シュレーダーは、パンをくれた人の歌を歌った
ドイツエネルギー大手ウニパーが経営破綻しました。
やるもやったり、1兆2700億の資金注入を政府に依頼しています。
「ドイツのエネルギー大手ウニパーは、最大90億ユーロ(1兆2700億円)の公的支援について政府と協議している。事情に詳しい関係者が明らかにした。
事情を知る関係者2人によると、政府は融資や株式取得などの組み合わせを検討しているほか、コスト上昇分の一部を顧客に転嫁することも視野に入れている。
財務省とウニパーはコメントを控えた。ドイツでロシア産ガスの大口購入企業の一社であるウニパーは先週、流動性確保に向け政府と協議中だと発表していた。4日の株式市場で同社株は28%安で取引を終えた。
ドイツ政府はまた、苦境にあるエネルギー企業への政府による資本注入や株式取得を可能にする法案を準備していると、関係者2人が語った。この法案はガス価格上昇によるコストをより多く顧客に転嫁することも認めている。同法案は今週、内閣が承認する見通しだという」
(ブルームバーク7月5日)
独ウニパー、最大90億ユーロの公的支援で政府と交渉中-関係者 - Bloomberg
ブルームバーグ
しかもウニパーの経営破綻は、国境を超えてフィンランドにも連鎖する可能性が出てきました。
「ドイツでロシア産ガスの最大の買い手であるウニパーは、流動性確保のため政府保証付き融資の増額または政府による出資の可能性を交渉していると明らかにした。ウニパーの危機的な状況は、同社の親会社フォータムの過半数株主であるフィンランド政府にも影響を及ぼす恐れがある」
(ブルームバーク 6月30日)
ドイツ、エネルギー大手に公的支援検討-ロシアガス巡る混乱収拾図る - Bloomberg
原因は、ロシア産天然ガスの輸入縮小による価格高騰です。
ヨーロッパ、特にドイツの電源会社は、ロシア産天然ガスの供給削減分を割高なスポット市場での調達で埋めざるを得ず、損失は加速度がついて膨らんでいます。
ロンドンのシティのアナリストの試算によれば、ウニパーはこの埋め合わせのコストが1日当たり約3000万ユーロ(約42億6000万円)に上っているようです。
ところで、このようなドイツのエネルギー政策の失敗の元凶はメルケルのように言われていますが、実は社会民主党政権の首相であったゲアハルト・シュレーダーが作った路線を完成したにすぎません。
シュレーダーは、初めはまだ弱かったプーチンを育て、やがて立場は逆転して、いまや従僕のようになっていきます。
ロシア大企業役員にドイツ・フランスの元首相 プーチン政権の意図は:朝日新聞デジタル (asahi.com)
[ベルリン 24日 ロイター] - ドイツのシュレーダー元首相について、ロシア企業とのつながりを巡り批判の声が出ている。
シュレーダー氏はロシア国営石油大手ロスネフチの取締役で、ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」の建設を担当する企業の株主委員会の会長も務めている。
ただ、ロシアのウクライナ侵攻を受けて一部の国内政治家からはこうした役職を退くべきだとの声が出ている」
(ロイター6月25日)
シュレーダー元独首相、ロシア企業とのつながりで批判 | Reuters
ドイツの元首相でありながら、ロシアの国営大手製油会社ロスネフチの役員であり、かつ、ロシア産原油を自分の国に引っ張り込むノルドストリーム2の建設会社のトップですから、シャレになりません。
現職ではないにせよ、かつて首相まで勤め上げた政治家がここまで深くロシア産原油と関わって、その利権の上にアグラをかいていたのですから、批判を受けても当然です。
このような腐敗と指弾されてもいたしかたない利権が野逃され見逃されてきたのは、ひとえにEUの女帝として君臨したメルケルがシュレーダーが敷いたロシア産エネルギー依存をそのまま踏襲したからにすぎません。
しかしいまや、シュレーダーは議会内の事務所を使う特権を剥奪され、今後ますます糾弾の矢面に立たされるでしょうが、糾弾する立場に回ったのが、社会民主党政権の後輩らだというのも、皮肉です。
「ドイツ連邦議会(下院)の予算委員会は19日、シュレーダー元首相から議会内の事務所を使用する権利を剝奪すると決めた。シュレーダー氏はロシアのプーチン大統領と親しく、ウクライナ侵攻後もロシアの複数のエネルギー企業幹部にとどまったままで、国内外で批判が高まっていた」
(日経5月20日)
シュレーダー氏の特権剝奪 親ロシアの独元首相に批判: 日本経済新聞 (nikkei.com)
ロシアにとって最大の輸出品であり、国家戦略の大黒柱はいうまでもなく原油と天然ガスですが、その中心に位置するのがこのロスネフチでした。
ロスネフチは、年間売り上げが800億ドルを超える超巨大石油企業で、ロシアのトップ企業です。
イーゴリセーチン(ロシア元副首相)の経歴!ロスネフチ会長で対米の鍵? | Woder Bridge (wonderbridge.net)
ロスネフチは典型的な国策会社で、プーチンがトップ最高経営責任者(CEO)に据えたのが腹心のイゴーリ・セーチンでした。
セーチンはプーチンと同じKGB派閥に属し、最側近として大統領府副長官時代に辣腕を振るったとされています。
