プロデューサーは半狂乱、脚本は行き当たりばったり、監督は凡庸、俳優は力不足
ウクライナ戦争は、日本の安全保障意識の根幹を変えました。
日本人が、営々と70数年間持っていた太平楽な夢を粉々に砕いてしまったのです。
今まで、日本人は戦争はこちらから仕掛けない限り起きないと考えていました。
左派勢力はむろんのこと、保守勢力も無意識に現代ではもはや戦争は起こり得ないと考えていたフシがあります。
だから左派勢力は国内の軍国主義の芽を摘んでおけば戦争にならないと信じて、反米反自衛隊闘争にうつつをヌカしてきました。
一方、保守勢力も吉田茂ばりの軽軍備で充分、なにかあっても米国がなんとかしてくれるだろうと思っていました。
この考え方は90年代の自民党ボス連のほぼ全員、いまも宏池会系の中に流れています。
岸田氏もこの流れを汲んでいます。
もっとも、初めて外国に自衛隊を送ったPKOが宮沢氏で、今回の戦後防衛政策の根本的変革である防衛3文書改訂をしたのが彼、たまたま時期があっただけだとも言えますが、共に宏池会の領袖だというのも皮肉な巡り合わせです。
この戦後日本における戦争観の大前提が崩れたのが、ウクライナ戦争です。
今回のウクライナ戦争が衝撃的だったのは、戦争を起こす合理性が欠落していたことです。
ウクライナとロシアは戦争に発展するような大きな外交紛争を抱えていたわけではなく、ゼレンスキーすら戦前はロシアと融和的だと国内で批判されていたのです。
NATOは加盟を拒否していましたから、いきなり国境まで西側陣営が迫ったわけでもなかったのです。
しかし2022年2月24日に、演習と称して国境に集結していたロシア軍は一斉に国境を超えました。
ロシア軍のキエフ侵攻が停滞、士気低下も=米高官 | ロイター (reuters.com)
直前まで米国から警告されていたゼレンスキーは、これを信じようとしませんでした。
国境を大軍が超えて、初めてウクライナが侵略されていることに気がついたのです。
ゼレンスキーだけではなく、親露派のみならず西側の専門家の多くが侵攻などありえないとしていました。
戦争を引き起こす合理性と必然性が欠落しているからです。
このように戦争はなんの合理性もなく、なんの予兆すらなく、突如として起きてしまうのです。
独裁者は自由主義国にある民主的掣肘を受けないために、妄想にすぎない「ユーラシア思想」から戦争を引き起こしました。
戦争前に、プーチンは事前に書かれた「勝利宣言」でこう言っています。
「反ロシアとしてのウクライナは、もはや存在しない。ロシアは、ロシア世界、ロシア人、つまりヴェリコロス人(Great Russians)、ベラルーシ人、小ロシア人(Little Russians・ウクライナ人のこと)の総体を一つにすることによって、その歴史的全体性を回復したのだ。(略)
ロシア家がまずその基礎の一部(キエフ)を失い、次に二つの国家の存在と折り合いをつけなければならなかったとき、もはや一つではなく、二つの民族の存在があった。ウクライナを取り戻すこと、つまりロシアに戻すことは、10年を経るごとに難しくなっていくだろう。
欧米によるウクライナの地政学的・軍事的支配が完全に固まれば、ロシアへの返還はまったく不可能となる--そのためには大西洋圏と戦わなければならない。今、この問題は解決した。ウクライナはロシアに戻ったのだ 」
ロシア・ウクライナ戦争とナショナリズム | 東京大学 (u-tokyo.ac.jp)
こういう大ロシア帝国のレコンキスタ(領土回復運動)がウクライナ戦争だったようで、今どき「大ロシアの復活」もないもんです。
こういう妄想から戦争をすればヒドイ目に合います。
ロシアにとってもこの戦争は「失敗作」です。それもロシア史上にさん然と輝くような。
プロデューサーは半狂乱、脚本は行き当たりばったり、監督は凡庸、俳優は力不足、なにひとついいところがありません。
まるでひと頃のアングラ映画と同じで、なにを見せたいのか誰にも分からないものに仕上がってしまいました。
戦死者と市民の被害だけが徒に積み上がっていきます。
それをよく現しているのが、驚くべきことにはロシアが戦争計画を持っていなかったことです。
自分で戦争を仕掛けて起きながら、どう終結させるべきなのか、いや、そもそもなにが目的でなんのためにやっているのか、誰ひとり認識していなかったのです。
とりあえずキーウ攻略までは詳細なプランがあったようですが、それが頓挫すると、その先はほとんどなにも考えていないため、東と南に分散したロシア軍をまとめることができず、個別にウクライナ軍に撃滅されていきました。
AP
そもそも100万人を動員可能なウクライナに対してたった19万で侵攻すること自体馬鹿丸出しなので、今頃になって国民の徴兵を開始してろくに訓練をしない新兵を前線に送り出して戦死者の山を築いています。
まともな戦争計画があればこんな恥ずかしいまねはしません。
動員計画くらい作ってから戦争始めろよな、プーチン。
