岸田さん、筋を通しなさい
いわゆる自称「徴用工」訴訟問題に韓国が解決案を出してきました。
自分で勝手に騒いだあげく自分から袋小路に飛び込み、現金化もできず、謝罪ももらえず、日韓関係を史上最悪の氷河期にしたのですから、勝手にやれ、と突き放したくなります。
困ったのは、岸田政権がこの韓国案に前のめりになってしまっていることです。
まずは、韓国政府解決案の要旨を見ておきましょう。
<韓国政府の徴用賠償問題解決策全文> | 聯合ニュース (yna.co.kr)
①韓国大法院による2018年の3件の確定判決の原告に対して、判決金と遅延利子を支払う。
②同財団は強制動員被害者の苦痛と痛みを記憶し、未来世代に発展的に継承していくため、被害者追悼や教育・調査・研究事業などを積極的に推進する。
③財団の財源に関しては、民間の自発的な寄与などを通じて賄い、今後財団の目的事業に関連する可用な財源をさらに拡充していく。
④韓国政府は韓日両国が1998年10月に発表した「21世紀に向けた新たな韓日パートナーシップ共同宣言(金大中・大渕共同宣言)」を発展的に継承する。
⑤政府は最近の厳しい朝鮮半島や地域・国際情勢の中で自由民主主義、市場経済、法治、人権という普遍的価値を共有する最も近い隣人である日本と共に韓日両国の共同利益と地域、世界の平和繁栄のため努力していく。
ハンギョレ
気がつきましたか、韓国案はまるで「現金化」こそが焦点であるような書き方をしています。
あたかも「現金化」を日本側に求めさえしなければ、万事丸くおさまるかのようです。
いいでしょうか、「現金化」などは韓国の過激な原告訴訟団が、自分で可能かどうかもろくに考えもせずに日本企業からユスリとろうとしたロジックの結末にすぎません。
それにムン政権とその傀儡の大法院が相乗りして(というより初めから絵図を書いていたのは、ムン氏でしょうが)勝訴判決を出したために、二国間紛争にまで進展したのです。
そして本当に「現金化」したなら、わが国は条約違反としてそれなりの厳しい対応をとると警告してきました。
そもそも訴訟団の「現金化」の内容は三菱重工の商標権などですから、誰が買うもんですか、そんなもん。
ジャンク品にミツビシのブランドつけて売るとでも(笑)。
おそらくは初めから訴訟団の目的はそこにはなかったはずです。
日本統治時代に朝鮮半島で経済活動をしていたあらゆる日本企業に対し、「謝罪と賠償」を要求し莫大な「賠償金」をせびりとるのが本来の目的だったはずです。
韓国政府は6日、日韓の最大の懸案である元徴用…:元徴用工問題の解決策発表:時事ドットコム (jiji.com)
しかし日本側の毅然とした拒否に合って、ムン政権と訴訟団の目論見は全部狂い始めました。
彼らの知る昭和の日本政府なら、ここで早くも与党内部から「大人の解決」を言うものがうごめき始めて、する必要のない妥協をこちら側から言い出したことでしょう。
安部政権となってその悪しき風潮が消滅し、理をもって対応する、安直な妥協はしないという原則に立ち返りました。
この対応に逆上したムン政権は乱れに乱れまくったようです。
そこで無謀なエスカレーションに走ったのです。
自称「徴用工」問題とはまったく別次元の安全保障上の問題にすり替えて、日韓間の唯一の軍事的紐帯であるGSOMIAまで廃棄すると脅迫したり、海自の哨戒機にレーダー照射するなどの愚行に走りました。
こうなるともう話し合いもクソもありませんから、日本はムン政権であるうちは関係を凍結することにしたのです。
日韓関係が氷河期になろうと、痛くもかゆくもなかった、これが日本の本音です。
韓国がこれほど居丈高になっているのは、日本が伝統的に持っていた「朝鮮半島は日本の生命線」という安全保障の根本思想があったからです。
ところが今は、まったく消えたわけではありませんが、9割がた消滅しています。
朝鮮半島が生命線に見えたのは、南下してくるロシア熊を朝鮮半島で食い止める、という戦略を伝統的に日本が持っていたからです。
実際に日露戦争を戦った理由は、ロシアの南下阻止でした。
これは100年前のことではなく、ロシアは現代においても他国を平然と侵略する国家であることはウクライナ戦争で証明されています。
「ロシア対ウクライナ」地政学から見た紛争の裏側 | ウクライナ侵攻、危機の本質 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)
では、今、ロシアが極東方面において朝鮮半島経由で南下することがありえるでしょうか。
100%ないと思います。
ウクライナ戦争で国力のすべてを絞りきったロシア熊には、もはやそんなパワーは残されていないからです。
北朝鮮に対しては、特に韓国の協力などいりません。
必要最小限の弾道ミサイル情報の交換だけで充分です。
むしろムン政権のような親北政権が正恩にすり寄り、レーダー照射などやらかして戦争を挑発するほうがよほど危険です。
日本には既にFOIPと日英同盟とNATOとの連携が控えていますから、いまや韓国など生命線でもなんでもなくなっているのです。
