完成したひとり独裁、中国共産党大会
日本がトーイツキョーカイですったもんだしているうちに、中国では共産党大会が終了しつつあります。
まだ政治局常務委員体制(俗にいうチャイナセブン)の発表が残っていますが、どうせ習のヨイショ集団で占められるはずです。
さて共産党大会は猿山のようなもので、自分の権力を分かりやすく演出します。
党の長老たちがズラリと演壇の後ろの最前列にならびましたが、オレの後ろに並ぶ長老らも習を支持しておるぞ、オレは彼らを超越したスーパーパワーなのだという演出です。
益尾知佐子 『中国の行動原理』によれば、中国には基本的に3つの権力組織が存在しています。
最も強力かつ上位に位置するのが中国共産党であり、そして党の暴力機能として人民解放軍、そしてより下位に位置するのが行政機能としての政府諸機関です。
そしてこの党と軍と政府という3つの権力組織のすべてのトップに君臨しているのが、この習近平ひとりです。
つまり中国の権力機構は、習を「家父長」とし、党、軍、政府という「子どもたち」がそれぞれ家父長たる国家主席との間で一対一の支配関係を構築するという構造になっています。これらは3ツの組織は横に繋がっておらず、唯一習のみに対応しています。
たとえば、コロナが武漢で感染爆発を起こした際、それぞれの現場レベルでの対応は遅れに遅れていましたが、習近平国家主席が1月7日に問題解決に乗り出した瞬間から、中国のすべての組織が感染封じ込めのためのあらゆる手段を実行していく仕組みとなっていきます。
習にとって唯一の目障りは、「長老」と呼ばれる、かつての共産党の大幹部たちでした。
彼らは年に一回8月頃に北戴河会議と呼ばれる密室の会議を持ちます。
これは長老たちが現役の党総書記に意見することが許される唯一の場です。
どのような結果になったのかは推測するしかありませんが、党大会以前に長老を習が制することができるのか、また李克強の処遇が注目されました。
李は下図のような経済成長の失速に対して、習のゼロコロナ政策を切り上げて成長路線に戻るように主張したと思われます。
中国の習主席、2週間ぶりに姿現す-「北戴河会議」終了示唆 - Bloomberg
さて、共産党大会でこの結果がわかりました。
いままで共産党で隠然とした力を持っていた江沢民が、完全にフェードしてしまったのは象徴的でした。
96歳という歳も歳でしたが、それだけではないようです。
いまの習を幹部に祭り上げたのは江でした。
影響力衰えた江沢民氏 習氏支える「新上海閥」―中国:時事ドットコム (jiji.com)
江は、2007年の党大会で、当時上海市党委書記を務めていた習の最高指導部入りを強く推薦しました。
江の一生の不覚はこのとき。本来なら上海閥の後継者である李克強を推すべきでしたが、太子党派閥であった習を推してしまったために後にひどいメにあうことになります。
太子党というのは、共産党のボスの子供らの互助組織のことです。
権力を握った習は、あろうことか反腐敗闘争と称する内部粛清の嵐で上海閥の大物を次々と葬っていきます。
後ろ足で砂をかける所業もいいところですが、習をコントロールできなかった江は一気に没落していきます。
江が大衆の前に姿を現したのはの3年前の建国70周年記念日で、習を真ん中にして左右に胡錦涛と並んだのが最後でした。
その胡錦濤はパーキンソン病だと伝えられており、下の写真のように習に手を添えられて座席に案内されていました。
こういう仕種ひとつにもオレが上だ、という習のマウントぶりがみえています。
ゼロコロナ政策に強く反対していたと伝えられる朱鎔基の姿がないのは、パージされたのかもしれません。
朱は共産党幹部では珍しく経済がわかる人物で、首相時には国有企業の改革と市場経済化を推進しました。
これは習の国有企業優先主義、民間企業への厳しい統制とは正反対な政策で、去年から今年習が強引に進めたゼロコロナ政策による都市封鎖に対しても朱は手厳しい批判をしていたと伝えられます。
罕見!朱鎔基頻繁亮相 官媒跟進報導 | 胡錦濤 | 李瑞環 | 新唐人中文電視台在線 (ntdtv.com)
