ウクライナ戦争で潮目が変わった原発再稼働
今年の原発再稼働は絶望的と考えられていました。
今年の初めには、原発の再稼働は今年はゼロだぜ、ざまぁかんかん、と東京新聞は勝利宣言もどきの記事を載せていたことがあります。
そのタイトル名は「原発のない国に」ですから、どこかの政党機関紙みたい。
そこで、東京は今年「2022年は新たな再稼働原発「ゼロ」も 審査7原発10基は終了見通せず」と書いています。
「2021年9月以降、全国の原発で目立った動きは三つあった。
一つ目は、四国電力伊方3号機(愛媛県)が12月2日、2年ぶりに運転を再開した。2019年末に定期検査で停止後、20年1月に広島高裁が運転禁止の仮処分を決定。21年3月の異議審で同高裁が運転を認め、当初は10月に運転を再開する予定だったが、当直員の無断外出など違反が発覚して延期していた。
二つ目は、運転期間40年を超えた原発として初めて再稼働した関西電力美浜3号機(福井県)が10月23日に停止した。テロ対策施設の完成が期限に間に合わなかったためで、関電は施設完成後の22年10月に再稼働を計画している。
三つ目は、九州電力が運転開始から40年が近づく川内1、2号機(鹿児島県)について、運転延長を視野に特別点検を10月から始めた。鹿児島県の塩田康一知事は安全性を検証する県専門委員会の分科会(6人)に、原子力政策に批判的な委員を含む4人を加えて運転延長の可否を判断する。
今年は、原子力規制委員会の審査で新規制基準に適合した原発の新たな再稼働はゼロの可能性がある」
(東京2022年1月10日)
2022年は新たな再稼働原発「ゼロ」も 審査7原発10基は終了見通せず (tokyo-np.co.jp)
つまり、四国電力の伊方3号機は運転員の無断外出でダメ、関西電力の美浜3号機もテロ対策が不十分でダメ、九州電力の川内1・2号機も不透明だから、今年の再稼働できる原発はゼロなるぞ、というわけです。
東京
確かに規制委の新基準審査が続く7原発10基は、想定される地震や津波を巡る議論が難航していて、年内に審査終了が見込まれている原発はありませんでした。
規制委員会は初代の田中委員長時代から、脱原発的な色彩が強い機関ですから、簡単には動かさないでしょう、今年の夏と冬にはエライことになるぞ、と私はやや捨て鉢な気分でおりました。
しかし、それは国内だけのことでした。
実は、世界的に見れば、再び原子力見直しの機運は高まっていたのです。
ひとつは脱炭素をつきつめると、化石燃料を燃やす火力発電を否定せねばならず、これを否定してしまうと工業国家のエネルギーはLNGと気まぐれな再生可能エネルギー一本になってしまうことに、EUがはたと気がついたからです。(遅いよ)
「[1日 ロイター] - 欧州連合(EU)欧州委員会は、一部天然ガスと原子力エネルギーを「グリーン投資」に区分する提案をまとめた。1月にEUの「サステナブル・ファイナンス・タクソノミー」に関するルールを提案する見通しだ。
欧州委は、グリーン投資に区分される経済活動や環境面の要件をまとめた。
「科学的助言と現在の技術の進展、加盟国間で異なる移行面の試練を考慮し、天然ガスと原子力には、再生可能を主体とする将来に移行するための手段としての役割がある」と声明で述べた」
(共同2022年1月3日)
https://news.goo.ne.jp/article/reuters/world/reuters-20220103005.html
ここでEUは「原子力と天然ガスには再エネに移行する手段だ」と言っていますが、これはまだ2月24日から突如勃発したウクライナ戦争の前だから言えたことでした。
突如、始まったロシアのウクライナ侵略に対して、西側が協調して開始したのがSWIFT排除とロシア産原油・LNGの禁輸措置でした。
これで事実上、EUにはLNGは入らないか、入っても半減ということになりました。
何度も書いてきているように、EUはロシアに身も心も、エネルギーも捧げていました。
戦争勃発時で、LNGが45%がロシア産、石油が3分の1、石炭が半分ですから、ロシア制裁で禁輸と言っても、自分で自分の首を締めるセルフ制裁のようなもの。
当然、原油国際市場はぐんぐんと上昇し、バレル130ドルにも達しました。
同上
そして頼みのOPECからは早々と、もう増産できないからと引導を渡されてしまいました。
彼らからすれば、いままで脱炭素だ、化石燃料は人類の敵だ呼ばわりされてきましたから、原油価格の高止まりほど心地よい調べはないのです。
誰が増産するかよ、というOPECと一緒に、ニヤニヤと陰湿な笑いを漏らしていたのがロシアです。
