中国の「和平提案」、ドローン供与で御破算に
中国はロシアに自爆ドローンを供与する予定だったことが判明しました。
これはいままで行っていた偵察衛星情報を渡していた以上の、本格的武器供与に当たります。
中国の「和平提案」なるものは、習近平が訪露する前に終了の鐘が鳴ってしまったようです。
やや長文ですが、スクープ源のシュピーゲルの原文を引用します。
「DER SPIEGELが入手した情報は、北京とモスクワの間の計画された協力が、ブリンケンが明らかにしているよりもさらに進んでいることを示している。
その情報によると、ロシア軍は、ロシア向けの自爆ドローンの大量生産について、中国のドローンメーカーである西安ビンゴ・インテリジェント・アビエーションテクノロジー(西安冰果智能航空科技)と交渉を行っている。この暴露は、ロシアに対する中国の軍事支援の可能性をめぐる議論に新たな緊急性を生み出した。伝えられるところによると、ビンゴ社は、ロシア国防省に納入する前に、ZT-180プロトタイプドローンを製造およびテストすることに同意した。軍事専門家は、ZT-35が50キログラムの弾頭を搭載できると信じている。
情報筋は、無人航空機の設計はイランのシャヒード136自爆ドローンの設計に似ている可能性があると思われる。ロシア軍はウクライナへの攻撃に数百人を配備し、イランのドローンを使用して住宅、発電所、地域暖房施設を標的にし、しばしば民間人の死傷者を出した。
さらなるステップとして、ビンゴはロシアに予備交換部品とノウハウを提供し、ロシアが月に約100機のドローンを自力で生産できるようにすることを計画していると伝えられている。
中国は明らかに昨年、ロシア軍にこれまで知られていたよりもはるかに実質的な支援を提供する計画をすでに持っていた。DER SPIEGELが入手した情報によると、中国人民解放軍の管理下にある企業は、ロシアのSU-27戦闘機やその他のモデルの交換部品を納入することを計画していた。
DER SPIEGELは、軍用機の部品を民間航空の交換部品であるように見せるために、出荷書類を改ざんする計画がすでに行われていることを報告で知った」
(シュピーゲル2月23日)
ウクライナでの戦争:伝えられるところによると、中国は神風特攻隊のドローンを供給するためにロシアと交渉している-DER SPIEGEL
ロシアに100機のドローンを納入する交渉中の中国企業:デアシュピーゲル|スタンダード (thestandard.com.hk)
またドローンだけではなく、月に100機ほど生産可能な生産設備も込みだそうで、この4月に100機を先行供与にする予定だったそうです。
また、スホーイ27の交換部品も供与する計画もあったそうです。
そして狡猾にも、出荷書類までも偽造していたようです。
ZT─180あるいはイラン製シャヘド136。 35キロから50キロの爆弾を搭載する。
【ウクライナ侵攻】首都キーウで“ロシア軍の自爆型ドローン攻撃” 1人の死亡確認と報道 - YouTube
ロシアが使用しているドローンは、軍事目睫ではなくもっぱら民間人殺害に使用されています。
ロシアは執拗な民間インフラを狙ったミサイル攻撃でミサイルを撃ち尽くしてしまい、今はイラン製自爆ドローン「シャヘド136」を使用しているようです。
シャヘド136は1機あたりの価格が2万ドル(約260万円)で、1発の発射に数十万ドルから数百万ドルかかる弾道ミサイルよりはるかに安価で済みます。
そもそも軍事目標の精密爆撃に使用すべきイスカンダルなどを民間インフラ破壊に使ったツケが回って、今になってイランや中国に頭を下げているのですからアホです。
プーチンさん、この後この両国に高いツケを払うことになりますよ。まぁどうでもいいが。
飛行可能距離も2000キロとチープな巡航ミサイルの代替品として使え、戦線の後方から発射することが可能です。
ロシアは、ジャンジャン使っているようですが、蠅のように毎日ウクライナに落とされています。
ウクライナでロシア軍による使用が確認されたイラン製自爆ドローン「シャヘド136」の兄弟機(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース
イランは知らぬ存ぜぬと言い張っていますが、残骸からも明らかです。
下図は、ウクライナが発表したドローンの撃墜数です。
シャヘド136のような大型攻撃用から歩兵部隊が使う偵察用ドローンまで含んでいると思われます。
ウクライナ軍が破壊したロシア軍のドローン、2022年2月の侵攻直後から11か月で1900機突破(佐藤仁) - 個人 - Yahoo!ニュース
シャヘド136は形状が中国のドローンと酷似しており、得意のコピーではないかと思われます。
ところで、中国はウクライナ「和平案」なるものを出しています。今回王毅がモスクワに行ったのはこの説明をプーチンにするためでした。