日本が韓国に対して言わねばならないのは、ひとことでいえば「条約を守れ」です。
条約を尊重する、国際法を守れ、そしてそれに背くような自称「徴用工」訴訟を勝訴としたような違法状態を自分で無効化しろ、ということです。
かつて菅さんが会見で簡潔にこう述べています。
「まず国際法上、主権国家は他国の裁判権には服さない。これは決まりですから、そういう中でこの訴訟は却下されるべき、このように考えます。そして、日韓の慰安婦問題については、1965年の日韓請求権協定において、完全かつ最終的に解決済みである。ですから、韓国政府として国際法上違反を是正する、そうした措置を採ることを強く求めたいと思います。
我が国としては、このような判決が出されることは、断じて受け入れることはできません」
(2021年1月8日首相会見)
「主権国は他の国の裁判権に服さない」、そして慰安婦問題は65年の日韓請求権協定で終わっているし、さらにそれは日韓慰安婦合意で裏書きされている、これが日本政府の立場のすべてです。
この日本政府の立場は、なんど蒸し返そうと不変です。
したがって韓国政府が、日本企業へ支払いを求める権利(求償権)を無効化せねば問題解決にはなりません。
今回の解決案なるものにも、このことはまったく触れられておらず、韓国外務省も「最高裁判決を尊重しつつ実質的な解決方法を提示し、過去を記憶する新しい努力を推進する」と言っています。
つまり火種は別な形で温存されたのです。
再び、ムン政権のような親北の極左政権に交代すれば、財団が日本企業に「現金化」を要求することでしょう。
また、「ホワイト国」うんぬんに至っては、今回議題とすること自体がナンセンスです。
貿易上の問題と訴訟はまったく別の次元の問題であって、一緒にして騒いでいるのはそちらの国です。
わが国としては、輸出管理がしっかりと公正になされているか、北やイランに大量破壊兵器の素材を流してはいないかを明確にすることです。
そして、わが国の哨戒機に軍事的挑発をしたこと、自衛艦旗を入港禁止にするなどの不法行為を働いたことを反省することです。
これを同時期にパッケージでだしてきたことを日本側は警戒すべきなのに、同列で解決しようとして韓国の土俵に乗ってしまっています。
ところで、韓国のハンギョレは完敗じゃないかとお怒りのようです。
聯合
「これには強制動員に対する日本政府の直接の謝罪も、戦犯企業の謝罪と賠償も含まれていない。三菱重工業などの日本の戦犯企業の「損害賠償(慰謝料支払い)責任」を認めた大韓民国最高裁の最終確定判決(2018年10月30日、11月29日)とは接点が全くない」
(ハンギョレ3月6日)
最高裁判決・被害者の苦痛は無視…「日本完勝」もたらした尹政権 : 政治•社会 : hankyoreh japan (hani.co.kr)
それは韓国大法院判決とは「なんの接点もない」のはむしろ当然です。
●2018年10月30日 韓国大法院判決
a. 原告が請求しているのは未払賃金や補償金ではなく、「強制動員慰謝料請求権」(日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地支配及び侵略戦争と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権)に基づく慰謝料であること。
【韓国】[立法情報(日本関係)]元徴用工への損害賠償を確定させる大法院判決 (ndl.go.jp)
この大法院判決は、自称「元徴用工」の要求が未払い賃金の清算ていどにすぎなかったことを、「日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地支配及び侵略戦争と直結した日本企業の反人道的な不法行為」、つまり日本統治全体に対する謝罪と賠償まで間口を拡げてしまいました。
ムン政権と歩調を合わせた歴史問題の政治化です。
ですから大法院判決は、日韓基本条約の否定まで行き着きました。
これは慰安婦問題で当事者の要求からどんどん離れていき、原告の運動を乗っ取って反日暴走していく様によく似ています。
運動団体は解決したくないのです。解決すると終わってしまうからです。
今回も財団から金を受け取ろうとすると、慰安婦財団の時のように運動団体が大騒ぎして取り上げてしまうことでしょう。
日本が「帝国主義の野蛮な韓国支配」を謝罪し、日韓基本条約の改訂まで踏み込まないかぎり、「大法院判決とは接点がない」わけですから、これでは話になりません。
今回、韓国政府が日本に「野蛮な韓国支配を謝罪せよ」なんて要求したら、半永久的に解決は不可能だったはずです。(あたりまえだ)
だからこそ韓国政府は、韓国と日本のメンツがたつように、1998年10月8日に当時の金大中大統領と日本の小渕恵三首相が東京で共同で発表した「韓日共同宣言-21世紀に向けた新たな韓日パートナーシップ」を持ち出して軟着陸させようと思ったのです。
もちろん、永久に日韓が確執しているのがあるべき姿だと信じて疑わないハンギョレは、これについてもこう書いています。
