バフムト戦線でのロシア軍のゾンビーアタック
プーチンは、3月中にドンバス地方の2州(ドネツク州、ルハンシク州)を完全占領しろと、ロシア軍に対して 命じました。
ロシア軍は全力を上げて攻撃を仕掛け、ウクライナ軍は一時守勢に立たされていました。
特に激戦地だったのはバフムトで、特に戦略要衝とも思えない都市でしたが、何千人もの血を吸う街となってしまいました。
このバフムト戦線で、ロシア軍がとった戦法が「ゾンビーアタック」です。
NHKが4日に放映したように、捕虜にとなったワグネル戦闘員から、ゾンビーアタックの異常な実態がわかってきました。
ワグネルはプーチン直属のよく言ってやれば「民間軍事会社」、有体にいえば「ならず者集団」ですが、様々な不正規戦争に投入され、残忍な爪痕を残してきました。
このウクライナ戦争にも使い回され、いまや大量の兵力の消耗によって、囚人や精神障害者までを「徴兵」し、特に殺人犯を前線に配してきました。
ここでワグネルが使った戦術が、ゾンビーアタックです。
映画『スターリングラード』をご覧になった方は、主人公がスターリングラードにいきなり連れてこられて体験するので覚えておられるかもしれません。
突撃する部隊の半分は丸腰である。
映画 スターリングラード (2001) - YouTube
主人公らは、銃を渡されずに突撃させられ、前の兵士が死ぬとその銃を拾って戦えと命じられます。
機関銃で撃ちまくるドイツ軍になにも持たずに突撃しろというのですから、当然全滅になりますが、それでかまわないのです。
その分しか銃は用意されていないし、兵隊の生命など無価値だと考えているから、銃のような貴重な物資は二人に一丁で充分だと考えていたのです。
したがって全滅するのは想定内で、むしろ死んでくれないと銃の数が足りません。
同上
逃げて来る味方を機銃掃射する督戦隊。
当然ほとんど全員が死にますが、わずかに生き残った者は命からがら自軍の前線に戻ろうとします。
しかしそこに待っているのは、味方の督戦隊の機関銃です。
戻ろうとした兵士は全員が「逃亡兵」として射殺されることになります。
中国軍人海戦術。これは映画。
朝鮮戦争の赤い津波 - ニコニコ動画 (nicovideo.jp)
ちなみにこの戦術は、中国軍が朝鮮戦争や後の中越戦争で使用しました。
中越戦争では中国軍は人海戦術を多用し、膨大な戦死者を出しています。
まぁ、一人っこ軍隊の中共軍に、今それをやれといっても無理でしょう。
中越戦争 - Wikipedia
よく混同されるのは、日本軍のいわゆるバンザイアタックですが、これは追い込まれてしまって選択の余地がない場合の最後の戦術でした。
初めから武器すら与えず突撃させたわけではありませんので、念のため。
この映画の冒頭に描かれたゾンビーアタックのシーンは、当時から話題を呼んでいて、いくらなんでもあれはないだろうと言う者も多かったのですが、なんとまたバフムトで復活して実在することを証明しました。
今回もまた、第1波の部隊だけはいちおう自動小銃を持たされてていますが、砲撃と戦車の支援なきむき身の兵士の突撃は自殺行為にすぎませんから、たちまち全員が戦死します。
しかし続く第2波は銃さえ持たないで突撃させられ、第1波の戦死者が落とした銃を拾って、再び突撃しますが、もちろん生き残れません。
そして第3、第4、と果てしなく再現なく飽和攻撃を仕掛けるのです。
吐き気がするような戦術で、こんなものを軍隊の「戦術」と呼ぶべきかさえ迷います。
このゾンビーアタックと戦ったウクライナ側の証言です。
CNN
「ワグネルの戦い方では、主に刑務所で直接徴集した新兵からなる第1陣をまず送り込む。彼らは軍事的な戦術についてほとんど知識がなく、装備も貧弱だ。大半は、ただ半年の契約期間を生き延びて釈放されることだけを期待している。
「彼らは10人ほどのグループを組んで、30メートル進むと穴を掘り始める。そこで陣地を確保する」と、アンドリーさんは説明する。続いて別のグループがまた30メートル進む。そうした形で徐々に前進しようとするが、その間に多くの犠牲者が出るという。
