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2023年4月

2023年4月30日 (日)

日曜写真館 明け易きはじめに動く青芒

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ありし日のことの次第も明け易き 飯田龍太

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いささかの心の咎に明け易き 中村苑子

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みしか夜のにわかにあけるけしき哉 正岡子規

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何につながれ何にもつれむ明易し 高野素十

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明け易き夜を初恋のもどかしき 正岡子規

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何事のなしに春の夜面白き 政岡子規

あす月曜から水曜日まではGW休みをとらしていただきます。
再開は4日木曜からです。
ブログ主

2023年4月29日 (土)

米韓「ワシントン宣言」の意味を読み解く

030

GW休みのお知らせ
今年は人並みにGW休みを頂戴いたします。
期間は来週5月1日月曜から5月3日水曜日までの3日間です。
木曜日からは平常の更新となりますので、ご了承ください。

少し驚きました。
ユン・ソンニョル韓国大統領が、米国から核配備について前向きとも思える対応を引き出しました。

20230428-105342

読売

「米国のバイデン大統領と韓国の尹錫悦ユンソンニョル)大統領は26日午前、ワシントンのホワイトハウスで会談した。両首脳は会談後、核抑止力の強化に向けた新たな協議体の創設を柱とした文書「ワシントン宣言」を発表する。
米韓両政府の高官によると、協議体は「米韓核協議グループ」(NCG)という名称で定例化する。核・ミサイル開発を進める北朝鮮をにらんだ米軍の核戦略について、韓国に「発言権を与える」(米高官)ものになるという。

北大西洋条約機構(NATO)に核抑止についての閣僚レベルの協議体「核計画グループ」があり、米韓の協議体のモデルになる。韓国では米国の「核の傘」を含む拡大抑止が実際に機能するのかどうか不安視する声があり、これを払拭(ふっしょく)する狙いがある」
(読売4月26日)
米韓首脳が「ワシントン宣言」発表へ…NATOモデルに核抑止の協議体創設(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース

ここでユンとバイデンが取り交わしたワシントン宣言について、原文をあたっておきましょう。
報道だけでは、米韓が「核抑止力の強化に向けた新たな協議体の創設」とだけしか書いてありませんが、果たしてそれだけなのでしょうか。
ホワイトハウスから「ワシントン宣言」の原文が公開されています。

20230428-110410
ワシントン宣言 |ホワイトハウス (whitehouse.gov)

日米同盟にとって歴史的な年を記念して、バイデン大統領と尹大統領は、これまで以上に強固な相互防衛関係を発展させることを約束し、米韓相互防衛条約の下での共同防衛態勢へのコミットメントを可能な限り強い言葉で確認した。米国と韓国はインド太平洋の平和と安定にコミットしており、両国が共にとる措置は、その基本的な目標を推進するものである」

「ワシントン宣言」の大前提は日米同盟なのですよ。
米国は「日米同盟の歴史的な年を記念して」とわざわざ断った上で、日米同盟の枠内で米韓安保を強化し、ユンのかねてからの持論であった核の共有について一歩踏み込んだ答えを出しています。
逆に言えば、日米安保から離れた独自核武装など絶対に許さない、ということです。
わかりますか、韓国さん、日米同盟あっての米韓同盟なんですからね。
だからGSOMIAを韓国の側から廃棄するなんて、考えられもしない暴挙だったのです。

「韓国は、米国の拡大抑止力に全幅の信頼を寄せており、米国の核抑止力に永続的に依存することの重要性、必要性、利益を認識している。米国は、米国の核態勢見直しの宣言的方針に沿って、朝鮮半島における核兵器の使用の可能性について韓国と協議するためにあらゆる努力をすることを約束し、同盟はこれらの協議を促進するために強固な通信インフラを維持する
尹大統領は,世界的な不拡散体制の礎石としての核不拡散条約に基づく義務及び原子力の平和的利用に関する協力に関する米韓協定に対する韓国の長年のコミットメントを再確認した」
(ワシントン宣言前掲)

なるほど、おもしろい。
ともすれば米国の拡大抑止から離れて離米するる傾向のある韓国に対して、核不拡散条約(NPT)の義務を忘れるなと釘を刺した上で、米韓の核について緊密な連絡を取り合おう、というのが米国の回答です。
もちろん「NPTの義務 」と断ったのは、勝手に独自核武装なんかすんじゃねぇぞ、という意味です。

そして今回作ると言っている「核兵器使用のための協議体」(Nuclear Consultative Group NCG) は、誰に対して作るのでしょうか。
共同記者会見でそれについて、はっきりと名指ししています。
直接的には北朝鮮、そしてその背後にいる中国です。
これについては、共同記者会見で明示しています。

「米国のバイデン大統領は26日午後(日本時間27日未明)、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との共同記者会見に臨んだ。北朝鮮が核を使えば「いかなる政権でも終焉につながる」と話した。両氏は核抑止の強化に向けた新たな協議体の創設を発表した。
両氏はホワイトハウスで開いた首脳会談の成果を説明した。バイデン氏は「北朝鮮による米国や同盟国、パートナーへの核攻撃は容認できない」と強調した。「米韓相互防衛条約は鉄壁だ。拡大抑止への責務と核抑止力を含む」と話した。
会談で拡大抑止の強化に関する「ワシントン宣言」を採択した。協議体の新設方針などを盛り込んだ。
(日経4月27日)
米韓、核抑止へ協議体創設 「核使用なら北朝鮮は終焉」 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

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米韓首脳の共同記者会見 | 時事通信ニュース (jiji.com)

表現も、トランプ並に、北朝鮮が核を使えば「いかなる政権でも終焉につながる」という強い表現となっています。
核戦略で「その国の終焉」と言ったなら、これは核報復を意味するのはいうまでもありません。

ユンにとって、ほぼ満額回答じゃないかな。
ユンは大統領候補だった時代から、こう言っていました。

「ユン元総長は、前日に外交安保分野の公約のひとつとして「北朝鮮の核の脅威に対処するために、韓米拡大抑止を強化する」とした。韓米間の大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機など、米国の核兵器戦略資産展開協議の手続きを設け、定例的に核兵器の運用訓練など、北朝鮮の核・ミサイルの能力を抑制するための韓米共助の強化も約束した。
また、韓米拡大抑止の強化にもかかわらず、国民の安全が脅かされる場合には戦術核配置・核の共有などを米国に強く求めるとした」
(朝鮮BIZ 2021年9月23日) 
(中, 윤석열 ‘전술핵 배치 요구’ 공약에 반발…“책임 있는 행동 아냐” (naver.com) 

ここでユンが主張している「戦術核配置・核の共有 」とは核シェアリングのことで、米国に緊急時の核の持ち込みを要求したものです。

「韓米の核協議グループは、米国とNATO(北大西洋条約機構)の核企画グループ(NPG)とは異なり、戦術核の配備は排除している。北韓大学院大学のヤン・ムジン教授は「NATOより実効性があるだろうとする展望は、韓米2国間の議論の迅速さのみに重点を置いた分析」だとし「(核戦力の使用の)最終決定権が米国にある状況においては、実際に核の傘が作動するのかという疑問は依然として残っている」と評した」
(ハンギョレ4月28日)
韓国への戦略原潜の拡大配備…北東アジアの緊張、コスト負担の「高い請求書」(ハンギョレ新聞) - Yahoo!ニュース 

ハンギョレさん、あたりまえです。
ヨーロッパの核シェアリングにしても決定権を持ってるのはあくまでも米国であることは韓国と同じです。
核シェアリングができたのも、冷戦当時に核戦争の危険性がきわめて高かった時期があるからで、米本土から輸送しては間に合わないから、ヨーッパに前進配備したのです。
当該国に核の発射ボタンを渡したら、危なくって仕方がないでしょうが。
勝手に核戦争などやられて全面核戦争に発展したら目も当てられませんからね。

だから、米国にしてやれることは核の協議体を作って韓国の認識とすり合わせを頻繁に行うことと、核ミサイルを搭載した戦略原潜をあえて目立つように韓国に寄港させるデモンストレーションていどのことなのです。
これが単なる示威だとわかるのは、通常米海軍は戦略原潜の位置情報は絶対に公開しないからです。
メディアは「韓国に戦略原潜派遣」などと言っていますが、常に朝鮮半島近海にいるわけじゃあるまいし、潜ってしまえばどこにいても同じことです。
バイデンがユンに花を持たせたのですよ。

20230429-033857

〝最恐〟米軍兵器、韓国寄港へ 十数都市の破壊が可能「オハイオ」級原潜とは 位置情報明かすのは極めて異例 北朝鮮にとって脅威 - zakzak:夕刊フジ公式サイト

このユンの発言について中国は敏感に反応し、こう言っています。

「韓半島問題における中国の立場は一貫して明確である」とした。続いて「韓国の政治家が朝鮮半島の核問題を利用して言うことは、責任ある行動ではない」と述べた」
(朝鮮BIZ前掲)

ついで訪米前にユンが、台湾問題に対して「力による現状変更に反対」と至極くあたりまえことを言ったユンの発言についても、中国様はいたくお怒りのようです。

「(尹錫悦大統領の発言は)到底受け入れられない。厳重な憂慮と強烈な不満を提起する」
 米中戦略競争の「最前線」である台湾問題について、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が19日のロイター通信とのインタビューで、「力による現状変更に反対する」、「(この問題は)北朝鮮問題のように地域の次元を越えた世界的な問題だ」と述べた発言に対し、中国は4日間にわたって強い反発を示している」
(ハンギョレ4月27日)
尹大統領に怒る中国…崩壊したバランス外交、訪米後に具体的対応 : 中国•台湾 : 日本•国際 : hankyoreh japan (hani.co.kr)

韓国の東京新聞のハンギョレは、この核と台湾をめぐるユンの発言について、中国様を怒らせてしまったぞ、これで韓国の中国様のレッドラインを超えてしまった、さぁたいへんだコウモリ外交はもうできないぞと悲鳴を上げています。

「尹政権のこのような動きがどこへ向かうかは明らかだ。冷戦解体からのこの30年あまりの間、韓国が享受してきた繁栄の土台となった「米中バランス外交」の廃棄と「韓米日3カ国同盟」による中国封鎖だ」
(ハンギョレ前掲)

ハンギョレによれば、これはユン政権の「米中バランス外交の廃棄と韓米日3カ国同盟による中国封鎖 」ということのようですが、ならばけっこうなことで、言い換えればムン・ジェイン政権の外交方針の180度転換です。

ハンギョレなどの韓国左翼は深く勘違いしていますが、韓国が戦後繁栄したのは「米中バランス外交」で米中二股外交をしたからではありません。
むしろそれは「繁栄の土台」どころか、米国に深い失望を招き、米韓同盟の危機に繋がる悪手でした。

韓国が繁栄した真の理由は、ひとつには日韓基本条約による日本からの資金供与、第2に冷戦下において自由主義陣営の最前線として米国の強い軍事的庇護の下にあったこと、そして米国が主導した自由主義貿易によって中国を含む世界貿易で富を稼ぐことができたからです。
そして皮肉にも、韓国は南北分断によって「半島国家」から、大陸との間に北朝鮮を緩衝帯に置く「島国家」へと地政学的性格を変化させることができたのです。
それによって、永年の中国大陸からの圧力を回避でき、韓国は大陸に背を向け太平洋方向を見ることで準海洋国家に生まれ変わったともいえます。まことにメデタイことです。

これを不満として元の「半島国家」に戻そうと画策したのが、かのムン・ジェインでした。
この男については大量に書いていますから、過去ログをお読みください。
簡単にいえば、ムンは南北統一を果たして高麗連邦なるものをデッチ上げて、北の水中発射核ミサイルを韓国の戦略原潜に載せようという、中学生が親父の酒を盗み飲んで悪酔いしたような夢を描いていました。
もっとも正恩は相手にしなかったようですが。

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朝日デジタル

もちろん統一朝鮮の核攻撃対象はわが国です。
米国はこの反日中坊の酔っぱらった夢を知っていましたから、ユンの核願望をかなえるような顔をしてNPTと日米安保の枠内に収めたのです。

とまれ、ユンはよくやっていると思います。
ただし誰しもがそう思うように、またムンのようなスットコドッコイが帰ってきたら元の木阿弥となるのは目に見えています。
なにぶんこの国は振り幅がひどすぎて、どこまで信用してよいのやらです。
議会は野党が優勢ですし、ユンの支持率も安定せず、ムン時代に任命された官僚層の動きも悪いと聞きます。
来年の議会選挙で与党が勝利したら、ほんものに近づくかもしれません。
なお、ホワイト国復帰を経産省は早々に認めたいようですが、韓国の言う通り輸出管理体制が強化されたのが事実だとしても、それが正しく運営されているかどうかを見極めるまでには時間がかかります。焦る必要はまったくありません。

 

 

2023年4月28日 (金)

有事に自衛隊の緊急展開を妨害する沖縄県

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これではっきりしました。
離島有事の際に、沖縄県は自衛隊の展開を妨害してきます。
自衛隊は北朝鮮のミサイル発射に備えてPAC-3の緊急配備をしていますが、沖縄県と地元の管理組合の反対で配備に遅れが出ました。

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沖縄テレビ

「24日、那覇港管理組合などには防衛省から海上自衛隊の輸送艦「しもきた」を接岸させるため那覇港新港ふ頭を使用したいと打診があり中城湾港にも大型の船を接岸したいと問い合わせがありましたがいずれも民間の貨物船で岸壁が埋まっていて受け入れできない状況だということです。
一方、宮古島市の平良港では25日、自衛隊車両の陸揚げが予定されていましたが、市によりますときのう自衛隊から中止の連絡があったということです。
防衛省関係者は自衛隊の輸送機や民間の貨物船を利用するなど輸送計画を変更して対応するとしています」
(沖縄テレビ4月25日)
自衛隊輸送艦 沖縄本島の港に入港できず PAC3配備に影響 (沖縄テレビOTV) - Yahoo!ニュース

やむなく自衛隊は代替手段で石垣島に搬入しました。

「関係者によると、24日に中城湾港や那覇港に入ろうとした海上自衛隊の輸送艦「しもきた」は計画を断念。代わりに「はくおう」が九州からPAC3関連の車両を積んで石垣、宮古に直接入る計画を立てている」
(琉球新報4月26日)
自衛隊PAC3展開、無届けで港湾使用 沖縄・与那国の祖納港 空港では時間外も(琉球新報) - Yahoo!ニュース 

船舶だけではなく、航空機にも難クセをつけて、到着を遅らせました。

「航空輸送でも混乱が続いた。複数の関係者によると、自衛隊側は24日、25日午前1時ごろに新石垣空港を使用したいと打診したが、管理する県側は同空港の運用時間(午前8時~午後9時)外であることを理由に断った。
 県関係者は「航空機の管制のほか、空港管理にも人を要する」と話した。与那国空港には、運用時間外の25日午後8時ごろ、C2輸送機が飛来した」
(琉球新報前掲)

結局、ヘリなどで運べる機材に分けて搬入したようです。
一括で搬入できる船舶とはまったく展開の速度が違うのはいうまでもありません。

「石垣島には、24日夜に発射機、25日に射撃管制装置やレーダー装置、電源車がそれぞれ輸送された。27日には民間船で関連車両を輸送する予定」
(八重山日報4月25日)
PAC3の搬入続く 石垣、与那国空港にヘリ 自衛隊(八重山日報) - Yahoo!ニュース

北朝鮮がいつミサイルを沖縄上空に飛ばしてくるのか分からない中、民間貨物船の予約が一杯だといって本島に寄港させないというのですから開いた口がふさがりません。

それにしてもすごいね、デニー知事、ここまでやるか。
海も空も有事に際してはまず一致協力するのが常識なはず。
海路、空路でそこにまで来ている自衛隊の艦艇や航空機にさっさと帰れというのですから、なんともかとも。

今、北朝鮮や中国は離島をミサイルの標的にしようとしています。
2016年2月には、離島上空に弾道ミサイルを飛ばしてきました。
あえて離島上空を通過させたのは、本島上空にすると米国の報復を食うおそれがあったからです。

「北朝鮮は7日午前9時31分ごろ、「人工衛星」と主張する事実上の長距離弾道ミサイルを北西部の東倉里(トンチャンリ)から発射した。(略)日韓の情報などを総合すると、北朝鮮は東倉里の射場から発射。同41分ごろに沖縄県上空を通過。部品が同45分までに東シナ海や太平洋上に落下した」
(日経2016年2月7日)
北朝鮮、長距離弾道ミサイル発射 沖縄上空を通過 - 日本経済新聞 (nikkei.com) 

そして中国は2022年8月に、波照間の近海のEEZにミサイルを撃ち込んできました。

「中国は4日午後3時ごろから午後4時過ぎにかけ、9発の弾道ミサイルを発射し、うち5発について中国が公表していた沖縄県波照間島の南西に設定された訓練海域の中のEEZ内に落下。他の4発はいずれもEEZ外で、1発は沖縄・与那国島の北北西、2発は台湾南西、1発は台湾北部に設定された各訓練海域に落下したと推定される」
(産経2022年8月4日)

中国ミサイル、波照間島南西に 岸防衛相「強く非難」 - 産経ニュース (sankei.com)

このように宮古・八重山は、北朝鮮や中国にとって勝手気ままに弾道ミサイルを撃ち込めることのできる空域だと思われています。
そして離島周辺海域では、中国公船が常駐して日本漁船の「違法操業」を取り締まることで、実質上中国領海と化そうとしています。

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中国公船が漁船を追尾 仲間氏「尖閣取りに」と危機感 2隻の領海侵入も | (yaeyama-nippo.co.jp) 

また宮古島のすぐそばを中国海軍は通り道にし、日常的に空母艦隊や爆撃機を頻繁に通過させています。
つい先日の4月22日には、中国は戦略爆撃機を宮古海峡を通過させて示威飛行をしました。

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NHK

「防衛省は21日午後、中国軍の爆撃機2機が沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋に出て、再び戻ったと発表しました。
発表によりますとH6爆撃機2機が21日午後、東シナ海方面から飛来し、沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋上を南東に進んだ後、太平洋上を北西に進み、再び沖縄本島と宮古島の間を通過して、東シナ海に戻ったという事です」
(NHK4月22日)
中国軍の爆撃機2機が沖縄本島と宮古島宮間を往復通過|NHK 沖縄県のニュース

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中国空母など8隻が宮古海峡通過 西太平洋で訓練 - 産経ニュース (sankei.com)

どうしてこんな無法が許されてきたのでしょうか。
いうまでもなく、長年に渡ってこの離島地域が防衛ゼロ地域で、島を守るのは駐在のピストル一丁だけだったからです。
このようなことを許さないために、自衛隊は宮古石垣、与那国に駐屯を開始したのです。
そして緊急時にはミサイル防衛の展開も可能とする備えも準備しています。
それが今回のPAC3の緊急展開だったわけです。

それを反対するとは、デニー知事は離島の県民の生命を沖縄県は守る意志がないということです。

デニー知事の言いぐさはこうです。

「北朝鮮が計画する衛星発射を巡り、防衛省が発表した地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の県内配備について、沖縄県の玉城デニー知事=写真=は22日、「まずは情報をしっかりと精査し、政府へしかるべく説明を求める」と述べた。那覇市内で記者団の質問に答えた。
玉城城知事は、北朝鮮がミサイルの発射を繰り返している状況で、防衛省が今回に限ってPAC3を県内配備する対応を疑問視。これまでとの対応の違いについて「背景をしっかり精査するよう(担当部局に)指示した」と述べた」
(沖縄タイムス4月23日)
玉城デニー知事「唐突だ。住民の理解を得られるのか」 迎撃ミサイル配備で情報の精査を指示(沖縄タイムス) - Yahoo!ニュース

なにが「背景をしっかり精査しろ。県民の理解が得られない」ですか。
精査もなにも「背景」は北が離島上空に弾道ミサイルを通過させようとしていることくらい、この人は知らないのでしょうか。
そして言うにことかいて「県民の理解」ですと。

当事者である糸数与那国町長と中山石垣市長は、緊急配備どころか常駐のPAC3の受け入れを求めているのです。
彼ら当該首長は「県民」ではないようです。

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琉球新報

与那国町長は配備に諸手を上げて賛成し、このまま恒常的配備にしてほしいと述べています。

「北朝鮮の軍事偵察衛星発射に備え、防衛省・自衛隊が地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を与那国島へ初めて展開していることを受け、与那国町の糸数健一町長は25日、町役場で報道各社の取材に応じ、PAC3を「撤収しないでほしい」と述べ、常駐を望む考えを示した。県に対しては港湾や空港の「使用許可を速やかに出してほしい」と注文を付けた。
糸数町長はPAC3配備に関して、石垣市の中山義隆市長が「受け入れる」と明言し配備に前向きな姿勢を示したことに「当然だ」とし、自身も肯定的な立場であることを示した。
 防衛省と自衛隊が配備に向けて「かなり迅速な対応」で「ほっとしたと同時にうれしかった」とも述べた。その上で「できればそのまま撤収しないでこの島に置いてほしい。いつでもすぐ、即時に対応できるように、あってほしいというのが本音だ」と強調した」
(琉球新報4月26日)
PAC3「撤収しないでほしい」 報道各社の取材に常駐配備を要望した与那国町長 - 琉球新報デジタル|沖縄のニュース速報・情報サイト (ryukyushimpo.jp)

中山義隆石垣市長も、明瞭に市民の生命保護のために受け入れると述べています。

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「防衛省が航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)部隊の先島諸島への展開準備を指示したことを受け、石垣市の中山義隆市長は22日、石垣市役所で報道陣の取材に応じ、防衛省から正式な要請があれば「受け入れていきたい」と述べ、配備受け入れを表明した」
(琉球新報2023年4月23日)
石垣市長「受け入れる」 「市民の安全最優先」 PAC3展開 - 琉球新報デジタル|沖縄のニュース速報・情報サイト (ryukyushimpo.jp)

これが北朝鮮のミサイルや中国の脅威にさらされて続けている当該首長の意見です。

デニー知事は、その任期内に起きる可能性が高い台湾有事に際して急に協力的になるはずがありません。
今回の対応と似た行政による順法闘争的サボタージュ行為と、反基地派を煽ってのすわり込みなどをするはずです。
たとえば離島に展開する自衛隊に対して港湾に寄港させるのを妨害したり、下地空港の使用を断ったり、基地からの道に座り込んだりとあらゆる陰湿な手段を使って妨害をするかもしれません。

 

 

2023年4月27日 (木)

スーダン脱出成功、ただし残る問題点

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まずは、スーダン在留邦人の脱出に成功したそうで、尽力された自衛隊を始めとする政府関係者に敬意を表します。

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銃声の中を陸路1000キロ 保秘徹底、スーダン退避の裏側:中日新聞Web (chunichi.co.jp)

「岸田文雄首相は24日夜、戦闘が続くアフリカ北東部のスーダンから航空自衛隊のC2輸送機で在留邦人とその配偶者の計45人を出国させたと明らかにした。「先ほどスーダン東部のポートスーダンを飛び立ち、ジブチにいま向かっている」と言明した。首相公邸で記者団に語った。
このほかにフランスや国際赤十字の協力で邦人4人がすでにスーダンからジブチやエチオピアに退避したと説明した。
首相は「成功裏に邦人退避を遂行した大使館や自衛隊をはじめとする関係者の努力への敬意と感謝を申し上げたい」と述べた。韓国やアラブ首長国連邦(UAE)、国連などから協力を受けたとして謝意を表明した」
(日経4月24日)スーダンの邦人ら45人、国外退避 岸田首相が発表 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

日本は今回の救出作戦で、多くの国の支援を得ました。
フランス、UAEと並んで:日本人を同乗させていただいた韓国に対しては、率直に感謝いたします。

「韓国大統領室国家安保室のイム・ジョンドク第2次長は24日夜の緊急ブリーフィングで「現地在住の韓国人28人はサウジアラビアのジェッダに移動し、待機中の大型輸送機KC330(シグナス)でソウルに直行する予定」「今も現地に滞在する日本人数人もわれわれと同行し安全に退避できるようにした」と明らかにした」
(朝鮮日報4月25日)
スーダン在住日本人の退避に協力…岸田首相が韓国に謝意-Chosun online 朝鮮日報

こういう普通の隣国どうしの非常時の助け合いが続けば、日本人の韓国を見る目が少しずつ変わっていくことでしょう。
韓流芸能だけでは、日本人の視線の氷は溶けませんからね。

さて、総じてこの救出作戦は成功裏に終わりましたが、まだ問題点の積み残しもあります。
下図をご覧いただくとわかるように、自衛隊機が邦人を救出したのはハルツームからはるかに離れたボートスーダンでした。
そこから、拠点のあるジブチまで輸送したわけです。
問題は、ポートスーダンまで陸路を使ったことでした。
この距離が1100キロで、東京-福岡間の距離に匹敵し、高速バスで14時間、飛行機ですら2時間かかるという超遠距離です。
いくつものルートが検討されていたようですが、結局ここがいちばん「短距離」だというので選ばれました。

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スーダン邦人退避 緊迫の舞台裏 陸路で30時間超 その後自衛隊機に | NHK | スーダン

当初は北側ルートが800キロなので、こちらを使おうとしたところ、フランスの車両が銃撃されたために、南側ルートがメーンになったようです。

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スーダン邦人脱出、二つの車列で別ルートへ 緊迫の作戦に韓国も協力:朝日新聞デジタル (asahi.com)

では、首都ハルツームからこのポートスーダンまでどのように移動したのでしょうか。
脱出した邦人の証言です。

「15日からの軍と準軍事組織との衝突拡大でハルツームの国際空港使用は困難になっていた。退避者によると、紅海の窓口であるポートスーダンの空港に陸路で向かう案が、21日ごろから在留邦人の間で広がり始めた。
 この退避者は23日午前に車で出発。平時なら車で12時間ほどの道のりというが、長い車列で慎重に進んだことなどから「時間がかかった」。到着したのは24日午後。ほとんど間を空けず、待機していた自衛隊機に飛び乗ってジブチに向かった」
(静岡新聞4月25日)
スーダン退避 陸路30時間、苦難の脱出劇 邦人「車乗り捨て」覚悟【大型サイド】|あなたの静岡新聞 (at-s.com)

気になるのは、脱出ルートの指示が、「邦人の間でひろがり始めた」という部分です。
まるでこれでは、しっかりした統制された指示が大使館から出ていないということになります。

そしてもうひとつ証言。

「ハルツームにいた認定NPO法人「難民を助ける会」(東京)の30代男性も、国連や国際協力機構(JICA)の関係者と共にポートスーダンに移動した。
 同NPOによると、男性の一行は複数の車両に分乗。約30時間、給油で停止する以外は走り続けた。食べ物や水は限られており、ビスケットを分け合って食べたという。国連などもこのルートを退避に用いた。
ハルツームから計3人で退避した北九州市の認定NPO法人「ロシナンテス」の川原尚行理事長は「長時間にわたるすごいオペレーションを組んでいただいた」などと、インターネット公開の動画で国連や自衛隊に感謝を示した」
(静岡新聞前掲)

これらの証言をみるかぎり、あくまで現時点ではという前提ですが、個々にグループや家族で脱出ルートを探っていたようにみえます。
大使館に集合せよ、という指示も出ていないし、大使館に保護された、あるいは大使館員が指揮を執った、という話も聞きません。
「2つの車列で脱出した」といいますが、これは国連やUAE、あるいは韓国のものであって、日本はその車列に入れてもらったか、同乗させてもらったようです。

「一行の移動は現地情勢に詳しいアラブ首長国連邦(UAE)が主導した。安全のため迂回するルートで1100キロ超の距離を走り、ポートスーダンの空港に無事たどり着いたという。日本人は韓国人らと別れ、ポートスーダンで自衛隊に合流したとの報道もある」
(静岡新聞前掲)

これでは日本大使館が邦人保護の前線司令部として、どのように機能していたのかよくわかりません。
もちろん邦人には、大使館からは退避するか否かの問い合わせは発信されていたようですが、すでに水も食料の備蓄も切れていたはずで、逃げるかどうかではなく、どのように逃げるかを邦人に周知徹底せねばならなかったはずです。
それが別な国の車列に紛れ込め、ではお粗末ではありませんか。

かつてアフリカで内戦が起きた時、現地の中国大使館はいち早く大量の車をかき集め、在留自国民を全部それに押し込むと、警備要員を張り付けて一気に国外に脱出させたことがありました。
陸路を1200キロ走らせるなら、このていどのことはやってほしいものです。

次に、英米仏が使用したハルツーム近郊の空軍基地をどうして自衛隊機が使わずに、あえて1100キロも陸路を行かせるという危険な選択をしたのか理解に苦しみます。
この空軍基地が使えないはずがなく、フランスなどヨーロッパ各国はここを使って脱出させています。
ここさえ使えば1100キロも内戦真っ只中の道路を陸路で行かせる必要はなかったはずです。

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共同   ハルツーム空軍基地から脱出するフランス空軍輸送機

「フランスは23日、自国に加え欧州諸国や協力国も対象に在留者や外交官の退避活動を開始した。
両省の共同発表によると、スーダンの首都ハルツームへ空軍機を派遣し、既に数回ジブチへ退避者を運んだ」
(共同4月24日)
仏軍機で日本人も退避 スーダンからジブチへ(共同通信) - Yahoo!ニュース

米国に至っては、ジブチからシールズチーム6を乗せた大型ヘリを飛ばして、大使館前に降ろして避難者を救助しています。
この国らしくやることが派手です。
当時、米国国務省は全力で停戦要請をかけていましたから、国軍、RSF双方に強い外交圧力をかけたうえでの救出作戦実施であったろうと想像できます。

「作戦は22日土曜日の午前9時 (東部標準時) に始まり、2機のMH-47チヌークを含む航空機がジブチのキャンプ・ルモニエを離陸、途中経由地であるエチオピアで給油した後、スーダンの首都ハルツームに飛んで米大使館に到着。作戦には特殊作戦機のMC-130 コンバット・タロンも参加し、退避中、上空から監視を行っていた。大使館で警備を行っていた米海兵隊全員と大使館職員、その家族を含む100人をヘリに収容すると、救出部隊は僅か1時間ほどの滞在時間で退避を完了させた。この間に特に攻撃を受けることは無かった」
(ミリレポ4月24日)
米国、最強特殊部隊チーム6 DEVGRUを使ってスーダンから大使館職員を退避させる│ミリレポ|ミリタリー関係の総合メディア (sabatech.jp)

また、UAEと並んでポートスーダンへのコンボイを作った韓国は、どうやら軍が防弾バスを持ち込んでいたようです。
そしてアフガン退避でも特殊部隊を使っていましたから、今回も参加させたはずです。

「韓国メディアによると、ハルツームからポートスーダンに向かった韓国人らの車列には日本人5人も同乗していた。出発時間に間に合わなかった日本人を防弾車で迎えに行き、バスに乗せて避難したという」
(静岡新聞前掲)

ポートスーダンで足止めされて、避難民を待つしかなかった自衛隊ですが、ほんとうは邦人保護のためにハルツームまで進出し、自衛隊が保有するオーストラリア製「輸送防護車」に全員を収容したかったことでしょう。

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陸自に8台のレア車両「輸送防護車」 数だけの問題じゃない、ほとんど目にしないワケ | 乗りものニュース (trafficnews.jp)

それもスーダンの人々の難民をかきわけ、戦闘に巻き込まれることを恐怖しながらの1100キロですから、なんらかのトラブルに巻き込まれてもおかしくはありませんでした。

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停戦呼び掛けも首都で激しい市街戦 スーダン 写真12枚 国際ニュース:AFPBB News

在留邦人がひたすら他国とみずからの勇気と才覚に頼ってハルツームからポートスーダンまでの1100キロを逃げ抜いてくるのを自衛隊は「待つ」しかなかったのです。

故安部氏は邦人救出を可能にした安保法制を作りましたが、ここでも「海外派兵ハンターイ」という見当違いの反対をする野党のために、「当該領域国の安全と同意」を派遣の条件に加えざるをえませんでした。
自衛隊は諸外国と同等の自国民保護の能力を有しています。
そのために国内のみならず、あえて外国を選んでの訓練も実施してきました。

