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2022年8月12日 (金)

中国、渡海侵攻から海上封鎖にシフトか

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米国は、中国が台湾に対して渡海攻撃をしかけるのではなく、海上封鎖を狙う方針に転換したのではないかと見ているようです。

「米国の歴代大統領の軍事顧問を務め、戦略研究家としても知られるジャック・キーン米陸軍退役大将は8月4日、ワシントンの大手研究機関「ヘリテージ財団」が開いた「台湾の将来」というシンポジウムで注目される発言をした。
中国人民解放軍が台湾を攻略する作戦を年来の海上上陸から封鎖へと変えてきたようだ、と言うのである。そうなると戦争と威圧との区別が難しくなり、日本にとっても重大事態である台湾有事の意味も異なってくる」
(古森義久8月10日『中国の台湾攻略方法、「上陸」から「封鎖」に方針転換か』)

中国の台湾攻略方法、「上陸」から「封鎖」に方針転換か 大規模軍事演習では海上輸送路、空路を実際に封鎖 JBpress

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米退役陸軍大将が、アメリカによる戦争の悪影響を警告 - Pars Today

キーン大将は、この前段でペロシ訪問台湾について、巷間言われるように米軍が反対してはいなかったとあっさり言っていますが、それは省きます。
反対するもしないも、米軍はペロシの乗った政府専用機をビッチリと戦闘機で取り囲み、海上には空母打撃群が並走していたのですから、やることはキッチリやっています。

むしろ大事なことは、このジャック・キーン退役大将の見立てでは、中国が台湾侵攻手段を従来のノルマンディ上陸作戦のようなDデイ型上陸作戦を放棄し、海上封鎖にシフトしたのではないかという見立てです。

キーン元大将はこう述べています。

「・中国人民解放軍は最近、習近平国家主席の指令により、年来の大量の陸海空軍が台湾海峡を渡って台湾に上陸する作戦から、台湾を空と海で包囲し封鎖して台湾側を屈服させる封鎖作戦への切り替えを始めたようだ。
・この封鎖作戦は、中国側が今回、米国議会のペロシ下院議長の台湾訪問に抗議するとして始めた大軍事演習ですでに実際に示された。同演習は台湾を囲む6カ所の空海域での実弾発射などにより、台湾への通常の海上輸送路や空路を遮断した。
・習近平主席は中国首脳としては毛沢東主席以来、対外的に最も攻勢的な人物であり、台湾に対しても、台湾首脳部を奇襲により一気に抹殺する「斬首作戦」も考慮してきた。
だが最近の中国側の戦術研究では、Dデイ型の水陸両用の大規模上陸作戦は中国側の犠牲も巨大だと推定され、台湾の封鎖や隔離により、軍事だけでなく経済面での屈服を目指すことが効率的だという判断が、政治の最高レベルでも採択されたとみられる」
(古森前掲)

このような敵前上陸から海上封鎖へのシフトは大いに考えられます。
かねてから私は、中国軍による渡海作戦は物理的に不可能だと考えてきました。
表面的には、台湾と中国との戦力比は、大人と子供ほどもあります。202104_china_taiwan_2897x1024

政経電論

ただしこの戦力比がモノをいうのは、場所と時を選びます。
想定戦場は広大な中国大陸の平原大陸であり、かつ、現況では大陸全体の軍区に広く薄く分散している中国軍を一カ所に集結でき(それ自体大変ですが)、台湾軍と真正面からぶつかる会戦型戦闘に限定されます。
はっきりいえば、そのようなあつらえたような戦争は、台湾軍が大陸に上陸でもしない限り起きようがありません。

実際には、中国軍が対戦しているベトナムではジャングル戦を強いられて惨敗し、インドとはヒマラヤ高原で棒で殴り合いを演じる始末です。
台湾とは、中台間に広がる幅130~180kmの台湾海峡をなんとかして渡海して、やっと台湾にたどり着けるわけです。
ですから、中国がいくら戦車が5600台あるぞなんて威張ってみても、では台湾にどうやって運ぶんでしょうか、方法をみつけて来て下さいね、というお話です。

なにかといえば中国軍は上陸演習をして見せますが、元自衛隊関係者がボソっと「まだあんな幼稚なことやってんだ」と苦笑したレベルだそうです。

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台湾への上陸作戦を想定か 中国軍が演習公開 - ライブドアニュース (livedoor.com)

台湾を攻略するためには、おそらく100万人規模の侵攻軍が必要だろうと、小川和久氏は見ています。
それも1っカ月かけて、のんびりと100万人を送り込むのではなく、有効な戦力とするには、一時に集中的に100万人を送り込まねばなりません。

「中国側には台湾海峡上空で航空優勢(制空権)をとる能力がなく、1度に100万人規模の上陸部隊が必要な台湾への上陸侵攻作戦についても、輸送する船舶が決定的に不足しており、1度に1万人しか出せないのです。そしてなによりも、データ中継用の人工衛星などの軍事インフラが未整備のままなのです」
(NEWSを疑え!第995号(2021年10月11日特別号)

