (china.org.cn)

遼寧は中国自慢の砲艦外交のツールですから、散々にアジアや沖縄近海を周回して使い倒していますが、不思議なことにほとんどがスッポンポンです。
広大な海上を飛行するというのに、米海軍が必ず装備する増加燃料タンク(ひとつ上の写真の翼下の巨大なタンクがそれですが)一本すら搭載していません。
これでは使えるのは機内燃料だけですので、作戦距離が極端に短いはずですし、そもそも武装をぶら下げられない戦闘機を軍用機とは呼びません。
遼寧は本来艦載機が持つべき30トンの積載量を積めず、20トン台に制限しているようです。
艦載機のJ-15(殲15)の空虚重量は、ロシアの原型であるSu-33から推測して約18トンですから、おそらく10トン以下の武装しか搭載できないはずです。

これはスキージャンプ台方式で飛ばしているからで、カタパルトを積んでいないからです。
ですから米空母に比べて戦闘機の数は半分、しかも戦闘機が載せられるミサイルはわずか数発、重たい対艦ミサイルを積載している様子は見えません。
ちなみに、空自のF-2はこの対艦ミサイルを4発搭載する力持ちです。
したがって、米空母に比べるのは酷で、シークレットブーツを履かせても3分の1いくかいかないかていどで、日米海軍からは「標的艦遼寧」という可愛い愛称で呼ばれています。

もちろん中国も遼寧が「空母の形をしたなにものか」だということはわかっていますから、とりあえず練習艦ということにして、哨戒艇しか保有しないアジア諸国を恫喝するヤクザのドスのような使い方をしています。
ただ、日米海軍のプロにはまったく通用しませんから、このような扱いを受けています。

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US NAVY

上写真は、中国空母遼寧の輪形陣を軽く破って、すぐ脇を航行する米国イージス艦マスティンです。
ブリッグス艦長(左)はのんびりして馬鹿にしきっていますが、実は遼寧の逆側には海自の艦艇も同じく輪形陣を破って並走していたようです。

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日本護衛艦、中国空母と並走(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース

日米艦艇にはさまれるとは、なんたる恥とばかりに、この艦長と司令官は習近平同志の怒りを受けて即刻飛ばされたようですが、中国が待っていたのがこの新たに作る電磁カタパルト装備の通常型空母、その次の原子力空母(!)でした。
なんとこの3番目の空母は、ピカピカの電磁カタパルト(EMALS)がつくんですぜ。どうだ、まいったか、日米め。
こんな世界どの国も完成させていない技術を、いきなり事実上の最初の空母につけるのですから、エライといえば偉い、馬鹿といえば馬鹿。
下手をすると、カタパルトの付け替えで、そのままお蔵入りになるかもしれません。

実は電磁カタパルトは、現時点でカタパルトを世界唯一実用化している米海軍ですらモノにできていない技術なのです。
トランプなどはこの電磁カタパルトについて強く反対し、通常の蒸気カタパルトへの変更を要求していたほどです。
搭載した空母「ジェラルド・R・フォード」(米海軍の空母はほとんど大統領の名前です)の現場での評価はボトムで、止めてくれという将兵ばかりだそうです。
電磁式は作動が安定しないうえに、コストがかかりすぎる。電磁式を1隻作るカネで2隻の蒸気式空母ができるという、いかにもビジネスマンらしい指摘です。

「電磁式航空機発射システムは、異なる機種、任務によって異なる兵装を搭載した艦載機を、どれ位のパワーで、どの程度の加速率で、発射すれば機体にどの程度の負荷がかかるのかデータが不足しているため、未だに調整中で、システム自体の不具合も完全潰しきれておらず、未だに不具合の報告が上がってくる。
新型着艦制動装置は、従来の油圧式ではなく、電磁気と水圧でアレスティング・ワイヤーの制動を行うが、故障率が異常に高く、発艦効率を高められる「電磁式航空機発射システム」で、多くの艦載機を発艦させても、着艦させることが出来ない。
4日間連続で、故障をせず艦載機を着艦させられる可能性は0.001%で、1日間、故障をせず艦載機を着艦させられる可能性は0.2%以下と言われているほど信頼性が確立されていない」
(航空万能論2019年5月19日)
建造費1.4兆円!米海軍新型「フォード」級空母、カタパルトを「電磁式」から「蒸気式」に変更? (grandfleet.info)

つまり、電磁式カタパルトのシステムは、未だに完成した技術ではなく、様々な不具合がたくさん残っている実験段階を抜け切らないものなのです。
そのために、艦載機の発艦時の射出と、着艦時の制動に関するデータ収集が全く進まず、一時は修繕しようにもどこをどう直していいのさえわからなかったようです。
経験豊かな米海軍でさえ、「ジェラルド・R・フォード」が2017年5月に引き渡されてから、2020年2月にACT(航空機適合性試験)をパスするまで丸々3年間の紆余曲折を経たほどでした。

では、蒸気式カタパルトが簡単かといえば、これまた非常に微妙で精密な技術体系です。
空母から艦載機を射出する際、射出する機種、燃料、兵器の搭載量や、搭載位置、飛行甲板上の気温・風速などを細かく計算して、カタパルトに加える蒸気量を調整しています。
映画「トップガン」のようにカッコよくどんどんと射出できるのも、この精密な計算の上に一機、一機をオーダーメイドで蒸気量を決定しているからです。
これはまさにノウハウの塊で、米海軍が半世紀以上かけて積み上げてきた技術と経験の蓄積の上に成り立っています。

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アレスティング・ワイヤー - Wikipedia

着艦時も同じで、着艦してくる機種、機体に残っている燃料の量、持ち帰った兵器量などを細かく計算して、アレスティング・ワイヤー(制動索)に掛かる油圧シリンダーの制動力を調整しています。

また、この蒸気カタパルトシステムを動かすには膨大な電源を要しますから、通常動力型空母では使用すること自体が難しいのです。
米国の空母がすべて原子力推進になった理由は、長距離航海ができるだけではなく、この蒸気カタパルトを動かすエネルギーが一般の動力源ではとりだせなからです。
先ほどの「ジェラルド・R・フォード」の発電能力は、19万キロワットの原子炉でまかなっています。

そもそも蒸気式カタパルトを米国は重要な軍事機密としていましたから、同盟国に渡すことすら拒んできました。
英国の空母クイーンエリザベスも、通常型であるために、重たいスキージャンプ台を艦首に備えてVSTOL(垂直・短距離離着陸機)のF-35を運用しています。
離艦するときは短距離離陸して、着陸は垂直離陸する方式でが、これは日本の軽空母(もとい、航空機搭型載護衛艦でしたっけね)「いずも」も似た形式になるはずです。

長々と説明しましたが、スクラップ再生した「遼寧」、どこに行ったか行方不明のままの「山東」しか作ったことがない中国が、たった3隻めで、いきなり人類未踏の電磁式カタパルト空母ですか、さすが中国、これぞ中国。
まぁいかなる手管を使ったのか知りませんが、とまれ進水したわけで、これから膨大な空母というシステムになじむまでうまくいって数年は十分にかかるはずです。

 

 

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「私たちは生きたい!」ウクライナ人柔道家のビロディドがロシアの空爆に嘆き「信じられない」 | THE DIGEST (thedigestweb.com)

ウクライナに平和と独立を

 

2022年6月20日 (月)

千葉沖にやって来たロシアポンコツ艦隊

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ロシアという国は、どうしてこういうえげつないまねをするんでしょうか。
いっそう日本人に嫌われて、好きなのは鈴木宗男さんと鳩山氏だけになってしまいました。
今度は首都近郊の千葉沖を、艦隊でこれみよがしに通過していきました。
まるで暴力団の地回りです。
同じことをNATO艦隊がバルト海でやったら、プーチンは核報復するくらいは言い出しかねませんから、自分がやられたくないことは他人にしないことです。小学校で習わなかったんですか。
「防衛省・統合幕僚監部は、ロシア海軍の艦艇ウダロイI級駆逐艦2隻、ステレグシチーII級フリゲート1隻、ステレグシチー級フリゲート3隻およびマルシャル・ネデリン級ミサイル観測支援艦1隻の計7隻が一昨日2022年6月15日(水)正午頃、北海道襟裳岬の南東約280kmの海域を南進したと発表しました。同艦は翌16日(木)午前9時頃、千葉県犬吠埼の南東約180kmを南西進したとのことです。
今回のロシア軍艦の動向に対し海上自衛隊は、青森県の大湊を母港とする第7護衛隊所属の護衛艦「ゆうだち」と、長崎県の佐世保を母港とする第5護衛隊所属のイージス艦「こんごう」で、情報収集や警戒監視を行ったとしています。
また、ウダロイI級駆逐艦1隻とマルシャル・ネデリン級ミサイル観測支援艦1隻を除くロシア軍艦は、去る6月9日(木)に北海道根室半島の南東約170kmの海域で確認されたものと同一とのことです」
(ロシア軍艦、太平洋側を南下し千葉県沖へ 佐世保から「こんごう」駆けつけ警戒監視 | 乗りものニュース (trafficnews.jp) 
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この艦隊の編成ですが、7隻というとさぞかし大艦隊のようですが、米海軍の空母打撃群のように空母以下全駆逐艦がイージス艦とはえらい違いで、戦力らしきものはウダロイI級駆逐艦1隻とフリゲート艦艇4隻だけ。
あとの残りは、沿岸哨戒のための小型哨戒艦艇隻と支援艦で、今のロシア海軍がカラッケツになっているのかわかる内容です。
よくこんな沿岸で密輸を警戒するようなミニ艦艇を、相手国の首都近海を走らせたせたものだ、と失笑します。
海自がミサイル艇や観測船「ひびき」をウラジオストオクの領海スレスレに走らせたら、ロシア人はどんな顔するか、見てみたいものですね。

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ウダロイ1級駆逐艦(艦艇番号545)
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ステレグシチー級フリゲート(325)
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統合幕僚監部 報道発表資料(6/10)

「ロシア軍のものとみられる航空機計4機が7日夜、北海道西方の日本海を日本領空に向かって東に直進飛行した。航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)して対応したところ、領空手前で方向を変えたという。防衛省が8日公表した航空機の行動概要を見ると、200万都市・札幌市の方向に突進していたようにも見える。この異様な飛行は何なのか。識者に聞いた。
「近年、類似の飛行は見られない」
防衛省統合幕僚監部によると、4機は北海道西方から日本領空に向かってきた。空自戦闘機がスクランブル対応したところ、2機は1機ずつ離れた空域を日本海上空で旋回飛行して西方へ戻り、2機は樺太方面へ北進したという。領空侵犯はなかった」
(産経6月9日)
ロシア軍機?北海道〝異様飛行〟の狙い 空自戦闘機がスクランブル対応 挑発行為の可能性も 「しいていえば空自千歳基地へ脅し」識者(1/2ページ) - イザ! (iza.ne.jp)

2022年6月19日 (日)

日曜写真館 朝の雨あらくて夏に入りにけり

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霧はゆたかにはやし未明の杉林 柴田白葉女

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どうやらあるけて見あげる雲が初夏 種田山頭火

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棕梠高く見ゆ千本の花の雲 河東碧梧桐

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顔も膝も蔦の羅漢や夏近き 渡辺水巴

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何か叫ぶ初夏硬山のてつぺんに 西東三鬼

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日の光り 初夏傾けて 照りわたる 横光利一

 

 

2022年6月18日 (土)

ウクライナ戦争で潮目が変わった原発再稼働

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今年の原発再稼働は絶望的と考えられていました。
今年の初めには、原発の再稼働は今年はゼロだぜ、ざまぁかんかん、と東京新聞は勝利宣言もどきの記事を載せていたことがあります。
そのタイトル名は「原発のない国に」ですから、どこかの政党機関紙みたい。
そこで、東京は今年「2022年は新たな再稼働原発「ゼロ」も 審査7原発10基は終了見通せず」と書いています。

「2021年9月以降、全国の原発で目立った動きは三つあった。
一つ目は、四国電力伊方3号機(愛媛県)が12月2日、2年ぶりに運転を再開した。2019年末に定期検査で停止後、20年1月に広島高裁が運転禁止の仮処分を決定。21年3月の異議審で同高裁が運転を認め、当初は10月に運転を再開する予定だったが、当直員の無断外出など違反が発覚して延期していた。
二つ目は、運転期間40年を超えた原発として初めて再稼働した関西電力美浜3号機(福井県)が10月23日に停止した。テロ対策施設の完成が期限に間に合わなかったためで、関電は施設完成後の22年10月に再稼働を計画している。
三つ目は、九州電力が運転開始から40年が近づく川内1、2号機(鹿児島県)について、運転延長を視野に特別点検を10月から始めた。鹿児島県の塩田康一知事は安全性を検証する県専門委員会の分科会(6人)に、原子力政策に批判的な委員を含む4人を加えて運転延長の可否を判断する。
今年は、原子力規制委員会の審査で新規制基準に適合した原発の新たな再稼働はゼロの可能性がある」
(東京2022年1月10日)
2022年は新たな再稼働原発「ゼロ」も 審査7原発10基は終了見通せず (tokyo-np.co.jp) 

つまり、四国電力の伊方3号機は運転員の無断外出でダメ、関西電力の美浜3号機もテロ対策が不十分でダメ、九州電力の川内1・2号機も不透明だから、今年の再稼働できる原発はゼロなるぞ、というわけです。

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東京

確かに規制委の新基準審査が続く7原発10基は、想定される地震や津波を巡る議論が難航していて、年内に審査終了が見込まれている原発はありませんでした。
規制委員会は初代の田中委員長時代から、脱原発的な色彩が強い機関ですから、簡単には動かさないでしょう、今年の夏と冬にはエライことになるぞ、と私はやや捨て鉢な気分でおりました。

しかし、それは国内だけのことでした。
実は、世界的に見れば、再び原子力見直しの機運は高まっていたのです。
ひとつは脱炭素をつきつめると、化石燃料を燃やす火力発電を否定せねばならず、これを否定してしまうと工業国家のエネルギーはLNGと気まぐれな再生可能エネルギー一本になってしまうことに、EUがはたと気がついたからです。(遅いよ)

「[1日 ロイター] - 欧州連合(EU)欧州委員会は、一部天然ガスと原子力エネルギーを「グリーン投資」に区分する提案をまとめた。1月にEUの「サステナブル・ファイナンス・タクソノミー」に関するルールを提案する見通しだ。
欧州委は、グリーン投資に区分される経済活動や環境面の要件をまとめた。
「科学的助言と現在の技術の進展、加盟国間で異なる移行面の試練を考慮し、天然ガスと原子力には、再生可能を主体とする将来に移行するための手段としての役割がある」と声明で述べた」
(共同2022年1月3日)
https://news.goo.ne.jp/article/reuters/world/reuters-20220103005.html

よく脱原発派の人たちは原子力廃絶は人類共通の歩み、くらい言うのですが、脱原発の本場ヨーロッパでは脱炭素をするには原子力が必要という立場に変わってしまったわけです。
ここでEUは「原子力と天然ガスには再エネに移行する手段だ」と言っていますが、これはまだ2月24日から突如勃発したウクライナ戦争の前だから言えたことでした。
突如、始まったロシアのウクライナ侵略に対して、西側が協調して開始したのがSWIFT排除とロシア産原油・LNGの禁輸措置でした。
これで事実上、EUにはLNGは入らないか、入っても半減ということになりました。

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何度も書いてきているように、EUはロシアに身も心も、エネルギーも捧げていました。
戦争勃発時で、LNGが45%がロシア産、石油が3分の1、石炭が半分ですから、ロシア制裁で禁輸と言っても、自分で自分の首を締めるセルフ制裁のようなもの。
当然、原油国際市場はぐんぐんと上昇し、バレル130ドルにも達しました。

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同上

そして頼みのOPECからは早々と、もう増産できないからと引導を渡されてしまいました。
彼らからすれば、いままで脱炭素だ、化石燃料は人類の敵だ呼ばわりされてきましたから、原油価格の高止まりほど心地よい調べはないのです。
誰が増産するかよ、というOPECと一緒に、ニヤニヤと陰湿な笑いを漏らしていたのがロシアです。

「ロシアのノワク副首相は3月7日、欧米がロシア産原油の輸入を禁止すれば、「世界市場は壊滅的な打撃を受ける」、「予測もできないほどの原油高に見舞われる」とし、原油価格は1バレル 300ドルを超える水準に上昇するほか、ロシアからドイツに天然ガスを供給するパイプラインも閉鎖されると警告した」
(化学業界の話題3月9日)
ロシア産原油禁輸、米が追加制裁 即日発効 英は年内停止 - 化学業界の話題 (knak.jp)

これが先日書いた「プーチンの仕掛けた罠」です。
彼は経済制裁で来るなら、必ずエネルギーの取り合いになり、続くはずがないと読んでいたのです。
プーチンは、軍事的に西側が出るなら核兵器を持ち出して全面核戦争になるぞと脅し、経済制裁で来るなら石油とLNGが天井知らずの高値になってお前らのほうが先に経済破綻するゾ、と凄んで見せたのです。

ところが、西側にも逃げ道がひとつあったのです。
それが原子力です。
停止している原子力を動かせば、たちまち解決する、しかも炭素ゼロのポリシーとバッティグしない、これがEUが出した解決方法でした。
それを素早く察知したのが、われらが岸田氏でした。
岸田氏はこう述べています。

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岸田首相、原発再稼働に意欲「原発を一基動かすことができれば、世界のLNG市場に年間100万トンを新たに供給する効果がある」 | Share News Japan (sn-jp.com)

「岸田文雄首相は26日夜、テレビ東京の番組で、物価高騰に対応する「緊急対策」の柱の一つであるエネルギーの安定供給について、「できるだけ可能な原子力発電所は動かしていきたい」と述べた。
安全性には配慮しつつ、国民に再稼働への理解を求めていく考えだ。

番組で首相は、ウクライナ情勢による原油高などで、エネルギー供給が不安定になっていることに触れ、電力の逼迫(ひっぱく)やガス料金の高止まりへの懸念を示した。そのうえで「原子力発電所を1基動かすことができれば、世界のLNG(液化天然ガス)市場の年間100万トン、新たに供給するという効果がある」と、再稼働の効果を強調した」
(朝日2022年4月7日)
岸田首相「できるだけ原発を動かしていきたい」 原油高への対応で:朝日新聞デジタル (asahi.com)

ついでに規制委員会についても迅速化を図るために改革する、と言い出しました。

「一方で、原発設備の安全面は独立性の高い原子力規制委員会が担っている。首相は「規制委の審査についても合理化、効率化を図りながら、審査体制も強化をしながら手続きをしっかり進めていき、どこまで再稼働ができるのかの追求をしていかなければならない」と語った」
(朝日前掲)


たとえば九州電力は今月、川内原発2号機については11日に原子炉を起動し、7月中旬には通常運転に復帰する、と発表しました。

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川内原発2号機 11日起動し13日に発電再開へ 九電が発表|NHK 鹿児島県のニュース

「九州電力は、定期検査のためことし2月から運転を停止している薩摩川内市にある川内原子力発電所2号機について、今月11日に原子炉を起動して13日に発電を再開すると発表しました。
川内原子力発電所2号機はことし2月に運転を停止して定期検査に入り、燃料集合体のおよそ4分の1を取り替えたほか原子炉本体や非常用電源設備など110項目の検査が行われてきました。
九州電力が7日発表した再稼働のスケジュールによりますと、今月11日に原子炉を起動して作業が順調に進めば翌日の12日には核分裂反応が連続する「臨界」の状態になり、13日には発電と送電を再開するということです。
その後、来月中旬に通常運転に入る予定です」
(NHK 2022年6月7日 )
※九州電力プレスリリース

九州電力 川内原子力発電所2号機の発電再開予定をお知らせします (kyuden.co.jp)

また、関西電力も今月、美浜原発3号機の運転再開予定時期については当初の10月20日ではなく、8月12日に前倒しすると発表しています。

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関電美浜3号機、運用再開8月に前倒し 夏の電力需給安定へ - イザ! (iza.ne.jp)

「関西電力は10日、テロ対策の「特定重大事故等対処施設」(特重施設)が未完成のため停止していた美浜原発3号機(福井県美浜町)の運用開始時期について、従来予定より2カ月早い8月12日に前倒しすると発表した。当初は10月20日としていたが特重施設の運用開始を早めた。営業運転再開は9月6日の予定。運転再開により、8月の電力需給が改善する見通しとなった。
関電によると、夏場の電力需給安定のために国からの要請もあり、特重施設の工事の効率化を図ることで前倒しを実現した。特重施設の運用開始時期も、従来の9月から7月下旬に前倒しする」
(産経2022年6月10日)

※関西電力プレスリリース
美浜発電所3号機の特定重大事故等対処施設の運用開始時期見直しおよび運転再開時期の変更について - コピー (kepco.co.jp)

こでこで関西電力が「国からの要請もあり」と言っていることにご注目ください。
たぶん相当に強い働きかけが、政府からあったはずです。

さらには、中国電力島根原発2号機をめぐっても、昨日、島根県の丸山達也知事が萩生田光一経産相と会談し、再稼働に同意したこと伝えました。

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島根原発再稼働 知事「やむをえず」、経産相に同意伝達: 日本経済新聞 (nikkei.com)

「島根原発再稼働 知事「やむをえず」、経産相に同意伝達
島根県の丸山達也知事は15日、萩生田光一経済産業相と面会し、中国電力島根原発2号機の再稼働に同意したことを伝達した。丸山氏は「現状においてはやむをえない」と述べた。原子力災害が発生した際の円滑な避難のため、道路整備支援など7項目の要望書を手渡した。
萩生田氏は「要請はしっかり受け止める」と応じた。エネルギーの安定供給の確保や気候変動対策を進めるうえで「安全最優先で原子力を活用することが不可欠だ。立地自治体や周辺自治体の理解が得られるように取り組む」と話した」
(日経6月15日)
島根原発再稼働 知事「やむをえず」、経産相に同意伝達: 日本経済新聞 (nikkei.com)

この島根県丸山氏の決断は、ほかの首長にも大きな影響をあたえるでしょう。
設置首長たちが問われているのは、原発に対する一般論ではなく、自分の県で大停電を起こしていいのか、経済と生活を荒廃させてかまわないのか、この夏さえ乗り切れるのか、というギリギリの判断だからです。

このように見てくると、原発再稼働の潮目は確実に来ているのです。
岸田氏にがんばってもらうしかありません。

 

2022年6月17日 (金)

この夏、いつ大停電が起きても不思議ではありません

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少し前のこと、政府がこんなマヌケな要請を国民と企業に出して、国民の顰蹙を買っていました。


「政府は6月7日、今年の夏と冬は電力需給が極めて厳しい状況にあるとして、企業や家庭に節電を呼び掛けると発表した。数値目標のない節電協力要請は2015年以来7年ぶり。
7日午前に5年ぶりとなる「電力需給に関する検討会合」を開き、政府としての方針を決めた。会合後に会見に臨んだ松野博一官房長官は「この夏に向けては全国でできる限りの節電、省エネに取り組むこと。電力需給がより厳しくなると想定される冬に向けては夏以上の需要対策を進めていくことを決定した」と話した」

(ITメディアニュース2022年6月7日)
政府、夏の節電を要請 「12年度以降で最も厳しい」 - ITmedia NEWS

政府はやることやってから自粛を求めろ、ってことですな。
松野官房長官、こんな要請を読まされてさぞかし恥ずかしかったでありましょう。

もちろん、この節電自粛要請には理由があります。

2022年夏季の供給予備率は惨憺たるもので、来月の7月には下図のように東北・東京・中部エリアで供給予備率が3.1%とスレスレの見通しです。

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2022年夏季、電力需給ひっ迫の予想。今冬は広範囲で予備率3%割れ | REiVALUE Blog