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産経

「米軍とタイ軍が主催する東南アジア最大級の多国間軍事演習「コブラゴールド」の一環として、自衛隊は29日、タイ中部のウタパオ海軍航空基地で在外邦人の保護訓練を実施した。一部を報道陣に公開、自衛隊と米軍などとの連携を確認した。
 訓練は仮想国で政情が不安定化し、邦人を国外に脱出させる必要があるとの想定で行った」
(産経2020年2月29日)
自衛隊が邦人保護訓練 タイ中部、米軍と連携確認 - 読んで見フォト - 産経フォト (sankei.com)

この訓練では、自衛隊は邦人が集合する建物を取り囲んだ暴徒を排除するために不快な音を発する装置を使用する訓練をしたり、邦人を輸送防護車に車に乗せて、軽装甲機動車で警護してコンボイを組んで飛行場にまで送り届ける訓練までしています。
自衛隊がこの訓練で使った「不快な音」の装置とは、海賊対策でも客船が使っているLRADです。
開発者のアイデアが光る非致死性兵器(その3) 

このような装置は、治安が崩壊したことを自衛隊が想定して訓練していることを意味します。
言い換えれば、自衛隊は第84条を超えた状況を想定を準備しているということになります。
このような装備と訓練を済ませた要員を持ちながら、陸路を1100キロも他国の保護の下で走らせてしまうのですから、なんともやりきれません。

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NHK

ポートスーダンの着陸も簡単ではありませんでした。
C-2の機長は、ポートスーダン空港がなかなか着陸指示を出さないので、これ以上遅れると駐機できないと判断して、上空待機を中断して着陸したようです。
実際に、後の他国の救援機は着陸を断念したところも出たそうです。
こういう機敏な判断がなければ、わが国の救援機はジブチに引き返さざるを得ませんでした。

このように今回は結果的には成功しましたが、次回またうまくいくとはかぎりません。
一刻も早く自衛隊が手かせ足かせなしで動けるような邦人輸送体制を整えるべきです。
その原因が自衛隊法にあるなら改正すべきです。
仮に改憲されても、自衛隊法の縛りは残り続けます。
だから、ひとつひとつずつ丁寧に検証して、変えていかねばならないのです。

 

 

2023年4月26日 (水)

スーダン内戦、ワグネルの関与

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ロシアの民間軍事会社(PMC)ワグネルが、スーダン内戦とからんでいることが判明しました。
ワグネル創設者のエフゲニー・ブリゴジンは、シラっとしてここ2年以上「ワグネルの戦闘員は1人もスーダンにいない」と説明していますが、ウソではないが真実は言っていないといった類です。
たしかに現時点では、スーダンにワグネルの戦闘員がいるということは確認できていませんが、それはスーダンから手を引いているためではなく、ワグネルがウクライナ戦争で手一杯だからです。

いまも、ワグネルがスーダンの金鉱から輸送機で金を搬出しようとしているのが見つかっています。

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CNN

隣国リビアを捉えた衛星写真には、ワグネルの基地での活動が異常に増加している様子が写っており、こうした主張を補強している。リビアではワグネルの支援を受ける反政府のハフタル将軍が国土の広い部分を支配する。
(CNN2023年4月21日)
ワグネルがスーダンの準軍事組織に兵器供与、証拠浮上 CNN EXCLUSIVE - CNN.co.jp

また、ワグネルがスーダン内戦の片方である準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」に対して、ミサイルを供与していることもわかっています。

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AFP

「スーダンではRSFのダガロ司令官と、軍事指導者で国軍トップでもあるブルハン将軍が権力争いを繰り広げている。複数の情報筋によると、供与された地対空ミサイルはRSFの戦闘員やダガロ氏にとって大きな追い風になっているという5
(CNN前掲)

ところで、過去にスーダンにおいてワグネルが活動していた足跡は見つかっています。
BBCはこう伝えています。


「2017年、スーダンのオマル・バシル大統領(当時)はモスクワを訪問し、ロシア政府との間でいくつかの協定書に調印した
その中には、紅海に面したポートスーダンにロシアが海軍基地を設置する協定や、「ロシア企業のMインヴェストとスーダン鉱物省との間の金採掘に関する利権協定」も含まれていた」
(BBC2023年4月23日)
スーダンで「ワグネル」の影 ロシアの雇い兵組織は何を狙っているのか - BBCニュース

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ドミトリー・メドベージェフとスーダン共和国大統領オマル・アル・バシールとの会談

ここでスーダン鉱物省と協定を結んだのがMインヴェストと子会社のメロエ・ゴールドでしたが、米国財務省は双方ともワグネルのフロント企業だと断定しています。
では、ワグネルはスーダンでなにをしていたのでしょうか。
NHKが現地調査しています。

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なぜロシアが?スーダンのゴールドラッシュの背後に | NHK

「ロシア企業の名前は「メロエ・ゴールド」。2017年にスーダンでの地質調査を名目に進出し、金鉱がある町アベディヤに巨大な工場を作りました。しかし、この「メロエ・ゴールド」、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」とのつながりがあるなどとして、2020年、アメリカ政府の制裁対象となっていました。(略)
ブローカーによると、「メロエ・ゴールド」が買っているカルタの量からすると、毎月100キロの金を生産することが可能で、年間では1トン以上になるということです。

1トンの金の市場価格は、日本円にすると75億円以上に上ります。(1キロ=5万2338ドル、1ドル144円換算。9月27日時点)
さらにブローカーは、アメリカ政府が関係性を指摘した「メロエ・ゴールド」と「ワグネル」とのつながりについても証言しました。
「彼らは自分たちで工場の警備を行っている。工場に入ることができるのは取り引きを行うときだけ。入り口には無線を付け軍服を着た人間がたくさんいる」
この軍服を着た人が「ワグネル」の傭兵だというのです」
(NHK2022年11月10日)

この証言に登場する「カルタ」とは、金鉱を掘り出した残土のことで、採掘される金の70%はこの残土の中にあります。
ただし、ここから金を抽出するには有害な水銀を使わねばならず、その廃棄物の投棄はスーダンの法律でも禁じられていました。
しかしこの違法採掘をしているのが、ロシア政府の息がかかったワグネルとなると治外法権だったようです。

スーダンにおける金の生産をめぐっては、2019年、当時の軍民共同統治の政府が、民政への移管を目指す中、国の重要な資源の金を有効活用するため、違法採掘や取り引きに関するルール作りを進めていました。
ロシアば2014年のクリミア新興での西側の制裁を回避するために、アフリカの金に目をつけます。
そしてスーダンに軍事支援として兵隊の訓練や武器を供与する一方、金鉱の採掘権を得ました。
この金の違法採掘と軍事支援を努めたのが、ブリゴジンのワグネルでした。
ブリゴジンはプーチンの手先としてスーダン軍部に浸透し、同時に金鉱で私腹も肥やしていたわけです。

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BBC

2021年にスーダンでクーデターが起き、軍事政権が誕生すると、スーダンの軍事政権はロシアからの武器の供与の見返りとして、ロシアの違法な資源開発を事実上黙認しました。
軍部と太いパイプがあるロシアが、このクーデターの陰でなんらかの関与をしたのかもしれません。

とくにそれが顕著となったのは、2022年のウクライナへの侵攻後、欧米からの経済制裁を受けたロシアではルーブルが急落し、それを買い支えるために金の保有量を増やす必要があったようです。
ところがこのスーダン軍部は、国軍派のブルハン将軍とRSF派のダガロ将軍のふたりの頭目の衝突でバラバラになります。
アフリカにつきものの軍をめぐる権力闘争ですが、どうやらワグネルはRSF側についたようです。

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アラブニュース

「文民政権へ権力の座を譲る政治協定の署名・承認が予定されていた中、渋々パートナー同士となってこの4年間スーダンを共同支配してきた2人が互いに戦う運命となることは、ほぼ不可避だった。
しかし、主権評議会議長で陸軍最高司令官のアブドゥルファッターフ・アル・ブルハン将軍と、悪名高い民兵組織「即応支援部隊(RSF)」のトップであるモハメド・ハムダン・ダガロ将軍の対決は、民主主義の回復やスーダンの人々の数十年にわたる苦境の終結とはほとんど無関係だ。
この対決は実際のところ、権力闘争であり、長年の独裁者オマル・バシール氏に対し2019年に軍事クーデターを起こした勢力の間での戦いである」

(アラブニュース2023年4月23日)
スーダン軍が勝利を収めることが必要不可欠だ|ARAB NEWS

ワグネルは「企業」である以上、金にならなければ出ていきます。
今、輸送機を動員してスーダンから金を運び出す真っ最中です。
自分たちが武器を与えてこんな内戦を引き起こしたのに、逃げるときは金目のものだけ引っ掴んで一目散ですから、そうとうなものです。
どちらかが勝てば、何事もなかったかのような顔をして帰って来る気でしょう。

ところで、ロシアはスーダンだけではなく、アフリカ各地で同様のことをしてきました。
アフリカには、安価なロシア製武器が大規模に拡散しています。

20230425-165551

アフリカ諸国、実利求める等距離外交 ロシアも軍事協力 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

たとえばマリでもスーダンと同様に、ワグネルがロシアの手先として浸透して国政に強い影響力をもつようにまでなっています。

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NHK

「マリで“フランス離れ”が進む中、存在感を強めてきたロシア。過激派対策としてロシア製のヘリコプターなどの兵器を送り、マリとの軍事的な協力を進めてきた。
スウェーデン国防研究所によると、マリに加え、アフリカの少なくとも6つの国にロシアはワグネルを派遣しているとされる。その多くが強権的な政権で、それを支えることで、ロシアとの関係強化につなげるねらいも指摘されている。
さらに、関係強化の切り札として派遣されたと指摘されているのが、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」。(略)

スウェーデン国防研究所によると、マリに加え、アフリカの少なくとも6つの国にロシアはワグネルを派遣しているとされる。その多くが強権的な政権で、それを支えることで、ロシアとの関係強化につなげるねらいも指摘されている」
(NHK2022年10月22日)
 “親ロシア”広がるアフリカでいま何が?傭兵部隊ワグネルが暗躍? | NHK

このように軍部に武器を与えて、見返りに鉱物資源を押さえるやり口は、アフリカを支配下に置きたいロシアの常套手段でした。
たまたまスーダンで軍部が内部衝突をしたのでロシアの浸透ぶりが露呈してしまいましたが、スーダンやマリのようにワグネルが派遣されている国は6カ国に登ります。
これが世にいう「グローバルサウス」の実態です。
彼らの多くは国連でロシアの票田として機能しています。

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ロシアが“友好国”を拡大? 知られざる国際戦略の実態 - NHK クローズアップ現代 全記録

「ロシアによるウクライナ4州の併合を無効とする国連総会決議が10月12日に行われ、賛成143カ国で採択された。2022年3月のロシアのウクライナ侵攻に対する非難決議では、エリトリアが反対したほか、アフリカの多くの国が棄権ないし不参加を選択したことが国内外で話題となった。(略)なお、国連加盟国全体では、5カ国が反対、棄権は35カ国で、それぞれに事情は異なるが、依然として棄権の半数以上をアフリカが占めた」
(JETRO2022年10月17日)
ウクライナ4州併合無効の国連決議、アフリカは賛成が微増(ウクライナ、ロシア、アフリカ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ (jetro.go.jp)

今後も、ウクライナ戦争のようなワグネルを揺るがすようなことが起きれば、スーダンに似たようなことがアフリカ各地で起きるはずです。



2023年4月25日 (火)

スーダン邦人退避がなぜ困難なのか

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スーダンでやっと停戦合意が結ばれたようです。
まったくヤレヤレというかんじですが、これがアフリカの現実です。

「軍とその傘下にある準軍事組織との間で戦闘が続くアフリカのスーダンでは、双方が3日間の停戦合意を発表し、軍は一部の国が国外退避を進めているとしています。ただ戦闘は依然、続いていて、外国人の国外退避が安全に進められるかは、不透明な情勢です。
スーダンでは、おととし、クーデターで実権を握った軍と軍の傘下にある準軍事組織のRSF=即応支援部隊との間で今月15日以降、激しい戦闘が続いていて、WHO=世界保健機関によりますと、21日の段階で413人が死亡し、3500人以上がけがをしているということです」
(NHK4月23日)
スーダン 3日間の停戦合意発表も戦闘続く 外国人退避は不透明 | NHK | スーダン 

珍しく23日から24日にかけて、戦闘開始以来初の戦闘のない夜となっているようで、欧米は航空機を使った退避作戦を開始しています。
ただし、昨日24日午後1時が停戦の終了ですので、そうとうな駆け込み退避となったはずです。
スーダン】米大使館員ら約100人が国外退避 外国人の退避続く - YouTube

【ワシントン=坂口幸裕、テルアビブ=久門武史】軍と準軍事組織の戦闘が続くアフリカ北東部スーダンで、各国の退避活動が本格化している。米国や英国、フランスが外交官らを退避させたほか、サウジアラビアも22日、自国民と外国人の計157人が船で退避したと表明した」
(日経2023年4月24日)
米英仏などがスーダン退避 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

EUも軍用機が自国民を収容して避難させました。

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スーダン 各国の退避作戦続く フランス人の車列に攻撃 1人負傷- 名古屋テレビ【メ~テレ】 (nagoyatv.com)

「AFP=時事】スーダン正規軍と準軍事組織「即応支援部隊」との戦闘が続く中、スペイン外務省は23日、スーダンから自国民30人と欧州および中南米出身者70人の計約100人を軍用機で退避させたと発表した。
同機は23日午後11時前に首都ハルツームを出発し、ジブチに向かった。アイルランドやイタリア、ポルトガルの他、スーダン人も搭乗した。 また、ドイツ軍は同日、101人を軍用輸送機で避難させたとツイッターで明らかにした。そのうち1機がまず、現地時間午前0時に「ヨルダンに無事着陸した」としている。輸送機A400M3機で退避を行ったという。
軍の報道官によれば、搭乗者には他国民も含まれる。外務省と国防省は「可能な限り、欧州連合市民やその他の国民も避難させる」としている。
フランス政府高官も同日、「困難な」避難支援の末、第1便で100人以上を退避させたと発表した」
(AFP4月26日)

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邦人退避、空自機が出発 周辺国ジブチで待機へ|47NEWS

では、わが国はどうしているのでしょうか。
3機の自衛隊機は、ずっとジブチから動かないままです。
諸外国がわずかな停戦時間を使って軍用機による退避を行っているのに、我が国だけは
自衛隊84条で戦闘区域に行く事ができません。
ですから在留邦人は、危険な陸路を通って港まで向かい、さらにそこからジブチまでたどり着いて空自の輸送機に乗ることができます。
途中の陸路こそがもっとも危険なはずです。
国連は陸路で港まで移動して船舶で避難を指示していますが、コンボイを組むと標的にされるので、離れすぎないようにして各個バラバラに港に向かいますが、この港も自衛隊の待つジブチからは1000㎞も離れた港です。

※追記
自衛隊機はポートスーダンで在留邦人を乗せたようです。

岸田文雄首相は24日深夜、アフリカ北東部スーダンに在留する邦人とその家族計45人が自衛隊機で国外退避したと明らかにした。公邸で記者団に語った。周辺国ジブチに待機している自衛隊輸送機をスーダンに派遣し、北東部ポートスーダンで邦人を乗せてジブチに輸送した。これとは別に、フランスや国際赤十字の協力を受けて合計4人の邦人がジブチやエチオピアに移動。この結果、スーダンに在留し退避を希望している邦人は数人となった」
(共同4月24日)
スーダン邦人ら45人退避 自衛隊機、ジブチへ輸送(共同通信) - Yahoo!ニュース

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スーダン 停戦約束も戦闘続く 各国、自国民避難を試みるも空港の滑走路使えず(ABEMA TIMES) - Yahoo!ニュース

自衛隊は各国軍と同様の装備と能力も有しているにもかかわらず、自衛隊法改正時の野党の「自衛隊の海外派兵ハンターイ」というイチャモンづけのために、こういうおかしなことになっています。
スーダンまで行けない理由を理解するために、自衛隊法84条の3を押さえておきます。

自衛隊法
(在外邦人等の保護措置)第八十四条の三 
一 当該外国の領域の当該保護措置を行う場所において、当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たつており、かつ、戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。第九十五条の二第一項において同じ。)が行われることがないと認められること。

つまり条文どおりに解釈すれば、邦人救出は当該の所轄当局が治安を確保しており、かつ戦闘がない地域にしか救援機を派遣できないわけです。
もちろんこのような現実を無視した規定は、今のスーダンにはあてはまりません。
治安が崩壊して在留邦人が危険にさらされているから自衛隊が救援にいくのであって、救援機はジブチで待っているからここまでやってこいというのでは話になりません。

自衛隊法は、すべからくこのようなポジティブリスト方式で作られています。
ポジティブリストとは 、コレをしていい、アレをしていいということを抜き出して法律で指定したものです。
たとえば今回の第84条の3は、前段で「身体に危害が加えられるおそれがある邦人の警護、救出その他の当該邦人の生命又は身体の保護のための措置(輸送を含む)」ができるとしていますが、その後にくだんの戦闘地域ではうんぬんが続いて、実質なにもできないように作られています。
そりゃそうでしょう、このスーダンがそうであるように、内乱が起きている国の治安機関なんかとっくに崩壊していますから、国際空港が平和なはずがないじゃないですか。
そんなことはわかりきっているのに形だけ救援できるように改正して、実際は自衛隊を動かせないような建てつけなのですから、ある意味たいへんに悪質です。

河野克俊氏(元統合幕僚長)はこのように述べています。

「ポジティブリストとは、本来の軍組織はネガティブリスト方式だ。すべて(の国が)そうだ。いま憲法9条に自衛隊明記という話がある。明記すれば違憲論はなくなるが、自衛隊法は恐らくそのまま残る。いま自衛隊が抱えている矛盾は、自衛隊を憲法9条に明記するだけでは変わらないはずだ(略)
今回の派遣も、これをやってはいけない、これをやってはいけないということを与えて、あとはいいよということであれば、隊員としては非常にやりやすい」
有事の自衛隊活動は「ネガティブリスト方式にすべき」

河野氏が言っている「これをやってはいけない」ことだけを徹底させて、後は軍に判断させるのがネガティブリスト方式です。

「原則的に規制がない状態で規制するもの、禁止するものについてリスト化すること。
例として、基本的に何でも許可されている環境下において、「●●はしてもいいが、▲▲はしてはいけない。」とリスト化しているものを指す。
対義語はポジティブリスト」
ネガティブリスト | 用語集 | 株式会社折兼 (orikane.co.jp)

私はこのような具体的な事例の積み重ねから、憲法を考えて行くべきだと思います。

 

 

 

2023年4月24日 (月)

政府がテロリストに「報酬」を与えてしまった

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山口県は31歳の岸信千世氏が2区を制し、4区は吉田真次氏が圧勝しました。
あの「山口は旧統一教会の聖地」発言の有田芳生氏は落選したようです。
立憲全敗、維新1勝。

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衆参補欠選挙 統一地方選挙 開票速報タイムライン | NHK | 統一地方選

さて、和歌山暗殺未遂事件の教訓はシンプルです。
安部氏暗殺を模倣したのです。
ならば和歌山の暗殺未遂はどうして起きたのでしょうか。
それは安部氏暗殺事件への対応を誤ったからです。

もう言挙げするのも飽きましたが、第1にメディアと野党が、山上某の動機解明と称してこのテロリストに「物語と顔」を与えたことです。
メディアが「第2の山上」を生んだ: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

このことに対する追及は島田某という「暗殺が成功してよかった」という男が現れるに至って頂点を迎えましたので、私としてはこれ以上付け加えることはありません。
私はもうひとつ、安部氏暗殺事件で総括しておかねばならないことがあると感じています。

それは政府が、「テロリストに報酬をやってはならない」 テロリズム 対処の大原則を踏み外したからです。

では、山上某が求めていた「報酬」とはなんだったでしょうか。
それは旧統一教会とそれを支持母体する自民党に打撃を与えることでした。

事実であるかどうかはどうでもよく、この男が腐った頭でそう思っただけのことです。

メディアと野党は、こぞって「旧統一教会と自民党の癒着」というテーマにあさましいまでに食いつきました。
彼らがそうなるのは目に見えたことで、問題は政府・政権与党でした。

つい1カ月前の3月27日、永岡文科相が同日、「教団」に対する5回目の「報告徴収・質問権」を行使しました。
内容はありません。同じことの繰り返しをしているだけのことです。

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旧統一教会への質問書、A4数枚で届く…回答期限は12月9日で「内容踏まえ回答作成」:写真 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

「文化庁は28日、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する5回目の「質問権」を行使、教団側に質問を送付したと発表した。永岡桂子文部科学相が27日、宗教法人審議会に質問内容を諮問し了承された。回答期限は4月25日。
5回目は教団の組織運営や財産関連、献金などのトラブルを巡る示談状況など計203項目について回答を求めた。裁判所への解散命令請求の可否判断は4月以降になる。
教団側の過去4回の回答内容は乏しく、教団による違法行為の「組織性、悪質性、継続性」を要件とした解散命令請求の可否を文化庁が判断できる状況に至っていない。このため5回目の行使を決断した」
(産経3月28日)
旧統一教会問題 文化庁5回目質問権を行使 - 産経ニュース (sankei.com)

なぜ文科省は、同じことの繰り返しをしているのでしょうか。
2009年に旧統一教会は、先祖の因縁を殊更に結び付けるなどの献金奨励や勧誘をしないとしたコンプライアンス宣言を出し、今年7月に発表した声明でも、宣言以降は「教団を相手取った民事訴訟は着実に減っている」としています。

そのとおりです。しかし、それは自発的にそうしたわけではなく、安部氏が霊感商法を壊滅させたからです。
2018年に、安倍政権は霊感商法でだまし取られた寄付を返還できるように消費者契約法を改正しました。
これで旧統一教会は霊感商法がたちゆかなくなり、2018年から19年にかけては0となります。

以後、1件か2件にとどまっています。

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櫻井よしこ氏による

旧統一教会は、さぞかし安部氏暗殺に喝采を叫んだことでしょう。
また安部氏は、旧統一教会がべったりと癒着していた北朝鮮に対して強い制裁を発動した人であることからもわかるように、旧統一教会との思想的接点はまったくありません。
祖父の岸氏から父親の晋太郎氏へと受け継がれた旧統一教会系の票田を、晋三氏は受け継ぐことを拒否しています。
つまり、山上某は旧統一教会の霊感商法を撲滅した功労者を、無知なるが故に撃ったのです。
むしろ山上某のテロは、旧統一教会に加担したものだったのです。

一方、霊感商法華やかなりし日には、まるでなにもしなかった文科省は、今になって宣言後も民事判決や被害相談が続いているとして、「再発防止策や、違法行為を放置していなかったかなど、宣言の中身をただす」と言っています。
終わった後に、なにを言っているのでしょうか。

とっくに霊感商法から足を洗った後ですから、去年12月14日の2回目の質問権行使において、「コンプライアンス宣言関連」や「民事判決関連」で問い、23年1月6日に回答を受けています。
今回も同じようなことを聞いたようですから、ナニやってんだか。

産経もやや呆れ気味にこう述べています。

「解散命令請求の要件とされる教団による違法行為の「組織性、悪質性、継続性」を強く主張できる証拠の積み上げは不十分な状況だ。
法令違反を踏まえた裁判所による宗教法人の解散命令は過去2件。いずれも団体のトップが深く関与した刑事事件が有力な証拠になった。
一方、旧統一教会を巡っては現状、組織的な刑事事件は浮上しておらず、教団の違法性を認定した複数の民事裁判などで解散命令の要件を立証するという前例のない手順を踏まざるを得ない。請求が退けられれば今後の宗教行政に大きな禍根を残すことは必至なため、文化庁は慎重な姿勢を保っている」(産経3月27日)
旧統一教会への質問権行使、文化庁の調査が長期化 解散命令請求へ証拠積み上げ急ぐ - 産経ニュース (sankei.com)

ハッキリ言ってあげれば、文科省が狙っているこの宗教法人解散は不発に終わるでしょう。
そもそも宗教法人制度は、政教分離の原則に則って所轄官庁の権限が限定されているからです。
たとえばいままで宗教法人解散を命じられたオウム真理教の所轄は、文科省だけではなく認証を与えた東京都でした。
法人解散に当たっては

「検察官(東京地方検察庁検事正)及び東京都知事は,平成7年6月30日,それぞれ東京地方裁判所に対し,教団に対する宗教法人の解散命令を申し立てた。申立の理由は,教団によるサリンの生成企図という殺人予備行為が,同法81条1項1号(法令に違反して,著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと)及び2号前段(同法2条に規定する宗教団体の,目的を著しく逸脱した行為をしたこと)所定の解散命令事由に該当するとするものである。
東京地方裁判所は,平成7年10月30日,申立人両名の申立を理由があるものと認め,教団を解散する旨の決定を下した」
(犯罪白書 平成8年版)
平成 8年版 犯罪白書 第1編/第4章/第3節/1 (moj.go.jp)

オウムが宗教法人格を取り上げられたのは、一にかかって教祖が命じてサリンを生成し、それを現実に地下鉄で撒くなどのテロルを働いた凶悪な刑事犯となったからです。

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地下鉄サリン事件 - Wikipedia

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オウムが起こした主要な刑事事件   愛知県警

旧統一教会が起こしている献金の強要などは、すべて民事上の事件であってこのようなオウムが起こしたテロルとは次元が違います。
文科省が宗教法人解散のために必要な刑事事件が存在しない以上、残るは「組織性、悪質性、継続性」のみということになりますが、これらも各々の民事裁判ですべて解散に追い込むに足るものでなければなりません。

たとえば、裁判で献金を強要したかしないかを判断できるでしょうか。
強要を受けたか受けないかは、信徒の内面の問題であって信徒は喜んで喜捨かもしれないのです。
内面まで立ち入って禁止するとなると、あらゆるすべての宗教が行っている喜捨行為を禁じねばならなくなります。

ならば問題はその額でしょうか。これも1億2億の宗教的喜捨はそう珍しいことではないのです。
組織性に至っては、「教会」と名乗っている以上、なんらかの関与があるのはあたりまえであって、ことさら旧統一教会に限ったことではありません。
なんども書いて来ていますが、私は旧統一教会を擁護する気はさらさらありませんが、元々宗教とはそういうものなのです。

したがって解散命令に前のめりに見えるのは文科省だけで、審査すべき宗教法人審議会もただ「宗教の自由は傷つけるなよ」と釘を押しているにとどまっています。
政府がこうもこの不毛な宗教法人解散にこだわるのかといえば、法人解散すれば表面的には旧統一教会が「消滅したように見える」からです。
岸田氏は旧統一教会問題の謝罪会見でこう言っています。

「第1に、党として説明責任を果たすため、所属国会議員を対象に当該団体との関係性を点検した結果を取りまとめて、それを公表すること。
第2に、所属国会議員は、過去を真摯に反省し、しがらみを捨て、当該団体との関係を絶つこと。これを党の基本方針として、関係を絶つよう所属国会議員に徹底すること。
第3に、今後、社会的に問題が指摘される団体と関係を持つことがないよう、党におけるコンプライアンスチェック体制を強化すること」
(岸田総理記者会見 2022年8月10日)

この岸田首相の記者会見は、日本政府のテロリズムに対する敗北宣言として後々まで語り継がれるでしょう。
日本赤軍(これを指揮したのが、いまやリベラル文化人きどりの重信房子でしたが)の要求どおり、テロリスト9名の釈放と16億円という巨額の資金まで提供しました。

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ダッカ日航機ハイジャック事件 - Wikipedia

今回の旧統一教会弾圧も、政府がテロリストの要求に屈して、その意のままになるという点において本質的に同じです。
「関係を断つ」と言いますが、党員ひとりひとりに江戸時代の宗門改めもどきのことをする気なのですか
おいお前、旧統一教会に入信しちゃいないだろうな、参院選のスタッフやボランティアにも信徒がいなかったろうな、挨拶に行っていないだろうな、としらみつぶしに調べてこい、とでもやるのかしらね。
スタッフに信仰について聞きただす気でしょうか。
これは信教の自由に反します。
答える義務はありませんし、よしんば旧統一教会信徒だったとしても不利益を被る理由にはなりません。
旧統一教会はまったく支持するに値しない反日宗教ですが、だからといって個人の内面の問題である信教の自由まで侵される理由にはなりません。
また旧統一教会の信徒が首相を暗殺した、漁港で暗殺未遂事件を起こしたならばいざ知らず、やっているのは反対の糺弾する側のほうです。

自民党は、旧統一教会と宗教の自由問題を切り離して対応すべきだったのです。
ここで妙にメディアに煽られた世論に迎合して、できもしないことを約束するから、ダラダラと宗教法人解散命令の袋小路に飛び込んでしまったのです。

このようにメディアと野党がスクラムを組んで、世論を味方につけたような形を作られるとすぐにビビる。
憲法の宗教の自由との関わりもろく考えずに、問答無用で自民党との関係を根掘り葉掘り断とうとする。
初めのボタンがビビリから始まっているものですから、もう後のボタンがかけられなくなります。
岸田氏は初めからこう言っていればよかったのです。

「旧統一教会が様々な不祥事を起こしたことは理解しています。
しかしここでテロリストの要求を吞めばテロルに屈したことになりますから、政府は旧統一教会問題において関与しません。
これは同時に、憲法が保証した宗教の自由に関わることであって、個々の裁判の行方を今後も注視いきたいと思います」

しかし、岸田氏はテロリストに報酬を与えてしまいました。
これが最大の失敗です。

2023年4月23日 (日)

日曜写真館 春の猫まさぐるといふことをする

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高く呼び低く応ふる春の猫 藤原千代子

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恋猫やなないろのこゑ使ひ分け 飛鳥由紀

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恋猫の真昼はことのほか静か 市場基巳

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はる風に何の手応へ猫のひげ 中山純子

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やはらかく猫に咬まるる寺の裏  柿本多映

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あくびして猫が飯食ふ朝時雨 中拓夫 

 

 

2023年4月22日 (土)

経済の集団安全保障体制とは

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中国が自由市場を理解してくれていればいいのですが、困ったことにはこの新興の中華帝国は経済力を政治力の武器として使用することをためらいません。

たとえば豪州が中国における新型コロナウイルスの発生起源の調査を要請した時、中国は豪州ワインを禁輸しました。
正確にいえば禁輸ではなく、豪州産ワインに対して、中国はオージーが反ダンピング・反補助金として計218%を上回る追加関税を課したのです。
まぁ200%超の関税なんて禁輸も同じですがね。

その結果、豪州ワインの対中輸出は2020年の8億7000万ドルから2022年には830万ドルに激減し、一時期は産業が立ち行かなくなる寸前にまで追い込まれました。

「中国は今年に入り、関係が悪化しているオーストラリアからの多額の輸入を妨げる貿易制限措置を相次ぎ講じてきた。
豪州産の牛肉や大麦、石炭、ロブスター、ワイン、木材を対象とした制限措置はさまざまな形態で導入されている。大麦に対する反ダンピング(不当廉売)・反補助金の追加関税は明確であり、豪政府はこの件を巡り世界貿易機関(WTO)に提訴した」
(ブルームバーク 2020年12月18日)
豪州からの輸入制限、中国はあの手この手-口頭指示や個別企業標的も - Bloomberg

豪州ワインは政府補助金を受け取っていないし、不当廉売している証拠はないとしてオージー政府は抗議しました。
オージーは安価ワイン市場向けを作っており、中国向けは3割です。
中国向け輸出に200%超の関税を掛けられてはどうにもなりません。

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ブルームバーク

WTOに入っておきながら堂々たる自由貿易の破壊ですが、そのきっかけはオージー政府がコロナ発生について中国に情報開示を要求したことです。
なにか後ろめたいことでもあるのか、中国はたちどころに輸入制限をかけてきました。
外国が自分の国と利害を異にすれば、すぐに制裁関税をかけてくるのですから始末におえない。
経済的優位を笠に着たパワハラです。

