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2022年10月

2022年10月31日 (月)

海自トマホーク導入へ

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どうやら海自が、トマホーク巡航ミサイルの導入を決めたようです。

「政府が進める防衛力強化の一環として、米国の長距離巡航ミサイル「トマホーク」の購入を検討していることが27日、分かった。複数の政府関係者が明らかにした。敵ミサイル拠点などへの打撃力を持つことで日本への攻撃を躊躇させる「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有を念頭に、政府は複数の長射程ミサイルの取得を計画。トマホークの性能は実戦で証明されており、国産より早期配備の可能性がある利点がある。
政府は、年末に向けて進める国家安全保障戦略など「安保3文書」の改定で反撃能力の保有を検討している。その際、島嶼部へ侵攻してくる敵の艦艇や上陸部隊を遠方から狙える長射程の「スタンド・オフ・ミサイル」の活用を念頭に置いている」
山系2022年10月27日)
<独自>政府、米「トマホーク」購入検討 反撃能力の保有念頭 - 産経ニュース (sankei.com)

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英国海軍の潜水艦から発射された巡航ミサイ…:世界のミサイル・無人機 写真特集:時事ドットコム (jiji.com)

まず、トマホークのデーターを押さえておきます。

●トマホーク巡航ミサイル(BGM-109 Tomahawk)
全長5.56m
直径 0.52m
・重量約1,300kg
・速度時速880km
・射程最大3,000km
・弾頭454kg (通常弾頭)
・価格1発あたり約1.5億円

自衛隊が導入するとしたら、トマホークの最新モデルで艦載型ブロック5aとなるでしょう。

「トマホーク巡航ミサイル最新型「トマホーク block Ⅴa (ブロック5a)」は別名MST(Maritime Strike Tomahawk)、マリタイム・ストライク・トマホークとも呼ばれています。海洋打撃トマホーク、対地/対艦兼用となりました。これからもう直ぐ量産が開始される予定の文字通りの最新型です」
(JSF10月29日)
トマホーク巡航ミサイルについて・核攻撃型はもう存在しない・対地/対艦兼用の新型が登場(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース

ところで、 「敵基地攻撃能力」という表現はいいかげん止めませんか。対抗抑止と呼んでください。
「敵基地攻撃」では、まるで先に戦争を仕掛けるような誤解を呼ぶ表現ですから。
「反撃」ともちょっと違います。「反撃」は敵の先制攻撃を許した状況ですが、こちらが状況次第で先に叩く場合もありえますから。
実際、そういう批判を野党やメディアはしていましたしね。
こんな表現を使うから混乱が起きる。
日本の「殴り返す力」(対抗抑止)について: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

それはさておき、対抗抑止能力の保有としてトマホークを導入することはほぼ固まっているようで、米国側にも輸出承認の打診して、どうやら了解も得たようです。
米国はトマホークを英国にしか輸出承認を与えていませんから、日本に与えられれば世界でも2番目の輸出許可となるようです。
このこと自体はめでたい。

急遽、トマホーク導入の話が持ち上がったのは、2013年度末に改定された防衛計画の大綱で、「いわゆる「敵基地攻撃能力を含む弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力」の検討が盛り込まれたことを受けたものです。
この時点で防衛省は米国側にトマホーク輸出について打診したようですが、産経によれば当時は米側から「売却しない」との方針が伝えられた、そうです。

そこで、防衛省は国産の陸自の12式地対艦誘導弾を艦載型にし、射程を延長した改良型を検討していましたが、これが実戦配備されるにはあと数年は待たねばならないということで苦慮していたようです。

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12式地対艦誘導弾(改)の後継、長射程の「12式地対艦誘導弾能力向上型」の開発が決定 | TOKYO EXPRESS

「 昨年末の閣議で開発が決まった、射程1,000 kmの「12式地対艦誘導弾能力向上型」のイメージ。「12式(改)」までに蓄積した技術を活用する。エンジンは新型のターボファンを搭載、長距離飛行に備え大型主翼を装備、全体をステルス形状にして「RCS/レーダー反射面積」を小さくし、1時間以上に及ぶ飛行中に絶えず友軍からの新情報で航路を更新できる「戦術データリンク・システム」を開発、装備する」
(陸自調査団 「12式地対艦誘導弾」)

この12式地対艦誘導弾(改)の射程は1000㎞。これで日本は始めて中国大陸に到達可能な対抗抑止の手段を得たことになります。

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ただし、開発が完了するのは2025年度のことです。
下図一番右端をご覧ください。

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ところで今回のトマホーク導入にあたって、防衛省は「実験艦」まで作るそうです。

「発射機材は、車両や水上艦、航空機を念頭に置いてきたが、配備地などを探知されかねない。相手に反撃を警戒させ、抑止力を高めるには、より秘匿性の高い潜水艦を選択肢に加える必要があると判断した。
実験艦は2024年度にも設計に着手し、数年かけて建造する計画だ。ミサイル発射方式は、胴体からの垂直発射と、魚雷と同様の水平方向への発射の両案を検討する。実験艦の試験を踏まえ、10年以内に実用艦の導入を最終判断する」

トマホーク搭載の潜水艦を視野、「実験艦」新造を検討…防衛大綱に開発方針記載へ : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

この「実験艦」がどのようなものかあまりに漠然としていてわかりませんが、ひとつのヒントとしてイージスアショアの代替案として浮上した「BMDシップ」のようなものかもしれません。
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弾道ミサイル防衛専用艦「BMDシップ」とイージスアショア代替案(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース
「イージスアショア代替案は「発射機の分離設置」「イージス艦の増勢」「メガフロート」の3種類の方法が提示されていましたが、新たにイージス艦の増勢に近い案として「迎撃専用艦」の建造案が浮上しました。
この迎撃専用艦はイージス・システムを搭載するのでイージス艦の一種とも言えますが、設計を弾道ミサイル防衛(BMD)に絞って能力を特化させようという提案です」
ただし今回のトマホーク「実験艦艇」は、このBMDシップのイージスシステムの部分がないシンプルなものにできるはずです。
甲板にズラリと垂直発射装置(VLS)を並べる、移動式発射基地なのかもしれません。
あるいは、既に「たいげい」に備えられているVLSを、さらに拡張した潜水艦もかんがえられます。
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日本政府、海自潜水艦への巡航ミサイル搭載や垂直発射装置採用を検討中 (grandfleet.info)
「日本政府は昨年の閣議で開発が決定した12式地対艦誘導弾ベースの新型巡航ミサイル「12式地対艦誘導弾能力向上型(射程900km/最終的には1,500kmまで拡張)」を海上自衛隊の潜水艦に搭載する方向で検討に入ったと読売新聞が報じており、潜水艦の魚雷発射管を使用する方式に加え垂直発射装置(VLS)の採用も視野に入っているらしい。 
海上、ないしは水中を自由に移動できますから、相手方には探知しにくく、島しょ防衛にも中国や北朝鮮への対抗抑止にも使えます」
(航空万能論2021年12月10日)

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読売
さて、正直、へぇーというかんじです。
もちろんいまや桎梏と化している「専守防衛」思想から一歩自由になるためには、有意義なことにはちがいないのですが、遅い。
これから正式に米政府の輸出承認をもらい、製造元のレイセオンに発注し、その間こちはは「実験艦」の予算承認をもらい、設計承認を経て入札をして契約を交わし、建造から進水まで大型艦艇で4年半から5年かかるのが相場です。
そして進水して海自に引き渡してからも、各種の検査を重ねて収益するのはそれから1年半から2年後のことです。
するとこの「実験艦」の具合を見て、「実用艦」の運用のゴーサインが出るのが10年後の2032年頃で、そこからまた進水まで5年ですから2035年頃くらいには、めでたく出来る、ということのようです。
この「実用艦」が潜水艦になるのか、水上艦艇になるのかわかりませんが、お役所仕事ですなぁ。
現実に海自の潜水艦やイージス艦に搭載できるのは、いったいいつになるのやら。
トマホークの射程は3000㎞ありますから、国産の12式能力向上型の3倍で必要にして充分です。
これで東シナ海はおろか、九州近海からも大陸を標的にすることが可能になります。
しかしトマホークは遅い、遅すぎます。
これでは、もっとも中国が台湾・尖閣に侵攻する危険性が高い習近平3期目のこの5年間は、とっくに終わってしまうではありませんか。
習はこう言い放っているのですよ。

「中国の習近平国家主席が2016年に開かれた軍幹部の非公開会議で、沖縄県・尖閣諸島や南シナ海の権益確保は「われわれの世代の歴史的重責」だと述べ、自身の最重要任務と位置付けていたことが29日、内部文献で分かった。南シナ海の軍事拠点化を指示するかのような発言もあった。
発言の約3カ月半後に中国の軍艦が初めて尖閣周辺の接続水域に進入。以降、軍事的圧力を含めて強硬姿勢を鮮明にしており、習氏の発言が背景にあったのは確実だ。習指導部は異例の長期政権に突入したことで、悲願の台湾統一と合わせ、尖閣実効支配への動きを加速させる構えとみられる」
(共同 
尖閣諸島確保は「歴史的責務」 習近平氏、軍内部会議で発言 (msn.com)

もちろん、こんな「実験艦」を作らなくとも、今の海自イージス艦の迎撃ミサイルSM3を発射する垂直発射装置(VLS)を改修すれば、トマホークも運用が可能です。
どうせトマホークは、こう言っちゃナンですが「つなぎ」なのですから、直ちに既存の艦艇のセルを改修して少しでもいいから対抗抑止力を持つべきではありませんか。

ただし、その場合、本来艦隊防空とMD(ミサイルディフェンス)のために作られたイージス艦は、それらの一部を降ろしてトマホークに積み替えねばなりませんから、本末転倒です。

ハドソン研究所の村野将氏は、こうツイートしています。
Title1663090331919
核攻撃型トマホーク巡航ミサイル、完全退役(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース   

「米海軍の艦でも、VLSのうちトマホークが占める割合は3割程度です。
海自の艦は、VLSに余裕があるなら迎撃ミサイルを増やすべきでしょう。その上で、予算がなくて迎撃ミサイルが十分な数買えないといかいうことなら、余ったセルに巡航ミサイルを積んでもいいでしょうが、その程度では抑止力にならない。
米国の攻撃型原潜はトマホークのVLSを20積んでいます。日本も通常動力潜水艦にそうすれば信頼できる打撃力を得ることができるのではないでしょうか。

それまでのつなぎとしてトマホークをVLS装備するのもありということ」
Masashi MURANO🚀(@show_murano)さん / Twitter

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ウィキ

村野氏の指摘どおりで、今の海自の潜水艦を早急に改造して、1艦につき20発積めば5艦で100発ですから、それなりにまとまった対抗抑止となりえます。(それでも少なすぎますが)

ひとことでいえばこの防衛省のトマホーク構想は、中途半端感が否めないのです。
そもそもトマホークは、そんなに強力な対抗抑止のための兵器ではありません。
まずはのろい。最高時速が亜音速の880キロです。
すでに極超音速ミサイルの開発が進んでいる中国相手に使うには遅すぎる兵器です。
いままでトマホークが威力を示してきたのは、相手がまともな防空能力を持たない過激テロ団体相手だったからです。
強力な防空網を持つ中国軍にとっては、トマホークは簡単に落とせる存在と言えます。

また、トマホークは3種類の精密誘導システムを搭載しています。
TERCOM(地形等高線照合装置)、DSMAC(デジタル式情景照合装置)、INS(慣性航法システム)、GPS(全地球測位システム)ですが、中国軍が得意とするサイバー・電磁波・電子戦攻撃の前に無効化される恐れがあります。

三つ目に、トマホークの威力が弱すぎます。
弾頭重量はわずか454㎏にすぎず、米軍のもっとも使っているF-16A/Cで最大兵装搭載量 5443㎏ですから、10分の1以下です。
ひらたくいえば、トマホークは一見ハデですが巡航ミサイル10発で、F-16の1機分の能力しか持たないのです。

もし本気で対抗抑止能力を持って、中国や北朝鮮のミサイル発射基地を攻撃することを想定しているなら、トマホークは大部分目標に到達する前におとされるでしょうし、仮に何発かうまく当たっても、454㎏の弾頭の破壊力では、たちどころ修復されてしまいます。

「巡航ミサイルによる対地攻撃事例
2017年4月7日、米国はシリアが化学兵器を用いた攻撃を行った報復として、攻撃の拠点となったとみられるシャイラート空軍基地に対し、アーレイバーク級駆逐艦2隻を用いてトマホーク59発による攻撃を行いました。その後、この基地はどうなったでしょうか。
正解は「攻撃は成功したが、同基地は2日後に運用を再開した」です。巡航ミサイルでは、滑走路や掩体を長期間無力化することは難しく、やるなら数百という数を同時かつ繰り返し撃ち込める態勢が必要です。しかし、弾薬庫一つ作るのに苦労している中で、それだけの発射基や弾をどこに置くのでしょうか」

(村野ツイート前掲)

村野氏が言うように、トマホークを使うなら、飽和攻撃を戦術するしかありません。
飽和攻撃とは、相手がいくら強力な防空網を持っていようと、それを上回る数のミサイルを撃ち込んでマヒさせてしまうことです。
防衛省は何発買うのかわかりませんが、100発程度なら気休めの事故満足にすぎません。
せめて1000発くらいで構えねば対抗抑止たりえないのです。
財務省の言うがままに、チビチビ買い足していったら充分な数になるまで百年先になりますよ。


2022年10月30日 (日)

日曜写真館 日本がすつぽり入る秋の暮

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疲労困ぱいのぱいの字を引く秋の暮 小沢昭一

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まつすぐの道に出でけり秋の暮 高野素十

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はなれゆく人をつつめり秋の暮 山上樹実雄

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西するも 東するも 夕焼けし 高野素十

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どのみちといふ道へ出て秋の暮  山崎百花

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人の行く方へゆくなり秋の暮  大野林火

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足もとはもうまつくらや秋の暮      草間時彦

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不二筑波一目に見えて冬田面 三遊亭円朝

 

 

 

2022年10月29日 (土)

韓国、旭日旗が盛大に翻る国際観艦式に参加するってさ(笑)

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昨日は山路さんの見立てのように、歯ぎしりをしながら書きましたので、今日は軽い話題を。
おもわず笑いが込み上げてきますが、ありがたくも畏くも韓国海軍ニムが来月の国際観艦式にご出席いただけるそうで。みなさま、拍手を。

「ソウル聯合ニュース】韓国国防部と韓国海軍は27日、日本の海上自衛隊が来月6日に開催する国際観艦式に海軍の艦艇を派遣すると発表した。自衛艦旗には太平洋戦争当時の旧日本軍の軍旗だった旭日旗が使われるため、韓国内では観艦式への参加を巡り論争が起きており、波紋が広がりそうだ。
 国防部は観艦式への参加について、日本主管の国際観艦式にこれまで韓国海軍が2回参加した事例があることや、国際観艦式と関連した国際慣例などを総合的に考慮して決めたと説明した。
 公式発表に先立ち政府高官は同日、聯合ニュースの取材に対し、午前に開かれた国家安全保障会議(NSC)常任委員会で観艦式への参加を暫定決定したと明らかにした。
 国防部は、観艦式に合わせて開かれる捜索・救難を目的とした多国間共同訓練や、約30カ国の海軍高官が出席する西太平洋海軍シンポジウム(WPNS)への参加は、「友好協力の増進だけでなく、韓国海軍が周辺国や国際社会と海洋における安全保障を巡る協力を強化する良い機会」と説明した」
(聯合10月27日)
韓国 自衛隊国際観艦式に艦艇派遣へ=旭日旗問題で波紋も | 聯合ニュース (yna.co.kr)

参加させる艦艇は軍需支援艦(輸送艦)だそうです。なぁんだ、つまんな~い。

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10月韓国海軍の軍需支援艦(資料写真)=(聯合ニュース)

おーい、韓国海軍、自慢の艦艇を出せよと、ミーハーで思います。
なぜ独島級揚陸艦か、李舜臣級駆逐艦を持ってこないんだ~い。
艦名もステキにケンカを売っていますし、そもそも新鋭艦にこういう日本オラオラという名をつけるくらいだから自慢なんでしょう。
うちの国が、「かが」に「たけしま」なんてネーミングしたら、かの国は大爆発するだろうな。
それはともかく、「独島」なんか見た目は「空母」ですから、こちらの見た目は「空母」の「かが」と並走させてみたかったですね。

まぁ、 来たくないなら来なくてよかったんです。
だって、この国際観艦式は海自が単独でするものではなく、にぎにぎしくもアジア・オセアニアの自由主義陣営の海軍を集めてやるものだからです。
参加国は米英豪印のクアッド海軍、カナダ、NZのファイブアイズ、このうち米豪NZはANZAS、そしていうまでもなく日本と米国は日米安保、という具合に二十三重に作られた国際的集団安全保障の陣立てから参加してきているのです。
そして、日本との伝統的友好関係を持つインドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、ブルネイも参加します。
ちょっと色合いが微妙なのは中国ベッタリのパキスタンくらいですが、来るくらいですから、とりあえずレッドチームには入っていないよ、とアピールしたいのでしょう。
そう、この時期、国際観艦式に来ないのは、チャイナチームに行きますよ、という意思表示になってしまうのです。
それに同時開催される西太平洋海軍シンポジウム(WPNS)というのも、各国海軍のルールを決めたり、今のアジア・太平洋情勢の認識をすり合わせるのに大変重要な会議なのです。
ですから常識的には、韓国にとってこんな自由主義陣営が全部集まる国際観艦式に「来ない」という選択肢はありません。
あくまでも常識的には、です。
常識の外にいる韓国国内では、またまた上に下への大騒ぎとなるでしょう。
早くもそれを期待している韓国メディアは、今から腕まくりしています。
「来月6日に行われる海上自衛隊委員会の式典に我が国海軍が出席します。
過去の儀式や国際慣習への参加事例を考慮したと説明されていますが、海軍が自衛艦旗に敬礼しなければならないため、論争が生じるようです」
(韓国MBN10月27日)
海軍は7年ぶりに日本の王冠の式典に出席します...論争を再燃させるように見えます (naver.com) 
勝手に騒げばよろしい。日本は冷やかに眺めていましょう。
覚えておいででしょうか。ムンジェイン政権(ああ、懐かしい)は2018年10月に韓国が主催した国際観艦式に自衛艦旗を掲揚するな、という奇想天外な要求をしてきました。
旭日旗についてIOC見解が出る: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

韓国海軍主催した国際観艦式で、よほど旭日旗が嫌いだったのか、韓国政府は日本政府に対し自衛艦旗を掲揚しないように要求してきました。
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そのワケは、旭日旗が「戦犯旗」だという、これまた奇想天外な理由です。
あまつさえ恥の上塗りなことには、日本に対してのみそれを要求すると論理矛盾になるとかんがえたのか一律に参加海軍に軍艦旗を形容しないことまで求めちゃったのです。(爆笑)
この韓国政府の要請を、呆れて見ていた各国海軍は、参加した外国海軍10カ国のうち7カ国は自国の軍艦旗を堂々と掲げ、米国など残り三カ国は自国旗が軍艦旗が一緒なので、これまた堂々と翻すという具合にただの一国もこの非常識な自粛要請に従いませんでしたけどね。
ところで観艦式とは、軍艦を使った重要な外交の場です。
しかもハンパなく歴史が古いのです。
最初の観艦式は1341年、英仏の百年戦争の最中に、イングランド王、エドワード3世が出撃の際、自軍艦隊の威容を観閲したことに始まるそうですから、約700年前のことです。
そこから延々と伝統を積み重ねてきた外交の晴れ舞台なのです。
ですから、国際観艦式とはいわば国際大会の場の舞踏会のようなものですから、軍艦旗を掲げてはならんというのは裸でパーティに来いといっているようなものだったわけです。
韓国政府は国際パーティのホストでありながら、軍艦旗の意味をまったくわかっていなかったのですから、そのほうがびっくりします。
あの軍艦旗はただの旗ではなく、主権国家の象徴なのです。
だから、軍艦が他国に入港する場合には、必ず軍艦旗を掲げて、どこの国の艦艇なのかを明示せねばなりません。
韓国政府は自衛艦が韓国に入港する際には自衛艦旗を掲げるなと言っているようですが、バカ言いなさんなとばかりに、海自は韓国に行くこと自体を止めてしまいました。
なぜなら、軍艦旗を掲げないのは国際海洋法違反だからです。
国連海洋法条約第29条はこう述べています。
●海洋法に関する国際連合条約
第二十九条 軍艦の定義
この条約の適用上、「軍艦」とは、一の国の軍隊に属する船舶であって、当該国の国籍を有するそのような船舶であることを示す外部標識を掲げ、当該国の政府によって正式に任命されてその氏名が軍務に従事する者の適当な名簿又はこれに相当するものに記載されている士官の指揮の下にあり、かつ、正規の軍隊の規律に服する乗組員が配置されているものをいう。 
海洋法に関する国際連合条約 (doshisha.ac.jp)

おまけに、もう一丁押さえておきましょう。

当該国海軍の艦船であること,ならびに当該国の主権の存在を表示する旗章であり,換言すれば軍艦の特権(不可侵権,治外法権,納税免除,礼遇享受)を代表する。 航海中は常時,停泊中は午前8時に掲揚し,日没時に降下するのが原則である。 また戦闘中は檣頭(しようとう)に掲げ,戦闘旗と称している」
軍艦旗とは - コトバンク (kotobank.jp)
国内法としては自衛隊法第102条にこうあります。
「自衛艦その他の自衛隊の使用する船舶は、防衛大臣の定めるところにより、国旗及び自衛艦旗その他の旗を掲げなければならない」
つまり韓国の要求は非常識なだけではなく、国際法上も国内法上も違法な要求であって従う義務はまったくないのです。
だから海自は韓国の国際観艦式を拒否したのです。
改めて確認しますが、海軍艦艇は主権国家の「領土」です。
あんな小さな面積でも「国家」なのです。
だから主権国家に伴うすべての権限を有します。
不可侵、治外法権、そして特に韓国には耳をカッポじって聞いて欲しいのは、接受国から礼遇を受ける権利を持っているというのが決まりです。
ですから間違っても裸でパーティに来いよ、なんてありえないわけです。
各国海軍艦艇が、駆逐艦に搭載しているちいさなボートにすら、海軍旗を掲げているのはそのためです。
いかに小さくとも軍艦旗を掲げた舟を攻撃すれば、それは戦争行為と見なされます。


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かくしてこの一件があって、韓国の旭日旗ヘイトは世界に広まったのですが、それは決して韓国の立場を有利にしたわけでもなんでもありませんでした。
バッカじゃねぇか、と国際社会は思ったのです。
その意味では有意義な事件でした。

 

 

 

2022年10月28日 (金)

これがロシア軍の占領支配だ

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ロシア軍は腐り切っています。
先に解放されたハルキウ州イジュームでは、ロシア軍の戦争犯罪が次々に明らかになっています。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、10月19日、イジューム市のロシア占領政権による約半年間の占領期間の拷問や強姦などの人権侵害状況に関する調査報告を発表しました。
Ukraine: Russian Forces Tortured Izium Detainees

HRWは、ロシア軍人の被拘束者に対する拷問や盗みを詳細に報告し、これがロシアによる占領計画の一部であったと報告しました。

「拘束を生き延びた者たちは、ロシア兵が人々を拘束し、虐待を行っていた場所を少なくとも7か所(内2か所は学校)を特定したという。ロシア兵に拘束されていた人々は皆、ロシア兵は彼らから金銭、高価な物品、電気製品、自動車などの物を盗んだと述べたという。
HRWのベルキス・ウィル氏は、「私たちの調査結果が示すことは、ロシア軍は、彼らの占領していた多くの場所でおそろしい虐待を行っていることであり、彼らが支配を続けている他の地域でも類似の虐待が行われているだろうことが本当に懸念される」と発言した」
(ウクライナフォーラム 10月27日)

またHRWのベルキス・ウィル氏は、このような被占領市民に対する拷問、レイプ、強盗、処刑などの行為が、戦場心理から生まれたものではなく、ロシアの計画的政策だったとしています。

「イジュームでの残酷な暴力、虐待は偶発的な出来事ではなかった、「複数の犠牲者が、私たちに、ロシア軍やその協力者が支配する施設における尋問の際の類似の拷問の経験について、信頼できる話を共有した。それが示すことは、そのような扱いは、ロシア軍の政策であり計画の一部であったということだ」
(ウクライナフォーラム前掲)

HRWの報告書にはロシア兵と書かれていますが、おそらくFSBが尋問をしていたと思われます。
彼らが拘束した市民の職業や、尋問した内容も伝えられています。

「拘束された人びとは全員、警察や軍に勤務していたイジウム住民の名前や、2014年にドンバス地域で起きたウクライナ軍と治安部隊のATO作戦の退役軍人の名前を明かすよう命じられたと話した。武器や薬物を所持していたとして告発された者もいた。二人は、ロシアを支持するかどうか直接尋ねられたと述べた」
(HRW報告書)
国際人権団体、ハルキウ州の人権侵害報告書公開 「ロシア軍の拷問は政策・計画の一部」 (ukrinform.jp)

占領地ではFSBが反乱・抵抗の鎮圧を指揮し、通信傍受を含む捜査・防諜能力を提供します。
手足となるのはロシア軍だけではなく、国家親衛隊、内務省の警察部隊、ワグネルなどの民間軍事会社などです。
今回もロシアは対ウクライナ戦力だけではなく、それ以外の民族浄化のためだけの部隊を最低で数万人規模投入したと見られています。

この民族浄化部隊がやったことは、HRWの報告書によれば、このようなことです。
ロシア軍は占領すると、翌日から始まったのは外出禁止令と令状なしの家宅捜索でした。

とくに元ウクライナ政府や軍、情報機関・警察などの公務員や政治家はことごとく拘束されて尋問を受けました。
学校や集会場などの建物に銃を突きつけられて集められ、ここで「尋問」という名の拷問を受けることになったのです。

「生存者は、電気ショック、水責め、激しい殴打、銃を突きつけられた脅迫、長期間にわたってストレスポジションを保持することを余儀なくされたと証言している。彼らは、2つの学校を含む市内の少なくとも7つの場所を特定し、兵士が彼らを拘束し虐待したと述べた」
(HRW報告書)
ウクライナ:ロシア軍がイジウムの被拘禁者を拷問 |ヒューマン・ライツ・ウォッチ (hrw.org)

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HRW

上の写真は、ロシア軍が人々を拘束するために使用した7ツの施設のうちのひとつであるイジウム中央警察署の独房の廊下です。
拘束されてここに連行された人々は、
14日間拘禁されました。

男たちは全員、電気ショックを受けたり、拳や銃台尻、金属パイプ、プラスチックパイプ、ゴムホース、そしてある例では砂の袋が端に付いた棒で殴られたと証言しています。

「兵士たちが彼を膝を上に曲げて床に座らせたと言いました。それから彼らは彼の両手を膝の下に縛り付け、彼の胸と脇の下に金属棒を挿入しました。それから彼らは金属パイプを持ち上げて吊るすようにしたと彼は言いました」
(HRW前掲)

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HRW

「ボグダン氏によると、兵士たちはビニール袋を頭にかぶせ、窒息させたしたという。ある時、彼が兵士たちにいかなる情報も与えようとしなかったとき、ある者は、彼らが彼を「瓶の上に座らせ」、肛門レイプを示すと脅した。ボグダンは、ロシア軍が彼を釈放したのは、彼が今後情報提供者として彼らのために働くことに同意した後だけだと述べた」
(HRW前掲) 

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HRW

また拘束された女性からは、レイプされた者が多数出ました。
ロシア軍は、サディスティックな性的快楽としてこの尋問を利用していたのです。
下の写真は拘禁された部屋の壁ですが、よく見ると下半分の所に走り書きがあります。
これは逮捕された女性が書いたもので、彼女の名前とこのようなことが書かれています。

「電気、服を脱いだり、レイプされたり」、「かろうじて生きている」、「殺された」、「非常に痛い」、「助ける」といった言葉やフレーズを見た。彼女はワシントン・ポスト紙に、拘留中に自殺しようと考えたと語った」
(HRW前掲)

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HRW

ロシア軍は面白半分で人々を拷問し、レイプしたのです。
拘束さた人々の待遇は最悪であり、狭い日が差さない部屋に13名も詰め込まれ、食事は1日に1回、水は約1.5リットルだけでした。
そして全員が電気ショックによる拷問を受けました。

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HRW

これらの拘束された部屋のコンセントには、黒く焼け焦げた跡が残されています。

そして組織的略奪が行われました。
下写真はイジュームではなくキーウ近郊の街で撮影されたものですが、このような略奪は占領各地で日常的に行われていました。
当初は補給が滞ってやむなくしたと言われていましたが、略奪も占領政策の一環であったようです。

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ロシア軍撤退後の民家から、地雷など、帰還後の住民をねらった罠が発見されている|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

「警官や救助隊員、軍関係者が住む民家やマンションなどは、とくに集中的にねらわれた。ウクライナのニュースメディア『ウクインフォーム』は、略奪行為中に住人の職業を推測したのではないかとみている。
ロシア兵たちはウクライナの民家に無断で滞在し、略奪目的で住人の私物を物色している。所有物から警察や軍などの関係者だと確証した際、こうした人物をねらい撃ちにする罠を残した模様だ。
内相は、車にも罠が張られているとして注意を促した。「17歳の青年が車内で焼け死んでいた車もあります。(火の勢いが強く)骨しか残されていませんでした。ほか、女性の頭部が吹き飛ばされました。さらに別の男性も焼死し、車で倒れていました。」 車のトランクに地雷が仕掛けられており、開けようとした男性が爆風を受け死亡する例も出ている」
(ニューズウィーク4月18日)

ロシア軍は占領地を徹底して破壊して略奪し、去るに際してはブービートラップを仕掛けて行きました。
この仕掛け爆弾によって、帰宅した多くの市民が死傷しています。
またロシア軍は虐殺した市民や、自軍の戦死体すら放置したまま逃げましたが、それらには仕掛け爆弾が見つかっています。

これらの戦争犯罪は軍隊の中に特に残虐な者がいて起きた事件ではなく、ロシアがかねてから準備して計画した民族浄化政策でした。
したがって、占領された各地で行われていたはずです。
その氷山の一角がブチャの大虐殺であり、このイジュームなのです。

この戦争が終わった後、これに関わったロシア軍、FSBの実行者、そしてそれを命じた者らは、草の根をわけても探し出し、戦争犯罪国際法廷に連れ出し相応の罪を贖ってもらわねばならないでしょう。
もちろんその戦犯の筆頭にはプーチンがいます。

 

 

 

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【10/24(月)掲載 企業広告】 世界を敵にまわして、生き残ったヤツはいない。|株式会社 宝島社のプレスリリース (prtimes.jp)
ウクライナに平和と独立を

2022年10月27日 (木)

ヘルソン陥落間近

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双方がウクライナ戦争の天王山と考えていた南部ヘルソンで、ロシア軍が潰走を始めました。

「(CNN) ウクライナ南部のヘルソン州やザポリージャ州で、ウクライナ軍が西側諸国が供与した長距離砲を利用して補給線に対する攻撃を行っているため、ロシア軍のプレゼンスが弱まっていることがわかった。ウクライナ当局者が明らかにした。
ロシア軍の支配下にあるザポリージャ州メリトポリのフェドロフ市長は、市の南西にある鉄道橋が破壊されたことでロシア軍の補給ルートが複雑化したと述べた。
フェドロフ氏は、ロシア軍はメリトポリを弾薬や重火器の輸送の拠点としていると指摘。ロシア軍は弾薬の移送の大部分を鉄道で行っているが、13日から14日にかけて鉄道橋が破壊された。ロシア軍は鉄道橋の復旧ができておらず、がれきを除去しているところだという」
(CNN8月16日)
補給線への攻撃、ロシア軍に打撃 ウクライナ南部 - CNN.co.jp

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ロシアのウクライナ侵攻 - Yahoo!ニュース

ロシア軍はドニエプル川東岸に退却していますが、大砲や戦闘車両などの重量物は川を渡るフェリーに積めないために、大多数を放棄しているようです。どうやらウクライナに対する最大の補給国はロシアのようです。

さて、古今東西すべての戦争に共通するのは、戦闘局面でもっとも難しいのが退却戦だということです。
陣地に立て籠もっている間は「兵隊」であっても、いったん背中を見せて逃げまどうような者はただの暴徒にすぎません。
ですから、常識ある司令部は殿(しんがり)を預かる部隊に最精鋭を当て、秩序なき崩壊にならないように配慮します。

ところがこの南部戦線のロシア軍はそんなことには無頓着で、真っ先に大砲や戦車を捨て、銃を捨て、軍服すら脱ぎ捨てて避難民らの渦の中に紛れ込んで逃げているのですから投了です。
殿軍は不在なようで、これが今年2月24日まで「世界第二位の軍隊」と自称していたのですから、信じがたい光景です。
東岸で防衛戦を敷くようにプーチンは命じたようですが、どんなもんでしょうか。
こんな逃げ癖がついたような弱兵は、仮に東岸で再編成しても使い物になりません。
形だけ抵抗したフリをして、投降するでしょうね。

ISW(戦争研究所)はこう述べています。

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30以上の無料ドニエプル川&ウクライナ動画、HD&4Kクリップ - Pixabay

「ウクライナ参謀本部は、ロシア軍がドニエプロ川東岸のカホフカ病院から患者を連れ去っており、川を渡って撤退することに起因する可能性のあるロシア軍の死傷者のために病院のベッドを解放する可能性が高いと付け加えた。ウクライナ参謀本部は、一部のロシア軍分子がヘルソン市を市街地戦に備えさせているが、他の軍人はアントニフスキー橋の近くで運航するフェリーで市から逃げ続けていると指摘した」
(10月22日)
ウクライナ紛争の更新|戦争研究所 (understandingwar.org)

上の写真に見えるアントノフスキー橋は既に破壊されて通行不能で、西岸に逃げるには小さなフェリーしかありません。
たぶんウクライナ軍は西岸に戻る舟も攻撃対象とするでしょうから、数が激減するはずです。

そもそもこの市民避難はロシア軍が命じたものでした。

ロシア占領当局は10月22日、ヘルソン市から民間人の強制退去を命じた。 ロシア・ヘルソン占領局は、「ヘルソンのすべての市民は直ちに市を去らなければならない」と発表し、すべての民間人と「すべての省庁は今や[ドニプロ川]の[東]岸に渡らなければならない」と述べた。占領軍は前線の「緊迫した」状況、「都市への大規模な砲撃の危険性の高まりとテロ攻撃の脅威」を挙げ、避難者が川を渡るためのボートをどこで見つけることができるかについての指示を与えた」
(ISW前掲)

このロシアがやる「市民避難」は一見すると人道的にみえますが、しかしロシアがやる「避難」とはロシア領に連行する強制移住のことだと、マウリポリでわかっています。
つまり民族浄化の一環です。

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ウクライナ・マリウポリ 人道回廊で市民避難始まる 露「新型ICBM実験成功」欧米けん制【モ-サテ】(2022年4月21日) - YouTube