供給予備率とは、電力需要のピークに対し、どれくらいの供給力の余裕があるかを示したものですが、安定供給に最低限必要な供給予備率は3%ですから、今年7月など東北・東京・中部電力の3.1%は赤点すれすれです。
猛暑になったり、火力発電所がひとつ止まっただけで、東京は大停電になりかねません。
もちろんほかの電力会社から電力融通を受けて持ちこたえるわけですが、応援を受けるのが前提になってしまっています。
ですから、この電力事情を憂慮して、政府が節電要請を出さざるをえなかったわけです。

では、どのくらいが、平均の電力予備率なのでしょうか。
上図最下段の沖縄電力と、最上段の北海道電力の供給予備率は常に20%から30%ですが、このレベルが原発停止までの平均値でした。
ちなみに、韓国も20~30%台をキープしています。
むしろこれが常識で、電力の安定供給こそ電力会社に課せられた最大の義務だったのです。
ですから、2022年7月の東北、東京、中部の3.1%という数字は、その10分の1ですから、いかに危険な供給ラインかわかります。

このような薄い氷の上をそろそろ歩いているような電力供給にとって、最大の驚異は天候のブレと地震です。
下図は、その時期の平均気温が寒冷にブレると青色、猛暑の場合を赤色に塗ってあります。
これを見ると、気温変動は予測が難しい水物で、2021年の1月のようにマイナス2度Cに接近すると、電力マンは青くなります。

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2021年初頭、電力供給が大ピンチに。どうやって乗り切った?(前編)|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

グラフの2020年12月中旬には、強い寒波が日本に流入しました。
2021年1月、気象庁が後日、北・西日本を「かなり低かった」、東日本を「低かった」と評価するほどの厳しい寒波が日本列島を襲いました。
1月1日~15日の全国の平均気温は、平年よりも約2℃低下しました。
このため、1月上旬は全国にわたって電力需要が大幅に増加し、1月8日と12日には広い範囲で「10年に一度」のレベルを超える電力需要が発生します。

この強い寒波はこれ以降も断続的に日本に流れ込み、2021年1月前半まで続くこととなります。
そのために、1月上旬は全国にわたって電力需要が大幅に増加し、1月8日と12日には広い範囲で「10年に一度」のレベルを超える需要が発生します。
下図で赤線が2010年度で、グレイの線が2016年から19年間のものです。
冬の時期に注目ください。赤の点線で囲った期間に需要が大幅に増えています。

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下図は、この2021年1月の電力供給を見たものです。

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同上

いやー、まさに薄氷。
寒波のひどかった2021年1月8日など予備率はわずか1.4%まで落ちてしまいました。
これでよく停電しなかったものだと、電力マンのみなさんに感謝します。
なんとか凌げた原因の一つは、12月下旬に需要がいったんは低下し、例年並みにおちつき、12月24日には九州電力・川内原子力発電2号機が再稼働し、供給力が向上したことです。
九州電力はさぞかしほっとしたことでしょう。

しかし喜んだのも束の間、今度は関西電力・舞鶴発電所や電源開発・橘湾火力発電所などの石炭火力発電が、軒並みトラブルにより停止してしまいます。
そのうえに、需要増で在庫量が減りつつあったLNGが、11月に起こった産出国の供給設備トラブルによって供給が減少し、12月以降、在庫量の調達計画と実績に大幅な差が生じはじめていました。
また、西日本においてわずかに稼働していた九州電力・玄海原子力発電所の運転の停止期間が延長されてしまいます。

原発による3分の1の供給力をもぎとられている日本の電力供給の主力は、いうまでもなく火力ですが、これらがたびたび故障を引き起こして停止に追い込まれています。
その都度、供給はギリギリとなり、火力がやられると管内全域が停電という事態も起きています。
北海道電力・苫東厚真火力発電所の地震による停止は大停電を引き起こしましたし、今年3月の福島県沖地震で止まった東北電力の原町火力100万kW、相馬共同火力発電の新地火力発電所100万kW、合わせて200万kWはいまも停止したままです。

特に東北・東京の両エリアへ送電していた新地火力発電所の復旧見通しは未定で、東北電力の供給力不足の原因となっています。
※参考『2022年電力需給ひっ迫、停止した火力発電所の状況と復旧の見通し』資源エネルギー庁



下図が火力発電所の計画外停止状況です。

石炭火力発電所の計画外停止 ※JEPXの発電情報公開システム(HJKS)より2020/12/1~2021/1/31の期間を集約
発電所名 事業者 ユニット 定格出力 設置エリア 停止日時~復旧日時
原町火力発電所 東北電力 1号機 100万kW 東北 2020/9/15~2020/12/26
鹿島火力発電所 鹿島パワー 2号機 64.5万kW 東京 2021/1/18~2021/1/19
勿来IGCC 勿来IGCCパワー   54.3万kW 東京 2020/1/20~復旧未定
碧南火力発電所 JERA 2号機 70万kW 中部 2020/12/26~2021/1/3
同上 JERA 1号機 70万kW 中部 2021/1/17~2021/1/19
舞鶴発電所 関西電力 1号機 90万kW 関西 2020/12/4~2020/12/5
橘湾火力発電所 電源開発 1号機 105万kW 四国 2020/12/25~復旧未定
松島火力発電所 電源開発 2号機 50万kW 九州 2021/1/7~2021/1/14
同上 電源開発 2号機 50万kW 九州 2021/1/16~2021/1/27
苅田発電所 九州電力 新1号機 36万kW 九州 2020/9/30~2021/1
同上

そして一方で、電力の需要は、コロナ禍からの経済回復などにより昨年度と比べて増加傾向にあり、さらに今夏の平均気温は北・東・西日本で「平年より高い」とされていますから、空調などによる電力需要も伸びると予想されています。

電力は常に、発電所の停止や需要の急増に備えて予備率を充分に持っていなければなりません。 
そのことを「冗長性」と呼びますが、電力自由化以前にはそれは電力会社の義務でした。 
冗長性とは、システムの一部に何らかの障害が発生した場合に備えて、障害発生後でもシステム全体の機能を維持し続けられるように、予備装置を平常時からバックアップしておくことです。
※参考資料 千田卓二など「電力システムのレジリエンスに関する一考察」https://www.jstage.jst.go.jp/article/tsjc/2013/0/2013_175/_pdf

ところが電力会社は発送電分離によって、従来の厳しい供給義務から自由になります。
よく電力会社が独占企業だという人がいますが、それは発送電を単一企業に委託する代わりに、電力の安定供給義務を負わしたためです。
そのために電力会社は、通常の企業ならとっくに廃棄するような老朽火力も、いざという時のための予備電力としてキープし続けてきたわけですが、そのいざという時がほんとうに来てしまったのが、この北海道の事態でした。

このように電力供給の冗長性は安定供給のために必ず必要でしたが、冗長性の維持は厳しい経営を続けている北電にとって、経営負担を増すだけの存在となりかねません。
たとえば、北電は電力供給の冗長性確保のために巨費を投じて石狩湾新港LNG 火力1号機を建設していますが、1号機だけは予定どおり2019年操業開始するとしても、2号機、3号機は企業の自由選択の対象となります。
音別火力などの老朽発電所はとっくに操業するだけで赤字なのですから、整理廃止の対象となるでしょう。 
北電がどのように判断するのかわかりませんが、それ以前に政府が地域の電力供給に全面的な支援を与えるべきです。

電力なき地域は確実に滅びます。製造業が去り、人が散り、村が潰れ、街が寂れ、そのような地域には企業も観光客もやってきません。
しかし、今、その頼みの火力発電は炭酸ガスゼロと、ウクライナ戦争による原油価格高騰によって大きく圧迫されて、見てきたように予備率3%を切りかねない事態にまで立ち至っています。

今、考えられる唯一の現実的解決は、原発の速やかな再稼働です。
たとえば東京の電力逼迫など、柏崎刈羽原発の再稼働で完全に解消されます。
まるで無傷な電源をこの状況で眠らせておく余裕は、もはやないのです。
これについては長くなりましたので、明日にします。

2022年6月16日 (木)

ユン政権が自由主義陣営に復帰するのは無理のようだ

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やっぱりユン・ソクニョル政権は自由主義陣営に戻ってこないみたいです。
やっぱりだよな、と思いつつ、多少の期待があっただけに脱力します。
北のミサイル発射に対して米韓合同で戦闘機編隊を飛ばしてみせたのは、なんだったんでしょう。

「ワシントン、ソウル時事】ブリンケン米国務長官は13日、韓国の朴振外相とワシントンで会談し、7回目の核実験強行が警戒される北朝鮮への圧力継続で一致した。会談後の共同記者会見で、朴氏は、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)について、「両国関係改善に伴い、早期に正常化されることを望む」と表明した」
(時事6月13日)

このパク外相の言葉を聞いて、ダーっとなった日本人は多いでしょうね。私もですが、こりゃだめだ、と。
だって、このパク氏はまるでGSOMIAが分解寸前になったことを他人ごとのように「早期に正常化を望む」なんて言っているんですから。
おいおい、輸出規制管理に対して、キチンと輸出管理を改善して、イランや北への横流し疑惑を解消すりゃいいだけのことを、逆上して筋違いのGSOMIAを廃棄するだのしないだのとゴネていたのはそちらさんですぜ。
それに廃棄されてはいないのですから、いまでも多少の情報共有はされているかと。

おおかたパク外相は、ブリンケンにきつく言われたのでしょうね。
GSOMIAをキチンとやると表明しないと、米国は素で怒るからな、と。
たぶん、GSOMIA を壊そうとしたのは日本なんだーい、くらいブリンケンには言ったのかもしれませんが相手にされませんでした。(あたりまえだ)

それにしても、つくづく慰安婦合意をしておいてよかったとしみじみしますね。
米国が仲介した合意をムン政権が一方的に壊してくれたおかげで、米国民主党筋はしっかりと日韓関係がねじれている原因は、日本の歴史認識ではなく韓国の横車にあると認識できたのですから。
ちなみにあの時の米国側の責任者のひとりが、このブリンケンでした。

そもそも安全保障案件を、ましてや外国との安保関連条約や合意を、その時々で流動する政治のカードに使ってはいけません。
安全保障環境が安定しなければ、国家そのものが動揺します。
外国との安全保障案件を勝手に変更すれば、著しく国家の信用を毀損してしまいます。

それをしたのが、韓国のムン前政権で、日本ではハト元首相です。
ユン政権に対して特に親日になれなんて期待しませんから、こういう国家の基本スタンスくらいは、正常化してくれると思ってたんですが。
フツーにやってくれ、と言うだけなんですがね。

実は、当選前後からユン政権はトーンダウンさせていたようです。

「ユン・ソクヨル次期大統領側は、韓米協力について「韓米合同軍事演習は韓米安全保障協力とは異なる問題である」との立場を表明した。
金恩鉉次期大統領は、今朝の通洞乗っ取り委員会のブリーフィングで、次期大統領の韓米三者協力の立場について質問され、「韓米三道協力は軍事訓練や安全保障協力を指しているのか」と述べた。
金委員長は「合同軍事演習であれば、安全保障協力ではなく軍事訓練の段階に入ることだ」と説明し、「新政権は韓米間の実用的かつ効果的な安全保障協力を実現するための方策を検討すると思う」と述べた。
日韓三国間の実際の安全保障協力を強化することを意図していますが、三国が共に実際の軍事演習を行う段階に入るものではありません」(聯合 2022年3月31日)
崔次期大統領側「韓国と米国の実際の安全保障協力を見直して...軍事訓練とは違う」|聯合ニュース (yna.co.kr)

う~ん、ハンパ。すこぶる二股。恐中症がまったく治癒していません。
「米韓軍安保は安全保障協力だが共同訓練は軍事訓練だからやらない」、なんのこっちゃ、言っている意味が理解不能です。
そもそも安保条約を結ぶというのは軍事同盟を締結しているという意味です。
だから随時、まともにそれが機能するかどうかを共同訓練で確認して細かい修正を加えねばなりません。
日米同盟なんぞ年がら年中共同訓練を行って、陸海空自衛隊が先端軍事技術のノウハウを米軍から盗んで、もとい移転しております。
それをしないとなると、いくら形式的に米韓安保の枠組みがあっても、それは速やかに空洞化していき、ただの米軍が韓国に駐留する根拠法にしかなりませんし、新型の兵器、たとえばF-35を持っていてもその使い方がわかりません。
米国は、もはや韓国をそうとうなところまで諦めていますから、特に驚きはしないでしょうが、いいんでしょうか、韓国さん。困るのはそちらさんですよ。

ところで、ユン政権を占う試金石は、ひとえに例の「三不」外交を放棄できるか否かにかかっていました。
手練のコリアウォッチャーである鈴置高史氏は「三不」外交は放棄しないと見ています。

「中国の顔色を見たのです。韓国は文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に中国との間で「3NO」(三不)を約束しました。基本的には在韓米軍基地へのTHAAD(地上配備型ミサイル防衛システム)配備をこれ以上認めない、との誓約ですが、「日米韓の3国同盟につながる動きもしない」とも約束しているのです。
尹錫悦政権に左派政権が約束した「3NO」を破る度胸はありません。当選直後から「韓米日の共同軍事訓練はしない」と表明しています」

(デイリー新潮2022年4月11日)
「米国回帰」を掲げながら「従中」を続ける尹錫悦 日米韓の共同軍事訓練を拒否 | デイリー新潮 (dailyshincho.jp)

何度か書いてきていますが、くだんの「三不」(3NO)とはこういう内容です。

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デイリー新潮

これはそうとうに主権国家として恥ずかしい合意で、3つのNOを2017年10月31日に締結したものです。
中国に脅迫されて「はい、もう金輪際いたしません」という始末書を書かされたようなものですから、この日こそ「国恥日」とすればよさそうなものです。

①韓国はTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)の追加配備を米国に対して拒否する。
②MD(ミサイル防衛網)を米国と構築しない。
③米日3国軍事同盟などの中国包囲網に参加しない。

韓国は中国に対し、日米韓の軍事同盟を結成しないと約束しただけではありません。
軍事協力が同盟に至ることはない、とも確約したのです。
え、今の米韓同盟って軍事同盟じゃなかったの、と言われた米国も驚いたでしょうね。
つまり、3国が実施する共同訓練が同盟に発展するものと中国が見なせば「3NO違反」と認定されて駄目だしを食らってしまうという恐ろしく劣位の合意なのです。

これに対して韓国保守陣営には、危機感が走りました。在韓米軍撤退がいきなり現実味を帯びたからです。
当時、保守派の朝鮮日報はこう書いていました。


「①ムンジェイン政権は「親北遠米」に進路を定めた。このまま行けば韓米関係は終わる。米国は少なくとも米軍を韓国から引き上げるだろう。
②反米デモが横行するし、防衛費分担に吝嗇な韓国に対して、トランプ大統領はもう恋々とすまい。それよりも北朝鮮との関係修復と核取引にさらなる「うまみ」を見いだすだろう」(朝鮮日報2019年1月1日)

韓国の保守派とっては、在韓米軍は米韓関係が安定的に続くための担保でした。
いくら政権がムンのように親北化しようと、在韓米軍がデンっとしていれば大丈夫という精神安定剤的意味もあったようです。 

 

4bk7e4eb2f7250a93j_800c4502016年のソウルにおけるTHAAD反対の反米デモ。異様に沖縄県の反米デモに酷似している。http://parstoday.com/ja/news/world-i12553

上の写真は、辺野古ではなかったTHAAD反対の韓国のデモですが、いくら親北派が大規模な反米デモをしようと、たとえ北朝鮮が好きで好きでたまらない男が大統領になろうとも、在韓米軍がいるかぎり赤化統一は不可能だと思っていたのです。
つまり在韓米軍は、そのプレゼンスによって赤化統一を防ぐ堤防のような役割を果たしていたのが、いきなり「三不」合意で先行きが不透明になったのです。

というのは、実は在韓米軍の位置は、危うい薄氷の上にチョコンと乗っているようなものだからです。
よく韓国左派の人たちは、米国の世界制覇のために朝鮮半島に軍事基地を置く必要があるからだとか、無理無体で在韓米軍を押しつけているのだ、我々は自由主義陣営を守る防波堤をさせられている可哀相な国なのだ、と言いますが、すべて間違いです。 
ハッキリ言って、韓国にはそのような戦略的価値はありません。 
在韓米軍基地など、在日米軍の出張所ていどの位置づけです。

小川和久氏が言うには、日本の横須賀を中心とする在日米軍が、米軍全体におけるいわば「東本社」だとすれば、韓国の基地は北の再侵攻をくい止めるための朝鮮半島出張所ていどの前方展開基地にすぎません。 
韓国には横須賀に匹敵する根拠地はひとつもなく、あるのは簡単に撤収可能な空軍基地だけです。 
それも在韓米軍の航空機が故障すると、すぐに日本に飛んで来て修繕するような最前線基地でしかありません。
ですから、経費削減もあって縮小の一途をたどっています。

M1202040防衛省 http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2010

特に重要な在韓米軍部隊は米陸軍第2師団ですが、かつて38度線付近にワイヤートラップとして駐屯していましたが、いつのまにか中部に下がり、イラク・アフガン戦争時には大部分の部隊が抽出されて、空き家同然でした。 
正直いえば、在韓米軍は米政府がその気にさえなれば、短期間で撤収が可能な存在にすぎません。
だから簡単に逃げられる空軍基地と司令部だけが、在韓米軍の主体となってしまったのです。 

米国から見れば、北の再侵攻は考えにくい情勢であり、対中対露の関係はあるものの、あくまでも韓国が泣いてすがって出ていかないでくれ、と言うから残留しているだけのことで、居たくているわけではないというのが本音なのです。
ですから、2003年、米国防総省は、ノムヒョン政権ができたことを渡りに舟で、かねてからあった在韓米軍の撤退の方針を固めました。 

ムン政権の統一外交安全特別補佐官をしていたムン・ジョンイン(文正仁) は、こう言っています。


「(南北)平和協定が締結されれば、在韓米軍の持続的な駐留を正当化しにくくなる」
『フォーリン・アフェアーズ』(2018年4月30日)

この認識と一対なのが、北の考えです。 
北は、トランプがシンガポール会談で在韓米軍に触れて「すぐにではないが、朝鮮半島の米軍兵士を故郷に返す」と言った発言をとらえて、朝鮮中央通信(2018年12月30日)でこう述べています。


「朝米交渉の足かせになっているのははなにか。それはまさに「朝鮮半島の非核化」に関する米国の誤った認識である。
6月12日の朝米会談共同声明には明らかに「朝鮮半島の非核化」と明示されており、「北の非核化」との文言はどこにもない
・米国はいまからでも朝鮮半島の非核化という用語の意味を正確に認識せねばならず、特に地理の勉強すぐにとりかからねばならない。
朝鮮半島という言う時、我が共和国と同時に米国の核兵器を初めとする侵略兵器が展開されている南朝鮮地域を含む。
朝鮮半島非核化と言うときには、北と南の領域からすべての核威嚇要因を撤去すると正しく理解しなければならない。
・そう考えた時、朝鮮半島の非核化とは我々の核抑止力をなくする前に、「朝鮮に対する米国の核の脅威を完全に撤去すること」が正しい認識である」
(朝鮮中央通信2018年12月30日チョン・ヒョン論説 鈴置訳 太字引用者)

 北が言っていることはあくまでも相互非核化であって、単独非核化をする気などみじんもないということです。
そしてトランプは、米国は北朝鮮との交渉中は米韓合同軍事演習を中止すると述べ、「そもそも米韓演習は「大変費用がかかるものであり、グアムから飛来する爆撃機も「長い時間がかかり高額だ」と述べました。
先日の韓国の言いぐさではありませんが、そもそも合同訓練をしないような軍事同盟はありえませんから、たとえ一的的にであれ共同訓練をしないという米国の方針は、韓国を同盟関係で見ないという意味でした。

そしてその半年後には、米韓同盟堅持を主張していたマティスが事実上の更迭されます。
トランプは「在韓米軍撤退はない」と言っていますが、それは言葉だけで、交渉の進展次第で、在韓米軍は切って捨ててもかまわないと考えていたはずです。

このような経緯があるだけに、ユン政権は一も二もなく、米韓外相会談や、日米韓防衛相会談のタイミングを無駄にせずに、「ご心配をおかけいたしましたが、お待たせしました。韓国に保守良識派が戻って参りました。もうグラつきません」と宣言せねばならない立場だったのです。
ところが、この調子ですから、やれやれです。
政権発足時という最良のタイミングを逃したら後はないですね。

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デイリー新潮

岸防衛相は、韓国の防衛相と目もあわさなかったそうですが、これが今の日本のスタンスです。
当然、NATO会議での日韓首脳会談もなしです。
しっかりとした米韓関係すらつくれない国と、いくら友好しても意味ないですから。

「政府は今月下旬にスペインのマドリードで開かれる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に合わせた岸田文雄首相と韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の首脳会談を行わない方向で調整に入った。14日、複数の政府関係者が明らかにした。韓国側はいわゆる徴用工訴訟などで解決策を示していない上、不法占拠する竹島(島根県隠岐の島町)周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)内で無許可の海洋調査なども行っており、環境が整っていないと判断した」
(産経6月14日)
<独自>政府、日韓首脳会談見送り調整 NATO首脳会議で - 産経ニュース (sankei.com)

当然の流れでしょうね。
日韓正常化といいながら、竹島で測量はするわ、日韓関係の改善はお前らが動けみたいなことを言う国と、首脳会談など100年早い。 

2022年6月15日 (水)

プーチンの思惑と破綻

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プーチンが歴史絡みの妄想にかられているとしても、この男をみくびってはいけません。
プーチンのウクライナ征服計画は昨日今日思いついたものではなく、たぶん20年以上前から構想され着実に実施されてきたものです。
語弊がある言い方かもしれませんが、プーチンの「凄味」は、平時からエネルギーと食糧という国家の根幹的要素を掌握することで、敵対陣営の無効化を策したことです。

それが端的にわかるのは、天然ガスパイプラインを張りめぐらすに当たっての周到さです。
プーチンのガスパイプラインは、EU全域をカバーし、トルコ、中国にまで及んでいます。
まさに網のように、くるみ込んだのです。
そしてパイプライン以外に、強大な石油輸送船団を有して、インドやアフリカ、中東のエネルギー源も押さえています。
つまり、ロシアは米国と日本以外の国すべての、エネルギーの首根っこを握っているといってもよいのです。

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ロシア 天然ガスの野望 :3大パイプラインで目指す「グレートゲーム」の覇権=原田大輔 | 週刊エコノミスト Online (mainichi.jp)

プーチンが放ったエネルギーの投げ網の最大のものこそが、ノルドストリームです。
ノルドストリーム1が開通したのが2011年11月、計画段階まで遡れば2005年時点には、すでにロシアとヨーロッパを結ぶ世界最長のパイプライン構想は出来上がっていたはずです。
さらに、あえてウクライナを通過する陸上ルートを排して海底を通したノルドストリーム2は、2011年から2012年にかけて敷設され、米国の妨害がなければ今頃は開通しているはずでした。

プーチンがウクライナに「殺意」を覚えたのは、2006年、09年にウクライナに供給停止した前後頃ではなかっと思われます。
プーチンは、ドル箱の欧州市場を確保していき、エネルギー帝国の覇者として世界に君臨する予定でしたが、はからずもそれを阻んだのが、当時のウクライナ親露政権でした。

ロシアにとって死活的に重要だったノルドストリーム戦略を破綻に追い込みかねなかったウクライナに対して、根深い怒りを覚えたはずです。
そこで始まったのが、パイプラインの多様化への方向転換として、ノルドストリーム2建設にかじを切りました。

