日本は「ポーランド」にならねばならない
やはり例の中国の気球は軍事用だったようです。
撃墜された機体からは、通信傍受用の装置と発信装置が見つかったようです。
「米国務省は9日、中国がこれまで40カ国以上の領空に偵察気球を飛来させているとの分析を明らかにした。米軍が4日に米領空で撃墜した気球の解析を踏まえ、傍受する機器を備え「情報収集活動が可能だった」と結論づけた。関与した中国人民解放軍と取引のある団体への対抗措置を検討する。
国務省高官は9日、気球に通信傍受や位置情報の特定ができるアンテナと電力を生成する太陽光パネルが搭載されていたと指摘。「装備が偵察用なのは明らかだ」と述べ、「民間の気象研究用」とする中国の主張を否定した。偵察活動は中国人民解放軍の指示でなされるケースが多いとも語った」
(日経2月7日)
中国気球40カ国超で 米国「通信傍受用のアンテナ搭載」: 日本経済新聞 (nikkei.com)
岐阜新聞
衛星より低空で電波傍受や撮影などを行いつつ相手国の対応を探り、なにもしないようなら日常的に飛ばして偵察するという寸法です。
日本を初めとして、実に40カ国で同様の気球が発見されています。
日本の東北に飛来させた時は、青森県にある米軍の三沢基地、車力の米軍のXバンドレーダーの電波収集、あるいは秋田県の新屋演習場に当時に建設予定だったイージスアショアのAN/SPY-7レーダーの地形データを収集していたのかもしれないといわれています。
飛ばしたのは、内モンゴルにある戦略支援部隊の偵察部門のようです。
「米軍に撃墜された中国の偵察用気球について、中国軍で宇宙やサイバー、電子戦などを担当する戦略支援部隊が背後で運用に関与しているとの見方が出ている。同部隊は、製造コストが低く、撃墜されても人的被害のない偵察用気球を、衛星による偵察を補完する装備品として活用しているとみられる。
撃墜された気球は、同部隊が中国内モンゴル自治区で管理する衛星発射基地から打ち上げられたとの情報がある。同部隊は、戦略に関わる情報の収集を役割の一つとし、偵察衛星を運用して米軍の核兵器施設などの監視を行っているとされる」
(読売2月5日)
中国気球、軍の戦略支援部隊が関与か…「内モンゴルの基地から打ち上げ」情報も : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)
米国が撃墜したことで、今後は各国も撃墜方針で臨むでしょう。
ちなみに気球が飛行した高度約2万mの国際法上の「領空」の考え方ですが、現在議論中で明確な定めがないようです。
領空に入るという説と入らないという説、さらにはその機能が軍事目的か、ただの無害通航なのかによるという機能説などがあります。
なお、高度2万メートルは通常の戦闘機では到達さえ困難な高度です。
さて習近平にとっての台湾は、プーチンにとってのウクライナなのです。
そして侵攻が開始されれば、CSISのウォーゲームが描くように北朝鮮までも巻き込む、東アジア地域全体の戦争に発展します。
小泉悠氏はこう述べています。
「もっともあり得べきシナリオは、「台湾有事」。中国にとっての台湾は、ロシアにとってのウクライナに似ている。かつては自国の一部でありながら、現在はアメリカとの距離が近い国。「この国(ウクライナや台湾)を併合しなければわが国は完全体にはならない」という思想を、ロシアも中国も持っている」
(小泉悠 2023年1月15日)
「平和ボケ」日本はウクライナで目覚めよ 小泉悠|文藝春秋digital (bungeishunju.com)
台湾が中国の侵攻を受ける可能性があることを、米国は再三にわたって警告し続けています。
「米国中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官は、中国の習近平国家主席が軍に2027年までに台湾侵攻を行う準備をするよう命じたと述べた。
バーンズは木曜日にワシントンDCのジョージタウン大学でのイベントで講演していました。彼は、米国は習主席が自国の軍隊に命令を出したことを「諜報の問題として」知っていると述べた。