第1陣が損耗し切るか進めなくなって初めて、ワグネルはより経験を積んだ戦闘員を送り込む。大抵は側面から、ウクライナ側の陣地の制圧を狙ってくる。
この攻撃は恐ろしいもので、現実と思えない経験だったと、アンドリーさんは振り返る。
「味方の機関銃手は正気を失いかけた。撃ったはずの敵が倒れないと言っていた。しばらくして血を流すか何かした後、ようやく倒れると」
アンドリーさんは戦闘の様子をゾンビ映画のワンシーンになぞらえる。「彼らは味方の死体を乗り越えてやってくる。死体を踏みつけにして」「攻撃の前に、何か薬物でもやっているとしか思えない。そんな感じだ」
(CNN203年2月2日)
まるで「ゾンビ映画」、ウクライナ軍兵士が語るワグネルとの戦い(1/3) - CNN.co.jp
別の米国人義勇兵(ウクライナ軍少佐)は、かねてから新兵を弾除けに使っていたと述べています。
「ロペス それも本当です。ドネツクやルハンスクの志願兵や徴集兵の大隊の中には1932年や1941年に製造されたライフル銃を使っているところもあると聞いています。ロシア軍はこうした部隊を使ってウクライナ軍の位置を探り、他の部隊が砲撃できるようにしています。32年や41年に製造されたライフル銃を持たされた部隊は殺されてしまいます。気が狂っているとしか思えない戦法です」
(木村正人2022年6月13日)
専制国家しかやれないような非人道的戦術ですが、これが復活したことをNHKは、ウクライナ軍に捕虜となったワグネル指揮官から聞き取りしていますので、おそらく真実だと考えられます。
ただし、この戦法は一定の「合理性」を持っています。
相手軍が気持ちが悪くなんて精神をおかしくしてしまったり、弾薬を極度に消耗するために継戦能力を喪失しかねないからです。
ロシア軍は、ワグネルや動員して戦い方も知らない新兵に弾除けの役目を負わせて、自軍のベテラン兵らはその後に前進します。
そして実際にバフムトでは、ウクライナ軍の前線に綻びが生じました。
ワグネルのボスであるブリゴジンはこう言っています。
NHK
「ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏は3日、SNSで「ワグネルの部隊はバフムトを実質的に包囲した。残された道路は1つだけだ」と強調し、ウクライナのゼレンスキー大統領に部隊を撤退させるよう促しました」
(NHK3月4日)
ワグネル「バフムトを包囲した」 ウクライナは徹底抗戦の構え | NHK | ウクライナ情勢
確かに最大の激戦地であるバフムト正面では、民間軍事会社ワグネルを中心としたロシア側の攻撃が徐々に前進し、ウクライナ軍を包囲する態勢ができつつあることは事実のようです。
しかしそれは「限定的で、ウクライナ軍の退路は確保されており、むしろロシア軍の移動が制限されている」ようです。
NHK
「ウクライナ軍は、バフムトの一部からの統制された戦闘撤退の条件を設定しているようだ。 ロシア軍は、戦前の人口約70万人の都市であるバクムットを奪取するために戦っており、その過程で壊滅的な犠牲者を出している。
3月1日に投稿されたジオロケーション映像は、ウクライナ軍がバクムット地域の28つの重要な橋、バクムット北東部のバクムティフカ川を渡る橋と、バクムットのすぐ西にあるクロモフト-バクムットルートに沿った橋を破壊したことを確認している。
橋の先制破壊は、ウクライナ軍がバフムト東部でのロシアの移動を阻止し、バクムットからの潜在的な西向きのロシアの出口ルートを制限しようとする可能性があることを示している可能性がある。
ウクライナのオレクサンドル・ロドニャンスキー大統領顧問は、ウクライナ軍は必要に応じてバクムットの陣地から撤退することを選択できると述べた」
(ISW戦争研究所3月4日)
ウクライナ紛争の最新情報 |戦争研究所 (understandingwar.org)
一方、ロシア軍が重視しているドネツク州南西部の要衝ウフレダルでは、ロシア軍は数千人の犠牲者を出して攻撃が頓挫しています。
