台湾民進党が敗北
残念ですが、台湾統一地方選挙で民進党が敗北し、蔡英文総統は党の代表を辞任しました。
ただし国の総統職は、次の党代表が決定するまでは留任となりますし、これで民進党政権が交代するわけではありません。
中国はさぞかし嬉しかっただろうとお察ししますが、まったく同じ日の11月26日に南京で白紙運動が始まっているので、喜んでいる暇はなかったかもしれません。
まったく世の中はよくできています。
今回の台湾地方選は当初から民進党が不利だとされていましたが、予想以上の惨敗でした。
民進党は地方選に弱いらしく、2018年も国民党系高雄市長だった韓国瑜(ハン・グオユー・かんこくゆ )ブームにやられて世紀の惨敗でしたが、それよりもっと惨敗でした。
【台湾地方選】「韓流ブーム」起こした国民党、高雄市長に当選、韓国瑜氏(61) - 産経ニュース (sankei.com)
韓は人気取りがうまいポピュリスト政治家でしたが、習近平が台湾に一国二制度を強要し、さらに香港で激化した反逃亡犯条例改正デモによって、台湾人の中国政府への警戒感が強まると、その人気は雲散霧消し、蔡英文が総統選で勝利しました。
その意味で、前回総統選で蔡英文を勝たせたのは、皮肉にも習近平とも言えるのです。
香港で大々的な抗議デモ、80万人と主催者 - BBCニュース
さて、11月26日に選挙があった21県市中、与党民進党がとったのは5県市にすぎず、国民党は13県市、民衆党・無所属は3県市でした。
これは民進党建党36年以来で最低の結果です。
台湾与党が統一地方選大敗、「中国に抵抗」の訴え浸透せず…蔡英文総統は党主席辞任へ : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)
●2022年台湾統一地方選挙結果
・民進党獲得県市・・・台南市、高雄市、嘉義県、屏東県、澎湖県
・国民党獲得県市・・・台北市、新北市、桃園市、台中市、基隆市、新竹県、彰化県、南投県、雲林県、宜蘭県、花蓮県、台東県、連江県
・無所属 ・・・苗栗県、金門県、新竹市(民衆党)
国民党は、8年ぶりに念願の首都台北市長の座を奪還しました。
台北市は長年国民党の牙城で、象徴的な意味もあったのですが、人もあろうに新市長の蒋万安は蒋介石の曾孫だそうです。
蒋万安参选台北市长选举:“蒋家后代”政治包袱或资产成为焦点 - BBC News 中文
ちなみにこの蒋介石の孫はサラブレッドのうえにイケメン、おまけに米国留学組で元弁護士ときていますから、かつての馬英九の再来のようだと言われているそうで、この国民党のプリンスは次回の総統選に担がれるかもしれません。
「1978年生まれの元チャン・ワンアンは、元クオミンタン副議長と元台湾外務大臣で大統領府のユアン・シャオヤン事務総長である。 2005年に姓を改名したユアン・シャオヤン家は、台湾の権威主義時代の指導者、チェン・カイシェックのひ孫である「第4世代」として、多くの支持者が「第4世代」と名付けた。 したがって、ユアン・ワンアンの政治以来の各ステップは、「海峡の両側の3つの場所」から大きな注目を集めています。
しかし、ユアン・ワンアンのバオ・ユアンや資産は、台湾で議論の的となっている。 2015年、ユアン・ワンアンはBBC中国語に、家族は彼にとって重荷でもオーラでもないが、血統であり、それ以外に特別な意味はないと語った」
(BBC中国版2022年6月1日)
蒋万安参选台北市长选举:“蒋家后代”政治包袱或资产成为焦点 - BBC News 中文
顔と血筋がモノを言うのは台湾も同じことで、蒋介石の孫とは、なんか時代を大きく巻き戻しているようです。
巻き戻すといえば、桃園市長に国民党の張善政が当選しましたが、彼は馬英九政権時代の行政院長(首相)で、総統選のときの副総統候補になったことがある人物です。
国民党はお祭りだそうです。だろうね。
