岸田氏の「必勝しゃもじ」がなぜ悪い
いつもお世話になっている(笑)日刊ゲンダイさんが、首相の「必勝シャモジ」についてこんな厭味を垂れています。
「必勝しゃもじ」がかつてない逆風にさらされている。岸田首相がウクライナの首都キーウでゼレンスキー大統領に直接会った際、地元・広島の名産品として贈呈したからだ。1年以上もロシアの侵略にさらされる戦時大統領に必勝グッズを贈る見識のなさ。物見遊山気分だったのはバレバレ、非難を浴びて当然だ。(略)
平時の外遊ならまだしも、侵略されている戦争当事国に「必勝しゃもじ」を贈る能天気ぶりに、ツイッター上は〈理解に苦しむ〉〈感覚が異常〉などと大荒れ。きのうはツイッター上で「必勝しゃもじ」が一時、トレンド入りした。岸田首相が贈呈したしゃもじは50センチ大で、「必勝」の文字と共に「岸田文雄」の署名入り。岸田首相一行がキーウ入りの際に列車に積み込んだ「うまい棒」の段ボールに梱包されていたとみられる。国際ジャーナリストの春名幹男氏がこう言う。
「2016年、当時のオバマ米大統領が現職として初めて被爆地・広島を訪問した際、4羽の折り鶴を持参して話題になりました。県民をはじめ、日本国民の琴線に触れる贈り物だったと思います。贈られる側の気持ちや立場を考えていたからこそ、出た発想でしょう。かたや岸田さんはどうか。ウクライナの風習・文化は脇に置いて、とりあえず『外交慣例』として『地元名産品』を贈った。思慮の浅さ、押し付け感が否めません」
(日刊ゲンダイ2023年3月25日)
岸田首相キーウ手土産「必勝しゃもじ」の能天気…広島訪問オバマ氏持参「折り鶴」とは大違い|ニフティニュース (nifty.com)
立憲の石垣のりこ議員も、こんなことを言ってディスっておられるようですが、「思慮が浅い」のはあんただ。
では、デスク用品セットか、博多人形でも贈ったほうがよかったのかな。
そもそもわざわざ国会で取り上げることかね。ま 、共同声明文書など満足に読んでもいないんだろうけど。
FNN
「立憲民主・石垣のりこ議員:(参院予算委)
選挙とかスポーツ競技ではありませんので、日本がやるべきはやはり、いかに和平を行うかであって、「必勝」というのは、あまりにも不適切ではないかと思うのですが、その点いかがでしょうか?
岸田首相:(参院予算委)
ウクライナの方々は祖国や自由を守るために戦っておられます。我が国としてウクライナ支援をしっかり行っていきたいと考えております」
(FNN3月24日)「
必勝しゃもじ」侵略されたウクライナには不適切?岸田首相の手土産に野党批判 後援会土産の「まんじゅう」論争も(FNNプライムオンライン) - Yahoo!ニュース
共同宣言を多少でも吟味するのが国会の仕事のはずですが、なぁにいってんだか。
私はずいぶんと彼らしくもなく、ストレート勝負に出たなと思ったんですがね
この国際ジャーナリスト氏は、オバマの折り鶴と岸田氏の必勝しゃもじを比べていますが、馬鹿ですか。
あのね、「贈られる側の気持ちや立場」というなら、オバマ訪日時のわが国は侵略も受けず天下泰平でした。
だから、オバマは誰かに知恵をつけられて折鶴のひとつも持って行ったのでしょうが、あれが日本人の心に響きましたっけね。
感動は、むしろ彼が被爆者の老人を抱いた時に起きました。
これは米国が許しを乞うたと、国民はとらえました。
そしてもう赦す時期になったのか、と思ったのです。
オバマ米大統領、広島で献花 被爆者の手を握り、抱き寄せ - BBCニュース
このオバマの広島訪問は、安部氏のパールハーバーと議会演説が対になっています。
この安部氏の議会演説は、このようなロジック構築がなされています。
この安部米議会演説は英語でなされ、おそらく日本人が国際社会で行った最高の演説のひとつに上げられるはずです。
※外務省米国連邦議会上下両院合同会議における安倍総理大臣演説「希望の ...