同じく、ルハンシク州のクレミンナやスバトベ正面でも大きな部隊が攻撃しているが、ウクライナ軍の激しい抵抗に遭遇し、攻撃は進捗していません。
ウクライナ軍は持ちこたえるのに手一杯であって、現時点では戦線は膠着状態にあります。
なおロシア軍は、今まで経験したことのない戦死者を積み上げています。
「ロシア軍がこの戦争で被った人員と兵器の大量損耗は、今後の戦況に大きな影響を与えることになる。
英国防省によると、2月末の時点におけるロシア軍の死傷者は20万人で、死者数は6万人に上る可能性があるという。
この6万人という数字は、第2次世界大戦以降の戦争で死亡したロシア兵士の数よりも多い。
戦略国際問題研究所(CSIS)のリポートは次のように分析している。
「ウクライナ戦争でのロシア軍の死者数は6万から7万人だ。ロシア軍の毎月の死者数は、チェチェン戦争での死者数の少なくとも25倍、アフガニスタン戦争での死者数の35倍である(略)
しかし、ロシアはウクライナで毎月約150台の戦車を失っており、再生可能数は損失数には及ばないだろう。
つまり、経済制裁下における兵器生産の限界により、戦車以外の兵器においてもその損耗を穴埋めできない状況だ。
その結果、ミサイルや弾薬は不足し、戦車等の主要兵器が不足する状況である。
ロシアは、イランや北朝鮮から弾薬や兵器を入手する努力をしているが、それでは不足を賄えない状況だ」
(渡部悦和 3月2日)
なぜロシア軍はこれほど弱いのか、中国人民解放軍が徹底分析 台湾統一を見据え、ロシアの失敗から多くを学ぶ目的(3/6) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)
また、ロシア軍の損害は控えめな見積もりですが、このように見積もられています。
実際はこれではきかないはずです。
プーチン、ついに“自滅”か…戦費「3兆円」ムダ遣いで、これからロシアが辿る「壮絶な末路」【2022年ベスト記事】(週刊現代) | マネー現代 | 講談社 (gendai.media)
ロシアは、戦車、大砲、砲弾、そしてなにより兵士という戦争資源が枯渇し、中国からの支援が喉から手がでるほど欲しています。
このロシアの窮状を充分知り尽くして、習近平は訪露をすることになります。
ウクライナに平和と独立を
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一説によるとロシア軍は1m進むのに20人以上が無力化される。
このゾンビアタックが一日中続くわけで、守るウクライナ兵も精神的にやられますね。
ウクライナはクレミンナ奪還に失敗したあと、ロシアが攻勢に転じましたが、進撃をなんとか食い止めてますね。
各地でロシアが攻勢をかけましたが、今現在その攻撃は弱まりつつあります。
ロシアはそろそろ次の動員をかける時期でしょうか、かなりの損耗だと思います。
イギリスがチャレンジャー2の14輌追加供与を決定をしましたし、ウクライナは今しばらく辛抱する時期です。
投稿: 多摩っこ | 2023年3月 6日 (月) 12時15分
陸軍の兵隊の損失の「17500人」と「1億7500万人」がもう…
意思に反して連れて行かれて、死んだら1人1万円て…
いくら何でも安すぎませんか。
投稿: ねこねこ | 2023年3月 6日 (月) 12時29分
受刑者を戦線に送り込む準備が明るみになった時から、このような非道な作戦の予測がついていたと言います。
けれど、実際にこのような目を背けたくなる行為が実行されているとなると、ナチス以下の狂気としか言いようがありません。しかも普通の動員兵までもがこの作戦の矢面となっているようです。
このような事実を前にしてもまだ、親露的な立場でいられる日本の方々の異常を思ってしまいます。
同時に、モスクワでぬくぬくと暮らしている一般市民の責任も重い。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年3月 6日 (月) 14時41分