ココムへと向かう中国デカップリング
中国は米国の半導体規制により、メモリーのCXMT フラッシュメモリーのYMTC(長江存儲科技 )、ファウンドリ (半導体チップ製造工場)のSMICの半導体3社の生産ライン拡大工事が停止した状態です。
また、現行主力世代の半導体製造に関しても、設備の修理営繕ができなくなり、今後の生産に赤信号がともっています。
その影響を被って、すでに半導体関連だけで5700社が廃業危機の状態に追いやられています。
「Hosseini氏は、「SIGの予測では、米国の半導体制裁措置によって生じるウエハー工場用装置の売上損失額は、80億米ドル規模に達する見込みだ。これは、2022~2025年のウエハー工場用装置の1年間当たりの平均売上高予測の8%に相当する。
また、スパコンの分野では、GPU製造の主要パートナーであるTSMCが、約10%の損失を被る可能性がある」と述べている。
同氏は、「米国は、自国の人材が中国の半導体業界において無許可で働くことも禁止している。この禁止措置により、中国向け製品/サービスの売り上げが失われるため、世界半導体業界では今後3年間で、約100億米ドルの損失が発生することになるだろう」と付け加えた」
(EEタイムス 022年10月27日 )
米国の新半導体規制「中国やグローバル企業に大打撃」:複数アナリストの分析を聞く(2/4 ページ) - EE Times Japan (itmedia.co.jp)
中国YMTCなど30社超を禁輸リスト 米商務省が発表 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
半導体関係者は、現在はまだ自由主義諸国と中国は複雑に絡まりあった利害関係を持っている状態だが、近い将来、両陣営の半導体関連業界は完全にデカップリング(切り離し)されるだろうとみています。
「今後5~10年の間に、引き続き中国との分断が進んで行くだろう」と述べている。
「グローバル企業は、実際に今後5~10年の間に中国とのビジネスが実際にゼロになる可能性があるという事態に備える必要がある」
(EEタイムス前掲)
米規制で打撃の中国、パワー半導体に「驚きの投資増」 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
この4月から、米国の半導体規制は、二次制裁(セカンダリーサンクション)を課す段階に入ります。
セカンダリーサンクションとは、経済制裁を受けている国と取引する第三国の個人・企業・金融機関などに対する制裁のことで、これに違反すると第三国の当該企業までもが処罰の対象となります。
これによって、中国半導体企業に輸出していた日本や韓国の企業は大きな影響を受けることでしょう。
たとえば、米国は中国でメモリーを生産するサムスンとハイニックスに対して、昨年10月に1年の免許の更新を認めましたが、その後の更新はわからないとしています。
日米蘭の半導体合意により、中国に半導体製造装置を輸出することが不可能になります。
「バイデン大統領は、中国に最先端半導体の技術が流出し、それが軍事転用されるとして、昨年10月に半導体製造装置などを含む最先端半導体の輸出を規制する措置を発表した。
その後、関係国にも協力を求め、今年1月、アメリカ時間の27日にバイデン政権は日本やオランダの当局者とワシントンで協議した。その結果日米蘭は半導体製造装置輸出規制で合意した」
習近平どうする? 日米蘭が対中半導体製造装置輸出規制で合意(遠藤誉) - 個人 - Yahoo!ニュース
この半導体製造分野で日本とオランダは強い力をもっており、日米蘭が禁輸に合意したために、中国は仮に半導体設計をしてもそれを作る装置が入手できなくなります。
そしてこれを利用した各種装置も製造できなくなります。
その範囲は、半導体分野からAI、バイオ、航空宇宙分野などにも広がるとされており、スーパーコンピューターも作れないため、高度演算が不可能となり、科学技術全体が停滞に追い込まれることでしょう。
TechInsights Manufacturing Analysis Inc.
上図の表でもわかるように、これらの製品の多くは日本製であり、日本の半導体規制次第ということになります。
半導体の役割分担は、大雑把にいえば、製品設計や技術を米国が担い、製造装置と検査装置の多くが日本、そして最新鋭の露光装置がオランダ製、そしてこれを製造しているのが台湾のTSMCやサムスンという構図になっています。
習近平が訪露すると見られていますが、そこで何らかの支援を口にすれば一気にこの禁輸のステージは上がっていくでしょう。
そして現行のワーセナー協約からココムへと遡行するはずです。
ココム(対共産圏輸出統制委員会)とは、このような冷戦期に作られた輸出管理規制でした。
「冷戦時の資本主義諸国がソ連やワルシャワ条約機構による侵略・侵攻という安全保障上の脅威に対応し、共産主義諸国への技術格差の確立を図るために、共産主義諸国へのハイテク物資の輸出を規制する目的で1949年秋に創設され、1950年1月から活動開始した。アイスランドを除く北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国と日本、オーストラリアが参加していた。
ココムにおいては、東西の軍事バランスが崩れるような品目を共産主義諸国に輸出することを防止するため、輸出管理当局において仕向地と輸出品目の技術的な使用についてチェックが行われ、最終的に対象品目に共産主義諸国への移転される輸出について原則禁輸となっていた。東西関係や技術水準の変化に合わせて規制の対象となる貨物や技術も変化していった。
また、物資や技術の輸出は外貨獲得の手段として期待できることから、輸出統制対象リストを巡り、加盟国間でしばしば対立を起こした」
対共産圏輸出統制委員会 - Wikipedia
そして「第2次冷戦」が始まります。
ウクライナに平和と独立を
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やがて中国やロシアの存在がなくとも、世界経済が十分回って行く状況が出来するのだと思います
少なくとも米国の言う競争関係は新冷戦に進まらざるを得ないし、中国もそれを認識して準備はしています。
それでも中国の武器は、たぶらかす、あざむく、脅す、盗む、ウソを吐く等々、中国一流の古典戦術に頼り続けるより仕方ないのだと思います。いまさら賃金が上がって政治的リスクも高い中国に投資する向きは、特殊情報を基にしたゲーム感覚での超短期利食い狙いしかなく、逆に東南アジア方面のインフラ整備は着々と進んでいます。
オバマ時代前期には、「中国は地域においてアメリカに取って代わろうとする戦略的計画を持ち合わせておらず、中国政府の積極姿勢はアメリカという脅威を認識した結果生じた不安感と機会主義によって生じたに過ぎない」との認識が主流でした。
ところが現在米国のほとんどの考えは、「中国の台頭をアメリカの国益に対する直接的な脅威。中国政府はアジア太平洋におけるアメリ
カの同盟システムを弱めることを意図している」と正しく認識しています。
米国がこの「新・世界の工場」たるアジア地域の覇権を手放すなど到底考えられませんし、好むと好まざるとに関わらず日本を始めとしたアジアの民主主義国も中・露と手を切る方向になるしかないし、そうすべきです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年2月23日 (木) 12時24分