「置き換え地図」でみるロシアの実力
ロシアというのは、中国と並ぶ「異形の大国」です。
この二国には類例がありません。
あえていえばトルコとイランですが、共に大帝国の末裔であり、いまも帝国の復活を夢見ているところなどは一緒です。
これらの国はかつて、そしていまも広大な領土を持っていることが、彼らの自尊心の根源になっています。
ロシアは、かつてナポレオンとヒトラーを国内奥深くに導いて滅亡させたというのが、いまだ自慢の種です。
つい最近もカムチャツカに来て、ほんとうの日出ずる国はロシアだ、とブイブイ言わしていました。
「「日出づる国」は日本ではなくロシア―。プーチン大統領は5日、訪問先の極東カムチャツカで若者の自然保護団体のイベントに出席した際、こう述べた。カムチャツカが「日本より東にある」からだとしている。タス通信などが伝えた。
これに対し、ウクライナのコルスンスキー駐日大使は6日、ロシアは国の歴史や文化、土地、穀物など「全てを盗む」と主張した上で、今回のプーチン氏の発言を、相次ぐ盗みの「最後の一撃」とツイッターで批判した。
「日出づる国」というフレーズはロシアや欧米では日本の別称のように扱われている」
(共同9月6日)
プーチン氏、日出づる国はロシア 訪問先のカムチャツカで:中日新聞Web (chunichi.co.jp)
この大国幻想の行き着く末は、旧帝国の版図の復活です。
あの、もうそこ今は独立国ですから、と言ってやっても無駄。
ウクライナとロシアは同じ民族族だぁ、なんて言って侵略してしまいました。
毎日新聞
プーチンによればいまや独立国となっている旧ロシア帝国とその末裔であるソ連帝国の版図のすべては、今のロシアが正当な権利を持つわけです。
国境線の力による変更を禁じた近代国際法など、この前にはまったく無意味です。
アメリカの国連大使は、プーチンは過去にロシア帝国だったのすべての地域、つまりウクライナ、フィンランド、ベラルーシ、そしてポーランドとトルコの一部に対して正当な権利を持っていると主張しようとしていると述べたことがあります。
中華帝国の復興を目指す習近平と一緒で、あんたまだそんな夢に酔ってるんでっかという類の妄想にすぎません。
ただしロシアは昔大帝国だった時ほどの国力はないので、ミニロシア帝国をごく一部で再現してみせるにすぎませんが。
そして2014年に打ち負かしたひ弱なウクライナならもっと領土を強奪できるだろうと踏んで始めたのが、今回のウクライナ戦争でした。
ところがひ弱どころか、ウクライナ人は恐ろしく手ごわく、外交もしたたかな国でした。
では、まずは人口から見た世界地図をみてみましょう。
下の世界地図は、人口の多さの縮尺で地図上の大きさに置き換えてあります。
今日はこのテの「置き換え地図」をたっぷり登場させますからね。
人口の多さで世界地図を描き変えたらこうなった(画像) | ハフポスト NEWS (huffingtonpost.jp)
中国がバカデカイのはともかくとして、日本は大きな島に変貌。
おーいロシア、どこにいっちゃったんだーい。
じつはロシアの人口は1.4億人と、日本より2千万人多いだけでいい勝負です。
しかもこれはウクライナ領クリミアまで入っています。
ウィキにもこう皮肉られています。
「ロシア国内ではしばしば「ロシアはヨーロッパではない。ユーラシア国家だ」と主張されており、その主張に沿うと、ユーラシアにある中華人民共和国やインドと比較するべきであり、中華人民共和国やインドに比べてはるかに人口が少ない、人口小国である(ロシアは面積が広く地図上の印象が強い割に 、人口が少ない。日本の総人口が世界11位であり、日本と大差は無い」
ロシアの人口統計 - Wikipedia
次に富から見ていきます。
経済規模で見る世界地図にすると、米国は真っ赤に膨れ上がり、緑色の日本も膨張、紫色のロシアは栄養失調のイワシのようにのたくっています。
「富の大きさ」で世界地図をつくると、日本はこう姿を変える【画像】 | ハフポスト NEWS (huffingtonpost.jp)
しかも、富の源泉は何かといえば、工業製品は皆無で、あえていえば武器類くらいなもの。
中村逸郎氏流に言えば、「ロシア人は働かず、地べたから湧きだすもので食っている」のです。
ロシア経済は、原油による地下資源の開発に依存する不労所得型経済と、小麦などの農業によって支えられています。
下図はロシアの輸出入を見たものですが、機械類を買って、原油・鉱物を売るといった極端な原油依存型で、おおらそ先進国ではなく、むしろまるで発展途上国型モノカルチャー経済です。
原油輸出こそが、ロシア経済の基幹産業で、主立った輸出先はヨーロッパと中国です。
ヨーロッパを「原油の罠」で縛る一方、ガッチリ中露同盟を作るのが、プーチンの戦略でしたっけね。
製造業は軍事産業だけ、頼みは原油というていたらくですから、IT化は遅れきっています。
下図は、その国のインターネット人口の実質数を、地理的な大きさに置き換えたものです。
全人口における比率を色で表した構成になっています。
ロシアは薄いピンクで中国の上に、これまたイワシ雲しています。
日本は例によってバカデカイ。
国の大きさをネット接続人口の多さに置き換えた世界地図 : カラパイア (karapaia.com)
このように原油と鉱物資源の二枚だけのカードが、プーチンの戦略を決定しています。
開発途上国型経済構造と言ってかまわないでしょう。
しかも地べたを掘れば湧いて出るというグータラな構造をいったんを作ると、ロシア人が突如製造業に目覚めてモノ作りに励むことは考えにくいのです。