土曜雑感 安倍首相米国議会演説の新鮮な凄味: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
ひとつめは戦争犠牲者に対する慰謝、ふたつめは寛容による和解、みっつめは敵対から同盟へという筋道でした。
ただひたすら反省してみせるのではなく、共に死者を悼むことを通じて、許し合い、いまある友情を育むという流れです。
これがドレスデン和解という知恵です。
ドレスデン和解とは: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
ローマン・ヘルツォーク大統領
1995年2月13日、ドイツ統一後2代目大統領・ローマン・ヘルツォークのドレスデン追悼式典で 、このように述べています。
この演説は、自国民に対して向けられたのではなく、招待されたイギリス女王名代・ケント公、米国統合参謀本部議長・ジョン・ジャリカシュビリ、英国・ナウマン・インジ国防幕僚長という制服組トップ、駐独・英米大使に対して向けられていることを留意してください。
ヘルツォークは、まずこう言います。
「まず死者に対する哀悼を捧げたいと思います。それは文明の起源にまでさかのぼる人間感情の表現です」
その上に立って、死者に戦勝国も敗戦国もなく、敗戦国が死者を追悼することは戦争犯罪を相殺することではないとしています。
「我々ドイツ人が他の国民に対して行った犯罪行為を自国の戦争犠牲者、追放の犠牲者によって相殺しようとしている、と主張する人に対してはそれが誰であるにせよ抗議する」
ヘルツォークはドイツ民族が巨大なナチス犯罪が故に、自国の犠牲者を弔ってはならないのか、これは連合国がよくいう「相殺主義」なのかと問うています。
そしてこう畳みかけます。
「生命は生命で相殺はできない」「死者の相殺はできない」
なんの飾りもない肺腑をえぐる言葉です。これが後に「ドレスデン和解」と言われる神髄の部分です。
ウクライナで岸田氏がしたのは、この別バージョンです。
岸田氏は、ロシアの非道によって亡くなられた死者を追悼することによって、ウクライナと同じ目線に立ちました。
その象徴が、もうひとつの贈り物である宮島御砂焼の折り鶴です。
人はこうべを垂れてなにものかに祈る時があります。
無惨に失われた多くの生命に対して許しを乞い、彼らの魂の救済を祈るのです。
そしてそれを止められなかったわが身の無力さを感じ祈るのです。
ウクライナ電撃訪問の岸田首相、ブチャで献花「平和取り戻すため最大限の支援」(字幕・22日) | Watch (msn.com)
折り鶴はいうまでもなく平和への希求ですが、そのためにはいまはまずはロシアに勝たねばなりません。
石垣議員のように安全地帯で言うだけの「和平」は、ロシアの恒久的占領と虐殺の続行を意味します。
そのような「和平」はなった時から虐殺が始まるのです。
ロシア軍をウクライナ全土から追い出さねばなりません。
これは共同宣言に「ロシアは、直ちに敵対行為を停止し、ウクライナ全土から全ての軍及び装備を即時かつ無条件に撤退させなければならない」と書き込まれているとおりです。
つまりは勝つこと以外、平和は訪れないのです。
このことを岸田氏は理解していたと思います。
ゼレンスキーと会談する前にブチャを訪れたのは、日本がウクライナと連帯する気持ちを現しており、現地で「強い憤り」を表明し、「平和を取り戻すために最大限の支援を送る」と言明しました。
この岸田氏の訪宇の流れを見てなにも感じなかったら、そちらの方の問題です。
立憲の石垣氏は、「選挙とかスポーツ競技ではありませんので、日本がやるべきはやはり、いかに和平を行うかであって、「必勝」というのは、あまりにも不適切ではないか」だそうですが、そのとおり首相が訪問したのは戦争であり、いまウクライナが血を流しているのモスポーツではなく戦争です。
だからこそ、ゼレンスキーに「必勝しゃもじ」を送ったのです。
「和平」はどこか天の一角から舞い降りるものではなくもぎ獲るものです。
和平とは勝利の同義語であり、勝利なき和平は敵の軍隊による占領と虐殺の言い換えにすぎません。
もちろん、この家族や友から贈られた「必勝しゃもじ」を雑嚢に入れて、日本軍の兵士がロシアと戦いに赴いた故事を、岸田氏は知ってそうしたのでしょう。
そしてその兵士たちの多くは首相の地盤の宇品港から出陣し、還らなかった兵士も多かったと聞きます。
ですから、「必勝しゃもじ」には、祖国に殉じてロシアと戦った兵士たちの思いも託されているわけです。
ゼレンスキーはこうテレグラムしているようです。
