昔ベンツ、今空母
中国が8万トンもあるバカデカイ空母を進水させたので、大変だ大変だと騒ぐ人がいます。
それ自体は素直な心情ですから否定しませんが、どうぞ穏やかに穏やかに。テンションを上げすぎないように。
中国にとって、今回の「福建」を作った第1の目的は、日米やASEAN諸国に対する軍事的威嚇ですから、むやみに騒ぐと、軍事威嚇の効果があったという間違った錯覚をかの国に与えてしまうことになります。
ですから、クールに突き放して対応したほうが、中国には嫌なはずです。
かつて佐藤守空将が、中国海軍の要人と面談したときに、こう言ったそうです。
「空母という大きな標的をありがとう。じゃぶじゃぶカネを使って下さい。なにかの時はすぐに沈めて差し上げますから」
これは虚勢ではありません。
ルトワックは『ラストエンペラー・習近平』の中で、空母という艦種が意味を持つのは、唯一だだッ広い海洋だけだと言い切っています。
沿岸近くや島しょ近くでは、陸地の滑走路から飛ばしたほうがはるかに大量の燃料と武装を積むことができるですから、特に空母はいらないのです。
2020年に、トルコのエルドアンがイスラエル沖で勝手に海底油田を掘ろうとしたところ、イスラエルはにべもなく「やったら掘削船を沈める」と警告したそうです。
怒ったエルドアンは、「われわれには大海軍があるんだゾ。お前らなんかたちまちノミのように潰してやる」と逆ギレしたところ、かえってきたイスラエルの答え。
「きみらはなにもわかっていない。そんな沿岸近くの艦艇などただの標的艦にすぎない」。
おそらく、実際にやったら陸上から飛来したイスラエル空軍機によって、数時間でトルコ艦艇は海の藻屑となっていたろう、とルトワックは見ています。
これを身に沁みて理解したのは、オデーサ沖で沈められた巡洋艦「モスクワ」の経験を持つロシア海軍でしょう。
沿岸付近の艦艇ほどもろいものはないのです。
このように、巨大な空母は狭い台湾海峡で使えば、台湾沿岸からの対艦ミサイル攻撃でズタボロになり、東シナ海で使おうものなら、陸自の宮古警備隊の対艦ミサイルと那覇まで進出してきたF-2の餌食となるでしょう。
しかも、中国空母というはずしようがない大きな標的を襲うのは、頭上からだけではありません。
海自が世界に誇る12隻のそうりゅう型潜水艦が、熱烈歓迎するはずです。
ルトワックは、この海自潜水艦隊の12隻だけで、中国人民解放軍の艦艇を100隻ほど沈められるだろう、と言っています。
そもそも、中国海軍に空母が必要かどうか大変に疑わしいのです。
東シナ海や台湾海峡にさらに航空戦力が欲しいなら、今でも台湾、尖閣に近い位置に航空基地をじゅうぶんに持っています。
とくに路橋基地など、那覇より50㎞も近い位置にあります。
中国の防空識別圏(ADIZ):尖閣に向かってくる中国軍機とその発進基地 : 海国防衛ジャーナル (livedoor.jp)
「アラート機発進基地と尖閣諸島までの距離に着目すると、空軍の第8航空連隊・長興基地が687km、第85航空連隊・衢州基地が577kmと比較的近くにあります。
魚釣島まで最も近いのが、海軍航空隊が運用する寧波の路橋基地(Luqiao Airbase)で、370kmです。福州基地、福建水門基地も約400kmの距離で、アラート機の待機基地として候補に挙がっている模様です」
(海国防衛ジャーナル2013年11月26日)
では、グアムを狙って太平洋に進出しようとしても、入り口は何度も書いてきているように宮古海峡しかありません。
そしてここには宮古警備隊ががんばっているのです。
平時はともかく、有事にここを簡単に明け渡すことなどありえないはずです。
このように見てくると、中国は海軍力こそ超大国の証と思っているようですが、なにか深い勘違いをしているようです。
今のような中途半端な、戦力になるかならないかわからない空母など、鑑賞用オブジェにしかなりません。
観艦式に見栄えがするので、習近平の見栄心がくすぐられるだけのこと。
平時には空母の存在は、巨額の維持費と人件費を食い散らして、他の艦種の建造を圧迫し、艦隊のバランスを崩します。
元来、中国海軍は大変にバランスの悪いいびつな海軍なのです。
いってみれば超攻撃型海軍。
攻撃だけに偏って、守る方は苦手ですから、現代戦に必須の対潜水艦能力は劣り、機雷封鎖を打ち破る掃海能力にも乏しく、ひたすら弾道ミサイルを積む戦略原潜ばかりに比重が傾いた予算配分がされました。
このあたりは、潜水艦と機雷によって敗北した大戦の焼け跡から作られた海自と真逆です。
日本は対潜能力と機雷除去、防空に特化し、攻撃能力と戦力投射はほぼ持たないという、ある意味こちらもバランスが崩れた配分でした。
これもこれで問題は残るのですが、決定的に中国と異なるのは、日本は日米同盟が大前提になっており、米軍とワンセットで動いていることです。
なかでも海自は米海軍とまさに一体の存在です。
一方、中国は同盟国を持ちません。
あえていえばロシアですが、遠すぎる上に極東にはたいした海上戦力を持ちません。
気分としては、中国一国で自由主義陣営全部と戦っているつもりかもしれません。
ならば国際秩序の中で平和に暮らせばよいものを、中華帝国意識に駆られて中華圏を作ろうとするから紛争が絶えません。
海軍はこの中華圏づくりの先兵でした。
米国に負けない超大国になりたい一心で海軍建設をしたために、ひずみが出ました。
まさに政治的海軍です。
中国海軍は、常に政治のために海軍力を誇示するための道具にされました。
中国、初の強襲揚陸艦が就役 台湾上陸も想定し海軍力誇示か - 産経ニュース (sankei.com)
