ザポロジエ原発、外部送電を再び喪失
昨日の記事の続報です。
ザポロジエ原発がロシア軍によって送電線を破壊されて、外部電源を喪失しました。
「外部電源喪失」、この福島事故の記憶も生々しい言葉をまた聞くとは思いませんでした。
ザポロジエ原発は、8月25日から26日にかけても外部の送電網から切り離され、ディーゼル燃料で稼働する非常用の予備電源に切り替わって事なきをえていました。
ザポロジエ原発は3日夜の砲撃で、原発と外部をつなぐ4つの電力系統のうち、最後の1つが途切れたために、外部電源喪失状態に陥っています。
現在は、予備電源で冷却している状況です。
この予備電源もロシア軍のさらなる攻撃で失えば、原発はすべての交流電源を喪失し、炉心を冷却することができなくなり、炉心融解(メルトダウン)を起こします。
「IAEAは3日の声明で、ザポロジエ原発に「外部から本来の送電網を通じた電力が供給されなくなった」と明らかにした。ただ「予備の送電網で電力は供給され続けている」と強調した。6基ある原子炉のうち稼働しているのは1基だけだ。
国際原子力機関(IAEA)は3日、ロシア軍の占拠下にあるウクライナ南部ザポロジエ原発が、外部送電網との接続を再び喪失したとウクライナ側から通知されたと発表した。ただ、IAEAは、予備の送電線を通じて同原発で発電された電力が外部に供給されており、必要に応じてこの送電線で同原発への電力供給を維持できることを、同原発に滞在中のIAEA職員が確認したとした」
(産経9月4日)
原発、外部と再び切断 ウクライナ通知、予備送電線は維持(産経新聞) - Yahoo!ニュース
このことから、事務局長が急遽本部に帰国したのは、この第2のチョルノービリ(チェルノブイリ)事故になりかねない事態にたいして協議するためであったと憶測されます。
同様に5名のIAEAスタッフを残留させたのも、査察の継続もさることながら、この綱渡り的な状況を保全するためだと思われます。
日経 ザポロジエ原発を訪れたIAEAの専門家チームら(2日)=IAEA提供・ロイター
「5号機は1日にも停止し、2日に再開したばかりだった。IAEAやウクライナ国営原子力会社エネルゴアトムによると、3日夜の砲撃で、原発と外部をつなぐ4つの電力系統のうち、最後の1つが途切れた。ほか3系統はこれまでの戦闘で既に失われている。
付近の火力発電所とつながる予備の電力系統を通じ、6号機から国内の送電網への電力供給は保たれている。必要が生じた場合はこの予備系統を通じて原発自体の運転に必要な電源も供給できるという」
(日経9月4日)
ウクライナ・ザポロジエ原発、攻撃受け再び運転停止: 日本経済新聞 (nikkei.com)
敷地内には原子炉のほかにも、使用済みの核燃料を貯蔵する施設や、放射性廃棄物を取り扱う施設などもあります。
下図はザポロジエ原発を南北に見た配置図です。
焦点:ウクライナ侵攻 ザポロジエ原発、2人常駐 IAEA、週内に報告書 | 毎日新聞 (mainichi.jp)
エネルゴアトムの下図の配置図によれば、赤い線で囲ってあるのが原子炉が納められている建屋です。
上図の縦に伸びている黒点がそれにあたります。
下図は使用済み燃料プールの位置を示しています。(緑線の囲い)
エネルゴアトムによる配置図 NHK
6基がおよそ100メートル間隔でほぼ南北に一列に並んでいます。
ザポロジエ原発に砲撃か ロシアとウクライナが非難合戦:時事ドットコム (jiji.com)
8月以降の砲撃で、管理棟南側と1号炉東側、6号炉東側に、3発の砲弾ないしはミサイルが着弾しています。(上図赤い星状の点)
8月下旬の時点では、2基が運転中でしたが、9月1日にうち1基が外部電源喪失で緊急停止しました。
いわゆるブラックアウトで、これは外部電源喪失のことです。
まちがってほしくないのは、ただの「ブラックアウト」と「ステーション・ブラックアウト」は別の概念だということです。
ここを脱原発派の人たちは、きちんと整理しないで論じるから、わけのわからなくなります。