ノルドストリーム2は、バルト海を経由して年間550億立方メートルのロシア産天然ガスをドイツへ輸送するパイプラインで、これは原子力発電所14基もしくは石炭火力発電所50基の発電量に相当します。
このノルドストリーム2さえあれば、原発を止められるというのがメルケルの思惑で、見事にここでメルケルとプーチンの利害は一致したのです。
プーチンは、これでEUとNATOの盟主を切り崩した、もはや西ヨーロッパは張り子のトラにすぎないとほくそえんたはずです。

ですから、よもやノルドストリーム2が開通直前でストップをかけられるような供給停止が制裁手段に登るとは考えてもいなかったのかもしれません。
いやよしんばその可能性があったとしても、完全停止までには時間があるはずで、おそらく制裁案は半年くらいはまとまらず、実施に至っては1年間はグズグズとした猶予期間があるはずだと睨んだはずです。
だから、短期で戦争を終結してしまえば、制裁が始まる前に一切が後の祭りとなるから、それまでにキーウを占領して親露政権を作らせ、南部クリミアと東部2州を連結させて、ここは直轄領とする、これがこの男の目論見でした。

つい先日のこと、プーチンは余裕しゃくしゃくでこう言っています。

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BBC  ピョートル大帝生誕350年の記念展示を訪れたプーチン


「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は9日、西側諸国は今後数年にわたりロシア産の石油や天然ガスの輸入を止められないはずだと述べた。プーチン氏は若い起業家の集まりで、「世界市場の石油供給量は減少し、価格は上昇している。企業の利益は増えている」と話した。
大統領はさらに、数年後にどうなっているか誰も分からないので、ロシア企業は「油井をコンクリートで埋めたり」しないとも述べた」
(BBC6月10日)
プーチン氏、西側は今後何年もロシアのエネルギーを拒絶しないと - BBCニュース

この思惑は半分当たりました。


「ウクライナにおける戦争の最初の100日間で、ロシアは石油とガスの輸出によって約1000億ドル(13兆4000億円)の収入を得たとする報告書を、エネルギー研究機関が公表した。
この報告書は、フィンランドに拠点を置く独立系の「エネルギー・クリーンエアー研究センター」(CREA)がまとめた。
それによると、3月以降はロシアによるエネルギー供給を多くの国が回避しているため、ロシアの収入は減っている。しかし、依然として高い水準にあるという」
(BBC 6月14日)
ロシアのエネルギー輸出収入、ウクライナでの戦費上回る | Start Magazine (taboolanews.com)

たしかに欧米の経済制裁で減収はしたものの、戦争開始からロシアは13兆4千億円を石油と天然ガスで稼ぎだしています。
これは戦費をはるかに上回っており、ロシアには継続して戦争する経済力は十分あるとCREAは分析しています。

「開戦から最初の100日間でみると、収入が戦費を上回った。CREAはロシアの戦費を、1日あたり約8億7600万ドルと見積もっている」
(BBC前掲)

以前に出所不明の「戦費1日2兆円」説が流布されて、すぐにロシア国庫は枯れるだろうという妙な楽観が広がりましたが、小泉悠氏はこれを完全に否定しています。
そもそも国防予算の支払いはルーブルなので、国際為替市場が閉じられてしまったロシアには腐るほどありますし、足りなければ刷ればいいだけのことです。
独裁者が自由に経済を操って一元化できる専制国家にとって、戦費は無限なのです。

ミサイルや戦車の重要な部品で不足しているものが出始めて、いますでにロシア軍の先行きを不透明にしています。
たとえば、電子部品に必須の半導体やエンジンなどに使うベアリングですが、これらは輸入制限をくっているから入らないのであって、経済力とは無関係です。
ただし大砲の玉は山ほどあるので、今東部戦線ではありとあらゆる火砲をかき集めて、ふんだんにある弾を撃ちまくってウクライナ軍を窮地に陥れています。

ですから、戦費が枯渇して戦争が止まるということはありえません。
ロシア軍が撤退するとすれば、カネが問題ではなく、それは致命的な兵員不足、激しい装備の損耗、そして士気の崩壊以外ありえません。

ここまではプーチンの思惑どおりでした。
唯一ちがったのは、ウクライナ人が壮絶なまでの戦いぶりを見せたこと、ゼレンスキーが一歩も逃げずに救国の英雄となってしまったことでした。
プーチンの書いたシナリオは、徐々に狂い始めていくことになります。
ロシア制裁は年末から効果を表し始めます。


「EUは今年末までに、ロシア産石油の船による輸入を禁止する計画だ。これにより、輸入量は3分の2ほど減ると見込まれている。
EUはガスについても、1年以内にロシアからの輸入を3分の2近く削減すると宣言している。
しかし、全面的な禁止は合意できていない。
一方、アメリカは、ロシア産石油、ガス、石炭の全面禁輸を宣言している。イギリスは、ロシアからの石油の輸入を年内に段階的に終える予定だ。
CREAの報告書は、EUによる石油の禁輸によって、大きな影響が及ぶだろうとした」
( BBC前掲)

つまり長期になればなるほど苦しむのはロシアだということです。
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BBC
ウクライナに平和と独立を

2022年6月14日 (火)

ロシア、ウクライナ占領地での「ロシア化」に邁進

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昨日、本記事の下書きが手違いでアップされていました。お恥ずかしい。
執筆は前日の午前から始まり、資料を集めて選択をかけて絞り込んでいきます。
けっこう息が長い作業で、だいたい3~4時間くらいかけて一本が作られます。
しんどくも楽しい仕事です。

                                                                                ブログ主

                                          ~~~~~

ロシアは、戦争を進める一方で、既に占領した地域において「ロシア化」を進めています。
ヘルソン州は2014年にロシアに併合されたクリミア半島の北に位置し、2月の侵攻開始直後に制圧され、ロシア軍は11日、南部ヘルソンとメリトポリの住民にパスポートや食料を配るなどして、ロシア化を行っています。

順番を追っていきましょう。
ロシア軍が抵抗を排して軍事占領した後、FSBが指揮をとって始まるるのが、徹底した通信と情報の遮断です。
占領地は外部から完全に遮断され、マスメディアはロシアが検閲体制を敷くまで完全に封鎖されます。
もちろん軍の戒厳令下に置かれて、外出制限がかるのはいうまでもありまけん。

電話とインターネットは、ロシアの通信傍受システム「ソルム」に接続するまで遮断され、アマチュア無線機も没収され、無線通信は行政用に限られ、全ての周波数が監視されます。

また、ウクライナ貨幣とドルなどの外貨は使用禁止となり、ロシア貨幣か軍票のみしか流通できなくなります。
これは市民の中に潜伏する反露パルチザンの資金源を枯渇させるためです。
こうして占領地は陸の孤島となります。

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AFP ウクライナ・マリウポリ中心部で、ロシア兵のそばを通る人々(2022年4月12日撮影)

同時に平行して始まっているのが、選別キャンプ、別名「ろ過キャンプ」です。
外出禁止令の後、全ての住民がロシアの出先機関に出頭を命じられ、新しいロシア占領機関発行の身分証明書が渡され、以後常に携帯することを義務づけられます。
そして密告制度が導入され、反露的言動をした人物があぶり出されます。
ウクライナ軍人、公務員など
ロシア軍に抵抗した人間や、今後する可能性があるものは容赦なく「ろ過キャンプ」に送られて拷問の末に「自白」させられます。
なお、例の「人道回廊」を通過して街の外に脱出した人たちも、ルートが結局ロシア軍支配下の地域につながっているために、そのまま「ろ過キャンプ」送りとなります。


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ウクライナの市民がロシアへ強制移送か。移送先は屈辱的で抑圧的な「ろ過収容所」か。 | TBS NEWS DIG

ウクライナの避難民の推計(UNHCRによる)では、4月29日現在で国内が 770万人以上、国外へは 約547万人1317万人もの膨大な避難民が生じています。
うち、「ろ過キャンプ」を通じてはじき出された反ロシア的と見なされたウクライナ政府や軍関係者、愛国者たちは約66万人。
この人たちは、ロシアへ連れ去られましたが、どこに連れ去られたのかは不明です。
サハリンという説が有力で、ロシア帝国由来のシベリア流刑です。

「ウクライナ・ハルキウ州のある村では2月24日(ウクライナ侵攻開始日)、ロシア軍により電力遮断。ロシア軍が村に侵入し占拠、約1か月間住民らを支配。さらに3月下旬には村民約60人をロシアへ強制移送した。
移送先はロシア国内の"ろ過キャンプ"。やりとりは非常に屈辱的で抑圧的。それは国ではなく、刑務所だ」
(TBSdig 2022年5月2日 )

そして「ろ過キャンプ」送りにならなかった「よいウクライナ人」には、恩賞として食料が配布されます。

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 AFP ウクライナ・マリウポリでパンを配るロシア兵(2022年4月12日撮影) 

では、この食料を受け取るとどうなるのでしょうか。
ありがたいことには、旧ソ連、あるいはロシアのパスポートを配布していただけます。

「侵略者は、キエフ地域のすべての住民を登録し、ウクライナの文書と引き換えにソビエト連邦のパスポートを強制的に配布することを望んでいた。これは、ウクライナ軍防諜部が侵略者の入手したデータによって証明されており、現在一時的に占領下にあるウクライナの地域でのロシア人の行動によっても確認されている、とウクライナ安全保障局は述べている」
ウクライナ治安機関:キエフ地方の住民にソ連のパスポートを配布することを計画した侵略者 |ウクライインスカ・プラウダ (pravda.com.ua)

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ウクライナ兵1000人超、マリウポリで投降 ロシア国防省 (msn.com)

「ロシアの占領下にあるウクライナ南部ヘルソンとメリトポリで11日、地元住民へのロシアのパスポートの配布が始まった。両市のロシア当局が発表した。ウクライナは、ロシアがウクライナ領内でロシア市民を作り、「ロシア化」を進めていると非難している。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はこうした手続きを簡素化して推進している」
(ウクライナプラウダ前掲)

ヘルソンでは、ロシア軍が任命した自称「市長」が、6月11日にパスポート授与式典を行い、住民23名が受け取ったとBBCは伝えています。

「ロシアがヘルソン州の知事に任命したヘルソン元市長のウォロディミル・サルド氏は、「ヘルソンの同志全員が、できるだけ早く(ロシアの)パスポートと市民権を得たいと思っている」と述べた。
ウクライナ側はこの動きについて、同国の領土一体性に対する「はなはだしい違反」だと非難。プーチン氏の大統領令は「法的に無効」だとした。
ロシアは2014年以降に占領したウクライナ南部クリミア半島と東部ドンバスの一部地域の住民に対しても、パスポートを配布してきた」
(BBC6月12日)
 ロシア、占領地でパスポート配布 「ロシア化」をウクライナ非難  Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) (ismedia.jp)

このような「ロシア化」、言い換えればロシア領とすることこそ、ロシアの軍事侵攻のほんとうの意味です。
このような相手に、「さっさと降伏して国民を守れ」と言っていた橋下氏のような人たちは、わかって言っているのでしょうか。
彼らのいうとおりにしていたら、今頃はウクライナ全土がまんべんなく「ロシア化」されていたことでしょう。
外国軍に侵略されるということのほんとうの意味も知らずに、人命第一主義を気取っているのですからなんとも。

言うのも愚かですが、いかなる国際法においてもこのような占領地においても、「ろ過キャンプ」を作って拷問を加えたり、パスポートを配布して「ロシア人化」するようなことは許されていません。
しかしロシアの発想は常に既成事実を、いかにデタラメであり、許されない行為だとしても積み上げていってしまう、ちょうど北方領土に不法に居すわっても、既成事実化さえしてしまえば、それが真実となってしまい、これを再度元に戻すには戦争によるしかありません。
国際世論も、聞く耳を持たない者には無意味ですし、国際法など始めから無視せねば、そもそもこんな戦争など起きませんでした。

戦争によるものは戦争でしか戻せない、そういう力の信奉者がロシアという国だからです。

 

 

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暴行や拷問…ロシアの強制収容所「住民が語った戦慄の真実」 | FRIDAYデジタル (kodansha.co.jp)

ウクライナに平和と独立を

 

2022年6月13日 (月)

プーチンの危ないピョートル大帝崇拝

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やっぱりプーチンは常人ではありませんでした。
なんとまぁ、プーチンは18世紀の世界に住んでいるそうです。
自分で言うのですから、間違いありません。

「プーチン氏「奪い返しただけ」 ウクライナ侵攻を18世紀の戦争になぞらえ
【6月10日 AFP】ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は9日、ウクライナ侵攻について、スウェーデンに勝利した1700~21年の北方戦争になぞらえる発言をした。
北方戦争では、ピョートル1世(大帝、ピーター・ザ・グレート)率いるロシアがスウェーデンに勝利を収め、バルト海沿岸を手中に プーチン氏はモスクワで開かれたピョートル大帝生誕350周年を記念する展覧会を視察した後、若手企業家を前に「彼(ピョートル大帝)がスウェーデンとの戦いで何かを奪ったかのような印象を受けるかもしれないが、何も奪っていない。奪い返しただけだ」と語った」
(AFP 2022年6月10日)
プーチン氏「奪い返しただけ」 ウクライナ侵攻を18世紀の戦争になぞらえ  

プーチンが言っているピョートル大帝の時代とは、18世紀のことです。
ざっと350年前のことですが、今プーチンがやらかしたウクライナ戦争は、ロシア皇帝ピョートル1世の大北方戦争と同じだ、というのです。
ピョートルは、今日のサンクトペテルブルクの周辺をスウェーデンから征服したのではなく、「それを取り戻しただけだ」と言い、350年前の戦争と今のウクライナ戦争は同じで、「奪われた領土の奪還は責務だ」そうです。
自分が今、ウクライナでしている侵略戦争は、ピョートルの偉業の再現にすぎないというわけです。

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ピョートル大帝 ピョートル「大」帝は何が偉大だったのか - ロシア・ビヨンド (rbth.com)

下図のピンク色の部分が、ピョートルが拡げたロシア帝国でした。

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ネルチンスク条約 – 世界の歴史まっぷ (sekainorekisi.com)

習近平もそうですが、その最大版図をもって領土権を構想します。
この習性は旧帝国だった国の多く陥りやすい病で、中国の習近平は清朝の華夷秩序のエリアが我が帝国だと考えて一帯一路をめぐらし、トルコのエルドアンならオスマン・トルコの再建を夢想してクルド討伐にかこつけては国境の外に出兵し、そしてイランは旧ペルシャ帝国の版図に革命防衛隊をばらまきます。
そして国内的には、随時軍事的拡大が可能な政治体制を作ろうとしますから、これらの国々が皆、一様に民主主義なき専制主義的国家体制を持つのは偶然ではありません。

こういう発想自体が大変に危険です。
だいたいこういう連中の脳味噌の中の「大帝国」とは、帝国が一番の隆盛期を指していて、その後の流れを見ていません。
スッタモンダあって、今のあんた方は衰退して帝国を崩壊させたんだろうが、とホントのことを教えてやると、怒りだしますから始末におえません。

そもそも何百年も前のことを持ち出して、全部自国領だった、その奪還だ、再興だなんてやられたら、戦争が絶えません。
このように、これらの国の外交政策の基盤にある地理的イメージは、数百年前から続くもので、21世紀になってたからといって大きく変わってはいないのです。
逆に、「インド-太平洋」という新しい外交上の地理概念を作って、それをアジア-太平洋の国際戦略の要として共有化しえた日本のような国は、世界史的に希少な部類に属します。

ですから、このような旧最大版図にこだわる国は、常に戦後社会の根幹的価値観である、「国境線の力による変更の禁止」など西欧的価値観の押しつけにすぎないと思っています。
西欧と米国が自分の帝国を圧迫し、崩壊させたと考えているために西欧的価値観を嫌悪しています。
そして似た価値観を共有する旧帝国復活願望派同士が、肩寄せ合って反米神聖同盟を組もうとしました。

今回のウクライナ侵略に、中国、イラン、トルコがどのような反応をしたのかを見ればわかるでしょう。

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プーチン、エルドアン、ローハニ  ARAB NEWS 

「ドナルド・トランプ氏が他国を膺懲するような政策を繰り返した結果、ロシア・中国・イランが戦術上の政略結婚をするという思いがけぬ結果を呼んでいる。伝統的にライバル関係にある露中両国は先に、550億ドルの共同ガスパイプライン計画をスタートさせ、またロシア・中国・イランの三国はインド洋での合同軍事演習にすぐにも着手する運びだ。
習近平国家主席はこの夏モスクワを訪問するとプーチン氏を「無二の親友」と持ち上げ、両国間の貿易規模を2024年には2,000億ドルに到達させるという目標を定めた。
「イラン、ロシア、トルコ、中国には共通項がある。アメリカからの圧力に向き合っているという点だ。ドナルド・トランプ氏の一方的な手法はイランにとって危機的だが、ロシアや中国、その他諸国にとっても危機的であることに変わりない」。あるイラン人専門家はこう述べる」
(アラブ・ニュース 2019年10月12日)
「反神聖同盟」――イラン・ロシア・中国は結ぶのか?|ARAB NEWS

話を、プーチンのピョートル崇拝に戻します。
ピョートルのビフアー、アフターを見るとバルト海方面とシベリア方面に大きく拡大しています。
この時代、ピョートルは、ロシアを大帝国にまで膨張させましたが、最大の敵は他ならぬスウェーデンでした。
スウェーデンは、バルト海に接する陸地の3分の2を領有しているバルト帝国として君臨していました。
プーチンは、スウェーデンから戦争で奪い取った土地に、今のサンクトペテルブルクを建設したのだ、いや、元々ロシア民族の土地だったのを奪い返したのだ、と誇らしげに言っています。

「また、ピョートル大帝がサンクトペテルブルクを建設し、ロシアの首都と宣言した時には「欧州のいずれの国もその地をロシア領と認めなかった」と指摘。「誰もがスウェーデン領とみなしていた。しかし、はるか昔からそこではスラブ人がフィン・ウゴル系民族と共に暮らしていた」と述べた。
さらに「奪い返し、強くなる責務がわれわれにもある」と主張。「わが国は歴史の中で後退を余儀なくされこともあったが、最終的には力を取り戻し、前進してきた」と語った」
(AFP前掲)

自らを18世紀の皇帝になぞらえるのですから、プーチンは現在のウクライナ侵攻を約350年前の膨張主義と同一視していることがはっきりしました。
つまり戦争目的は、ウクライナ国民を「ネオナチから解放」することではなく、領土拡大のためのものだと、自分ではっきり認めたことになります。

メディアはロシア支援者を多数登場させて、NATOの東進に圧迫された自衛的戦争だと弁護にやっきですが(このなかにはいわゆる「保守論客」も含まれていました)、そんなヤワなものではなく、ピョートル大帝になぞらえた領土拡張主義者のアブナイ野望から始まっていることを、本人がバラしてしまいました。(いいのかね)

とうぜんのこととして、この発言を聞いたバルト三国のひとつエストニアは、プーチンの発言を「全く受け入れられない」と述べ、スウェーデンは、冗談ではない、またかつての北方戦争を20年もやる気なのかとうんざりしたことでしょう。
フィンランドに至っては、緩衝帯なしでサンクトペテルブルクと湾を隔てて一衣帯水ですから、心底ゾッとしたことだと思いますし、ウクライナは改めて長期戦を覚悟したはずです。

さほど驚かないのは、唯一西側首脳でプーチンから電話をかけることを許可されているフランスのマクロンくらいなものでしょうか。
彼はこの退屈なプーチンの歴史講義を聞くことで、プーチンと外交することができるからです。

「プーチン大統領と何度も電話会談したフランスのマクロン大統領は後日、「自分は彼(プーチン氏)から奇妙な歴史の話を何度も聞かされた」と証言している。プーチン氏がマクロン氏との電話会談を断らないのは、「マクロン氏がプーチン氏の歴史を忍耐強く聞いてくれる生徒だからだ」ということになる。
プーチンの歴史授業にはピョートル大帝が登場し、聖ウラジーミルがプーチン氏の口を通じて語りだすのだ。マクロン大統領がいうように「奇妙な歴史の話」だが、語り手のプーチン氏は真剣だ。世界はそのプーチン氏の歴史観に振り回されているわけだ。「プーチン氏の狂気」と呼ぶか、「彼は病気だ」と診断するかは人によって異なるだろう 」
(ウィーン発コンフィデンシャル6月11日)
プーチン大統領の「歴史授業」 : ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.jp)

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【解説】 自らをピョートル大帝になぞらえるプーチン氏、その思惑は?  Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) (ismedia.jp)

ところで、プーチンが忘れていることがあります。
領土拡大は、いかなる時代においても必ず戦争を伴ったことです。

それも長期にわたる、国力をすり減らす戦争で、勝てばよし、負ければ国家の衰亡です。

「しかし、ここにもう一つ、歴史から学ぶべきことがあるかもしれない。
ピョートル大帝は確かに最終的に、バルト地域や黒海につながるアゾフを占領した。しかし、そのための大北方戦争でロシアは21年間、戦い続けたのだ」
(BBC 6月11日)
Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) (ismedia.jp)

プーチンは特にサンクトペテルブルクにこだわっています。それはこの都市こそピョートルが建設したもので、プーチンが2014年にソチに五輪を招聘したのも、そこが縁の地だったからです。
ピョートルがやったことは、バルト海沿岸世界からスウェーデンの覇権を奪ってロシアのバルト海交易ルートを確保し、また黒海海域沿岸をロシアの属国化して勢力圏に納めることでした。

ピョートルはこのために、自らの治世のほとんど全部を戦争に費やし、戦争遂行するために海軍を作り、貴族に国家奉仕の義務を負わせるなどの行政改革を行い、ロシア正教会も国家管理に置きました。
つまり、戦争目的のためにすべてを皇帝の下に一元化したのです。

ここに戻るのだ、とプーチンは言っています。

「さらに「奪い返し、強くなる責務がわれわれにもある」と主張。「わが国は歴史の中で後退を余儀なくされこともあったが、最終的には力を取り戻し、前進してきた」と語った。
うした発言は、現在のウクライナ侵攻に言及したものとみられる。
 ロシアは北方戦争で勝利したことでバルト海の覇権を握り、欧州で大きな影響力を持つようになった。ただ、ウクライナ侵攻で西側諸国との関係が悪化する中、ロシア当局はピョートル大帝について、欧州と密接な関係があったことにはあまり触れず、領土拡大で果たした役割をことさら強調している」
(AFP 前掲)

おいおい、冗談でいったなら馬鹿。本気なら21世紀に生きてはならなかった男です。
こういう悪霊のような人物は、裏庭の古壺にでも閉じ込めて封印するしかありません。

 

 

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露、マリウポリ「完全制圧」 ゼレンスキー氏「絶対悪」と非難 - 産経ニュース (sankei.com)

ウクライナに平和と独立を

扉写真  ダブルレインボーです。

 

2022年6月12日 (日)

日曜写真館 あじさいに ひとりびとりの思いの丈

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あじさいに 絞り下ろしの 水絵具 伊丹三樹彦

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あじさいの始終と過し 稿百枚 伊丹三樹

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あじさいに降り 有彩の 雨の糸 伊丹三樹彦

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あじさいの姿貯う 水面にも 伊丹三樹彦

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ありなしの色から育つ あじさい これ 伊丹三樹彦

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七変化にてとどまらぬ 花の色 伊丹三樹彦

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水色の夢見確約 紫陽花は 伊丹三樹彦

 

 

2022年6月11日 (土)

メルケル外交敗北の弁明

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アンゲラ・メルケル・ドイツ前首相が、ウクライナ侵攻が始まってから初めてインタビューに登場しました。
たぶんメルケルの100日にわたる沈黙は、彼女の中での苦しさを表していると思われます。
彼女の首相時代の16年間とは、そのままロシアへの融和策であり、それが遠因となってプーチンをウクライナ侵攻に踏み込ませたことは疑い得ないからです。

