フィンランド首相、「凍結された戦争」にしてはならない
中国が書いた「和平提案」にはこういう一項があります。
「4.和平交渉の再開。対話と交渉は、ウクライナ危機に対する唯一の実行可能な解決策です。危機の平和的解決に資するすべての努力は、奨励され、支持されなければならない。国際社会は、平和のための交渉を促進する正しいアプローチに引き続きコミットし、紛争当事者ができるだけ早く政治的解決への扉を開くのを助け、交渉再開のための条件とプラットフォームを作成する必要があります。中国はこの点で引き続き建設的な役割を果たす。 」
ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場 (fmprc.gov.cn)
美辞麗句が散りばめられていますので、一読するとするっと読めてしまうのですが、ここで中国が言っているのは戦争がなぜ起きたのか、誰が起こしのか、いかなることをウクライナで働いたのかを一切無視して、「ロシアとウクライナが同じ方向に働き、直接対話をしろ。それが政治的解決だ」と言っているのです。
実にムシがいい考え方ですが、日本でも似たような大人ぶりの「和平案」を出す者がいますね。
彼らは「力ではなく外交を」と言いますが、それはウクライナが現時点で停戦してしまえば、その休戦ラインがそのまま新たな「国境線」となってしまう朝鮮戦争のような終結をしろ、という意味にすぎません。
侵攻以来、占領地はこのように変化しました。
【図解】ウクライナ戦況の推移(AFP=時事) - Yahoo!ニュース
●ウクライナ戦争の推移
■2022年2月24日
4か所から侵攻開始:
北部から首都キーウ、北東部からハルキウ、東部ドンバス地方、南部からヘルソンへ
■3月24日
ロシアの侵攻が最も進む。キーウ郊外に到達し、イルピンで停止
■4月6日
ロシアが北部から撤退。ドンバス地方と南部に戦力集中
■7月15日
戦闘激化。ロシア、5月20日にマリウポリ、6月24日にセベロドネツク、7月3日にリシチャンスクを占領。前線はほぼ進展せず
■11月14日
ウクライナ、8月末~9月初旬にハルキウから、11月中旬にヘルソンから反撃開始。約1万7000平方キロ近くを奪還
■2月1日
前線は再びこう着。ドンバス地方バフムート周辺で戦闘激化。ロシアはウクライナ国土の18.1%を占領
(AFP 2023年2月23日)
残念ですが侵攻1周年を迎えた2023年2月24日の時点で、ロシアはウクライナの国土の約2割を占領し続けています。
ロシアの燐国であるフィンランド首相であるサンナ・マリン氏はこう述べています。
彼女のウクライナ侵略1周年の公式発言です。
ウクライナフォーラム
「ロシアはこの戦争に負けるでしょう。これは違法な戦争です。ロシアはそれに対して単独で責任があります。ウクライナでは毎日、ロシア連邦が故意に民間人を殺しています。人々はレイプされます。子供たちは一斉にロシアに強制送還されます。
これらの行動の罪を犯したすべての人は責任を問われなければなりません。プーチンを含むロシアの指導部もそれで逃げることはありません。フィンランドは、ロシアの指導者を含め、これらの凶悪犯罪の責任者を裁判にかけるためのあらゆる努力を支持している」と政府の長は述べた」
(ウクライナフォーラム2月22日)
ウクライナがEU、NATO-フィンランド首相の一部になる (ukrinform.net)
「ロシアは単独で責任がある」という部分をかみしめて下さい。
ここがあいまいになると、まるで喧嘩両成敗のような中国流「対話と交渉」になってしまいます。
最初のボタンを掛け違えると、最後まで服は着られません。
中国が狙っているのは、ロシアと西側双方が消耗し尽くすことです。
ロシアは戦費が枯渇し、満足な武器も与えられず戦死者を築き上げ、支援を求めて中国の門前に馬をつなぐことになります。
中国は労せずして、ロシアという世界第2の核大国を目下の同盟国とすることが可能となるでしょう。
一方、西側もまた「ウクライナ疲れ」で財政がそこを尽き、米国は中国と対峙する余力を失うかもしれません。
自由主義諸国連合はいつ果てるともないウクライナ戦争に厭戦気分に陥り、ゼレンスキーを恨み、米国を恨み、同盟は内部崩壊の危機を迎えるでしょう。
そして中国がこれを仲介し、善意の救世主としてウクライナ戦後世界に君臨するのです。
アホくさーといわないで下さい。これこそが中国が狙う「漁夫の利戦略」なのです。
マリン首相は続けてこう述べています。
「ロシアがウクライナから軍隊を撤退させると戦争は終わるだろう、とマリンは強調し、戦争が凍結された紛争に変わることを許されてはならないことを示唆した。
「これで戦争は終わらない。永続的な平和への道は、ロシアが敵対行為をやめることです。これだけが交渉と平和へのステップへの道を開きます」とサンナ・マリンは結論付けました」
(ウクライナフォーラム前掲)
ここでマリンが「凍結された戦争にしてはならない」(the war must not be allowed to turn into a frozen conflict.)と言っていることに注目してください。
フローズン・コンフリクトとは、膠着した長期間に及ぶ戦争のことです。
もはや何が始まりだったのかさえおぼろとなり、誰が国境線を超えたのかも忘れてしまいますが、戦闘だけは延々と続く、それが「凍結された戦争」です。
