バフムトのロシア軍失速
ロシア軍のバフムト攻撃の勢いが落ちた、と英国国防省が分析しています。
バフムトは、この冬、ロシア軍の猛攻にさらされていました。
プーチンは圧倒的な砲撃力を背景にしたワグネル軍の攻撃で、ウクライナ軍を防戦一方に追い込んできましたが、英国防省は「相当の戦力を消耗し、勢いを失いつつある」との分析を公表しています。
ウクライナ軍 激戦続く要衝バフムトの映像公開(2023年3月27日) - YouTube
「ウクライナ軍がバフムトの西側で反撃し、ウクライナ軍が南北両側から追い込まれるリスクは残るものの、ロシアの攻撃が勢いを失いつつある可能性が現実にある。
市中心部では戦闘が続いており、ウクライナの防衛は北と南からの包囲の危険にさらされている 」
(英国国防省3月22日)
「バフムトに対する攻撃はほぼ止まっている。これはロシア軍の極端な消耗の結果である可能性が高く、国防省とワグナーの対立悪化も関係してるようだ。
ロシアは作戦の主軸をアウディーイウカ方面とクレミンナ方面に移して前線の安定化を目指しており、この変化は今年1月からの攻勢で決定的な成果が得られなかったため、全体に『防衛的な作戦方針』に回帰したことを示唆している」
(同3月25日)
バフムートの戦闘が「安定化」とウクライナ軍総司令官 - BBCニュース
BBCも同様にこう報じています。
「ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官は24日、ロシア軍が数カ月にわたって占領を試みている東部バフムートでの戦闘は「安定している」と発言した。(略)
ウクライナ陸軍の部隊司令官オレクサンドル・シルスキー氏も23日、ロシア軍はバフムート近郊で「疲れ切っている」との見方を示した。
また、ロシアは「人員や装備の損失にもかかわらず、何としてもバフムートを奪取しようと望みを捨てていないものの(中略)著しく戦力を失っている」と指摘した。
その上で、ウクライナによる昨年の反撃成功例を挙げ、「キーウ近郊やハルキウ、バラクリヤ、クピアンスクでそうしたように、我々は間もなくこの機会を活用する」と述べた」
(BBC3月25日)
どうやらロシア軍は、道路が凍結している冬期に、東部バフムトからの「一点突破全面展開」をめざしていたようです。
膠着した戦線を一点でこじあけて、その狭い穴からドっと拡がってウクライナを追い込むという手筈でした。
ここでとられたのが、損害をかえりみないワグネル軍のゾンビーアタックでした。
実際、ウクライナ軍は一時は窮地に陥ったという報道も多く流れましたし、バフムトも半分が占領されていたようです。
これを見て、ロシアンフレンドたちは、ウクライナ軍潰走したゾ、これで戦争の趨勢は決した、とはしゃいでいたようです。
ウクライナ軍はまもなく大敗北喫し戦争終結、これだけの証拠 紛争の東アジア飛び火に備えて日本がすべきこと(1/5) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)
このロシアの戦法は、先の大戦の末期に日本でも現れた「一撃講和論」にやや似ています。
一撃講和論とは、圧倒的不利な状況の中で敵軍に一撃を加えて、少しでも有利な状況を作り出して、それをもって講和に持ち込むというものです。
しかし少し考えればわかるように、戦略的に圧倒的に有利な側が、一時の損害で講和に合意するはずはありません。
これは敗勢に陥った側がよく考える方法で、自軍のメンツを保ちつつ講和を有利に運ぼうとする時に生まれます。
昨年動員された30万人のロシア軍兵士は、ほぼ全員がいまや戦場に投入されている ブルームバーク
いまのロシアに置き換えれば、バフムートで一点突破をして多少力関係を有利にしてから、和平交渉をダシに使って、長期戦に持ち込むもうという思惑です。
ですから、バフムートで仮にロシア軍が勝利したとしても、それは長期戦に向けた時間稼ぎにすぎません。
長期戦に必要なものは、兵員と弾薬、それと国内の団結です。
「匿名を条件に語った関係者によると、ロシアは長期戦を念頭に最大40万人の契約軍人を集めることを目指している。これによりロシア軍の人員を補充したい考えだという。