したがって、プーチンを支えるのは、石油新興財閥(オルガルヒ)と、出身母体KGBの後裔であるFSBなどのシロベッキといった連中でした。
つまり原油と鉱物資源を売って、そのカネを人口に見合わない強大な軍隊でハリネズミにする、これがプーチン・ロシアのビジネスモデルです。
軍事費と身の丈、つまり経済が釣り合っていないのです。
軍事費は堂々世界3位です。
世界中の軍事費(2020年ドルベース換算)で赤い国はGDP比率4%以上の国です。
米国は世界1位ですが、3%ていどで、日本は世界でも少ない1%で緑です。
防衛費・軍事費の傾向ーその2 - 海洋立国論 (hatenablog.com)
巨大な軍隊と貧弱な国力。まるでかつての日米戦に突入する直前のわが国のようです。
しかし忘れてはならないのが、ロシアの自尊心の源が、核兵器の量と領土の広さです。
これだけは堂々世界一だと豪語しています。
核兵器だけに関してはそのとおりです。
ただし、現実には使えない兵器だったはずが、負けがこんで窮したプーチンは、核兵器を使って「手を出したら核ミサイルをブチ込むからな」と正気の沙汰とも思えないことを言い出しました。正気ですか。
世界の核兵器保有数(2019年1月時点) | 国際平和拠点ひろしま〜核兵器のない世界平和に向けて〜 (hiroshimaforpeace.com)
次に領土の広さですが、これが大きな錯覚なのは「メルカトル魔法」による視覚的効果があるからです。
たしかにメルカトル図法で見ると馬鹿げて広い。
ロシアと周辺国の地図 - 旅行のとも、ZenTech (travel-zentech.jp)
ところが、これは「メルカトルの魔法」を使って膨張した地図なんですね。
実際の面積ではなく、極点に行けば行くほど大きくなるメルカトル独特のトリックなのです。
メルカトル図法で見ると、極点に近いグリーンランドなどまるで大陸ほどに膨れ上がり、ロシアはユーラシア大陸の7、8割も占める用に見えています。
にゃんこそば🌤️データ可視化さんはTwitterを使っています:
メルカトル図法ではなく、実測面積で地図上に描くと下図のようになります。
メルカトルでは中国(青色)を圧する巨大な国のはずが、いきなりシュリンクしてしまいました。(笑)
上のメルカトルと比較すると、ウソだろーというほどの縮小ぶりです。
気の毒、プーチン、自尊心ズタズタ。
にゃんこそば
「メルカトル図法で描かれた地図は本来球形である地球を平面に投影するため、高緯度に向かうにつれ距離や面積が拡大されてしまう。よって大国イメージのあるロシアやカナダなど高緯度の国々も、実際は我々が抱くイメージほどには大きくないのだ」
(にゃんこそば)
ではどうてこんなおかしな膨張をしてしまったのでしょうか。
メルカトル図法の地図中に半径250kmの赤い円を置いてみると。緯度が下がるに連れて急激に縮小するのがわかるでしょう。
米国はあまり変わらず、カナダは小さくなります。
にゃんこそば
「赤道直下の円を北緯60度まで動かすと、見かけ上のサイズ(面積)が4倍になる。
北緯80度なら33.8倍、北極点ならなんと無限大に(実際には北緯85度までしか描けない仕様になっている)。メルカトルの魔力は強い」
(にゃんこそば前掲)
なーんだ、ロシア領土ってメルカトルで膨らんでいたわけですね。(またまた笑)。
このロシアは事物博大、どこまで行っても尽きることない母なるロシアなんて、ロシア人は自己陶酔していたわけですが、錯覚だったのです。
ちなみに我が日本列島も、実測面積にすると下図のようになります。
ロシアほど劇的ではありませんが、北海道がチンマリしました。
にゃんこそば
よく歴史ドラマで、信長などが、わが国の小ささを見よ、と宣教師から送られた地球儀を指すシーンがありますが、なんの日本列島はヨーロッパ地図に乗せると、かなりの大国となります。
人口は1億2千万いますから、ヨーロッパにあったら、うちの国はそうとうにいいところに行ったんじゃないかなんて夢想してしまいます。
プーチンよ、執務室からメクカトル地図をはがしてから、ウクライナ侵略をすべきでしたね。
ロシアの侵攻に備えて海岸沿いに砂の入った袋を積むオデッサ市民
「勝利信じて戦う」 迫るロシア軍、住民はバリケード―ウクライナ南部要衝オデッサ:時事ドットコム (jiji.com)
ウクライナに平和と独立を
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いつも面白い視点ありがとうございます。
メルカトル魔法が解けた世界地図のトリミングがモンゴルまでしか入ってないのですが、リンクを貼っておきますね
https://yorozoonews.jp/article/14710715
どちらにしろちんまりします。
とはいえ最近のウクライナ軍奮闘とロシアのヘタレニュースに楽観し過ぎないよう、応援する側も気を引き締めないとな、と思いながらニュースを読んでおります。
投稿: ふゆみ | 2022年9月 7日 (水) 09時12分
面白い!
ロシアは北朝鮮から砲弾を買い付けるとか。石油·麦との物物交換ですかね。
あと、防衛費の地図が平べったいのはそこだけミラー図法です。
ヨーロッパに日本を重ねるのはね···もちろん日本は大国になります。
まだ冷戦真っ最中だった頃に、長いことドイツ暮らししてた近所出身で親父の幼馴染のオジサンが帰省した時に色々と話してたけど、日本は島国で良かった!もしヨーロッパで一億人もの国民がいる国だったら周辺国から憎まれまくって大変だぞ!と。。
投稿: 山形 | 2022年9月 8日 (木) 07時26分