ウォールストリートジャーナルは、フィンランド首相のスピーチにもう少し付け加えてこう書いています。
「米国が和平に求めるものはいくつかある。まず、戦争を直ちに終わらせること。戦争が長引けば長引くほど、破壊も進む。
第二に、戦争は完全に和解して終わらせるべきだ。つまり、いつ爆発するか分からない凍結された紛争に陥ってはならない。制裁を継続して世界経済に支障をきたすような状況をわれわれは望まない。欧州の半分が永久に戦争状態になることも望まない。武装を維持した休戦ではなく、条約でこの戦争を終わらせることを望む。
第三に、ロシアの侵略が罰を免れなかったことを明確にする形で戦争を終わらせるべきだ。将来のロシアの指導者や、その他の潜在的な侵略者たちは、征服を企てる戦争には大きな代償を伴うことを知る必要がある。
第四に、この戦争の終結を次の戦争のお膳立てにしてはならないことだ。北大西洋条約機構(NATO)の部分的な拡大は誤りだった。湖の片側に「釣り禁止」の看板を立てれば、残された場所で釣りをするのはOKという意味合いになる。
ジョージア、モルドバ、ウクライナ、ベラルーシはNATOに加盟していない。ロシアはそれらの国のすべてに侵攻または破壊を加えた。この戦争は、安全保障の枠組みを明確にして終わらせる必要がある。希望する国のNATO加盟が簡単な解決策になるだろうが、他の方法も可能かもしれない」
(WSJ 2022 年 12 月 13 日 太字引用者)
【オピニオン】ウクライナ和平に備える時 - WSJ
だからこそ、ロシアによる侵略を断罪し、組織的戦争犯罪を国際人道法廷で裁き、プーチンとその眷属を戦争犯罪人として処罰せねばなりません。
それは同時に欧州の新たな安全保障体制の構築につながるということです。
それなくして、安易に「戦争は生命を奪うから直ちに停戦しろ」という情緒論に陥ることは、ウクライナが分断国家になることを認め、さらには次の戦争を招いてしまうことでしょう。
私は今日もウクライナの人々の写真を載せ、「ウクライナに平和と独立を」という言葉を添えています。
これは単なる「平和」ではなく、それを保障するのが「独立」であるという意味です。
独立なき平和を奴隷の平和、あるいは屈従と呼びます。
ウクライナに平和と独立を
« 岸田氏、キーウに行きたいのはいいのだが | トップページ | 米エネルギー省、新型コロナは武漢ラボから流出の可能性が高い »
コメント
« 岸田氏、キーウに行きたいのはいいのだが | トップページ | 米エネルギー省、新型コロナは武漢ラボから流出の可能性が高い »
中国共産党はまたもや「赤い舌」を出して西側のかく乱を画しているわけですが、少し思ったのは、我が国でも少なからず居る保守親露派(いわゆるロシアンフレンズ)はこのような中国の提案をどう考えるのか?って事です。
FOXのカールソンの言うこともそうですが、これらリアリスト気取りの方々が言っている事と、「中国共産党の提案」が結果として一致していまっている矛盾を彼らは自己内部でどう認識処理するのか。
期せずして、中国共産党の発案を認容する態度を示している事に気づいてさえいないのでしょうか。
フィンランド首相の言うように「侵略の責任は100%ロシア」にあり、したがって、それによって生起した被害補償はすべてロシアが負うべき事柄です。迂遠な事で気持ちが萎えますが、そうした当たり前に正しい認識を保守派こそが率先して堅持すべき事から始めなくてはならないかも知れません。
それでも絶望するような必要はなく、「凍結した戦争」によっても、必ずしも中・露の思惑が実現するとは思えません。パキスタンやカンボジアを見るまでもなく、中国の国際影響力は確実に落ちて来ています。
また、ロシアと距離を置きつつある国々も確実に増えてもいます。
真の平和を実現するために、悲しいけれど時間と犠牲を費やして来た
歴史も見るべきなのかも知れません。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年3月 1日 (水) 17時20分
frozen conflict。確かに、今となっては朝鮮戦争が何故始まり、どんな経過だったかは、自分のような素人には説明が困難です。
WSJの記述は、第三・第四については全面賛成です。しかし第一と第二には懐疑的です。
朝鮮戦争の休戦後の両国の経過は、経済的には韓国の圧勝ですが、軍事的には禍根を残しています。核武装した勢力の横暴を止める力がありません。
ウクライナ戦争でも、現時点で休戦が成立すれば諸外国の支援によりウクライナは急速に経済発展を遂げる一方で、ロシアは中国の属国となり対岸で釣りが行われる危険が増します。
かといって、完全に和解することは不可能でしょう。ロシアが賠償金を払ってくれるとは思えません。
となれば領土を取り返してから休戦と思い、欧米の戦車の活躍に期待しますが、最近ロシアからの空爆がないのが逆に不安です。実はイランや中国から買って溜め込んでいて春の反攻に備えているとしたら、反攻したら手痛い反撃を喰らうか、知っていれば躊躇うことになります。中国としては、支援することにメリットがあるのですから、やらない理由がありません。
投稿: プー | 2023年3月 2日 (木) 16時32分