イジュームでも見つかったロシア軍の戦争犯罪
解放されたイジュームには、ロシア軍の大規模な虐殺跡が残されていました。
ロシア軍が占領地でなにをしていたのかが明瞭になりました。
ロシア軍は民族浄化と「ロシア化」をしていたのです。
「ウクライナ北東部ハルキウ州のシネフボウ知事は17日、ロシア軍が撤退した同州南東部イジュームで発見された集団埋葬地から、地元警察の専門家らが同日に計59人の遺体を発掘して収容したと明らかにした。民間人の男性16人と女性26人、軍人17人だった。大半の遺体は殺害された形跡があるという。
シネフボウ氏はイジュームには集団的に埋葬された450人分以上の墓があるとしており、発掘作業は今後も続く。同氏はSNSに「半年間の占領の悲劇的な、むごたらしい結果だ。世界はロシア人たちの犯罪を知らなければならない。罪を犯した者すべてが罰を受けるように」と投稿した」
(朝日2022年9月18日)
【速報中】イジュームの埋葬地から59人の遺体を発掘 殺害の形跡 [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)
ウクライナが奪還のイジュームに集団墓地 440人埋葬か: 日本経済新聞 (nikkei.com)
「今日発掘された遺体のうち、99%が暴力的な死の兆候を持っている。
両手を背中の後ろで縛られた遺体が数体あり、一人は首にロープを巻いて埋葬されている。明らかに、これらの人々は拷問され、処刑されました。埋葬された人々の中にも子供たちがいる。
同時に、ハリコフ地方警察の捜査部門の責任者、セルヒイ・ボルヴィノフは、金曜日に22人の死んだ民間人が発掘され、専門家に運ばれ、ウクライナ軍の17人の軍人全員が集団墓地から運ばれたと述べた。
「死亡した民間人の一人は、首にロープを巻きつけ、指の指骨を損傷していた - 調査は拷問のバージョンをチェックしている。兵士の一人は両手を縛られていた」とボルヴィノフは語った」
(ウクライナプラウダ、9月16日)
OVAは、レーズンから発掘された人々の99%が暴力的な死の兆候を持っていると述べて|ウクライナプラウダ (pravda.com.ua)
これらの埋葬された死体は、現地住民が「自分たちが遺体を見つけて埋葬した」と証言しているとおり、路上や家屋に放置されたままの死体を埋葬したもので、ロシア軍兵士は捕虜や民間人を虐殺して、そのまま遺体を街中に放置していたと考えられています。
彼らはウクライナ軍の進撃があまりに急だったために、戦争犯罪の証拠を隠蔽する暇もなくそのまま捨て去ったようです。
ロシアは占領すると、直ちに「選別キャンプ」(フィルターキャンプ)を作り始めます。
まだ戦闘が終結する前から、ロシア軍は貴重であるはずの兵力を割いて住民をこの「選別キャンプ」に送り込みます。
その指揮を取るのがロシアの秘密警察であるFSBです。
マウリポリでは、人道回廊と悪趣味な名をつけられたルートで送り込まれた住民を待っていたのが、この選別キャンプでした。
【証言】マリウポリ市民が体験した ロシアへの“強制連行”と“選別” (nhk.or.jp)
マウリポリでは、実に4万人以上がこの選別キャンプに送り込まれました。
このような収容所は、人権団体「ボストークSOS」によれば、「数を正確に把握するのは難しいが、東部ドネツク州を中心に数十は存在し、学校の校舎やテント村、拘置所や刑務所などがキャンプとして使われている」(産経9月6日)そうです。
【ロシア深層】「ろ過キャンプ」で住民選別 遠藤良介 - 産経ニュース (sankei.com)
「米エール大の調査グループが8月25日に公表した報告書は、フィルター・キャンプが21カ所特定されたとしている。衛星写真の解析から、キャンプ近くに遺体の埋葬場所を疑わせる掘削跡が確認されたケースもある。調査グループは、キャンプには機能別に①住民の登録②収容③二次尋問④拘留-の4種類があるとみている」
(産経前掲)
この選別キャンプで行われたのが、占領地住民の尋問と思想チェック、交遊関係の洗い出しでした。