ウクライナ政府は、メルケルへの強い憤りを隠そうともしませんでした。

「ロシア軍がウクライナ侵攻した直後(2022年2月24日)、駐独ウクライナ大使館のアンドリーイ・メルニック大使が、「ゲアハルト・シュレーダー元独首相(首相在任1998年10月~2005年11月)とメルケル氏の手には血がついている」と指摘し、2人の政治家はウクライナやバルト3国(エストニア、リトアニア、ラトビア)の強い反対にもかかわらず、ドイツとロシア間で天然ガスのパイプライン建設「ノルド・ストリーム2」プロジェクトを推進した張本人だと批判した時だ。
メルケル氏は、「当時の情勢ではその決定は間違いではなかった」と弁明している」
(「ウィーン発コンフィデンシャル」6月4日)
メルケル前首相が沈黙する理由 : ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.jp)

ここでウクライナが強く非難しているノルドストリーム2こそ、プーチンがウクライナ侵攻に踏み切ってもEUが結束できないと考えた最大の理由でした。
ドイツ以下のEU各国は、ウクライナやバルト3国の強い反対にも関わらず、自国のエネルギー源の過半をロシアに委ねてしまうという大失敗を演じましたが、この推進役こそメルケルです。

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メルケル氏に花束贈るプーチン氏 最後の会談も平行線に:朝日新聞デジタル (asahi.com)

では、メルケルはプーチンの何を信じていたのでしょうか。
それは「理性」です。
メルケルはプーチンの合理的理性を信用していたが故に、両国間見直しの最大の機会だった2014年のクリミア侵攻に際しても、見直そうとはしませんでした。

「プーチン大統領がクリミア半島を併合した段階でメルケル氏はプーチン氏の本質に気がつくべきだった。メルケル氏の最側近の1人、内相を長い間務めたトーマス・デメジエール氏は、「プーチンという男の攻撃性を見誤った」と認めている」
(「ウィーン発」 前掲)

ここでメルケルの最側近が苦々しげに口にする「プーチンという男の攻撃性」という言葉は、今回のメルケルのインタビューにおいても彼女自身の口から漏れています。

「メルケル氏はロシアへの融和政策を弁明し、ミンスク合意を例に挙げて、「その合意がなければ状況はさらに悪化していたかもしれない。外交が成果をもたらさなかったとして、その外交が間違いだったとは言えない」と述べ、「ロシアとの取引でナイーブではなかった。
貿易、経済関係を深めることでプーチン氏が変わるとは決して信じていなかった」と弁明。
プーチン氏がその後、戦争に走ったことに対し、「言い訳のできない、国際法に違反する残忍な攻撃で、如何なる弁解も許されない。ロシアに対して軍事的抑止力の強化が重要だ。軍事力がプーチン氏が理解できる唯一の言語だからだ」と説明している」
(「ウィーン発」6月9日)
メルケル前首相が語った「プーチン像」 : ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.jp)

メルケルは、プーチンという男が残忍で攻撃性があることを見抜けなかった、しかし融和策自体の外交的努力は無駄ではなかったと弁明しています。

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ミンスク合意」とは?ウクライナ東部めぐる停戦プロセス。3つの

しかし現実にはミンスク合意の構造的欺瞞が生んだものこそ、ドのンバス・ルハンシクの東部2州で、ロシアの傀儡武装集団に「特別な地位」を与えてしまったことです。
そして今回の侵攻では、この2州の「ネオナチからの解放」がウクライナ侵攻の口実に利用されました。

ミンスク合意は12項目から成り、欧州安保協力機構(OSCE)による停戦監視や、分離派が支配する地域への「暫定的な特別地位の付与」、地方選挙の実施、当事者の恩赦などが含まれていました。

「状況をさらに困難にしているのは、ミンスク合意がウクライナの憲法を改正し、ドンバス(ドネツク、ルガンスク両州)に特別な地位を与えることを規定している点だ。
しかも、親ロシア派が実効支配する「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」の指導者らとの「協議・合意により」行う必要があるとしている。また最も大きな争点とみられるのは、特別な地位を付与する地域の範囲が定まっていないことだ。分離派指導者はドネツク、ルガンスク両州の全域が含まれるべきだと主張。ウクライナ政府は現在も両州の半分余りの地域を管轄下に置いているが、それを手放すことになる」
(ブルームバーク2022年2月19日)

実態が明らかではない特定の外国の影響下にある武装集団に「特別な地位を与え」、しかもその指導者たちと「協議」して合意せよというのですから、メルケルがいうように「この合意がなければさらに悪化」したどころか、この合意が悪化した状況を固定化させたのです。
この正体不明の二つの「人民共和国」と東部2州の境界も確定しておらず、これが後に武装衝突の原因となりました。

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プーチンが繰り出すヤバい奇策「ロシア軍を使わずウクライナ制圧

「ロシアのプーチン大統領は21日、ウクライナ東部の一部を実効支配する親露派武装勢力「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」(ともに自称)を国家承認する大統領令に署名した。署名直後にはロシアと両「共和国」間の協力を定める協定も締結。両地域に軍を派遣し平和維持に当たるよう国防省に命じた。2014年のウクライナ南部クリミア半島併合に続く一方的な「現状変更」であり、ロシアと米欧の対立が先鋭化するのは確実だ」
(産経2022年2月22日)
プーチン大統領がウクライナ親露派を国家承認 派兵命令も - 産経ニュース (sankei.com)

メルケル外交が、ウクライナに戦争の災厄の種を蒔いたのです。
融和外交こそが、プーチンの「言い訳のできない、国際法に違反する残忍な攻撃性」を引き出したのですが、今に至ってもこの因果関係がこの賢明な女性の中では落ちていないようです。
「軍事力がプーチン氏が理解できる唯一の言語」だったにもかかわらず、メルケルは逆の道にを選択してしまったのです。

では、なぜでしょうか。
たぶんメルケルには、リベラル派特有の理性崇拝があるからです。
リベラル派の人々は、万人が等しく理性を持つことを前提にしています。
人類すべてが知性と良心を兼ね備えており、それを否定することを「差別」だと見なしています。

社会一般でも、リベラル派は常軌を逸した行為に対して、大人の対応で接するようにと訓戒を垂れます。
仮に家族が暴漢によって襲われることがあっても、差し出すものがあればさっさと差し出し、妻子には逃げることをさせよと説きます。
そして暴漢から殴打されようと、殺されようともその暴力を耐え忍べと、言うことでしょう。

個人が理想を貫いて死ぬのは勝手ですが、これを国家単位に敷衍したものが、リベラル派の外交観です。
たとえば、このウクライナ侵攻でもさんざん聞かされましたね。
前ふりでロシアを批判してみせた後に、ある者はしたり顔で「国家は国民を逃がすのが任務である」と言ってみたり、共産党などは「9条外交で解決しろ」と主張しています。
どうやら彼らは侵略に抵抗せずに逃げろ、もしくは死ねということのようです。

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「鳴りやまない銃声」を食い止めろ! 米国で繰り広げられる、銃乱

では、銃や軍隊を廃絶することによって、国民や国家の安全は保障されるのでしょうか。
残念ながら不可能であるばかりか、そのような態度こそが新しい紛争の原因を作り出していきます。
現実の世界においては、暴力が存在し、それを行使することになんの良心の痛みも覚えない国と指導者が跋扈しているからです。

彼らは、戦略的合理性から侵略行為を起こすのではなく、独りよがりの怒りと残忍性から軍隊を動かします。
彼らは追い込まれて戦争をするのではなく、むしろ戦争こそが自分の専制権力を永遠化するとかんがえるからです。

リベラルの人々が銃規制をいかに叫ぼうと、現実に自動小銃を学校で生徒に向けて連射するような狂人が後を絶たない以上、米国民の多くは、むしろ銃器店に駆け込み自家用拳銃を買うことがあっても、銃規制に賛成することはないのです。
規制すれば、銃売買は地下に潜るだけのことです。

プーチンの理性を信じたメルケルは、この男の持つきわめつきの残忍性と暴力主義を見ようとはしませんでした。
これがメルケルの眼を曇らせたのです。

国際政治は戦略、地政学だなどといっても、結局人間が作り出すものにすぎません。
ウクライナ戦争が非合理的なプーチンの狂気から始まり、ゼレンスキーがキーウを包囲されながら言った「私はキーウから逃げない」というひとことがすべてを変えました。
仮にゼレンスキーがアフガニスタン大統領のように後ろも見ずに逃げていたら、キーウは陥落し、今頃はミンスク合意3でも締結されてウクライナは属国に転落していたはずです。

今に至ってメルケルは正しい判断をしています。

「如何なる弁解も許されない。ロシアに対して軍事的抑止力の強化が重要だ。軍事力がプーチン氏が理解できる唯一の言語だからだ」
(「ウィーン発」前掲)

この判断をメルケルは2014年に持つべきでした。
プーチンのような政治的狂人に通じる言語はひとつしかありません。

軍事力を正しく使うことです。
それは侵略者を追い出し、ウクライナの人々を守るために使うことです。

そして力によって理解させ、交渉のテーブルにつかせねばなりません。
そこから外交の出番が始まるのです。

それにしても、メルケルや安倍レベルの手練ですらだまされたプーチンに、「外交力で対処する」ですか、笑わせないで下さい。

 

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ロシア軍、ウクライナ東部で激しい砲撃 物資配給所で民間人4人死亡|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

ウクライナに平和と独立を

 

2022年6月10日 (金)

私の岸田氏支持率は6割です

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思い起こせば、岸田氏の去年総裁選が終わっての第一声は、「分配なくして成長なし」でした。
その頃、岸田氏は「成長は大事だが分配も考えないと日本はおかしくなってしまう」と言っていたはずで、明らかな分配重視論者でした。
具体策としては、富裕層優遇につながっている金融所得への税率20%の引き上げを言い出した時には、間違いなく増税をやる気だなと思っていました。

ところが、この金融課税は頭を少し出しただけで、すぐに松野官房長官が、「成長と分配は車の両輪である」と修正してしまいました。
それ以降、政策のキャッチフレーズは当初の「分配と成長」ではなく、逆の「成長と分配」に変化してそのままです。
金融所得課税に至っては、そんな話ありましたっけね、という感じです。
これは考え方を変えたのか、それともただのカメレオンなのでしょうか。
よーわからんやつだ、これが私の岸田氏への感想でした。

では100日たった今、岸田氏はどう考えているのでしょうか。
政権の性格を理解するには、外交・防衛と金融・財政を見るのが近道です。
このうち外交に関しては、先日の日米首脳会談とザ・クアッド首脳会談がありました。
岸田氏は立派にホスト国を努め、意外とやるな、というのが私の正直な感想でした。

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岸田首相、就任100日「息つく間もなく駆け抜けてきた」…夜には安倍元首相と会食 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)


※内閣閣議決定
2022_basicpolicies_ja.pdf (cao.go.jp)

財政・金融に関しては閣議決定がでたばかりです。
総花的で官僚の作文感が満喫できますが、おそらく首相自らが手を入れたのが冒頭の第2項 「短期と中長期の経済財政運営」の部分です。

誰が書いても一緒の総花的な包装紙の部分はざっと斜め読みし、肝である第2項を読むとありました、ありました。
ここに「財政健全化」だとか、「プライマリーバランス黒字目標」「富裕層増税」「分配重視」などが登場すれば、はい岸田さん、アウトです。

「今後とも、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を一体的に進める経済財政運営の枠組みを堅持し、民需主導の自律的な成長とデフレからの脱却に向け、経済状況等を注視し、躊躇なく機動的なマクロ経済運営を行っていく。日本銀行においては、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを期待する」
(P2)

一瞬ポカーンとしました。だってこれ安倍-菅政権の閣議決定だといわれても、そうですかと納得するほど同じだからです。
そして非常に重要な文言が、同じ項にさりげなく入っています。

「持続的な経済成長に向けて、官民連携による計画的な重点投資を推進する。これによる民間企業投資の喚起と継続的な所得上昇により成長力を高めつつ需要創出を促すとともに、今後の成長分野への労働移動を円滑に促す」

と、ここまでは投資を活発化させて、所得を上昇させるというオーソドックスなリフレ的経済運営を述べていますが、ここで問題になるのは「所得の上昇の方法」です。
分配重視論者は、国が最低賃金を上げるという短絡を取って、中小零細企業の経営にダメージを与えて、かえって失業.を増やしてしまいます。
そしてこの分配重視論が、財政健全化政策と組み合わされると、日本は永久デフレの凍土の下に冷凍されてしまうことでしょう。
まだ、岸田氏の実際の経済運営を見ていませんから、即断はできませんが、閣議決定にはこうあります。

「その際、危機に対する必要な財政支出は躊躇なく行い、万全を期す。経済あっての財政であり、順番を間違えてはならない。経済をしっかり立て直す。そして、財政健全化に向けて取り組む」

うひゃー、わざわざ「経済あっての財政であり、順番を間違えるな」とまで記しているのを見ると、ほんとうに岸田氏が書いたのか、と思いたくもなります。
だってこれは安倍氏の持論のままですから。
「デフレ脱却」のために「大胆な金融(緩和)政策」を実施し、大胆な財政出動をする、はいこれなんなんでしょうか。
もちろんアベノミクスですね。
岸田氏は「新しい資本主義」を掲げ、分配を前面にだしたので、おいおいやっぱり修正社会主義かよ、とゲンナリしていたのですが、これを読む限り安倍-菅政権の経済政策は続行されるということのようです。

そして懸念された「プライマリ・バランス黒字化目標」については、一切記されていません。
野村総合研究所はこのように好意的に評しています。

「「骨太の方針」と「新しい資本主義」の実行計画では、従来の政府の経済政策の修正が顕著にみられた。岸田政権は発足当初から「所得と成長の好循環」を掲げたが、実際には税制変更を通じて賃上げを促し、企業と労働者の労働分配を変えることを目指す所得再配分に比重がかけられた政策姿勢だった。また、岸田政権は、企業に対する賃上げ要請に加えて、短期的に収益拡大を目指す企業の姿勢に否定的であるなど、「企業に厳しい政権」と印象づけられた。
さらに、所得格差是正の観点から、株式市場の逆風となりえる金融所得課税制度の見直しも掲げていた。この点から、「株式市場に厳しい政権」との評価も固まっていたのである。
ところが、「骨太の方針」と「新しい資本主義」の実行計画では、より成長重視の姿勢が目立つ一方、「株式市場に厳しい政権」から「株式市場を味方につける政権」へと一気に方針転換した印象を与える。政策姿勢は大きく修正された」
「骨太の方針」と「新しい資本主義」の閣議決定:成長戦略の効果を損ねる財政健全化後退の懸念 | 2022年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)

ですから、安心して投資してください、これが野村総研のご託宣です。
従来、言われてきた岸田路線とされた社会民主主義的経済政策である、企業と労働者の所得分派率の変更、賃上げの企業への圧力、株式投資への課税強化、財政健全化といった要素はことごとく打ち消され、成長重視による好循環を重視するというリフレ政策に回帰しました。
プサイマリーバランスの25年までの黒字化の文言は消滅しました。
そのへんについてロイターはこう書いています。

「財政健全化を巡る指針では、安倍氏が年限を区切った財政目標の妥当性に疑念を示すなどしたことを踏まえ、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2025年度に黒字とする年次目標を明記しなかった。年次明記の見送りは新型コロナウイルスの感染が広がった20年以来2年ぶりとなる。
経済あっての財政を掲げて「現行の目標年度により、状況に応じたマクロ経済政策の選択肢がゆがめられてはならない」とする一方、与党に押し切られるかたちで「重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」との表現も加えた」
(ロイター6月7日)
焦点:崩れた「政高党低」、参院選後も歳出圧力 岸田政権初の骨太 | ロイター (reuters.com)

警戒していた私など鼻をつままれたような気分で、財務省や自民党増税派から「骨太どころか骨なしチキンだ」というありがたいお言葉まで頂戴したようです。
財務省に怒られるのは吉兆です。財務省にほめられでもしたらエライことです。

「一体、誰が総理なんだ!これでは「骨太」ではなく「骨抜きチキン」だ。財務省のある幹部は、安倍元総理の要求を次々に飲む総理の姿勢に、いらだちを隠しませんでした」
(TBS 6月7日)
岸田政権初の「骨太の方針」 防衛費増額「5年以内」を明記(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース 

なるほどロイターもは暗に安倍氏が年限を切るな、と言ったことが無言の圧力となって、こうなったと書いています。
メディアはいままで「同志」だと信じていた岸田氏が安倍氏のようなことを言い出ししたのに失望してか、黒田日銀総裁バッシングに転じました。
なにがなんでも金融緩和を止めさせて、緊縮増税路線に転換させたいようです。

外交方針については日米共同生命がすでに下敷きであったので安心していましたが、改めて政府方針として文言化されました。

「1.国際環境の変化への対応
(1)外交・安全保障の強化
国際社会では、米中競争、国家間競争の時代に本格的に突入する中、ロシアがウクライナを侵略し、国際秩序の根幹を揺るがすとともに、インド太平洋地域においても、力による一方的な現状変更やその試みが生じており、安全保障環境は一層厳しさを増していることから、外交・安全保障双方の大幅な強化が求められている。
こうした中、同志国の集まりであるG7の政策協調が密接に行われるようになってきているとともに、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力も一層重要になってきている。また、NATO諸国においては、国防予算を対GDP比2%以上とする基準を満たすという誓約へのコミットメントを果たすための努力を加速することと防衛力強化について改めて合意がなされた。
我が国は、次期G7議長国として、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値に基づく国際秩序の維持・発展のための外交を積極的に展開する。ウクライナ侵略には経済制裁等により毅然と対応し、ウクライナ及び周辺国等への支援を強化する。
「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、日米同盟を基軸としつつ、豪印、ASEAN、欧州、太平洋島しょ国等の国・地域との協力を深化させ、日米豪印の取組等も活用するとともに、TICAD8を通じアフリカとの連携を強化する」
(P20~21)

おお、「同志国」ですか。微温的ムードの岸田さんの口から「同志」という言葉がでるとはねぇ。
文言どおりやってくれるなら、いままで散々あなたには悪態をついてきましたが、撤回しましょう。
そして例の防衛費増額についても「国防予算を対GDP比2%以上とする基準を満たすという誓約」を加速するとしています。
さてさて、お手並み拝見です。
裏舞台をン同じくロイターはこう書いています。

「首相が5月23日にバイデン米大統領との会談で防衛予算の増強を表明して以降、防衛費の書きぶりは焦点のひとつだった。
複数の政府関係者によると、同日から始まった各省協議では、防衛力について「抜本的に強化する」との表現にとどめ、目標達成の時期や具体的な予算額には触れていなかった。昨年までの「大幅に強化」からは踏み込んだ表現をたたき台としたものの、「具体的な道筋を示すべきとする与党の声に配慮せざるを得なかった」と、政府関係者の1人は経緯を振り返る。
骨太方針は予算編成の基礎となり、「具体的になるほど次年度以降の予算に反映されやすい」(別の関係者)。当初ベースの防衛予算がGDP比1%弱にとどまる日本の状況を考慮し、「毎年1兆円ずつ増やせば5年で倍増となる」と、与党関係者の1人は話す」
(ロイター前掲)

う~ん、1年ずつ1兆ずつ増やして5年で5兆、締めて10兆強か。
5年間になにも起きなければいいのですがね。

このように、気味がわるいほど安倍氏の影響力の強さがにじみ出た内容でした。
保守で名を馳せている和田政宗氏はこのように書いていましたが、いかがなものでしょうか。

「岸田内閣の直近の支持率は66%(日経・5月27日~29日調査)、自民党支持率は51%と極めて高い状態であるが、この数字から読み取れない部分をまずしっかりと分析しなくてはならない。それは何か。SNSの動向や全国各地での意見交換で感じるのは、安倍政権の国政選挙の際には必ず支えていた岩盤保守層約20%が今回そのまま自民党に投票するのかという点である。
岩盤保守層では、岸田政権の外交政策などを明確に支持しないと意見表明をする人が相次いでいる。20%のうち10%弱はすでに自民党支持をやめているとみられ、これらの方々は、参政党や新党くにもりに投票するか、投票に行かないという行動を取るとみられる。その数は、1人区の選挙区で3万人にも及ぶとみられ、「立憲共産」共闘候補と接戦の選挙区では自民党候補はかなり厳しい状況となる」
世論調査ではわからない岩盤保守層の自民党離れ|和田政宗 | Hanadaプラス (hanada-plus.jp)

和田さん、残念ですが、そうはならないと思いますよ。
岸田氏がほんとうはなにを考えているのかは正直わかりませんが、日米共同声明とこの閣議決定を読む限り、そうはならない気がしますが。

 

 

 

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ロシア、ウクライナ東部で「大規模」攻撃準備 地元知事 AFPBB News

ウクライナに平和と独立を

2022年6月 9日 (木)

岩屋元大臣の無能事件簿

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かつて歴代最も使えない防衛大臣がいました。名を岩屋毅といいます。
この岩屋という人物は、国防という難しい分野の専門知識をもっていない、防衛大臣という要職の意味がまるでわかっていない、だから大臣としてしてはいけない譲歩をするのが政治だと勘違いしてている、というまことに困った人でした。
こういうタイプは自民党に大勢いますが、選挙区から出してはいけません。

岩屋防衛大臣の事件簿その1。
まずひとつめは、2018年4月には、宮古島に駐屯する陸自部隊に保管してあった弾薬・ミサイル類を、地元反基地団体の抗議で撤去して、謝罪していました。

おいおいです。宮古警備隊は対艦ミサイル部隊ですから、ミサイル置かなきゃ一体なにしに行ったんですか。

「岩屋毅防衛相は2日の記者会見で、陸上自衛隊宮古島駐屯地(沖縄県宮古島市)の迫撃砲や中距離多目的ミサイルの弾薬について、島外に搬出するよう指示したことを明かした。地元への十分な説明がないまま弾薬を保管していたことに伴う措置で、岩屋氏は『不十分だった。おわびしたい』と謝罪した。
防衛省は今後、島内で駐屯地とは別の場所に、今年度末にも配備される地対空・地対艦ミサイル部隊の弾薬庫を建設する予定。完成し次第、島外に撤去した迫撃砲などの弾薬も保管する方針だ。ただ、使用する警備部隊との間に距離が生じることから、初動対処の任務に影響が生じることは避けられない」
(産経 2018年4月2日)

さぞ宮古警備隊の隊員たちはやってられんわ、という気分になったことでありましょう。
軍事挑発を繰り返す中国との最前線に派遣されてみれば、地元の左翼政党の抗議は正しい、武器・弾薬は撤去するというのですから、この大臣どちらの味方なのかと嘆いたことでありましょう。
まず間違いなく、弾薬庫がない基地を命じた世界唯一の防衛大臣であることは間違いありません。

岩屋という人は、防衛大臣でありながら宮古島に対艦ミサイル部隊を置く軍事的意味を致命的に理解できてていないのです。
宮古島警備隊の地対空と地対艦のミサイル部隊の任務は、尖閣諸島を含む島嶼部にいかなる侵攻があろうと、ただちにそれを排除することです。

何度か説明していますがもう一回宮古島と宮古海峡のことをおさえておきます。
宮古島とその周辺海域は、日本にとって、というよりもはや自由主義陣営にとっての海上防衛の要衝です。
こういうその点を押さえるだけで、その海域全体をコントロールできる地点のことを、チョークポイントと呼びます。
チョークは締めるという意味ですね。

中国の悲願は太平洋の広く深い海に進出することです。
なぜって、話せば長くなりますが、一言で言えば大陸国家から海洋国家に飛躍して世界の覇権国になりたいからです。
パクスアメリカーナからパクス・シニカにしてやる、これがグレート中国の野心です。
そのために中国は世界有数の大艦隊を揃えてきたのですが、その太平洋を狙う役割を与えられたのが北海艦隊で、その母港は青島にあります。
あのチンタオビールで有名なところですね。ビールだけ飲んでいただければ平和なんですが、中国はここから太平洋に何度となく艦隊を「出撃」させています。

