なぜ岸田氏なら騙せる、と韓国は思うのか
岸田氏は外交が得意分野だと自認していますが、実はそれも危ういのです。
それは岸田氏の対韓国対応を見ると、実態が透けて見えてきます。
今でこそ、岸田氏は韓国に関しては固い姿勢をとっていますが、ユン・ソギョル政権発足を韓国保守の復権ととらえたのかどうなのか、岸田氏はひどく前のめりになっていた時期があります。
この背景には、岸田氏がバイデンからいっかなお呼びがかからない、就任して3カ月たってもバイデンに会えない、こんな扱いを受けた首相はオレだけだ、そんな焦りがあったようです。
岸田首相、保守派の離反懸念 政権基盤安定へ判断―世界遺産:時事ドットコム
この動揺を韓国に突かれました。
安倍-菅政権下では対韓姿勢はビクリともしなかったが、岸田なら崩せる、そう韓国に思わせてしまいました。
対韓融和の宏池会ならば、落としどころを言い出してくるに違いない、そう思われたのでしょうね。
期待に答えたのかどうか、今年1月20日、岸田政権は佐渡の世界遺産登録の推薦取り消しを言い出しました。
その理由は、韓国が反対するからだそうです。
「政府は19日、文化庁の文化審議会が世界文化遺産の国内推薦候補に選んだ「 佐渡の金山」について、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)への推薦を見送る方向で調整に入った。韓国の反発などで、2023年のユネスコ世界遺産委員会で登録される見通しが立たないと判断した。来週にも正式に決定する」
(読売2022年1月20日)
ムン・ジェイン政権が、イタチの最後屁よろしく佐渡金山の世界遺産登録に反対してくることなど初めからわかりきったことだったはずで、黙って見過ごしたらムンちゃん熱があるんじゃないの、とかえって心配するところだったはずです。
特に驚くことでもありませんから、それが政策変更の理由になどなるはずがありませんし、してはいけなかったわけです。
岸田氏に推薦取り消しを進言したのは、例によって外務省だったようです。
「外務省からは、韓国が3月に大統領選を控え、佐渡金山を「日本たたき」に利用する懸念が伝えられた。ウクライナ危機を抱える米国は日韓間の対立が深まることを憂慮しているとの見立てもあった。「簡単には通らないな」「今年やるのが良いのかどうか」。そんな慎重な思いが広がっていた」
(NHK 2022年1月20日)
外務省は、自分たちの米国に対する訪米工作の失敗を、無関係な韓国問題にすり替えました。
外務省は、ウクライナでバイデン政権がピリピリしている時期に、こんなつまらない「憂慮」をしていたのかと、げんなりします。
この時期に最優先すべきは、佐渡金山の登録を引っ込めて韓国に融和し、これが米国への得点だと考えることなのか、それともロシアに明確な外交シグナルを送って戦争をさせないことに腐心していた米国と協調することなのか、どちらなのか考える必要もないことです。
訪米の手土産に、米国が欲しているはずの日米韓三カ国連携をしっかり作っておかねば、バイデンに顔向けできないとでも思ったのでしょうか。
むしろこんな韓国に融和することこそが米国を安堵させて覚えめでたい、と考えてしまうという、いかにも宏池会的心理構造こそが二重に危険です。
ひとつは米国に対して過剰なへり下りです。
米国を持ち出されるとひたすら追随せねばと反応してしまうのですから、これではいつまでたっても日米同盟の片務性は解消されるはずもありません。
ウクライナ支援を決め、対ロシア制裁連合に加わったことは大変によかったことですが、これも対米配慮の一環だと考えると艶消しです。
そしてこの根深い対米従属根性を韓国に刺激されると、一も二もなく今度は韓国にも屈してしまいます。
主権国家としての意地も誇りもあったもんじゃありません。
鈴置高史氏はこのように述べています。
「親米派の尹錫悦政権の発足を機に、米国は米韓日の3国軍事協力の強化を目論む。日本が韓国に冷たいままだと米国に怒られるぞ――というプロパガンダを日本で展開しました。
外務省のコリア・スクールや一部の韓国専門家も、韓国の宣伝に和して「このままだと米国に怒られる!」と言って走り回りました。「韓国のQuad加盟を邪魔すると、日米関係が悪化する」という人も登場しました。