この朱も去り、胡錦濤はボケ、長老クラスで抵抗する者はいなくなったようです。
これで習ひとりに権力が集中する共産党指導部体制を完成しました。
習が毛沢東を崇拝していることは有名ですが、手法も毛をまねました。前述した反腐敗闘争は文革の現代版です。
「習氏は、共産党を消滅させかねないと恐れる病弊――腐敗、道徳の退廃、大義のために戦おうという意志の欠落――を党から一掃しようと試みてきた。彼の対処法は高いところから厳格な命令を下し、批判を抑え――党員は「不適切な議論」を禁止されている――それがどれだけ穏健であろうと組織立った反発勢力をつぶすことだ。厳格な検閲はインターネット上の議論も黙らせてきた。(略)。
毛沢東の言葉を借り、彼のやり方をまねた。権力を自分一人の手の内に集中させ、個人崇拝の機運を盛り立ててきた。個人崇拝は文化大革命の最も恐ろしいシンボルであり、最高指導者に対する盲目的な忠誠心は長年にわたる手に負えない暴力をあおる源泉でもあった」
(ウォールストリートジャーナル2017年5月17日)
今回の共産党大会では、「二つの確立」と題して、習の「党中央の核心としての地位」と「習の新時代の中国の特色ある社会主義思想の指導的地位」の確立が発表されました。
毛沢東以降使われてこなかった「人民の領袖」なる個人崇拝的表現が復活しました。
生きている間に「人民の領袖」の称号を得たのは習が最初です。
鄧小平ですら「改革開放の総設計師」と呼ばれるにとどまっていました。
習は党、軍、政府のトップをすでに自分ひとりで束ねており、さらに党と政府を一体的に機能させるための「委員会」や「領導小組」の主要なリーダーもすべて兼任しています。
今の中国は習近平国家主席の意図を徹底して追求し、実行するためだけの下請け機関として出来上がっているわけです。
「(ブルームバーグ): 中国共産党の習近平総書記(国家主席)は国内で多くの称号を持ち、「万能主席」とも呼ばれるが、習氏を建国の父である毛沢東氏に使われていた「領袖」と呼ぶ動きが党幹部で広がっており、文化大革命を展開した毛氏のような個人崇拝を巡る懸念が広がっている。
党当局者や国営メディアはここ数年、習氏を「人民の領袖」と呼ぶことがあったが、今週に入りこの呼称を使う党幹部が増えている。
習総書記の側近で、党序列25位以内の政治局員を務める北京市トップの蔡奇党委員会書記は16日、習氏が「われわれの心からの敬愛を受ける人民の領袖」であることがこの10年で証明されたと主張。同じく政治局員の王晨氏も、湖北省代表団との17日の討議で人民の領袖と習総書記を持ち上げた」
(ブルームバーク10月20日)
)中国共産党の習総書記を「領袖」と呼ぶ動き、毛沢東型の個人崇拝懸念(Bloomberg) - Yahoo!ニュース 。
これは毛が起こした文革の後始末をして、改革開放経済を作った鄧小平が敷いた集団指導部体制の否定です。
注目は、指導部内で反対の旗幟を鮮明にしていた李克強の処遇です。
李は習のゼロコロナ政策に強力に反対しましたが、押し切られました。
元来、李は共青団のリーダー格で、開放経済を進めようとしていましたが、彼がその方向の政策を立てると、そのつど習が正反対の政策を打ち出して潰すということの繰り返しだったようです。
李はこの大会で引退と噂されていますから、これで中国経済の世界経済からのデカップリングが進行することでしょう。
いちおう大会の1時間50分もの長ったらしい習の政治報告を、福島香織氏の要約によって見ておきます。
共産党の政治報告などお経のようなものですから、退屈でしたら飛ばして下さい。
読み上げた習すらつかえたり、水を飲んだり咳したりしたそうですから、聞かされるほうもたまったもんじゃなかったことでしょう。
5分でわかる!中国共産党大会は何をどうやって決めるのか | DOL特別レポート | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)
「ポイント① この五年の総括と(習近平)新時代10年の大変革を評価。