「ロシア占領当局者は、ヘルソン州の民間人をドニエプロ川東岸に「避難」させる努力は、より広範な再定住計画の一部であると示唆し続けた。 10月25日、ヘルソン占領副官キリル・ストレムソフは、占領当局者がドニプロ川西岸から東岸に22,000人以上を移動させ、政権の「再定住プログラム」(программа переселения)は60,000人を収容するように設計されていると主張した」
(ISW前掲)

今回のドニエプロ川西岸からの「市民避難」も、恒久的な再定住だと見られています。
おそらくマウリポリの例から見ると、避難民は辺境のサハリン州などに「流刑」されてしまう可能性があります。
いうまでもなく、一時的避難措置は国際法上合法であっても「ロシア当局がヘルソン州人口の大部分を恒久的に再定住させる」ことは違法です。

一応ロシア軍は東岸に守備隊を置いているとしています。

「(CNN) ウクライナ軍は25日、南部ヘルソン州のロシア支配地域に駐留するロシア軍がドニプロ川東岸沿いに「守備陣地」を準備しつつ、西岸から撤退する可能性に備えて退避経路を残していると主張した。
ウクライナ軍は最新の戦況報告の中で、「入手可能な情報によると、敵はヘルソン州のドニプロ川左岸(東岸)に守備陣地を用意している」と述べた。
東岸のホルノスタイウカ周辺ではロシア軍の工兵部隊が河岸沿いに地雷を敷設しつつ、右岸(西岸)から撤退する場合に備えて小さな退避経路を残しているという」
(CNN10月25日)
ヘルソン州のロシア軍、「撤退の可能性」に備え ウクライナ軍が主張(CNN.co.jp) - Yahoo!ニュース 

ヘルソン市内で市街戦に持ち込むつもりだという噂もありますが、仮にそうしたとしても補給を断たれて孤軍となった彼らに勝機はありません。
かといって玉砕するような根性もないはずです。

「州都ヘルソン市から住民の大半が出た。残るロシア兵は私服に着替えて集合住宅の空き家に入り、市街戦の準備をしているようだ」。ウクライナ軍参謀本部は22日、苦戦するロシア軍が戦術を切り替え、奪還作戦の阻止を試みているとみて警戒を促した。
 兵士が民間人を装うのは国際法違反。ロシア兵が住民の車を盗み、市外に脱出を試みているとの情報もあるという
(時事10月24日)
南部戦線、天王山に プーチン政権「核」言及 ウクライナ侵攻8カ月(時事通信) - Yahoo!ニュース

電気洗濯機を担いで逃げるクズのような兵隊たちに、一区画、一区画、ビルを一つずつを取り合うような、かつてのレニングラード攻防戦のような戦い方ができるでしょうか。

ヘルソンは時間の問題で奪還され、クリミアは裸になります。
勢いを増すウクライナ軍は、ヘルソンからさらに南下するのか、それとも西に転じてアゾフ海沿岸のマウリポリを奪還に向かうのでしょうか。

ロシア兵は砲兵の支援があるうちだけは元気です。
下図はロシアとウクライナ両軍の砲撃回数を見たグラフですが、赤線がロシア軍、青線がウクライナ軍です。

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クリックすると大きくなります。

10月19日を頂点として、以後ロシア軍砲撃回数は急降下しているのがわかります。
8月まではロシア軍が砲撃で打ち勝っていたのがわかります。
ウクライナ軍が、一発撃つと10発返ってくると言っていたように重火力で撃ち負けていたのです。
この重火力不足こそが、キーウでロシア軍を退けたのちの、ウクラナイナ軍が耐えた困難な半年の原因です。

しかしこれを一気に覆したのが、東部のハルキウ州で実施された今世紀最大、最長の規模のズブロスキ急襲作戦の成功です。
この作戦で(最上段地図の緑色部分)が奪還され、東部2州の運命が決まりました。
そしてロシア軍の東部からの鉄道による補給路は完全に切断され、南部戦線への補給が破綻しました。
そして先日、クリミア大橋が破壊され、ロシアからクリミア半島を経て補給されていた弾薬が途絶えました。
一方、ウクライナには米国などからの大砲やハイマースなどの支援が到着し、ここに完全な火力の逆転現象が生じました。

ロシア軍はソ連軍からの伝統で、大砲を戦場の神と崇める軍隊です。
ですから弾薬が続くうちは優位にたてますが、いったん補給が途切れると一気に崩壊します。
今このロシア侵攻軍の崩壊過程を私たちは見ています。

今のウクライナ兵の顔を見てください。本当に明るい。

 

 

 

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ロイター

ウクライナに平和と独立を

2022年10月26日 (水)

ともに仕掛ける海上封鎖戦

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では、台湾に侵攻した場合、西側はどう対応するでしょうか。
まずは、ロシア制裁規模の国際的金融・経済制裁が課せられることは間違いありません。
ただし西側は返り血をたっぷりあびることになりますが。

つぎに軍事的には、南シナ海と台湾海峡は、ザ・クアッド海軍+英仏海軍によって海上優勢が図られることになります。https://foimg.com/00049/sOaiVa
このG7共同宣言を現実に実体化したのが、ザ・クアッド+英仏海軍ですが、この「国際艦隊」は、南シナ海と台湾海峡を封鎖することでしょう。
英国と日本が第2次日英同盟結成を視野に入れていることは知られた事実です。
またANZAS(豪NZ米国安全保障条約)に日本も加入しないか、という噂もたっています。
豪とはすでに準同盟関係ですからあながち夢想ではありません。
いまや台湾問題は、ウクライナ戦争以降一気に自由主義陣営全体の問題として共有化されてきており、 行動に移るまでにさほどの時間はかからないと思われます。
むしろもっとももたつくのが、恥ずかしながらうちの国でしょう。

もうひとつの問題が、台湾の国際的地位のあいまいさです。
台湾は別個の独立国として日米は承認していません。
それは中国との外交関係が破綻することを恐れているからですが、中国から台湾侵攻した場合、ウクライナ戦争以降の国際世論はこれを「独立国への侵略」として認識するでしょう。

習近平が先に侵略を仕掛けた場合、米国はためらうことなく台湾支援に入ります。
そのことはなんどもバイデンは口にしています。

かねてから台湾の防衛を約束した台湾関係法がありますが、いまやそのレベルではないからです。
一気にいままでの懸案だった台湾の国家承認と集団的自衛権を済ませることでしょう。

そのくらいウクライナ戦争前と後では、侵略に対する意識は一変しているのです。

侵攻が差し迫って台湾が覚悟を決めて明示に「独立」に踏み踏み切った場合も、米国が直ちに国家承認し、これで国連憲章上の集団的自衛権を公然と援用して台湾を支援できるようになります。
当然米中関係は破綻しますが、もはやこの段階でそのようなことを気にするわけがありません。

我が国もまた安保条約上の義務を履行し、さらに台米を助ける集団的自衛権行使を真剣に検討せねばなりませんが、いまの岸田政権に台湾有事は日本の有事という安倍氏のような覚悟があるかは疑わしい限りです。

では、具体的な台湾防衛はどうするのでしょうか。
当然のことながら、攻防の想定戦場は台湾海峡以外ありえません。
中国の侵略を封じ込める方法としてもっとも安上がりで、もっとも効果的な方法が機雷戦です。

「『ネイバル・ウォー・カレッジ(Naval War College Review)』の最新2022年冬号には、「中国に対する攻撃的な機雷敷設作戦」と題するマシュー・カンシアン(Matthew Cancian)氏の論文が掲載された。マシュー・カンシアン氏は、元海兵隊大尉の退役軍人であり、マチューセッツ工科大学で政治学の博士号を取得。現在は、ネイバル・ウォー・カレッジで軍事作戦を研究している人物だ。
彼の論文によると中国の台湾侵攻を阻止するには、台湾海峡に機雷原を敷設することが、戦闘的作戦よりもリスクの低い危機対応の方策だとして、中国が台湾に侵攻しようとする危機が発生した際に機雷敷設が行えるよう、平時の備えをすべきだと主張している。
中国の貿易の60%は海路で行われ、海上輸入は世界の海上貿易の4分の1を占めている。台湾海峡を封鎖すればその影響は、廈門(アモイ)、泉州、福州の各港にも及び、中国国内の貿易を混乱させるのには十分だ。費用対効果にすぐれた機雷戦を台湾海峡に仕掛けることで、台湾防衛を果たそうとするのがこの論文の主旨である」
(山崎文明 hanada10月7日)
台湾有事は「機雷戦」で起こる|山崎文明 | Hanadaプラス (hanada-plus.jp)

Photo_2 海底地図 海上保安庁海洋情報部提供。海底地形名称・海上保安庁発行海図「南西諸島(No.6315)」に基づく笹川平和財団https://www.spf.org/islandstudies/jp/info_library/senkaku-islands/03-ocean/03_ocean001.html   

画面右下から画面左・北東にかけて斜めに濃い青色で伸びているのが、沖縄トラフです。 
画面左半分の白く見えるのが中国大陸で、そこから連なる大陸棚が白っぽく表示されていますが、 大陸棚の水深はわずか200mていどで、極めて浅い海域だと分かります。

そのために大型船が使う港は、年中浚渫しつづけないと埋まって使い物にならなくなってしまうそうです。 
まさにあつらえたような機雷を敷設するに適した浅海です。
とくに台湾海峡は浅い上に、狭い海峡です。

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台湾海峡の地形図 (weibo.com)

台湾海峡の地形と位置を押さえておきます。

「台湾海峡は、福建省と台湾の海岸の間に位置し、福建省の黄岐半島の北端のツイ(福建省海壇島の北端)と、台湾島の富貴角との結びつきを北の国境とする、中国の南北の海上輸送の要である。
南界は、台湾島の南端の猫の鼻から福建省の安安頭(ガチョウの鼻と南オーストラリア島の南端)を結ぶ。 台湾海峡は、南北約370kmの南北に、ほぼ東と南に向かっています。
海峡の北は幅が狭く、北口は幅約200km、南口は幅約410kmで、最も狭いのは台湾の白沙岬(台湾新竹の北西海岸)と海壇島の間で、約130kmです。 海峡の面積は約83,000平方キロメートルです。中国東海大陸棚の台湾海峡は、北の水深60~80メートル、南の水深40~50メートル、平均水深約60メートルの起伏がある。
海峡には、台湾の浅瀬、台中浅瀬、湖列島からなる北東から南西の隆起帯があります。 東西に20メートルと50メートルの水深を持つ2段階の土地がある」
台湾海峡の地形図 (weibo.com)

習近平が侵攻の構えを見せた場合、米軍はかつてと違ってこんな狭い海域に空母打撃群を入れるようなことはしません。
対岸に中国が有効な対艦ミサイルを多数配備している上に、こんな狭い海域では大所帯の空母打撃群は身動きがとれないからです。
その代わりに、B!・B2爆撃機などを使用した航空機雷の場合、短時間で台湾海峡は封鎖可能です。

「台湾海峡は浅く狭いため、機雷を敷設するのに適した地域とされている。台湾海峡は、長さ約300キロメートル、幅は平均180キロメートル、最も狭いところで130キロメートルである。水深は平均60メートルで、最も深いところでも100メートルしかない。海峡の航路は、水深20メートル、幅8キロメートルの帯状に集中している。こうした地形と現在の米軍の能力を考えると、空中投下型機雷が使われることが想定される」した地域とされている。
台湾海峡は、長さ約300キロメートル、幅は平均180キロメートル、最も狭いところで130キロメートルである。水深は平均60メートルで、最も深いところでも100メートルしかない。海峡の航路は、水深20メートル、幅8キロメートルの帯状に集中している。こうした地形と現在の米軍の能力を考えると、空中投下型機雷が使われることが想定される」
(山崎前掲)

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たぶんMK62クイックストライク航空機雷が台湾海峡に敷設されることになるでしょう。
そして中国の出方を見ながら、エスカレーションの必要があるなら、大陸沿岸の主要港、海上ルートすべてに機雷が敷設されていきます。
機雷を敷設された場合、旧式装備しか持たない中国海軍は手に負えないはずです。

一方、中国もミサイル攻撃だけで台湾が陥落するとは思っていないでしょうし、上陸作戦をする能力が低いことも知っているはずです。
軍事に疎い習近平が海上突撃をさせた場合、狭い台湾海峡は修羅場に変わるはずですから、残る方法は海上封鎖です。
ただし、習近平が直接に戦争指導まで口バシをつっこんだら、派手な上陸作戦をやりたがるかもしれません。
プーチンなど独裁者はパーフォーマンスが好きなのでやりかねませんが、確実に失敗します。

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海上の決死隊 東海艦隊の掃海艇編隊が機雷除去_中国網_日本語 (china.org.cn)

「2009年に米海軍大学中国海洋研究所から発刊された『中国の機雷戦(Chinese Mine Warfare)』には、最も現実的なシナリオとして、機雷戦を取りあげている。
今年8月のペロシ米下院議長の台湾訪問への抗議として行われた中国人民解放軍の海軍、空軍、ロケット軍、戦力支援軍、統合後方支援軍が参加した台湾周辺の6箇所の空域及び海域での大規模な軍事訓練のようなものではなく、実際の中国の台湾への侵攻は、台湾の抵抗を硬化させず、死傷者と物理的損害を局限化する方策として機雷戦を計画している可能性が高いとしている」(山崎前掲)

しかしここでも問題となるのが、台湾の国際的地位の問題です。
中国が海上封鎖をした場合、皮肉にも台湾を交戦団体として認知してしまうことになります。
海上封鎖ラインが領海の外に出た瞬間、中国は台湾を「国家承認」したことになるからです(苦笑)
中国にマトモな法務官僚がいれば、台湾の地位承認に結びつきかねない封鎖を回避して、同様の効果を狙う交通路遮断作戦を選択するかもしれません。

いずれにしても、火薬庫につながる導火線はどんどんと短くなっていることだけは確かです。

 

 

2022年10月25日 (火)

台湾侵攻は早まるだろう

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今回の大会で、習近平が選んだ新指導部に特徴的なことは、経済が分かる者がひとりもいないことです。
いままで経済を運営してきた李克強ら開放改革派は一掃されてしまい、経済統計を読める実務派官僚層も指導部内から追い払われました。
10月24日になって、延期されていた第三四半期のGDPが発表されましたが、前年同期比3.9%増と、予想よりは高かったと当局は説明していますが、なにせ発表延期して都合のいい数字でコネ繰り回してこの数字がこれですから、ほんとうはマイナス成長だったと見られています。

やがて外国の貿易統計がでるでしょうから、わかるでしょう。
もうそれを見越して香港の株式市場は売り一色です。どんどん海外のマネーが逃げていきます。

経済運営の具体的方針はなく、その代わりに出てくるのが共産党的赤い精神論です。
気合だぁ、闘争精神だぁ、階級闘争だぁ、米帝なにするものゾ、台湾開放を貫徹するゾ、という赤い気合です。
たとえば今回の党規約改正案は、改革といういままで盛んに使われてきた開放改革路線の表現が激減し、新たに中共の「闘争精神」という文言が激増しました。

たとえば決議では次のように述べています。

「あえて闘争し、あえて勝利する(敢於闘争、敢於勝利)は、党と人民の無敵の強大な精神パワーである。党と人民が得る一切の成果は、すべて闘争を通過したものだ。
大会は闘争精神を発揚して、闘争の本領を増強する内容を党規約に盛り込むこと、つまり赤い遺伝子の伝承に同意する。新たな偉大なる闘争の歴史的特徴を掌握し、全国各民族人民を団結させ率いて、中国の特色ある社会主義の新勝利を奪取しよう」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.644 2022年10月24日)

「あえて戦い、あえて勝利する」「党と人民の無敵の強大な精神力」「赤い遺伝子の伝承」、毛沢東主義丸出しです。
こういったガチガチの毛沢東主義的精神論は、いかにも毛沢東コンプレックスの習らしい表現です。
習は強度の毛沢東信者です。
そのうえに自分が毛沢東の蘇り、自分こそ中国共産党の闘争の歴史が生み出した必然だと信じています。

米ニューヨークの法律学者の虞平は、このように見ています。

「虞平は、こうした表現は、習近平が毛沢東の闘争哲学の魂をよみがえらせているとみている。すなわち、毛沢東が深く信じる「天と闘い、地と闘い、人と闘い、その楽しさ尽きる事なし」という闘争精神だ。習近平は闘争の実践として、政治粛清を党内的に行い、対外的には外国との矛盾を中華民族と帝国主義、あるいは現代強権との闘争として行ってきた」
(福島前掲)

過去、習近平は熱烈な毛沢東信者であることを隠して生きてきました。
習近平がチャイナセブンのトップである総書記に立てたのは、江沢民の上海閥と共青団との内部抗争で指導部を作ることができずに、一見茫洋として人畜無害な熊プーなら人畜無害だろうと思われていた習を選んだにすぎません。
江沢民は院政政治でガッチリ胡錦濤を縛ったように、熊プーなどに権力を与える気はさらさらなかったのです。

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福建省時代の習近平

しかしこの熊プーは実はとんでもないモンスターで、自分が毛沢東の生まれ変わった人間だと信じていたのが、彼らの運のツキの始まりでした。
習近平は、その無害そうな顔の下に文革時代のトラウマを抱えて、ずっと復讐のチャンスを狙ってたのですからタチが悪い。
習近平は屈折した人物です。

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1973年、「上山下郷」の時代の習近平氏(左から2人目)、陝西省延川県。新華社

青沼陽一郎氏は習近平のバイオグラフィを丹念に追っています。
(青沼陽一郎『習近平はいかにして最強の毛沢東信奉者となったのか』)
下放時代の習近平、洞穴暮らしで心に刻んだこと 習近平はいかにして最強の「毛沢東信奉者」となったか(後編)(1/3) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)
この習近平の生い立ちは、同世代の人間としても大変おもしろいので、別途に記事で紹介することにします。

さて、ウクライナ戦争と今回の習近平の完全独裁体制ができるまで、私は台湾侵攻に関してやや懐疑的でした。
合理的に考えれば不可能だと考えて、このような記事を書いています。
ウクライナ戦争の教訓に学ばない中国軍: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

前言を修正します。中国の台湾侵攻の可能性は高いと思います。
ロシアは、西側軍事筋がありえないと分析する中、ウクライナに攻め込みました。
中国もそうしないと誰がいえるでしょうか。

思い出して頂きたいのですが、今年2月ころの日本の論調では、ウクライナ侵攻はないが圧倒的多数でした。
始まった後も、ウクライナ軍は瞬時に殲滅され、ゼレンスキーはたちまち西側に亡命する、だから戦争は短期で終わる、そう読んでいました。
今頃になって、プーチンは狂人だったということが分かりました。
今になると、そうとしか説明のつかない合理性を無視した侵略だったからです。
プーチンは狂っているのか?: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

この狂気の沙汰を可能にしたロシアの条件はふたつあります。
ひとつは徹底してプーチンにのみ権力が集中する個人独裁体制であったこと、ふたつめは軍の統制権もプーチンが持っていたことです。
徹底した個人崇拝が存在する国で反対を唱えることは死を意味します。
情報機関と警察を握っているからです。
いや、そもそも反対を言う前にそのような者たちは、とっくに権力から追放されるか殺されています。

そして政府のみならず、軍もプーチン個人の思惑ひとつで動きます。
今回のウクライナ戦争で4方面から侵攻する、それも19万というなめくさった少数で広大なウクライナを占領しようとする、それを統べる総司令官は置かない、なぜならプーチンが直接に戦争指導するからです。
中国の軍事筋はこれを見てこう述べています。

「どこかの素人が立案したのかと疑う」
(月刊パンツァー11月号『中国から見たウクライナ戦争』)

そのとおり「素人」が指導したのです、プーチンという名の独裁者の素人が。

では、このロシアと同じ条件を持つ国が、もう一つあるのに気がつかれたでしょう。
言うまでもなく、それは中国です。
この大会で中国共産党はとうとう「習近平の党」の私党と化しました。
すべての共産党・人民解放軍・政府はの権力は、習近平ひとりに集中するような仕組みに変えられました。
そして、習は人民解放軍のを動かす権力をひとりの手に納めました。
いままでこのよう過剰な権力を防ぐために、鄧小平が定めた個人崇拝の禁止と集団指導体制というリミッターは打ち捨てられました。
習に合理的な改革開放経済を要求し、国際協調を唱えてきた共青団派はパージに合い,彼らのかつての指導者格で長老だった胡錦濤は大会会場から排除されるという屈辱を味わいました。
もう、習を止められる者はいないのです。

中国は台湾侵攻に踏み切る可能性がきわめて高くなりました。
米海軍トップのマイク・ギルデイ米海軍作戦部長は27年ではなく、今年か来年の可能性も出たと述べています。

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時事 マイク・ギルデイ米海軍作戦部長

【ワシントン時事】中国がこれまで想定された2027年よりも早期に台湾に武力侵攻する可能性が高まっているとの指摘が米政府から相次いでいる。米海軍首脳は来年までの台湾有事もあり得ると警告した。
マイク・ギルデイ米海軍作戦部長は19日に米シンクタンク「大西洋評議会」のオンラインイベントに出席。台湾有事に関する質疑の中で「2027年ではなく、私の中では22年、あるいは23年の可能性もあると思っている」と発言。「過去20年間を見ると、中国は目標よりも早く実行に移してきた」と警戒感をあらわにした。
 中国の台湾侵攻の時期を巡っては、21年にデービッドソン米インド太平洋軍司令官(当時)が27年までの台湾有事の可能性を指摘。27年は中国軍創設100年の節目で、習近平国家主席は同年に「奮闘目標を実現する」としている」
(時事10月21日)
中国、想定より早い台湾侵攻も 来年までの可能性警告―米海軍首脳:時事ドットコム (jiji.com)

この米作戦部長の意見以前には、このようなコーエンCIA副長官とデービットソン・インド前太平洋軍司令官の2027年説という見立てもありました。

「習近平国家首席が、2027年までに台湾を武力制圧する能力を持つように部下に指示した。」と米中央情報局(CIA)のデビット・コーエン副長官が表明したと伝えている。一方、台湾侵攻に対する中国の指導部が、最終的な判断をしたとの情報はないとも伝えている。この2027年という年は、中国人民解放軍の創設100年に当たる年であり、習近平国家首席が続投していれば、3期目の任期を終える節目の年である。2027年に中国が台湾へ侵攻するとの予測は、インド太平洋軍のトップだったフィリップ・デービッドソン氏も2021年3月に米議会公聴会で述べており、その年の米国防総省の年次報告書にも反映されている」
(CNN9月17日 )

今回のギルディ作戦部長の説は、これを5年前倒しにして、しかもインド太平洋軍に「戦闘準備」をとっておくようにという内容まで含んでいます。

「米軍事専門サイト「Defense News」が伝えたところによりますと、マイク・ギルデイ米海軍作戦部長は今月19日、米シンクタンク「大西洋評議会」で、台湾周辺の状況がエスカレートする可能性のある時期について早ければ今年中に台湾周辺の紛争がエスカレートする可能性を否定しておらず、アジア太平洋地域の米軍艦船は「戦闘準備」を整えておくべきだ、と警告しています。
また、「我々が過去20年間見てきたのは、彼ら(中国政府)が断言してきたことはすべて、実行すると言った時期よりも早く実行してきたということだ。しかも現地に投入する船は、戦う準備ができていなければならない」とも述べました」
米海軍作戦部長、「台湾をめぐる対立、年内に激化する可能性」 - Pars Today 

残念ですが、戦争が始まるかもしれません。
中国にとって今の時期は、米国がウクライナ支援で手薄になっている今の時期を狙う可能性があります。
それは米国がウクライナ・台湾の2正面をで戦うことは不可能だと見ているからです。

そして国内的にも、習の独裁体制確立によって反対派を追い払った今、いまや磐石の国内体制があるという号砲に使える絶好の侵攻日和、そう習が考えたとしてもなんの不思議もありません。
国内経済が低迷し、コロナ封鎖で行き場のない憤懣を抱えている国民にもいいガス抜きになる、そう考えても不思議はありません。

 

2022年10月24日 (月)

団派の終焉、胡錦濤強制退場

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中国共産党大会の続報です。
新しい政治局常務委員の顔ぶれについては福島香織氏の速報がありますので、一番下をご覧ください。
全員が習近平のイエスマンです。

結論から言えば、李克強は引退し、団派はほぼ壊滅したようです。
特に衝撃的だったのは、胡錦涛という団派の長老が衆人環視のなかで退席させられる様子でした。
この光景は、党内において団派の壊滅を告げる象徴のようにみえたはずです。

日本のメディアはこれを「退場」と書いていますが、動画をみればあきらかのように強制的に引きづり出したのです。
※動画【胡锦涛动作显示不自愿地被带离场】

理由は、健康上の理由にかこつけるでしょうが、誰が見ても胡錦濤が李と汪の名がない中央委員会名簿の採択直前のことですから、これに反対しかねないことに対する予防検束でしょう。
動画を見ると、胡錦濤は会場係に抵抗するそぶりを見せ、習の机の上の資料に手をかけようとして習と軽くもみあっています。
最後に望みを託すように李克強の肩に手を置いた姿と、驚いたような彼の表情が印象的でした。

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【本日のYahooフォーカス】 结局「大勝版」習家軍が大権力を握った

【AFP=時事】(更新)中国の胡錦濤前国家主席が22日、北京の人民大会堂で行われていた共産党大会の閉幕式を突然退席させられた。AFP取材班が確認した。
胡氏は最前列の習近平国家主席の隣に座っていた。職員に腕をつかまれそうになると振り払い、その後、脇の下に両手を入れられて立たされた。
映像には、習氏の机にある書類を胡氏が取ろうとするのを習氏が押さえて防ぐ場面も映っていた。
胡氏は習氏および李克強首相と1分ほど言葉を交わし、ほとんどの出席者が前方をじっと前を見つめる中、李氏の肩を軽くたたき、会場外に連れ出された」((AFP10月22日) 
胡錦濤前国家主席、党大会閉幕式を突然退席(AFPBB News)【AFP=時事】(更新)中国の胡錦濤前国家主席

この会場を去っていく胡錦濤の姿は、テレビでは報じられなかったようですが、ある種の公開処刑といってよいでしょう。

かつて正恩によって会場から引きずり出され、高射砲でバラバラにされた叔父の張成沢をおもいださせました。

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全体主義国家らしい粛清風景です。
いずれにせよ、これで鄧小平以来続いた改革開放路線と国際協調路線は終わり、習の戦狼外交と民間企業統制政策を柱とする独裁体制が確立することが確実になりました。

「閉会式に先立ち、約200人の中央委員が選出され、7人いる最高指導部、中央政治局常務委員会のうち4人の退任が明らかになった。その中には、李克強(Li Keqiang)首相および同氏の後継と目されていた汪洋(Wang Yang)人民政治協商会議主席らが含まれていた。
李氏と汪氏はともに67歳。68歳で引退するという党内の「定年」には達しておらず、政治局常務委員としてとどまるか、別のポストに就く可能性が取り沙汰されていた」
(AFP10月22日) 
習近平氏3期目入り確定、李克強氏は最高指導部を退任へ 写真9枚 国際ニュース:AFPBB News

この8月の北載河会議前後、「習下李上」(習近平が引退し、李克強が総書記になる)という噂がでていましたが、和残に打ち砕かれて、真逆の方向にいったようです。

「第20回党大会が終わり、新しい中央委員会メンバーが発表されましたが、李克強と汪洋の名前がありませんでした。
つまり次の指導部(政治局常務委員)に、李克強も汪洋も入らず、ひょっとすると胡春華も入らない可能性があります。共青団派は一人も入らないかも。それどころか、開幕式中に長老の胡錦涛が退場させられる、という一幕もありました。共青団の権威の失墜を象徴するような出来事でした」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.641 2022年10月22日)

福島氏によれば、「習近平の引退に望をかけていた改革開放派の知識人たちは、独裁者を甘くみすぎていた」と言っている」そうです。
彼ら改革開放派にとって衝撃だったのは、汪洋が政治局常務委員に残留するという予測とも願望ともつかない希望が完全に砕かれたことでした。

下は毎日新聞の当初の人事予想です。(まったくハズレでしたが)

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中国発 世界不況:習近平政権 国家主席3選に暗雲 次の指導部候補が浮上=坂東賢治 | 週刊エコノミスト Online (mainichi.jp)

図右の政治局常務委員からふたりの共青団派(団派)の李克強と汪洋、韓正、栗戦書の名前はなく、胡春華(副首相)の去就は不明ですが日和見的人物で、大会前から習にすりよっていましたから、案外残った可能性があります。
もっとも福島氏は「もし、胡春華が政治局常務委員入りできたら、李克強と汪洋は自らの引退の代わりに、十分若くて能力のある胡春華に共青団派の未来をすべてを託してねじ込んだ」という見方も示しています。

「こうした中、最高指導部入りが取り沙汰されるものの、習氏との距離が指摘される胡春華副首相(59)は会議で、「『二つの確立』は、全党、全軍、全国人民の共通した願いだ」と発言。習氏への忠誠を懸命にアピールしている」
(産経10月18日)
習氏側近多数、最高指導部入りか 党大会で忠誠アピール相次ぐ(産経新聞) - Yahoo!ニュース

団派は一掃された代わりに「習家軍」と呼ばれる丁薛祥、李希、李強、黄坤明、陳敏爾、蔡奇妙、楼陽生といった習近平の腹心はほぼ全員が中央委員会入りしました。
あとはごますりの李鴻忠などです。

「習家軍」とは、習が作った取り巻き集団のことです。

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「習近平は、福建省、江蘇省、上海などで勤務していた旧省や、清華系同窓生や故郷の河北省の役人を利用し、「之江新軍」、「江蘇省新軍」、「新北西部軍」、「軍工系」、「清華系」、「浦江新軍」などの親書クラスを創設した」
(大紀元
習家軍の6つの派を暴き|新時代週刊誌|は、あなたと手をつないで新しい時代に入る (epochweekly.com)

この「習家軍」は、主要な地方都市である上海市、北京市、重慶市、糞圏、遼寧、香港、海南、天津、山西、黒竜、湖南、河北を押さえ、軍事委員会も制しているようです。
つまり党・軍・政を完全制圧です。

「この大会以降、この「習家軍」が名実共に中国の中核となります。民主化雑誌「北京の春」名誉主筆の胡平は、ボイスオブアメリカ(VOA)にこうコメントしているそうです。「習近平は強い独裁権力を持つだろう。自分と意見を異にするもを排除してしまった。(略)目下のところ、習近平は慎重に人事配置をして、長期独裁の目標を達成するだろう。これは個人崇拝、個人独裁の捲土重来を意味し、国内党内に対しても厳格な監視コントロールを行い、ファシスト式統治を実行するということになろう。対外的にも戦狼外交が継続され、さらに攻撃的になり、中国は世界に危害を与えることになるだろう」(福島前掲)

この大会で壊滅した団派は、鄧小平の改革開放路線を継承した官僚を中心としたグループです。
団派の外交路線は、鄧小平の韜光養晦(とうこうようかい) 路線を基本としています。
これは当時90年代の国際的孤立から爪を隠して国際社会での存在空間を広げつつ、経済力もつけようとする路線です。
いわば合理主義路線といってよいでしょう。

この間の中国共産党内部では、世界覇権を握ろうとする習家軍と、この協調路線との間の隠然たる戦いでした。
そしてこれに決着が着いたのが、この大会だったということのようです。
これで習近平は誰の掣肘も受けることなく、自分だけの意志で戦狼路線を進め、早晩台湾に手をかける可能性が強まりました。
私は台湾を軍事制圧するのは軍事的に不可能だと見ていましたか、この連れ出される胡錦濤の姿を見て、考えを変えました
習は合理主義的判断に立たない人物です。
遠くない将来、習はプーチンの轍を踏むかもしれません。

■速報
新しい政治局常務委員の顔ふれです。露骨なまでの習のゴマスリが占めました。

「23日の北京時間正午過ぎ、党大会で選出された中央委員会による第一回中央委員会全体会議が終了した後に北京で記者会見が行われ、第20期新指導部メンバー(政治局常務委員会)がお披露目されました。
習近平、李強、趙楽際、王滬寧、蔡奇、丁薛祥、李希の7人です。
序列から想像するに習近平総書記(国家主席、中央軍事委員会主席)、李強総理(現上海市書記)はほぼ決まり。趙楽際(現中央規律検査委書記)が全人代常務委員長、王滬寧(現・中央精神文明建設指導委員会主任=宣伝担当)が現職続投か政治協商委員会主席に?。
蔡奇(現北京市書記)が(宣伝担当か、政治協商委員会主席?)、丁薛祥(宣伝担当?か国家副主席?)、李希(中央規律検査委員会書記)といった感じでしょうか。

政治局25人はこの7人を除いて、馬興瑞(ウイグル自治区書記、宇宙工学系)、王毅(外相)、伊力(福建省書記)、石泰峰(社会科学院長)、劉国中(陝西省書記)、李幹傑(山東省書記、原子力系)、李書磊(中央宣伝部副部長)、李鴻忠(天津書記)、何衛東(東部戦区司令)、何立峰(国家発展改革委主任)、張又侠(軍事委員会副主席)、張国清(遼寧省書記)、 陳文清(国家安全部長)、陳吉寧(北京市長、たぶん次の北京書記)、陳敏爾(重慶書記)、袁家軍(浙江省書記)黄坤明(中央宣伝部長)。
ほぼ全員が習近平のゴマすり集団です。

このメンツをみると、外交担当は楊潔?が引退したので王毅が担い、経済担当は劉鶴が引退したので、何立峰が担い、中央軍事委副主席は張又侠と何衛東が担うということでしょう。
また、女性の孫春蘭に代わる人物が入っていないので、もう、中国で女性が活躍しているなんて世迷言をいう人もいなくなるでしょう。ごりごり男性社会です。
ウイグル弾圧で悪名をはせた陳全国は失脚。政治局も習近平の子分で固めてきました。それどころか中央委員会メンツも団派、改革開放派がほとんど排除されています」

福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.642 2022年10月23日

 

 

 

 

 

 

 

2022年10月23日 (日)

日曜写真館 雨のあと湖に日亙る帚草

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湖に暑さ去りゆく夕かな  星野椿

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流星の声発したる湖の上 大串章 

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湖や渺々として鳰一つ 正岡子規

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水鳥の所作に会話のある如く 稲畑汀子

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みづうみのみなとのなつのみじかけれ 田中裕明

 

 

2022年10月22日 (土)

完成したひとり独裁、中国共産党大会

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日本がトーイツキョーカイですったもんだしているうちに、中国では共産党大会が終了しつつあります。
まだ政治局常務委員体制(俗にいうチャイナセブン)の発表が残っていますが、どうせ習のヨイショ集団で占められるはずです。

さて共産党大会は猿山のようなもので、自分の権力を分かりやすく演出します。
党の長老たちがズラリと演壇の後ろの最前列にならびましたが、オレの後ろに並ぶ長老らも習を支持しておるぞ、オレは彼らを超越したスーパーパワーなのだという演出です。

