武漢で1万人を超えるデモが発生、その原因は?
武漢で大規模なデモが起きたようです。
「香港(CNN) 中国中部の武漢で15日、今月から施行された地元自治体の公的医療保険制度改革に不満を募らせた高齢者が、抗議デモを展開した。
SNSに投稿された写真や動画には、大勢の高齢者が市中心部の公園に集まり、医療給付の削減に不満の声を上げる様子が映っていた。
デモ参加者が革命歌「インターナショナル」を歌う場面もあった。
警察や政府はこの状況について公式にはコメントしていない。逮捕者が出ているかどうかは不明。大勢の警官隊が映った映像もあり、警官隊が群衆を抑え込もうとしている様子だった。
中国ではデモや不満表明が厳格に規制されているが、生活や環境問題に対する不満が小規模な抗議運動につながることもある。
武漢でのデモはこの1週間で少なくとも2回目。先週SNSに出回った動画には、大勢の高齢者が同じ問題で抗議デモを展開する様子が映っていた」
(CNN2月16日)
武漢の高齢者、医療給付の削減に抗議デモ 中国(CNN.co.jp) - Yahoo!ニュース
中国・武漢で大規模デモ 高齢者ら医療手当の削減に抗議…無料PCRやワクチンが地方財政を圧迫か(日テレNEWS) - goo ニュース
白紙運動が若者主体だったのに対して、今回は老年層です。
白紙運動が掲げた民主化要求がないといいながらも、スローガンには「反動政府を打倒せよ!」というものまであったようです。
知識階層のデモよりも、一般の国民の大規模デモですから、治安当局にとってはこちらのほうが民衆革命につながりかねないのでやりにくいはずです。
香港や白紙デモに見られた暴力的弾圧を手控えており、戸惑っている様子がうかがえます。
もちろん専制主義国家の公安は、このまま見逃すなんて生やさしいことはしません。
首謀者を追跡して拘禁し、「行方不明」となっていくのが、この国の常道です。
「武漢の医療新政反対デモは、ネットでは白髪革命とよばれています。白紙革命から白髪革命へ。
同じような抗議活動、デモは大連でも起きていたようです。そして、警察がデモ参加者をあとから調べて拘束する準備をしている、という噂。白紙革命参加者の学生、若者たちもかなりの数が拘束されたと言われています。今度は、医療保険改革に不満を訴えた老人たちが「失踪」させられるんでしょうか」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.729 2023年2月18日)
武漢の何万人もの人々が再び集まり、経済的負担を増やす「新しい医療政策」に反対します—北京語ホームページ (rfa.org)
「デモは15日午後8時すぎから始まり、武漢市内の中山公園のゲートから解放大道を通り、万単位のデモ隊が「団結こそパワー」と叫びながら行進。警察官が行く手を阻むように壁をつくり、何人かのデモ参加者は警察車両につれこまれた。
目撃者の話では、警官隊はデモ隊を中山公園内に推しとどめようとしたという。あたりは警官だらけで、私服警官が公園の門の前に立っていたという。
武漢の医療新政反対デモは一週間前の2月8日にも行われた。8日のデモでは、政府が対応を検討しないならば、さらに大規模デモを行うと予告していた。政府は、政策の一時延期を打ち出し、対応を見せたが、広州のようにはっきりと中止を表明しなかったので15日に再度、デモが起きた。
デモは事前に予告されていたので、市政府は武漢の多くのコミュニティを封鎖したが、多くの人たちがその封鎖を破り中山公園に集結したという。地下鉄の入り口も封鎖され、スマートフォンの電波も遮断され、少なからぬ人が拘束されて、ようやく群衆はちりぢりとなった。
警察は早々に準備できたはずだが、意外にも武力を使った取り締まりは行わなかった。身柄拘束者は多くでたが、比較的穏当な形で取り押さえられていたという」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ) NO.728 2023年2月16日)
大規模デモの抗議の対象は、医療手当ての削減です。
今までは診療費や薬代の支払いの有無にかかわらず、医療保険から個人口座に定額が定期的に振り込まれていましたが、この振込額が大幅に削減されました。
自由亚洲电台(ラジオフリーアジア・RFA)はこう書いています。
