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2023年3月30日 (木)

戦時経済に移行したロシア

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偶然ですが、来年2024年はいろいろな重要選挙がひしめいた年となります。
まず、24年1月には台湾総統選、3月にロシア大統領選、5月にウクライナ大統領選、欧州議会選挙が上半期のどこか、11月には米大統領選が実施されます。

どれひとつとして、まぁいいやというものがない惑星直列的選挙イヤーとなります。

ですから、その前年の今年は24年選挙イヤーの前哨戦となります。
プーチンがバフムトで恥も外聞ない突撃を敢行させたのも、中国の「和平案」に色気を見せたのも、ムシがいい非武装地帯提案もすべて今年中にウクライナをナンとかしないとならないからです。
絶対にウライナ戦争は負けられない、占領しているウクライナの土地が奪還されてはならない、全土の占領は不可能でも南部と東部は死んでも手放さない、手放したら身の破滅、ロシアの終わり、と決意をしているはずです。
とはいえ、この1年間でロシアはすでに10万人以上が死傷しています。

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BBC

「ロシア側では優に10万人以上の兵士が殺されたり負傷したりしている。おそらくウクライナ側でも同じことが言える」
ロシア政府が9月に発表した戦争開始後の死者は5937人。セルゲイ・ショイグ国防相は、それよりずっと多いとする報道を否定している。(略)なお、1979~89年のアフガニスタン戦争でのソ連軍の死者は1万5000人とされている」
(BBC2022年11月11日)
ロシアのウクライナ侵攻、両軍の死傷者は約20万人=米軍トップ - BBCニュース

去年11月時点で10万を超えたのですから、今年一杯この苦戦が続けばその倍に達することでしょう。
ソ連崩壊の原因のひとつとなったアフガン戦争ですら1万5千人ですから、その20倍近い戦死者の山を築いたことになります。
また勝利を得るためには、大都市部での徴兵も必要になるので、国民の不満がいつ爆発するのかわかりません。
独裁者は、ゼロコロナを瞬く間に止めた習近平のように、あんがい民衆の動向を気にしているものなのです。
いったん爆発したら、再選どころか国全体の統治自体がおぼつかなくなります。
大帝国を誇ったソ連が崩壊した3つのきっかけは、一にアフガン出兵の失敗、二にチェルノブイリ事故、三に過剰な軍拡でした。
今のロシアは、この3つのうち2つまでが被っています。

ところで、戦争の行方を決定するのは、戦力だけではなくそれを支える経済力です。
戦争は国力の戦いであり、いかに早く総力戦体制を築くのかが勝敗の分かれ目だからです。
ロシアはすでに戦時経済に移行しました。
戦時経済とは、軍需生産を最大限にするために民需を抑制する統制経済体制のことです。

「戦時経済とは、政府が戦争を遂行するために、市場に統制や動員などという形で強く介入した時の経済という意味で使っている。つまり、程度の差こそあれ戦争に経済を従属させたときの経済という意味である」
(荒川憲一『戦時経済体制の構想と展開』)
Microsoft Word - 博論要旨3.doc (hit-u.ac.jp)

プーチンは去年7月、「政府の戦争継続を可能とするため、物資や労働力を武器製造などに優先的に調達できるよう、政府の権限を強化する」、ふたつの法案を通しました。
この法案が出来てきた背景には、ウクライナでビックリ仰天の戦車を喪失したからです。
喪失数、やられもやられたり1700両!
戦車大国を自認するロシアの保有台数の半分に達します。
ちなみに、わが国の自衛隊の戦車保有数は560両で、G7諸国ではまずまずの数ですが、たった1年でその3倍オシャカにしてしまったことになります。

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AP共同

「ロシアのウクライナ侵略に伴う両軍の兵器の損失を調査している団体「Oryx」の集計で、ウクライナ軍が破壊した露軍の戦車が10日朝時点で1012両に上ることが明らかになった。ウクライナ軍の手に渡った分なども含めると、露軍が失った戦車の総数は1700両を超えた。Oryxの調査に協力している専門家は米CNNに対し、侵略開始時点で露軍が運用可能だった戦車数は約3000両だったと指摘した。露軍はこの半数以上を失った計算となる」
(読売2023年2月10日)
ロシア軍が戦車の半数失ったか、攻撃で1000両超破壊され…国際団体調査 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

