私の岸田氏支持率は6割です
思い起こせば、岸田氏の去年総裁選が終わっての第一声は、「分配なくして成長なし」でした。
その頃、岸田氏は「成長は大事だが分配も考えないと日本はおかしくなってしまう」と言っていたはずで、明らかな分配重視論者でした。
具体策としては、富裕層優遇につながっている金融所得への税率20%の引き上げを言い出した時には、間違いなく増税をやる気だなと思っていました。
ところが、この金融課税は頭を少し出しただけで、すぐに松野官房長官が、「成長と分配は車の両輪である」と修正してしまいました。
それ以降、政策のキャッチフレーズは当初の「分配と成長」ではなく、逆の「成長と分配」に変化してそのままです。
金融所得課税に至っては、そんな話ありましたっけね、という感じです。
これは考え方を変えたのか、それともただのカメレオンなのでしょうか。
よーわからんやつだ、これが私の岸田氏への感想でした。
では100日たった今、岸田氏はどう考えているのでしょうか。
政権の性格を理解するには、外交・防衛と金融・財政を見るのが近道です。
このうち外交に関しては、先日の日米首脳会談とザ・クアッド首脳会談がありました。
岸田氏は立派にホスト国を努め、意外とやるな、というのが私の正直な感想でした。
岸田首相、就任100日「息つく間もなく駆け抜けてきた」…夜には安倍元首相と会食 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)
※内閣閣議決定
2022_basicpolicies_ja.pdf (cao.go.jp)
財政・金融に関しては閣議決定がでたばかりです。
総花的で官僚の作文感が満喫できますが、おそらく首相自らが手を入れたのが冒頭の第2項 「短期と中長期の経済財政運営」の部分です。
誰が書いても一緒の総花的な包装紙の部分はざっと斜め読みし、肝である第2項を読むとありました、ありました。
ここに「財政健全化」だとか、「プライマリーバランス黒字目標」「富裕層増税」「分配重視」などが登場すれば、はい岸田さん、アウトです。
「今後とも、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を一体的に進める経済財政運営の枠組みを堅持し、民需主導の自律的な成長とデフレからの脱却に向け、経済状況等を注視し、躊躇なく機動的なマクロ経済運営を行っていく。日本銀行においては、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを期待する」
(P2)
一瞬ポカーンとしました。だってこれ安倍-菅政権の閣議決定だといわれても、そうですかと納得するほど同じだからです。
そして非常に重要な文言が、同じ項にさりげなく入っています。
「持続的な経済成長に向けて、官民連携による計画的な重点投資を推進する。これによる民間企業投資の喚起と継続的な所得上昇により成長力を高めつつ需要創出を促すとともに、今後の成長分野への労働移動を円滑に促す」
と、ここまでは投資を活発化させて、所得を上昇させるというオーソドックスなリフレ的経済運営を述べていますが、ここで問題になるのは「所得の上昇の方法」です。
分配重視論者は、国が最低賃金を上げるという短絡を取って、中小零細企業の経営にダメージを与えて、かえって失業.を増やしてしまいます。
そしてこの分配重視論が、財政健全化政策と組み合わされると、日本は永久デフレの凍土の下に冷凍されてしまうことでしょう。
まだ、岸田氏の実際の経済運営を見ていませんから、即断はできませんが、閣議決定にはこうあります。
「その際、危機に対する必要な財政支出は躊躇なく行い、万全を期す。経済あっての財政であり、順番を間違えてはならない。経済をしっかり立て直す。そして、財政健全化に向けて取り組む」
うひゃー、わざわざ「経済あっての財政であり、順番を間違えるな」とまで記しているのを見ると、ほんとうに岸田氏が書いたのか、と思いたくもなります。
だってこれは安倍氏の持論のままですから。
「デフレ脱却」のために「大胆な金融(緩和)政策」を実施し、大胆な財政出動をする、はいこれなんなんでしょうか。
もちろんアベノミクスですね。
岸田氏は「新しい資本主義」を掲げ、分配を前面にだしたので、おいおいやっぱり修正社会主義かよ、とゲンナリしていたのですが、これを読む限り安倍-菅政権の経済政策は続行されるということのようです。
