プーチンは核攻撃をするか?
核攻撃についてプーチンが併合集会でまた核攻撃を口にしたので、取り沙汰されています。
ま、何度も言ったうえに、その都度「これはオドシじゃねぇぞ」なんて言われてもねぇ。
核の脅しは一回こっきり。だから効くんですがね。
「あらゆる手段をとる」プーチン大統領が核兵器使用を“排除しない”考え示す 部分的動員は「30万人規模」 | TBS NEWS DIG
「プーチン氏は21日の演説で、ロシアは領土を守るために「利用可能なあらゆる武器」を使うと表明。「これは決して口だけの脅しではない。そして、われわれを核兵器で脅迫しようとする人々は風向きが変わって、自分たちが同じ目に遭う可能性があると知るべきだ」と言い切った」
(ロイター9月30日)
焦点:プーチン氏の核使用巡る発言、「本気」か警戒感強める西側 | Reuters
同時期に、プーチンの「盟友」のチェチェンのカディロフも、核攻撃を進言しています。
この男には核の権限などありませんが、いわば雰囲気を作るには持ってこいのロシアの野蛮な本音を言う男です。
「ロシア連邦内にあるチェチェン共和国のカディロフ首長は、同国で一般的なSNS「テレグラム」で10月1日、リマンを防衛していた指揮官を無能だとして、「前線で機関銃を持って戦うべきだ」と痛烈に批判。「個人的な意見」と前置きした上で、「国境地帯での戒厳令の発令や低出力の核兵器の使用まで、より抜本的な対策を講じるべきだ」と主張した」
(ハフィントンプレス10月1日)
【リマン撤退】チェチェン首長が核攻撃を提言 ⇒ 米シンクタンク「注目に値しない」と冷静な理由は?(ハフポスト日本版) - Yahoo!ニュース
ウクライナ側の軍事目標を狙って、比較的射程距離が短く出力が小さい核兵器を陸海空のいずれかから発射することは理論的には可能です。
いわゆる戦術核とか小型核と呼ばれるもので、ロシアはこれを西側の10倍保有しています。
冷戦期には、ワルシャワ条約機構軍がドドっと大戦車軍団で西ドイツ国境を超えて侵攻した場合、NATO軍もまた大戦車軍団で立ち向かってきて、そこでドンドンパチパチと大会戦が起きると想定されていました。
その時に戦術核を撃って黙らせる、と東西両陣営は考えていたわけです。
つまり戦術核とは冷戦期の名残で、いま、これを使えるかとなると、話は別でした。
使う使うと言っていますが、プーチンは今のウクライナ戦線のどこに使うというのでしょうか。
ロシア軍は、いまや契約兵と呼ばれる正規兵と、戦意が低く装備もない緊急徴兵されたアマチュア兵の混成軍になっています。
徴兵された者はろくな訓練も受けないままウクライナ戦線に投入されており、ロシア軍の混乱に輪をかけていることでしょう。
ロシア政府が動員兵に包帯と防寒具を持参するよう要請しているのですから、話になりません。
契約兵のほうは、とりあえず核戦争の初歩的訓練ていどはしているかもしれませんが、これだけ混沌としてしまうと、核一発食らわばみんなアウトです。
また戦線も複雑に入り組んでしまっていて、かつて冷戦期に想定された白黒ハッキリと敵味方に分かれてドンパチといった状況など期待できません。
つまり、核を使えば、核戦争の準備がないロシア軍もまた多大な被害を被り、自らも壊滅するリスクが高いのです。
とうぜんのこととして、核攻撃した報復は即座に自らの頭上に殺到します。
「サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は25日、バイデン政権はプーチン氏の発言を「極めて重大」に受け取り、ロシアが核兵器を使えば「破滅的な結果」を招くと、くぎを刺した。
米政府は今のところ、万が一の場合の具体的な対応策を示していない。ただ、米国も核兵器を行使すれば「核エスカレーション」につながりかねない以上、ロシアの軍事施設に対する通常兵器での大規模攻撃が行われる確率がより大きい、というのが大半の専門家の見立てだ」
(ロイター前掲)
このように米国は軍事目標に対して最大限で核報復、最小限でも通常兵器による報復をためらわないでしょう。
またNATOはヨーロッパ全体への攻撃があったとして、ウクライナ戦争への関わりを「支援」から通常戦力での直接介入へと踏み切る可能性が高いはずです。
