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2022年11月

2022年11月30日 (水)

白紙革命となるか?

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中国で反コロナ規制という形を取って、共産党独裁政権に対しての抵抗運動が始まっています。
わずか2日のうちに、北京、上海、南京、重慶、成都、武漢、蘭州、西安、長沙、ウルムチなど15省市区の少なくとも76大学で同じような白紙運動が起きたのだった。
白紙の紙は、なにをこの紙に書いても逮捕される、という共産党の言論統制に対する痛烈な批判です。
清華大学の学生抗議では、白紙に経済学者フリードマンの方程式が書かれていました。
フリー(自由)を求めるという意味のようです。

白紙運動のきっかけは、南京伝媒学院内の鼓楼前で、一人の女子学生が26日午後、白紙をもって立ち始めたことから始まりました。
黒いマスクに黒いコートを着た彼女は、ただ白紙を両手に持って立っているだけにすぎず、一切の反政府的なことを行ったわけではありませんでした。

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上の写真は、2022年11月26日に公開された動画からロイターが入手した南京伝媒学院のその夜のスクリーンショットです。
しかし。すぐにこの学院の補導員が来て、この白紙を没収しました。

すると彼女は、そのまつの位置で、まるで白紙を持つような恰好でただ立ち続けました。
この経緯を見ていた他の学生が「どうして白紙を奪うのか?」とこの補導員に聞くと、彼は「白紙に何の攻撃力もないだろう」と言い返したそうです。

ならば「なんの攻撃力もない」白紙の紙を持って、共に立とうという学生が現れ、その夜には同じように白紙を持って数十人数百人の学生が集まり始めました。
大学は、抗議活動の拡大を恐れて、通常は電灯を着けているキャンパスを真っ暗にしたのですが、その暗闇にもめげず白紙を持つ学生たちが続々と集まりました。

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ウルムチにおける白紙運動 ラジオ・フリー・アジア

すると、やがて意を決したひとりの男子学生がスピーチを始めました。

「僕がここに立つのは、僕が勇気があるからではありません。彼女たちが僕を刺激し、僕はここに立つ勇気がもてた。彼女たちの方が勇敢だ。一人の新疆人として、自分の勇気を出すことができた。以前の僕は弱かった。
でも今このとき、自分で立ち上がらなくちゃと思った。故郷を代表して声をあげる。大火災で家族や親しい人を亡くした友人たちのために、犠牲となった人たちのために声を上げる」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.670 2022年11月29日)

学院長までもが乗りだし「後悔するぞ」と脅かして学生らの身元を調べろと言いさらにはこう恫喝しました。
「電気を点ければ公安に撮影されるぞ」

当時、公安の多くの警備車両が校門の外に詰めており、学院長の恫喝はそれを心配していたこともあるようですが、保身もあったのでしょう。

この南京伝媒学院の白紙運動の狼煙は、一部始終が動画に撮影され、すぐにSNSで拡散されました。
実はこのほぼ同じころ、上海ウルムチ中路で同様の学生や市民の抗議活動が起きていました。
驚くべき伝播で、彼らもまた白い紙を掲げ、「自由がほしい」と叫びました。
明らかに共産党の全体主義に対する言論の自由を要求する民主化運動に変化したのです。
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北京と上海でも異例の抗議行動 ゼロコロナに反発、習氏辞任の要求も - BBCニュース
たちまちこの白紙運動は全国に広がりました。
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「武漢でも、住民数百人が街頭に出て、その一部がバリケードを倒したり、金属製のゲートを破壊したりしたことが、ソーシャルメディアに投稿された動画からわかる。

中国最大都市の上海では27日、「ウルムチ通り」一帯で警察が厳重な警戒態勢を敷いた。ここでは前日、ろうそくをともす集会が抗議行動に発展した。
BBC記者は、警官、民間警備員、私服警官らが、2日連続で集まってきた抗議デモ参加者たちと向き合っている様子を目撃した。
AFP通信は現地にいた人の話として、この日午後には数百人が白い紙を手に同じ場所に戻り、それを掲げて沈黙の抗議とみられる行動をとったと伝えた」
(BBC2022年11月28日)

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CNN
China Covid Protest | Protests In China | China News | Anti-Xi Protest Intensifies In China | News18 - YouTube
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CNN

香港の雨傘運動も、台湾のひまわり運動も学生運動が社会のムーブメントとなりました。
彼らが徒に武闘に走るのではなく、慎重にこの世界最悪の独裁政権と戦ってくれることを願っています。

 

 

2022年11月29日 (火)

地球温暖化説の怪しい出生

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地球はほんとうに温暖化しているのか?それとも正反対に寒冷化に向っているのか?  
実はこのことに対して、科学界はふたつに分かれているといったほうか公平でしょう。  
主流はいうまでもなくIPCC(気候変動に関する政府間パネル)を中心とする温暖化派で、それに反対する人たちは懐疑派と呼ばれています。

簡単に温暖化説を誕生のいきさつをおさらいすると、 1970年代後半からそれまでの寒冷化説に代わって人為的CO2の増加が温暖化の原因だとする学説が生まれました。 
1988年には、NASA・ゴダード宇宙研究所のジェームズ・ハンセン所長の炭酸ガスの増加が地球温暖化を引き起こしているという爆弾証言があり、一挙に世界中で話題となりました。 
これは金星がぶ厚いガスに覆われていて、その雲の下は温室効果で焦熱地獄に違いないという考え方から来ています。 

それに歩調を合わせるように、9年後に有名なマイクル・マンのホッケースティック曲線が世に出て、米国政府まで動かすようになります。(下図参照Wikipediaより)
これがホッケースティク曲線と呼ばれるのは、20世紀に入るやいなや炭酸ガスと気温が45度でドーンっと同調して上昇するという分かりやすいグラフだったからです。Photo
この図はIPCCの「気象変化2001」にデカデカと掲載されました。マンは若手の古気象学者で、主に気象代替指標といって年輪などを使って1000年~1980年代までの気象変化を調べていた人でした。 
このホッケースティック曲線は、マン自身もIPCCの執筆者のひとりで加わっていた2001年のIPCC第3次報告書に公式文書に登場するやいなや、大騒動に発展しました。 

それは科学的に吟味されるより早く、政治の絶好のテーマなったのです。

まず、米国のクリントン大統領(というよりゴア副大統領)が、いわば米国政権の公認の学説となりました。
当時、米国海洋・気象諮問評議会副委員長をしていたS・フレッド・シンガーは、これに対して苦々しげに「クリントン政権と、IPCCが気象変動に関してほしがっていたお手軽な答え」と評しています。 

つまり当時、石油資本の後ろ楯のある共和党政権から一線を画して新たなエネルギー政策を取りたかった米国民主党政権と、気候問題というマイナーな分野に多額の予算を欲しがっていたIPCCなどの気候マフィアが手を組んでこのマンのホッケースティック曲線を政治的に利用したというわけです。

もちろんIPCCも一枚岩で温暖化を信じていたわけではなく、すぐに有名なホッケースティック論争が開始されます。 
というのも、多くの気象学者が関わったマンの発表の3年前95年にIPCC「気象変動1995-図22」としてこのような気象変動グラフが掲載されているからです。 

 

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ここにはマンが意図的に無視した中世の農業発展を支えたといわれる中世温暖期と、その後にやって来るテムズ河も凍ったマウンダー極小期による小氷河期がしっかりと記されています。 
ちなみに上図で分かるように中世温暖期に至っては、現代より温度が高いのですが、当時にハンセンやマンが言うような「地球気候を変動させるような人為的炭酸ガスの排出」がなかったのはいうまでもありません。 
このような多くの批判を受けて2004年にマン自身も訂正に応じて、現在はこのようななんと11種類の曲線があるグラフに訂正されています。(下図参照Wikipediaより)
ここには批判があったマウンダー極小期が小氷河期としてでてきます。(ただし、マンは訂正しても間違ってはいないと主張し続けています。)

 

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このように一見不動のように見える地球温暖化説は、多数の間違いやスキャンダルを引き起しながらも本質的にはまったく変更を加えられることなく現代に至っています。

 

 

 

すべてはホッケースティック曲線から始まった

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脱炭素というとイヤでも思い出されるのが、CO2と気温上昇がパラレルで上昇するという、マイケル・マンのホッケースティック曲線です。 
これは樹木の年輪の間隔から割り出した仮説の曲線です。
 マンはこれを1998年に「発見」して、炭酸ガスが増えて金星のように分厚いガスの下はアッチチという星に地球がなるとして世に問いました。
ここから脱炭素狂想曲のすべてが始まったのです。

下図があまりにも有名な、脱炭素の元祖ホッケースティック曲線です。

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赤祖父俊一(アラスカ大学国際北極圏研究センター初代所長)による

これが地球温暖化を説明するのにつごうがいいことから、炭酸ガス主犯説の科学的根拠とされました。
しかしあいにく、このホッケースティック曲線には大きな誤りがありました。
最大の誤りは、上のグラフの右に見える19世紀以前の気温が単調に横ばいですが、現実の観測記録と大きく異なっていることです。
また10C世紀~14世紀の中世温暖期は無視され、19世紀の小氷河期もなかったことになっています。
つまりマンは過去の様々な気象変動をあえて無視して、18世紀以後の産業革命による人為的炭酸ガスの増加が地球温暖化を招いているとしたのです。

そしてできたのがこのような、いまや教科書にも載っている「定説」です。

「IPCC第5次評価報告書では、人間活動が20世紀半ば以降に観測された温暖化の要因である可能性が極めて高い(95%)と発表しています。18世紀に始まった産業革命により、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料の使用が急増し、大気中の二酸化炭素濃度は産業革命以前(1750年頃)に比べ約40%増加しています」
二酸化炭素はなぜ増えたのか | JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター

さらに具体的には、このような主張がなされ、現実に各国政府が目標値を定めて邁進しているのはご承知のとおりです。


  • 地球温暖化によって世界の平均気温が産業革命以前の水準よりも2℃上昇すれば、膨大な数の人が生死に関わるリスクにさらされる恐れがあります。
  • 気温上昇を1.5℃に抑えることができれば、水ストレスに悩まされる人の数を半減できるなど、あらゆる影響を軽減できると言われています。
  • 気温上昇が2℃に達すれば、夏の北極海では海氷が消えるという現象も珍しくなくなるでしょう。
  • 温暖化を食い止めるためには、効果的なエネルギー転換の推進が不可欠。しかし、一部の専門家は、現状のエネルギー転換の進展ペースは遅すぎると指摘します。
    地球温暖化による世界の気温上昇、「1.5℃」と「2℃」では大きな差 | 世界経済フォーラム (weforum.org)

もはや脅迫的言辞ですが、「世界の科学者の総意」とまでいわれてしまっては、もう懐疑をはさむ余地がない真理となってしまいました。
ところが、この震源地だったマンのホッケースティック曲線が危ういということは、いまやIPCCですら認めているのです。
ただし小声ですが。

「だがIPCCの第5次評価報告書(2013年)の示した過去の温度のグラフでは、中世(1000年前後)の温度は、現在とあまり変わらない高さまで上がっている。
政策決定者向け要約
「北半球では、1983年から2012年の30年間は、過去1400年間で最も暖かかった可能性が高い」「幾つかの地域において、中世気候異常(950年から1250年)の内の数十年間は、20世紀末期と同じぐらい暖かかった(高い確信度)」となる。(略)

ホッケースティック曲線の発表の後、古気候を巡った論争が起きて、結局、IPCCはホッケースティック曲線の使用を止め、最新の第5次評価報告書では北半球において中世の温暖期(今のIPCCの言葉では中世気候異常と呼ばれているけれども)が存在したことが明記されている」
(『中世は今ぐらい熱かった:IPCCの最新の知見』杉山大志IPCC第6次評価報告統括代表執筆者)
中世は今ぐらい熱かった:IPCCの最新の知見 – NPO法人 国際環境経済研究所|International Environment and Economy Institute (ieei.or.jp)

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                                                                   IPCC第五次評価報告書 

上図のIPCC(2007) 第4次評価報告書においてはホッケースティック曲線は消滅しています。
つまり20世紀に入って特異な気温上昇が見られたという説は、科学的信憑性が低いとIPCC自身が認めているということになります。

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また上のグラフは、中世温暖期は地球規模で見ても、中世の温暖期は現在よりも暖かかったとする複数の温度再現研究結果をまとめたものです。
中国においても同様の中世温暖期があったことが記録に残っています。

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                                     中国における中世の温暖期研究
https://www.clim-past.net/9/1153/2013/cp-9-1153-2013.pdf

また、このホッケースティック曲線が衝撃を与えた20世紀からの極端な気温上昇の中にも、下図のように1940年から1980年まで続いた「寒冷期」が存在します。
そういえば思い出しました。1970年当時の世界の気象学会はどんな警鐘を鳴らしていたのでしょうか。「来る小氷河期に備えよ!」でしたっけね(苦笑)。
そのわずか20年後に真逆ですか、まさに「君子ハ豹変ス」の見本ですな。 

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それはさておき、上の地球の気温変化グラフに、下図のCO2の排出量グラフを 重ねてみましょう。1940年~1980年にかけて、大気中のCO2濃度に低下が見られたのでしょうか、下図をご覧ください。

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 一目瞭然ですね。1940年のCO2排出量は50億トン弱、1980年には180億トン弱、つまり3.6倍になっているにもかかわらず、実際には寒冷期が来ているのです。
これをどのように、CO2の増大が地球の気温上昇につながったと整合性をもって説明するのでしょうか。 

下は極地における氷床ボーリングによる二酸化炭素とメタンの資料ですが、左端の現代と2万3千年前を較べれば同じだとわかります。
さらには1万3千年、3万3千年前にも高い時代がみられます。
The Vostok Ice Core: Temperature, CO2 and CH4
http://euanmearns.com/the-vostok-ice-core-temperature-co2-and-ch4/
 

Vostok_temperature_co2

これらをバッサリ切って視野に入れない、いや議論すらさせないでは、あまりに非科学的というもんではありませんか。
にもかかわらずその原因を一面的に人為的炭酸ガスのみに求めていき、経済や社会生活に大きな打撃を与えかねない現在の信仰にも似た風潮には疑問をもたざるをえません。

現在のグリーンファンドなどは巨額な資金を運用しており、いまや世界経済にも影響を与えるまでになっています。彼らの野望とこの人為的炭酸ガス説は無縁とは考えにくいのです。

 

 

2022年11月28日 (月)

地球温暖化は特に珍しい現象ではない

079

負ける時はこんなものです。
高安は続いて2回負けました。相性がわるいのは確かですが、確率論的にもありません。
2回目の優勝決定で負けたのは、よもや決定戦て変化するとは思わなかったからです。
それにしてもそこまでして勝ちたいのか、阿炎。
おまけに脳震盪おこしている力士を動かすとは、相撲協会の無知に呆れました。殺す気ですか。
ボクシングのように医療スタッフを土俵下に待機させておく時代にとうになっているし、そもそもあの高い土俵の構造ではしなくてもいいけが人が続出して当然です。

その後、いまやダースベーダー化した義時の陰鬱なるドラマを見てからのW杯観戦でした。
もう気分ダダ下がり。
案の定、日本代表は攻め続けてもテトラポットにハネ返される波のように一点がとれず、こういう状態はあぶないなと思っていたら、たった一発の主将のクリアミスで裏をとられて得点を許しました。

決定力不足のひとことに尽きます。
あんな単調な攻撃を繰り返しても、守りに入ったコスタリカには通じません。
上田綺世がかわいそうでした。いくら奮闘してくれていても活かせていない。
ミスパスが多くキラーパスがなし。これでは点につながりません。
ですから、いくらゴール前でFKをもらっても、CKをいくつ得てもまったく入る気がしませんでした。
やたら駆け回るが、決定力に繋がらない昭和の日本代表に戻ったような気分です。

「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」というそうですが、今回もそのとおりとなりました。
吉田の板倉の一発のロングパスで勝ち、吉田の一発のミスパスで負けました。
https://twitter.com/i/status/1596830789941202945


202111140

アゴラ

気を取り直します。
さて2020年に、CO2が史上最高値だったのを知っていますか。
なんとコロナの真っ最中で世界経済が最低だったのにかかわらず、CO2だけは出まくっていたことになります。

「ロンドン(CNN) 二酸化炭素(CO2)をはじめとする大気中の温室効果ガスの濃度は年々上昇を続け、昨年さらに観測史上最高値を更新したことが、世界気象機関(WMO)の新たな報告で明らかになった。
WMOが25日に発表した報告書によると、昨年のCO2濃度は産業革命前の149%を記録した。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で新たな排出量は一時的に減少したものの、大気中の濃度が過去10年間、次第に上昇してきた傾向に変化はみられなかった。」(CNN2021.10.27 )
CNN.co.jp : 大気中のCO2濃度、昨年も記録更新 世界気象機関の報告

これを炭酸ガス人為説の間違いの傍証のように言っている人がいましたが、そうではありません。
こういう時間差が出るのは、CO2が海洋や植物に吸い込まれる自然界の緩衝作用が働いているからです。
植物や自然界がいったんCO2を吸収して一定時間ため込んでから吐き出すのです。

では、いったいどのくらいの時間かかって吸い込まれているのかは大事なポイントです。 
というのは、海洋や植物に吸収されるまでに長い時間がかかるのです。
つまり、今この世界にあるCO2は、ただいま現在のものではなく、過去に由来して蓄積しているのです。
この蓄積期間にも説がいろいろとあるようですが、最短で5年間、長いもので200年間という学者もいるそうです。 

このCO2が自然界に吸収されるまでの期間を、「滞留時間」と呼びますが、これを最短の5年間ととると、モロに人間の活動によるという証明となります。
 一方200年ととると、人間活動との関係が微妙になります。 
というのは工業化のきっかけとなった産業革命が起きたのが18世紀半ばから19世紀だからで、人為説ならばそこから有意な気温上昇がなければならないはずですが、実は19世紀にはテムズような河が凍るような小氷河期が到来したこともあるのです。
また20世紀にも70年代には寒冷期が来ています。
その頃には氷河期がやってくると人類はおびえていたのをもう忘れたようです。

とろで、よく勘違いされていますが、地球温暖化は特に珍しい現象ではなく、COP26が言うように産業革命から突然始まったわけでもありません。
たとえば、日本の古代縄文期、古代ローマ時代、そして中世など、人類がこの地球上に現れてからもなんどとなく気温上昇をみました。

下のグラフは国立極地研究所の採取したもので、上から過去170年間、中は過去千年間、下は過去4千年間年の温度変化データです。
気象観測データ(赤線)と観測と気候モデルから導出したデータ(黒線)を、氷床コアを使った温度復元データ(青線)と比較 したものです。  

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●国立極地研究所、グリーンランド過去4千年の温度復元(2015年1月

 極地研は上図の結果から、このように述べています。

「気温変動の長期傾向としては、過去4千年間で1.5℃程度の寒冷化傾向を見いだした。
過去十年間(西暦2000年から2010年まで)におけるグリーンランド氷床の頂上付近の平均気温は、過去千年の温度記録のなかで2度起こった特に気温の高い時期に匹敵することが判明した。
なお、それらの高温期は西暦1930-1940年代と西暦1140年代に発生している。
過去4千年間には、現在を上回る温暖期が繰り返し発生していることがわかった。
これらの結果から、最近十年間の平均気温は、過去4千年でみれば自然起源で変動しうる範囲に収まっている」(極地研前掲)

極地研は、「人為起源の温室効果ガスの放出により今後さらに温暖化が進行することが懸念されている」としなからも、過去千年に3回数十年の期間に渡って30度以上の期間があったとしています。
まず中央のグラフをご覧下さい。左から西暦1140年代頃(中世温暖期)、1930~1940年頃、そして現代2000年代の3つです。

さらに上段グラフを見ると、過去4千年まで時間を遡れば、紀元前にはたびたび30度を超える時期が存在しているのがわかります。
また下段グラフはいちばん直近の170年スパンの温度変化ですが、1930年代に30度を超えた期間があるものの1970年代には寒冷化の時期も存在します。

このように見ると、極地研が言うように、「最近十年間の平均気温は、過去4千年でみれば自然起源で変動しうる範囲に収まっている 」というのが正直な事実で、地球の温度は上昇と下降を繰り返しているのです。
決してCOPが警告するように産業革命以降一本調子で上昇し続けているわけではありません。

では、CO2増大と気温上昇には相関関係があるのでしょうか?
そう、確かにあることはあります。
ただし、一般に流布されているように「CO2増大によって気温上昇が起きた」のではなく、その真逆のプロセスによって、ですが。 

今日もグラフばかりで恐縮ですが、次の図をご覧ください。 

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上図の破線がCO2です。実線が気温です。一見パラレルですが、よく見ると面白いことに気がつきませんか。
そうです、CO2の増大は気温上昇した「後」に発現しているのです。 
この現象はちょうどサイダーを温めるとブクブクと炭酸の泡が出てくるように、海水面の温度上昇により海水に含まれていたCO2が空気中に放出されるからです。 

現在の気温ですとCO2放出が支配的ですが、0.6℃低下するとCO2濃度の上昇は止まるとの説もあります。 
ひとつつけ加えれば、CO2は自然界からも放出されており、人間活動由来なのは、そのうちたかだか3%でしかないのです。 
このように考えると、大気中の質量比0.054%にすぎないCO2が、その6倍もの0.330%の質量比をもち、5.3倍の温暖化効果をもつ水蒸気より温暖化効果があるというのは不自然ではないでしょうか。 

なんらかの原因で地球が温暖化した結果、海水温が上昇し膨大な水蒸気が発生し、それに伴ってCO2も放出されたと考えるのが素直だと思われます。 
また、そのCO2排出量のわずか3%ていどしか人間由来でないとすれば、人間活動由来のCO2「こそ」が地球温暖化の主犯であると決めつけるのは、あまりに飛躍がありすぎるように思えます。 

私は人為的炭酸ガスが増大していることは事実だと考えていますし、それが温暖化の一因となっていることも確かだろうと考えています。
また歯止めのない工業化が自然環境を破壊していることも事実だと思っています。
さらに現在なにかしらの複合的原因で、地球温暖化が進行する時期に当たっていることも事実だと思います。
ここまではCO2人為説派と一緒です。

ただしここからが違うのですが、地球温暖化の原因と思われるのは、太陽黒点の変化などたぶん片手の指の数では足りないほど存在します。
そのうちの有力な説のひとつが、黒点変化説です。

太陽の黒点の数はガリレオの時代から観測されています。黒点数と地球の気候に相関があることは以前から知られていました。
黒点数はおよそ11年の周期で変動していますが、17世紀のマウンダ―期とよばれている時代にはほとんど黒点がありませんでした。
下図の縦軸が太陽黒点数で、横軸が気温です。
縦軸が減少すると、気温も低下しているのがわかります。

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太陽黒点数の変動 「気候変動とエネルギー問題」深井有

この時期にはロンドンのテームズ河が冬に凍り、氷の上でスケートをする絵が残されています。19世紀初めにも黒点数の少ないダルトン期があり、それ以降現在まで黒点数は上昇傾向にあります。
黒点数の変動周期と地球の平均気温をプロットしたのが下図で、太陽黒点と地球気温はあきらかな相関性を示しています。

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黒点数と平均気温の相関  深井前掲

つまり太陽の黒点が減り、その周期が伸びると地球は寒くなり、その反対は暖かくなるのです。
このような太陽黒点と地球気温の研究はいくつかあります。

下図は名古屋大学小川克郎名誉教授による、地球寒冷化を示す観測データです。

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尚業千、菅井径世、小川克郎『過去110年間の地球気温変化とCO2放出及び太陽活動との関係~NASA/GISS気温データベースによる』
Microsoft Word - 小川先生編集.doc (mottainaisociety.org)

 先入観なしにご覧ください。
あきらかに気温、気候の変化は太陽活動と相関しています。
単調な人為的CO2増加では説明が出来ません。
しかしこの太陽黒点の変動だけでも説明しきれず、宇宙線による変動説(スヴェンスマーク説) や地球規模の海流の変化など諸説があります。

頭を冷やしして視野を拡げましょう。
あと20年もたったら、なぜあのとき世界全体が狂ったようにひとつの方向に進んでしまったのか不思議にさえ思うことでしょう。
この勢いはとまりません。
すべての国家と膨大な企業が一定方向に動いた場合、行くところまで行き着かないと止まらないからです。

 

 

2022年11月27日 (日)

日曜写真館 蜜蜂は光と消えつ影と生れ

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花芯ふかく溺るる蜂を見て飽かず 木下夕爾

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われ蜂となりて向日葵の中にゐる 野見山朱鳥

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一日に一度は見上ぐ山茶花を 細見綾子

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小鳥来る山茶花一つ花咲かせ 山口青邨

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妙に素直に蜂のあくせく夢の中 阿部完市

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ぶつかれば激し十一月の蜂 中戸川朝人 

 

2022年11月26日 (土)

ノルウェーのエコミーイズム

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ノルウェイの急進的なEV政策について、もう少し詳しく見ていきましょう。
昨日見てきたように、脱炭素するにはカネがかかります。
膨大な数の充電施設をつくらねばならいので、インフラ整備から始めねばなりません。
そもそもEV(電気自動車)など、ただの自動車として見た場合、性能的には百年以上の歴史のあるガソリン車に及ぶべくもない未完成の技術です。

特に問題なのは、バッテリー技術が追いついていないことです。
フル充電まで実に8時間もかかりますから、使いたいときに使えるとは限りません。
そのうえフル充電しても、通常バッテリーで連続走行すると320㎞、大型バッテリーでも450㎞ていどです。
行った先に充電施設がなければ、牽引してもらうしかなくなります。
つまりは未完成のインフラの上でしか動けない不便にして、未完成のハンチクな車なのです。

ウクライナ戦争でガソリン価格が高騰したからEVのほうが有利だと言う人もいますが、下図のWTI原油先物市場を見ればわかるように、原油価格が高騰したのは一時的なもので、再びバレル80ドル前後まで下落して落ち着いています。

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マーケット|SBI証券 (sbisec.co.jp)

ですから、EVの意義があるとすれば、唯一「脱炭素」という一点だけに限定されてしまいます。
しかも脱炭素という以上、消費末端の車だけ脱炭素しても無意味です。
エネルギー源から末端まですべの行程で脱炭素しなければなりません。

ですから、脱炭素のエースとなっているEVは、発電から化石燃料を排し、製造工場の電力源も非化石燃料で賄わねばならないわけで、けっこうこれが大変です。
だって一国のエネルギー構造を根本から変えねばならないんですからね。

日本のエコ趣味者がいくらEVに乗ろうと、それを動かす電気が化石燃料を燃やして作っているのですから、ただのファッションです。

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EVのソーシャルデザイン革命、日産リーフ×坂本龍一さんインタビュー - ITmedia ビジネスオンライン

ノルウェイはさすが北欧の世田谷、自他ともに認める意識高い系国家ですから、こんなベタなことはしません。
発電から一貫してエコです。ほぼすべてが水力。

ノルウェイは北海油田という宝物を抱えている国でありながら、すんなりこの原油を自分の国で使わずに、「悪魔の化石燃料」はドイツに押しつけてそこでじゃんじゃん燃やさせています。
ノルウェイの空はキレイになっても、ドイツの環境は汚れてもよいということのようですが、もちろんこれでは地球全体のCO2は減りません。

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株式市場が注目!海外企業:ノルウェーの最大手エネルギーのエクイノール、原油高で業績好調とロシア撤退の背景=小田切尚登 | 週刊エコノミスト Online (mainichi.jp)

ところでノルウェイ最大の輸出品 は、原油と天然ガス、石油製品まであわせると86%にもなってしまいます。
日本で有名な魚介類などわずか10%にすぎません。

「2021年の最終四半期には、ノルウェーの石油とガスの輸出は月額1,000億ノルウェークローネ(115億米ドル)以上に達しました。これは、前年同期のほぼ3倍です。2021年の石油生産量は1億200万標準立方メートルに、天然ガスの生産量は1,130億立方メートルに増加しました。
ノルウェーは現在、ノルウェーの大陸棚で利用可能なすべての石油およびガス資源の約半分を抽出しています」
ノルウェー:2021年に石油とガスの輸出収入を記録!他にどのように彼らは大規模なEV補助金に資金を提供することができたでしょうか?– (wattsupwiththat.com)


  数 十億 %  
原油  $     29.6 43%  
天然ガス  $     23.0 34%  
石油精製品  $        6.1 9% 86%
鮮魚  $        6.8 10%  
生アルミニウム  $        2.9 4%  
トータル  $     68.5 100%  
欧州経済開発委員会

   wattsupwiththat.com

ですからノルウェー石油局のイングリッド・ソルベリ局長は原油の需要と価格が急上昇した年には、手放しで「素晴らしい年だった」と式典で叫んでしまったそうです。
もちろん彼女はこのスピーチで、ただのひとことも「気象変動」とか「脱炭素」などには言及しませんでした。
なかなかのプラグマチストぶりです。

では化石燃料を輸出しまくって炭酸ガスを排出していることを恥じて減産するのかとおもいきや、ノルウェイは原油価格の上昇に気をよくして増産するそうです。

[オスロ 6日 ロイター] - ノルウェー政府予算案によると、同国の来年の石油生産は15%増加する見通し。ヨハン・スベルドルップ油田が年内に増産する予定。
政府は「ノルウェーの大陸棚はこの厳しい時期に引き続き欧州に安定的、長期的に石油・ガスを供給しなければならない」と表明した。
来年の天然ガス生産は1210億立方メートルとなる見通し。今年は1220億立方メートルと予想されている。
ノルウェーはロシアのガス輸出削減を受け、欧州最大のガス供給国となっている。ヨハン・スベルドルップ油田で産出される原油は、ロシア産ウラル原油の代替として利用されている」
(ロイター2022年10月6日 )
ノルウェーの石油生産、来年15%増加へ=予算案 | ロイター (reuters.com)

なぜ、原油市場が高騰したのかといえば、対ロシア制裁によって供給が減ったからです。
このロシア制裁は軒並みヨーロパ諸国にエネルギー不足をもたらしました。
特にノルドストリームで、ロシアとガッチリ結ばれていたドイツなど真っ青になったようです。
しかしご心配なく、ノルウェイがその分を補ってくれています。
ドイツが青くなれば、ノルウェイは上機嫌になるという仕組みです。

では、このアコギとも言えそうな化石燃料商法で稼ぎだした収益は、どこに入っているのでしょうか。
石油事業はすべて国営ラインで運営されています。
政府系石油企業が採掘し、収益は国の財政を経由して政府系ファンドに化けます。
EV化にかかる膨大な支援金は、すべてここから支出されています。

「ノルウェーは世界で最も経済的に豊かな福祉国家の一つとして知られるが、それにはエクイノールが大きく貢献している。原油の売上高による収益の大半はノルウェー政府年金基金として積み立てられ、国際金融市場に投資されているためだ。同基金はこうした原資で国民の年金資産を運用しており、21年末時点の運用総額は12兆3400億クローネ(約172兆円)と政府系ファンド(SWF)では世界最大だ。
エクイノールの21年12月期の売上高は909億ドル(約11兆4534億円)であった。その80%がノルウェーで、米国(14%)とデンマーク(5%)を加えた3カ国が売上高のほぼすべてを占める。商品別では石油とガスがほぼ半々の比率である」
(エコノミスト2022年5月2日)
株式市場が注目!海外企業:ノルウェーの最大手エネルギーのエクイノール、

ここに出てくるエクイノールとは、ノルウェイに本拠を置く北欧最大のエネルギー企業です。
その売り上げたるや2021年には11兆4534円だそうです。
ちなみにトヨタが31兆3700億円ですから、その約3分の1という超大企業で、しかも国営です。
ノルウェイ最大手の企業が国営というのですから、まるで社会主義国のようです。
エクイノールは世界の石油企業ランキングでも9位です。

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オイルメジャー・石油開発業界の世界市場シェアの分析 | ディールラボ (deallab.info)

このエクイノールこそが、ノルウェイの脱炭素の財源です。
ノルウェーの石油・ガス等の生産量は日量400万バレルに達し、日量400万バレルと言えば日本の石油消費量とほぼ同じです。