そして懸念された「プライマリ・バランス黒字化目標」については、一切記されていません。
野村総合研究所はこのように好意的に評しています。
「「骨太の方針」と「新しい資本主義」の実行計画では、従来の政府の経済政策の修正が顕著にみられた。岸田政権は発足当初から「所得と成長の好循環」を掲げたが、実際には税制変更を通じて賃上げを促し、企業と労働者の労働分配を変えることを目指す所得再配分に比重がかけられた政策姿勢だった。また、岸田政権は、企業に対する賃上げ要請に加えて、短期的に収益拡大を目指す企業の姿勢に否定的であるなど、「企業に厳しい政権」と印象づけられた。
さらに、所得格差是正の観点から、株式市場の逆風となりえる金融所得課税制度の見直しも掲げていた。この点から、「株式市場に厳しい政権」との評価も固まっていたのである。
ところが、「骨太の方針」と「新しい資本主義」の実行計画では、より成長重視の姿勢が目立つ一方、「株式市場に厳しい政権」から「株式市場を味方につける政権」へと一気に方針転換した印象を与える。政策姿勢は大きく修正された」
「骨太の方針」と「新しい資本主義」の閣議決定:成長戦略の効果を損ねる財政健全化後退の懸念 | 2022年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)
ですから、安心して投資してください、これが野村総研のご託宣です。
従来、言われてきた岸田路線とされた社会民主主義的経済政策である、企業と労働者の所得分派率の変更、賃上げの企業への圧力、株式投資への課税強化、財政健全化といった要素はことごとく打ち消され、成長重視による好循環を重視するというリフレ政策に回帰しました。
プサイマリーバランスの25年までの黒字化の文言は消滅しました。
そのへんについてロイターはこう書いています。
「財政健全化を巡る指針では、安倍氏が年限を区切った財政目標の妥当性に疑念を示すなどしたことを踏まえ、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2025年度に黒字とする年次目標を明記しなかった。年次明記の見送りは新型コロナウイルスの感染が広がった20年以来2年ぶりとなる。
経済あっての財政を掲げて「現行の目標年度により、状況に応じたマクロ経済政策の選択肢がゆがめられてはならない」とする一方、与党に押し切られるかたちで「重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」との表現も加えた」
(ロイター6月7日)
焦点:崩れた「政高党低」、参院選後も歳出圧力 岸田政権初の骨太 | ロイター (reuters.com) 。
警戒していた私など鼻をつままれたような気分で、財務省や自民党増税派から「骨太どころか骨なしチキンだ」というありがたいお言葉まで頂戴したようです。
財務省に怒られるのは吉兆です。財務省にほめられでもしたらエライことです。
「一体、誰が総理なんだ!これでは「骨太」ではなく「骨抜きチキン」だ。財務省のある幹部は、安倍元総理の要求を次々に飲む総理の姿勢に、いらだちを隠しませんでした」
(TBS 6月7日)
岸田政権初の「骨太の方針」 防衛費増額「5年以内」を明記(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース
なるほどロイターもは暗に安倍氏が年限を切るな、と言ったことが無言の圧力となって、こうなったと書いています。
メディアはいままで「同志」だと信じていた岸田氏が安倍氏のようなことを言い出ししたのに失望してか、黒田日銀総裁バッシングに転じました。
なにがなんでも金融緩和を止めさせて、緊縮増税路線に転換させたいようです。
外交方針については日米共同生命がすでに下敷きであったので安心していましたが、改めて政府方針として文言化されました。
「1.国際環境の変化への対応
(1)外交・安全保障の強化
国際社会では、米中競争、国家間競争の時代に本格的に突入する中、ロシアがウクライナを侵略し、国際秩序の根幹を揺るがすとともに、インド太平洋地域においても、力による一方的な現状変更やその試みが生じており、安全保障環境は一層厳しさを増していることから、外交・安全保障双方の大幅な強化が求められている。
