対中ココム復活、米国の焦土化作戦始まる
米国がものすごい中国制裁を発動しました。
ひとことで言えば、中国に半導体技術はもはや輸出できないということです。
これが実施されれば、米国による中国経済の焦土作戦が開始されることになります。
「今回の一連の措置は、中国への技術移転に関する米国の政策において、1990 年代以降で最大の転換となる可能性がある。措置適用となれば、米国の技術を利用する米国内外の企業による中国の主要工場および半導体設計業者への支援が強制的に打ち切りとなり、中国の半導体製造業が立ち行かなくなる可能性がある」
(ロイター2022年10月8日)
米、半導体製造装置巡る対中輸出規制を大幅拡大へ | Reuters
やるね、バイデン。
中間選挙の結果がどうなろうと、共和党のトランプが右手で殴り、民主党のバイデンが左手で殴るわけで、もう対中制裁に党派の垣根はないようです。
既に、米国規制で他国からも半導体製造装置などの販売や技術の提供が停止していますが、この新たな対中制裁で、わが国独自の技術であっても外為法の輸出管理の対象になることになります。
さぁ、どうする習近平。あ、関係ないか、あんたに経済なんて。
こんな時期に、まだゼロコロナ政策で武漢に軍を出して戒厳令やってるくらいですからね。
WSJ
輸出入安全保障管理情報の詳細な情報を出している、「安全保障貿易情報センター(CISTEC)」の公開情報です。
「米国商務省は、米国時間 10 月 7 日(金)(日本時間同日深夜)、米国連邦官報により、 半導体、スーパーコンピューター関連を中心に EAR の大幅な規制強化改正を公布し、現時点でそれらのかなりの部分が施行されました(一部、来年4 月7 日までの限定内容の一時的一般許可あり)。
本改正は、これまでの EAR 改正の中でも、日本企業を含む各国の企業の取引(国内取引も含む)に最も大きな影響を与える規制強化であるといっても過言ではありません」
米国が著しく強化した対中輸出規制についての補足的QA 風解説 (cistec.or.jp)
ここに出てくるEARとは、「米国再輸出規制 」のことです。
これもCISTECに説明してもらいましょう。
CISTEC
「米国製の製品、部品、技術、ソフトウェアが、米国から輸出された後に、第三国に再輸出される場合、仕向地、使用者、輸出貨物・提供技術の種類、米国製品や技術の全体の輸出に対する比率等により米国法の規制を受けることを指します。
つまり、いったん米国から輸出されたものが、その後、輸出先から第三国あるいは第三国の特定の使用者向けに再輸出される場合、米国からの直接輸出が規制されていれば、再輸出においても同等の規制を受けることです」
米国再輸出規制入門! | 安全保障貿易情報センター(CISTEC)
このEARに違反すると、まずこの会社へのEAR対象品目の輸出・再輸出が禁止されるので、米国の企業、機関、個人からの米国からの輸入が不可能になります。
また当該企業は、EAR対象品目のすべてを輸出・再輸出することが禁止されます。
そのうえ、さらに米国以外からも米国製品が輸入できないため、米国製品を使った製品を作ることもできなくなります。
つまり、違反した品目だけではなく、全てのEAR対象品目になりますので、米国製技術も取り扱えないということになります。
今までの対中制裁によって各国の対中半導体輸出や技術移転は停止していますが、さらにハッキリと禁止を明示することで、完全に中国への半導体輸出の道は閉ざされました。
CISTECは「もはや今回の規制強化は平時の規制ではない」と述べています。
ココム(対共産圏輸出統制委員会)という冷戦期と同等の対共産圏輸出規制が、復活したことを意味ましす。
「第一点目は、ココム解散(94 年)以降、平時の規制ではこのような規制はなく、制裁で適用されるような規制内容だという点です。
半導体製造関連エンドユース規制、スパコン関連エンドユース規制、3 類型の直接製品規制のいずれをとっても、許可例外(許可不要の場合)が(直接製品規制の一部を除いて)適用出来ず、更に(ごく一部を除いて)原則不許可(=全面禁輸)となっています」