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ノルウェーの石油・ガス生産量(1971年~2022年)
via www.npd.no

しかもノルウェイはロシア制裁を奇貨として前年同期の約3倍にあたる大増産をかけています。

このペースで増産するなら、15兆円もの輸出になるそうです。
おいおい。エコ大国が炭酸ガス増やしてどうすると思いますが、彼らの脳内では整合性があるらしく、石油・ガスの生産で収入を得て、それでEVを導入することで帳消しのようです。
まるでマフィアが、人を殺して教会に駆け込んで懺悔するみたいな話です。

こんな急速なEV導入は日本では無理です。
日本にはノルウェーのような油田がありませんから、相当の経済負担をせねば不可能だからです。
岸田さんなら「有識者」を集めてエコ税などを答申させそうですし、小池さんなら来年度からは都内でのEV以外の新車販売を禁じます、なんてやりそうです。
こういうカラクリとは無縁なわが国でこんな馬鹿げたEV化は不可能なのです。

 

2022年11月25日 (金)

ノルウェーが世界一の脱炭素国になれたワケ

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なんにでも裏があるというとありきたりですが、ノルウェーが世界一のEV(電気自動車)普及国になった理由を考えると、いまのヨーロッパの脱炭素事情がわかってきます。

あまり知られていないかもしれませんが、ノルウェーは世界有数の脱炭素国家です。
エネルギー資源分布を見てみましょう。
赤色が石油、紫色がバイオ、青色が水力です。

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ノルウェーの国情および原子力事情 (14-05-06-01) - ATOMICA - (jaea.go.jp)

ノルウェーでは、石油・天然ガスエネルギー資源は主に輸出用であり、自国の電力は水力発電によって賄われる。渇水時等で電力不足が発生した場合は、スウェーデンなどの隣国またはロシアからの輸入電力によって不足分を補う。ノルウェーには原子力発電所はないが、1950年代から原子力の基礎研究を行っている」
ノルウェーの国情および原子力事情 (14-05-06-01) - ATOMICA - (jaea.go.jp) 

上図でわかるように、ノルウェーが北海油田を抱える世界有数の石油産出国と聞くと、サーモンとノーウェジアン・ウッドの国なんて思っていた私はビックリしましたが、なんとこれを全量輸出に当てて、自分の国のエネルギー源としては使っていないと聞くと二度びっくりしちゃいました。
自国の石油資源を使わずに全量輸出してしまうなんて、原油が一滴もとれず、常に中東諸国にもみ手している国の民族には想像を絶する国です。
水力が主力ですが、渇水期には電気を輸入してでも、原油だけは輸出するという根性の座りっぷりです。

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ドイツのエネルギー資源-自給率。輸入依存度、輸入先 ‐ドレスデン情報ファイル (de-info.net)

たとえば上図のように、ドイツなどはこのノルウェーからガッポリと石油を買い込んでいます。
中東なんぞよりはるかに多くのノルウェイ産原油に依存しているのですから、たいしたものです。
ノルウェー産原油は、ウクライナ戦争前で既に2、3位でしたから、ロシア産なき後いまや原油輸入の最大手ではないでしょうか。

「2019年の原油輸入量は約8,587万トン。最大の輸入相手国はロシアで31.5%、次いで、英国(11.9%)、ノルウェー(11.3%)、など。
中東諸国の割合は全体で5.4%にとどまる。その中ではイラクが最大で、3.1%を占める」
(ドレスデン情報ファイル)

つまり、ノルウェーは世界有数の産油国でありながら、自国ではまったく使わずにドイツなどに輸出している、という非常に「意識高い系国家」なのです。
つまりは、悪魔の化石燃料は全部ヨソさんの国に売ってしまう、自分はクリーンな水力で暮らす。
ヨソで出たCO2は知らん、というわけで、なかなか見上げた根性です。
さすがはノーベル平和賞を選ぶ国だけあります。
でも、それってエコミーイズムじゃないかしら。

これを頭に置いて、ノルウェーのEV自動車の普及率をながめてみましょう。

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日経

「【フランクフルト=深尾幸生】ノルウェーの2020年の新車販売(乗用車)で電気自動車(EV)が初めて全体の半分を上回った。ノルウェー道路交通情報評議会(OFV)が5日発表した同年のEV販売台数は19年比27%増の7万6804台で、シェアは54%と12ポイント上昇した。単月では過半に達していたが通年で超えるのは初めてだ」
(日経2021年1月6日)
ノルウェー、EVシェア通年でも過半に 20年54%: 日本経済新聞 (nikkei.com)

販売車上位はアウディのEV「e-tron」、米テスラ「モデル3」、独フォルクスワーゲン(VW)「ID.3」だそうです。
なんと売られている車は半分がEVで、プラグを差して充電するプラグインハイブリッド車(PHV)ののシェア20%を加えると7割以上がEVです。
確かにヨーロッパでは急速なEV化が進行しています。
水色がEV車、オレンジがガソリン車です。

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アゴラ研究所

「欧州においては官民一体でのEVシフトは急激に進んでいる。先月2021年11月のドイツのEV(純電気自動車:BEV、プラグインハイブリッド車:PHEV)のシェアは34%を超えてガソリン車を超えた。これは北欧などの小国を除くと初めてのことだと思う。またその他英国やフランスのEVのシェアも20%を大きく超えてきている」
(黒木照弘2021年12月28日)
欧州、特にドイツにおける電気自動車の急激な普及 | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)

ちなみに我が国は、ハイブリッド車が37%であるに対して、EV普及率はわずか0.4~1.2%でまったく低調で、いま日本で電気自動車買うのは意識が高い好事家しかいません。

では、ノルウェーはどうしてこんな極端ともいえるEVシフトが可能だったのでしょうか。
キャノングローバル研究所・杉山大志氏『「EV先進国」ノルウェーを支えているのは"北海油田"という矛盾』(20022年2月22日)がその謎を解いてくれています。

EVは実は大変なカネ喰い虫です。だってそうでしょう、急速充電施設だけで気が遠くなるような数が必要です。
EVはこの充電施設がないかぎりただの鉄の箱でとなってしまいます。
これを今のガソリンスタンド以上に全国津々浦々に作らないと、EVは普及しません。
この無理を押して普及させようというのですから、国策としての優遇策を取りました。

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「EVシフトは綺麗事ばかり」電気自動車先進国の「悲惨な現状」とは | MOBY [モビー] (car-moby.jp)

「だがこの背景を探ると、その強引さが目立つ。石油には重い税を掛ける一方で、電気自動車は税の減免を受けている。EVは駐車料金や高速料金も割引されており、バスレーンの利用などの優遇措置も手厚い」
(キャノングローバル研究所・杉山大志氏『「EV先進国」ノルウェーを支えているのは"北海油田"という矛盾』20022年2月22日)
「EV先進国」ノルウェーを支えているのは"北海油田"という矛盾 | キヤノングローバル戦略研究所 (cigs.canon)

EVは取得減税、駐車料金は割引、高速道路を走ってもタダ同然、バスレーンも走りたい放題ですか、スゴイね。

 ●ノルウェイのEV優遇策
  ・購入・輸入時の税金がかからない(1990年~)
 ・ 購入時の25%の付加価値税を免除(2001年~)
 ・道路税(1996年~2021年)の免除。2021年から軽減税率。2022年からは全額課税
   ・有料道路やフェリーの料金が無料(1997- 2017)、フェリー料金は定価の50%以下(2018年~)
 ・ 有料道路の料金は最大で定価の50%(2019年)
 ・ 市営駐車場の無料化(1999年~2017年)、 駐車場料金の上限を定価の50%以下(2018年~)
 ・ バスレーンの利用が可能(2005年~)
 ・ 社用車税を50%減税(2000年~2018年)。軽減率を40%(2018年~)、2022年からは20%に引き下げ
 ・ リースにかかる25%の付加価値税を免除(2015年)
 ・ 電気ワゴン車に変更する際の石油ワゴン車の廃車に対する補償(2018年)

                                                                                                                     (杉山前掲)

ここまでしても、ノルウェイという人口500万人ていどの小国ですら肝心要の急速充電装置が足りないのです。
不足が特に露になるのが、人口が多い都市部です。

「人口が多いノルウェー南部では、EVシフトの悲惨な現実が浮き彫りになっています。ノルウェーの高速道路には多い所で20基以上の急速充電設備が設置されていますが、それでもお盆や正月は、交通量が増えて大規模な充電渋滞が起こります。
充電設備の数はおおよそ日本の20倍ほど設置されていますが、これだけ整備されても一切のストレスなくBEVを使うには不足する様子。充電渋滞は同じくEV先進国である中国でも問題になっています」
「EVシフトは綺麗事ばかり」電気自動車先進国の「悲惨な現状」とは | MOBY [モビー] (car-moby.jp) 

大都市では500万人の国でも急速充電器の前に長蛇の列。
たぶん中国はEVにひとかたならぬ力を国策として投じていますが、あのだだッ広い国でいったいどれだけの急速充電装置が要るのやら。

上海のような2500万都市で、共産党がEVしか認めん、なんてやったら暴動が起きるかもしれません。
わが国でも、たとえば東京都でEV化などしたら、たちまち大渋滞が一斉に起きて都市交通がマヒするでしょう。(小池さんならやりそうなのでコワイ)

普及率が幸いにも低い我が国でも、EV充電器はいつも大混雑です。

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EVスマートブログ

「充電は一般的に30分かかりますので(スポットにより異なります)、1台待ちが出ている場合には平均的に15分待った後、充電を開始しますので、通常は30分で済むところが45分かかることになります」
電気自動車の充電スポットは混雑していて、待たなきゃなんない? - EVsmartブログ

そしてこのEV優遇策が可能だったのは、杉山氏によれば、ズバリ北海油田が生み出す潤沢な収入があったからです。

「そして、このような大盤振る舞いがなぜ可能かというと、北海油田の石油・ガスの輸出から潤沢な収入が得られるからだ。現状では、EVは実力で普及しているのではなく、政策的に強引に導入されているに過ぎない。ノルウェーを見て同じようなことがすぐ日本でもできると思うのは早計である」
(杉山前掲)

つまり急進的なEVシフトには優遇策があって、その財源は原油輸出なのです。
化石燃料を売って脱炭素国家を作る、おお、これを矛盾に感じないのですからさすがと言ってあげましょう。

まぁあたしゃゼッタイにEVなんか買わんね。こんな不完全なインフラしかない未完成な技術のEV買ってどないする。
排気ガス対策を
重ねた、日本のガソリン車は世界でもっとも完成された自動車技術です。

 

 

 

 

2022年11月24日 (木)

岸田さん、終了の鐘が聞こえます

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ドヒャー、な、なんとW杯でドイツに勝ってしまったぁぁ。
腰が抜けた。いまでも信じられない。

さて気を取り直して、今日は気楽に床屋政談をいたします。
内政は誰が書いても似たようなかんじになるのであまりやりたくないのですが、ま、いいか。

岸田政権が早々と行き詰まってしまったようです。
当然といえば当然ですが、参院選の後に盛んに言われていた、あの「黄金の3年間」はおーいどこにいったんだ~い。
3年間どころか、泥沼の1年じゃないか。

「岸田文雄首相が総務相だった寺田稔氏を事実上更迭し、閣僚の辞任は1カ月間で3人目となった。首相は当初、重要法案への影響を避けるため寺田氏の続投を探ったものの、自民党内外や世論の辞任論を受け転換した。党内にはさらなる閣僚交代に向けた内閣改造論もくすぶる。
「大変ご迷惑をかけて申し訳ない」。首相は21日、首相官邸で会談した公明党の山口那津男代表に寺田氏の辞任について頭を下げた」
(日経11月21日)
くすぶる内閣改造論 岸田首相、遅れた寺田氏更迭: 日本経済新聞 (nikkei.com)

なんでも、メディアによれば、岸田氏は予算編成後の12月から1月召集の通常国会までに、人事の改造に踏み切る可能性があるということのようです。
理由はご承知のとおり、わずか1カ月で閣僚のうち山際大志郎前経済再生担当相、葉梨康弘前法相、寺田稔前総務相を相次いで失い、さらに秋葉復興大臣までスタンバっているようで、もうメタメタ。
かてて加えて、岸田氏自身の公職選挙法の白紙領収書問題も浮上して、もう満身火達磨。

そこで改造ですって。馬鹿だね。
貧すれば鈍する。候補まで入れれば4人、自分も入れれば5人も辞任しては改造しか思い浮かばないのでしょうが、拙速で改造してもロクなことにはなりませんぞ。
空気は入れ替わらず、ろくな身体検査もしていないものだから、鵜の目鷹の目でゴシップを探しているメディアにまたつつきだされるに決まっています。

こういうじり貧モードになると、岸田氏の悪い所だけ出ているのです。
決断ができない、やさしいといえば言えるが優柔不断。
今回の寺田氏の斬り方が典型です。
いやね岸田さん、そもそもこの一件は寺田氏自身が釈明しているように一大臣の首が飛ぶようなことじゃないんですよ。

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ドキュメント 寺田総務大臣更迭 辞任ドミノ “岸田流”の顛末は | NHK政治マガジン

「当然、建物の所有者には賃料を支払います。金額も適正で、収支報告書に適正に記載しています。妻も適正に税務申告している」
また、人件費としてスタッフらに毎年500万円ほど支出しているのに、税務申告を行っていないのではないかと指摘された質問には、手元のメモを見ずに、こうそらんじた。(略)
寺田は旧大蔵省出身。20代で税務署長も務め、主計局で予算査定にあたる主計官も務めた」
(NHK11月23日)

寺田氏は税務署長もやったし、なんせ時めく主計官だっただけのお人だけあって、数字にめっぽう強いはずなのに事務所がつまらないチョンボをしたようです。
まずいことはまずいが、しかしそれで政治生命をなくすようなことではないのです。
これが二代目三代目の議員ともなれば、城代家老みたいな人がでてきて、すべて選挙責任者の私の責任でございます、と腹を切るのですが、あいにくこの人は不動産屋の伜で初代。だれも守ってくれない。

しかし初めは追及にはめげなかったのですが、次から次に「疑惑」がでてきてとうとう詰まってしまったようです。
なんせワイドショーはしつこいですからね。
それになんといっても、この人には岸田御大がバックについていました。
岸田氏と寺田氏は同じ宏池会、しかも同じ広島出身、しかも増税派。
だからなんとか守りたかったのでしょうが、決断しないままタイに行ってしまいました。

残された寺田氏は辞任を決心していたようです。
予算案がかかっている国会審議が空転していますから、辞めてしまえばなんとかなると考えたのでしょう。
しかし、自民党執行部が辞任ドミノを恐れて止めたようです。
帰国した岸田氏も止めたが、決心は変わらずに辞任してしまったという顛末。

国民から見れば、スパっと切ればカッコウがついたものを、初めは辞めさせる必要はないとかばっておいて、手のひら返ししたように見えてしまいます。
公明党からは葉梨の時になぜ一緒に切らなかったと怒られる。
それでなくてもこの「友党」は、旧統一教会騒動の火の粉が降りかかって来ることに怯えて、イライラしていた時ですから。
こういう守るなら徹底して守る、守れないなら泣いて馬謖を斬ると見得を切って見せるくらいでないと、首相は勤まりません。

守るか切るかの二択しかないんですら、「決断と 実行」しなさい。

ことほど左様に、なにもかも決断が遅いのです。
参院選までは昼寝をしてワイドショーを観ていた罪です。
このグータラの半年をやったために、3割と呼ばれる岩盤の保守層からすっかり見切りをつけられてしまいました。
で、参院選が終わったらピシっとするかと思いきや、安倍氏国葬を決めたではいいのですが、いつやるんだという間延びぶり。
すっかりその間にアチラ系に「被害者は山上。安倍は殺されてもとうぜんの悪魔」という空気を作られてしまいました。
これじゃあ、安部氏を毀損したくて国葬をしたのかという気分です。
亡くなって1カ月以内に国葬を行っていれば、あんなことにはなりませんでした。遅い。

一方メディアからすれば、党内左派の岸田氏は安部氏の復権を阻む壁として期待していたために、初めの半年は異様なほどソっと無風状態に置いてくれました。
岸田氏もそれを知っているので、ワイドショー民が嫌うことは一切言わない徹底ぶりでした。
だから支持率はなにもしていていないのに6割超え。
これを岸田氏は実力だと勘違いしちゃったようです。
違うんだって、メディアは安部氏がいたから岸田氏を立てていただけで、安部氏が死ねばしょせん岸田氏も自民。もう用済みなのです。
結局、この無為の半年の間に、本来岸田政権を支持していたはずの岩盤の保守層に愛想を尽かされてしまいました。

何度も書いてきたので繰り返しませんが、旧統一教会問題でも、寺田問題と一緒で、ピシッと原則をたててから対応せずに、ワイドショーを見てきめるものだから、ズルズルどこまでも後退。ここでも遅い。
初めから、「政治家は国民が求めれば誰の所にでも政見を語りに行きます」と言ってりゃあよかっただけのことです。
とうとうこれが政権の命取りになりそうです。

防衛費増額は、今の中国や北朝鮮、あるいはウクライナ侵略をみれば、だれひとり反対する者なんかいないはずなのに、財務省がリストアップしたような「有識者」を集めて会議を作らせて、出てきた答えが水増しと防衛増税ですから、なんともかとも。
改悪させるために「有識者」呼んだのでしょうか。

「岸田文雄首相は22日、防衛力強化に関する政府有識者会議座長の佐々江賢一郎元駐米大使と官邸で会い、報告書を受け取った。報告書は、防衛費増額のために不足する財源について「国民全体で負担することを視野に入れなければならない」とし、事実上の増税を提起。抑止力向上のため敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有が不可欠だと明記した」
(共同11月22日)
岸田首相が増税を提起 防衛費増額に「国民全体で負担することを視野に入れなくては」 - 社会 : 日刊スポーツ (nikkansports.com) 

防衛費増額は増税で、というのは岸田さん自身の考えです。
岸田氏が財務省のいいなりなのは有名です。
だから増税派ばかりを集めて、防衛問題の専門家がひとりもいない有識者の配置にしたのです。
メンバーを選んだのは財務省、彼らがあらかじめペーパーを作って粗筋を決め、「えーお配りした資料にありますとおり」と落とし所まで作ってあります。
これは私も多少経験していますが、官庁が民間から「貴重なご意見をお聞きする」時に必ず使う手管です。
初めから防衛費増額は増税でやる、と結論ができていたのです。
防衛増税する課目も、「法人税と所得税に加え、たばこ税、金融所得課税の計4税目の増税論」と決めてあったようです。

「政府・与党は、有識者会議の報告書を踏まえ、防衛費の規模や財源の調整を本格化させる。年末に国家安全保障戦略と併せて改定する中期防衛力整備計画(中期防)や2023年度予算編成・税制改正を通じ、今後5年間の歳出・歳入の枠組みを定める方針で、与党内では基幹税目である法人税と所得税に加え、たばこ税、金融所得課税の計4税目の増税論が浮上している。
報告書では、防衛費拡充の財源について「幅広い税目による負担が必要だ」と明記。原案で財源の候補として盛り込んだ「法人税」の文言は経済界の反発が強く削除した」(時事11月23日)
防衛費拡充へ調整本格化 与党、法人・所得増税を視野:時事ドットコム (jiji.com) 

「財源は国民が負担する」という言い方でオブラートに包んでいますが、もう増税したくて腕をブンブン振り回しています。
「安易な国債発行は超インフレになる」なんてヨタ飛ばしてた「有識者」がいたようですが、デフレ下ではゼェータイになりません。
防衛は国民生活を守る大きな堤防のようなものなのですから、建設国債でもなんでも充当すればよいのです。

それに妙に触れないようにしているようですが、外為特会の為替差益37兆円をお忘れでしょうか。
与党が黙っているもんだから、国民民主の玉木氏にこう突っ込まれてしまいました。

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東京

「外為特会は為替相場の安定のため、急激な変動時の為替介入などに備えて設置。主にドル建ての米国債で運用され、今年3月末時点の資産残高は約1兆3000億ドル。円換算の決算残高は約158兆円だった。
 玉木氏は、円安によって外為特会が円ベースで膨張していると指摘する。今月6日の衆院代表質問では、年初の1ドル=116円から145円になった際に約37兆円増したとの試算を披露し、「国の特会は円安でウハウハだ」と強調。「円安で苦しむ個人や事業者のため、緊急経済対策の財源に充てて」と求めた」
(東京10月26日)
円安で為替差益が37兆円?野党が外為特会の「埋蔵金」に熱視線 それでも岸田首相が冷ややかな理由は…:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp) 

玉木氏がいうように、外為特会とは為替介入のための基金ですが、いまや円安で含み益が37兆もあるのですよ、お立ち会い。
増税、増税という前にどうしてこれを使わないのか、そちらのほうがヘンです。
1年間に防衛費を倍増させてもあと5兆ですから、この先7年間はこれで充当できます。
国債との合わせ技を使えば、もっと長く引っ張れます。
それをいきなり「国民のみなさんに負担願う」ですから、豆腐の角にアタマをぶつけて死んでしまえ。

こんなていたらくですから、保守層の岸田人気はボトムです。
うちのブログなんか、褒めるべき時は褒めてきましたが、もう愛想が尽きました。勝手にしなさい。
アチラ系は、本来なら親和性が高いはずの宏池会系首相なのに、ワイドショーでは毎日バッシングです。

当然のこととして、内閣支持率もまっさかさまですが、保守層から既に見放されていますから歯止めがかかりません。
もはや支持率レッドゾーンの30%台、首相辞めろが40%台です。

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「首相早く辞めて」43% 「寺田氏辞任すべきだ」70% 毎日新聞世論調査 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

一方、政党支持率のほうは、自民は堅調で4割弱の支持率をキープしています。
ですから世論調査では、自民は支持するが、岸田はイヤなのです。

その理由はあまりにも立憲が悲惨だからで、支持率は1割以下の7.2%。
維新にムネオがいなければ、とうに逆転されていたでしょう。

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政党支持率 自民39.5% 立民8.2% 内閣支持率は上昇 | NHK政治マガジン

ですから今の政権の支持率は低調でも、いわゆる青木率(政権支持率+与党支持率)では70%を確保しています。
60%を切ると回復不能でのポンコツで、あとはジャンクボックス行きだそうですので、よかったですね、岸田さん。まだ余命がありそうです。

ちなみにあの3年半の異星人支配を引き起こした、2009年の麻生政権末期の内閣支持率と政党支持率を見てみましょう。
なんと自民は民主にひっくり返されています。

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asahi.com(朝日新聞社):自民支持率、最低の20% 朝日新聞緊急世論調査 - 2009総選挙

麻生内閣の支持率はこんなかんじでした。

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asou2 (meijo-u.ac.jp)

なんと麻生内閣支持率は10%チョボチョボ。よくここまで落ちたものだと感心しますが、当時はそういう空気だったのです。
青木率に換算すれば、40%ていどですからリカバリー不可能です。
ウワーイ、民主党政権がやって来ると、狂喜乱舞した朝日は、当時こんな記事を書いていました。

「「いま投票するとしたら」として聞いた衆院比例区の投票先も民主42%、自民19%と民主が圧倒。内閣支持率は17%で、前回の20%から下落した。(略) 望む政権の形を聞いた質問では、「民主中心の政権に代わるのがよい」が49%で、「自民中心の政権が続くのがよい」は22%にとどまった。前回はそれぞれ47%、24%だった。他の回答傾向と合わせ、政権交代を求める機運がさらに高まっている」
(朝日2009年7月19日)

まぁ、当時の空気を知っている者とすれば、支持率8%くらいで野党第一党を豪語している今の立憲ならばコワイことありません。
当時の流行り言葉で言えば「政権交代」するには、せめて立憲が単独で30%以上、他の野党と合わせて自民の4割を凌ぐ支持率を叩き出さないかぎりダメです。
したがって、岸田政権は、いくら追い詰められても、解散する道理がないので、メディアは盛んに「次の首相は誰」なんてやって、ミニ政権交代の空気を作ろうとしているのです。

そりゃ菅さんがやるのが一番ですよ。菅さん、カンバーク。(エコーかけてね)

 

2022年11月23日 (水)

ロシアが仕掛けるウクライナ経済破壊戦争

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ウクライナ軍の力強い反撃とは裏腹に、ウクライナ経済は崩壊の危機に瀕しています。
原因はいうまでもありませんが、ロシアによるウクライナ侵略です。
ロシアの侵略の影響を直接に受けたのは電力でした。

「[キーウ(キエフ) 18日 ロイター] - ウクライナのシュミハリ首相は18日、国内のエネルギーシステムのほぼ半分がロシア軍の攻撃により機能停止状態に陥っていると明らかにした。首都キーウ(キエフ)の当局者は、首都の電力網が「完全に停止」する可能性があると警告している。
シュミハリ首相は欧州委員会のドムブロフスキス委員との会談後「ロシアはウクライナの重要インフラへのミサイル攻撃を続けており、エネルギーシステムのほぼ半分が使用不能になっている」と述べた。
首都キーウはロシア軍のミサイルやドローンによる攻撃で大きな被害を受けた都市の一つで、電気、暖房、水道などが影響を受けている。
キーウ市のミコラ・ポボロズニク次官は「(電力網の)完全な停止を含むさまざまなシナリオへの対応を準備している」と述べた。電力網が完全に停止した場合の措置については言及しなかったが、キーウ当局者はこれまでに住民の他の都市への避難は検討していないと明らかにしている」
(ロイター11月18日)
ウクライナ首都の電力網「完全停止」の恐れ、国内インフラ半分が停止 | Reuters

街は暗闇に包まれ、市民は今後迎える厳冬期には、暖房シェルターと呼ばれる公共施設に避難せねばならなくなるかもしれません。
工場が破壊されたり操業短縮を迫られたために、失業率が35%に達しています。

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ロシア、市民生活を狙い撃ち 首都8割が断水、電力不足も(共同通信) - Yahoo!ニュース 

軍事的勝利が遠のいたロシアが狙っているのは、消耗戦に持ち込むことです。
軍事的消耗戦のみならず、ウクライナの経済・電源・交通インフラを狙い撃ちにして、ウクライナ経済全体を破壊しようとしています。
かつての大戦で日本が敗北したのが、この経済破壊をやられたためでした。
大戦末期の日本は海軍が壊滅した後、潜水艦による燃料や資源、食料の輸入の道を閉ざされ、全国の都市に爆撃を受けて経済と生活インフラが土台から崩れ去ってしまいしました。

国民は飢えに苦しみ希望を失いました。
このかつて米国がB-29と潜水艦を使って日本を敗北に追い込んだことを、今度、ロシアはミサイル攻撃でしようとしているわけです。
ちなみに、このような民間人に無用の苦痛を与える戦略爆撃という方法は、戦時国際法とそれを発展させた戦後の国際人道法によって禁止されています。

ただし、国際人道法は国内裁判所のように強制管轄権がなく、国際法に違反するかを判断し国際法の遵守を強制する機関がありません。
例えば、刑法などの国内法であれば、その内容を強制的に実現する警察力があり法としての強制力がありますが、国際法では国際法違反に制裁を加え遵守を強制する機関がありません。

ですから、南シナ海に軍事要塞を作ってしまった中国のようにいくら国際司法裁判所から勧告を受けようが、「あんなもんは紙屑だ」と言ってしまえるわけです。
作ってしまえば勝ち、侵略戦争でも勝てば文句は出ない、これが国際社会がロシアや中国のような「力の信奉者」を生んでしまった理由です。

というわけで、国際法は実効的な拘束力がないも同然で、ならず者国家がやりたい放題できる素地を残してしまっている、これが国際法の最大の弱点です。
しかしあくまでもやってよいこと悪いことの国際的基準はあり続けるという意味で、ないよりはましでしょう。

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厳冬期迫るウクライナ、ロシアの攻撃で電力危機…400万人が計画停電の対象 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

ロシアは、本来、軍事施設を精密爆撃するために作られたミサイルを、おしげもなく非軍事的なエネルギーと生活インフラ攻撃に投じました。高価なイスカンダル・ミサイルなどを発電所攻撃に使用するのですから、軍事常識ではありえない戦術です。
今さらいうまでもなく国際法違反ですが、ロシア相手に人道と良心を訴えるだけ虚しくなります。

「キーウ政府にとって、ウクライナ軍が地位を獲得し続けたとしても、市民の物質的ニーズを満たしながら戦争を起訴するためのコストは増加するだろう。さらに悪いことに、冬が迫っており、ロシアは9月以来経験した一連の軍事的失敗に不満を抱いており、重要なインフラをミサイル攻撃することで、ウクライナ経済を壊滅させることに傾倒している。火曜日だけでも、推定で90発のロシアのミサイルがウクライナ全土に降り注いだ。
ウクライナの最大の問題は、プーチン氏の軍隊がもたらす軍事的脅威だけではなく、ロシアの攻撃が経済にもたらす経済破壊に対処することかもしれない。
しかもキーウが切実に必要としている大規模で継続的な援助は、西側の経済状況の悪化のために減少する可能性がある」
(ニューヨークタイムス11月18日)
Ukraine Is Advancing, and Russia Is Retreating, but President Zelensky Has a Big Problem - Revista de Prensa (almendron.com)

ここ数週間で、ミサイルとドローンがウクライナのエネルギーインフラの40%を攻撃し、全国で長時間停電を引き起こしました。
これにより約450万人のウクライナ市民が電気を失い、キーウの35万戸が停電し、80%が水道を奪われました。

「国連人道問題調整事務所(OCHA)は今月、600万人のウクライナ人が現在「国内避難民」であると報告した。
さらに700万人が海外に避難した。ウクライナ国立銀行によると、失業率は今年の第2四半期までに35%に達した。貧困率は2020年に2.5%だったが、12月までに25%に近づき、来年末までにその2倍になる可能性がある。
戦時中の激動と破壊は、子供たちにとって特に困難でした。ウクライナではさらに50万人近くが貧困に追い込まれており、この地域で2番目に大きなシェアを占めている」
(NYT前掲)

電源の喪失40%、道路・橋梁の喪失無数、失業率35%、貧困率25%とは、凄まじい破壊の爪痕です。

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♯1 ロシア軍を食い止めるため破壊されたキーウ近郊の橋 : ウクライナ 戦時下の復興 キーウ近郊からの報告 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

開戦前から、プーチン政権中枢はウクライナを解体すべきだと放言していました。 
プーチン政権における好戦言説担当のメドベージェフ安保会議副書紀 は、6月15日、インターネット上に、「2年後の世界地図に、ウクライナは存在するだろうか」と書き込み、プーチンの最側近パトルシェフ安保会議書記も「現在のウクライナは崩壊し、いくつかの国に分かれる可能性がある」と平然と語っています。
彼らプーチン政権中枢には、ウクライナは「そもそも国ですらない」、1990年代に分裂して消滅したユーゴスラビアのようになるべきだという考えがあります。
だから民間施設の破壊をためらわわずとことん破壊し焦土に変えてしまい、反露的ウクライナ人はシベリア奥地に強制移住させ、ロシア語だけを公用語とし、軍事占領したところから領土化していく、これがプーチンの「絶対戦争」の考えなのです。

10月18日、クリミア大橋がウクライナの攻撃で破壊されると、プーチンが呼び寄せて最高司令官に任命したのが、セルゲイ・スロビキン将軍でした。

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セルゲイ・スロビキン将軍
ム破壊計画もその一環、露軍、ヘルソン州ドニプロ川右岸から「撤退」準備へ ロシアの「ハルマゲドン将軍」

スロベキン将軍は別名「ハルマゲドン将軍」と呼ばれ、2017年にシリアでロシア軍を指揮している間、アレッポへの無差別爆撃を指揮した人物です。

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「ここは地獄」、変わり果てたアレッポの街 シリア内戦(1/3) - CNN.co.jp

「(スロベキンは)1990年代のタジキスタンやチェチェンでの紛争、そして最近では2015年にロシアがアサド政権側に付いて介入したシリア内戦に参加した。空爆作戦の経験がないにも関わらず、ロシア航空宇宙軍の司令官として、シリア北部アレッポの大部分を消滅させた空爆を指揮した。
英イーストアングリア大学のウォルドロン教授は、ロシアはシリア内戦に介入し、無制限の空爆と民間人への攻撃を繰り広げたと指摘する。ロシア軍の攻撃の責任者だったスロヴィキン氏は、「必要などんな手段も使う用意があるのは明らか」だったという。
米ワシントンを拠点とするシンクタンク「中東研究所」のシリア・プログラム責任者、チャールズ・リスター氏は、スロヴィキン氏は「敵に対して絶対的に容赦ない態度」をとり、戦闘員と民間人を同一視していると話す。
スロヴィキン氏の指揮のもと、ロシア部隊は神経ガス「サリン」の使用隠ぺいに関与したと、リスター氏は言う。 シリア北西部ハーン・シェイフンで80人以上が死亡した化学攻撃が起きる数分前に、シリアの航空機にサリンが積み込まれるのをロシア部隊が目撃していたのだという」
(BBC2022年10月13日)
あだなは「アルマゲドン将軍」 ウクライナ侵攻の新総司令官、スロヴィキン将軍とはどんな人物か - BBCニュース

プーチンからスロビキン将軍が命じられたことは、全力を上げてウクライナの電力網、ダム、通信、水道、下水処理場、火力発電所を徹底的に破壊し尽くすことです。
電力網は、開戦以来すでにロシアの主要な攻撃目標でしたが、さらにスロベキシに与えられたのは、発電所を稼働させ続けるためにに必要な燃料供給プラント、送電網、そして市民を冷蔵庫と闇に投げ込む街の集中暖房施設でした。

この発電施設と電力網の破壊により影響を受けたのは市民生活だけではなく、EUへ例年15億ユーロ稼いでいる電力輸出を断念せざるをえなくなりました。
世界銀行、ウクライナの2022年経済成長率をマイナス45.1%と予測しました。



ウクライナに平和と独立を

 

2022年11月22日 (火)

ウクライナ軍先遣隊、ドニエプル川を渡河

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今日の記事は実は1週間前に書いたのですが、ポーランドミサイル落下事件などがあってお蔵入りしていたものです。(泣)
捨てるのも悔しいので、アップいたします。

 

驚くべき速度でウクライナ軍が前進しています。
どうやら、ドニエプル川を先遣隊が渡河したようです。

もちろん本格的な渡河作戦ではなく、偵察部隊だととものと思われますが、早い!

