海自トマホーク導入へ
どうやら海自が、トマホーク巡航ミサイルの導入を決めたようです。
「政府が進める防衛力強化の一環として、米国の長距離巡航ミサイル「トマホーク」の購入を検討していることが27日、分かった。複数の政府関係者が明らかにした。敵ミサイル拠点などへの打撃力を持つことで日本への攻撃を躊躇させる「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有を念頭に、政府は複数の長射程ミサイルの取得を計画。トマホークの性能は実戦で証明されており、国産より早期配備の可能性がある利点がある。
政府は、年末に向けて進める国家安全保障戦略など「安保3文書」の改定で反撃能力の保有を検討している。その際、島嶼部へ侵攻してくる敵の艦艇や上陸部隊を遠方から狙える長射程の「スタンド・オフ・ミサイル」の活用を念頭に置いている」
山系2022年10月27日)
<独自>政府、米「トマホーク」購入検討 反撃能力の保有念頭 - 産経ニュース (sankei.com)
英国海軍の潜水艦から発射された巡航ミサイ…:世界のミサイル・無人機 写真特集:時事ドットコム (jiji.com)
まず、トマホークのデーターを押さえておきます。
●トマホーク巡航ミサイル(BGM-109 Tomahawk)
全長5.56m
直径 0.52m
・重量約1,300kg
・速度時速880km
・射程最大3,000km
・弾頭454kg (通常弾頭)
・価格1発あたり約1.5億円
自衛隊が導入するとしたら、トマホークの最新モデルで艦載型ブロック5aとなるでしょう。
「トマホーク巡航ミサイル最新型「トマホーク block Ⅴa (ブロック5a)」は別名MST(Maritime Strike Tomahawk)、マリタイム・ストライク・トマホークとも呼ばれています。海洋打撃トマホーク、対地/対艦兼用となりました。これからもう直ぐ量産が開始される予定の文字通りの最新型です」
(JSF10月29日)
トマホーク巡航ミサイルについて・核攻撃型はもう存在しない・対地/対艦兼用の新型が登場(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース
ところで、 「敵基地攻撃能力」という表現はいいかげん止めませんか。対抗抑止と呼んでください。
「敵基地攻撃」では、まるで先に戦争を仕掛けるような誤解を呼ぶ表現ですから。
「反撃」ともちょっと違います。「反撃」は敵の先制攻撃を許した状況ですが、こちらが状況次第で先に叩く場合もありえますから。
実際、そういう批判を野党やメディアはしていましたしね。
こんな表現を使うから混乱が起きる。
日本の「殴り返す力」(対抗抑止)について: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
それはさておき、対抗抑止能力の保有としてトマホークを導入することはほぼ固まっているようで、米国側にも輸出承認の打診して、どうやら了解も得たようです。
米国はトマホークを英国にしか輸出承認を与えていませんから、日本に与えられれば世界でも2番目の輸出許可となるようです。
このこと自体はめでたい。
急遽、トマホーク導入の話が持ち上がったのは、2013年度末に改定された防衛計画の大綱で、「いわゆる「敵基地攻撃能力を含む弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力」の検討が盛り込まれたことを受けたものです。
この時点で防衛省は米国側にトマホーク輸出について打診したようですが、産経によれば当時は米側から「売却しない」との方針が伝えられた、そうです。
そこで、防衛省は国産の陸自の12式地対艦誘導弾を艦載型にし、射程を延長した改良型を検討していましたが、これが実戦配備されるにはあと数年は待たねばならないということで苦慮していたようです。
12式地対艦誘導弾(改)の後継、長射程の「12式地対艦誘導弾能力向上型」の開発が決定 | TOKYO EXPRESS