こうした中、同志国の集まりであるG7の政策協調が密接に行われるようになってきているとともに、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力も一層重要になってきている。また、NATO諸国においては、国防予算を対GDP比2%以上とする基準を満たすという誓約へのコミットメントを果たすための努力を加速することと防衛力強化について改めて合意がなされた。
我が国は、次期G7議長国として、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値に基づく国際秩序の維持・発展のための外交を積極的に展開する。ウクライナ侵略には経済制裁等により毅然と対応し、ウクライナ及び周辺国等への支援を強化する。
「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、日米同盟を基軸としつつ、豪印、ASEAN、欧州、太平洋島しょ国等の国・地域との協力を深化させ、日米豪印の取組等も活用するとともに、TICAD8を通じアフリカとの連携を強化する」
(P20~21)
おお、「同志国」ですか。微温的ムードの岸田さんの口から「同志」という言葉がでるとはねぇ。
文言どおりやってくれるなら、いままで散々あなたには悪態をついてきましたが、撤回しましょう。
そして例の防衛費増額についても「国防予算を対GDP比2%以上とする基準を満たすという誓約」を加速するとしています。
さてさて、お手並み拝見です。
裏舞台をン同じくロイターはこう書いています。
「首相が5月23日にバイデン米大統領との会談で防衛予算の増強を表明して以降、防衛費の書きぶりは焦点のひとつだった。
複数の政府関係者によると、同日から始まった各省協議では、防衛力について「抜本的に強化する」との表現にとどめ、目標達成の時期や具体的な予算額には触れていなかった。昨年までの「大幅に強化」からは踏み込んだ表現をたたき台としたものの、「具体的な道筋を示すべきとする与党の声に配慮せざるを得なかった」と、政府関係者の1人は経緯を振り返る。
骨太方針は予算編成の基礎となり、「具体的になるほど次年度以降の予算に反映されやすい」(別の関係者)。当初ベースの防衛予算がGDP比1%弱にとどまる日本の状況を考慮し、「毎年1兆円ずつ増やせば5年で倍増となる」と、与党関係者の1人は話す」
(ロイター前掲)
う~ん、1年ずつ1兆ずつ増やして5年で5兆、締めて10兆強か。
5年間になにも起きなければいいのですがね。
このように、気味がわるいほど安倍氏の影響力の強さがにじみ出た内容でした。
保守で名を馳せている和田政宗氏はこのように書いていましたが、いかがなものでしょうか。
「岸田内閣の直近の支持率は66%(日経・5月27日~29日調査)、自民党支持率は51%と極めて高い状態であるが、この数字から読み取れない部分をまずしっかりと分析しなくてはならない。それは何か。SNSの動向や全国各地での意見交換で感じるのは、安倍政権の国政選挙の際には必ず支えていた岩盤保守層約20%が今回そのまま自民党に投票するのかという点である。
岩盤保守層では、岸田政権の外交政策などを明確に支持しないと意見表明をする人が相次いでいる。20%のうち10%弱はすでに自民党支持をやめているとみられ、これらの方々は、参政党や新党くにもりに投票するか、投票に行かないという行動を取るとみられる。その数は、1人区の選挙区で3万人にも及ぶとみられ、「立憲共産」共闘候補と接戦の選挙区では自民党候補はかなり厳しい状況となる」
世論調査ではわからない岩盤保守層の自民党離れ|和田政宗 | Hanadaプラス (hanada-plus.jp) 。
和田さん、残念ですが、そうはならないと思いますよ。
岸田氏がほんとうはなにを考えているのかは正直わかりませんが、日米共同声明とこの閣議決定を読む限り、そうはならない気がしますが。
ロシア、ウクライナ東部で「大規模」攻撃準備 地元知事 AFPBB News
ウクライナに平和と独立を
« 岩屋元大臣の無能事件簿 | トップページ | メルケル外交敗北の弁明 »
岸田政権下のいつからかわからないのですが、官邸HPの記事全てに#カテゴリがついています。