この「尋問」には容赦ない暴力が用いられ、拷問により殺害された者も多数出ました。
いま、私たちが眼前にしている多数の虐殺された民間人は、手は縛られ後ろから射殺された者が多く出ていますが、それはこの「尋問」の間に発生したと想像できます。
これを経験した住民の証言です。
「イエヴヘンさん
「職業は何か、知人や親戚にアゾフ大隊や軍人、警察などがいないか調べていました。 携帯やSNS、写真をチェックされ、それは誰なのか、写真が何なのか説明しなければなりませんでした。
ロシア側に)亡命を求めた人は身分証明書がとりあげられました」
( NHK4月26日)
【証言】マリウポリ市民が体験した ロシアへの“強制連行”と“選別” (nhk.or.jp)
選別が終わると、ロシアへの移送が始まります。
「3月にロシア政府が公表した文書には、ウクライナの市民10万人をロシア連邦内の85の地域に移送させる計画が記されています。移送先はウクライナに近い西部地域だけでなく、ロシア全土。サハリンなど極東の地域にも7,000人以上を送るとしています」
(NHK前掲)
下の写真は、3月にロシア政府が公表した文書にある移送計画です。
ウクライナの市民10万人をロシア連邦内の85の地域に移送させる計画が記されています
この移送先は、ウクライナに近隣のに西部地域にとどまらず、サハリンなどの極東地域にまで7千人を送ると記されています。
NHK
このような民族強制移動はソ連時代頻繁にとられた支配方法でした。
住民を住み慣れた土地と家、畑、友人親類から引き剥がし、まったく縁もゆかりもない辺境に流刑するというのは、その人たちの精神を確実に破壊しました。
「1930年代から1950年代にかけてヨセフ・スターリンがNKVD長官のラヴレンチー・ベリヤに命じて実行したソ連における民族や階級単位での人々の強制移住政策について述べる。これらの強制移送はクラーク(富農)の追放など"反ソビエト的な"人々の強制移送、民族そのものの強制移住、労働力移転、民族浄化が行われた地域への新たな入植などのために行われた」
ソビエト連邦における強制移送 - Wikipedia
この強制移住は、少数民族と思想犯の浄化や富農(クラーク)の絶滅を目的として行われました。
追放地はシベリアなどの辺境の過疎地でした。
その結果、推定で450万人もの犠牲を生みました。
「1930年~1931年には180万人のクラーク、1932年~1939年には農民と少数民族中心に合計100万人、1940年~1952年には少数民族を中心に350万人もの人々が強制移送の対象となっている」
(ウィキ前掲)
今回のウクライナ占領地の強制移住はこのスターリン時代のそれが、今だロシアにおいてなくなっていないことを示しています。
今回のロシアによる占領政策は「ロシア化」と呼ばれ、傀儡国家づくりを目的としています。
これはこのようなプロセスです。
静岡県立大学准教授西恭之氏によれば、このロシア化はこのようなプロセスで進行します。
●ロシアの占領政策
①占領地の反乱・抵抗の鎮圧は、ロシア連邦保安庁(FSB)と国家親衛隊が主力となる。
②占領地ではFSBが反乱・抵抗の鎮圧の指揮をとり、通信傍受・捜査・防諜が任務です。手足となるのは国家親衛隊を中心にして、内務省の警察部隊、コサック部隊、民間警備・軍事会社を合わせて、ロシアは今回ウクライナに50万人近くを占領地警備投入したと見られている。
③令状なしの家宅捜索により押収した文書の情報をもとに、ウクライナ軍の情報機関・警察その他の機関の公務員や政治家が逮捕・尋問する。彼らの多くは収容所に送られ「行方不明」となる。
④通信と情報の遮断。マスメディアと私的通信はロシアが検閲体制を敷くまで完全に検閲されて封鎖される。
⑤ロシアの発行する身分証明書を渡され、以後常に携帯することを義務づけられる。
⑥密告制度が推奨され、よそ者探しや反露的人物をさがしだすことを命じられる。
⑦ウクライナ貨幣と外貨の禁止。通用するのは占領機関の発行した軍票。ロシアルーブルが使われることもある。