(CISTEC前掲)
ココム(COCOM)とはこのようなものでした。
「ココムにおいては、東西の軍事バランスが崩れるような品目を共産主義諸国に輸出することを防止するため、輸出管理当局において仕向地と輸出品目の技術的な使用についてチェックが行われ、最終的に対象品目に共産主義諸国への移転される輸出について原則禁輸となっていた。
冷戦が終結してソ連が崩壊するとココムの意義が薄れたことで、1991年末に大幅な規制緩和が行われ、1994年3月に解散した。兵器輸出規制協定は後身のワッセナー協約に引き継がれた」
対共産圏輸出統制委員会 - Wikipedia
このココムの後身がワッセナー協約(WA)です。
どこかで聞いたでしょう、そう韓国が大量破壊兵器造りの原料となるものをイランや北に出していた疑いで、日本は輸出規制管理を強化し、「ホワイト国」から一般に格下げしましたが、その時の日本側の論拠がこのWAです。
日本が今回制限を加えた3品目は、いずれも大量破壊兵器に転用可能な物資で、「通常兵器及び関連汎用品・技術の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント」という協定に指定されているものばかりでした。
ワッセナー・アレンジメント - Wikipedia
この協定には、この韓国への輸出管理規制強化の対象となった規制3品目が入っており、いずれも毒ガス製造(サリン等)や核開発に必須の物質であり、遵守して当然のものばかりです。
このワッセナー協約のリストにある指定物資は厳重に管理されねばならず、輸出量と在庫・消費量が厳重に管理されねばなりません。
今回の米国の対中半導体規制は、軍事用はもちろんのこと、民生用のスパコン、先端半導体などにも網がかかります。
ウォールストリートジャーナルによれば、米国は半導体供給網の中で最も重要部分、特に高度な研究開発が必要な分野は米国が握っており、米国には、先端半導体の設計大手のほか、半導体製造ソフトウエアや装置製造大手が多数存在しています。
下図は、最先端半導体チップとその製造装置の生産シェアを現していますが、青色が米国、赤色が中国です。
かろうじて中国が対等なのはロジックチップとメモリーチップのふたつだけで、それ以外は圧倒的に米国が世界シェアを独占しています。
特に半導体製造ソフトは米国が握っているのがわかります。
ですから、米国からこれらが輸出禁止された場合、中国は最先端半導体を製造することが不可能になるでしょう。
「3 第二点目は、先端半導体分野、スパコン分野という特定重要分野について、特定の指定企業だけでなく、それらを開発・製造する企業全般を、純粋民生用途であっても禁輸対象としたことです。
これまで、中露等を対象とした軍事エンドユース規制(通常兵器関連の開発・製造・使用等に使われる場合に要許可)というものがありましたが、ほとんど適用事例はありませんでした(軍事エンドユーザー規制として中国のファウンドリー最大手の SMIC 等を対象としたことはありました)」
(CISTEC前掲)
これで中国への半導体関連のモノは輸出禁止となりますが、それにとどまらずヒトも規制対象となります。
「第六点目は、米国企業・人(永住権者を含む)による、中国の先端半導体(3類型)の開発・製造への一切の関与が禁止されたことです。 EAR対象品目については、半導体製造エンドユース規制で禁止し、EAR対象外品目については、先端半導体の「開発・製造に使われる品目の出荷・移送・移転やその支援、サービス提供」が許可対象とされました。
「品目」というのは、「貨物、技術、ソフトウェア」を包含する用語ですので、関連製品を輸出・移送するのはもちろん、口頭を含む一切の技術提供、その他の支援等の関与ができなくなったということになります。報道で、中国で関連の業務に従事していた米国人が一斉に引き揚げたと報じられていますが、それは、この規制によるものです」
(CISTEC前掲)
これで、中国で半導体関連の仕事をしていた米国人は一斉に引き揚げたと報じられています。
中国の半導体企業の重要な役職はおおむね米国人でしたが、彼らは帰国を余儀なくさせられています。
