NATOマドリッド宣言 ロシア・中国を敵国認定
気持ちを切り換えて、更新を再開いたします。
脳と身体が別世界で回転していましたので、まだなんか調子が戻りませんが、ボケている暇はありません。
さて、世界史的回転が行われました。
NATOがマドリッド宣言を発しました。この意味するものは、メディアの解説のようにウクライナ支援と北欧2カ国の加入などという単独のパーツで見るとわかりません。
これは端的にいえば、第2次冷戦の開始宣言であって、最低でも以後十数年の期間を決定する分水嶺となるものです。
よくヨーロッパはウクライナ支援疲れを起こしている、関心も薄れた、支援も限界だ、などとしたり顔で言う者が絶えませんが、それはプーチンに勝ってほしいという願望の現れにすぎないことが、このマドリッド宣言で明らかになりました。
また、この宣言は「ウクライナ戦争後」も睨んだものであることを、念頭に入れて下さい。
ウクライナ戦争がどのような結果になるか予断を許しませんが、どちらが勝つにせよ、戦争が膠着し均衡状態が長期化してからが和平交渉の出番となります。
いずれにせよ、ウクライナは天文学的復興資金が必要です。
破壊され尽くした多くの街、橋、水道・電気などの生活インフラ、学校、病院などすべての面での膨大な支援が必要です。
ロシアは負けても賠償金は1ドルたりとも出さないはずですから、それは自由主義陣営の仕事になります。
ある意味、欧米や日本の真の出番はここからです。
非常にイヤな言い方で、亡くなられた多くのウクライナの方々には申し訳ない気がしますが、自由主義経済においてはこれはとりもなおさず巨大な商機なのです。
おそらく、かつての大戦後のヨーロッパの戦後復興に並ぶ規模の復興支援ビジネスとなるでしょう。
これをどうしていくのか、そこまで含んだ上での「新冷戦宣言」です。
要約すれば、6月29日のNATO首脳宣言(マドリッド宣言の内容は、以下です。
①戦略概念の文書で、ロシアを「最大かつ直接の脅威」として敵国認定。
②中国を「政治的、経済的、軍事的に国際秩序を破壊しようとしている」として準敵国認定。
③アジア・太平洋諸国との連携を深める。
④ロシアの脅威に対抗するため東欧でのNATO即応部隊 (NRF)を、現状の7.5倍の30万人に大幅増強する。
⑤ウクライナ軍の新鋭化などの支援強化。
⑥フィンランドとスウェーデンの加盟を認める。
北欧2カ国の加盟は、すでに決まっていたことで、トルコの妨害で遅れていたものです。
別に記事にしようかとも思いますが、トルコはNATO加盟問題とはなんの関係もないクルド族活動家を北欧二カ国が匿っているから引き渡せと横車を押し、まんまとせしめていきました。
GSOMIAを止めてやるぅ、と叫んで米国を引き込んで、日本の妥協を迫ろうとした極東某国と同じやり口です。
東西両陣営を秤にかけ、ロシアに貸しを作って、うまいこと立ち回ろうとする卑しさがたまりません。
ああ、なんて下劣。
とまれ、これでフィンランド湾に21世紀版鉄のカーテンが静々と降りたことになります。
以後、ロシアは、従来のNATO諸国と接する国境に加えて、約1300キロという長大なフィランド国境が加わることになりました。
しかも、NATOはこの対ロシアの抑えとして東欧に、即応部隊(NRF)を30万人置くことを決定しました。
いざという時即参上!NATO高度即応統合任務部隊にポーランド軍着任 | おたくま経済新聞 (otakuma.net)
NRF部隊とは、有事即応部隊のことで、NATO加盟国が共同で部隊を拠出しています。
「NATO加盟国が共同で組織するNATO即応部隊(NRF)のうち、より機動的に対応するため2014年に創設されたのが高度即応統合任務部隊(Very High Readiness Joint Task Force)です。その内容は、5000名程度の将兵で構成される旅団規模の陸上部隊となっており、事態発生から48~72時間以内に展開できる即応体制にあります。
高度即応統合任務部隊の任期は1年で、NATO加盟国間で持ち回りとなっています。2019年の担当だったドイツに代わり、ポーランドが2020年の任務を引き継ぎました」
(おたくま新聞2020年1月17日)
この旅団規模の即応部隊を、一気に本格的部隊編成の30万人規模とし、ポーランドに米軍司令部を置きます。
ただし、幹事国がポーランドの次はトルコなのでどうなることやら。
英国など、腕まくりして、腕をブンブン振り回しているようです。
参謀総長が、「もう一度ヨーロッパで戦う」と吠えています。
「6月に着任した英陸軍のパトリック・サンダース参謀総長は着任早々、イギリスは「もう一度ヨーロッパで戦う」準備をしなければならないと警告した。ロシアの脅威がウクライナを越え、欧州が再び戦場と化すシナリオを示唆した、衝撃的なメッセージだ。
英BBCは6月19日、「イギリス陸軍の新トップが部隊に檄(げき)を飛ばす ロシアとの戦場での対峙に備えなければならないと発言」と報じた。
