プーチンを「追い詰めるな」論について
ウクライナ戦争を終わりにするやり方を考えています。
よくある俗論に、「直ちに停戦論」というものがあります。
耳に快い人も多いようで、けっこうのさばっています。
これは橋下某がかねてから言っていた「ウクライナは早く降伏すれば、国民は死ななくて済む」という意見のバリエーションです。
こういうことはウクライナにいうのではなく、侵略卸元のロシアに言いなさいよ、と思うのですが、「ロシアはプーチン独裁だから言うことを聞かない。ウクライナは民主国家なのだから先に和平を提案すべきだ」と言うことのようです。
おいおい、これでは民主国家は常に全体主義国家に負けていていなければなりません。
第一、ここでウクライナが戦争を停止したら、明日からロシアはミサイル攻撃を止め、戦争によって得た占領地から完全撤収してくれるのでしょうか。
いいえ、絶対にしないでしょう。
もっともミサイルは在庫が払底しかかっているので(ウクライナによれば在庫600発)温存するためにこれ以上撃たないかもしれませんが、占領地から撤退することは100%ありません。
だって占領地はいまや4州併合によって「ロシアの神聖なる国土」だからです。
占領地は領土、侵攻した前線こそ国境、これがモスクワ大公国からの、ロシアの一貫した伝統だということを忘れないで下さい。
では、今、東部や南部でウクライナ軍が奪還している4州の「ロシア領」はどうなるのでしょうか。
もちろんロシア軍は、「神聖なロシア領」から「外国軍隊」を追い出します。
アレ、4州の「外国軍隊」ってウクライナ軍のことだったっけ?
頭がグルグルしますが、彼ら独特のねじれたロジックではこれは「祖国防衛戦」なのです。(笑)
ですから、4州からウクライナ軍を追い出すまで戦いは続きます。
つまりその時期まで戦争は終わらず、ロシアの侵略は止まりません。
それが十分に分かっているから、ウクライナ人は抵抗を止めません。
次によくある意見として、「これ以上追い詰めるな」というものもあります。昨日もコメントで頂戴しました。
こういうことを言う国際政治学者も多くいるようです。
「ロシア人の自尊心を傷つけるな」という意見に与することはできません。
なぜなら、それはロシア人のみにプライドがあるかのような意見だからです。
ロシア人にプライドがあるなら、ウクライナ人にも充分すぎるほどあります。
いやむしろ、祖国をこれだけ踏みにじられ、虐殺や民族移動といった民族浄化に泣いたウクライナ人にとって、ただの民族的自尊心だけではなく底知れぬ怒りと哀しみがあることでしょう。
インスブルック大学のロシア問題専門家として著名なゲルハルト・マンゴット教授は、10月16日、オーストリア国営放送(ORF)のニュース番組でウクライナはきわめて困難な状況だが、士気は高いとしてこう語っています。
「にもかかわらず、ウクライナ側の士気は依然、非常に高い。「ウクライナ人の90%以上が、ロシアへの領土譲歩に反対している」という。ロシア軍の前進は、主に傭兵がロシアのために戦っているバフムート周辺地域に限られ、ほぼ完全に停止しており、代わりにウクライナ軍の前進が続いている。マンゴット教授は、「ロシア側のミサイル攻撃でウクライナ側の祖国防衛というモラルが崩れるとは思わない」という」
(ウィーン発コンフィデンシャル10月18日)
ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.blog)
お聞きしたいのですが、この「追い詰めるな論」が対象としているのはプーチンですか、それともロシア国民一般ですか。
この「追い詰めるな」論の最大のおかしさは、無意識にロシア国民とプーチン個人を同一視してしまっていることです。
プーチンはロシアそのものではありませんし、ましてやロシアのプライドなどではありません。
反戦デモに現れるように彼に反対する人々は多数います。
戦争にとられることを恐れて国外逃亡した者だけで数万に達しています。
その人たちは秘密警察政治の恐怖政治のために、一つのとまった反プーチン勢力になれないだけのことです。
ロシア・ウクライナ戦争 世界各地で反戦抗議デモ モスクワとサンクトペテルブルクのデモでは1,000人以上が拘束 (kagonma-info.com)
プーチンがいかなる工作を用いようと、追い詰めて独裁者の椅子から追い落とすべきです。
それがわずか7カ月間で9万人もの死傷者をださせるような、無残な戦争を引き起こした独裁者の受けるべき当然の報いです。
この男がいるかぎり戦争は終わらない、これだけは確かなことです。
トランプ政権で安全保障補佐官をしたボルトンは、「プーチンは去らねばならない」と明瞭に言い切っています。
元米大統領補佐官ジョン・ボルトン「安倍晋三の死は、米国とその同盟国にとって損失だ」 | 米紙への寄稿で安保や北朝鮮問題の功績を讃える | クーリエ・ジャポン (courrier.jp)
「ボルトン氏は10月上旬、国際安全保障専門の論壇サイトに「プーチンは去らねばならない=今こそロシアのレジームチェンジの時だ」と題する論文を発表した。
同論文はまずバイデン大統領が今年(2022年)3月にプーチン大統領に対して「この男はもう権力の座にとどまってはならない」と述べ、プーチン大統領打倒のための斬首作戦までをも示唆したことを指摘し、「その直後にバイデン大統領の側近たちが『大統領はプーチン大統領の地位の変更や、いわゆるレジームチェンジを求めたわけではない』と釈明したが、もうそんな遠慮をする時期ではない」と書き出していた。
ボルトン氏はそのうえで「ロシアの政権交代なしにはヨーロッパの平和や安全への長期的な展望はまったくなく、その政権交代という選択肢がないかのように振る舞うことはきわめて有害である」と強調していた」
(古森義久2022年10月12日)