「先週の水曜日に続く武漢での別の大規模な大衆デモです。 人々は、政府が毎月260元以上の医療補助金を数十元に引き下げることに抗議した。 市内の200万人近くの退職者がこの動きの影響を受け、政府が彼らの要求に応じなければ、人々は水曜日により大きな抗議を行うだろうと言った。
武漢在住の張海氏は同日、同日、政府が導入したいわゆる新医療政策に退職者が集団で抗議したが、満足のいく反応が得られず、「昨夜以来、多くの人々(政府)が中山公園と寿夷路に行かないように言った」と再び抗議した。 今朝、武漢の多くのコミュニティが封鎖されましたが、ここに集まった後、長江橋に沿って行進する準備ができている多くの人々も出てきました」
(RFA2月16日)
中央の方針を受けて地方政府は今年に入り医療制度を改正しました。
新たな医療政策の悪影響では、退職工だけでなく、普通の市民の医療費への補填も削られており、たとえば、毎月400元の医療保険を支払っている人が、病院にいかず医療費を使わなかった場合、以前なら毎月100元が薬局などで自由に使える医薬品補填として保険用口座に入れらていたそうですが、これが打ち切られました。
要するに、医療保険基金に金がなくなったということです。
カネの切れ目がなんとやらで、中国共産党の支配の源泉は、要はカネです。右肩上がりの経済成長があり、共産党は豊かな生活を保証してくれる、と思えるから自由がなくてもやっていられるのです。
しかし、それがなくなったらどうしますか。それが今です。
武漢当局は必死に医療新政策は長期的に見れば、普通の外来診療の待遇がよくなっている、と言っていますが、SNS上では保険料が値上がりしているのに、支給額が削減された、これでは保険を盗まれたようなものだ、という声が多く上がっています。
そもそもこのような医療保険という国民の生活に直結する重要な政策のルールを変更する場合、自由主義国では政府が勝手にやることは不可能です。
議会の承認が必須で、議会の議論のなかから修正案が出されて、大多数の人の賛同を得られるという仕組みがあたりまえにあります。
しかし中国にないのは普通選挙によって選ばれる議会なのですから、どうしようもありません。
議会に自分たちの不満や要求を代弁してもらうことができない以上、怒りはストレートに行政府に行きます。
だから中国では、なにかというとすぐにデモになり(無許可ですが)、棒切れを持った騒乱に発展します。
では、議会を作ったらいいじゃんと私たちは思いますが、すると選挙をせねばならなくなりますから、共産党が支配できるかどうか分からなくなります。
党首選を要求した党員がバッサリ切られた、どこかの国の共産党のようですね。
ところで習近平はゼロコロナ政策に突っ走り、PCRを無料化し、しかも国民に全員受けることを義務化しました。
そのうえにチャイナワクチンも、いかにただの水だとはいえ安くはないのにこれも無料化ですから、医療基金がパンクして当然でしょう。
日本でもどこぞの首長が人気とりでPCR無料化したあげく、財政難で頓挫した、なんてこともありましたね。
それはさておき、地方政府によってバラつきがあるようで、この医療新政策は広州でも実施されかけましたが、反対の声が大きく中止となったそうです。
しかし中央にヒラメの武漢の政府は、必死になってこの新政策を実施しようとしたあげく民衆革命のようなことになってしまったようです。
武漢の商店主はこう言っていたそうです。
「今日は人が多く、道路が封鎖されたが1万人以上は参加した。それは一般住民にも言いたいことがあるからだ。広州ではこの新政策は棚上げになった。しかし武漢はむりやりやろうとしている。この政策変更は私自身も影響を受ける。私は前々月は百数十元の医療費補助を受けていた。今、病院に行って薬を買って、三甲(3A)病院に行っても50%しか補助されない。しかも受診料700元を別に支払ったあとの医薬品に関してのみだ。」
(福島前掲)
そりゃまぁ、医療保険費を値上しておいて医薬補助費を削減し、病院で処方される薬についても、安くて効果の認められている一般的な薬は適用除外にされれば、そりゃあ怒るわな。
政府は慢性病や特別治療を受ける時に得するようになっているのだ、と説明しても、多くの人は納得しないでしょう。
しかも現在中国では急速な少子高齢化が進んでいます。
その速度は日本以上です。
2025年には、15歳から65歳のいわゆる生産年齢が65歳以上の年齢層より少なくなりますから、安い労賃で外資を呼び込み輸出で儲けるという中国のビジネスモデルは崩壊し、高度成長は急速に鈍化します。