ユーチューブの動画から見ると、ゾディアックに分乗した特殊部隊のようです。
規模は分かりませんが複数見えますので、20~30人の小隊規模だと推測されます。

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ウクライナ軍の一部が渡河上陸したと推定されるのは、ヘルソン西南のキンバーン砂嘴(さし)のようです。
下地図の左上に見えますね。

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特報!ドニプロ川渡河成功!

岬や半島の先端から海に向かって細長く突き出た砂礫の州を砂嘴(スピット)と呼ぶそうです。
グーグルアースで見ると、このような細長い砂の突堤のような地形で、キャンプ場があるだけで、集落は見えません。

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Google Earth

現在、ヘルソン州を巡る戦いは、ドニエプル川に架かるアントノフスキー橋、鉄道橋、ノーバ・カホフカ水力発電所の橋桁が破壊されたために、両軍がドニエプル川を挟んで対峙する形へと移行しました。
ロシア軍は、ヘルソン南のドニエプル川南岸に陣地を構築していると考えられます。
元陸自第1空挺団に所属していたことのある、西村金一元1左はこう述べています。

「ロシア軍がへルソンを撤退するというのは、ドニエプル川からクリミア半島の付け根までの間(約100キロ)で防御戦闘を行うことであって、クリミア半島まで抵抗せずに後退することではない。
ロシア軍が、この防御戦闘で時間をかけて守り切るのか、あるいはウクライナ軍のドニエプル川渡河時の戦力分離に乗じて撃退する行動(反撃)を取るのか、注目すべきところである。
なぜなら、ロシア軍が反撃ができないのであれば、時間の経過とともに国境線まで押されていくし、反撃を行いウクライナ軍に大きな打撃を与えられれば、現状の接触線を保持することができるからだ 」
(西村金一11月14日)
ロシア軍のヘルソン撤退で天王山迎えるウクライナ戦争 クリミアまでの100キロが勝負、化学兵器使用の可能性高まる(3/7) | JBpress

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JBプレス

ウクライナ軍 の進撃ルートはふたつ考えられます。
ひとつはそのままドニエプル川を渡河して南下し、ヘルソン州からロシア軍を一掃し、クリミア半島境界にまで至るルートです。
ロシア軍がヘルソン市を撤退した理由は、第1に、ドニエプル川を天然の要害として利用し、渡河をできなくすること、第2にヘルソン市に布陣したウクライナ軍に砲撃を浴びせて市民もろとも抹殺すること、そして第3に、仮に渡河したとしてもドニエプル川を挟んで分断してしまい、渡河部隊を撃滅することなどが考えられます。

実はプーチンはこのヘルソン戦線に、ロシア陸軍のエリート空挺部隊を投入していました。

「プーチンは、ロシア軍が利用できる残りのエリート空挺部隊の多くを含む、ヘルソン西部の防衛にかなりのロシア軍を投入していた。彼はまた、9月21日に命じた予備軍の部分的な動員によって生み出された援軍を約束した。
それらの軍隊は懸命に戦ったが、多くの損失を被った。
このロシアの決意と希少なエリート部隊の割り当てにもかかわらず、ウクライナの成功は、多くの点で9月中旬のハリコフ州での勝利よりもさらにウクライナの勝利を印象づけることとなった 」
(戦争研究所 11月13日)
ウクライナ紛争の最新情報 |戦争研究所 (understandingwar.org)

このロシア軍空挺部隊が対岸に防衛陣地を築いて待ち構えていた場合、この渡河作戦は大変に困難な戦いになると思われますので、今回のウクライナ部隊の渡河は、このロシア軍の規模、陣地の配置などを偵察しにいった可能性はありえます。
ただしロシア軍はもはや後退していない、という情報もあります。

というのはロシア軍がクリミア半島北部で塹壕を作っていることが、衛星写真でわかっているからです。

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クリミア|北部で塹壕を掘るロシア軍ウクライナのニュース (ukranews.com)

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ウクライナニュース

「衛星画像などを手がける米企業「プラネット・ラブズPBC」は2022年11月12日までに、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島の北部に位置するアルミアンスク町近くでロシア軍が塹壕を新たに築いているとする衛星画像を公開した。
ジャンコイに近い検問所付近でも塹壕が掘られていると言う。ロシア側は、ロシア国営通信によると、ヘルソン州の州都をヘルソン市から、州南東部の港湾都市ヘニチェスクに移転すると発表した。
「状況はクリミアの北西部、アルミャンスク近くでも同じです。古い塹壕は改装され、新しい塹壕が掘られます。この画像では、掘削機が新しい塹壕を掘っているのを見ることができます」と彼は塹壕の写真を投稿して書いた。

ヘルソン地域にも要塞が建設されています」

クリミア|北部で塹壕を掘るロシア軍ウクライナのニュース (ukranews.com)

また、ウクライナ軍がヘルソンから東にアゾフ海沿岸に進んだ場合に障害となるが、メウリポリの軍要塞化です。

「(CNN) ウクライナ南部ザポリージャ州メリトポリのフェドロフ市長は13日、ロシア軍が同市を占領中に「巨大な軍事基地」に変えたと述べた。メリウトポリ市はロシアによるウクライナ侵攻が始まった初期からロシア軍の支配下にある。
フェドロフ氏はテレグラムへの投稿で、「ロシア軍は占領したメリトポリとメリトポリ地区を巨大な軍事施設に変えた」と述べた。ヘルソンやザポリージャ州トクマクからロシア軍がメリトポリに到着しているという。
フェドロフ氏は「メリトポリ市の周辺に要塞(ようさい)が建設されている」と述べた。ロシア軍は接収した地元の住宅や学校などで暮らし、住宅地に軍装備品が配備されているという」
(CNN11月15日)
ロシア軍、メリトポリ市を「巨大な軍事基地」に(CNN.co.jp) - Yahoo!ニュース

とまれ、急速に情勢は動いています。

 

 

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戦死したウクライナ義勇兵たち。日本人も1名加わった。5列目左端。

ウクライナに平和と独立を

 

 

2022年11月21日 (月)

ロシア・フレンドに堕ちた森喜朗氏のゼレンスキー叩き

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元首相の森喜朗氏が、北方領土交渉の同志であった鈴木宗男議員のパーティでこんなことを言ったそうです。

「森喜朗元首相は18日夜、都内で開かれた日本維新の会の鈴木宗男参院議員のパーティーであいさつし、ウクライナのゼレンスキー大統領を批判した。「ロシアのプーチン大統領だけが批判され、ゼレンスキー氏は全く何も叱られないのは、どういうことか。ゼレンスキー氏は、多くのウクライナの人たちを苦しめている」と発言した。
ロシアのウクライナ侵攻に関する報道に関しても「日本のマスコミは一方に偏る。西側の報道に動かされてしまっている。欧州や米国の報道のみを使っている感じがしてならない」と指摘した。
加えて「戦争には勝ちか、負けかのどちらかがある。このままやっていけば(ロシアが)核を使うことになるかもしれない。プーチン氏にもメンツがある」と言及。ロシアに厳しい姿勢を取る岸田文雄首相に関し「米国一辺倒になってしまった」と不満を示した」
(日経 2022年11月18日)
森喜朗氏がゼレンスキー大統領批判「ウクライナ人苦しめた」: 日本経済新聞 (nikkei.com)

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【速報動画】森氏がゼレンスキー氏批判 「ウクライナ人苦しめた」 | 山陰中央新報デジタル (sanin-chuo.co.jp)

この森氏のトンデモ発言は、この人物がよくやるリップサービスでの失言ではありません。
本心です。
だから困る。聞き流していい類のことではありません。
「プーチンを説得できるのは鈴木ムネオだけだ」とも言っているていどのことは、ご愛嬌で聞き流しましょう。
ムネオ氏にプーチンを説得できるなんて誰一人思わないでしょうから、失笑して、心の中でバーカとつぶやけば済むことです。

問題は、ロシアと戦っている国の指導者であるゼレンスキーを「国民を苦しめている」という言い方で否定し、支援する西側諸国を「米国一辺倒になった」と言ってしまったことです。
これでは、森氏は力による現状変更を是としたと、とらえられても致し方がありません。
つまり自由主義陣営の政治指導者として、自ら失格を宣言したに等しいのです。
さらには、世界でロシアに並ぶ力による現状変更をしている国、すなわち中国の軍事膨張をも是としてしまったことになります。


この森氏の力による現状変更に対する鈍感さは、今に始まったことではありません。
森氏は2014年3月のロシアのクリミア半島侵攻に際して、同年9月9日、これを強く批判したEUに対してこんなことを言っているのです。

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ウクライナにロシアはすでに侵攻している:アメリカのタルボット元国務副長官インタビュー | ハフポスト NEWS (huffingtonpost.jp)

「ロシアの国家や国民は、かつての領土であるだけに、住民が多く住むこの地域がNATOに加わるというのでは、ロシアが不服を伝えるのは、私は十分理解ができる。
EUが2年前、ノーベル平和賞を受賞して驚いた。EUがなぜ平和賞を取るのだろうと思って調べた。60年間ヨーロッパに戦争がなかったからというのが、評価だったということだ。その(EUの)皆さんが本当にウクライナのことを反ロシア戦線に巻き込んで、ロシアを叩くということを本当に考えているのか。それではノーベル賞は泣くのでは、という思いです。
ヨーロッパもロシアも自由とそして民主主義、そしてお互いに自由の繁栄を願う国だから、できれば理想を言えば新しいヨーロッパの体制が出来上がってもいいのではないだろうか」
国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」 (jfir.or.jp)

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森・プーチン 日ロをつなぐ義理人情: 日本経済新聞 (nikkei.com)

2014年当時から森氏は、ロシアのクリミア侵攻はEUが反ロシア戦線にウクライナをまきこんだからだというロシアの言い分をそのまま踏襲して、力による国境線の変更をおおっぴらに擁護してしまっています。
この言い方は、今回のウクライナ侵略でも、プーチンの侵略を正当化する理由で、ロシア・フレンドが盛んに流布していた説です。

「冷戦集結時に米欧はNATO不拡大をロシアに約束しただろう。裏切られた」というものです。
なんでも安倍氏とふたりきりの時になると、この愚痴とも怒りともつかない「ロシアは裏切られた」とぶつぶつ言っていたそうです。
「不拡大約束」がされたなどとは、外交の都市伝説にすぎません。
しかしプーチンはこれを固く信じており、2022年2月24日のウクライナ侵攻を始めるにあたっての演説でもこう言っています。

「NATOを1インチたりとも拡大しないという約束もあったが、彼らは我々を欺き、さらにはもてあそんだのだ」
(ブルームバーク2022年2月24日)

鶴岡路人氏が、この「不拡大約束説」に詳細な検証を加えています。
※『プーチンの主張する「NATO不拡大約束」は、なぜ無かったと言えるのか』
fsight 2022年3月2日
プーチンの主張する「NATO不拡大約束」は、なぜ無かったと言えるのか:鶴岡路人 | Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp)

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ベーカー・ゴルバチョフ会談 一番右側がベーカー   フォーサイト

これはNATO東方拡大「約束」説が生まれたのは、1990年2月の米ソ交渉でのことです。

・ベーカー 「今すぐ回答を求めるわけではないが1つ質問をしたい。ドイツ統一が実現するとして、(1)NATOの枠の外で完全に独立して米軍部隊の存在しない統一ドイツがよいか(2)NATOとのつながりを維持したうえで、しかしNATOの管轄権や部隊は現在の境界から東には拡大しないとの保証のついた統一ドイツがよいか?」
・ゴルバチョフ 「全てについてじっくり考えたい。指導部において議論する。しかし、当然のことながら、NATOの領域が拡大することは受け入れられない」
・ベーカー 「その点については同意する」

この部分だけ取り出すと、確かにそう聞こえないではありませんが、これについては当のゴルバチョフ自身が、東ドイツ領だけの話だと説明しています。

「「(NATO不拡大の)保証はもっぱらドイツ統一に関して与えられたものだった」
「旧東ドイツ領だけでなく、東方全体へのNATO不拡大問題を提起すべきだったのか。私は確信している。この問題を我々が提起するのは単に愚かなことだったであろう、と。なぜなら、当時はNATOだけでなく、まだワルシャワ条約機構も存在していたからである。あの当時こんなことを言っていたら、我々はもっと非難されていただろう。NATOの東方拡大のプロセスは、別の問題である」
(『ゴルバチョフは回顧録』)

ベーカー発言は、1990年9月に締結される「ドイツの最終的地位」を念頭に置いて話しています。
この条約は第5条3項にこうあります。

「外国部隊や核兵器、およびその運搬手段はドイツの同地域[旧東独地域]に駐留、展開されない」

これがNATO「不拡大」の中身です。
そもそも当時はワルシャワ条約機構が存在していたのですから、東方拡大をするしないもあったもんじゃありませんが。

「不拡大」は旧東ドイツ領と明示され、この地域に限定されているのです。
したがって、ゴルバチョフとベーカーの間の「NATOの領域が拡大することは受け入れられない」 「その点については同意する」というやりとりは、東ドイツに対してだけ言ったものなのです。
ここを読み飛ばして一人歩きさせてしまい、旧ソ連圏全体にすり替えてしまったのが「不拡大約束説」です。
NATOが「不拡大約束」を破ったから戦争になったという都市伝説: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

さらに悪いことには、こういう間違った知識の上に立ってロシアに迎合し、北方領土交渉につなげてしまったことです。
森氏はロシアのウクライナ侵略を諸手を上げて賛美することこそが、プーチンによい心証を与えて北方領土返還につながると信じていることです。
このまったく別の次元のことを混同して、ロシアを擁護することをムネオ氏はウクライナ戦争以来、一貫して言い続けています。

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経済制裁ではなく話し合いで解決すべき!ロシアと関係の深い鈴木宗男さんから見た「ロシア・ウクライナ危機」 - YouTube

「日本には国益の問題として北方領土や平和条約交渉の問題がある。米英と立ち位置が違う」と述べ、欧米に足並みをそろえて制裁に踏み切った日本政府の対応に疑問を呈した。講演後、記者団に「日本からパイプを閉ざした感じだ」と語った」
(日経2022年3月13日)
「ウクライナにも責任」 維新・鈴木氏、ロシア侵攻巡り: 日本経済新聞 (nikkei.com)

これは北方領土という自国の個別利害を、力による現状変更の禁止という普遍的価値より上位に置く考え方です。

こんな森氏ですから、ウクライナ戦争は「理想を言えば新しいヨーロッパの体制が出来上がる」好ましい出来事であり、「ゼレンスキーは国民を苦しめている」悪逆な男だとさえ考えていたようです。
なんですか、この「ロシアが主導する新しい世界」とは。おお、気持ち悪りぃ。
プーチンが構想する「新しい世界」とは、2011年にプーチンが「ユーラシア思想」としてロシアの公的なイデオロギーとなった世界観です。
この「ユーラシア思想」は、プーチンが傾倒するドゥーギンが作ったものでした。

「ドゥーギンが描く構図によれば、今後、ドイツがロシアへの依存度を一段と高めることによって、欧州は次第にロシア圏とドイツ圏へと分断されていく。
英国は(EU離脱後)ボロボロの状態となり、ロシアは漁夫の利を得ることで『ユーラシア帝国』へと拡大・発展していく、というものだ。
ドゥーギンはさらに、アジア方面についても、ロシアの野望を実現するために、中国が内部的混乱、分裂、行政的分離などを通じ没落しなければならないと主張する一方、日本とは極東におけるパートナーとなることを提唱する。(略)
ドゥーギンの戦略論は「新ユーラシアニズム」ともいうべきものであり、目指すべき将来目標として、旧ソ連邦諸国を再びロシアが併合するとともに、欧州連合(EU)諸国もロシアの〝保護領にするという極論から成り立っている」
(斎藤 彰 元読売新聞アメリカ総局長2022年3月26日 )
プーチンも洗脳?超保守主義学者の危険すぎる思想  Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) (ismedia.jp)

この「ユーラシア帝国」の核心となるのが、ドゥーギンが言う「高貴なる永遠のロシア民族」です。
森さん、ムネオさん、よかったね、この壮大な「ユーラシア帝国」の端っこにはわが日本も生存を許されていますぞ。(笑)
それを知ってか知らずか、プーチン帝国を「自由と民主の国」と褒めたたえているのがわがムネオ氏なのです。
ロシアが極度の独裁国家であることがこれほど暴露されてきているのに、いまだ平然とこういえる神経がわかりません。
ウェルカム・トゥ・プーチンズワールド: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

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 ユーチューブ前出

森氏のこの発言はいうまでもなく、今、西側の一部に芽生えている「ウクライナ疲れ」に呼応した考えです。

「西側は全力を挙げてウクライナを支援しているのに、支援するのは当然だといった高圧的なゼレンスキーの態度は好感を持っては受け止められていない。
この戦争で、世界中で小麦のような食糧資源や石油や天然ガスなどのエネルギー資源の供給が減り、諸物価が高騰して国民の生活が苦しくなっている。そのために、イタリアやスウェーデンなどで、排外的な極右が勢力を拡大し、政権を担うまでになっている。これが「ウクライナ疲れ」である。
今回のゼレンスキーの勇み足は、この「ウクライナ疲れ」に拍車をかける可能性がある」
(舛添要一 2022年11月19日)
【舛添直言】ポーランド着弾のミサイル、ゼレンスキーの露軍発射説に西側辟易 NATOを巻き込み第三次世界大戦を引き起こしてはならない(1/5) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

では、どうしたらよいと言われるですか、元都知事閣下。
疲れたから支援なんぞ止めろとでも。現実にそう言っているプーチンフレンドの極右もいるようです。
一方アチラ系は盛んに和平交渉をしろと言い、ゼレンスキーが戦争好きなように言っています。
森氏の今回のトンデモ発言はこの空気に乗ったのです。

では、「ゼレンスキーを叱ったら」、戦争は終わりになるでしょうか。
ウクライナ戦争が終わる可能性があるとすれば、次の想定が可能な時です。

① プーチンがロシア国内向けに「勝利宣言」を発することができる成果を上げた時。
それは開戦時の2月24日の線、すなわちドンバス、ルハンシクといった東部2州と南部クリミアを完全に掌握し、しかもウクライナ軍が奪還を完全に放棄したとプーチンが確信した時です。

これはありえません。ウクライナ軍は東部2州を奪還する勢いで、クリミアの境界にまで迫るのは時間の問題です。
これを可能にする兵員的な余裕をウクライナはつけてきており、西側からハイマースや、対レーダーミサイル、ドローンなどを提供されて、いまや装備の質的にもロシア軍を上回ってきています。
ですから、今の時点でウクライナが「停戦」に応じる意味が見いだせない以上、プーチンの勝利宣言はだせないでしょう。

②ふたつめの戦争が終わる可能性としては、プーチンがなんらかの理由で権力を追われることです。
理由はいろいろあるでしょうが、プーチンが患っているといわれている重病が深刻化したり、反プーチン勢力のクーデターも、今はないとはいえない状況になってきました。
小泉悠氏がいうように独裁政権は折れる時には、ポッキリいくのです。

今、盛んに流されているゼレンスキーバッシングは和平交渉論とセットです。
西側が軍事支援をするから戦争が続くのだ、だから支援を減らすかなくしてしまえば、ウクライナの継戦能力が枯渇して抵抗を続けられなくなる、そうすればプーチンが「勝利宣言」を出せる、というロシアフレンドの思惑にすぎません。

森氏の発言はこのような隠れた意図に沿ってしゃべっていますから、実に悪質です。

ISWはこう述べて、和平交渉に厳しく釘を刺しています。

「交渉はウクライナに対するロシアの戦争を終わらせることはできません。彼らはそれを一時停止することしかできません。
2014年の最初のロシア侵攻に続く8年間の致命的な「停戦」の後、2022年2月にロシアの新たな侵略が行われたことは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がキーウを征服するまで休まないことを示しています。
今年の侵略に対するウクライナの抵抗は、ウクライナ人が簡単に降伏しないことを示しています。
プチニズムがクレムリンを支配している限り、紛争は解決できません。交渉はその現実を変えることはありません。
彼らは、プーチンやプチニストの後継者がウクライナの独立に対する攻撃を再開することを検討する条件を作り出すことしかできません」
(ISW2022年11月17日)
ロシアとの交渉に反対する訴訟 |戦争研究所 (understandingwar.org)

このようにISWが述べるように、和平交渉論は2014年から2022年2月24日まで実に8年間も「休戦」していたことを忘れた議論にすぎません。
その休戦がプーチンの思惑ひとつで破られた事実をウクライナは忘れないからこそ、最低でも2月24日以前のラインまでロシア軍を押し返す時まで、そして最終的には東部2州とクリミアの完全奪還まで戦わざるを得ないのです。

これが戦争の現実であり、「ゼレンスキーを叱った」くらいでどうなるものでもありません。
グレンコ・アンドリー氏は、ゼレンスキーはウクライナ国内では宥和派なのだとして、こうツイートしています

「ウクライナの政治軸で言えば、ゼレンスキーの対露姿勢は「妥協派」「宥和派」「譲歩派」です。対露独立派の政治家達は連綿と、ゼレンスキーを「ロシアに対して弱腰だ!」と批判しています。
それで、元々譲歩派のゼでさえ「交渉は不可能。戦場で勝つしかない」という結論に辿り着いたのです。なぜか。理由は、いくら譲歩してもロシアはあまりにもひどいので、譲歩したくてもできないと理解したからです。ロシアは譲歩ではなく、国家の解体と民族の絶滅を目指しているので、どんな宥和派でも戦う事を選ぶのです。
簡単に言うと、こういう事です。
ゼ「占領地に特別地位を与える。武力奪還はしない。NATOにも入らない。戦いたくない。とりあえず、話し合いましょう!」
プーチン「とりあえず、国を明け渡して死ね。話はそこからだ。」
ゼ「話にならない。戦いたくないけど、このまま殺されるだけ。」
グレンコ アンドリー(新刊『ロシアのウクライナ侵略で問われる日本の覚悟』発売中)(@Gurenko_Andrii)さん / Twitter












これ以上分かりやすい説明はないでしょう。
わからないのは、すっかりロシア脳になってしまっている森氏や鈴木氏などのほうです。
岸田自民党総裁は森氏を厳重に注意して、引退を勧告すべきです。
森さん、もう早めに引退しなさい。あなたは老害です。

2022年11月20日 (日)

日曜写真館 山茶花の花下に無心の 刻一刻

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また逢へた山茶花も咲いてゐる 種田山頭火

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山茶花に 娶らず逝きし子規のこと 伊丹三樹彦

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一樹満白の山茶花 添水音 伊丹三樹彦

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山茶花に 声呑む仲間 良しとする 伊丹三樹彦

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山茶花に 陽のうつろいの 永座り 伊丹三樹彦

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山茶花の散りざま 一つ一つ違う 伊丹三樹彦

 

 

2022年11月19日 (土)

北、目下「核大国」へ邁進中

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北がまたICBMを実験しました。

「韓国軍合同参謀本部は18日、北朝鮮が同日午前10時15分ごろ、平壌郊外の順安(スナン)付近から東の方向に弾道ミサイル1発を発射したと発表した。大陸間弾道ミサイル(ICBM)と推定されるという。
日本の海上保安庁によると、ミサイルは同日午前11時20分ごろに北海道渡島大島の西約210キロの海上に落下したとみられる。
タイを訪問中の岸田文雄首相は記者団に対し、「北朝鮮が弾道ミサイルを発射し、排他的経済水域(EEZ)内に着弾したとみられる」と述べた。
岸田首相は「これまでにない頻度で挑発行動を繰り返している。断じて容認できない」とし、北朝鮮に厳重に抗議したと話した。
北朝鮮は前日17日にも、短距離弾道ミサイル1発を発射。同国の崔善姫(チェ・ソンヒ)外相は、朝鮮半島周辺地域でプレゼンスを高めようとするアメリカに対して「より激しい」対応を取ると警告していた」
(BBC2022年11月18日)
北朝鮮、大陸間弾道ミサイルらしき飛翔体発射 日本の排他的経済水域内に落下か - BBCニュース

北が淡々と「核大国」への道を歩んでいるといえば、「それだけ」のことです。
日米が訓練したからどうのこうのという馬鹿がメディアにはびこっていますが、ならば止めたら北は核開発を止めますか、絶対に止めませんよね。
昨日などは夕方のニュースに、「北が米国に届くミサイル作ったって、一般国民には関係ありませんよね。今の物価高のほうが問題なんです」なんていうコメンテーターまで登場させていました(笑)。

また中国だけが止められると言っている人がまだいますが、いつまでそんなことを言っているのでしょうか。
中国こそが北の核開発を影で支えていた国で、いわば核の共犯者です。
そしていまやその中国にすらコントロール不能になってしまったのが、正恩の北です。
ですから残念ですが、このままだと、行くところまで行くでしょう。
ICBMを完成させ、水中発射核ミサイルを作り上げ、それに搭載する弾頭の小型化、多弾頭化が終了するまで、続きます。
そうなったら、さすがの米国も手が出せなくなるからです。

止めることができるのは・・・、と考えてがっくりとなるのですが、あえていえば米国がピンポイントでICBM関連と核施設を潰すことくらいでしょうか。
ただ、バイデンにできるかといえば、トランプではありませんが「オレならやらせなかった」というとおり、せいぜい痛くもかゆくもないB-1を飛ばしてアリバイ作りをするくらいでしょうか。
ですから、すっかり足元を見られています。
どうせなにもできまい、バイデンのいるうちに核開発を完了しておくのだ、と正恩にタカをくくられてしまっているのです。
作ってしまえばこちらのもの、というわけです。

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火星17号
侮ってはならない北朝鮮の弾道ミサイル、日本の備えは不十分 イスラエルは国民に化学防護キット配布したことも、日本はヘルメットすら……(1/4) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

このチェ・ソンヒは今は外相の肩書ででていますが、トランプ時代には外務次官として対米交渉をしていた女性です。
いつもフテ腐れているか、怒り狂っているか、ふたつしか表情がない人です。
崔善姫 - Wikipedia


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時事  崔善姫(チェ・ソンヒ)外相

思い出していただきたいのですが、シンガポール米朝首脳会談直前にトランプが「もう止めだ。中止、中止」と言い出したことがありましたが、そのきっかけを作ったのが、この人物です。
その直接のきっかけは、事前協議の責任者であったチェの、「副大統領は馬鹿間抜け」、「核対核で対決」という外交官とも思えない発言でした。
ウチの国の、相手国の利害をもっとも重要視するような外相と外務省におすそ分けしてほしいくらいの鉄面皮な人です。

ちなみに、こういう罵詈雑言を言った後のトランプの答えはこうです。


「あなたは自分の核戦力について語るが、米国の核兵力はあまりにも大規模で強力で、私はそれが決して使われずに済むことを神に祈っている」
(トランプ書簡) 
「われわれと会談場で会うか、『核対核の対決』で会うかは、全面的に米国の決心と行動に懸かっている」
(ペンス発言)

こういう北にとって分かりやすい言語、すなわち核脅迫に対しては核で答えるといういう話法で臨まないと、正恩には状況を正しく理解できないのです。
ですから、今ならば同じようなことを、バイデンが言うのがもっとも効くでしょうね。
ま、絶対に言わないが。

チェの役割はおそらく北の利害をあからさまに、いや増幅して言うことです。
この時、チェは北朝鮮政府は「米国に対話してほしいとお願いなどしないし、会談に出席するよう説得もしない」(BBC2019年5月24日)とまで言い切っていました。
これだけのことをひとり独裁国家の北が、一外交官に言わせるとは思えないので、チェの役割は本音で米国を攻めて、ハードルを持ち上げるだけ持ち上げる瀬戸際戦術の役割です。
ですから、この人の言うことを聞いていると、明日にも戦争になりそうです。
いわく、もうダメだ、もうオシマイだ、もう米国をやっつける長距離ミサイルは完成してんだから、さぁ戦争だ、戦争だ、そうなったら困るのはお前らだ、と叫ぶことがお仕事です。

この瀬戸際外交を見破ったのが、トランプでした。
おまえがマッドマンのふりをするなら、オレの方がはるかに上手だとばかりに、これ以上ない軍事的圧力と制裁をかけ続けたのです。
そして米朝会談に正恩を引きずり出しましたが、ここでも北はゴネまくったのですが、トランプに(というよりボルトンにですが)あっけなく見破られて、交渉の席を蹴られてしまいました。
チェに「交渉は終了だ。米国の要求に応じる気はない」と言わせましたが、その陰で長距離核ミサイルの開発を続行していたこともバレていました。

2018年6月の米朝合意は遠い過去のような気がするのが不思議ですが 、シンガポール合意とはこんな内容でした。
●シンガポール合意
2 米国と北朝鮮は、朝鮮半島の持続的で安定した平和体制の構築に共に取り組む。
3 2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む。
北が核を放棄するならば、米国は北の安全を保証し、体制変更は求めないということで、一方がそれを廃棄した場合、一方はそれ自動的に廃棄できます。
したがって履行する義務は、すべて義務を怠った北にあると解釈されます。
現状はこの米朝合意が事実上反故にされたまま宙ぶらりんのまま、核開発の事実だけが積み重なっている状況です。

この状況の責任の一端はバイデンにあります。
バイデンはなんとしてでもトランプがやったことを全否定したいために米朝交渉を打ち切り、さらに朝鮮半島自体に対して関心をなくしてしまいました。
そのために不完全なまま米朝合意が風化しかけていたのです。