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中国、豪の農産品狙い撃ち 南シナ海など批判けん制 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

「中国の税関総署は27日夜、オーストラリア産牛肉の輸入を一部停止したと発表した。中豪両国が使用を禁じる薬物が検出されたと説明している。すでに豪州当局に連絡し、45日以内に関係企業への調査を実施し、中国側に報告するよう求めた。(略)
中国は5月にも「検疫上の理由」から豪産食肉の輸入を一部停止した。直後には豪産大麦の価格が不当に安いなどとして80%超の追加関税を課した。8月には豪産ワインを対象に反ダンピング(不当廉売)調査を始めた。

両国は豪州が新型コロナウイルスを巡り、独立調査を求めたことで緊張が高まった。豪州はその後も香港や南シナ海問題で米国と歩調を合わせて、対中批判を続けている。中国の一連の輸入規制は豪州側への報復措置との見方がある」
(日経2020年8月28日)
中国、豪産牛肉輸入を一部停止 「禁止薬物を検出」 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

ところでオージーにも弱みがありました。
中国と地理的に近いせいもあって、中国のサイレント・インベージョン(静かなる侵略)を受け続けていた国です。
クライブ・ハミルトンが同名の本で詳述していますが、中国は有り余るカネにあかせて州政府や政府要人に強い影響力を行使したり、様々な民間団体を装って政府の政策に介入し続けました。
これが中国得意の超限戦です。
2016年にはターンブル政権は、北部ダーウィン港を中国企業に99年貸与するという安全保障問題にまで進展します。
まさに傀儡国家一歩手前にまでオージーは行っていたのです。
そのせいもあって、ひと頃は輸出入共にファイブアイズで群を抜いて中国に依存した経済構造が出来上がっていました。

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日経

危機に目覚めた豪州政府は、南シナ海問題や香港市民への豪州永住権申請の許可、ファーウェイの5G排除などで毅然として中国と対決していく姿勢を鮮明にします。
中華帝国にすれば、傀儡だと思っていた飼い犬が手を噛んだと思ったのでしょう。
弱小国の癖に生意気な、と歯ぎしりしました。
特に中国を怒らせたのは、2020年4月、前述したように武漢から発生したコロナウイルスを巡り、独立した調査を要求したことです。

これは当時の米国や欧州で燃え上がろうとしていた中国への賠償論に火を点けました。
マクロンなんかが武漢に行って、なんて素晴らしい中国の防疫により世界は救われたぁ、なんてゴマをすりまくっているのと対照的です。

「北京のある大学教授は「中国共産党が最も恐れたのが各国からの賠償請求だった」と話す。賠償論の引き金になりかねない独立調査を主張した豪州を徹底的にたたき、同調する国が広がらないように抑え込む狙いがあると解説する」
(日経前掲)

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日経

また、リトアニアのケースもあります。
2021年にリトアニアが首都ビリニュスに台湾の代表事務所を設けた時、中国は欧州のサプライチェーンからリトアニアの産品を除外するよう圧力をかけました。
域内の国々だけではなく、ヨーロッパの小国にまでパワハラをするのですから、スゴイね。

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AFP

【11月19日 AFP】中国は19日、台湾がバルト3国のリトアニアに大使館に相当する代表機関「台湾代表処」を開設したことについて「悪質極まりない」と糾弾。台湾の独立を目指す動きは「必ず失敗する運命にある」と猛反発した。
台湾は18日、リトアニアの首都ビリニュスに「台湾」を名称に用いた「駐リトアニア台湾代表処」を開設したと発表した。台湾独立の動きをけん制する中国を無視したもので、外交面での対峙(たいじ)を強めるものとなる。
中国外務省は声明で「世界に中国は一つしかなく、台湾は中国の不可分の一部である」とし、「誤った決定を直ちに訂正するようリトアニア側に求める」と述べた」
(日経2021年11月19日 )
台湾の駐リトアニア代表処開設に猛反発 中国「悪質極まりない」 写真7枚 国際ニュース:AFPBB News

このように見てくると、中国が古臭い帝国主義そのものの手法をいまだ使い続けていることがお分かりいただけると思います。
これは独裁国家にとって共通の方法と見えて、ロシアもウクライナ侵略に反対する諸国に対してまったく同じことをしかけてきました。
ロシアは、ウクライナ戦争前までも、近隣諸国を勢力圏に閉じ込めておくために経済的恐喝を使い続けてきました。

あともう一つの中露の手口は、武器を売りさばいて相手国の軍隊を支配することです。
東欧諸国やアフリカ、アジアではこの方法は大変に有効です。
いま内乱が起きているスーダンにも、ロシアと中国が武器を売り渡しています。
スーダン国軍とRSFを両天秤にかけてロシアが軍事支援し、代わりにスーダンの金鉱を狙っています。

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ロシアはどのようにして世界最大の武器輸出国の一つになったか - ロシア・ビヨンド (rbth.com)

それはさておき、ヨーロッパ諸国のエネルギー源の大部分を、ロシア産原油に縛りつけてしまいました。
ロシアは中国と違ってカネはないが、油だけは売るほどあるのです。
そこで四方八方にパイプラインを伸ばして、油を売り続けました。
油はロシアの外貨獲得手段であるとだけではなく、エネルギー源を掌握することによる間接支配の方法でもあったのです。
わが国にもシベリアからパイプラインを海底でつながないか、という話が持ちかけられましたが、断ったのは賢明なことです。

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ロシア、South Stream 計画を取り止め - 化学業界の話題 (knak.jp)

ヨーロッパ各国の天然ガスの依存度はドイツで43%、イタリアで31%、フランスで27%に上りました。
ドイツなど輸入エネルギーの半分弱がロシアですから、こりゃ頭が上がりません。

これでは政治的にも首根っこを押さえられたのも同然です。

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脱ロシアのエネルギー未来図~アメリカは救世主になれるのか~ | NHK | ビジネス特集

ヨーロッパはロシア産原油の48%を支配されていたのです。

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ロシア産原油の禁輸に慎重だった米国、強硬姿勢求める世論受け一転…英国も歩調合わせ禁輸 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

このように見てくると、独裁国家に輸出入やエネルギーのゲタを預けてしまうことがいかに危険かわかるでしょう。
なにかあった時、必ず専制国家はそれを武器にパワハラをするからです。

プーチンはウクライナ侵略をするにあたって、エネルギーを武器としている以上、ヨーロッパ各国は反対することはしないだろう、仮にしてもそれは口先だけに終わるはずだ、と考えたはずです。
しかし欧州および民主主義の世界は、ウクライナ支援とロシア石油・ガスからの脱却の両面で結束して対応しました。
まことにプリンシパルで見事です。

このような対応が可能だったのは、ひとつには新たな天然ガス供給源として米国が登場したことです。

「アメリカからヨーロッパ向けのLNGの輸出は、ウクライナ情勢の緊張が高まっていた1月時点で、前年比で4倍に上っていた。
ベンチャー・グローバルLNG マイケル・サベルCEOは
「生産能力は今はまだ年1000万トンだが、これを7000万トンに拡大する工事を進めている。地政学の状況は様変わりし、石油や天然ガスを供給できるアメリカの重要性がますます高まる」と述べた」
(NHK2022年5月17日)
脱ロシアのエネルギー未来図~アメリカは救世主になれるのか~ | NHK | ビジネス特集

そしてふたつめには、このウクライナ侵略を通じて、欧州に「経済の集団安保体制」という新しい概念が誕生したことです。

「アナス・フォー・ラスムセン前北大西洋条約機構(NATO)事務総長が、中国の経済的威圧には民主主義諸国が一体となって集団的に対抗することが有効であると、3月28日付の 米国外交専門メディア「フォーリン・ポリシー」で述べている」
(岡崎研究所2023年4月18日)

中国に対抗するために必要な「経済の集団防衛」  Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) (ismedia.jp)

既に「経済の集団安保体制」はロシアで実践されていますが、さらにこれをもうひとつのならず者国家である中国にもつかったらどうだろうか、という検討が始まっています。

「中国に対しても、同様に結束した対応がより有効であろう。北京は小さな国を次々と狙い撃ちするが、世界の国内総生産(GDP)の 60%を占める民主主義世界の統合された経済力に直面すれば、同じ事はできないだろう。
NATO条約第5条の経済版を経済的威圧に適用すべきである。
「経済の第5条」は、標的とされた民主主義国あるいは企業に対する支援を含む必要がある。民主主義諸国は相互に支援し合い、輸入禁止や過剰な関税の対象とされた産品に別途の市場を提供することとなる」
(岡崎研前掲)

たとえば、「経済の集団安全保障体制」という国際連携の枠組みができれば、中国から直接的経済攻撃を受けている国同士の支援を制度化することができます。
たとえば、2020年に中国がリトアニア産品の輸入を禁止した時、リトアニアのビール・メーカーにとって中国からの注文はなくなった代わりにそれ以前の23倍を超える量のビールの注文が台湾から来ました。

台湾バナナが中国から輸入禁止になった時には、日本で購買運動が起きて一気に挽回することができました。
このような枠組みを、自由主義諸国間で「経済第5条」として定着させるのです。

「これによって、加盟国の一つが標的とされた場合、EUは貿易、投資及び資金的措置をもって報復する権限を有することになった。(略)
中国の経済的威圧に対抗する手段を持つことは重要で必要なことである。3月28日、EUでは、理事会と欧州議会が、第三国によるEUおよび加盟国に対する経済的威圧に対抗する仕組みを規定するEU規則について原則的な合意に達した。
最終的に承認されれば、欧州委員会はそれ自身の発意あるいは加盟国の要請により、経済的威圧のケースの調査を行い、一定の要件を充たすことを認定すれば、対抗措置(関税、輸出入ライセンス、政府調達などの分野における貿易措置)を提案し、提案が理事会により特定多数決で否決されない限り、実行されることになる」
(岡崎研前掲)

昨年、日本は外国の経済的依存に基づく威圧から身を守るため経済安全保障推進法を採択しました。
米国議会では、中国の経済的威圧に直面する米国の同盟国を助けるため、新たな手段を政府に与える法案が米議会に提案されています。
そしてこの日米の動きをより加速するのが「経済の集団安全保障」なのです。
この枠組みを、ヨーロッパではNATO諸国から、アジアでは日本とオーストラリアあたりから作っていきたいものです。

 

2023年4月21日 (金)

原発回帰に進むヨーロッパ


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ヨーロッパで新たな原発が稼働しました。
え、ドイツのように撤退がトレンドだろうって、いえいえ反対です。
世界の原発は再び増加の流れが始まっています。


「国際原子力機関(IAEA)によると、今年1月にインドで1基が送電を開始し、世界の原発は443基になった。福島事故前の2011年1月時点から2基増えた計算となる」
(東京2021年3月11日)
福島事故から10年 世界の原発は微増:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
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東京新聞
ただし、この記事はウクライナ戦争前に書かれたもので、この侵略によって原発回帰の流れが決定する前のものです。
象徴的な例はフィンランドです。
フィンランドは、ウクライナ戦争を経てロシアから電気を供給されていることの恐ろしさを身に沁みて理解し、10年間工事が難航していたオルキルオト原発の完成を急ぎました。
当初は2013年に稼働の予定で、建設は2005年に始まりましたが、安全性を高めたEPRの特徴とされる「二重封じ込め構造」の構築等にも時間がかかり、当初の稼働予定から10年遅れ、建設から18年かかっての稼働でした。

なお、この原発は160万キロワットで、世界最大級です。
皮肉にも、示し合わせたわけではないのでしょうが、稼働開始がドイツの原発ゼロと重なり、ヨーロッパの選択が二通り出たことになりました。
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「フィンランド南西部のオルキルオト原発で16日、欧州最大級となる3号機(出力160万キロワット)が本格稼働した。原発の運営会社が発表した。ロシアのウクライナ侵攻の影響でロシアからの電力やガスの供給が停止する中、エネルギー供給の安定化と価格高騰への対策となることが期待される。国際原子力機関(IAEA)によると、フィンランドで新たに原発が本格稼働するのは40年以上ぶり。
原発稼働を巡りドイツが事故リスクや放射性廃棄物問題を重視して原発利用を終了したのに対し、英国やスウェーデンでは新たな建設計画が進んでいる」
(産経2023年4月16日) 

欧州最大級原発が新たに稼働 フィンランドで40年ぶり - 産経ニュース (sankei.com)

ヨーロッパにとってウクライナ侵攻の影響は、安全保障だけではなく、エネルギー政策にまで及びました。
安全保障面では、ご承知のように北欧は一斉にいままで不変だと信じられてきた中立政策を捨ててNATO加盟申請に走り、フィンランドはつい先日承認が降りたばかりです。
エネルギー面でも傷跡は大きく、ロシアは昨年5月にフィンランドへの電力供給を停止するという蛮行をしでかしました。
やむをえずフィンランドは、急遽スウェーデンやノルウェーから電力を輸入して凌ぎました。
このようにロシアがエネルギーや食料を戦争外交の具にした結果、フィンランドではエネルギーの安定供給のために原発回帰せざるをえなかったのです。
いわばロシアが原発回帰へ押しやったのです。
オルキルオト原発の新型路1基だけで国内の全電力の14%をカバーし、同発電所の旧型の2つの原子炉と合わせれば約30%の電力を発電します。

同じくスウエーデンにおいても新たな原発建設計画が始まっています。

「スウェーデン政府は1月11日、原子力に関する改正法案を提案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。政府は、既に原子力発電所がある場所以外での原子炉の建設を禁止するという環境法の規定のほか、運転中の原子炉の数を10基までに制限する規定も削除することを提案した。
現在、同国にはフォルスマルク、オスカルスハムン、リンハルスの3カ所に6基の原子炉がある。本提案は今後3カ月間、意見公募を行い、2024年3月に法案を施行する予定。
ウルフ・クリステション首相は会見で、産業および運輸の電化や脱化石燃料への移行が進む中、国全体でさらなるクリーンな電力が必要で、あらゆる種類の非化石エネルギーが必要だと述べた。さらに、より多くの場所に、より多くの原子力発電所を建設することを可能にしたいという意向も示した5
(JETRO2023年1月18日)
スウェーデン、原子力発電所建設に向けた法改正を提案、家庭向け電力補助金も発表(スウェーデン) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ (jetro.go.jp)

スウエーデンがどの形式になるか未定ですが、フィンランドの新原発は運営会社のTVOによると、第3世代の欧州加圧水型原子炉(EPR)です。

「EPRは「3.5世代」(または「第3世代プラス」)と呼ばれる原子炉。1990年代以降に設計され、事故で電源が失われても自動的に原子炉が停止する「受動的安全設備」を備えているのが特徴だ。
アレバの前身である旧仏フラマトムと旧独シーメンス原子力部門が「第3世代」の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)や改良型加圧水型軽水炉(APWR)などに続く次世代型として世界の原子力メーカーのトップを切り、80年代末に共同で開発に着手した」
(日経2015年1月26日)
安全な原発は夢か 仏アレバの新型炉建設が難航 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

この3.5世代のEPR炉の特徴は、ステーションブラックアウトとなった場合、自動的にスクラムされて停止すること、仮に炉心(コア)が融解して落下してもコアキャッチャーがあって格納容器から外に漏らしません。
また外部からの攻撃に対しても極めて強靱で、格納容器へ航空機が直撃しても耐えられます。
160万キロワット級という大出力を持ち、きわめて高い経済性を持っています。

作ったのはフランスのアレバ社です。

    ●EPRの特徴
   ・頑丈な原子炉格納容器・ 大型旅客機の衝突に耐える二重構造の格納容器

   ・安全上重要な設備の多重性・ 独立4系統
   ・コアキャッチャー・ 原子炉圧力容器外に流出した溶融核燃料を格納容器内に留める。
   ・格納容器熱除去設備・コアキャッチャーを水で循環冷却する機能と、原子炉を水棺に出来る機能を併せ持ち、溶融炉心を長期間 却可能。

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A DETAILED LOOK AT THE EPR TECHNOLOGY

「一方で安全性も飛躍的な向上を目指した。事故で炉心溶融(メルトダウン)が起きても溶け落ちた核燃料は「コアキャッチャー」と呼ばれる巨大な受け皿に流れ込む仕組み。その上部にある貯水タンクは高温になると蓋(ふた)が自動的に溶けて弁が開き、その結果コアキャッチャーを水が満たして溶け落ちた燃料(デブリ)を冷やす機能がある。
また、EPRが備える4基の主ディーゼル発電機と2基の副発電機はいずれも原子炉の向かい側に設けられた高気密防水機能が施された別の建屋に収納され、電源並びに原子炉冷却機能の喪失を回避する狙い。これらの装備は79年に米ペンシルベニア州のスリーマイル島原発で起きた原子炉冷却材喪失事故を教訓に考案されたものだ」
(日経2015年1月15日)
安全な原発は夢か 仏アレバの新型炉建設が難航 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

ヨーロッパでは脱原発の流れは、このドイツの全原発停止で一端終了するでしょう。
ヨーロッパにおいてもドイツに続く国はないようです。

そしてそれに代わって、次世代炉への置き換えが急速に進むと考えられています。

 

 

2023年4月20日 (木)

まなんではいけないドイツ流脱原発

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日本はドイツの脱原発を模倣できません。
ドイツにあり、日本にない理由がかつては3つ、今は1つ減って2つあるからです。

ひとつめの理由は、ドイツは大きなヨーロッパ電力広域連携の送電網の中に位置しており、電力が余剰の時は旧東欧諸国に輸出し、不足した場合は輸入しています。

PhotoIntegration of large scale wind in the grid - The Spanish Experience, REE 社,2008

このおかげで東欧はドイツの風車が回りすぎると、突如過剰な電力を流し込まれ、逆に不足すると突然の大量需要が舞い込むということになり、自国の電力需給すら不安定になったほどです。  
よく、「脱原発をしても原発大国フランスに電気を売ってやったゾ」と見てきたようなことを言う人がいますが、それは正しくはありません。

脱原発議員連盟の河野太郎氏はこう述べています。

「ドイツは脱原発というが、隣のフランスから原子力の電力を輸入して脱原発している。電力料金も高くて困っている。」となぜか誇らしげに発言する議員がいます。
2015年にドイツはフランスに対して13.27TWhの電力を輸出し、3.84TWhの電力を輸入したことがわかります。差し引き9.43TWhの「輸出」超過です。ドイツはフランスの原子力の電力を使って脱原発をしているわけではないのです」
ドイツの電力輸出 | 衆議院議員 河野太郎公式サイト (taro.org)

河野氏の論拠がこの図です。

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PowerPoint-Präsentation (agora-energiewende.de)

しかし、これも一種の錯覚です。
山本隆三(常葉大学経営学部教授)による『電力自由化がもたらす天国と地獄』によれば実態はこうです。
電力自由化がもたらす天国と地獄 破綻する電力と儲かる電力の違いは何か? Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) (ismedia.jp) 

ひとつは、原発に76%依存しているフランスが,原発の点検のために発電量を急激に落としてしまったことです。

「フランスでは、原子力発電所の蒸気発生器などの一部機器に炭素濃度が高い材料が使用されているため強度不足の懸念があるとして、原子力規制委員会が点検を命じた。2016年の第3四半期より臨時の点検作業が開始されている。いま、定期点検を含め合計58基(総出力6313万kW)中17基の原発が停止中だ」
(山本前掲)

その結果、フランスの発電量は大きく減少し、9月の発電量は1998年以来最低の266億kWhまで落ち込み、輸出大国フランスが、一気に輸入大国に転落したのです。
その結果が、ドイツに対して輸入超過になってまいました。
大場紀章(エネルギーアナリスト)氏による欧州電力網の中の収支はこのようになっています。

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ENTOS-Eのデータによる対周辺国に対する電力の物理的な電力輸出入量
独仏の電力輸出入の問題|大場紀章 エネルギーアナリスト/ポスト石油戦略研究所代表|note

これを見ると、ドイツは純輸出量の51.8TWhのうち、0.7TWhはフランスから調達しているのが実態です。
当然のことながら、日本は電気を買えません。
欧州送電網の中にあるドイツと島国日本では置かれた地理的条件がまったく違うのです。
そもそも売った、買ったというのは、周辺国との収支トータルで見ねばなりませんが、このような複雑な電力需給収支をしていることも知らないで、「ドイツに学べ」はないもんです。

そしてもうひとつが、ロシアからの天然ガスですが、これが消えました。 

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ウクライナ情勢、米欧各国の思惑は… ロシアからガス供給を受ける欧州、対ロ制裁で強く出られず:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

EUの消費する天然ガスの25%はロシア・ガスプロムから供給を受けており、その最大の消費国はいうまでもなく、脱原発に走ったためにエネルギー基盤がもっとも脆弱となったドイツでした。 
これがEUをして、ウクライナでロシアに強く出られなかった決定的な理由とったのは記憶に新しいところです。

「ロシアの天然ガスは欧州の調達量の4割を占め、各国の経済活動や市民生活を左右できる「武器」だ。もともとノルドストリーム2の計画に反対してきた米国は、ロシアの侵攻危機に伴って「ガス輸出はロシアの重要な資金源にもなっている」(米政府高官)と、制裁措置としてドイツに計画の停止を求めてきた。
そうなれば欧州などでのガスや電気のさらなる高騰は必至。対ロ制裁で米欧との協調を掲げるショルツ氏だが、15日の記者会見では計画停止について明言しなかった」
(東京2022年2月17日)
ロシアの天然ガスに依存する欧州

ロイター

このようにメルケルの脱原発政策という手品の種は日本にないふたつの要素、つまり電気を直接に外国から供給してもらえる広域電力網と、これも直接に地続きのロシアから供給される天然ガスによって支えられていたわけです。 

そして三つ目の隠し玉が国産褐炭でした。

下図はドイツの電源比率です。13年を見ると、石炭に15.4%、石炭に19.6%、天然ガスに10.5%と言ったところで、原子力すら15.4%もあります。Photo_2

その火力のうち石炭が42%を占めています。しかも石炭の火力の内訳は、質の悪い硫黄分が多い国産褐炭火力(発電出力22.4GW)で、石炭火力(同29.0GW)と同じくらいの比率です。

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AFP
2018年にハニエル炭坑が閉山しましたが、これは環境問題とは関係なく、外国産の安い石炭が入ってきたためです。

「石炭は環境汚染の最大の原因として高まる批判にさらされているが、プロスペル・ハニエル閉山のきっかけは環境問題ではなく、安価な外国産の輸入だ。最盛期には約60万人が従事したドイツ石炭産業は、競争に敗れて衰退。アンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相の政府は2007年、国内の無煙炭鉱を18年末までに閉山すると決定した。11年もの長い準備期間には、早期退職制度を整え、労働者のデモを回避する効果があった。
ただ、ドイツ国内にはまだ露天掘りの褐炭鉱山が幾つもある。また、国内の火力発電所ではロシアや米国、オーストラリア、コロンビアなどから輸入された無煙炭が使われている」
(AFP2018年12月21日 )
ドイツ最後の無煙炭鉱、ついに閉山 奇跡の復興支えた歴史に幕 写真12枚 国際ニュース:AFPBB News 

ちなみに日本の石炭依存度は16.8%(01年)で、しかもCO2対策は世界最高の水準にあります。
幸か不幸か、日本の炭坑はすべて閉山されてしまっています。
この辺のことをアピールしないで、「いまだ再生可能エネルギー1.6%にすぎないエコ後進国」、という妙に卑下した自己認識を持っているのがわが国です。
私に言わせれば、再生可能エネルギーが多いからといって別に環境大国ではないんですがね。

中国なんか硫黄分の多い低品質石炭と排ガスで金星のようなスモッグの底に沈んでいますが、世界有数の太陽光発電の国であるのは確かですから、ドイツ流に「再生可能エネルギー大国の中国はエコ大国だ」と宣伝して下さい(爆笑)。
※関連記事農と島のありんくりん: 2013年10月 (cocolog-nifty.com)       

それはさておき、こんなに石炭に強依存してしまうのは、ドイツが国内の雇用政策として長年に渡って国内炭鉱を維持してきたためで、強みでもあり弱みでもあります。
※関連記事石炭と再生可能エネホルギーのネバーエンディングストーリーの悪夢: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

さて、2011年6月9日のメルケル首相演説は、「2022年までに全ての原子力を停止する」とした脱原発部分だけが抜き出して日本では報道されてしまいましたが、火力発電所の増設や送電網増強も述べています。

メルケル演説の骨子はこんなかんじです。
(「ドイツ電力事情」国際環境経済研究所主任研究員 竹内純子氏による)

●2011年6月9日のメルケル首相演説
①供給不安をなくすために2020年までに少なくとも1000万kWの火力発電所を建設(できれば2000万)すること。
②再生可能エネルギーを2020年までに35%にまで増加させること。但し、その負担額は3.5セント/kWh以下に抑えること(*しかしこれが2013年には約5セントに上がることが発表され国民の不満が増大している)
③太陽光や風力発電などの変動電力増加に伴う不安防止のため、約800キロの送電網建設すること。
④2020年までに電力消費を10%削減して注目の再生可能エネルギーは、設備容量ベースで20%前後(※統計年によって違う)にする。

このようにメルケル首相は、火力発電の増設と送電網の増設、節電などをワンセットで述べています。
ただし、ご注意いただきたいのは「2020年までに再生可能エネルギーを35%にする」という中身です。
これはあくまで設備容量ベースなのです。これが他のエネルギー源と違う点です。

この「設備容量ベース」カウントは、再生可能エネルギーに対しての「美しい誤解」、悪く言えばトリックを呼ぶ原因になっているからです。このブログとおつきあいいただいた方には、もうお分かりだと思いますが、この設備容量ベースというのは、「条件さえよければ、これだけ発電できますよ」という理論的可能性の数字です。
再生可能エネルギー以外だと、故障とか定期点検で停止しているとかの特殊事情がなければ、設備容量ベース=発電量ですが、再生可能エネルギーではまったく違うのです。

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ニューズウィーク

風が吹かねばプロペラは回らず、曇りや雨だと太陽光発電はただの箱だからです。
ですから、再生可能エネルギーでは設備容量に稼働率をかけたものが実発電量となります。
ややっこしいですが、再エネが主力電源になるという者は、往々にしてそれを忘れて議論していますからご注意ください。

●再生可能エネルギーの稼働率の実数値
・太陽光発電平均稼働率・・・10.4%
・風力発電        ・・・23.4%

だいたい平均して、再生可能エネルギーの稼働率は10~20%前後程度だと推測されます。
ですからよくメガソーラー発電所などと言っても、実は10分の1メガソーラーなのです。
ドイツのように長年に渡って莫大な国家財政を注ぎこんで再生可能エネルギーを育成しても、天候という現実の壁があるということは知っておいたほうがいいでしょう。

そして発電した場所と消費地が大変に離れているため、大規模な送電網を建設せねばなりませんでした。

「ドイツでは風力発電所は常に強い風が吹く北部に集中しているが、大規模な工場の多くは南部にある(南部に集中する原発は次々と運転を停止している)。北部の風力発電所から南部の工業地帯に電力を送るのは容易ではない。風が強い日には、風力発電所は大量の発電が可能になるが、電力はためておくことができない。供給過剰になれば送電線に過大な負荷がかかるため、電力系統の運用者は需給バランスを維持しようと風力発電所に送電線への接続を切断するよう要請する。こうなるとツアー客が眺めた巨大なブレードも無用の長物と化す。
一方で、電力の安定供給のためには莫大なコストをかけてバックアップ電源を稼動させなければならない。ドイツでは昨年、こうした「再給電」コストが14億ユーロにも達した」
(ニューズウィーク2018年10月27日)
ドイツでもグリーン電力の夢は頓挫していた | ニューズウィーク日本版 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net) 

「現実の壁」は、単に天候と送電網だけではありませんでした。
現実に大々的に国家レベルで再生可能エネルギーを導入するとなるとバックアップの火力発電所が悲鳴を上げ、工場は瞬間停電に日々備えなくてはならなくなりました。
「なんだたかが瞬間」なのかと甘く見てはダメです。今のコンピータ制御の工場システムは、ミリ何秒単位の瞬間停電で製造工程がストップして、ひどい時はオシャカの山を築いてしまいます。

その原因は、再生可能エネルギーが慌ただしく変化する場合、バックアップ電源とのリレーがうまくいかずミリ秒(千分の1秒)単位の停電を引き起こしてしまうからです。

ドイツの「シュピーゲル」誌はこう述べています。
ドイツ産業エネルギー企業 (VIK) の調査では、過去3年間にドイツの電力網の短い中断の回数は 29 %です」。
そのためにドイツから逃げ出す製造業がじりじりと増え始めました。
工場が外国に移転するというのは、とりもなおさず雇用がなくなるということですから大問題です。
ドイツ商工会議所のアンケートでは、60%の企業が瞬間停電や電圧変動などを恐れていると回答し、電力供給の不安定さからドイツ国外へ工場移転した企業がすでに9%、さらに移転計画中が6%ほどあるということです。

BMWの新工場もメキシコか東欧に作る予定のようですが、販路戦略との関わりも大きいといえども、このドイツ国内の頻繁に起きる瞬間停電に嫌気が差したのかもしれません。
こんな犠牲を払いながらドイツは脱原発=再生可能エネルギーという「理想」のために、火力発電所と送電網の大増設を始めたわけです。

そして何度も書いてきましたが、再エネの最大の問題はFIT(固定価格買い取り制度)による賦課金の多さです。
これがドイツの電気料金を押し上げているガンになっているのは衆知のことですが、河野氏はこう言っています。

「その内訳をみると発電や送配電のコストの合計は5.9ユーロセント/kWhだったものが7.1ユーロセント/kWhに上がっているだけで、あとは賦課金や税です」
(河野前掲)

おいおい河野さん、さりげなく「あとは」と言っていますが、この「あとは」のほうが大変なんでしょうが。

「ドイツの電気料金は、家庭用・産業用ともに、フランスの約2倍の水準。2015年で見ると、①ドイツの家庭用電気料金は、1kWh当たり0.28ユーロであるのに対し、フランスでは同0.15ユーロ、②ドイツの産業用電気料金は、1kWh当たり0.20ユーロであるのに対し、フランスでは同0.11ユーロ」
石川和雄"再エネ大国"ドイツと、『原子力大国』フランスの比較(その1) 〜 ドイツの電気料金は、フランスの2倍 | ハフポスト NEWS (huffingtonpost.jp)

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石川前掲

もちろんこの原因は、再エネの賦課金の過重な負担にあります。


「ドイツの電気料金が高いことの大きな理由は、再エネ賦課金が相当高いことで概ね説明される。
ドイツの再エネ賦課金は、例えば0.0205ユーロ/kWh(2010年)から0.06354ユーロ/kWh(2016年)に上昇している。これは、1kWh当たりの小売価格の2割以上を占めていることになる」
(石川前掲)

ちなみに緑の党のハーベック大臣の原発ゼロの対策は、唯一再エネを全力で増設することだそうです。

「ハーベック氏は電力拡充のため、今後、全力で再エネを増やすという。
日射時間が短いドイツで頼りになるのは風力なので、風車には国土の2%を割き、設備容量を2〜3倍にする。また、ここ数年、風力に対する投資が急激に減っているため、その対策も取る。つまり、補助金をさらに増やし、住民の建設反対運動を抑えるために法律を改正し、また、風車の認可に乗り気でない自治体にはプレッシャーをかけるというから強権的だ」
緑の党のドイツ版「大躍進」政策 | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)

ハーベック氏には悪いが、つまり実効的対策とはならない上に、さらに再エネ賦課金の負担を増やして国民と企業を苦しめることでしょう。
観念のお化けのやることは、ほんとうにコワイ。

 

2023年4月19日 (水)

とうとうやっちまったドイツ脱原発

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昨日の記事のコメント欄を間違って閉めてしまいました。
すいません。今は開けててあります。