いまですらてこずっているのに、直接介入されたら、これでロシアの完全敗北は決定的になります。どう見ても、間尺に合いません。
「キングス・カレッジ・ロンドン戦争学部のローレンス・フリードマン名誉教授は、現時点でロシアが核攻撃の準備を加速させている証拠はなく、そうなっても米政府は「かなり素早く」察知するだろうと予想する。
フリードマン氏は、プーチン氏の核兵器に関する警告を軽視するのは間違いだが、プーチン氏にとって新たに編入した地域を守るために核を使うのが合理的とは思わないと主張。「ウクライナが戦闘をやめない姿勢を明らかにしている中で、こんな小さな獲得地のために1945年8月から続いてきた禁忌(タブー)を破ること、たとえ戦闘を止められてもこれらの地域を平和な状態に落ち着かせるのが難しいことからすれば、核戦争を始めようというのは、とても奇妙に思える」と述べた」
(ロイター前掲)
冷徹な観察者の戦争研究所も、こう突き放しています。
「カディロフ氏が戦術核(編註:射程距離が短い核兵器)の使用を求めたのは、ウクライナ領土をさらなるロシアの支配下に置く「特別軍事作戦」の継続要求と矛盾している可能性が高い。
現状のロシア軍は、必要な装備を持ち、歴史的にそのための訓練を行ってきたとはいえ、核で汚染された戦場で活動できないことはほぼ確実だ。現在、ロシア地上軍を構成する疲弊した契約兵、急遽動員された予備役、徴兵、傭兵の混沌とした集合体は、(放射線濃度が高い)核環境では機能し得ないだろう。
したがって、ロシアの戦術核兵器の影響を受けた地域はロシア軍にとって通行不能となり、ロシアの進攻を阻む可能性が高い。この点も、ロシアの戦術核使用の可能性を低下させる要因の一つである」
(戦争研究所IWS10月1日)
ロシアの攻撃キャンペーン評価、|10月1日戦争研究所 (understandingwar.org)
おそらくこれが世界の軍事専門家共通の常識的見解です。
一方核攻撃はありえるとする説として、このようなものもあります。
「■ロシア全土に47カ所の核貯蔵庫(=12の国家レベル施設と、35の基地施設)がある。約2000発の戦術核兵器が保管されている。欧米の諜報機関が関係者をマークし、空からも軍事偵察衛星が監視している。
■クレムリン内部の協力者の情報では、プーチン氏は小型戦術核を、低高度かつ変則的軌道で飛行し、迎撃困難な短距離弾道ミサイル「イスカンデル」で使用しようとしている。ロシアが、化学防護服と内部被ばくを低減する効果がある安定ヨウ素剤を『大量確保した』という情報がある。
■攻撃目標候補は3カ所。①黒海(=ウクライナ軍に恐怖を与えて戦意喪失させる)②併合4州とウクライナの境(=放射能汚染地帯をつくってウクライナ軍の進軍を遮断する)③ザポロジエ原子力発電所(=欧州全域を放射能汚染で『死の大地』にする)」
(加賀孝英zakzak10月3日)
【スクープ最前線】〝敗北寸前の凶行〟プーチン大統領「核攻撃」の目標3カ所に ロシア、化学防護服大量確保か 動揺する習政権、自由主義諸国の弱点・日本を恫喝(1/4ページ) - zakzak
う~ん、どうかな。煽りりすぎじゃないかな。
後のありえる選択肢としては、核兵器をどこか遠くの無人地帯か、海上などで爆発させるという手もあるにはあります。
次はほんとうに狙うぞということですが、一種の北朝鮮流の瀬戸際戦略です。
確かに世界は震撼しますが、しかしこれも中途半端で、実戦使用するのと政治的影響は同等で、NATOは直接介入の決断をするはずです。
つまり、実際の戦術的利益はゼロだが、政治的には袋叩きとなってしまうのです。
このような瀬戸際戦略が有効なのは、本当にあいつならやるかもしれないクレージーな奴だというマッドマンセオリを使った場合だけです。
マッドマンセオリは正常な人間がマッドマンのふりをしていますが、では、本当にプーチンはマッドマンのふりをしているだけなのでしょうか。
私にはそう思えません。
「勝利はわれわれのものに」 プーチン氏、赤の広場で演説(AFP=時事) - Yahoo!ニュース
たとえばプーチンが例の併合集会演説でこう言っているのを、どう考えたらよいのでしょうか。
「調印に先駆けて行なった約30分におよぶ演説では、軍事侵攻および併合の正当性を主張するとともに、陰謀論めいた主張を交えつつ、西側諸国、とりわけ米国をウクライナ紛争の「真のハンドラー」だとして、批判を展開した。