当然、ロシアは戦車の増産を図ろうとしていますが、なにぶんかんじんな部品や資材、電子部品が足りないのです。

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ウラルヴァゴンザヴォドがモスクワでの戦勝記念日パレードに向けて戦車を準備 |ニュース |OTR - ロシアの公共テレビ (otr-online.ru)

世界的な戦車メーカーでロシア唯一の戦車メーカーであるウラルヴァゴンザヴォド社(ウラル戦車工場)は部品不足により、戦車の生産がストップしました。
西側による経済制裁の影響で欧州製の部品が入ってこなくなり、工場の操業が停止してしまいました。
つまり、ロシア軍は新規の戦車を製造できないだけでなく、戦車の修理や保守、バージョンアップもできなくなっています。
たとえば、ロシア政府は倉庫や車両保管場に眠っていた1万両もの古い戦車を引っ張り出して再使用しようとしました。
しかし長期保管されていた比較的新型のT-72やT-80の多くは1970年代に製造されたT-62よりも状態が悪かったのです。
なぜなら、高価な電子部品を使うデジタル照準器は既に盗まれており、フランス製部品がないと製造できないためです。

「ロシアでは高度な光学機器や電子機器が保管庫から出されると、あっという間に品質が低下したり盗まれたりする傾向がある」
(フォーブス2023年1月31日)
ロシアは古いT-72戦車を改装を進めるも光学機器不足か | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

月に150両のペースで撃破されているのに対して、ウラル戦車工場は月20両を製造するのがやっとなのです。
最近、ウクライナ戦線に博物館から引っ張りだしたようなT62が大量に出現したのは、このような理由からです。
戦車のみならず、ミサイル、航空機などの製造も滞っています。

この状況を打破するために出来たのがこの戦時経済移行法です。

「ロシア政府は経済活動に対する統制を強化し、戦時経済体制への移行を図っている。それを可能にする2つの法案が、7月に下院で可決された。法案は上院で可決された後、プーチン大統領の署名を経て成立する。
添付文書によると、法案は特に軍を支援し、「武器や軍装備品を修理する必要性の短期的な高まり」に対応する狙いがあるという。
政府の戦争継続を可能とするため、物資や労働力を武器製造などに優先的に調達できるよう、政府の権限を強化することが同法の目的である。ロシア軍には兵器枯渇の兆候も出ており、法案はこうした状況を打開する方策の一つとみられる」
(木内登英2022年8月1日)
戦争長期化と制裁への対応でロシアは戦時経済体制に移行 | 2022年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)

木内氏によれば、この戦時経済移行法によって、政府が企業に対して国防契約の履行を義務付けることを可能にし、国防省などに契約条件を変更する権限を与えるものです。
政府は命令一本で、民間企業に民間向けから軍需品向けに切り替えるように強制できることになったわけです。

また、労働者に対しても、所定の労働時間を超えて夜間や週末、休日に勤務する条件や年次有給休暇の規定を変更する権限を政府に与えました。
政府が特定の企業の従業員に残業代を支給して、時間外労働を要請することが可能となりました。

ではこの戦時経済移行法が、どのようにロシアの国民経済に影響を与えるでしょうか。
とうぜんのこととして、真っ先に起きるのが民間のモノ不足です。

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ロシアビヨンド

それでなくても、ロシアはウクライナ戦争による国際社会の経済制裁にあえいでいました。
たとえば、ロシアの主要な銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除されたためにロシアの貿易決済が困難をきたし、貿易が停滞しています。
ロシアの貿易収支は黒字の大部分は、石油やガスの輸出が担っています。
そしてロシアの技術力は軍需産業に特化したものなために、自国では中間財や生産財をつくることができません。
よくロシアンフレンドは、ロシアの輸出が堅調であり、原油は中国とインドがむしろ多く買ってくれるので、なんの心配もないぞよ、とご託宣を垂れていますが、いくら原油で稼いでも、中間財や製造装置の輸入が制限されてしまっては元も子もありません。