「本日、岸田文雄首相と話し合った重要な課題は、安全保障です。私たちは、安全保障協力の拡大に関する対話を継続することに合意した。我々は、ロシアに対する更なる制裁圧力、ロシアの侵略によって侵害された正義を回復する方法、そして日本の七カ国グループ議長国としての枠組みでの協力について話した。我々は、ウクライナの復興に日本が関与することに焦点を当てた。
本日の会談の結果、我々は「ウクライナと日本の際立ったグローバル・パートナーシップに関する共同声明」に署名した。この文書には、私たちが共に守ってきた価値観と、まだ実現されていない私たちの願望の両方が反映されています。
岸田総理から、一枚の木の板を託された。
日本古来の呪術の板のようなもので、そこには必ず勝つと書かれている。
テロリストを止めることができるのは、ただ1つ、我々の勝利だけです。そして、私たちはそれを確実にする–ウクライナの勝利を。
会談とウクライナへの強い支援に感謝します」
おお、「呪術の板」ですか(笑)。あたらずとも遠からず。
120年前、「必勝しゃもじ」を持った兵士らの犠牲の上に、我が国はロシアの植民地化を免れました。
ロシアは執念深いので、ちゃんとこの「必勝しゃもじ」に込めた日本人の「呪術」を理解していました。
それを伝えるロシア官製タス通信です。
「かつて、日本兵はシャモジ米スプーンに祈りを捧げ、お守りとして戦いに持っていきました。日本のメディアによると、ゼレンスキーに贈られた「シャモジ」は「真の勝利」というインクで書かれ、寄付者の名前である岸田文雄首相が示されました」
Премьер Японии подарил Зеленскому солдатский талисман времен русско-японской войны (tass.ru)
石垣のり子氏よりわかっているぞ。
下の写真は、ロシアとの戦いに出征する前に宮島を詣でた兵士らが奉納した厳島神社の「必勝しゃもじ」の柱です。
彼らはその足で宇品港から戦地に赴きました。
廿日市市宮島歴史民俗資料館
願わくば、ウクライナの人々が、「呪術の板」の後ろに、東方のちいさな島国がロシアと戦い勝利を納めたな歴史があることを知られることを祈ります。
キーウ南方で爆撃、1人負傷=ロシア軍のイラン製無人機―ウクライナ - 海外経済ニュース - 時事エクイティ (jiji.com)
ウクライナに平和と独立を
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日刊ゲンダイは芸能人やネット住民の流れを見てから乗っかって政権叩きしてるだけで、ジャーナリズムと言えるのかすら疑問。
野党議員もそんなの国会でやるなと。時間と国費の無駄です。
ついでに日本がNATOに供託の形で3000億円出すとした点についても「交戦国への戦費供与ではないか?」と、これが自民党議員から出た質問ならあくまでも「違う事の確認」だったんでしょうけど···自分で調べたりしないんですかね。
最近やたら見かけるクラウドファンディングとか知らないんでしょうね。目的外使用はできません。ウクライナに今現金手渡しても使い用に困るし、それこそ武器購入されるかもしれないからNATOを通しただけでしょうに。
投稿: 山形 | 2023年3月27日 (月) 05時57分
日本人個人の中でどう思うかは好き好きで何の問題もなく、贈られた側のウクライナは、駐日大使が歓迎しているし、ウクルインフォルムの平野高志氏によれば、氏による必勝しゃもじの解説が現地メディア5つ以上において「象徴的お守り」などの見出しで紹介され、平野氏には肯定的感想が寄せられているとのことで、否定的または冷笑的になる日本人が思っているほどには、ウクライナの方々は気にしておられない。
多くのウクライナの方々がこのロシアからの侵略戦争に対してどうしたいと、何を目指したいと考えているのかという視点の欠落した「しゃもじ不適切!」国会論議やマスコミ報道は、めっちゃ不毛。
投稿: 宜野湾より | 2023年3月27日 (月) 13時10分
那覇在住の時に数回コメントさせて頂いた事がある者です。
自分の名前をどんなものにしていたか忘れてしまったので、
その時と違う名前だと思いますが、失礼致します。
昨日私の友達がFacebookで紹介していたのですが、
ウクライナでは木べらを台所に飾る風習があるそうです。
勝利を祈ったりするものではありませんが。
友達は以前それを現地でプレゼントされて、今でもそれを台所に飾っているそうです。
そのことを知ると、『日刊ゲンダイ』さんの
「ウクライナの風習・文化は脇に置いて、
とりあえず『外交慣例』として『地元名産品』を贈った。」
というのは、自分こそウクライナの風習・文化を知らずに岸田氏を批判した形になるかと。