北には、この2018年6月のシンガポール合意に戻ってもらいましょう、と米国が言えばよいのです。
そのためには、いま進行し続けている核開発を凍結する、なにもいま直ちに核全廃交渉をしろと言っているのではありません。
交渉に応じるように言うだけのことです。
そのくらいの交渉ができなくて、なにが「外交に強いバイデン」ですか。
いいでしょうか。このままいったちら年内に北の核開発はアガリです。
核はいったん完成させてしまえば、ロシアと同じで「核保有国同士の戦争はない」状態となってしまうのです。
つまり米国の軍事力は事実上使用を封じられて、手も足も出なくなります。
バイデンが北に対して、2018年6月の米朝合意に戻るための第3回米朝首脳会談交渉の提案を一度本気で北にしてみたらどうですか。

でも、やらんだろうな。
そもそもバイデンには北の核開発を止めようという熱意がないし、正恩にもいまさら眼前にある保有国のドアノブから手を放す気はないでしょうから。
すべてが遅すぎました。2年間遊んでいたバイデンの責任です。

 

2022年11月18日 (金)

ウクライナは結論を出す前に一緒に調べようと言っているだけです。

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メディアは、ウクライナとNATOとの間に亀裂をいれたくて仕方がないようです。
NHKはこんな書き方をしています。

「ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、NATO=北大西洋条約機構の加盟国・ポーランドに、ミサイルが落下したことについて、NATOの事務総長は、ウクライナ軍の迎撃ミサイルだった可能性があると指摘しました。
これに対してウクライナのゼレンスキー大統領は「われわれのミサイルではない」と否定し、見解に隔たりが生じています」
(NHK11月17日)
ポーランドに落下のミサイル NATOとウクライナで見解に隔たり | NHK | ウクライナ情勢 

おいおいNHK、ゼレンスキーの発言をこういう前後を切り取った要約をしてしまうと、まるで両者が対立しているみたいに見えてしまだろうが。
このゼレンスキー発言の前段でこう言っているのです。

「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「ロシアのミサイルテロによるポーランド市民の死に対する哀悼の意」を送った。爆発は、火曜日にロシアのミサイルの波がポーランドとの国境近くのリヴィウを含むウクライナ中の都市を攻撃した後に起こった。
ゼレンスキーは、ロシアの攻撃によって約1,000万人の電力が遮断されたが、後に800万人に復旧し、2つの原子力発電所の自動停止も引き起こしたと述べた。彼は、ロシアが全国のエネルギー施設に85発のミサイルを発射したと述べ、この攻撃はG20の「顔への冷笑的な平手打ち」だと非難した」
(AFP 2022年11月16日 )

大前提として、この事件はロシアによる2月24日侵攻以来最大規模のミサイル攻撃があったことです。
まずこのミサイル攻撃があった場所に注目してください。攻撃が集中したのは、リビウでした。
リビウはウクライナ西端のポーランド国境にある街で、西側からの支援物資の集積所と西側の軍事訓練を受けるヤボリウ訓練場などがある地域です。

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ミサイル攻撃受けた軍施設には米供与の兵器…ロシア軍、支援続ける米欧を威嚇か : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

この訓練場はポーランド国境からわずか16㎞ほどしか離れていない場所にあたり、ここを狙えば必ず精度に難があるロシア製ミサイルでは数秒でポーランドへ越境してしまう危険がありました。

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TBS

こういう場所を標的にすること自体が、ボーランドを筆頭にする西側への脅迫だったわけです。
そして起こるべくしてこの事件が起きのです。

では次になぜ、この日にロシアが仕掛けたのか考えてみましょう。
メディアはヘルソンが奪還され、ゼレンスキーが訪れたことに対する報復だということばかり強調しますが近視眼的です。
ほんとうのロシアの目的は、G20において彼らの懸命な裏工作にもかかわらず非難声明が出てしまったことに対する「冷笑的平手打ち」です。

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G20 首脳宣言の草案 “ロシアを強く非難” 一方で一定の配慮も | NHK | G20

「「ウクライナでの戦争についてほとんどの国が強く非難した」とする一方、ロシアに対する経済制裁やウクライナ情勢をめぐっては「異なる見解や評価があった」とも記し、経済制裁に加わっていない一部の国やロシアの立場に一定の配慮を示す内容となっています。
また「核兵器の使用、もしくは使用の脅しは容認しない」として、ロシアのプーチン政権が核戦力の使用も辞さない姿勢を示していることに明確に反対しています」
(NHK11月15日)
G20 首脳宣言の草案 “ロシアを強く非難” 一方で一定の配慮も | NHK | G20 

このロシアの政治的意図が分かっているからこそ、NATO事務総長はボーランドの事件の直後、すぐに「これはウクライナのせいではない」という擁護発言をしたのです。

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TBS

以上を押さえたうえで、このゼレンスキーの発言を聞いてみましょう。

「ウクライナのゼレンスキー大統領は16日、前日のウクライナとの国境近くのポーランド領で爆発したミサイルについて、それがウクライナのミサイルにでなかったことを疑っていないとし、ウクライナは同国代表者の事件現場へのアクセスを求めていると発言した」
(ウクライナフォーラム 11月17日)
ゼレンシキー宇大統領、ポーランドへのミサイル着弾につき「それが私たちのミサイルでなかったことを疑っていない」 (ukrinform.jp)

自分は空軍司令部から、その夜に報告をもらっている。
ゼレンスキーーとしてはまず共に戦っている自軍から聞き取り、そのうえでウクライナ側のデーターと突き合わせて調査をしたいので、現地調査をさせて欲しいということです。
自軍からの報告をまず信じる、ロシアのと厳しい戦いをしているウクライナの戦争指導部としてはまったく当然の判断です。
わが国のように、国際社会からお前のせいだとでも言われようものなら、すぐに 自衛隊に責任を丸投げして謝罪してしまうどこぞの国とは大違いです。

「ゼレンスキーは、「私が空軍司令部からザルジュニー総司令官への個人的な夜の報告を疑うことはない。
私は、それが私たちのミサイル、あるいは私たちのミサイル攻撃ではなかったということを疑っていない。私には、彼らを信頼しないということには、意味がないのだ。私は彼らと戦争を乗り越えてきた。私には、『ウクライナを現場に通してもらえないか?』というシンプルな立場がある。それが公正だ。
私は、私たちにはその権利があると思っている。捜査が終わっていない間は、最終的な結論を口にしないでも良いだろうか? 私は、それが公正だと思っている」と発言した」
(ウクライナフォーラム前掲)

ゼレンスキーは結論を出す前に、ウクライナにも現場を見せてほしいと言っているだけのことです。
このどこがNHKが言う「見解の隔たり」なのでしょうか。

そうではない、と筑波大学・東野篤子教授はゼレンスキー発言の全体を読むようにと、こう述べています。

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日テレ

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日テレ

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日テレ

「ゼレンスキーが言ったのは、『空軍司令部から総司令官に対して報告がありました。私としては、その報告を信じる立場にあります』。やはり戦争中ですので、大統領とその軍部の間に強い信頼関係は必要。外国からの情報で、一方的に自国の軍隊が上げてきた情報を全部否定しますということはできない。現場も見たいし、証拠も見たい。最終的な判断がついてから発言したいということを言っていると思う」
(日テレ11月17日)
ゼレンスキー氏「現地を訪問させてほしい」 着弾はウクライナの防空ミサイルか?(日テレNEWS) - Yahoo!ニュース

まったく東野氏の言うとおりです。

ただし、この問題は長引かせるべきではありません。
絶対に非を認めないロシアと同一視されるからです。
早めに現地合同調査に加わり、ポーランドに謝罪と賠償を行えば、いっそうの支援につながるはずですから。

 

追記
ウクライナの調査団が現地に着いたようです。

「(CNN) ウクライナ大統領府の情報筋はCNNに対し、15日にミサイルが着弾したポーランドの現場にウクライナの調査官が到着したことを明らかにした。
同国のゼレンスキー大統領は16日、ポーランドと米国の専門家が主導する調査へのウクライナの調査団の参加を求めていた。
ゼレンスキー氏は「16日に我々も国際共同調査委員会に参加できるよう主張し、夜遅くには参加を認める確認が取れた。明朝ウクライナの専門家が現場に行き、調査に加わることになる」とブルームバーグ新経済フォーラムに出席した際に述べた」
(CNN2022年11月18日)
ウクライナの調査官、ポーランドのミサイル着弾現場に到着 - CNN.co.jp

 

 

 

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大統領、さらなる領土解放へ決意 ウクライナのヘルソン奪還で:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

ウクライナに平和と独立を

 

2022年11月17日 (木)

ポーランドへのミサイル着弾

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ポーランドへのミサイル着弾事件について、現時点で分かっていることを整理します。
ポーランド大統領が、ウクライナの迎撃ミサイルだと認めました。

「ポーランドのドゥダ大統領は16日、東部の村に着弾したロシア製のミサイルについて、「ロシアが発射したミサイルであるという証拠は今のところはない」としてウクライナ側の地対空ミサイルの可能性が高いという見解を明らかにしました。(略)ミサイル着弾についてドゥダ大統領は16日、会見で「ポーランドに対する意図的な攻撃であったという兆候はない。ロシア側が発射したミサイルであるという証拠は今のところない」と明かしました。
そして、着弾したのは「S300」というウクライナ側の地対空ミサイルである可能性が高い、という見解を示しました。そのうえで「心配する必要はないことを強調したい」「私たちの安全は保証されている」と国民に冷静な対応を呼びかけました」
(TBS 11月16日) 
【速報】ポーランド大統領「ロシア発射のミサイルであるという証拠は今のところない」「私たちの安全は保証されている」 東部の村でミサイル着弾2人死亡受け(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース

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TBS

このポーランド領に着弾し2名を殺害したミサイルについて、米軍が飛行監視をしていたようなので、たぶん数日以内にポーランドから詳細な情報が提供されるはずだと思われます。

「(CNN) 15日にポーランド上空を飛行していた北大西洋条約機構(NATO)の航空機が、同日ポーランドに着弾したミサイルをレーダーで追跡していたことがわかった。NATOの軍関係者が同日、CNNに明らかにした。
この人物は「(ミサイルの)レーダー追跡の情報がNATOとポーランドに提供された」と語った。
NATOの航空機はロシアのウクライナ侵攻以降、ウクライナ周辺で定期的に監視活動を行っている。15日にポーランド上空を飛行していた航空機はウクライナの様子を監視していた。
この人物はミサイルを発射した主体や発射地点に関する情報ついては語らなかった」
(CNN11月16日)
NATO、ポーランド着弾のミサイルをレーダーで追跡 - CNN.co.jp 

これはウクライナ国境付近を飛行して、常時監視しているRC-135AWACS だと推測されますが、この情報が開示されれば誰が撃ったのかという点については解決します。
G20でバリ島にいるバイデンが、こう言ったことを考え合わせると、このミサイルの判定は微妙になります。

「ウクライナに隣接するポーランド東部に15日、着弾したロシア製ミサイルについてバイデン米大統領は16日、「軌道を考慮すると、ロシアから発射された可能性は低い」と述べた」
(産経11月16日)
米大統領「ロシアから発射の可能性低い」 ミサイル、ポーランド東部に着弾 - 産経ニュース (sankei.com)

バイデンは、このAWACSの情報を知って言っているはずです。
ですから当初は、このミサイルがベラルーシ領内から飛来したものだといいたいのか、それともウクライナのものだといいたいのか、これだけではよくわかりませんでしたが、どうやらポーランド大統領の発言と照らすと後者のようです。

事実関係を見ておきます。

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ポーランドにミサイル着弾で2人死亡 ロシアは否定: 日本経済新聞 (nikkei.com)

ポーランドでは、ロシアのミサイル攻撃の失敗と思われるウクライナとの国境近くの農場で爆発が襲った後、2人が死亡し、ワルシャワは軍隊の「準備を強化する」ようになった。
今日の午後、ポーランド南西部のウクライナ国境から5マイルに位置する田舎の村、プシェボドゥフで双子の爆発が鳴り響いた。
匿名を条件に語ったアメリカ諜報機関高官は、致命的な爆発は一対の気まぐれなロシア・ミサイルによって引き起こされたと述べたが、爆破現場は最も近いウクライナの都市集落、チェルボノフラードから10マイル以上離れている」
(英デイリーメイル11月15日)
ロシアのミサイルがポーランドで2人を殺害し、NATO国家での緊急会議を引き起こし|デイリーメールオンライン(dailymail.co.uk)

着弾した位置はポーランドとウクライナの国境から8㎞離れたプシェボドフ付近で、農場に落ちて不幸にも2名が亡くなりました。

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デイリーメイル

ただしこの落ちたプシェボドフは、近隣の街まで16㎞ほどある純農村地帯で、軍事施設やエネルギー施設、官公庁などはありませんでした。BBCは当初から、ロシアの軍事攻撃の可能性は少ないと断じていました。

「ここで大事なのは、意図した目標が何だったにせよ、ミサイルを発射したのは誰か、という点だ。
そしてこれまでのところ、ロシアがウクライナ国境を越えた何かをわざと狙っていたと示すものは、何もない。
そのようなことをすれば、NATO条約の第5条発動に至りかねないと、ロシア政府は承知している。もしそうなれば、NATO全体がポーランド防衛に乗り出す。
NATOは、そのような状態を望んでいない。ましてや前日には、ロシアとアメリカの情報機関首脳たちが会談し、この戦争の不要なエスカレーションを避けるにはどうすべきか、協議していたばかりだ」
(BBC2022年11月16日)
ポーランドにミサイル着弾で2人死亡、ウクライナ防空が原因のようとポーランドとNATO - BBCニュース

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ポーランドがNATOに協議要請検討…ミサイル着弾で、バイデン氏「露から発射の可能性低い」 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

ロケットモーターらしきものの残骸が撮影されています。

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デイリーメイル ボーランドに落ちたミサイルの残骸

ジャック・ゴドリンは、下のS -300迎撃ミサイルの残骸と比較してよく似ていることを指摘しています。

「ここの残骸はS-300タイプのミサイル(5V55Kなど)のように見えることに注意してください。ウクライナで見た過去の残骸の画像と比較してください」

あるいはウクライナ・ウェポントラッカーは、こうツイートしています。

利用可能な破片の写真を分析し、それらがS-48 ADシステムの6V5シリーズミサイルの300D300モーターに属しているという明確な結論に達しました」。

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 S-300タイプのミサイルの残骸

「過去に発見された部品と見比べると、側面のボルト穴やその下の2本の溝、垂直方向の雌ネジの山など、細かい特徴も一致しています。
この部品は5V55迎撃ミサイルの固体燃料ロケットモーターケースの鏡板かノズルの付近の部品である可能性があります。殻にある程度の厚みがあり狭い間隔でボルト穴が大量に開いており、高い圧力が掛かる場所で強固に取り付ける必要がある部品だという指摘がありました」
(JSF11月16日)
ポーランドへのミサイル着弾はウクライナ迎撃ミサイルの迷走か:残骸部品からのOSINT分析(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース

S-300迎撃ミサイルは、ソ連時代に開発された長距離地対空ミサイルで、同時に多目標に対応可能です。
ロシア軍はこれをウクライナに持ち込んでいますし、ウクライナ軍も保有しています。

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ロシア、地対空ミサイルS300用高射砲をシリアから輸送 クリミアの防空網強化か|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

当初、ロシアのミサイルが迎撃ミサイルによって進路を変えられてポーランド領に落ちたという説がありましたが、だとするならこれはKH-101巡航ミサイルかもしれません。

いずれにしても、ウクライナ軍がロシア巡航ミサイルを迎撃しようとして、その破片がポーランドに着弾した可能性が濃厚です。

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KH-101/102 – ミサイル防衛擁護同盟 (missiledefenseadvocacy.org)

以上は憶測の域をでないので、結論はポーランド国防省の発表を見てからにしましょう。

なおNATOはウクライナの迎撃ミサイルだと認めながらも、その責任はロシアにあるという態度を表明しています。

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ТРУХА⚡️English ストルテンベルグNATO事務総長

「[ブリュッセル 16日 ロイター] - 北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は16日、ポーランドに着弾したミサイルについて、ウクライナの迎撃ミサイルの公算が大きいという認識を示した。
同時に、最終的な責任は戦争を始めたロシア側にあると強調した。(略)
その上で「暫定的な分析によると、ロシアの巡航ミサイル攻撃からウクライナの領土を守るために発射されたウクライナの迎撃ミサイルが原因の可能性が高いようだ」と説明した。
さらに「はっきりさせたいのは、ウクライナの責任ではないということだ」とし、「ロシアが責任を負う。なぜならこれは進行中の戦争と、昨日のロシアからのウクライナに対する攻撃による直接的な結果だからだ」と強調した」
(ロイター11月17日)
ウクライナ迎撃ミサイル着弾の公算、ロシアに最終責任=NATO | Start Magazine (taboolanews.com)


仮にウクライナ軍の迎撃ミサイルであった場合、ウクライナは直ちに事故による過失だと認めることが大事ですが、NATOが言うように、そもそも侵略戦争がなければこんな事故は起きなかったわけですし、国境付近にミサイルを撃ったことがこの事故を招いたのです。

 

 

 

 

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ウクライナ奪還のヘルソン、歓喜と傷心 広場に8ヵ月ぶり国旗、残る地雷…インフラ復興遠く|【西日本新聞me】 (nishinippon.co.jp)

ウクライナに平和と独立を

 

2022年11月16日 (水)

ロシアのウライナエネルギー兵糧攻め

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早朝、ロシアのミサイルがポーランドに着弾して2名死亡という仰天ニュースが飛び込んできましたが、詳細は不明ですので明日に回します。
ほんとうなら誤射であろうとなかろうと、NATO対しての戦争行為であるとみられてもいたしかたないでしょう。
さてヘルソンのダムを破壊したのは、下流域を水没させるためではなく、ダムの発電能力を破壊するためでした。
ここは南部全体とアゾフ海沿岸地域にも送電しており、とくにザポリージャ原発の4つある送電網の機軸をなしていました。

「ウクライナ南部にあるザポリージャ原子力発電所について、管理している原子力発電公社エネルゴアトムは3日、声明を発表し、ロシア軍による砲撃で、原発の送電線が損傷して外部からの電力供給が2日、完全に失われたと発表しました。
原発では電力を使って原子炉や燃料プールを常に冷却する必要がありますが、現在は非常用のディーゼル発電機を使っているということです。
ただ非常用ディーゼル発電機の燃料は15日分に限られているということで、エネルゴアトムは危機感を示し「原発が占拠され施設の安全確保が難しくなっている」とロシア側を非難しました」
(NHK11月3日)
ザポリージャ原発 外部からの電力供給 完全に失われたと発表 | NHK | ウクライナ情勢

ヘルソンとザポリージャ原発の位置関係を確認してみましょう。

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ウクライナで深刻な原発事故の危機高まる=IAEA - BBCニュース

ザポリージャ原子力発電所は、ヘルソン南東部のザポリージャ州に立地し、原子炉が6基ある、ヨーロッパ最大級の原発です。
ウクライナの原子力発電公社、エネルゴアトムが運営し、すべての原子炉が同時に稼働すれば、その総出力は600万キロワットと、世界でも有数の規模になりますが、現在ロシア軍が不法占拠しています。

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【ウクライナ】米、ウクライナに55億ドル追加財政・軍事支援へ - Bloomberg

ロシア軍は、電力の専門家の指示を受けながら、ウクライナのエネルギー施設の弱い部分を狙って集中攻撃しています。
一見無差別な民間施設への攻撃のように見えますが、暖房需要などが高まる冬を前に、露軍は標的を絞ったエネルギー施設への攻撃を継続しています。

「ウクライナのエネルギー相は同紙に「露軍には(エネルギー施設攻撃のための)工程表のようなものがあり、一度失敗しても何度も攻撃を仕掛けてくる」と述べた。国営電力会社のトップも同紙に、「ロシア側の電力専門家が作戦の立案に関わっている」と指摘した」
(読売10月26日)
電力専門家が作戦関与か、ロシア軍がウクライナ電力網に集中攻撃…需要高まる冬を前に : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp) 

下図はウクライナの侵攻前の電源構成です。

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チェルノブイリ原発事故から35年 ウクライナ、今も依存度が世界3位の理由:ませんでした朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)

上図でわかるように、ウクライナは原子力に53%依存しており、残りが火力37%です。
火力発電に使う石炭や天然ガスは、ロシアから輸入していました。
ですから、ウクライナにとってのエネルギー安全保障とは、脱ロシア依存とイコールであり、自立するためには原子力を中心に据えざるを得ませんでした。
この原子力に半分依存する電源構成を作ったのは親露政権でしたが、彼らですらロシアの天然ガスパイプラインに100%依存する気はなかったのです。
ドイツのように、ロシアの天然ガスパイプラインに命を預けておきながら、今日は脱原発、明日は脱炭素とキレイゴトを追い掛けかけるわけにはいかなかったのです。

これは官民に渡って徹底した認識で、政府も一度として脱原発などと言ったことがなく、脱原発団体もひとつも存在ししいないようです。
ウクライナはチョルノビリ (チェルノブイリ)原発事故のためにチョルノビリ原発こそ停止していますが、それ以外の4箇所の原発の15基の原子炉が稼働しています。
その主力原発がザポリージャ原発でした。
ここにロシアが攻撃を集中し軍事占領したために、いまや停止に追い込まれています。

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ウクライナの原子力発電所の状況 #44 | 一般社団法人 日本原子力産業協会 (jaif.or.jp)

原子力はたしかに自立的電源でしたが、ひとつ盲点がありました。それが核燃料です。
ウクライナが、原発で使う核燃料はロシアの国策会社の露TVEL社から輸入していたのです。
これは、ほかのインフラと同じように、ウクライナ国内の火力発電所や原子力発電所は、古いソ連時代に設計・建設されたものが大多数であり、そこで使う燃料はロシア産のものしか適合しなかったのです。

このため原子炉は、露TVEL社が独占していましたが、それに危機感をもったウクライナは、2000年代以降、米国ウェスティングハウス社スウエーデン工場からの核燃料供給に切り換えようとしていました。

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侵攻前時点では、ロシアTVELからの調達は縮小し、ウェスティングハウス社スウェーデン工場から供給される割合が増えてきている矢先に起きたのがロシアの侵攻だったわけです。

IAEAによれば、ザポリージャ原発は、この一カ所だけでウクライナの総電力の2割をまかなうことができる大規模な原発です。
ですから、現在ウクライナ全土を覆っている電力供給不足を、ザポリージャ原発さえ稼働すれば一気に回復することが可能です。
ウクライナのエネルゴアトムのコティン総裁は、ザポリージャ原発を軍事占領しているロシアの目的は、現在のウクライナの送電網を遮断し、ロシアが一方的に併合した南部クリミアへの電力の供給を計画しているという見方をしています。
実際に、ウォール・ストリート・ジャーナル(8月14日)は、ザポリージャ原発の職員の話として「ロシア国営の原子力企業ロスアトムの技術者が、電力を占領した地域に回すことについて議論していた」という証言を伝えています。

ザポリージャ原発を支配下に置くと、ロシアは専横を振るい始めました。
まず職員全員を拘束し、ロシア軍の強権下に置こうとしました。

「ウクライナの国営原子力企業エネルゴアトムのペトロ・コティン社長は19日、AFP通信に対し、ウクライナ南部ザポリージャ原子力発電所のウクライナ人職員約50人が、原発を占拠しているロシア軍の拘束下にあると明らかにした。ロシアは一方的に宣言した原発の「国有化」を強行しようとしているとみられる。
コティン氏は、原発の所長が9月末に拘束された際、「地下室に3日間監禁され、頭には袋をかぶせられ、イスに座らされていた」と説明した。所長は数日後に解放され、辞意を表明した。
これまでに露軍側に拘束された原発職員は150人以上となっているという」(読売10月21日)
ザポリージャ原発でウクライナ職員50人が拘束下に…ロシアが「国有化」強行か : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

その他にも、IT情報技術部門の責任者と所長補佐がロシア軍に拘束され、連れ去られ、現時点で居場所や安否は不明だといいます。
その際、多くの職員が殴打されたり,頭からビニール風呂を被せられて窒息させられそうになるなどの拷問を受けています。
コーチン氏によれば、すでに職員2名が死亡しているそそうです。

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ロシア、原発職員2人殺害 ウクライナが主張:時事ドットコム (jiji.com)

またこのような拘束された者たちは、ロシアのパスポート取得を強要されています。
これはプーチンがザポリージャ原発を「国有化宣言」を行ったことに対応するためのものです。
武力で他国に押し入り、その国の原子力施設を武力占領してわがものにしてしまう、酷寒の冬にエネルギーを遮断しようとする、人を人とも思わない国がロシアです。

 

 

 

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奪還の兵士を胴上げ、歓呼で迎えたヘルソン住民 市内ほぼ掌握 [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

ウクライナに平和と独立を

参考文献
特別寄稿:ザポリージャ原発の現状と今後の懸念事項 | 衛星画像分析プロジェクト | 笹川平和財団 (spf.org)

2022年11月15日 (火)

されど悪鬼の軍隊が残したものは

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ヘルソン市が奪還され、市民は歓喜に沸き立っています。
死の街は生き返りました。自由が帰ってきたのです。
あたりまえにじぶんの国の旗を掲げることができ、自分の国の国語で会話し、自分の意見を誰はばかることなく言える、言っても拷問に合わない、あるいは隣の人を密告せずに済む社会。
これが「自由」と、私たちが呼ぶものではないでしょうか。

ヘルソン市で真っ先にロシア軍がしたことは、他の占領地域でしたことと同じでした。
すなわち、ウライナ国歌やウクライナ語の禁止、ロシア語による学校教育の強制、ルーブル支払いの強要、親ロシアニュース番組の放送、ロシア語新聞の発行などの情報統制でした。
そして住民の再登録と称する選別も並行して進められたようです。

一方撤退したロシア軍が残した爪痕はあまりにひどく、市内には公共施設、民間居住区、学校、病院あらゆるものに仕掛け爆弾(ブービートラップ)が仕掛けられており、市民が平常の市民生活に戻るためには、それをひとつひとつ探し出し、撤去せねばなりません。

「露軍はヘルソン市内に多数の地雷を埋め、ドアを開くと爆発するトラップ(わな)も仕掛けているとされ、除去には相当の時間がかかる見通しだ。露軍は、ヘルソンのインフラ設備を破壊して退却する「焦土作戦」も展開。ウクライナ軍の前進を遅らせる狙いなどがあるとみられるが、現地では電気やガス、水道の供給が止まり、携帯電話の電波もつながっていないという」
(産経11月12日)
ヘルソンの支配権回復にハードル 砲撃や多数の地雷の恐れ - 産経ニュース (sankei.com)



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BBC    
「ロシア当局は28日、占領するウクライナ南部ヘルソン市からの市民の移動を完了させたと発表した。ウクライナ軍との戦闘に備えるためとしている。
少なくとも7万人の市民が、街を流れるドニプロ川の東岸に移動させられた。ウクライナ側は強制移動だと非難している」
(BBC 2022年10月29日)
ロシア当局、ヘルソン州の住民退去完了と ウクライナは強制移動と非難 - BBCニュース
このヘルソンからの「避難民」の行く先は想像できます。
まず間違いなく、最初に彼らが送りこまれたのは選別キャンプ(フィルターキャンプ) のはずです。
マウリポリでは「人道回廊」の先に待っていたのが、4万人以上が強制的に収容された選別キャンプでした。
フィルターキャンプで、ロシアは住民を「いい住民」すなわちロシアに忠誠を誓う者と、「悪い住民」すなわちロシアに抵抗す者に仕分けします。
その方法は拷問、殴打、そして女性に対しては強姦です。
反吐が出そうですが、これが民族浄化です。
「生存者は、電気ショック、水責め、激しい殴打、銃を突きつけられた脅迫、長期間にわたってストレスポジションを保持することを余儀なくされたと証言している。彼らは、2つの学校を含む市内の少なくとも7つの場所を特定し、兵士が彼らを拘束し虐待したと述べた」
(HRW報告書)
ウクライナ:ロシア軍がイジウムの被拘禁者を拷問 |ヒューマン・ライツ・ウォッチ (hrw.org)
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HRW報告書
 
これを経験した住民の証言があります。
「イエヴヘンさん
「職業は何か、知人や親戚にアゾフ大隊や軍人、警察などがいないか調べていました。 携帯やSNS、写真をチェックされ、それは誰なのか、写真が何なのか説明しなければなりませんでした。
ロシア側に)亡命を求めた人は身分証明書がとりあげられました」
( NHK4月26日)

【証言】マリウポリ市民が体験した ロシアへの“強制連行”と“選別” (nhk.or.jp)
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HRW報告書

このような収容所は、人権団体「ボストークSOS」によれば、「数を正確に把握するのは難しいが、東部ドネツク州を中心に数十は存在し、学校の校舎やテント村、拘置所や刑務所などがキャンプとして使われている」(産経9月6日)そうです。
私たちが眼前にしている占領地での多数の虐殺された民間人の遺体は、手は縛られ後ろから射殺された者が多くいますが、それはこの「尋問」の間に発生したと想像できます。

そして「悪い住民」を次に待っているのが「流刑」です。
いままで多くはサハリンなどに「流刑」されてしまい消息不明となっています。
下の写真は、3月にロシア政府が公表した文書から見つかったロシア政府の移送計画です。
ここには、ウクライナの市民10万人をロシア連邦内の85の地域に移送させる計画が記されています
この移送先は、ウクライナに近隣のロシア西部地域にとどまらず、シベリアがもっとも多いようで7千人を送ると記されています。

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NHK

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NHK

このような民族強制移動は、ソ連時代頻繁にとられた支配方法でした。
その源流は、ロシア帝国にあります。
住民を住み慣れた土地と家、畑、友人親類から引き剥がし、まったく縁もゆかりもない辺境に流刑するのは、その人たちの精神を確実に破壊しました。
ロシア人ほどその効用をよく知る民族はいないのです。
だから政治犯は、あえて殺して英雄にするよりもシベリア流刑に処したのです。

そして市民が無事に帰還したとしても、困難は山積しています。
たとえばキーウ郊外のイルピンという住宅地域では、家に戻った住民はあまりの惨状にわが眼を疑いました。

家財道具がなにも残っていないのです。
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「集合住宅に、荷物を片付けに戻ってきたアレクシーさん。解放後、自宅に足を踏み入れると、掃除機から壊れたパソコンまで、多数の家財道具が持ち去られていたという。子どもたちと妻はスロバキアに避難し、自身もここに戻ってくるつもりはないという。
「東部ドネツクでの戦争が始まった頃から、いつかこういうことが起きるのではないかと予想はしていました。けれどここまで市民を攻撃する侵攻が起きるなんて、想像もしていませんでした」
(安田 菜津紀 5月23日)

【取材レポート】写真で伝えるウクライナ・キーウ郊外、人々の声(1) —イルピン編— - Dialogue for People
まさに強盗軍団。
現代の軍隊がこのような略奪を恒常的にしていたとはにわかに信じがたいくらいですが、膨大な数の証言が集まっています。
洗濯機を背負って逃げる軍隊など、現代にどこにいるのでしょうか。
地雷はそこかしこに敷設されており、仕掛け爆弾は道路、瓦礫、住宅、学校、病院にまで仕掛けられていました。
下の写真は解放されたイルピンで見つかったものですが、手榴弾の安全ピンに白い仕掛け用器具が見えます。
この器具の先にワイヤーを取り付けて、それに引っかかると爆発する仕組みです。
これをロシア軍は、殺害した市民の遺体にすら仕掛けたために、ブチャなどはウクライナ軍が調査して撤去するまで、埋葬すらできませんでた。

ですから、ヘルソンに入ったウクライナ軍先遣部隊がせねばならないのは「安定化作業」とよばれる地雷と仕掛け場弾、不発弾の撤去、そしてロシア敗残兵の探査です。
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そして今後に影響が出る重大な被害は、ロシア軍が市内の生活インフラをことごとく破壊していったことです。
テレビ放送施設、通信施設、ボイラーに続き火力発電施設や給水施設、そしてダムすら破壊の対象となりました。
ヘルソン州のカホフカ水力発電所のダムの一部が破壊されたことは、衛星写真で確認できています。


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このヘルソンのダム破壊を当初、ロシアはウクライナの仕業だといっていましたが、誰ひとり信じるものがいない偽旗作戦にすぎません。
ウクライナが、ヘルソン州の電源を担っている重要インフラを壊してどうするのですか。
いうまでなく国際法違反です。
「ダム、堤防及び原子力発電所」の「危険な力を内蔵する工作物及び施設」についても、たとえそれが「軍事目標である場合であっても、これらを攻撃することが危険な力の放出を引き起こし、その結果文民に重大な損失をもたらすときは、攻撃の対象としてはならない」(ジュネーヴ条約第1追加議定書 )
(『国際法から見たロシアによるウクライナ侵攻⑥』 海上自衛隊幹部学校戦略研究会コラム2022年4月23日)
これはヘルソン市民の生活を逼迫させることにとどまらず、ドニエプル川の東に位置するザポリージャ原発を電力不足に陥らせるために起こしたことでした。
ザポリージャ原発は、ヘルソンのダムから送られた電力で冷却を行っていますから、ここがダウンすると直ちに大きな影響が出ます。

ザポリージャ原発については明日に続けます。

呪われよ、プーチン、くたばれ、悪鬼の軍隊ども!

