ヘルソン陥落間近
双方がウクライナ戦争の天王山と考えていた南部ヘルソンで、ロシア軍が潰走を始めました。
「(CNN) ウクライナ南部のヘルソン州やザポリージャ州で、ウクライナ軍が西側諸国が供与した長距離砲を利用して補給線に対する攻撃を行っているため、ロシア軍のプレゼンスが弱まっていることがわかった。ウクライナ当局者が明らかにした。
ロシア軍の支配下にあるザポリージャ州メリトポリのフェドロフ市長は、市の南西にある鉄道橋が破壊されたことでロシア軍の補給ルートが複雑化したと述べた。
フェドロフ氏は、ロシア軍はメリトポリを弾薬や重火器の輸送の拠点としていると指摘。ロシア軍は弾薬の移送の大部分を鉄道で行っているが、13日から14日にかけて鉄道橋が破壊された。ロシア軍は鉄道橋の復旧ができておらず、がれきを除去しているところだという」
(CNN8月16日)
補給線への攻撃、ロシア軍に打撃 ウクライナ南部 - CNN.co.jp
ロシア軍はドニエプル川東岸に退却していますが、大砲や戦闘車両などの重量物は川を渡るフェリーに積めないために、大多数を放棄しているようです。どうやらウクライナに対する最大の補給国はロシアのようです。
さて、古今東西すべての戦争に共通するのは、戦闘局面でもっとも難しいのが退却戦だということです。
陣地に立て籠もっている間は「兵隊」であっても、いったん背中を見せて逃げまどうような者はただの暴徒にすぎません。
ですから、常識ある司令部は殿(しんがり)を預かる部隊に最精鋭を当て、秩序なき崩壊にならないように配慮します。
ところがこの南部戦線のロシア軍はそんなことには無頓着で、真っ先に大砲や戦車を捨て、銃を捨て、軍服すら脱ぎ捨てて避難民らの渦の中に紛れ込んで逃げているのですから投了です。
殿軍は不在なようで、これが今年2月24日まで「世界第二位の軍隊」と自称していたのですから、信じがたい光景です。
東岸で防衛戦を敷くようにプーチンは命じたようですが、どんなもんでしょうか。
こんな逃げ癖がついたような弱兵は、仮に東岸で再編成しても使い物になりません。
形だけ抵抗したフリをして、投降するでしょうね。
ISW(戦争研究所)はこう述べています。
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「ウクライナ参謀本部は、ロシア軍がドニエプロ川東岸のカホフカ病院から患者を連れ去っており、川を渡って撤退することに起因する可能性のあるロシア軍の死傷者のために病院のベッドを解放する可能性が高いと付け加えた。ウクライナ参謀本部は、一部のロシア軍分子がヘルソン市を市街地戦に備えさせているが、他の軍人はアントニフスキー橋の近くで運航するフェリーで市から逃げ続けていると指摘した」
(10月22日)
ウクライナ紛争の更新|戦争研究所 (understandingwar.org)
上の写真に見えるアントノフスキー橋は既に破壊されて通行不能で、西岸に逃げるには小さなフェリーしかありません。
たぶんウクライナ軍は西岸に戻る舟も攻撃対象とするでしょうから、数が激減するはずです。
そもそもこの市民避難はロシア軍が命じたものでした。
「ロシア占領当局は10月22日、ヘルソン市から民間人の強制退去を命じた。 ロシア・ヘルソン占領局は、「ヘルソンのすべての市民は直ちに市を去らなければならない」と発表し、すべての民間人と「すべての省庁は今や[ドニプロ川]の[東]岸に渡らなければならない」と述べた。占領軍は前線の「緊迫した」状況、「都市への大規模な砲撃の危険性の高まりとテロ攻撃の脅威」を挙げ、避難者が川を渡るためのボートをどこで見つけることができるかについての指示を与えた」
(ISW前掲)
このロシアがやる「市民避難」は一見すると人道的にみえますが、しかしロシアがやる「避難」とはロシア領に連行する強制移住のことだと、マウリポリでわかっています。
つまり民族浄化の一環です。
ウクライナ・マリウポリ 人道回廊で市民避難始まる 露「新型ICBM実験成功」欧米けん制【モ-サテ】(2022年4月21日) - YouTube
「ロシア占領当局者は、ヘルソン州の民間人をドニエプロ川東岸に「避難」させる努力は、より広範な再定住計画の一部であると示唆し続けた。 10月25日、ヘルソン占領副官キリル・ストレムソフは、占領当局者がドニプロ川西岸から東岸に22,000人以上を移動させ、政権の「再定住プログラム」(программа переселения)は60,000人を収容するように設計されていると主張した」