セーチンは、プーチンと同じレニングラード大学出身で一貫してプーチンを陰で支えた人物としていわゆるシロピッキ(KGB人脈)を代表する人物です。
「経歴上、治安機関での勤務経験は認められないものの、一部報道(2003年7月14日付"Коммерсант-Власть"誌、2003年12月1日付"Власть"誌等)ではKGB出身者とされ、大統領補佐官のヴィクトル・イワノフと共に、プーチン政権におけるシロヴィキの総帥と自他共に任じられる存在である。
プーチン政権による新興財閥(オリガルヒ)抑圧、特にユコス事件では、セーチンが中心的存在であったとされる」
イーゴリ・セーチン - Wikipedia
【詳しく】ウクライナ情勢 鍵握る「オリガルヒ」とは?石川一洋解説委員 - NHK NEWS おはよう日本 - NHK
このようなエネルギー利権を欧州各国のトップに配って、主従関係でからめ捕ってしまうのが、プーチンのやり口でした。
「ロスネフチの取締役には、オーストリアのクナイスル元外相も昨年6月に就任した。クナイスル氏は18年にオーストリアで結婚式を開いた際、プーチン氏がドイツのメルケル前首相との会談へ向かう途中に出席し、一緒にダンスを踊ったことでも知られる。
昨年12月には、フランスのフィヨン元首相がロシア最大の石油化学会社「シブール」の取締役になった」
(川口マーン恵美5月27日)
「プーチンのしもべ」に堕ちた独元首相、“ロシア依存の罪”で特権剥奪の残念な末路(川口 マーン 惠美) |
また、メルケルもその路線を引き継ぎ、脱原発に向けてまい進し、まさに頭の先までズッポリとロシアのエネルギーに漬かる構造を作ってしまいました。
下図はG7各国のロシアへのエネルギー依存度をみたものですが、ドイツがロシアに強く依存しているのがわかります。
脱ロシアのエネルギー未来図~アメリカは救世主になれるのか~ | NHK | ビジネス特集
メルケルが進めたのが、このシュレーダーが役員を勤めるロシア産原油を、これまた彼が役員をするノルドストリーム2で運ぶという出来すぎた癒着ぶりでした。
アンゲラ・メルケル首相徹底解剖! - 第8代ドイツ連邦共和国首相 - ドイツ生活情報満載!ドイツニュースダイジェスト (newsdigest.de)
同時にメルケルは、シュレーダーが作ったロシア産エネルギーへの強依存構造に加えて、緊縮財政路線も受け継ぎました。
おかげでベルリン市内の道までデコボコ、ドイツ連邦軍は骨眼きにされてしまいました。
そしてさらには、緑の党の看板であった脱原発までも吸収して、磐石な政治基盤を作ります。
ここからはご承知のとおり、太陽光パネルや風力などを推進し、脱炭素という理由で石炭火力発電も大幅削減する流れになります。
とうぜんのこととして 電気料金は高騰しました。
下のグラフは、主要先進国の電気料金(全体平均)の推移を比較したものです。
資源エネルギー庁
「ドイツの電気料金は、主要先進国の中でもっとも高い水準で推移しているのがわかります。ドイツでは1990年代からすでに価格水準が高かったのですが、近年では突出して高くなっています」
日本の電気料金は先進国の平均レベル、ドイツやイタリアよりも安い:電力供給サービス - スマートジャパン (itmedia.co.jp)
このようにドイツは主要国で群を抜いて高い電気料金であり、ドイツ企業は高い電力代金を避けるために、安価なロシア産天然ガスによる自家発電を進めて凌いだわけです。
このため、ドイツのロシア産ガス消費の6割は産業用であり、今回のロシア産の制裁は、むしろ家庭より製造業を直撃しました。
かくて、シュナイダーとメルケルが敷いた脱原発路線は、その前提であったロシアから安価なガスの安定供給が途絶えた瞬間に破綻してしまったのです。
シュナイダーは強い批判を受けてもシラっとして「この30年間はうまくやってきた」とうそぶいていますが、本来この30年間の時間は高効率の石炭火力発電技術の開発に当てるべきでした。
ドイツは石炭の大量産出国であり、日本と違っていまもなお炭鉱は維持されているからです。
ですから、いったん石炭火力の高効率か成功すれば、ロシア産原油・天然ガスにこれほどまでに依存する必要はなかったのです。
かくしてシュレーダーは、ドイツの諺でいう「パンをくれた人の歌を歌った」男とドイツ国内で揶揄されているようです。
世界の難民・避難民 初の1億人超 ウクライナ侵攻で急増 UNHCR | NHK | ウクライナ情勢
ウクライナに平和と独立を
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ふむ。当時ドイツはマルク高に苦しんでいて、<br /> ソ連崩壊後に経済がメタメタだったロシアの資源に目を付けて美味しくエネルギーを調達できると思って接近したものの、強かなプーチンに絡め取られた人ですね。
そして後継者が東出身の社会主義的エリートのアンゲラババァ!ユーロ統合で空前の好景気を謳歌。あっちは去年という本当に良いタイミングで退任しました。<br /> 先日ようやくロシア非難声明を出しましたけど、時既にお寿司。
投稿: 山形 | 2022年7月 7日 (木) 00時57分