米CSISの厳しい台湾有事シミュレーション
5年前までは海自の指揮官らは、今なら防いでみせるが、今後5年以降はバランスは大きく崩れるだろうと言っていたことを思い出します。
それを裏付けるように、去る1月9日、米CSIS(戦略国際問題研究所)が中国による台湾侵攻ウォー・ゲーム「The First Battle of the Next War」を発表しました。
ポイントを紹介します。
結論から言えば、きわめて厳しい結果を双方にもたらすでしょう。
「中国の台湾侵攻は失敗する可能性が高いが、アメリカ及び日本を含むアメリカの同盟国にとって、それは「高い代償を伴う勝利」となるだろう──ワシントンに本拠を置くシンクタンクが24の机上演習用ウォーゲームでシミュレーションを行い、そんな予測を発表した」
(ニューズウィーク2023年1月12日)
台湾防衛の代償──米死傷者1万人、中国1.5万人、日本も多大な犠牲 CSISが24通りのウォーゲームの結果を発表(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース
CSIS
要約します。
①中国軍は侵攻時、最初にグアムと日本の米空軍基地にミサイルに先制攻撃を仕掛ける。米空軍は200機内外の戦闘機を失うが、その90%が離陸もできず地上で破壊される。
②台湾空軍は初回のミサイル攻撃でほぼ半分の戦力を失う。
③北朝鮮の韓国への攻撃が連動し、北は中国と同様に韓国の空軍基地に対する大量のミサイル攻撃で先制攻撃し、韓国空軍は地上で壊滅する。
④米海軍は2隻の空母を失う。
⑤自衛隊は先制攻撃によって、軍用機122機、艦船20数隻を失い、以後の戦闘には加わらない。
CSIS
ここでCSISが指摘していくことは、周辺国に対する影響です。
空母がいきなり2隻揃って撃沈されたり、地上で200機もの航空機が撃破されるとはにわかに信じがたいのですが、とりあえずは置きます。
日本は河野太郎氏がミサイルディフェンスを白紙化してしまったために混迷しており、イージス艦と空自ではスポット的防衛に限定されています。
おそらく中国は中距離弾道ミサイルによる飽和攻撃を仕掛けてくるはずですから、半数以上を討ち漏らすかもしれません。
また当然の定石としてサイバー攻撃も同時に実施してくるでしょうから、これに対しては自衛隊は対策を検討し始めた段階で、現時点ではほぼ丸腰です。
この場合、空自は地上で壊滅します。
とまれ私たちはともすれば「台湾+米軍VS中国」という枠組みで見たがり、自衛隊はせいぜい周辺事態法の後方支援ていどで考える傾向があります。
しかし、CSISは中国は台湾侵攻に当たって、主敵を米軍の空軍力と定めて、これを徹底的に封じ込めることを意図すると見ています。
したがって、米空軍の最大の策源地である在日及び在韓米空軍基地を先制ミサイル攻撃することから、台湾侵攻は始まるとしています。
これによって日本と韓国は、好むと好まざるとに関わらず攻撃を受けることとなります。
つまり、台湾侵攻は当初から大規模な地域紛争として開始されるのです。
一方、中国側は台北を陥落させることができず、海軍は壊滅、空軍力もその大部分を失います。
損害は1万8千人にも達し、3万人が捕虜となります。
仮に一時的に勝利しても、住民の抵抗によって、支配は短期間で終わるでしょう。
CSIS
①中国も酷い損失を被る。海軍は138隻が沈んで壊滅。
②水陸両用部隊も壊滅。渡海作戦中に1万5千人が船と共に溺死。
③空軍力は軍用機161機を喪失し壊滅。
④戦闘による死傷者は溺死者を別にして7000人に達し、捕虜は3万人を超える。
防衛側が勝利する4条件。
①台湾が抗戦すること。台湾政府が抗戦を放棄した場合、すべては終わる。
②米国の介入にためらいがないこと。武力介入が迅速、かつ直接的でなければならない。
③そのために、米軍が日本の基地から作戦を展開できることが絶対条件。
④中国の水陸両用作戦を妨げるために、米軍に対艦ミサイルの備蓄が十分にあること。
CSISの提言。
「ウクライナを例にとりつつ、著者らは欧米が物資を支援する「ウクライナ・モデル」は台湾には通用しないと指摘する。「中国が台湾を包囲し、何週間、ことによると何カ月も孤立させる恐れがある」からだ。
「台湾は侵攻に備えて、必要な物資を十分に備蓄しておくべきだ。また、アメリカが介入に手間取ったり、中途半端な介入をしたりすると、防衛は一層困難になる」と、著者らは釘を刺す。「米軍の死傷者が増え、中国が占領体制を強化し、戦闘がエスカレートするリスクが高まるだろう」
(NW前掲)
私見をはさまずに紹介しました。
いかが思われたでしょうか。
« 日曜写真館 蘭の葉のとがりし先を初嵐 | トップページ | CSISレポートに対する韓国の反応 »
個人的には、まだまだ中国がガチで米軍に立ち向かうまでして台湾を取ろうと決心している段階ではないと思っています。
現在のところ、人民解放軍の侵攻に対して米軍の動きを図りかねている状態だと思うのです。国務省や日本政府・防衛当局者の考えもまた、これと少なからず同様なのだと思います。
しかし、そうした前提はこの研究の問題外の事で、つまるところ「侵攻したらどうなるか?」という次元の違う現実です。冒頭のような「考え方」は中国のような国に対してあやふやで日本外交的・心情的な「期待値」のようなものが生じやすく、いったん除外して考慮すべきもので、それこそ危機の基になりかねません。なにしろ、中国の不透明性に対峙するには予断は絶対排除しなければなりません。