下図はロシアの民需生産を、コロナの影響がある前年とその影響がない前々年度とで比べたものです。

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ロシアのモノ不足はどれほど深刻なのか、ロシアが発表している生産統計で分析 4割強の減産を余儀なくされた自動車、徴兵や若者の国外脱出で労働供給も減少(2/4) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

「上図は、今年1〜10月期の製造業全体の水準(2021年を100とする指数で99.6)を下回った業種を並べたものである。顕著に減少しているのが自動車であり、58.4と4割強も減少した。自動車の場合、コロナ前の2019年を100とする指数でも63.7と、腰折れ状態であることに変わりはない」
(土田陽介2022年12月4日)

重工業である軍需産業に限られた資材を最優先に割り当てようとすれば、民需は自ずと制限されます。
インドや中国から輸入しようとしても、ヨーロッパと同等の性能のものを代替するのは困難であり、最終製品は外観は同じでも中身は故障を多発します。

そしてさらにおそらく100万人規模に達すると見られる徴兵のために、労働力がタイトになってきています。

「戦争の長期化を受けて、ロシアでは労働供給が減少している。徴兵された働き盛りの国民がいれば、徴兵逃れで出国した若者も多数いるため、この労働供給の減少は構造的なものだ。つまり、生産に費やすことができる要素は不変であるどころか、むしろ減っている。輸入品の代替生産の強化など、人手が足りなければ不可能だ」
(土田前掲)

土田氏は去年12月の段階ではまだ「入り口にすぎない」と見ています。
この1年間で、モノ不足による物価高はより深刻になるはずです。
インフレが進行し、同時に不況も進むというスタグフレーションに陥るかもしれません。
本格的影響は今年一年間に渡ってじっくりと出てくるのであって、ロシアは遅効性の「戦時経済」という毒を飲んでしまったのです。

プーチンは国民をなだめるために、社会福祉の支出を大幅に拡大し、来年だけで9360億ルーブル増の3兆4000億ルーブルに引き上げることも計画しています。
国民の戦争支持を獲得、来年の選挙にかつためには、国民への年金増額、給付金支給のバラ撒きは欠かせないのです。

たった4日で終わるはずの「特殊軍事作戦」の終わりは見えません。

 

 

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【フォト】独英の主力戦車が到着、米装甲車も ウクライナ、戦況打開目指す - 産経ニュース (sankei.com)

ウクライナに平和と独立を

 

 

 

 

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コメント

米国主導での「民主主義会議」開催への流れもありますけど、一方でロシアに与する独裁国家の多いことよ。。カギは巨大国家中国ということですかね。
特にちょうど今現在台湾の蔡英文がアメリカ訪問している(一方で馬英九が中国へ)タイミングですが、これらの選挙は自由主義陣営には負けられないモノばかりです。
ロシアや途上国は票なんぞいくらでも操作できるんでしょうけど。

プーチン様の御威光にくっついて来た連中も頭が痛いでしょうね。オリガルヒの大物でも特別軍事作戦に反対しようもんなら「謎の事故死」にされちゃう友愛関係ですから。
逆に極端なのは元料理人さんですね。シロウトのくせに戦闘狂すぎて煙たがれるレベル!あれぐらい悪目立ちすれば逆に消されずに済むという見事な保身方法。そこに人の命の重さなど皆無というねえ。。
ずっと長らく適当に近い距離にいたショイグとかは本当に頭痛に悩まされてるだろうと。。

ロシアの戦費が国家予算の1/3を超えているという話が昨年の夏頃に出ていたような気がします。
今はもっと増えて4割超えかもしれません。
動員兵の給料が未払いだったり、満額に比べ極少額の支給なんだとか。
侵攻前も予算の1割と高い水準でしたけど、ロシア経済への影響はジワジワと進んでますね。
とうとうT-54、55をウクライナへ投入です。

侵略されているウクライナは予算のほぼ全てが戦費らしいので、相当に厳しいと思われます。

ワグナーのゾンビアタッカーの囚人兵5000人以上が契約期間満了の恩赦で自由の身になり、生き抜いたんだなーと思いました。

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