彼は、これは中国の指導者が2027年または他の年に台湾を侵略することを決定したことを意味するものではないと付け加えた。彼は、習主席が真剣で野心に集中していることを思い出させるものだと述べた。バーンズは、「台湾に関する習主席の野心を過小評価するつもりはない」と述べた。
局長はまた、習主席はロシアのウクライナ侵攻を注意深く見守っていると述べた。彼は、中国国家主席はロシア軍のパフォーマンスに「落ち着かず」、「少し冷静」である可能性が高いと述べた」
CIA:習主席は軍に2027年までに台湾に侵攻する準備をするよう命じた|NHKワールドジャパンニュース
台湾侵攻がなされた場合、米国は民主党であろうと共和党であろうと、はたまたどんなヘタレの大統領だろうと、最低でも台湾に軍事情報を渡したり、軍事物資を送るでしょう。
軍事介入をする判断は大統領が最終的に決断しますが、その確率は高いとかんがえるのが妥当です。
ただし、ウクライナと台湾には似た点がひとつあります。
共に同盟国がないことです。
最大の支援国である米国とは国交すらない状況で、下院議長が訪台しただけで、チャイナ皇帝はたいそうお怒りのようです。
法的には台湾有事の支援を認めた台湾関係法があるだけです。
では、どこの国が「ポーランド」になるのでしょうか。
台湾にとっての「ポーランド」の候補地になるためにはいくつか条件があります。
①台湾に地理的に近く、台湾を支援する意志があること。
②米国と強固な同盟関係を持つこと。米軍の航空基地、艦隊の拠点があること。
③米軍と台湾軍を支えられる補給施設を持つこと。
候補は三カ国です。
フィリピン、韓国、そして日本ですが、まずフィリピンから考えてみましょう。
フィリピンは①②③のすべてで失格です。
米軍は30年前にいったん撤退しており、現在は基地拡大計画は存在しますが、現実化するには時間が必要です。
BBC
「アメリカはすでに、防衛協力強化協定(EDCA)に基づき、5カ所の基地を限定的に使用できる。米政府によると、使える拠点と使用権の拡大は「フィリピンの人道的災害や気候変動での災害をより迅速に支援し、その他の共通の課題に対応する」もので、この地域における中国への対抗を示唆したものとみられる」
(BBC2023年2月3日)
米軍、フィリピンで基地使用権を拡大 中国を取り囲む同盟の目的は? - BBCニュース
では、韓国はどうでしょうか。
韓国には、そもそも台湾を支援する意志がありません。
韓国は台湾支援に冷やかであり、むしろ台湾が半導体競争から脱落してしまえばいいとすら願っています。
韓国人に、台湾有事と韓国有事をつなげて考えようという気持ちはさらさらありません。
そんな韓国政府の意志など無視して、台湾有事において米軍は韓国の基地を出撃拠点として大いに利用するでしょうが、大規模な兵站補給施設がありません。
したがって台湾への支援の最前線基地は、わが日本が担うしかないのです。
わが国は①から③までのすべての条件を備えています。
日本は台湾と深い友情で結ばれており、世界一の親日国であり、かつ世界一の親台国です。
そして、距離的にももっとも近い国です。
むしろ近すぎるくらいで、台湾有事には尖閣、与那国はもちろんのこと、宮古、八重山までもが攻撃を受ける可能性があるほど近い。
そして距離だけではなく、世界一安定した同盟と呼ばれている日米同盟が岩盤のように存在します。
日本国内には多くの米軍の軍事基地があり、米軍はここを拠点にして世界戦略を構築しています。
横須賀軍港と佐世保軍港、三沢基地といった戦闘部隊を置く基地だけが注目されがちですが、日本の真の重要性はその兵站施設群にあります。
米国にとっては、原子力空母を修理するドックは世界で4カ所しかありませんが、そのうち2カ所は米国内、そしてあとの2カ所は日本にのみ存在します。
これは横須賀第6ドックと佐世保第4ドックですが、大和級巨大戦艦を建造したドックですので、米国と日本以外にこのようなドック自体存在しません。
米軍の世界最大のオイルターミナルは、鶴見、佐世保、八戸にあります。
神奈川県鶴見貯油施設、小柴貯油施設は、国防総省管内のうち米本土まで含めて第2位の備蓄量で、第3位は佐世保、八戸(航空燃料)と合わせると、実に1107万バレルを備蓄しています。