 

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ヘルソン解放 「まだ戦争が終わったわけではない」とウクライナ政府  - BBCニュース

ウクライナに平和と独立を

2022年11月14日 (月)

ヘルソン市奪還

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ヘルソン市が奪還されました。
まずはもっとも詳細な情報を連日発信し続けている、ISW(戦争研究所)はこう述べています。

「ウクライナ軍は、ロシア人がヘルソン州の西(右)岸から撤退した後、解放を完了している。
ロシア国防省(MoD)は、ロシア軍が11月11日の現地時間午前5時にドニプロ川の東(左)岸への撤退を完了したと主張した。ロシア兵の派遣団は西岸にとどまっている可能性が高いが、ウクライナ軍がドニプロ川に向かって前進するにつれて、彼らは州全体に散らばり、撤退しようとしている可能性が高いが、小グループでパルチザン活動を行う試みに残っている人もいる。
現時点で西岸に何人のロシア兵が残っているかは不明である。ロシアの情報筋は、撤退は3日間続いたと述べ、20,000人のロシア人要員と3,500ユニットの軍事装備がドニプロ川を渡って移動したと主張した」
(ISW11月11日)
ウクライナ紛争の最新情報 |戦争研究所 (understandingwar.org)

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ウクライナのパルチザン、ヘルソン市中心部の市庁舎に国旗を掲げる (grandfleet.info)

常日頃は冷静なBBCは珍しく喜びをかくしきれない様子で、こう報じています。


「ウクライナ南西部沿岸のヘルソン州都ヘルソンを今年3月から占領していたロシア軍が撤退完了を発表した11日、ウクライナ軍がヘルソン市内に入り、歓喜する住民に迎えられた。ウクライナ政府幹部は、11日午後4時(日本時間同11時)過ぎには、ウクライナ軍はヘルソンをはじめ、ドニプロ川西岸の大部分を「ほぼ完全に掌握した」と話した。
現地の複数の映像には、ウクライナ国旗を振り、国歌を歌ったり演奏したり、「ウクライナに栄光あれ」などと声をあげながらウクライナ軍を出迎える住民の様子が、多数映っている」

(BBC 2022年11月12日)
ウクライナ、南部主要都市ヘルソンの奪還を祝う - BBCニュース

下の画像はウクライナ市庁舎前で、歓迎する市民にもみくちゃにされているウクライナ軍兵士です。
おそらく最初に市内に突入した少数のウクライナ軍特殊部隊であると推測できます。
兵士たちはなんと肩車までされています。
ヘルソン市民の今までの苦痛を思うと胸が熱くなります。
98%の賛成でロシア領に編入されたというクレムリンの発表が、まったくの虚構だったとわかります。

これで映像的にも、間違いなくヘルソン市にウクライナ軍が入っていることが確認されました。

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BBC動画より

また、市庁舎にはウクライナ国旗が掲げられました。
これらのウクライナ国旗は、ロシアが領土宣言してからは非合法となり、所持しているだけで拘束され、時にはパルチザンとして拷問と処刑の対象とされていたものです。

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BBC動画より

一方 ロシア政府は、ヘルソン周辺から兵士約3万人、装備や武器約5000点を後退させたと発表しました。
どうやらロシアは西岸から撤退した軍をクリミア半島北部の塹壕に立てこもらせているようです。

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CNN

「(CNN) 衛星画像などを手がける米企業「プラネット・ラブズPBC」は12日までに、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島の北部に位置するアルミアンスク町近くでロシア軍が塹壕(ざんごう)を新たに築いているとする衛星画像を公開した。
現場はウクライナ南部ヘルソン州との州境近くとなっている。今回の画像は今月5日に撮影したもので、野原で塹壕が掘られている様子を捉えていた。1週間前の10月29日にはこの野原で見られなかった動きとした」
(CNN11月12日 )
ロシア軍、クリミア北部で新たな塹壕構築 ヘルソン州近く - CNN.co.jp


そして撤退に際して、目につく重要インフラを破壊して逃げて行きました。
特に生活インフラが狙われ、テレビ放送施設、通信施設、ボイラーに続き火力発電施設や給水施設も破壊したようです。
ダムの破壊は映像で確認されていますが、実に悪質です。

またドニエプル川などに架かる橋が破壊されたことは、衛星写真で確認できます。

「衛星画像は、ロシア軍がドニプロ川に架かるアントニフスキー橋と鉄道橋(ヘルソン市の近く)とノヴァカホフカダム橋(ノヴァカホフカ近くのヘルソン市の東)とインフレッツ川に架かるダリフカ橋(ヘルソン市の北東)を破壊したというウクライナとロシアの両方の情報源による声明を裏付けています」
(ISW前掲)

下の衛星写真は、ドニエプル川にかかるアントニフスキー鉄道橋の損傷の模様です。

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ISW

また、ヘルソン州のカホフカ水力発電所のダムの一部も破壊されたことが衛星写真で確認されています。

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ドニエプル川のほとりに塹壕、要塞を掘るロシア軍、衛星画像

このていどの破壊では下流域に水害は引き起こされませんが、発電能力は大きな損傷を受けました。
ウクライナの生活インフラは旧ソ連時代に作られたものが多く、ロシアはその詳細な図面を持っています。
ですから、先日来続くミサイルによるウクライナの発電インフラ破壊や、今回の撤退に際しての破壊は、すべてここを破壊したらどのような結果になると完全に予測した上での破壊です。

ちなみに解放の夜には市民らが市庁舎前広場で輪を作って祝福のダンスを踊っていました。

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Telegram: Contact @hueviyherson

おめでとう、ウクライナ!
まだヘルソン州全体の奪還には時間がかかりますが、大きな、本当に大きな一歩でした。

 

 

 

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ウクライナ、州都ヘルソンを奪還 | カナロコ by 神奈川新聞 (kanaloco.jp)

ウクライナに平和と独立を

 

 

 

2022年11月13日 (日)

日曜写真館 ぎんなんも落るや神の旅支度

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実をあまたつけて銀杏は賢き木  鷹羽狩行

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銀杏が落ちたる後の風の音 中村汀女 

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銀杏のにがみは二つ三つほどに 岸田稚魚 

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光り騒ぐぎんなん越しの別れの歌 楠本憲吉 

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宮も寺も遠き裏町青銀杏 中村草田男

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お寺はしづかなぎんなん拾ふ 種田山頭火

 

2022年11月12日 (土)

トランプのひとり負けです

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トランプのひとり負けです。
彼があのような勝利前パーティなどをぶち上げて出馬宣言をほのめかさなかったら、あるいは違う展開もあったかもしれませんが、彼が約束した「赤い波」が来なかった以上、負けは負けです。

今回の中間選挙には勝者はいませんでした。
バイデンは勝利宣言もどきを言って再選を言い出していますが、共和党が躍進したのはまちがいないことで、今後議会とのねじれを抱えたレームダックとなるでしょう。
共和党は勝てる勝負を勝ちきれませんでしたから、苦い勝利のはずです。
そして最大の打撃を受けたのは、ある意味で中間選挙の主役とも言えたトランプでした。
しかし結果は、13勝10敗では、トランプのパワーに限界が見えたとされても致し方ないでしょう。

トランプは共和党内でいわば「トランプ私党」を作ってしまい、みずからが推薦する候補を勝たせることで党を支配しようとしてきましたが、これが陰ったのですからバッシングを浴びることになります。

「トランプ氏は、上下両院と知事選で計約200人を推薦し、応援で全米各地を飛び回った。描いていたのは、息のかかった候補を多数当選に導くことで存在感を高め、次期大統領選への弾みとするシナリオだ。
しかし、ふたを開けてみれば、共和党は予想外の接戦に持ち込まれた。米メディアのアクシオスによると、トランプ氏が推薦した候補は、注目された上下両院と知事選では13勝10敗(9日夜現在)となっており、苦戦も目立つ。ペンシルベニア州では上院選と知事選の両候補が敗北した。ジョージア州上院選の候補は世論調査では僅差でリードしていたが勝ちきれず、決選投票が行われる」
(読売11月11日
[スキャナー]トランプ氏へ抵抗感強く、共和党伸び悩む…復権戦略に狂い : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

今回もまたトランプは選挙不正疑惑を言い出しています。
トランプの仇敵のCNNが言っていることですから、表現に揶揄とディスリがありますのでご容赦。

「(CNN) 米国のトランプ前大統領は8日、ソーシャルメディア上で今年の中間選挙について、大規模な不正が起きる可能性があるとの見方を示唆した。根拠は挙げていない。同氏は2020年の大統領選挙で大規模な不正があったとの誤った主張を繰り返し展開。今回も同様の事態が起きかねないとの認識を示した。
「選挙不正に関して同じことが起きているのか、2020年に起きたように???」と、トランプ氏は8日午後、自身の運営するトゥルース・ソーシャルのプラットフォームに書き込んだ。
20年の大統領選で、大規模もしくは結果を変えるほどの不正が行われた証拠はない。また22年の中間選挙でも、8日の初期の段階でいかなる重大な不正の兆候も確認されていない」
(CNN2022年11月9日)
米中間選挙 トランプ氏が大規模な選挙不正の可能性に言及、証拠示さず - CNN.co.jp

トランプさん、ダメですって、この不正選挙疑惑糾弾を今やってしまっては。
これは大統領選の時のように、不正疑惑糺弾とは公式に負けを宣告された側が、選挙に疑義ありとして言い出すことなのです。
まだ決したわけでもないのに、ここでそんなことを言い出せば、みずから負けを認めたのも同然となります。

山路さんもご指摘のように、今回も怪しげなことが複数報告されています。
しかし今、それを言い出す意味がありますか。
選挙ボランティアや支持者が言うのと、当のトランプが言うのとはわけが違うのです。
こういう負けモードになると、トランプの持っていたマッドマンセオリの負の側面ばかりが露出することになります。
いい時は、信じられないくらい果断にして憎いまでに巧緻なんですが、いったん悪くなると人一倍強いパワーが逆噴射してしまうようです。
その典型があの議会選挙事件でした。

もう思い出したくもない、あの議会襲撃事件は、大統領選挙の結果に不満を持つ、トランプの支持者らが議会に乱入し、選挙結果を実力で覆そうとした事件でした。
2021年当時、さまざまな選挙疑惑が噴出してきており、疑惑を糾弾する人たちは異常な票の動きがあるとしました。

これについては、今なお疑惑は完全に払拭されたとはいいがたく、今後もくすぶり続けることでしょう。
私は今も単純な陰謀論だとも思っていない反面、その後の調査でも結果が覆らなかったことから、不正操作はあっても一定規模以下だったと思うようになっています。

とまれ、この「選挙が盗まれた」とするトランプ支持派の怒りの可燃性ガスが爆発したのが、大統領を指名する上下院会議でした。

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東経

「クルーズ米上院議員を含めたグループは1月2日、米大統領選挙の選挙人投票に関する完全な認定を延期し、不正が行われたとされる主張について10日間の調査実施を求めた。クルーズ上院議員らのグループは、「調査委員会が設置されない限り、疑惑のある州の選挙人は合法的に認定されていないと見なし、1月6日の投票で拒否する意向」との声明を発表している」
(ロイター2021年1月14日)
1月6日の米上下両院合同会議に対する関心高まる | Reuters

ここで突如スポットライトを浴びことになったのが、副大統領にして上院議長であったペンスでした。
ペンスはこの上下両院会議においては副大統領ではなく、ブレジデント・オブ・セネター、直訳すれば「上院大統領」として憲法が保証する強い裁量権を持っていたのです。
ペンスは、合同会議を通過儀礼として、すでにバイデン勝利とで出ているとおりを読み上げるか、さもなくば上院議長の権限で不正があったとトランプ派に糾弾されていた7州を、正当な選挙が行われなかったとして無効にすることも理論上は可能でした。
ただしそれをやれば、ペンス自らが言ったとおり、「副大統領が大統領を選ぶことになる」のです。
これはある種のクーデターであり、民主主義のルールに反しています。
私は当時から、このペンスの決断を支持していました。そうするしかなかったのです。
トランプはこのペンスの対応を許さず、後に追放します。

結果として、ペンスは賢明にも前者の常識的対応をとりましたが、ここで起きてしまったのがこともあろうに議会を占拠すという暴挙でした。

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時事

トランプ政治の特徴であり、最大の欠点だったのは、大衆を直接動員する手法でした。
トランプはこの土壇場で、この大衆動員で議会に迫るという手法を選択してしまいました。
大規模な応援集会やデモをするところまでは、大衆のやりきれなさを具現化する大統領として有効な政治手法でしたが、このような議会審議に圧力をかけるために支持者を集めるとなると話は違います。
これは民主政治の仕組みそのものを、大衆デモの力を借りて有利に運ぼうとするものであって、ひとたび間違えるとこのような一部の暴徒を押えきれなくなってしまいます。
トランプは「大衆の力」の使い方を土壇場で間違えたのです。

常日頃は理性的に行動する人が、群衆心理に流されて暴力を振るうのですが、これは主催者側であるトランプ陣営が充分に予想できた事態でした。
想像していただきたいのですが、目の前にガソリンタンクがあるとしましょう。
これは、選挙不正や度重なるフェクニュースに憤って怒りのガソリンをたっぷりとため込んだ万単位の人々です。
しかも彼らの多くは、大統領の呼びかけに応じて集まった無統制な人々で、コントロールをする者を欠いていました。
そこに誰かわかりませんが、意図的にガソリンタンクに着火しようとする者が現れれば、ガソリンタンクは大炎上するでしょう。

トランプは議会を占拠しろなどとは発言していませんし、むしろ「家に帰ろう」と抑えにかかっていましたが、遅すぎました。
このことでバイデン勝利は確定的となってしまったのですから、完全なトランプの戦略ミスです。
いまなお、トランプはこの議会選挙で強い批判にさらされて、司法機関から捜査対象となっています。

そして不正選挙疑惑を言い出せば、自ずとあの忌まわしい議会襲撃事件がトランプと重なって、必ずトランプという異形の政治家と二重写しにし、さらに共和党とも重ね合わせてしまいます。
バイデンがそこを執拗に攻めたてたのは、敵としては当然の戦略でした。
今回は得た票とおなじくらい忌避されています。

彼ほど強いカリスマ性を持たない政治家であったなら、ここで彼の政治生命は終わったはずですが、トランプの人気は変わらず、今回の中間選挙まで保たれていました。
しかしこのトランプ待望論は、この中間選挙で終わりになるかもしれません。
一貫して共和党支持だったFOXすらこう言っています。

「多くの保守派は、共和党の圧倒的な中間選挙の結果が不十分であり、全国のトランプ候補が就任できなかった責任をドナルド・トランプ前大統領に向けた。
多くの保守的なコメンテーターは、共和党がトランプから離れる時が来たという兆候として選挙結果を受け取った。コメンテーターは、トランプが簡単な勝利を接戦に変え、接戦を敗北に変える風変わりな候補者を支持したと主張した。他の人々は、トランプが全国で勝利を確保できなかったことを、ロン・デサンティス知事のフロリダでの共和党への支持の大きな波と比較した。
「私の保守派と共和党のチャンネルでのすべての会話は、私が見たことのないようなトランプへの怒りです」と、ナショナルレビューのシニアライターであるマイケルブレンダンドハティはツイッターに書いた」
 (FOX2022年11月9日
保守派は、共和党の圧倒的な選挙結果の後、トランプを指さします:「彼は決して弱くありませんでした」|フォックスニュース (foxnews.com)

「見たことがないトランプへの怒り」ですか。
まぁ、こう言われてもしかたがないでしょうね。

ウォールストリートジャーナルは、トランプが推薦した多くがろくでもない者たちばかりだったから落ちたのだ、と突き放しています。
トランプは共和党内でいわば「トランプ私党」を作ってしまい、みずからが推薦することで党を支配しようとしてきましたが、これが陰ったのですからバッシングを浴びることになります。

「トランプ氏は、上下両院と知事選で計約200人を推薦し、応援で全米各地を飛び回った。描いていたのは、息のかかった候補を多数当選に導くことで存在感を高め、次期大統領選への弾みとするシナリオだ。
しかし、ふたを開けてみれば、共和党は予想外の接戦に持ち込まれた。米メディアのアクシオスによると、トランプ氏が推薦した候補は、注目された上下両院と知事選では13勝10敗(9日夜現在)となっており、苦戦も目立つ。ペンシルベニア州では上院選と知事選の両候補が敗北した。ジョージア州上院選の候補は世論調査では僅差でリードしていたが勝ちきれず、決選投票が行われる」
(読売11月11日
[スキャナー]トランプ氏へ抵抗感強く、共和党伸び悩む…復権戦略に狂い : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

こういう負けキャラモードになると、トランプの持っていたマッドマンセオリの負の側面ばかりが露出することになります。
大変に残念なことです。
私は下の写真を見るたびに、鼻の奥がツーンとなります。

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安倍晋三さんはTwitterを使っています: 「令和初の国賓としてお迎えしたトランプ大統領と千葉でゴルフです。新しい令和の時代も日米同盟をさらに揺るぎないものとしていきたいと考えています。 https://t.co/8ol8790xWY」 / Twitter

私もトランプが、米朝会談に引き込んだ手際や、アブラハム合意を作った姿、そして安倍氏の最大の盟友としての友情に満ちた笑いをもう一度見たかったのですが、残念ながらいまのトランプにはその力が失われてしまったようです。

トランプさん、気を落ち着かせて後継者を探してください。
その意味で、まだ終わったわけではありませんから。

 

 

2022年11月11日 (金)

バイデン、よく大敗しなかったものです

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米国の中間選挙の投票は終わっていますが、まだ完全な結果は判明していません。

「【ワシントン=坂本一之、平田雄介】米中間選挙は9日、前日からの開票作業が続いた。全435議席が改選される下院では野党の共和党が200を超える選挙区で当選を確実にし、過半数(218)に向け議席を積み増した。上下両院とも民主党の善戦で予想以上の接戦となり、大勢判明が遅れている。民主党のバイデン大統領は9日、ホワイトハウスで記者会見し、共和党のシンボルカラーの赤にちなんだ「巨大なレッドウエーブ(赤い波)は起きなかった」と述べた。
米CNNテレビによると、9日午後8時(日本時間10日午前10時)現在、下院では共和党が207議席、民主党が187議席を得た。補選を含め35議席が改選される上院(定数100)は、非改選を含めた議席数で共和党が49、民主党が48となっている。
産経2022年11月10 日)
【米中間選挙】共和党 下院奪還へ議席積み増し バイデン氏「赤い波起きなかった」 - 産経ニュース (sankei.com)

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アメリカ中間選挙、共和4年ぶり下院奪還の勢い 上院は接戦続く: 日本経済新聞 (nikkei.com)

●2022年米中間選挙
上院は与野党接戦、下院は野党・共和党がリード

勝利予測数は以下の通り(日本時間午後4時現在)
上院  :民主48、共和47
下院  :民主162、共和192
州知事選:民主20、共和24
米中間選挙の開票速報 - Bloomberg

バイデンが勝ったではなく、負けなかったということで、米国株式市場は大幅安となりました。

「【NQNニューヨーク=古江敦子】9日の米株式市場でダウ工業株30種平均は4営業日ぶりに反落し、前日比646ドル89セント(2.0%)安の3万2513ドル94セントで終えた。開票が続く米中間選挙は野党・共和党が下院で過半数を奪還する可能性が高いが、上院は接戦となっている。
上下両院で共和党が勝利すれば株高につながるとの期待が後退し、幅広い銘柄に売りが出た。
上院は複数の州で勝敗が読めず、民主党が過半数を維持する可能性がある。米メディアがジョージア州で決選投票になる可能性を報じ、そうなれば上院の議席確定は1カ月遅れる。下院でも民主党が予想以上に善戦しており、共和党は僅差での過半数獲得にとどまる見通しだ」
(日経11月10日)
米国株、ダウ反落し646ドル安 中間選挙後に株高期待が後退 ナスダックは年初来安値に迫る: 日本経済新聞 (nikkei.com)

そしてまた上院の結果は、ジョージア次第にかかってしまいました。

(CNN) 米中間選挙のジョージア州の上院選は大接戦となり、CNNの予測によると12月6日に決選投票が行われる見通しだ。
開票の結果、今月8日の時点で民主党の現職ラファエル・ワーノック氏、共和党のハーシェル・ウォーカー氏のどちらも勝利に必要な50%の得票率には届かなかった。
ペンシルベニア、アリゾナ、ネバダ各州の結果次第では、上院での過半数獲得の行方がジョージア州の有権者の手で決まる可能性がある。
接戦は今年のジョージア州において、選挙ごとに異なる党へ投票する有権者が多く存在することを浮き彫りにした。CNNの予測によると、知事選では共和党のブライアン・ケンプ氏が民主党のステイシー・エイブラハム氏を大差で退けたが、上院選にその結果は反映されなかった 」
(2022年11月10日) 
米中間選挙、ジョージア州上院選は来月6日に決選投票へ CNN予測 - CNN.co.jp

またジョージアかい(苦笑)。そして知事は、その名も懐かしきブライアン・ケンプです。
なんか2年前のVTRでも見ているような気分です。
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トランプが前々回の大統領選に勝利したのは、旧南軍諸州の鉄板地盤に、中西部農民層地帯、中東部工業労働者地帯を共に押えたからです。
逆にいえば、民主党は海岸沿いのよく米国人にあそこはアメリカじゃないと揶揄されるカリフォルニアやニューヨークなどを押えているにすぎません。
ただ都市部で人口が多いため、カリフォルニアが実に55、ニューヨークが29、この2州だけで84票も押えています。
民主党は全米を駆け回らなくても沿岸部だけで運動すればいいので、効率のよい勝ち方ができます。
ちなみに大都市の開票には時間がかかるために、まず田舎から開いて共和党に有利な結果が出て、かなりの時間差を置いて民主党の地盤の大都市部がの結果が判明するために、一気に民主党が詰めるという逆転現象が起きます。
ジョージアは、本来ならば磐石の共和党の地盤でおかしくない地域です。
前回大統領選で、不正選挙を訴えたテキサスが、なんと別の州を連邦最高裁に訴えましたが、それはミシンガン、ペンシルベニア、ウィスコンシンと唯一の南軍地域であるジョージアでした。
テキサスを怒らせたのは、ジョージア州知事のブライアン・ケンプが見事に寝返り、部下の州務長官もいずれもリパブリカンだったにもかかわらず、トランプ降ろしを社是としていたCNNに「ワレワレは、ホワイトハウスと共和党から迫害されている」と訴える始末。
ですから、CNNの記事に「共和党のブライアン・ケンプ」と書かれていても、まぁそういう人なのです。
この前回大統領選と同時に行われた上院選でも、ジョージア州上院決戦投票で共和党は2議席ともに奪われ苦渋を飲みました。
ケンプはいまだに共和党員のようです。

テキサス州ペンシルベニア州など4州を提訴: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

ジョージアはとりあえず置くとして、全国状況としてはバイデンが言うように「赤い波はこなかった」と言ってよいでしょう。
事前予想では、共和党の大津波と共にトランプ復権だったはずですが、そうはいかなかったようです。
ウォールストリートジャーナルは皮肉っぽくこう書いています。

「米共和党の躍進を表す「赤い波」は来なかった。8日投開票の中間選挙の結果は、どちらかと言うとポタポタと水が垂れる感じに近かった」
(WSJ11月10日)
【寄稿】赤い波来ず、海にさまようトランプ氏 - WSJ

正直に言って、共和党は勝てる試合を落としたといったところでしょう。
バイデンの国内政治の失政は明らかでした。
まず極度のインフレによる生活難をおこしてしまったために、支持率40%という窮地に立っていました。

WSJによれば、7割の米国人が「この国は悪い方向に言っている」と答えているそうです。
強インフレを引き起こして、かつ、先が見えない生活の中で、選挙前の世論調査では、共和党の経済政策のほうがいいと答えた人のほうが民主党より14ボイント上回っていたようです。

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米・日株、軟着陸見えた?米インフレ率9.1%に上昇も、原油・穀物は下落 | トウシル 楽天証券の投資情報メディア (rakuten-sec.net)

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【アメリカ】「ランチ約2000円で安いと感じる…」消費者物価9.1%上昇…家計圧迫 - YouTube

今年8月のアメリカの大都市部の最新の物価はこのようです。

・マクドナルドのマックミールセット(コンボミール)10ドル(1359円)
・牛乳(1リットル)1.21ドル(164円)
・白パン(500グラム、1ローフ)3.99ドル(542円)
・米(1キロ)7.20ドル(978円)
・卵(12個入り)4.03ドル(548円)
・ローカルチーズ(1キロ)17.13ドル(2328円)
・鶏肉(モモフィレ肉、1キロ)16.44ドル(2234円)
・牛ひき肉(1キロ)20.25ドル(2752円)
インフレが進行するアメリカ・主要都市の物価はどうなっている? (j-seeds.jp)

また同時に産油国でありながら原油価格が約50%も上昇し、世界一の自動車社会である米国人を驚かせました。

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ブルームバーク

「米国でのガソリン価格が再び最高値を更新した。夏季のドライブシーズンを迎えたドライバーにとっては新たな打撃だ。
全米自動車協会(AAA)のデータによると、平均小売価格は31日時点で1ガロン=4.622ドル。1カ月前は4.178ドルだった。1年前と比べると50%余り高くなっている」
(ブルームバーク2022年6月1日)
米ガソリン平均小売価格、再び過去最高-ガロン当たり4.622ドル - Bloomberg

ガソリン価格高騰の原因は、ロシア制裁の影響なども影響しているので、一概に言えませんが、脱炭素に傾きすぎた民主党のエネルギー政策にも原因はあるはずです。

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米国ガソリン価格、過去最高値を更新 高騰が深刻(日テレNEWS) - Yahoo!ニュース

このような経済混乱の原因は、バイデンが人気とりでやったコロナの経済対策として、札束を配りまくったことが原因でした。
バイデン政権は、トランプ政権下の2回のコロナ経済対策の給付金(1人当たり1200ドル、600ドル)に上乗せして、2021年3月に民主党のみで成立させた米国救済計画法に基づき、追加給付金を1人当たり1400ドルも支給しています。
米国救済計画法は、国民に大受けしたのですが、経済状況を見ないあまりに過剰な給付でした。
その経済的影響は大きく、もらったカネを個人消費に回してしまったために、需要が急増したにもかかわらず働き手がいないため労賃を過剰に上げてしまうことからコストプッシュ・インフレが生まれました。
これがいわゆる「バイデン・インフレ」の原因です。

「経済回復の進む中での1400ドルの追加給付金は、火に油を注ぐ行為でインフレを加速させた失策であったとの見方が有力だ。つまり、アメリカ経済を生産拡大に移行させる規模以上に政権は市場にお金を投入してしまったのだ。一部のエコノミストはそのギャップは対GDP比で約10%にのぼると算出している。追加給付金は短期的には国民に好評であったものの、中長期的には不人気なインフレをもたらしたようだ」
(渡辺亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長 2021年12月15日)
「バイデンフレーション」がアメリカ民主党を直撃 | アメリカ | 東洋経済オンライン

このバイデン・インフレを抑えために、FRBはたびたび政策金利の上昇をかけねばなりませんでした。

「米国連邦準備制度理事会(FRB)は11月1、2日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利の現状の誘導目標3.00~3.25%を0.75ポイント引き上げ、3.75~4.00%とすることを決定した(添付資料図参照)。4会合連続で通常の3倍となる0.75ポイントの引き上げ幅となった。今回の決定は参加者12人の全会一致だった」
(JETROビジネス短針022年11月4日)
米FRB、政策金利を4会合連続で0.75ポイント引き上げ、金融引き締めの長期化を示唆(米国) | ビジネス短

その影響はドルの独歩高となって、米国の輸出を苦しめ、日本経済を未曾有の円安に導くという副産物も生み出してしまったのはご承知のとおりです。
つくづくバイデンは経済がわからない人物のようです。

 また犯罪対策では、圧倒的に共和党支持が20ポイントも上回っています。
日本と比較すると、そもそも米国社会の犯罪の多さに驚きます。

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日本の犯罪率は低い!: 殺人事件は人口10万人当たり0.2件 | nippon.com

ただでさえ犯罪が多い所に、民主党系首長がBLMの要求どおり警官数削減をしたのですから目も当てられません。
結果、このコロア禍で銃犯罪が急増しました。
治安は悪化し、警官の死亡も増えています。

今年2月4日、NYの中心街を数千人の正装した警官で埋めつくされました。NYの2名の若い警官の死を追悼するためでした。
これは実は葬儀の形をとった警官たちの抗議デモでした。

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FNN

「しかし今回、若き警察官の殉職は、別の側面からも報じられた。それは米国で後を絶たない銃犯罪と治安の悪化を、多くの市民が不安に思っているからである。 FBIの調査によると、2020年は2000万丁を超える銃が販売された(推計)。2021年は少し減少したものの、この20年間で、2020年に次ぐ数字となっていて、2年間で4000万丁が販売されたことになる。
銃撃事件による死者(自殺を除く)も2万人を超えていて、こちらも2014年以降で最多だ。理由はさまざまあるが、やはり新型コロナウイルスによる社会不安で銃を買い求めた人が多いとされている。
モラさんの葬儀の様子を見に来たニューヨーク育ちの女性も、「パンデミック以降、銃犯罪が急激に増えた気がする。子どもたちに、“地下鉄やバスに乗るときは気をつけなさい”といわなくてはいけない。私の子どもの頃とは違う」とため息を漏らした」
FNN2022年2月4日 )
NY5番街を埋め尽くす数千人の警官・・・治安対策と「警察批判」に揺れる米国|FNNプライムオンライン

BLMの乱暴狼藉は、まだ米国人の記憶に生々しいはずです。
ミネアポリスにおける警官の黒人殺害事件をきっかけにしてBLM運動が爆発し、それはやがて極左アンティファによる暴動へとつながっていくことになります。

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ブラック・ライヴズ・マターは、黒人の成人が彼らを最も助けたグループとして引用|ピュー研究所 (pewresearch.org)

全国各地の南軍の銅像が破壊され、これを容認したのはことごとく民主党系知事でした。
こののち猖獗をふるった、アンティファ暴動を幇助し続けたのもまた同様に民主党系首長たちです。

彼らは、BLMの要求どおり、「反動的な銅像」を撤去し、商店が略奪されても州兵の主導を拒み、むしろ警官には手加減しろと命じました。
極めつけは、シアトル市長のようにアンティファが警察署を含むキャピタルヒル一帯に「自治区」を作れば、「愛の夏が始まった」と歓喜の声を上げたほどです。

トランプ陽性判定とシアトル自治区の「愛の夏」の結末: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

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シアトル・CHOP自治区の終焉と大坂なおみが立ち向かう世界 – ページ 2 – 集英社新書プラス (shueisha.co.jp)

しかしこのコンミューンはわずか一カ月で内部崩壊を起こします。
お定まりの略奪・暴行、そして黒人少年が殺害される事件まで起きたからです。
しかし、彼らの共犯者であるシアトル市長と州知事(これも民主党)は、なにひとつ責任を問われることがありませんでした。