「米商務省が先般発表した、米国の技術が中国の軍事的発展につながることを防ぐための措置として、米国製の先端半導体製造用装置の中国への輸出を事実上禁止するあらたな輸出規則、ならびにNAND専業の中YMTCが「エンティティリスト」一歩手前の「未検証リスト」に掲載されたことを受け、Applied Materials(AMAT)やKLA、Lam Researchなどの米国の主要製造装置メーカーが、YMTCに派遣している装置立ち上げなどに携わるエンジニアを一斉に引き揚げさせ始めたと複数の米国メディアが報じている。
オランダのASMLも同社米国子会社の従業員に中国顧客への装置販売やサービス提供を停止するよう本社から通達があったという」米国半導体製造装置メーカーがYMTCへ派遣中の社員を引き揚げ、米紙報道 | TECH+(テックプラス) (mynavi.jp)
中国の半導体企業の役員や技術者をしていた米国人は、帰国するか、国籍を捨てるかの選択を迫られているようです。
「今回の規制では、業界にとって予想外だった異例の措置として、米国のノウハウの利用を制限するため、中国の先端半導体の開発・生産に「米国の人(U.S. persons)」が許可証なしに関わることを禁止している。商務省の定義によると、米国の人には米国市民や永住者、居住者、米国企業が含まれる。
米商務省の新規則により、中国企業で働く多くの米国人幹部は、現在の職を取るか、米国籍または永住権を取るかの選択を迫られる可能性が高い」
(ウォールストリートジャーナル11月2日)
中国半導体企業の米国人幹部、迫られる選択 - WSJ
現時点では米国人だけの規制ですが、遠からず日本人にも適用できるように外為法が改正されるはずです。
中国企業に高給をエサにされて頭脳流出していた日本人技術者の皆さん、帰って来るのですね。
ちなみに中国はナノテクノロジーにおいて遅れており、国際的な先端世代は7nm以下(最新3nm) 中国の先端世代は14nm (今回規制
対象)のものしか製造できません。
今のスマホやAIロジックチップ、サーバーは7nm以下です。
中国の技術水準は、2014年以前の20nm世代のもので、5Gに対応したものはありません。
したがってこの輸出規制管理で、中国の5G製品やパソコン、ゲーム機は製造は追い詰められることになります。
現代のミサイルや航空機、戦車などの軍需品の大部分は、半導体なくしては造れませんから、今のロシアと似た苦境を味わうことになるでしょう。
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このニュースを聞いて驚きました。中国は死活問題になる。
アメリカは日本、台湾、韓国にも同調してくれという、もう打診されてるかな。
大口の顧客を捨てる覚悟をしつつ、両国にいい顔をする方法を模索する感じでしょうか。
そうなると韓国のサムスンやSKは大打撃です。
投稿: 多摩っこ | 2022年11月 3日 (木) 01時58分
本気で対決モードだなバイデン。
かつてのCOCOMってパリに本部があるというだけで完全な密室で謎の組織でしたが···まあ中ソはどうにかしてスパイ入れてたかもしれないけど。
東芝の子会社の東芝機械がNC切削機を迂回してソ連に納入したという東芝ココム違反事件なんてこともありました。あれでソ連潜水艦のスクリュー音が激減したとかで米国激怒して、親会社の東芝のトップが辞任に追い込まれました。
ベルリンの壁崩壊でソ連も末期だった頃に発売されたスペックは大したことない家庭用ゲーム機のスーパーファミコンの裏に「COCOM規制対象品です」という警告シールが貼ってありました。もう30年も前ですね。
あの時代並に締め上げるのか。ガチですね。
あと、元々カメラなんかフィルム時代から赤字で現在業績不振のNikon、半導体ステッパーではトップだったのに、何で売り払っちゃったかなあ。。
投稿: 山形 | 2022年11月 3日 (木) 06時38分
昨日に続いてまた北朝鮮がポンポンとミサイル撃ってきましたね。Jアラート鳴りまくり!