益尾知佐子 『中国の行動原理』によれば、中国には基本的に3つの権力組織が存在しています。
最も強力かつ上位に位置するのが中国共産党であり、そして党の暴力機能として人民解放軍、そしてより下位に位置するのが行政機能としての政府諸機関です。
そしてこの党と軍と政府という3つの権力組織のすべてのトップに君臨しているのが、この習近平ひとりです。
つまり中国の権力機構は、習を「家父長」とし、党、軍、政府という「子どもたち」がそれぞれ家父長たる国家主席との間で一対一の支配関係を構築するという構造になっています。これらは3ツの組織は横に繋がっておらず、唯一習のみに対応しています。

たとえば、コロナが武漢で感染爆発を起こした際、それぞれの現場レベルでの対応は遅れに遅れていましたが、習近平国家主席が1月7日に問題解決に乗り出した瞬間から、中国のすべての組織が感染封じ込めのためのあらゆる手段を実行していく仕組みとなっていきます。

習にとって唯一の目障りは、「長老」と呼ばれる、かつての共産党の大幹部たちでした。
彼らは年に一回8月頃に北戴河会議と呼ばれる密室の会議を持ちます。
これは長老たちが現役の党総書記に意見することが許される唯一の場です。
どのような結果になったのかは推測するしかありませんが、党大会以前に長老を習が制することができるのか、また李克強の処遇が注目されました。

李は下図のような経済成長の失速に対して、習のゼロコロナ政策を切り上げて成長路線に戻るように主張したと思われます。

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中国の習主席、2週間ぶりに姿現す-「北戴河会議」終了示唆 - Bloomberg

さて、共産党大会でこの結果がわかりました。
いままで共産党で隠然とした力を持っていた江沢民が、完全にフェードしてしまったのは象徴的でした。
96歳という歳も歳でしたが、それだけではないようです。
いまの習を幹部に祭り上げたのは江でした。

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影響力衰えた江沢民氏 習氏支える「新上海閥」―中国:時事ドットコム (jiji.com)

江は、2007年の党大会で、当時上海市党委書記を務めていた習の最高指導部入りを強く推薦しました。
江の一生の不覚はこのとき。本来なら上海閥の後継者である李克強を推すべきでしたが、太子党派閥であった習を推してしまったために後にひどいメにあうことになります。
太子党というのは、共産党のボスの子供らの互助組織のことです。
権力を握った習は、あろうことか反腐敗闘争と称する内部粛清の嵐で上海閥の大物を次々と葬っていきます。
後ろ足で砂をかける所業もいいところですが、習をコントロールできなかった江は一気に没落していきます。

江が大衆の前に姿を現したのはの3年前の建国70周年記念日で、習を真ん中にして左右に胡錦涛と並んだのが最後でした。
その胡錦濤はパーキンソン病だと伝えられており、下の写真のように習に手を添えられて座席に案内されていました。
こういう仕種ひとつにもオレが上だ、という習のマウントぶりがみえています。

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中国共産党大会 最前列に長老ら - Yahoo!ニュース

ゼロコロナ政策に強く反対していたと伝えられる朱鎔基の姿がないのは、パージされたのかもしれません。
朱は共産党幹部では珍しく経済がわかる人物で、首相時には国有企業の改革と市場経済化を推進しました。
これは習の国有企業優先主義、民間企業への厳しい統制とは正反対な政策で、去年から今年習が強引に進めたゼロコロナ政策による都市封鎖に対しても朱は手厳しい批判をしていたと伝えられます。

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罕見!朱鎔基頻繁亮相 官媒跟進報導 | 胡錦濤 | 李瑞環 | 新唐人中文電視台在線 (ntdtv.com)

この朱も去り、胡錦濤はボケ、長老クラスで抵抗する者はいなくなったようです。
これで習ひとりに権力が集中する共産党指導部体制を完成しました。

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毛沢東のレガシーを利用する習主席 - WSJ

習が毛沢東を崇拝していることは有名ですが、手法も毛をまねました。前述した反腐敗闘争は文革の現代版です。

「習氏は、共産党を消滅させかねないと恐れる病弊――腐敗、道徳の退廃、大義のために戦おうという意志の欠落――を党から一掃しようと試みてきた。彼の対処法は高いところから厳格な命令を下し、批判を抑え――党員は「不適切な議論」を禁止されている――それがどれだけ穏健であろうと組織立った反発勢力をつぶすことだ。厳格な検閲はインターネット上の議論も黙らせてきた。(略)。
毛沢東の言葉を借り、彼のやり方をまねた。権力を自分一人の手の内に集中させ、個人崇拝の機運を盛り立ててきた。個人崇拝は文化大革命の最も恐ろしいシンボルであり、最高指導者に対する盲目的な忠誠心は長年にわたる手に負えない暴力をあおる源泉でもあった」
(ウォールストリートジャーナル2017年5月17日)

今回の共産党大会では、「二つの確立」と題して、習の「党中央の核心としての地位」と「習の新時代の中国の特色ある社会主義思想の指導的地位」の確立が発表されました。
毛沢東以降使われてこなかった「人民の領袖」なる個人崇拝的表現が復活しました。
生きている間に「人民の領袖」の称号を得たのは習が最初です。
鄧小平ですら「改革開放の総設計師」と呼ばれるにとどまっていました。

習は党、軍、政府のトップをすでに自分ひとりで束ねており、さらに党と政府を一体的に機能させるための「委員会」や「領導小組」の主要なリーダーもすべて兼任しています。
今の中国は習近平国家主席の意図を徹底して追求し、実行するためだけの下請け機関として出来上がっているわけです。


これは毛が起こした文革の後始末をして、改革開放経済を作った鄧小平が敷いた集団指導部体制の否定です。

注目は、指導部内で反対の旗幟を鮮明にしていた李克強の処遇です。
李は習のゼロコロナ政策に強力に反対しましたが、押し切られました。
元来、李は共青団のリーダー格で、開放経済を進めようとしていましたが、彼がその方向の政策を立てると、そのつど習が正反対の政策を打ち出して潰すということの繰り返しだったようです。
李はこの大会で引退と噂されていますから、これで中国経済の世界経済からのデカップリングが進行することでしょう。

いちおう大会の1時間50分もの長ったらしい習の政治報告を、福島香織氏の要約によって見ておきます。
共産党の政治報告などお経のようなものですから、退屈でしたら飛ばして下さい。
 読み上げた習すらつかえたり、水を飲んだり咳したりしたそうですから、聞かされるほうもたまったもんじゃなかったことでしょう。

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5分でわかる!中国共産党大会は何をどうやって決めるのか | DOL特別レポート | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)

「ポイント① この五年の総括と(習近平)新時代10年の大変革を評価。
第19期の任期について、極めて尋常ならざる五年と形容し、(略)第三の歴史決議、新型コロナ政策、香港情勢の動乱から統治への大転換、台湾独立分裂活動と外国の干渉という深刻な挑発に直面し、反分裂、反干渉を断固として、国家主権領土の完全性を守る姿勢を示したことを評価しました。
この10年の三つの成果として①中国共産党が成立100周年を迎えたこと、②中国の特色ある社会主義が新時代に入ったこと、③貧困脱却し小康社会を実現したこと、を揚げました。(略)
一帯一路を国際協力のプラットフォームにしたことなど、成果として挙げていました。(略)
ポイント⑤ ハイテク教育興国戦略をかかげ人材育成を強調しました。新型挙国体制、という言い方が気になります。徳智体美労の全面的に発展させた社会主義建設者と後継者を新型挙国体制で育成するそうです。
ポイント⑥ 社会主義イデオロギーと中華文化をセットにして、社会主義文化強国を目指すようです。
ポイント⑦人民民主、人民を主人とする(プロレタリア独裁)の保障。
ポイント⑧ 法治中国の建設(略)
ポイント⑪建軍100周年にむけた国防軍隊現代化の新局面をうちだしました。
ポイント⑫一国二制度を完璧にし、祖国統一推進を打ち出しました」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.639 2022年10月19日)

気になる台湾問題ですが、「武力使用は放棄しない」と明言しています。

「新時代の党が台湾問題を解決するための「総体方略」を堅持し貫徹して、揺らぐことなく祖国統一の対事業を推進する、とし、平和統一の展望に向けて最大の誠意、最大の努力を尽くすが、武力使用を放棄することは決して認めず、一切の必要な措置を選択肢に保留する、それは外部勢力の干渉やごく少数の台湾独立分子とその分裂活動に対してであり、決して広大な台湾同胞を対象にしたものではない、としました。
台湾問題は中国人自身のことであり、中国人が決定するものだ。祖国完全統一は絶対実現し、絶対実現できる!と力強く訴えました」
(福島前掲)

台湾へ侵攻する気満満ですね。このウクライナ戦争を中国は注視しています。
ロシアが勝てば(ありえませんが)、台湾侵攻は早まるはずです。

「台湾の邱国正・国防部長(国防大臣)は、立法委員会(議会)での答弁で、中国軍の能力について、「2025年には本格的な台湾への軍事的侵攻が可能になる」との認識を示した。そのうえで、目下、中国と台湾の軍事的緊張が過去40年間で最も高まっている、との強い危機感を示した。 中国による武力侵攻の可能性については、「中国が現時点で侵攻することは可能であるが、そうすれば、大きな代償を支払うことになる。しかし、2025年からであれば、代償が小さくなり、全面的侵攻が可能になる」と発言した」
(岡崎研究所2021年10月28日)
中国の台湾への軍事侵攻時期で指標となる2025年  Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) (ismedia.jp)

習のゼロコロナ政策は、裏の顔はコロナをダシに使った人民統制のモデルづくりです。
上海のような大都市でも戒厳令下におくことができる、経済活動への打撃など屁でもない、ということを国民に見せつけたわけです。
失笑することには、いままで大会までには公表されていた経済統計数字は延期になりました。

「【北京=山下福太郎】18日に予定されていた中国の7~9月期国内総生産(GDP)の発表が、前日に急きょ延期された。目標未達との観測があり、習近平(シージンピン)政権の3期目入りを決める共産党大会が開催中であることに配慮したとの見方が出ている。重要な経済指標の公表延期は異例で、統計に対する信頼を揺るがしかねない」
(読売10月19日)
中国GDP「目標未達」か、発表予定前日に急きょ異例の延期…党大会に配慮の見方(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース

コロナと不動産バブルの崩壊を受けて、さぞかし悪い数字が出たからでしょう。
こういうことができてしまうのが、ひとり独裁の中国ならではです。

2年前の武漢の都市封鎖後、世界市場が低迷する中、中国経済は1人V字回復し、ひとり勝ちしてきました。
日本にも、全体主義の優位性と評する者も現れる者が多く出たほどでした。
中国は得意満面で、共産主義の優位性を吹聴したものです。
しかし習の得意は続きませんでした。

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ゼロコロナが裏目に 急ブレーキの中国経済 ほころびの現場 | NHK | ビジネス特集 | 新型コロナ 経済影響

今年 7月15日、中国政府はことし4月から6月までのGDP=国内総生産の伸び率を発表しましたが、新型コロナ対策として上海で厳しい外出制限がとられた影響などを受けて、去年の同じ時期と比べてプラス0.4%、実質的なゼロ成長となっています。
個人消費は低迷し、製造業はサプライチェーンの寸断を受けて稼働率が大幅に下がり、頼みのGDPの4分の1を占める不動産景気までもが不調でした。
最大手の恒大集団の破綻は、この状況を象徴しています。

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NHK

「1月から6月までの全国の不動産の販売額は感染拡大の影響を受けて前年同期比でマイナス28.9%と大幅に悪化しました。(略)
実際に返済拒否の動きが広がれば金融機関が抱える不良債権が増加し、信用不安につながりかねない上、市況の冷え込みのさらなる長期化は不動産への依存が高い中国経済の停滞につながる可能性があります」
(NHK8月3日)

国民は一日も早い解除を願っていたのですが、味をしめた習はゼロコロナ政策は当分は継続することでしょう。
とまれ、こうして習のひとり独裁は完成したのです。

福島さんも言っていましたが、日本は習の中国、プーチンのロシア、正恩の北朝鮮にぐるりを取り囲まれているわけで、呑気にトーイツキョウカイなんてやっている暇がどこにあるのでしょうか。

 

2022年10月21日 (金)

ばかばかしい統一教会審議

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心底くだらないと思います。
またまたまたモリカケサクラに次いで、今度はトーイツキョーカイですか。
うちの国のメディアと野党はスキャンダルこそが政治、政治はワイドショーだと思っているようです。
やってられません。どうにかしてください。
今国会で議論すべきは3期めの独裁に突入し、いっそう好戦的な姿勢を明らかにしている習の中国からどうわが国を守るのか、エネルギー問題をどうしていくのか、ウクライナ支援を今後どうするのかなど山積みのはずです。
それがあんなチャチな詐欺集団にかまけて、
まるで天下の一大事、国会を上げて追及すべきことのようです。

岸田さん、だから言ったでしょう。初めに原則を立てて対応しないと、ズルズルどこまでも後退していってしまうって。
岸田氏が自民内の調査なんかを始めれば、必ず不備がでるのは分かりきっていました。
だってそうでしょう。
たとえば、辻本女史と旧統一教会との「つながり」が、たかだかナントカ市の歴史サークルを名乗っていたように、別名でこられたら分かるわけはないのです。
選挙ボランティアも同じです。信徒は頭を赤いモヒカン刈りにでもしているとか。(笑)

信徒に全員に、「トーイツキョーカイ」と書いた大きなバッチでも着けさせますか。
自民党諸氏の場合も、別に旧統一教会側が信徒であることを隠していたというわけではなく、信徒とてフツーの国民ですからいろいろと社会活動をしていれば政治家とも「接点」が生じた、というだけのことにすぎません。
ですから、そもそも「旧統一教会とのつながり」を洗いざらい調べろ、と言うこと自体がナンセンスな要求なのです。

政治家は、あなたの意見を話してくれと依頼されれば、どこにでも行き、誰とでもしゃべる、それがあたりまえの職業です。
基本的に断れない。

今回、旧統一教会が騒がれたのは、自民党の政策に近い部分を持っている保守系だったからにすぎません。
だから左翼メディアは、ここぞと叩いただけのこと。

それすら昨今の旧統一教会は、慰安婦問題や北朝鮮援助にみられるように、恐ろしく反日的な姿勢を示していましたから、かなり双方の違いが鮮明になってきていました。
第一たかだか2万人くらいの小教団に、自民党を操れるはずがありませんがな。

初めから二階のジィ様が言っていたように、「政治家には支持者を選べない」と言ってピシリと言って、お終いにすべき事案だったのです。
それをケンカに弱い岸田氏は、「聞く力」とばかりにハイハイと野党とメディアの言うことに従うから、とうとう首が回らなくなりました。
安倍派潰しの下心があるからこうなるのです。

今度は宗教法人の解散を視野に入れて、だそうです。
ところが解散請求に必要な教団への質問書で、民法的上の不法行為は入れないといったもんだから、ここぞとメディアと野党に責めたてられています。
それも初めは国が宗教法人請求は憲法の信教の自由に抵触するので慎重に、と言っていたのです。

「岸田首相「宗教法人の法人格を剥奪するという極めて重い対応であり、解散命令の請求については、信教の自由を保障する観点から、判例も踏まえ、慎重に判断する必要があると考えてはおります」
その上で、岸田首相は「社会的に問題が指摘されている団体については、関係法令等を確認しながら厳正に対応していく」と述べました」
(日テレ 10月6日)

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悪質な宗教法人の“解散”岸田首相「慎重に判断」(日テレNEWS) - Yahoo!ニュース

この線で持ちこたえればいいものを、ズルズルと後退し解散請求のための調査をするに変わり、それも民法上の不法行為が入っていないと噛みつかれると、今度はそれを一夜で変えるという日替わり定食ぶりです。
ひとつ譲れば、次を譲ることになり、あとは以下同文の底無し沼、ホント弱いお人。呆れてモノがいえません。
岸田さん、あなたは首相がどうのこうのという以前に、そもそそも政治家に向いていませんよ。

ところでいま、岸田氏は宗教法人法に基づく「質問権」を行使しようとしています。
この質問権は、1996年の宗教法人法の改正法から登場した、解散命令を出すための前段措置です。
これはオウム真理教事件を受けたもので、これを適用するということは旧統一教会をオウム並に凶暴な宗教団体だと認識しているということになります。

「岸田文雄首相は19日の参院予算委員会で、宗教法人法に基づき政府が年内に着手予定の世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への調査を巡り、裁判所に解散命令を請求する要件に「民法の不法行為も入り得る」との認識を示した。首相は18日の衆院予算委では民法は「入らない」と答弁しており、1日で答弁を変更した。
教団を巡っては、幹部による刑法上の違反行為を認定した裁判例はないものの、民事裁判では組織的な不法行為責任が認定された例が2件ある。答弁変更により、解散命令に向けたハードルが下がる可能性がある」
(毎日10月19日)
宗教法人の解散請求「民法の不法行為も該当」 首相、答弁を変更 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

結局、旧統一教会の霊感商法が、オウム以上だったということになりますから、ずいぶんと旧統一教会を持ち上げたものです。
旧統一教会はオウムと違って、ただの詐欺団体にすぎません。

昨今業務停止を食ったアムウエイのほうがよほど悪質です。
岸田氏は、これで20%台まで落ちた、支持率がすこしでも上向けたいようですが、たぶんダメでしょう。
保守層は一連の旧統一教会騒動を呆れて見ていますから、自民支持鉄板層の心は既に離れていっています。

メディアや野党は、宗教法人の解散にどれだけの時間と労力がかかるのかわかって言っているのでしょうか。
教団が不服を申し立てて、提訴しないとでも思っているのかな。

●法人の解散命令等に関する規定
【宗教法人法(昭和二十六年法律第百二十六号)(抄)】
(解散命令)
第八十一条 裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認め
たときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散
を命ずることができる。
一 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした
こと。
二 第二条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと又は一年
以上にわたつてその目的のための行為をしないこと。
法人の解散命令等に関する規定 (caa.go.jp)

おそらく「著しく公共の福祉を害する行為」をどう定義するのかをめぐって、国と教団が係争することは必至です。
当然、法廷の場に持ち出されれば数年はかかるはずです。
「世界家庭連合」は、旧統一教会とは袂を分かった別な宗教法人だから、とうに旧統一教会がしたような霊感商法はとっくにしていないと言うでしょう。
その主張を押し退けて、国が現在の「世界家庭連合」が「公共の福祉」の敵であるとまで立証することはそう簡単ではないはずです。

そのうえ、教団側は信教の自由を定めた憲法に違反している疑いがあるという逆提訴に踏み切るでしょう。
コッチはコッチでやたらと時間を喰います。

しかし、モノは考えようで、これもいいかもしれません。
裁判が始まれば、メディアは当初はワーワーと大喜びするでしょうが、そのうち飽きます。
こういう裁判は、刑事事件と違って死ぬほど退屈ですからね。
その間政府は「係争中事案につき発言は差し控えさせていただきます」と慇懃無礼に答えていればいいのです。ホントにそうなんだもん。
これで野党とメディアは攻め口を封じられます。
そして判決が出る頃には、岸田政権はとっくになくなっていることでしょう。
もしこれで支持率下落の歯止めがかからず解散にでもなったら、「統一教会汚染」のレッテルを張られた自民はそうとうにキツイ戦いになります。

とまれ、ここまでこの旧統一教会騒動を大きくした責任の半分はメディア、そして半分は岸田氏自身にあります。
もうこの人では国が持ちません。
菅氏に戻ってきてもらったらいかがですか。


 
 

2022年10月20日 (木)

日本とドイツの敗戦工作の違い

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先日来見てきたように、このウクライナ戦争を終わらせるにはロシア軍の軍事力を粉砕するだけでは足りません。
なぜならそれだけではプーチンの力がは温存され、彼は必ず報復を準備するからです。
そうさせないためには、もう一つの力、すなわちロシア内部でプーチンを排除する勢力が必要です。
ところがロシアの問題は、「もうひとつの力」の存在などゼェ~ッタイに許さないことです。
一般ピープルもデモしただけで逮捕、権力の中で甘い蜜をすすっていたはずのオリガルヒすらも逆らえば全部暗殺。
なかなかですね。

どうしてこういうことを平気でするのといえば、ウクライナ戦争が「絶対戦争」だからです。
絶対戦争とは、敵を完全に打倒するまで戦う、自分のイデオロギーの優越を賭けた戦争のことです。
したがって、苛烈な価値観をともなった戦争ですから、痛み分けとか妥協はありません。
スッキリ白か黒しかないのです。
勝ったら丸取り、負けたら坊主です。

かつてこの絶対戦争をしたヒトラーは、己と国土、時には、世界を業火で焼き尽くす「ネロ指令」を出して終わります。
しかしそのようなナチスドイツ内にもヴァルキューレ作戦に見られるような硬骨の人士はおり、彼らはヒトラーを暗殺し、クーデターで政権を握り次第連合軍と和平交渉する心づもりでした。

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7月20日事件の首謀者クラウス・フォン・シュタウフェンベルク大佐
ヴァルキューレ作戦 - Wikipedia

7月20日事件 - Wikipedia

今のロシア国内に、ひとりのシュタウフェンベルクがいることを祈らずにはいられません。
当時のシュタウフェンベルには、かなり多くの軍内部の要職にある同志がいました。
彼の同志は、この7月20日事件以後、徹底的に捜索されて全員処刑されています。

一方、わが国は大戦末期にどうだったでしょうか。
実はドイツやロシアとは対照的です。
幸いにも和平派が温存されたのです。

まず前提として、わが国の大戦は絶滅戦争ではなく、第1次大戦型の太平洋・アジア地域をめぐる「勢力圏戦争」でした。
日本が「大東亜の解放」を言い出したのは戦争途中からで、戦争目的は国際社会からの物資の封鎖に耐えきれなかったからです。
そして致命的なことには、日本は米国の出方を読み違えたのです。

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近衛文麿|近代日本人の肖像 | 国立国会図書館 (ndl.go.jp)

「庄司氏は「近衛は、米国に多くの幻想を抱いていた。米国は大国だから、生存権に基づく日本の正当な行動を理解してくれるだろうという甘えがあった」と語る。41年7月、日本は南部仏印に進駐した。近衛の楽観的な予想に反し、米国は在米日本資産の凍結と石油の対日全面禁輸で応じた。日米は一気に戦争という危機的状況を迎えた。
(略)
近衛は望まなかった対米戦争が始まったことから、真珠湾攻撃を冷めた目で眺めていた。開戦直前に首相職を辞した自分を「臆病者」「卑怯者」と呼ぶ政界やメディアに対し、「やはりこのまま勝つと信じているのですかな。来年(1943年)の年賀式には何と僕に挨拶することだろう」と反論した。
また12月8日、真珠湾攻撃の当日、「この戦争は負ける。どうやって負けるか、お前はこれから研究しろ、それを研究するのが政治家の務めだ」と、側近に語っていた。翌42年1月、近衛は木戸幸一内大臣に、戦争終結の時期を早急に検討すべきであると強調した。木戸は、2月5日天皇に拝謁、「大東亜戦争は容易に終結せざるべく、一日も早く機会を捉へて平和を招来することが必要」と上奏している」
(朝日globalプラス『日米開戦の日、「悲惨な敗北」予期していた近衛文麿 終戦工作重ねた末の「A級戦犯」』牧野愛博 2021年12月8日)
日米開戦の日、「悲惨な敗北」予期していた近衛文麿 終戦工作重ねた末の「A級戦犯」:朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)

この牧野記者の記事にある庄司氏とは、前出の『大東亜戦争』の執筆陣のひとりの庄司潤一郎氏(防衛研究所幹事)のことです。

「近衛は遺書のなかで米国について多くを割いた。そのうえで、「所謂戦争犯罪人として、米国の法廷に於て、裁判を受けることは堪え難い」と明かした。
近衛は1943年夏ごろから、積極的に終戦工作に乗り出す。45年2月には天皇に宛てた近衛上奏文で、一日も早い戦争終結を訴えた。庄司氏は「五摂家の筆頭として、天皇制を守りたい意識が働いたのだろう。東条内閣の打倒や終戦に、近衛が果たした役割は大きい」
(牧野前掲)

大戦末期、すべての勝機が去った時、ヒトラーは自分もろともドイツ全体を消滅させることを命じましたが、日本は違いました。
それを端的に現しているのが、「聖断」の言葉に現れています。

「このうえ戦争を続けては結局我が邦まったく焦土となり、万民にこれ以上苦痛をなめさせることは私としては実に忍びがたい。(略)日本がまったく無になるという結果にくらべて、少しでも種子が残りさえすれば、さらにまた復興という光明も考えられる」
(下村海南『終戦秘史』)

方やおのれもろとも国民も自爆して果てる、方や国民にこれ以上の塗炭の苦しみを味合わせられない、この正反対の思想によってドイツと日本の和平交渉はまったく違うものとなりました。
日本には「和平派」という存在がありました。
戦前の対英米穏健派は、早い時期から和平を模索し始めていました。
先の近衛は真珠湾攻撃のその後に「この戦争は負ける。どうやって負けるかお前たちはこれを研究しろ」(『語りつぐ昭和史3』)と命じます。

さらに開戦の翌年1942年2月、この近衛の意志を受けて木戸幸一内大臣が天皇に拝謁しこう上奏しています。

「大東亜戦争は容易に終結させざるべく、(略)1日も早く機会を捉えてへいわう招来することが必要」(『木戸幸一関係文書』)

そして天皇自らも、この年の2月12日、明確に東條首相に対して和平を述べられています。

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昭和天皇「拝謁記」入手 語れなかった戦争への悔恨 | 注目の発言集 | NHK政治マガジン

「戦争の終結につきては機会を失せざるよう充分に考慮しいることとは思うが、人類平和のためにも徒に戦争の長引きて惨害の拡大しいくのは好ましからず」
(木戸文書前掲)

象徴天皇としての限界はありながらも、はっきりとした和平の指示です。
このような和平の意志を天皇はすでに戦局悪化の前から持っておられ、それがひとつの「和平派」の隠然たる流れとなっていきます。
重臣としては近衛、岡田啓介、海軍では米内光政、高木惣吉、陸軍では皇道派の一部、外交官では吉田茂などです。
それはやがて東條内閣打倒運動として表面化し、東條内閣は退陣します。

日本ではこれらの和平派の人々が、監視を受けて行動を制限されていたとしても活動を継続していましたが、それに対してドイツはヒトラーにより残酷な摘発と処刑によって根絶やしにされていました。
これが和平にとって大きな差となって現れます。

一方、米国内においては「知日派」が存在していました。
たとえば、国務次官のジョセフ・グルーは、戦争中から各地で講演し、こう演説しています。

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ジョセフ・グルー

「日本には『穏健派』もしくは『リベラル』が存在し、軍閥を打倒して彼らを中核として政権を担当させれば、国際協調敵な日本を建て直すことが可能であり、天皇は彼らの側にある」
(庄司『大東亜戦争』前掲)

この対日穏健派の影響によって、ポツダム宣言の中にこのような一項が加えられています。

「日本国政府ハ日本国民ノ間における民主主義的傾向ノ復活強化ニ対スル一切の障壁ヲ除去スベシ」

この知日派の影響によって、天皇を処刑し、一切の工業を持ち去り属国の地位に落とすという米国内の「無条件降伏派」の意見は退けられたのです。
日本国内の和平派は、この動きを中立国経由で知り、終戦工作を加速させていきます。
日米両国にいた和平派なくして1945年8月の終結はなかったはずです。
この和平工作については大変面白いので長くなりそうなので、別の機会にゆずります。

ではひるがえって、いまのロシア国内に、かつての大戦中の日米両国のような和平派がいるかです。
プーチン政治の特徴はヒトラーのような反対派の徹底粛清です。
彼は多くの者を粛清し続けてきました。
めぼしい者は皆海外に逃げるか、牢屋にいるからです。
このような国においては和平派はほとんど息すらできない状況です。
しかし、彼らを助け、プーチンを倒さねば、この戦争は終わりません。

 

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ロシア軍に向かってウクライナ国旗を振るヘルソン住民とみられる動画が公開された/From Telegram
ウクライナに平和と独立を

 

 

2022年10月19日 (水)

プーチンを「追い詰めるな」論について

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ウクライナ戦争を終わりにするやり方を考えています。
よくある俗論に、「直ちに停戦論」というものがあります。
耳に快い人も多いようで、けっこうのさばっています。
これは橋下某がかねてから言っていた「ウクライナは早く降伏すれば、国民は死ななくて済む」という意見のバリエーションです。
こういうことはウクライナにいうのではなく、侵略卸元のロシアに言いなさいよ、と思うのですが、「ロシアはプーチン独裁だから言うことを聞かない。ウクライナは民主国家なのだから先に和平を提案すべきだ」と言うことのようです。
おいおい、これでは民主国家は常に全体主義国家に負けていていなければなりません。

第一、ここでウクライナが戦争を停止したら、明日からロシアはミサイル攻撃を止め、戦争によって得た占領地から完全撤収してくれるのでしょうか。
いいえ、絶対にしないでしょう。
もっともミサイルは在庫が払底しかかっているので(ウクライナによれば在庫600発)温存するためにこれ以上撃たないかもしれませんが、占領地から撤退することは100%ありません。
だって占領地はいまや4州併合によって「ロシアの神聖なる国土」だからです。
占領地は領土、侵攻した前線こそ国境、これがモスクワ大公国からの、ロシアの一貫した伝統だということを忘れないで下さい。

では、今、東部や南部でウクライナ軍が奪還している4州の「ロシア領」はどうなるのでしょうか。
もちろんロシア軍は、「神聖なロシア領」から「外国軍隊」を追い出します。
アレ、4州の「外国軍隊」ってウクライナ軍のことだったっけ?

頭がグルグルしますが、彼ら独特のねじれたロジックではこれは「祖国防衛戦」なのです。(笑)
ですから、4州からウクライナ軍を追い出すまで戦いは続きます。
つまりその時期まで戦争は終わらず、ロシアの侵略は止まりません。
それが十分に分かっているから、ウクライナ人は抵抗を止めません。

次によくある意見として、「これ以上追い詰めるな」というものもあります。昨日もコメントで頂戴しました。
こういうことを言う国際政治学者も多くいるようです。
「ロシア人の自尊心を傷つけるな」という意見に与することはできません。
なぜなら、それはロシア人のみにプライドがあるかのような意見だからです。
ロシア人にプライドがあるなら、ウクライナ人にも充分すぎるほどあります。
いやむしろ、祖国をこれだけ踏みにじられ、虐殺や民族移動といった民族浄化に泣いたウクライナ人にとって、ただの民族的自尊心だけではなく底知れぬ怒りと哀しみがあることでしょう。

インスブルック大学のロシア問題専門家として著名なゲルハルト・マンゴット教授は、10月16日、オーストリア国営放送(ORF)のニュース番組でウクライナはきわめて困難な状況だが、士気は高いとしてこう語っています。

「にもかかわらず、ウクライナ側の士気は依然、非常に高い。「ウクライナ人の90%以上が、ロシアへの領土譲歩に反対している」という。ロシア軍の前進は、主に傭兵がロシアのために戦っているバフムート周辺地域に限られ、ほぼ完全に停止しており、代わりにウクライナ軍の前進が続いている。マンゴット教授は、「ロシア側のミサイル攻撃でウクライナ側の祖国防衛というモラルが崩れるとは思わない」という」
(ウィーン発コンフィデンシャル10月18日)
ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.blog) 

お聞きしたいのですが、この「追い詰めるな論」が対象としているのはプーチンですか、それともロシア国民一般ですか。
この「追い詰めるな」論の最大のおかしさは、無意識にロシア国民とプーチン個人を同一視してしまっていることです。
プーチンはロシアそのものではありませんし、ましてやロシアのプライドなどではありません。
反戦デモに現れるように彼に反対する人々は多数います。
戦争にとられることを恐れて国外逃亡した者だけで数万に達しています。
その人たちは秘密警察政治の恐怖政治のために、一つのとまった反プーチン勢力になれないだけのことです。

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ロシア・ウクライナ戦争 世界各地で反戦抗議デモ モスクワとサンクトペテルブルクのデモでは1,000人以上が拘束 (kagonma-info.com)

プーチンがいかなる工作を用いようと、追い詰めて独裁者の椅子から追い落とすべきです。
それがわずか7カ月間で9万人もの死傷者をださせるような、無残な戦争を引き起こした独裁者の受けるべき当然の報いです。
この男がいるかぎり戦争は終わらない、これだけは確かなことです。

トランプ政権で安全保障補佐官をしたボルトンは、「プーチンは去らねばならない」と明瞭に言い切っています。

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元米大統領補佐官ジョン・ボルトン「安倍晋三の死は、米国とその同盟国にとって損失だ」 | 米紙への寄稿で安保や北朝鮮問題の功績を讃える | クーリエ・ジャポン (courrier.jp)

「ボルトン氏は10月上旬、国際安全保障専門の論壇サイトに「プーチンは去らねばならない=今こそロシアのレジームチェンジの時だ」と題する論文を発表した。
同論文はまずバイデン大統領が今年(2022年)3月にプーチン大統領に対して「この男はもう権力の座にとどまってはならない」と述べ、プーチン大統領打倒のための斬首作戦までをも示唆したことを指摘し、「その直後にバイデン大統領の側近たちが『大統領はプーチン大統領の地位の変更や、いわゆるレジームチェンジを求めたわけではない』と釈明したが、もうそんな遠慮をする時期ではない」と書き出していた。
ボルトン氏はそのうえで「ロシアの政権交代なしにはヨーロッパの平和や安全への長期的な展望はまったくなく、その政権交代という選択肢がないかのように振る舞うことはきわめて有害である」と強調していた」
(古森義久2022年10月12日)
「ロシア内部に働きかけよ」ボルトン元大統領補佐官がプーチン打倒作戦を提唱 ロシアのレジームチェンジしか戦争終結の道はない(1/4) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

ボルトンは、この論文で、「ロシアでプーチン政権が続く限りウクライナ戦争が解決する可能性はなく、情勢はウクライナや欧米側にとって不利となり得る」と述べています。
その論拠はこのようなものです。

①ウクライナは現在軍事攻勢に出てはいるが、西側にとってはっきり「勝利」と定義づけられる展望が存在しない。
②ロシアは戦闘でかなりの被害を受け、国内でも反戦感情が高まっている。とはいえ、ウクライナ側の被害も大きく、破壊も莫大である。
③ロシアは核兵器使用の威嚇を続け、西欧にエネルギー面で与える被害も大きい。これから冬を迎えて、西欧側の反ロシアの団結がどこまで続くかわからない。
④ウクライナでは軍事衝突を止める停戦への動きはまったくなく、このままでは苛酷な消耗戦が続く展望が確実視される。

つまりボルトンはこの戦争がきわめて長期になる可能性を憂慮しています。

グレゴリー・アンドリー氏すら、ウクライナの勝利を確信しながらも来年末までかかるだろうという見通しを漏らしています。

問題は、この我慢比べのような苦境を、NATOと米国が耐えることができるか、です。
私は精神論には立ちませんので、相当に厳しいと思っています。
必ずわが国のロシアフレンドのようなことを言う国が現れます。

中国を主敵としたいバイデンにとっても、今のようなギリギリの軍事支援をするなら台湾有事の抑えがなくなるのではないか、という心配が出始めてきています。
ならば、ボルトンが言うように「米国がこれまでの政治的計算を変更し、ロシア側の反プーチン勢力を注意深く支援してレジームチェンジを試みる時期がきた」という意見を傾聴すべき時期がきているのかもしれません。

また「追い詰めるな論」の背景にあるのは、ロシアが「追い詰められ」ると核を撃ってくるかもしれない可能性があるからですが、具体的に考えてみたいので別稿に譲ります。

 

 

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ウクライナに平和と独立を

2022年10月18日 (火)

ロシアの獲得目標はみんな取ったぞ、かな?