                                           ~~~~~

とうとうやっちまった、って感じですかね。
ドイツが原発ゼロを本当にやってしまいました。

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AP

「国内すべての原子力発電所の停止を目指してきたドイツでは、15日、稼働していた最後の3基の原発が送電網から切り離され「脱原発」が実現しました。今後、再生可能エネルギーを柱に電力の安定供給を続けられるかなどが課題となります。
ドイツは2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて当時のメルケル政権が「脱原発」の方針を打ち出し、17基の原発を段階的に停止してきました。
「脱原発」の期限は去年末まででしたが、ウクライナに侵攻したロシアがドイツへの天然ガスの供給を大幅に削減したことで、エネルギー危機への懸念が強まり政府は稼働が続いていた最後の3基の原発について停止させる期限を4月15日まで延期していました」
(NHK2023年4月16日)
ドイツで「脱原発」が実現 稼働していた最後の原発3基が停止 | NHK | ドイツ

実は外から見るのと違って、ドイツの脱原発は簡単ではありませんでした。
最大の理由は、ドイツが世界一高い電気料金に襲われていたからです。
ソーラージャーナルという再エネの専門サイトによれば、このような状況です。

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脱炭素に足踏みするドイツの苦悩 part2|SOLAR JOURNAL

上のグラフは天然ガスのスポット価格の推移です。
昨年の秋からウクライナ戦争による影響で急激に上昇し、12月26日には、年初の10倍を超える値を付けています。10倍ですからハンパない。
これは世界共通の動向で、わが国も同様です。
当然この天然ガスの天井知らずの高騰は、欧州の電力卸売市場を直撃しました。

下図は、各国の2021年の年間のスポット市場の平均値です。

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同上

ドイツは、1kWhあたり9.7ユーロセント(ユーロ/MWh・12.6円)であり、2020年の平均の3ユーロセント(3.9円)から実に3倍超に及ぶ高騰です。

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ブルームバーク

この電気代高騰は企業経営を圧迫し、企業物価を引き上げました。

「ドイツの電気・ガス価格はわずか2カ月で2倍余りに上昇。欧州の指標である1年先の電力価格はメガワット時当たり540ユーロ(約7万4000円)を超えた。2年前の同価格は40ユーロに過ぎなかった。
自動車や航空宇宙、家電業界向けにシリコーン部品を製造するBIWイゾリアーシュトッフェのラルフ・シュトッフェルズ最高経営責任者(CEO)は、「ドイツのエネルギーインフレは、他のどこよりもはるかに急激だ」と指摘。「ドイツ経済で段階的に脱工業化が進むのではないかと懸念している」と述べた。 」
(ブルームバーク2022年8月19日)
ドイツで製造業が大脱出のリスク、エネルギー価格高騰で悲鳴 - Bloomberg 

下のグラフは、欧州27ヶ国のこの10年間の化石燃料発電の発電量推移です。

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ソーラージャーナル
左から、化石燃料全体、2番目(黒)が石炭、3番目(黄)がガスによる発電量

黒色の石炭火力は、一昨年まで「脱炭素」で大きく減っています。
これを再エネ発電がカバーできていれば、市場の混乱は起きなかったでしょうが、再エネはそう都合よく増えないのです。
国策として再エネに集中したドイツですら3割台、テンマーク、スウエーデンが特出して高いのは水力発電を再エネとしてカウントしているからです。
ちなみに日本は水力をなぜか再エネとは認めておらず、民主党政権は脱ダム政策で建設を中止させました。

「現在ドイツには220万枚の太陽光パネル(2022年5月)と、陸海合わせて3万基近い風車があるが、これのみでは国内の電力需要は満たせない。その理由は、太陽光パネルや風車が足りないせいではなく、太陽はどんな晴天の日でも夜は照らず、また、風は北ドイツの海岸沿いや海上を除けばそれほど定期的には吹かないからだ。特に、南ドイツにある風車の常態とは、静止状態だといわれている」
(川口マーン恵美 アゴラ )
緑の党のドイツ版「大躍進」政策 | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)

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120.EUの再生可能エネルギー市場統合戦略-「優遇」から「市場統合」へ-道満治彦 | ユーラシア研究所 レポートサイト (yuken-jp.com)

特にドイツでは洋上風力発電の不振がめだっており、停電を避けるために自国産の褐炭を使った石炭火力発電を多用した結果、ドイツ全体としてのCO2排出量を増やし、脱炭素に逆行してしまいました。
つまり脱炭素というお題目と、脱原発が矛盾し合うものだということを現実が証明してしまったのです。

脱炭素を至上命題に位置付けているなら、今、なぜCO2を排出しない原発を止めるのか理解できません。
原発を停止すれば、その代替は石炭か褐炭、あるいは天然ガスしかなく、そのぶん確実ににCO2は増えるのは、小学生でもわかることです。

これら化石燃料でもっともCO2排出量が少ないのは天然ガスですが、それはベッタリとロシアに依存していました。
脱原発を始めたメルケルは、ロシアとドイツを結ぶノルドストリームがあるから脱原発に踏み切れたのです。
ところがウクライナ戦争によって天然ガスの価格は高騰していますから、原発を速やかに元通り再稼働するしかテはないのは明らかです。
それでも緑の党のハーベック経済・気候保護相は脱原発を強行するというのですから、なんともかとも。
緑の党のような観念のお化けに経済・気候保護大臣をやらせているから、こうなるのです。

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BBC

緑の党の結党理由は、一に反原発、ニに反核、三に反戦でした。
しかし彼らは国政に参与するに従って、現実に適応せねばなりませんでした。
緑の党は社民党と連立して政権党となると、起きたのがウクライナ戦争でした。
彼らはむしろウクライナ支援に積極的で、軍事支援の移転にも躊躇しなかったことが世間を驚かせました。
また核についても、核兵器で脅迫するロシアと対峙している状況での非核などナンセンスだと分かったはずです。
したがって、緑の党に残されたアイデンティティは、唯一結党当時の反原発だけになってしまったのです。

緑の党が反原発ゼロに固執したために起きた電気代高騰は、企業経営を圧迫しました。

「ドイツの電気・ガス価格はわずか2カ月で2倍余りに上昇。欧州の指標である1年先の電力価格はメガワット時当たり540ユーロ(約7万4000円)を超えた。2年前の同価格は40ユーロに過ぎなかった。
自動車や航空宇宙、家電業界向けにシリコーン部品を製造するBIWイゾリアーシュトッフェのラルフ・シュトッフェルズ最高経営責任者(CEO)は、「ドイツのエネルギーインフレは、他のどこよりもはるかに急激だ」と指摘。「ドイツ経済で段階的に脱工業化が進むのではないかと懸念している」と述べた。 」
(ブルームバーク2022年8月19日)
ドイツで製造業が大脱出のリスク、エネルギー価格高騰で悲鳴 - Bloomberg 

企業はドイツの高いエネルギーコストを嫌って、ドイツ国外に逃避し始めました。

「ドイツ政府は家計に対する値上がりをある程度抑えているものの、企業に保護はなく、多くはコスト上昇を顧客に転嫁するか、操業を止めることになる見通しだ。(略)
産業分野でのドイツの地位低下を示す証拠は見られ始めている。オックスフォード・エコノミクスが分析した政府データによると、今年1-6月の同国の化学品輸入量は前年同期比で約27%増加。一方で6月の化学品生産は昨年12月に比べおよそ8%減少した 」
(ブルームバーク前掲)

また、このような声も企業から上がっています。

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NHK

「このうち南部バーデン・ビュルテンベルク州に本社がある車のエンジンなどに使う部品を製造する企業は、鉄などの加工に欠かせないガスと電気の料金が去年、前の年と比べおよそ50%値上がりしたということです。
シュテファン・ウォルフ社長は「残っている3基の原発を止めるとエネルギー価格が上昇すると思う。二酸化炭素の排出がゼロで、いまも利用できる原発を止めるのは大きな間違いだ」と話し、反対の立場を示しています。
そして「ドイツ政府がエネルギー価格を下げることができなければ多くの企業が生産拠点をよりエネルギー価格が安い国へ移してしまう」と強調しました」
(NHK前掲) 

間違いなく、この緑の党がゴリ押しした原発ゼロ政策によって、インフレが亢進し、企業は国外へと逃避するはずです。
政権内でも、何が何でも原発は止めたい緑の党と、電力安定のために数年は稼働延長すべきという自民党(FDP)との対立で、予定だった去年12月中の停止ができなくなり、結局緑の党に屈したショルツ首相(社民党・SPD)の無責任な「鶴の一声」で3カ月半間延びて、今全原発停止に踏み切ったようです。

ただこれでオシマイではないと、川口マーン恵美氏は述べています。

「ただ、その秒読み段階に入った今、自民党は再び稼働延長の声を上げ始め、それどころかアンケートによれば、国民の半分以上が、今、原発を停止することは誤りであると考えているらしい。
しかし、時すでに遅し。新しい核燃料棒は今日注文して明日来るわけではなく、しかも、これまではそれもロシアから買っていた。だから今さら、「やはり延長しましょう」とはいかず、ドイツは4月15日、原発の歴史に(一応?)終わりを告げ、今後は2045年の脱炭素に向かって一直線に突き進むことになる。「惑星を救済するため」の政府の遠大な目標である」
(アゴラ同上)

他国のことながら、なんという愚かしさなのか、ひたすら呆れるばかりです。
BBCは、このようなドイツ国民の声を伝えています。

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BBC


「有権者の意見は割れている。今週行われた世論調査では、回答者の59%が原発閉鎖に反対しており、賛成は34%にとどまった。原発支持は、年齢層の高い有権者や保守層に特に多かった。
しかし、より詳細な質問では微妙な違いが見えてくる。調査会社ユーガヴの調査によると、最後の3原発を当面の間、運転させておくことに賛成した人は65%だったが、ドイツが恒久的に原発を持つことに賛成したのはわずか33%だった。つまり、いつかはコンセントを抜くが、今ではないということだ」
(BBC4月19日)
【解説】 ドイツが脱原発を実現 国民の意見は今も割れている - BBCニュース

まさに、今ではありません。

 

2023年4月18日 (火)

メディアが「第2の山上」を生んだ

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またもや始まりました。
和歌山暗殺未遂事件に対しての「山上化」の報道です。
メディアはこの犯人の「心の深層」に迫る」として、たとえば読売はこんな記事を載せています。

「小学6年で同級生だった女性は「小学生の頃は明るくてリーダーシップがあったけれど、中学に入ると無口になり、誰とも話さなくなった」と話す。
中学3年で同級生だった別の女性も「教室で話しかけても目を合わさず、いつも『ほっといてくれ』という雰囲気で教室の隅っこにいた。時々、同級生からからかわれていたこともあった」と振り返る。
木村容疑者は昨年9月、自民党系の当時の川西市議が開いた市政報告会に参加し、議員の報酬について質問していた。同級生の女性は「中学生の頃は、政治に関心がある様子はなかった」と首をかしげた」
(読売4月17日)
明るい小学生時代から中学で急に無口に、最近は「家に引きこもりがち」…首相襲撃の木村容疑者 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

だからなんなんです。
この木村某が何を考えていようといまいと、「心の闇」とやらを持っていようといまいと、なんの関係もありません。
仮に「心の闇」とやらがあったとしたら、それで免罪されるのでしょうか。
ほー、それは便利なことだ。
「心の闇」を持っていたら、他者を殺す特権を持てるのですか。
無辜の人の生命を奪い、その家庭を破壊しておきながら、被害者ヅラすれば許されるとでも。

人はひとつやふたつの他人に言えないことを抱えて生きています。
それがあたりまえの人生というもので、それで犯罪を説明することにならないし、ましてや正当化する理由にはなりません。
貧しかろうと、豊かだろうと、人生に挫折しようとしまいと、人は自らがやったことにおいてのみ裁かれ、断罪を受けるのです。

メディアは口先では「テロはいけない」と言いながら、山上某にはベタベタに甘ったるい「物語」を作ってみせました。
これはテロリストに「顔」を与える行為です。

あまりにも有名なテロリストに対してアーダーン・ニュージーランド首相の言葉を、日本メディアはすこしでも噛みしめるとよい。
あなた方日本のメディアが、いかに傾いて狂っているのかわかるはずです。

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BBC


「約100人が死傷したニュージーランド・クライストチャーチのモスク(イスラム教礼拝所)銃撃事件を受けて、ジャシンダ・アーダーン首相は19日、銃撃犯の名前を今後一切口にしないと誓った。
アーダーン首相は議会で、「男はこのテロ行為を通じて色々なことを手に入れようとした。そのひとつが、悪名だ。だからこそ、私は今後一切、この男の名前を口にしない」と、気持ちをこめて演説した。
皆さんは、大勢の命を奪った男の名前ではなく、命を失った大勢の人たちの名前を語ってください。男はテロリストで、犯罪者で、過激派だ。私が言及するとき、あの男は無名のままで終る
(BBC2019年3月19日)
ニュージーランド首相、銃撃犯の名前は今後一切口にしないと誓う  - BBCニュース  

アーダーン首相はがテロリストの名を呼ばないと誓ったのは、「名を得ること」が犯人の目的だからです。
つまり、メディアがこのテロリストの「心の闇」を報じることは、すなわちテロリズムの目的を国民に拡散することなのです。
ニュージーランドで起きたこのテロリズムにおいては、ムスリム排斥であり、そしてわが国では安部氏暗殺でした。

そしてアーダーン首相は、ソーシャルメディア各社に対し、テロに対抗するための対策を要請しています。


「こうしたソーシャルメディアのプラットフォームはただ存在するだけで、そこに掲載される内容に、プラットフォームは何の責任も負わないなど、私たちは甘んじて受け入れるわけにはいかない。各社は出版社でだ。単なる郵便配達人ではない。利益だけ得て責任は負わないなど、あり得ない」と首相は強調した」
(BBC前掲)

それまで世界中のSNSに、このテロリストの主張が大規模に拡散されていました。
「米フェイスブックは19日、犯行動画のライブ配信中の視聴回数は200回未満だったと明らかにした。動画が削除されるまでに合計で約4000回も視聴されていたという。同社は最初の24時間のうちに、世界中で問題の動画を約150万本削除したが、そのうちの約120万本はアップロードの最中にブロックされたという」
(BBC前掲)
これに対してアーダーン首相は「利益をあげて責任を負わないことはありえない」という社会の責任の名において規制を要請します。
そして代わりに、「生命を失った人の名前を語れ」と訴えたのです。
ジャシンダ・アーダーンは労働党出身のリベラリストですが、日本にテロリトに特有の犯人に「寄り添う」自称リベラルとはまったく対照的です。
ジャシンダ・アーダーン - Wikipedia

アーダーン首相が要請したメディア規制要請の対局にいたのが、わが国メディアでした。
ただ犯人の言い分を垂れ流すだけではなく、積極的に称揚したのですから、反社会的行為への意識的加担と呼ばれても致し方ないでしょう。
つい数カ月前も、朝日は懲りもせずに『時代に敏感、感情任せでない犯行安倍氏銃撃、容疑者の投稿分析』と題して、山上礼賛特集を組んでいました。

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朝日

「21年は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への度重なる批判、眞子さまの結婚騒動に絡めて「婚姻の自由」への言及、過去のNHK大河ドラマで登場した戦国武将明智光秀の「語り尽くせぬ恨みあれども、此度(こたび)の戦決して私心にあらず。天下国家のため織田信長の首を取ることこそ天の道」といったセリフをいくつも引用して投稿している。
世の中を変えていく、といったところに注目していることがうかがわれます。
これらの投稿を見ると、単に妄想や感情にまかせて犯行に及んだものとは考えにくい。国や政治、世界に対して興味関心もあり、自分の意見を述べることができる人、時代の情勢に敏感で、問題意識が高い人ではないかと思われます」
(朝日1月8日)
「時代に敏感、感情任せでない犯行」 安倍氏銃撃、容疑者の投稿分析:朝日新聞デジタル (asahi.com)

山上のツイートにあった、明智光秀の「語り尽くせぬ恨みあれども、此度(こたび)の戦決して私心にあらず。天下国家のため織田信長の首を取ることこそ天の道」といったセリフをいくつも引用して投稿している。世の中を変えていく、といったところに注目している」そうで、「時代の趨勢に敏感で、問題意識が高い人だ」と手放しです。

恥ずかしくありませんか。
朝日は山上某を信長を倒した光秀に例えて、「私心なく安部を殺したことが天の道だ」と言っているに等しいのです。
ならば朝日は、朝日新聞小尻知博記者が赤報隊と称する者に殺害されたこともまた「天の道」だと言うのでしょうか。
そしてこのテロリストに対しても、「理由が正しければ許される」「社会に対するやり切れなさが背景にある」と書いたでしょうか。

テロリストに「名前を与えるな」という言葉は、彼らの主張に耳を貸すなという意味です。
なにをテロリストが叫んでいようといまいと、この人物がテロリズムという最悪の方法を選択した以上、主張すること自体許されません。
もし許してしまったら、殺人こそが「時代の情勢に敏感で、問題意識が高い人」がとるべき「世の中を変えていく」最短の道だということになるからです。

ところが、安部氏となると次元の違う統一協会へミスリードし、山上某を「義士」として崇拝し、助命嘆願する空気すら生んでしまいました。
その一例は、ワイドショーです。
加藤文宏氏は、このように日本メディアの狂騒を分析しています。

「2022年年7月8日の安倍晋三元総理の暗殺事件の直後から11月まで、月曜から金曜の週五日、各放送局のワイドショーは放送時間の大半を割いて旧統一教会(世界平和統一家庭連合)を追及する番組を放送した。放送回数、時間ともに驚くほどの力の入れようで、ワイドショーは異例の視聴率を記録している。
なかでも日本テレビ系列の「情報ライブ ミヤネ屋」は暗殺事件前の平均と比較して2%ほど高い7%台となる世帯視聴率を達成しただけでなく、テレビをつけている世帯全体に対して特定の番組にチャンネルを合わせている世帯の割合を示す占有率では、30%を超えるシェアを長期間維持し、午前午後を問わず他のワイドショーを圧倒した」
(産経2023年4月16日)
ワイドショーが善悪を決めていいのか - 月刊正論オンライン (sankei.com)

つまり山上某を英雄視し、それを旧統一協会糺弾に持っていきさえすれば視聴率がとれるということを、メディアは発見したのです。
この期間の視聴率をみてみましょう。
これを執拗に扱い続けたミネヤが圧倒的に視聴率を稼いでいます。

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“教団と政治”が分けたワイドショーの明暗~公務員が注目した『ミヤネ屋』が一人勝ち~(鈴木祐司) - 個人 - Yahoo!ニュース

「これで比べると、確かに『ミヤネ屋』は断トツだ。
午後と午前に時事問題を扱うワイドショー5本の中では、同番組が唯一30%台の占有率を誇り、他に大差をつけている。
また安倍元首相が銃撃された7月8日までの2週間とその後で比べると、『ミヤネ屋』だけが3%ほど数字を底上げした。
ところが『ゴゴスマ』『羽鳥慎一モーニングショー』『スッキリ』の3本は、事件後4週間平均で微減となった。さらに『めざまし8』に至っては、1.5%ほど数字を落としていた。
午後と午前に時事問題を扱うワイドショー5本の中では、同番組が唯一30%台の占有率を誇り、他に大差をつけている」
(鈴木佑司 2022年8月7日)

これはSNSの検索ワードにも現れています。

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産経

「2022年6月30日から9月30日までの「ミヤネ屋」と「統一教会 議員」の国内検索数を調べた。「統一教会 議員」は単語の間にスペースを入れて二つの単語が含まれる情報を検索したもので、旧統一教会と関係ある議員への興味が反映される。(略)
8月は過去に伝えられた内容を超える報道がなく、確たる証拠が何ひとつあがらないまま「ミヤネ屋」が自民党追及一辺倒になり、追及劇の急先鋒だった同番組への興味が検索数の急伸長に反映されている。
グラフは「ミヤネ屋」が国内の興味とも旧統一教会追及の本質ともかけ離れた話題を沸騰させて、視聴率を稼いでいたことを端的に表している」
(鈴木前掲)

ここでワイドショーが使った手法が、同じ主張を持つ者だけを集めての「糺弾会」です。

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「ミヤネ屋」が特異だったのは弁護士の紀藤正樹氏、ジャーナリストの有田芳生、鈴木エイト両氏といったコメンテーターを揃え、善悪の裁定を全会一致で畳み掛けた点だ。
旧統一教会の言い分や疑惑の議員を紹介してコメンテーターが解説という名目の「糾弾会」を始めると、異論が挟まれることなく同質の意見だけが反響し合ってあらゆる方向から増幅されて返ってくる「エコーチェンバー現象」が発生した。
一方向を向いた論調が反響しあうことで番組内の感情が沸騰状態になり、コメンテーターの意見や裁定に大衆の代弁役たる出演者たちが驚いたり、共感したりすると視聴者は感情の渦に巻き込まれた。
そこに司会者の宮根誠司氏が溜飲の下げどころを示し、視聴者は納得した。この構成が徹底的に繰り返され次回へ、さらに次回へと共感や怒りが持ち越され、番組特有の主張が増幅される一方となった」
(鈴木前掲)

このようにして安部暗殺犯は「名前」を得て、現実の政治に影響を与えていく「世直し」をしたことになりました。

毎日新聞に至っては、山上某のことを元赤軍派が映画(!)にすると即座に報じ、テロと日本赤軍に肯定的な報道を続けました。

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重信房子氏 「人間ひとりひとりとは必ずチャンネルを合わせられる」 | 毎日新聞 1970年代に中東アラブを拠点に活動を開始し、ハイジャックや大使館占拠事件を起こした日本赤軍。その元最高幹部で、今年5月mainichi.jp


呆れるしかありません。
毎日はいつから日本赤軍広報紙となったのでしょうか。反吐がでます。

重信のような手のつけられない真正テロリストを讃美するのですから、どうしようもありません。
そんな日本赤軍応援団の毎日にとって、山上某は待望久しく日本に現れた「世界的テロリスト」なのでしょう。
だから「名前」を与え、「物語」を作り、彼らの主張を事細かく伝え、そして無条件に讃美するわけです。
これは故なく殺された死者への冒涜であるとも感じない。
まったく狂っています。

メディアが山上某を生み、「第2の山上」である木村某を再生産したのです。
本来あるべきテロリズムの厳罰化へとつながらず、無関係な統一協会規制へとそれていってしまった罪は、あげてメディアと野党にあります。

テロリズムは民主主義を根底から否定します。
また「第3の山上」が誕生することでしょう。
武器は銃器から爆弾へと発展し、やがてその毒牙は政府要人だけではなく、一般市民にまで及ぶようになります。
そうなったときには遅いのです。
そりゃそうです、手製の銃や爆弾ひとつでお手軽に「世直し」ができるのですから、こんなイージーな方法はない。

考えてもご覧なさい。
「世直し」が、いかに膨大な手間と時間がかかることなのか。
様々な意見と情報を取り入れて主張を構築してそれを伝え、仲間を募り、選挙に出て・・・、あげく失敗することのほうがはるかに多いのです。
それに引き換えテロは簡単です。ホームセンターで部品を買い込み、自宅で粗雑な武器を作り、対象の者を付け狙うだけ。
これほど楽で堕落しきった最低の「世直し」はこの世にありません。
しかもメディアはそれを「義士」として讃美してくれるのですから、こたえられません。
遅延信管らしきものをつけていれば、それが周囲の人を傷つけない「やさしさ」だと言うのですから、どこまで能天気なことやら。
木村某は威力業務妨害という微罪で逃げきる予定だったから、そうしただけのことです。
こういう逃げ場を塞ぐためには、テロに対しては徹底した厳罰化をもって報いるべきです。

そのうちまた朝日や毎日の記者がテロられて死ぬかもしれませんが、その時は因果応報、自分が招いたことだと諦めるのですね。

 

2023年4月17日 (月)

要人警備態勢を根本的に見直すべきです

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また要人暗殺が起きてしまいました。
メディアが作り出した模倣犯です。

狙われたのは岸田氏ですが、幸いにも難を避けることができました。


「岸田文雄首相が15日午前11時半ごろ、衆議院和歌山1区の補欠選挙の応援で訪れていた和歌山市内で、演説を始めようとしていたところ、発煙筒のようなものが投げ込まれた。白い煙が上がった後、爆発音がしたが、岸田首相はその場から避難し、けがはなかった。
岸田首相はこの日、和歌山市の雑賀崎漁港を視察。魚の試食を終えて演説を始めるところだった」

(BBC4月15日)
岸田首相の演説会場に爆発物投げ込む、男を現行犯逮捕 和歌山市・衆院補選応援で - BBCニュース

投げられたものは手製の爆弾のようなものでした。

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BBC

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発煙筒だったという説もありましたが、漁師の背中に破片が突き刺さっていたという報道がありますので、かつて過激派が使っていた手製のパイプ爆弾の一種だと思われます。

「銃器評論家の津田哲也氏によると、一般的なパイプ爆弾は、パイプの中に火薬と起爆装置などを詰め込んで密閉。着火とともに内部の圧力が高まり、破裂する仕組みという。
和歌山市の現場での映像を確認した津田氏は、爆発物を覆う金属のようなものが、シルバー色系統だった点に着目。仮に材質が鉄だった場合、破裂の衝撃で多数の負傷者が出てもおかしくないとし、「薄いアルミニウムなどが使われたのではないか」とみている」
(産経4月15日)
爆発物は「パイプ爆弾」か 自作も可能、ネットに情報も - 産経ニュース (sankei.com)

犯人と首相の距離は10メートルほどで、この「金属製のパイプ」が鉄製で、釘やガラス、パチンコ玉などが入れられていた場合、首相と周囲の人も含めて多数の死傷者が出たはずです。
爆弾を使ったということは、無差別テロと呼んでいいでしょう。

聴衆に紛れてこの木村隆二という男は、カチカチと手製爆弾を点火しようとして、周囲の屈強の漁師に取り押さえられたようです。
この漁師の行動がなければ、2発目が爆発していた可能性があります。
この漁師さんの勇気と豪腕には敬服しますが、着火していた場合、大惨事となっていたはずです。

ところで事件当日の流れは以下でした。

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首相演説直前に爆発、威力業務妨害容疑で24歳男逮捕 岸田氏は無事(産経新聞)|dメニューニュース(NTTドコモ) (docomo.ne.jp)

時系列で見てみましょう。

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NHK【瞬間の映像】筒状のもの投げ込まれ悲鳴 現場にいた人たちは | NHK | 首相演説先 爆発事件

犯人は群衆に潜んで手製爆弾を着火しようとしていました。
しかし聴衆の中の警官は、聴衆を監視するのではなく、視線は岸田氏へ行ってしまっており、まったく気がついていませんでした。
気がついたのは周囲にいた漁師で、彼がいなければ第2弾も投げられていたはずです。

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NHK

首相は上図の④から演説待機場所に行こうとしていました。
この首相の演台への動線は、完全に聴衆に背を向けてしまうもので、聴衆の中にいたテロリストに撃ってくれといわんばかりです。

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NHK同上

このとき木村某は一発目の手製爆弾を投げつけて、首相の足元に落下します。
SPは初め手製爆弾を鉄板の入ったバックで押さえ込むようにしています。

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NHK同上
その後、SPは手製爆弾を足で聴衆方向に蹴り飛ばしています。
この行動は非常に問題です。
このSPはまったく爆弾訓練をしてこなかったとみえて、これが触発式信管ならその場で爆発していました。
しかも多くの人がいる方向に蹴るとは、大丈夫ですか、この警官。

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【発生の瞬間映像】岸田総理の演説会場で爆発音 男を威力業務妨害容疑で現行犯逮捕 | TBS NEWS DIG

テロリストは周囲の人たちによって、押さえ込まれてしまいました。
といってもテロリストを捕らえたのは勇敢な漁師であって、警官はその後に慌てて確保しただけのことですが。

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岸田首相の演説直前に爆発音 首相は無事 容疑者逮捕 和歌山|NHK 首都圏のニュース

木村が捕まった前に投げた手製爆弾が爆発して白煙を出します。

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「手製のパイプ爆弾」「発火装置仕込み時限で爆発させたか」…識者分析:写真 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

首相を複数のSPで取り囲むようにして車に保護しました。
このときの首相の退避姿勢も頭ががら空きで、第3撃が受けていたら首相は頭部に打撃を受けてもおかしくはありませんでした。

結論的に言えば、警備当局の度し難い失敗といわれても致し方ないでしょう。
今回は地元の県警だけに任せずに警視庁警備課が警備案を了承しているので、そうとうに深刻に総括してもらわねばなりません。
日大危機管理学部の福田充氏はこう述べています。

「1人のSPがよく対応したとか、漁協の漁師がよく取り押さえたとか、今回の事件で問題なのはそんな点ではない。この現場の要人警護の全体、警備計画そのものがダメだと言いたい。動線も、公衆対応の警戒線も、警官SPの姿勢・視点も、会場の出入規制も、手荷物検査も出来ていない」
福田充 Mitsuru Fukuda

SPは群衆に紛れ込んでいるテロリストを発見できず、手製爆弾を投げさせてしまっています。
そして首相の近辺にいたSPは、手製爆弾が首相の足元にころがって来るまで気がついていません。
これが威力が高い軍用手榴弾だった場合「爆発時5メートル範囲以内の人間は致命傷を受け、15メートル範囲に殺傷能力のある破片が飛散する。 更に、一部の細かな破片は230メートルまで飛散した」(ウィキ)場合がありますから、首相はおろか周囲の人々は確実に殺傷されていたでしょう。

警備計画はこうなることを未然に防ぐために、要警護者と聴衆の距離、動線を計画せねばいけません。
金属探知機ていどを設置するのは簡単ですので、設置しなかったほうが不思議でした。
福田氏の指摘どおり、、個別のSPの対応うんぬんではなく、警備計画全体が銃器と爆弾による無差別テロの時代に対応していないのです。

仮に犯人が山上某のように銃器を持って、やや遠方から狙撃したらどうだったでしょうか。
前述したように、首相は演説位置に行くまでに、背中ががら空きで聴衆の眼にさらしっぱなしにしています。
また退避させる際も、頭部は丸出しのままです。
標的としてこれほど簡単な的はありません。
ちなみに、同じようなケースの場合、米国シークレットサービスは、安全を確保するまで要警護者を組み敷いています。

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爆弾はテロの凶器としては扱いにくいものです。
周囲まで巻き込んでしまうために、テロリストにためらいが生じるからです。
本気で爆弾をテロに使うなら、自爆テロのように自分もろともこの会場全体を吹き飛ばす威力のものを用意しなければなりません。
容易に素人でも爆弾や銃器を製造できるノウハウがSNS上で拡散されているのですから、それを想定していない今の警備方法はもはや過去の遺物なのです。

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岸田首相を襲撃した犯人が取り押さえられる瞬間の動画&爆発する瞬間の動画まとめ - GIGAZINE

木村某は要監視対象にもなっていなかったようです。
「まじめでいい子」だったそうですが、先進国のホームグロウン・テロリストはおしなべて中産階級出身で高教育を受けた「いい子」です。
こんなことが半年間に2度も起きるような国になったわけで、それを前提に要人警護を立てるしかないのに、警備当局はそれを怠りました。
今後要人は、選挙演説中には手荷物検査を実施し、前と横のぐるりは防弾ガラスで囲むしかないでしょう。
といっても携帯で作動させる方式も流布されていますから、防ぐことは簡単ではありません。

今回このテロに対しての罪名は、殺人未遂ではなく威力業務妨害だそうです。
脱力します。
この金属探知機も設置しないような杜撰な警備計画、爆弾を群衆に向かって蹴る警官、そしてこの罪名を聞くと、警察は「第2第3の山上」を量産したいようです。
警備当局は半年に2度も大失態を重ねたわけで、抜本的に警備態勢を見直すのが当然です。
こんなことでは世界の要人を集めたサミットなど出来ませんよ。

首相は屈することなく街頭演説を続けたようです。
テロに対して、大変に立派な姿勢で見直しましたが、今後の仕事はテロの厳罰化です。

 

2023年4月16日 (日)

日曜写真館 はくれんや風の行方の闇透きて

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はくれんは朝のともしび乳屋らに 林翔

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はくれんやとはのわかれも世のならひ 上田五千石

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はくれんを活けて壷中に夜を残す 鷲谷七菜子

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木蓮のつぼみのひかり立ちそろふ 長谷川素逝 

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木蓮に日強くて風さだまらず 飯田蛇笏

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木蓮の一花を空に浮めたり 高浜年尾

 