プーチン氏は、西側は、ロシアを「攻撃、弱体化、分割」しようとしており、その背景にある動機は「新植民地主義システム」を維持し、そこから得られる利益を獲得し続けることと主張。このシステムについて「西側が世界に寄生し、世界から略奪し、人類から年貢を集め、繁栄の主たる源を絞り取ることを可能にするもの」と説明し、「独立国家、伝統的な価値観、オーセンティックな文化」を攻撃するのはこのためだと語った。
続けて「西側諸国が、ロシアに対して繰り広げるハイブリッドな戦争は、支配を維持するがための貪欲と決意に起因する」と言い換え、「彼らはわれわれが自由になることを望まず、植民地にしたいのだ。対等な協力を築きたいのではなく、略奪したいのだ。われわれを自由な社会ではなく、魂のない奴隷の集合体にしようと考えている」と非難した」
プーチン氏が唱えるゴールデンビリオン説とは?ウクライナ4州併合で演説 - Mashup Reporter 。
西側陣営を「悪魔主義」に例え、大悪魔の米国はロシアを壊滅させる長年の計画を遂行しているとプーチンは言うのです。
この奇怪な陰謀論について、ワシントンポストはロシアで広く支持されている「ゴールデンビリオン説」があると指摘しています。
参考プーチンの併合演説における7つの重要な瞬間 - ワシントンポスト (washingtonpost.com)
ゴールデンビリオンとは「黄金の10億人」のことで、マルサスの人口論を陰謀論的に仕立て上げたものです。
このネタ本は、ソ連崩壊間近の1990年に出版されたアナトリー・トリクノフの『世界政府の陰謀・ロシアとゴールデンビリオン』という本で、裕福な西側エリートが世界政府を操って、生態系の変化や世界規模の災害や資源をめぐる競争を引き起こしていると考えています。
そして彼ら「ゴールデンビリオン」の最終目的は、選ばれた10億人以外の人類を消滅させることです。
そして豊富な天然資源を持つロシアは、彼ら「ゴールデンビリオン」が獲得する最大目標であるが故に、あらゆる手段を講じてロシアを弱体化させ支配下に置くつもりなのだ、としています。
ウクライナは同じ民族の「兄弟」でありながら、この「ゴールデンビリオン」の手先に成り下がったネオナチだということになります。
だからロシアは彼らを浄化するために戦っているのだ、というわけです。
はっきり言って、まともではありません。ぶッ飛んでいます。
もう普通の精神状態であるにようにはみえません。
意味がつかめない、なにを自分で喚いているのか、喚く当人にも分かっているようには見えないのです。
よく言ってやって重度の陰謀論者、はっきり言えば妄想にとりつかれた狂気の男です。
こんな人物が核のボタンをにぎって いるとは。
ベテランの観察者のクリスト・クロゼフすらサジを投げて、「プーチンがこれまで行った中で、最もクレイジーな演説の一つ」とツイートしたほどです。
前述のフリードマン氏はこう言っています。
「その上で、この状況で非合理的な核兵器使用があるとすれば必然的に、脅威を感じて絶望したプーチン氏の情動的な行為ということになるだろうとの見方を示した」
(ロイター前掲)
怖いのは、この陰謀論と妄想にとりつかれた人物が「脅威を感じて絶望した情動的な行為」で、核兵器に飛びついてしまうケースです。
北朝鮮の正恩もそうですが、瀬戸際戦略をとる者は、この崖の先は滅亡だとしっかり分かっているからやっているので、この男が核のボタンに手を伸ばすとすれば「殿、ご状落城でございます」という状態しか考えられません。
プーチンの場合も同じで、自らが滅ぶくらいなら世界を道連れにすると思い定めてしまった場合です。
その場合、自分を追い詰めた張本人だと信じているNATOに「電光石火の一撃」を浴びせねば済まないと思っています。
完全に狂気に支配された状態ですから、いままで西側専門家の合理的思考の枠から大きく逸れるでしょう。
本当にプーチンは狂ってしまったのでしょうか。
次回もう少しそのあたりを考えてみたいと思います。
ウクライナに平和と独立を
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なんかもう完全に「デカいだけの北朝鮮」になってしまってますね。
それにしてもなんというロシア軍の弱さ!