太平洋に出ねば、中国海軍はいくら頭数が多くても大陸周辺でブイブイ言わせているだけの口先番長みたいなもので、世界の覇権とは無関係です。
なんとしてでも世界の派遣国になりたい、覇権国は海洋国家だ、だから世界一の海の太平洋に進出せねばならない、これが習近平の悲願でした。
冗談のように聞こえるかもしれませんが、この妄想はホンモノで、ですから太平洋を二分して米国と分け合おうぜ、という提案を習近平はマジにオバマ時代にしてしまったことがあったほどです。当然、米国からはご冗談を、と一蹴されました(あたりまえです)。

では、中国が太平洋に出るにはどの海上ルートを取ればいいのでしょうか。
チンタオに拠点を置く中国艦隊が出られる大きなルートは、たった三つしかありません。

①尖閣→宮古海峡ルート
②台湾西ルート
③南シナ海ルート

忌ま忌ましいことには、この三つとも中国を警戒する勢力が押えています。
①の宮古海峡ルートは日本が、②の台湾西ルートは台湾が押えていて下手に手を出すと米国が出てきます。
そこで③の南シナ海ルートから押さえて置くことにしたのが、悪名高い南シナへの進出でした。
中国は、水面下の岩礁の上に海底の土砂を吸い上げて驚くべき短期間で人工島を作ってしまい、ミサイルを並べ、長距離爆撃機が離発着できる滑走路も作り、軍港を作り上げましたが、当然国際海洋法違反ですから、国際司法裁判所が違法裁定が出てしまいました。

そこで改めてその重要性が再認識されたのが、①の尖閣諸島から宮古海峡に抜けるルートだったというわけです。
下の写真は2019年6月10日に、遼寧がロシア艦隊と合同訓練をしたときのものです。
中国は「親友」のロシアとよくこの海域で協同訓練というなの示威行為をしていきます。

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令和元年6月11日 海自が撮影した宮古海峡を通過する空母遼寧

尖閣諸島から宮古島は南東に180㎞の距離にあり、尖閣諸島が東シナ海の入り口の扉だとすれば、宮古島は太平洋の出口に相当します。 

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これに水深図を重ねてみましょう。

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海底地図 海上保安庁海洋情報部提供。海底地形名称・海上保安庁発行海図「南西諸島(No.6315)」に基づく笹川平和財団https://www.spf.org/islandstudies/jp/info_library/senkaku-islands/03-ocean/03_ocean001.html   

この宮古海峡を抜けると、その向こうはいきなり沖縄トラフ(海溝)が広がっています。
上図画面左下から画面右・北東にかけて斜めに濃い青色で伸びているのが、沖縄トラフです。
沖縄トラフは深さが2200mもあって、大陸周辺の浅瀬だけしか知らない中国海軍にとって涎ダダ漏れのポイントです。

なぜでしょうか。
中国大陸周辺はまた上図の水深図を見ていただきたいのですが、白っぽく表示されている、水深100メートル以内の浅い海に囲まれている大陸棚です。
これは中国海軍の泣きどころで、戦略原潜は深く潜れないためにすぐに見つかり、その上有事には米海軍は大陸沿岸に沿って機雷を大量に敷設するでしょうから、あっというまに海上交易路が封鎖されてしまいます。
かつての大戦で日本が食らった機雷封鎖と同じめに中国は合うわけで、世界のエネルギーと食料を爆喰いしている中国はたちたまちエライことになります。

ですから、中国は私たち深い海にグルリを囲まれて生きてきた日本人にはわからない「深い海への憧憬」のようなものが存在するようです。
ちなみに、海上交易路が塞がれた場合に備えての陸上交易路が、ウィグルを通過する一帯一路のシルクロード経済ルートです。
ヒマラヤの天空に、パキスタンに繋がるカラコルム・ハイウエイを建設したのは、そのためです。

それはさておき、この沖縄トラフに潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)をたらふく積んだ戦略原潜を潜ませ、さらにはその先に拡がる約束の海に大艦隊を乗り出したい、これが「中華の夢」(by習近平)なのです。

宮古島の海だけではなく、空も中国にとって重要です。
この空域は、長距離爆撃機の航路です。 
下図は2015年12月における、中国空軍のミサイル爆撃機を含む大編隊の航路です。 

Photo
中国航空機編隊が飛行した経路 防衛省 

この時飛行したH-6Kミサイル爆撃機は、主翼に長剣10型(CJ-10)長距離巡航ミサイルを6基装着することができる巡航ミサイルプラットフォームです。

Photo_2H-6Kミサイル爆撃機 防衛省

CJ-10巡航ミサイルの射程圏は1500㎞以上と推定され、上海東方400㎞上空から東京を直接標的にできます。
グアムを攻撃するには、宮古海峡を抜けて、射程内にまで接近する必要があります。
そのためには、なにがなんでもこの宮古海峡を抜けねばならないわけです。

このように、中国軍にとってこの宮古海峡が持つ軍事的意味は、空中・海上・海中のすべての次元で極めて大きいのです。
この宮古島警備隊に与えられたのが、いかに重責かわかるでしょう。
それを、いとも簡単に左翼団体に屈してしまう、どこの国の防衛大臣なんでしょう、この男。 

岩屋防衛大臣の事件簿その2。
2019年、日韓防衛大臣会談をやり、唯々諾々と韓国の言い分を丸ごと聞いてしまいました。
あろうことか韓国国防相に、日本は国際法を守れなんて言わしてしまっています。

「チョン長官はこの日の会談を終えた後、記者たちと会って、「日本の防衛相と日韓の防衛協力についてよい会談となった」とし「哨戒機近接脅威飛行関連しても虚心坦懐に率直な意見を交わした」と述べた。そして「これから両国が緊密に協力しながら、今後このようなことが再発しないように発展させていこうのに意見を一致させた」と説明した。
この日の会談でチョン長官は、岩屋防衛相に韓国艦艇の射撃統制レーダー照射について明白な根拠があることを説明した後、日本哨戒機の飛行のための国際法遵守を強調した。問題の本質は海上自衛隊の哨戒機による近接脅威飛行形態にあるという理由からだ。
チョン長官は続いて「韓国と日本は、隣接する友好国として国際社会で起こるすべてのことについて緊密に協力して協力をする必要がある」とし「協力して発展させてべきという意見の一致を見た」と話した」
(中央日報 2019年6月1日)

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韓国政府の宣伝画像。もちろん合成写真

こんなことを面と向かって韓国に言わせるくらいなら、日韓防衛大臣会談などやる必要はありません。というか、防衛大臣などいりません。
当時のムン政権は、極度の反日小児病患者の国でした。
日韓関係の条約や取り決めを一方的に廃棄するわ、慰安婦合意はちゃぶ台返しするわ、果てはこのレーダー照射事件のように軍事的挑発までするわ、と話にもならないために、日本は「信頼関係自体が崩壊しています。こんな時になにを話あっても無駄ですから、そちらの頭が冷えるまで接触しません」と言っていました。

それを米国がいらんお節介で中に入って対話を呼びかけてしまい、シャングリラ会合で日韓防衛大臣を開くことにしたのですが、日本は会談のテーマを対北一本にしぼって、それ以外はテーブルに乗せること自体を拒否すべきでした。
ここはふざけるなといって、机のひとつも叩かねばならないところですが、この腑抜け男は聞き役に徹してしまったようです。

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中央日報

「また「隣接した友好国として、国際社会で起こっているすべての問題について緊密に協力する必要性がある。両国関係が改善できるよう積極的に努力していく」と述べて、北朝鮮問題をはじめさまざまな問題で連携することを確認したとみられます。
これについて韓国の連合ニュースは「出口のない攻防戦を繰り広げ、防衛協力を全面的に中断してきた両国が、少なくとも対話と交流正常化に向けた糸口を確保したと評価される」と肯定的に伝えています」
(NHK 2019年6月1日)

結果、この日韓防衛大臣会合を、「対話と交流正常化に向けた糸口を確保した」と韓国の思惑どおりにしてしまいました。
私が昨日書いたことは、日韓首脳会談をやるならやるで、ぜったいにこのような両国間のに起きたことをテーマを一切議題に乗せてはならないということでした。
乗せれば、必ず彼らの主張を一方的にガナってくるのは目に見えています。

ちなみに、それは保守政権となったいまもまったく同じです。
「知日派」大使の触れ込みで赴任してきたユン・ドンミン駐日大使は、6月26日の日経新聞のセミナーで、自称徴用工の解決方法についてこんなことを言っています。

①判決では日本企業が強制動員被害者への賠償を命じられたが、これを韓国政府が代わりに返済する。
②その際、韓日請求権協定に関連した企業が自律的に参加する財団を作り、賠償を支援する。
③関係した日本企業も参加する。

きっとこれがユン政権の考える落とし所のようです。
話になりません。
この代理弁済案は、いままでも慰安婦問題でも登場し、結局韓国が一方的に合意を廃棄したいわくつきのもので、対案として検討にも値しない下策です。
問題は、どちらの国がカネを出す、どちらがカネをたて替えるという金銭のやりとりではなく、条約の基本原則に戻れということです。
日本が一貫して「韓国が約束を守れ」という言い方をしてきたのは、慰安婦合意をしながら一方的に慰安婦財団を解体させてみたり、徴用工という個人請求権を蒸し返してみたりするような日韓の信頼関係を壊すことをするな、という意味です。

したがって、わが国は日韓基本条約を守れと言い続ければよいのであって、いまさら個別のレーダー照射時の哨戒機の高度がどーしたなどという議論に引き込まれてはならないのです。
この立場は岸田政権も継承しているはずですから、仮にスペインで首脳会談をするにしても、このような個別の事件についての議論は一切テーブルに乗せてはなりません。
乗せるというなら、会談自体を拒否するべきです。
昨日の繰り返しになりますが、日本が韓国に言うべきは、自由主義陣営の一国として韓国が責任をまっとうする気があるのなら、対北制裁をキチンと守れ、核実験をやられたらしっかり国際制裁に加われ、中国とは原則的に対峙しろ、ザ・クアッドと連携して台湾を守れ、ということ以外にありません。
もし今の防衛大臣が岩屋なら、きっとニタニタと握手することが外交だなんて勘違いしてしまうんでしょうな。

そして岩屋元大臣の事件簿その3。
このような無能というのもおこがましい仕事をしていた岩屋は、昨今、またぞろこんなことを言ってアチラ系メディアの寵児になっているようです。

「そもそも「敵基地攻撃能力」との言い方は、わが国の防衛政策を語る言葉としてふさわしくない。攻撃を受けた際に、これを防ぐに他に手段がなくやむを得ない場合は反撃せざるを得ないわけだから「反撃能力」と称するのは理解できる。
 反撃能力の対象に「相手国の指揮統制機能等も含む」と明記したことは、いたずらに周辺国を刺激するだけでなく、対処のための準備を促し、軍拡競争につながる恐れがある。(略)
専守防衛は日本の専売特許ではなく、国際法、国連憲章の精神だ。反撃は許されるが、先制攻撃は許されない。それを変える必要はないし、変えてはならない」
(東京 2022年6月3日)
防衛費、最初にGDP比2%目標、適切ではない 自民・岩屋毅・元防衛相:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

この岩屋の主張は、日刊ゲンダイがすぐに拡散し、立憲民主や共産党の意見とまったく同じことを、安倍が任命した防衛大臣が言っているぞぉと拡散しました。
篠田英朗氏は即座にツイートでこう述べています。

「専守防衛は日本の専売特許ではなく、国際法、国連憲章の精神」。国際法に対する「憲法優越」説「一択」でなくなってきたとしたら、時代の変化を評価したい。
ただし、「専守防衛」は日本人が創作した概念で、国際法には存在しないよ。
2022年6月5日)
篠田英朗  Twitter

そのとおりです。「専守防衛」というのは日本だけの概念で、どの国にも通用しません。
こういう寝ぼけたことを、ウクライナ侵略の真っ最中に言えるという神経に感嘆します。
実は敵基地攻撃能力は奥行きの深い議論です。
移動式発射装置が主力の北朝鮮の弾道ミサイルに対して、実際にそれを破壊できるのか、破壊するにはどういう方法があるのか、飽和攻撃を受けた場合、日本だけで対処できるか、米国とどのように連携してキルチェーンを構築するのか、などが未解決の問題が山積しており、言葉だけが先行しているきらいがあります。

キルチェーンがなければ、敵地攻撃など絵に描いた餅です。
キルチェーンとは、①目標の識別、②目標への武力の指向、③目標を攻撃するかどうかの決心と命令を出し、④目標の破壊を指しますが、これらすべての段階で、米国が主で日本は従の位置にいます。
①目標の識別は米国の監視衛星が行い、日本に連絡し、そこでようやく②日本が危機と認識し、③それがいかなる脅威か、反撃すべきか否かを決断して命令を下し、④反撃する、という手順を踏みます。

日本には、現在単独で北の防空システムを破る長距離戦力投射の力はなく、米国任せにするしかないのが現状です。
それ以前に、攻撃の準備に入ったことを察知する力さえありませんし、そもそも反撃命令さえも米国との協議なしに単独で行うことは、日米同盟を毀損することを覚悟せねばなりません。

このような奥行きの深い議論をせねばならない時に、「日本は専守防衛ですから」の一言で済ませられる元防衛大臣とは一体なんなのでしょうか。
岩屋が次に登場するメディアは赤旗のようです。

 

 

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ウクライナに平和と独立を

2022年6月 8日 (水)

岸田首相は韓国とどうつきあうのか

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北朝鮮が6発の弾道ミサイルを発射し、ついでに核実験もするようです。
韓国は8発と発表していますが、これで今年に入ってなんと17回目です。
北にとって、国連安保理決議違反など幽霊のくしゃみのようなものです。

「防衛省によりますと、北朝鮮が弾道ミサイルなどのミサイルを発射したのは、5月25日以来で、ことしに入って17回目です。
これまでに、1月に7回、2月に1回、3月に3回、4月に1回、5月は4回、それぞれ弾道ミサイルなどの発射を繰り返しています。

これまでの16回のうち、14回は弾道ミサイルと推定され、もう1回も弾道ミサイルの可能性が指摘されています。
残りの1回は長距離巡航ミサイルと推定されています。このうち、直近の5月25日に発射された弾道ミサイルについて防衛省は、少なくとも2発を発射し、1発は、最高高度550キロ程度、距離は300キロ程度、もう1発は、最高高度50キロ程度、距離は750キロ程度を変則軌道で飛しょうしたと分析しています」
(NHK6月5日)
“北朝鮮弾道ミサイル 少なくとも6発 EEZ外落下推定”岸防衛相 | NHK | 北朝鮮情勢

6発同時発射したのは飽和攻撃実験だなんて解説もありましたが、あのね、6発程度じゃ「飽和」しないの。
イージス・システムは、250の目標を探知し、その中で危険な125の目標を追尾し、25の目標を同時に攻撃できます。
単艦で25ですから、ネットワークを組んでいる他の艦艇にも目標を振り分ければ、その4倍、5倍の数のミサイルに対応できるはずです。
だから、飽和攻撃の実験だと言いたいなら、同時に100発くらい撃ってからにして下さい。

それはさておき、いかに公然と国連決議を破ろうと、常任理事国様が2カ国も味方してくれるんですからこわいものなし。
これなら核実験もして一気に「核大国」なるんだーい、ということのようであります。
ウクライナ戦争の現実を見てしまった正恩にとって、ロシア製兵器はガラクタとわかったことでしょう。
やはり初代の教えどおり、核こそが唯一神。
プーチンのように核で恫喝すれば、周辺国はひれ伏し、米国もなにも出来ない。
だから、
北に一回核を持たせたら絶対に手放さないのですが、ただ習様、北京、上海が核ミサイルの射程にすっぽり入りますが、よろしいのでしょうか。

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「北朝鮮のミサイル発射」注目すべき3つのポイントとは?【解説】 | ハフポスト NEWS (huffingtonpost.jp)

米国からの弾道ミサイルと違って近距離から撃たれますから、対応する時間的猶予はほとんど数分です。
中国がどれだけ有効なMD(ミサイル防衛)を持っているか知りませんが、北の核開発は中国にも向けられる牙なんですが。
絶対に正恩は、自分だけには牙はむかないとでも思っているのかしら。

とまぁ、ここまではいままでさんざん書いてきたことのですから、面白くもなんともないのですが、今回ひとつ違った兆候が現れました。
やや驚いたのですが、いままでいくら弾道ミサイル実験をされてもなんの対抗策も打たなかった韓国が、なんと同じ数の弾道ミサイルを撃って見せたのです。
しかも在韓米軍と一緒に。ここが味噌です。

「韓国軍と米軍は6日、地対地ミサイル8発を発射したと発表した。前日に北朝鮮が日本海に向けて、短距離弾道ミサイルを計8発を発射したことに対抗してのもの。
韓国軍の合同参謀本部によると、米軍と共に、6日午前4時45分ごろからおよそ10分間、北朝鮮が発射したのと同じ計8発の地対地ミサイル「ATACMS」を発射した。1発は米軍が、7発は韓国軍が発射したという。
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、北朝鮮のあらゆる挑発に断固として厳正に対応すると述べ、「この国の人の命と財産を守るため、ひとつのひび割れもないようにしていく」と強調した」
(BBC6月6日)
米韓が地対地ミサイル8発を発射 北朝鮮をけん制 - BBCニュース

パチパチ。
つい先日までのムン政権だと、内心は「統一朝鮮の核がミサイルが誕生した。うちの潜水艦に乗せるのだ」とニタニタしていましたが、こんどのユン・ソンニョルは一味違うようです。
やっと自分の国をターゲットにした弾道ミサイル実験をされた場合の、国際スタンダードがわかったようです。
大きな声では言いませんが、うちの国も遺憾砲だけで、わかっていないもんで。
しかも韓国はわかりやすく、撃たれた数だけお返ししています。
撃った韓国側の弾道ミサイルも、ATACMS(陸軍戦術ミサイル)というなかなかの代物です。

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北朝鮮のATACMSミサイルのような新型弾道弾SRBM KN-24

ATACMSは、ひところムン政権が横流しして北のKN24という弾道ミサイルとなったのではないか、という疑惑が出たミサイルです。
結局まちがっていたのですが、いままでのムン政権はそういう横流し疑惑が出るような極端な親北政権でした。

韓国陸軍は、111基のATACMS Block Iと110基の ATACMS Block IAを所有しています。
200基以上あるのですから、北朝鮮が8発撃ってきたら8発、100発撃ったら100発キッチリ撃ち返して下さい。

また、米韓の戦闘機が編隊で示威飛行しました。
韓国空軍はお宝のF-35まで参加させました。

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「韓国側が最新鋭ステルス戦闘機F35Aと主力機のF15、F16の3機種を合計16機動員した。米国はF16を4機参加させた。精密誘導兵器を搭載し、対地攻撃の編隊を組んで飛行した。韓国軍は「北朝鮮のいかなる挑発にも迅速かつ正確に打撃できる能力と意思を示した」と説明した」
(日経6月7日)
米韓空軍20機、黄海上空を共同飛行 対北朝鮮防御力示す: 日本経済新聞 (nikkei.com)

日米も協調して編隊飛行を共同実施していますが、やっと本来の日米韓の連携がとれてきたようです。
韓国は米国務省副長官と面談し、北が核実験した場合の対応策を相談しています。

「米韓は外交でも急速に距離を縮めている。7日にはシャーマン米国務副長官がソウルで韓国の趙賢東(チョ・ヒョンドン)外務第1次官と会談した。北朝鮮が7回目の核実験を断行する可能性を踏まえ、米韓の連合防衛体制の重要性を確認した」
(日経前掲)

今、正恩に叩きこまねばならないのは、北は日米韓の敵ではないとわからせることです。
本来は敵ではないのに、巨大な驚異に育て上げてしまったのは、ムン政権だったわけです。
韓国がベッタリと甘やかさなかったら、今の正恩の増長はありません。
韓国が南北統一の迷妄から覚めて、やっと6年ぶりにまともな対北対応の軌道に戻りつつあるようで、まことに慶賀の至りです。

さて、岸田氏が、6月26日から28日のG7に出席した後、その足でNATOの首脳会議に出席する方向を固めているようです。

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日経

「ロシアによる軍事侵攻が続く中、岸田総理大臣は、6月下旬にスペインで開かれるNATO=北大西洋条約機構の首脳会議に出席する方向で調整を進めています。
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して100日が経過し、政府は、アメリカなどと足並みをそろえて、ロシアに対する経済制裁やウクライナへの支援を継続するとともに、アジアなど各国に連携を働きかけています。
岸田総理大臣は、6月26日からドイツで開かれるG7サミット=主要7か国首脳会議に出席することにしていて、これに続けて、スペインで開かれるNATOの首脳会議にも出席する方向で調整を進めています。
日本の総理大臣がNATOの首脳会議に出席すれば初めてのことになります」
(NHK6月4日)
岸田首相 NATO首脳会議に出席の方向で調整 出席なら日本首相初 | NHK | ウクライナ情勢

「調整を進める」という表現が報じられるということは、ほぼ政権内では規定方針化し、観測気球をあげている段階ということです。
NATOでナニを言ってくるのかわかりませんが、前回の日米首脳会談の線での延長ならば、行く意義はあります。
日本がアジアで唯一のピュアな自由主義陣営であり、全力でウクライナを支援しきるのだ、という後戻りの効かない宣言のひとつもお願いしたいものです。
須田慎一郎氏などは、ウクライナへの電撃訪問説を唱えていますが、そこまですれば立派ですが、どうでしょうか。

NHKは心配げにこうも書いています。

「ただ、G7とは異なり、日本はNATOの加盟国ではないことから、岸田総理大臣としては、参議院選挙の情勢などをぎりぎりまで見極めて、出席するかどうか最終的に判断することにしています」
(NHK前掲)

これはメディアの中にある、集団的自衛権に対する嫌悪感からきています。
日本がNATOに深入りして、集団安全保障体制を真剣に考え始めるのではないか、ザ・クアッドをインド・太平洋のNATOにしたいのではないか、というところでしょうか。
そのうえに、今年の参院選の自民の大勝を受けて(もはや規定事実です)長期政権となり、いよいよ長期政権による改憲が現実の政治日程に登ります。
改憲と集団安保体制のドッキングという展開は、ヒダリ向きの方々には間違いなく悪夢でしょうね。

ご承知のように、政権発足前から私は岸田氏には冷やかですが、昨今はこれもいいかな、と思い始めています。
岸田氏はいわば自民党の中の米国民主党のような立場にいます。
同じことを、自民党内米共和党の安倍氏や菅氏が言っていたら、野党やワイドショーは大騒ぎしたことでしょう。
リベラルで鳴らす岸田氏がやるから、ワイドショーは味方撃ちできません。
しかも岸田氏の石橋は壊すまで叩くような体質では失点がないので、攻めにくいようです。

さて、NATOに行くに際して岸田氏は二つのサプライズを用意していると聞きます。
ひとつは前述したウクライナ訪問。

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韓国大統領選 当選のユン氏 米大統領と対北朝鮮緊密連携で一致 | NHK | 韓国大統領選挙

そしてもうひとつは、韓国のユン・ソンニョル大統領との首脳会談です。
韓国はNATO首脳会議に参加の検討をしており、すでに事務方を現地に送り込んでいます。
これはムン政権で冷淡そのものだったウクライナ支援を真面目にやるぞという意思表示というのは表向きで、たぶん真意はユン政権が外交で重視している日韓関係修復の足掛かりをつかみたいからでしょう。
初めての会談はどちらの国でやってももめますから、第三国が適当でしょう。
おそらく、岸田政権としてもまんざらではなく、マドリッドで日韓首脳会談をする可能性は高いと思われます。