(日韓共同制限は)「過去の直視」と「未来志向」だ。ところが尹錫悦政権は今回の解決策で、「未来志向」を口実として「過去の直視」という絶対的課題を投げ捨てた格好だ。
政府の発表に続き、日本は岸田文雄首相が「過去の談話を継承する」という表現で歴史に対する反省・謝罪を示すものと考えられているだろうが、これは侵略戦争に対する包括的な反省であって、強制動員問題に直接的に言及するものではない。また、日本の歴代政権は「談話の継承」の意思を表明してきたため、今回の問題に対する追加措置だともみなしがたい」
(ハンギョレ前掲)
林外相の「過去の談話を継承する」という発言でさえ、岸田氏はおそらく言葉使いに迷ったのでしょう。
「謝罪と反省」などと言ったら最後、自分が外相時代に結んだ慰安婦合意を覆して再び自称「徴用工」を持ち出したことを問わねばならなくなります。
岸田氏は慰安婦合意の当事者として、韓国政府に言わねばならないのは「歴史問題の再発防止」です。
「未来志向」というのなら、二度と歴史を外交カードとしない、と韓国に言わさなくてはなりません。
裏切られた外相として、2015年の慰安不合意で「最終的かつ不可逆的に」という一項が入っていることを思い出させてやるべきです。
それができて、初めて「過去の談話を継承する」と言ってよいのです。
「日本政府としては、共同宣言にある「小渕総理大臣は、今世紀の日韓両国関係を回顧し、我が国が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫びを述べた」という一文を、何らかの形で引用する形に持っていきたいのだろう。ただ、自民党内の一部には、日韓共同宣言に強い嫌悪感を示す声も上がっている」
(牧野愛博 2月8日)
「徴用工問題の解決」に焦る韓国・尹政権、「日本へのたってのお願い」はやはり「謝罪」と「献金」か(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース
今回、おそらくは米国国務省が圧力をかけていることは容易に想像できます。
ブリンケンのツイートです。
慰安婦問題の時もそうでしたが、米国は日韓関係が悪化すると必ず介入しますが、後始末をしていきません。
ムン政権が慰安婦合意を廃棄してしまった時もだんまりでした。
GSOMIAという米国の利害に直接関わるようになると、やっと韓国を叱ったていどです。
今回も似たことになるのではないかというのが、私の予想です。
岸田さん、前のめりになるのはけっこうですが、筋を通しなさいよ。
また左翼政権に戻ると、どうなるかわかったもんじゃありませんからね。
それにしてもこんなときに「小西文書」なんかやっているのですから、バカじゃないですか、うちの国の国会は。
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中央日報だったでしょうか、この徴用工問題の報復措置として日本側に輸出規制がなされた。
別問題なのに、韓国はこの言い分を変えませんね。
岸田総理が輸出管理規制を緩め韓国を元に戻したら韓国のいう報復措置が真実になってしまう。
安倍さんが築き上げたものを仕上げるどころか壊すようなことは止めて欲しい。
今回のことでも岸田政権にガッカリしました。
菅さんが日韓議員連盟の新会長就任の報を聞いて少しマシになるかと思いましたが、どうなりますことや。
ガーシーがうんたらたー、文書がかんまん
日本の国会は何をやってるんでしょう
投稿: 多摩っこ | 2023年3月 8日 (水) 14時17分
そもそも賠償金を「肩代わり」という文言が気に入りません。
日本にはまだ賠償すべきモノが残っているという事を意味しているのですから。
百歩譲ってその文言を黙殺するのが日本側が出来る最大の譲歩です。
それ以上の歩み寄りは韓国側が国内の賠償処理を全て精算してからの話だと思うのですが、また首相が周りの人間にそそのかされて下手を打たない事を願うばかりです。
投稿: しゅりんちゅ | 2023年3月 8日 (水) 17時00分
韓国側に相当ムシのいい内容です。
そもそも尹大統領率いる保守派こそが「植民地支配は不法だった」との主張であり、つまりは「朝鮮半島は日本国の植民地になった事はない」との考えの嚆矢です。どうせ共に民主党政権になれば求償権を行使する事も目に見えてます。
尹大統領のねらいは、日本を踏み台にして日米と同じフィールドに上がる事で対中スタンスの自由度を確保する事(鈴置氏)に尽きると思われます。
なお、この問題に関しては慰安婦問題と違い、当初から米国の日本への強い要請や圧力はなかったように思います。
3/7沖縄タイムス(共同電)によれば、この外交交渉の裏側について「(岸田政権は)安易な妥協に反対する保守派を懐柔するため、米国を引き込み仲介を依頼するなど周到に手を打った」としています。
米国の圧力を作り出し、保守派の正論を封じた岸田政府のやり方は党内に大きな禍根を残すでしょう。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年3月 8日 (水) 17時20分