これがどの国も通った「中進国の罠」という現象です。
「中国では1970年代後半から一人っ子政策が実施され、出生率を厳しく抑制する策をとった結果、少子高齢化が急速に進行した。総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が7%を超える高齢化社会から高齢社会(14%)、さらには超高齢社会(21%)への移行は、24年、11年と日本とほぼ同じスピードで到達すると予測されている。
中国における人口構造の変化を見ると、65歳以上の高齢人口に対する15-64歳の生産年齢人口の割合は、2025年を待たずして大幅に減り始め、その後そのスピードは加速度的に進むことになる。
長寿化が進む中で(図表2)、2016年1月の一人っ子政策廃止の効果はまだ見られず、出生率は過去最低の状況だ 」
中国の「2025年問題」-人口、財政、社会保障関係費の三重苦【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(36) |ニッセイ基礎研究所 (nli-research.co.jp)
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出生率も、中国の生産年齢人口(15-64歳)のピークは2015年で、以後下がり続けています。
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このような中で、近年、財政収入の伸びは低下傾向にあり、財政赤字は習近平政権となった2013年以降、拡大し続けているようです。
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この社会保障費が急激に増加して、財政を圧迫しています。
「社会保障関係費とは、国による年金、医療といった社会保険や福祉などにかかる経費をいう。中国の一般公共予算支出の項目では、「社会保障・就業」、「医療衛生・計画出産」などが主に該当する。これらの項目を合計すると、2015年の社会保障関係費は、前年比18.5%増の3兆972億元、日本円ではおよそ57兆円規模となった」
(ニッセイ研前掲)
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中国は、財政において、中央と地方が役割分担をしており、国防費は中央財政でほぼ全て支出され、社会保障については、地方政府の財政が多くの支出を割いています。
国民の怒りを買っているこの政府の医療保険改革も、少子高齢化が進めばこのままでは制度がもたないためにやる、というのが本音のようです。
そしてこの医療保険制度の寿命を短くしたのが、習近平のゼロコロナ政策だったようです。
この男は、専制支配こそがコロナを乗り切る最良のやり方だということを世界に見せつけるために、ゼロコロナ政策をやり続けました。
とうぜんのこととして、その反動が出ました。
習はどう総括しているか知りませんが、ゼロコロナ政策は習にとっても高いモノについたはずです。
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デモでインターナショナルなど歌ってしまうのは、いまだ国家お抱えの共産主義幻想から抜けきれない高齢者の方々が多くいるって事なのかなぁ、と思いつつニュースを見てました。
中国経済がここから上に行くには、自由主義的な社会変革が必要です。それは中国共産党には出来ない相談なので、ますます鄧小平路線を否定する方向に向かわざるを得ないでしょう。
公表されている中国の地方政府の債務は930兆円とかで、これが多いのは間違いありません。ただ、問題はこれまでの地方政府の主な財源が土地の使用許可収入にあった事で、そうするとこれからの地方財政の収益源の柱はないって事です。
今まで不動産分野が中国GDPの三割を超えていたところ、開発頼みの成長戦略はもう無理。
習近平は不動産業への融資を再び緩和する方向に舵を切りバブル隠しはしてますが、市況が再び戻ってくるはずがありません。
今後、中国国民への負担は強まる事にならざるを得ません。
今回のような不満の爆発は頻繁になるだろうし、どうにもならない内政を抑え込む事に必要な台湾侵攻という「戦争」カードを習がいつ切るか?という段階でしょうか。まったく、はた迷惑な話です。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年2月18日 (土) 07時15分