2023年4月15日 (土)

中国の猫なで声と本音

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先日の中国軍の大規模軍事演習は、共産党からすれば微妙な手心を加えています。
実施時期は、中国軍のよくやる4月に設定し、それに伴う飛行禁止区域について当初3日間と言っていたのを、27分に短縮しています。

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中国軍、軍事演習で台湾包囲の訓練 - BBCニュース

「中国政府が今月16日から3日間、台湾の北方を「飛行禁止区域にする」と台湾当局に通告しました。
台湾当局によりますと、中国政府は11日に、16日から18日までの3日間、台湾の北方を「飛行禁止区域」にすると台湾側に通告しました。
しかし、12日になって台湾交通部は「飛行禁止期間は16日午前9時30分からの27分間に短縮された」と発表しました。
台湾当局は「中国政府に対し不合理な飛行制限をしないように伝え、交渉した結果だ」と説明しています」
(テレ朝4月12日)
台湾の北方を「飛行禁止区域にする」と通告 中国 (tv-asahi.co.jp)

勝手に3日間も飛行禁止区域を設定してしまえば、米国は必ずこのどこかで「航空の自由作戦」をするはずです。
米国がグアムからB52を飛ばして、堂々と飛行禁止区域破りをしてしまえば、メンツ丸つぶれになってしまう、ということもひとつにはあるかもしれません。
そしてすぐに妥協してみせたのは、習近平は内心、台湾総統選挙までは波風を立てたくないのです。
もちろんあくまでも「選挙までは」です。

というのは、中国にとってもっとも望ましいのは熟柿が落ちるように、台湾が自ら進んで中国と融合してしまうことです。
中国は、台湾内部の親中メディアや人士を使って、台湾の中に米国を疑う疑米論が生まれ、米国がいるから戦争に巻き込まれる、米中代理戦争の戦場になるのはイヤダという世論を作ろうとしています。

台北の両岸政策協会研究院の呉瑟致はこのように述べています。


「昨年8月の中共演習後、台湾では「疑米論」が持ち上がり、米国に近づきすぎると台湾は戦争に向かうという世論が起きた。呉瑟致は「北京は軍事演習によって、馬英九の訪中成果を失わせた。しかし、米国の台湾への武器販売促進による戦争への脅威は、北京の世論誘導をさらに効果的にした」と指摘した。
呉瑟致はVOA(ボイスオブアメリカ)で「この背後には、台湾の親中人士、団体の世論操作がある。彼らは疑米論を再び喧伝し、戦争と平和どちらをとるかという形で、親米路線が軍事的脅威を上昇させるという言い方をしている」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.769 2023年4月10日)

この論法は、本土や沖縄内部の左翼勢力が流布している「巻き込まれ論」と同一です。
米軍や自衛隊がいるから戦争になる、平和であるためには彼らを追い出し、中国と仲良く外交をするのが一番だ、というものです。
この論法に従えば、米国との友好関係を断ち切って、自国の防衛にかける予算も縮小するのがいいということになります。

米軍や自衛隊がいても、中国は尖閣のみならず沖縄まで自国領土だと宣言しており、公船は領海に侵入し続け、スクランブル発進は毎日のようなのに、ウクライナが侵略されたのを見ても、あいかわらずこんなことを言っていられる神経がわかりません。
ウクライナ人のグレンコ・アンドリー氏はこんなことをいつも言っています。
グレンコ アンドリー

ウクライナ戦争の最大の教訓とは、軍備と安全保障に力を入れない国は侵略されるという事です。
平和を保つには、
第一 自国の軍事力
第二 同盟関係

台湾も沖縄も置かれた状況はまったく同じです。
共に中国という現代世界で類を見ない侵略的性格を持つ国の真正面に位置し、揃ってここはわが領土だと宣言されています。
こんな地域が平和を保つためには、侵略することをあらかじめ断念させねばなりません。
そのためには強い自衛する力を持ち、米国などの自由主義陣営と同盟を組む必要があります。
それをわかっているからこそ、中国はこのふたつをなくしたいのです。

実際、前回の地方首長選では国民党はこの論法で、防衛予算を国民福祉に回さないから台湾の民衆は苦しんでいるのだというアンチ蔡英文キャペーンを張って勝利を収めました。

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【野嶋剛】「台湾・民進党敗北」をどう読み解くべきか (newspicks.com)

中国としては、この「疑米論」の芽を育てて、台湾内部から「米国と手を結んでいるから戦争になる。中国は同胞だ。悪くするわけがない」という世論を作り出したいのです。

ですから、今の総統選前の時期は太陽政策をせねばならない時期です。
たとえば習近平は、融和的な施政をアピールするつもりで「戦狼外交官」の異名があった趙立堅報道官を更迭しました。

いま彼はベトナム国境でペンキ塗りをしているようです。
直接の原因は彼の妻が、ゼロコロナ政策で薬が手にはいらないとツイートしたのが原因だと言われていますが、いままでの好戦的態度が問題視されたのでしょう。

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Share News JapanさんはTwitterを使っています: 「元中国報道官・趙立堅氏、左遷されて、田舎でペンキ塗り… https://t.co/IFWG3n0yC4」 / Twitter

今回の大規模軍事演習もやや小規模にし、その理由も「台湾同胞に向けたもののではなく、外国勢力から諸君らを守るためだ」くらいのことは言ってみせます。

最近アップされた台湾侵攻の主力をつとめる東部戦区の動画があります。
中国軍の本音が分かる動画です。
New China 中文

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東部戦区

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同上

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同上
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同上

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同上
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同上

このように習近平は必ず台湾に侵攻します。

一方、見せかけの融和的態度とは別に、中国は台湾侵攻準備を着々と進めてきました。
去年10月22日に、中央軍事委員会の衝撃的人事が発表されました。
それは2つの看板人事に現れています。
もっとも西側を驚かせたのは、何衛東(かえいとう、ハー・ウェイドン )が政治局員となり、党軍事委員会副首席入りしたことです。
いままで中央委員候補でもなかった人物が、一気に政治局員になることはありえませんでしたが、習近平がごり押ししたのです。
しかも、軍中枢中の中枢である副首席です。
ちなみに軍事委員会主席は習近平ですので、副首席は現役軍人トップとなります。

石平氏はこのように述べています。

「このような人事ができるのは当然ならが習近平しかいません。(略)
何は去年9月まで東部選句司令官でした。その司令官をいきなり政治局と軍事委員会に抜擢した理由は、3期めの今後5年間のうちに台湾戦争に踏み切ることを強く意識したからとしかおもえません」
(『習近平・独裁者の決断』

 

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何衛東上将 前東部戦区司令官

3日に開いた第20期中央委員会第1回全体会議(1中全会)で軍最高指導機関の中央軍事委員会の陣容を決定した。制服組トップの副主席は、留任した張又俠氏(72)のほか、新たに何衛東・前東部戦区司令官(65)を起用。7人体制を維持しつつ、同委主席を兼ねる習近平(シーチンピン)総書記の指揮権限を強める組織改革を図る」
(朝日2022年10月23日)
中国軍最高機関、3人が昇格 台湾に精通する何衛東氏を副主席に起用 [中国共産党大会2022]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

何は台湾を管轄する東部戦区の福建省第31集団軍出身でキャリアを重ね、2019年から台湾侵攻の現場作戦の責任者を務めていました。
そしてペロシ訪問台時に中国軍が行った軍事演習の指揮を執ったのは、この何です。

「人民解放軍日報によると、人民解放軍の東部戦域は台湾海峡を担当する主な攻撃部隊です。
在任中、何偉東は作戦計画の計画と訓練作戦を担当し、今年1月に習近平直下の中央軍事委員会の合同作戦司令部に昇進した。 今年8月初旬、人民解放軍の東部戦域は、彼が設計した作戦計画に基づいて、台湾を威嚇するために島を取り囲む演習を実施しました」
劍指台灣!8月圍台演習設計者何衛東 「連跳3級」升任軍委副主席 (nextapple.com)

そしてもう一枚の看板は定年慣習を破って留任した張又俠(ちょうようきょう、ジャン・ヨウシア )でした。
張と習近平の父親同士は、かつての国境内戦の同僚で、習に直結した軍人です。
張は今の中国軍では希少の実戦経験があります。
1979年の中越戦争時に連隊長として部隊を率いています。

この台湾担当の何と、実戦経験のある張との組み合わせが物語るのは、習近平は3期めのこの5年の間に絶対に台湾を侵攻をする気だということです。

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張又侠・何衛東中華人民共和国中央軍事委員会副主席の略歴 (news.cn)

「軍事委員会に3人の新メンバーを送り込むとともに、軍の中で最も信頼する張又侠上将を制服組トップの副主席に留任させ、一段と自身の影響力を増大させた。張又侠氏は72歳で、これまでの中央軍事委員会の慣例ならば引退する年齢だった。(略)
張又侠氏は、米国防総省が昨年公表した中国軍の近代化に関する報告書で人民解放軍の「小君主」と表現したほど、強大な権力を持つ。張氏と習氏は、父親同士が1949年の国共内戦で戦友だったという縁がある。
張又侠氏子飼いの1人である李尚福上将も今回、中央軍事委員会メンバーに昇格した。重要なのは李氏が、電子戦やサイバー戦、宇宙戦を担う戦略支援部隊の所属経験がある点だ」
(ロイター2022年10月29日)
焦点:新たな中国軍最高機関、「対台湾」で結束とスピード発揮か | Reuters 

実際に台湾に侵攻する場合、最終的な決定を下すのは共産党最高指導部の政治局常務委員会ですが、具体的な戦闘計画の策定と実行は軍最高指導機関の中央軍事委員会に委ねられています。
この中央軍事委員会副首席に東部戦争区の司令官が抜擢されたことの意味は、いまさら説明する必要がないでしょう。

 

2023年4月14日 (金)

米国機密文書漏洩事件

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マクロン、帰国したら内外からフルボッコになってしまったようで、FOIP(自由で開かれたインド太平洋)も支持するなんておっしゃっております。
あらあら、米国追随は止めましょう、中国様と仲良くしましょうね、だからFOIPなんか解散しましょう、っていうのがマクロンの持論じゃなかったのかな。

それはさておき、米国防総省から機密文書が大量に流出したようです。
まぁどれがホンモノで、どれがフェークかわかりません。
面白半分でメディアが、つまみ食いするでしょうからご注意ください。
やれやれ、セキュリティクリアランスがもっとも厳しいと言われた米国でこのザマです。
そんなものがないわが国など、一部の役人が「良心の通報者」として機密文書を持ち出し、小西氏やメディアが拡散するなんて実際あった話ですからね。
いや、元総務省課長補佐だった小西氏など、むしろ「オレは大量の総務省文書を持っている」とえばってましたけどね。

それはさておき、米国はウクライナに対して釈明に追われています。

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ロイター

「ブリンケン米国務長官は11日の記者会見で、米軍などの機密資料とみられる文書がネット交流サービス(SNS)に流出した疑惑を巡り、ウクライナのクレバ外相と電話協議したと明らかにした。文書にはロシア軍の侵攻に対抗するウクライナの部隊配置や防空能力に関する内容もあり、ブリンケン氏は「永続的な支援」を伝えて信頼回復に努めた。同盟国などの情報も流出しており、バイデン政権は全容解明とともに事態の収拾を急いでいる。
会見に同席したオースティン米国防長官もウクライナのレズニコフ国防相と電話協議したとし、流出疑惑について「非常に深刻に受けとめている」と述べた。文書の真偽については言及しなかったが、2月28日付と3月1日付の文書があるとし、「なぜこの問題が起きたのか徹底的に調査する」と説明した」
(毎日4月12日)
アメリカ、ウクライナに機密文書流出を釈明 同盟国の情報も流出(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

4月からの反攻を予定していたウクライナは出鼻を挫かれていますが、努めて平静な対応をしています。
といっても、ウクライナからすれば、ここでウォー、ギャーとやれば、流出文書に書かれていることが全部ほんとうだと自分から言っているようなものですからね。

[キーウ 12日 ロイター] - ウクライナのレズニコフ国防相は12日、米軍の機密文書流出を巡り、ウクライナ軍に関し事実と一致しない情報が多く混在しているとし、マイナスの影響をさほど重要視しない考えを示した。
レズニコフ国防相は、米国の軍事・情報機関の「機密」「最高機密」文書がソーシャルメディア(SNS)に掲載されたことについて、「虚実が入り混じっている」と指摘。「とりわけ米国などのウクライナの同盟国間の信頼感を低下させることが目的であることは明白」とし、「この企ての恩恵を受けるのは無論ロシアとその同盟国だ」と述べた。
また流出した文書に示されていた、北大西洋条約機構(NATO)の特殊部隊がウクライナ国内で活動しているという情報は「事実ではない」と強調した」
(ロイター4月12日)

 このような対応をウクライナがするのは、この流出文書の真偽を、最大の受益者であるはずのロシア自身が疑っているフシがあるからです。

「ロシアのリャブコフ外務次官は12日、流出した一連の文書は偽物で、ロシア政府を惑わすための意図的な試みの可能性があるという見方を示した」
(ロイター前掲)

ロシアは世界最大の偽旗作戦王国なので、自分がやられることを警戒しているようです。

ところでやや意地の悪い笑いが浮かぶことには、この文書はヒューミント(スパイによる諜報)ではなく、どうやら国防総省勤務の役人の子供が自宅のテーブルにあった機密文書をなんらかの方法で写して、ゲーマーに人気の通信アプリDiscordへ流出 させたことから始まったと言われています。
そしてたちまち陰謀論関連のサイトやツイッター、テレグラムなどのメジャーなSNSに拡散していったようです。
国防総省の機密文書の漏洩 (gizmodo.com)

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では、この流出文書はどの程度確かなのでしょうか。
『情報BOX:米機密文書流出事件、現時点での情報整理』としてロイターが参考になる記事をアップしてくれています。
情報BOX:米機密文書流出事件、現時点での情報整理 | ロイター (reuters.com)

この流出文書は、セキュリティクリアランスが高いはずの「機密」もしくは「最高機密」に指定されています。
またこの流出文書中には、2月と3月のウクライナにおける戦況を説明するスライドも含まれています。
これらが電磁的にリークしたのではなく、写真で写されたことは、流出文書に折り目が写っていることからもわかります。
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ロイター

これらは、米国防総省が同省高官に毎日提出している報告書類に似ているとはされますが、一部に改竄の跡があるようです。
現時点ではこの文書を所持していた高官名は公表されていませんが、おそらくとうに特定されて厳しい査問に付されているはずです。
ただし、米軍基地に働いていたミリタリーマニアだったという記事をワシントンポストが流していますので、詳細は不明です。
Discordメンバーは、クローズドチャットグループからドキュメントがどのように漏洩したかを詳しく説明しています-ワシントンポスト (washingtonpost.com)

「「NONFORN」と分類された文書があり、これは外国の情報機関には提供されない。例外的に「FVEY」と分類された文書は、英語圏5カ国の機密共有枠組み「ファイブ・アイズ」に米国とともに加盟している英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの情報機関は入手可能で、セキュリティー上問題ないと認められた数千人が閲覧する形になる。
ただ流出した全ての文書が「FVEY」でないことから、流出させたのは米国人の可能性がある、と米政府当局者はみている」
(ロイター前掲)

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ロイター

「複数の米政府当局者の見立てでは、ほとんどの文書は本物だ。ただ一部は改変され、昨年2月以降のウクライナ側の犠牲者に関する米政府による見積もりが過大に、逆にロシア軍兵力の見積もりは過小になっているとみられる。
具体的にどの文書に偽情報がちりばめられたか、また、それがロシアによる情報工作の一部なのか、ロシア側がウクライナの戦争計画を読み違えることを狙った米国の作戦なのかは分からない」
(ロイター前掲)

ロシア官営のスプートニクは、この敵失を嬉しげに報じています。
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スプートニク
「今年2月下旬から3月上旬にかけて、弾薬の供給状況の分析が行われた。その結果、ウクライナは米国とその同盟国から供給された軍事資源を使い果たしたことが明らかになった。流出した文書では、ウクライナでは西側諸国から供給された兵器、特に弾薬と対空防御設備に関して、驚くほど不足していることが示されている(略)
米国防総省は、防空システムに加えて、大砲の備蓄の減少についても懸念しており、予測に基づくと、数日以内に枯渇する可能性があるという」
(スプートニク4月10日)
ウクライナの中距離防空システム、5月下旬までに枯渇 流出した米当局の文書から明らかに - 2023年4月10日, Sputnik 日本 (sputniknews.jp)
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ロイター
この防空ミサイルと砲弾に関しては前々から言われてきたことなので、特に新しい発見ではありませんが、ウクライナ軍の損害は多めに、ロシア軍の損害は過少に評価されているようなロシア贔屓が各所に散見されているようです。

流出した文書内容は多岐に渡っており、ウクライナ以外も含まれています。

●流出文書の内容
各国・地域ごとの概要は次の通り。
─ウクライナ:ウクライナ軍の航空攻撃や防空面の脆弱性、軍の一部戦闘単位の規模に関する詳細。
─ワグネル:ロシア民間軍事会社ワグネルの諸外国への浸透状況。例えばトルコとの「接触」やハイチ政府高官とのつながり、マリにおけるプレゼンスの増大など。
─中東:イランの核開発活動や、アラブ首長国連邦(UAE)のロシアとの一部兵器保守管理を巡る協議についての最新情報。
─中国:ウクライナがロシア領を攻撃した場合に予想される中国の反応、英国のインド太平洋地域での諸計画の詳細。
─北朝鮮:ミサイル発射実験の詳細と、2月の軍事パレードについて大陸間弾道ミサイルの脅威を米国側に過大に見せつけた可能性があるとの評価。
─南米:ブラジル政府高官が4月にウクライナ和平仲介を議論するため予定しているモスクワ訪問に関する情報。
─アフリカ:フランスがアフリカ西部と中部で治安確保に苦戦するだろうとした分析結果。

現時点では、ブリンケンが釈明しているようにそうとうなところまでは本物のようですが、具体的にどこまで確かか、逆にどれが偽情報なのか判明していません。
また、それがロシアによる偽旗作戦なのか、米国の偽情報による攪乱をねらったカウンターインテリジェンスなのかはまだわかっていません。
※追記
容疑者が逮捕されたようです。

【ワシントン共同】米機密文書がSNSに流出した問題で、CNNテレビは13日、捜査当局が近く東部マサチューセッツ州の空軍州兵の男を逮捕する方針だと伝えた。ニューヨーク・タイムズ紙によると、男は情報部門所属のジャック・テシェイラ隊員(21)で、捜査当局は13日に同州にある隊員の母親の自宅を捜索した。

 機密情報はゲーム愛好家に人気のSNS「ディスコード」のチャットグループで「OG」と呼ばれるリーダーが投稿していた。グループのメンバーらは同紙に対し、OGの身元特定を避けたが、同紙がオンライン記録や州兵の登録情報を調べた結果、テシェイラ隊員だと判明したという。
(共同4月14日)
機密流出、州兵の男を近く逮捕へ 情報部門に所属の21歳と報道 | 共同通信 (nordot.app)


2023年4月13日 (木)

中国の台湾侵攻を正当化する「ひとつの中国」論

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中国軍が台湾をぐるりと包囲する形で、大規模軍事演習を行いました。

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国防省が発表した過去3日間の軍事衝突 (左:人民解放軍の行動、右:台湾の対応)Taepodong(@stoa1984)さん / Twitter


「中国軍は8日、台湾周辺で3日間にわたり軍事演習を実施すると発表した。「台湾独立勢力と外部勢力の挑発に対する厳重な警告で、国家主権と領土を守るための必要な行動」だと説明している。
中国軍の演習は、台湾の蔡英文総統がアメリカから帰国して間もなく始まった。

台湾国防部(国防省)によると、8日には延べ71機の中国軍機と軍艦9隻が台湾海峡周辺で活動。一部が台湾海峡の中間線を越えたり、台湾が西南域に設ける防空識別圏(ADIZ)に入ったりした。
台湾方面を管轄する中国人民解放軍東部戦区によると、演習は10日まで続く予定。
中国の国営メディアは8日の演習目的について、「台湾島周辺でパトロールと進軍を同時進行で実施し、完全包囲と抑止の態勢を確立すること」としている」
(BBC4月9日)
中国軍、軍事演習で台湾包囲の訓練 - BBCニュース

いうまでもなく、蔡英文総統の米国下院議長との面談というクリーンヒットに対しての嫌がらせのつもりでしょうが、最高の民進党への応援となりました。
習近平さん、今度は選挙前にドーンとやってくださいな。

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BBC

この軍事演習と目と鼻の先で、米海軍と海自が共同訓練をしていたことはあまり報じられていません。

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NW

「米海軍は4月10日、南シナ海で「航行の自由作戦」を実施した。台湾周辺で同日まで3日間にわたって軍事演習を行っていた中国軍をけん制する目的があったものとみられている。 (略)
台湾の東岸から約590キロ地点には、米海軍第11空母打撃群と旗艦の米原子力空母「ニミッツ」が派遣され、日米双方の発表によれば、週末までに東シナ海から太平洋西部にかけて日本の海上自衛隊の艦船と共に海上訓練を行った」
(ニューウィーク4月11日)
中国軍の台湾「封鎖」演習を監視していた米海軍第11空母打撃群|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

この中国軍事演習は、馬英九の訪中に対しての信号でもあります。

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台湾の馬英九前総統が27日から訪中、中台分断74年、総統経験者として初―台湾メディア(2023年3月20日)|BIGLOBEニュース

馬は重慶で抗日戦争勝利を偲び、南京で大虐殺記念館で反日を叫びましたが、その時に持ち出したレットリックは、馬が中国と結んだ「92年コンセンサス」の「一中各表」です。
「一中各表 」とは、「一個中國、各自表述」(ひとつの中国をそれぞれの立場で表明する)という意味の略で、台湾国民党は中国共産党と「一つの中国」原則で一致しているという意味となります。

さらっと聞いてしまうとわかりにくいかもしれませんが、これって大変にアブナイ罠が仕掛けてあるのです。
「ひとつの中国」と台湾と中国の認識が一致してしまえば、中国の台湾侵攻はただの国内紛争になります。
国連憲章その他の国際法の違反である「主権国家の領土への侵攻」と言えません。
「ひとつの国」であると台湾が言っている以上、国境の実力による変更ではないからです。

米国にとって、法的には北京政府への政府承認切り替え時に取り交わされた「両岸関係の平和的解決」の約束に違反すると非難できる程度で、この違反だけを理由に米軍で台湾を防衛するのは困難です。
台湾関係法も、米国の国内法であると一蹴することも中国にとって可能です。

この台湾の地位が確定していないこと、一個の独立国として支援国からさえ承認されていない悲劇が、台湾問題を複雑にしています。
台湾が真に独立を達成可能なのは、侵攻を阻んだ時以外ないからです。

ここまで侵攻が目前となっているにもかかわらず、米国も同意しています。
去年訪台した共和党のリンゼイ・グラハム議員はこう言っています。

「2022年4月に台北を訪問した共和党のリンゼー・グラハム上院議員は、「FOXニュース・サンデー」の司会者シャノン・ブリームに対して、中国政府は「台湾封鎖に向けた土台づくりを行っている可能性がある」と話し、台湾軍の訓練を強化し、アジア駐留米軍の増派を促した。
「私は『一つの中国』政策を信じているが、台湾のために闘う用意はある。台湾は民主主義だからだ。私たちは何十年も、彼らを支持してきた」と彼は述べ、こう続けた。(「台湾有事の際に軍事介入するかしないかを明言しない)アメリカの戦略的曖昧さは、機能していない」」
(ニューズウィーク4月11日)
中国軍の台湾「封鎖」演習を監視していた米海軍第11空母打撃群|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

台湾は正当な選挙によって選ばれた政権によって統治されている実態が存在する「実質的国家」です。
一度たりとも大陸に支配されたことがなく、国家としての実体支配を貫いてきました。
この実体支配を自ら否定するのが「ひとつの中国」概念なのです。
これを認めてしまえば、台湾は、中国の一部の台湾省にすぎず、そこに巣くう叛徒という大陸の主張を認めることになります。
お分かりでしょうか。このワンチャイナという概念がきわめて危険な虚構の罠であることを。

グラハムは続けてこう言っています。

「アメリカが台湾を防衛することを支持するか、という質問に対して、グラハムはこう答えた。「議会にとっての問題は、我々は台湾と防衛協定を結ぶべきか否かということだ。いずれにしろ私は、台湾防衛のために米軍を使うという考えにまったく抵抗はない。そうすることが、アメリカの国家安全保障上の利益になるからだ」」
(ニューウィーク前掲)

いままでの米国のあいまい戦略はもはや機能していない、今後、米国は安全保障上の国益で判断する、ということです。
そしてグラハムがいうように台湾との防衛協定を結ぶことも必要でしょう。
そしてその理由は、中国が国交成立時に交わした「両岸の平和」を維持しておらず、あきらかな侵攻を目論んでいることであり、侵攻はアジアのみならず世界の秩序を破壊することだからです。
ひとことでいえば、台湾防衛とは民主主義の防衛なのです。

マクロンは、先日訪中してこんなことを言っていました。

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フランスはなぜ中国に接近? 対立より協力選んだマクロン大統領(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

「欧州人としての関心事は(欧州の)統一だ」とし、中国に欧州の団結を示すためにフォンデアライエン氏と訪中したと説明。「中国も自分たちの統一を重視しており、彼らの見地からすると台湾もその一部だ。中国の考え方を理解することは重要だ」と述べた 」
マクロン氏、台湾問題「米国に追従すべきでない」 戦略的自立を主張(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

マクロンは「台湾は中国の一部であることを理解する」と言ってしまっています。
もっとも台湾侵攻が近づくこの時期に、頼まれもしないのに欧州の代表のような顔で、こんなことを言う政治感覚が信じられません。
これでは早く侵攻してくれ、欧州は傍観するから、と言っているようなものではありませんか。

同時期、馬は湖南大学でこう言っています。

「また2日の湖南大学での講演で両岸政治について語るときに、「憲法」に言及し、中華民国憲法には台湾地区も大陸地区も「ともにわれわれ中華民国に属する」と語り、憲法解説を用いて、学生たちに中華民国の存在の現実を説明した、という」
(中時新聞網4月3日)

「台湾地区も大陸地区もわれわれ中華民国に属する」、つまり台湾は大陸とは区別された統治実態をもつ国ではなく、「ひとつの中国」だ、というのです。
なんという鈍さ。この人物は蒋介石-毛沢東時代の「ひとつの中国」という幻想に浸って暮らしているようです。

この考えは、北京政府の「中国国家は一つであり、それを代表する政府も一つしかありえず、それが北京政府であり、台湾は中国の一部である」という主張のメダルの表裏です。
ですから、中国軍がいかに台湾を包囲した大規模軍事演習をしようと、はたまた現実に侵攻を開始しようと、それは「一中各表」原則に従えば当然の中国の権利なのです。
台湾侵攻は、国際法上の「戦争」ではなく、あくまでも国内の反徒を政府の軍が鎮圧した「内戦」だということになってしまいます。

したがって、この中国と国民党の「一中各表」に従えば、米軍の介入は法的には正当化ができず、日本の米軍支援も違法行為への支援といわれかねません。
これが中国の法律戦です。

習近平は、この大規模演習を馬の帰国に合わせて行うことで、北京政府から見た「一中各表」の意味を教え込んだのですが、馬にはわからなかったようです。

この法律戦を真正面から打ち破るためには、台湾は正当な選挙によって選ばれた政権が統治する国家であるという実体をくどいほど国際社会にアピールせねばなりません。
そのために蔡英文は、米国の下院議長と面会するというパーフォーマンスをしたのです。

逆にそれを否定したい中国は、「ひとつの中国」信者の馬英九を呼び出して「中国はひとつ」と言わせたかったのでしょう。
もっとも習近平は、馬が「台湾地区も中国地区も国府のものだ」とまでオーバーランするとは思ってはいなかったでしょうが。

来年1月の総統選挙には馬が国民党候補で出馬するといわれていますが、彼が総統に返り咲くようなことにでもなれば、中国の台湾侵攻は「内戦」にすぎないこととなり、米国は支援できなくなります。
そのような法律戦の衣をひっぺがすために、また景気よく軍事演習をしてください。
台湾の選挙民が脅威を理解するいちばんいい方法ですから。

 

2023年4月12日 (水)

仏マクロン、訪中して台湾を売り飛ばす

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スペイン首相サンチェス、フランス大統領マクロン、欧州委員長フォンデアライエンなどのEU勢が、争うようにして習近平詣でをしています。
去年まで含めると、11月にはドイツ首相ショルツ、12月にはEU大統領ミシェルが中国に行っています。

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産経

「中国の習近平国家主席は6日、北京を訪問中のマクロン仏大統領、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長の両首脳と会談した。米国主導の「対中包囲網」が狭まる中、中国としては欧州と経済関係を強化し、米欧の結束にくさびを打ち込む狙いがある。マクロン氏はロシアが侵攻を続けるウクライナの和平実現に向けて習氏に協力を求めた」
(毎日4月7日)
中国とフランス、EU首脳会談 習近平氏、米国との同調阻止狙い | 毎日新聞 (mainichi.jp)

ウクライナ戦争に仲介を求めるということ自体は愚行ではあるものの、まだ許せます。
NATOには、これ以上の支援を送るカネもなければ根性もない。
さっさと停戦して、今年は静かなクリスマスを迎えたい、これが本心だということは理解できます。

許しがたいのは、台湾に関してもこのような言質を、習近平に与えてしまったことです。
しかも、中国軍が台湾を包囲する大演習をしている時期に!
マクロンはなんと言ったのか。

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まるで臣下のよう、と東野篤子氏に評されたマクロン

「フランスのマクロン大統領は、米中の対立が激しくなっている台湾問題をめぐり、欧州の利益を最優先で検討し、単に米国に追従するべきではないとの考えを示した。仏紙レゼコー(電子版)などが9日、マクロン氏の訪中時のインタビューとして報じた。(略) 
レゼコーによると、台湾問題について問われたマクロン氏はまず、「欧州人としての関心事は(欧州の)統一だ」とし、中国に欧州の団結を示すためにフォンデアライエン氏と訪中したと説明。「中国も自分たちの統一を重視しており、彼らの見地からすると台湾もその一部だ。中国の考え方を理解することは重要だ」と述べた。 」
マクロン氏、台湾問題「米国に追従すべきでない」 戦略的自立を主張(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース 

このマクロンの「台湾問題で米国の側につかない」という言辞は、いつあっても不思議ではない台湾侵攻が起きた場合、フランスは民主主義陣営の立場に立たず、国境の実力による変更を容認し、法による支配すら否定し、「中国の統一を理解する」ということになります。
もちろんウィグルはおろか、香港なんてアブナイことはひとことも言いません。

これで自由と人権の旗手を気取っているのですから、早々に看板を降ろすべきです。

フランスは、このような美的表現をとって説明していますが、要は、エアバスを160機買ってくれるという金満大国に、もみ手をしたいだけのことです。

Khkvufyv

【社説】対中抑止力を弱めるマクロン氏 - WSJ

「あまりにも長い間、ヨーロッパはこの戦略的自治を構築していません。今日、イデオロギーの戦いに勝った」とエマニュエル・マクロンは「エコーズ」とのインタビューで語った。
しかし、この戦略は今実装されなければなりません。「ヨーロッパにとっての罠は、その戦略的位置の明確化に達したとき、それは私たちのものではない世界の混乱と危機に巻き込まれることです」
Emmanuel Macron : « L'autonomie stratégique doit être le combat de l'Europe » | Les Echos

どうやらマクロンは、フランス特産のゴーリズム(ドゴール主義)に回帰したようです。
しかもウォールストリートジャーナルが評するように「最悪のタイミングで」。

ところで、ゴーリズムとはこのような考え方です。

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ド・ゴール
ウィキ

「その基本的な信条は、「フランスの存続のためにフランスは外国に依存すべきではなく、フランスはいかなる外国の圧力に対しても従属すべきではない」というものだった。
この信条に基づき、ド・ゴール政権下のフランスは独自の核抑止力を作り、アメリカ合衆国への過度の従属を避けるためにNATO軍事機構からの脱退を行うこととなった」
ド・ゴール主義 - Wikipedia