「 昨年末の閣議で開発が決まった、射程1,000 kmの「12式地対艦誘導弾能力向上型」のイメージ。「12式(改)」までに蓄積した技術を活用する。エンジンは新型のターボファンを搭載、長距離飛行に備え大型主翼を装備、全体をステルス形状にして「RCS/レーダー反射面積」を小さくし、1時間以上に及ぶ飛行中に絶えず友軍からの新情報で航路を更新できる「戦術データリンク・システム」を開発、装備する」
(陸自調査団 「12式地対艦誘導弾」)
この12式地対艦誘導弾(改)の射程は1000㎞。これで日本は始めて中国大陸に到達可能な対抗抑止の手段を得たことになります。
ただし、開発が完了するのは2025年度のことです。
下図一番右端をご覧ください。
ところで今回のトマホーク導入にあたって、防衛省は「実験艦」まで作るそうです。
「発射機材は、車両や水上艦、航空機を念頭に置いてきたが、配備地などを探知されかねない。相手に反撃を警戒させ、抑止力を高めるには、より秘匿性の高い潜水艦を選択肢に加える必要があると判断した。
実験艦は2024年度にも設計に着手し、数年かけて建造する計画だ。ミサイル発射方式は、胴体からの垂直発射と、魚雷と同様の水平方向への発射の両案を検討する。実験艦の試験を踏まえ、10年以内に実用艦の導入を最終判断する」
トマホーク搭載の潜水艦を視野、「実験艦」新造を検討…防衛大綱に開発方針記載へ : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)
「イージスアショア代替案は「発射機の分離設置」「イージス艦の増勢」「メガフロート」の3種類の方法が提示されていましたが、新たにイージス艦の増勢に近い案として「迎撃専用艦」の建造案が浮上しました。
この迎撃専用艦はイージス・システムを搭載するのでイージス艦の一種とも言えますが、設計を弾道ミサイル防衛(BMD)に絞って能力を特化させようという提案です」
甲板にズラリと垂直発射装置(VLS)を並べる、移動式発射基地なのかもしれません。
「日本政府は昨年の閣議で開発が決定した12式地対艦誘導弾ベースの新型巡航ミサイル「12式地対艦誘導弾能力向上型(射程900km/最終的には1,500kmまで拡張)」を海上自衛隊の潜水艦に搭載する方向で検討に入ったと読売新聞が報じており、潜水艦の魚雷発射管を使用する方式に加え垂直発射装置(VLS)の採用も視野に入っているらしい。
海上、ないしは水中を自由に移動できますから、相手方には探知しにくく、島しょ防衛にも中国や北朝鮮への対抗抑止にも使えます」
(航空万能論2021年12月10日)
もちろんいまや桎梏と化している「専守防衛」思想から一歩自由になるためには、有意義なことにはちがいないのですが、遅い。
これから正式に米政府の輸出承認をもらい、製造元のレイセオンに発注し、その間こちはは「実験艦」の予算承認をもらい、設計承認を経て入札をして契約を交わし、建造から進水まで大型艦艇で4年半から5年かかるのが相場です。
そして進水して海自に引き渡してからも、各種の検査を重ねて収益するのはそれから1年半から2年後のことです。
現実に海自の潜水艦やイージス艦に搭載できるのは、いったいいつになるのやら。
これで東シナ海はおろか、九州近海からも大陸を標的にすることが可能になります。
これでは、もっとも中国が台湾・尖閣に侵攻する危険性が高い習近平3期目のこの5年間は、とっくに終わってしまうではありませんか。
習はこう言い放っているのですよ。
「中国の習近平国家主席が2016年に開かれた軍幹部の非公開会議で、沖縄県・尖閣諸島や南シナ海の権益確保は「われわれの世代の歴史的重責」だと述べ、自身の最重要任務と位置付けていたことが29日、内部文献で分かった。南シナ海の軍事拠点化を指示するかのような発言もあった。
発言の約3カ月半後に中国の軍艦が初めて尖閣周辺の接続水域に進入。以降、軍事的圧力を含めて強硬姿勢を鮮明にしており、習氏の発言が背景にあったのは確実だ。習指導部は異例の長期政権に突入したことで、悲願の台湾統一と合わせ、尖閣実効支配への動きを加速させる構えとみられる」
(共同
尖閣諸島確保は「歴史的責務」 習近平氏、軍内部会議で発言 (msn.com)
もちろん、こんな「実験艦」を作らなくとも、今の海自イージス艦の迎撃ミサイルSM3を発射する垂直発射装置(VLS)を改修すれば、トマホークも運用が可能です。