これにより、例えば漠然として分かりにくく何もしていない、と批判されている政策について、この#〇〇をタップして出てくる会議や分野を政策別に見渡す事が誰にでも可能になります。
サイト内を「消費税 減税」などで検索もできます。日付け順にすると最新の政府見解を探せるように。カナや誤字でもひっかけてくれるGoogle検索を採用しているのも細かい配慮で好感です。
また、2014年からスマートニュース内に日本政府チャンネルを設置して、省庁発の一時情報にアクセスしやすくなっています。
中身まで精読し出すとキリがないですが、大手マスコミや岩盤保守向け論壇がアップする記事や動画の裏取りや切取り前の全文の確認、バイアス排除の材料に活用できます。役人の文章も随分読み易くなりましたね。
日付けを遡りながらこのセットを見出しだけでも見てからニュースチェックにいくと、確かに財務省は暗躍したり各省庁を押さえつけて爆進してなかったりはするんだろうけど、二転三転して安部路線に云々というより、前2政権が壁に開けた穴を広げる役目を担う自覚があるメンバーが岸田総理を担いで淡々と進めているように、私には見えています。
政治は結果ですので私も岸田政権への信任は60%、今朝の記事に同意見です。やれるかな、ではなく、国民の僕としてやる義務が彼にはあります。
政府広報からのエビデンスの発信によるメディアスクラム対策は、おそらく和田議員も安部政権時代に広報で取り組んでいたはずです。
自分達が水やりをし土を肥やした官邸HPを今、どのようにご自身が読み込まれポリシーを理解しているんでしょう。自分が居ない政府に興味が無いようにすら見えてしまいます。
岸田氏が何を考えているか。
自民党の世代交代期に若手に任せる事で将来的に自分が大御所の椅子に、欲のないヌエのような存在として座るビジョンはあるのかもしれないですね。
投稿: ふゆみ | 2022年6月10日 (金) 11時35分
骨太の方針の草案に関して、最後に高市政調会長に一任出来たのが大きかったと思います。それまではすったもんだのあげく、最後まで注釈のカタチで「プライマリーバランスもあり得る」ってな文言が残ってました。どうも岸田さん自身には色が着いてないようで、大事な事も党からあがる方針を後生大事にしている感じがあります。
でもありながら、核シェアリングについて議論もさせないなど、慎重居士にすぎてダイナミズムに欠けますね。
ということで、私の信任度は50%と言うところ。
参院選後に憲法審査会のワナをぶち壊して進めてくれるなら、今後70%には上がるでしょう。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年6月10日 (金) 17時00分
私にとっても期待していなかった分だけ、意外とやってくれている分野はある、との感じは確かにあります。
まあ5割寄りの6割くらいでしょうか(テキトー
アベガーさんたちは、やっぱり何としてでもアベを仕留めて再起不能にすれば他を黙らせられると思って、力が入るでしょうねぇ。
ただし、誰のことも信じ過ぎないでいないと、どの陣営側、誰の支持者であれ、近視眼的盲目的になってしまいますね。
国会答弁の「原発再稼働を進める」はテロ対策準備も含めて早く判断して進めてもらいたいですが、「リプレイスは考えない」そうなので、原子力技術を棄てる気であるところなど、節電要請とともに「投資してくれ」と相反する政策はどうするのさ、と考えます。
日経によれば、お隣韓国さんは原発回帰で次世代小型炉の開発に取り組むそうですけれど。
「政治家」「言葉」「原発」「プラスティック」エトセトラ、これらみんな、言ってみれば「道具」なわけですが、「道具」が進化すればその「使い手」は進化しなくていい、わけはないので、我々の方も適宜考えを改め進めたいです。
卑近な話だと、物価が上がるけれど給料も上がるという状況に近付けるには、我々の方も、何にでも誰にでも無闇に安さを求めるマインドから、「私が欲しかったコレをつくってくれる人、やって欲しいコレをやってくれる人の給料はどうなるの?」との視点も併せ持つことが、他人の足も自分の足も引っ張る機会を減らす助けになるでしょう。
勇気要りますけれど。
家庭や学校も含めて、お金の話をより健全にあけすけにできるといいと思うのです。
あ、お題からズレてきた、失礼致しました。
投稿: 宜野湾より | 2022年6月10日 (金) 18時25分