島田洋一氏は、このように民主党系首長を批判しています。

「暴徒鎮圧のような、決して綺麗事ではいかない厳しい仕事は保守派に押し付け、自らは安全地帯から綺麗事を言うのがリベラル派の特徴である。評論家ならひたすら、「トランプが対立を煽っている」「力ではなく話し合いで」と嘯いていれば済む。
しかし警察や州兵を動かす権限と義務を与えられた市長や知事となれば、無政府内乱状態を避けるため、どこかの段階で動かざるを得ない。ところがその際にも、リベラル派内部で往々にして責任の押し付け合いが展開される。結果として、いたずらに対応が遅れる場合が多い。その典型を2020年のニューヨークに見ることができる」
(島田洋一2020年8月6日)
【島田洋一】BLMの現実:シアトル「自治区」の迷夢 - WiLL Online(ウィルオンライン) (web-willmagazine.com)

このような治安悪化にもかかわらず、民主党系首長はBLMの要求どおり警察官の削減を決めていったのですから、犯罪が増加して当然です。

このていたらくでよく大負けしなかったものだと思いますが、そのことについては次回に続けます。

 

 

2022年11月10日 (木)

海保と海自は本質的に別物

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防衛費増額を削るために集められた有識者会議とやらの発言で、おいおい、この人たちは分かって言っているのかというのが、海保予算を防衛費に入れてしまえ、という暴論です。
防衛費の話をしているのに、当事者の自衛隊や海保の現場組をアドバイザーとしても呼ばないのですから、財務省が仕組んだのでしょう。

「複数の政府関係者が明らかにした。NATOが掲げるGDP比2%を目標とするには、同様の基準を参考にするのが妥当と判断した。NATOは、加盟国の国防努力を比較するため、GDP比の対象となる「国防関係支出」に含める項目を定めている。日本の防衛費には含まれない主な項目には、海保に相当する沿岸警備隊や国連平和維持活動(PKO)関連費、退役軍人らの年金などがある。
 この基準を2022年度当初予算に適用すると、防衛費(約5・4兆円)に、海保予算(約2200億円)や旧軍人遺族などへの恩給費(約1100億円)などが加わり、防衛関係費は約6・1兆円となる。GDP比は1・08%だ。補正予算を含む21年度予算でみると、海保予算(約2600億円)などを加えた防衛関係費は約6・9兆円で、GDP比1・24%となる」
(読売2022年9月10日)
防衛費、海保予算も含めた算定方法の導入検討へ…「NATO基準」参考にGDP2%に : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

はい、私、これは謬論ではなく、ハッキリと暴論と呼び、言った者は愚者と呼んであげることにします。
なぜなら海保と海自は、本質的にまったく別物です。
それを一緒の防衛予算に繰り入れることとは、海保が自衛隊の傘下になるという意味です。

有識者らがそう思わなくとも、外国、特に当の海保と年中丁々発止尖閣周辺でやり合っている中国はそのように理解します。
だって同じ予算から執行されるのですから、これで晴れて海保は第2自衛隊というように見られるでしょう。
彼ら海警自身が解放軍傘下の武警の海上警察に位置づけられている以上、当然そう思って当然です。

これは海保にとって得でしょうか、それとも損でしょうか。
損に決まっています。
なぜなら、海保は海自と違って「法執行機関」だからで、「軍隊」ではないからです。
海保は、国境紛争が戦争にエスカレーションしないためのいわば「知恵」なのです。
大戦前までは、いきなり海軍と海軍が接触し、そこから戦闘になり、やがて限定戦争から全面戦争になった経験があります。
そのようなことを避ける知恵として、その両者の間に沿岸警備隊(コースタルガード)を入れたのです。
ですから、海保とはただの海上司法執行機関というわけではなく、海上紛争を未然に防ぐ仕組みでもあったのです。

 

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中国船の日本漁船威嚇、戦術的にも能力向上! 「時機を見て攻撃してくるのでは」漁業者危惧も…玉城知事は“弱腰” 八重山日報・仲新城誠氏緊急寄稿 (1/3ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

たとえば、中国海警はいまや公然と尖閣水域を闊歩し、日本漁船を違法操業だとして追い立てています。

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尖閣諸島周辺海域における中国海警局に所属する船舶等の動向と我が国の対処|海上保安庁 (mlit.go.jp)

海保は漁船と中国海警の間にわが身を入れるようにして、日本漁船を守っていますが、これを自衛艦が同じことをしたらどうなるでしょうか。
たぶん中国はやったぜ、と膝を打ち「日本が自衛隊で我が海警の正当な司法行為を妨害した」とプロパガンダすることでしょう。
そして直ちにその報復として、中国公船を守ると称して、中国海軍を投入してくるはずです。

何が中国の意図か、よく考えて下さい。
ずばり中国の狙いは、尖閣のエスカレーション・ラダーを日本に登らせることです。
海保を挑発し、海自を引きずり出して小戦闘を交えて、この水域が紛争地域だと宣伝することが彼らの目的です。
そしてあわよくば、ここで海自に先に撃たせて限定戦争に持ち込む、そしてそうなったら「神聖な領土・領海」の防衛戦争を始められる、これが彼らの描くストーリーです。

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尖閣周辺で海保巡視船が中国船の接近阻止 漁船「かつてない危機」 - 産経ニュース (sankei.com)

なにせ中国の法律戦によれば、尖閣水域は中国の施政権が及ぶ水域なのですから、先に軍隊を出したほうが負けなのです。
日本が先に海自を投入すれば、それは日本が先に軍隊を投入したことになります。
そうなれば当然中国は、「日本が中国の領海周辺で軍事挑発を開始した」とプロパガンダするでしょう。
一気に中国にとって世論戦に勝てる材料を日本のほうからくれたことに、うれし涙を流すはずです。

中国軍艦もそれを知っているから、接続水域までは頻繁に入ってきますが、原則として北緯27度線以北の海域を巡回しています。
この状況で、日本が先に27度線以南の水域で海自を出せば、日本側が先にエスカレーションの階段を登ったと国際社会は理解します。
米国ですらいい顔はしないでしょう。
今のバイデンなら、日本のほうを非難すかるかもしれません。
このように、軍を動かすということは外交の一部なのです。
常に、「このように行動したら、結果はどうなるのか。どのようなメッセージを送ることになるのか」を考えて行動しないと国際社会まで敵にまわしてしまいます。
国際社会を敵にしてから正義は我にありといっても、満州事変後のかつての日本のようなことになるだけのことです。
二度と同じ轍は踏んではなりません。

そこで海保ですが、「法執行機関」であることで、尖閣のフリクションはかろうじて警察対警察の争いで済んでいます。
これが海保の存在は、人類が編み出した「知恵」のようなものだと言っている意味です。
しかしこれを海自と同一予算にしてしまうと、海保は海自の一部となってしまいます。
海保は県警の予算ほどしか予算をもらっていないので、増額することは大変にけっこうなことですが、自衛隊の予算を削って真水部分を減らして、帳尻だけ2%にするなら、無意味です。

いちおう法律的にはどうなっているかといえば、よきにつけ悪しきにつけ海保は自衛隊とは一線を画している存在です。
海上保安庁法第二十五条は海保をこう定めています。

第二十五条 この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない。

絶対に海保は軍事行動はしないという表現で融通が効かなさすぎですが、そういう法的立て付けの中で存在するのが海保なのです。
島田前防衛次官はこのように述べています。

「確かに、NATO基準では、沿岸警備隊の予算でも、「軍事的戦術の訓練を受け、軍事組織としての装備を有し、直接、軍隊の直接指揮下での活動ができ、かつ、軍隊を支援するため国家領域外での活動が可能な部分」は防衛費としてカウントしてよいことになっている。
しかし、海保法には、「この法律のいかなる規定も海保又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」と明記されている。いかにNATO基準に照らしても、海保の予算には防衛費としてカウントできる部分は皆無ではないだろうか」
(産経 2022年10月21日)
【寄稿】島田前次官 海保防衛費上乗せ「安倍政権で決定」ない - 産経ニュース (sankei.com)

ただし、だからといってわが国に火の粉が降りかかってきた場合、海保は海自と共同しなさいとも書いてあります。
海上保安法第2条と自衛隊法80条です。

「我が国が国際的武力紛争の当事国となっている場合には、自衛隊に対し既に防衛出動が下令されているであろうが、その際には、自衛隊法第80条のいう特別の必要があれば、同条に基づき海上保安庁は防衛庁長官の指揮下に置かれる。
防衛庁長官の指揮下に海上保安庁が入っても、我が国国内法上は、海上保安庁法第2条規定のその任務や機能に変更は生じないと解される。すなわち、我が国国内法上は、国際法上の軍隊たる自衛隊を指揮する防衛庁長官の指揮下でも海上保安庁は、海上警察としての任務のみを遂行するという位置付けになっているのである」
日本財団図書館(電子図書館) 海上保安庁の武力紛争法上の地位 (zaidan.info)

これは海保が自衛艦と同じように軍事的に行動しろ、という意味ではなく、海自と海保の連携を強化しろ、という意味です。
先日、海自と海保が共同訓練をしたよにう、これはグレイゾーンの受け渡しを密にすることを目標にしているものです。
海保は法執行機関として中国に対応し、海自は「軍隊」としてそのバックアップをしながら、イザという有事に備えるのです。
大事なのはこの連続的な受け渡しであって、海保に海自と同じになれという意味ではありません。

「日本が攻撃を受けた「武力攻撃事態」を想定した初の共同訓練を今年度内にも実施する方針を固めた。共同訓練の結果を検証したうえで、武力攻撃事態で、防衛相が海保を統制下に置く際の手順などを定めた「統制要領」の策定を進める考えだ。
 複数の政府関係者が明らかにした。沖縄県・尖閣諸島周辺海域などでの有事を念頭に、海自と海保が切れ目のない対応をとれるようにする狙いがある。政府は、防衛力の抜本的強化に向け、自衛隊に加え、海保の関連予算も大幅に増額し、双方の協力体制を整えることを目指しており、共同訓練は象徴的な取り組みとなる」
(読売 2022年11月9日)
海自と海保「武力攻撃事態」想定した初の共同訓練…尖閣海域を念頭、年度内にも実施へ(読売新聞) - goo ニュース

岸田氏が、海保予算を防衛費に繰り入れたいのなら、海上保安法を改正し、NATOや米国のような準軍隊に改組してからにするしかありません。
そこまで突っ込む気があるならば、それはそれとして議論の余地はあるのですが、有識者は単に防衛費増額の真水部分を削りたい軽い気持ちから言っているにすぎません。
都合のいいときだけ、NATO基準をもちだすんじゃないよ。
岸田さん、海保の第2自衛隊化などする気がないにもかかわらず、水増ししたいだけでするなら、悪いことは言わないからお止めなさい。

 

 

 

 

2022年11月 9日 (水)

増税大好き、岸田首相

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岸田氏が「防衛費の抜本的増額」を口にしたのは結構でしたが、いろいろなことが吹き出しました。
いきなり財務省推しのような人たちが有識者会議に集められて、いかにして「抜本的強化」のための予算を水増しするかで首をひねっています。

こんなことを言っているようです。

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NHK

「政府は31日、首相官邸で20日に開いた防衛力強化に関する有識者会議(座長・佐々江賢一郎元外務次官)の第2回会合の議事要旨を公開した。防衛費増額の財源について、「幅広い税目による国民負担が必要なことを明確にして国民の理解を得るべきだ」など、国債発行に頼らず、増税など国民負担を求める有識者の意見が多く紹介されている。
議事要旨に発言者名は記されていない。出席者の1人は「他の歳出の削減による財源の捻出」を求めた上で、防衛力強化は国民全体の利益になるため「費用も国民全体で広く薄く負担するというのが基本的な考え方だ」と述べた。
別の出席者は、所得税など直接税を増税して歳入増を図ってきた歴史を強調し、「大戦時の軍事費調達のため多額の国債が発行され、終戦直後にインフレを招いた歴史を忘れてはならない」と主張。「むやみに国債発行をしてはならない」との意見もあった」
(産経10月31日)
防衛費財源「国民全体で負担を」 有識者会議で増税論相次ぐ - 産経ニュース (sankei.com)

誰ですか、この「国債を発行するとインフレになる」といった馬鹿は。まだこんなカビの生えたようなことを言ってるんですか。
アベノミクスで国債をガンガンだして金融緩和をしまくりましたが、終戦直後のインフレ」になるどころか,これでもまだデフレから抜け出せませんした。

国債発行高とインフレ率の相関を見てみましょう。
まずは国債発行高から。
新型コロナ対策として3度にわたる補正予算を編成した2020年度の新規国債発行は108兆円で未曾有の額に積み上がり、歳入に占める国債依存度は73.5%となっています。

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国債発行残高、初の1000兆円突破へ : 国民1人当たり借金800万円 | nippon.com

では、これによって「終戦直後のようなインフレ」が到来したでしょうか。
下図で、食糧・エネルギーを除くコアコアCPIは青線で表示されていますが、コロナ対策費で国債を108兆円積み上げた2020年度ですらマイナスをさまよっています。
なにがハンパーインフレですか。
つまり国債発行と低金利政策は、デフレ経済化においてはインフレを引き起こさないのです。

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図録▽消費者物価指数の動き (sakura.ne.jp)

次に、今の日本と世界のインフレ率を比べてみましょう。

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第一生命経済研究所

上図一番下で低位安定しているのが日本です。
わずかに2%を超えたくらいで、むしろいい感じで経済が温まってきているくらいです。
よくメディ
アは、円安で物価高騰と叫びますが、2%ていどのインフレは世界的に見てむしろ低いくらいで、日本人の感覚が低体温症のようなデフレがあまりにも長期に続いたために価値観がおかしくなっているだけのことです。
今のような温和なインフレが続くと、景気を温めて悲願のデフレ脱却がやっと現実化します。

海外の物価動向と比較すると日本の物価上昇率は長らく低く、日本経済のデフレ体質からの脱却は容易ではなかったことが分かります。
にもかかわらず、いまこの時期に増税したらどうなるのか火をみるより明らかですが、すでに与党関係者は増税メニューを配りまくっているようです。
自民党の増税派は9月半には経済界に対して法人税、金融所得課税、たばこ税の引き上げを検討する意向を伝えているそうです。
増税は景気の加熱を抑えるためにするもの。
いまの米国や英国ならば、インフレ加熱を抑える効果が期待できるでしょう。
一方、世界主要国でもっともインフレ率が低く、2%台をやっと抜けたようなわが国で増税をすればどうなるか、少し考えればわかりそうなものです。
確実に経済を冷やし、デフレ脱却の芽を摘んでしまうのです。

「日本のインフレ率は消費増税時を除けば約30年振りに前年比2%に到達したが、9%前後の欧米諸国と比べると物価上昇は限定的。企業の価格支配力の違い、経済回復ペースの違い、人手不足の度合いの違いを反映。今後のエネルギー価格や為替相場の動向次第で3%乗せを視野に入れることがあったとしても、欧米のような2桁台を睨むインフレ加速に直面することは見通せない」
(第一生命経済研究所2022年7月22日)
日米欧の物価上昇率の比較 ~日本は2%超えも9%前後の欧米との違いは?~ | 田中 理 | 第一生命経済研究所 (dlri.co.jp)

法人税を上げれば確実に企業収益を圧迫し、金融所得課税をやれば株式投資が冷え込み、株価を冷え込ませます。
識者とやらのいうように防衛増税をすれば、「広く薄く負担が増え」、消費増税と同じ効果を個人消費にもたらします。
消費増税があった2014年を例にとります。
消費増税が激しく個人消費を直撃しているのがわかります。
しかもこれは「広く薄く」同率で課税するために、貧困層に厳しいものとなり貧富の格差を助長します。

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独眼経眼:増税前の景気冷え込みで日本株出遅れ=藤代宏一 | 週刊エコノミスト Online (mainichi.jp)

次に岸田氏が狙っているのが、金融所得課税ですが、こんなものを増税メニューに乗せる神経がわかりません。
たしか岸田氏のお題目である「新しい資本主義」について、こんなこと言っていましたね。
政権発足当初に岸田氏が掲げていた「新しい資本主義」構想とは、企業の短期的な利益拡大を抑えて、株主の利益を優先を修正し、所得格差をなくしていく政策だと見られていました。
まるで旧民主党政権が言い出しそうな社会主義的経済政策ですが、この考え方から個人所得課税の税率と比べて低い金融所得課税制度を問題視し、金融所得課税を強化しようという税制構想が生まれたのです。

「岸田首相は5月上旬に、英国金融街シティの講演で、突然「資産所得倍増計画」を打ち上げた。政権発足時に岸田首相は「令和版所得倍増計画」を掲げていたが、これに個人の資産を倍増させる目標を加えたものか、つまり「資産・所得倍増計画」かとも思われたが、実際には個人の「資産所得」を倍増させることを目指す計画なのだろう」
(木内登英2022年5月31日)
岸田政権の「資産所得倍増計画」と「貯蓄から投資へ」 | 2022年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI) 

ところがこの5月にロンドンでコロリと、「貯蓄から投資へ」と言い方を変えたのですが、またぞろ増税モードが疼き始めたようです。
今度も懲りずに金融所得課税が、増税メニューに入っているようです。
こうなると岸田氏は増税大好き、とお見受けしてよいようです。

では、なんのために増税するのでしょうか。
いうまでもありませんが、税収を上げるためですよね。
ところがなんと皮肉なことには、22年度の税収が発表されたのですが、これが過去最大だったのです、お立ち会い(笑)。

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国の20年度税収、コロナ禍でも過去最高 60.8兆円に: 日本経済新聞 (nikkei.com)

「[東京 4日 ロイター] - 2022年度の一般会計税収が68兆3500億円余りと、過去最高だった21年度実績を上回る見通しであることが4日、分かった。複数の政府関係者が明らかにした。政府が近く閣議決定する22年度2次補正予算案で、昨年末の見積りを増額修正する。
主要税目のうち所得、法人税収などが堅調に推移していることを反映する。当初は22年度税収を65兆2350億円と想定していた。新たに3.1兆円上振れすると見込み、政府が先月28日に決定した総合経済対策の財源に充てる」
(ロイター11月4日)
22年度税収が過去最高68兆円超に、2次補正で3.1兆円増額=政府筋 | Reuters

税収が過去最大になった原因は大幅円安です。
円安が輸出産業を押し上げたのです。
これを神風ととらえないで、円安地獄と評するのがメディアと増税派です。

そして次なる増税カードが、なんと呆れたことには防衛費増額です。

「防衛費増額については、自民党内に北大西洋条約機構(NATO)基準を念頭に、5年以内に国内総生産(GDP)比2%以上に当たる11兆円規模を求める声が強い。現行の防衛予算は5兆円台で、政府が検討している海上保安庁予算などの経費を幅広く含めるNATO基準での算定でも6兆円台と、大幅な増額とその財源が必要だ」

時事2022年09月22日
防衛費増額「財源の壁」 国防強化、動きだす増税論:時事ドットコム (jiji.com)

米国には防衛費の増額を公約してしまった手前、ともかく防衛周辺のモノを防衛費鍋の中にぶっ込んでしまえ、そうすりゃ楽勝で2%になるわい、という粗雑な案でした。

「複数の政府関係者が明らかにした。NATOが掲げるGDP比2%を目標とするには、同様の基準を参考にするのが妥当と判断した。NATOは、加盟国の国防努力を比較するため、GDP比の対象となる「国防関係支出」に含める項目を定めている。日本の防衛費には含まれない主な項目には、海保に相当する沿岸警備隊や国連平和維持活動(PKO)関連費、退役軍人らの年金などがある。
 この基準を2022年度当初予算に適用すると、防衛費(約5・4兆円)に、海保予算(約2200億円)や旧軍人遺族などへの恩給費(約1100億円)などが加わり、防衛関係費は約6・1兆円となる。GDP比は1・08%だ。補正予算を含む21年度予算でみると、海保予算(約2600億円)などを加えた防衛関係費は約6・9兆円で、GDP比1・24%となる」
(読売2022年9月10日)
防衛費、海保予算も含めた算定方法の導入検討へ…「NATO基準」参考にGDP2%に : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

後は、年4兆円を超える科学技術関係予算のうち、文部科学、経済産業両省が6割強を占め、防衛省は4%だけなのを見直し、宇宙分野や先端技術開発など防衛利用が見込める予算を防衛関係費として込み込みにしてしまうという案もあるようです。
特にひどいのが海保予算の防衛費繰り込みです。

しかもこれを安倍氏が言い出したことだと言い訳しましたが、当時を知悉している島田和久前防衛事務次官(現内閣官房参与)から噛みつかれました。

「しかも政府関係者が、海保の上乗せは、安倍晋三政権の時に決めた方針だと説明しているらしいと聞く。ちょっと待ってほしい。安倍政権において、そのような方針を決めた事実はない。「海保の予算は防衛に直接関係する経費ではない。しかし、いわば安全保障に関連する経費ではある」、という当たり前の整理をしたことがあるだけだ。
政府方針は「国家安全保障の最終的な担保となる防衛力の抜本的強化」であり、「その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する」ことだ。岸田首相は明確にそう述べている。議論をすり替えてはならない」
(産経2022年10月21日)
【寄稿】島田前次官 海保防衛費上乗せ「安倍政権で決定」ない - 産経ニュース (sankei.com)

岸田氏自身が考えたとは思いたくないのですが、海保予算を防衛予算に入れるというのは、下策を通り越してもはや暴論です。
この案は、海保と自衛隊は本質的にまったく違う存在だということを理解しておらず、中国に対して誤った外交シグナルを送る可能性すらあります。
それは海保は自衛隊の下請け組織だということですが、これについては長くなりそうなので明日に続けます。

 

2022年11月 8日 (火)

核の対抗抑止について定見を持たないバイデン

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実のところ、バイデンは北の核開発には無関心でした。
10月12日、米国の「国家安全保障戦略」が公表されました。
バイデン政権は、2021年3月に暫定的な指針を発表して以来、正式な戦略発表は今回が初ですが、その中で北朝鮮にはほとんど触れられていません。
Biden-Harris Administration's National Security Strategy.pdf (whitehouse.gov)

内容的には新味はありません。
民主党左派の主張そのままに気候変動対策と脱炭素のエネルギー政策を強調し、いまや共和党との境がなくなった中国の台頭に警鐘を鳴らしているだけです。
結局、48ページにもわたる長文の戦略文書でありながら、同盟国との関係強化と米国のリーダーシップが重要と言うに止まりました。
こんなことは、あえて言わなくてもわかりきったことです。

かんじんのただいま現在、大量破壊兵器の開発に狂奔している北に対しては、「非核化への持続的対話」をする、などと寝ぼけたことを言っています。
これは今さら何もすることがない、という無力感の現れなのでしょうか。
それにしても、日本を標的とする中距離弾道ミサイルや、北米全域を射程に入れた大陸間弾道ミサイルは完成してしまっており、それに搭載する核弾頭の小型化、多弾頭化も終わっている北を相手に、いまさらなにを「対話」するというのでしょう。
今、米国がせねばならないのは「持続的対話」などではなく、NPTの原則に従って透明性,検証可能性,不可逆性の原則を速やかに受け入れることを強力に迫ることです。

・2015年NPT運用検討会議
[あらゆる種類の核兵器の更なる削減・将来的な核兵器削減交渉の多国間化]

5核兵器国の会合に留意
戦略・非戦略,配備・非配備,場所を問わず,多国間措置を含めた方法を通じて,透明で,不可逆かつ検証可能な方法で,すべての種類の核兵器の更なる削減及び廃絶を要請
2015年NPT運用検討会議:議長の最終文書案概要|外務省 (mofa.go.jp)

いったいバイデンは、この2年間なにをしてきたのか。

「一方、安保戦略の北朝鮮に関する言及は、核・ミサイル開発を抑止するための米国の選択肢は限られていると強調する部分のみにとどまった。ラッセル氏は、北朝鮮に関して実存的な脅威にほとんど触れておらず、北朝鮮が対話拒否の態度を鮮明にする中で「非核化への持続的対話を追求」する姿勢を示したことは意外だったとした」
(ロイター 2022年10月13日)
バイデン政権の国家安保戦略、中ロに照準 同盟国との協力強調 | ロイター (reuters.com)

これは2017年に出た、トランプ政権の国家安全保障戦略とは対照的です。
米国家安全保障戦略2017.12.pdf (suikoukai-jp.com)

共和党の国家安全保障戦略には、特に一項を設けて真正面から「大量破壊兵器の拡散阻止」を訴えています。

「拡大防止措置の強化
10 年以上の取り組みに基づき、我々は、大量破壊兵器とその関連物質の拡散、搬送システム、技術及び知識が敵の手に渡らないよう、それらを防ぎ、排除し、安全を確保する手段について論議してきた。我々は、国家及び非国家主体が大量破壊兵器の使用に対する責任があると考えている。
大量破壊兵器テロリストを攻撃標的に
我々は、大量破壊兵器スペシャリスト、投資家、管理者及び世話役などのテロリストに対するテロ対応作戦を指示し、同盟国及びパートナー国と協力してすべてを探知し、中断させる」

この戦略指針に従って、トランプは2018年シンガポールで、そして翌年19年にはハノイで、正恩と首脳会談を持っています。
まさに「持続的対話」を追及したわけです。

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史上初の米朝首脳会談、文書に署名 「北朝鮮との関係は大きく変わる」 - BBCニュース

一見無手勝流の思いつきに見えるトランプ流外交ですが、大きな国家戦略の枠組みを押さえた上でのパーフォーマンスだとわかります。
そして何度も強調しますが、北を非核化のためのテーブルに着かせたのは、トランプの前代未聞ともいえるほどの軍事的圧力の成果でした。

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米空母3隻が集結、日本海で軍事演習 - CNN.co.jp

トランプを大嫌いなCNNもこう書いています。

「西太平洋に空母3隻を集結させたことで、米国は核兵器と弾道ミサイルの開発を続ける北朝鮮に対し一歩も引くつもりはないとするメッセージを送ったとみられる」
(CNN2017年11月14日)

そのとおりです。「一歩も引かないメッセージ」こそが、北を「対話」のテーブルに着かせる唯一の方法なのです。
そのうえで微笑を浮かべて、北との「非核化への持続的対話」をすればよい。
この順番を間違っているのがバイデンです。
ニコニコ笑って手を差し伸べることだけが「外交」ではないのです。
対話を拒否する北を力ずくでもテーブルに着かせること、これこそが北に対して必要な「外交」です。

外交が得意とバイデンは言われているそうですが、ならば正恩を交渉のテーブルに着かせるなんらかの動きをしたのでしょうか。
いいえ、なにもしていません。口先でお定まりの非難をするだけで、自分の国民の頭上に落下してくる「火星」ミサイルを完成目前まで持ち込まれておきながら、スケジュールどおりの合同軍事演習で核搭載不可なB-1を飛ばしてお茶を濁しただけにすぎませんでした。

昨日触れましたが、バイデンは外交的メッセージの意味すら理解していないようです。
わかっていれば、3機種ある戦略爆撃機のうち唯一核搭載能力を持たないB-1を選んで派遣すれば、それがどのような意味になるのかちっとはわかりそうなものです。

バイデンは北の露骨な核の恫喝に対して、あらかじめ核による報復を選択肢から外してしまっていると表明したに等しいのです。
それはまるで今年2月のウクライナ侵攻直前の時の「あの一言」のように、です。
思い出していただきたい、今年ロシアがウクライナ国境に19万の大軍を集めて機をうかがっていた2月10日、バイデンがなにを言ったのか。

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【バイデン大統領】米軍のウクライナ派遣を否定「そうすれば世界大戦になる」 - YouTube

「バイデン米大統領は10日、ロシアがウクライナに侵攻した場合、同国内にとどまる米国民の退避のために米軍を派遣する考えはないと言明した。その理由として「米国とロシアが互いに発砲を始めれば世界戦争になる」と述べ、何らかの形で米露の衝突に発展するリスクを避ける考えを強調」
(産経2月11日)
バイデン氏、ウクライナ退避で「軍派遣しない」明言 - 産経ニュース (sankei.com)

この「世界戦争」とは、核戦争を意味します。
それをご丁寧に追いすがって来る記者に、「戦争をしたいのか」とまで捨てぜりふを吐いてしまいました。
2月24日、ゼレンスキーは、「ウクライナはいかなる安全保障同盟にも入っていません。だからウクライナ人の命の代償を以て自分たちを守るしかないのです」と叫んでいました。

彼の表情は悲痛に歪んで、ほとんど泣きそうな表情でした。
プーチンが待っていたのはバイデンのこの「米軍は派遣しない」というひとことでした。
このひとことこそ、バイデンがプーチンに向かって、「米国は止めません」というサインだったのです。

もう少し時系列を遡ると、その前年の9月に米国とNATOは、ラピッドトライデント21 」という6000人を動員した大演習をしています。
そしてウクライナに、ジャベリンも供与開始しています。
そしてこれに対応するかのように、プーチンはこの演習直後の10月末から11月にかけてウクライナ国境に10万の兵員を集結させ始めます。

バイデンがすべきは、ロシアの侵攻を阻止すべくウクライナに小規模でもいいから軍を派遣することでした。
それをした場合、プーチンが侵略をあきらめたかどうかは神のみぞ知るですが、すくなくとも安易な侵攻はありえなかったはずです。
しかし現実には、バイデンはここで日和見を決め込み、ウクライナを見捨てるのです。
しかもなにも言わなければ「軍の派遣」について含みが残ったものを、一言でその選択肢を切り捨てるのですからヘルプレスです。
米国の軍事介入については、その可能性を最後まで選択肢として残しておくべきであるのに、真っ先に排除してしまう、その腰の定まらなさがならず者国家をつけあがらせたのです。
それにまだこの人物は気がついていない、だから今回の北への対応のように何度も繰りかえしてしまうのです。

ウクライナが同盟国ではなかった、というのは言い訳にすぎません。
ウクライナは2017年以来、一貫してNATO加盟を申請し続けており、拒否された理由は東部2州の紛争が理由でしたが、これがロシアの仕掛けた侵略の布石であったことは、当時からわかりきったことでした。
しかし米国はかつてイラクのクウェート侵攻に対して大軍を送って支援しましたが、クウェートは同盟国ではないうえに紛争当事国だったはずです。
この論法でいえば、台湾は同盟国ではなく、かつ、侵攻してくるであろう国は世界有数の核大国ですから、「世界戦争になる」のではありませんか。

したがって台湾有事において、バイデンがウクライナと同様に「中国と米国が発砲すれば、世界戦争になる」とうそぶいて台湾を見捨てても、私はいささかも驚きません。
台湾支援についても威勢のいいことを言うと、その直後に閣僚から失言として修正されるありさまです。

結局、左派のペロシが先に一歩を踏み出してしまいました。
今回のことでもわかるように、バイデンは核兵器に対して明確なポリシーが欠落しています。

たとえばバイデンは来年度の国防予算から、もっとも強力な核の対抗抑止能力であるはずの、海上発射核巡航ミサイル(SLCM-N)の開発予算を全面的に削除してしまいました。

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米海軍が潜水艦発射型の新型核巡航ミサイルの配備を検討 - ミリブロNews (militaryblog.jp)

「ところがバイデン政権は2023年度国防予算案で、2018年にトランプ政権が「核態勢見直し」の中で開発を決定した新型の海上発射核巡航ミサイル(SLCM-N)の開発予算を全面的に削除してしまった。
16日の中国共産党大会で習近平総書記が核戦力強化を示し、北朝鮮が「戦術核運用部隊の軍事訓練」と称するミサイル発射を連日のように行い、ロシアがウクライナ戦争で戦術核の使用をほのめかす中で、中露や北朝鮮の核を抑止できる切り札は米国のSLCM-Nである。それ故に、同盟国として日本の安全保障を考えればSLCM-Nの開発を取りやめたバイデン政権の拡大抑止意図に疑念を挟まざるを得ない。
米軍の現役軍人の中でも、マーク・ミリー統合参謀本部議長、チャールズ・リチャード戦略軍司令官、トッド・ウォルターズ欧州軍司令官らが、バイデン大統領のSLCM-N取りやめ決定に反対している」
(太田文雄10月29日)
言葉だけの核抑止重視であってはならない|太田文雄 | Hanadaプラス (hanada-plus.jp)