「ロシアのノワク副首相は3月7日、欧米がロシア産原油の輸入を禁止すれば、「世界市場は壊滅的な打撃を受ける」、「予測もできないほどの原油高に見舞われる」とし、原油価格は1バレル 300ドルを超える水準に上昇するほか、ロシアからドイツに天然ガスを供給するパイプラインも閉鎖されると警告した」
(化学業界の話題3月9日)
ロシア産原油禁輸、米が追加制裁 即日発効 英は年内停止 - 化学業界の話題 (knak.jp)
これが先日書いた「プーチンの仕掛けた罠」です。
彼は経済制裁で来るなら、必ずエネルギーの取り合いになり、続くはずがないと読んでいたのです。
プーチンは、軍事的に西側が出るなら核兵器を持ち出して全面核戦争になるぞと脅し、経済制裁で来るなら石油とLNGが天井知らずの高値になってお前らのほうが先に経済破綻するゾ、と凄んで見せたのです。
ところが、西側にも逃げ道がひとつあったのです。
それが原子力です。
停止している原子力を動かせば、たちまち解決する、しかも炭素ゼロのポリシーとバッティグしない、これがEUが出した解決方法でした。
それを素早く察知したのが、われらが岸田氏でした。
岸田氏はこう述べています。
岸田首相、原発再稼働に意欲「原発を一基動かすことができれば、世界のLNG市場に年間100万トンを新たに供給する効果がある」 | Share News Japan (sn-jp.com)
「岸田文雄首相は26日夜、テレビ東京の番組で、物価高騰に対応する「緊急対策」の柱の一つであるエネルギーの安定供給について、「できるだけ可能な原子力発電所は動かしていきたい」と述べた。
安全性には配慮しつつ、国民に再稼働への理解を求めていく考えだ。
番組で首相は、ウクライナ情勢による原油高などで、エネルギー供給が不安定になっていることに触れ、電力の逼迫(ひっぱく)やガス料金の高止まりへの懸念を示した。そのうえで「原子力発電所を1基動かすことができれば、世界のLNG(液化天然ガス)市場の年間100万トン、新たに供給するという効果がある」と、再稼働の効果を強調した」
(朝日2022年4月7日)
岸田首相「できるだけ原発を動かしていきたい」 原油高への対応で:朝日新聞デジタル (asahi.com)
ついでに規制委員会についても迅速化を図るために改革する、と言い出しました。
「一方で、原発設備の安全面は独立性の高い原子力規制委員会が担っている。首相は「規制委の審査についても合理化、効率化を図りながら、審査体制も強化をしながら手続きをしっかり進めていき、どこまで再稼働ができるのかの追求をしていかなければならない」と語った」
(朝日前掲)
岸田氏はいまの国際情勢が、対露制裁と脱炭素にはさまれて、もはや原発を動かすしか選択肢がないまでに追い詰められていることが理解できたようです。
原発再稼働は、国内の野党とメディアの反対に目をとらわれている限り、少しも前進しませんからね。
これほど対露制裁と脱炭素、という錦の御旗を原発再稼働の大義に掲げやすい時期はないのです。
まったく岸田氏は、運がいいというか、原子力再び上げ潮の時期に当たったのです。
おめでとう、なんと運がいいやっちゃ。
これが、安倍政権ならばモリカケ桜がどーしたのこーしたの、学術会議の任命がすべったのころんだの、菅氏ならワクチンが遅れているからどうのこうの、オリンピックで日本は全滅、というメディアに阻まれて、まともな再稼働の議論すらできなかったことでしょう。
岸田氏のぬらりくらり、対決事案は地雷だから踏みません、石橋は渡る前に壊しておきます、という人生訓が生きた一瞬でした。(いかん、つい皮肉っぽくなる)
岸田氏の言うように、今なら日本が原発を再稼働すればLNGの需要が大きく減り、それはウクライナへの支援であると同時に脱炭素はグリーンだ、文句あっかなのです。
戦うウクライナの人々をダシに使うようで気が引けるのですが、そのとおり原発再稼働は対露制裁の決定打になるので、お許し下さい。
ではここで、今年に入ってからの再稼働状況を見ておきましょう。
東京新聞がいうように、ゼロどころか徐々に再稼働するか、その準備を前倒しする原発が増えています。
たとえば九州電力は今月、川内原発2号機については11日に原子炉を起動し、7月中旬には通常運転に復帰する、と発表しました。
「九州電力は、定期検査のためことし2月から運転を停止している薩摩川内市にある川内原子力発電所2号機について、今月11日に原子炉を起動して13日に発電を再開すると発表しました。
川内原子力発電所2号機はことし2月に運転を停止して定期検査に入り、燃料集合体のおよそ4分の1を取り替えたほか原子炉本体や非常用電源設備など110項目の検査が行われてきました。