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なかなかユニークなことを、ロシア外務次官が言っています。
ロシア官製通信社のタスの英語版です。

「ベオグラード、10月15日。/タス/。北大西洋同盟は、ウクライナを"反ロシア"に変える欧米計画の崩壊に関連して、既にウクライナで敗北を喫している、とロシアのアレクサンドル・グルシュコ外務副大臣は、タスとのインタビューで語った。
「NATOは既にウクライナで敗北している。この敗北は、ウクライナを『反ロシア』に変える計画の崩壊と結びついている」とグルシュコは語った。
10月11日、同盟諸国の国防大臣会議の前に、NATO事務総長イェンス・ストルテンベルグは、ウクライナでの紛争におけるロシアの勝利はNATOの敗北を意味すると述べ、同盟はそれを許すべきではないと指摘した」
(タス通信10月15日)
NATOは既にウクライナで敗北し、崩壊しつつある'反ロシア'プロジェクトの中で — 公式 - ロシア政治と外交 - TASS

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ロシアのアレクサンドル・グルシュコ外務副大臣 ロシア外務省/TASS
な~んだもうNATOはウクライナで負けたんだって。(棒)
知らなかったなぁ。
ではここで改めて、ロシアの獲得目標とはなんだったか、思い出してみることにしましょう。

私の愚かな頭では確かざっと5つくらいあったと思います。

①NATOの東進阻止
②加盟国への外国軍の展開阻止
③ウクライナのNATO加盟阻止
④ミンスクⅡ合意の履行
⑤ネオナチから北部住民を守る

①のNATOが東方に攻め込んでいるぅ、だからロシアは恐怖したんだぁ、という言説はわが国でもロシアフレンドがしたり顔で言っていましたね。
この東進説について、篠田英朗氏はにべもなくこう述べています。

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レンドリース法とNATO拡大がロシアを追い詰める? | オピニオンの「ビューポイント」 (vpoint.jp)

「事実は日本で陰謀論めいた主張をしている人々の中には、かなり真面目にNATO東方拡大はアメリカの勢力圏の帝国主義的な拡張のことであると信じているかのような人々がいる。だが、NATO東方拡大は、むしろ状況対応的な受け身の性格を持つ。それは、冷戦終焉を引き起こした現象、つまり東欧諸国における共産主義政権の崩壊という現象に対応した措置であった」
(「篠田英朗 『NATO東方拡大」とは何か』)
「NATO東方拡大」とは何か(前編) | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)

そもそも「NATO東進」と呼ばれる国際関係のシフトチェンジは、NATO自らの戦略ではなくソ連が崩壊したために起きたことで、ただの逆恨みです。
恨むなら、ソ連帝国を崩壊させた自分を恨むことです。
そもそも加盟の意志決定は国家の外交方針に属する主権なのですから、集団安全保障体制側が言えるのは条件に適合しているかどうかを審査することだけです。
いくらプーチンが金切り声でなんと叫ぼうと、スウエーデンやフィンランドの勇敢な女性首相たちは、中立政策を捨ててNATOに加入を申請し認められました。
無体な戦争を始めて中立だった北欧諸国をNATOに追いやるとは、これもオウンゴールです。

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フィンランドとスウェーデンをNATO加盟に向かわせた危機――ロシアの「オウンゴール」を検証する:鶴岡路人 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp)

しかし、この二カ国をそうさせたのは、あんたらの国が侵略をしたからですよ。自業自得です。
こんな残虐非道な侵略を世界に見せつけてしまった、ロシア自身の責任です。
それにもうこれ以上の東進はありません。
なぜなら、国境を接しているヨーロッパの国で未加盟なのは、残すところウクライナくらいだからね。
よかったね、プーチン、もう東進はないってさ。

次に②NATO軍のロシア周辺国への展開はどうでしょうか。
今回のウクライナ侵略を受けて、英米軍は周辺諸国に展開し始めていますが、これは常駐するという意味ではなく、一時的な対抗措置にすぎませんから、ロシアが軍をウクライナから撤収すれば同じように撤収するはずです。
ウクライナに米国がTHAADを、ハルキウに配備するよう要請したなどとロシアは言っていましたが、うそでした。
今、新たな西側の高度な防空システムを提供する話は起きていますが、それはロシアの傍若無人の無差別爆撃に対応したもので、これもあんたらのせいでしょうが。

え、西側が中立的立場を捨ててウクライナを支援するから戦争が長引いて国民が死ぬのだ、止めれば戦争は終わるのだ、ですか。これもロシアフレンドがよく言っていましたね。
そもそも中立なんて立場はありません。
中立法は、大戦までの武力行使(戦争)自体が違法ではなかった時代背景においてだけ存在していた特殊な概念でした。

戦闘を交えている国家を「交戦国」とし、それ以外を「中立国」に分けて考えることで中立法は成立していましたが、現代では「国境の実力による改変」を企んで実行したこと自体が国際法違反ですから、中立国概念自体も存在しません。

侵略自体が違法である以上、あるのは「他国に侵略している違法国家」と、「自衛権に基づいて防衛している国家」の二つの区別しかなく、違法な侵略行為を止めるために合法的自衛権を行使している国を支援するのは、国際法上なんの問題もありません。

したがって②の周辺国への配備は、ロシアがウクライナから撤退すれば、NATOはもまた引いていく関係なのです。
これまたよかったね、プーチン。

③のウクライナのNATO加盟断念ですが、①と同じようにすべての主権国家は国連憲章51条によって個別的自衛権、集団的自衛権を有していますから、ロシアにとやかく言われる筋合いではありませんが、自分の「責任圏」の国はみんな属国だと思っているロシアに理解はむりでしょう。
また、プーチンにとって喜ばしいことには、NATOの側も現時点ではウクライナを加盟させる意志はありません。
正直に言ってしまえば、NATOは今回のウクライナ戦争でだいぶピシっとましたが、それまではただの仲良しミリタリークラブにすぎませんでした。

その証拠に、プーチンが西側こそ真の敵だという併合演説をしてもなお、いまでもNATO事務総長は「当事者ではない」と言っているのです。

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ウクライナ4州併合にNATOは曖昧作戦 交戦回避へ賛否明確にせず|【西日本新聞me】 (nishinippon.co.jp)

毒舌家でもあるルトワックは、こうNATOをこき下ろしています。

「そもそもNATOに参加するという事は麻薬に手をだすようなもの、いわば実際に運動したり規則正しい食生活をおくるなどして身体の健康を守るのではなく、なにもせずに健康になれると錯覚するようなものだ。
もちろん、そんな錠剤を飲んだところで、健康になれるわけはない」
(エドワード・ルトワックhanada2022年6月号)

戦争前の2月14日、キエフを訪れたドイツのショルツ首相はウクライナの「同盟への加盟は事実上議題でない。その程度のことをロシア政府が大きな政治問題にしているのは不思議だ」と言い、ウクライナの恨みを買いました。
もちろんNATO加盟することは、交戦国であることが大きなハードルとなることをウクライナも分かっていましたし、それよりなにより西側諸国がこの戦争の当事者にはなりたくない、という本音をよくゼレンスキーは知っていました。
だからゼレンスキーは遠慮なく、加盟拒否の代償として武器のさらなる供与を求めて、NATO諸国はそれを断れなかったのです。
ゼレンスキーはしたたかな人物なのです。

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ウクライナがNATO加盟申請表明、米は「実用的な支援の提供が最善」と慎重姿勢 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

しかし先日、再びゼレンスキーはNATO加盟を口にしました。
この理由は、「加盟申請中」という微妙なポジションを確定するためだと見られています。
申請中の国に対して、これ以上の国際人道法に対する違反行為を続けたり、あるいは核兵器を使用するなら、NATOの直接介入を招くからです。
でも、核兵器を使用しなければNATOは直接介入しませんから安心してください。よかったね、プーチン。

④のミンスクⅡ合意ですが、日本ではお約束のようにこれを和解調停案にしたらどうかという国際政治学者が多くいましたが、なるはずがありません。

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「ミンスク合意」とは?ウクライナ東部めぐる停戦プロセス。3つのポイントで【解説】 | ハフポスト NEWS (huffingtonpost.jp)

なぜなら、ミンスク合意を木っ端みじんにしたのが、他ならぬロシア自身だからです。
プーチンは、かねてからウクライナ東部2州に「高度な自治権」を持つ事実上のロシア傀儡国家を作ることを目論んできました。
ミンスク合意はその線に沿って書かれている、ロシア寄りの、逆に言えばウクライナに大変に不利な合意内容なのです。

そりゃそうでしょう、日本に例えれば沖縄に「特別な地位」を与えて、自治権を認めてしまえば、事実上領土を割譲したも同然だからです。

このミンスク合意を有効たらしめているのは、東部2州の「高度の自治権」というデリケートな地位をキープし続けることでした。
新たに国家を作るには、ただ政府と国土、国民がいるだけでは不十分で、外国に国家承認されねばなりません。
しかしいったん国家承認してしまえば、もう「特別な地位」ではなくなり、ミンスク合意自体が否認されてしまいます。
プーチンが賢ければ、東部2州をズっとこの「特別な地位」のまま放っておくべきだったのです。
ミンスク合意にはドイツ、フランスといったEUが一枚噛んでいますから、どこも文句は言えなかったでしょう。

ところが笑えることに、プーチンにとっての誤算は身内から起きました。
ロシア下院が圧倒的多数で「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立承認を大統領に求める決議案を可決してしまったのです。

ただしこれは「尚早の承認」というヤツで、国際法上は無効ですが。

「国家の合併・併合,分裂・分離独立などによる新たな国家が既存国家によって国際法の主体として認められること。 そのための条件としては,まず国家としての実質(領土,国民,政府)が備わっていること,国際法を守る意思と能力を有していることなどがある。 それが備わっていない段階で承認を与えるのは〈尚早の承認〉として不法とされる」
(コトバンク)
尚早の承認とは - コトバンク (kotobank.jp)

したがって、本来当該国しか持たない国家主権に力づくで干渉するので、内政干渉です。
内政干渉は、明確な国際法違反であり、このよう新国家自体が違法であり、その「政府」が出した「要請」もまた違法無効です。
存在しているのはロシアの息がかかったただのヤクザな武装グループにすぎませんから、ロシアに対して集団的自衛権の要請をする主体そのものが欠落しているのです。

しかし無効だろうとどーだろうと、このロシアがした東部2州の国家承認で局面が変わりました。
ロシアが各種の国際交渉席上で言ってきたウクライナへのミンスク合意履行要求を、自分自身の手で否定したんですからこれは大きい。

毒食わば皿までというつもりなのか、プーチンはその上とうとう先日超えてはいけない一線を超えました。
それが禁断の「住民投票」の強行とロシアへの併合です。
なにやってんのかね、プーチン、これではミンスク条約の線に戻る、という和解案はコッパミジンじゃないですか。
残念でしたね、ウクライナがミンスク合意を守らないから戦争が起きたと言っていたロシアンフレンドの皆さん。

こういう流れをみていると、プーチンはもはや自分が火を着けたロシア・ナショナリズムを抑制できていないようです。
むしろ自分が撒いたウルトラ・ナショナリズムの炎に、自分の尻をあぶられてしまっている哀れな独裁者です。

⑤のネオナチうんぬんは、大声で戦争初期にプロパガンダしていたことです。
日本のロシアフレンドも口を揃えてゼレンスキーはネオナチだぁ、と言っていましたね。
やり玉に上がっていたのはマウリポリを守っていたアゾフ連隊でしたが、彼らはもともとイデオロギー的なナチズム信奉者にはほど遠い存在でした。

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マリウポリの製鉄所で最後まで戦いロシアの捕虜となったアゾフ連隊兵士は今… 「今度は私たちが闘う番よ」残された妻が

「アゾフ連隊の前身のアゾフ大隊はしばしば極右のナショナリストの民兵と説明されてきた。アゾフ大隊の創始者、アンドリー・ビレツキーが極右政党の主催者であった事や初期の隊員らがウルトラスの中でも極右思想を持つ者が多かったことも強く影響している。
ウクライナ国内軍の組織である国家警備隊編入に伴い、政府は組織の非政治化を図り取り組んだ。この時、アンドリー・ビレツキーら極右思想を持つ指導部は去り、アゾフ運動を支持する政党「ナショナル・コー」を立ち上げた」
(アゾフ大隊 - Wikipedia )

マウリポリ攻防戦におけるアゾフ連隊の獅子奮迅の戦いぶりは世界をの称賛を浴び、以後彼らに対する誹謗の声は消えていきました。
ロシア発のプロパガンダを拡散していたロシアフレンドは、味噌汁で顔を洗いなさい。
いまや数々の虐殺や収容所が見つかるに及んで、ロシアこそナチスであるということで、世界の眼は一致しています。

このようにロシアの獲得目標は大部分獲得したようです。
おめでとう、プーチン。

 

 

 

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ウクライナに平和と独立を

 

2022年10月17日 (月)

ヒトラー「絶滅戦争」の末裔プーチン

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物事おしなべて始めるより終わらせことのほうが大変です。
始めることは、一時の怒りに駆られてこぶしを振り上げられますので、理由すらいりません。
後から適当に見繕っておけばいい。

要は、短期で勝てさえすれば、その理由などなんでもよかったのです。

開戦前、プーチンは4日で勝つつもりでした。
今思えば度し難い傲慢ですが、実際に子供の手をひねるくらいに考えて始めたのです。
そのために、この「特別軍事作戦」には総司令官すらおかず、バラバラに4方面から攻め入るという素人のようなことをしています。

補給は短期で終わる予定だったので満足な補給線すら構築しておらず、前線部隊は直ちに食糧弾薬が不足するありさまでした。

一部部隊は首都キーウに迫り、虎の子の精鋭空挺部隊をアントノフ国際空港に投入すれば、ゼレンスキーはあわてて国外逃亡し、また親露派のヤヌコビッチ傀儡にすげ替えることができる、これがプーチンの目論見でした。
ところが彼は国外逃亡せずに、私はここに残り続けると国民に演説しました。
これが最初の誤算でした。
このような誤算はドミノのように、次から次にとプーチンを見舞うことになります。

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産経

ゼレンスキーの死を賭したこのひとことが、すべてを変えました。
空挺部隊は殲滅され、執拗に行われたキーウ攻略はなんどとなく跳ね返され撤退を余儀なくされました。
彼が腰砕けになっていたら、今頃はもう降伏していたかもしれません。

プーチンが、ウクライナが理不尽な暴力に相手が耐え、全身から血を流しながらもすばらしく頑強なファイターだということに気がついた時はもう遅かったのです。
戦線は膠着し、世界はウクライナに物心共に応援を惜しみませんでした。
世界は、ウクライナ戦争とは祖国を守って戦う小国と悪の権化と化した大国との戦いと正しく理解したのです。

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ロシア兵は戦場から自転車でトンズラ…じつはロシアがウクライナの最大の武器支援国という真実(デイリー新潮) - Yahoo!ニュース

プーチンは内心勝つ見込みはない、いくら卑劣な手段を用いても勝てない、そう気がついた時、心底ゾッとしたことでしょう。
負けて倒れされるのは、小国ではなく当の自分なのですから。
しかしもはや戦争を終わりにすることは、自らの政治的自殺だという段階まで、状況は抜き差しならないことになっていました。
ですから、今後、プーチンは嘘八百の和平提案をするかもしれませんが、ゼレンスキーはことごとく拒否するはずです。
ウクライナにとって、ここで2014年に結ばされた屈辱的なミンスク合意のようなものなど結ぶ必要はありません。
やがてそれは禍根となって、ロシアの侵略を再び導き入れる原因になりかねないからです。

さてウクライナ戦争は、もうその「終わり方」を考えるべき時期に入っています。
いったいどうしたらプーチンが戦争を止めるでしょうか。
第2次大戦の末期、ドイツと日本は共に軍事的は敗北が必至であることを分かっていました。
しかしその対応はまったく反対でした。

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ヒトラー ~最期の12日間~ |

「ドイツの戦争は、日本とは異質の、人種・民族のイデオロギーの存亡を賭けたまさに『絶滅戦争』であり、その根底には強烈な理念、むしろイデオロギーがあった。したがって、勝利か破滅かの戦いであり、妥協による和平は想定されていなかった」
(庄司潤一郎『大東亜戦争』下))

「ネロ指令」とは、ドイツ本土に連合軍が侵攻してきたことを受け、ドイツ国内の輸送機関、通信設備、産業施設、補給所等のインフラを全て破壊するよう指示した命令です 1945年3月19日に発令されたものです。
ネロ指令(正式名称:ライヒ領域における破壊作戦に関する命令)

これはドイツ本土に連合軍が侵攻してきたことを受け、ドイツ国内の輸送機関、通信設備、産業施設、補給所等のインフラを全て破壊するよう指示した命令ですが、ヒトラーはもっと以前から、この戦争は負けだと気づき始めていたはずです。
最後の大一番と考えていたアルデンヌでのアメリカ軍への攻勢(バルジの戦い)に敗北した1945年1月頃には、勝機は完全に失われていました。
そしてその3カ月後に出たのが、この「ネロ指令」でした。

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当時ヒトラーはパーキンソン病にかかっていたと言われて、しかも重度の薬物中毒に罹っていました。
妄想が妄想を生むという精神状況で、正常な状況判断はまったくできない状態だったようです。
将軍らのクーデターを恐れながら、口をきわめて罵るということが繰り返されたようです。

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AP共同

誰かに似ていませんか。
このウクライナ戦争が、ナチスドイツ型「絶滅戦争」が現代に蘇ったとするなら、その滅び方も似てくるのかもしれません。

ウェルカム・トゥ・プーチンズワールド: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

だから、この男は虐殺も収容所もためらわなかったし、無差別爆撃もしたのです。
したがって、この「絶滅戦争」の終わりも、ナチスドイツの終焉を想起させます。

「こういったイデオロギーは、戦争末期に極限的な形で現れることになく。アドルフ・ヒトラーは、敗北の迫った1945年3月、有名な『ネロ指令』を発しドイツ領内のあらゆる資産を破壊する焦土戦術を撮るにいたるが、その際『戦争が負ければ国民も終わりである。なぜなら国民は弱者であることを証明したからでしる。未来はもっぱら強者であることを証明した東の民族ものとなる』と述べていた」
(庄司前掲)

今、核戦争の可能性がわずかに残り続けているのは、プーチンに「戦争に負ければ国民も終わりである、なぜなら国民は弱者であることを証明したからだ」というヒトラーの怨念が宿っているからです。
彼は大ロシアの敗北は認めない、自らの国土と国民を焼き尽くして西側と刺し違えるという誘惑にとらわれる可能性もないとはいえません。
これがプーチンが招く現代の「ネロ指令」です。

 

 

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「キエフ北方は地獄」「私たちの家渡さない」取材に応じた前線の兵は [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)
ウクライナに平和と独立を

2022年10月16日 (日)

日曜写真館 万緑やいのちは水の匂いして

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広げたる指すみずみに秋の風 守屋明俊                          

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肘に来て耳に来て秋風となる 岩岡中正  

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秋かぜやことし生れの子にも吹く 小西来山 

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淋しさに飯を食ふ也秋の風 小林一茶  

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欠伸して鳴る頬骨や秋の風 内田百鬼園     

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波音は岸に集まり秋の風 稲田秋央 

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あかあかと日は難面もあきの風 松尾芭蕉  

 

 

2022年10月15日 (土)

プーチン、なにをやっても裏目となる

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執拗にロシアの無差別テロ爆撃は続いていますが、やればやるほど自分の首を締める結果となっています。
ものの見事に全部裏目。
プーチンが、オレってなんという知恵者とウヌボレてやった「住民投票」による4州併合は、国際社会で承認した国ナッシング。
もうクリミア併合の時のようなテは食わないのです。
プーチン得意の絶頂に作ったクリミア大橋が何者かに爆破されて、ろくすっぽ調べもしないでウクライナのテロだと叫んで行ったウクライナ全土への「報復」爆撃は世界から総スカン。
お前のほうこそテロリストだ、と言われる始末です。
核兵器を使うと言い出せば、これも世界から大ブーイング。
そんなマネすりゃ、NATOは直接介入すると約束しました。

いいかげんわかれよな、プーチン。
これだけウクライナの人々を踏みにじっておきながら、しかも隠しようもない負け戦。
来週には東部ドネツクが陥落するでしょう。南部ヘルソンも時間の問題です。
もう眼と鼻の先に冬将軍が来るのですが、冬装備も持たせないで戦地に送り込んだロシア兵らはどうなるんでしょうね。
今度のナポレオン役はプーチンですね。

そもそも当のプーチン自身なんのために戦争をしているのか目的がわからなくなっているのですから、話になりません。
思い出してみましょう。当初、戦争目標は東部2州から「ネオナチ」を排除することだったはずですが、結局領土的野心だとバレて、あげく併合という悪手。
次に南部を落として東部と繋がるロシア回廊を作ろうとして、いまやこれもズタズタ。
負けが込んで、禁断の国民徴用をやろうとしたら、今になって状況がわかり始めたロシア国民が怒りだす。(遅いよ)
せめてクリミアを守ろうとしても、ヘルソンを落とされそうになり、ロシアとの生命線であったクリミア大橋を爆破されてメンツ丸潰れ。
とうとうブチ切れて、ウクライナを無差別爆撃すれば半分を撃墜されてしまい世界を敵にする。

さて、国連総会緊急会合における、ロシア4州併合非難決議の採択結果です。
下写真右側に見えるように、ロシアに味方する国わずか5票という冷厳な数字が、今のロシアの国際的孤立を能弁に物語っています。

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国連やNATOで対応協議も…ウクライナでロシアによる大規模攻撃続く|TBS NEWS DIG - YouTube

「【ニューヨーク時事】193カ国で構成する国連総会は12日、ロシアのウクライナ東・南部4州の一方的「併合」は違法だとして非難する決議を143カ国の圧倒的賛成多数で採択した。
総会決議に法的拘束力はないが、「力による国境変更を認めない」という国際社会の意思をロシアに突き付けた。
 決議は、4州で9月23~27日に強行された「住民投票」について、「国際法上無効であり(4州の)地位変更の根拠にならない」と宣言。各国や国際機関に併合を認めないよう要求し、ロシアには一連の決定の撤回と軍の即時撤退を求めた

(時事10月13日)
「力での国境変更」にノー ロシア非難決議に143カ国賛成 国連総会(時事通信) - Yahoo!ニュース

193カ国中、賛成は141カ国。反対はベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、ロシア、シリアの5カ国、棄権は中国やインドなど35カ国です。

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国連総会の緊急特別会合、露のウクライナ4州併合は「無効」…圧倒的賛成多数で採択 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

北朝鮮、アサド政権のシリア、「大ロシア」の一角の独裁国ベラルーシと、いかにもいかにもの独裁国が並びました。
ちなみにエリトリアは、紅海周辺地域でかくれもなき独裁国で、付けられたニックネームが「アフリカの北朝鮮」です。そのいままでの中露の票田だったアフリカが、今回はゴッソリ棄権に回りました。
盟友のはずのイランと中国、そしてカザフスタンのような衛星国でさえも無情にも棄権ですから投了ですね。

この国連総会緊急特別会合の議決には法的拘束力はありませんが、「国際平和への脅威・平和の破壊及び侵略行為」の状況があるにもかかわらず、安保理が常任理事国の拒否権で機能不全になった場合、安保理に代わって行動するために存在しています。
法的拘束力がない代りに、安保理常任理事国も拒否権を行使できません。

なになにこんな決議、無意味だろうって。
だからなんなのです。常任理事会すら中露がのさばって機能停止しているのですから、国連そのものが既に国際学級委員会と化しています。
そう割り切ってしまえば、こういう形で「世界の世論」がキッチリと示されることは今の時期に大いに意味があるでしょう。


また、先日国際人道法にふれましたが、ロシアは欧州評議会から、「テロ国家」の輝かしい称号を与えられてしまいました。
どの国もロシアのクリミア大橋を爆破したのはウクライナのテロだ、なんていうヨタ話は信じなかったようです。

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President of Ukraine PACEに向けて演説するゼレンスキー大統領

「欧州評議会の議会は、ロシア連邦をテロリスト政権と呼ぶ決議を採択した。(略)
「この侵略は、それ自体が犯罪として、国際法違反として、そして国際の平和と安全に対する大きな脅威として、明確に非難されなければならない」と述べている。
決議は「ロシア連邦をテロリスト政権と宣言する」ように修正された。投票中、79人の議員が支持し、2人が反対し、1人が棄権した」
(ウクライナプラウダ10月13日)
PACEは、ロシアをテロリスト政権として承認することに関する決議を採択|ウクライナプラウダ (pravda.com.ua)

欧州評議会(Council of Europe )は、EUと違って民主主義や人権、法の支配といった価値観を共有する西欧10か国が、加盟国間の協調拡大を目的としてフランスのストラスブールに本部を持つ国際機関で、ここにも法的拘束力はありません。
かつてはロシアすら加盟していた時期がある、全欧にまたがる機関です。
もっとも大きな機能は、基本的人権の擁護です。

欧州評議会においてもっとも知られている組織体は、人権と基本的自由の保護のための条約(欧州人権条約)を適用する欧州人権裁判所と、ヨーロッパでの医薬品の品質水準を定める欧州薬局方委員会である。欧州評議会は基準、憲章、条約を定めることで、ヨーロッパ諸国の間での協力を構築して統合を進めるという機能を果たしてきた」
欧州評議会 - Wikipedia

この欧州評議会と同時期に開かれたNATOの会議では、この間のロシアの核の恫喝について、いままでと違って明確な判断基準を設けました。

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(CNN) 北大西洋条約機構(NATO)の高官は12日、ロシアが核兵器を用いて攻撃を行った場合、ウクライナの同盟国や潜在的にはNATOからの「物理的な対応」を「ほぼ確実に」引き起こすだろうと述べた。
同高官は、ベルギーのブリュッセルで開催中のNATO国防相理事会を取材している記者団に対し、核兵器の使用はロシアに「前例のない結果」をもたらすと警告した。
同高官は、ロシアによる核兵器の使用について、「ほぼ確実に、多くの同盟国から、そして潜在的にはNATO自体から物理的な対応を引き出すだろう」と語った。
同高官はさらに、ロシアは主に、ウクライナの同盟国や他の国々がウクライナでの戦争に直接参戦するのを抑止するために核の脅威を利用していると指摘した」
(CNN10月13日)
ロシアが核攻撃なら「物理的な対応」は「ほぼ確実」 NATO高官 - CNN.co.jp

ロシシアが核を使えば、「NATOからの「物理的な対応」を「ほぼ確実に」引き起こす」という言葉をとうとうプーチンは引き出してしまいました。底抜けの馬鹿ですね。
プーチンの目論見では、ノルドストリーム2を破壊することでエネルギーの恫喝をかけ、核を電光石火使うと言って核の恫喝を加えたのですが、全部裏目です。
ヨーロッパは賢明にロシア産以外のエネルギー供給源を確保に奔走し、いまやなんとかこの冬を乗り切れるアテがついたようです。
そして核の恫喝については、「物理的対応」、すなわち航空戦力を用いたロシア軍への攻撃を明言しました。

ボレルEU外相はストレートにこう言っています。

「【10月14日 AFP】欧州連合(EU)の外相に当たるジョセップ・ボレル(Josep Borrell)外交安全保障上級代表は13日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナに核兵器を使用すれば、欧米の軍事的対応によってロシア軍は「壊滅」すると警告した。
ボレル氏はベルギーの外交アカデミーで「プーチン氏は脅しではないと言っており、彼にそんな余裕はないだろう。だからウクライナを支援する人々、EUとその加盟国、米国、北大西洋条約機構(NATO)もはったりを言っていないと明らかにしなければならない」と述べた」
(AFP10月14日)
プーチン氏が核使えばロシア軍「壊滅」 EU外相 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News

EUのこの核に対しての明確な態度表明で、ロシアの敗北は決定的になりました。
NATO加盟の20カ国と米国が結束して、通常兵器で一挙にロシアの陸海空軍事施設、ウクライナに侵攻している部隊、そして武器弾薬などの兵站、通信、司令部を壊滅させるでしょう。
ウクライナ一国にすら負けかかっているロシアに抵抗する力がそんな体力が残ってるはずがありません。
こんなことがわからないなら、宮殿に戻ってピアノでも弾いていなさい。
いまでも十分に戦争犯罪人ですが、仮に核を使えば極刑も免れないかもしれません。
そしてロシアは、ソ連崩壊に次いで二度目の亡国確定です。

一方米国も、「世界最終戦争にもっとも近づいた時期」だと認識したうえで、「核報復を含まない攻撃をする」と発言しました。

「バイデン米大統領は11日のCNNの単独インタビューで、ロシアによる威嚇は壊滅的な「誤り」や「誤算」につながりかねないと語った。ただ、ロシアのプーチン大統領がウクライナの戦場に核兵器を配備した場合、米国がどのように対応するかは明言を避けた。バイデン氏は先週、「核のアルマゲドン(世界最終戦争)」の危険性が過去60年間で最も高まっていると警告していた」
(CNN前掲)

ウクライナの航空優勢すらとれないロシア空軍ですから、NATOと米国の航空攻撃を受けたらどうなることやら。
だいいち、核なんぞ使ったら間違いなくロシア亡国まで突き進みますが、ロシア国民がどこまでついてくるのやら。

おまけにヤケのヤンパチで大動員をかけた20万(実際は百万)の徴用兵たちの使えなさかげんたるや、凄まじいもののようです。
ウクライナ・プラウダ」によれば、捕まったロシア兵捕虜はこう言っているようです。

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(307) Цикл «життя» мобілізованих окупантів 12 днів – і вони в полоні - YouTube

「捕虜となった兵士はロシア連邦ウドムルト共和国の出身で、ロシア軍の招集に応じて先月13日にウクライナ国境に近いロストフ州ミレロボ(ロシア東部、露軍空軍基地がある)に到着。小隊の一員としてウクライナ東部のドンバス地域へ送られ、最終的にハルキウの前線に行き着いた。
ロシアで戦闘訓練を受けた期間はわずか2日間だった。戦車の乗組員でも最長10日しか訓練を受けていないといい、そんな短い時間で兵を訓練するのは不可能だ、と率直な考えを語った。
ウクライナ兵と対峙した経験について「武器も豊富で、兵はしっかり訓練されていた。2人に1人は無線機やサーモグラフィー、暗視スコープを持っていた。彼らは我々の隊を1分で丸ごと壊滅させた。1分で20人の兵士が殺された」
(ウクライナプラウダ)

わずか1分間でこの新兵のいた部隊は全滅したといいますが、ウクライナのプロパガンダを差し引いても、訓練しない兵隊などただ殺されに来たようなものです。
英国国防省によれば、9月上旬時点で、ウクライナでのロシア兵の死傷者数は9万人を突破しました。
今年四月には侵攻1カ月で1万5千人に達し、その死傷者数はアフガン戦争9年間すべてに匹敵しています。
そしていまや実にその6倍の9万人。
こんな大損害をだしていて、国民が気がつかないはずがありません。

「ロシアのメディア筋が発表した数字は、9月上旬に英国国防長官ベン・ウォレスが公開したデータに近い。長官によると、ウクライナでは25,000人以上のロシア兵が殺害されており(9月5日現在)、負傷、捕虜、または脱走した人々を加えると、総数は80,000人以上と推定される可能性があると指摘した。
ロシア国防省が最後に損失を報告したのは9月だった。当時、セルゲイ・ショイグ国防相は、ウクライナで5,937人のロシア軍人が殺害されたと述べた」
(ウクライナプラウダ10月12日)
ロシア軍は既にウクライナで90,000人を殺害し、負傷させている可能性があ|ウクライナプラウダ (pravda.com.ua)

アフガニスタン侵攻は1979年12月から1989年2月まで続き、足かけ9年間で約1万5千人が戦死して国内に大きな厭戦ムードを作り出し、それからわずか数年後にソ連帝国は崩壊しています。
独裁国家は、一見強固のように見えますが、いったん潰れだすと瞬く間に崩壊します。

プーチン、完全に詰みました。

 

 

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包囲下の製鉄所で結婚した女性兵、3日後に夫が死亡 ウクライナ - CNN.co.jp
ウクライナに平和と独立を

 

2022年10月14日 (金)

とうとう北朝鮮に泣きついたロシア

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先月、北朝鮮が水中発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験をしました。
北朝鮮の弁。

「9月25日に実施したのは、戦術核弾頭の搭載を模した弾道ミサイル発射訓練で、貯水池の水中から発射した、とも伝えた。一般に戦術核とは、敵国の軍事施設や大都市などを攻撃する「戦略核兵器」に対し、敵軍の陣地など軍事目標を爆撃する核兵器を指す。朝鮮中央通信の記事には「戦術核運用部隊」について詳しい説明はないが、核弾頭を搭載可能な弾道ミサイルを運用する部隊とみられ、中・短距離弾道ミサイルの実戦配備を示唆する内容だ。同通信が配信した写真も参考に、韓国の専門家は、計12発のうち、11発は短距離弾道ミサイルで、ロシア製の「イスカンデル」に似た「KN23」や、米国製「ATACMS(エイタクムス)」に似た「KN24」、北朝鮮が「超大型放射砲」(ロケット砲)と呼ぶミサイル「KN25」と分析する」
(朝日10月10日)
「核攻撃能力の警告」と金総書記 戦術核運用部隊の訓練を指導と報道:朝日新聞デジタル (asahi.com)

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北朝鮮がダム湖からSLBMを水中発射していたことが判明(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース

朝日によれば、なんでも米国の日本海への空母打撃群の派遣や米韓合同軍事演習への警告だとしていますが、そんなことはあたりまえというか、なにを今さらの話です。
もうこのような記念日だからどーした、米国がこーしたから撃った撃たないというレベルの話ではありません。
北は虎視眈々と「核大国」の道を歩んでおり、ウクライナに手一杯の今こそミサイル実験と核実験も済ましてしまおうとしているだけのことです。
何度も書いていますが、おそらく年内には核実験を済まして核の小型化を完了し、現実にICBMと戦術核の実戦部隊への配備を済ませることでしょう。

それにしても静かな湖から突如飛び出すミサイルですか、シュールな風景ですな。ゾっとします。
初めて見ました。

「なお北朝鮮の公式発表文をよく読むと、ダム湖の水中発射場は試験発射設備ではなく実戦用の設備である可能性があります。公式発表文には「訓練の目的は戦術核弾頭の搬出および運搬、作戦時の迅速かつ安全な運用…」という表現で、試験発射を匂わせる内容が無く、実戦に即した内容の訓練になっています。これが実戦用の設備だとすると、世界初のダム湖に固定配備されたSLBMになります」
(JSF 10月10日)
北朝鮮がダム湖からSLBMを水中発射していたことが判明(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース 