たぶん、外務省はいまごろ裏舞台でどこまで突っ込んだ会談にするのか、ただの顔合わせの表敬か、それとも実質的な中身のあるものかで韓国と詰めていることでしょう。
たんなる表敬なら、廊下での立ち話か、それとも座ってしゃべるのか、時間はどれだけとるのか、中身があるならあるで共同声明は出すのか出さないのか、と互いの温度によってレベルが違うのです。
なんせ冷えきってから長い時間たっていますから、日本は韓国パッシングに馴れてしまいましたからね。

この時期に、日韓首脳会談をする意味はあると思います。
保守の中には、韓国が懺悔してこなければ許さないみたいな風潮があるようですが、韓国に出来ないことを期待しても無駄です。
そんなことをユンがしたら、韓国世論から袋叩きに合います。
韓国の反日は百年二百年では消えません。それがひとつの政権に代わったくらいで、激変するわきゃないじゃないですか。

勘違いしていただきたくないのですが、私は慰安婦、徴用工、GSOMIA、不買運動、そして明らかな戦闘行為であるレーダー照射などの一連の反日行動を水に流せ、と言っているのではありません。
水に流せるはずもないし、その必要もありません。
ただ、今それを改めて突きつける時なのか、という時期の問題です。
ウクライナ戦争は、それ以前と以後を厳然と分ける、時代指標になるはずです。
世界は自由主義陣営と専制主義に二分されて、戦う時代に突入したのです。
この時代認識をもって、韓国に対応しろと言っているのです。
そもそも日韓関係改善は、韓国にとっては重大なのかもしれませんが、うちの国や国際社会にとって韓国は二義的な用件にすぎません。
はっきりいえば、どーでもよい。韓国がいないならいないで、それなりに考えます。
いやそれどころか、ユンが勝利しなかったら、台湾海峡に全体主義との戦いの前線を移す覚悟を日米はしかかっていたのです。
だからこちらは、そこまで韓国大統領が言うのならつきあってやろう、ただし会う以上は謝罪こそ求めないが、ムン政権時代に後ろ足で砂をかけてきた自由主義陣営にキッチリ復帰する、ザ・クアッド、IPEFに敵対しないことくらいは確約してもらわねばなりません。

中国とロシア、北朝鮮ときちんと向き合って対峙する意志があるのか否か、そこがが問題なのです。
仮に韓国がないというなら、今の心冷戦へと流れ込む国際情勢の中で、日韓関係だけをよくすることなどありえないのですから、それが出来ないようなら首脳会談の件はこれでオシマイです。
このようなけじをつけるためなら、どんどんとユンと会ったらいいのではないか、と思います。
聞くところでは、ユン氏は声の大きな押しの強いタイプだそうです。
しかも世界舞台への初陣でテンション高めでしょうから、ひとつ負けないようにお願いします。

ウクライナに平和と独立を

 

2022年6月 7日 (火)

ウクライナ軍、セベロドネツク奪還へ

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一時はセベロドネツクで押し切られて、東部全体をロシアに支配させてしまうのかと思われた東部戦線ですが、いったん撤退したウクライナ軍は、後方のルシャンシクで部隊再編を完了し、反攻に移ったようです。
ウクライナ軍はセベロドネツクに突入し、ロシア軍との市街戦を展開しているようです。
ウクライナ側の報道では、ハンシク州知事ガイダイ氏が2割奪還したとも伝えられていますが、流動的です。
なおガイダイ知事の発言に対しては、ウクライナ人ジャーナリストからも疑義が呈されており、まるごと信用しないほうがよさそうです。

私がいちばん信用を置いているISW(戦争研究所)の6月3日の最新レポートです。
ISWらしく慎重な書き方をしていますが、ロシア軍の攻撃が鈍化していることを認めています。
 セベロドネツクをロシア軍が支配すれば、ルガンシク州は完全に制圧されたことになります。

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ロシア、東部へ戦力集中 セベロドネツクなど: 日本経済新聞 (nikkei.com)

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ウクライナ軍、外国人部隊と共にセベロドネツク市内のロシア軍に反撃 (grandfleet.info)

「ロシア軍はセベロドネツクで地上攻撃を続け、6月3日には部分的な成功を収めた。ウクライナ参謀本部は、ロシア軍が市の東部を攻撃し、いくつかの不特定の成功を収めたと報告した。 
セベロドネツクのすぐ南東にあるメトルキネを攻撃したロシア軍は領土を獲得せず、以前に支配されていた陣地に退却した。 ルハンスク州行政長官のセルヒイ・ハイダイは、ウクライナの守備隊が現地で反撃を行い、不特定の場所でいくつかのブロックを奪還していると報告したが、ISWはセベロドネツク内の地形の正確な支配を確認できず、ロシア軍が都市の大部分を支配している可能性が高い。

リシチャンシクに後退してきた部隊の再編に成功したウクライナ軍の問題はセベロドネツクへの補給ルートである。
セベロドネツク攻撃を担当するロシア軍部隊は全戦力を投入してウクライナ軍の防衛ラインを5月28日前後に突破、同市の北東部に位置するミールホテル付近の一角に足場を築くことに成功、ここからロシア軍は市内に侵入して31日頃には市内の約半分を支配、6月1日には市内の約70%を支配した」
ロシアの攻撃キャンペーン評価、|6月3日戦争研究所 (understandingwar.org)

そして6月5日の同じISWのレポートですが、「セベロドネツクでのウクライナの反撃は、街の大部分を奪還し、ロシア軍を市の南部郊外から追い出した」と評価しています。

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「ウクライナ軍は、6月5日、クレムリンが軍隊の大半を占領に集中させているセヴェロドネツクの広大な地域を奪還するなど、ウクライナ全土のロシア軍陣地に対する限定的かつ局地的な反撃を成功裏に実施し続けた。 
ロシアのテレグラム・チャンネルは、ウクライナ軍がハリコフ市の北で反撃を開始したと主張し、ウクライナ軍がロシア国境近くのロシア防衛線に圧力をかけ続けていることを示している。
 ウクライナ軍は、ロシアがセヴェロドネツクに焦点を合わせ続けていることを利用して、他の前進軸に対する反撃を行おうとしている可能性が高い。ロシア軍がセヴェロドネツク-リシチャンスク地域に装備と軍隊を注ぎ込み続けているにもかかわらず、ウクライナ軍は過去48時間でセヴェロドネツクで反撃に成功し、ロシア軍を市の東郊外と南部の入植地から押し戻した。
 ウクライナの反撃圧力は、ロシア軍の注意をルハンスク州に引き寄せ続け、したがって、ハリコフ州と南枢軸に沿ったロシアの防衛努力に脆弱性を残す可能性が高い。クレムリンの現在の優先作戦地域であるセヴェロドネツクでの反撃に成功したウクライナ軍の能力は、ウクライナにおけるロシア軍の戦闘力の低下をさらに示している」
ロシアの攻撃キャンペーン評価、|6月5日戦争研究所 (understandingwar.org)


このゼベロドネツクへの反攻には、6月2日から3日にリシャンシクに到着した外国人部隊(ウクライナ領土防衛国際部隊)が増援部隊として加わっているようです。

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AFP 外国人部隊

ウクライナ救援に馳せ参じた外国人部隊の様子は、時折ユーチューブで流されていましたが、まとまった戦力ユニットとしての動向が伝わるのは初めてのような気がします。

ロシアは自らは残虐非道で名高い傭兵集団・ワグネルグループを使っておきながら、ウクライナ側の外国人部隊を目の敵にしているようです。
ロシアはウクライナ側外国人義勇兵を、ジュネーブ条約に従った捕虜の扱いはせずにテロリストとして処刑するとしていますから、いまだ前線で身を呈して戦い続ける彼らの勇気には感嘆します。

「【6月2日 AFP】ロシア国防省は2日、「外国人傭兵のウクライナへの流入をここ1か月で阻止し、「数百人」を殺害したと発表した。
 同省は声明で、訓練を受けるため「ウクライナ入りした外国人傭兵数百人が、到着後間もなくロシアの長距離精密兵器で殺害された」と主張した。「傭兵の大半は、練度の低さと実戦経験不足により交戦地帯で殺害された」としている」
(AFP6月2日)
ウクライナの「外国人傭兵を多数殺害」 ロシア国防省 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

ウクライナのメディアは、セベロドネツクの戦況をこのように報道しています。
ソースはウクライナ・プラウダという、いかにもかつて共産圏だった国らしい名称がご愛嬌です。
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「ウクライナ軍はセベロドネツクから後退してきた部隊の再編に成功して外国人部隊と共に反撃を開始、英国防省も「セベロドネツク市内のロシア軍は勢いを失った可能性がある」と認めた。
ウクライナ軍はセヴェロドネツクで反撃を行い、ロシア軍の進撃を阻止することに成功した。
これはイギリス諜報機関の日報に述べられており、「ヨーロッパの真実」と書いている。
「過去24時間にわたり、ウクライナ軍はウクライナ東部のセヴェロドネツク市で反撃を開始したが、これはおそらく、以前は戦闘部隊と火力の集中によって獲得されていたロシア軍の作戦上の勢いを否定した」と報告書は述べている」
(ウクライナ・プラウダ 6月4日)
イギリス諜報機関:ウクライナ軍はセヴェロドネツクで反撃し、ロシア連邦は作戦の勢いを失|ウクライナ・プラウダ (pravda.com.ua)

興味深いのは、このゼベロドネツクではロシア軍が共に自称「ルハンシク人民共和国」武装勢力と「ドネツク人民共和国」武装勢力を前面に押し立てて楯にしていることです。
彼ら武装勢力の多くは兵隊狩りで集められたものたちで、ロシアからろくな装備も与えられず、満足な重火器も持たずにカラシニコフ一丁で突入しては全滅を繰り返しているようです。
この姿はかつてのシリアでよく見られたロシアの作戦だと、英国国防省は指摘しています。

「都市市街戦作戦に代理歩兵を使用することは、ロシアが都市部を攻撃するためにシリア軍の第5軍団を配備したシリアで以前に使用されていたロシアの戦術である。このようなやり方は、ロシア正規軍が被る損失を制限したいという願望を示している」と報告書は述べている」
(ウクライナプラウダ前掲)

このように見てくると、ウクライナはいったん引くように見せかけて包囲から逃れて、南部の要衝ヘルソン奪還に力を注ぎつつ、東部においても反攻の時期をうかがっていたようです。
プーチンには、ルハンシク州を占領したことをもって勝利宣言したい意図もあったはずで、ここに持てる限りの大砲と戦車を集中したのですが、ウクライナ軍主力にはするっと逃げられ、逆に増援部隊を得てセベロドネツク市街地にまで押し戻されてしまいました。
渡河作戦にも3度目の失敗を演じています。

こうなると、いわば胸元に飛び込まれてしまったような格好になってしまいます。
市街地戦とは、通りとブロック、ビルと家屋の奪い合いですから、敵味方が複雑に入り組んでしまっては、せっかくかき集めた大砲や戦車による無差別砲撃ができません。
重火力の得意は面の制圧で、市街地戦のようなピンポイントを争う戦いには不向きなのです。

そこで先程触れたルハンシクとドネツクの分離主義者の、軍とは名ばかりの反グレ連中を突っ込ましているわけです。

ただし別の情報では、ロシア軍が再び攻勢にでているようです。

「ウクライナ軍は4日頃に開始された反撃で市内の50%を奪還、さらに市庁舎やミールホテルのある一角に敵部隊を押し込め市内の70%~80%を支配下するまでに至ったが、今度はロシア軍が押し返してウクライナ軍を都市郊外の工業地区に押し込め、現在セベロドネツク市内の60%~70%をロシア軍が支配しているという報告まである。
兎に角、セベロドネツク市内の状況は流動的で勝者を語るには「まだ早すぎた」と反省している」
(航空万能論6月6日)
今度はロシア軍が反撃、ウクライナ軍はセベロドネツク郊外に後退 (grandfleet.info)

「勝者を語るには早い」、このあたりが妥当な認識かもしれません。

 

 

 

ウクライナに平和と独立を

2022年6月 6日 (月)

原発を止めて地域経済が維持できるとでも思っているのか?

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この札幌地裁判決は再稼働は差し止めたものの、廃炉は認めなかったわけですが、理由がよくわかりません。
再稼働されない以上、廃炉するしかないじゃないですか。
仏心を出したわけじゃあるまいに、妙なバランスとるんじゃないよ、と言いたくなります。
半永久的に再稼働も出来ず、かといって廃炉もしないまま宙ぶらりんで維持していろ、とでもいうんでしょうかね。

ただし、廃炉は口でいうのは簡単ですが、その工程をマラソンランナーのように走らねばならないのは、ほかならぬ電力会社です。
廃炉は一切の利益を生み出さず、巨額な処分費用を長期間負担せねばならないために、電力会社が経営的余裕がなければ廃炉などできることではありません。
原子炉が40年たっても廃炉できないのは、新型炉にリプレイスできないためだけではなく、廃炉処分の方途が見つからないからでもあるのです。

ではその電力会社の体力は、今、どうなっているでしょうか。
実は史上かつてなく最悪です。
電力業界から、逃げ出す会社が増え続けています。
2016年4月に、電力の小売自由化が鳴り物入りでスタートしました。
それまで地域の電力会社10社が独占供給してきた一般家庭向け電力販売が一般企業に解禁され、利用者はライフスタイルや価値観、価格に合わせ自由に販売会社やプランを選択できるようになる、といのが触れ込みでした。

安倍氏好みの規制緩和の一環でしたが、今まで幕藩体制とまで言われていた発電-送電-小売りの独占が解禁されたのですから、新しいビジネスチャンス到来とばかりに猫も杓子も新規参入し、その新規事業者数、実に全国で約700社というのですからもうブームでした。
当時、そこかしこでナントカ電力の新規会員募集広告を見たものです。
私は、ライフラインの規制緩和には反対でしたが、案の定です。

それから6年、どうなったのかといえば、新電力は続々と経営破綻するか、我先にと逃げ出しています。
日本ロジテック、福島電力は倒産し、水面下では鹿角市も出資したかづのパワーが売電事業を休止、楽天グループの「楽天でんき」は新規契約停止といった具合に、計画の事業計画が破綻したり、そもそも稼働する前に止めてしまった登録事業者も相当数あると言われています。

「企業信用調査最大手の帝国データバンクが4月公表した「『新電力会社』倒産動向調査」によれば、2021年度における新電力の倒産は過去最多となる14件となった。倒産までいかなくとも、電力の小売事業から撤退を余儀なくされた事業者も含めると、その数は31社と過去最悪のペースとなるという」(2022年5月2日)

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苦境の新電力、“ソシャゲ感覚”で撤退? 1年で14件、倒産過去最多: 古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/3 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン

なぜでしょうか。
新電力自体が電力会社のようなしっかりした経営基盤を持たないふわふわした異業種参入組だったうえに、それらが熾烈な競争にさらされ、しかもこの間の原油高、円安による調達コストの肥大化という二重三十の打撃を受けたからです。

「大手電力10社のうち東京電力や中部電力など6社は、2022年3月期連結決算の最終利益が赤字になる見通しだ。赤字額は東京電力が410億円、東北電力は450億円と予想している。
もともと大手電力各社は、政府の制度により、原油や液化天然ガス(LNG)などの燃料費の上昇分を電気料金に転嫁することが認められている。ただ、料金への転嫁は数か月後になるため、その間、業績が押し下げられるという」
(読売2022年2月9日)社説:電力業績悪化 安定供給が揺らがないように : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

この間、電気料金が値上がりを続けているのを見たのが下図です。
ウクライナ侵攻以来の今年2月までのものですが、原油価格は昨年末以降WTI先物価格は1バレル90ドルを突破しています。
これは2014年10月以来、7年4カ月ぶりの高水準にあたっています。

今後、この原油価格の高止まりは、脱炭素の世界的時代潮流を背景としているために、簡単には修正が効きません。
すると当然のことながら、原油を原料にしている電気はスライドして値上がりします。

去年、大手電力10社が電気料金を値上げしました。
標準家庭の電気料金で、値上げ前と比べてもっとも幅が大きいのは沖縄電力で171円となり、次いで中国電力が135円、東京電力と中部電力は133円、それぞれ値上げしました。

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原油・ガソリン価格の高騰は続くのか?~高騰の背景整理と見通し |ニッセイ基礎研究所 (nli-research.co.jp)

ただし、公共料金の値上がりは政府の承認が必要ですから3カ月ズレて、しかも設定された基準燃料価格の1・5倍までしか料金に反映できない仕組みです。
超過分は電力会社が負担する仕組みで、北陸、関西、中国の3社は既にその上限に達しています。

かつての電力自由化論議の際に、電力会社の寡占が問題視されましたが、電力各社は寡占との引き換えに安定した電力供給体制と公共料金としての妥当な売価で縛られていたのです。
ですから、経営がしんどいから止めた、経営が成り立たないから値上げする、という新電力のようなまねは許されませんでした。
いまでも、意地でもオンボロ火力を動かしているのは、こういう昔気質の電力マンの義務感があるからです。


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6月電気料金、5社が値上げ ロシア影響 - 産経ニュース (sankei.com)

「標準的な家庭の電気料金で最も値上げ幅が大きいのは、北海道電力の81円。次いで東京電力が60円、中部電力は42円、九州電力は32円、東北電力が29円値上げするとみられる」
(産経2022年4月22日)

そしてもうひとつの燃料価格の高騰の影響は、収益力の低下です。
これは続々と撤退する新電力を見ればわかるとおり、電力は収益性の悪い部門となってしまったために、各社は発電設備への投資余力を失うことになりました。
大手電力の発電設備への投資額は2019年に1.3兆円と、自由化が始まった1995年に比べて約3割減ったと言われています。
すると、電力各社はいままで維持してきた効率が悪く採算性の低い老朽火力発電所の廃止を進めたために発電能力全体が低下しました。
結果、電力供給の逼迫が起きています。

これが電力予備率の低下の原因です。
去年から今年にかけての冬は、まさに薄氷の上を歩むが如しでした。
東電と関西電力の予備率には3%台という赤信号が灯りました。

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経産省 冬の電力需給対策強化 過去10年で最も厳しく |日商 Assist Biz (jcci.or.jp)

「この冬の電力需給は、10年に1度の厳しい寒さを想定した場合にも、全国10エリア全てで安定供給に必要な予備率3%を何とか確保できる見通しとなっているものの、東京エリアは1月に3・2%、2月に3・1%とギリギリの状況。特に、2月は中部、北陸、関西、中国、四国、九州の6エリアでも3%台の予備率になる見通しで、過去10年間で最も厳しい状況となっている」
(日商BIZ 2021年12月4日)

再エネは文字どおりの風頼りの風来坊で頼りにならず、原子力は止められており、結局のところ日本の社会と経済の屋台骨は火力が一手に引き受けることになってしまっています。
そして北電の場合、その火力発電所も前回の地震で被害を受けた苫東厚真などまだ新品なほうで、北電の他の火力発電所は中古品に等しいものをつかっています。 
いちばん古い苫小牧など1973年建設ですから、あと5年で齢半世紀です。
北電に限らず、全国の火力は老朽化が激しく、電力マンの現場力でやっと維持できているような状況が続いています。

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このような電力供給の薄氷の危うさが明らかになったのが、北海道地震に伴う全域停電でした。
北海道地震において特徴的なことは、約300万戸に近い広域停電が発生したことです。
日本が初めて経験する広域ブラックアウトでした。
※参考 資源エネルギー庁
日本初の“ブラックアウト”、その時一体何が起きたのか|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)  


経済産業省は6日、北海道内のほぼ全世帯にあたる295万戸で起きた停電について、午後9時時点で、7日朝までに約120万戸分に相当する150万キロ・ワット規模の電力供給を確保できるとの見通しを明らかにした。
北海道電力が発電所の再稼働を進め、6日午後4時時点で、札幌市や旭川市など28市町村で約33万戸の停電が解消したとしており、その後、さらに復旧が進んでいる」(読売2018年9月7日)

https://news.nifty.com/article/economy/stock/12213-20180906-50097/

2共同より引用 

上の写真は地震の影響で停電した2018年9月6日午前の札幌市内です。中央がさっぽろテレビ塔です。 
大地震が来たから停電はあたりまえだ、なんて思わないで下さい。 
私も経験した2011年3月の東日本大震災においてすら、東電エリア全域の停電は起きませんでしたから、管内全域が一気にダウンする大規模停電がいかに異常なものかわかると思います。

「電力各社でつくる電気事業連合会も「エリア全域での停電は近年では聞いたことがない」としている」
(日経9月6日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35045160W8A900C1000000/

北海道は北電管内すべてでブラックアウト(停電)していますが、これは道内を一括して周波数管理をしている構造があるからです。
電力は「生もの」なために備蓄できません。そのために常に供給と需要を合致させておかねばならないのですが、北電は道内をワンセットでやっています。 
そのために主力の発電所が破損すると、地震とは関係のない地域まで一気に停電してしまうことになります。 
この北海道地震は165万キロワットを発電していた苫東厚真火力発電所が、たまたま震源地の近くにあったために大きく損壊し、ここの3基が停止したことで道内の半分の電力供給が奪われてしまい、一気に需給バランスが釣り合わなくなりました。
需給バランスがくずれると起きるのが、恐怖の周波数の乱れです。
これを放置すると周波数の狂った電気を送電してしまい、発電用タービンが故障し、需要側の電子機器なども破壊する恐れがあるからです。
それを防ぐために、他の無事だった発電所まで停止をかけました。 

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さらに悪いことには、他の電力会社から電力融通しようにも、北海道と本州各社と結ぶ送電線が停電でダウンしてしまい、救援すら受けられない状況になってしまいました。 

これが大停電の直接の原因ですが、遠因は火力に依存する体質にあります。 
北海道電力の電源構成は、発電量ベースで原子力は44% をベースにして、火力39%、水力15%の割合でした。
電力会社は下図福島事故1年前のものですが、黄色の原子力をベース電源にして恒常的に同じ出力で発電させ、細かい出力調整は火力にまかせていました。 
しかし原子力は現在停止中ですから、今の電力構成は片方のエンジンの火力だけで飛んでいる片肺飛行のようなものなのです。

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毎日新聞

この2018年の北海道地震による全域停電が起きた時、蓮舫女史はこんなトンチキなことをツイートして失笑を買っていました。
この人、本当に馬鹿だ。

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「非常用電源に切り替わったのが問題だ」ですって、なにひとつ電力について勉強していませんね。
外部電源が停止した場合、いかに早く内部の非常用電源に切り替わるかが勝負なのです。
それが問題だと言うのですから、この人は原子力のことなど一回もまじめに考えずに脱原発を叫んでいたようです。

このベース電源の片方の原子力が奪われたことが、この2018年の大規模停電の原因です。
安定した電源を確保するのは地域経済の根幹ですから、今の時期にすべきことは、原子力を復旧させねばならなかったのにもかかわらず、札幌地裁は真逆の方向に突っ走っていったようです。
なんと愚かで無責任なことよ。

サプライチェーンの多様化が叫ばれても、なかなか進まないのには訳があります。
日本企業を呼びたい国はいくらでもあるのですが、電力供給が安定しないからです。
せめて国が作った工業団地には安定した電力供給が必須なのですが、それも不安定です。
日本が持ち込む精密加工機器は、周波数が狂っただけでオシャカの山を作り出します。
瞬間停電などやれば、致命的です。
だから電力の安定的な供給が期待できない国や地域には企業は進出できないのです。

日本では2013年以前には、大規模広域停電など起こるはずがない、と思われていました。
ところがそれが民主党政権が原子力を止めてしまった以降、現実のものとなりました。
今後、日本でも工場誘致の条件に安定的な電力供給が出てくることでしょう。
その場合、真っ先に企業が忌避するのは北海道です。
そこまで考えて札幌地裁は、生存権だの、人格権などというごたいそうな言葉を使って判決を書いたのでしょうか。 