それでも習近平は「ゼロコロナ政策による歴史的大勝利」なんだそうですよ。
極端な共産党独裁の中央集権国家としては大きすぎるというか根本的に人口過多なのではないかと。とは言っても地方政府の力を増やしたら、それこそいつぞやのクーデター未遂容疑で粛清の繰り返しだろうし。
今回は若者や知識層ではなく一般の老人たちが大規模デモを起こしたんですね。今でも「毛沢東時代は良かった!」なんて言う人々が、習近平を嫌悪しているという話。
文字通り現金な話というだけではなさそうですね。。
投稿: 山形 | 2023年2月18日 (土) 07時43分
週末ながら、酔った勢いでコメントを記すことをおゆるし下さい。
昔は良かったというよりも、不動産バブル崩壊による景気後退と、家を出て近所を徘徊する自由を奪われたことにより、アナログ人間はデジタル人間よりも冷遇され、中国発展の恩恵を受けられ(享受出来)ないという思いが募り、マグマのように吹き出しはじめているのでしょうか。
言論の自由や独裁政権による統制を受け入れる中で、ささやかに子供や孫に接したり、子供や孫に迷惑をかけることなくおいて朽ちることも許されなくなるとしたら、思想信条といったことを抜きにして、物質的物理的な豊かさを追い求める現政権に、身を賭して異論を唱える人が続き、中国孤児取り上げたドラマ『大地の子』で文化革命時のスローガンとして表現され、今も印象に残っている"造反有理"といううねりが増幅されていくのかもしれません。
そうなると、内憂をそらすため外患やもおえずという筋は通りませんし、共産主義社会主義が崩壊して、その十数年後に資本主義民主主義が崩壊するという、1980年代の歴史家の見立てた通りの歴史の本線に戻る見えざる力が働き始めるように思います。
民主主義か独裁政権かといった世界的なせめぎ合いが激化する中で、中華思想実現を錦の御旗として、共産党政権による中華圏の拡大が勧められていると解釈していますが、に、その礎≒踏み台になることを受け容れ、自身の世代犠牲になっても子や孫が豊かに人間らしく暮らせる世がいずれ来ると考えていた人々が:現政権にNoを突き付け始めているようにも思います。
そうだとしたら、デジタルに依存しない暮らしをしていたアナログ世代の造反を、デジタルで統制出来なくなる可能性大で、またそれらの人々のお陰で海外に出ている人々が、造反すると一族郎党が犠牲になり迷惑かけるという呪縛から解かれ、今年の大河ドラマのように、大事な子や孫を護るために親が犠牲になる怒涛の流れが出来るかも知れません。
共産主義が崩壊した後に資本主義が崩壊するのだとしたら、力による現状変更が試みられる場合をのぞき、現実にはドラマのような劇的な変化は起きないと思いますが、この数年間の間に、共産独裁自由民主国家の区別なく一部の既得権益者が民衆の知らぬ間に物事を決めていく現代の国家のあり方に、国を問わず民衆の多くが違和感を感じはじめているのは間違いありません。
そうなれば、各国の既得権益者の思い描く、共産独裁自由民主国家の覇権争いでなく、既得権益者の"今だけ金だけ自分だけ"を打ち破っていく、既得権益者(エリート)と大衆(衆愚)の主導権争いが激化していくのかも知れません。
法治国家日本に生を受け、日本人として決められたことを守るの当然だと思ってこれまで生きてきましたが、一部の政治家や役人が専門家や有識者と組み立て可決し施行し、実情を踏まえて修正することのない実習制度や感染症対策を続け、利権ともかく現在と将来の生活と命が守られない国になりつつあること危惧する思いが膨らんでいますので、これは中国だけの問題ではないとも思う次第です。
投稿: 酔っぱらい | 2023年2月18日 (土) 22時09分
日本の医療の問題を先取りしてくれた、というか到底真似できないなと諦めますが。
中国でデモに参加するのは命の危険を伴うので、参加する人達は座して死を待つよりは、という心境でしょう。
そういう人達が増えてきたというのは、中国の推進した共産主義と資本主義のハイブリッドの行き詰まりと戦争への懸念の増大を示すのですね。
現在進行形のロシアの現状は、戦場で若い男が死んだだけ中国の嫁不足が解消する、と歓迎してそうですが、中国の人口を考えれば到底足りないでしょう。
投稿: プー | 2023年2月19日 (日) 22時58分