どうせトマホークは、こう言っちゃナンですが「つなぎ」なのですから、直ちに既存の艦艇のセルを改修して少しでもいいから対抗抑止力を持つべきではありませんか。
ただし、その場合、本来艦隊防空とMD(ミサイルディフェンス)のために作られたイージス艦は、それらの一部を降ろしてトマホークに積み替えねばなりませんから、本末転倒です。
「米海軍の艦でも、VLSのうちトマホークが占める割合は3割程度です。
海自の艦は、VLSに余裕があるなら迎撃ミサイルを増やすべきでしょう。その上で、予算がなくて迎撃ミサイルが十分な数買えないといかいうことなら、余ったセルに巡航ミサイルを積んでもいいでしょうが、その程度では抑止力にならない。
米国の攻撃型原潜はトマホークのVLSを20積んでいます。日本も通常動力潜水艦にそうすれば信頼できる打撃力を得ることができるのではないでしょうか。
それまでのつなぎとしてトマホークをVLS装備するのもありということ」
Masashi MURANO🚀(@show_murano)さん / Twitter
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村野氏の指摘どおりで、今の海自の潜水艦を早急に改造して、1艦につき20発積めば5艦で100発ですから、それなりにまとまった対抗抑止となりえます。(それでも少なすぎますが)
ひとことでいえばこの防衛省のトマホーク構想は、中途半端感が否めないのです。
そもそもトマホークは、そんなに強力な対抗抑止のための兵器ではありません。
まずはのろい。最高時速が亜音速の880キロです。
すでに極超音速ミサイルの開発が進んでいる中国相手に使うには遅すぎる兵器です。
いままでトマホークが威力を示してきたのは、相手がまともな防空能力を持たない過激テロ団体相手だったからです。
強力な防空網を持つ中国軍にとっては、トマホークは簡単に落とせる存在と言えます。
また、トマホークは3種類の精密誘導システムを搭載しています。
TERCOM(地形等高線照合装置)、DSMAC(デジタル式情景照合装置)、INS(慣性航法システム)、GPS(全地球測位システム)ですが、中国軍が得意とするサイバー・電磁波・電子戦攻撃の前に無効化される恐れがあります。
三つ目に、トマホークの威力が弱すぎます。
弾頭重量はわずか454㎏にすぎず、米軍のもっとも使っているF-16A/Cで最大兵装搭載量 5443㎏ですから、10分の1以下です。
ひらたくいえば、トマホークは一見ハデですが巡航ミサイル10発で、F-16の1機分の能力しか持たないのです。
もし本気で対抗抑止能力を持って、中国や北朝鮮のミサイル発射基地を攻撃することを想定しているなら、トマホークは大部分目標に到達する前におとされるでしょうし、仮に何発かうまく当たっても、454㎏の弾頭の破壊力では、たちどころ修復されてしまいます。
「巡航ミサイルによる対地攻撃事例
2017年4月7日、米国はシリアが化学兵器を用いた攻撃を行った報復として、攻撃の拠点となったとみられるシャイラート空軍基地に対し、アーレイバーク級駆逐艦2隻を用いてトマホーク59発による攻撃を行いました。その後、この基地はどうなったでしょうか。
正解は「攻撃は成功したが、同基地は2日後に運用を再開した」です。巡航ミサイルでは、滑走路や掩体を長期間無力化することは難しく、やるなら数百という数を同時かつ繰り返し撃ち込める態勢が必要です。しかし、弾薬庫一つ作るのに苦労している中で、それだけの発射基や弾をどこに置くのでしょうか」
(村野ツイート前掲)
村野氏が言うように、トマホークを使うなら、飽和攻撃を戦術するしかありません。
飽和攻撃とは、相手がいくら強力な防空網を持っていようと、それを上回る数のミサイルを撃ち込んでマヒさせてしまうことです。
防衛省は何発買うのかわかりませんが、100発程度なら気休めの事故満足にすぎません。
せめて1000発くらいで構えねば対抗抑止たりえないのです。
財務省の言うがままに、チビチビ買い足していったら充分な数になるまで百年先になりますよ。
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