 

 

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ロシア軍、ウクライナに侵攻…最新ニュース・速報まとめ : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

ウクライナに平和と独立を

 

 

2022年6月 5日 (日)

日曜写真館 美しき呼び名の菖蒲花いまだ

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やさしくも菖蒲さく也木曽の山 政岡子規

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紫の菖蒲に妻と入れ替る 古舘曹人

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白菖蒲一茎高く鶴のごと 山口青邨

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水の面に風立ち上がる白菖蒲 小島とよ子

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大家や幟の風の菖蒲吹く 政岡子規 

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猫や過ぎし風なくて菖蒲落ちたるは 政岡子規

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色を配られし 菖蒲の花の顔 伊丹三樹彦

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夜の菖蒲までは束の間せめて手を  林朋子

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紫の浄土はここに菖蒲園  長谷川登美

 

2022年6月 4日 (土)

札幌地裁判決、素人裁判官に生殺与奪の権限を与えていいのか

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原発再稼働に、またまた札幌地裁で差し止め判決が出てしまいました。
またですか。げんなりです。
これで今年の夏と冬の電力逼迫期に、北海道電力管内で予備率がパンクするのは目に見えています。

「北海道電力泊原発1~3号機(泊村)で事故が起きれば生命や身体の安全が脅かされるとして、道内の住民ら約1200人が北海道電に廃炉や運転差し止めを求めた訴訟の判決が31日、札幌地裁であり、谷口哲也裁判長は北海道電に運転差し止めを命じた。廃炉については住民側の請求を退けた。
裁判では、原発の敷地内や周辺海域に活断層が存在するか▽防潮堤で津波に対する安全性が確保されているか-などが主要な争点になった。
原告側は「北海道電が考慮していない活断層がある」とし、防潮堤の地盤の液状化など津波への備えも不十分だと主張。一方、北海道電は「地震や津波に対して十分な安全性が確保されている」として請求棄却を求めていた」
(産経5月31日)
泊原発の運転差し止め命じる 廃炉は認めず 札幌地裁 - 産経ニュース (sankei.com)

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泊原発、運転差し止め命令 「津波の安全性基準満たさず」―廃炉は認めず・札幌地裁:時事ドットコム (jiji.com)

北電の訴訟戦術の失敗が敗因です。
北電が訴訟から10年もたっていたにもかかわらず、煮え切らないグズラグズラした対応をとってしまったツケです。
争点は明らかで、敷地内活断層の存在と防波堤でした。
この資料の提出が遅れたために、地裁がブチ切れて今年1月に結審させてしまいました。

「審理の継続は、原告らに被告の主張立証に延々と対応することを余儀なくするもの。正当化は難しい」。谷口哲也裁判長は判決の中で、北海道電が敷地内断層に関する主張を書面で提出する意向を示していたにもかかわらず、今年1月に審理を打ち切り判決を出した理由をこう説明した。
地裁は今回、科学的知見や資料を持つ電力会社側が立証責任を尽くさない場合「安全性を欠く」とする過去の原発関連訴訟で示された判断枠組みを適用した」
(産経5月31日)

北電は資料を書面で提出すると言っていたのですが、地裁がもういらないとばかりに結審に持ち込んでしまった段階で、北電の負けは予測されていました。
それにしても、
この谷口裁判官は下級審によくいるアチラ系の人物のようですから、司法の中立性もくそもないですな。
訴訟団は地裁に提訴する場合、思想信条が近い裁判官を選んでいるのだという噂も聞きます。

とはいえ北電も、朝日から「当事者能力なし」とクサされてもしかたありません。
活断層と防波堤改修の資料を開示し、それが安全性になんら影響しないということを、真正面から問うべきでした。
さらに運転が認められた後には、今後、このような反原発訴訟に対して、損害賠償訴訟を提起するていどの抑止策をとるべきでしょう。

さもないと、いつまでも重要なエネルギーインフラが、一握りの声の大きい運動家によって止められてしまい、実際に2018年9月に北海道で起きた全域大停電などといった事態になってしまいます。
この人たちの「生命や身体の不安」を解消するために、北海道全域の住民の生存権・生活権を犠牲にすることになります。

さて、これはよく再稼働裁判で出てくる、地震の揺れと安全性の問題です。
今回の泊原発の場合、敷地内に新たな活断層があることが問題視されました。
しかし日本は活断層だらけの土地です。

三つのプレートが集まって、その上に浮いているわが列島に活断層なんぞつきものなのです。

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日本全国の活断層マップ (imart.co.jp)

活断層があるから立入禁止にするわけにはいかず、その上で普通に暮らして、生産を営んでいます。
問題は活断層があるかないかではなく、あるとしてもそれに万全の備えが出来ているかどうかなのです。
原発施設の地震の揺れの基準値は、個々の原発によって異なっています。
え、全国一律ではないのかって。はい、違います。
原発施設が立っている場所の地層は、場所により異なっていますからね。  
地層が軟弱な場所では、地震の揺れは大きいでしょうし、岩盤の上に立てられれば地震には強いわけです。
したがって、個別の原発によって想定される最大震度は違っています。  

原発建屋を設計する場合、基準値に数倍をかけた値を基にして安全基準を定めます。
いわば崖の10メートル先が基準値だとすれば、そこから4、5倍先の4、500メートル先にテープを張っておくのです。
耐震設計の専門家の入倉孝次郎氏はこう述べています。


「仮に基準地震動を策定しても、それを上回る強さの限界的地震動が来る可能性は否定できない。だから、そのような『残余のリスク』を想定して耐震設計している」 
原子力発電所の耐震設計のための基準地震動 - 入倉孝次郎研究所

つまり、基準値地震動=耐震限界値ではなく、実際の原発施設は必ず倍数の安全率をかけて耐震設計されているわけです。
これを知らない裁判官や訴訟団は、「基準地震動にあってはならない地震が来たらどうするんだ。だから、新安全基準は緩すぎる」と言うのですが、ソンナことはただの素人考えにすぎません。
入倉氏は、いかにもその道のプロらしく淡々とこう答えています。


「基準地震動は計算で出た一番大きな揺れの値のように思われることがあるが、そうではない」
「平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある」
(福井新聞2015年4月15日)

そのとおりで、予想された以上の震度が原子力施設を襲ったことは何度かあります。
たとえば、東日本大震災時の福島第1原発においても、基準地震動を越える揺れが襲っていたことをご存じでしょうか。 

 

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宮野廣法政大学教授による 単位ガル クリックすると大きくなりますhttp://www.gepr.org/ja/contents/20140630-02/

上図は、宮野廣法政大学教授『福島原発は地震で壊れたのか』から引用したものですが、最大の加速度は、いずれも基準値地震動の平均460ガルを超えています。 
最大に超えたものは、2号機で南西方向に550ガル、3号機で507ガル、5号機で548ガルです。
さらにもっとも震源域に近かった女川では基準値580に対して636ガルで、ここも実測値が基準地震動を上回っています。

東日本大震災以上の大きな振動が発電所を襲ったケースに、2007年の中越沖地震動があります。
東電は地層の褶曲構造によって、施設内に大きな影響が出たと説明しています。

Photo_2 地質調査と基準地震動|柏崎刈羽原子力発電所|東京電力

実際に柏崎刈羽原発を襲った実測震度です。カッコ内が基準地震動です。比較してみてください。

002_3宮野教授による 前掲

いずれの原子炉も基準地震動に対して約50%、最大の2号炉では273ガルの基準値に対して、実に3倍の680ガルが襲っています。
この激震に対して、各原子炉は正常にスクラム(緊急運転停止)しています。後の配管の調査でも破断は認められていません。
つまり原子力施設は、基準値を大きく上回る振動に耐えていたのです。

しかし後に起きる東日本大震災をみれば、東電はこの柏崎刈羽の教訓にもっと学ぶべきでした。
柏崎刈羽では、2700カ所以上の機器類の破損があり、3号機の起動変圧器は炎上し、外部電源も一時的に失われています。
ただし、非常用ディーゼル発電機が正常に起動したために、事なきを得ています。 
しかし起動後も電力不足状態が続き、タービン駆動給水ポンプを動かすために補助ボイラーが起動しましたが、1から5号機と6,7号機でそれぞれ一台しか使用できないようなシビアな状況でした。
そのため4号機の冷温停止には、丸2日かかっています。

東電はこの柏崎刈羽で経験した地震による全交流電源の停止(ステーション・ブラックアウト) という事態を、もっとシビアに総括して、今後に生かすべきでした。
そうしていれば、福島第1で簡単に水没する場所に予備電源エンジンを置くなどという失態をせずに済み、福島事故は起きなかったことでしょう。

福島第1では大事故になったものの、その隣の女川では高台に施設があったために事なきを得て、津波にあった被災者を施設内に避難させています。
双方共に外部電源を喪失しましたが、福島第1は予備電源水没によって事故に至り、女川は無事でした。
ここは強調しすぎてしすぎることはありません。東日本大震災クラスの地震でも、原発は壊れておらず、破壊されたのはその後の津波による非常用電源の水没による冷却機能の喪失です。

福島第1原発の事故調査報告は、こう記しています。


① 政府事故調報告書では、原子炉圧力容器、格納容器、非常用復水器(IC)、原子炉隔離時冷却系、高圧注入系等の主要設備被害状況を検討している。津波到達前には停止機能は動作し、主要設備の閉じ込め機能、冷却機能を損なうような損傷はなかったとしている。

② 民間事故調報告書では、津波来襲前に関して、地震により自動停止し未臨界を維持したこと、外部電源を喪失したが非常用ディーゼル発電機(EDG)により電源は回復したこと、その間にフェールセーフ(安全装置)が働きMSIV(非常用炉心冷却装置)が閉止したこと等、正常であったことが述べられている。

③東電最終報告書では、1号機~3号機について地震による自動停止と、自動停止から津波来襲までの動きに分けて評価している。前者は各プラントとも地震により正常にスクラムしたこと、外部電源喪失したがEDGにより電圧を回復したこと、EDG起動までの間に原子炉保護系電源喪失しMSIVが自動閉したこと等の結論を得ている。
(宮野論文前掲)

よく地震で原子力施設が壊れた、などと言うガサツなことを言う人がいますが、それについて規制委員会は正式に否定しています。
福島第1の事故原因は、ひとえに屋上に予備電源を設置していなかったから起きたのです。

このことを忘れて、揺れるからアブナイ、津波が来たらアブナイ、という札幌地裁的発想は誤った認識であるばかりか、現実にはなんの解決にもなりません。
だからこそその「残余のリスク」をいかにして減らしていくか、「想定外」が来た場合それをどのようにして極小化できるのか、というリスク管理を欠落させているからです。

これが工学系の考える、万が一事故が起きてもさまざまな方法でシビアアクシデントにならないようにブロックする深層防御の考え方です。
この方針に沿ってできたのが、規制委員会の安全基準で、これをクリアしていないと、原発の再稼働は不可能です。

だから営々と福島事故以来、各電力会社はほとんど採算を度外視して、高い防波堤を作り、施設を強靱化し、予備電気を津波が到達しない高台に移設してきました。
それがどうみても法律のプロであっても、原子力工学や耐震設計のプロではない裁判官の鶴の一声で打ち消されてしまうからイヤになります。
この国の再稼働の権限者は、いつから地裁になかったのですか。
このような判決によっては、日本の原発の安全性は一歩も進化しないどころか、後退してしまいました。
なぜなら、それはかつてあった「原発は絶対に事故を起さない」という原発安全神話の、単純な裏返しとしての「原発絶対危険神話」でしかないからです。

北海道電力は、臭いものに蓋ではなく、真正面から原子力施設の安全性と、それが果たさねばならない社会的役割を対置するべきです。

 

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700万人近くのウクライナの子供たちが戦争による被害を受けている。
243人の子供が殺され、446人が負傷している。
少なくとも23万人の子供がロシアによって拉致されている。

ウクライナに平和と独立を

 

2022年6月 3日 (金)

ウクライナ軍、ゼベロドネツクの罠にかからず

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米国のISW(戦争研究所)が大変に面白い最新レポートをアップしています。
ロシアの攻撃キャンペーン評価、|5月31日戦争研究所 (understandingwar.org)
いつもながらアングロサクソンの、戦争という現象に対しての冷徹な眼に感嘆します。
彼らは情に流されず、膨大な情報からリアルな戦争という病を外科医のような冷静さで取り出し、プレパラートに乗せて私たちに見せてくれます。
今回のウクライナにおけるロシアの虐殺に対しても、こうそっけなく答えています。

ロシアの戦争犯罪について詳細に報道しないのは、これらの活動が欧米マスコミで十分に報道されており、我々が評価し予測している軍事作戦に直接影響しないからだ。
我々は、これらの犯罪行為がウクライナの軍隊及び国民、特にウクライナの都市部における戦闘に及ぼす影響について、引き続き評価し、報告する。我々は、これらのロシアの武力紛争法、ジュネーブ諸条約及び人道に対するこれらの違反を、これらの報告書に記載していなくても、完全に非難する。
(ISW 5月30日 以下同じ)

日本のメディアのように、特派員のそばに砲弾が落ちたと言っては泣き叫ばんばかりのレポートを送ってくるヤワな精神ではないのです。

さて、東部戦線に戦力を集中したロシア軍と、それを迎え撃つウクライナ軍の戦闘の行方を追ってみましょう。
現在、ロシア軍の概況は以下です。
攻防の天王山はセベロドネツクです。ここは軍事的に特に価値のない都市でしたが、ロシア軍がウクライナ軍を包囲殲滅するためのいわば罠として使ったことから、一気に攻防の焦点となりました。

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ISW 5月31日の戦況図

セベロドネツクが罠だと察知していたウクライナ軍は、あえてここの街の防衛にこだわることなく、いち早く撤退をしました。
ロシア軍の目的がウクライナ軍主力の殲滅である以上、退路と補給路が確保されているうちに、いち早く動かねばならなかったのです。

「ウクライナ指導部は、プーチンの誤った優先順位付けに見合うことを賢明に避けたようだ。 ウクライナはセベロドネツクの防衛にもっと多くの予備軍と資源を投入することができたはずであり、そうしなかったことは批判を浴びている。
ウクライナ軍は現在、最後まで戦うのではなく、セベロドネツクから撤退しているようで、ロシア軍が本格的な攻撃を開始した後、比較的迅速に市内に侵入することを可能にした要因である」
(ISW前掲)

ISWはこのウクライナ軍の判断を、「撤退するという決定は、戦略的には健全であったが、痛みを伴うものだった」と評しています。
ロシア軍はセベロドネツク市内のほとんどを支配することに成功し、市内で戦闘は続いているもののウクライナ軍の大半はリシチャンシクに後退しました。
実際に、日本のメディアにも、マウリポリに続くセヴェロドネツク陥落、ウクライナ打撃、と伝え、退却するウクライナ軍と印象づけた報道したところも多かったようです。
ウクライナが狙っていたのは、より戦略的重要性が高いヘルソンの奪還でした。

「セヴェロドネツクとドンバスの掌握に対するモスクワの集中は、ウクライナの反撃が続いているウクライナの重要なヘルソン州で、ロシアにとって一般的に脆弱性を生み出し続けている。
 ヘルソンは、ロシア軍がドニプロ川西岸に地盤を固めているウクライナで唯一の地域であるため、重要な地形である。
もしロシアが、戦闘が止まった時にヘルソンに強力な拠点を維持できれば、ロシアは将来の侵略を開始するための非常に強い立場にあるだろう」
(ISW前掲)

ヘルソンはドニエプロ川以西の地域で、ロシア軍が唯一占領している拠点です。
ここを抑えられたまま、戦線が膠着してしまうと、ロシアは随時そこから侵略の触手を延ばすことが可能です。
逆に、ロシア軍がヘルソンを失陥すると、クリミア半島からハリキウまで伸びる全長1000キロにも及ぶ長大な戦線が分断され、クリミアは孤立します。
仮に、将来、ここで戦線が膠着した場合、クリミアには水もなければ食料も届かないロシアの孤島となってしまいます。
ですから、ヘルソンの奪還は大変に重要な意味を持ちます。

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ロシア、占領地で支配固め 南部ヘルソンは併合「要請」: 日本経済新聞 (nikkei.com)

「ハルキウ州のゾーロチウから北西に進んだウクライナ軍はウディの奪還に成功、ハルキウ周辺のロシア軍支配地域は以前よりも大分縮小しているが、今だに自走砲やMLRSでハルキウを狙える地域を確保しているため都市は連日攻撃を受けている。
一方、もしウクライナがヘルソンを奪還すれば、ウクライナは将来のロシアの攻撃から身を守るための、はるかに強力な立場に立つだろう。

この戦略的計算は、原則として、ロシアがヘルソンを保持するのに十分な戦闘力を割り当てることにつながるはずだ」
(ISW 前掲)

本来プーチンはこのヘルソンの重要性に気がつき、ここにこそ軍事力を集中させるべきだったにもかかわらず、政治的勝利を求めてセベロドネツクなどというなんの戦略的重要性がない地点に軍を集中させてしまう下策を選択してしまいました。

「その代わりに、プーチンは大部分が象徴的な利益をもたらすウクライナ東部の地域を占領するために、絶望的で血なまぐさい圧力で今かき集めることができるすべての力と資源を集中させることを選んだ。
ヘルソンでのウクライナの反撃が引き続き成功していることは、ウクライナの司令官たちがこれらの現実を認識し、プーチンの決定が作り出した脆弱性を利用していることを示している」
(ISW前掲)

ロシア軍の最大の弱みは、実はISWも指摘するとおり「プーチンの決定の脆弱性」にあります。
この男は、かつての福島事故時のイラカンよろしく、現場指揮にまでクチバシをつっこんでは混乱させました。
戦略は言うまでもなく、部隊配置や戦術にまで介入し、キーウ攻略など軍部は考えていなかったのを押しつけたとも言われています。
どう見てもプロが作ったとは思えないハチャメチャな戦略ですから、さもありなんではあります。

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プーチン大統領周辺に〝異変〟 相次ぐ側近離脱に暴走の危険 「その後に待つのは毒殺や銃殺では…」専門家(1/2ページ) - zakzak

米国の軍事筋は、ロシア軍は首都キーウでの敗北と同じように、指揮がバラバラで統制がとれておらず、航空優勢もとれていないのに装甲部隊を進出させては潰されるという轍を踏んだと見ているようです。

「米政府の関係者は「2週間ほどドボルニコフ上級大将は姿を見せておらず、現在も彼が総司令官の地位にあるのか分からない」と明かしており、国防当局者は「バラバラだった航空戦力と地上戦力の意思疎通を図り、各方面の作戦に協調性をもたらそうとドボルニコフ上級大将は取り組んだが、クレムリンは作戦の進捗を急かして再編途中だった部隊の投入を指示、空軍はウクライナ空域に侵入するのを拒否して国境付近でミサイルを発射して直ぐに帰投する」と指摘。
軍事アナリストも「ロシア軍の指揮体系には根深い欠陥(下士官に作戦の欠陥を指摘したり作戦を調整を行う権限ない)が存在し、ドボルニコフ上級大将をもってしても2週間程度でこの欠陥を修正するのは無理だ」と述べ、欧州連合軍最高司令官を務めたブリードラブ元大将は「ウクライナ軍がハルキウ州東部でロシア軍の補給路遮断に成功すればイジューム方面のロシア軍はキーウ方面の戦いと同じ状況に陥るだろう」と指摘しているのが興味深い」(ニューヨークタイムス5月31日)
ロシア軍はウクライナ東部で過ちを繰り返している、と米国は言う - ニューヨークタイムズ (nytimes.com)

一方、ウクライナは6月に総反撃といっていましたが、その時期は早まりそうです。

ところでISWはもうひとつのホントかよ、というような情報を書いています。
言っているのがクールこのうえもないISWで、すべてに根拠となる資料も提示していますから、情報の信頼性は高いかもしれません。
なんとロシア国内に抵抗運動が発生し、徴兵センターを焼き討ちしたというのです。

「ロシア国民は5月下旬、おそらく秘密の動員に抗議して、ロシア軍の徴兵センターに対する一連の攻撃を続けた。 
ロシアのテレグラムチャンネBazaは、ロシア連邦保安局が5月21日にウラル山脈のウドムルト共和国の軍事募集センターに対するモロトフカクテル攻撃で、モスクワの元芸術家で野党の人物、イリヤ・ファーバーを逮捕したと報じた。
ロシアの裁判所は以前、贈収賄事件でファーバーに8年の懲役刑を宣告していた。この事件はロシアの野党指導者からファーバーの多大な支持を得た。ファーバーは5月30日に法廷で放火を犯したことを認めた。
Bazaはまた、5月28日と5月31日にそれぞれシンフェロポリとトゥーラ州の募集センターにさらに2つの攻撃があったと報じた」
(ISW前掲)

米国は、かつてのベトナム戦争において、国内に強い厭戦の空気を生み出しました。
そのことが米国が徴兵制を止める一つの原因になったのですが、志願制のプロの軍隊となってからのイラク・アフガン戦争もでも似たようなやりきれなさを社会に蔓延させました。
それは、徴兵制と不本意に召還された予備役兵に大きく依存しているロシアでは、さらに顕著になりこの憤りは士気と戦う意志、そして兵役に拒否費の傾向をうみだすだろうとしています。

またISWによれば、ロシア軍は深刻な装甲車両の不足をきたしているようです。

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ロシア軍損害状況(5月31日現在)
在日ウクライナ大使館(@UKRinJPN)

なんとベラルー軍の装備を勝手に持ち出しているとISWは述べています。

「ロシア軍は、ウクライナでの大規模な物質的損失を補うために、ベラルーシの装備備蓄を搾取しようとしている可能性が高い。 ウクライナ参謀本部は5月31日、ベラルーシ軍が戦闘損失を補充するため、戦車と歩兵戦闘車両をベラルーシの貯蔵施設からロシアに移動させていると報告した。
この報告書は、ロシア軍が自国の予備軍をほとんど使い果たしたという以前の報告を裏付けており、クレムリンがベラルーシの装備を使用するためにベラルーシに対する影響力を依然として活用していることを示している」
(ISW前掲)

なるほどね。ベラルーシやカザフスタン、果ては北朝鮮にまで戦車を寄こせと言っている話はほんとうだったのかもしれません。
なお、米国がMLRS(多連装ロケットシステム)を供与することにしたそうです。
これについては別記事とします。

 

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ウクライナ、W杯出場へあと1勝…スコットランドに3―1で勝利 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

「DFジンチェンコ(マンチェスター・シティー)は「われわれの夢はただ一つ、戦争が終わること。そしてサッカーではW杯に行くこと」
ジンチェンコが会見で涙 サッカーW杯予選臨むウクライナ|秋田魁新報電子版 (sakigake.jp)


ウクライナに平和と独立を

2022年6月 2日 (木)

ぬるい日向水のようなバイデンIPEF

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バイデンが残していったお土産には、開けてみるとなにも入っていない箱が混ざっていました。
それがIPEF(Indo-Pacific Economic Framework ・インド太平洋経済枠組み)です。
これがなんなのか、誰にもさっぱりわーらん。

初めはかつてトランプが足蹴にしたTPPの代替なのかと思いましたが、まったく違うようです。
だってそもそも「経済枠組み」といっても、ここで貿易交渉の話をしようというフレームじゃないからです。
では、なんなのかといえば謎なんですね。
あえて言うなら、学校の「今週の目標」みたいなもんです。

TPPの時は、トランプからヒドイめに合いました。
かつてのオバマ時代には旗振りのひとつだった米国が、いきなり脱退をかますんですから。
それも交渉が9割方出来上がっていたのに、後ろ足で砂をかけたのですから、たまげました。
それを真面目な日本が、わがままを言いまくる11カ国をまとめ上げてゴールしたわけです(泣く)。

