山路啓介氏寄稿 知事選のあとにその4
知事選のあとに
山路啓介
承前
■「大きな志のためなら勝敗の別さえ乗り越え、泥濘の中をものともせずに突き進む」、そんなイメージを下地幹郎氏に対して描いている支持者は少なくありません。
しかし、今回の知事選の下地氏立候補ほどワケの分からないものはなかったのではないでしょうか。
お膝元と言われる宮古島市では24人の市会議員のうち佐喜真支持17人、デニー支持7人で、下地支持は0でした。また立候補にさいし、最大の支援者で下地氏の自民党復党に腐心してきた國場組にも相談がなく、「出馬は寝耳に水。支持する予定はない」とされるなど、根回しも何もなく、ハナから当選する意思すらが怪しいものでした。
自民党関係者にとっては「(保守票を割る事)そうまでして自民党や佐喜真候補を勝たせたくなかったのだろう」、あるいは「デニー候補と結んだ立候補だった」と見る向きが多く、そのどちらもが多くの真実を含んでいると考えます。
持ち味はストレートさとシンプルさ。彼の熱情的スタンスからそう勘違いしている支持者には残念ですが、実のところ絶えず複雑な狡知さを用い、裏側から選挙結果に影響を与えることを企図した絶望的に小狡い「政治屋」であるに過ぎません。向後、自民党が下地氏を拾うような事はなく、かといってオール沖縄内主流派の革新勢力とは決定的な溝が存在します。
前回の衆院選では、「国政こそが私が生きる道」「知事選に打って出る事はない」として「背水の陣」である事をアピールしていました。落選後、「次期衆議院議員」なる奇妙な肩書の名刺を配布して笑われましたが、次回衆院選に期す強烈な熱意と意思表示、と取る向きもありました。けれど、YouTubeの当人の番組では「前回衆院選で落選が決まった。その開票日の夜に知事選出馬を決意した」というのです。いったい何が本当なのか? 下地氏の感覚は理解しようがありません。
彼がかかげた経済政策もかなり怪しげなものでした。
「国からのお金がなければ沖縄の経済が成長しない、というのはナンセンス」という主張には、百歩譲って条件付きで同意もします。続けて「橋や港湾などの高率補助事業は(補助率が)一律になるし、その他の事業はすべて社会資本整備(PFI)で公共事業をする」と言っていて、「そのために100人規模の担当課を作る」と主張しました。
PFI積極活用の主張はかつての大阪維新が財政再建のために掲げましたが、効果を上げたのは公務員改革や行財政改革の方です。しかし、下地はかつての維新主張の表面ツラだけ拾って「国の補助は必要なく、(だから)国との信頼関係などは必要ない」と飛躍してしまいます。どうしてここまで頭が悪いのか? これで票が釣れると考えたなら、よほど県民を馬鹿にした主張です。
PFIのように民間企業が事業として公共事業を担うのであれば、企業にとっては収益性が見込める事が必須条件です。図書館や公民館などの施設の場合、収益性を確保する難しさがPFI事業導入の主要な問題点です。収支計画の誤りから失敗した事業は全国にいくらもあり、その後始末は結局、自治体が尻拭いするしか方法はありません。また、担当公務員が100人いようが200人いようが、ようはビジネスの領域です。商売上の「責任」という負荷がかからない公務員に、この問題に対する知恵が出てこようはずもありません。なんとも思い付き、口先だけのナンセンスな主張でした。
ところで、収益性以外に別の恣意的目論見をもって、他国において事業を行なわせようとするのは中国共産党くらいのもの。そこで、橋下徹氏のひそみに倣うなら「入札でWTOルールでは外国企業を排除出来ない」とします。そこまでは言えないとしても、日本に登記がある中国系日本法人なら取り分け排除は困難です。最近は合同会社という、問題のある会社形態を利用した中国資本参入の実態も見られています。
橋下氏は自身の著書の中で、その主旨は違いますが「(沖縄の港湾施設の一部を)中国政府に解放して、中国軍艦の寄港も認める県民投票を実施せよ」と言いました。中国企業からもらった100万円を政治資金として記載していなかった下地氏の事なので、と考えたなら穿ちすぎでしょうか。
くわえて、安全保障問題もメチャクチャでした。
彼の公約は「辺野古軟弱地盤部分の埋め立ては絶対にさせない」と。いや、「埋め立ては技術的に不可能だ」と言っています。そこで、訓練と基地を分離して訓練を馬毛島へ持って行こうと言うのですが、そのような案は実効性の担保が一切ありません。本土との信頼関係は眼中になくても、なにやらワシントンに自信がある強力なルートがあるように仄めかしつつ、あたかも実現可能性があるように振舞う姿は異様でした。
鳩山政権末期の徳之島「腹案」騒動の前、早々に馬毛島案は遠すぎて使えないので断念しています。訓練だけなら分離できるだろうという話でもありません。下地がヘンな公約をするので、自衛隊予定地の馬毛島を擁する西之表市は反対派から「そういう可能性があるのか? それなら防衛局の説明と違う」と言った声が上がっています。「沖縄主体の方法で物事を進めるべき」というのが下地氏の公約の根本にある流れですが、そもそも辺野古という場所選定も、埋め立て中心に建設事業をなす事も、主体的な沖縄側の要望によるものです。足して二で割るような思い付きの公約を下地が掲げるのは、ただ単に「新しい考え」や両者の中間点的落としどころを狙っただけのもの。
下地の狙いは自身の政策集団「そうぞう」のよき時代に戻す事でしょう。
それは自民党に復帰しても内側から出来る自信があったし、デニー氏は「そうぞう」のメンバーでもありました。これからも無意味な立候補は続くと思いますが、ついていく地方政治家もなく、國場はじめ支持者離れも顕著です。しかし引き続き保守票をいくらかでも喰えるなら、オール沖縄側にとっては利用価値がある。
零落した下地氏が最後は宮古島市長にでもなろうとしないとも限らない。それだけは御免です。
(次回終了)
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