うーん、もう着弾したはずだなと待ってたら、今頭上を通過して太平洋に落ちたと。。
投稿: 山形 | 2022年11月 3日 (木) 08時02分
> 現時点では米国人だけの規制ですが、遠からず日本人にも適用できるように外為法が改正されるはずです。
中国企業に高給をエサにされて頭脳流出していた日本人技術者の皆さん、帰って来るのですね。
帰ってきて欲しいですね。反日国家を支援してはなりません。
アメリカの強さを感じざるを得ない今日の記事でした。ですが、アメリカの傲慢さも感じられます。アメリカ万歳の気分にはなれません。それは、第二次大戦時のアメリカの対日石油禁輸政策があったことを思いだすからなんですよ。日本を対米戦争に追い込むことになった大きな原因になりました。
アメリカは実質上、中国との戦争を始めたとも言えましょう。
投稿: ueyonabaru | 2022年11月 3日 (木) 13時36分
まだ、こうしたアメリカの対応について「バイデン政権は習体制を潰そうとしていて、共産党そのものを排除しているわけではない」という意見もあります。もちろん、そうかも知れません。
けれど、ほんの十年前のオバマ政権時には考えられもしなかった劇的進歩です。
惰性の日中友好を隠れ蓑に「静かな侵略」を許し続けてきた歴代日本政府にあって、安倍さんはじめ我々保守派は中国について歯噛みする思いを続けてきたのですから、他力本願的とは言いつつも、後戻りできない軌道に乗ったと言えましょう。
しかしまだドイツの動向も気になるし、我が国の財務省や経産省は内心穏やかじゃないでしょう。それは、サハリン1に投資を続けるという決定をした現政府の定見のなさにも現れています。
一方の米国は核戦略の見直しにも着手しようとしていて、より使用のハードルが低くなる可能性があります。
どっちにしても、米国の本気は長くグローバル経済を標榜してきた自らの枠を完全に突き破ったもので、共和党多数議会になろうが、それは変わりそうもありません。
日本の立場ももう少しはっきりさせないと、岸田政権は危うい事になりそうです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年11月 3日 (木) 17時12分
事実上の習朝大中華帝国が宣言されたので、そらもうハイテク機器などを帝国に輸出すると、それは自殺行為になります。日本の最大の貿易相手は米国じゃなくて中共なんで、実際、日本は困ったことになりそうですわ。安全保障上は米国の舎弟でありながら、商売上の最大得意先は中共だという、マンガのような展開になってしまいました。鄧小平の韜光養晦で、「中国が将来民主化される」にダマされて以来、ココに来て最大の関所です。
多分、日本は決断できなくてウニャウニャして、米国からもキンペイ皇帝からも「えっ、オマエどうすんの?」「ハッキリしろい!」と詰められることになります。特に岸田さんですので、検討に次ぐ検討が何時までも続くだけで埒が明かない事になりますわ。
競い合う二大国を手玉に取って自国の利益を伸ばすことも可能だと思いますが、トーイツ騒ぎでアップアップしてる政府にはムリです。中共に「経済」を握られたまま侵攻を許し、反撃しようとする米国に「後生だから、戦争はしないで!ヘイワが一番ですぅ」としがみ付くような、そんな未来が待っているような気がしますわ。もう悲観してます。
投稿: アホンダラ1号 | 2022年11月 3日 (木) 22時55分
経産省HPには貨物・技術のマトリクス表が載せられています。
12月に新しいレジームに合わせたルールに上書きされるようで、実務レベルで動き始めているのを確認して少し安心しました。
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/matrix_intro.html
今夏時点の中国進出企業の内訳と動きが下記リンクである程度把握できます。
https://eczine.jp/news/detail/11629
撤退しにくい製造卸売業のローテク分野は日本だけでなく各国残っているので、数としての人質の心配は頭脳流出以外のところで今後も存在すると思います。
アップルは9割中国組立をどこまで分散できるのか、スマホ関係は元記事内にある同盟国向け免除ライセンス制度で猶予を得られるけど、行先の奪い合いが今すごそうですね。。。
今春から公布されている経済安全保障推進法で定義されている特定技術分野に於いては、今後国立大学を筆頭に研究者及び成果の懸念国への流出をどのように規制していくのか、まさに高市大臣が黙々と今やられているのでは。
https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/kihonshishin3.pdf
投稿: ふゆみ | 2022年11月 4日 (金) 08時17分