(ISW前掲)
今回のドニエプロ川西岸からの「市民避難」も、恒久的な再定住だと見られています。
おそらくマウリポリの例から見ると、避難民は辺境のサハリン州などに「流刑」されてしまう可能性があります。
いうまでもなく、一時的避難措置は国際法上合法であっても「ロシア当局がヘルソン州人口の大部分を恒久的に再定住させる」ことは違法です。
一応ロシア軍は東岸に守備隊を置いているとしています。
「(CNN) ウクライナ軍は25日、南部ヘルソン州のロシア支配地域に駐留するロシア軍がドニプロ川東岸沿いに「守備陣地」を準備しつつ、西岸から撤退する可能性に備えて退避経路を残していると主張した。
ウクライナ軍は最新の戦況報告の中で、「入手可能な情報によると、敵はヘルソン州のドニプロ川左岸(東岸)に守備陣地を用意している」と述べた。
東岸のホルノスタイウカ周辺ではロシア軍の工兵部隊が河岸沿いに地雷を敷設しつつ、右岸(西岸)から撤退する場合に備えて小さな退避経路を残しているという」
(CNN10月25日)
ヘルソン州のロシア軍、「撤退の可能性」に備え ウクライナ軍が主張(CNN.co.jp) - Yahoo!ニュース
ヘルソン市内で市街戦に持ち込むつもりだという噂もありますが、仮にそうしたとしても補給を断たれて孤軍となった彼らに勝機はありません。
かといって玉砕するような根性もないはずです。
「州都ヘルソン市から住民の大半が出た。残るロシア兵は私服に着替えて集合住宅の空き家に入り、市街戦の準備をしているようだ」。ウクライナ軍参謀本部は22日、苦戦するロシア軍が戦術を切り替え、奪還作戦の阻止を試みているとみて警戒を促した。
兵士が民間人を装うのは国際法違反。ロシア兵が住民の車を盗み、市外に脱出を試みているとの情報もあるという
(時事10月24日)
南部戦線、天王山に プーチン政権「核」言及 ウクライナ侵攻8カ月(時事通信) - Yahoo!ニュース
電気洗濯機を担いで逃げるクズのような兵隊たちに、一区画、一区画、ビルを一つずつを取り合うような、かつてのレニングラード攻防戦のような戦い方ができるでしょうか。
ヘルソンは時間の問題で奪還され、クリミアは裸になります。
勢いを増すウクライナ軍は、ヘルソンからさらに南下するのか、それとも西に転じてアゾフ海沿岸のマウリポリを奪還に向かうのでしょうか。
ロシア兵は砲兵の支援があるうちだけは元気です。
下図はロシアとウクライナ両軍の砲撃回数を見たグラフですが、赤線がロシア軍、青線がウクライナ軍です。
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10月19日を頂点として、以後ロシア軍砲撃回数は急降下しているのがわかります。
8月まではロシア軍が砲撃で打ち勝っていたのがわかります。
ウクライナ軍が、一発撃つと10発返ってくると言っていたように重火力で撃ち負けていたのです。
この重火力不足こそが、キーウでロシア軍を退けたのちの、ウクラナイナ軍が耐えた困難な半年の原因です。
しかしこれを一気に覆したのが、東部のハルキウ州で実施された今世紀最大、最長の規模のズブロスキ急襲作戦の成功です。
この作戦で(最上段地図の緑色部分)が奪還され、東部2州の運命が決まりました。
そしてロシア軍の東部からの鉄道による補給路は完全に切断され、南部戦線への補給が破綻しました。
そして先日、クリミア大橋が破壊され、ロシアからクリミア半島を経て補給されていた弾薬が途絶えました。
一方、ウクライナには米国などからの大砲やハイマースなどの支援が到着し、ここに完全な火力の逆転現象が生じました。
ロシア軍はソ連軍からの伝統で、大砲を戦場の神と崇める軍隊です。
ですから弾薬が続くうちは優位にたてますが、いったん補給が途切れると一気に崩壊します。
今このロシア侵攻軍の崩壊過程を私たちは見ています。
今のウクライナ兵の顔を見てください。本当に明るい。
ロイター
ウクライナに平和と独立を
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陥落ではない!奪還が正しい!