で、オバマの副大統領だったバイデンに替わればTPP復帰するのかとおもいきや、その気配はさらさらなく、おもむろに、というか思いつきで出してきたのがこのIPEFでした。
米語読みでアイペッフという気抜けする読み方をするようですが、内容もペフっとしたぬるい日向水のようなものです。

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米バイデン政権 IPEF立ち上げに向け協議開始発表 13か国参加へ | NHK | 米 バイデン大統領

「声明では、IPEFについて「各国の強じんさや経済成長を発展させるものだ」と位置づけ、「インド太平洋地域の協力や繁栄、平和に貢献する」などと目的を強調しています。
そして、4つの柱に焦点を当てるとして、
▽デジタルを含む貿易、
▽サプライチェーン=供給網、
▽クリーンエネルギー・脱炭素、インフラ、
▽税制・汚職対策を挙げ、
それぞれについて高い基準を設けていくなどとしています。
IPEFは、この地域で影響力を強める中国への対抗を念頭にバイデン政権が構想し、復帰に否定的なTPP=環太平洋パートナーシップ協定に代わる経済連携と位置づけています。
一方、IPEFは関税の引き下げなどを対象にしないため、メリットが少ないとみる国もあり、参加する国がどこまで広がりを見せるかが焦点になっていました」
(NHK5月23日) 

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バイデン氏、IPEF「インド太平洋の経済戦略」: 日本経済新聞 (nikkei.com)

4カ国首脳を集めたザ・クアッドをやった日本でバイデンが発表しているところを見ると、もちろんザ・クアッドの経済的枠組みであることを強調したかったのと、日本にうまく取り持ってもらえないかという下心が見え見えです。
昨日触れた南太平洋島しょ国でもそうですが、東南アジア諸国やインドも米国の上から目線は嫌いだが、かといって中国はマジで恐ろしい、というどっちつかずの立場です。

だから、ロシア制裁でもこれらの諸国は、揃ってどっちつかずのあいまい路線を貫きました。
そういう国々の気分を一番理解せねばならない立場にいるのが、他ならぬうちの国なのです。
これらの「どっちつかずの国々」を中国の従属化させることなく、自由主義陣営の枠組みに参加させるのが我が国の役割です。

これらの「どっちつかずの国々」は、新冷戦が始まったという認識が甘いのです。
ウクライナ戦争で明確になったのは、まがうことなく第2次冷戦の開始でした。
好むと好まざるとにかかわらず、冷戦は既に始まっており、どちらの側に与するのか、そこに中間的立場やあいまいさは許されません。

その象徴的出来事は、歴史的な中立政策を保ってきたスウエーデンとフィンランドがNATOに加盟申請したことです。
これがウクライナ戦争後のリアルな世界なのです。

反米保守論客の一部はいまだに、「ウクライナ戦争は代理戦争だ」とか「ロシアを戦争に追いやったのは米国だ」「ウクライナのネオナチを作ったのは米国だ」などと斜に構えて見ていますが、いいかげんにしていただきたい。
こういう連中は、グレンコ・アンドリー氏に言わせれば、「
ロシアのスパイか、無意識にロシアを利する役に立つ阿呆」です。
今、問われているのは、我が国の取るべきポジションを明確にすることなのですよ。

さて、話を戻します。
IPEFですが、実は記事に取り上げるのを止めようかと思ったほど、内容がありません。
貿易から汚職追放まで、思いつきでフルーツバスケットに入れて来ました、というような代物です。

そもそもこれは経済協定なのですか、それとも「みんなで守ろう今週の目標」みたいなものなのでしょうか。
その点、TPPは明確に自由貿易を前面に打ち出した環太平洋の経済連携協定づくりでした。
しかしこのIPEFは、米国民主党が好きそうな理念をズラズラと総花的に並べただけのものにすぎません。

参加国が少ないって?当然でしょう。
各国は米国市場へ、いかにスムーズに、かつ安い関税で参入できるのかしか眼が行っていないのですから。
ですから、今の当初参加国はお義理の様子見にすぎないのですよ。

では、いちおう項目別に見てゆきましょう。
ひとつめは、「公平で強靭性のある貿易」です。

「我々は、ハイ・スタンダードで、包摂的で、自由かつ公正な貿易に係るコミットメントの構築を追求し、経済活動を活性化し、持続可能で包括的な経済成長を促進し、労働者と消費者に利益をもたらす幅広い目標を推進するために、貿易・技術政策において新しく創造的なアプローチを発展するよう努める。 我々の取組は、それだけではないが、デジタル経済における協力を含む」
(内閣府訳 以下同じ)

ひどい悪文。なんのことを書いているのか、当人がわかって書いているのかしら。
「自由かつ公正な貿易」というのは、トランプが再三口酸っぱく中国を糾弾してきた、中国の知的財産権侵害や資本移動の禁止などのことを指すのでしょうね。
ならば、トランプのように中国に制裁関税をかけて締め上げるしかないわけです。
そうならそうと中国と、自由貿易を掲げて自由貿易を守る闘争をするんだ、と書けばいいのですが、後段で各国の「貿易・技術の創造的アプローチの発展」をうたい、「デジタル経済の協力」を唱えているから訳がわからなくなります。
頭の中がグチャグチャに混線している、デキの悪い学生が書いたレポートのようです。 

2つ目は、「サプライチェーンの強靭性」です。

 「我々は、より強靭で統合されたサプライチェーンとするために、サプライチェーンの透明性、多様性、安全性、及び持続可能性を向上させることにコミットする。我々は、危機対応策の調整、事業継続をより確実にするための混乱の影響へのより良い備えと影響の軽減のための協力の拡大、ロジスティックスの効率と支援の改善、主要原材料・加工材料、半導体、重要鉱物、及びクリーンエネルギー技術へのアクセスを確保するよう努める」

「多様性」とか「持続可能性」「クリーンエネルギー」などと、リベラル好みの文言が散りばめられていますが、要するに今突き当たっているコロナ以降のサプライチェーンを強靱化するということのようです。(たぶん)
では、その対策としての「よりよい備え」って、いったいなんなのでしょうか。
各国にとって、できることといったら、国外のサプライチェーンの多様化と国内生産を増やしていく以外ないでしょうに。
それだって困難を極めていて、いざとなれば売らない、あるいは余ってしまって余剰を抱え込むというリスクと裏腹です。
これを米国が音頭をとって調整して、多様性に満ちた持続可能なクリーンなサプライチェーンにする秘策を授けていただける、というならわかりますが、まさか違いますよね。

三つ目は、やはり出ました「脱炭素」と「クリーンエネルギー」。
これを入れないと、民主党左派からお許しがもらえないようです。

「パリ協定の目標及び我々の国民と労働者の生活を支援する取組に沿って、我々は、経済を脱炭素化し、気候の影響に対する強靱性を構築するために、クリーンエネルギー技術の開発と展開を加速することを計画する。
これには、技術協力の深化、譲与的融資を含む資金の動員、そして持続可能で耐久性のあるインフラの開発支援と技術協力の提供による競争力の向上と連結性の強化のための方法の模索が含まれる」

そもそも脱炭素を言いたいなら、世界の炭酸ガスの大部分をまき散らしている炭酸ガス排出大国の中国を名指ししないと無意味です。
だって、中国が世界の半分出しているんですから、ここを締めないとCO2は減らないのです。

わかりきった話ですが、なぜか中国だけはいままで「開発途上国」と自称して削減を拒んできました。
ある時は世界の覇権国、ある時は発展途上国ですからね(笑)。

日本と中国のCO2 排出量を比較してみましょう。

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杉山大志氏による

「上図で2020年の数値はWRIの最新情報に基づくもの。CO2「等」としているのは、CO2にメタン等を加えた温室効果ガス全体の意味である。
中国の排出量は2020年に124億トンだったものが2025年には136億トンになる。この増分は12.4億トンで、日本の現在の年間排出量である11.9億トンよりも多い」(杉山大志2021年3月21日) 

次にCO2 年間排出量を世界各国を合わせた量と比較します。単位は億トンです。

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James Eagle China’s CO2 emissions almost surpass the G7

上図の縦軸は年間のCO2排出量で単位は100万トン。左が中国、右は先進国(G7である米国、英国、カナダ、日フランス、ドイツ、イタリア、日本、およびその他のEU)です。
おそらくこの中国の伸びからみれば、2021年には追い抜いているはずです。

わ、はは、もう笑っちゃうでしょう。
世界全部の国の炭酸ガス排出量と中国の排出量はイコールなのですぜ。
しかも今後5年の中国の増加量だけで、日本の年間排出量に匹敵します。
つまり中国の炭酸ガス排出をなんとかしなければ、地球温暖化阻止もクソもないわけです。
やっとこのことに世界も気がついて、スウエーデンの環境少女が中国も批判するようになったのです。

この世界の炭酸ガス排出の最大の元凶を問題視することなく、「クリーンエネルギー技術の開発と展開を加速」を言うなら、脱炭素対策の小道具を世界でもっとも熱心に揃えている、中国を称賛することと同じです。
小は太陽光パネル、中は電気自動車から大は第3世代原発までなんでもござれ。

たとえばすでに中国は、電気自動車の保有台数と生産台数で世界トップを誇っています。

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【データから読み解く】世界各国のEV販売台数・保有台数と成長性|オンラインMBAなら『ビジネス・ブレークスルー大学大学院』 (ohmae.ac.jp)

「世界のEV保有台数(乗用車)を見てみます。世界全体では、2010年で1.7万台でしたが、そこから増加トレンドが徐々に加速し、20年には1020万台と1000万台を超える規模となりました。国・地域別のEV保有台数を見ると、20年時点では中国が最も多く451万台となっています。次いで欧州(316万台)、米国(178万台)と続きます。
EV保有台数で見ると、やはり人口規模の大きい中国がトップに来ることが分かります。
将来のEV保有台数はどの位の規模になっているか見てみます。ここでは乗用車に加え、バス、トラック、バン等を含めた保有台数の予測を見てみます。世界全体では、20年時点では約1460万台ですが、25年に5172万台、30年に約1億4500万台になると予想されています。2020年からの10年間で10倍近く増えることになります。
国・地域別で見ると、2030年時点では、中国が最も多く約5600万台、次いで欧州(約4200万台)、米国(約1600万台)、インド(約900万台)と続きます」
(『【データから読み解く】世界各国のEV販売台数・保有台数と成長性』)

ついでに再生可能エネルギーの世界シェアを見てみます。

「2019年の出荷量のシェアを国別に見てみると、1位は、中国で全世界出荷量の63%を占めた。2位はマレーシアだが、かなり距離を空けて、シェアは約20%だった」
(メガソーラービジネス)

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2019年の世界太陽電池市場、シェアトップ5社は? - 特集 - メガソーラービジネス : 日経BP (nikkeibp.co.jp)

このように中国は21世紀のビジネス・トレンドが、クリーンエネルギーにあると判断し、それを国策化し、世界トップの座を確保しました。
したがって、クリーンエネルギーに固執すればするほど、中国に強く依存することになります。
わかっていますか。、東京都の太陽光パネル義務化などと言っている小池さん。

ですから、中国に炭酸ガス排出問題を問わないでただ脱炭素化を唱えてしまっては、メイド・イン・チャイナの電気自動車と太陽光パネルをもっと買おうと言うに等しいのです。
自由主義陣営の貿易ルールを作ろうと言うのに(たぶん)、中国依存を強めてどうします。

最後の4つ目は、「反腐敗」ですが、ここでもまた習近平がやったことと言葉まで一緒ですか、と言いたくなります。

「我々は、インド太平洋地域における租税回避及び腐敗を抑制するために、既存の多国間の義務、基準、及び協定に沿った、効果的で強固な税制、マネーローンダリング防止、及び贈収賄防止制度を制定し、施行することにより、公正な経済を促進することにコミットする。これには、説明可能かつ透明性のある制度を促進するための知見の共有や能力構築支援等を模索することが含まれる」

租税回避を言うなら、まずはバイデンは自分の国のGAFAの大仕掛けの租税回避こそ問題にしたらどうなのです。
魁より始めよ、ですぞ、バイデン閣下。

このようにどれを見ても総論賛成・各論なにひとつ具体的に決まらず、になるのが見えています。
いや今はただのフレームだけだからと言うなら、各論に落とししてから空中分解するか、自然消滅するに決まっています。
だって、関税交渉なき経済圏構想なんてありえませんからね。
米国は、つまらないゴタクを並べていないで、さっさとTPPに復帰しなさい。

 

 

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ウクライナ全土で国旗掲げ「団結の日」、ロシアに対抗…「国民の気持ちは一つ」 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

ウクライナに平和と独立を

 

2022年6月 1日 (水)

中国、南太平洋取り込みに失敗

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ふー、危なかった。
南太平洋諸国が、分裂してくれたおかげで、首の皮一枚で南太平洋諸国が中国のあぎとから逃れたようです。

「中国が締結を目指していた太平洋島しょ国10カ国との貿易や安全保障など広範な合意を巡り、一部の国が中国案の具体的な項目に懸念を表明したことで署名が見送られたと、オーストラリアのABCニュースが報じた。
中国の銭波駐フィジー大使はABCに対し、王毅外相が来月4日に太平洋島しょ国歴訪を終えた後に中国は自国の立場を表明した文書を公表すると説明。王外相による今回の訪問は、南太平洋での影響力を巡り米国やオーストラリアとの主導権争いが激しくなっている兆候と見られていた。
ABCによると、銭大使は「われわれは常に友人と意見交換を続けている」とし、「他国に何かを押し付けることは決してしないというのも中国の方針だ」と述べた」
(ブルームバーク5月30日)
中国、太平洋島しょ国と貿易・安保合意に至らず-一部の国が懸念表明 - Bloomberg

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ブルームバーク

さて、この南太平洋地域は日本と深い関わりがあります。
ここはかつての日本の信託統治領である「南洋群島」でした。(下図青線)
少し説明しておきます。
よく「日本が占領した」と書かれたものを見かけますが、第1次大戦のドイツの敗戦処理を定めたベルサイユ条約によって国際連盟の委託統治国が日本に肩代わりしただけのことで、別に軍隊がドンパチやって軍事占領したわけではありません。
むしろ積極的に経営に乗り出し、教育インフラを作り、交通、情報、製造業インフラをシコシコ作りました。
台湾、朝鮮、南太平洋と、どこに行ってもうちの国のやることは同じ「国づくり型植民地」です。
日本からも新天地を求めて移民に出かけ、多くの日本人が産業に携わっています。
ちなみに沖縄からも多くの移民が出ています。

地域的には、赤道以北に散在するマリアナ・パラオ、カロリン、マーシャル群島などがその範囲ですが、戦後、これらの地域は米国に信託統治権が移り、「自由連合盟約」(COFA)という名称で米国の事実上の海外県となります。
この自由連合盟約とは、国家としては独立しながら、経済援助をもらう代わりに軍事権と外交権は米国が持つというものです。
ありていにいえば体のいい植民地ですが、形式的には独立国という体裁です。
なんとなく「民主的」に見えるでしょう。これが米国流です。

なお、お隣のソロモン諸島やフィジー諸島、サモア諸島などは英国の統治領です。(下図赤線)

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日本が戦った第一次世界大戦 ⑥ 南洋諸島の占領 (kaizenww1.com)

さて、話を現在に戻します。
中国は、この地域にことのほかご執着の様子です。
なぜならここを支配下におけば、オーストラリアは丸裸になるからです。

この地域は、米軍がフィリピンから撤退した後には広大な軍事的真空地帯となっていました。
サモアから西側には米海軍の力が及ばず、オーストラリア海軍がかろうじて守っている海域です。
そしてこのオーストラリアの弱い横腹こそが、かつてオーストラリアと米国の連絡を遮断しようとして軍を進めて自滅した旧日本軍の進撃ルートに当たります。

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http://murasaki-syoumeidan.com/solomon-guadalcanal/

青線が連合国の通商ルート、赤線が日本軍の遮断作戦ルートで、緑色で囲んだ円がソロモン諸島 黄色で囲んだ部分が有名なガダルカナル島です。
ガダルカナルが先の大戦の天王山となったのは、米国とオーストラリアの海上連絡線を断ち切る位置にあったからです。

地理的条件が変わらない以上、それは今も変わりません。
この海貿易ルートを切断されれば、オーストラリアは鉄鉱石や石炭を輸出できず、機械、自動車部品、原油などの輸入ができなくなります。
習にとって、この南太平洋諸国を取ることの意味は、単に台湾との国交を切断して孤立化させるだけにとどまらず、オーストラリアをも孤立化させ、中華共栄圏の東端としてしまう野望があるからです。

中国はこれら財政基盤が貧弱な南太平洋諸国に街金よろしくジャブジャブとカネを貸し付けていますが、いったん返済出来ないとなったらスリランカで起きたような借金のカタに港を百年租借し海軍基地を作り、南シナ海の要塞島とを結ぶ広大な太平洋海上権益圏を形成する気です。

その野望が見えたのが7年前のことでした。
豪ABCはこう報じています。

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「キリバス野党、滑走路計画への中国の関与について答え求める
ロイターによるこの報道が事実であれば、米国にとっては警鐘となる。この環礁は、ハワイの南西約3,000kmと、極めて戦略的な場所に位置するからだ。
キリバスの野党議員であるイングランド・イウタ氏は、カントン島で計画されている再開発の青写真を実際に見たとしているが、政府はまだ中国の関与を認めていないという。
一方で、イウタ議員によれば、カントン島をめぐって米国との間で交わされた長期合意はまだ有効であり、キリバスが波風を立てることはないだろうという。
「万が一、カントンが軍事利用できる形で改修されれば、おそらく米国の感情を逆撫ですることになるだろう」
「米国がカントン島をキリバスに引き渡した際の合意の基本条件では、第三国によって同地がいかなる軍事目的でも開発されないよう、明確に求めている」
(豪ABC2015年5月7日)
キリバス野党、滑走路計画への中国の関与について答え求める(2021年5月7日、ABC/PACNEWS) | 太平洋島嶼国事業-ブレーキングニュース | 笹川平和財団 - THE SASAKAWA PEACE FOUNDATION (spf.org)

また、中国の甘い誘いに乗ってしまう親中政権も現れました。
この地域でもっとも大きな島のフィジーです。
フィジーは台湾と断交し、中国に乗り換えました。

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日経

「2019年4月、マナセ・ソガバレが首相に再度就任した後、対外関係の全面見直しを表明。同年9月16日中華人民共和国と国交を樹立し、これまで国家承認していた台湾中華民国)と断交することを発表した。アメリカは、台湾との国交を継続するよう働きかけていたが裏切られた形となり、直後にマイク・ペンス副大統領がソガバレ首相との会談をキャンセルするなど大きなしこりを残すこととなった。
2021年11月24日、中国との関係強化や首相の公約が果たされていないことに不満を持つマライタ州の住民を中心とした住民により、マナセ・ソガバレ首相の退陣を求めるデモが発生。デモ隊は1000人以上に膨れ上がり、一部は国会に侵入しようとするなど混乱が広がったため、政府は首都ホニアラに外出禁止令を派出した。デモは翌25日にも発生して暴動に発展。中国人が経営する商店などが襲撃されて略奪・放火が行われた。混乱を受けて中国政府は重大な懸念を表明。オーストラリア政府は警察や軍人など66人を派遣することを決定した。
2021年12月23日、ソロモン諸島は暴動再発防止のため中国から警察関係者と装備品の受け入れに合意した」

ソロモン諸島 - Wikipedia

この反政府デモに際して、フィジーと安全保障条約を結ぶオーストラリアは、治安維持部隊を派遣しています。

「南太平洋のソロモン諸島でソガバレ首相の退陣を求めるデモの参加者が暴徒化し、首都ホニアラで放火や略奪が起きた。オーストラリアのメディアなどによると、中国寄りの外交方針への不満が背景にある。ソロモンと安全保障条約を結ぶ豪州は25日、要請を受け、治安維持のため100人以上の軍や警察の要員派遣を決めた」
(日経2019年11月26日)
ソロモン諸島で暴動、親中政権に反発 豪は治安要員派遣: 日本経済新聞 (nikkei.com)

これに懲りることないフィジーのソガバレ政権は、この親中路線をさらにこの地域全体に広げて、中国と安全保障条約を結んでしまおうというのですからあきれたものです。
当然、チャイナマネーの袖の下で頬を叩かれたのです。
オーストラリア前国防相のダットンはこう述べています。

「ソガバレ政権が中国から賄賂を受けたと思うかと聞かれたダットン国防相は、「誰もがそうだと推測している」と指摘。「中国は、我々と異なる方法でビジネスをする。中国はアフリカなどで確実に賄賂を活用するが、我々は賄賂ではなく、サポートを提供する。賄賂が通用するのなら我々は成果を得られない。ソロモン諸島の政治には、腐敗したカネが重要なファクターであるのは有名だ」と断罪してみせた。(略)
一つは、中国政府がソガバレ政権が保有する隠しファンドに出資すること。二つ目は、就任間もない議員を中国本土へのアゴ足付きの豪華接待旅行に招くことである。その際、中国側は日当の補助金まで支給して議員のポケットに入れる。この補助金額は、ソロモン諸島では家族を1年間養うのに十分な額だという」
(NNA2021年5月9日)
【オーストラリア】【有為転変】第174回 中国とソロモンの安保協定の裏側(下)(NNA) - Yahoo!ニュース

王毅は「我々は押しつけない」とキレイゴトを言っていますが、スリランカでは借金で首が回らなくして、港をとりあげて軍事拠点に変えてしまいました。
前述したキリバスのカントン島など、中国の甘言にのったら最後、気がついてみれば空港や港は百年間の租借地となり、中国軍機と空母の島になっていることでしょう。

今回は、ミクロネシアが根性を見せました。

「今回の会合は、米豪が長らく存在感を示してきた南太平洋で中国が影響力拡大を目指していることを示していた。バイデン政権が提唱するインド太平洋経済枠組み(IPEF)を巡っては、フィジーが太平洋島しょ国としては初めて参加国となった。ABCによると、ミクロネシアのパニュエロ大統領は南太平洋地域に関する中国の計画を批判し、新たな冷戦を招く恐れがあると警鐘を鳴らしていた」
(ブルームバーク前掲)

実は南太平洋島しょ国に中国が食い込むことができた背景には、オーストラリアや米国などの白人諸国は、常に上目線で関わってきたという背景があります。
その隙間に中国が、チャイナマネーを抱えて、現地の経済を買い占めんばかりの勢いで進出してきたわけです。
そしてたちまち街には中国文字の看板が溢れて、どどっと移民が押し寄せ現地化していきます。
そして気がつけば、資源からなにから根こそぎ持っていかれてしまいます。
そして今回のような、基地を作らせてくれ、軍港も欲しいというようなことが裏に見え隠れする安全保障協定を結ぶ段になって、初めてヤバイと気がつくわけです。

その点,日本はフランクでした。
かつての南洋群島時代も、教育は現地の人も含んで行われていましたし、残していった道路や生活インフラなどいまでも使われています。
日本は白人諸国より上から目線ではなく、中国ほどガツガツしておらず、長い時間かけていい関係を作りたい国だと思われています。
日本が戦後してきたのは、空港や漁港の整備といった民生部門ばかりで、当たり前ですが軍事的思惑などまったくありません。
その意味で、米豪と南太平洋島しょ国との間を取り持つ、いい立ち位置にいるのです。

中国の狙いは、一帯一路の南太平洋コースを作って、オーストラリアを米国や日本のザ・クアッド陣営から引き剥がし、孤立化させることでした。
今の中国経済には、かつての勢いが失せているのですが、今回もまだあきらめないと言っているので、引き続き警戒が必要です。

 

 

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