中国空母、いきなり電磁カタパルトだそうです
ロシアがポンコツ艦隊で日本をまわるっている頃、中国はよせばいいのに3隻めの空母を作ってしまったようです。
日本のメディアが大騒ぎしたので、見られた方も多いでしょう。
「【北京=三塚聖平】中国国営新華社通信によると、中国が上海市で建造していた3隻目の空母が17日に進水し、「福建」と命名された。国産空母としては2隻目。従来の中国空母より大型化し、艦載機の発艦能力を高める電磁式カタパルト(射出機)を備えている。
就役すれば、中国の空母は旧ソ連製を改修した「遼寧」(2012年就役)、初の国産「山東」(19年就役)と合わせた3隻態勢となる。習近平国家主席は「海洋強国」の掛け声の下、空母の整備を急いできた。習氏は、今秋の中国共産党大会で総書記として3期目入りを目指しており、海軍力増強を自らの成果としてアピールし、求心力を高める狙いとみられる。
新空母は原子力ではなく通常動力で稼働し、満載排水量は8万トン余り。従来の空母2隻は、艦首部分に傾斜をつけた甲板から艦載機を発進させるスキージャンプ式だったが、新空母は、リニアモーターの原理を応用した最新鋭の電磁式カタパルトを採用したと中国メディアが伝えている」(産経6月17日)
中国3隻目の空母「福建」が進水 - 産経ニュース (sankei.com)
【中国】「世界中に展開して存在示す」“3隻目の空母” - YouTube
早くもそそっかしいものは「実戦投入か」なんて書いていますが、わきゃないでしょう。
進水して、一般的に任務に耐える状態になるまで最低でも約3年はかかりますが、それは根本的トラブルがなくうまくいった場合です。
空母で最も重要な機能は、重たい航空機をあの短くて狭い甲板から打ち出して、またそれを回収することです。
ですから、空母技術のキモは、カタパルトと着艦制御索だといってもよいほどです。
隠れた最先端技術、米国の航空母艦のカタパルトによる発艦 | 実験とCAEとはかせ工房 (ezu-ken.com)
さてここで、なぜカタパルトが現代の空母に必須の装備なのか考えてみましょう。
カタパルトにこだわった中国の意図がわかります。
実はカタパルトとは、その空母の戦闘能力そのものです。
ホンモノの空母とニセモノの空母の離艦する様子を比較してみましょう。
まずはほんものの空母からです。これは米空母から離艦しようとするF/A-18です。
同上
空母から機体重量15トンあるF/A-18を、長さ100メートルのカタパルトから打ち出して、離陸速度である200㎞/hまで加速します。
しかも何にも乗せずにただ飛ばすだけだと遊覧船になってしまいますから、さまざまな増加燃料タンクや、爆弾、ミサイルなどを積載しますが、その武装等を含めると倍の約30トン以上に達します。
簡単に30トンと言いますが,大型ダンプの空虚重量が10トン、最大積載量が6.5トンとして16.5トンを2台大空に吹き飛ばすんですから、大変なもんです。
これを米空母は、短い時間で戦闘機2個飛行隊(40~48機)ほど、打ち出すことが可能です。
これは中規模国家の戦闘機保有総数に匹敵します。
一方、怪しげな空母を見てみましょう。
実は、遼寧が離発着訓練している様子を見てもなにも搭載しない写真ばかりなので、武装を積んであるものを探すのに苦労したほどですが、ありました、これは対空ミサイルをたぶん4発つけている珍しい写真です。
シューターという射出要員が、米海軍とお揃いのイエロージャケットに身を包み、ポーズまでそっくりなのはご愛嬌です。
あながち冗談ではなく、30年前の「トップガン」があまりに熱狂的に中国人に迎えられたのを見て、指導部までが空母が欲しい、なんとしてでもほしい、これがなくては超大国になれんのだぁ、と思ったのが初めのようです。
中国空母艦隊、J-15戦闘機がスキージャンプで発艦_中国網_日本語 (china.org.cn)
遼寧は中国自慢の砲艦外交のツールですから、散々にアジアや沖縄近海を周回して使い倒していますが、不思議なことにほとんどがスッポンポンです。
広大な海上を飛行するというのに、米海軍が必ず装備する増加燃料タンク(ひとつ上の写真の翼下の巨大なタンクがそれですが)一本すら搭載していません。
これでは使えるのは機内燃料だけですので、作戦距離が極端に短いはずですし、そもそも武装をぶら下げられない戦闘機を軍用機とは呼びません。
遼寧は本来艦載機が持つべき30トンの積載量を積めず、20トン台に制限しているようです。
艦載機のJ-15(殲15)の空虚重量は、ロシアの原型であるSu-33から推測して約18トンですから、おそらく10トン以下の武装しか搭載できないはずです。
これはスキージャンプ台方式で飛ばしているからで、カタパルトを積んでいないからです。
ですから米空母に比べて戦闘機の数は半分、しかも戦闘機が載せられるミサイルはわずか数発、重たい対艦ミサイルを積載している様子は見えません。