外部電源が喪失して非常用電源に切り替わって、自動緊急停止(スクラム) することはまったく正常な工程です。
「異常事態」と呼べるのは、外部電源がブラックアウトして、かつ非常用電源が起動しない全交流電源喪失状態(SBO)の時だけです。
「ブラックアウト」は、人間の失神のような時にも使いますが、電力の場合、「停電。特に、発送電システム(発電・送電・変電・配電を併せた電力の供給システム)の全系崩壊」(ウィキ)状態を指す用語です。
原子力発電の場合は、今回のザポロジエ原発のような外部電源喪失を指します。
一方、似た表現なのでゴッチャにしている人が往々にいますが、まったく次元が異なるのが「ステーション・ブラックアウト」(station blackout・SBO)です。
こちらは火力や水力では用いられず、唯一原子力にだけに用いられる用語で、「原子力施設における全電源喪失状態」(ウィキ)のことです。
多重防護されているはずの外部電源はもちろん、非常用ディーゼル発電機に至る全交流電源すべてがオシャカになった状態です。
福島第1事故がこのケースでした。
SBO - Wikipedia - ウィキペディア
今回のザポロジエ原発は4系統の送電線がすべて一時的に使えなくなりましたが、非常用電源にに切り替わって冷却を続けています。
もちろん望ましい状態にはほど遠いですが、だからといってすぐに大事故にはなりませんからご安心を。
ただし、今後ロシア軍が意図的にひとつ残っている送電線を砲撃したり、非常用電源装置を破壊したりすれば、ステーションブラックアウトになりえます。
敷地内の北東、北端の6号炉から約200mに、使用済み核燃料プールがあります。
使用済み核燃料は、「キャスク」と呼ばれるコンクリート製の容器に入れられ、屋外で保管されています。
下写真は、東電福島第2の3号炉の使用済み燃料プールですが、j 同じようなものがザポロジエ原発にもあると考えてよいでしょう。
使用済みといっても、ここも炉心と一緒で恒常的に冷却する必要があります。
福島第二原発3号機使用済み燃料プール冷却水停止から見える変わらない東電体質、社会との対話が必要不可欠(吉川彰浩)
日本原子力産業協会によれば、ザポロジエ原発には8月時点で174基のキャスクにおよそ4000体の使用済み核燃料が保管されているということです。
原子炉建屋の東側100メートルには、放射性廃棄物を取り扱う施設が2棟あります。(青線の囲い)
IAEAによれば、8月下旬の砲撃によって、この放射性物質処理施設が被害を受けた模様です。
被害状況は下の衛星写真でも確認されています。
それにしてもロシア軍はどういう神経をしているのか・・・。
使用済み燃料プールは、原子炉建屋とことなり、はるかに脆弱ですから、ここを破壊したら大量の放射性物質が空中に拡散されてしまいます。(ちなみにわが国のそれは建屋内部にありますが)
まともな国なら絶対にしない所業です。
ロシア軍がザポロジエ原発に攻撃、火災発生-ウクライナ外相 - Bloomberg
やや分かりにくいですが、赤いドームの原子炉建屋の右側にある処理施設の屋根に破孔が見えます。(引用者拡大)
ウクライナ軍は、このサポロジエ原発の奪還を何度か試みているようで、ロシア国防省は9月3日、250人規模のウクライナ軍部隊が奪取を試み、2日夜にモーターボートなどで同原発周辺などに上陸を図ったが、撃退したと主張しています。
真偽は不明ですが、原子炉を楯にされているためにHIMARSなどの面制圧兵器を使用できないために苦慮しているようです。
ウクライナに平和と独立を
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外部電源喪失とステーションブラックアウト。この違いが分からずに10年前には批判的コメントばかり書き込んできた人達には本当に辟易させられました。本当に酷かったですね。。
福島では地震で1系統の外部鉄塔が倒壊したのが確認されましたが···当然ディーゼル発電機がすぐに立ち上がったのでそこは問題無しなのに。