第19期の任期について、極めて尋常ならざる五年と形容し、(略)第三の歴史決議、新型コロナ政策、香港情勢の動乱から統治への大転換、台湾独立分裂活動と外国の干渉という深刻な挑発に直面し、反分裂、反干渉を断固として、国家主権領土の完全性を守る姿勢を示したことを評価しました。
この10年の三つの成果として①中国共産党が成立100周年を迎えたこと、②中国の特色ある社会主義が新時代に入ったこと、③貧困脱却し小康社会を実現したこと、を揚げました。(略)
一帯一路を国際協力のプラットフォームにしたことなど、成果として挙げていました。(略)
ポイント⑤ ハイテク教育興国戦略をかかげ人材育成を強調しました。新型挙国体制、という言い方が気になります。徳智体美労の全面的に発展させた社会主義建設者と後継者を新型挙国体制で育成するそうです。
ポイント⑥ 社会主義イデオロギーと中華文化をセットにして、社会主義文化強国を目指すようです。
ポイント⑦人民民主、人民を主人とする(プロレタリア独裁)の保障。
ポイント⑧ 法治中国の建設(略)
ポイント⑪建軍100周年にむけた国防軍隊現代化の新局面をうちだしました。
ポイント⑫一国二制度を完璧にし、祖国統一推進を打ち出しました」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.639 2022年10月19日)
気になる台湾問題ですが、「武力使用は放棄しない」と明言しています。
「新時代の党が台湾問題を解決するための「総体方略」を堅持し貫徹して、揺らぐことなく祖国統一の対事業を推進する、とし、平和統一の展望に向けて最大の誠意、最大の努力を尽くすが、武力使用を放棄することは決して認めず、一切の必要な措置を選択肢に保留する、それは外部勢力の干渉やごく少数の台湾独立分子とその分裂活動に対してであり、決して広大な台湾同胞を対象にしたものではない、としました。
台湾問題は中国人自身のことであり、中国人が決定するものだ。祖国完全統一は絶対実現し、絶対実現できる!と力強く訴えました」
(福島前掲)
台湾へ侵攻する気満満ですね。このウクライナ戦争を中国は注視しています。
ロシアが勝てば(ありえませんが)、台湾侵攻は早まるはずです。
「台湾の邱国正・国防部長(国防大臣)は、立法委員会(議会)での答弁で、中国軍の能力について、「2025年には本格的な台湾への軍事的侵攻が可能になる」との認識を示した。そのうえで、目下、中国と台湾の軍事的緊張が過去40年間で最も高まっている、との強い危機感を示した。 中国による武力侵攻の可能性については、「中国が現時点で侵攻することは可能であるが、そうすれば、大きな代償を支払うことになる。しかし、2025年からであれば、代償が小さくなり、全面的侵攻が可能になる」と発言した」
(岡崎研究所2021年10月28日)
中国の台湾への軍事侵攻時期で指標となる2025年 Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) (ismedia.jp)
習のゼロコロナ政策は、裏の顔はコロナをダシに使った人民統制のモデルづくりです。
上海のような大都市でも戒厳令下におくことができる、経済活動への打撃など屁でもない、ということを国民に見せつけたわけです。
失笑することには、いままで大会までには公表されていた経済統計数字は延期になりました。
「【北京=山下福太郎】18日に予定されていた中国の7~9月期国内総生産(GDP)の発表が、前日に急きょ延期された。目標未達との観測があり、習近平(シージンピン)政権の3期目入りを決める共産党大会が開催中であることに配慮したとの見方が出ている。重要な経済指標の公表延期は異例で、統計に対する信頼を揺るがしかねない」
(読売10月19日)
中国GDP「目標未達」か、発表予定前日に急きょ異例の延期…党大会に配慮の見方(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース
コロナと不動産バブルの崩壊を受けて、さぞかし悪い数字が出たからでしょう。
こういうことができてしまうのが、ひとり独裁の中国ならではです。
2年前の武漢の都市封鎖後、世界市場が低迷する中、中国経済は1人V字回復し、ひとり勝ちしてきました。
日本にも、全体主義の優位性と評する者も現れる者が多く出たほどでした。
中国は得意満面で、共産主義の優位性を吹聴したものです。
しかし習の得意は続きませんでした。
ゼロコロナが裏目に 急ブレーキの中国経済 ほころびの現場 | NHK | ビジネス特集 | 新型コロナ 経済影響
今年 7月15日、中国政府はことし4月から6月までのGDP=国内総生産の伸び率を発表しましたが、新型コロナ対策として上海で厳しい外出制限がとられた影響などを受けて、去年の同じ時期と比べてプラス0.4%、実質的なゼロ成長となっています。
個人消費は低迷し、製造業はサプライチェーンの寸断を受けて稼働率が大幅に下がり、頼みのGDPの4分の1を占める不動産景気までもが不調でした。
最大手の恒大集団の破綻は、この状況を象徴しています。
NHK
「1月から6月までの全国の不動産の販売額は感染拡大の影響を受けて前年同期比でマイナス28.9%と大幅に悪化しました。(略)
実際に返済拒否の動きが広がれば金融機関が抱える不良債権が増加し、信用不安につながりかねない上、市況の冷え込みのさらなる長期化は不動産への依存が高い中国経済の停滞につながる可能性があります」
(NHK8月3日)
国民は一日も早い解除を願っていたのですが、味をしめた習はゼロコロナ政策は当分は継続することでしょう。
とまれ、こうして習のひとり独裁は完成したのです。
福島さんも言っていましたが、日本は習の中国、プーチンのロシア、正恩の北朝鮮にぐるりを取り囲まれているわけで、呑気にトーイツキョウカイなんてやっている暇がどこにあるのでしょうか。
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共産党ならではの、テレビに出て来る要人がみんな「習近平閣下の進歩的な法治主義は素晴らしい」なんて気持ち悪いことばかり並べる三下ばかりで、マジでキモかった!
今年の春ですけど、我が国の国会議員のオバちゃんもインタビューでの発言が党内で問題にされたようで、わざわざ記者クラブで謝罪会見させられてましたね。明らかに憔悴しきってました。どんだけつるし上げ食らったのかと。。
独自の意見は認めない、思想·出版·結社の自由が無い。トップを決める選挙すらない。
本当に共産党って気持ち悪いです。
巨大な人口の中国を仕切ってるのが共産党の独裁ですから···普通の都市や田舎の住民には同情しなくもありませんけど。。
投稿: 山形 | 2022年10月22日 (土) 07時04分
想定どおりですが、長老の排除まで行き届いた独裁体制構築が際立ってますね。これでロシア支援に乗り出さないとも限らず、岸田政権の対応の遅れが気がかりです。
新体制はイコール準戦時体制とも見るべきで、必ず戦争を欲せざるを得ない仕組みに留意すべきです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年10月22日 (土) 22時44分
ロシア支援はありうる話だと思います。
アメリカがウクライナに支援し、軍事物資が不足している状況ですから、台湾侵攻のタイミングと考える可能性があります。
中国の経済力に陰りが出てきて、少子高齢化は止まりそうもない。あと数年たって、ロシアはさっぱりあてにならず、アメリカが軍事力を回復させた状況で勝負をかけるよりは、ということです。
今なら、アメリカに二正面作戦を強いることができ、日本の岸田は弱腰の喧嘩下手。日本国内のマスコミと野党は、くだらない政局争いで政治を停滞させてくれている。
台湾侵攻が成功すれば、独裁者としての発言力も確保される。
これだけ、状況が揃ってますからね。
投稿: リンデロン | 2022年10月23日 (日) 07時31分