ちなみに、空自のF-2はこの対艦ミサイルを4発搭載する力持ちです。
したがって、米空母に比べるのは酷で、シークレットブーツを履かせても3分の1いくかいかないかていどで、日米海軍からは「標的艦遼寧」という可愛い愛称で呼ばれています。
もちろん中国も遼寧が「空母の形をしたなにものか」だということはわかっていますから、とりあえず練習艦ということにして、哨戒艇しか保有しないアジア諸国を恫喝するヤクザのドスのような使い方をしています。
ただ、日米海軍のプロにはまったく通用しませんから、このような扱いを受けています。
US NAVY
上写真は、中国空母遼寧の輪形陣を軽く破って、すぐ脇を航行する米国イージス艦マスティンです。
ブリッグス艦長(左)はのんびりして馬鹿にしきっていますが、実は遼寧の逆側には海自の艦艇も同じく輪形陣を破って並走していたようです。
日本護衛艦、中国空母と並走(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース
日米艦艇にはさまれるとは、なんたる恥とばかりに、この艦長と司令官は習近平同志の怒りを受けて即刻飛ばされたようですが、中国が待っていたのがこの新たに作る電磁カタパルト装備の通常型空母、その次の原子力空母(!)でした。
なんとこの3番目の空母は、ピカピカの電磁カタパルト(EMALS)がつくんですぜ。どうだ、まいったか、日米め。
こんな世界どの国も完成させていない技術を、いきなり事実上の最初の空母につけるのですから、エライといえば偉い、馬鹿といえば馬鹿。
下手をすると、カタパルトの付け替えで、そのままお蔵入りになるかもしれません。
実は電磁カタパルトは、現時点でカタパルトを世界唯一実用化している米海軍ですらモノにできていない技術なのです。
トランプなどはこの電磁カタパルトについて強く反対し、通常の蒸気カタパルトへの変更を要求していたほどです。
搭載した空母「ジェラルド・R・フォード」(米海軍の空母はほとんど大統領の名前です)の現場での評価はボトムで、止めてくれという将兵ばかりだそうです。
電磁式は作動が安定しないうえに、コストがかかりすぎる。電磁式を1隻作るカネで2隻の蒸気式空母ができるという、いかにもビジネスマンらしい指摘です。
「電磁式航空機発射システムは、異なる機種、任務によって異なる兵装を搭載した艦載機を、どれ位のパワーで、どの程度の加速率で、発射すれば機体にどの程度の負荷がかかるのかデータが不足しているため、未だに調整中で、システム自体の不具合も完全潰しきれておらず、未だに不具合の報告が上がってくる。
新型着艦制動装置は、従来の油圧式ではなく、電磁気と水圧でアレスティング・ワイヤーの制動を行うが、故障率が異常に高く、発艦効率を高められる「電磁式航空機発射システム」で、多くの艦載機を発艦させても、着艦させることが出来ない。
4日間連続で、故障をせず艦載機を着艦させられる可能性は0.001%で、1日間、故障をせず艦載機を着艦させられる可能性は0.2%以下と言われているほど信頼性が確立されていない」
(航空万能論2019年5月19日)
建造費1.4兆円!米海軍新型「フォード」級空母、カタパルトを「電磁式」から「蒸気式」に変更? (grandfleet.info)
つまり、電磁式カタパルトのシステムは、未だに完成した技術ではなく、様々な不具合がたくさん残っている実験段階を抜け切らないものなのです。
そのために、艦載機の発艦時の射出と、着艦時の制動に関するデータ収集が全く進まず、一時は修繕しようにもどこをどう直していいのさえわからなかったようです。
経験豊かな米海軍でさえ、「ジェラルド・R・フォード」が2017年5月に引き渡されてから、2020年2月にACT(航空機適合性試験)をパスするまで丸々3年間の紆余曲折を経たほどでした。
では、蒸気式カタパルトが簡単かといえば、これまた非常に微妙で精密な技術体系です。
空母から艦載機を射出する際、射出する機種、燃料、兵器の搭載量や、搭載位置、飛行甲板上の気温・風速などを細かく計算して、カタパルトに加える蒸気量を調整しています。
映画「トップガン」のようにカッコよくどんどんと射出できるのも、この精密な計算の上に一機、一機をオーダーメイドで蒸気量を決定しているからです。
これはまさにノウハウの塊で、米海軍が半世紀以上かけて積み上げてきた技術と経験の蓄積の上に成り立っています。
着艦時も同じで、着艦してくる機種、機体に残っている燃料の量、持ち帰った兵器量などを細かく計算して、アレスティング・ワイヤー(制動索)に掛かる油圧シリンダーの制動力を調整しています。
また、この蒸気カタパルトシステムを動かすには膨大な電源を要しますから、通常動力型空母では使用すること自体が難しいのです。