SBOに至った問題は後に押し寄せた津波で海側の地下で水密化されていなかった発電機と配電盤が水没したという構造の問題でした。そんなことがとっくに分かってきた頃になっても、最初に倒れた送電柱の写真を指して「これだから原発は根本的に危険だ」とかいつまでも言ってる連中がいたもんだと。
原発の要塞化と言っても、別にウクライナ側が攻撃してるわけじゃなくてロシアが勝手に制圧しただけですから、何があろうと管理責任はロシアにあります。
IAEAの査察受け入れはWHOの武漢査察同様にロシアのアリバイプロパガンダに利用される可能性は高いでしょうね。
都合が悪いとなれば国連のウイグルレポート同様に中国と同じで「あれは悪意に満ちた嘘だらけだ!」と吐き捨てるかもしれません。
投稿: 山形 | 2022年9月 6日 (火) 08時11分
どうせ我々の手に入らないなら、せめて人の住めない土地にしてやろう、人が住めない土地でも「NATOとの緩衝地帯」にはなるから…
とでも思ってるんでしょうかね。いや良くないな、狂人の思考を説明しようと試みるのは…
投稿: ねこねこ | 2022年9月 6日 (火) 12時53分
恐ろしいことを平気でやりますね。
原発に陣を張り攻撃する、ウクライナからは大きな反撃が出来ない。
やり口が汚い。ロシア兵が被曝すればいいのにと思います。
原発への補給路を断ち兵糧攻めにし、逃げ出させたいでしょうけど今直ぐにはね。
ウクライナ軍は損害を小さく抑える作戦なのか、ロシアの攻撃を撃退しても深追いはせずにロシア軍の兵力を少しずつ削ぐ方針のようです。
補給も満足でないヘルソン市のロシア軍はもう息切れしてきたようで、ウクライナ軍への反撃が弱まってます。
あと少しで奪還でしょうか。
ロシアはヘルソンへ回せない兵力をザポリージャ州へ集結させてるなんて情報もあります。
こうなると原発の危機は更に高まるのか、最悪の事態は避けたい。
投稿: 多摩っこ | 2022年9月 6日 (火) 13時57分
ザポロジエ原発はロシア型のPWRであり、福一原発のBWRとは型式が異なります。PWRの場合には、例えSBOに至っても、SGブローによる自然循環除熱で炉心の崩壊熱を除去することが可能なので、炉心損傷に至ることは基本的にはありません。また、例え炉心損傷に至っても、格納容器(CV)が健全であれば、放射性物質がCV外に出ることはなく、PWRのCVはBWRより遥かに大きく、フィルターベントを介しての内圧制御も容易です。
なお、燃料貯蔵プールの除熱も、ポンプで循環除熱させなくても水さえ補給しておけば、大気との熱交換で除熱可能です。
投稿: 杉並の老人 | 2022年9月 6日 (火) 14時53分
狂信者であるプーチンの野郎が直接、 このザポロジエ原発を人質に利用した作戦を進めているのだとしたら、「どーせ大丈夫さ、原発ドカン!だなんて、そんな事だけはマトモに生きてる人間ならするわきゃねーわ、ただの脅しに決まってらー」という大方の見方は裏切られるように思えてなりませんわ。
ロシア末端の兵士は原発の知識なんて無いに等しい(私なども、福島原発事故で恐れおののいてから当ブログなどで勉強させてもらったクチであって、福島の事故がなかったら全電源喪失のことなんて何も知らんかったと思う)んで、上からの命令に素直(命令の意味することも解らずに)に行動すると思う。その結果、どえらいメルトダウンを起こして、自分たちもが犠牲になるとしても。
狂プ「我が大ロシアがウクライナごときに負けるくらいなら、やってしまえ!」
将軍「えっ、いいんですか? ご命令とあらば・・ ええ私は逆らいませんとも」
現場「おい、上からやれ!って言ってんぞ」
同 「でもオイ、お前、放射能って知ってるか?俺らもヤバくね?」
同 「命令なんだ、知ったことかい! またドヤされるぞ、射ってしまえったら!」
同 「そんなら、ポチってな」
IAEAの方々はきっと、ザポロジエ原発を訪れて、こんな想像をしたのだと思いますわ。まるで、猿どもが原発を支配してると。今や、IAEAの方々だけが頼りです。
投稿: アホンダラ1号 | 2022年9月 6日 (火) 22時41分