日本人中国駐在員、逃げて逃げて
中国に駐在する日本企業駐在員が、また拘束されたようです。
2015年以降、少なくとも16人の日本人がスパイ容疑で中国政府に拘束されています。
その中には10年の実刑判決を受けて、監獄に閉じ込められた者もいます。
「大手製薬メーカーのアステラス製薬は、中国の首都・北京で3月、中国の法律に違反した疑いで当局に拘束された50代の日本人男性について、自社の社員であることを明らかにしました。現在、外務省を通じて情報収集をしているということです。
日本政府関係者などによりますと、3月、北京市内で日系企業の幹部の50代の日本人男性が中国の法律に違反した疑いで国家安全当局に拘束されたということです。(略)
日本人男性が中国の国家安全当局に拘束されたことについて、外務省幹部は、記者団に対し「中国政府に早期解放や拘束の経緯の説明を求めるとともに、領事による面会の実施や家族への連絡を通じて男性を支援していく」と述べました」
(NHK3月23日)
中国 北京で拘束された日本人男性はアステラス製薬の社員 | NHK | 中国
では、彼らはスパイだったのでしょうか。
わけがありません。わが国にできるのはシギント(電子情報収集)や公開情報からの情報収集(オシント)までで、人が介在するヒューミントをする能力もなければ、それをする機関すらありません。
ついでにわが国内部の外国スパイを取り締まる法律すらありません。
したがって、日本の「スパイ」など存在せず、わが国にいるのは外国のスパイばかりです。
見事に内にも外にもスッポンポン。
諜報活動 - Wikipedia
このようなスパイ容疑での拘留は、日本だけに限らず米国人も受けています。
「24日には米米国企業の従業員も中国に逮捕された。 米経済監査法人ミンツ・グループはAFPに対し、中国が同社の北京事務所の中国人従業員を逮捕し、北京での操業を停止したことを認めた」
中国に拘束された日本の製薬会社従業員、中国政府はスパイ容疑を確認 | ドイツからのドイチェ・ヴェレ
中国は外国組織、個人の審査を強化しており、2014年に反スパイ法、2015年に国家安全法が施行されたのち、外国人の拘留事件が相次いでいます。
この米国ミンツ社はドイチェ・ヴェレによれば、世界中にオフィスを持ち、詐欺、汚職、職場での違法行為の申し立てについての調査を行っている会社のようです。
2018年には同社のアジア責任者であるランダル・フィリップスが米国議会で、米国は米中貿易の構造的不均衡に注意を払うべきだと述べ、中国のやり方について批判的証言していました。
なお、ミンツ社は従業員拘束を受けて、直ちに中国現地のオフィスを閉鎖しました。
さて、今回拘束された日本人従業員は年齢50歳、現地の最高経営責任者を勤めており,駐在歴は20年に及ぶ超ベテランでした。
また、彼は北京の日系企業で構成される中国日本商会の副会長もして信頼を集めている人で、新型コロナの中国の感染対策やワクチンについての裏側まで把握している人物だったようです。
もちろん中国語には堪能で、現地のパイプも多く持っていた人物でした。
今回は3月に日本に帰任する直前に拘留されています。
中国で日本人男性拘束…アステラス製薬幹部がなぜ? “6年拘束”経験の男性が語る実態とは(日テレNEWS) - Yahoo!ニュース
「北京の日本企業社会では知られた人物だけに、その拘束に現地の日本人社会では衝撃が広がっている。「追い出すならまだしも、国に帰さないというのはさらにたちが悪いし、怖いと感じる」(日本企業の北京駐在員)」
(西村豪太2月28日)
中国ビジネスに冷水「アステラス社員拘束」の恐怖 | 中国・台湾 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net) 。
この帰国寸前に拘束するというところが、いかにも中国です。
帰国直前、荷造りも終えて土産のひとつも買い、航空券を確認しているような緊張が緩む時間を狙って、ドアを叩いて公安がなだれ込んで逮捕される。
これは心理的に効くでしょう。抵抗する気が起きなくなります。
あえてこういう人物を拘束したのは、習近平の失敗したゼロコロナ政策の細部を熟知している者だからです。
林外相は今週末に訪中すると言い出しました。
「林芳正外相が4月1-2日に中国を訪問し、秦剛外相と会談する調整に入ったと共同通信が報じた。今月に北京市で中国当局に拘束された日本人男性の早期解放を求める意向だとしている。日本政府関係者が28日明らかにしたという」
(ブルームバーク3月29日)
林外相が今週末の訪中を調整、拘束邦人の解放を要求-報道 - Bloomberg
どーでもいいですが、デニー知事も訪中するそうです。