では民進党の統一地方選の敗因についてですが、福島香織氏はこう分析しています。
今回は福島氏の見るところでは、いつもの共産党の選挙介入はなかったようです。
アチラも党大会で習近平が党内クーデターを仕掛けて共青団一掃を狙っていた時期でもあり、かつ全国各地で国民のゼロコロナに対する抵抗運動が激しさを増していたからです。
敗因は4つです。
まず、選挙運動自体の失敗が上げられます。
「9民進党の選挙戦の責任者である林錫耀秘書長は選挙戦のために組織したネット宣伝チーム「側翼網軍」に問題があったことを認めて謝罪しています。彼らは、他候補を皮肉ったりあざけったりして、非常に下品な民進党らしくない攻撃的な言動を行い、これが陳時中の評判を悪くしたといわれてます。
そもそも、「側翼網軍」は民進党員でないことが問題とも。彼らのやり方を注意して修正できなかった林錫耀秘書長と副秘書長の林鶴明が、今回の惨敗の戦犯としてやり玉に挙げられています」
(福島福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.668 2022年11月26日)
民進党は、SNSの使い方に失敗しました。
側翼網軍(サイドネットアーミー)とは、民進党系のサイバーネット集団のことですが、党員以外のボランティアが運営していたようです。
数が多いため「軍」と呼ばれていましたが、よくいえば闊達、悪く言えば下品で攻撃的だったようです。
第2に、民進党内の軋轢がひどかったことです。
蔡英文氏の与党、主要6市で相次ぎ敗北 台湾地方選: 日本経済新聞 (nikkei.com)
「蔡英文派の強引さが軋轢生んだ、党内が団結して選挙運動に邁進できなかったという見方もあります。蔡英文派の洪耀福、洪耀南兄弟が、かなり強引に候補選びのルールを主導しました。今回の県市首長選挙の候補は、屏東県を除くすべての候補が、蔡英文が予備選もせずに、自ら選んだ蔡英文欽定候補と揶揄されるような選び方で内心不満を抱えていた党員もいたようです」
(福島前掲)
元来、民進党は候補選びを大変に慎重にする党でした。
本選前に予備選を繰り返し、候補者同士の白熱のディベートを勝ち抜いて始めて民進党の候補となれたのです。
ですから、強い候補しか残らず、これが民進党の強靱さの原動力となっていました。
今回は蔡英文が、自らのお気に入り候補を押し込むというルール違反をしてしまったようです。
やはり共産党に抗して民主主義を守ってきた蔡英文にして、なおこの6年の総統の地位はこういう弊害ももたらしたのです。
今回、蔡英文が党主席を引責辞任を発表したのは、その責任をとったわけです。
今後、党内部で蔡英文派は厳しい状況に置かれ、反蔡派のリーダーである頼清徳副総理が、次の24年の総統選の最有力候補に躍り出ることになるでしょう。
この頼清徳は次代の台湾を担う資格を持った政治家ですが、蔡英文との関係がよくないのは公然の秘密だそうです。
台湾の新行政院長に頼清徳氏 人気が高く親日家(17/09/06) - YouTube
頼は訪日した際に、こうインタビューに答えています。
「頼氏は自身の対中政策について、「国家の安全を守る態勢を増強したい」と述べ、対中国の「反浸透法」や「反併呑(へいどん)法」の立法を推進していく考えを明らかにした。
頼氏は行政院長に在任中、立法院(国会)で「私は台湾独立を主張する政治家だ」と答弁したことがあり、その主張が中国の武力行使を招くと警戒する声もある。これに対し、頼氏は「私が言う台湾独立とは、中国による浸透と併呑を阻止することだ」とし、総統選で当選しても「台湾の独立を(新たに)宣言することはない」と説明した」
中国との「平和協定」は災難 台湾・頼清徳前行政院長インタビュー(1/2ページ) - 産経ニュース (sankei.com) 。
この頼清徳の対中姿勢はしっかりとしており、蔡英文に代わったとしても安心して見ていられそうです。