「ロシア内部に働きかけよ」ボルトン元大統領補佐官がプーチン打倒作戦を提唱 ロシアのレジームチェンジしか戦争終結の道はない(1/4) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)
ボルトンは、この論文で、「ロシアでプーチン政権が続く限りウクライナ戦争が解決する可能性はなく、情勢はウクライナや欧米側にとって不利となり得る」と述べています。
その論拠はこのようなものです。
①ウクライナは現在軍事攻勢に出てはいるが、西側にとってはっきり「勝利」と定義づけられる展望が存在しない。
②ロシアは戦闘でかなりの被害を受け、国内でも反戦感情が高まっている。とはいえ、ウクライナ側の被害も大きく、破壊も莫大である。
③ロシアは核兵器使用の威嚇を続け、西欧にエネルギー面で与える被害も大きい。これから冬を迎えて、西欧側の反ロシアの団結がどこまで続くかわからない。
④ウクライナでは軍事衝突を止める停戦への動きはまったくなく、このままでは苛酷な消耗戦が続く展望が確実視される。
つまりボルトンはこの戦争がきわめて長期になる可能性を憂慮しています。
グレゴリー・アンドリー氏すら、ウクライナの勝利を確信しながらも来年末までかかるだろうという見通しを漏らしています。
問題は、この我慢比べのような苦境を、NATOと米国が耐えることができるか、です。私は精神論には立ちませんので、相当に厳しいと思っています。
必ずわが国のロシアフレンドのようなことを言う国が現れます。
中国を主敵としたいバイデンにとっても、今のようなギリギリの軍事支援をするなら台湾有事の抑えがなくなるのではないか、という心配が出始めてきています。
ならば、ボルトンが言うように「米国がこれまでの政治的計算を変更し、ロシア側の反プーチン勢力を注意深く支援してレジームチェンジを試みる時期がきた」という意見を傾聴すべき時期がきているのかもしれません。
また「追い詰めるな論」の背景にあるのは、ロシアが「追い詰められ」ると核を撃ってくるかもしれない可能性があるからですが、具体的に考えてみたいので別稿に譲ります。
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ロシア入国禁止にされた
中村逸郎の著書「決してロシアを信じるな」を読まれると面白いかもしれません。
ロシア人はウソにウソを重ねるのが当たり前、約束はあって無いに等しいのだそうです。(韓国も似ていますけどね)
ですから国連でもなんでも平気でウソを並べる。
友達との約束も守らずトラブルになるのも日常的だとか。
日本が降伏したのに北方四島が侵略されたのもそう。
北方領土返還について安倍さんが騙されたのもそうですし、国連の取り決めなど関係ないのです。
ミンスク合意、なんだそれ、ウクライナは元々ロシアだになる。
親ロシア派の方は騙され易い人、心がピュアなのでしょう。
プーチンを批判することは命を危険にさらすこと、反プーチンの活動をするのは命懸けなんです。
ロシア国内でデモ等を行なっている人々は相当な覚悟を持ってやっているんですね。
停戦協議をしようが何をしようが、反故にされることを前提にしていないとダメなんですよ、きっとね。
投稿: 多摩っこ | 2022年10月19日 (水) 08時32分
一方的侵略をされて祖国防衛戦争を戦う方に「侵略者を刺激するな」、祖国防衛戦争を戦う者を支援して「侵略者を刺激するな」、という意味がわかりません。
陰謀論者の誰ひとり存在を証明できない「何者かの意図」なんて知ったこっちゃない。
少なくとも、そんな話はこのロシアの国際法違反の蛮行を始末してからでしょう。
日本でいま公演中のモイセーエフ・バレエには当然、ロシアの情報工作員も随行しているはず。
やはり、在日本ロシア大使館が「観客は各舞踏演目を大きな拍手を以て迎えました」と発信しました(18日Twitter)。
鶴岡路人氏がTwitterで今日紹介されたポリティコの記事で、元チェコ軍参謀長のパヴェルNATO軍事委員長が、「ロシア人のrevanchist mindset=失地回復主義・報復主義志向は、プーチン大統領をも凌駕して多くのロシア市民が抱いているものだ」として、「動員を逃れて来たロシア人の受け入れにはもっと注意するべき、彼らはプーチン政権に反対しているわけでもウクライナを支援するわけでもなく、ウクライナが罰されることを支持している」と見ていることを知りました。
プーチンを刺激するかしないかの話には、大した意味を感じません。
他国を一方的に侵略すればどういう末路になるのかの戒めをロシアに与えるよりほかないでしょう、しかもそれに掛かる時間を可能最大限に短くしながら。
投稿: 宜野湾より | 2022年10月19日 (水) 14時06分
FOXのタッカー・カールソンなどや、日本のロシアフレンズの保守派が言う「プーチンを追い詰めるな」論の決定的な間違いは、未だにプーチンが話の通じる相手、あるいは信頼にたる指導者だと勘違いしている点にあります。プーチンが話が通じない嘘つきの無頼漢だからこそ、こうなった。
グローバリズムがどうとかプーチンには全く関係ありゃしませんし、軍産複合体の思惑云々など、問題にもなりません。
また「ウクライナ戦争への関与は、対中国への対抗力を弱める」といった議論も散見されますが、これも真逆です。
上記のようなファンタジー思考に無縁のボルトンは、「核を使ったら、必ず核で報復する、と宣言せよ」と言っています。また、「アメリカは、プーチンをソレイマニのように対処出来ると理解させよ」とも言っていますね。
同時にウクライナ側が求める高性能兵器をどんどん送る事、そうしてプーチンロシアを追い詰める事が終戦に早く導くための方策です。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年10月19日 (水) 17時33分