王毅氏、プーチン大統領と会談…独自のウクライナ「和平案」説明か(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース
「中国外交トップの王毅(ワンイー)共産党政治局員は22日、訪問先のモスクワでプーチン露大統領と会談した。王氏は、中国がウクライナ側にも示している独自の「和平案」について説明した可能性がある」
(読売2月23日)
この「和平案」なるものは、中国外交部のサイトから読むことができます。
なにを言いたいのかわからない文書なので、主要な部分のみを抜粋しておきましょう。
重要だと思われる1、2、3、4、10,11についてだけは、全文引用しました。
全体に無用に抽象的で、外交的美辞麗句に覆われています。
米留組の外交官僚が書いたのかも知れませんが、中国に「バランスのとれた、効果的かつ持続可能な欧州の安全保障アーキテクチャの構築を支援するべき」といわれてもなんのことやらわかりません。
「アーキテクチャ」のような西側の外交用語を使うからこうなります。
いつもの調子で「平和を愛するロシア人民をNATOと米帝国は追い詰め、プーチン同志は祖国防衛の戦いに踏み切らざるを得なかった」みたいに書けばよいものを。
ま、だれも読まないけどさ。
しかし一方で明瞭なのは、ロシアの侵略に対してはひどく寛容で、撤退しろとも言わず、西側の経済制裁だけを止めろとしていることです。
ただし、このような外交文書には付属文書がついているので、あんがいそこにはもっと具体的な和平案が書いてあるのかもしれませんが、ないでしょうな。
●ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場
2023-02-24
1すべての国の主権を尊重する。国連憲章の目的と原則を含む普遍的に認められた国際法は厳格に遵守されなければなりません。すべての国の主権、独立及び領土保全は効果的に支持されなければならない。大小を問わず、強国も弱国も、富裕国も貧乏国も、すべての国は国際社会の平等な一員です。すべての当事者は、国際関係を支配する基本的な規範を共同で支持し、国際的な公正と正義を擁護する必要があります。国際法の平等で統一された適用が促進されるべきであるが、二重基準は拒否されなければならない。2.冷戦の考え方を放棄する。国の安全は、他国を犠牲にして追求されるべきではありません。地域の安全は、軍事ブロックを強化または拡大することによって達成されるべきではありません。すべての国の正当な安全保障上の利益と懸念は真剣に受け止められ、適切に対処されなければなりません。複雑な問題に対する簡単な解決策はありません。すべての当事者は、共通、包括的、協力的かつ持続可能な安全保障のビジョンに従い、世界の長期的な平和と安定を念頭に置き、バランスのとれた、効果的かつ持続可能な欧州の安全保障アーキテクチャの構築を支援するべきである。すべての当事者は、他国の安全を犠牲にして自国の安全を追求することに反対し、ブロックの対立を防ぎ、ユーラシア大陸の平和と安定のために協力する必要があります。
3.敵対行為をやめる。紛争と戦争は誰にも利益をもたらしません。すべての当事者は、理性を保ち、自制し、炎を煽り、緊張を悪化させないようにし、危機がさらに悪化したり、制御不能になったりするのを防ぐ必要があります。すべての当事者は、ロシアとウクライナが同じ方向に働き、直接対話をできるだけ早く再開して、状況を徐々にエスカレートさせ、最終的に包括的な停戦に到達することを支援する必要があります。
4.和平交渉の再開。対話と交渉は、ウクライナ危機に対する唯一の実行可能な解決策です。危機の平和的解決に資するすべての努力は、奨励され、支持されなければならない。国際社会は、平和のための交渉を促進する正しいアプローチに引き続きコミットし、紛争当事者ができるだけ早く政治的解決への扉を開くのを助け、交渉再開のための条件とプラットフォームを作成する必要があります。中国はこの点で引き続き建設的な役割を果たす。
5.人道危機の解決(略)
6.民間人と捕虜(POW)の保護(略)
7.原子力発電所の安全を守る(略)
8核戦争は戦われてはならない(略)
9.穀物輸出の促進(略)10.一方的な制裁の停止。一方的な制裁と最大限の圧力では問題を解決できません。彼らは新しい問題を生み出すだけです。中国は、国連安全保障理事会によって許可されていない一方的な制裁に反対している。関係国は、ウクライナ危機のエスカレートを緩和し、発展途上国が経済を成長させ、国民の生活を改善するための条件を作り出すために、他国に対する一方的な制裁と「ロングアーム管轄権」の乱用をやめるべきです。
11.産業チェーンとサプライチェーンを安定させます。すべての当事者は、既存の世界経済システムを真剣に維持し、世界経済を政治的目的の道具または武器として使用することに反対する必要があります。危機の波及効果を緩和し、エネルギー、金融、食料貿易、輸送における国際協力を混乱させ、世界経済の回復を損なうことを防ぐために、共同の努力が必要である。