かつては陸戦なら最強だと思われていたのが、ここまでボロだすか。やはり戦力は集中運用して補給線の確保は絶対です。
総数で圧倒していても情報戦で負けているのにも関わらず戦線下げずに見事に包囲殲滅!
核使用は「できる」と「実行する」とでは大きな違いがあります。本当に陰謀論者ならやるかも?あと、側近の中でもメドヴェージェフ達のような強硬派が一定数いるようなので···そいつらを抑え込んでおけるかというプーチンの状態も気掛かりですね。
まあ、なんというかトンデモなアレクサンダー大王様です(笑)
投稿: 山形 | 2022年10月 4日 (火) 06時18分
最近、何で読んだか忘れましたが「ソルジェニーツィンは共産主義を嫌っていただけで、大ロシア主義者だった」と言う記事を読みました。かつてあった「帝国主義的幻想」に沈溺するソルジェニーツィンの私邸をプーチンは大統領になってからも、自ら訪れていたようです。
一般市民は別にして、問題はロシアの国会議員ら政治エリートは、すべからくソルジェニーツィンなどと同じ考えをしていて、プーチンもその例外ではないと言う事です。
という事からして、上のMashup Reporterの記事にある馬鹿々々しい陰謀論も、件の大ロシア主義論を支える理論的支柱になっている事実は見逃せません。
ならば、「プーチンがマッドマンセオリーを用いている」という事ではなく、はるかに最も厄介な思い込みに支配されていると考えた方がいいのじゃないでしょうか。
それはつまり、プーチン後にもっとひどいプーチンが現れる可能性もあるという事だし、核使用の可能性についても十分考えておかなくてはならないレベルだとも思えます。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年10月 4日 (火) 09時03分
在英国ロシア大使館の10月2日付ツイートによれば、プーチン大統領は「ルールに基づく秩序を西側は押しつけてくるが、誰かそのルールとやらを見たことがあるのか?誰がそれに合意や承認をしたというのか?超くだらない、完全な詐欺ぺてん、ダブスタ、いやトリプル・スタンダードだ!」と述べたとあります。
プーチン大統領、国連憲章を始め貴国が認め署名している憲章や宣言が幾つあると思ってますの?
俺のやりたいようにやらせないのはダブスタだ!って本気で言ってますの?
本人がパラノイアを拗らせまくっていく可能性、そこに一抹の不安はあります。
自分のお気持ちしか見えていない指導者と、それに同調するorせざるを得ない周囲。
一方現場では、ロシア軍の冬用軍服150万着が横流しされて行方不明とか、前線で見つかるのは「サバイバルゲーム用」マークのある血塗れのダミープレートとか…不憫すぎます。
投稿: 宜野湾より | 2022年10月 4日 (火) 10時18分
私は、狂信的独裁者プーチンの野郎は、核攻撃をすると思っています。思い詰めた山上が、手製銃まで作って安倍さんを射殺する心理と似てますわ。追い込まれ狂ってる奴に道理は通用しなくて、その時の感情と気分で行動する。プーチンの野郎自身にしたって、「お、俺が核を撃っちまうってか?ウヒヒ、確かにそうするかも知れねぇ」と、出たトコ勝負の賭けでしかないと思う。
西側陣営としても、まだウクライナ周辺だけで核爆発が起これば反撃も出来るけど、ロシア帝国と自身の滅亡を悟ったプーチンが複数のボタンを猿のように叩いた場合は第三次世界大戦の勃発と終了がほぼ同時に起こるんで、「ある程度の覚悟はせんならん」と恐怖を覚えてますわ。ロシアの歴史的国民性から見て、周囲から「殿、ご乱心!」となる可能性も低そう。
逆にプーチンの野郎が臆病風に吹かれて黒海の小島などだけに核を使用したら、西側の支配的人々やロシアの被支配民が「この屁タレめ、いてまえ!」と、全人類の敵ロシアを草刈り場にするつもりで、事後を虎視眈々と狙っていると思います。あのチェチェンの親分も、「戦略核早よ!」と先見の明がありそう、混乱のロシアを内側から食い破るハラですわ。
もちろん、核などハッタリで使用出来なくてウクライナ優勢が続くのがいいのですが、世の中そんな甘いワケが無いし、大多数が想像もできなかった結末になるのでは? 破滅を免れたとしてその後、ロシアと似た中国や北朝鮮などがどう行動するのか? 今にも増して狂って頑なになってヤレヤレですわ。
投稿: アホンダラ1号 | 2022年10月 5日 (水) 00時09分