たぶん水中に発射サイロを設置して、そこから発射したようです。
一朝一夕に潜水艦発射弾道ミサイルは実用化するのは困難でも(モノになる潜水艦づくりは大変ですからね)、沿岸の水中にこのような発射サイロを定置しておくことでも考えているのかもしれません。
これはすでに設置型機雷で実用化されている技術ですが、案外潜水艦と違って探知が困難で、しかも生存性が高いかもしれません。

発射された弾種はKN-23・SLBM型と9月28日のKN-23拡大型で、共にロシア原産のイスカンダルをコピーした短距離弾道ミサイルです。
イスカンダルは、ウクライナ戦争で、在庫僅少になるほど撃ちまくって悪名を轟かせているものです。
ただお気の毒にも、ロシア軍はGPSが使えなくなっているようなので、たいした効果は上がっていないようですが民間人虐殺には貢献しています。
今回のウクライナ全土攻撃にも使われたようですが、精密誘導できないミサイルはただの空飛ぶバクダンにすぎないんですよね。

それはさておきこのコリアン・イスカンダルの射程は短くてせいぜい600キロですから、韓国攻撃用だと考えられます。

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北朝鮮が新型SLBMを公開、イスカンデル型に酷似(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース

このコリアン・イスカンダルは日本には到達しません。
到達させるには日本海のど真ん中にまで発射台を引っ張ってこなければなりません。
気張って潜水艦発射式を開発しても、日本の潜水艦探知技術をもってすれば、隠しとおすのはそうとうに困難かと。
ですから日本には、従来どおり地上発射型のノドンを、移動式発射台(TEL)で撃つつもりでしょう。

さてやや旧聞になりますが、ロシアが恥も外聞もなくいままで見下していた北朝鮮に支援を要請したようです。ああ、恥ずかしい。
西岡力氏によれば、今年3月に打診があったようです。

「ロシアのショイグ国防相が北京で北朝鮮人民軍幹部と秘密会談をしたことを思い出した。ショイグ国防相は訪朝を希望したが、コロナウィルス問題で外国人の入国を拒んでいる北朝鮮が北京での会談を逆提案したという。会談でショイグ国防相は北朝鮮に特殊部隊の派兵やミサイルとその部品の提供を要請し、北朝鮮は検討すると答えた。北朝鮮の金正恩総書記はロシア軍が予想に反して弱いのを目にして、ロシアを全面的に支持すると表明しつつ、戦争への介入を避けるという方針を決めた、と当時情報筋から聞いた」
(西岡力『北朝鮮の対露支援の内幕』2022年9月12日 国家基本問題研究所)

【第963回】北朝鮮の対露支援の内幕 « 今週の直言 « 公益財団法人 国家基本問題研究所 (jinf.jp)

西岡氏によれば、このロシアの要請に対して、北は特殊部隊を労働者に偽装してドンバスなど東部2州に派遣して復興工事にあたらせることを考えたようです。
普段は土木作業をして、いざとなれば戦闘にも参加可能な部隊派遣です。
わが国がカンボジアPKOで施設部隊を送った故事に似ているので苦笑します。
表面的には軍事的支援はしないというそぶりで、実は水面下でしていた、ということです。

その他、迫撃砲弾やロケット弾などの泥臭い軍事支援もする可能性があります。
おいおい、プーチン、こんな地上戦闘のイロハのイの武器が足りないのかよ、と思います。
まぁ防寒着なし、メシなし、軍歌なし、銃はオンボロ、ついでに訓練なしで地獄のウクライナ戦線に徴集兵を突っ込んでいるんですから、迫撃砲弾くらいなくてもなんのことあらん、でしょうか。
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ロシア、北朝鮮から砲弾調達か 数百万発、供給不足と米分析|全国のニュース|北國新聞 (hokkoku.co.jp)
「米政府は、ウクライナ戦争で苦戦するロシアが北朝鮮から数百万発のロケット砲や迫撃砲の砲弾を輸入するための協議の過程にあると明らかにした。国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官が9月6日の記者会見で述べた。すでに輸入されたかどうかは未確認としている。また、ロシアは独立を宣言させたウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州で北朝鮮労働者を使う方針を決めた。フスヌリン副首相が既に北朝鮮に対して労働者派遣を要請したことを認めたという」
(東京新聞9月6日)

西岡氏は、このロシア支援の見返りとして残留している北の労働者の未払い賃金をドル建てでもらうことを要求したと見ています。

「ロシアは国連安保理制裁で受け入れを禁止されている北朝鮮労働者をいまも国内に残留させているが、ウクライナ戦争開始後、ロシア通貨ルーブルで支払われる賃金がドルと交換できなくなったため、北朝鮮当局が困っているという情報を得ていた」
(西岡前掲)

これらの北の出稼ぎ労働者は、国連などによると、中国やロシアなど29カ国に約10万人が派遣され、年間約5億ドル(約540億円)を稼ぐ重要な財源です。
ロシアでは森林伐採や養豚場で働いており、本来なら19年に国連制裁を受けて帰還させねばなりませんでしたが、ロシアはこれを無視して残留させています。
※参考過酷なノルマ、ルーブル下落…ロシアの厳しい環境にも耐えて働く北朝鮮の出稼ぎ労働者

そしてなんといっても、北は油が欲しいようです。
ただし、いまだ北とロシアの交渉はまとまっていないようです。

「金正恩の指令を受けて在モスクワ北朝鮮大使館の武官がロシア政府に対し、①ロケット砲と砲弾を提供する用意がある②特殊部隊を労働者に偽装してドンバス(東部2州)に派遣して復興工事にあたらせ、場合によっては戦闘参加もさせる③代価として、ルーブルではなく、ドルか石油(原油でなくガソリンなど精製済みのもの)か食料が欲しい―という提案を行ったという。現在、協議が進行中で最終結論は出ていない」
(西岡前掲)

プーチンは戦争をまったく止める気はないようですが、周辺国の悪魔の下回り連中はそろそろ止めにして欲しい、これ以上巻きこまないでくれよ、と思っているようです。

 

 

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ロシア兵を待つのは「死のみ」 ウクライナ兵、疲弊も前進誓う(AFP=時事) - Yahoo!ニュース

ウクライナに平和と独立を


 

2022年10月13日 (木)

ありがとうウクライナ!北方領土を日本領土だと決議

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ウクライナ議会がわが国の北方領土について、圧倒的多数で日本の立場を支持する決議をしました。
おそらく外国議会が北方領土で日本支持を決議したのは、今回が初めてのはずです。
ありがとう、ウクライナ!

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「ウクライナ最高会議(国会)は7日、北方領土問題において日本の立場への支持を表明した上で、国際社会に対して、北方領土の地位問題の解決を支持するよう呼びかける決議を採択した。
ジェレズニャク最高会議野党「声党」議員がテレグラム・チャンネルにて報告した
ジェレズニャク氏は、「議会は、2つの国際社会への呼びかけを採択した。(1つは)第8108、日本の北方領土に関するもので、賛成は287だ」(編集注:過半数は226)と書き込んだ。(略)
また、同決議案提出議員団による決議採択の必要性を記した説明文には、ロシアの対ウクライナ全面的侵略により、主権国家の国境画定、独立国家の領土一体性への無条件尊重が国際社会の全ての構成員の然るべき共存にとっての基盤となっていることが確認されたと書かれている。
議員たちは、1945年8月から9月にかけてのソ連による北方領土の違法占領、その後の島民の追放、1956年の日ソ共同宣言における、ソ連の2島返還への同意を喚起した上で、「他方、ソ連の『継承国』としてのロシア連邦は、今も自らの義務を果たしていない」と指摘した。
今回の決議の目的と課題に関しては、説明文では、国際レベルにて、日本の主権領土への支持と1956年合意の実質的実現の加速の必要性に注意喚起をするものだと書かれている」
(ウクライナプラウダ10月9日)
ウクライナ国会、北方領土問題における日本の立場支持を表明 (ukrinform.jp)

※決議文はこちらから
『ウクライナ最高議会による日本の北方領土に関する国際社会へのアピールについて』
 07.10.2022 No. 2662-IX

また、ゼレンスキーも7日、北方領土の日本の主権を尊重する」と述べました。

「【キーウ共同】ウクライナのゼレンスキー大統領は7日のビデオ演説で、北方領土に言及し「日本の主権と領土保全を尊重する」と述べた。大統領府は北方領土について日本の立場を支持するとの大統領令を公表した。ウクライナ最高会議(議会)も同日、同じ内容の決議を採択した」
(共同10月8日)
北方領土、日本の主権尊重 ゼレンスキー氏がビデオ演説(共同通信) - Yahoo!ニュース

 共同の配信はたったこれだけで、おいおいウクライナではこれだけ大きく報じられているというのに、まったくもう。
遠方からこれだけ熱い連帯の議決をもらいながら、トーイツキョーカイのほうが重要のようです。
モノの軽重がわからない困った連中です。

なお、いまから2年前の2020年11月30日には、セルギー・コルスンスキー駐日ウクライナ大使が」「ウクライナは日本の領土一体性を完全に支持しており、北方領土は不法な占拠であり、日本に返還されるべきである」と発言していますので、ウクライナ戦争以前からの一貫した態度が今回も確認されたわけです。

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「北方領土は不法占拠、日本に返還されるべき」=ウクライナ大使 (ukrinform.jp)

「(2020年)11月30日、セルギー・コルスンスキー駐日ウクライナ大使が日本記者クラブでの会見時に発言した
記者から日露関係に関するコルスンスキー大使の考えをたずねると、コルスンスキー大使は、「何よりまず、言わせて頂きたいのは、私たちは日本の領土一体性を完全に支持しているということです。北方領土は不法な占拠であり、日本に返還されるべきです」と発言した。(略)
ロシアとの間で領土問題を抱えていることを喚起しつつ、アジアでは日本もロシアとの間で同様の問題を抱えており、ロシアはそのような政策を意図的に利用しているとの見方を示した。
また大使は、クリミア問題も北方領土問題も必ず終わると確信しているとしつつ、日本にもクリミア・プラットフォームに参加してもらえたらありがたいと思っていると発言した。
その他、大使は、「全ての問題は相互に繋がっている」と述べ、前述の領土問題は「ロシアが世界をどう見ているかの反映である」と指摘した。その上で、日本とウクライナの領土一体性の回復という共通のゴールは両国を連帯させるものだと考えていると発言した」
(ウクライナフォーラム2022年10月9日)

日本は、これに答えてクリミア・プラットフォームに加盟しています。
クリミア・プラットフォーム - Wikipedia  

さてここでウクライナ議会決議は「独立と領土の一体性」を強く訴えていることに留意してください。
独立国が独立国であるための最大の条件は、領土を保持する為に戦うことなのです。

いうまでもありませんが、この決議はその2日前の10月5日にプーチンが出したウクライナ4州の併合と、わが国の北方領土を重ね合わせています。
ウクライナ戦争と私たちが抱えもつ北方領土問題は通底していることを、ウクライナ側から教えてくれたのです。

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プーチン大統領 ウクライナ4州を併合する調印式で署名(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース

[モスクワ 5日 ロイター] - ロシアのプーチン大統領は5日、ウクライナ東・南部4州の併合手続きを完了した。併合される地域はウクライナの国土の18%程度を占め、ロシアにとっては少なくとも過去半世紀で最大の領土拡大となる」
(ロイター10月5日)
ロシア、ウクライナ4州併合手続き完了 プーチン氏が法案署名 | Reuters

こういうロシアの違法な領土拡大を無効化するには、ウクライナ支援だけではダメです。
支援する国も、また戦わなくてはなりません。

日本が北方領土交渉をするには、こういう自らも戦おうとする国際社会の支持が大きな力を持つのです。
日本の北方領土交渉は、国際社会の世論を味方につけるということをヌキに進められてきました。
この欠点は慰安婦問題もも通じることで、韓国に国際社会に嘘八百をイガンジル(いいふらす)されても、なすすべもないありさまでした。

日本対ロシアという二国間交渉でのみ進めたために、ロシアに下手に出て権益のエサをばらまくことが北方領土解決の近道だというような鈴木宗男や佐藤優のような北方領土屋を生み出しました。
安倍氏も、こと北方領土交渉においては根本的ミスをしていました。
ロシアは北方領土を返還する意志は毛頭ないのです。
そこを見誤ってきました。致命的失敗です。

2019年1月、ラブロフ外相は河野外相(当時)に会談の席上、愛想もこそもなくこう言ってのけています。

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時事

「会談後、ラブロフ外相が単独で記者会見に臨み、北方領土におけるロシアの主権を認めるよう、日本側に改めて要求したことを明かした。
また、日本の法律で「北方領土」という文言が使われていることについて「受け入れられない」と反発したことや、平和条約について交渉を進めるにあたり、日本側が第2次世界大戦の結果をすべて認めることが必要だと伝えたという」(ハフィントンポスト2019年1月15日)
https://www.huffingtonpost.jp/2019/01/14/meeting-taro-kono-sergey-lavrov_a_23642564/

これがロシアのストレートな本音です。
ラブロフはこう言っています。「北方領土問題などというものはない。この諸島の主権はロシアにあり、日本はそれが第2次大戦の結果であることを認めよ」。
この意味するところは、「戦争の結果に従え」、もっと砕いて言えば、返してほしくば戦争するんだな、できはしまい、だから返さない、ということです。
ロシアという国は、建国の昔から一貫して、戦争で領土を拡げてきた国であることを思いだして下さい。

当時私も、このラブロフ発言を交渉にありがちな高めの球だと軽視してしまいました。
ラブロフは交渉というと必ず課題な要求を出して最後通牒めいたことを言うのが習いなので、また投げやがったと思ってしまったのです。
ところが、これは外交交渉上のレトリックではなく、まさにロシアの真意でした。
その証拠に、2020年にはとうとう憲法に「領土割譲禁止」を入れたくらいです。

ところが2021年になっても、佐藤優氏はこう述べています。

「ロシアのプーチン大統領は4日、昨年7月に改正された憲法に領土割譲を禁止する条項が盛り込まれたことを踏まえ、北方領土問題について「憲法を考慮しないといけない」と述べた。この条項が領土交渉に影響する可能性を認めた格好だ。一方で「(日本との)平和条約交渉を止めるべきだとは思わない」とも語り、交渉継続に意欲を示した」
(毎日 2021年6月11日佐藤優 『北方領土交渉に対するプーチン大統領の意欲』)
北方領土交渉に対するプーチン大統領の意欲 | | 佐藤優 | 毎日新聞「政治プレミア」 (mainichi.jp)

そして佐藤氏は、ロシアが懸念する米国の中距離ミサイル配備を日本が拒否し、4島に固執せずに2島返還で折り合うならば北方領土は返還されると説いています。

「プーチン氏は2000年の大統領就任直後、日ソ共同宣言の履行に前向きな姿勢を示したが、日本側が4島返還を求めたことに反発し、交渉が停滞した時期がある。
 一方、「日露とも戦略的観点から平和条約締結に関心を持っている」とも強調。ただ、米軍による日本への中距離ミサイル配備の可能性には改めて懸念を表明した」
(佐藤前掲)

この2島返還論は、鈴木宗男なども盛んに提唱していたもので、この平和条約を進めつつ並行して経済開発で信頼醸成し、2島先行返還交渉を具体化していくという戦略ですが、安倍氏もこの影響を受けています。
当時、私もそれが現実的解決方法だと考えていました。

しかしこのロシアに歩み寄ったかに見える2島先行返還論ですら、幻想にすぎませんでした。
ロシアにはテンから北方領土を返還する気などなく、返してもいいというそぶりはフェイントにすぎず、その裏にはなにかの政治的意図が針のように隠されていました。
それは、日本を北方領土を餌に釣り出して日米同盟を分断させ、さらにはロシア制裁を緩めるように西側陣営に働きかけることです。

にもかかわらず、日本は北方領土交渉においてロシアに対して甘すぎました。
それにはいくつか理由があります。
ひとつには、ロシアが戦後処理を急いでいると考えていたことです。
ロシアにとって残された戦後処理は日本の北方領土交渉だけで、これか喉に刺さったトゲとなって日露平和条約は締結に至っていません。
ここで日本が考える「戦後処理」とは、あるべきものをあるべき者に返還すること以外にありません。
そもそも北方領土は、敗戦のどさくさに紛れて、ロシアの没義道な進攻によって奪われたわが国固有の領土だからです。
いわば「固有領土論」とでもいうべきものです。

ロシアが言っているのはそれと正反対に、「第2次大戦の結果をすべて認めよ」という「戦争結果論」の立場ですからかみ合うはずがありません。
彼らロシア人に言わせれば、第2次大戦の結果とは、今の戦後の国際秩序そのものであり、日本もその中で生きている以上、これを前提にするのが当然ではないか、というものです。
したがってロシアに言わせれば、「国境の変更」を言い出しているのは日本の側であり、ロシアは戦後秩序の守り手なのだというわけです。

プーチンはいくつもの餌を撒きました。
その最大の餌は、プーチンが2001年3月のイルクーツクでの首脳会談での「1956年宣言」の有効性を認め、その履行はロシアの義務だ」という発言です。

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地球コラム】プーチン大統領、「2島マイナスα」が本音か:時事ドットコム

「(日ソ)共同宣言の有効性を、ロシア首脳で初めて公式に認めたのがプーチン大統領だ。2001年、イルクーツクでの日ロ首脳会談では声明で、平和条約の交渉プロセスの出発点となる基本的な法的文書と明記した。大統領は日ソの両議会が同宣言を批准したことを重視し、ソ連の継承国として「履行義務がある」と言及している。
ただし大統領は、歯舞、色丹の2島を「どのような条件で引き渡すかは明記していない」とクギも刺している。主権の問題を含めてすべて交渉次第というわけだ」
(日経 2016年10月19日)
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO08527230Z11C16A0EA1000/

この「1956年宣言」とは、鳩山一郎政権時にソ連と締結した宣言で、この時も領土問題で行き詰まっていました。
平和条約を締結するにはまず相互の領土を確定せねばならず、この部分でスッタモンダのあげく、宣言はこういうことで落ち着いています。

●日ソ共同宣言(1956年)
歯舞群島及び色丹島を除いては、領土問題につき日ソ間で意見が一致する見通しが立たず。そこで、平和条約に代えて、戦争状態の終了、外交関係の回復等を定めた日ソ共同宣言に署名した。
→平和条約締結交渉の継続に同意した。
→歯舞群島及び色丹島については、平和条約の締結後、日本に引き渡すことにつき同意した。
外務省『北方領土』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/hoppo/hoppo_rekishi.html

つまり、ソ連は日本と平和条約を締結された後に、歯舞・色丹を日本に引き渡す、ということです。
ですから、プーチンがこれは「1956年宣言はロシアの義務だ」とまで言ったということは、平和条約を締結すれば返すという意味以外に取りようががありません。

この理解に基づいて安倍氏はプーチンが危惧するトゲを抜いてやりさえすれば、北方領土は返還されると読んだのです。
このトゲとは、北方領土に在日米軍と中距離ミサイルなどを進駐させないことや、さらには民族主義者プーチンの国内への顔をどう立ててやるかということで、いずれも解決可能なことだと安倍氏は考えていたようです。

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プーチン大統領が「シンゾー」と言わないワケ

結局は、この安倍氏の判断が誤っていたのはご承知のとおりです。
プーチンはいかなる妥協も拒みました。

「しかし、2004~05年を境にその発言内容は一変、以降は「南クリルが第二次大戦の結果正式にロシア領になったことは、国際法で認められており、これについて一切議論するつもりはない」、あるいは「1956年宣言には、島を引き渡すとしても、どこの国の主権が及ぶかは書かれていない」、「日本との間に領土問題は存在しない」などという、日本としては理解しがたいレトリックを繰り返し、一貫して強硬な姿勢を示してきた。
特にここ数年のプーチン大統領の発言は、どれも2000年代前半の時分とはかけ離れたものだ。それにもかかわらず、安倍政権は当時のプーチン氏の発言に引きずられてきた可能性が高い。シンガポール合意で、日本が1956年宣言まで下りる決断をしたのも、まさにプーチン氏が当時、1956年宣言の履行はロシアの義務と認めたという一点に、望みをつないだ結果だったと考えられる」
(吉岡 明子 2021年1月13日キャノングローバル研究所)

思えばこのプーチンを日本に呼んで開かれた日露首脳会談時は、すでにロシアの2014年のクリミア進攻が起きていたのです。
訪日に応じたプーチンの胸中にあったのは、2島返還などではなく、日本を西側陣営から領土交渉で釣り出すことだったようです。
まさに西側分断工作の一環だったのですが、安倍氏はそれに乗ったことになります。

日本は根本的に北方領土交渉のやり方を変えねばなりません。
それは北方領土交渉の開かれた国際化です。
なかでもロシアと領土問題を抱えているポーランドやバルト3国、そしてなんといっても侵略を受けている真っ最中のウクライナとガッチリ手を握らねば勝てません。

そういう声を背景に、共同して今回ウクライナ議会が提唱するように「国連やヨーロッパ議会などの国際機関も北方領土が日本の領土であると定めるための一貫した支援と行動をとるよう」訴えねばなりません。
ウクライナが作ったようなクリミア・プラットフォームと同じ性格の「北方領土プラットフォーム」を作り、相互にリンクして別に立って共に戦う仕組みが必要なのです。

これからはウクライナと領土問題でも共同して戦わねばなりません。
その意味からも、ウクライナ戦争は彼岸の火事ではないのです。

 

 

 

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ウクライナに平和と独立を

 

 

2022年10月12日 (水)

こんな時期だからこそ、あえて国際人道法を読む

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プーチンがクリミア大橋爆破の報復だと称して、キーウを含むウクライナ全土の民間施設を狙って84発のミサイルを打ち込みました。
まさに無差別攻撃そのものです。

ただし、そのうち56発はウクライナ防空網によって打ち落とされています。

「(CNN) ウクライナの緊急対応当局は、10日にロシアが行った首都キーウなどに対する攻撃によって、少なくとも14人が死亡し、97人が負傷したと明らかにした。
ロシア軍の攻撃によって、キーウ、リビウ、スムイ、テルノピリ、フメリニツキーの各州で電力供給が止まったという。
ウクライナ軍参謀本部によれば、ロシア軍は84回を超えるミサイルや空爆による攻撃を行った。ウクライナ側は、ミサイルやドローン(無人機)による攻撃を56回迎撃したと主張している。
ウクライナ軍によれば、約20カ所の集落が攻撃を受けた。
世界各国の首脳は、ロシアによる攻撃を非難し、ウクライナへの支援の継続を約束している」
(CNN10月11日)

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Генеральний штаб ЗСУ

ロシア軍の爆撃目標は、ひとつ残らずすべて民間施設です。
しかもウクライナ全土が攻撃対象となっています。

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ウクライナプラウダ

使用された兵器も、空、海、および陸上の巡航ミサイル、弾道ミサイル、対空誘導ミサイル、偵察ドローンおよびイラン製自爆無人攻撃機まで動員しています。
精密誘導兵器を使ってはずしようがない民間施設を狙っているのですから、悪質きわまりありません。
しかもラッシュアワーに合わせて、市民の殺害を拡大しています。
これは戦闘行為ではなくただの殺人、あるいはテロです。

これでウクライナの軍事的抵抗が下がるどころか、かえって士気があがるでしょうし、国民もいっそう団結することでしょう。
西側諸国も完全にロシア非難で一致しました。
負け戦のうえに、こんな誰がみても狂気の沙汰の攻撃をするロシアと共に戦おうという国は、いまや一国もなくなったようです。
要するに、ただのプーチンの国内向けパーフォーマンスにすぎませんが、愚か極まれりです。

ところでこうまで毎回毎回、平然と国際人道法を踏みにじらられると、しっかりとなにが戦争において禁じられているのか、明確に押さえておく必要があります。
こういう時だからこそ、「戦争だからしかたがない」というような安易な考え方に流れないで、立ち止まって理性的判断をする必要があるのです。

ここでいう「国際人道法」とは、1971年に国際赤十字委員会が公式に提唱している国際法のことです。
以下、「長崎大学核兵器廃絶研究センター」を参考にお話します。
「国際人道法」とは何ですか?長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA) (nagasaki-u.ac.jp)

国際法の多くがそうであるように、「国際人道法」という特定の条約があるわけではなく、以前に、「戦時国際法」とか「戦争法」あるいは「武力紛争法」と呼ばれていた国際法の中から、特に人道上に重きを置いた戦争のルールを定めたものを指します。

さてよく戦争なんだからやりたい放題であたりまえだとか、勝ったらなんでもオーケーだということを言いたがるガサツな人がいますが、それは第2次大戦までのこと。
現代においては、戦争にもルールがあるのです。
かつては非戦闘員大量虐殺そのものの原爆投下や空襲があったが故に、その反省から今は戦争において「やっていいこと」と「悪いこと」の区別をつけようということで、この「国際人道法」が生まれたわけです。
ですから、軍事力に当たらない非戦闘員の市民、特に女性や子供、老人、病人が多数居住する住宅地、病院、集会場、宗教施設、文化施設を攻撃対象にすることは禁じられています。
これを「軍事目標主義」と呼んで、武力の行使の対象を厳密に「相手の軍事力を破壊する」という目的にのみ限定しています。
今回のロシア軍の無差別ミサイル攻撃はこれに該当します。

もうひとつは、「害敵手段の制限」といって、武力行使の手段の制限です。
相手に対していたずらに苦痛を与えて、治療を故意に困難にさせるような武器を使うことは禁じられています。
ダムダム弾や毒ガス、白燐弾の禁止などが、これに相当します。

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クリミアとロシアを結ぶ唯一の橋で火災 3人死亡とロシア当局 - BBCニュース

ところで、今回のプーチンは盛んにクリミア大橋が「テロ」だと叫んで、その報復だと言っていますが、そんなリクツが成立するでしょうか。
まず前提として、この国際人権法をウクライナとロシアは共に批准しています。

この両国とも、国際人道法を構成する欧州人権条約(ECHR)、市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR・自由権規約)、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(CAT:拷問等禁止条約)など、多くの地域的または国際的人権条約を締結しているからです。
したがって、国際人道法はウクライナ戦争においても十分に有効な国際法と考えられており、ロシアへの非難はこれを法的根拠にしなくてはなりません。

ウクライナ戦争において、問題となっているのは「軍事目標」です。
国際的人道団体のヒューマンライツウォッチは、明確な見解を出しています。

「戦時国際法のもと、攻撃の目標は「軍事目標」に限定される。軍事目標とは、軍事行動に効果的に資する物であることを示し、またその全面的または部分的な破壊、奪取または無効化が明確な軍事的利益をもたらすものを指す。
敵陣の戦闘員、武器、弾薬、建物や車両など、軍事目的で使用されている物などが該当する。
国際人道法は、武力紛争中、民間人の犠牲がある程度避けられないことを認識してはいるが、紛争当事者には依然、戦闘員と民間人の区別義務、及び戦闘員など軍事目標のみを標的とする義務が課される。ただ、民間人は、戦闘中の戦闘員を支援するなど、「敵対行為に直接参加している」間は、攻撃対象から除外されない」

ロシア、ウクライナと国際法:占領、武力紛争、および人権について | Human Rights Watch (hrw.org)

クリミア大橋は民間も使用していますが、ウクライナ戦争においては「軍事行動に効果的に資する物」として「明確な軍事的利益をもたらす」施設です。
ロシア軍は軍事物資の多くを鉄道に頼っています。
クリミア大橋は、ロシア本土からクリミア半島を抜けて南部戦線や東部戦線へ軍事物資を運搬する重要な施設でした。

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その差は鉄道の線路幅にあり? ウクライナとポーランド ロシアの脅威度が段違いなワケ | 乗りものニュース (trafficnews.jp)

ですから、クリミア大橋を軍事目標に定めてこれを破壊する行為はテロではなく、合法的な軍事行為として国際人道法上解釈できます。

一方、今回のロシア軍のウクライナ攻撃はどう見るべきでしょうか。
いままでもロシア軍が攻撃目標とした実に7割までもが、民間の住宅地、病院、学校、美術館、劇場、集会場を標的にしたものでした。
これについては、アムネスティが詳細な調査を出しています。
ウクライナ:キーウ州での戦争犯罪 ロシア軍に法の裁きを : アムネスティ日本 AMNESTY

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「【キーウ=安田信介】ウクライナ国防省の報道官は15日、地元テレビで、ロシア軍によるミサイル攻撃について、「標的の約7割は民間施設などに意図的に向けられている」との認識を示した。露軍による非軍事施設への無差別的な攻撃は、米欧などからも繰り返し指摘されており、人道上の懸念が一層強まっている」
(読売7月17日)
ロシアのミサイル「7割は民間施設を標的」と非難…国防相が前線で攻撃強化を指示 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

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ウクライナ中部の商業施設にミサイル攻撃、ロシアの戦争犯罪だとG7首脳 - BBCニュース

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ロシア軍、連日ミサイル131発 侵攻5カ月目で攻撃強化―ウクライナ:時事ドットコム (jiji.com)

もう改めて考えてみるまでもありません。
ロシアによるウクライナの民間施設攻撃は、明白な国際人道法違反です。
しかも誤爆したというのではなく、始めから民間人がいる場所を、今回のように朝のラッシュアワーに合わせて攻撃する残忍さです。
いつまでこのような非道を許しているのでしょうか。

 

 

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「ロシア正規軍が崩壊」 動員令にウクライナ大統領 - 産経ニュース (sankei.com)

ウクライナに平和と独立を

 

2022年10月11日 (火)

クリミア大橋爆破追加情報

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クリミア大橋爆破事件についての追加情報です。
まず英国国防省から。

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ウクライナの国営郵便局は、クリミア橋を燃やして新しい切手をリリースする |ウクライナプラウダ (pravda.com.ua)

「2022年10月8日未明、ロシア占領下のクリミアとロシアのクラスノダール地方を結ぶ道路と鉄道の要衝であるケルチ海峡橋が爆発により損傷した。
車道4車線のうち2車線が、長さ約250mにわたって数カ所崩落している。他の2つの車道経由の車両通行が一部再開されたことはほぼ確実であるが、通行能力は著しく低下する。
被害の程度は不明だが、その能力に深刻な障害が生じた場合、ウクライナ南部ですでに緊張状態にあるロシアの戦力維持能力に大きな影響を与える可能性が高い。
この鉄橋は2020年6月に貨物用に開通したばかりだが、この路線は侵攻時に南部戦線への重軍事車両の移動に重要な役割を担ってきた。
この事件が発生したのは、ウラジミル・プーチン大統領が70歳の誕生日を迎えた数時間後だ。彼は自らスポンサーとなって橋を建造した。その建設業者は彼の幼なじみのアルカディ・ロテンベルグであった。
ここ数ヵ月、プーチンの元ボディーガードで現在はロシア国家警備隊司令官のヴィクトル・ゾラトフが、橋の安全通行に責任を負っている」
(英国国防省ツイート10月10日)
Ministry of Defence 🇬🇧(@DefenceHQ)

続いて身びいきがない戦争研究所(ISW)です。

「大規模な爆発により、10月8日に占領下のクリミアとロシアを結ぶケルチ海峡橋が損傷した。Maxar衛星画像は、爆発が道路橋の1車線を崩壊させ、近くの鉄道線路を損傷したことを示している。
ロシア調査委員会は、トラックが橋の上で爆発し、鉄道の7つの燃料タンクに引火したと述べた。ロシアの軍事ブロガーの一部は、ウクライナの破壊工作員が海から橋を爆発させるためにボートを使用したと推測したが、そのような結論の目に見える証拠はない。
(略)
ウクライナは事件の責任を主張しなかったが、ニューヨーク・タイムズは、無名のウクライナ高官が、ウクライナ諜報機関が爆発に参加したと述べたと報じた。クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、政府高官、治安機関、緊急事態省で構成される政府委員会に「緊急事態」を調査するよう命じたと指摘した」
(ISW 10月10日)
戦争研究所 (understandingwar.org)

BBCは現況をこう報じています。

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The Crimean bridge is guarded by fighter jets from the sky, and by divers and fighting dolphins underwater Russian media (yahoo.com)

「ロシア外務省は8日夜、ケルチ海峡にかかりクリミアとロシアをつなぐ大橋の車道部分で、車が通行しているように見える動画を公表した。 車道と並行する鉄道橋も、通行が再開した様子。
クリミアの地元当局は、部分再開した橋が使えない大型車両用に、ロシア本土とクリミア半島を結ぶフェリーの運航を開始した。

8日朝の爆発を受け、国営メディアはロシア国家反テロ委員会の声明を報道。それによると、「タマン半島側のクリミア橋の道路部分で午前6時7分、トラックが爆発し、これによってクリミア半島へ向かっていた列車の燃料タンク7基に引火した」のだという。「橋の車道部分が2カ所、部分的に崩落した」と、同委員会は説明した。
ロシア当局によると、橋の道路部分でトラックが爆発し、並行する鉄道橋で列車の燃料輸送車両に火が燃え移った。トラックの爆発で道路の一部が崩落し、近くの車両にいた3人が死亡したという。
ロシア政府のドミトリー・ペスコフ報道官によると、橋での「緊急事態」についてウラジーミル・プーチン大統領は説明を受け、事実関係の調査を政府に命じた。刑事事件としての捜査も始まっているという」
(BBC10月9日)
クリミア大橋、爆発後に一部通行再開とロシア当局  - BBCニュース

被害状況としては、
・自動車道路4車線中2車線崩落し片側通行。
・鉄道路線2路線中1路線破壊。

「自動車橋は崩落したものの、4車線の内、片側2車線は無事で既に通行再開しているが、大型車の通行はできなく、大型車用にクリミア大橋の完成で終了していたフェリーの運航を再開した。崩落した車線も道路部分は吹き飛ばされたが下のアーチは無事だと述べており、事実であれば車道の全面開通は早いかもしれない」(ミリレポ)
クリミア大橋の破壊は無人艇によるものか?9月にクリミアで見つかった爆薬を積んだ無人艇│ミリレポ|ミリタリー関係の総合メディア (sabatech.jp)

う~ん、どうですか。たぶん突貫工事で、落ちた橋桁2ツは鉄板で掛け替えるでしょうが、重量物が通過できるかどうか。
残った片側のみを使って相互通行するのが安全策でしょう。
いずれにしてももともとここは戦車などを通すものではないので、50トン近い戦車や歩兵戦闘車、火砲などが移送は不可能です。

また鉄道も片側が残っていますが、これも全面復旧をプロパガンダするでしょうが、橋梁がどこまで持つのでしょうか。
荷重3.5tまでという情報もありますから、現実には重量物はあきらめるか、一台一台フェリーに乗せて通して運用することになるでしょう。