12.紛争後の復興を促進する(略)
これについてのウクライナの反応です。
BBC
「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は24日、ロシアの侵攻開始から1年を迎えたのに合わせて首都キーウで記者会見を開いた。ゼレンスキー氏は、同国での戦争終結に関する中国政府の提案について協議するため、習近平国家主席との会談を計画していると述べた。
中国は、和平交渉や国家主権の尊重などを提案している。
内外の記者を大勢招き、その質問に2時間以上にわたり原稿なしで次々と答え続けたゼレンスキー氏は、中国の和平案について質問され、平和実現の方法探しに中国がかかわっていることの表れだろうと述べた。
その上で、「中国がロシアに兵器を提供したりしないと、本当に信じたい」とした」
(BBC3月25日)
ゼレンスキー氏、「習主席との会談を予定」 中国の和平案提案を受け - BBCニュース
思いの外「まとも」で、ゼレンスキーも頭から否定はしていません。
しかし、この中国和平提案には地雷がいくつも仕掛けあります。
これだけ冗長な長文にもかかわらず、ロシアがウクライナから自軍を撤退させなければならないとは一言一句書かれていません。
まるでこの戦争が、ロシアの一方的な力による現状変更によって起きたのではないようです。
これではプーチンが賛成するはずです。
ですから、ロシアに対する国際社会の共同の制裁を「一方的な制裁」として非難しています。
これはウクライナに協力する西側諸国を真正面から非難しているのは同じです。
いくら中国が「全ての当事者は、ウクライナの状況が徐々に和らぎ、最終的に包括的な停戦に至ることを目指し、ロシアとウクライナが同じ方向で取り組み、可能な限り速やかに直接対話を再開するよう支援すべきだ」と言ったとしても、この和平提案が経済制裁をやめさせることでロシアを救済し、中国に有利な国際状況にもちこもうとしていることは明白です。
そして冒頭にも述べたように、ドローンの供与予定までがバレてしまっては「和平提案」もなにもあったものではありません。
習近平がこのような和平案を作ってプーチンにもちかけているのは、自分が「国際的スタープレーヤー」になりたいからです。
それをドローン供与が4月から始まることをシュピーゲルにリークする奴が現れて御破算にしてしまうのですから、気球事件でも感じましたが、習近平の支配はまだグラグラのようです。
ウクライナに平和と独立を
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ロイターによれば、中共の戴兵国連次席大使は国連総会で、兵器を供与しても平和はもたらされないことが「残酷な事実」で十分に証明されている、と述べたとのこと。
https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-anniversary-un-china-idJPKBN2UX1NM
で、その「残酷な事実」とは何ぞ。
西側は供与しているのに俺らもやってなぜ悪い、と開き直る方がまだワルの筋も通ろうというものを、堂々と自分は身綺麗かのように言ってしまえる中共さんいいねぇ、その調子でどんどん晒してくれたまえ。
でも、こういう言説や、「目的に崇高さや止まれなさがあると主張すれば手段は何でも許される」的な話を公に流し、流布する者を我が国や諸国に配置して、中共が何をやっても受け入れてしまう人を増やすための認知戦はきっと増え続けます。
それはどちら様も頭に留め置いた方がよいことですね。
先のロイター記事を引用して「それを裏切ることをすれば中国の信用が失われる」という鈴木一人氏のツイート(@KS_1013)に、「中国が提供するしないって話をする前に、ずっと武器提供してる西側に武器提供をやめるのは先じゃないの?」(←注 原文ママ)という、少々日本語力に疑問がある返信が、さっそく付いていますし。
投稿: 宜野湾より | 2023年2月27日 (月) 13時31分
細谷雄一氏の『侵攻1年、中国が一番の勝者』なる記事には少なからず違和感をおぼえました。中国の思惑は王毅欧州訪問でも成功しておらず、『ロシアとは目的の多くの点で齟齬がある』(興梠氏)
気球問題の波紋は私たち日本人が考える以上に大きく、ロシアが望む自爆機などの提供は困難になりました。強行すれば証拠が提示され、ますます西側経済から疎外される事になるでしょう。きわまった中国は、習近平の訪露のメドも立たぬ状況と考えます。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年2月27日 (月) 15時54分