神戸大学大学院の木村幹教授は日経新聞に寄稿した「米国の関与、重要な要素に 韓国大統領選と日韓関係」(3月23日)で以下のように主張しました。
日本はこれまで日米豪印の協力枠組み「Quad(クアッド)」の拡大による韓国参加に消極的な姿勢をみせてきた。それが大きな批判を浴びなかったのは、文政権下の韓国が積極的な意思を示さなかったからだ。だが仮に新政権が「クアッドプラス」への参加を表明した場合、日本が阻もうとすれば、生まれるのは日米間のあつれきだ。
この認識は現実と180度異なります。米国こそが韓国のQuad参加を明確に拒否したのです。3月19日、国務省スポークスマンはVOAを通じ「Quad参加国を増やす計画はない」と表明しました」
(鈴置高史6月23日デイリー新潮)
尹錫悦はなぜ「キシダ・フミオ」を舐めるのか 「宏池会なら騙せる」と小躍りする中韓(デイリー新潮)6月23日
鈴置氏の指摘どおり、忖度された当の米国はザ・クアッドに韓国を参加させることなど考えてもおらず、むしろ態度を不鮮明にしている韓国に対して不信感を持っていました。
その韓国に今度は日本が進んで譲歩してしまう事件が、遺産登録のわずか3カ月後に起きます。
4月26日、岸田氏はユン政権の性格をろくに確かめもしないにもかかわらず、韓国が寄こした韓国政策協議代表団と面談し、こんなことを不用意に発言してしまいました。
「岸田文雄首相は26日、首相官邸で韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領が日本に派遣した政策協議代表団と面会した。「国際秩序が脅かされている情勢で日韓関係の改善は待ったなしだ」と述べた。
会談は25分ほどで、代表団は尹氏の首相への親書を手渡した。首相は「日韓、日米韓の戦略的連携がこれほど必要なときはない」と指摘した。代表団は「日韓関係を重視しており、関係改善に向け協力したい」と答えた。
首相は元徴用工の問題を挙げ「1965年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の基盤に基づき関係を発展させていく必要がある」と語った。「そのためには日韓間の懸案の解決が必要だ」と強調した」
(日経4月26日)
首相「日韓関係改善待ったなし」 次期政権代表団と面会: 日本経済新聞 (nikkei.com)
まさに佐渡金山の二番煎じです。
「日韓関係の解決は待ったなし」だそうです。馬鹿ですか。
岸田首相に韓国次期大統領の親書伝達 | 聯合ニュース (yna.co.kr)
いかにも日本人的感性全開の「いい人」キャラらしい言葉です。
遠方の客は手厚くもてなす、後先なく展望も見えないうちから、相手が喜びそうな外交辞令を進呈してしまう、とは。
ご町内ならそれもいいでしょうが、国交断然に等しい韓国相手に、政権が変わったくらいでなにが「待ったなし」でしょうか。
ちょっと待って岸田さん、待ったなしどころか大いに待って結構、いっそうのこと「改善」なんぞしなくても結構なのです。
これで韓国は、外堀を埋めたと勘違いします。
ユンの寄こした派遣団ごとき外交レベルに対して、こうも前のめりの友好のシグナルを送ってしまえば、韓国がどう思うか、ちっとは考えればわかりそうなものです。
こんな台詞は相手がこれまでの日韓関係悪化の責任を認めて謝罪する気になった時に、初めて小出しに出せばいいのです。
外交関係は等価交換の世界です。
相手が1出せば1、2出せば2出せばいいのです。
しかもいままで、慰安婦合意廃棄、自称徴用工訴訟、レーダー照射、GSOMIA廃棄と、一体何回うちの国はつばを吐きかけられ、殴られっぱなしだったことか。
だから、これら積もり積もった愚行に対する真摯な反省なき友好などは、絶対にありえないことです。
したがって日韓二国間関係の修復など、現時点では不要です。
不要どころか、してはいけません。
すればかならず、韓国は日本を自国有利に導くトラップを仕掛けてくるからです。
それが読めてしまうのが、この派遣団からわずか1カ月後に起きたユン政権の竹島における測量船の活動でした。