また元々苦手だったロジは悲惨で、初期に全縦深攻撃ができなかったのは、戦車がすすみすぎると補給が追いつかないためでした。
そしてガス欠で止まった軍事車両は、一本道で延々と数60キロに及び、いいようにウクライナからの攻撃にさらされました。
なぜロシア軍の全長64キロの車列は動きを止めたのか ウクライナ首都近郊 - BBCニュース
前線では燃料も食糧すら届かず、民家に押し入る始末。もう山賊です。
ロシア兵、ウクライナ民家から略奪か テレビに楽器まで…母国に送付 [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)
だから今になって和平交渉をしろ、などと言ってみても、ここまで譲ってもいいというラインが自分たちにないために、それを見透かされたウクライナ側から会談自体を拒否されてしまっています。
ロシア通の小泉悠氏から、「私はロシア軍がここまで杜撰な計画で戦争をするのを初めて見た 」と呆れられているほどです。
さて、このようにウクライナ戦争は大方の予想をはずして開始されましたが、最大の喜ばしい「誤算」は予想をはるかに上回るウクライナ軍の頑強な抵抗でした。
彼らの必死の抵抗が無かりせば、いくら西側が武器を供与しても無駄だったはずです。
ウクライナ議会内で抱擁するポーランドのドゥダ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領
ウクライナ、領土割譲を含む停戦には「合意しない」 キーウではポーランド大統領が演説 - BBCニュース
この国民的抵抗を見て、NATO加盟国を始めとする周辺諸国が軍事的・経済的な支援を送りました。
このときにその最前線補給基地の大任を担い、最大の難民引受国にして、かつ最大の支援国であったのがポーランドです。
ロシアは度々ポーランドはロシアから露骨な脅迫を受けてきましたが、ことごとく跳ね返して支援を継続しています。
ポーランドという頼もしい燐国がなかりせば、ウクライナの抵抗はここまで続かなかったことでしょう。
※われながら冗長なので、後半はカットして次回に回して、改題しました。いつもすいません。
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1年前のプーチンに「何言ってんだ、コイツ」。特別軍事作戦→戦争→大祖国戦争だとか、今になってプーチンに「何言ってんだ、コイツ!」と。
私も去年の今頃はホントにやるのか!?やられたらキエフ速攻陥落だろ!と。
予想に反してゼレンスキーと兵士は小さな体をドッカリ据えて頑強に抵抗して排除しました。ロシアによるブチャの虐殺等など極悪非道っぷりが世界に晒されただけ。
ここで止めておけばいいものを···長期化。ロシアにとっても世界にとっても何も良いことが無いという不毛な戦いになりました。残るのは死体と廃墟と地雷原。バッカじゃなかろうか?と。
小泉悠氏の意見に同意ですね。
ここまで杜撰な戦争計画をロシアが立てるとは、相手を舐めすぎていました。クリミア割譲と同じようにすぐ決着するかと思いきや、数年で時代が変わってた事をプーチンは把握していなかった。
ワグネルが囚人兵の募集を止めたとのことで···やっぱり使えない数合わせてだったか。。
投稿: 山形 | 2023年2月10日 (金) 07時38分
日本の安全保障意識の変化は大きいですね。
個人的には、それまで諸国民は平和を愛していると思われていたのが、
2002年の小泉純一郎首相の北朝鮮訪問で、北朝鮮対策として安保の議論がタブーでなくなり、
去年のロシアのウクライナ侵攻で、中国への備えの議論も活発になったと思っています。
ウクライナがロシアを撃退できるかどうかが日本の対中安保に大きく影響するので、心から応援します。
ポーランドは3月15日の時点でウクライナを訪問しているのだから、どんなに心強かったかと思います。
投稿: プー | 2023年2月10日 (金) 11時48分
ウクライナがソ連邦の一員だった頃まではポーランドとの間に国境紛争など、宇波関係は問題が絶えなかったようです。
けれど、ウクライナ独立に際してポーランドが最初に国家承認しているし、一貫してウクライナに様々な支援もしています。
たしかに歴史問題などでもめたりもしていましたが、今もEU・NATO加盟を後押しする急先鋒です。
こうしたポーランドに対して2008年にプーチンは、ポーランドとロシアの間で弱ったウクライナを分割しようと持ち掛けた悪党です。
ポーランドにはロシアと国境を接する事を回避したい地政学上の理由もありますが、さらに大局的にロシア的なるものに対する危機感が強いと思います。
ひるがえって、台湾に対して日本がポーランドのようになれるかどうかが明日の課題ですが、安倍さんが生きていたら日台協力を抑止力として生かす事を必ずやったハズです。
岸田さんはどうか?
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年2月10日 (金) 19時11分