こんな時期だからこそ、あえて国際人道法を読む
プーチンがクリミア大橋爆破の報復だと称して、キーウを含むウクライナ全土の民間施設を狙って84発のミサイルを打ち込みました。
まさに無差別攻撃そのものです。
ただし、そのうち56発はウクライナ防空網によって打ち落とされています。
「(CNN) ウクライナの緊急対応当局は、10日にロシアが行った首都キーウなどに対する攻撃によって、少なくとも14人が死亡し、97人が負傷したと明らかにした。
ロシア軍の攻撃によって、キーウ、リビウ、スムイ、テルノピリ、フメリニツキーの各州で電力供給が止まったという。
ウクライナ軍参謀本部によれば、ロシア軍は84回を超えるミサイルや空爆による攻撃を行った。ウクライナ側は、ミサイルやドローン(無人機)による攻撃を56回迎撃したと主張している。
ウクライナ軍によれば、約20カ所の集落が攻撃を受けた。
世界各国の首脳は、ロシアによる攻撃を非難し、ウクライナへの支援の継続を約束している」
(CNN10月11日)
Генеральний штаб ЗСУ
ロシア軍の爆撃目標は、ひとつ残らずすべて民間施設です。
しかもウクライナ全土が攻撃対象となっています。
ウクライナプラウダ
使用された兵器も、空、海、および陸上の巡航ミサイル、弾道ミサイル、対空誘導ミサイル、偵察ドローンおよびイラン製自爆無人攻撃機まで動員しています。
精密誘導兵器を使ってはずしようがない民間施設を狙っているのですから、悪質きわまりありません。
しかもラッシュアワーに合わせて、市民の殺害を拡大しています。
これは戦闘行為ではなくただの殺人、あるいはテロです。
これでウクライナの軍事的抵抗が下がるどころか、かえって士気があがるでしょうし、国民もいっそう団結することでしょう。
西側諸国も完全にロシア非難で一致しました。
負け戦のうえに、こんな誰がみても狂気の沙汰の攻撃をするロシアと共に戦おうという国は、いまや一国もなくなったようです。
要するに、ただのプーチンの国内向けパーフォーマンスにすぎませんが、愚か極まれりです。
ところでこうまで毎回毎回、平然と国際人道法を踏みにじらられると、しっかりとなにが戦争において禁じられているのか、明確に押さえておく必要があります。
こういう時だからこそ、「戦争だからしかたがない」というような安易な考え方に流れないで、立ち止まって理性的判断をする必要があるのです。
ここでいう「国際人道法」とは、1971年に国際赤十字委員会が公式に提唱している国際法のことです。
以下、「長崎大学核兵器廃絶研究センター」を参考にお話します。
「国際人道法」とは何ですか?長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA) (nagasaki-u.ac.jp)
国際法の多くがそうであるように、「国際人道法」という特定の条約があるわけではなく、以前に、「戦時国際法」とか「戦争法」あるいは「武力紛争法」と呼ばれていた国際法の中から、特に人道上に重きを置いた戦争のルールを定めたものを指します。
さてよく戦争なんだからやりたい放題であたりまえだとか、勝ったらなんでもオーケーだということを言いたがるガサツな人がいますが、それは第2次大戦までのこと。
現代においては、戦争にもルールがあるのです。
かつては非戦闘員大量虐殺そのものの原爆投下や空襲があったが故に、その反省から今は戦争において「やっていいこと」と「悪いこと」の区別をつけようということで、この「国際人道法」が生まれたわけです。
ですから、軍事力に当たらない非戦闘員の市民、特に女性や子供、老人、病人が多数居住する住宅地、病院、集会場、宗教施設、文化施設を攻撃対象にすることは禁じられています。
これを「軍事目標主義」と呼んで、武力の行使の対象を厳密に「相手の軍事力を破壊する」という目的にのみ限定しています。
今回のロシア軍の無差別ミサイル攻撃はこれに該当します。
もうひとつは、「害敵手段の制限」といって、武力行使の手段の制限です。
相手に対していたずらに苦痛を与えて、治療を故意に困難にさせるような武器を使うことは禁じられています。
ダムダム弾や毒ガス、白燐弾の禁止などが、これに相当します。
クリミアとロシアを結ぶ唯一の橋で火災 3人死亡とロシア当局 - BBCニュース
ところで、今回のプーチンは盛んにクリミア大橋が「テロ」だと叫んで、その報復だと言っていますが、そんなリクツが成立するでしょうか。
まず前提として、この国際人権法をウクライナとロシアは共に批准しています。
この両国とも、国際人道法を構成する欧州人権条約(ECHR)、市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR・自由権規約)、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(CAT:拷問等禁止条約)など、多くの地域的または国際的人権条約を締結しているからです。