もちろんマクロンは、ド・ゴールのようにNATOやEUまでを否定することはしませんでしたが、中心となる思想は一緒です。
すなわちその基本的な信条は、「フランスの存続のためにフランスは外国に依存すべきではなく、フランスはいかなる外国の圧力に対しても従属すべきではない」というものです。
この場合、「いかなる外国」とは、英米のアングロサクソンを指します。
英米と対峙する「第3の勢力」として、フランスとEUを対峙させるという意思表示です。

また、経済に関してもこのような動きをしています。

「【3月30日 CGTN Japanese】中国海洋石油グループ(CNOOC)は29日、上海で中国初となる人民元決済による輸入液化天然ガス(LNG)取引が成立したと発表しました。これは、中国の石油・天然ガス貿易におけるクロスボーダー人民元決済が実質的な一歩を踏み出したことを示しています。
今回の取引は、上海石油・天然ガス取引センターでCNOOCとフランスのエネルギー大手トタルエナジーズが合意したものです」
(CGTN3日津30日)
中国初の液化天然ガスクロスボーダー人民元決済取引が成立(CGTN Japanese) - Yahoo!ニュース 

マクロンはこのように中国で述べています。

フランス大統領にとって、戦略的自治は、ヨーロッパ諸国が「属国」になるのを防ぐために不可欠であり、ヨーロッパは米国と中国に対する「第三の極」になることができます。
「私たちはブロックツーブロックの論理に入りたくありません」と、「ドルの治外法権」にも反対する国家元首は付け加えます」(Les Echos)

私たちヨーロッパは、米国の属国ではなく戦略的自治を大事にするブロックです。
中国様、よろしかったら、どうぞこの非米ブロックと仲良くしませんか。
具体的には、気位だけが高いプーチンを説得できるのは、お友達の貴国しかいないのです。

先日訪露した際に出した仲介案はトレビアンです。

そう、私たちもロシアを解体にまで追い詰める気はありません。
あそこには一行たりともロシア軍の撤退、占領地の放棄は書かれていませんでした。

これは現状維持で停戦する、ミンスク合意の焼き直しです。
頭が固く頑固なゼレンスキーは米国を頼りにしていますが、私たちは内心不愉快に思っています。

・・・と、マクロンが習に言ったであろうことを再現してみました。
フランスの本音は、マクロンが2月18日に言った、「ロシアの敗北を願うが崩壊は望まず、そんな立場をとらない」というほどほどにという考えです。
フィリップ・セトン駐日フランス大使は、フランスの立場をこう説明しています。

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「ウクライナが納得するまで支援」駐日フランス大使が語った 欧州の立場とアジア安保 (tv-asahi.co.jp)

「フランス大統領はドイツの首相とともに戦争へとエスカレートさせないよう、ミンスク合意を復活させようと奮闘しました。これが去年2月のマクロン大統領のモスクワ訪問の目的でした。しかし、これらの努力は実りませんでした」
(駐日仏大使インタビュー)

つまり、フランスはウクライナを支援するが、使いモノにならない軽戦車支援ていどのものでお茶を濁して、ロシア軍が決定的に敗北し国家崩壊に至る打撃を与えない。
そしてウクライナ戦争の落し所は、ミンスク合意の復活だ。
ちなみにミンスク合意とはこのような内容です。

「2014年に勃発したウクライナ東部紛争をめぐり、ロシアとウクライナ、ドイツ、フランスの首脳が2015年2月にベラルーシの首都ミンスクでまとめた和平合意。双方の停戦や親ロシア派勢力が占領する2地域に事実上の自治権にあたる「特別な地位」を与えることなどで合意されたが、ロシアがウクライナは合意を履行せず、武力解決を試みていると主張し圧力を強めていた」
(インタビューと同じ)

だから、フランスはウクライナに占領地の全面奪還など言わないように説得する。
ドネツクやクリミア、アゾフ海沿岸は諦めて、領有権だけの主張に止め、占領地にはミンスク合意どおり「特別な地位」を与える。
習近平はプーチンをなだめて、この線で丸く納めてほしい。

とまぁ、こんなところで、マクロンは台湾をエサにして中国を取り込もうとしたのでしょうが、逆に自由主義陣営の分裂に手を染めてしまいました。
習の広州視察にまでついて行ったというのですから、ここまで媚を売ればもう芸のうちです。

「中国を公式訪問したフランスのマクロン大統領は7日、南部の広東省広州市を訪れ、2日連続で習近平国家主席との会談と夕食会に臨んだ。習氏が北京から行動を共にする形で外国首脳を連日もてなすのは異例。米国との対立が長期化する中、中国は欧州諸国との関係強化の要としてマクロン氏を重視している」
(時事4月8日)
中国主席、仏大統領と連日会談 広州に同行、異例の厚遇:時事ドットコム (jiji.com)

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Jakub Janda 楊雅嚳(@_JakubJanda)さん / Twitter

ウォールストリートジャーナルは、「最悪のタイミングでド・ゴール主義に戻った」、として社説でこう斬って捨てています。

「フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、21世紀版のシャルル・ド・ゴールになることを夢見ており、彼の夢想の中には欧州が米国と距離を置くべきだとする考えも含まれている。しかし彼は先週末、中国共産党トップ・習近平国家主席と会談した後という最悪のタイミングでド・ゴール主義的なひらめきを示してしまった。(略)
マクロン氏が対ロシア戦争で米国民の支持を減らしたいと思っているなら、これ以上うまい発言はなかっただろう。米国の兵器と諜報活動がなければ、ロシアはずっと以前にウクライナを打ち負かしていただろうし、ロシアと国境を接する北大西洋条約機構(NATO)加盟国の少なくとも1カ国も、恐らく同じ運命をたどっていたはずだ。
マクロン氏は、米国の兵器やエネルギーに対する欧州の依存度を軽減したいと述べている。それは結構だ。しかしそれなら、そのための資金を出し、政策を変更してはどうか 」

【社説】対中抑止力を弱めるマクロン氏 - WSJ 

列国議会同盟も直ちに、「マクロンはヨーロッパを代表していていない」という抗議声明を出しました。

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Inter-Parliamentary Alliance on China

また同時期に中国を訪問した欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、中国に対してロシアに武器供与をするな、EUはゼレンスキーを断固支持するという、大変に原則的な立場を中国に伝えて、ムシュ・デ・プレンジデントをたしなめた形になりました。


「欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は同日、別の記者会見に臨んだ。中国がロシアに武器を提供すれば国際法違反となり、欧州連合(EU)と中国の関係を「著しく損なう」ことになると強調した。
フォン・デア・ライエン氏はまた、中国が「公正な和平を促進する」役割を果たすのを期待していると発言。ロシア軍の完全撤退を求めるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の和平案を「断固として」支持すると述べた」
(BBC4月7日)
マクロン仏大統領が訪中 習氏に「ロシアを理性的にする」よう要請 - BBCニュース

グレンコ・アンドリー氏の冷やかな視線。

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日本も、来るG7サミットを目前にして、議長国としてこのような自由主義陣営を分断しようとするマクロンに厳しい警告を発せねばなりません。
このまま行くと、G7共同声明に台湾防衛を書き込むどころか、「中国を取りこもう」などというものになりかねませんからね。

 

 

2023年4月11日 (火)

奈良県知事選の教訓

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統一地方選の第1ラウンドが終わりました。
ひとことで言えば、維新の勝利です。
象徴的に現れたのが奈良知事選です。

「9日投開票の統一地方選前半戦で、保守分裂となった奈良県知事選では日本維新の会公認候補が勝利し、維新が大阪以外で初の知事ポストを獲得した。23日投開票の衆参の5つの補欠選挙や次期衆院選にも影響する可能性がある。県連会長である高市早苗経済安全保障担当相の責任論は避けられず、受けた政治的ダメージは大きい。自民は大阪府知事選と市長選とのダブル選挙では4連敗目を喫した。「関西危機」は深刻だ」
(産経4月9日)
奈良も敗北、自民衝撃 高市氏に痛手 調整力に疑問 - 産経ニュース (sankei.com)

奈良県知事選で、自民党本部がかついだのが現職の荒井正吾氏でした。

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現職の荒井正吾氏
高市早苗大臣 帰りたくても帰れない 奈良県知事選挙のお家事情 | NHK政治マガジン 高市早苗大臣 帰りたくても帰れない 奈良県知事選挙のお家事情 | NHK政治マガジン

この荒井氏の県民の支持が低迷していることは、事前に分かりきっていたはずです。

「自民党は、旧運輸省の官僚から、参議院議員を経て奈良県知事を4期務めている現職の荒井正吾を、政界入りした2001年以降支え続けてきた。
しかし、去年秋に党本部が世論調査を実施したところ、奈良県内で着実に支持を広げる維新の“匿名候補”にすら、大差で敗北するという結果が出たという。コロナ禍への対応で、県民・自治体トップの間で不満が高まっていたことも背景に、自民内部では「荒井では勝てない」という認識が広まっていった」
(NHK4月9日)

荒井氏では勝てないという認識を、奈良県連は持っていました。
高齢と多選もあって、もう支えきれないと判断したようです。
県連は荒井氏を刷新して、県連会長の高市氏が推薦する大臣秘書官として仕えていたた平木省氏を推します。
平木氏は年齢は48歳、県知事としての行政経験も岐阜県副知事としての経験も充分に備えた候補でした。

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奈良県連が推した平木省氏
NHK

一方、現職の荒井氏は、二階氏や古賀氏という親中リベラルときわめて近い関係にいる人でした。
これだけで荒井氏の政治志向がわかります。
荒井氏は引退を不服として、二階氏と古賀氏にすがりつきます。
そして結局、この両名が党本部の本木幹事長と森山選対を巻き込んで、奈良県連の決定を覆えそうとします。

「荒井氏は運輸省(現・国土交通省)のキャリア官僚から参院選奈良選挙区に出馬して初当選、参院1期目の最後に知事に転身した人物。参院時代は宏池会(現岸田派)に所属したことで古賀誠元幹事長の腹心となり、「運輸省のドン」と呼ばれた二階俊博元幹事長ともきわめて親しい関係だ。
荒井氏は出馬表明に先立ち昨年末に二階氏と会談した際、「ぜひ頑張ってほしいと激励を受けた」と吹聴。古賀、二階両氏を後ろ盾に、県連の平木氏推薦をひっくり返そうと、水面下で党本部に働きかけ、茂木敏充幹事長や森山裕選対委員長も「どっちつかずの態度」(自民選対)を決め込んでいるとされる」
(星宏 3月2日)
奈良県知事選で大ピンチ、高市氏に吹く逆風の正体 | 国内政治 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net) 

おいおい二階翁、あなたもう引退するかしないかで、自分の選挙区でも世耕氏が鞍替え出馬して分裂選挙になりそうなのに、奈良にまで首を突っ込むのかね。
古賀氏に至っては、とうに引退済みなのに生臭いことです。
こういう党の定められたルールを無視して「長老」が介入するというのが、前世紀のオールド自民党のやり口でした。

「荒井はそうした動きに「もう寝ても(政界引退しても)いいかなとも思ったが、『荒井を降ろせ』と運動されると、ムクムクと起き上がる」と不快感を示し、年明け早々に立候補を表明。
決断の前には上京して旧知の自民党の元幹事長・二階俊博と個別に面会した。
荒井は周囲に「高市県連会長とは全然話さない。僕はいつも大事な話は東京とやりとりする」とも語り、高市との間に亀裂が生じていることをうかがわせた」
(NHK前掲)

この二階氏の荒井氏推しに乗ったのが茂木幹事長でした。
高市氏は、奈良県連会長として正規の手続きを踏んで推薦を決めた平木氏を党として推薦するように本部に要請しましたが、拒否されます。

「県連の上申から1カ月以上も党本部が態度を保留しているのは、荒井氏が出馬の構えを崩していないためだ。荒井氏は、親交のある二階俊博元幹事長らに独自に支援を要請しており、今月2日には森山氏にも出馬に理解を求めた。
高市氏らは21日、二階氏にも面会したが、二階氏はほぼ無言だったという」
(産経2月21日)
奈良知事選 自民分裂で維新有利に? 問われる高市氏の政治力 - 産経ニュース (sankei.com)

森山選対はむにゃむにゃ言っていますが、実は二階-茂木、森山での合意はできていました。
この時点で、本部は平木氏に 推薦を出さず分裂選挙に突入しました。
保守分裂選挙で勝てると判断したのですから、傲慢にもほどがあります。

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産経

今になって自民の敗北が決まると、森山選対委員長はこんな言い訳じみたことをのたもうています。

「森山氏は保守分裂に関し、「なんとか良い調整ができないか微力を尽くしてきたが、結果としてなされなかった」と振り返った。
大阪府知事・市長のダブル選に加え、奈良県知事選を制した維新の躍進が国政に与える影響については、「他の地域でどう勢力を伸ばしているのか結果も見極めながら考えていかなければいけない」と指摘した」
(産経4月9日)

なにを言っているのか、森山さん。あなた、新澤良文・奈良県町村議会議長会会長 にこう言われているではありませんか。

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民主的手続きを踏んだ県連の平木氏推薦を握りつぶしておきながら、「なんとかいい調整をしたかった」とはどの口で言えるのでしょうか。
県連がそっぽを向いてしまった荒井氏に戻せとでもいうのか。
そして3月一杯国会を空転させた小西騒動で、本来ならば平木氏をもっとも密接に支えねばならない県連会長の高市氏が、現地にも行けない状況に置かれてしまった時点で、勝負がつきました。

「県連会長でありながら国会答弁に追われ、高熱が続き、(地元での)張り付きでの応援ができなかった」。9日夜、高市氏は落選が決まった元総務官僚陣営の事務所に姿を見せず、メッセージが代読された。
漁夫の利の形とはいえ、自民内には衝撃が走った。首長を取ったことで、奈良で維新の足腰が強くなり、今後の国政選挙にも影響する公算は大きい。今年2月には京都府舞鶴市で維新系の市長が誕生しており、将来的に関西圏を中心に同様の動きが加速する可能性もある」
(産経4月9日)
奈良も敗北、自民衝撃 高市氏に痛手 調整力に疑問 - 産経ニュース (sankei.com) 

これで小西騒動がなかりせば、平木氏が僅差が勝利を収めた可能性もないわけではありませんが、維新の勢いは止まりません。
別記事にするかもしれませんが、維新は立憲と組むという愚作を選ばないかぎり、都市型政党として定着し、さらに国政で公明との共闘を止めると言っていますから、ひょっとしたら新しい国政の枠組みが誕生するかもしれません。
まともな野党が不在のいま、それはそれでいいことです。
自民が腐敗する最大の原因は、代替できる保守党がないことです。
大阪では共産党とも手をむすんで、あげくは敗北。

まさに腐ったオールド自民党の腐臭を再び嗅いだような気分です。

 

 

 

2023年4月10日 (月)

宮古島陸自ヘリ墜落は中国とは無関係です

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陸自のヘリが墜落し、いまも10名の隊員が行方不明になっています。
一刻も早い発見をお祈りしています。

「沖縄県・宮古島付近で陸上自衛隊のUH60JAヘリコプターが行方不明になった事故で、自衛隊や海上保安庁はレーダーから機影が消えた宮古島北西の海域周辺の捜索を9日も続行した。陸自第8師団の坂本雄一師団長(55)ら搭乗していた10人は依然不明のままで、発見を急いでいる。
8日夜には、宮古島西方の伊良部島の海上で「人のようなものが浮いている」との連絡が陸自にあり、陸自や海保が確認を進めた。
事故は6日午後に発生。師団長らは地形の視察をする目的で搭乗していた。ヘリは宮古島を離陸して北上した後、西寄りに飛行し、消息を絶った。不明になる約2分前の管制との交信では、異常を示す内容はなかったという」
(産経4月9日)
陸自不明ヘリ、捜索続行 宮古島、10人不明のまま - 産経ニュース (sankei.com)

墜落原因に関しては、運輸安全委員会の今後の長い検証を待たねばなりません。
おそらく年単位になる可能性があります。
というのは、可能な限り散乱した状態の部品を、ネジ1本まで拾い集めることから始めねばなりません。
機体の損壊が激しく、しかもそれが海中にある場合、困難を極めるでしょう。
海中にある機体の捜索のために海自の潜水艦救難艦「ちはや」が現場に到着して活動しています。

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陸上自衛隊ヘリ不明 潜水艦救難艦「ちはや」が現場到着 | RBC NEWS|RBC 琉球放送 (tbs.co.jp)

機体の捜索、引き揚げだけで優に数カ月、そこから倉庫のような大きな室内に集められて、ひとつひとつ徹底的に検査にかけられます。
特に今回のように原因が不明で、機体の不具合が憶測される場合、シリンダーひとつに至るまで徹底的に調べられるはずです。

ですから、安易な憶測の流布、ましてやあきらかなデマの拡散は絶対に止めるべきです。
現時点でわかっていることは、わずか時系列と写真、そして発見された部品のみです。
時系列と地理的条件は以下です。

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「捜索部隊を200人以上に増派」陸自ヘリ事故 レーダーロスト2分前には管制と会話も | TBS NEWS DIG

分かる範囲で整理しておきます。

①墜落したのは、宮古島分屯地から離陸後10分で、離陸後2分で通常交信して異常は認められず、わずか8分後に緊急信号もなく墜落しています。したがって、燃料切れの可能性はありません。
②天候は晴天の昼間、風力は6メートル、見通し10キロあり、海上も穏やかでした。したがって、バーチゴ(空間識失調)の可能性はありません。
③パイロットは正副2名が搭乗しており、操縦ミスの可能性も低いと考えられます。
④機体は先月に定期整備を終えたばかりでした。
⑤落下したと思われる海面で黒煙が目撃されています。

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陸自ヘリが消息を絶った方角 黒煙50メートル、水しぶきも 伊良部島でサーファーが目撃(沖縄タイムス) - Yahoo!ニュース

⑥直ちに海保と海自が捜索にあたりましたが、現時点(4/9)では見つかった残骸は以下だけです。

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住民の不安払拭へ原因究明 南西防衛、異例事態に衝撃/陸自ヘリ事故 – デーリー東北デジタル (daily-tohoku.news)

搭乗していたのは、第8師団の坂本雄一師団長と幕僚たちだったようですが、坂本師団長以外の搭乗者の氏名などは公表されていません。

「沖縄県宮古島付近で行方不明となった陸上自衛隊のUH60JAヘリコプターに搭乗していた第8師団の坂本雄一師団長(55)は、防衛省統合幕僚監部や陸上自衛隊で、防衛政策の立案に携わる中枢を担うポストを歴任してきた。
坂本師団長の自衛官としての階級は、最も高い陸将。第8師団は熊本県内に拠点を置き、九州の防衛や警備を担当する部隊で、今年3月に師団トップに就任したばかりだった」
(産経4月6日)
搭乗の坂本第8師団長、政策立案の中枢ポスト歴任 3月に就任 - 産経ニュース (sankei.com)

第8師団は、有事即応師団です。
熊本市北区の北熊本駐屯地に司令部を置いていますが、熊本、宮崎と鹿児島(奄美群島を含む)の南九州3県の防衛警備、災害派遣の任務だけではなく、有事の場合沖縄離島にも展開します。

「朝鮮半島情勢への対応や、台湾、沖縄県・尖閣諸島を巡る情勢の緊迫化を受け、2018年3月に全国に先駆けて「機動師団」へと改編。有事の際には担当区域を越えて緊急展開する部隊に生まれ変わり、沖縄を含めた島しょ部にも展開する。 ている。現在の所属は約5000人」
(読売4月7日)

陸自ヘリ不明、第8師団は南九州防衛が任務…熊本地震支援も : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

今回の坂本師団長のヘリ視察は、師団長就任に際しての初度視察でした。
第8師団に課せられた、離島有事を念頭にいかに対処するのかを実地で視察していたものだと思われます。

なお、まったく同時期に中国軍が、空母「山東」を台湾沖に通過させ、大規模演習をしているために、これとの関係を取り沙汰する人がいますが、その可能性はありません。
右も左もおなじようなことを拡散していますが、困ったものです。
陸自ヘリ墜落への“不可解な疑念”…「第8師団長が搭乗」「事故と判明」防衛省の異例の発表で「深まる謎」(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース

「山東」の位置は波照間島の南300キロです。

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Google Earth

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防衛省統合幕僚監部(@jointstaffpa)さん / Twitter

「墜落したのは領海内防衛省によりますと、5日午後6時ごろ、中国海軍の空母「山東」とフリゲート艦など合わせて3隻の艦艇が、沖縄・波照間島の南、およそ300キロの海域を東に向け航行しているのを確認したということです」
(日テレ4月6日)
中国海軍の空母「山東」沖縄県の南の太平洋を航行、初確認~防衛省(日テレNEWS) - Yahoo!ニュース

そして波照間嶋から宮古島まで約165キロです。
仮に「山東」艦隊が戦闘機を上げるか、あるいは随伴艦艇が対空ミサイルを陸自ヘリに発射した場合、HQ-7ミサイルなら500キロ以上の射程がありますから、理論上は不可能ではありません。
しかし当時、「山東」艦隊のすぐ後ろには、海自の「さわぎり」が追尾していたはずですので、発射を感知しえないはずがありませんが、その報告はありません。
また戦闘機やミサイルを発射したなら、宮古島に駐屯する第53警戒隊のレーダーサイトに直ちに捕捉されてしまいます。

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宮古島分屯基地|防衛省 [JASDF] 航空自衛隊 (mod.go.jp)

これらの報告がない以上、「山東」艦隊とは無関係です。

むしろ本気で中国が坂本師団長を狙ったのなら、陸上から携帯型対空ミサイルを使用するでしょうが、この目撃もありません。
そもそも対空ミサイルが着弾した場合、大きな爆発音と火球が生じるはずですが、その目撃例もなく、機体は炎上せずに落下しています。
操縦不能にさせる電波だという説もありましたが、それだけ強力な電波ならば、地上のレーダーサイトでノイズとして検出されているはずですが、そのような報告はありません。

考えられる墜落原因は以下です。

①荒天→晴天だった。
②空間識失調→パイロットは2名。しかも昼間で晴天。

③操縦ミス→ 2 名が同時に操縦ミスをする可能性は低い。

④燃料切れ→離陸後10分ではありえない。
⑤機体の不備→定期点検から1カ月後だった。
⑥整備ミス→調査結果待ち。
⑦バードストライツク→低空であるし可能性としてはありえる。
⑧撃墜説→ミサイル、妨害電波などは地上レーダー施設で検知されていない。

このように見てくると、墜落原因は不可解としかいいようがない状況です。
SNSでは、自衛隊の高位の軍人が乗ったヘリが落ちた、「山東」艦隊が至近距離にいた、突然の原因不明の墜落ということを重ね合わせて「偶然が重なりすぎている」という意見もありましたが、ひとつひとつ丁寧に見ていくと、これらは無関係な事象の集合なのです。
事故において偶然が重なり合うことなど、珍しくもないことです。
事故を主観で結びつけてはいけません。先入観に支配されないこと。
事実を構築していくことでしか、原因究明につながらないのです。

あらためて行方不明の隊員の一日でも早い発見を心からお祈りします。

 

 

2023年4月 9日 (日)

日曜写真館 いちめんの菜の花といふ明るさよ

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ふるさとの訛にもどる花菜径 栗山妙子

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べたべたに田も菜の花も照りみだる 秋櫻子

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のけぞって菜の花の黄のさわぐまま 鎌倉佐弓 

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いちめんの花菜みつばち見えてくる 高澤良一

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くらくらと花菜の中を歩きけり 高澤良一

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まばたきをせねば菜の花暗くなる 鈴木太郎

 

2023年4月 8日 (土)

馬英九、中国で馬脚を現す

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同じ時期に、蔡英文総統と国民党の総統候補である馬英九が外遊しています。
ただし、文字どおり方向は正反対。
蔡は米国に、馬は中国に行っています。

まずは蔡ですが、中米を歴訪した後に米国に立ち寄り、下院議長と面談しました。

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産経

「台北=矢板明夫】台湾の蔡英文総統は米国を経由した中米への今回の約10日間の外遊で、「平和」と「民主主義」を繰り返し訴えた。
台湾を威圧する中国に対抗し台湾支持を訴えた蔡氏は5日、米西部ロサンゼルス近郊でマッカーシー米下院議長と会談し、「私たちが築き上げた平和と民主主義が、かつてないほどの困難に直面している。米国がともに立ち向かうことに感謝する」と語った」
(産経4月6日)
台湾の蔡英文氏、平和と民主主義訴え 中米など外遊で - 産経ニュース (sankei.com)

マッカーシーは共和党ですが、ペロシに負けじと訪台すると見られています。
この会談にも、党派を超えて多くの議員が集まったそうです。

お約束ですが、中国はこんなことを言っています。

「中国外務省は6日、台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と米国のマッカーシー下院議長の会談について「強烈に非難する」との報道官談話を発表した。「中国は国家の主権と領土の一体性を守るため、断固たる強力な措置をとる」と強調した。
台湾問題は「中国の核心的利益の核心だ。中米関係で越えてはならない最初のレッドラインだ」と指摘した。米国に対し、台湾とあらゆる形の公式な交流を停止するよう要求した。
中国国防省も同日「中国軍は常に高度な警戒を保ち、台湾海峡の平和と安定を断固として維持する」との報道官談話を出した」
(日経4月7日)
中国「断固たる措置」 台湾・蔡英文総統と米下院議長の会談非難 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

はいはい、定番ですね。
同時に軍事的に圧力を掛けようと、できたてのホヤホヤの空母「山東」を台湾沖に派遣してきました。
毎度ながら分かりやすいくらい軍国主義の国です。

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NHK

「防衛省によりますと、5日午後6時ごろ、沖縄県の波照間島の南およそ300キロの太平洋を中国海軍の空母「山東」やフリゲート艦など合わせて3隻が東に向けて航行しているのを海上自衛隊が確認しました」
(NHK4月日)中国海軍の空母「山東」 太平洋を航行 初確認 防衛省 | NHK | 中国 

蔡の目的は、いうまでもなく来年に迫った総統選挙にあります。
この総統選で民進党が国民党に再び破れることとなると、台湾は独立的ポジションを失い親中政権が誕生することになります。
国民党は表面的には親米であるというようなことを言うでしょうが、本音は中国の経済圏に組み入れられた「融合」です。

一方中国は台湾を「核心的利益」だと言っています。
本来なら経済的利益を重視せねばならないはずです。
台湾は世界に冠たる半導体産業を有し、製造業、ITに強いポテンシャルを持っているのですから、中国としてはそれを破壊せず、経済圏に飲み込むことが理想的なはずです。

ところが、習近平にそのロジックは通用しません。
国際金融都市だった香港を見てください。
香港の市場経済が、そのまま温存されて「一国二制度」として維持されるのが最良なはずだから、強権的に飲み込むことはしないだろうと、誰しも思っていました。
しかし習は民主派を武力で叩き潰し、中国本土とまったく同じ国安法を押しつけました。

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香港政府の逃亡犯条例改正案の撤回は「遅すぎる」! デモ指導者はさらに厳しい弾圧を警戒 | Business Insider Japan

香港は死んだのです。
これで中国人の多くもビジネスチャンスをうしなったはずですが、そんなことにはめもくれない。
なぜならこれが習が言う「核心的利益」だからです。

おそらく習は同じことを台湾に仕掛けてくるでしょう。
3期めのどこかで必ず台湾を中国に併合します。
それはハッキリしているので、後はやり方です。
その分かれ目が、2024年の台湾総統選挙です。

習の理想としては、台湾内部で「米国は助けてくれない。強大な中国に楯突いても無駄だから宥和していこう」という空気が生まれることです。
それは国民党がおおっぴらに主張し、大陸系(外省系)のメディアが言っていることです。

「中国は近年、台湾への軍事的圧力を強化している。台湾の親中メディアなどでは、中国側の主張に沿った形で「米国は絶対に台湾を助けない」という「疑米論」(米国を疑う論)が頭をもたげている。
放置すれば来年1月に予定される次期総統選挙にも影響が出かねないため、蔡氏は今回の訪米で米国との強固な連帯を内外にアピールし、「疑米論」を払拭したい思惑があった」
(産経前掲)

国民党が次の総統選で仮に勝つことにでもなれば、中共が提案している一国二制度の誘いに乗って住民投票をする可能性があるかもしれません。
その結果がどうなるのかは、香港が示しています。
しかし国民党は必ずやるでしょう。

蔡の訪米の目的は、この「米国は台湾を見捨てる」という不安を消し去り、米国、日本、オーストラリアなどのFOIP諸国は連帯して守ってくれるのだということを、台湾国民に眼で見せることでした。
そして蔡はそれに成功しました。

一方、国民党の馬は露骨に中国にすがりついて見せました。
武漢に行けば行ったで、こんな調子です。

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産経

「台湾メディアによると、馬氏は30日、武漢市の辛亥革命博物院や新型コロナウイルスの関連展示が行われる武漢市資料館を訪れた。
武漢市は2019年、コロナウイルスの感染が中国で最初に拡大した都市として知られる。同市の資料館には、習近平国家主席の主導による迅速な対応で仮設病院を多く作り、各省から十分な物資を調達したなどとする当時の状況が展示されている。馬氏は見学後に記者団に対し「武漢での防疫の成果は人類全体への貢献だ」と中国側の当時の対応を絶賛した」
(産経3月30日)
訪中の馬英九氏を蔡総統と対比 台湾識者「自由対民族主義」との指摘も - 産経ニュース (sankei.com)

なにが「武漢の防疫は人類への貢献」だってぇの(笑)。
真逆でしょうが。正しくは、人類への災厄の発生源が武漢です。

そしてやはり行ったか、「南京大虐殺記念館」詣でです。
どうして中国に行くと、こうも分かりやすくなるのか。
もうムキムキの反日です。

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訪中の馬英九氏、南京大虐殺記念館を訪問「歴史忘れてはならない」/台湾 - フォーカス台湾 (focustaiwan.tw)

「重慶中央社)中国を訪問している馬英九(ばえいきゅう)前総統は4日午後、重慶市の「重慶抗戦遺址博物館」を訪問し、日中戦争中に旧日本軍が行った重慶爆撃について、一般市民を狙って攻撃したとして「日本人が憎らしい」と語った。
また解説員から説明を聞いた馬氏は2度にわたり、日本はその後罰が当たったと述べた。馬氏はこの日午前、日中戦争で戦死した張自忠上将(大将)の墓所を訪れ献花。目に涙を浮かべる場面もあった。その後は張の記念館に足を運び、張の孫に「屈辱を忍んで重責を担った」と張に対する思いを吐露した。
馬氏は先月29日、南京にある「南京大虐殺記念館」を見学した際、南京事件について「人類の歴史においてめったにない野獣のような行為」との認識を示し、日中戦争については「当時の日本との戦いほど多くの屈辱と迫害を受けたことはない」と語った」
(フォーカス台湾4月5日)
訪中の馬前総統、抗日戦争の博物館訪問 「日本人が憎らしい」/台湾 - フォーカス台湾 (focustaiwan.tw) 国民党の胸に輝く金の星は、いまでも抗日戦争を戦ったということなのです。

はいはい、反日施設ばかり選んで5カ所も巡礼し、あげく「日本が憎い」とまで言っていただきました。(苦笑)
馬は総統選に出馬する気ムンムンですが、彼が政権をとれば西側は一斉に手を引くでしょう。

国民党が日本に「勝利した」ことはレガシーです。
ちなみにこの認識は、かつての国民党軍、つまり「党の軍隊」であった現中華民国軍(台湾軍)も一緒です。
だから、重慶で抗日戦争勝利を偲び、南京で大虐殺記念館で反日を叫ぶことになんの抵抗もありません。
そしてその時にもちだすレットリックが、馬が中国と結んだ「92年コンセンサス」の「一中各表」です。
一中各表を押さえておきましょう。これが国民党の基本的考えです。