「クリミア大橋を使用できなくなるとヘルソン州やザポリージャ州への兵站は、チュシカ~ケルチをフェリーで移動→ケチル~ジャンコイまで鉄道輸送→ジャンコイ~ヘルソンまで車輌輸送という複雑な兵站になるか、ドネツクからヘルソン州やザポリージャ州まで車輌輸送による兵站になってしまい、貨物の積み下ろし作業の多くを手作業に頼るロシア軍にとっては非常に深刻な問題だ」
(航空万能論10月10日)
鉄道輸送に依存するロシア軍、クリミア大橋の損傷がもたらす影響 (grandfleet.info)

警備状況について、ウクライナプラウダはこう書いています。

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BBC

「ロシアのメディアMeduzaは、10月8日の爆発によって損傷を受けたクリミア橋を世界で最も保護された場所の1つと呼びました
 それは地面から、空から、海から、そして水中と宇宙からさえも守られていると言われています。
出版物によると、両側のクリミア橋への入り口は、ロスグヴァルディヤの特別部隊によって守られています(彼らの仕事は、この交差点に入る車に爆発物や違法貨物がないか検査することですが、検査はランダムに行われたことに注意する必要があります)。
ロシア運輸省の声明によると、バンとトラックは、「車内のナットさえも検出したり、運転手が昼食に持っていったものを見ることができる」とされる特別なシステムの助けを借りて警備されています。
橋の上には観測点も設置された。
緊急時には、特別迅速対応チームが数分以内に現場に到着し、事故現場を片付け、何が起こったのかを調査するよう命じられたと報告されています。
ロスグヴァルディヤ[国家警備隊またはロスグヴァルディヤはロシアの内部軍事力である]は、土地と水の両方で活動する特別な国境管理FSB部隊と反サボタージュグループによって支援されていると伝えられている」(ウクライナプラウダ10月9日)
The Crimean bridge is guarded by fighter jets from the sky, and by divers and fighting dolphins underwater Russian media

ところで原因としては、以下があげられています。

①自爆トラック説。
爆発直後の動画から爆発物を乗せたトラックによるものとする説ですが、このトラックはロシア側からの橋に入っています。

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Kerch bridge explosion: CCTV appears to show Crimea bridge blast - YouTube

これはロシア国家反テロリズム委員会が出した説で、いち早く彼らはトラックのロシア人所有者、同じく運転手を特定し捜索しているとしています。
しかし、これ自爆トラックはイスラム原理主義団体ならいざ知らず、ロシアに存在すると言われる反プーチンレジスタンスがとる方法には思えません。

トラックが爆弾として使われたという説は、ロシア国内で異常に早く広まっていますが、これはウクライナの攻撃とするより国内テロ行為説の方がましだと当初はプーチンが思っていたからのようです。
ただしすぐにウクライナのテロと断定して報復を宣言し、ウクライナの民間地域をミサイル攻撃しています。
このほうがよほどテロですが、ウクライナはロシア国内の反プーチン団体と連携しており、ロシア人エージェントを擁していることになってしまいます。
ロシア国内説を認めれば認めたで、国内にウクライナ大橋を爆破するだけの軍事力をもった抵抗組織があることを認めてしまうことになり、かといってウクライナ説をとればとったで、今度は敵軍がこれだけ厳重な警備の下をかいくぐって爆破作戦を成功させたことになってしまいます。
いずれにしても苦しい話です。

②無人ボート(USV)攻撃説。
下写真のような無人艇が、先日9月中旬にクリミア半島のセヴァストポリの海岸で発見されました。

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この小型無人艇は、いくつかのカメラと赤外線認識装置を持って艦船攻撃を狙ったもののようです。
スロー再生した爆破時の映像から、これによる可能性もが唱えられました。

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「爆発の直前に橋の下に波が見え、その瞬間に爆発している。この波が船が航行することによってできる航走波になり、船が橋の下で爆発してクリミア大橋が爆発したという説の根拠になっている」
(ミリレポ前掲)

またBBCのポール・アダムスは:このような意見を乗せています。



「私の時代には、大型の車両搭載IED(即興爆発装置)をたくさん見てきました」と、元イギリス陸軍の爆発物専門家は私に語った。「これは1つのようには見えません。
よりもっともらしい説明は、橋の下での大規模な爆発であり、おそらく何らかの秘密の海上無人機を使用して届けられたと彼は言った。
「橋は一般的に、デッキの下向きの荷重と風からの一定量の側荷重に抵抗するように設計されています」
「彼らは一般的に、上向きの負荷に抵抗するようには設計されていません。この事実はウクライナの攻撃で利用されたと思う」

一部のオブザーバーは、他の防犯カメラのビデオの1つでは、小さなボートの船首の波のように見えるものが、爆発の1秒前に橋の支柱の1つの隣に現れていると指摘している」
(BBC10月10日)
クリミア橋:誰が、あるいは何が爆発を引き起こしたのか?- BBCニュース 

このような異説も出されています。

「破壊された橋の状況を見る限り、焦げているのは橋の上側で、橋の下の裏側は焦げていませんでした。すると海上のボートの自爆は可能性が低そうだ」
(JSF10月10日)
兵站補給線であるクリミア大橋は攻撃しても軍事目標と見做される(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース

またオデーサから出航させた場合、極めて長距離ですので、誘導しきれないと思われます。
するならアゾフ海側発進するしかありませんが、そこはロシア軍支配地域です。
またボートの残骸や目撃情報は出ていません。

③ミサイル攻撃説。
候補は2種類あります。ハイマース(HIMARS)とATACMS短距離弾道ミサイルです。
ウクライナが製造したネプチューンもありますが、対艦ミサイルです。

「ATACMS短距離弾道ミサイルの弾頭重量は約500lb(227kg)ですが、ここまで派手な爆発になるでしょうか? 
 また仮にATACMSが秘密裏に供与されていたとして、1発のみというのは不自然です。もしミサイルで攻撃するなら道路橋と鉄道橋を全て一気に落とすべく複数発を撃ち込むのが合理的なはずです」
(JSF前掲)

またハイマース(HIMARS)は射程300㎞で、クリミア大橋は下図の黄土色ですから射程外です。
無人艇と同じでアゾフ海側から狙えばなんとかというところなので、これも可能性としては低いようです。

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航空万能論

となると一周回って①のトラックしか残りません。
現時点ではなんともいえないというところです。

 

 

 

 

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Ukraine’s national postal service to release new stamp with burning Crimean Bridge | Ukrainska Pravda

ウクライナに平和と独立を

2022年10月10日 (月)

クリミア大橋大炎上

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おめでとう、プーチン70歳!
世界からキミに特大のプレゼントが届いています。
プーチンは10月7日に70歳の誕生日を迎えましたが、ロシアでは5や10周年記念は盛大に祝ってもらえるという風習があるそうです。
ですから今回の誕生日は、特別の「7回目の誕生日10周年」にあたります。 

祝賀電報は北朝鮮の正恩くらいとショボイもんで、盟友で参戦を要請しているベラルーシからは農業トラクター一台。
しかし、世界からは大盤振る舞いのプレゼント攻勢でした。

ひとつめは、ウクライナ、ロシア、ベラルーシの人権を調査しているグループへのノーベル平和賞。
これでキミの戦争犯罪が明るみにでますね。
ことしのノーベル平和賞 ロシアとウクライナの人権団体などに | NHK | ノーベル賞2022

ちなみに10月7日、国連人権理事会は、ロシアでの人権状況を監視する特別報告者の設置を求める決議案を賛成多数で採択しましたから、いよいよロシア国内の人権にもメスが入りますよ。
なんといっても、キミを失脚させることができるのは、ロシア国民だけですからね。

これらについては別記事に譲るとして、もっと大きいプレゼントは、なんと言ってもクリミア大橋(ケルチ橋)の大炎上です。
思い出すでしょう、2014年にクリミアをだまし取った後に、18年に本土と結んだあの忌まわしい橋です。
キミの権勢の絶頂期のことです。
キミが得意気にあの赤いトラックを駆って渡り初めした時には、こんな末路が待っているなんて思いもしなかったはずでした。

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プーチン大統領、シートベルトせずにトラック運転。大統領府報道官「私は見ていなかった」 | ハフポスト WORLD (huffingtonpost.jp)

この橋はプーチン、キミの権力政治のシンボルでした。
ウクライナは、一番下の欄外にあるように炎上パネルまで用意して市民憩いの場にしていたほどです。
ところが今回、当のウクライナはやったとはひとことも言いません。
むしろロシア内部の反プーチン組織を匂わせているくらいです。
情報戦といえば言えますが、今回の爆破物を詰んだと見られる車両はロシア側から来ていますしね。
だからプーチンは直ちにテロ組織の仕業と断定して捜索させています。

追記
いま、プーチンが「ウライナの特殊部隊がやった」と言ったようです。

「ロシアのプーチン大統領は9日、ロシアが支配するウクライナ南部クリミア半島とロシア本土を結ぶ「クリミア橋」の爆発について、「ロシアの重要インフラの破壊を狙ったテロで疑いはない」としたうえで、「発案者、実行者、依頼者はウクライナの特殊部隊だ」と断定した。
同日のロシア連邦捜査委員会のバストリキン委員長との会談で発言した。バストリキン氏はロシア人や外国人の協力者がいると主張した」(朝日10月10日)
クリミア橋爆発は「ウクライナ特殊部隊のテロ」 プーチン氏が断定 [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

なお、プーチンはこれを「テロ」だと言っているようですが、なにをおっしゃるウサギさん。馬鹿ですか。
戦争関係の相手側軍用関連施設に対しての攻撃はテロではなく、正当な軍事行動です。
クリミア大橋は、極めて重要な軍事兵站線を担っていたことは隠れもない事実です。
国際人道法によるテロとは、昨日あったようなサポリージャに対する民間住居に対するミサイル攻撃のような行為を指します。
ザポリージャ市街地にミサイル攻撃 12人死亡 | khb東日本放送 (khb-tv.co.jp)

さて、このプーチンがクリミア半島の生命線と呼んだクリミア大橋が、車道部分は崩落し通航不能となり、鉄道部分で7両の燃料タンク車が大爆発し、橋梁は高温で炙られてしまいましたが、高温で炙られた鉄骨構造が脆弱になることは知られています。
下写真が爆発直後の「ケルチ橋」の写真です。
崩落した橋の一部や炎の立ち上る鉄道車両が見えます。

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損傷したクリミア橋の衛星画像が|公開ウクライナプラウダ (pravda.com.ua)

さらにもう一枚横方向からの引いた写真を見てみましょう。
橋の車道部分は、たしかに2カ所で崩落して海中に突っ込んでいるようです。

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SNS

ただし、10月9日のSNSからの判断では、貨物列車の炎上は止み、道路の往復路全4車線の内、片側2車線は通行は可能のようです。
鉄道も片側が残っていますから、こちらも当座は相互交通でもするんでしょう。
通行が可能となっても、CNNによれば「ケルチ橋は1日4万台の自動車に対応でき、年間では1400万人の利用者と1300万トンの貨物が移動可能だ」なうち、どこまで元に戻せるのかは不明です。

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SNS

詳細が伝えられていないために、どの程度で鉄道が復旧するのかはまったく不明です。
使用不能期間はその損害の度合いによりますが、ロシアは8日午後8時(日本時間9日午前2時 )に再開すると言っています。
メンツにかけても通すことでしょう。

原因について、ロシアはろくに調査もしないうちから車両によるテロ攻撃といっていますが、それですと自爆テロになります。
おそらく自動車の下に仕掛ける程度のものではなく、トラックに積むほどの大量の爆薬が必要でしょう。
通過車両は検問をされているはずですから、いったいどのようにしたのかは現時点ではまったく謎です。
ハイマースという説もありますが、今のところ飛翔してくるミサイルは確認されていません。
ウクライナは事実だけを伝えて、方法については沈黙しています。
まぁ、戦後になればわかるでしょう。
「戦後」がぐっと近づきましたが。

ところでクリミア半島の補給線は、このクリミア大橋とヘルソンからの2本しかありません。
またロシアと最前線へルソンへの補給路は現在M14高速道路のみとのことですから、いよいよクリミア、ヘルソン間の補給路がなくなってきました。

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プーチン氏が渡り初めした「クリミア大橋」爆発、ウクライナ側「違法なものはすべて破壊」 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

するとヘルソンのロシア軍は崩壊寸前ですので、クリミア大橋が使用不能になるとクリミア半島は完全に陸の孤島と化します。
まさにこの戦争の大転換点が一気に到来したというわけです。

この大事件について、CNNの報道を読んでみます。
やや長いですが、きわめて重要な事件ですので、全文を引用します。メンドーな方は飛ばして下さい。

「(CNN) ロシアに併合されたウクライナ南部クリミア半島とロシア本土をつなぐ欧州最長の橋「ケルチ橋」で8日早朝、燃料タンクが爆発し、複数のロシア当局者によると、橋の一部が崩落した。
ロシア国営タス通信によると、プーチン大統領はケルチ橋の「緊急事態」を調査する政府委員会の設立を直ちに命じた。
タス通信によると、ロシア緊急事態当局と交通当局のトップが現場入りしているという。
ロシアが任命したクリミアのセルゲイ・アクショーノフ首長は、爆発後に橋の一部が崩落したことを確認した。
SNSに投稿された橋の画像には、車道や鉄道橋の一部が海中に崩落した様子が写っている。上方の鉄道車両から立ち上る炎も見える。
ケルチ橋は全長19キロで、ロシア本土クラスノダール地方とクリミア半島をつないでいることから戦略的重要性が高い。
橋は黒海とアゾフ海をつなぐケルチ海峡に架かっている。アゾフ海沿岸にはマリウポリを含むウクライナの主要港湾が位置する。

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橋の車道で大規模な爆発が起きる瞬間を捉えた監視カメラの画像/Telegram

「占領下のクリミア半島を管轄するロシア行政府の顧問はテレグラムで、消火作業が進められていると説明。船が通行するためのアーチは無傷だとも述べた。
クリミア共和国国家議会のコンスタンチノフ議長はテレグラムで、爆発の原因はウクライナの「破壊者」にあると非難し、「ウクライナの破壊者は血でぬれた足をクリミアに伸ばすことに成功した」などと述べた。
CNNはコンスタンチノフ氏の主張について独自に検証できていない。ウクライナ軍のマルチェンコ少将は8月のインタビューで、ケルチ橋は正当な攻撃目標になると述べ、「これはロシアの領域から予備部隊や増援部隊を派遣する機会を奪うために必要な措置だ」との認識を示していた。
RIAノーボスチ通信が2018年の開通時に報じたところによると、ケルチ橋は1日4万台の自動車に対応でき、年間では1400万人の利用者と1300万トンの貨物が移動可能だという。ロシア当局の説明によると、橋の開通はクリミアとロシア本土の物理的な「再統一」を示すものとなった。
米国は橋の開通後、建設は違法だと非難していた]
(CNN10月8日)
クリミア半島の橋で大規模爆発、一部崩落 ロシア当局(1/2) - CNN.co.jp

ウクライナ戦争において両軍とも鉄道を標的にしてきました。
それはロシア、ウクライナ双方共に軍の兵站は鉄道輸送に依存しているからです。
とくにロシアは交通インフラが貧弱なために、鉄道幹線による物資輸送に偏重してきました。

「ロシア軍の兵站は鉄道輸送に依存しており、クリミア大橋を経由することでロシア本土から直接クリミアのジャンコイ、ザポリージャ州のメリトポリ、ヘルソン州のノーバ・カホフカ方面に装備や物資を輸送することでき、車輌輸送にかかる負担を大幅に軽減してくれていた」
(航空万能論10月8日)

下の輸送分野別輸送量グラフを見るとロシアとウクライナの輸送量が、英米仏やポーランドが道路輸送を主力とするのとまったく異なっているのがわかります。

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図録▽ロシア・ウクライナの輸送モード別貨物輸送量の推移 (sakura.ne.jp)

ロシアは鉄道とパイプラインに過度に依存し、道路輸送のシェアが極端に低いという物流構造の特徴は、近年になっても修正されず、むしろさらに強まっています。
軍事物資の輸送も、大部分は鉄道輸送に頼っています。

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乗りものニュース

「ロシアなど旧ソ連圏では鉄道への依存度が非常に高いが、それと同じように、物資を運ぶロシア軍の兵站線は、現在でも鉄道頼りである。鉄道による移動を前提としているため、装備しているトラックの台数なども限定的であり、大量に費消される弾薬の補給の多くをトラックで行うようには設計されていない。
こうした兵站線の特徴からロシア軍は、旧ソ連圏内での防衛作戦は得意だが、領域の外での持続的な作戦行動を行う能力は限定的だという。ナポレオンやナチス・ドイツを撃退した祖国防衛戦争の成功体験がそうさせているとも考えられる」
(月刊PANZER編集部)
その差は鉄道の線路幅にあり? ウクライナとポーランド ロシアの脅威度が段違いなワケ | 乗りものニュース- (3) (trafficnews.jp)

ウクライナ軍が東部リマンの制圧を急いだのは、ここに鉄道の要衝があり、東部2州とさらには南部占領地への補給ルートだったからです。

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ロイター 日本経済新聞 (nikkei.com)

その逆に、ウクライナ戦争初期にロシアがポーランドとキーウを結ぶ鉄道施設をミサイル攻撃したのも同じ理由からでした。
ここを断ち切れば、西側からのウクライナ支援が断たれるからです。
ロシアはこれに失敗し、西側の軍事支援は継続されています。

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eritokyo.jp

「ロシアの高精度兵器が、キーウ西部の戦略的に重要なウクライナの鉄道網を数カ所攻撃した。
ポーランドから順次届いていたNATOの致死的援助の流れは、停止しないまでも、深刻な混乱に陥っている。ドンバスのウクライナ軍集団の武器弾薬も鉄道で輸送されている事実は以前から知られていた」
ロシア、ウクライナの鉄道への軍事作戦を開始、戦略上重要な鉄道への電力供給が停止 (eritokyo.jp) 

プーチンはかねてからこの橋をクリミアの生命線と称してきましたから、メンツにかけても再開を急ぐでしょう。
日本でこのような事故が起きた場合、数カ月かけて徹底的な構造検査が実施されてからの判断となりますが、だぶんそんなまだるっこいことはせずに押し渡ってみせると思われます。

しかし実際は、焼けただれた車両をどかせば済むものではなく、このような高温に教時間あぶられた鉄橋はきわめて脆弱になっており、重量物を乗せることが不可能になるケースがよくあるからです。
ましてや、T72戦車は1台46t。これを仮に20両乗せた場合、貨物だけで1000トンにも達します。
大丈夫かな?
たぶん今日明日には鉄道を通して誇示するはずですが 、さてさてボロボロになったクリミア大橋がどこまで持ちこたえるかお慰みです。
いずれにしても、これでこのロシア侵略のシンボルのクリミア大橋が攻撃可能なことが明らかになったので、また攻撃があることでしょう。

 

 

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ウクライナ、SNS映え用のクリミア橋爆破パネルを既に準備していた模様 - Togetter
ウクライナに平和と独立を

2022年10月 9日 (日)

日曜写真館 扉を押せば晩夏明るき雲よりなし

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名を知らぬ晩夏の花たてまつる 日野草城

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人は去り時は去りゆく翌檜(ひば)晩夏 佐藤鬼房

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晩夏光幹重なりし奥にあり 大野林火

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どれも口美し晩夏のジャズ  金子兜太 

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風吹いて晩夏の景となりゆける 桂信子

 

2022年10月 8日 (土)

日本の「殴り返す力」(対抗抑止)について

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うちの国は、ウクライナ人のグレンコ・アンドリー氏が評するにこのような国です。
•元総理が真っ昼間にテロリストに暗殺される国
•敵国のICBMが空を飛んでいる国
•自国民が敵国に拉致される国
•全ての隣国と領土問題抱える国
•毎日のように領海侵犯と領空侵犯される国
•敵国は全部核兵器保有国である国
まったくそのとおりです。さらに付け加えるなら
・元首相が白昼に暗殺されても、殺したほうの責任が問われない国
・敵国のICBMが上空を飛んだのでアラートを出したところ「軍備強化のためだ」と批判される国
・自国民が敵国に拉致されたことにもっとも献身的努力をした元首相の功績がまったく知られていない国
・毎日のように領海侵犯をしている国のほうが、我が国の漁船を領海侵犯だと取り締まっている国
・敵国が全部核兵器保有国なのに、「核のない世界」を訴えている国
さて今日は、日本が中国や北朝鮮、さらにはロシアの核搭載弾道ミサイルの脅威に対して対抗抑止を持つために、どのようなことが可能なのか、今日はもう少し踏み込んでみることにします。
米ハドソン研究所の村野将氏の優れた論考を基に考えていきましょう。

●参考資料
・村野将・岩間陽子 『日本の「抑止力」とアジアの安定と日本に欠けている戦略的コミュニケーション』)

日本の「抑止力」とアジアの安定 | 政策シンクタンクPHP総研
・峯村健司『ミサイル増強すすめる中国軍、なのに具体的な議論ができない日本の問題』
朝日新聞グローバルプラス
ミサイル増強すすめる中国軍、なのに具体的な議論ができない日本の問題:朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)

結論からいえば、米国と中距離ミサイル戦力を共に作り、日米が一体化した対抗抑止システムを作る必要があります。
独自核武装は実現できないのか、という疑問もあるでしょうが、米国から独立した核武装をすることは米国の核の傘からはずれること、すなわち日米同盟の終焉を意味する現在、それをするのは今ではありません。

現時点において、日米同盟なくして日本の防衛を語ることは不可能である以上、米国と共同して対抗抑止力を獲得するほうがはるかにメリットがあります。

私たちが考える以上に日米防衛の一体化は多方面で進んでいて、たとえば海自がもっとも力を入れている対潜水艦作戦においては完全な米海軍との共同作戦が前提となっています。
むしろ日本が対中防衛構想を牽引している部分すらあって、宮古島など島しょ部への対艦ミサイル部隊の展開に米海兵隊のほうが触発されて、同様の対艦ミサイル部隊を作り、第1列島線に展開する構想もあります。
2020年3月のバーガー海兵隊総司令官(当時)の発言です。
やや長いですが、従来の海兵隊のイメージを大きく刷新する内容ですので引用します。
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「【ワシントン時事】米海兵隊トップのバーガー総司令官は23日、時事通信との電話会見で、2027年までに対艦ミサイルなどを装備した「海兵沿岸連隊(MLR)」を3隊創設し、沖縄とグアム、ハワイに配置する考えを明らかにした。総司令官は3月、海兵隊が今後10年間で目指す方針を示した「戦力デザイン2030」で、戦力構成を抜本的に見直し、対中国にシフトする姿勢を鮮明にしている。
海兵隊の構想によると、沖縄を拠点とする第3海兵遠征軍傘下の海兵連隊を軸に再編成を行い、MLR3隊を創設する。バーガー総司令官は、既にハワイでは1隊目の編成が始まっており、沖縄とグアムに設置予定の残る2隊についても「27年までに完全な運用体制が整う見通しだ」と明言した。
MLRの設置時期が明らかになったのは初めて。既存の海兵連隊を再編するため、沖縄に駐留する総兵数が増えることはないという。
MLRは1800~2000人規模とみられ、長距離対艦ミサイルや対空ミサイルを装備する。有事の際には島しょ部に分散展開し、陸上から中国軍艦艇を攻撃して中国軍の活動を阻害。米海軍による制海権確保を支援するのが主な任務となる。
バーガー総司令官は、自衛隊が水陸両用車や輸送機オスプレイ、最新鋭ステルス戦闘機F35など相互運用性のある装備を保有していると指摘。「(海兵隊と)完全に補完し合う関係だ」と強調し、南西諸島での自衛隊との合同演習にも意欲を見せた。
今回の海兵隊再編が「日本に影響を与えるのは間違いない」と認め、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着くのを待って日本を訪問し、今後の改革などについて直接説明する考えを示した」
(時事7月25日)
27年までに「新ミサイル部隊」=対中国、沖縄に展開―米海兵隊トップ会見|


そのために海兵隊部隊と装備の再編が行われます。

①戦車部隊の全廃・砲兵部隊・オスプレイ・水陸両用車両・F35Bの削減
②1万2000人削減
③ロケット部隊(HIMARS) を7隊から21隊に増強し、「海兵沿岸連隊」(MLR)を沖縄島しょう部に配備

これは従来の敵前上陸・ヘリボーン作戦から、今やウクライナの救世主となったハイマース(HIMARS)への転換です。
この海兵隊の改変構想は、自衛隊の対艦艇ミサイル部隊との共同が大前提となっています。
ですから、新たな中距離弾道ミサイルシステムというと一見唐突に聞こえますが、現場においては先行して基盤が作られているのです。
むしろ最大の問題は、日本人の意識です。
たとえば辺野古移設問題は、もはやただの外交的約束にすぎなくなりました。

いつできるかわからず、中途半端な短い滑走路ふたつの「新基地」は、軍事的にはほとんど無意味です。
辺野古移設構想が始まったのが1996年ですから、それからなんと26年。
緊迫した国際情勢が、国内政局に左右される移設構想を追い抜いてしまったのです。
まぁ、ダラダラ作っているうちは普天間が使えるのですから、いつまでも趣味的に反対していて下さい。
あまり好かんタコと思っていますが、ひろゆきなる人物が、「座り込み3011日」をオチョくって炎上したとのこと。
Suwarikomi
ダメだってひろゆきサン。ここですわり込みをすることに生き甲斐みつけている人と争っちゃ。
いいじゃないですか、反米好事家が好きでやっているんだから。
構想と着工までの期間ならともかく、いいかげん3011日間もやってもまったく効果がないとわかるべきなのにね。
「新基地を断念せよ」ですか、ここまでできたので放棄したらもったいないので、軍民共用の第2地方空港くらいにはなるかもしれませんよ。
もちろん反対運動の功績とは無関係に、前述したように国際情勢が激変しそれに応じて海兵隊のドクトリンが変更されたからですけど。
なお「不屈の座り込み」の様子はこの動画から。
https://twitter.com/i/status/1577789823909183489


話を戻します。下図は中国軍の弾道ミサイル発射基地の分散状況を示しています。

図表3:中国の潜在的な重要軍事施設と地上発射型中距離ミサイルの位置関係
村野氏による

一見してお分かりのように、中国軍の弾道ミサイル基地の大半は沿岸部に集中して配置されています。
大陸奥深く配備されているのは、彼らが全面戦争に備えた大陸間弾道ミサイルだけですからわが国はこれを無視してよいでしょう。
また同様に、航空基地、海軍基地、潜水艦基地、陸軍基地なども捨象します。
わが国にはそこまで広範囲を攻撃する力はないし、その必要もないからです。
私たちは中国と全面戦争するのではなく、私たちの頭上の刃を取り除くだけに集中すればよいのです。
長距離弾道ミサイルは米国に届くが故に、米軍の領域と割り切りましょう。

したがって、わが国が対抗せねばならないのは、この中国の軍事施設・重要拠点5万箇所のうち約70%が集中する沿岸から400km地点以内の弾道ミサイル発射基地群です。
具体的にはこれらは、日本から2000㎞以内に納まっています。
仮に九州に射程2000kmの準中距離弾道ミサイルを配備すれば、中国沿岸から約1000km以内の弾道ミサイル基地を13分以内に攻撃することが可能となります。
まず日本は、この沿岸部の中国ミサイル基地を攻撃可能な準中距離弾道ミサイルを保有すべきです。

現実問題として中国軍の中距離弾道ミサイルは、移動式発射装置に乗せられている場合が多く、これらを探知して破壊することはほぼ不可能です。
これを破壊するためには、目標を指示する誘導員を潜入させ、航空機でピンポイント攻撃をするしかありませんが、そのような能力は日本にはありません。
日本が限られた予算と時間しか持たない対抗手段の中で、もっとも実現不可能な行き止まりに入っています。

日本ができるのは、「日本が弾道ミサイルに対して対抗抑止を保有したという事実」です。
ルトワックの分かりやすい表現を使えば、対抗抑止とは「殴り返す力」のことです。

完全破壊を目指すのではなく、わが国が米軍と一体化した中距離弾道ミサイルという「殴り返す力を持った」という政治的宣言です。
これはわが国が中露北に対して発する間違いようがないメッセージです。
この宣言を発しただけで、中国は日本がすでに米国と一体化した中距離弾道ミサイル戦力配備計画を立案していることを知っている以上、日本に対して今までのような対応をとることはできなくなります。

なお、この「戦略的コミュニケーション」には硬軟あって、このようなこちらの戦略抑止をデモンストレーションするものから、軍同士の交流、外交チャンネルを使った対話まで幅広く存在します。
ただしなにを対話するにしても、こちらが一方的に力負けしているような状況では外交にならないということです。

よく野党はなんとかの一つ覚えのように「軍事的圧力を止めて外交交渉で解決しろ」と言いますが、軍事と外交は二項対立するものではありません。
力の信奉者である中露北のような国との外交交渉が実を結ぶのは、外交が軍事力によって担保されている時だけです。
いままでの日本は軍事が欠落し、外交のみに頼ってきた結果として、どうしようもない媚中外交に終始したのです。
さて同様の中距離弾道ミサイルの増強を進めている国が、中国の進攻圧力を日常的に受けて続けている台湾です。

「【台北=中村裕】台湾の行政院(内閣)は16日、最大2400億台湾ドル(約9500億円)にのぼるミサイル調達の特別予算を組むための法案を閣議決定した。中国からの軍事的圧力が強まるなか、対中抑止力の向上へミサイルの大量配備を進めるのが狙い。ミサイルでは異例の規模の予算を計上し、中国に対抗する。
海空戦力提昇計画採購特別条例が同日、行政院を通過した。今後、議会承認のため立法院(国会)に送られる。議会では与党・民主進歩党(民進党)の議席が過半を大幅に上回っており、承認は確実だ。対艦や対空ミサイルなどの量産に充てられる。法案は2022年から5年間が対象。
台湾は現在、射程600キロメートルの中距離ミサイル「雄風2E」などを配備しているが数は少なく、大半は同40~200キロメートルの短距離ミサイルだ。中国への抑止力には足りず、特別予算の編成で中距離ミサイルの配備も急ぎたい考えだ」
(日経2021年9月16日)

台湾は1兆円弱の特別予算を組んで、この5年間で中距離弾道ミサイルの大増強を計る予定のようです。
おそらく台湾は軍事拠点のみならず、沿岸部大都市の政治・経済インフラまで攻撃対象に加えているはずです。

このような動きは米軍にとっても大きなメリットを生むでしょう。

「日本の防衛は、あくまで日米双方のもつアセットの総体による抑止力によって達成されるものだ。日米の計画立案レベルでの連携が深まれば、米軍の負担を減らすことができ、その分移動目標への攻撃など、より高度な任務に集中できるようになる。さらに、「米軍にさえ手を出さなければよい」と中国が日米(台)を分断(デカップリング)できると誤認するのを防ぎ、抑止力の強化にも貢献する」
(村野前掲)

日米が協力して中距離弾道ミサイル配備計画をたてれば、もうひとつのよい副産物ができます。
それは日本が敵基地攻撃能力を保有することに対して、米国が事前協議を要求することに対する答えになるからです。
勝手に日本に戦争を始められては米国が意図しない戦争に引きずり込まれる可能性がでるために、米国が消極的だというのが敵基地攻撃論を考えるうえでの難題でした。

しかし、十数分で飛んで来る弾道ミサイルに対しての報復は、 相手が 撃った瞬間に反撃を決意せねばならないわけですから、今の周辺事態法を国会で審議することなどまったく不可能です。
米国との事前協議すら無理です。

この問題を解決するには、中距離弾道ミサイルシステムを完全な共同運用にする以外ありません。
ヨーロッパで実施されているニュークリアシェアリングのようなものをイメージすればよいでしょう。
このシステムを共同で立ち上げ、共同で運用することは、日米の信頼の絆ともなります。
今回の中距離弾道ミサイルシステムは通常兵器を想定していますが、核弾頭へと発展する場合も、信頼の担保となるでしょう。

わが国がこの方法を取るためにやらねばならないことは山積しています。
ただしその大部分は政治の領域に属するものばかりです。
別の言い方をすれば、政治が責任を持って解決すべきことばかりなのです。
「抑止とは、軍事力のみによって達成されるものではない。危機に至るまでの緊張のエスカレーションの段階に日本社会が耐える能力、戦略的レジリエンスの強化も必要である。そこには「緊急事態」への法的・制度的準備も含まれるだろうし、民間防衛能力をあげることも含まれる。日本国民がパニックに陥り、社会システムが麻痺してしまうようであれば、それだけで中国側は低いコストで危機のエスカレーションを行なうことができる」
(村野前掲)
いうまでもなく、この対抗抑止の強化は単独であるわけではなく、憲法改正、緊急事態条項、民間防衛、スパイ防止法など多方面の社会の強靱化を含む大きな課題の一角にすぎません。
これらはひとつひとつがかねてから議論されてきた大きな問題ですので、ここでは論じませんが、この中に中露北の中距離弾道ミサイルに対する対抗抑止を加える時期が来たと思います。

それを先伸ばしして日米同盟の中で眠りこけてきた結果が、核の刃を振り回し恫喝の炎を吐く中国のようなモンスター国家を育ててしまったのですから。


※2021年10月23日記事に大幅加筆しました。

 

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ウクライナ、東部ハリコフ州のロシア制圧地域ほぼ奪還か: 日本経済新聞 (nikkei.com)
ウクライナに平和と独立を

2022年10月 7日 (金)

もっと日本国民は怒っていい

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北朝鮮がまたまた弾道ミサイルを打ちました。
新聞の見出しを見るとEEZに着弾せず、とか書いていますが、そこですか、問題は。
EEZに落ちれば、我が国の主権に直接にかかわりますが、日本列島の上空を飛び越えられておいてEEZがぁ、とはのどかなことよ。

「浜田靖一防衛相は6日朝、防衛省で記者団に対し、北朝鮮が同日午前6時ごろと同6時15分ごろ、同国内陸部から計2発の弾道ミサイルを東方向に向けて発射したと述べた。このうち同6時15分ごろに発射された2発目について浜田氏は「変則軌道で飛翔した可能性がある」と述べた。ミサイルはいずれも日本の排他的経済水域(EEZ)外の北朝鮮東岸付近と日本海に落下したとみられ、これまでに航空機や船舶の被害は確認されていないという。」
(毎日10月6日)
ミサイル2発目は「変則軌道の可能性」 北朝鮮に厳重抗議 防衛相(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

米国は素早く反応し、日本海に空母「ロナルドレーガン」を展開しました。

「【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮が4日に日本上空を通過する弾道ミサイルを発射したことを受け、米韓両軍は5日未明、対抗措置として、日本海に向けて地対地ミサイル4発を発射した。9月下旬の米韓合同演習に参加していた米原子力空母「ロナルド・レーガン」が再び日本海に展開するなど、米韓は挑発の水準を高めつつある北朝鮮への軍事的圧力を強めている。
米韓両軍が発射したのは戦術地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」。韓国軍は「北朝鮮がいかなる場所から挑発しても、挑発拠点を無力化できる能力と態勢を備えていることを示した」と強調した」
(産経10月5日)
米空母が再び日本海へ、米韓はミサイル4発で対抗 北朝鮮は「沈黙」 - 産経ニュース (sankei.com)