サンダース氏はウクライナ情勢を念頭に、「イギリスを護り、地上戦に参戦し勝利する準備を整えなければならない」のは明らかであり、英陸軍は同盟国とともに「ロシアを打ち負かすことができる軍隊を編成することが急務である」と指摘した」
(青葉やまと7月2日)
ロシアの軍隊を地上から消し去る…英国の陸軍トップが"直接対決"を公言するワケ(プレジデントオンライン) - Yahoo!ニュース
かくてプーチンは4日で終わる気軽なお仕置き気分で始めた「特別軍事作戦」によって、全ヨーロッパを敵に回してしまうことになりました。
味方は、ベラルーシくらいなもの。
バイデンは、これを「欧州全域のNATO化」という言い方をしています。
「プーチンは欧州の『フィンランド化(中立化)』をもくろんでいました。結果、彼が得んとしているものは、欧州の『NATO化』というありさまです。彼が絶対に望んでいなかったことですが、欧州の安全保障には不可欠なものです」
(青葉前掲)
ロシアは、ウクライナに兵力の大半を突っ込んでいるのに、それに加えていまや全欧を敵に回わさねばならなくなったわけです。
プーチンは、ウクライナのNATO加盟阻止がお題目だったはずなのに、真逆な結果を引き出してしまったのですから、悪いことはできませんね。
対応して軍拡をしたくとも兵力は出払っており、軍需産業は崩壊の淵にあえいでいます。
今はルーブルで払っていますからいいようなものを、やがて制裁によってロシアの国家財政そのものが破綻するかもしれません。
ウクライナ侵攻軍は、兵員はおろか将校すら不足しているようで、将校は事務職も引っこ抜き、兵隊は囚人まで投入していると伝えられています。
「ウクライナ東部で支配域を広げるロシア軍だが、このところまた厳しい状況が聞かれるようになった。
テレグラフ紙は6月23日、「ロシア将校らはこのところ、主に講師と教官、そして料理担当をかき集め、前線部隊を編成することを余儀なくされている」と報じている。兵士不足の解消を図るべく、国内の軽犯罪の囚人に恩赦を与え、戦地へ移送する案も浮上しているという」
(青葉前掲)
東部戦線になけなしの火砲や兵員を集中的に注いで、一時的優勢を得たものの、兵員や火砲、食糧、医療、休養など総合的兵站がどこまで持つか拝見しましょう。
ところで、このマドリッド宣言で注目すべきは、イェンス・ストルテンベルグ事務総長のこの発言です。
ちなみにストルテンベルクは、新規に加盟が決まった北欧2カ国と国境を接するノルウェイの元首相で、ノルウェイ労働党穏健派に属しています。
つまり氏素性はレッキとした社会民主主義者ですが、日本で「頑固に平和。9条の力で平和実現」なんてわけのわからないことを言っているリベラル政党らとは違ってしっかりと現実の世界に立脚しています。
彼はNATOは「戦略概念」において、明確にロシアを敵国措定したのだ、と言っています。
「NATOのストルテンベルグ事務総長は首脳会議に先立つ27日、新たな戦略概念では、ロシアを「われわれの安全保障に対する最も重大かつ直接的な脅威」と位置づけることを明らかにした。2010年に採択された現行の戦略概念ではロシアについて、「真の戦略的パートナーシップを求める」と記していた。
ストルテンベルグ氏はまた、新戦略概念には中国対策を初めて盛り込み、「中国がわれわれの安全保障、利益、価値観にもたらす挑戦に言及する」と語った。中国の軍事的台頭に対する懸念が強まったのは10年以降で、現行の戦略概念では触れられていなかった」
(産経6月28日)
NATO、露中対抗へ「変革」の首脳会議 - 産経ニュース (sankei.com)
いままでのNATOは「敵国」が存在しない、という奇妙な軍事同盟でしたので、ルトワックから加入しただけで安心してしまう偽薬呼ばわりされたほどです。
従来は「戦略的パートナーシップ」(2010年戦略概念)を求めるという姿勢でプーチンを甘やかし続け、その4年後のクリミア侵攻を招いてしまったにもかかわらず、わずかの制裁で済ましてしまい、戦略概念は変更されませんでした。
そしてその間、NATOは戦えない烏合の衆と化していました。
それがもっともよく現れたのが、ドイツ連邦軍の惨状でした。
「飛べない飛行機、動かない艦船、足りない戦闘車両など、ドイツ軍はこれまで数多くの「嘲笑」を受けてきた。
これらの問題は、主にスペアパーツ不足が原因と言われているが、それなら予算を増やして、スペアパーツを購入すれば問題が解決するのかといえば、そこまで単純な話ではなく、ドイツ軍という組織が、もはや機能不全を起こして問題を悪化させている可能性が高い。(略)
ドイツの政治家(主に与党、ドイツキリスト教民主同盟の政治家たち)は、軍の正常化のために予算を増やすどころか、どうやって予算を削るかに知恵を絞っている。
これまでもドイツは頑なに防衛費の引き上げを拒んできた。ドイツは経済的に恵まれ、NATOを中心とした安全保障政策を行っているにも関わらず、NATOが定めた防衛費の基準(GDP比2.0%)を守ろうとしないため、NATO加盟国からの批判も大きい」
(エクスプレス2019年8月16日)
ドイツ軍のショック:国会議員は「戦後の時代は終わった」として巨額の軍事投資を呼びかけ|ワールド|ニュース|Express.co.uk