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「一つの中国」で習近平氏に足をすくわれた馬英九氏:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)

一つの中国」の原則に関する中国台湾92年コンセンサスについて、台湾側の主張を表す中国語の表現。「一個中國、各自表述」を略したもので、「『一つの中国』の原則を堅持するが、その意味はそれぞれが表明する」という意味。この認識に立って、台湾の国民党は「『一つの中国』の『中国』とは中華民国のこと」と説明している。 (一つの中国原則の解釈表現はそれぞれに行う)を体現してみせた」
一中各表(イッチュウカクヒョウ)とは? 意味や使い方 - コトバンク (kotobank.jp)

だからこの閑雅かに沿って、馬は自らを「中華民国元総統」と名乗り、年号を民国年で表現したわけです。
これは今の台湾政権の政策と真っ向から対決するものです。

「過去数日間、馬英九大統領は、「中華民国」の時代から「中華民国」、そして「憲法」に至るまで、「それぞれ独自の表現を持つ一つの中国」を実践するために本土で具体的な行動と演説を行い、92年のコンセンサスが具体的で実行可能であることを証明しました。 同時に、蔡英文大統領はグアテマラを訪問し、グアテマラ大統領は台湾は「唯一かつ真の中国」であり、1つの中国のさまざまな兆候を支持するだけでなく、外務省が推進しようとしている「二重認識」を否定すると述べた」
(中時新聞網4月3日)
ニュースの視点」馬英九は一つの中国に特定の慣行を表現させてください-政治ニュース-チャイナタイムズ (chinatimes.com)

そしていわずもがなのことには、馬は湖南大学でこう言ってしまい、中国を激怒させます。

「そして無事祖先の墓参りを済ませたあと、馬英九は「民国97年と101年の二回、民国総統に当選した」と自己紹介した。あえて民国年号を使用したんだ。また2日の湖南大学での講演で両岸政治について語るときに、「憲法」に言及し、中華民国憲法には台湾地区も大陸地区も「ともにわれわれ中華民国に属する」と語り、憲法解説を用いて、学生たちに中華民国の存在の現実を説明した、という」
福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.759

「台湾地区も大陸地区も「ともにわれわれ中華民国に属する」ですか。
つまり、大陸も台湾の国民党の支配地域だ、ということです。
蒋介石の頃の認識に逆戻りしてしまったわけです。

かつて蒋経国の時代、台湾を旅したことがありましたが、その時の台湾地図には、なんと大陸との塗りわけがなく、首都は南京でした。
台北はただの暫定首都だったんですね。
街のあちこちには「大陸反攻」、バスには「共匪に警戒」というステッカーが貼ってあったもんです。
もちろん蒋介石にはそんな力はなかったし、米国にもそんなことをやらせる気は毛頭ありませんでしたがね。

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台湾独立建国の主張はもっとも!蒋介石「中華体制」から脱却する権利あり! | 台湾は日本の生命線! (fc2.com)

当時は、大陸の各省からの代表を集めた議会なんてものまであって、国民党は「一時的に台湾にいるだけだ。中国全土はオレのものだから必ず奪い返す」という虚構の上に台湾人を支配していたのです。

こんな馬鹿馬鹿しいフィクション、いつまでも持つわけかありません。
いまの台湾人のナショナルアイデンティティは圧倒的に「中国人」ではなく、「台湾人」なのです。

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「台湾のあり方」を見つめ続けてきた世論調査若林正丈
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しかし、将来となると「独立」というと中共が攻めてくるので、「現状維持」が望ましい、これが台湾人の本音です。

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同上

それなのにこの馬という人、カビが生えたような骨董品の「大陸まで国民党のもの」という虚構の風呂敷を拡げて、習近平が構想している「一国二制度」についても全否定してみせました。

「馬英九は、また民進党の悪口を言い続け、特に現在の行政院長の陳建仁を酷評。また大陸がすでに92年コンセンサスの提議としている「一つの中国、一国二制度」について、台湾人は受け入れられないと話した」
(中時新聞網前掲)

あらら、とうとう言っちゃったってかんじ。
「ひとつの中国」というリアリティゼロの虚構にあぐらをかいているから、こういうコトを言ってしまうのですよ。
で、馬の懸命のすり媚びの努力も虚しく、中国のメディアからは総スルー。
おそらく習は、馬が馬脚をあらわしたのを見て、この使えない馬鹿がと思ったことでしょう。

 

2023年4月 7日 (金)

ほんとうに窮地に立っているのか、トランプ

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トランプがニューヨークの大陪審に起訴され、ニューヨークに到着しました。
トランプの天敵CNNはこう報じています。

「(CNN) ついに起きた。数多くの捜査が5年以上にわたって行われた後で、米国のドナルド・トランプ前大統領がニューヨーク州マンハッタン地区の大陪審によって起訴された。事情に詳しい情報筋が明らかにした。トランプ氏も反撃し、起訴は「政治的迫害」であり、「このような魔女狩り」は裏目に出ると警鐘を鳴らした。
起訴内容の詳細についてはまだ分からないが、マンハッタン地区検察のアルビン・ブラッグ検事がかねてトランプ氏を捜査していたことは周知の事実だ。捜査はトランプ氏が2016年の大統領選時、ポルノ女優ストーミー・ダニエルズさんに口止め料を支払う計画や隠蔽(いんぺい)に関与したとの疑惑とつながる。
今回の事態は単にトランプ氏が初めて刑事責任を問われただけでなく、大統領経験者が起訴される初のケースだ。従って、我々は未知の領域に足を踏み入れていることになる」
(CNN4月1日) 
起訴されたトランプ氏に裁判所はどう対処するか - CNN.co.jp

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CNN

こりゃてっきり、エプリルフールの悪い冗談かと思いました。
なんせロシアが国連安保理の議長国になる世の中ですからね。出来すぎです。
まずトランプを起訴したのがたかだか地区検事、しかも経済系の検事です。
前大統領を連邦検事ではなく、ただのニューヨーク州のそのまた下のマッハッタン地区の検事が起訴し、しかもその人物たるやバリバリの民主党系の人物ときています。

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トランプを起訴したマンハッタン地区検察官、アルビン・ブラッグ検事

「米国では連邦検察官は大統領に任命され、司法省の指揮下で仕事をする。これに対し、各州の法律を執行するのが地区検察官だ。中でも、企業が集中するマンハッタンを担当する地区検察官は経済系の犯罪を多く立件することで知られる。
地区検察官の多くは選挙を通じて選ばれ、官僚組織に所属する日本の検察官とは制度が異なる。ブラッグ氏も、ニューヨーク州や連邦の検察当局で仕事をした後、2021年11月の選挙に民主党公認候補として立候補し、当選。22年1月に就任した」
(朝日3月31日)
トランプ氏起訴の検察官、民主優勢のマンハッタンで当選した民主党員:朝日新聞デジタル (asahi.com)

日本の検事制度が、国家の司法機関として運用されているのに対して、米国では連邦の司法省の傘下にある連邦検察官と、州政府の傘下にある地区検事に分かれ、しかもそれが立候補制だというから頭がクルクルします。
いわば国の検事とは別に、世田谷区にも選挙で選ばれた区の検事がいて、彼が前大統領を起訴したということにでもなるのでしょうか。(間違っていそう)

しかも出来すぎなことには、このブラッグ検事も民主党から出馬した人物ですから、党派色はイヤになるくらい鮮明です。
勘ぐるもナニも、民主党系検事が来年に迫った共和党の最有力候補を、記録改竄程度の微罪でパクれば、そういわれてもいたしかたありません。

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トランプ氏出頭へ「私に罪はない」 NYは厳戒態勢…今後どうなる? | khb東日本放送 (khb-tv.co.jp)

いままで何人かの候補が争っていた共和党は、がぜんトランプを守れでピタっと団結してしまいました。

「共和党議員からも呼応する発言が相次いだ。トム・コットン上院議員は「検事を解任し、交代させるべきだ」と批判。マッカーシー下院議長は検事が「民主的プロセスを妨害しようとしている」とし、議会で追及する姿勢を示した。
本来は軽犯罪の業務記録改竄(かいざん)を大統領選に絡めて重罪とする起訴事実には懐疑的な見方もある。米CNNテレビが3日に公表した世論調査では、共和党支持者の93%が起訴判断には「政治」が関係していると回答。79%が起訴に反対した」
(産経4月5日)
「迫害」訴えるトランプ氏、狙いは党内や支持者の「結束」 - 産経ニュース (sankei.com)

共和党候補最有力といえど、トランプが共和党候補で勝つにはかなりのハードルがありました。
老齢を隠せないトランプと、若くてハンサム、しかもバリバリの保守であるデサンティス・フロリダ州知事とは拮抗していました。

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トランプとデサンティス
ロイター

「デサンティス氏によるウクライナ関連発言の迷走、トランプ氏に対する司法当局による複数の捜査は、今年の予備選挙が「膨大な不確実性に満ちている」ことを意味する――これが、かつてデサンティス氏のもとで世論対策を担い、現在は共和党のストラテジストを務めるウィット・エアーズ氏の見立てだ。「指名の行方はまだまったく読めない」
(ロイター3月29日)
アングル:米共和党予備選、トランプ氏・対抗馬ともに不安要素 | ロイター (reuters.com)

2020年の大統領選に対しての遺恨で、いまだ選挙結果を否定する党員が多いため、候補者が定まらなかった州も多かったようです。
ところが、今回の逮捕劇でこの形勢が逆転しました。

「今回の調査では、共和党支持者の約48%が予備選でトランプ氏に投票すると回答。3月14─20日に行われた前回調査の44%から上昇した。
一方、トランプ氏の有力対抗馬と目されているロン・デサンティス・フロリダ州知事の支持率は約19%で、前月の30%から低下。他候補の支持率はいずれも1桁台。
直近の2つの世論調査では共和党のトランプ氏支持は57~56%と、2位のデサンティス氏に33ポイントの差をつけた。トランプ氏陣営は起訴を逆手にとって支持固めを図っており、起訴を巡り献金も呼び掛けて、すでに700万ドル(約9億2000万円)を集めた」
(ロイター4月4日)
トランプ氏リード拡大、24年大統領選共和指名争い=世論調査 | ロイター (reuters.com)

また、ロイターによれば、重要州の西部ネバダ州で党員35人に取材したところ、トランプ氏支持からデサンティス氏に乗り換えようと考えていた20人のうち14人が起訴後、トランプ氏に戻ったそうです。

ポルノ女優との関係うんぬんも、宗教保守を支持層とするペンスにはダメージでしょうし、クリーンイメージのディサンティスにとってもマイナスでしょうが、ヒール風味のあるトランプだとかえってうらやましいぞとばかりに人気が上がりそう(失礼)。
ホワイトハウスの執務室でインターンに淫行を働いていたセクハラ男のクリントンより、いっそ「さわやか」です。

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トランプ氏リード拡大、24年大統領選共和指名争い=世論調査 | ロイター (reuters.com)

共和党議員も団結してしまいました。

「共和党議員からも呼応する発言が相次いだ。トム・コットン上院議員は「検事を解任し、交代させるべきだ」と批判。マッカーシー下院議長は検事が「民主的プロセスを妨害しようとしている」とし、議会で追及する姿勢を示した」
(産経前掲)

トランプと喧嘩別れしたペンスも立候補を表明していましたが、この件に関しては抗議の意志を表明しています。
つまり、民主党系検事のこの一撃は、共和党をトランプで団結させてしまったようです。

ところで起訴内容は、CNNによれば主にこのようなものです。 

「起訴書面によれば、トランプ氏はコーエン氏に対する口止め料分の払い戻しの支払いを隠し、「法務サービス料」の名目で毎月小切手を切っていたとされる。この取り引きはホワイトハウスの大統領執務室で両人が考案したという。
検察によれば、トランプ氏本人がコーエン氏に払い戻す小切手にサインした。そこにはダニエルズ氏に秘密保持契約への署名と引き換えに支払った口止め料13万ドルも含まれる。
コーエン氏への払い戻しの総額は42万ドルに及び、所得税の偶発債務関連の金額やボーナスも含まれているという。トランプ氏はコーエン氏に対し、1年にわたり毎月3万5000ドル支払うことに同意したとされる」
(CNN4月5日)
トランプ前大統領に対する起訴内容、ポイントを解説 - CNN.co.jp

この起きた年は2016年は、トランプが共和党使命争いのレースをしていた時代に当たります。
もちろん大統領職には就いていない、一民間人の時代です。

この時期にトランプはポルノ女優との関係を知ったタブロイド紙の経営者に個人弁護士のコーエンを通じて口止め料を支払い、コーエンがこれを建て替えたということが罪に問われたようです。
しかしだからどうしたという類のことで、もっと巨額の裏金を動かしていた元大統領が民主党にはいるのにもかかわらず、そこかい、と言いたくもなります。

時事は「執念の捜査」などと言っていますが、連邦捜査当局が逮捕しなかったのには理由があります。
連邦検事は元大統領を訴追できないのです。

「だが、FBIなど連邦捜査当局はトランプ氏の刑事責任を問わなかった。18年当時、トランプ氏は大統領在任中。捜査当局を管轄する司法省には、現職大統領を訴追しないとの内規があった」
(時事4月2日)

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時事

34の訴状といっても、多くは献金がどーした、口止め料がどーした、記載されていないからどうなんだ、全部有罪なら禁固何百年だなんて言っていたメディアもありましたが、いずれにしても微罪の集積のようですが、まだトランプ側の反論が出揃っていないのでなんともいえません。
トランプは優秀な弁護団を作るでしょうから、有罪に持ち込むのはそうとうに困難であって、政治的な意味しかもたないでしょう。
これを政治的意図ではない、あるいはCNNが「何人も法を超えない」と力説してもどんなもんかね、と思われるでしょうね。

「ここではっきりさせるべきなのは何人も法を超えた存在ではないということであり、トランプ氏も自らの行いに対する責任を、他のどの市民もそうするように負う必要があるということだ。今回の起訴はそうした説明責任に向けた第一歩に他ならないが、道のりは長く、険しいものになるだろう」
(CNN前掲)

CNNが言うと、なにかポリコレの匂いが漂います。
ブラッグ検事ていどの小者(失礼)が、「何人も不正を犯せば逮捕」とリキんでも、この時期に、この人物を、このていどの罪状で起訴したら、民主党支持者からはヤンヤの喝采、そしてなにより共和党支持者はガチっとトランプ守れで一致団結してしまうに決まっています。

その意味で、逆説的にも政治的なのです。

いずれにしても、この自分の団体の事業記録の記載漏れ(改竄)ていどは微罪、ないしはスキャンダルにすぎません。
「大統領の犯罪」というには、あまりにも卑小です。

こんなていどのことでトランプ御大を起訴しても、全部罪状否認しましたし、長引けば長引くほど、その間トランプはテレビに出っぱなしで、バイデンの権力の濫用を攻撃し続けることでしょう。
そういう絵をつくってしまったのは民主党側です。

そう考えると、いったい誰が得するのやら。
ま、いちばん得するのはまちがいなく、常にニュースの一面を大統領選まで張れるトランプ御大でしょう。
そしてもっとも損をするのは、「合衆国大統領」という自由主義陣営の指導者のディグニティを毀損された米国かもしれません。
ウォールストリートジャーナルはこう見通しを予測しています。

「数カ月のうちに裁判の日程が決定される。だが公判前に行われる手続きの進捗(しんちょく)によっては、先延ばしされる可能性もある。弁護士や法律の専門家は、1年以上先送りされ、次期大統領選と重なる可能性もあると述べている」
(WSJ4月5日)
トランプ氏は無罪主張 今後の展開は? - WSJ

やれやれそれにしても大統領選の争点がこれですか。

 

2023年4月 6日 (木)

おめでとうフィンランド、NATOに正式加盟

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フィンランドが、NATOに正式加盟しました。
少し前までは考えられなかったすごいことです。

「(CNN) フィンランドは4日付で北大西洋条約機構(NATO)に正式加盟する。
この日、ブリュッセルでの式典で加盟手続きが完了。NATOの31カ国目のメンバーとなる。
ロシアとNATO加盟国の境界線はこれまでの約1215キロから、フィンランドの約1300キロ分が一気に加わる。
フィンランドは1年あまり前に軍事的中立からの政策転換を発表し、数カ月に及ぶ交渉を経て加盟にこぎ着けた。
同国とスウェーデンはともに、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて政策を再検討していたが、スウェーデンの加盟にはトルコが反対姿勢を貫いてきた。NATOは新規加盟国に対する門戸開放を原則とするが、全加盟国が拒否権を持つ。
フィンランドのニーニスト大統領は先週、トルコ議会が全会一致で同国の加盟を承認したことを受けて「NATO加盟の準備が整った」と宣言し、スウェーデンについても早期加盟を願うと述べていた」
(CNN4月4日)
フィンランド、4日にNATOに正式加盟 - CNN.co.jp

一方、ロシアは対抗措置をとるとのことです。

ドミトリー・ペスコフDmitry Peskov)大統領報道官は記者会見で「大統領府はこれを、情勢の新たな悪化と受け止めている」と述べた。 さらに「NATO拡大はわれわれの安全保障とロシアの国益に対する攻撃だ」との認識を示し、「これによりわれわれは、戦術的、戦略的な意味で対抗措置を取らざるを得なくなる」と述べた。ただし、詳細には触れなかった」
(AFP4月4日)
フィンランドNATO加盟に「対抗措置」 ロシア(AFP=時事) - Yahoo!ニュース

ロシアはまたNATOが攻めてくると言いたいようですが、侵略をしたのはそっち。
わが身の悪行を省みず、すぐに「NATO拡大はロシアの安全保障を脅かす」なんて逆恨みを言うから、中立国だったフィンランドすらNATOに保護を求めるのですよ。
これでロシアは、お望みどおりNATOと長大な壁で包囲されることになりました。

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NATO、ロシアと対決すれば「待っているのは破滅」…ウクライナ軍兵器の欧米化支援へ : 読新聞 (yomiuri.co.jp)

2014年のクリミア侵攻以降、フィンランドは事実上中立政策を放棄しており、NATOとの軍事的協力関係を密にしてきました。
そしてとうとう去年2月、世界が唖然となったウクライナ侵攻によって加盟手続きに入り、1年ならずして加盟がなったのです。
この1年での承認手続きの完了は素早いもので、ウクライナ戦争が続いているなかで、中途半端な地位に置いておけないという認識がNATOにあったからでした。

今後、ロシアはフィンランドと1300キロという本州の長さに匹敵する国境線で、直接NATOと対峙せねばならなくなりました。
また、サンクトペテルベルクからバルト海へ出るフィンランド湾が、NATO加盟申請中のスウエーデンとフィンランドによって完全に扼されてしまったことになります。

フィンランド湾 - Wikipedia

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フィンランド湾のストックフォト - iStock (istockphoto.com)

バルチック艦隊の母港である飛び地のカリーニングラードも、有事には本土との航路を遮断されてしまうことになり、文字どおりの陸の孤島となってしまうことになりました。
今後、フィンランドにNATO軍が条約に基づいて駐屯する可能性が高いと思われます。

こんなことになるのなら、ウクライナ侵略以前のようにフィンランドを緩衝地帯として利用できたままのほうがなんぼかましでした。
なお、この状態を「フィンランド化」と言います。

「フィンランドは東欧諸国のように衛星国にまではされなかったものの、監視下の制限された自由で、反ソ連とみなされる政治勢力・メディアを排除されていた。そうせざるをえないフィンランドの限られた主権を意味しており、永世中立国とは異なる近隣超大国(ソ連)に寄った中立化状態である
強力な隣国が小さい国を制度的に支配している否定的な意味を含むが、この中立化政策のおかげで、冷戦時代にフィンランドは東欧の国々とは異なる、制限はされていても民主主義と自由主義経済を享受出来た」

フィンランド化 - Wikipedia

ただし、フィンランドがこのような微妙な中立政策を貫けたのも、この国に迂闊に手を出したら右腕をもがれる、という冬戦争での頑強な抵抗が担保になっていることをお忘れなく。
仮に早々に白旗を掲げていたら、ソ連の一共和国に転落していたはずです。

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冬戦争 - Wikipedia

とこぞの国の弁護士のように、侵攻されたら無抵抗で白旗掲げてお出迎え、それが国民のいのちを守る道などとやったら、「限られた主権」どころか完全に支配の軛に置かれ、日本民族は抹殺されます。
自称リベラルは、なにかというと「9条外交で解決」と言いたがりますが、外交で独立を勝ち取ろうとするためには、武力で守り抜く意志が必要です。
だからこそ、フィンランドは冷戦以降も、他のNATO諸国さえ「平和の報酬」などといって軍備を大幅に削減する中、唯一自衛力を確保し続けました。
この外交安全保障政策において、左右の方針の違いはありませんでした。
これなら政権交代しても大丈夫です。

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NATO本部前に翻ったフィンランド国旗
フィンランドNATO加盟に「対抗措置」 ロシア(AFP=時事) - Yahoo!ニュース

さて、NATO加盟と同時期にフィンランド総選挙が行われました。
皮肉にも、この総選挙において、NATO加盟を牽引してきた現職のマリン首相の社民党が敗北し、中道右派が第一党になったようです。

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フィン人党のリイッカ・プッラ党首
 BBCニュース

「フィンランドで2日に議会選の投開票が行われ、中道右派の国民連合が第1党となった。中道左派・社会民主党を率いるサナ・マリン首相は敗北を認めた。
国民連合の得票率は20.8%、これに右翼のポピュリスト政党・フィン人党(20.1%)が続いた。社会民主党は19.9%と第3党に転落した。
3党の支持率はこの数週間、ほぼ拮抗しており、開票結果も僅差だった。その後、フィンランド国営放送(YLE)が、国民連合が第1党となる見通しだと報じた」
(BBC4月3日)
フィンランド議会選でマリン首相が敗北 保守派が僅差で勝利 - BBCニュース

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社民党を率いて敗北したサナ・マリン首相と勝利した国民連合のオルボ党首
BBC

マリン首相は退陣し、勝利した中道右派系3派の連合政権が作られると思われます。
ただしご安心いただきたいのは、前述したようにすべての政党かNATO加盟に賛成しており、今回の勝者である国民連合は加盟推進派でしたので、ここがひっくり返る心配はありません。

こういう心配をしてしまうのは、ヨーロッパの右翼は、オーストリアの自由党、フランスの国民連合、イタリアの同盟など、常日頃モスクワと接触し、人脈を構築していることで知られているからです。
彼らヨーロッパ極右のプーチン好きは有名で、今回のウクライナ侵略を見ても立場を変えなかったのですから、たいしたものです。

マリン首相は2019年、史上最年少の国家元首となりました。
いまだマリン氏の個人的人気は非常に高く、コロナ対応や、NATO加盟の成功などで党派を超えた強い支持を受けている反面、経済政策の失敗が問われたようです。

しかし一方で、保守層には評判が悪く、パーティでのダンス事件がいまだ非難を受けています。

「一方で、多くの国民がマリン氏を、世論を分断する極端な人物だとみている。昨年には、パーティーで同国のポップ歌手と踊っている動画が流出したことで物議をかもした。マリン氏の支持者らは、この議論が性差別に及んだと反発。国内外の女性がマリン氏と連帯するために、パーティーで踊っている動画をソーシャルメディアに投稿した」
(BBC前掲)

私は、ボリス・ジョンソン氏のように首相公邸で踊っていたわけでもないので、ナニが悪いんだと思いますがね。
それはさておき、保守連合の勝利に対して、社民党を中心とする旧与党連立政権の他の3党、「緑の党」「左翼同盟」「スウェーデン人民党」は、議席増になりませんでした。
社民党が3議席を確保できたのは、与党政党の選挙協力によって候補を絞ったためだといわれています。
マリン氏は党内最左派ですので、社民党が連立に加わる可能性はないようです。

 

 

2023年4月 5日 (水)

ロシアの泥酔兵たち

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ロシア軍の死傷者が20万を超えたようですが、その理由が涙を誘います。
鉄砲の弾に当たるのはまだましなようで、その多くが「戦闘以外の原因」による死傷のようです。
つまり、事故や犯罪行為による死傷です。

「英国防省は2日の戦況分析で、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍の死傷者について、最大20万人とする推計のうち、多数の兵士らが戦闘以外の原因で死亡しているとの見方を示した。
同省は、ロシア軍内で、飲酒に関連する偶発的な事故や犯罪行為による死亡がかなりの数に上っているとする、3月27日付のロシア報道を紹介した。さらに、武器の粗末な扱いや交通事故、低体温症も兵士の死傷につながっていると分析した」
(朝日4月3日)
ロシア軍、過剰な飲酒で死者増加か 犯罪行為の誘発も 英国防省分析(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

実は、この事故や犯罪の原因がアルコールです。

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ロシア軍兵士はベラルーシで燃料や食料を金や酒に替えています│ミリレポ|ミリタリー関係の総合メディア (sabatech.jp)

「その上で同省は、ロシア軍の指揮官らは過剰な飲酒が戦闘に悪影響を及ぼすことを認識していると指摘した。ロシア社会の飲酒の習慣から、軍内では作戦の遂行中でさえ、飲酒が暗黙の了解として認められているとの見方も示した」
(朝日前掲)

指揮官クラスがベロベロになってしまい、「オレは酔ってねぇぞ、バカヤロー突撃だぁ」などとやるんですから、部下はたまったもんじゃありませんが、その部下もヘベレケですから、上から下まで泥酔軍隊です。
促成訓練でじゃんじゃん前線に送りこんだ徴集兵士らは、満足に銃の分解もできないうちに、ヘベレケになってしまい、武器をめちゃくちゃに扱ってはぶっ壊すわ、乱射して味方を撃つなどの事故が起きています。
大義なき軍特有の現象です。

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「動員されたばかりのロシア軍兵士が訓練中に死亡する事故が起きた。仲間が撃ったグレネードランチャー(自動擲弾銃)の弾に当たったという。(略)
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は9月21日、ウクライナでの戦争に向けて予備役30万人の動員令を発令した。軍事ブロガーや国営テレビはかねてから、この動員に伴う不満の声を報じてきた。新兵向けの装備や訓練は不十分で、報酬も満足に支払われていない。ロシア軍部隊の士気は下がる一方だというのだ。
予備役の招集が発表された後の数週間には、まだウクライナに到着もしないうちから、動員兵が原因不明、あるいは不可解な状況で死亡するケースが複数発生している。
ロシアのニュースサイト「イッツ・マイ・シティー」のテレグラムチャンネルによると、ロシア中部のスベルドロフスク州では、ある動員兵が酒を飲んだあとに自らの吐瀉物で窒息死した。同サイトによると、同様の事例は9月末から4件起きている。 」
(ニューズウィーク2022年12月8日)
ロシア動員兵の間で事故死や変死相次ぐ(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース

おいおい、戦場に到着する前に泥酔して吐瀉物で「戦死」ですか。泣くに泣けない。
ロシア軍が動員兵に配っている「特別軍作戦に関する知識 」という冊子にもこんな一行があります。

「酒だけは絶対に飲むな。仲間が酒を飲もうとしていたら止めろ。もし止められない場合は直ぐにその場を離れろ、絶対に碌なことがない」
動員されたロシア人に配られるマニュアル、不思議な記述がいっぱい (grandfleet.info)

着く前からこの調子ですから、緊張を強いられる前線では、飲み代が足りなくなっても給料がないに等しいので、武器や燃料を横流しして酒を買おうとします。
燃料を売ってしまえば前線に行けないので、一石二鳥だ、というわけでしょうか。

「ウクライナ当局はベラルーシにいるロシア軍兵士が軍から支給された食料や車両の燃料を販売、またはアルコールと交換していると報告しました。
ウクライナ軍の参謀本部は、 「ベラルーシ共和国領内からウクライナに向かうロシア軍車列の経路に沿って、ロシア軍兵士が燃料や食料品を販売したり、それらをアルコールと交換したりする事例が多数発生している」 と語りました」
(ミリレポ3月29日)

そしてお定まりなのは、占領地での略奪です。
特にロシア兵がお好きなのは、スーパーや食料品店です。
なぜって、そりゃウオトカがあるからですよ。

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「露兵士が略奪品を家に送るため、郵便局に無限に並んでいる」 宇当局が映像を共有|ニフティニュース (nifty.com)

ブチャのロシア軍が去った後には、酒瓶が山ほど残されていました。

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露軍「処刑場」と化したブチャの4階建てビル - WSJ

上の写真の泥酔兵士は、それでもバーボンなどという高級酒をたしなんでいますが、多くはそれも買えずに手を出すのが医療用エタノールです。

「それは医療用に薬局で売られているサンザシチンキの250ミリリットルボトルを空ける音でした。サンザシチンキにはエタノール成分が含まれておりウオツカよりも安価であるため、アルコールの代替品として貧困層を中心に地下で浸透していきましたれ」
(ZAKZAK 2022年12月8日)
【プーチンの国より愛を込めて】アルコール依存の鉱山労働者イワン (1/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

これはロシア軍の輝ける伝統みたいなもので、ミグ29亡命事件のベレンコが逃亡を決意したのは、整備兵らが最新鋭機の電子部品凍結防止用の工業用エタノールをみんな抜き取って飲んでしまい、戦闘機をオシャカにする事件があいついだからだそうです。
ロシア人女性のユーチューバーが、ロシア男のナニが嫌いかといって一日飲んでヘベレケになっていることを上げていました。
だから呑まないプーチンは、ロシア女子の目にはステキなんだそうです。

そのプーチンは、戦死者急増を指摘されて「早く酒で死ぬか、遅く酒で死ぬかの違いだ」と語ったという逸話がありますが、ロシア全体で年間100万人(!)がアルコールによって死亡しているという話もあります。
【おそロシア】 酒で毎年100万人が死亡 【アル中】 - ニコニコ動画 (nicovideo.jp) 

ウクライナに侵攻したロシア軍は、恒常的に燃料や武器弾薬の補給が足りないという指摘がでていました。
その原因は、長大な補給線をウクライナ軍によって寸断されたためでもありますが、もうひとつの見逃せない原因が兵士の組織的横流しです。
ベラルーシではロシア兵は鼻つまみ者扱いになっていますが、ベラルーシ軍かロシア軍かは遠くからでも判別できるそうです。
身ぎれいなベラルーシ軍に対して、ロシア軍の規律はすさみきっており、不潔で、しかも常に酒瓶を離しません。
キーウ侵攻前にベラルーシに駐屯していた頃から、ロシア兵は燃料を売って酒に替えていたそうです。
ロシア兵さん、家に帰って安心して飲んだくれなさい。

 

 

 

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[ウクライナ侵攻1年]ウクライナ 戦闘続く あす侵攻1年 死者2万7000人 | 沖縄タイムス紙面掲載記事 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)
ウクライナに平和と独立を

 

 

2023年4月 4日 (火)

小西騒動の目的はSC潰し

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元「総務省放送政策課課長補佐」という顕職にして、「憲法学者」の博覧強記を誇る小西議員のアッパレな自爆ぶりについては、まぁいいでしょう。
ほかでもさんざん触れられていますから、立憲の持つ報道統制的体質と、それを持ち上げたメディアの自滅にすぎません。

閑話休題。
小西氏の総務省祭りは大きな傷跡を残しました。
え、立憲に?
いえいえ、セキュリティクリアランス(SC)の政府の取り組みが今国会でできなかったのです。
この国会で、政府は去年5月に成立した経済安全保障推進法の積み残しの課題となっている機密取り扱い資格、いわゆるセキュリティー・クリアランス(SC/適格性評価)の制度化を進めていました。
その担当大臣が高市氏です。

SCが制度化されていないわが国では、米欧と技術交流を進めようとしても、日本に流せば機密情報がダダ漏れになるという理由から消極的対応をされてきました。

「SCの制度導入で先行する米国や欧州の主要国は、ハイテク分野で台頭する中国を念頭に、制度を持たない日本との共同研究で機密情報が漏れる可能性を警戒する。先端技術に関わる国際共同研究に日本企業が参加できなくなる恐れもあるのだ。高市氏も「日本企業が海外との共同研究や民間企業同士の取引からはじき出され、ビジネスチャンスをみすみす失うことになる」(同番組)など危機感を訴えてきた」
(産経2023年1月11日)
【岸田政権考】高市氏ピンチ 経済安保の機密扱い資格に黄信号 - 産経ニュース (sankei.com)