九州電力が7日発表した再稼働のスケジュールによりますと、今月11日に原子炉を起動して作業が順調に進めば翌日の12日には核分裂反応が連続する「臨界」の状態になり、13日には発電と送電を再開するということです。
その後、来月中旬に通常運転に入る予定です」
(NHK 2022年6月7日 )
※九州電力プレスリリース
九州電力 川内原子力発電所2号機の発電再開予定をお知らせします (kyuden.co.jp)
また、関西電力も今月、美浜原発3号機の運転再開予定時期については当初の10月20日ではなく、8月12日に前倒しすると発表しています。
関電美浜3号機、運用再開8月に前倒し 夏の電力需給安定へ - イザ! (iza.ne.jp)
「関西電力は10日、テロ対策の「特定重大事故等対処施設」(特重施設)が未完成のため停止していた美浜原発3号機(福井県美浜町)の運用開始時期について、従来予定より2カ月早い8月12日に前倒しすると発表した。当初は10月20日としていたが特重施設の運用開始を早めた。営業運転再開は9月6日の予定。運転再開により、8月の電力需給が改善する見通しとなった。
関電によると、夏場の電力需給安定のために国からの要請もあり、特重施設の工事の効率化を図ることで前倒しを実現した。特重施設の運用開始時期も、従来の9月から7月下旬に前倒しする」
(産経2022年6月10日)
※関西電力プレスリリース
美浜発電所3号機の特定重大事故等対処施設の運用開始時期見直しおよび運転再開時期の変更について - コピー (kepco.co.jp)
こでこで関西電力が「国からの要請もあり」と言っていることにご注目ください。
たぶん相当に強い働きかけが、政府からあったはずです。
さらには、中国電力島根原発2号機をめぐっても、昨日、島根県の丸山達也知事が萩生田光一経産相と会談し、再稼働に同意したこと伝えました。
島根原発再稼働 知事「やむをえず」、経産相に同意伝達: 日本経済新聞 (nikkei.com)
「島根原発再稼働 知事「やむをえず」、経産相に同意伝達
島根県の丸山達也知事は15日、萩生田光一経済産業相と面会し、中国電力島根原発2号機の再稼働に同意したことを伝達した。丸山氏は「現状においてはやむをえない」と述べた。原子力災害が発生した際の円滑な避難のため、道路整備支援など7項目の要望書を手渡した。
萩生田氏は「要請はしっかり受け止める」と応じた。エネルギーの安定供給の確保や気候変動対策を進めるうえで「安全最優先で原子力を活用することが不可欠だ。立地自治体や周辺自治体の理解が得られるように取り組む」と話した」
(日経6月15日)
島根原発再稼働 知事「やむをえず」、経産相に同意伝達: 日本経済新聞 (nikkei.com)
この島根県丸山氏の決断は、ほかの首長にも大きな影響をあたえるでしょう。
設置首長たちが問われているのは、原発に対する一般論ではなく、自分の県で大停電を起こしていいのか、経済と生活を荒廃させてかまわないのか、この夏さえ乗り切れるのか、というギリギリの判断だからです。
このように見てくると、原発再稼働の潮目は確実に来ているのです。
岸田氏にがんばってもらうしかありません。
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コメント
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こちら東北電力管内。
女川(1号機は廃炉決定)は去年の秋には住民合意もできて村井宮城県知事もゴーサイン出してるんだけど、未だに動かす気配無しです。
今日から絶賛真夏日なんですけど。。
東電柏崎刈羽はなあ全7基だと世界最大なんですけど···監視カメラの故障放置とかあまりにも杜撰な項目で多くの不備が見つかったので、なかなか「よし!早く動かそう!」ってわけにはいかないようです。
投稿: 山形 | 2022年6月18日 (土) 06時05分
柏崎については再稼働できるんでしょうか?テロ対策の不備などで遅れているようですが今すぐという訳にはいかないのでしょうか。柏崎が稼働できるかできないかは首都圏にとっても大きいのではないかと思います。
投稿: sin | 2022年6月18日 (土) 09時26分
東電は柏崎への対応がどれくらい出来るのか、この人員移転が上手く機能してくれると良いのですが。
https://www.asahi.com/articles/ASQ3Z7TGNQ3ZUOHB00F.html
投稿: ふゆみ | 2022年6月18日 (土) 17時40分