このメルケルが蒔いたドイツ流平和ボケは、軍の最高指導部にまで及び、ウクライナ戦争が始まってもなおプーチンを讃える海軍司令官が出たり、政府も政府でウクライナ支援は枕(実際はヘルメットだったようですが)という、日本のリベラルといい勝負の現実浮遊ぶりでした。
ゼレンスキーからボロッカスに言われ、キーウ来訪も拒否されて、世界から嘲笑の的となり,NATOがロシアを敵国認定したことでやっと眼が覚めて、いまは真人間に更生しようとしていますが、どうなりますか。
ちなみに、軍拡を宣言したドイツの政権は社民党と緑の党の連立政権ですから、皮肉なものです。
とまれ、こうして歴史的鉄のカーテンが降りたのでした。
※中国の部分はあまりに長いので明日に分割しました。
ウクライナの子ども、半数超の430万人が避難生活 ユニセフ発表 [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)
ウクライナに平和と独立を
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絶賛戦闘中にもかかわらず2000ページものウクライナ復興計画案が提出されたとか。
これがリアルなヨーロッパ人の思考なんでしょうね。日本はどんな支援ができるか···。
国内は参院選挙中ですが、立民とか現実離れしまくってて「庶民目線」とか言う割に具体案無し。党内もバラバラ。軍事予算増に反対なのは朝日新聞のコピーそのもの。国の道筋が見えないです。
第二次世界大戦真っ最中の1942年に、ようやくナチスが守勢になったばかりの頃に、英国では「ブラバゾン委員会」なんてのがありましてね、戦後の民間航空をリードしようと画策しました。彼らはそういうことを平気でやります。
5つの素案が採用され戦後間もなく実用化されたんですけど···ジェット移行期だったこともありヴィッーカース·バイカウントがどうにか当たりで、世界初のジェット民間機(当初は郵便機計画)コメットなんか大惨事になりました。事故原因解明と対策をしてるうちに工業力で圧倒的に勝るアメリカ勢が各種特許含めて遥かに先に行ってしまいましたと。まあ航空小噺になっちゃいましたけど、彼らの思考は日本人の「報国!」とかやってた社会心理とは全く違うって事です。
投稿: 山形 | 2022年7月 4日 (月) 06時45分
「ゼレンスキー疲れ」などと、あたかも西側支援体制に翳りが見えるかのような報道はかなり違和感がありました。
ここに来てNATOは強化され、ロシア寄りの第一党が崩壊したドラギ伊政権をはじめ、ショルツもマクロンもかつてない結束を示しているのが事実でしょう。背景には中国への幻滅を飛び越え、国際秩序を脅かす中・露の合作、との認識で一致した事が大きかった。
ウクライナ復興資金についても、各国が押さえているオリガルヒの財産やロシアの膨大な外貨準備資金を充てるべく法的建付けを検討中です。米・加はすでに国会で審議中で、そうなれば押さえている他の国々も続くでしょう。これで80兆と言われるウクライナの損失額の半分強を埋める事が可能です。
日本のサハリン2利権をロシアのものにするそうですが、それならそれで好都合です。遠慮なく日本のロシア資産をウクライナに引き渡してやれば良い。
また、今後、ロシアの戦争犯罪は詳らかにされ、法的責任を負う立場に立たされる事も必定です。
西側はもうロシアの弱体化を目標に、「「対話を通じて」の解決策はない」と切り替えています。
細々とした目先の東部での戦況拡張にロシアは力をそがれ、勝ち目はますます遠のきつつあると見て良いと思います。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年7月 4日 (月) 19時04分
> この宣言は「ウクライナ戦争後」も睨んだものである
こういうスキームの組み方を、利害対立しながらも進められるのが欧州の強みだと思います。ドイツやNATOの一員としてのトルコも含めて。
足並みに注力しすぎて境界の番人役をお役御免にしても、黒海で著しく不利になる訳で。
中国に対しても紛争が起きた場合、同じような形で道筋を組もうとすると思います。
米主導であってもアジア唯一のG7国でNATOオブザーバーとして日本がこういう輪にリアルに入って発言していけるように、そうやってアジア的にスキームをアレンジする責務があると考えます。
ただ、メディアや識者一群の反米キャンペーンは今以上になるはずで、私達は「国際社会への期待の持ち方」をブラッシュアップすべきだと感じています。
理想へもたれかかりすぎていた過去と絶望的に西欧のエゴを否定する反動のどちらでもない、ニヒリズムやリアリズム礼賛とも違う、何十年単位のネゴシエイト・長期の交渉に堪える体力と胆力を自覚することが国際化だと私は捉えています。
スッキリ潔くはないのでお国柄には中々合わないのですが、商社マンなどはその権化である意味尊敬しています。
明日の中国編も楽しみにしております。
投稿: ふゆみ | 2022年7月 5日 (火) 00時04分