冷戦期の強大なソ連陸軍でも、実は多民族(多言語)過ぎて末端兵士には命令が正しく伝わらないという噂はありましたが。ここまで指揮系統が滅茶苦茶でよくまあ戦争というか特別軍事作戦なんて起こす気になったもんだと。陸続きの貧乏国家ウクライナ相手でこのザマは正直予想外な弱さでした。
心配なのは長期化ですね。冬を迎えるに当たってロシアは狙って電力インフラ攻撃という非道を平然とやってますから、ウクライナ人なんて虫けら程度にしか思ってないのは明らか。こんだけ破壊しまくったら、もし政治的にロシアが勝利できたとしてもどうやって復興するのやら。その辺全く考えていないのが正に恐ロシアです。
NATO諸国も疲弊してますし、アメリカはバイデンの民主党がたぶん中間選挙で惨敗するだろうし、とは言っても共和党も内部分裂が激しいが。。
もしここで台湾有事が起きたら···さすがのアメリカでも戦線維持は厳しいです。
投稿: 山形 | 2022年10月27日 (木) 06時31分
三国志では諸葛孔明の策のように偽装退却→追ってきた敵を伏兵で殲滅するという描写が多いので簡単に同じようなことができると思う人はいますけど兵の統制が取れていないと偽装退却にならずに潰走してしまいますからね。
投稿: 中華三振 | 2022年10月27日 (木) 09時10分
ウソにウソで固めた屁理屈で戦争を始め、無辜の市民への虐殺を厭わないロシアの指導者。そういう上がいてこそ、下の者は当然に盗み、凌辱し、内部で深刻な諍いも起こす事も当然でしょう。
しんがりは源平合戦の昔から指折りの猛者でなければならず、動員したばかりの新兵がこれに当たるロシア軍の「先行、逃げ得感」は、卑怯者の言い訳に過ぎません。
汚い兵器使用やダムを壊したいプーチンは矢継ぎ早に醜いウソを繰り出してきますが、こういう言葉に引っ掛かるのは国際社会の指導者では存在しません。
惜しむらくは保守派を自称する日本のロシアンフレンズたち。
「だから保守派は馬鹿なのだ」と言われるのも癪にさわるので、早く陰謀論から目覚めて欲しいものです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年10月27日 (木) 09時40分
東部戦線ではロシア軍が圧しているところも出てきています、動員兵によって勢いが戻りつつある。
ポンツーンを使って撤退する際に民間人を一緒に乗せることで民間人を盾とし、ウクライナ軍からの攻撃を回避する面もあるとか。
昨日でしたか、ウクライナ側の発表が一転し、ロシア軍はヘルソン市から撤退ではなく兵力を増やし抗戦の準備をしている。
ヘルソン市奪還にあたってはかなり激しい戦闘が予想されると。
ノバカホフカのダムの西側に構築している陣地には動員兵を殿にし、東側には砲兵部隊等を配置、既に進撃するウクライナ軍への砲撃も始めている。
写真や動画でみるウクライナ兵は笑顔ですが、奪還は容易ではないようです。
また、アメリカのCSISによるとウクライナへの大量支援でハイマース、ジャベリン、スティンガー、M777榴弾砲、155ミリ砲弾が不足している。
バイデン大統領の声掛けで、24時間体制の生産をしていると思います。
他の西側諸国を含め支援がいつまで続けられるのか、長期戦の我慢比べになりますね。
投稿: 多摩っこ | 2022年10月27日 (木) 12時13分