言う必要もありませんが、北の弾道ミサイル発射は国連制裁決議違反です。
しかし百回ウソを言えばウソでなくなるように、百回違反すれば罷り通ってしまうようです。

米国は国連安保理にかけるといっていますが、中露がいるかぎりなにもできないでしょう。
北はそれを十分知っています。

中露によって機能不全になっているのが国連なのですが、国連改革などできない相談でしょう。
中露を常任理事国に据えているのは国連憲章で、ここから変えないとダメだからです。
改革案に賛成するのはEUと日米だけ。他のアジア・アフリカ諸国は反対か棄権に回るでしょう。
というわけで、毎回毎回堂々と国連決議違反されても、なにもできないのが国連です。

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火星12号 聯合

ちなみに韓国も米軍と協調して弾道ミサイルを発射したところまではよかったのですが、自分の基地内に墜落して炎上するというお笑いを演じてしまいました。
こういう緊迫した状況で、場をほぐすべく心温まることをしてくれるのが我らが韓国です。
死者が出なくてよかったですね、と言って上げたいところですが身を張った自虐ギャグはやめたほうが。

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韓国のミサイルが力のショー中に基地に墜落 - BNOニュース (bnonews.com)

「ミサイルが落下する際に発生した強い閃光に驚いた北東部・江陵の住民の問い合わせが役所やメディアに殺到した。軍から「訓練」という案内がなく、混乱が続いた。オンライン上では爆発と見られる炎が収められた写真と映像が拡散した」
(聯合10月5日)
 韓米両軍 北への対抗措置で地対地ミサイル4発=弾道1発は失敗 | 聯合ニュース (yna.co.kr)

では、正恩の核についての発言に耳を傾けてみましょう。
2016年5月、第7回朝鮮労働党大会における金正恩の宣言です。 

「わが国は責任ある核保有国として、侵略的な敵対勢力が核兵器でわれわれの自主権を侵害しないかぎり(略)こちらから核兵器を使用することはしない。
国際社会の前で負う核拡散防止条約の義務を誠実に履行し、世界の非核化を実現するために努力する」
(磯崎教仁『北朝鮮入門』2017年)

今世界でもっとも核軍拡に励んでいる国から、「世界の非核化を宣言する」などといわれると、吹き出してしまいそうになりますが、まぁ置きましょう。 
いつも修飾語である「火の海にしてやる」とかいわないと、案外まともなこと言っていることに逆に驚かれるかもしれません。 

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この正恩の「核先制不使用宣言」のキモは、冒頭の「責任ある核保有国」という部分です。 
先制使用(preemptive use)という概念は、まだ核戦争か始まらない前に先に核兵器を撃ってしまうことですから、それをしないということを宣言したわけです。 
先日の火星ミサイルの標的は、グアムでした。もちろん米国のアジア・太平洋地域の拠点があります。

中国は執念深くグアムを狙って、執拗に空母「遼寧」を送ったり、爆撃機編隊を接近させたりしていますが、北の場合は弾道ミサイルです。
つまりここで正恩がいう「責任ある核保有国」とは、核兵器の国際ルールに従うということで、具体的にはいきなり日本やグアム、あるいは米本土西海岸に弾道ミサイルを発射することをしないという意味のようです。
もっとも核の先制使用などしようものなら、米国領土への直接攻撃ですから倍返しどころか、数十倍返しにあうでしょうが。 

つまり、核兵器という武器体系の最大の特殊性は、「持ってナンボ、持たにゃ大国になれんが、使ったら最後自分も滅ぶ」というきわどい政治的兵器なことですから、やっと正恩も理解に達したと褒めてやるべきでしょう。
北朝鮮はやっていることはクレージーですが、頭の中には常に冷えた打算があるようで、北の核ミサイルを自分の国の潜水艦に積んで共同運用したいなどという馬鹿丸出しの構想を密かに持っていたムンジェインよりよほど「マトモ」です。

それはさておき、正恩が考えている今後の展開はこうです。


①核弾道ミサイルを、米国に着弾するまで伸ばす。
②対米核抑止力を得たと宣言する。←いまここ
③印パのように国際社会、なかでも米国に「核保有国」だと認めさせる。
④核保有国同士として米国と対等な交渉テーブルに着く。
⑤国連制裁決議を撤回させ、朝鮮半島の「安定と平和」について交渉をもつ。

現在、この②の最終段階で、北はすでに核大国になったと 自称しています。
おそらく年内にあと数回のICBM実験を行い、核実験も再開するでしょう。
そして「対米核抑止力を獲得したぞ」と高らかに宣言し、③印パのように「本来許されないが、手放さないのだから仕方がない」という奇妙な地位を得ることを目指します。
こうなれば、④米国と核保有国同士として「対等な交渉」が可能だ、と北は考えます。 

では、国際社会はどう対応するでしょうか。
米国内部にも北の核許容論がありますし(別記事にするかもしれません)、ヨーロッパ諸国はウクライナで精一杯です。
なにぶんヨーロッパには、北のミサイルは届きませんから脅威とあまり感じていないかもしれません。
本音では、東の辺境のイカレた王様が危険なオモチャをいじっている、ていどの認識です。 

残りの中露は話の外です。
そもそも中露が北の核開発の影の支援者でした。
ロシアにとって米国を牽制でき、しかも日米同盟に楔を打ち込むことが可能なので、最後まで国連制裁にすら反対し続けるでしょう。
中国は口では困ったもんだていどのことは言っても、いままでなにもしてこなかったし、今後も何もしないでしょう。
むしろ「北を唯一説得できるのは中国」という幻想を、外交的武器として使い回すはずです。
北朝鮮が北京に核ミサイルを向けないかぎり、印パのように地域の枠組みに平穏に納まってくれれは、日米同盟が分断されるうまみをもっとも得ることができるのは、この中国です。 

問題はわが国です。
今回もそうでしたが、米国が空母を日本海に派遣し、地対地ミサイルを売って示威をしてくれたのでかっこうがつきましたが、日本は事実上なにもしていません。
いまや北に大きくロケット技術で遅れをとった韓国のほうがよほどマシです。

我が国について、ウォールストリートジャーナルはこんなことを書いています。

「【東京】日本はミサイル防衛で守りに徹するだけでは不十分だとの考えに傾きつつある。ここにきて攻めの姿勢も視野に入れ始めた。
北朝鮮は日本上空にミサイルを飛ばすことで、隣国を脅かしうる存在であることを改めて浮き彫りにした。だが、軍事専門家は北朝鮮のミサイル迎撃能力は限られると指摘する。このぜい弱さこそが、日本政府が12月に公表を予定している新たな防衛戦略で方針転換を促す重要なテーマになっている。
自民党の佐藤正久外交部会長は「北朝鮮はミサイル防衛に限界があるので、(日本が)反撃能力を持ったほうが抑止力になる」と話す」
(WSJ 2022 年 10 月 6 日)
北朝鮮の「弱み」に照準、日本は抑止強化に傾く - WSJ

このようなテーマについて、米紙はいままで常にこの右翼めといったトーンで報じてきたのですが、今回は好意的な書き方をしています。
問題はウクライナ戦争を経ていっそう鮮明になってきています。
侵略は独裁者の機嫌ひとつで戦争は起こり得る、それもある日突然に、ということがわかってしまったからです。

ウクライナが侵略されたのは、ウクライナが「9条の国」だったからです。
軍隊は弱体であり、頼りにできる同盟国はなく、集団安保体制であるNATOからも加入を拒否されており、さらには最後の切り札とも言える核もとりあげられていました。
だから、ロシアは赤子の手をひねるより簡単だと考えて、侵略に踏み切ったのです。
日本が野党のいうとおりに「非武装中立」などとやっていたら、60年前に「極東のウクライナ」になっていたはずです。

さて、日本は北朝鮮によって国土を飛び越える弾道ミサイルを発射されたうえに、それに搭載可能な核弾頭まで開発されてしまいました。
このように書くと、いやあれはEEZに落ちていないとか、高高度だから領空ではない、などと聞いたような口を叩く人がいるようですが、馬鹿ですか。
それは北朝鮮の代弁そのままです。 

わが国は無通告で核弾頭が装着されている可能性すらある弾道ミサイルに、国土を蹂躙されたのです。 
いかに高高度であろうとなかろうと、主権国家の領土上空を事前通告なしに通過するミサイル投射は戦争行為に準じるものと国際常識では理解されます。

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逆を考えてご覧なさい。 米国が無通告で日本海から朝鮮半島をまたいで渤海に落す弾道ミサイル訓練をしたら、正恩はためらいもなくこれを宣戦布告だと受け取って、ただちに戦争に突入するでしょう。 
そうならなかったのは、ひとえにやられた相手が世界に稀なる「草食系国家」の日本だから、こんななめたまねが出来ただけです。
残念ですがひとつの国家として考えた場合、日本のほうが異常であって、北朝鮮のほうがまともな主権国家の態をなしています。 

Jアラートにすら、かつては「アベは空襲警報を鳴らした」と言う者が現れ、今回も「緊張を煽るだけだ」という政党がでました。
こういうお前どっちを向いてしゃべっているんだという者がいるのが、わが日本です。 

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もっと日本国民は怒っていいのです。日本人には怒る権利があります。
今現在、圧倒的に優位な力関係に立っているのは正恩の国のほうであって、日米は打つ手がありません。
トランプの直接会談の魔法が解けてしまった今、バイデンになにができるでしょうか。
たぶん正恩は、年内に完全核保有国宣言を発し、世界もそれを追認せざるをえないこととなるはずです。
そうなった場合に、日本に何ができるのか、何を今すべきか、真剣に考えねばなりません。

こういう袋小路の状況において、幕末の草莽の志士風にいえば「狂を発する」必要があります。
維新の志士上がりで、明治まで生き残った山県有朋は奇兵隊の隊長だった時、「山形狂介」と名乗っていました。
実は山県
は慎重すぎるほど慎重な男で、到底狂えない体質の自分の尻を「狂介」という名乗りで蹴り飛ばしていたのでしょう。

私たち日本人も「狂を発する」必要があります。
「狂を発する」とは、正しく怒ることです。
そのガムシャラな力で、閉塞した状況そのものを揺さぶって突破口を見つけ出すことを意味します。
正しく怒り、その怒りを日本の独自核武装論の議論につなげて行くべきです。 

この際できるできない、国際社会からどう見られるか、NPT体制を脱退するのか、技術的に兵器級プルトニウムができるのか、といった醒めた議論はとりあえず置いておきましょう。
ここに引っかかってしまうと、一歩も先に行きません。
ご承知のように、私は一貫して独自核武装反対論者でしたが、ことここに至って、核武装と中距離弾道ミサイルをまったく度外視した対北・対中、対露核抑止はありえないのではないかと思うに至っています。 

したり顔でやり過ごすのではなく、立ち止まって真剣に議論すべき時期に入ったのです。
戦後最大のタブーであった独自核武装論をリアルに議論できる時期は、今をおいてしかないはずですから。 



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ウクライナに平和と独立を

2022年10月 6日 (木)

ウェルカム・トゥ・プーチンズワールド

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プーチンがなにを考えているのかを探る2回目です。
どんどんと彼の源流に遡っているような気がします。
前回見たような妄想性パーソナリティとして片づけてしまうと、非常に分かりやすい代わりに、どううしてこのような男が生まれて、なぜこのような愚か極まる戦争を始めたのか、ほんとうのところがわからないままになるようなところがあります。
プーチンの神秘主義スパイスがかかった反西欧主義、ロシア国粋主義が、この異様な独裁者の根っこにあることは確かです。
そこには数人のロシアの危険な思想家たちがいるのではないか、というのが今回のテーマです。

ロシアは原油で国は多少豊かになりましたが、民主主義不毛の地であり続けました。
ロシア国民は、市民的自由を奪われた、「ロシアという有機体の一部」でした。
この原因はソ連崩壊後、民主化に向かうと見られていたロシアが逆流し、プーチンという独裁者が権力を握ってしまったからです。
そしてこの男は、昨日のゴールデンブリオンでみたように、マルクス・レーニン主義者ではなくまさに「プーチンズ・ワールド」とも言うべき奇怪な思想の集合体でした。

先日もふれましたが、プーチン大統領の9月30日の4州併合集会演説はその特徴をよく現しています。
その特徴とはこのようなものです。

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[社説]噓で固めた「併合」と核の脅しは許さない: 日本経済新聞 (nikkei.com)

①「西側は、ロシアを「攻撃、弱体化、分割」しようとしており、その背景にある動機は「新植民地主義システム」を維持し、そこから得られる利益を獲得し続けることだ」とするように、強い被害者意識とそれからくる反西欧主義です。
「西側が世界に寄生し、世界から略奪し、人類から年貢を集め、繁栄の主たる源を絞り取ることを可能にする新植民地主義」だとしています。
「彼らはわれわれが自由になることを望まず、植民地にしたいのだ。対等な協力を築きたいのではなく、略奪したいのだ。われわれを自由な社会ではなく、魂のない奴隷の集合体にしようとしている」と考えています。
ちなみにこのあたりのプーチンの西側への呪詛は、西側社会にも存在する反米反グローバリズム思想と好一対ですから、彼らは揃ってロシアンフレンドとなってしまっています。

②したがってウクライナ戦争とは、「偉大なロシア」を西側に抹殺されないための防衛戦争であって、「ロシアの言語や文化を守る戦い」なのだと位置づけます。
そのロシア精神の中心にあるのが、ロシア正教です。

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プーチン大統領の戦争、背後に「ロシア世界」思想 米メディア「ウォールストリート・ジャーナル」が指摘 2022年3月21日 - キリスト新聞社ホームページ (kirishin.com)

事実ロシア正教のキリル総主教は、プーチンと強いつながりを持ち、ウクライナ人を絶滅することを祝福するという宗教者にあるまじき態度を再三示しています。
プーチンが「正教大国ロシアを目指す」と再三主張していることは、統治理念としてのロシア正教を基盤にしたいためです。
ロシア正教は、ソ連時代に弾圧を経て生存戦略として国家権力への接近を図ってきました。
西欧のキリスト教は世界宗教であることを自認し、神の愛を唱えましたが、ロシア正教系はそれと根本的に異なって、あくまで国家を支える民族宗教です。
ロシア正教は、受難から力への信奉を通して歴史的に神聖なるものに列聖されると説きます。
いわば、ソ連崩壊の精神的欠落を補完するものとしてロシア正教会はあったわけです。

「ロシア正教は、プーチン氏の地政学的野望を支えるイデオロギーの形成に積極的役割を果たしてきた。その世界観は、現在のロシア政府をロシアのキリスト教文明の守護者と見なすものであり、それゆえロシア帝国と旧ソ連の版図にあった国々を支配する試みを正当化する。
この思考はプーチン主義に強い影響を与えている」
(ウォールストリートジャーナル)2022年3月22日)
キリスト新聞社ホームページ (kirishin.com)

③プーチンは西側の民主主義システムを全面的に否定します。
後述するプーチン主義の源流であるイワン・イリンはこう言っています。
「選挙は独裁者に従属の意思表示をし、国民を団結させる儀式でしかなく、投票は公開かつ記名で行なわれるべきだ」
つまり本来選挙などやる必要がなく、あえてやるなら、4州の「住民投票」のように軍が銃をつきつけて、透明の投票箱に入れさせるものでなくてはなりません。
選挙などはロシアを分断するものであって、祖国ロシアとはひとつの生き物であって、「自然と精神の有機体」だというのです。
選挙をすれば
90%が政府支持、世論では9割がプーチン支持、これが正常な世界なのです。

これがプーチンが信奉するロシア国家有機体論です。
ドイツナチズムや北朝鮮、中国を思わせる「国家有機体論」です。

これらとプーチンのファシズムがやや異なっているのは、社会の統合装置としてロシア正教が登場することです。

さてプーチンは、クリミア半島への侵攻前の2014年初めに、クレムリンの重要な5000人の官僚たちに3人のロシア思想家の本を渡しました。
その3人の思想家こそ、プーチン大統領のその後の「プーチン主義」とも呼ばれているユーラシア主義の根幹を作ったのです。
この3人は19世紀から20世紀初期にかけ活躍したロシア人の思想家です。

・イワン・アレクサンドロヴィチ・イリイン(1883年~1954年)
ニコライ・アレクサンドロヴィチ・ベルジャーエフ(1874年~1948年)
・ウラジーミル・セルゲイェヴィチ・ソロヴィヨフ(1853年~1900年)

そしてもうひとり4番目の男が、アレクサンドル・ドゥーギンです。
この者ら全員がマルクス主義とは無関係で、むしろ無神論ソ連で迫害されてきた者らの系譜に属します。
私たちからすれば、彼らプーチン主義を作った者たちが、共産主義者だったほうがむしろ分かりやすかったでしょう。
共産主義とは交渉可能だからです。
ところがプーチンが愛好したこれらのロシア主義の思想家たちは、ことごとく反西欧精神主義に連なる者たちだったのです。

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セルゲイ・ソロヴィヨフ - Wikipedia

彼らはソロヴィヨフのように神秘主義者であり、アンチキリストの到来と世界の終末を予感し、神の国は歴史の終わりにのみ実現する唱えています。
プーチンは自分が、腐敗した世界を作り替える歴史的任務を持っているとする「君主」であるという自覚があるようですが、この意識を与えたのがソロビヨフです。

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イワン・イリイン - Wikipedia

イリインもまた君主主義者であり、道徳と敬虔さを土台として各個人の「法意識」を発達させることの重要さを強調しました。
イリインは1938年、亡命先のベルリンをナチ政府によって追われ、スイスに逃げ、そこで亡くなりましたが、プーチンは2009年、スイスにあったイリインの遺骨をロシアに移送させ、新たな墓に埋葬させています。

「イワン・イリインは歴史上の偉大な人物ではない。彼は古典的な意味での研究者や哲学者ではなく、扇動主義と陰謀理論を振りかざし、ファシズム志向をもつ国家主義者にすぎなかった。
「ロシアのような巨大な国では民主主義ではなく、(権威主義的な)『国家独裁』だけが唯一可能な権力の在り方だ。地理的・民族的・文化的多様性を抱えるロシアは、強力な中央集権体制でなければ一つにまとめられない」。
かつて、このような見方を示したイリインの著作が近年クレムリン内部で広く読まれている。
2006年以降、プーチン自ら、国民向け演説でイリインの考えについて言及するようになった。その目的は明らかだ。権威主義的統治を正当化し、外からの脅威を煽り、ロシア正教の伝統的価値を重視することで、ロシア社会をまとめ、ロシアの精神の再生を試みることにある」
プーチンを支えるイワン・イリインの思想―― 反西洋の立場とロシア的価値の再生 | FOREIGN AFFAIRS JAPAN

そしてプーチンは本こそ配りませんでしたが、いまひとりアレクサンドル・ドゥーギンの影響を強く受けています。
プーチンの外交政策には、ドウーギンの影響を強く感じます。

彼の思想は、「ロシアが支配するユーラシアの成立」です。

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アレクサンドル・ドゥーギン
プーチンも洗脳?超保守主義学者の危険すぎる思想  WEDGE Infinity

アレクサンドル・ドゥーギンは、 モスクワ大学教授として極端なロシア民族主義を鼓吹する極右哲学者で、長年にわたってクレムリンの政策に影響を与えてきました。
たとえば、ドゥーギンは、ロシアの反西欧的な「ユーラシア運動」の創始者で、2014年、ロシアがクリミアに侵攻した際に、プーチンにウクライナ東部への介入を促したのは、この人物だとされています。

このドゥーギンのユーラシア思想は、2011年にプーチンが「ユーラシア連合構想」を表明したことで、ロシアの公的なイデオロギーとなってしまいました。
ロシアを提唱国として、カザフスタン、タジキスタン、キルギス、アルメニア、モルドバの5カ国が調印し、トルクメニスタン、ウズベキスタン、アゼルバイジャンの3カ国も加入を検討しようとしていました。
これらのユーラシア地域を、プーチンはロシアの「責任圏」と呼びました。

ちなみに当時、旧ソ連圏最大の工業国にして穀倉地帯だったウクライナも執拗に加入を勧められましたが、蹴り続けたことがプーチンの屈折した怒りとなったとする人もいます。

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ドゥーギンの思想の具現化こそが、このユーラシア共同体でした。
ドウーギンの世界戦略とはこのようなものでした。

「ドゥーギンが描く構図によれば、今後、ドイツがロシアへの依存度を一段と高めることによって、欧州は次第にロシア圏とドイツ圏へと分断されていく。
英国は(EU離脱後)ボロボロの状態となり、ロシアは漁夫の利を得ることで『ユーラシア帝国』へと拡大・発展していく、というものだ。
ドゥーギンはさらに、アジア方面についても、ロシアの野望を実現するために、中国が内部的混乱、分裂、行政的分離などを通じ没落しなければならないと主張する一方、日本とは極東におけるパートナーとなることを提唱する。
(略)

ドゥーギンの戦略論は「新ユーラシアニズム」ともいうべきものであり、目指すべき将来目標として、旧ソ連邦諸国を再びロシアが併合するとともに、欧州連合(EU)諸国もロシアの〝保護領にするという極論から成り立っている」
(斎藤 彰 元読売新聞アメリカ総局長2022年3月26日 )
プーチンも洗脳?超保守主義学者の危険すぎる思想  Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) (ismedia.jp)

この「ユーラシア帝国」の核心となるのが、ドゥーギンが言う高貴なる永遠の「ロシア民族」です。
この「ロシア民族」とは、かつてのキエフ公国を発祥地とするスラブ民族のことで、ロシアとウクライナがその中心とならねばならないと説きます。
いわばナチス思想の「ゲルマン民族」、マルクス主義の「労働者階級」に相当するのが、ドゥーギンの「ロシア民族」で、彼らは世界の救世主としての任務があるとします。

西側が唱える、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値などとプーチンにいくら言ってもまったくかみ合わないことがおわかりでしょう。
ナチスの東方生存圏構想に似た、おそるべき侵略的全体主義思想こそプーチンの「ユーラシア主義」思想です。
言葉の正確な意味で、プーチンはロシアの風土から生まれた土俗的ファシストなのです。
しかも敗北しつつある、いまや正気と狂気の狭間にいるファシストです。

 

 

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勝利のダンスを踊るウクライナ兵。担いでいるのはジャンベリン。
ウクライナに平和と独立を

 

2022年10月 5日 (水)

プーチンは狂っているのか?

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北朝鮮「火星12」と思われる長距離弾道ミサイルを、日本列島超えで打ってきました。

「10月4日朝、北朝鮮が北部の慈江道・舞坪里から東方向に1発の弾道ミサイルを発射。5年ぶりに日本列島を飛び越えて太平洋まで飛行し海上に着弾しました。日本列島の飛び越えは通算7回目となります。
自衛隊観測:水平距離4600km 最大高度1000km 飛翔時間22分
韓国軍観測:水平距離4500km 最大高度970km 速度マッハ17
 観測数値からは、中距離弾道ミサイルが通常弾道軌道(最小エネルギー軌道)で飛行した性能だったと推定できます。過去に発射された北朝鮮ミサイルでは「火星12」が近い飛行性能を持ちます。」(JSF10 月4日)

北朝鮮が中距離弾道ミサイルを日本列島越えで発射(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース

1004kitamisail

北朝鮮ミサイル 過去最長の飛行距離 岸田首相「暴挙で強く非難」 | NHK政治マガジン

グアムを標的にしていることは明白で、今後、このようなふざけことをするならば、容赦なくMDで打ち落とすか、日本海側にズラリと中距離弾道弾を配置するしかないでしょう。

さて昨日に続いてプーチンの狂気について考えてみます。
防衛省防衛研究所山添博史氏(ロシア研究・主任研究官)はこのように述べています。

「そうした狂気を計算高く「演出している」というものです。恐怖心を煽ることで、「プーチンの要求をある程度飲まないと、第三次世界大戦が勃発する」と周囲に思わせる。計算された狂気、計算された非合理さです。Madman Theory(狂人理論)というのがありますが、その可能性もあるでしょう」
(山添博史3月4日)
「勝てるようにやっているとは思えない」なぜプーチンは“狂気の独裁者”になったのか 防衛研究所・山添博史氏インタビュー #1 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) 

ただしこれはマッドではない者がマッドのふりをしているというのが大前提で、ほんもののマッドマンなら話は別です。
マッドマンを分類するとこのようになります。

①マッド度レベル1・真マッド。
②マッド度レベル2・中程度のマッド。半ば狂っているが、まだ計算ができる状態。
③マッド度レベル3・なんちゃってマッド。理性が残されており、スタッフのアドバイスを聞くことができるていどの状態。

正常なものがそのふりをしているのは③に相当しますが、本当にそうだったらかえってほっとするくらいです。
③のなんちゃってマッドは演技ですから、側近はそれを理解して正しい情報を入れるように努めます。
しかしいまや彼に諫言できるものはほとんどの残されておらず、情報機関はおろか軍部でさえ信用していない様子です。
すると、①の真のマッドマンなのでしょうか。

「一つは、本当に精神状態に異変が起きていて、狂気の独裁者になっている可能性です。忠実な部下を含め全員をつるし上げて、誰も逆らえないようにして「俺だけの世界」を実現するヒトラーのようなイメージです。
このパターンだった場合、もう戦争の勝ち負けは関係ない。ロシアの安全も国民生活も関係ない。全てを懸けて、ウクライナを叩き潰す。必要だったら核のボタンも押す。……そういう狂気の独裁者になっているのであれば、非常に怖いです」
(山添博史前掲)

これは権力内部に有力な反対派がいない場合に起きる、孤立型独裁者特有のマッドマンの思考回路です。
独裁者は自分の権力の延命と世界の破滅を同一視しやすいものですが、特に孤立した大国の独裁者は危険です。
たとえば北朝鮮の正恩もこのような衝動に駆られ易いタイプですが、しょせん最貧国なので限界があります。
同じ独裁者でも、元来集団指導体制をとっていた中国で、習近平がそのようなことに走ろうとすれば反対派か長老に暗殺されます。

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まさに狂気の行動 プーチンの精神状況に米情報機関注目  Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) (ismedia.jp)

一方プーチンはすべての権力を自分に集中してしまったために、権力内に反対派を持ちません。
権力構造の中でオリガルヒはあらかた殺してしまい、シロベッキもだいぶ辞めさせたからです。

したがって、彼がコントロール不能の狂気に陥った場合、果たしてはがい締めしてでも止める人物が現れるかどうかはなはだ不明です。
ウォレス英国防大臣は、ウクライナ戦争を決断したプーチンに対して、「側近の中でプーチンにウクライナ占領計画を中止するよう進言したものは誰もいなかった」(英タイムス)と述べています。
ですから、あれよあれよという間に③から②を経て①に接近していっていきますが、誰も止められません。

この二つの可能性を踏まえて、山崎氏はこのような仮説を立てています。

「そもそも「非合理な目的」と「合理的な目的」の両方がプーチンの中にあって、それは一緒に達成できると考えていた。でも、どこかの時点で、彼の中では非合理な目的の方が、合理的な目的を凌駕してしまったという可能性です。
非合理な、感情的な目的というのは、「ウクライナを服属させてロシア帝国を作る」という願望です。
一方、合理的な目的というのは、「ロシアの安全保障を担保する」という目標です。たとえば、NATO拡大を阻止するといった目標は、途中までは両方の目的に沿っていました」
(山崎前掲)

今回のウクライナ侵略で、正しいか間違っているかは別にして、侵攻前に盛んに言っていたNATOの「東進」はロシアの安全保障を損ねるという言い分には一定の合理性が感じられます。彼らの立場からすればそう見えなくはないからです。
このようなことなら、東欧に弾道ミサイル迎撃システムを配置するのを中止したり、米軍を北欧に展開するのをやめるという外交交渉が成立します。
ところがこれで終わらなかったから問題なのです。

先日の一幕の喜劇に終わった併合集会で、プーチンは西側を「大悪魔」だと言い始めました。

「プーチンによれば、これら全ては、アメリカ合州国と、そのヨーロッパ同盟諸国のせいで、彼は、ロシアを弱体化させる長年のプロジェクト、ウクライナが、世界秩序のこのシニカルなビジョンでは、駒にすぎないプロジェクトを遂行しようとしていると非難している」
(ロイター10月3日)
Putin recasts his Ukraine war as Russia’s struggle against the West (yahoo.com)

精神状態が均衡を失ったある種の者に見られる極端な被害者意識です。
病名を「妄想性パーソナリティ障害」(PPD)と呼ばれています。

「妄想性パーソナリティ障害患者は他者を信用せず,何の根拠もない,または不十分な根拠しかない場合でも,他者が自分に害をなそうとしている,または自分を欺こうとしていると考える。(略)
他者が自分を利用する,裏切る,または害する計画を立てていると疑う。患者は,いかなるときでも,理由もなく自分が攻撃されるかもしれないと感じている。証拠がほとんどないか全くない場合でも,自分の疑念および考えを主張し続ける。

しばしば,このような患者は他者が自分を大きく,取り返しのつかないほど傷つけたと考えている。患者は潜在的な侮辱,軽蔑,脅し,および不忠がないか非常に警戒しており,発言および行動に隠れた意味がないか探る。自分の疑念を裏付ける証拠を探して他者を詳細に吟味する」
妄想性パーソナリティ障害(PPD) - 08. 精神障害 - MSDマニュアル プロフェッショナル版 (msdmanuals.com)

「不十分な根拠しかない場合でも他者が自分に害をなそうとしている」・・・、まさに今のプーチンの心理そのものです。  
「ゼレンスキーはネオナチだ」「ドンバスでネオナチがジェノサイドを働いている」あたりから完全に妄想で自分が「害をなされている」と思い込み、「西側が核攻撃を準備している」という風にエスカレーションすると、もはや幻聴幻視のたぐいで外交交渉もへったれもありません。

よく共産党や立憲はなにかといえば、外交交渉しろ、といいますが、マッドマン相手に交渉は成立しないことを忘れています。
そしてあいにく我が国が対峙しているのは、こんな国ばかりなのです。

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ロシア、戦費で傾く財政 5月初旬枯渇か:中日新聞Web (chunichi.co.jp)

おそらくプーチンがこの戦争を当初の思惑どおり4日間で終わりにできたはずの「特別軍事作戦」だったのなら、狂気のエスカレーションラダーを登ることはなかったでしょう。
しかし、戦略目標であったキーウ占領に失敗し、後から後から失敗と誤算の連続となってしまい、プーチンの理性は崩壊し、幻影と現実との境が怪しくなります。
いまや②と③の間を浮遊している状態です。

ではどうしたら、真マッドかもしれないプーチンを止めることができるのでしょうか。
簡単な答えはありません。
ウクライナ軍がこのまま前進を続けて、領土からロシアを駆逐すれば局面が大きく変わる代わりに、プーチンは逃げ場を失うことになります。

そのときせめて戦争前の③のなんちゃってマッドくらいなら、おとなしく引退なり亡命なりしてくれるでしょうが、②から①ならば出してくるのが核発射ボタンです。
もちろん独裁国家のロシアだとて、ひとりで核ミサイルは発射できませんから、国防相など数人の合意が必要です。

民主国家には歯止めがいくつもありますから、そもそも大統領が①になる前に引きずり下ろされます。
議会の力が弱く、しかもプーチンのオール与党のロシアにおいて、プーチンの狂気を止められる可能性があるのは、国民の反対運動くらいしか見当たりません。
残るはマッドマンとなった独裁者を実力で引きずり下ろすことができるのは、唯一軍です。
反対運動が高揚し、治安機関では手におえず、軍隊を出動させざるをえなくなったあたりが分水嶺でしょう。
士気が崩壊しているロシア軍にどのような影響が出るのか・・・。

20万もの国外逃亡者を出すような馬鹿げたウクライナ戦争を終わりにしたいという気持ちは、国民も兵隊も一緒なはずです。
そのときロシア兵が銃を逆に向けたらというのが一縷の救いですが、なんともいえません。

つまり、プーチンが核兵器に手を伸ばせば、その反応としてNATOの直接介入を招き、さらに副反応としてロシア国内の反プーチン勢力を合流させて、第2ロシア革命へと進展しかねない火種を抱え込むことになります。

ちなみに、プーチンが妄想性パーソナリティ障害であった場合、治療方法はあるでしょうか。
残念ながら、「妄想性パーソナリティ障害に有効であることが証明された治療法はない」( MSD前出)ようです。
なぜなら、「患者の疑念および不信の程度が全体的に高いことから信頼関係の確立が困難」だからです。
今のプーチンと「信頼関係」を築けるものは皆無です。

 

 

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ウクライナに平和と独立を

2022年10月 4日 (火)

プーチンは核攻撃をするか?