契約軍人を大幅に増やす野心的な計画が実現すれば、予備役を再び強制的に動員することは避けられるだろうと、関係者は述べた。年内にはプーチン大統領の再選を目指す選挙戦が本格化することも背景にあるという。昨年秋の動員令は国民の信頼を揺るがし、最大100万人ともいわれるロシア人の国外脱出を引き起こした」
(ブルームバーク3月25日)
ロシア、兵士40万人の追加採用を画策-春は攻撃でなく防戦に注力へ - Bloomberg
砲弾は大増産できるゾ、と呼号しています。
「プーチンは、西側はウクライナへの武器供給を維持できないと主張し、ロシアが自国の防衛産業基盤(DIB)を動員する可能性を誇張して、ウクライナに対するさらなるウクライナの抵抗と西側の支援は無駄であるという誤った印象を作り出した。(略)
プーチンは、ウクライナへの継続的な西側兵器の提供は単に戦争を長引かせる試みであると主張した」
(国際戦争研究所)
ロシアの攻撃キャンペーン評価、25年2023月<>日 |戦争研究所 (understandingwar.org)
一方、兵員のほうは契約軍人を大幅に増やすつもりのようです。
ロシア軍がワグネルを重用したのは、正規軍の消耗を避けて温存するためでしたから、使い捨てにできました。
今度は40万人契約軍人を増やすというのですから、できるのかな、ホントに。
「ロシアは既に、数年間の条件で契約軍人の募集を開始している。地方当局には採用人数のノルマが課され、候補者には徴兵委員会への出頭を指示する招集令状を発行していると、事情に詳しい関係者は明らかにした。兵役経験者や農村部の住民を当局はまず狙っているという」
(ブルームバーク前掲)
その正規軍も、極東地域などモスクワから離れたところからの徴兵が主で、モスクワ、サンクトペテルブルクなどの都市部の動員は手つかずで置いています。
「ロシアの独立系調査機関「CIT」が動員令を実施した53の自治体を調べると、地域に偏りがあることもわかった。ロシア当局の発表どおりなら、招集されるのは予備役の1%。しかし首都モスクワでは0.8%と低い割合だったのに対し、東部シベリアの比較的貧しいクラスノヤルスク地方では5.5%、ウクライナに近いクリミア半島セバストポリでは4%と高い確率を示したのだ。
「モンゴル系住民など少数民族の住む地域も、確率が高くなっています。
背景にあるのは少数民族を優先的に危険な戦地に送ろうという差別的な考えと、抗議運動への恐れでしょう。都市部で反発が強くなれば、多くの市民が参加しプーチン政権を揺るがしかねない。そのため動員の重点を、地方の貧困地域に置いているのだと思います」
死者にも令状&少数民族地域に偏り…ロシア動員令「酷すぎる実態」
これは富裕層が住む都市部で徴兵をかけたら、1年前のような大規模デモをかけられてしまうからです。
ですからアジア系が多い地域や、戦争に反抗的な人々を動員しています。
彼らはすでに30万人ていどが動員され、即席訓練で前線に投入されて大損害を出しています。
少数民族地域ばかりで徴兵し、彼らの多くを殺してしまったら必ず反乱が起きます。
もうすでに何回か極東地域では小規模反乱が起きているようです。
少数民族地域のトゥヴァ共和国では、徴兵の大家に羊を配ったために抗議行動が起きたようです。
「動画では、名前もなき兵士が「プーチン氏と指揮官たちは兵士への敬意を欠いている」「戦争に参加させるために脅迫してきた」などと非難を口に出している。さらに動員された兵士たちの各家族に雄羊を支給するというトゥヴァ共和国の政策について「戦争に動員された対価が雄羊って、何だよ」と笑った」
ロシア動員兵が「プーチン倒せ」と反乱の雄たけび 劣悪な環境に不満爆発=英紙 |
ニューズウィーク 動員されたロシアの予備役
「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による部分動員令によって招集された兵士たちが、政府から報酬が支払われていないとして「実力行使」に出る事態が相次いでいる。SNSには、新兵用の訓練センターの敷地内で100人以上が集まって抗議のスローガンを叫ぶ姿を映した動画のほか、仲間たちが見守る中で上官と対峙して報酬の支払いを訴える兵士の動画などが次々に投稿されている」