ではもう少し詳細に、中国軍の渡海能力を調べてみましょう。
第一波を送り込むのが強襲揚陸艦ですが、中国はこれを大小37隻保有していますが、これに乗せることができる兵員数は最大で1600名です。
それを40隻保有するとして約6万人程度ですが、実際は大きな戦闘車両も共に乗せますので、兵員はその3分の2以下の数のはずです。
075型強襲揚陸艦 - Wikipedia

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南海艦隊に同時就役した艦艇3隻を専門家が解説 (2)--人民網日本語

「中国の人民解放軍海軍は今年4月、初の強襲揚陸艦となる075型(推定排水量3万6000~4万トン)を就役させた。同型艦の建造を急ピッチで進めており、上陸作戦能力の向上を図っている。
ただ、米国防総省の20年の年次報告書によると、中国軍の揚陸艦は19年時点で計37隻。台湾の国防安全研究院の今年7月の論考は、強襲揚陸艦を含む中国の揚陸艦隊による「第1波」の輸送能力は約4万人で、「台湾の厳密な防衛(態勢)に対しては、まだ不足している」と分析している」

このように見てくると、中国海軍を使った渡海能力はこのようになると推測されます。

●中国海軍の強襲揚陸艦による輸送能力
・揚陸艦艇の総数                                   ・・・約370隻
・うち大型艦艇(大体満載排水量500トン以上・・・約70隻
・これによる輸送可能兵員数                      ・・・約2万数千人

固く見積もって、2万人プラスアルファていどであろうと推測できます。
こんな数では話になりませんので、恥も外聞もなく、民間のフェリーや漁船を徴発して兵隊を詰め込むしかなくなります。
実際に中国は民用船舶動員準備法、民用船舶動員計画が制定して、徴用可能な民間船には、その積載量や船主などをきちんと政府に届け出るよう義務付け、動員できる船の能力とリストを平時から把握するようにしています。
こうした制度作りの甲斐あって、中国の船舶徴用体制は充実していると言われています。

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上の写真は民間の1556トンのフェリーを改造して車両ランプをつけて26トンの水陸両用装甲車両ZTD-05の運用に対応できるよう改造したものですが、これで一度に運べる戦闘車両はせいぜいが数台にすぎません。
またこのような民間船が投入されるのは、第一波が橋頭堡を築いた後に本隊を送り込む段階に達してからのことで、真っ先駆けて、中国軍が漁船で乗り込んだら大笑いです。
実際に国共内戦時には、台湾領に押し寄せた共産軍はすべて漁船に乗っていました。

「中国軍が台湾侵攻時の海軍の揚陸艦の数量不足を補うため、民間の大型船舶を活用する方策を計画している。軍事演習では実際に活用され、数十隻単位で存在が確認されている。こうした民間船は砲弾が飛び交う最前線ではなく、強襲上陸が成功し港湾を確保した後、後続部隊を輸送する任務を負うとされてきた。だが、上陸作戦用に改修された船が確認され、米台の軍事研究者が注目している」(産経2021年10月11日)【中国軍事情勢】台湾侵攻能力を補う民間貨客船 作戦用に改修も - 産経ニュース (sankei.com) 

●民間徴用船による輸送能力
・民間徴用船数                                            ・・・63隻
・徴用船による輸送可能兵員数                       ・・・約3万~4万人

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人民解放軍空挺部隊は9個旅団体制へ - ツイッターのオタクの備忘録 (goo.ne.jp)

これに、空からのヘリボーン(ヘリによる空挺)や空挺部隊が加わりますが、見た目はハデでもたいした数ではありません。
空挺演習で空を覆う白いクラゲをみるとうわっと思いますが、一回にせいぜい一個大隊規模(300人)ていどです。
しかも軽装備なので、長期間の戦闘は不可能です。
ですから、空挺やヘリ降下を投入するとすれば、ロシアがウクライナでしたように空港などを先制制圧する目的で使われることでしょう。
ちなみにウクライナでは、待ち構えていたウクライナ軍にさんざん叩かれて、最精鋭の空挺部隊が大打撃を受けて撃退されました。
ロシア軍は空港を占領して後続の本隊を入れる予定だったのですが、それに頓挫したためにキーウ占領に失敗しました。

・空挺部隊の輸送能力
・ヘリコプター+落下傘降下兵員            ・・・数千人
・強襲揚陸艦+民間徴用船+空挺の総計   ・・・約5万人~6.5万人

しかも、中国侵攻軍は、なにも起きない平和な海を渡ってくるわけではなく、逃げようがない狭い台湾海峡を船団を組んで低速で渡ってくるのですから、いらっしゃーいの標的です。
当然、空と海中から徹底的な攻撃を受けることとなります。
台湾海軍と米海軍は潜水艦を使ったウルフパック(狼の群れ)で歓迎委員会を作って待ち受けているでしょうし、地上発射の対艦ミサイルは間断なく降り注ぐはずです。
ちなみに中国海軍がもっとも苦手なのは対潜水艦作戦であることはつとに有名です。
中国軍はハデな空母づくりに熱中して、こういう対潜や掃海といった地味な分野は手抜きしているのです。
したがって、このわらわらと押し寄せる艦船のうち、まともに無傷で台湾海峡を渡ってこれるのはどれだけになるのでしょうか。