北朝鮮は、核施設や弾道ミサイル発射基地、司令部、正恩の隠れ家などを深深度に設置しています。
おそらく数十メートル地下に、コンクリートで固めて要塞化していると憶測されます。
米国にはバンカーバスターを保有していますが、確実に仕留めたいと思う中枢施設に対してはバンカーバスターでは役不足です。
地中貫通爆弾 - Wikipedia

そこで2018年、トランプ政権が「核態勢の見直し(NPR)で見直しをしたのは、まさにこの改良された新たな小型核を搭載した巡航ミサイルなのです。
その威力は通常弾頭とは比較になりませんし、地下核爆発なために地上を汚染することも避けられます。
そして、これは北朝鮮がいかなる方法で米国、同盟国を攻撃しようと、相応の覚悟をしておけという意味です。

このトランプ政権が掲げたNPRはこう述べています。
誰に対して言っているのか、考える必要はないでしょう。

https://admin.govexec.com/media/gbc/docs/pdfs_edit/2018_nuclear_posture_review_-_final_report.pdf


「したがって、現在そして将来的に潜在的な敵が米国、同盟国、およびパートナーを核兵器または通常兵器に攻撃、侵略しても、その目標を達成することができず耐え難い結果を招くという高いリスクを確実に負わせるような、柔軟な核戦力を確保することがアメリカに必要である」

正恩はこのトランプが送ったメッセージに背筋が薄ら寒くなったことでしょう。
これをバイデンはいとも簡単に覆しました。

このようなバイデンの姿勢は、今の米国与党民主党の決まらない内情を反映したものです。
左派とバイデンが属する中間派の溝が深く、ひとつにまとまれません。
日本の民主党政権もそうでしたが、民主党の両派にとって最大の敵は党内反対派なのですから、どうにもなりません。

そもそもバイデンが大統領候補になったのは、彼が明確な理念と政策を持ち合わせないグズグズの人物だったからで、ひとつにまとまれない民主党両派にとって「軽い神輿」だっただけのことです。
「決断と実行」が苦手なうちの国の首相に似ています。
こういう人物が、世界がもっとも危険な今の時期に合衆国大統領でいる不幸を世界の人々は味わっています。
バイデンが審判を受けるのは今日です。




 

2022年11月 7日 (月)

効いていないB-1戦略爆撃機ショー

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先日の北の弾道ミサイル実験の記事について、「ヴィジラント・ストームにB-1Bを2機送り込むアメリカ軍の「ならばこれでどう?」感はとても好き」というコメントを頂きました。
せっかくいただいて申し訳ないのですか、私はこういう核実験さえ直近迫ろうかという、この切迫した時期にB-1を送って来るようなバイデンの姿勢そのものが間違っていると思っています。
今、米国が北に対して取るべき対応は、現状変更を一切許さないという強い意志です。
北は中露と同じ根っからの「力の信奉者」なのですから、分かるように言ってやらねばなりません。
そのために今、北に見せつけるべきは核搭載不可能なB-1ではなく、核搭載可能なB-2なのです。

今のようなやり方は、今までやり尽くしています。
北の度重なる弾道ミサイル発射実験に対して、いままでも米国は必ずといっていいほどB-1を送り込んできました。
たとえば、2017年9月3日には正恩が大陸間弾道ミサイル目的で開発を進めている「火星14号」の発射実験を実施し、同時期にそれに搭載するつもりなのか水爆の核実験までして見せました。
この時も米空軍と海兵隊および空自は、B-1とF-35B、空自のF-15Jによる共同訓練を実施しています。
しかし、この日米合同訓練でB-1を飛ばしてから5年、北がなにか変化しましたか?
B-1を見て北が、こりゃいかん米国は本気だ、核開発を止めようか、とでも殊勝に思ったでしょうか。
とんでもありません。真逆です。核開発邁進を加速化しています。

なぜなら「戦略爆撃機を送る」というと、一見勇ましいようですが、同じ戦略爆撃機でもB-1とB-2は本質的に別物です。
B-2は核搭載可能ですが、B-1は核が搭載できない機体なのです。
それを分かっている正恩にとって、ああまたB-1か、どうせアメ帝はナニもできゃしないのだ、と思っただけだったはずです。

一方、トランプはどうやったでしょうか。
ピョンヤン上空に連夜ステルスを飛ばして爆音を響かせ、日本海に3隻もの空母打撃群を終結させ、シールズ・チーム6の暗殺部隊まで待機させた、本気度9割9分。
そして巧みなことには、このように恐ろしいまでの軍事的圧力を加える一方で、北が念願としていた一対一の直接交渉という甘い誘いも発信したのです。
これが二回に渡る直接会談でした。結局不調に終わったものの3回目を匂わせることで、事実上の核開発の凍結という成果を得られたのです。
トランプに2期めがあったのなら、北の非核化はまったく違う様相を呈したはずです。

バイデンは逆立ちしても、こういう芝居ができません。
役者が違うとしかいいようがありません。
ですから、今後も北はあたりまえのようにミサイル実験をし、北米全域を射程に入れたICBMを完成させ、核実験もおこなうでしょう。

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韓米、「ビジラントストーム」訓練開始…軍用機240機出撃(中央日報日本語版)

ところで、今回、予想どおり今回のミサイル発射について、米韓合同演習が北に脅威を与えたことのせいだ、軍事的緊張を高めるな、外交で解決しろ、などとという者が多く出ましたが、この人らが北の「非核化」をめぐる歴史的経緯を知って言っているとは思えません。

実は、北は2005年における第4回6者協議の席上で、このような確認文書を締結しています。
六カ国とは、中国、北朝鮮、日本、韓国、ロシア、及び米国です。
 ※外務省「第4回六者会合に関する共同声明」(2005年9月19日)
外務省: 第4回六者会合に関する共同声明(仮訳) (mofa.go.jp)

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                                                                             外務省

「1.六者は、六者会合の目標は、平和的な方法による、朝鮮半島の検証可能な非核化であることを一致して再確認した。
 朝鮮民主主義人民共和国は、すべての核兵器及び既存の核計画を放棄すること、並びに、核兵器不拡散条約及びIAEA保障措置に早期に復帰することを約束した
 アメリカ合衆国は、朝鮮半島において核兵器を有しないこと、及び、朝鮮民主主義人民共和国に対して核兵器又は通常兵器による攻撃又は侵略を行う意図を有しないことを確認した
 大韓民国は、その領域内において核兵器が存在しないことを確認するとともに、1992年の朝鮮半島の非核化に関する共同宣言に従って核兵器を受領せず、かつ、配備しないとの約束を再確認した」

要約すれば

●北の2002年の六カ国会合での合意事項
①検証可能な非核化
②すべての核兵器開発計画の廃棄
③NPTとIAEA保証措置への復帰
④米国は朝鮮半島への核兵器持ち込みをしない。

このように北は「非核化」を合意しており、以後それを守るどころか、国際社会をだまし続けてきているのです。

では一方、北は米国になにを要求していたのでしょうか。
これも過去のハノイで開かれた米朝直接会談でわかります。
それは「朝鮮半島の非核化」です。
6者協議合意での、「アメリカ合衆国は、朝鮮半島において核兵器を有しないこと、及び、朝鮮民主主義人民共和国に対して核兵器又は通常兵器による攻撃又は侵略を行う意図を有しない」という文言を北は楯にとっています。

おいおいナニを言っているんだ、米国は韓国の基地に核兵器はおろか、近海の海軍艦艇にも核は搭載させていないはずだが、と思うのが普通ですが、北の解釈は違います。
北はなんとグアムまで含んで「朝鮮半島の非核化」を要求していたのです。
ポンペオ米国務長官の平壌訪問に同行し、米朝会談の実務準備と核問題に対して協議したてきたアンドルー・キムは、このようなハノイ会談の内幕を語っています。

「北朝鮮はB-2爆撃機を含めて戦略資産の韓半島(朝鮮半島)の展開だけでなく、米国内にある韓半島に展開が可能な兵器も廃止しなければならないとシンガポール会談の時から主張してきた」と証言した。
これは、北朝鮮がいつ、どのような方法で核兵器や核物質・施設などを廃棄するというタイムテーブルは示さず、事実上、韓国への米国の核の傘を除去し、インド太平洋司令部を無力化させようという意図とみられる。
米国の戦略資産の韓半島への展開を中断せよということを超えて、グアム・ハワイから外せというのは米国としては受け入れられない要求である。これまで伝えられてきた内容以上に、米朝間の非核化に対する認識の差が大きいことがうかがえる」
(WEDGE 2019年3月28日 )
CIA高官が明かす米朝首脳会談の舞台裏 アンドリュー・キム元米中央情報局コリアミッションセンター長の証言 Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) (ismedia.jp)

これがトランプがハノイ会談をで北と合意しきれなかった最大の理由です。
なんと、北はグアム・ハワイのB-2撤去まで要求していたというのですから驚きます。
米国が、こここにB-2という「戦略資産」を配備しているのは、北向け以上に対中シフトが主要な理由ですから、とうてい吞める道理がありませんでした。
ここで北が撤去を求めているのが、B-1ではなくB-2と名指ししていることに留意してください。

このようなかつての会談の経緯を少し探れば、北が20年も前に国際社会と約束したこと一方的に破っており、彼らの要求は核搭載可能なB-2なことがわかるはずです。
当初の6者狂気合意時は正恩の父親の政権でしたが、正恩政権が自らを正統政権と自称したいならば、国際合意は政権が代わっても継承されねばなりませんし、ハノイ会談には正恩自身が出席しています。
もちろん北は、合意後も2006年に初の核実験を強行し、09年、13年と核実験を重ねていますし、弾道ミサイル実験に至っては正恩政権となっては、今や日常茶飯事です。 
しかしだからと言って、北が国際社会と結んだ協定を覆したのは北の勝手であって、協定における決め事まで一緒に消滅したわけではありません。

北は、いったんこの六カ国会合で合意した2002年の合意を遵守すべきで、そこから始めるべきなのです。
自らがチャブ台返しをしておきながら、合意そのものをグズグズにして、まるで2002年合意などなかったかのように既成事実を積み重ねているのが、北なのです。
したがって自由主義陣営はこのような北の合意無視を糺弾し、2005年の第4回六者協議の合意ラインに即時に復帰しろと主張すべきです。

同時に、米国は北の主張する「朝鮮半島の非核化」、すなわちグアム・ハワイからのB-2撤去には応じる意志がまったくないことを明確に示すべきでした。
だから、ここはB-1Bなどという核搭載ができない爆撃機を飛ばしても意味がないのです。
北は中露と同じで強烈な「力の信者」なのですから、わかりやすくストレートにメッセージを伝えねばなりません。
飛ばすべきはB-2です。

北の度重なる弾道ミサイル発射実験に対して、いままでも米国は必ずといっていいほどB-1Bを送り込んできました。
たとえば2017年9月3日には、正恩が大陸間弾道ミサイルであると豪語する「火星14号」の発射実験を実施と水爆の核実験までして見せました。
この時も米空軍と海兵隊および空自は、8月30日、B-1B戦略爆撃機とF-35B、空自のF-15Jによる共同訓練を実施しました。
しかし、この日米合同訓練でB1Bを飛ばしてから5年、北はなにか変化しましたか?
B-1を見て、こりゃいかん米国は本気だとでも思ったでしょうか。

ところで韓国メディアはこのB1-Bがいたくお気に入りのようで、「死の白鳥」という異名まで進呈しています。
下の写真は、イ・ジョンソプ韓国国防相が、米国で開かれた米韓安保協議の折りに、わざわざオースティン国防長官と一緒に空軍基地まで足を伸ばして写真撮影したものです。

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韓米の国防長官、戦略爆撃機「死の白鳥」の前で写真撮影した理由は : 日本•国際 : hankyoreh japan (hani.co.kr)

日本のメディアも韓国メディアに右へ倣えをしています。

「米韓空軍による大規模な訓練に、「死の白鳥」の異名を持つアメリカの戦略爆撃機が参加したということで、北朝鮮側が強く反発する可能性があります。韓国空軍とアメリカ空軍は先月31日からきょうまで、最新鋭ステルス戦闘機など240機あまりが参加する大規模な訓練を行っています。
韓国軍によりますと、きょう午後の訓練には「死の白鳥」の異名を持つアメリカ空軍のB1B戦略爆撃機2機が参加したということです。韓国メディアによりますと、B1Bは大量の爆弾を搭載でき、音速を超えるスピードでグアムから朝鮮半島まで2時間で飛行できるということです。
北朝鮮が最も恐れる兵器ともされていて、訓練の参加には強く反発する可能性があり、新たな挑発が行われないか、警戒されています」
(TBSテレビ 11月5日)
米韓訓練に「死の白鳥」参加 北朝鮮の反発に警戒(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース

あの~B-1Bは黒いんですが白鳥すっか、なんて混ぜ返さないでも、いかに今の米韓がこのB-1Bの抑止効果に期待しているか分かると思います。
しかし、現実はシビアです。
いいかげん米韓、そして日本も気がつくべきですが、B-1Bという戦略爆撃機の抑止効果はメザシの頭ほどの効き目もありません。
そのなによりも証拠に、正恩はもう乱打、めった打ちに弾道ミサイルを撃ちまくっているではありませんか。

こんなB-1Bを飛ばすくらいなら、B-52やB-2を飛ばしてくれたほうがはるかにマシでした。
なぜなら、B-1Bを除くほかの戦略爆撃機はすべて核搭載可能なのです。
にもかかわらず、あえて核搭載不可能なB-1Bを派遣してくるのは、「米国は北が核武装に邁進しようと、いや仮にしたとしても核で対応しない」という政治的メッセージになるからです。

一方本気で、限定的核戦争まで含むことを想定せざるをえない中国に対しては、オーストラリアに去る10月、ちゃんとB-52Hを配置しています。

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B-52爆撃機の爆弾倉 核ミサイル(AGM-86)搭載 回転式ランチャー - YouTube

[シドニー 31日 ロイター] - 米国は中国との緊張が高まる中、オーストラリア北部の空軍基地に核兵器の搭載が可能な爆撃機B52を最大6機配備する計画だ。関係筋が31日に明らかにした。
爆撃機のための専用施設が豪空軍のティンダル基地に整備される予定だという。(略)米空軍は、オーストラリアに長距離爆撃機を配備することは、米国の航空戦力投射能力について敵対勢力に強いメッセージを送ることになると説明したという」
(ロイター 2022年10月31日)
米、豪北部に核搭載可能なB52の配備計画=関係筋 | Reuters 

B-1Bは、時代に翻弄されたある意味悲劇的な機体で、元来は高度数10mの超低空を音速に近い速度で敵空域に侵入して、核攻撃を行う目的で開発されました。
しかしできたとたん、当時の米露のデタントで、核弾頭と運搬手段の保有数に制限を設ける1997年に「戦略兵器削減条約(START)」が締結されてしまいました。
つまり、遅れてきた核戦略爆撃機になってしまったのです。
米露間の戦略核兵器削減条約(START) (mofa.go.jp)

「B-1Bは新戦略兵器削減条約における運搬手段に該当する機種でしたが、米露両国はB-1Bから核搭載能力の封印を条件に、条約の制限外と見なすことで合意しています。同じようにロシア側もTu-22M戦略爆撃機は、空中給油装置を排除し航続距離に制約を設けることによって制限外となっています。
B-1Bの核搭載能力封印は、機体に対して核兵器を物理的に搭載不可能とすること、また核兵器に対して発射信号を伝達することを不可能とする、という2段階の改修によって達成されています。
具体的には核弾頭を搭載できるAGM-86B ALCM(空中発射型巡航ミサイル)を装備するために必要なパイロン(支持具)を取り付けられないよう、機体側の装着部を溶接によってふさぎ、加えてALCMを発射するために必要な信号を送信するケーブルコネクタが排除されています」
(関賢太郎2017年9月16日)  
米B-1B「ランサー」が核攻撃不可なワケ 話題の戦略爆撃機、封印はロシアが保証? | 乗りものニュース- (2) (trafficnews.jp)

今は低空で飛行し、大量の通常爆弾を投下するという、いわば余技だけで余命をつないでいます。
北はそのことを、あらかじめよく知っていますから、B-1Bを派遣するという行動自体が既に米国を見くびる材料になっているのです。

私はこのような米国の「やったふり」ポーズが通用する時代ではないと、米国が自覚する時期にとうに来ていると思います。
ロシアも中国も、そして北も核使用については「本気」です。
しかし唯一、米国のみが旧態依然たるデタントの夢を引きずって、初めから核を抑止の選択肢からはずしてしまっています。
これではみくびられて当然です。

 

※B-1について別稿にする予定ですが、合体させました。




 

2022年11月 6日 (日)

日曜写真館 幻の如く夜を咲き烏瓜

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烏瓜咲いて風越山の闇 伊原正江

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妖精の編棒烏瓜咲かす 柳原佳世子

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烏瓜咲く学童の肝だめし 太田土男

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烏瓜花あはあはと風の中 丹羽玄子

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煙る花畳み込みけり烏瓜 高澤良一

 

 

2022年11月 5日 (土)

北朝鮮をつけ上がらせたバイデンの罪

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ご存じのように、11月2日、北朝鮮がICBMと見られるミサイルを発射しましたが、失敗したようです。

「浜田防衛大臣は午後10時半ごろ防衛省で記者団に対し、北朝鮮が午後9時台に北朝鮮内陸部から弾道ミサイル3発を東の方向に向けて発射したことを明らかにしました。
発射されたのは午後9時34分、39分、そして42分で、いずれも最高高度が150キロ程度、飛行距離は500キロ程度だということです。
落下したのはいずれも朝鮮半島東側の日本海で、日本のEEZ=排他的経済水域の外側と推定されるとしています」
(NHK11月2日)
北朝鮮 “弾道ミサイル3発 いずれもEEZ外に落下か” 防衛省 | NHK | 北朝鮮 ミサイル

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NHK

今回もまた日本列島を飛び越える軌道だったにもかかわらず(だからJアラートが鳴ったわけですが)、結局は手前の日本海に落下しました。
この列島超えをとる北朝鮮の弾道ミサイル軌道は、例の「火星」シリーズしかありませんから、またもや大陸間弾道弾の試験をしたもののようです。

ちなみにどーでもいいですが、Jアラートが鳴ったにも関わらず上空に飛来しなかったことで欣喜雀躍して政府を非難している阿呆がいますが、なにいってんだか。
Jアラートはコンピューターが予想した進路に警報を発するようになっていますから、その前で落ちたとしても、よかったねで済むことです。
もっと列島の沿岸近くの上空で爆発していたら、部品や破片が降り注いだ可能性もあります。
だから、その可能性があるかぎり警報は出すべきなのです。
警報を出さないで突然落下してくるのと、警報が出たが落下しなかったのとどちらがいいのでしょうか。軽重をわきまえなさい。

今回の北の弾道ミサイルのデータはこのようになっています。

「1発目は午前7時40分に平壌近郊の順安から発射されています。
韓国軍による観測1発目 最大高度1920km・水平距離760km・速度マッハ15
自衛隊による観測
1発目 最大高度2000km・水平距離750km
(略)

おそらく韓国軍は今朝の発射で切り離されて落ちて来る巨大な第1段ロケットをレーダーで確認してICBMと判断したのでしょう。
1段式の火星12ではありえないタイミングでの部品の分離だったからです。 そして韓国軍は「北朝鮮のICBMは第1段ロケットを切り離し分離した後の第2段ロケットが正常飛行しなかった」と分析しました」

(JSF11月3日)
北朝鮮ICBM発射失敗か(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース

では、なぜ今回これほど撃ちまくっているのでしょうか。
よくメディアは、米韓合同軍事演習ビジラント・ストーム への報復だとしたり顔で説明しています。
おいおい、それじゃあ、米韓が悪いのか、となりますね。
この言い方のとおりなら、米韓が北を挑発したからミサイル実験を招いたのだ、というリクツになってしまうでしょう。
米韓日が北を怒らせなければ平和なんだということになり、これでは北の思うつぼです。

この合同演習が始まったのが10月末ですから、火星シリーズの新型を発射を準備する余裕があったとは思えません。
北はかねてから、ある意味粛々と「核武装大国」への道を歩んでおり、綿密な工程表を持っていると考えるべきです。
このスケジュール割りに沿って北は弾道ミサイル実験をしていますから、今日明日の国際動向で変化するものではありません。
たまたま火星ミサイルの最新型の発射実験予定日近辺に米韓合同訓練があったために、政治的プロパガンダを被せることにもなっただけのことです。

また、今の時期は、北にとってかき入れ時でもあります。
現在の国際社会の視線は、ロシアによるウクライナ侵攻に完全に集中しています。
国連安全保理は、常任理事国のロシアが侵略の当事者になったため、完全に機能停止してしまいましたから、北がICBMを発射しようと新たな制裁決議を採択することはできません。
まさにやり得の時期が今なのです。

米国は自国を狙った長距離弾道ミサイル実験に大いに怒っていますが、ロシアと主敵と想定している中国の二股に苦慮しおり、さらに北に対して何らかの制裁行動をとることは体力的にむりでしょう。
できるのは、せいぜいが戦略爆撃機をや原潜を北の近海に展開するか、空母打撃群を朝鮮半島西側の黄海に派遣したことくらいのものです。

遠からずおそらくは中間選挙に合わせて、北は核実験を再開するでしょう。
これで火星シリーズの長距離ミサイルに搭載可能な核兵器が揃ったことになり、チェックメイトです。

ここまで北をつけあがらせた責任の半分は、バイデンにあります。
せっかくトランプが、最大限の軍事的圧力をギリギリかけて米朝会談に持ち込んで核武装を凍結したのに、バイデンが台無しにしてしまいました。
バイデンは、今のウクライナ侵略を事前に抑止できなかった原因をわかっているのでしょうか。
それはあまりに安易に、本来曖昧にしておくべき米軍の軍事力使用の可能性を頭から否定してしまったからです。
これを聞いて プーチンは国境を超えてしまったのです。
同じことをバイデンは北に対して行っています。これが、ここまで北を増長させた原因です。

さてこの間、北は実に20発ものミサイルを撃ちまくっています。
この日も、一番の大物であるICBMには失敗しましたが:近距離ミサイルを6発撃っています。もうやりたい放題、出放題です。
下の写真は、「火星17号」ですが、今回のものはその改良型だと考えられています。

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【写真】巨大移動発射台に載せられた北朝鮮のミサイル「火星17」:朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)


この火星17号は、北朝鮮が保有する中で最大のミサイルで、今回その発展型には複数の核弾頭(MIRV) を搭載することを狙った可能性もあります。
火星15号の到達した最大高度が4500キロ、火星17号の到達高度が6000キロ、今回が2000キロですので明らかに失敗です。
火星シリーズがこのロフテッド軌道を使って高高度を狙っているのは、通常飛距離に直すと北米に到達可能だからで、初めから米国攻撃のための核兵器なのです。
下図で左側の高く飛び出しているほうがロフテッド軌道、右がそれを通常飛距離になおしたものです。


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BBC

ところでやっかいなことには、火星シリーズはさらに「実用的」に改良されています。
そのひとつがミサイルの移動手段です。
米国は固定サイロ式を使っていますが、北は輸送発射装置を(TEL)を使います。
2枚並べてみると違いがわかります。

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トランプ氏、ツイッターで「核戦力の増強支持」 真意不明 - WSJ

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北朝鮮、大型ICBM「火星17」の発射実験に成功と発表 - BBCニュース  

上の写真でミサイルを乗せているトラックのようなものが、輸送式発射装置(TEL)です。
これは固定式発射台と違って、トレーラーに乗せて移動するために、発射地点を特定することが困難です。

火星14号なら16輪、火星15号なら18輪 火星17号は22輪です。
世界有数の巨大トレーラーで、まともなトラックも造れないこの国がこういうものだけはスゴイ。(輸入したのかもしれませんが)
これだけ大きなミサイルだと燃料充填に1時間はかかると思われますので、その間ジッと動けないわけですから監視衛星に発見され攻撃を受けることもありえます。
また道路が事情が劣悪な北朝鮮でこれだけの重量物を長大トレーラーに載せてガラガラ引っ張っていくのは相当にキツイはずで、カーブが曲がれないのではないかとまで言われています。
そこで、通常は堅牢なサイロに入れておき、使用するときは(使うなよ、バーロー)輸送式発射装置で発射位置まで移動し、そこに待機している燃料車から充填を受けるようです。
この方式だと移動重量は軽くなり、最短で30分から1時間で充填可能です。

したがってこれを発射前に破壊しようとすると、輸送している途中かこの燃料充填時間しかありません。
現在の北朝鮮のミサイルに対する対応の流れはこのようになっています。
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日経

一読しておわかりのように、この日米の対処の流れには、撃つ前に破壊するという項目はありません。
すべて撃ってから発見して迎撃する事後対処です。
ここまで国際社会をなめきって、勝手放題に核保有に奔走する北に対して、もう一歩踏み込んで、発射台の破壊まで視野に入れる必要が出てきていると思います。

上図の最上段の早期警戒衛星の時期に即時に対応せねば、北の意図を挫くことはできまないのです。

米軍が道路上で輸送途中、ないしは発射地点での燃料充填中を破壊するなら、従来の早期警戒衛星レベルの監視に加えてE-8ジョイントスターのような地上監視可能な能力を持つ早期警戒機を、南北国境線スレスレに常時飛ばしておく必要があります。
そこから約400~500キロが探知範囲です。

米国がいまやらねばならないことは、北が核を完成したと想定して、直ちに強力な対抗抑止手段を作ることです。
これについては来週に回します。

 

 

2022年11月 4日 (金)

ロシアのケイオスは拡がる

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北朝鮮が横暴の限りを尽くしていますが、それについては明日記事にいたします。

プーチンが「部分動員令」を発したために、混乱はいっそう拡大し、ケイオスのようになりつつあります。
ウクライナ軍と対置している戦線だけではなく、その背後でも、パルチザンが活動を活発化させています。

下図の赤点はIED(即席爆破装)、グレイが小火器による攻撃、青色が破壊活動があった場所を示しています。

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ISW

「効果的なウクライナのパルチザン攻撃により、クレムリンは後方地域の安全を確保するために最前線の作戦から資源をそらすことを余儀なくされており、彼ら自身の攻撃作戦を実施することは言うまでもなく、進行中のウクライナの反撃に対するロシアの防御能力を低下させている。
ロシアの作戦上のセキュリティが不十分であるため、ウクライナのパルチザン攻撃が可能になりました。ロシアの人手不足の増大は、パルチザンの攻撃からロシアの後部地域を効果的に保護し、同時にウクライナの反撃から防御するロシア軍の能力を低下させている可能性がある。
クレムリンは依然としてウクライナの組織化されたパルチザン運動に効果的に対抗しておらず、そうする能力を持っている可能性は低い」
インタラクティブマップと評価:ロシア占領軍に対する検証済みのウクライナのパルチザン攻撃|戦争研究所 (understandingwar.org)

このような戦線後方のパルチザン攻撃は、ロシア兵にはもはやウクライナ国内において、安穏な土地は寸土も存在しないということをわからせる一番の近道です。
現在、動員された20万の兵士は続々とウクライナ戦線に投入されています。
驚くべきことには、彼らはろくな訓練もなく旧式な銃を持たされて死ぬためだけに送り込まれるのです。

「穴の開いた防弾チョッキやさびた自動小銃――。ウクライナ侵攻を続けるロシアで、9月に始まった部分的動員の悲惨な現状を伝えるSNSの投稿が続いている。「(配属前の)訓練はないと告げられた」と涙ながらに訴える人までいる」
(朝日10月24日)
訓練なく戦場、防弾チョッキに穴 ロシア動員兵、SNSに訴え:朝日新聞デジタル (asahi.com)

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ロシア徴集兵の実力は、実際はどのようなものだろうか:ウクライナ戦争(今井佐緒里) - 個人 - Yahoo!ニュース

ISWによれば、ロシアの法律では4か月未満の訓練で海外での作戦と戦うために徴兵を送ることを禁じていますが、戦争条件または戒厳令により、ロシア軍はそれより早く戦うために徴兵を配備することを許可しています。
プーチンは、すでに戒厳令国家を宣言しており、その宣言を口実にして、義務的な訓練期間なしで、まっさらな素人兵士たちをそのまま戦場につぎ込んでいます。
これは、ウクライナ戦線が深刻な兵員不足に陥っていることだけではなく、動員兵を訓練したくとも、それを行える熟練した下士官、下級将校がいないためです。
ベテランをウクライナ戦線から引き抜くとウクライナ戦線が崩壊してしまい、だからといって訓練なしの兵隊を劣悪な装備で送り込めばどうなるのか、誰がかんがえてもわかることです。
既にこの大砲の餌食になるためだけに送られる動員兵は8万2千人にも及び、おっつけ残り21万もウクライナ送りになるようです。

先に送られた8万2千はそれでも自腹であろうと、サビだらけであろうと、とりあえず銃は持っているので先になったようです。
ロシアの大統領報道官であるドミトリー・ペスコフは26日、ロシア記者団に対し、武器の不足を正式に認めており、9月21日に出した部分的動員令により徴募された30万人のうち数十万人の装備に問題があると認めているようです。

下の写真は動員兵が渡されたライフルの動画から切り取った使い物にならないAK-47です。
ロシアはソ連時代から、膨大な領の銃や弾薬の備蓄があると言っていましたが、保管状態が悪い上に、横流しが横行したためにいまや動員兵にはまともな銃さえ行き渡らないようです。

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https://twitter.com/i/status/1586701122844393475

ロシア軍の兵器製造は、国際的サプライチェーンから拒絶されたために、開戦と同時に生産が停滞してしまいました。
特に、西側の半導体や電子部品が必要な戦車、航空機、ミサイルの生産ができない状態です。
戦車は半世紀以上前のT-60を倉庫から引っ張りだし、虎の子のT-90すら送り込んでは、片端から撃破されています。

そして、自国生産が可能なはずの歩兵用銃や弾薬すら生産が停滞しています。
戦争前には、景気よく一回の演習で10万トン消費したなどと言っていましたが、いまや恥を忍んで北朝鮮に砲弾の支援を要請するていたらくです。

「【ワシントン=坂口幸裕】米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は2日の記者会見で、北朝鮮がウクライナへの侵攻を続けるロシアに相当数の砲弾を供与している情報があると明かした。中東や北アフリカを迂回して秘密裏に送ろうとしていると指摘し、ロシアが受け取ったかどうかは監視を継続すると述べた。
米欧が経済制裁の一環で発動した輸出規制を踏まえ、ロシアは自国で兵器や弾薬を賄えず深刻な武器不足に陥っている。イランはロシアに攻撃型の無人機を供与し、イラン軍による訓練を受けたロシア兵がウクライナでの攻撃にすでに使った。新たに北朝鮮にも調達先を広げようとしている構図が浮かび上がる」
(日経11月3日)
「北朝鮮がロシアに砲弾供与」米高官が言及: 日本経済新聞 (nikkei.com)

しかもどうにか生産してみても前線への補給ルートが寸断されており、必要とされる部隊には届かないようです。
モスクワの暖房の効いた部屋で戦争指揮をしている指導部にはこの前線の状態が理解できず、徒に兵隊を大量動員すれば勝てると思っています。
馬鹿ですか。今さら使い物にならない新兵を戦場に送り込んでもなんの役にも立ちません。

30万人の使い物にならない兵隊を送られて、さぞかし前線司令部は怒りに震えたことでしょう。
送ってほしいのは大量の弾薬であり、医薬品であり、そして日々食うものなのです。
前々から言われてきたことですが、このようなことが起きる原因は、ロシア軍が上意下達の指揮方法を取っているからです。
前線は現状を知らない軍事官僚たちの言うとおりにしか動けず、そのモスクワの官僚たちはプーチンのパペットにすぎません。
結局、プーチンが細かい前線の指揮にすら介入してくるために、いっそう混乱は増幅されていきます。