木べらとしゃもじは形は違いますが、似たような物。
日本にも同じような文化がある。心は同じだ。
私達はあなた達の味方だという、それこそもしかしたら
心に響く物になる可能性があったかもしれません。
まぁ、「呪術の板」と書かれているので、
もっと怖い雰囲気に思われたかもしれませんが。
私は友達の投稿を見るまでこの風習を知りませんでしたが、
知ったことにより、逆に、奥が深い、と思った次第です。
投稿: 転勤族の妻 | 2023年3月27日 (月) 13時58分
簡潔ですが、他では見る事の出来ない素晴らしい記事でした。
この「呪術の板」は、つまりは「日本人の信仰」と言う事。
しゃもじは宮島の発祥とも言われ、米作文化の象徴的道具。
古来、道具は「神の手」です。だからそれを大切にして願いを込め、成功のための縁起物としたのが「必勝しゃもじ」です。
ゼレンスキーはさすがに意図を理解していて、岸田の「ウクライナと共にある」という言葉の裏付け、日本国への信頼を感じたと思います。
それにしても、露タス通信の解説はお見事です。さすが、敵国研究には余念がないと言うべきか。
小沢一郎議員は「多くの命が犠牲となる戦争というものの本質を全く理解していないからこそ、このような無神経なことができる。言葉も無い」。
立憲の泉は「戦争中の緊迫した国家の元首に対し贈るのは違和感がぬぐえない。本来必要なのは、発電機やカイロなど、実際にウクライナの民生に役に立つものだ」。
維新の馬場でさえ、「生きるか死ぬかという戦いの場に、地元の名産品を持って行くのはお気楽すぎる」とするなどとし、彼ら自身が到底リーダーとして世界に送り出せる器でない事がまんま露呈しちゃってます。
岸田首相に対しては様々不満がありますが、逆に例えば駐日中国大使の離任挨拶を受け付けませんでした。
時代は流れていて、世界のフェーズは常に変化していきます。
少なくも岸田首相はそこを理解していて、必要な日本の立ち位置を明確にする事の出来る総理大臣だと思います。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年3月27日 (月) 16時34分
言霊の国らしく日本では、シャモジを「飯取る」→「(敵を)召捕る」という意味で、縁起を担いでいるそうです。いい歳をして私は、そんな謂れだとは全然知りませんでしたわ。
それにしても私個人の感想としては、シャモジはやっぱり国際的には一般受けするものではなく、貰った方としては日本古来の「呪術の板」としか解釈のしようがなくて、本来の用途である飯すくいスプーンに至っては何んじゃらホイ???とフリーズさせてしまいますわ。
それに、首相訪問時の護衛などをウクライナ当国におまかせしなければならなかったような国に「必勝」とか言われても、なんだかなぁーと思われても不思議じゃありません。ゼレンスキー大統領は大人だから、喜んで感謝してくれたんでしょうけど。
私個人としては、マジで激戦中の外国に対して内輪受けのようなシャモジは贈り物としてイマイチの感がありました。シャモジが宮島のあるご当地広島の名物である点も、広島サミットへの宣伝とも取れて、ウクライナにとっては有難迷惑だったと思いますわ。しかし、私達一般国民があーだこーだ言うのはアリとして、国会のセンセイ方がシャモジで議論するなんてナンセンスですわ。
強運持ってる岸田首相なんで、ここからウクライナが大反撃してロシアを打ち負かし、日本の「マジック ライススプーン」 として大人気になるような予感もしていますわ。検討使と言われ、諸外国に比べ1年遅れで、まだコロナ騒ぎのマスクが取れない日本なのに、内閣支持率は低くありません。
投稿: アホンダラ1号 | 2023年3月27日 (月) 21時39分
しゃもじが国際理解を得てしまったので、メディアはせめて日本国内だけでもネガティブな記録を残そうとばかりに書き立てているように見えてしまいます。
10年20年経って当時を忘れた人が振り返った時「岸田はしゃもじだけ恥」がいくつも検索で上がるようにね。
3月27日の参議院本会議で中国の和平案について総理がコメントした
「ウクライナの将来を決める交渉にいかに臨むかは、ウクライナの人々が決めるべき問題だ」
これも繰り返していくべきフレーズです。大国に挟まれた我が国は実は同じ境遇にいつ何時なってもおかしくない訳で。
岸田総理をはじめ林外相、松野長官もかな、政権のメンバーはウクライナについて語るとき「ロシアによるウクライナ侵略」という表現を使います。これも、何かどっちもどっちな理由があってロシアが攻撃してるのでは決してない。という意味合いを私は感じています。
投稿: ふゆみ | 2023年3月28日 (火) 00時59分