そこで、この結果は24通りのシュミレーションの成果として、想定段階としても、知り得る知見しか持たない我々にしてすら得心の行くものだと思うのです。
結果として、この研究の白眉は「勝利だけでは十分でない」、「米軍は直ちに抑止力を強化する必要がある」とする結論に至った事です。
とうぜん、日本においても米軍への協力を深化させ、具体的には早急に南西諸島から本島・九州南部でのミサイル反撃能力を構築して行く必要があります。事前に中国の軍事的野望を挫くべく、出来る限りの抑止力の強化が急務である事が重要な観点となると考えます。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年2月 6日 (月) 05時09分
この衝撃的なシミュレーションで、米国民が萎縮してしまい台湾·日本との関わりを「損失の最小化」に振れないといいんだけど、と。アメリカって昔から時々「合衆国以外のことには不干渉」になることがありますから。第二次世界大戦だって、五十六のハワイ奇襲があるまでは大部分の国民が他人事だったんですから。
オーカスやクアッドという対中同盟を続けざまに締結してますから、米政府自体は本気なんでしょうけど。
半導体関連の輸出規制問題もあります。マジで対決姿勢なんだなと。日本もその米国陣営ですので影響は大きいです。実感してない人が多いだろうし、反米でデモやってる方々は大喜び。
まあ、グアムに海兵隊の新基地がオープンして沖縄の「負担」とやらは減るんですけどね。
そして間の悪い時に中国は「風船爆弾」事件をやらかしたわけで···時期を狙って飛ばしたのなら、ものすごく相手を舐めてますね。
ようやくバイデン勅命でF-22が大西洋海上で撃墜したようですけど、昨日には「撃墜不可能」なんて記事を書いてたメディアは大いに反省してくださいとしか。
共和党がバイデン政権を批判しているように、陸上でさっさと落として分析すりゃ良かったんだけどブリンケン訪中という極めて微妙なタイミングだったので。。
中国がさすがにアメリカ相手だと少しは下手に出て遺憾表明したけどあの国に「民間」なんて存在しないし、気象バルーンだったとしても航空当局に申請登録する必要があります。日本なら国交省航空局で飛行データは世界に共有されます。当たり前。
で、気象観測のバルーンならそれこそ世界中にデータ公開できるはずですがやらずに、撃墜されたら激怒して見せるって!
ヤバイですね。
ハッキリ言っちゃえば、アイデアは旧日本軍の風船爆弾そのもので、ハイテク時代ですから「お前の頭上からいつでもBC兵器を降らせてやれるんだぜ!」と突き付けられたと···米国の軍事専門家は受け取ったことでしょう。。
投稿: 山形 | 2023年2月 6日 (月) 08時21分
日本の米軍基地にも先制攻撃を〜となると、サヨのよく言う「基地があるから攻撃されるんだ!米軍はデテイケー」の補強材料になってしまって、ますます日本の防衛力サゲに邁進されそうで怖いですね。
投稿: ねこねこ | 2023年2月 6日 (月) 14時05分
ねこねこ。こんな初歩的なトリックにひっかかっちゃダメですよ。
「基地があるから攻撃される」のではなく、「基地があっても攻撃をうけることもある」ということです。
米軍がいなければ、とっくに沖縄は中国のものでした。
投稿: 管理人 | 2023年2月 6日 (月) 14時44分
侵略国にとって、別に我が国の米軍や自衛隊の基地でなくとも、空港や港湾は攻撃の対象になりますね。ロシアが証明してくれています。
CSISのシミュレーションのひとつで「ラグナロク」と呼ばれるシナリオ、即ち日本が米国に対して日本国内の基地使用を許さず、結果台湾が武力統一された世界を想像してみる。
ラグナロクとは簡単に言って、北欧神話で、大戦や天変地異と人々のモラル崩壊などによる生物全般の死と終末を指す言葉です。
ただ、村野将氏が仰る通り、「台湾がとられ、米国との信頼関係が地に落ちた世界で、生存を模索しなければならないことを考えれば、台湾統一後の世界こそ日本にとってのラグナロクになります。」
我が国で我が国自身を防衛することで、米国が台湾防衛に必要とする環境を守り、非常に辛くとも台湾を失わずにい続けなければ、我が国に「ラグナロク」は訪れるということです。
現状変更に挑戦する国から脅された時、屈して従う、生存を諦める選択をしないのであれば、見積もりが大変厳しかろうと戦うしかありません。
それが厳しい被害にもなるのは、ウクライナの現実を見て多くの人が理解できるはず。ただひとつ、自国の準備に反対して敵にチャンスを与える我が国の年寄りが戦争を招き入れて我が国の若者が死ぬ、そういうことはない方が良いに決まっています。
再び村野氏の言葉を借りれば、「台湾を攻めるか攻めないかという、戦を始める決定権を持っているのは、我々じゃなく中国なんですよ。決定権は我々の側にはありません。」、ゆえに、防衛の装備も態勢も、我々の精神心構えも、中共に挑戦させないための準備、それでも相手が挑戦を決めてやって来た時にも負けはしない準備をするのが、当然の帰結になると考えます。
投稿: 宜野湾より | 2023年2月 6日 (月) 15時55分
管理人さま
やや、アタシはもちろんわかってますよ。
ただこういう記事が出たら、サヨ様は文言通り「ほら言ったー!」となるんじゃないかなぁ、と思った次第です。
投稿: ねこねこ | 2023年2月 6日 (月) 19時24分