これは米海軍最強の第7艦隊全体の10回分の満タン量に相当します。
鶴見貯油施設
また、横須賀軍港に隣接した浦郷弾薬庫は、日本最大の弾薬庫で、嘉手納と辺野古弾薬庫を合わせた備蓄量を凌いでいます。
これらの第7艦隊の補給を受け持つ弾薬貯蔵施設は、他に秋月、広、川上、嘉手納にあり、その貯蔵能力は実に12万トンを越えます。
沖合いの錨地に停泊した弾薬補給艦マシュー・ペリーから弾薬を荷卸しされる浦郷弾薬庫
その他多くの支援施設が日本国内に存在しますが、いずれも米軍最大級です。
このようにわが国は米軍、なかでも米海軍の補給-修理の海外インフラを一手に引き受けているのです。
それから比べれば、フィリピンはないに等しく、韓国などショボイ出先出張所ていどの機能しかありません。
したがって、東アジアの米軍がフル稼働を開始して台湾支援を実施した場合、好むと好まざるとにかかわらず、日本はそれを支える最大のロジ最前線基地となるでしょう。
在日米軍の補給基地群の備蓄からは大量の支援物資が送られ、米本土からの物資もいったん横田基地を中継して台湾を目指します。
各国の支援物資も同様のコースを辿るはずです。
つまり、日本は台湾支援の大動脈になるのです。
日本は台湾にとっての「ポーランド」になるでしょう。
これはポーランドがそうであるように「次は自国」だからです。
言い換えれば、台湾防衛にとっての「ポーランド」を自覚して強化することは、とりもなおさずわが国の対中抑止力に繋がることなのです。
※速報
日銀総裁のサプライズ人事です。岸田首相が新総裁に、元日銀審議委員で経済学者・植田和男氏、副総裁は前金融庁長官の氷見野(ひみの)良三氏(62)と日銀理事の内田真一氏(60)の2人を候補とする を起用する意向だそうです。
悪くない人事です。これでいきなりの金融引き締めはなくなりました。
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コメント
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神奈川県にはお世話になっていますね。負担を引き受けてくれてありがとう神奈川県民の皆様
投稿: たこやき | 2023年2月11日 (土) 06時20分
なんかバイデンさんはここに来て「安全保障上の問題は無かったが、領空侵犯だから対処した」とかまたノラリクラリしだす始末。
と、今度はアラスカ上空でしっかりと「何かを撃墜した」そうで。。
日本は同じことが起こったら···まあ何も出来ないししないでしょう。能力的な問題と法整備や政治トップの決断能力です。実際に仙台上空で今回のと同様のが通過したときも河野防衛大臣は「気球に聞いてくれ」と華麗にスルーでした。当然何らかの情報は入ってたんでしょうけど。
台湾有事に対して日本政府はどうするのか···。
鳩山由紀夫は「政権を取るのが10年早すぎた」んだそうです。たまたまあのタイミングしか無かった訳だし、そんなことになってたらそれこそ地獄じゃないか!と。下野してからの勝手に土下座外交とか、日本の恥!
投稿: 山形 | 2023年2月11日 (土) 06時39分
あと、②、③を保つには南西諸島から奄美・九州にかけて、12式の長距離化したミサイル配備は死活的に重要です。
中国の軍拡に対処するには日米が中心となって対処するしか方法はなく、戦争へのたえざる準備だけが戦争を防げる段階に入ったと考えます。
岸田政権には台湾当局と密に交流をはかり、バイデン政権の意思も確固としたものにすべく促すべきでしょう。
バイデンは中国との関係改善を模索する底意があると見られていて、共和党や安倍元総理のように「(米国が)台湾を守る意思を明確にする事が台湾防衛に資する」という考えは持っていません。防衛費も共和党に促されてようやく増額に転じた経緯もあり、日本こそがバイデンのケツを叩くべきだと思います。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年2月11日 (土) 12時48分