(ニューズウィーク2022年11月4日)
動員ロシア兵100人超の「反乱」発生...報酬の不払いに不満を爆発させる様子が動画に|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)
しかもこれが激化しても、それを押さえる地方政府は財政が破綻しかかっており、警察力が弱体化しています。
やがて反乱は抑えきれなくなり、都市部に波及していきます。
これがプーチンが恐れるシナリオです。
このような中で、来年24年3月にロシアの大統領選挙が行われます。
いちおう大統領を選ぶ直接選挙があるのが、この独裁国家の唯一の安全弁です。
中国はこれすらありません。
プーチンの5期目は確実視されているものの、ウクライナで敗北するようなことでも起きれば、状況は一気に流動的になりかねません。
「関係者によると、ロシア政府内の多くや体制内エリートはロシアの勝利に確信を持てていない。だが、強硬派の安全保障当局者は今回の戦争を国家の存亡に関わると見なして継続を決意し、プーチン氏本人を動かす影響力も持っていると関係者は語った」
(ブルームバーク前掲)
プーチンはバフムトを突破口にしてウクライナ軍を敗勢に追い込み、中国の和平提案をちらつかせながら、ロシアは平和を求める、戦争を欲しているのはウクライナ側だ、平和の敵はゼレンスキーだぁ、米国が戦争をやらしているんだぁ、というプロパガンダを行いたいのです。
日本にも、プーチンの思惑どおりのことを言っているロシアンフレンドが大勢いますね。
そのための冬期大攻勢でしたが、結果的には失敗に終わりました。
占領地は拡大せず、前線は膠着し、先鋒を任せたワグネル軍はおびただしい損害を出して、モスクワに怨念すら抱くようになってしまいました。
ウクライナ軍は、西側の支援物資がそろそろ到着しだしているので一転して反撃に入ろうとしていますが、両軍の前に立ちはだかったのが、ウクライナ東部名物春の大泥濘大会でした。
さと う🌛さんはTwitterを使っています: 「泥の季節は、冬の終わりから春の初めにかけて、雪や氷が溶けて土が濁り、旅行が困難になる時期です。」 / Twitter
ウクライナは世界有数の肥沃な土地ですが、それは晴れていればの話です。
いったん雨が続けば、東部の道は黒い泥土に覆われ、あらゆる車両、装軌車は通行することさえ困難になります。
かつてのドイツ軍の進撃をはばんだのも、この春の大泥濘でした。
雨が上がり、道がよくなり、そしてNATOとノルウェイから約束の年間100万発の砲弾が届けば、ここからが勝負です。
【世界の論点】ウクライナ反攻 露軍後退 - 産経ニュース (sankei.com)
ウクライナに平和と独立を
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そんな今日の我が国では、専門外の文学者とかロシアン・プロパガンダの手羽先の先生とか共産党とかが、「ウクライナ戦争は外交の失敗」論に一斉に勤しみ始めましたとさ。
だのに、「ではウクライナはどうしたらよかったのか」「では正しい避戦外交のやり方を教えてください」的な質問が付いても、誰も全然答えないの。
莫迦底無し、ブラックホールみたいにその重力圏に入ると脱出できなくなるかもしれないから、近付かないで無視が良し。
投稿: 宜野湾より | 2023年3月28日 (火) 18時29分
あの時、西側からは「バフムトを放棄してもいいのでは」と言う意見が多数でした。けれど、ゼレンスキーは「(バフムトからの)撤退はしない」と頑張った。ここでの被害割合は7(露):1(宇)~10;1だと言います。
ロシア軍が70年前の多連装ロケット砲カチューシャを90年前の牽引トラックで運搬している映像が出ています。
攻守が逆転する展開が予想され、ロシア軍の物資枯渇が本格化していそうです。クリミア内陸部でのドローン攻撃や、無人攻撃艇によるロシア海軍基地への攻撃も要注目です。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年3月28日 (火) 19時33分