また動員兵が戦場に送られる前に、過度な飲酒や麻薬によって自殺してしまうケースが増えています。

「ウクライナ侵略後にロシア政権側から圧力を受け、活動休止に追い込まれた露リベラル紙「ノーバヤ・ガゼータ」の所属ジャーナリストらが露国外で設立したメディア「ノーバヤ・ガゼータ欧州」は1日、「部分的動員」で招集された兵士について、既に100人超の死亡が確認されたと報じた。さらに、死者の約5分の1に当たる23人が戦場に送られる前にアルコールや麻薬の過剰摂取、自殺などで死亡したとした。
ノーバヤ・ガゼータ欧州によると、最も死者数が多かったのは中部ウラル連邦管区内の自治体の出身者。前線での戦死者は、9月21日の部分的動員の開始後、10月初旬には確認され始めたとしている。
ノーバヤ・ガゼータ欧州は、露各地の地元メディア報道など公開情報から死者数を集計したとしており、実際の招集兵の死者数はさらに多い可能性がある」
(産経11月2日)
露の招集兵、100人超死亡と報道 薬物死や自殺も - 産経ニュース (sankei.com)

このような動員兵は早速前線に送り込まれ、本隊の熟練兵を守る楯代わりに使われます。
動員兵の戦闘力は皆無に等しく、逃げ方も知らないために苛烈なウクライナ戦線で生存できるチャンスはほとんどないでしょう。

ロシアでは、ウラジーミル・プーチンによって動員された男性がウクライナで殺された場合の子供たちの計画として、精子凍結の大幅な増加が見られます。
戦場に駆り立てられる兵士たちは、戦争に向かう前に生殖クリニックに急いでいます。
まるでディストピア映画のようです。

「モスクワの生殖科学実践センターの主治医であるイゴール・ヴィノグラドフ教授は、徴兵された男性による精子の保存を求める新たな要求が急増していると述べた。
エカテリンブルクのUMMC-Health医療センターの生殖責任者であるドミトリー・マズロフ氏は、首都の外でも同じ傾向が当てはまると述べた。平時は月に2、3人だったのに対し、1日は半ダースの顧客がいたという」
(デイリーメイル10月2日)
プーチン:ウクライナ戦争と戦うために呼ばれているロシア人男性の家族は、それぞれ羊で賄賂を贈られています|デイリーメールオンライン (dailymail.co.uk) 

また、ロシア軍が兵員不足を補うためにかなり前から囚人を動員し始めました。
ウクライナの軍事情報機関によれば、いまでは単なる囚人だけでなく、感染症に罹った囚人も動員しているといわれています

「ロシア政府と関係が深い同国の民間軍事会社ワグネル・グループはこれまでも、恩赦や一時金と引き換えに、受刑者を兵士として採用していると報道されてきたが、ウクライナ国防省情報総局の報道機関は10月25日、ワグネル・グループが、HIVやC型肝炎などの感染症を患う囚人も大量に採用し始めていると伝えた。
このやり方は広く行われている。例えばある流刑地では、HIVやC型肝炎の診断が確定している100人以上の囚人が、ワグネル・グループに『動員』されている、と情報総局は述べている。 」
(ニューズウィーク10月27日)
HIV患者や精神病者まで動員、ロシア兵員不足の窮状(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース 

それでなくても新型コロナが世界で突出して流行したロシアが、そのうえに棄権な感染症の囚人を不衛生で、兵隊で立て込んでいる戦場に送ればどうなるのか、プーチンの頭の中を除いてみたくなります。
勝とうが負けようが、ウクライナ戦争の後のロシアは、大変な感染症の流行で席巻されることでしょう。

このような末期的症状を呈しているロシア国内では、いよいよ国民の反乱を想定せねばならなくなったようです。

「ロシアのプーチン大統領ら要人の安全を守る露連邦警護局は25〜27日、モスクワ中心部の大統領府や上下両院などで内乱鎮圧を想定した定期演習を行った。プーチン氏は、米欧がロシアでの政変を画策していると主張しており、警戒感を一段と強めている。
 「(民主化運動を指す)『カラー革命』のシナリオは終わっていない」。プーチン氏は26日、旧ソ連構成国の情報機関トップらとのオンライン会合で持論を展開した。連邦警護局の発表によると、テロの脅威封じ込めや容疑者拘束などを訓練した。クーデターへの対処も含まれるとみられ、SNSでは装甲車両などが出動する動画が拡散している」
(読売10月27日)
モスクワ中心部で内乱鎮圧演習、プーチン氏は政変警戒…政権内部の力関係にも変化か(読売新聞) - goo ニュース

もうロシアは内部的に持たないでしょう。

 

 

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「ロシア正規軍が崩壊」 動員令にウクライナ大統領 - 産経ニュース (sankei.com)

ウクライナに平和と独立を

 

 

2022年11月 3日 (木)

対中ココム復活、米国の焦土化作戦始まる

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米国がものすごい中国制裁を発動しました。
ひとことで言えば、中国に半導体技術はもはや輸出できないということです。
これが実施されれば、米国による中国経済の焦土作戦が開始されることになります。

「今回の一連の措置は、中国への技術移転に関する米国の政策において、1990 年代以降で最大の転換となる可能性がある。措置適用となれば、米国の技術を利用する米国内外の企業による中国の主要工場および半導体設計業者への支援が強制的に打ち切りとなり、中国の半導体製造業が立ち行かなくなる可能性がある」
(ロイター2022年10月8日)
米、半導体製造装置巡る対中輸出規制を大幅拡大へ | Reuters

やるね、バイデン。
中間選挙の結果がどうなろうと、共和党のトランプが右手で殴り、民主党のバイデンが左手で殴るわけで、もう対中制裁に党派の垣根はないようです。 

既に、米国規制で他国からも半導体製造装置などの販売や技術の提供が停止していますが、この新たな対中制裁で、わが国独自の技術であっても外為法の輸出管理の対象になることになります。
さぁ、どうする習近平。あ、関係ないか、あんたに経済なんて。
こんな時期に、まだゼロコロナ政策で武漢に軍を出して戒厳令やってるくらいですからね。

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WSJ

輸出入安全保障管理情報の詳細な情報を出している、「安全保障貿易情報センター(CISTEC)」の公開情報です。

「米国商務省は、米国時間 10 月 7 日(金)(日本時間同日深夜)、米国連邦官報により、 半導体、スーパーコンピューター関連を中心に EAR の大幅な規制強化改正を公布し、現時点でそれらのかなりの部分が施行されました(一部、来年4 月7 日までの限定内容の一時的一般許可あり)。
本改正は、これまでの EAR 改正の中でも、日本企業を含む各国の企業の取引(国内取引も含む)に最も大きな影響を与える規制強化であるといっても過言ではありません」

米国が著しく強化した対中輸出規制についての補足的QA 風解説 (cistec.or.jp)

ここに出てくるEARとは、「米国再輸出規制 」のことです。
これもCISTECに説明してもらいましょう。

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CISTEC

「米国製の製品、部品、技術、ソフトウェアが、米国から輸出された後に、第三国に再輸出される場合、仕向地、使用者、輸出貨物・提供技術の種類、米国製品や技術の全体の輸出に対する比率等により米国法の規制を受けることを指します。
つまり、いったん米国から輸出されたものが、その後、輸出先から第三国あるいは第三国の特定の使用者向けに再輸出される場合、米国からの直接輸出が規制されていれば、再輸出においても同等の規制を受けることです」
米国再輸出規制入門! | 安全保障貿易情報センター(CISTEC) 

このEARに違反すると、まずこの会社へのEAR対象品目の輸出・再輸出が禁止されるので、米国の企業、機関、個人からの米国からの輸入が不可能になります。
また当該企業は、EAR対象品目のすべてを輸出・再輸出することが禁止されます。
そのうえ、さらに米国以外からも米国製品が輸入できないため、米国製品を使った製品を作ることもできなくなります。
つまり、違反した品目だけではなく、全てのEAR対象品目になりますので、米国製技術も取り扱えないということになります。

今までの対中制裁によって各国の対中半導体輸出や技術移転は停止していますが、さらにハッキリと禁止を明示することで、完全に中国への半導体輸出の道は閉ざされました。
CISTECは「もはや今回の規制強化は平時の規制ではない」と述べています。
ココム(対共産圏輸出統制委員会)という冷戦期と同等の対共産圏輸出規制が、復活したことを意味ましす。

「第一点目は、ココム解散(94 年)以降、平時の規制ではこのような規制はなく、制裁で適用されるような規制内容だという点です。
半導体製造関連エンドユース規制、スパコン関連エンドユース規制、3 類型の直接製品規制のいずれをとっても、許可例外(許可不要の場合)が(直接製品規制の一部を除いて)適用出来ず、更に(ごく一部を除いて)原則不許可(=全面禁輸)となっています」
(CISTEC前掲)

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米の半導体輸出規制、中国の報復は容易ならず - WSJ

ココム(COCOM)とはこのようなものでした。

「ココムにおいては、東西の軍事バランスが崩れるような品目を共産主義諸国に輸出することを防止するため、輸出管理当局において仕向地と輸出品目の技術的な使用についてチェックが行われ、最終的に対象品目に共産主義諸国への移転される輸出について原則禁輸となっていた。
冷戦が終結してソ連が崩壊するとココムの意義が薄れたことで、1991年末に大幅な規制緩和が行われ、1994年3月に解散した。兵器輸出規制協定は後身のワッセナー協約に引き継がれた」

対共産圏輸出統制委員会 - Wikipedia

このココムの後身がワッセナー協約(WA)です。
どこかで聞いたでしょう、そう韓国が大量破壊兵器造りの原料となるものをイランや北に出していた疑いで、日本は輸出規制管理を強化し、「ホワイト国」から一般に格下げしましたが、その時の日本側の論拠がこのWAです。
日本が今回制限を加えた3品目は、いずれも大量破壊兵器に転用可能な物資で、「通常兵器及び関連汎用品・技術の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント」という協定に指定されているものばかりでした。
ワッセナー・アレンジメント - Wikipedia

この協定には、この韓国への輸出管理規制強化の対象となった規制3品目が入っており、いずれも毒ガス製造(サリン等)や核開発に必須の物質であり、遵守して当然のものばかりです。
このワッセナー協約のリストにある指定物資は厳重に管理されねばならず、輸出量と在庫・消費量が厳重に管理されねばなりません。

今回の米国の対中半導体規制は、軍事用はもちろんのこと、民生用のスパコン、先端半導体などにも網がかかります。
ウォールストリートジャーナルによれば、米国は半導体供給網の中で最も重要部分、特に高度な研究開発が必要な分野は米国が握っており、米国には、先端半導体の設計大手のほか、半導体製造ソフトウエアや装置製造大手が多数存在しています。

下図は、最先端半導体チップとその製造装置の生産シェアを現していますが、青色が米国、赤色が中国です。
かろうじて中国が対等なのはロジックチップとメモリーチップのふたつだけで、それ以外は圧倒的に米国が世界シェアを独占しています。
特に半導体製造ソフトは米国が握っているのがわかります。
ですから、米国からこれらが輸出禁止された場合、中国は最先端半導体を製造することが不可能になるでしょう。

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中国半導体への締め上げ、米国はなぜ可能か - WSJ

「3 第二点目は、先端半導体分野、スパコン分野という特定重要分野について、特定の指定企業だけでなく、それらを開発・製造する企業全般を、純粋民生用途であっても禁輸対象としたことです。
これまで、中露等を対象とした軍事エンドユース規制(通常兵器関連の開発・製造・使用等に使われる場合に要許可)というものがありましたが、ほとんど適用事例はありませんでした(軍事エンドユーザー規制として中国のファウンドリー最大手の SMIC 等を対象としたことはありました)」
(CISTEC前掲)

これで中国への半導体関連のモノは輸出禁止となりますが、それにとどまらずヒトも規制対象となります。

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中国の半導体業界を狙い撃ち、米の新規制が痛手に - WSJ

「第六点目は、米国企業・人(永住権者を含む)による、中国の先端半導体(3類型)の開発・製造への一切の関与が禁止されたことです。 EAR対象品目については、半導体製造エンドユース規制で禁止し、EAR対象外品目については、先端半導体の「開発・製造に使われる品目の出荷・移送・移転やその支援、サービス提供」が許可対象とされました。
「品目」というのは、「貨物、技術、ソフトウェア」を包含する用語ですので、関連製品を輸出・移送するのはもちろん、口頭を含む一切の技術提供、その他の支援等の関与ができなくなったということになります。報道で、中国で関連の業務に従事していた米国人が一斉に引き揚げたと報じられていますが、それは、この規制によるものです」
(CISTEC前掲)

これで、中国で半導体関連の仕事をしていた米国人は一斉に引き揚げたと報じられています。
中国の半導体企業の重要な役職はおおむね米国人でしたが、彼らは帰国を余儀なくさせられています。

「米商務省が先般発表した、米国の技術が中国の軍事的発展につながることを防ぐための措置として、米国製の先端半導体製造用装置の中国への輸出を事実上禁止するあらたな輸出規則、ならびにNAND専業の中YMTCが「エンティティリスト」一歩手前の「未検証リスト」に掲載されたことを受け、Applied Materials(AMAT)やKLA、Lam Researchなどの米国の主要製造装置メーカーが、YMTCに派遣している装置立ち上げなどに携わるエンジニアを一斉に引き揚げさせ始めたと複数の米国メディアが報じている。
オランダのASMLも同社米国子会社の従業員に中国顧客への装置販売やサービス提供を停止するよう本社から通達があったという」米国半導体製造装置メーカーがYMTCへ派遣中の社員を引き揚げ、米紙報道 | TECH+(テックプラス) (mynavi.jp)

中国の半導体企業の役員や技術者をしていた米国人は、帰国するか、国籍を捨てるかの選択を迫られているようです。

「今回の規制では、業界にとって予想外だった異例の措置として、米国のノウハウの利用を制限するため、中国の先端半導体の開発・生産に「米国の人(U.S. persons)」が許可証なしに関わることを禁止している。商務省の定義によると、米国の人には米国市民や永住者、居住者、米国企業が含まれる。
米商務省の新規則により、中国企業で働く多くの米国人幹部は、現在の職を取るか、米国籍または永住権を取るかの選択を迫られる可能性が高い」

(ウォールストリートジャーナル11月2日)
中国半導体企業の米国人幹部、迫られる選択 - WSJ

現時点では米国人だけの規制ですが、遠からず日本人にも適用できるように外為法が改正されるはずです。
中国企業に高給をエサにされて頭脳流出していた日本人技術者の皆さん、帰って来るのですね。

ちなみに中国はナノテクノロジーにおいて遅れており、国際的な先端世代は7nm以下(最新3nm)  中国の先端世代は14nm (今回規制
対象)のものしか製造できません。
今のスマホやAIロジックチップ、サーバーは7nm以下です。

中国の技術水準は、2014年以前の20nm世代のもので、5Gに対応したものはありません。
したがってこの輸出規制管理で、中国の5G製品やパソコン、ゲーム機は製造は追い詰められることになります。
現代のミサイルや航空機、戦車などの軍需品の大部分は、半導体なくしては造れませんから、今のロシアと似た苦境を味わうことになるでしょう。

 

 

 

2022年11月 2日 (水)

プーチンに核の発射ボタンを押させないには

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プーチンが、10月27日のモスクワにおける国際会議で、今度は核を「積極的に使う意味がない」と言い出しました。
まるで今日の天気です。
きょうは明日にでも核ミサイルをブチ込んでやるようなことを言い、明日は使う意志がないと言うんですから振り回された方も多いと思います。

「ウクライナで軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は、核兵器を使用する可能性について「積極的に発言したことはない」と述べました。そのうえで、欧米側がロシアによる核兵器の使用の可能性をあおることで、ロシアと友好国などとの関係を悪化させようとしていると批判しました」(NHK10月28日)
プーチン氏 “核兵器使用の可能性 積極的に発言したことない” | NHK | ウクライナ情勢

いつもの西側がロシアを圧迫するから、ウクライナに侵攻進行したのだ、という倒錯した被害者意識丸出しの論法と同じです。
バイデンは直ちに、ではなぜ繰り返し核使用をする能力を誇示するのかと言っていますが、そりゃそうだ。

「ロシアのプーチン大統領はウクライナに対して核兵器を使う意図はないとしているが、信用できるか」と問われると「もし彼に使用する意図がないならば、どうして核兵器を使う能力があると繰り返し発言しているのか」と述べ、プーチン大統領の発言に懐疑的な見方を示しました」(NHK前掲)

日本にもロシアの核使用が遠ざかったという論調もあるようですが、そのようにかんがえないほうがいいでしょう。
こういう、その日どちらのベッドの側から降りたかで核使用を決めるような、プーチンの言動に左右されていても仕方ありません。

実はロシアは、核の使用条件を既に言っているのです。
ロシアが2020年6月に公表した「核抑止の分野における基本政策」によれば 、次の4項目を核兵器を使用する状況として上げています。

①相手が大陸間弾道ミサイルを撃つとの確実な情報がある時。
②生物化学兵器を含む大量破壊兵器が使われるとき。
③破壊活動によってロシア政府や軍の施設の機能が停止すること。
④通常兵器による攻撃であっても、ロシアが国家存亡の危機に立つ時。

このうち①②は、本国に大量破壊兵器が使われた時という想定で、これについては冷戦期からソ連も言ってきたことです。
これだけなら米国も似たような条件を設定しているはずで、特に目新しいことではありませんし、米国はロシアに核兵器を先制使用することなどありえません。

問題は③④です。
③はサイバー攻撃を想定しているとされますが、サイバー攻撃はロシア自身もウクライナに対して日常茶飯事に使用しています。
2014年のクリミア侵攻など、サイバー攻撃でウクライナ軍をまひさせてたのが勝因なくらい、ロシアが大好きな戦術がこのサイバー攻撃です。

これを今さらのように自分が受けたら、核で報復するゾということは、ハッキリ言ってサイバーー戦争で負けているということを認めたようなものです。

④は、今になるとわざわざこんなことを言っていたら、通常兵器でもウクライナに負けているということを、プーチン自らが認めてしまったことになります。
いいのか、おい、というかんじですが、こんなことを言ってしまっては、そうでなくてもダダ下がりな国民の士気が上がる道理がありません。
そしていまや負けているから、核を使うということのようです。
ただし、そうは言いながらも、核を使用すれば、仮にそれが小型核兵器であろうと、核のエスカレーションを招き、全面核戦争にまで発展して人類はジ・エンドとなるという理性はかろうじてまだプーチンに残っているようで、「核戦争に勝者はいない」とも言っています。

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NPT再検討会議で岸田総理 ”赤い折り鶴”手に「長崎を最後の被爆地に」 | TBS NEWS DIG (1ページ)

冷静に見て、現時点ではプーチンは「核抑止力」として核兵器使用を言っているにすぎません。
2月27日の開戦時に、プーチンはロシア軍の戦略的核抑止部隊に「特別警戒」という最高レベルの警戒態勢を取らせていますが、これは米国とNATOに直接軍事介入させないためのものでした。

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「他国が持っていない手段がある」プーチン氏“核使用”示唆か・・・真意は?専門家に聞く(2022年4月28日) - YouTube

実際にこれは有効な一手で、米国もNATOも核戦争を恐れて武器供与だけに限定した支援にとどまってしまいました。
仮に、この核の脅迫がなければ、米国やNATOはどこかの時期で直接介入に踏み切ったかもしれません。

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ロシア、「核の脅し」強める: 日本経済新聞 (nikkei.com)

これに味をしめたプーチンは、3月19日-20日に核搭載可能な極超音速ミサイル「キンジャール」をウクライナ西部と南部に撃ち込みました。
もちろん通常弾頭でしたが、いつでも核攻撃は可能だということを見せつけたかったようです。
キンジャールは50~500キロトンの核弾頭を搭載可能で、イスカンデルの発展型です。
そして4月20日には、新型ICBM「サルマト」をカムチャツカ半島に撃ち込む実験をし、5月7日には対独戦勝利パレードの予行で、その名も「終末の日」というハルマゲドン風あだ名を持つ、空中指揮機を飛ばして見せました。

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イリューシン80空中指揮機
核戦争時のロシア空中作戦指揮機で機器盗難、最高機密の対象 - CNN.co.jp

こけおどしにしてもエグイ。

では、プーチンが簡単に核戦争のボタンを押せるかとなると、相当に難しいでしょう。
いくらロシアでも、簡単に個人が核の発射ボタンを押せるシステムにはなっていないからです。

実はロシアの核発射システムは、旧ソ連からそのまま受け継いでいて、それは米国のそれに似せて造ったものです。
米国では俗に「核のフットボール」と呼ばれる黒革のブリーフケースに、核発射システム一式が入っています。

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地上最恐ガジェット「核のフットボール」。大統領就任式欠席でトランプからの受け渡しはどうなる? | ギズモード・ジャパン (gizmodo.jp)

この「核のフットボール」は3セットあって、大統領用、副大統領用、ホワイトハウス保管用があります。
中身は、通信装置、コードブック、極秘施設リスト、緊急警報システムマニュアルで、大統領と副大統領は「ビスケット」というニックネームの認証カードの携行が義務づけられています。

これをそのままロシアに移しかえたのが、今のロシア核発射システム「チェゲット」です。
米国のコピーですから、米国が大統領、副大統領、ホワイトハウス補完用と三つに分けているように、発射命令権限を3ツに分割しています。
この3名とは、大統領、国防相、参謀総長の3名です。
現在では、プーチン、ゲラシモフ軍参謀総長、そしてショイグ国防相の3名ということになります。

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ロシア軍のゲラシモフ軍参謀総長(左)とショイグ国防相
ロシア国防相の所在めぐり臆測、報道官は健康問題報道にコメントせず - CNN.co.jp

プーチンが発射命令許可を国防相と参謀総長に求めると、随伴しているロシア軍士官が核戦争用通信装置「カフカース」を使って送信します。
残り2名が同意して認証すると、初めて大統領の発射指令が有効になり、戦略ロケット軍司令部に送られて発射の運びとなります。

やっかいなのは、この「チェゲット」以外に、もうひとつ半自動式発射システムがも用意されていることです。
ロシアの半自動式発射システムは、その名も「ぺリメートル」(死者の手)という悪趣味な名称を持っており、これがあるために、西側はプーチン暗殺をためらっているというささやかれています。
米国にも同じものがあるので、そのリスクを知っているからです。

プーチンが殺された場合、「ペリメートル」システムが起動してしまい「自動的に」核戦争を始めてしまう可能性があります。
ですから、プーチンを抹殺するにしても、暗殺以外の方法で政権から排除せねばならないというわけです。

したがって、ロシアに核の発射ボタンにを押させないためには、この3択しかありません。

①プーチンを暗殺以外の方法で(たとえばクーデター)排除すること。
②ゲラシモフ軍参謀総長かショイグ国防相のいずれかを、反プーチン陣営にさせること。
③3人から「チエゲット」の認証カードを奪うこと。

クーデターの噂は立ち込めていますが、プーチンの後釜にいっそう狂った人間に座られては、かえって核戦争の危機は高まります。
難しいところです。

 

 

 

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ウクライナ国旗を身にまとい反戦を訴える子どもら=26日、ロンドン(ロイター=共同) 写真|【西日本新聞me】 (nishinippon.co.jp)

ウクライナに平和と独立を

 

2022年11月 1日 (火)

ウクライナがミサイル攻撃に耐えられたのはシェルターのおかげです

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なにもやっていないようですが、岸田政権もあるていどのことは進めています。
昨日みたトマホークもそうですし、シェルターを全国に作るということを浜田防衛大臣が言っています。

「浜田靖一防衛相は26日、産経新聞の単独インタビューに応じ、他国からミサイル攻撃などを受けた際に国民を保護する緊急一時避難施設(シェルター)の整備について、「(必要経費の)積み上げの中で思い切って取り組むことは重要だ。年末に向けた議論の中で強く言っていきたい」と述べ、シェルター整備を所管する内閣官房だけでなく、防衛省も含めた政府全体で検討する考えを示した。政府は年末までに国家安全保障戦略など「安保3文書」を改定し、防衛力の抜本的強化を目指しており、防衛省は自衛隊施設の活用も念頭に検討を進める。
浜田氏はシェルターや自衛隊施設の整備について「(予算不足のため)計画を立てて少しずつ対応してきたが、それでは遅い」と指摘。その上で、「『(ミサイルを)撃っても(日本には身を守る設備が整備されているので)無駄だ』と(相手に)伝える広い意味での抑止手段とも考えられる」と説明した。防衛省は令和5年度当初予算の概算要求で、老朽化した庁舎や隊舎の整備や司令部の地下化などを進める方針で、地下施設のシェルター活用を進める内閣官房とも連携する」
(産経10月26日)
防衛省、シェルター整備検討 浜田靖一防衛相インタビュー - 産経ニュース (sankei.com)

けっこうなことです。
遅まきながら政府も、「反撃能力」(対抗抑止能力)とシェルターがワンセットだということに気がついたようです。

ウクライナがあれだけのミサイル攻撃を受けながら、どうして耐えられるのか考えたことがおありでしょうか。
下の写真は、ウクライナ・ハリキウにある子供病院地下にあるシェルター施設です。

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西日本新聞

ウクライナには、ソ連時代に作られた核シェルターが多数存在します。
大規模なものは、工場、行政機関、公共施設の地下深くに造られており、大都市の地下鉄駅は初めから市民のシェルターとして建設されています。
小規模なものは、学校、病院にも備えることが義務づけられてています。

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住宅地に砲撃、ICCが戦争犯罪の捜査開始 初の都市制圧 ウクライナ侵攻7日目 - BBCニュース

上の写真は、今年3月2日に撮影された、キーウ・ドロホジチ地下鉄駅の避難風景です。
この地下鉄駅シェルターは、深さ105.5メートルと世界でもっとも深い駅として造られていました。

たまたま大深度の地下鉄駅があるからシェルターに利用したのではなく、初めからシェルターにも使う設計でした。

これらのシェルターには、爆風や有害ガス、核物質から身を守る 換気装置 が付けられており、3日間分の食糧・飲料水は、燃料の備蓄も備えられています。

マウリポリの激戦場で、最後にウクライナ軍が立て籠もったアゾフスタン製鉄所など工場型シェルターの典型例で、地下6階にも及ぶシェルターを備えた地下要塞のような威容を見せていました。
食堂、リクレーション施設まであり、外界と複数のトンネルで連絡しています。

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マリウポリのアゾブスタル工場 - 9GAG
アゾフスタリ要塞陥落せず: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

同様のシェルターは、人口20万人程度の中都市で数十から100箇所、大都市で数百から1000カ所存在していると言われています。
冷戦後の緊張緩和で、多くのシェルターが倉庫になってしまったようですが、それでも相当数のシェルターが残り、今回のウクライナ戦争で整備され直して復活したと考えられています。

よくひと頃の日本の脳味噌が薄い人士が「逃げろ。降伏するのがもっともいい」と馬鹿騒ぎしていましたが、どっこい当のウクライナ人は、いかにロシアからミサイル攻撃を雨あられと受けても、このシェルターでじっと耐えていたのです。
ですからミサイル攻撃を受けた場合、徒に表で逃げまどうよりも、とどまってシェルターに保護されていたほうがはるかに安全なのです。

スイスやフィンランドなども核シェルターを持っています。
スイスなどは国民の7割を収容する大規模なシェルターを持つことが、法律で定められています。

ウクライナがロシアのミサイル攻撃を耐えられたひとつの理由は、このシェルターの普及にあることをお忘れなく。

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ロシア軍の「報復」続く、連日のミサイル攻撃…ウクライナほぼ全土で空襲警報 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

残念ながら、わが国にはシェルターはひとつも存在しません。
日本は世界唯一の被爆国ありながら、ロシア、中国、北朝鮮という敵対的核保有国に囲まれています。
それにもかかわらず、日本の核シェルターの普及率は、わずか0.02%というゼロに等しい普及率です。
ちなみに、スイスやイスラエルが100%、ノルウェーも98%と高く米国もそれに近い普及率ですが、わが国は「戦争のことを考えると戦争になる」「戦争に備えると、軍国主義が復活して侵略を始める」「平和を祈れば平和になる」するという不思議な迷信がはびこっていたために、政府も波風を立てたくないとばかりに知らんぷりをしていたようです。

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【世界でニーズ高まる核シェルター 】ゼネコンの開発力に期待/ 核シェルター普及協会代表 深月ユリア氏 | 建設通信新聞Digital (kensetsunews.com)

ですから日本には、シェルターは大都市はおろか、政府施設、自衛隊の基地にすらありません。
首相官邸地下2階の危機管理センター、防衛省の中央指令指揮所、総務省消防庁、警察庁にもシェルターはないようです。

作戦機の大部分は、三沢を除いて普通の格納庫に入れられており、海自の基地にもシェルターは備えられていませんから、わが国が先制攻撃を受けた場合、ほぼ数十分間で戦力の相当部分を喪失し、「反撃能力」をかろじて保持できるのはたまたま海上いた艦艇と水中の潜水艦のみとなることでしょう。

5年ほど前に東京都が「極秘で」地下鉄駅105か所を避難施設として指定したとメディアに報じられましたが、「戦争準備」だといわれるのを恐れてか進展は見られていないようです。

2022年5月の東京都のお知らせです。
国民保護法に基づく緊急一時避難施設の指定|東京都 (tokyo.lg.jp)

●国民保護法に基づく緊急一時避難施設の指定について
このたび、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律第148条第1項の規定に基づき、緊急一時避難施設【注】を下記のとおり指定いたしましたので、お知らせいたします。
【注】緊急一時避難施設とは、ミサイル攻撃等の爆風などから直接の被害を軽減するための一時的(1~2時間程度)な避難施設であり、既存のコンクリート造り等の堅ろうな建築物や地下施設(地下街、地下駅舎、地下道等)を想定しています。
地下駅舎 105施設(都営地下鉄55施設、東京メトロ50施設)

地下道 4施設

東京には、大江戸線の六本木駅、東中野駅、千代田線国会議事堂前駅などは地下40メートル前後の大深度を持つ地下鉄駅がありますが、もちろん通信施設、居住空間、医療設備、食料・飲料水の備蓄、発電施設などといったシェルター施設は備えていませんから、一時的避難場所としては使えますが、有事には気休めていどの役にしかたちません。

この東京都の「お知らせ」は、Jアラートを鳴らしただけで、「政府は戦争準備をしている」と騒ぐ野党がいる国では真剣な議論の対象になりませんでした。
まことにのどかな国であります。日本人は、平和と安全がタダだと思っているようです。

一方、右の人たちも独自核武装を唱えるのはいいのですが、こちらにシェルターのひとつもない国が核武装してどうなるんだ、という根本矛盾に気がついていないようです。まずはそこからでしょうに。

直近でシェルターが必要なのは、台湾有事において完全に戦域にかかってしまう与那国と宮古島です。
これらの地域に、避難シェルターはおろか避難計画すらないことは、先日の記事でも書きました。

与那国町長は採算に渡って、デニー知事に訴えてきました。
それは国民保護法における武力攻撃事態において、自治体が主体となって避難計画を策定して避難させるようなたて付けになっているからです。デニー氏はもちろんなにもしません。
彼は「戦争に備えると戦争になる」、というわが国にしか存在しない珍しい宗派だからです。

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玉城知事、現状を確認 与那国視察2日目 港や製氷施設など | (yaeyama-nippo.co.jp)

知事が避難計画の無視をきめこんだため、業をにやした糸数町長が直接国に問い合わせたところ返ってきた答えがなんと「県を通してくれ」とのことで、国もまた腰が重かったのです。

このような今までおざなりにされてきた国民保護を、ウクライナ戦争を契機にもう一回見直してみるべきでしょう。
どちらが先というより、本来ワンセットで進行させるべきことなのです。
しかし現時点では「自衛隊設備」に限られるようなので、過剰な期待をしないほうがいいようです。

 

 

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ウクライナがくびきを断つ日 譲れぬ自立、国民一丸: 日本経済新聞 (nikkei.com)
ウクライナに平和と独立を

 

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