ちなみにうそ偽りのない親日派で、東日本大震災の後に、観光客が激減していることを知ると、「うわさを打ち消すには、行動で示すのが一番いい」と応じ、震災発生からわずか3ヶ月後に「行こう日光」と大書きされたTシャツを着て、300人を超える市民旅行団と共に日光を訪問したことがあります。
また日本統治時代、台湾の水利事業に大きな足跡を残した八田與一の慰霊式典を毎年行っているとのことです。
頼清徳 - Wikipedia
第3に、蔡英文の内政軽視への有権者の不満があったようです。
「蔡英文のプラス評価の部分は、実は蔡英文の実力と言うより、時代の空気、特に国際社会の空気の影響が大きい。蔡英文は2016年に総統になった直後、一時期支持率が低迷します。それは、民進党支持者の期待に応えるような政策がすすめられなかったからです。それで2018年の統一地方選挙に惨敗し、党首も辞任するのですが、それが急に浮上するのは、2019年に習近平の香港弾圧があったからです。ここで蔡英文は「抗中」(中国への抵抗)の姿勢を強く打ち出すことで、民進党の本来の支持を取り戻します。
蔡英文はこれまで民進党の総統としては中国とうまくやろうと気を使いすぎるところがあり、それが民進党の本来の支持層の不信感をまねいていた。ですが、習近平という一種の狂人が登場して、蔡英文の抗中が定まり、支持率を取り戻した」
(福島前掲)
つまり、習近平という一種の「狂人」が海峡の向こうから虎視眈々と台湾を狙っていることがあまりにもハッキリしているからこそ、蔡英文人気が安定していたわけです。
この対中姿勢は、今回のコロナ対策でも踏襲され、中国人の台湾入国をいち早く禁止し、世界でもっとも厳しいコロナ対策をとりました。
こういうコロナ政策は、国民党政権では逆立ちしても無理で、おそらく親中派の彼らならズルズルな国境管理をしてコロナを蔓延させたことでしょう。
「台湾政府は、2019年末に中国の武漢市で原因不明の肺炎が発生したとの情報を受け、中国へ情報提供依頼をかけるとともに12月31日には武漢からの入境者に対する検疫を開始しました。翌2020年1月には台湾から専門家を武漢に派遣し調査を行うとともに、1月22日には武漢の所在する中国湖北省への団体旅行と湖北省からの台湾への入境を禁止し、2月6日には全中国からの台湾への入境を禁止しています。その後、3月19日には居留証所持者以外のすべての外国人の入境が禁止されました。これらはおそらく世界で一番早い対応であったと思われます」
台湾におけるCOVID-19対策の勝因と半導体がけん引する経済成長 | PwC Japanグループ
さらに言えば、米国の半導体の対中制裁も重なり、世界で半導体不足がおき半導体価格が爆上がりし、世界シェア6割以上を占める台湾の半導体の利益がウナギ登りで、コロナにもかかわらず台湾のGDP成長率は3.11%にむしろ伸びています。
2020年当初は、コロナの影響が懸念され、先行きを不安視する声も多く聞かれました。
しかし最終的には、台湾の2020年名目GDPは6,693億米ドルで、実質経済成長率も3.11%が見込まれ、中国の年間経済成長率を約30年ぶりに上回ることが確実となりました。
また、台湾政府は2021年の実質経済成長率の予測も2020年を超える4.64%と高水準と予想しています。
これは徹底したコロナ対策によって、日常生活への影響が最低限に抑えられ、工場生産への打撃も限定的だったためです。
加えて、米中貿易摩擦で中国からの生産シフトが進みつつあった中で、台湾は世界の工場の中でも2020年を通してほぼ平常どおりの操業が可能で、世界のサプライチェーンとしての信頼を勝ち得たことが大きかったようです。
と、ここまではいいのですが、その反面でインフレ対策や若年層の失業率問題、コロナ禍で倒産している中小零細小売、飲食店への救済が不十分だったことを不評だったようです。