かつてなら、兵隊は使い捨てで、国共内戦や中越戦争では、戦友の屍を踏んで突撃するような狂信的人海戦術をとりましたが、いまや兵士の質も大きく変化しました。
一人っ子政策で青年層が減少したために、人海戦術などやりたくてもできません。
一人っ子政策世代の「小皇帝」を数万単位で殺せば、政府批判は抑えきれなくなるからです。

実は中国軍は戦争が大好きなわりには実戦経験に乏しく、直近の大規模な実戦経験は1979年の中越戦争で、以後40年以上戦火をくぐったことがありません。
それがパレード用軍隊、習皇帝陛下のオモチャの兵隊と揶揄されるゆえんです。

このような実態を分かっているからこそ正面戦を諦め、サイバー攻撃に力を入れたり、首脳部にテロを仕掛けるスネークヘッド作戦を考えたりしたのだと思われます。
あるいは中国軍は台湾の航空戦力を無力化し、台湾上空の航空優勢を確保することで、自在に空から攻撃をすることができることを誇示することも念頭にあるかもしれません。
多数の艦船で海上封鎖をして日干しにすることもありえます。
しかし、これらの方法はいずれも搦手であって、決定打たりえません。
習近平が、「祖国統一を達成した」と宣言できるのは、唯一陸上兵力が台湾を制圧した時のみだからです。

ただし海上封鎖されると、平時のエスカレーションラダー(エスカレーションの階段)を戦争前で寸止めしたようにも見えるために、自由主義陣営の対応は難しくなるでしょう。

「米海軍太平洋艦隊司令部の前顧問で現在はワシントンの研究機関「AEI(アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート)」の上級研究員を務めるエリック・セイヤーズ氏は、「今後、中国軍が台湾に対して今回のような空海封鎖につながる軍事演習を30日とか90日の長期にわたり実施すると言明した場合、米国や台湾の対応は難しくなる。台湾にとっては経済面での重大な封鎖や損失につながるが、この封鎖を中国による軍事攻撃や軍事侵攻とみなすことは難しい。そのため米国の軍事対応も複雑かつ困難となる」と解説していた」
(古森前掲)

海上封鎖作戦をとられた場合、空路遮断も含みますから、与那国は海上封鎖線の内側に入ってしまい、八重山、宮古にも甚大な影響がでることでしょう。

 

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コメント

ざっくり、いくつかの国際法や海戦法などの専門家さん方の過去文を読んでみました。
「封鎖」って、やり方によっては国際法(海戦法規・海上中立法規)の規定による帰結として、やった方が相手方を国家または交戦団体と認識したとみなされるそうですから、中共もそこは「封鎖」と自ら言わないでしょうし、国際法上の「封鎖」に当たらないやり方を考えているのかもしれません。
そこで演習による「危険水域設定」なのでしょうか。
それだと何処の国もよくやることですし、商船を通行させない効果はありますね。
「封鎖じゃないよ」といいながら封鎖同等のことをやったのは歴史上、台湾にもアメリカにもあるので、批判されたら中共はそこを突いてくるかもしれません。

長期演習を常態化させるとして、もしも中共が、「平時」の状態から実質「封鎖」と同等の干渉効果を得る目的の水域を台湾の内水・領海を越えて設定した場合は、中共は台湾を国家または交戦団体と承認したと見なし得ます。
またもしも中共が「これは内戦である」とするならば、台湾の内水・領海を越えて外国船に干渉することは違法となります。
なので、中共は水域をどう設定するでしょうか。しくじるか、しくじらないか。
「ひとつの中国」をtake noteしているにしても、台湾を国家と承認していない以上、アメリカも我が国も法的に正しい正面からの戦いには困難が付き纏います。
高橋杉雄氏が「宿命的に準備不足で戦わなきゃいけない」と仰る所以です。
仮に台湾がはっきりと「独立」を掲げたら、法に適うかたちで日米が支援できましょうが、その時は中共のなりふり捨てた侵攻を招いて台湾に犠牲が出る時でもありましょう。
どうか中共が自分で自分を不利にしていきますように。

宜野湾さん、真山全氏の論考ですね。わたしも読んでいます。
海上封鎖すると台湾を「一国」として認めてしまうというパラドックスでした。大変に興味深いのですが、たぶん中国は決行するとなれば、そのような国際法上の規定を頭から無視してきます。
これは南シナ海人口島と同じで、中国は勝てば官軍という力の信奉者だからです。

海上封鎖は、海路と空路を断って日干しにしていく作戦ですが諸刃の刃で、これを実施すると自国の海上貿易路とぶつかってしまいます。
ですから長期間恒常的に封鎖することは、彼らにとっても得策ではありません。

今回のように、政治的脅迫をしたいときだけ、あくまでも軍事演習として随時行うという性格なのではないかと私は考えています。
そうすれば国として認めたことにはなりません。

いずれにしても、このガラス細工と評される米中関係は、ペロシの訪台で大きな変容を迎えることでしょう。

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