「これで韓国は「少々強引なことをしてもキシダは後戻りできない。何せ、日韓関係改善を公約したのだから」と考えた。そして、尹錫悦政権は韓国の海洋調査船を5月9―12日と5月28―30日の2回に亘り竹島周辺の日本のEEZ(排他的経済水域)に送り、活動させたのです。
日本の外務省は1回目に関しては、日本政府の問い合わせに対し韓国政府が「調査は実施していない」と答えたので抗議しなかったと説明しました」
(鈴置前掲)
たった一カ月でもうこのありさまです。なにが友好ですか、なにが関係修復でしょうか。笑わせます。
問題は、むしろ日本政府の対応です。韓国に厳重に抗議するどころか、外務省はもみ消しを図りました。
これは極めつきに問題視されるべき対応です。
なぜなら、実力行使におよばなくても、韓国の須藤な行為に対して「抗議をした」という事実を残すことで、日本が望んでいる国際司法裁判所でこちら側に有利な証拠になりえるからです。
現に、2006年に韓国が竹島に測量船を出した時には、巡視船を出して対応しています。
「平成18年7月、今度は韓国の海洋調査船が海洋調査をしながら、竹島周辺の我が国EEZ内に進入してきました。我が国は外交ルートを通じて中止要求及び抗議を行うとともに、現場海域においても、巡視船「だいせん」から韓国海洋調査船に対して「我が国EEZ内での我が国の同意のない海洋調査は認められない」旨伝え、中止要求を行いました。これに対して、韓国の警備艦が海洋調査船と「だいせん」の間に割り込むなどの行為を取りました」
海上保安レポート 2007年版 / TOPICS 1. 竹島周辺海域における日韓両国による海洋調査 (mlit.go.jp)
それが岸田政権になれば抗議すらしないでは、韓国の不当な行為を是認したも同然です。
これがいかに外交的損失か、岸田氏と林外相はわかっているのでしょうか。
「韓国は将来、竹島の帰属が国際司法裁判所で争われた際に「日本も韓国の領有を認めた」証拠として使うつもりでしょう。「韓国が周辺海域で調査を実施した時、日本の外相は韓国の大統領と会っていたが抗議しなかった」と言えるのですから。
「抗議しなかった」ことを日本政府が隠すと見込んで、それを利用する作戦でもあったと思われます。韓国は「抗議しなかったとばらすぞ」と岸田首相や林外相を脅す材料を確保したのです」
(鈴置前掲)
つまりは、岸田氏は韓国から舐められているのです。
ちなみに、「無限謝罪」のために訪韓した鳩山氏が、こんなことを言って岸田氏を称賛しておりました。
「鳩山元首相は、岸田首相のことを「安倍元首相、菅前首相とは異なる進歩的なリーダーだ」と強調して、日韓関係の改善に対する期待感を示した。また、林外相についても「韓国に対して開放的な性向だ」と述べている」(羽田真代6月24日)
鳩山元首相が韓国のテレビで「日本政府の非礼」をお詫び、発言の中身とは | News&Analysis | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)
すんばらしい、でもハトさんに褒められると政治家失格、いや人間失格ですが。
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コメント
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竹島周辺の海洋調査について韓国側は日本政府の抗議に対し、最初はしらばっくれ、二度目の抗議には開き直って「問題ない」としています。こうしたやり方は尹錫悦になっても何ら変わってません。
変わったのは日本政府の方で、行動対行動の原則を忘れ、雰囲気にのって浮かれたところを足を掬われたのです。
これまで何十回となく同じ手で騙されていながら、それでも懲りない面々が岸田周辺には多すぎます。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年6月25日 (土) 07時55分
まあ中央のお役所の人間にとっては、日本がどうなろうが他人事ですからね…自分でも何言ってるか分からなくなる文言ですが…
投稿: ねこねこ | 2022年6月25日 (土) 09時44分