米国の空母がすべて原子力推進になった理由は、長距離航海ができるだけではなく、この蒸気カタパルトを動かすエネルギーが一般の動力源ではとりだせなからです。
先ほどの「ジェラルド・R・フォード」の発電能力は、19万キロワットの原子炉でまかなっています。
そもそも蒸気式カタパルトを米国は重要な軍事機密としていましたから、同盟国に渡すことすら拒んできました。
英国の空母クイーンエリザベスも、通常型であるために、重たいスキージャンプ台を艦首に備えてVSTOL(垂直・短距離離着陸機)のF-35を運用しています。
離艦するときは短距離離陸して、着陸は垂直離陸する方式でが、これは日本の軽空母(もとい、航空機搭型載護衛艦でしたっけね)「いずも」も似た形式になるはずです。
長々と説明しましたが、スクラップ再生した「遼寧」、どこに行ったか行方不明のままの「山東」しか作ったことがない中国が、たった3隻めで、いきなり人類未踏の電磁式カタパルト空母ですか、さすが中国、これぞ中国。
まぁいかなる手管を使ったのか知りませんが、とまれ進水したわけで、これから膨大な空母というシステムになじむまでうまくいって数年は十分にかかるはずです。
「私たちは生きたい!」ウクライナ人柔道家のビロディドがロシアの空爆に嘆き「信じられない」 | THE DIGEST (thedigestweb.com)
ウクライナに平和と独立を
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無理だ。
おそらく「なんでもいいから最新装備を付けろ」という要求だったんでしょうけど、スキージャンプ甲板にスホーイコピーから(それでも先日の訓練で300ソーティが確認できたのが驚きですが)、米軍の空母打撃群とはあまりにも違います。
その米軍でも砂漠で散々テストしてからでも空母「ジェラルド·フォード」で酷く苦労してます。
張子の虎ですね。
軍事技術と
投稿: 山形 | 2022年6月21日 (火) 09時55分
>まぁいかなる手管を使ったのか知りませんが、とまれ進水したわけで、これから膨大な空母というシステムになじむまでうまくいって数年は十分にかかるはずです。
ならず者国家は軍事の常識や定石よりも、狂った指導者の妄執やメンツの方が優先するということが、今回のウクライナ侵攻で痛いほど分かってしまったので…、
もしかしたら、一、二年で見切り発車で台湾侵攻に踏み切ったりなんかもあったり…したりして…
投稿: ねこねこ | 2022年6月21日 (火) 09時59分
軍事技術というのは宇宙開発と同じでたまに大きなブレークスルー(アポロ計画の巨大なサターンVエンジンとか)がありますけど、基本的に現場での旧い枯れた技術活用とと経験の積み上げ。
経験も無いのにいきなり「全部乗せ空母なんて無理な話」です。
シリア内戦に参戦したロシア空母は航空機落ちまくってましたね。
海自では元々対潜重視でしたけれども、英国から「ハリアー空中キャッチシステム」のような斬新なシステムを提案されましたけど···本国ですら捨ててるあんなもん使い物になるかーっ!と。で、DDGになりました。導入していれば事故続発して大きな責任問題になっていたでしょう。
現在、いずもとかがが軽空母化工事をしているのは、かつてのハリアーとは違ってパワーもセンサーも発展して超音速飛行が可能なF-35あってのものです。
投稿: 山形 | 2022年6月21日 (火) 10時10分
なるほど、蒸気式は蒸気式でめちゃくちゃ電気を使うから原子力空母は航続距離以外でも優位なんですね。
電磁式という厨二心をくすぐる名前と新しいものが優れているという単純な発想から電磁式が優れているものだと思っていましたが必ずしもそうではないと。
投稿: 中華三振 | 2022年6月21日 (火) 12時28分
香田洋二(准将)氏は、「仮に電磁式が技術的に問題なかったとしても、実践配備に5年はかかる」としています。
中国のねらいは「近海の軍事バランスが著しく崩れた」と誤認させるためのもので、早く言えば「大金を使ったプロパガンダ」の一種でしょう。
見得やハッタリがお好きな御国柄でもありますし。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年6月21日 (火) 18時58分
今更ですけど補足です。
蒸気式カタパルトも現在技術を有しているのはアメリカ海軍のみです。それこそ経験の蓄積と緻密な制御があってのこと。
元々開発したのは英国が先でしたけど、財政難とハリアー登場で通常型空母廃止に伴って70年代にロストテクノロジー化。
フランスも原子力空母シャルル・ド・ゴールを持ってますけど、アレのカタパルトは米国製です。
英国が途上国に売却したモノはどうなってるか知りませんけど、まあロクに訓練すらできず無用の長物になってるのは自明ですね。
投稿: 山形 | 2022年6月23日 (木) 07時42分