沖縄県副知事が駐日中国大使と面談 デニー知事の中国訪問に協力要請 大使「地域の安定へ平和的な解決を」(琉球新報) - Yahoo!ニュース
「照屋義実副知事は30日、東京の中国大使館に呉江浩中国大使を訪れ、玉城デニー知事が訪中を希望していると伝えた。日中の平和交流に向け、沖縄が貢献する意向も強調した。県交流推進課が同日発表した。
玉城知事は新年度から県庁に地域外交室を設置し、アジアの緊張緩和に向けた県独自の外交に乗り出す構え。照屋副知事の中国大使訪問も、こうした政策の一環となる。
県によると、照屋副知事は「日中の交流や平和交流を維持し、持続的な発展を続けることは重要。沖縄は600年の交流の歴史を踏まえて貢献できると考えている」と述べた」
(八重山日報3月31日)
玉城知事訪中へ地ならし 照屋氏が中国大使と会談 | (yaeyama-nippo.co.jp)
行っても行かなくても、というか、行かないほうがナンボかマシな人物しか行かないようです。
外相就任前はヘビーリピーターだった林氏など、就任以来行きたくてたまらなかったのに、拘留事件が起きて晴れて行けてよかったですね。
このご両人、おかしなことを中国で口走らないように。
いうまでもありませんが、この拘留社員がなにかスパイ活動をしたから捕まったわけではありません。
中国は、不快感を表明するために相手国の民間人を拘束するという伝統があります。
ですから、アステラス社員が実際にスパイ活動を行ったかどうかなどということを調べても、なんの意味もありません。
中国公安当局が、逮捕しようと考えれば、ありとあらゆる行動がスパイ活動と結びつけられます。
たとえば、アステラス社の社員が中国の同業者と情報交換したりすれば、それは即スパイ行為と見なされます。
内容は問題になりません。同業者なら誰でも知っているていどのことでも話題になれば、それは機密情報を漏らすことを依頼したと見なされます。
つまり普通の営業活動ですら危険なのです。
また、中国に友好的かどうかも問題になりません。
むしろ友好派のほうが標的になりやすいかもしれません
今回のアステラス社の幹部も、バリバリの日中友好派でした。
2016年に逮捕された日中友好団体の幹部は社民党系の人物で、731部隊の事跡を調査したり、1997年から北京外語大学教授、中国社会科学院中日関係研究センター客員研究員などの中国の教育・研究職に、足かけ6年就いていたそうで、生活も含めて半ば中国化していました。
中国からすれば覚えめでたい人物だったはずです。
しかし帰国してから衆院の調査局で中国研究をしていたことが、スパイとされた原因のようです。
中国当局は、このように用済みとなった友好人士を利用して、日本人に対してのネガティブイメージを流布するために使います。
「なんとういことか。日本のスパイが中日友好交流団体にひそんでいたのか? 少なからぬネットユーザーは驚き、心ふさいだ。あんなに言っていた友好はどこにいったのだ?」
「そんなに驚くことではない。“中国通”を騙る日本のスパイというのは以前から中国に浸透しているのだ」
(新京報紙)
とまぁ、友好人士のほうが危ないようですので、沖縄県知事におかれましては、お気をつけください。
また民間企業の友好商社筆頭の伊藤忠商事は、2018年の2月に広東省の広州で、中堅社員がスパイ容疑で逮捕されています。
この社員は駐在員ではなく、日本の本社で中国関連の仕事を手掛けていたが、家族で中国に旅行した際に身柄を押さえられています。
拘束されてからメディアが報じるまで1年かかっており、その間政府は動いていません。
いやむしろ伊藤忠のほうが、政府が動くと国家間トラブルとなって、チャイナビジネスに支障がでると判断して断ったようです。
伊藤忠は水面下のパイプを使って(当然大枚のカネも渡したのでしょうが)、中国側に早期解放を求めたようですが、その甲斐なく翌年2019年に「中国の安全に危害を与えた罪」で懲役3年の実刑判決が下されて下獄しています。
逆に政府の早い保護によって早期に奪還された例としては、2019年9月に拘留された岩谷將(のぶ)北海道大学法学研究科教授のケースがあります。
岩谷氏は、中国社会科学院の招きで訪中したにもかかわらず、「中国の国家秘密に関わる資料」を入手したとして拘束されるという、招いておいて捕まえるというメチャクャな話です。
こんなことで逮捕できなるなら、研究者などやっていけません。
この時は、およそ1カ月後に日本でも拘留の事実が分かり、日本の中国研究者が一斉に懸念を表明したために、政府が動きました。
同年11月には、安倍氏自らタイで行われた東アジアサミットで李克強首相に懸念と憂慮を直接伝え、岩谷氏はそれからほどなくして、異例の短期間で解放されました。