軍事関連情報については、安部氏が渾身の力で2014年に作った特定秘密保護法でなんとかカバーしていますが、それは政府が主体となった案件にとどまります。
民間企業が主体となった情報移転については、いまだ手つかずです。

「SCは、機密情報へのアクセスを一部の民間の研究者・技術者や政府職員に限定する仕組みだ。人工知能(AI)や量子技術など最先端技術に関する機密情報に接する資格を関係者に付与して明確にし、軍事転用が可能な技術や民間の国際競争力に関わる重要な情報が国外に流出することを防ぐ狙いがある」
(産経前掲)

ご承知のように、現代においては民間技術と軍事技術の境目がありません。
たとえば高性能コンピューターは、ミサイルや戦車、軍艦、航空機の中枢に使用されて いると同時に、広く民製品にも利用されています。
そもそもインターネットやGPSも軍事用が民製品にスピンオフしたものです。
民間航空機の管制や自動車の自動運転や自動ブレーキなどに広く使われているレーダー技術は、もともと敵の位置を知るための軍事技術でした。
あるいは、グリーン技術と思われているソーラー発電機すらも、GaAs(ガリウムひ素)半導体を利用した超高効率のソーラーパネルとして米陸軍が使用しています。
携帯電話のCDMA技術は、そもそも軍事で開発された拡散スペクトル通信技術をクアルコム社が民間の携帯電話に使えるように転用した技術です。
5G通信で使われるMIMOアンテナは、軍事用のフェーズドアレイレーダー用のアンテナのこれもスピンオフです。

というふうに民間技術と軍事製品には境目がなく、大量破壊兵器を密造している北朝鮮の弾道ミサイルの部品には、多くのメイドインジャパンの民製品が使われています。
だから学術会議の「軍事研究には協力しない」というご託宣は、工学系の者にとってまったく意味をなさない文系特有の発想なのです。

しかし、日本はいまや多くの国と技術交流しており、さらにCPTPPによってスパンが大きく英国にまで延びようという時代にもかかわらず、いまだに民間企業や研究組織の個々バラバラなセキュリティ基準で対応してきました。

担当大臣の高市氏はこう述べています。

「日本人のビジネスマンや技術者が「セキュリティ・クリアランス」の資格を持っていないばかりに、外国の政府調達や国際共同研究や外国企業との取引から外され、ビジネスチャンスを逃してしまうような現状は、一刻も早く改善しなければなりません」
セキュリティ・クリアランス制度整備に向けたキックオフ | 9期目の永田町から 令和3年11月~ | コラム | 高市早苗(たかいちさなえ) (sanae.gr.jp)

こういう遅れた状態を打破して、SCを一括して、政府が明確なセキュリティランクを作ろうというのが、今回の制度づくりの趣旨です。
つまり、ここまではSCランクいくつ、ここから先はSCランクこれこれ、それを確証するために国が審査をします。

たとえば、セキュリティランクに応じて、親族や交友関係なども審査対象とするわけです。

「セキュリティ・クリアランス制度は、国家における情報保全措置の一環として、政府が保有する安全保障上重要な情報を指定することを前提に、当該情報にアクセスする必要がある者に対して政府による調査を実施し、当該者の信頼性を確認した上でアクセス権を付与する制度。特別の情報管理ルールを定め、当該情報を漏洩した場合には厳罰を科すことが通例となっており、昨年決定した新たな国家安全保障戦略や経済安全保障推進法の附帯決議にも検討を進めるよう明記されている」
(日本商工会議所)
情報保全強化へセキュリティ・クリアランス制度検討(経済安全保障推進会議) - 日本商工会議所 (jcci.or.jp)
※詳細 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyo/index.html

本来、経済安全保障推進法にこれらが盛り込まれるべきでしたが、特定秘密法とまったく同じ抵抗が生まれました。
例の「治安維持法の復活」「軍靴の音」です。
こういう幻覚や幻視を見る人は、特定秘密法の時になんと言っていたのか「市民生活が抑圧される」です。
たとえば、特定秘密保護法で連日国会前が騒がしかった時、朝日は赤旗翻る集会の写真と共に、こんなお約束の記事を出しています。

朝日は当時の紙面ではこんなことを書いています。もはや世界記憶遺産に登録申請したいようなシロモノですな。

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特定秘密保護法に関するタイムラインビューアー:朝日新聞デジタル (asahi.com)

「防衛産業で働くB男がA子と大学の同窓会で再会した。酔ったB男は『あまり知られていない話だけど』といって、数年前に北朝鮮が発射したミサイルが途中で失速して海に落ちたが、『もし失速していなかったらこの辺に落ちていたかも』という情報を暴露。
A子がブログで書き込み、ある防衛マニアかミサイルの飛ぶコースを推測してネットで拡散した。翌月、捜査機関が二人を訪ねて来た。B男は業務で知った秘密を漏らした疑い、A子は漏洩をそそのかした疑いだった」
(朝日 2013年12月6日)

もはやデマというより妄想。
この記事のキモはむしろイラストにあって、そこには思わせぶりに 「有罪!」 という字がデカデカと踊っているのですから、さぁお立ち会い。

もちろん、本文には 「逮捕される」 も、ましてや 「有罪」 もありません。 これが味噌です。 ただ 「捜査機関が訪れた」 と記してあって、そこで寸止めです。 逮捕まで書くとまるっきりの誤報だもんね (苦笑)。
そもそも、特定秘密法は、防衛省や製造に携わった関係者に対しての秘密保全義務に罰則規定を設けただけのもので、世界中どこの国にもあるものです。
たかだか、オスプレイの写真を撮ったら逮捕、ミサイルの弾道を予測したらパクられ、演劇には憲兵が立ち会う、なーんてもんじゃありません(あたりまえだつうの)
それを、「同窓会」だとか、「ネットでの拡散」とか、市民の身近な例に引き寄せて、恐怖を煽っているのですから、まるでアジビラです。

では、SCなどあたりまえの諸外国ではどうでしょうか。

「先行導入している国ではどう認識されているのだろうか。昨年12月、来日中だった米国の経済安全保障政策の専門家、リチャード・マーシャル氏に話を聞く機会があった。同氏はNSA(国家安全保障局)などの政府機関で要職を務めた経歴がある。
日本で人権侵害への懸念があることについて、マーシャル氏は「(SCは)情報にアクセスしたい人が、政府に『私のバックグラウンドチェック(身元調査)をしてください』というものだ。互いに同意して調査するのであって人権侵害は起こらない」と解説した。
日本では「政府に強制的に身元が調査される」というイメージが強い。しかし米国では、政府と個人が「互いに同意する」という、ある意味で対等の立場でやりとりすることと捉えられているように感じる」
(産経前掲)

このようにSCは契約する場合の必須の前提なのです。

SCの経済安全保障推進法への盛り込みは今国会の焦点のひとつでした。
高市氏は意欲をみなぎらせてこう書いています。

「2月14日朝の閣議後、官邸で18名の大臣、官房副長官、国家安全保障局長等をメンバーとする「経済安全保障推進会議」が開催され、私は進行役を務めました。
 同会議において、昨年8月10日の経済安全保障担当大臣就任以来の悲願だった「セキュリティ・クリアランス」の制度整備に向け、岸田総理から私に対して検討の御指示を頂くことができました。
 会議では、先ず、当方から、「セキュリティ・クリアランス」を含む我が国の情報保全の強化に向けた検討を進める必要があること、経済界からも、主要国の情報保全制度と整合性のある制度の整備を求める声があることなどについて、説明をいたしました。

しかしその担当大臣の高市氏が「小西文書」の自作自演騒動で公務ができなくなってしまい、今回もオジャンです。

「「今の作業状況を見ると、通常国会とは言い切れない」
高市早苗経済安全保障担当相は昨年12月20日のBSフジ番組で、SCの制度化に向けた改正案の提出時期が見通せないと打ち明けた。8月の担当相就任当初から制度化を訴えてきたが、調整は難航しているようだ」
(産経前掲)

小西氏がなにに忖度してこんな馬鹿げた騒動を引き起したのか知りませんが、もっともやってはいけない時期に高市氏の足を引っ張って1カ月間も国会を空転させたのだけは確かです。

 

 

 

2023年4月 3日 (月)

林さん、行く前からわかっていただろう

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なにをしに行ったのやら。
林外相、言われっぱなしのようです。
これではまるで一般的日中外相会談ではありませんか。
林氏はあくまでも抗議にいったのであって、一般的意見交換しに行ったのではありません。
はき違えているのではないですか、この人。

「中国外務省によると、中国の秦剛(しんごう)国務委員兼外相は2日、林芳正外相との会談で、米国が主導する対中半導体規制を念頭に「封鎖は、中国の自立自強の決意をさらに呼び起こすだけだ」と述べ、日本に米国と連携しないよう求めた。
秦氏は「日本はG7(先進7カ国)のメンバーであり、加えてアジアの一員でもある。会議の基調と方向性を正しく導き、地域の平和と安定に有益なことをすべきだ」と呼び掛けた。G7議長国を務める日本にクギを刺した。
秦氏は「矛盾や不一致に対し、徒党を組んで圧力を加えることは問題解決の助けにはならず、お互いの隔たりを深めるだけだ」と発言。米中対立を背景に、G7メンバー国などが対中圧力を深めていることを暗に批判した」
(産経4月2日)
中国外相、半導体規制に反発 台湾問題「介入許さない」(産経新聞) - Yahoo!ニュース

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【林外相】中国・秦剛外相と初の会談 拘束された邦人の早期解放など求めたか - YouTube

福島第1の処理水についても、ご意見を承って来たようです。

「日本政府が春以降の開始を見込む東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出については、秦氏は「人類の健康、安全にかかわる重大な問題で、日本は責任ある態度で処理すべきだ」と注文を付けた」
(産経前掲)

かんじんのアステラス製薬幹部の拘留についての秦剛氏のお答え。

「日本の製薬大手・アステラス製薬の現地法人幹部男性の拘束については、「中国は法に照らして処理する」と主張した。また、秦氏は日本側に「実務協力を推進し、人文交流を増進することを望む」などと発言した」
(産経前掲)

なにが「法に照らして」だ、法が恣意的、かつ人治的、政治的意図をもって使われ、邦人を不当に拘留しているから、このようなことが頻発するのでしょうが。
こういうタワゴトを中国に言わしてしまうこと自体、敗北です。
言われたなら、直ちに「逮捕理由の根拠を詳らかに開示せよ」と切り返さねばダメです。
なぁなぁニコニコしに行ったのではなく、同胞を奪還しに行ったんでしょうが。

福島第1の処理水についてなど、議題に載せることからして間違い。
半導体規制うぬんぬんも知らん。
こちらが言うべきはただ一点。直ちに釈放せよ、だけです。わかっているのかな、林さん。

中国が日本人駐在員を拘留しているのは、日本に外交的見返りを求めているからです。
人質を返してほしければみやげ物を置いていけ、と盗賊の親分は言っているわけです。
そのみやげ物とは、日米同盟強化をせず、台湾有事を放置し、尖閣はおとなしく譲り渡し、反撃能力獲得などとんでもない、そしてSC(セキュリティクリアランス)には手をつけず、半導体規制などの経済安保も行わないということです。
それが彼らの言う「日中友好」という土産です。
ふゆみさんSCについて甘い書き方をしてすいません。改めて記事にまとめますので、ご勘弁のほどを。

繰り返しますが、こんなことは行く前からわかっていました。
決定権がない外交部長の秦が交渉に出てくるようでは、なにを交渉しても無駄だくらい予測しえたはずです。
日本は大きな声で抗議しながら、米国と共に圧力をかけるしかないのです。

いちおう政治局員の王毅も顔くらいは見せて、やはりこんな釘を刺していきました。

「外交担当トップの王毅共産党政治局員も林氏と会談。台湾問題などを念頭に「日本の一部勢力が米国の誤った対中政策に追随し、米国と歩調を合わせ、中国の核心的利益に関する問題で中傷や挑発をしている」と非難した」
(産経4月2日)
中国・王毅氏「日本の一部勢力が誤った米政策に追随」 - 産経ニュース (sankei.com)

台湾有事は日本の有事だなどと言っているお前のボスの岸田をなんとかしろ、という意味でしょうね。

さて、気を取り直して駐在員拘留事件について続けます。
今回拘留された日本駐在員の人となりを、産経新聞台北支局長矢板記者が伝えているので、ご紹介します。

原文は中国語ですので、福島香織氏が和訳しています。

「北京で失踪後一か月後に、中国当局が「スパイ罪」で中国警察当局に逮捕されている、と確認した。日本の世論は騒然とした。このアステラス幹部は高収入の親中派人士で、彼がスパイなんで誰も信じていない。日本の林芳正外相はこの数日内に中国に赴き外交交渉を展開する。
日本メディアはこの幹部の名前を公開していない。それは(公開によって)家族が中国の怒りを引き起こすことを恐れているからだ。(名前を公開すれば)拘留中の人物にとって不利益になりそうだからだ。実際、私も数日前にこのニュースを聞いた。この幹部は私が北京で記者時代に知る古い友人だ。
2014年前後、私が月に一度、開いていた勉強会に講師として来てもらったことがある。これは毎月講師をまねき、日中政治、社会、文化などについて講義してもらうもので、彼を医療問題専門家として招いたことがある。この勉強会後、私たちはよい友人となって、よく一緒に酒をのみ食事をした。
まだよく覚えているのだが、彼はリハビリ問題について語った時に、中国と日本の文化の違いについて言及していた。日本人は生きるということに真面目で、もし、脳溢血などで下半身不随なったら、非常に医者の指導に協力的にリハビリ療養をする。痛みで脂汗をにじませ、叫び続けながらもそれをやる。だから日本で医薬品を使ってリハビリをする場合、多くの場合身体能力は70%前後まで回復するのだ、と。
しかし、中国は、患者であれ患者家族であり、こうした苦痛に耐えるリハビリをしたがらない。医者も真面目に指導しないし、おざなりになる。だから、同様のリハビリ機器や医薬品を使用しても、身体能力の回復は40%ぐらいなのだ、と。
このアステラス幹部は、愛情があり、中国の貧困地域にも多くの医薬品を寄付してきた。その生き方は豪快で、細かいことにはこだわらない。
私が北京を離れるときに、彼は送別会をしてくれた。日本食レストランを貸し切り、マグロを一匹買い上げて、その場で板前に捌いてもらい、新鮮な刺身を食べさせてくれた。
彼には中国の友人も多いが、ほとんど政治を語らない人だった。だから、一人暮らしの彼が中国で突然「失踪」したのは、本当に意外でしかない。
産業スパイの可能性をいう人もいる。これはさらに理解不能だ。中国人が日本に行って、日本の医薬品を買いあさるのだ。日本の製薬技術は中国よりも進んでいるように見える。中国の製薬企業が日本の技術を盗むとしても、日本の医薬企業が中国の技術を盗むなんて聞いたことがない。
日本企業が、彼を助けてくれますように。」
福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.762 2023年3月31日

福島氏によれば、今回のアステラス幹部拘留は、在中日本人社会で衝撃が広がっているようです。
その理由は、矢板記者の文章にも現れているように、この人物にはつけ込まれる隙がまったくなかったことです。

もちろん、スパイをしていたなどということを信じているものはひとりもいません。
中国企業が日本企業の技術を盗むことは日常茶飯事でも、その逆はありえないからです。
ワクチン製造やコロナ治療薬にしても、日本は中国よりもはるかに先行しています。

強いていえ承認や治験の結果を知るための接触は当然あったはずですが、それをスパイ行為とされたら中国ではなにもできなくなります。

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産経

「日本企業は中国への警戒を強めるが、アステラスなど製薬企業にとって中国は巨大市場。新薬の承認申請のため現地当局との接触が多く、臨床試験(治験)などで得られる重要情報を取り扱う。塩野義製薬は上海の合弁企業など中国に3カ所の拠点を設け、医薬品の製造・販売などを展開。新型コロナウイルスの飲み薬「ゾコーバ」の中国での承認申請を目指している。
製薬業界関係者は「現地で集めたデータを国外に持ち出すことについて、当局はかなり神経をとがらせている」と指摘。別の製薬会社の関係者は「中国での事業展開については、より慎重に考慮していく必要があると考えている」と語る」
(産経4月1日)
日本企業、中国での活動警戒強める アステラス社員拘束受け(産経新聞) - Yahoo!ニュース

中国に進出している製薬会社系は緊張しているようです。

「田辺三菱製薬は北京で医薬品開発を行うなど中国に2拠点を設けている。現地当局との関わり方について、「現地の法令、規制などを十分に理解し、順守した上で業務にあたるよう周知徹底している」と説明。今回の事件を受けて、「駐在員の安全を第一に考え、中国における事業活動では現地の法令順守を念頭に行動するよう、改めて周知した」としている」
(産経前掲)

ネックは、新薬の承認をとる際の治験を日本に持ち帰る時です。

とうしても日本のラボで分析せねばならないわけで、そこをつけこまれると抵抗できません。
今回も、検体の持ち出しなどがスパイ容疑にふれた可能性もあります。

ただし日本企業でも製造業や機械メーカーはまだのんきで、特に警戒態勢をとってないようです。

「ある電子部品メーカーの担当者は「今回は拘束されているのが製薬会社の社員なので、われわれ製造業にはピンとこないのではないか」と分析する」
(産経前掲) 

日本叩きをしたければ、理由と膏薬はどこにでもつくので、この危機感のなさがこわい。

ところで反面教師として、かつて6年間拘留されたある人は、中国の内部闘争に首をツッコミすぎたようです。
習近平VS共青団という因縁の闘争において、片方に与してしまい、その人は「中国要人とオレは懇意にしている」と日頃から自慢していたようです。
ですから共青団が全面敗北すると、それに連座してしまった形になってしまったようです。

日中友好団体系の人がチューゴク大好きなのによく拘留されたのは、こういう親中団体にはヒモがついていることが多いからです。
日本にいるときも、なんらかの形で中国の資金援助があったり、人的派遣をもらったりしていますし、いったん中国に渡れば中国内部の派閥の中で活動することになります。
その派閥がパージされた場合、在中日本人まで泥を被って拘留されてしまうことがあったようです。

ちなみに、この時期にデニー知事は訪中しようとしていますが、この時期に訪中するという「恩恵」に預かれたのは、デニー氏が台湾攻略のための要にいることだけではなく、彼が習近平派となんらかのつながりがあることをしめしています。
デニー知事は、一貫して中国公船による尖閣周辺の領海侵入に対し、抗議しない考えを崩さず、中国公船の侵入に対しては「パトロール」と表現して中国の施政権下にあるような態度をとっています。

たぶん、台湾進行ともなれば、沖縄から出撃する米軍に対して非協力的ならまだしも、サボタージュ活動すらしかねません。
そして一方では、習近平の一帯一路には「一帯一路に関する日本の出入り口としての沖縄の活用」することを要望しています。
このような深い関わりを中国と結ぶと、いったんひっくり返ればどのようなことになるか、考えてみるのですな。

それはさておき、このアステラス製薬の駐在員は、そのような中国要人との接点もなく、むしろ中国で見放されているリハビリ治療や、貧困地帯への医療支援などを真面目に取り組んできました。

また、よくあるのはハニートラップです。
日本でも首相経験者が見事に引っかかったケースがありますが、この共産国の常套手段にこの人も引っかかってしまったようで、これも日本人社会では知られていました。

ちなみに、この時期にデニー知事は訪中しようとしています。
この時期に訪中するという「意味」が分からないで行くのか(たぶんそうでしょうが)、ただの兼の首長レベルがコンタクトを持てるはずのない習派のお招きなのか、いずれにして呼ぶほうの下心は見え透いています。

 

 

 

2023年4月 2日 (日)

日曜写真館 朝桜みどり児に言ふさやうなら

 

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ほころぶと告ぐる言葉の花より浮く  ぱら

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真っ白な花に群がる風一目  鳩信

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しばし居る木椅子は花のつめたさに  石鏡

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花の蜜くすねに来たる大き鳥  素抱

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飛来せる一羽花間へもぐり込む  もも

 

2023年4月 1日 (土)

日本人中国駐在員、逃げて逃げて

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中国に駐在する日本企業駐在員が、また拘束されたようです。
2015年以降、少なくとも16人の日本人がスパイ容疑で中国政府に拘束されています。
その中には10年の実刑判決を受けて、監獄に閉じ込められた者もいます。

「大手製薬メーカーのアステラス製薬は、中国の首都・北京で3月、中国の法律に違反した疑いで当局に拘束された50代の日本人男性について、自社の社員であることを明らかにしました。現在、外務省を通じて情報収集をしているということです。
日本政府関係者などによりますと、3月、北京市内で日系企業の幹部の50代の日本人男性が中国の法律に違反した疑いで国家安全当局に拘束されたということです。(略)
日本人男性が中国の国家安全当局に拘束されたことについて、外務省幹部は、記者団に対し「中国政府に早期解放や拘束の経緯の説明を求めるとともに、領事による面会の実施や家族への連絡を通じて男性を支援していく」と述べました」
(NHK3月23日)
中国 北京で拘束された日本人男性はアステラス製薬の社員 | NHK | 中国 

では、彼らはスパイだったのでしょうか。
わけがありません。わが国にできるのはシギント(電子情報収集)や公開情報からの情報収集(オシント)までで、人が介在するヒューミントをする能力もなければ、それをする機関すらありません。
ついでにわが国内部の外国スパイを取り締まる法律すらありません。
したがって、日本の「スパイ」など存在せず、わが国にいるのは外国のスパイばかりです。
見事に内にも外にもスッポンポン。
諜報活動 - Wikipedia

このようなスパイ容疑での拘留は、日本だけに限らず米国人も受けています。

「24日には米米国企業の従業員も中国に逮捕された。 米経済監査法人ミンツ・グループはAFPに対し、中国が同社の北京事務所の中国人従業員を逮捕し、北京での操業を停止したことを認めた」
中国に拘束された日本の製薬会社従業員、中国政府はスパイ容疑を確認 | ドイツからのドイチェ・ヴェレ

中国は外国組織、個人の審査を強化しており、2014年に反スパイ法、2015年に国家安全法が施行されたのち、外国人の拘留事件が相次いでいます。
この米国ミンツ社はドイチェ・ヴェレによれば、世界中にオフィスを持ち、詐欺、汚職、職場での違法行為の申し立てについての調査を行っている会社のようです。
2018年には同社のアジア責任者であるランダル・フィリップスが米国議会で、米国は米中貿易の構造的不均衡に注意を払うべきだと述べ、中国のやり方について批判的証言していました。

なお、ミンツ社は従業員拘束を受けて、直ちに中国現地のオフィスを閉鎖しました。

さて、今回拘束された日本人従業員は年齢50歳、現地の最高経営責任者を勤めており,駐在歴は20年に及ぶ超ベテランでした。
また、彼は北京の日系企業で構成される中国日本商会の副会長もして信頼を集めている人で、新型コロナの中国の感染対策やワクチンについての裏側まで把握している人物だったようです。

もちろん中国語には堪能で、現地のパイプも多く持っていた人物でした。
今回は3月に日本に帰任する直前に拘留されています。

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中国で日本人男性拘束…アステラス製薬幹部がなぜ? “6年拘束”経験の男性が語る実態とは(日テレNEWS) - Yahoo!ニュース

「北京の日本企業社会では知られた人物だけに、その拘束に現地の日本人社会では衝撃が広がっている。「追い出すならまだしも、国に帰さないというのはさらにたちが悪いし、怖いと感じる」(日本企業の北京駐在員)」
(西村豪太2月28日)
中国ビジネスに冷水「アステラス社員拘束」の恐怖 | 中国・台湾 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)

この帰国寸前に拘束するというところが、いかにも中国です。
帰国直前、荷造りも終えて土産のひとつも買い、航空券を確認しているような緊張が緩む時間を狙って、ドアを叩いて公安がなだれ込んで逮捕される。

これは心理的に効くでしょう。抵抗する気が起きなくなります。
あえてこういう人物を拘束したのは、習近平の失敗したゼロコロナ政策の細部を熟知している者だからです。

林外相は今週末に訪中すると言い出しました。

「林芳正外相が4月1-2日に中国を訪問し、秦剛外相と会談する調整に入ったと共同通信が報じた。今月に北京市で中国当局に拘束された日本人男性の早期解放を求める意向だとしている。日本政府関係者が28日明らかにしたという」
(ブルームバーク3月29日)
林外相が今週末の訪中を調整、拘束邦人の解放を要求-報道 - Bloomberg

どーでもいいですが、デニー知事も訪中するそうです。

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沖縄県副知事が駐日中国大使と面談 デニー知事の中国訪問に協力要請 大使「地域の安定へ平和的な解決を」(琉球新報) - Yahoo!ニュース

「照屋義実副知事は30日、東京の中国大使館に呉江浩中国大使を訪れ、玉城デニー知事が訪中を希望していると伝えた。日中の平和交流に向け、沖縄が貢献する意向も強調した。県交流推進課が同日発表した。
玉城知事は新年度から県庁に地域外交室を設置し、アジアの緊張緩和に向けた県独自の外交に乗り出す構え。照屋副知事の中国大使訪問も、こうした政策の一環となる。
県によると、照屋副知事は「日中の交流や平和交流を維持し、持続的な発展を続けることは重要。沖縄は600年の交流の歴史を踏まえて貢献できると考えている」と述べた」
(八重山日報3月31日)
玉城知事訪中へ地ならし 照屋氏が中国大使と会談 | (yaeyama-nippo.co.jp)

行っても行かなくても、というか、行かないほうがナンボかマシな人物しか行かないようです。
外相就任前はヘビーリピーターだった林氏など、就任以来行きたくてたまらなかったのに、拘留事件が起きて晴れて行けてよかったですね。
このご両人、おかしなことを中国で口走らないように。

いうまでもありませんが、この拘留社員がなにかスパイ活動をしたから捕まったわけではありません。
中国は、不快感を表明するために相手国の民間人を拘束するという伝統があります。
ですから、アステラス社員が実際にスパイ活動を行ったかどうかなどということを調べても、なんの意味もありません。
中国公安当局が、逮捕しようと考えれば、ありとあらゆる行動がスパイ活動と結びつけられます。
たとえば、アステラス社の社員が中国の同業者と情報交換したりすれば、それは即スパイ行為と見なされます。

内容は問題になりません。同業者なら誰でも知っているていどのことでも話題になれば、それは機密情報を漏らすことを依頼したと見なされます。
つまり普通の営業活動ですら危険なのです。

また、中国に友好的かどうかも問題になりません。
むしろ友好派のほうが標的になりやすいかもしれません

今回のアステラス社の幹部も、バリバリの日中友好派でした。
2016年に逮捕された日中友好団体の幹部は社民党系の人物で、731部隊の事跡を調査したり、1997年から北京外語大学教授、中国社会科学院中日関係研究センター客員研究員などの中国の教育・研究職に、足かけ6年就いていたそうで、生活も含めて半ば中国化していました。
中国からすれば覚えめでたい人物だったはずです。
しかし帰国してから衆院の調査局で中国研究をしていたことが、スパイとされた原因のようです。

中国当局は、このように用済みとなった友好人士を利用して、日本人に対してのネガティブイメージを流布するために使います。

「なんとういことか。日本のスパイが中日友好交流団体にひそんでいたのか? 少なからぬネットユーザーは驚き、心ふさいだ。あんなに言っていた友好はどこにいったのだ?」
「そんなに驚くことではない。“中国通”を騙る日本のスパイというのは以前から中国に浸透しているのだ」
(新京報紙)

とまぁ、友好人士のほうが危ないようですので、沖縄県知事におかれましては、お気をつけください。

また民間企業の友好商社筆頭の伊藤忠商事は、2018年の2月に広東省の広州で、中堅社員がスパイ容疑で逮捕されています。
この社員は駐在員ではなく、日本の本社で中国関連の仕事を手掛けていたが、家族で中国に旅行した際に身柄を押さえられています。
拘束されてからメディアが報じるまで1年かかっており、その間政府は動いていません。
いやむしろ伊藤忠のほうが、政府が動くと国家間トラブルとなって、チャイナビジネスに支障がでると判断して断ったようです。
伊藤忠は水面下のパイプを使って(当然大枚のカネも渡したのでしょうが)、中国側に早期解放を求めたようですが、その甲斐なく翌年2019年に「中国の安全に危害を与えた罪」で懲役3年の実刑判決が下されて下獄しています。

逆に政府の早い保護によって早期に奪還された例としては、2019年9月に拘留された岩谷將(のぶ)北海道大学法学研究科教授のケースがあります。

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岩谷氏は、中国社会科学院の招きで訪中したにもかかわらず、「中国の国家秘密に関わる資料」を入手したとして拘束されるという、招いておいて捕まえるというメチャクャな話です。
こんなことで逮捕できなるなら、研究者などやっていけません。
この時は、およそ1カ月後に日本でも拘留の事実が分かり、日本の中国研究者が一斉に懸念を表明したために、政府が動きました。
同年11月には、安倍氏自らタイで行われた東アジアサミットで李克強首相に懸念と憂慮を直接伝え、岩谷氏はそれからほどなくして、異例の短期間で解放されました。

このように日本人駐在員を拘束するのは、彼らの外交では常套手段です。
相手国の国民を拘束し、その解放を武器に使うという人質外交です。

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(社説)インド太平洋 中国とも共存の道探れ:朝日新聞デジタル (asahi.com)

今回は、岸田氏が中国が日本最大の安全脅威であるという認識を示し、防衛3文書の改訂をなし遂げ、国防費倍増を行い、日本の安全保障政策の大転換を果たしました。

そしてさらには米国との同盟関係強化にとどまらず、1月にはスナーク英首相と二国間防衛安全協力を定めた互恵准入協定に調印し、日本の自衛隊と英国軍の合同演習を推進し、部隊の往来をスムーズにすることを推進しました。
これにより、英軍の日本駐留が可能となり、共同の防衛構築の法的根拠ができました。
さらに、英国は日本と共同で、シンガポールを拠点として太平洋-インド洋の安定を図ろることを提案するでしょう。

一方中国に対しては、岸田氏は元駐日本大使の孔鉉佑が2月末に駐日本大使を離任する際の面会を拒絶しました。
岸田氏としては、通常大使の帰任はカウンターパートの外相に挨拶することで済ましてきたので、意識的に拒絶したつもりはなかったのかもしれません。
しかし、これが中国では大きく取り上げられたようです。

これ対しての中国の不快感の意思表示がこれです。
ですから、友好人士だろうと、中国に警戒感を持っていようといまいと、中国有力者とパイプを持っていようとなかろうと、カネを密かに握らせようとしまいと、さらには中国の反スパイ法に抵触していようといまいと、中国当局がこいつは捕まえると決めればたちどころに逮捕拘留可能な人治の国なのです。

などと書いていたら、今度はロシアがウォールストリートジャーナルの支局員を逮捕しました。
ワグネルのことを探っていたようです。

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FNN

「ロシアで、アメリカ人記者がスパイ容疑で逮捕された。
ウォールストリート・ジャーナル紙モスクワ支局のアメリカ人記者、エバン・ゲルシコビッチ氏は29日、中部エカテリンブルクで「軍事企業に関する国家機密を情報収集しようとした」として拘束された。
モスクワ裁判所は30日、逮捕を認めていて、今後、最長で禁錮20年が科される可能性がある」
(FNN3月31日)
ロシア スパイ容疑で米国人記者逮捕 最長で禁錮20年か(FNNプライムオンライン(フジテレビ系)) - Yahoo!ニュース

恣意的に外国人を逮捕して人質にできる国。
一方、スパイ防止法もなく、元国家公務員だった野党議員が国家機密を持ち出して大臣の首を獲ろうと仕掛けるセキュリティクリアランスがユルユルなわが国。
あまりの落差に目がくらむほどです。




 

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