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核攻撃についてプーチンが併合集会でまた核攻撃を口にしたので、取り沙汰されています。
ま、何度も言ったうえに、その都度「これはオドシじゃねぇぞ」なんて言われてもねぇ。
核の脅しは一回こっきり。だから効くんですがね。

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「あらゆる手段をとる」プーチン大統領が核兵器使用を“排除しない”考え示す 部分的動員は「30万人規模」 | TBS NEWS DIG

「プーチン氏は21日の演説で、ロシアは領土を守るために「利用可能なあらゆる武器」を使うと表明。「これは決して口だけの脅しではない。そして、われわれを核兵器で脅迫しようとする人々は風向きが変わって、自分たちが同じ目に遭う可能性があると知るべきだ」と言い切った」
(ロイター9月30日)
焦点:プーチン氏の核使用巡る発言、「本気」か警戒感強める西側 | Reuters

同時期に、プーチンの「盟友」のチェチェンのカディロフも、核攻撃を進言しています。
この男には核の権限などありませんが、いわば雰囲気を作るには持ってこいのロシアの野蛮な本音を言う男です。

「ロシア連邦内にあるチェチェン共和国のカディロフ首長は、同国で一般的なSNS「テレグラム」で10月1日、リマンを防衛していた指揮官を無能だとして、「前線で機関銃を持って戦うべきだ」と痛烈に批判。「個人的な意見」と前置きした上で、「国境地帯での戒厳令の発令や低出力の核兵器の使用まで、より抜本的な対策を講じるべきだ」と主張した」
(ハフィントンプレス10月1日)
【リマン撤退】チェチェン首長が核攻撃を提言 ⇒ 米シンクタンク「注目に値しない」と冷静な理由は?(ハフポスト日本版) - Yahoo!ニュース

ウクライナ側の軍事目標を狙って、比較的射程距離が短く出力が小さい核兵器を陸海空のいずれかから発射することは理論的には可能です。
いわゆる戦術核とか小型核と呼ばれるもので、ロシアはこれを西側の10倍保有しています。
冷戦期には、ワルシャワ条約機構軍がドドっと大戦車軍団で西ドイツ国境を超えて侵攻した場合、NATO軍もまた大戦車軍団で立ち向かってきて、そこでドンドンパチパチと大会戦が起きると想定されていました。
その時に戦術核を撃って黙らせる、と東西両陣営は考えていたわけです。

つまり戦術核とは冷戦期の名残で、いま、これを使えるかとなると、話は別でした。
使う使うと言っていますが、プーチンは今のウクライナ戦線のどこに使うというのでしょうか。
ロシア軍は、いまや契約兵と呼ばれる正規兵と、戦意が低く装備もない緊急徴兵されたアマチュア兵の混成軍になっています。
徴兵された者はろくな訓練も受けないままウクライナ戦線に投入されており、ロシア軍の混乱に輪をかけていることでしょう。
ロシア政府が動員兵に包帯と防寒具を持参するよう要請しているのですから、話になりません。
契約兵のほうは、とりあえず核戦争の初歩的訓練ていどはしているかもしれませんが、これだけ混沌としてしまうと、核一発食らわばみんなアウトです。
また戦線も複雑に入り組んでしまっていて、かつて冷戦期に想定された白黒ハッキリと敵味方に分かれてドンパチといった状況など期待できません。

つまり、核を使えば、核戦争の準備がないロシア軍もまた多大な被害を被り、自らも壊滅するリスクが高いのです。
とうぜんのこととして、核攻撃した報復は即座に自らの頭上に殺到します。

「サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は25日、バイデン政権はプーチン氏の発言を「極めて重大」に受け取り、ロシアが核兵器を使えば「破滅的な結果」を招くと、くぎを刺した。
米政府は今のところ、万が一の場合の具体的な対応策を示していない。ただ、米国も核兵器を行使すれば「核エスカレーション」につながりかねない以上、ロシアの軍事施設に対する通常兵器での大規模攻撃が行われる確率がより大きい、というのが大半の専門家の見立てだ」
(ロイター前掲)

このように米国は軍事目標に対して最大限で核報復、最小限でも通常兵器による報復をためらわないでしょう。
またNATOはヨーロッパ全体への攻撃があったとして、ウクライナ戦争への関わりを「支援」から通常戦力での直接介入へと踏み切る可能性が高いはずです。
いまですらてこずっているのに、直接介入されたら、
これでロシアの完全敗北は決定的になります。どう見ても、間尺に合いません。

「キングス・カレッジ・ロンドン戦争学部のローレンス・フリードマン名誉教授は、現時点でロシアが核攻撃の準備を加速させている証拠はなく、そうなっても米政府は「かなり素早く」察知するだろうと予想する。
フリードマン氏は、プーチン氏の核兵器に関する警告を軽視するのは間違いだが、プーチン氏にとって新たに編入した地域を守るために核を使うのが合理的とは思わないと主張。「ウクライナが戦闘をやめない姿勢を明らかにしている中で、こんな小さな獲得地のために1945年8月から続いてきた禁忌(タブー)を破ること、たとえ戦闘を止められてもこれらの地域を平和な状態に落ち着かせるのが難しいことからすれば、核戦争を始めようというのは、とても奇妙に思える」と述べた」
(ロイター前掲)

冷徹な観察者の戦争研究所も、こう突き放しています。

「カディロフ氏が戦術核(編註:射程距離が短い核兵器)の使用を求めたのは、ウクライナ領土をさらなるロシアの支配下に置く「特別軍事作戦」の継続要求と矛盾している可能性が高い。
現状のロシア軍は、必要な装備を持ち、歴史的にそのための訓練を行ってきたとはいえ、核で汚染された戦場で活動できないことはほぼ確実だ。現在、ロシア地上軍を構成する疲弊した契約兵、急遽動員された予備役、徴兵、傭兵の混沌とした集合体は、(放射線濃度が高い)核環境では機能し得ないだろう。
したがって、ロシアの戦術核兵器の影響を受けた地域はロシア軍にとって通行不能となり、ロシアの進攻を阻む可能性が高い。この点も、ロシアの戦術核使用の可能性を低下させる要因の一つである」
(戦争研究所IWS10月1日)
ロシアの攻撃キャンペーン評価、|10月1日戦争研究所 (understandingwar.org)

おそらくこれが世界の軍事専門家共通の常識的見解です。

一方核攻撃はありえるとする説として、このようなものもあります。

「■ロシア全土に47カ所の核貯蔵庫(=12の国家レベル施設と、35の基地施設)がある。約2000発の戦術核兵器が保管されている。欧米の諜報機関が関係者をマークし、空からも軍事偵察衛星が監視している。
■クレムリン内部の協力者の情報では、プーチン氏は小型戦術核を、低高度かつ変則的軌道で飛行し、迎撃困難な短距離弾道ミサイル「イスカンデル」で使用しようとしている。ロシアが、化学防護服と内部被ばくを低減する効果がある安定ヨウ素剤を『大量確保した』という情報がある。
■攻撃目標候補は3カ所。①黒海(=ウクライナ軍に恐怖を与えて戦意喪失させる)②併合4州とウクライナの境(=放射能汚染地帯をつくってウクライナ軍の進軍を遮断する)③ザポロジエ原子力発電所(=欧州全域を放射能汚染で『死の大地』にする)」
(加賀孝英zakzak10月3日) 
【スクープ最前線】〝敗北寸前の凶行〟プーチン大統領「核攻撃」の目標3カ所に ロシア、化学防護服大量確保か 動揺する習政権、自由主義諸国の弱点・日本を恫喝(1/4ページ) - zakzak

う~ん、どうかな。煽りりすぎじゃないかな。

後のありえる選択肢としては、核兵器をどこか遠くの無人地帯か、海上などで爆発させるという手もあるにはあります。
次はほんとうに狙うぞということですが、一種の北朝鮮流の瀬戸際戦略です。

確かに世界は震撼しますが、しかしこれも中途半端で、実戦使用するのと政治的影響は同等で、NATOは直接介入の決断をするはずです。
つまり、実際の戦術的利益はゼロだが、政治的には袋叩きとなってしまうのです。
このような瀬戸際戦略が有効なのは、本当にあいつならやるかもしれないクレージーな奴だというマッドマンセオリを使った場合だけです。

マッドマンセオリは正常な人間がマッドマンのふりをしていますが、では、本当にプーチンはマッドマンのふりをしているだけなのでしょうか。
私にはそう思えません。

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「勝利はわれわれのものに」 プーチン氏、赤の広場で演説(AFP=時事) - Yahoo!ニュース

たとえばプーチンが例の併合集会演説でこう言っているのを、どう考えたらよいのでしょうか。

「調印に先駆けて行なった約30分におよぶ演説では、軍事侵攻および併合の正当性を主張するとともに、陰謀論めいた主張を交えつつ、西側諸国、とりわけ米国をウクライナ紛争の「真のハンドラー」だとして、批判を展開した。
プーチン氏は、西側は、ロシアを「攻撃、弱体化、分割」しようとしており、その背景にある動機は「新植民地主義システム」を維持し、そこから得られる利益を獲得し続けることと主張。このシステムについて「西側が世界に寄生し、世界から略奪し、人類から年貢を集め、繁栄の主たる源を絞り取ることを可能にするもの」と説明し、「独立国家、伝統的な価値観、オーセンティックな文化」を攻撃するのはこのためだと語った。
続けて「西側諸国が、ロシアに対して繰り広げるハイブリッドな戦争は、支配を維持するがための貪欲と決意に起因する」と言い換え、「彼らはわれわれが自由になることを望まず、植民地にしたいのだ。対等な協力を築きたいのではなく、略奪したいのだ。われわれを自由な社会ではなく、魂のない奴隷の集合体にしようと考えている」と非難した」
プーチン氏が唱えるゴールデンビリオン説とは?ウクライナ4州併合で演説 - Mashup Reporter

西側陣営を「悪魔主義」に例え、大悪魔の米国はロシアを壊滅させる長年の計画を遂行しているとプーチンは言うのです。
この奇怪な陰謀論について、ワシントンポストはロシアで広く支持されている「ゴールデンビリオン説」があると指摘しています。

参考プーチンの併合演説における7つの重要な瞬間 - ワシントンポスト (washingtonpost.com)

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ゴールデンビリオンとは「黄金の10億人」のことで、マルサスの人口論を陰謀論的に仕立て上げたものです。
このネタ本は、ソ連崩壊間近の1990年に出版されたアナトリー・トリクノフの『世界政府の陰謀・ロシアとゴールデンビリオン』という本で、裕福な西側エリートが世界政府を操って、生態系の変化や世界規模の災害や資源をめぐる競争を引き起こしていると考えています。
そして彼ら「ゴールデンビリオン」の最終目的は、選ばれた10億人以外の人類を消滅させることです。
そして豊富な天然資源を持つロシアは、彼ら「ゴールデンビリオン」が獲得する最大目標であるが故に、あらゆる手段を講じてロシアを弱体化させ支配下に置くつもりなのだ、としています。
ウクライナは同じ民族の「兄弟」でありながら、この「ゴールデンビリオン」の手先に成り下がったネオナチだということになります。
だからロシアは彼らを浄化するために戦っているのだ、というわけです。

はっきり言って、まともではありません。ぶッ飛んでいます。
もう普通の精神状態であるにようにはみえません。
意味がつかめない、なにを自分で喚いているのか、喚く当人にも分かっているようには見えないのです。
よく言ってやって重度の陰謀論者、はっきり言えば妄想にとりつかれた狂気の男です。
こんな人物が核のボタンをにぎって いるとは。

ベテランの観察者のクリスト・クロゼフすらサジを投げて、「プーチンがこれまで行った中で、最もクレイジーな演説の一つ」とツイートしたほどです。
前述のフリードマン氏はこう言っています。

「その上で、この状況で非合理的な核兵器使用があるとすれば必然的に、脅威を感じて絶望したプーチン氏の情動的な行為ということになるだろうとの見方を示した」
(ロイター前掲)

怖いのは、この陰謀論と妄想にとりつかれた人物が「脅威を感じて絶望した情動的な行為」で、核兵器に飛びついてしまうケースです。
北朝鮮の正恩もそうですが、瀬戸際戦略をとる者は、この崖の先は滅亡だとしっかり分かっているからやっているので、この男が核のボタンに手を伸ばすとすれば「殿、ご状落城でございます」という状態しか考えられません。

プーチンの場合も同じで、自らが滅ぶくらいなら世界を道連れにすると思い定めてしまった場合です。
その場合、自分を追い詰めた張本人だと信じているNATOに「電光石火の一撃」を浴びせねば済まないと思っています。
完全に狂気に支配された状態ですから、いままで西側専門家の合理的思考の枠から大きく逸れるでしょう。

本当にプーチンは狂ってしまったのでしょうか。
次回もう少しそのあたりを考えてみたいと思います。

 

 

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ウクライナに平和と独立を

2022年10月 3日 (月)

東部要衝リマン陥落、ウクライナの進撃ドミノは止まらない

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プーチンが併合を宣言した直後、ロシアはドネツクの最重要拠点であるリマンをウクライナ軍に奪還されました。
ルガンスク州のガイダイ知事は1日、東部ドネツク州リマンに陣取るロシア軍5千人以上をウクライナ軍が包囲し、補給・退却路をほぼ遮断したと表明しました。
さらにガイダイ知事は、これがルガンスク州の奪還にも繋がると言っています。

「ウクライナ軍にとっては、先月東部ハルキウ州の奪還に成功してから最大の戦果と位置付けられる。
ウクライナ軍の報道官は1日朝の記者会見で、リマンに隣接する村へ部隊が入ったと発表。リマン周辺の集落を解放し、同市のロシア軍部隊を包囲したと宣言した。
リマンの解放はドンバス地方全体の解放に向けた重要な一歩になるとも述べていた。多数の死傷者が出たとも語ったが、詳細には言及しなかった。
隣接するルハンスク州の軍政トップ、ハイダイ氏は同日、リマンのロシア軍部隊が撤退を申し出たがウクライナ側に拒否されたと明かし、ロシア軍には「突撃を試みるか、降伏するか、全員が死ぬかの選択肢しかない」と語っていた。
同氏はまた、ロシア側の部隊は約5000人に上り、これまでに包囲されたなかで最大の規模だと指摘。弾薬補給や撤退のルートは完全に断たれたと強調していた」
(CNN10月2日)
ロシア軍、ウクライナ東部の要衝から撤退 「併合」宣言の翌日 - CNN.co.jp

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リマンを叩き出されたロシア軍は、逃げ道のない一本道を装備を捨てて民間車両を盗んで逃げまどったようです。
しかし気の毒にも、完全にウクライナ砲兵の射程の範囲内ですから、ウクライナのドローンにたちまち発見され、容赦ないピンポイント砲撃を食っているようですから、どれだけの数が逃げきることができたのか。
仮に逃げられても、このような敗北を喫した兵は二度と使い物になりません。

ウクライナはこう発表しています。

「ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は、リマンに残るロシア軍は撤収のためウクライナ側の承認を求めなければならないとの優位な情勢にあることも明かした。「ロシア指導者たちがこれら兵士の安否を気づかうのであればだが」ともつけ加えた」
(CNN10月1日)
ウクライナ軍、東部要衝でロシア軍の包囲進める 補給路断ち - CNN.co.jp

ロシア国防省も、「包囲をのがれるための配置転換」という言い方でこれを追認しました。
両軍の公表が一致したので、これで自称「住民投票」で併合したはずのドネツク州の要衝は完全に陥落したことになります。

まずは、戦争研究所の10月1日のレポートから。

「ウクライナ軍はロシアに再び重大な作戦上の敗北を負わせ、10月1日にドネツク州リマンを解放した。 ロシア国防省(MoD)は、占領地における「包囲の脅威」を避けるために、リマンからロシア軍を「より有利な立場」に撤退させると発表した。
ソーシャルメディアの映像とウクライナ軍当局者は、ウクライナ軍がリマンに侵攻し、10月1日の時点で占領地を奪還している可能性が高いことを確認した」
(IWS10月1日)
ロシアの攻撃キャンペーン評価、|10月1日戦争研究所 (understandingwar.org)

地図で照らし合わせてみましょう。

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ウクライナ軍がドロビュッシェブを奪還、ロシア軍はリマンから撤退中 (grandfleet.info)

上の地図で白丸で囲んであるのが、リマン周辺です。
青い矢印がウクライナ軍ですが、リマンを東北南からガッチリと包囲し、西側だけを開けているのがわかります。
ロシア軍は比較的精鋭といわれる部隊をリマンに置いていたはずですが、3方向からの攻撃に合い相当数を失い、一部がかろうじて白い×印のクレミンナ方面に脱出したようです。
ただし、ロシア軍の撤退ルートは見通しのよい一本道であり、ウクライナ軍の絶好の標的となったことは想像に難くありません。

「ウクライナ軍によるドロビュッシェブ奪還が視覚的に確認され、ロシア軍はシャンドリホラブやスタヴキーを放棄してリマンに後退、ザリチネ経由でクレミンナ方面に撤退しているのが確認されているが、このルートの大部分はウクライナ軍砲兵戦力の射程圏で撤退は困難を極めているらしい」
(航空万能論10月1日)

さて、政治的にはまさにこの時をおいてはない、というほど絶好のタイミングでした。
プーチンは、モスクワで動員バスに乗せられてきた「支持者」を前に、併合勝利宣言をしたばかりだったのです。

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BBC

「ウクライナ4州の併合を宣言した式典の後、モスクワ中心部の赤の広場では、併合を祝うテレビ中継のコンサートが行われた。
集まった群衆を前にプーチン氏は4州併合を祝い、「我々は勝利する」と述べた。
コンサート会場には数千人が集まり、多くの人がロシア国旗を手にしていた。ただし、モスクワで取材するBBCのウィル・ヴァーノン記者によると、参加者の多くは団体としてバスで送り込まれてきたと話したという」
(BBC9月30日)
ロシア、ウクライナ4州の「編入」を一方的に宣言 ウクライナはNATO加盟申請を発表 - BBCニュース

併合したぞ、クリミアに並ぶ大戦果だ、とプーチンが呼号したそばから、前述のようにロシア軍はリマンで包囲されて全滅し、わずかの兵だけがほうほうの態で逃散したようです。
純粋に軍事的な視点からみれば、リマンで包囲されて投降するより、勢力温存するために放棄するのはそれ自体は間違った判断ではありませんが、時が時ですから政治的には大敗北です。
ロシアからすれば、国民がわらわらと国外逃亡している時期に新しい領土だと宣言したばかりの土地を守れずに逃げたのですからプーチンにとって政治的な大打撃を与える「最高のタイミング」でした。

ちなみに国外逃亡者は20万人の出国先は以下です。

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火災報知機鳴らし、出てきた男性に「招集令状」も…ロシアの強制動員巡り混乱拡大 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

下の車列はフィンランドに殺到した逃亡者のものです。

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招集するとした30万人に近づきつつある若者が逃げ出したのですから、さぞかしプーチン大帝は、火事場の金時と化して怒り狂ったことでしょう。

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ロシア軍は、実は東部2州ドネツク・ルハンスクなどいまやどうでもよいのです。
プーチンの栄光のシンボルであるクリミアとその前衛の土地であるヘルソンを守りきれればよい、と考えているのかもしれません。
だから、反撃が予想された東部からかなりの数のロシア軍を引っこ抜いてしまいました。
戦争研究所はこれについてこのように書いています。

「リマン周辺の敗北は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(地上でロシア軍司令官を細かく管理していると伝えられている)が、ウクライナ南部に占領地を保持することに賛成して、ルハンスク州防衛の優先順位を下げていることを示している。
 ウクライナとロシアの情報源は一貫して、ロシア軍がヘルソン州とザポリージャ州でのロシアの陣地を強化し続けたことを示しているが、ハリコフ・イズユム戦線の最近の崩壊にもかかわらず、そしてリマン周辺のロシア陣地が崩壊したにもかかわらず。 脆弱なクピャンスクやリマンの最前線を強化しないという決定は、ほぼ確実にプーチンのものであり、軍司令部のそれではなく、プーチンがルハンスク州よりもヘルソン州とザポリージャ州の戦略的地形を保持することにはるかに関心があることを示唆している」
(戦争研究所前掲)

しかしその見通しは見事に空振りに終わり、ウクライナ軍はイジューム解放後、直ちに矛を納めることなくリマン解放へ突き進みました。
東部戦線のロシア軍兵士は、ウクライナ軍の進撃を予想していたにもかかわらず、プーチンの直接の指示で南部に軍を集中させ、しかもリマンが包囲されかかっているにもかかわらず、5000人の精鋭だけにリマンの守備を任せてしまい、補充はなし。
ロシア軍司令官は撤退を要請し、プーチンに拒否されたという情報もあるほどです。

リマンから北部のズヴァトに拠点を移動していますが、ウクライナ側はそれを寸断するために東進をつづけています。
このドミノ倒し的な進撃は行くところまで行き着きます。
ウクライナ軍は降雪が始まる10月半ばまでに、リシチャンスク、セベロドネツクを奪還することでしょう。

これによって、東部の自称「ハンスク人民共和国」と「ドンバス人民共和国」は分断されつつあります。
もはや、このふたつの自称 「人民共和国」の命運は尽きたと言うべきでしょう。
この傀儡国家はいまや風前の灯火となった運命を前に、責任のなすり合いを演じているようです。

「(CNN) ウクライナ東部ドネツク州の一部を実効支配する自称「ドネツク人民共和国(DPR)」の親ロ派、イゴール・ガーキン氏はSNSのテレグラムで、ロシア軍司令部の「プロ意識の低さ」を痛烈に批判した。
ガーキン氏はウクライナ軍が同州東部リマンのロシア軍を実質的に包囲したことに触れ、「我が軍の士気に大きな打撃となる一方、ウクライナ軍にとっては大きな士気向上につながる」可能性があると指摘した。ガーキン氏は2014年の紛争時にDPRの「国防相」だった人物で、現在は親ロ派の宣伝要員や軍事アナリストを務める。(略)
さらに「なぜ『回廊』の維持や撤退支援に必要な部隊を投入して、前もってリマンからの撤退を確保しなかったのか、私には答えが見当たらない」と指摘。もしロシア軍がリマンから撤退できなければ、「比較的小さな戦術的敗北」にとどまらず、ウクライナ軍の「大きな士気向上」につながりかねないと述べた」
(CNN10月1日) 
ウクライナ軍、東部リマンを包囲 親ロ派がロシア軍司令部を批判 - CNN.co.jp

傀儡国家側はロシア軍の「プロ意識のなさ」を罵倒し、ロシア軍は撤退をプーチンに拒否されて大量に捕虜になるという具合です。
いずれにせよ、滅ぶときは両者一緒なのですから、もう少し仲良くしなさい。

 

 

 

 

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ウクライナに平和と独立を

2022年10月 2日 (日)

日曜写真館 この頃の空コスモスの色似合ふ

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コスモスに風ある日かな咲き殖ゆる 杉田久女

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コスモスに日の匂ひして人近づく 細見綾子

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コスモスのみだるるひかり空よりす 大野林火

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一面のコスモス密にして疎なり 稲畑汀子

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コスモスや倒れぬはなき花盛り 松本たかし

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コスモスの繚乱たるは景をなし 清崎敏郎

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コスモスの遠い記憶に停留所 岡本眸

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風去れば色とり戻す秋桜 稲畑汀子

 

2022年10月 1日 (土)

揺らぐロシアの悪友イラン

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ロシア大敗は国内に激震を及ぼし、さらに国外の彼らの言葉を使えば「責任圏」にも波及しました。
たとえば東コーカサスのアルメニアは西側に接近し、中央アジアのカザフスタンは中国すり寄りが始まりました。
そしてロシアが、世界でもっとも親密な軍事同盟を結んでいる中東イランにおいても、動揺は確実に波及しています。

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死亡したマフサ・アミニさんの肖像を掲げるデモ参加者/Kenzo Tribouillard/AFP/Getty Images CNN

22歳のイラン女性マーサー・アミニさんが、テヘランでイスラム教の服装規則を遵守せずヘジャーブ(ヘッドスカーフ)を正しく着用していなかったというささいな理由で宗教警察に逮捕され、警察署内で尋問中、死去した事件はイラン全土で激しい抗議デモを呼び起こしました。

「一方、クルド系のRudawメディア・ネットワークは、「彼女はヘッドスカーフが原因で警察官に殴打された。彼女の父親は娘の体に拷問の痕跡があったと主張している。彼女が以前に病気を患っていたという情報についても、父親は『娘は完全に健康だった』と述べた」と報じた。また、彼女の治療にあたったクリニック関係者は、「彼女は13日に入院した時に既に脳死状態だった」と証言したという」
(ウィーン発 『コンフィデンシャル9月24日)
10年遅れで「イランの春」到来するか : ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.blog)

この虐殺に対して、イラン全土で激しい抗議行動が勃発しました。

「(CNN) イランで道徳警察に拘束された若い女性の死に対する抗議デモが続くなか、当局は24日までに、街路に平穏が戻るまでインターネット接続を制限すると明らかにした。
イランではマフサ・アミニさん(享年22)の先週の死をきっかけに、数千人が街頭に繰り出して抗議を行っている。
アミニさんは首都テヘランで逮捕され、「再教育センター」に連行された。逮捕理由は頭部を覆うヒジャーブを適切に着用していなかったことだとみられる。
16日以降、テヘランを含む少なくとも40都市でデモが行われた。デモ隊は女性に対する暴力や差別、ヒジャーブ着用義務の撤廃を求めている。
デモは治安部隊との衝突に発展し、数十人が死亡したとの情報もある」
(CNN9月24日)
イラン、ネット接続を制限 女性死亡へのデモで死者増加 - CNN.co.jp

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イランでスカーフ巡り女性死亡 警察暴行疑惑、抗議拡大: 日本経済新聞 (nikkei.com)

「SNS(交流サイト)ではアミニさんとされる女性が病院に横たわる写真が拡散している。血痕なども見えることから「警察が暴行した」と疑う声が広がる。遺族も「頭蓋骨が折れていた」などとし、死亡の責任が警察にあると主張した。
17日に開かれたアミニさんの葬儀では、女性がスカーフを脱いで抗議する様子などが見られた。テヘランなどでもデモが行われ、市民らが「女性、命、自由」などと声をあげながら行進する様子がSNSなどに投稿されている。イランの報道メディアはデモの参加者が拘束されたと伝えた。
一方、警察はアミニさんが「心臓発作を起こした」と説明。警察署でアミニさんが突然倒れたとする動画を公開した。遺族はアミニさんに健康上の問題はなかったとしている。デモをしていた市民に警察が発砲し、けが人が出たとの情報もある」
(日経9月20日)

日本の「イスラム専門家」たちには、ヒジャーブについてイスラム風ファッションだとか、着用の義務はなく自由だという言い方をするものがいるのですが、飯山陽氏によれば、まったくの間違いです。

「女性のヒジャーブ着用はイスラム教という宗教上の義務であり、そこには基本的に「選択の自由」などというものは存在しないこと、特にイランのように国家が着用義務を定めている国では、ヒジャーブの未着用、あるいは不適切着用が懲役刑や、あるいはより厳しい刑罰に処されることを、彼らは隠したり、あるいは軽視してきたりしてきました」
(飯山陽note) 

つまりイランでは、ヒジャブは宗教支配の象徴なのです。

ところで、イランは国内に対してはヘジャブから髪一筋はみ出すことすら許さない専制的宗教国家であり、国外に対しては世界最大のテロ輸出国家でした。
イランの準軍事組織であるイラン革命防衛隊(IRGC )は、イラクやシリアですさまじいばかりの破壊テロ活動を行っており、中東の混乱の源泉となってきました。

黒井文太郎氏によれば、彼らは海外のイラン民主派勢力に対して国外であるにも関わらず容赦ない暗殺攻撃を続けました。

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イスラム革命防衛隊

「イラン人の暗殺は、欧州亡命組を中心に、1980年代から90年代にかけてかなり頻繁に行われ、少なくとも20か国以上で、計350人以上が殺害された。ただし暗殺作戦は、2000年代以降は比較的沈静化している。亡命反体制派の活動家たちが高齢化し、武力で体制を倒せるような存在ではなくなったからである」
(黒井文太郎2019年4月17日)
中東の最重要問題に浮上したイランの国家的テロ組織 ISよりも危険な存在、イラン「革命防衛隊」とは(後編)(1/4) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

この執拗な大量暗殺のために、国外亡命グループは壊滅しました。
イランで専制政治が続くひとつの理由は、イスラム原理主義政権にとって代わる民主派勢力に指導者がいないためです。
それは全員殺害されてしまったからです。

次に標的にされたのが、イスラエルとユダヤ人です。
イランは、彼らの支配下にあるレバノンのシーア派組織「ヒズボラ」に指令してイスラエルに対してロケット弾攻撃を仕掛けました。
このヒズボラは、元来は革命防衛隊が82年に作ったレバノンのシーア派テロ組織で、83年にはレバノン駐留の米仏軍に自爆テロを行い、80年代に欧米人30人以上を誘拐したりしています。
これらの活動は、革命防衛隊の指令に従っており、革命防衛隊を通じてイラン指導部と直接につながっています。

いまやヒズボラの活動は、中南米にも及び、麻薬売買にも関わっています。
これらのダーティな資金を基にして、革命防衛隊は多くの国々の反政府テロ組織を作り、育成してきました。

「(革命防衛隊)クドス部隊は、外国のテロ組織を育成する工作も行った。スーダン、パレスチナ、レバノン、イラク、ヨルダン、トルコ、アフガニスタン、タジキスタン、エジプト、アルジェリア、リビア、チュニジアなどの反政府ゲリラを訓練し、テロリストに育て上げる工作である。クドス部隊の軍事顧問がこれらの国々に派遣されて指導することもあったが、イラン国内の訓練所で指導することもあった 」
(黒井前掲)

特にこの浸透工作が成功した地域は、イラク、シリア、イエメン、そしてパレスチナで、この地におけるテロ流血事件のほぼすべてに、イランが関わっているといっても過言ではありません。
よく日本のメディアや「イスラム専門家」たちは安易に「パレスチナの大義」と美名で呼んでいますが、内実はこのヒズボラなどのイラン傀儡集団にとって替わられています。

さてロシアとの接点が生まれたのが、シリアのアサド政権の軍事支援の場でした。
残虐で知られたアサド政権は、反政府勢力とクルド族によって窮地に陥ると、これを助けたのがヒズボラなどのイラン傀儡のテロ組織でした。
この親イラン勢力は、アサド政権陣営の残虐行為をリードして、虐殺事件を頻発させました。

イランと共にアサドを助けたのがプーチンでした。
中東に足掛かりが欲しいロシアはシリアに空軍を送り、民間地域もインフラも無差別に空爆を続けました。
世界遺産のアレッポなどは、このロシアの無差別空爆で廃墟の街と化しました。

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【AFP記者コラム】拘束され、両親を失っても、私はシリアを撮り続ける 写真22枚 国際ニュース:AFPBB News

空からはロシア軍がクラスター爆弾を無差別に投下し、地上ではイラン革命防衛隊とその眷属が虐殺しまくって、アサド政権は延命しました。
国連におけるロシアのウクライナ非難決議に対して、恩義があるアサド政権が反対票を投じたのも当然でしょう。

そしてロシアはシリアで用いた残虐な手法を、そのまま今回のウクライナ侵略でも踏襲しました。

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日経

「【クラクフ(ポーランド南部)=上地洋実】ロシアによるウクライナへの侵攻を巡り、露軍がシリア内戦などで用いた戦術との類似点が指摘されている。民間施設を攻撃し、「人道回廊」を設けて住民を退去させ制圧する手法だ。(略)
ロシアは15年9月にシリア内戦に介入し、反体制派の牙城とされた北部アレッポでアサド政権軍とともに反体制派と激しい戦闘を繰り広げた。

露軍は16年、アレッポを包囲し、水や食料などの供給路を断った後に「人道回廊」を提案した。その後、反体制派の戦闘員や住民を退避させ町を制圧した」
(読売2022年3月8日)
ウクライナ侵攻、シリア内戦でのロシア戦術と類似点…「人道回廊」提案後に町を制圧 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

このようなつながりで、イランはロシアと盟友関係にあります。

ただし、ロシアンフレンドがどこでもそうなように、宗教国家とロシア帝国の復権を掲げるプーチンが真の同盟を結べるはずもなく、例によって「敵の敵は味方」の論理で手をつないでいるにすぎません。
まだイラン情勢は不透明ですが、この中東のロシアの悪の盟友にも揺らぎが見え始めたことは確かなようです。

一方このイランを支えているのがわが国です。

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米国は「苦い経験」を繰り返さないことを保証しなければならない - Mehr通信社 (mehrnews.com)

先日、安倍氏の弔問に訪れたラィースィ・イラン大統領と岸田首相との会談は「歴史的友好関係を確認した」そうです。
テロ国家と「友好関係」ですか。恥ずかしいこと。

  1. 岸田総理大臣から、安倍元総理大臣の逝去に対するライースィ大統領からの弔電に謝意を述べるとともに、長年にわたるイランとの伝統的友好関係の一層の強化に向けて協力していきたい旨述べました。これに対して、ライースィ大統領から、改めて弔意の表明があるとともに、日・イラン関係を様々な分野で拡大していきたい旨述べました」
    (外務省9月21日)
    日・イラン首脳会談|外務省 (mofa.go.jp)

なんですか、この「歴史的友好関係」とは。そんなものがあったのでしょうか。
よくイランを「親日国家」という者がいますが、とんでもない。

イランが日本のタンカーだけ攻撃しなかったとでも。
真逆です。イランはこともあろうに安倍氏が20年ぶりに訪れたその時を狙って日本タンカーを攻撃し、船員2名を殺害したのです。

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産経

「イラン沖のホルムズ海峡近くで13日朝(日本時間同日昼)、東京都内の海運会社「国華産業」が運航するタンカーと台湾の石油大手、台湾中油のタンカーが攻撃を受けた。両社が発表した。国華産業のタンカーは砲弾を受け、2隻とも火災が発生した。日本人は乗船していなかった。安倍晋三首相のイラン訪問中に起き、日本政府などは確認作業を急いでいる。何者が攻撃したのか不明。イラン政府は関与を否定した」(産経2019年6月13日)
日本のタンカーに砲撃 イラン沖ホルムズ海峡付近 - サッと見ニュース - 産経フォト (sankei.com)

そして核合意に反してウラン濃縮を続けました。
すでに核合意は空文化していたのです。
だからトランプは核合意から脱退して、真剣にイランを核放棄させる道を選択したのです。
もっともバイデン政権になってから、米はイラン核合意への復帰のために交渉を続けてきており、8月15日になってイランから「近い将来に調印する下地が整った」との前向きな発言があった。いよいよ本当に復帰が実現するのかもしれない」としています。
いよいよ米がイラン核合意へ復帰か (iforex.jpn.com)

こういうやりとりと無縁に、日本は呑気に核合意ができるといいねぇ、という態度のようです。

「2 両首脳は、イラン核合意をめぐる最新の情勢を踏まえ、率直な意見交換を行いました。岸田総理大臣から、日本として核合意を一貫して支持してきており、関係国による核合意への早期復帰を期待する旨述べました。両首脳は、引き続き緊密な意思疎通を継続していくことで一致しました」
(外務省前掲)。

この会談でイランはこう述べたと、イランメディアは報じています。

「さらに、全世界の非難の矛先となっているアメリカの一方的かつ違法な核合意離脱にも触れ、「核問題に関するわが国の表明は、完全に論理的で擁護できるものだ」と語っています。
そして、「わが国として、1つの公正な合意を成立させる用意がある」とし、「これまでのアメリカの悪い経歴からして、過去の苦い経験が繰り返されないことの保証を獲得する必要がある」と述べました。
加えて、イランの地域内における対話ややり取りが拡大発展しつつあるとし、「地域外の国が地域の問題に口出しせず、地域の課題を地域外の勢力に任せないことが、このような対話が成功する条件だ」としています」
(pars  Today9 月22日)  
イラン大統領が岸田首相と会談、「日・イ関係への米の制裁の影響阻止を」 - Pars Today

岸田氏がなんと答えたのか外務省は公表していませんが、イランは米国に核合意に介入するなと言っているのです。
それどころか「地域外の国がこの地域に口出しするな」とも言っています。

要するに、中東地域においてイランの革命防衛隊の好きにやらせろと、核を作るのを邪魔するな、西側各国は指をくわえて見ていろということです。

こんなことを平然と言わせるとは、日本の立ち位置はどこにあるのでしょう。
核合意を空文化して核武装に邁進するイランか、それを阻止しようとしている米国なのか。
案の定、イランメディアはこのようにこの日イ首脳会談を伝えています。

「ライースィー・イラン大統領が、米ニューヨークにて日本の岸田文雄首相と会談し、イランと日本が旧来から友好関係にあるとした上で、「率先的な方策の模索により、日・イ関係に対する米の一方的・圧政的な制裁の影響を防ぐ必要がある」と語りました」
(pars  Today9 月22日)  
イラン大統領が岸田首相と会談、「日・イ関係への米の制裁の影響阻止を」 - Pars Today

岸田氏とイランはこの首脳会談で、米国の「一方的・圧政的制裁」の影響をはねのけることで「両国関係の強化が確認された」ようです。
こんな首脳外交なら、しないほうがましというものです。

 

 

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陸上のウクライナ女子選手が兵士に感謝し世界室内選手権金メダル「彼らのおかげでここにいる」 | 東スポWEB (tokyo-sports.co.jp)

ウクライナに平和と独立を

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