このように日本人駐在員を拘束するのは、彼らの外交では常套手段です。
相手国の国民を拘束し、その解放を武器に使うという人質外交です。
(社説)インド太平洋 中国とも共存の道探れ:朝日新聞デジタル (asahi.com)
今回は、岸田氏が中国が日本最大の安全脅威であるという認識を示し、防衛3文書の改訂をなし遂げ、国防費倍増を行い、日本の安全保障政策の大転換を果たしました。
そしてさらには米国との同盟関係強化にとどまらず、1月にはスナーク英首相と二国間防衛安全協力を定めた互恵准入協定に調印し、日本の自衛隊と英国軍の合同演習を推進し、部隊の往来をスムーズにすることを推進しました。
これにより、英軍の日本駐留が可能となり、共同の防衛構築の法的根拠ができました。
さらに、英国は日本と共同で、シンガポールを拠点として太平洋-インド洋の安定を図ろることを提案するでしょう。
一方中国に対しては、岸田氏は元駐日本大使の孔鉉佑が2月末に駐日本大使を離任する際の面会を拒絶しました。
岸田氏としては、通常大使の帰任はカウンターパートの外相に挨拶することで済ましてきたので、意識的に拒絶したつもりはなかったのかもしれません。
しかし、これが中国では大きく取り上げられたようです。
これ対しての中国の不快感の意思表示がこれです。
ですから、友好人士だろうと、中国に警戒感を持っていようといまいと、中国有力者とパイプを持っていようとなかろうと、カネを密かに握らせようとしまいと、さらには中国の反スパイ法に抵触していようといまいと、中国当局がこいつは捕まえると決めればたちどころに逮捕拘留可能な人治の国なのです。
などと書いていたら、今度はロシアがウォールストリートジャーナルの支局員を逮捕しました。
ワグネルのことを探っていたようです。
FNN
「ロシアで、アメリカ人記者がスパイ容疑で逮捕された。
ウォールストリート・ジャーナル紙モスクワ支局のアメリカ人記者、エバン・ゲルシコビッチ氏は29日、中部エカテリンブルクで「軍事企業に関する国家機密を情報収集しようとした」として拘束された。
モスクワ裁判所は30日、逮捕を認めていて、今後、最長で禁錮20年が科される可能性がある」
(FNN3月31日)
ロシア スパイ容疑で米国人記者逮捕 最長で禁錮20年か(FNNプライムオンライン(フジテレビ系)) - Yahoo!ニュース 。
恣意的に外国人を逮捕して人質にできる国。
一方、スパイ防止法もなく、元国家公務員だった野党議員が国家機密を持ち出して大臣の首を獲ろうと仕掛けるセキュリティクリアランスがユルユルなわが国。
あまりの落差に目がくらむほどです。
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シナチスがこのような蛮行を行えば、当然「何時もの」人権団体が抗議声明を出すのが普通なのに、そう言う事をした形跡は皆無です。
何故でしょうね(棒)。
投稿: KOBA | 2023年4月 1日 (土) 13時58分
林外相は就任以来、中国に訪問したくてワジワジしていました。
拘束された日本人解放のためという大義名分が出来て念願がかないましたが、中共のスパイ防止法を撤回させるなんて力量は林ごときにありません。何か条件をもらって帰るのがおちで、それに取り組もうとする二股外交は米側からの信用を失墜させるだけ。
日本はバイトダンスが経団連に加入し、上場さえしている国です。
米国の正しく中共の正体を認識した今日の在り方と比して、とてつもない遅れを感じます。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年4月 1日 (土) 22時52分
林外相をディスって何になるんでしょうか。
投稿: KOBA | 2023年4月 2日 (日) 01時35分
セキュリティクリアランスがユルいも何も、無いのです。
機密にアクセスする権限をどう制限して、何をクリアしたら何段階までと、いくつランクゾーンを作るのかとか、それが同盟国の儲けている国際標準にどこまで近づけるか、現行憲法下ではかなり難しいと聞きます。
でもこれが無いと、どんなに外交だ協力だと握手して枠組みに混ざっても傍観者にしかなれない。プレイヤーになるためにどうしても必要な制度です。
スパイを見つける為の法だと勘違いする人もいますが、見つけるというより入ってこれないようにする、官庁だけでない高度な技術情報関連の産業全ての基盤になる制度ですよね。
> 元駐日本大使の孔鉉佑が2月末に駐日本大使を離任する際の面会を拒絶
これは先に離任した日本側の大使の面会を中国側が拒絶したことを踏まえての相互主義対応だと聞きました。まあそれでも騒ぐでしょう中国側は。
投稿: ふゆみ | 2023年4月 2日 (日) 21時20分