国民からすれば、強いコロナ政策があっても景気がいいのは半導体分野と大企業だけ、おれらは辛いぜ、ということのようで、この辺はうちの国にも共通します。
ただわが国は予備費を10兆円積み上げて配りまくりましたが、台湾ではそうでもなかったようです。
かくして有権者は、外交・防衛はすばらしいが、そのよさを帳消しにしたのが内政の軽視だったということのようです。
とまれ、地方選と国政選挙は別物で、2018年の選挙で民進党は惨敗したけれど、2020年に蔡英文は総統選で圧勝しました。
今回の敗北をうまく総括して、24年の総統選挙に頼清徳で党内をまとめきって、捲土重来を図ってほしいものです。
江沢民が亡くなりました。享年96歳でした。
江は、市場経済化を進める一方で、国家や党の求心力を「愛国主義教育」という名の反日教育に求めました。
抗日戦争に関する施設を多数建設し、中国世論の対日感情を悪化させのはこの人物です。
もって瞑すべし。合掌。
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民主化後の台湾の選挙っていつも流動的です。90年代までは国会でコップや椅子を投げ合ったり殴り合いがしょっちゅうでしたし。。
日本統治時代から蒋介石の国民党軍の軍政に変わった頃から抑圧される先住民と大陸から来た支配者の対立という複雑な事情もあります。なかなか先が読めない政治の国ですね。中共がこれだけ肥大した中で国際的にも微妙な立ち位置にありますし。当然大陸からの浸透が進んでいるだろうし、経済的にも大陸とは切っても切れない関係なのは日本以上でしょう。
蔡英文が政権を取っていなかったら香港のように習近平の野望で蹂躙されていたかもしれないし、時のアメリカの態度次第とも言えますけど、島国ですからウクライナのような分厚い補給支援も受けられないだろうし。まあ虎視眈々と狙われているのは明らか。
次の総統選挙に注目です。
これ、沖縄県の皆さんもただ事ではありませんよ。
投稿: 山形 | 2022年12月 1日 (木) 06時30分
今日の記事は、貴重な台湾情報でした。ありがとう。
投稿: ueyonabaru | 2022年12月 1日 (木) 09時54分
台湾では直接民主主義を重要とすることから、ひまわり運動を経て確か2016年に、リコール投票への要件ラインを引き下げる法律を成立させました。
これには民進党にも国民党にも賛成者が多かったそうです。
それによって特に昨年から5名がリコール対象になり、復讐的リコール合戦が続いています。
まさに「刃物は使いよう」です。
なのでさすがに、直接民主主義を行き過ぎさせると大事を見失うのではという議論が起きているとのこと。
加えて原発再稼働や食糧輸入など重要事項の住民投票案件が幾つかあった上に、今回のネットでの誹謗中傷ばかり目立つ選挙戦で、もともと台湾の地方選挙と国政選挙はこんなもの、という状況に、国民の「疲れ」が合わさったという分析もあるそうです。
直接にせよ間接にせよ、「民主主義とはもともと面倒くさいのが当たり前のもの」と、大橋巨泉氏がかなり昔の著者で書いていたのを思い出します。
ネット言論も「刃物は使いよう」のひとつである現在、台湾にしろ米国にしろ、我が国自民党のネットサポーターズクラブにしろ、立憲民主党が資金提供した「Choose Life Project」や「ブルージャパン」にしろ、なりすましも含めて参加者の言論が全て律されることなど出来るはずもなく、宝もゴミも罠も当たり前に混ざっている玩具箱の中から価値の変わらない宝石を自分で見つけだすような面倒な作業、それに疲れはしても、放棄してはいけないのだなぁと考えます。
自由な侃侃諤諤の末に肝を適切に捉えて答えを見出していくことを習慣にするのに疲れて捨てようとした時に、「ラクさせてあげますよ」の顔をして独裁が近寄って来るはずですね。
投稿: 宜野湾より | 2022年12月 1日 (木) 11時10分