したがって、国際人道法はウクライナ戦争においても十分に有効な国際法と考えられており、ロシアへの非難はこれを法的根拠にしなくてはなりません。
ウクライナ戦争において、問題となっているのは「軍事目標」です。
国際的人道団体のヒューマンライツウォッチは、明確な見解を出しています。
「戦時国際法のもと、攻撃の目標は「軍事目標」に限定される。軍事目標とは、軍事行動に効果的に資する物であることを示し、またその全面的または部分的な破壊、奪取または無効化が明確な軍事的利益をもたらすものを指す。
敵陣の戦闘員、武器、弾薬、建物や車両など、軍事目的で使用されている物などが該当する。
国際人道法は、武力紛争中、民間人の犠牲がある程度避けられないことを認識してはいるが、紛争当事者には依然、戦闘員と民間人の区別義務、及び戦闘員など軍事目標のみを標的とする義務が課される。ただ、民間人は、戦闘中の戦闘員を支援するなど、「敵対行為に直接参加している」間は、攻撃対象から除外されない」
ロシア、ウクライナと国際法:占領、武力紛争、および人権について | Human Rights Watch (hrw.org)
クリミア大橋は民間も使用していますが、ウクライナ戦争においては「軍事行動に効果的に資する物」として「明確な軍事的利益をもたらす」施設です。
ロシア軍は軍事物資の多くを鉄道に頼っています。
クリミア大橋は、ロシア本土からクリミア半島を抜けて南部戦線や東部戦線へ軍事物資を運搬する重要な施設でした。
その差は鉄道の線路幅にあり? ウクライナとポーランド ロシアの脅威度が段違いなワケ | 乗りものニュース (trafficnews.jp)
ですから、クリミア大橋を軍事目標に定めてこれを破壊する行為はテロではなく、合法的な軍事行為として国際人道法上解釈できます。
一方、今回のロシア軍のウクライナ攻撃はどう見るべきでしょうか。
いままでもロシア軍が攻撃目標とした実に7割までもが、民間の住宅地、病院、学校、美術館、劇場、集会場を標的にしたものでした。
これについては、アムネスティが詳細な調査を出しています。
ウクライナ:キーウ州での戦争犯罪 ロシア軍に法の裁きを : アムネスティ日本 AMNESTY
「【キーウ=安田信介】ウクライナ国防省の報道官は15日、地元テレビで、ロシア軍によるミサイル攻撃について、「標的の約7割は民間施設などに意図的に向けられている」との認識を示した。露軍による非軍事施設への無差別的な攻撃は、米欧などからも繰り返し指摘されており、人道上の懸念が一層強まっている」
(読売7月17日)
ロシアのミサイル「7割は民間施設を標的」と非難…国防相が前線で攻撃強化を指示 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)
ウクライナ中部の商業施設にミサイル攻撃、ロシアの戦争犯罪だとG7首脳 - BBCニュース
ロシア軍、連日ミサイル131発 侵攻5カ月目で攻撃強化―ウクライナ:時事ドットコム (jiji.com)
もう改めて考えてみるまでもありません。
ロシアによるウクライナの民間施設攻撃は、明白な国際人道法違反です。
しかも誤爆したというのではなく、始めから民間人がいる場所を、今回のように朝のラッシュアワーに合わせて攻撃する残忍さです。
いつまでこのような非道を許しているのでしょうか。
「ロシア正規軍が崩壊」 動員令にウクライナ大統領 - 産経ニュース (sankei.com)
ウクライナに平和と独立を
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新しい総司令官の初仕事でしたっけ。
他国の無辜の民間人の命を使って、プーチンへのゴマスリ第一弾でしょうかね。本当に鬼畜な畜生どもです。
投稿: ねこねこ | 2022年10月12日 (水) 09時08分
クリミア大橋/ケルチ海峡大橋は明確に軍事目標、で何の問題もないですね。
本日のような解説を聞いたり読んだりする機会がないまま、ロシアの手羽先たちや鈴木宗男氏とか孫崎享氏や、一部の反米陰謀論者の先生たちの話しか聞いたり読んだりする機会がない人がいるとすれば、実にぞっとする哀れな話です。
昨日のプライムニュースで小泉悠氏が、「もうロシアが大勝ちするのは無理ですから」と、優しくはっきり仰せでしたな。
投稿: 宜野湾より | 2022年10月12日 (水) 18時11分
クリミア大橋のような兵站を構成する物への攻撃は戦争の一部です。
プーチンのロシアがやった事は控え目にいっても「大量殺人」で、戦争犯罪である事に疑いを入れません。
プーチンには戦争をする資格さえない。
ロシア国民は、プーチンやロシア国家そのものを恥じるべきです。
この野蛮がロシア国家全体にもたらす悲哀は耐え難いものとなるでしょう。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年10月12日 (水) 19時31分