ですから本来、充実させるべき艦類がおろそかになります。
大型空母など二の次三の次なのです。
空母の本家米海軍ですら、大型空母をもてあましています。
「米海軍は最適な艦隊編成に係る検討を継続的に実施しており、その中で空母機動部隊保有について疑問が呈されている。その理由の第一は建造費や維持費が膨大であることである。
2017年に就役した最新鋭原子力空母フォードの建造費はニミッツ級の約2倍の約1兆4,000億円にのぼる。これは、「電磁式カタパルト」や新型着艦制動装置の開発費が予想よりも膨らんだためである。更には、搭載航空機であるF-35Cの1機の値段は100億円を超えるとされており、航空機を含む空母1隻の値段は優に2兆円を超す」
(ロイター2021年1月21日)
空母は生き残れるか−米原子力空母が震える日(2)【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】 | Reuters 。
「福建」と同じ電磁カタパルト式空母のジェラルド・フォード」は、建造費が1兆4千億円、航空機を入れれば2兆を超え、年間運用経費がざっと約350億円、人員が5千人となっています。
佐藤氏ではありませんが、中国さん、じゃんじゃん空母を作って海軍予算と人員を枯渇させて下さい。
本気でよい海軍を作りたかったら、対潜水艦能力を向上させた駆逐艦や、機雷を除去する掃海艇などを大量に作るべきです。
手薄な対潜哨戒機も必要です。
この対潜、対機雷分野で、中国海軍は日米に大きく水を開けられているのですから、ここから先に充実させるのが筋なはずですが、中国共産党の見栄でこういう馬鹿げた大型空母を作って悦に入っているのですから没了。
このように空母を軍事的合理性で持つのではなく、「超大国になったんだから空母のひとつも持たにゃあ」というような田舎の成金、昔ベンツ、今空母のようです。
一方、日本は軽空母を4隻くらい作り、それにステルス戦闘機を載せ、長射程の対艦ミサイルを装備させる予定で、いつもは4つの護衛艦隊にバラバラに配置して、対潜ヘリによる哨戒任務をさせています。
しかしいったん必要ならば、一定海域に集合させて、一気に通常型空母と変わらない航空戦力を形成する、という仕組みです。
このほうが大型空母を一隻作るより、はるかに柔軟性があって現実的なやり方なのです。
ルトワックは、このように述べています。
中国、南シナ海で最大規模の海上軍事パレード —— 空母「遼寧」、
「中国にとって究極にして最適な戦略とは次のようなものだ。
ひとつは中国が自国の領域として主張する『九段線』、もはくは『牛の舌』として知られる地図を引っ込めること。つまり南シナ海の領有権の主張を放棄することである。そしてもうひとつは空母の建造を直ちに中止することだ。この提言が最も正しい選択であることは、いまも変わらない」
(ルトワック前掲)
しかそれは習にとって「政治的に受け入れられないだろう。中国のメンツに大きなキズをつくるからだ」、とルトワックは言います。
中国は小国である時のほうがしたたかで強かったが、既に中国は「大国」それも「超大国」となってしまい退くことができないのだ、と。
「私の考えでは、習近平は『強大になるほど戦略的に弱くなる』という戦略の逆説(ストラテジック・パラドックス)にはまってしまったのである」
(ルトワック前掲)
中国さん、私たちは困らないのですから、見栄海軍をどんどんと作っていって下さい。
【ウクライナの女たち②】私はふるさとを2度失った チェルノブイリと紛争:朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)
ウクライナに平和と独立を
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ちょうどアルキメデスの大戦見た後なので、とても似たようなものを感じます。
海軍内で口酸っぱくして超大型戦艦(後の大和型)を造るべき!!!と叫ぶ一方、主人公は“こんなものあったら増長して戦争になる!!”という訳で苦労重ねながら奔走して戦艦案を潰して空母になりました、ですが結局戦艦があろうがなかろうが戦争は止められない、なので来るべき敗北のために大和は造られ、沈められ日本の心を折ることに成功しました、残念でした、という感じでどこも似た道は歩むのかもしれません。
投稿: Q州 | 2022年6月22日 (水) 08時07分
習近平が映り込んでいるコラみたいな画像って、コラですか?
それか式典の際の、バックスクリーンに映り込んだ船舶画像かな?
まだサクッと読んだだけですが、同盟関係を結んでくれる国がいてくれることがいかに大事なことなのか、、ほぼ孤立無援になってしまう中立という状態がどれほど恐ろしいことなのかがよくわかる記事内容です。
投稿: やもり | 2022年6月22日 (水) 08時51分
ツイッターで、今の空母に使用された電磁カタパルト技術は、米軍にとって最高機密であり、それが漏洩したのは日本からであると言う疑念が米軍内にある。日本のリニア技術者が中国に引き抜かれ、そこから技術が漏洩したと言う記事が上がっていました。これって事実なのでしょうか?確かにリニア技術は、日本が世界をリードしてはいると思いますが、そこと電磁カタパルト技術、本当にリンクしており、日本人の技術者が、中国の空母開発にに関与しているのでしょうか?本当にそうなら残念でなりません。
投稿: 一宮崎人 | 2022年6月22日 (水) 12時09分