そして、⑧大規模な住民移送です。
そしてこの占領が安定化すると、次の段階で住民投票を行って「独立国」となり、数年でロシアへ併合を住民が「自発的に要請」することになります。
住民の「自由意志」でロシアの一共和国になるという体裁をとります。
ロシアが負けなければ、やがてウクライナ人はいなくなり、すべてロシア人となったはずです。
これがロシアの占領政策、すなわち「ロシア化」なのです。
このウクライナの現実こそが「抵抗をすれば命だけは助かる。侵略者が来たら政府は白旗を上げろ」、と言っていた人たちへの回答となります。
ロシアのような全体主義国家の軍隊に軍事占領された場合、いかなることが起きるのか、その実例がブチャであり、このイジュームなのです。
ウクライナ200日間の戦いの日々
在日ウクライナ大使館(@UKRinJPN) Twitter
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ウクライナの反撃が始まって、プーチンが「占領地の住民投票を『無期限延期』した」と聞いて、ん?寧ろ敵が来る前に既成事実化した方が良いんじゃないの?と疑問だったのですが、
なるほど、「既成事実化のための住民投票」のためには、たくさんの兵隊を使って、被占領地のウクライナ人を大量に移送したり殺したりしないといけなかったんですね。
投稿: ねこねこ | 2022年9月19日 (月) 11時09分
尋問をクリアしても徴兵されて捨て駒のように最前線に送られます。
https://www.asahi.com/sp/articles/ASQ7P7RQYQ6ZUHBI028.html
ドネツクルハンスクでのソースしか見つけられませんでしたが、春以降占領した村からも若者を徴兵して行った記事を読みました。
降伏したら殺されるだけでなく命が尽きるまで殺す事を強いられる。
そういうものだ、というモラルの国家とどう対峙すべきなのか考えるのは気が塞ぎますが、過去記事で触れられていた国連の最低限の機能から活路を探るくらいでしょうか。
投稿: ふゆみ | 2022年9月19日 (月) 11時42分
いつも楽しみに拝読しております。
第2次大戦末期、日本の負けが完全に見えたタイミングで、旧ソ連は一方的に日ソ中立条約を破って参戦してきました。玉音放送の後も北方領土での戦闘は続き、島々の日本軍が頑張って戦っていなければ、北海道は「自発的に要請」することで今頃ロシアになっていたかもしれませんね。
橋下徹さんや鈴木宗男さん、9条信者の方々には、ロシア軍の敗走でプーチン体制が崩壊しロシア国内が混乱を極める状況になったら、中国だってシベリアへ侵攻することがあり得るというような状況は想像できないのでしょう。
投稿: 都市和尚 | 2022年9月19日 (月) 11時58分
各国プレスの皆さんとイジューム入りした村山祐介氏の配信動画を見ました。
ブチャやマリウポリと同じく痛ましく、必要な映像処理は施されてあれどなお胸糞悪く、しかし耐性のある私は見届け記憶せねばと思う映像。
ロシアの責任と何度でも言う。
ウクライナの自作自演だの降伏しなかったからだの言っている人らはどう思う。
投稿: 宜野湾より | 2022年9月19日 (月) 17時40分
ロシアの占領地域では当たり前のことなんですね。
ウクライナ軍はブチャの虐殺に関与したとされるロシアの第64独立親衛自動車化狙撃旅団の位置を特定しては、執拗に激しい攻撃を加えたという情報もあり、ロシア兵への怨みは計り知れないです。
関与が特定された部隊はウクライナ国外へ移動しない限り、追い回されることでしょう。
ナチスロシアの許すまじき行為、将来において戦争犯罪を追求できるものなのか疑問です。
この戦争で、世界中からロシア人全体が同じ目で見られることは間違いない。
ロシア国民がこの事実を知った時にどう思うのか、ウクライナの自作自演だと済ますのか見ものです。
投稿: 多摩っこ | 2022年9月20日 (火) 00時07分