原発回帰に進むヨーロッパ
ヨーロッパで新たな原発が稼働しました。
え、ドイツのように撤退がトレンドだろうって、いえいえ反対です。
世界の原発は再び増加の流れが始まっています。
英国のワールド・ニュークリアー・アソシエーション(世界原子力教会)」によると、世界で現在約60基の原子炉が開発されており、原子力発電は増加傾向にある。新規建設を多く進めるのは、中国やインド、韓国などのアジアの国やロシアなどです。
脱原発派の東京新聞は「「福島の例から、重大事故の可能性を否定できないのは誰もが理解している。それでも原発建設を続ける国があるのは残念だ」という環境NGOの声をつけてこう報じています。
「国際原子力機関(IAEA)によると、今年1月にインドで1基が送電を開始し、世界の原発は443基になった。福島事故前の2011年1月時点から2基増えた計算となる」
(東京2021年3月11日)
福島事故から10年 世界の原発は微増:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
象徴的な例はフィンランドです。
フィンランドは、ウクライナ戦争を経てロシアから電気を供給されていることの恐ろしさを身に沁みて理解し、10年間工事が難航していたオルキルオト原発の完成を急ぎました。
当初は2013年に稼働の予定で、建設は2005年に始まりましたが、安全性を高めたEPRの特徴とされる「二重封じ込め構造」の構築等にも時間がかかり、当初の稼働予定から10年遅れ、建設から18年かかっての稼働でした。
なお、この原発は160万キロワットで、世界最大級です。
皮肉にも、示し合わせたわけではないのでしょうが、稼働開始がドイツの原発ゼロと重なり、ヨーロッパの選択が二通り出たことになりました。
「フィンランド南西部のオルキルオト原発で16日、欧州最大級となる3号機(出力160万キロワット)が本格稼働した。原発の運営会社が発表した。ロシアのウクライナ侵攻の影響でロシアからの電力やガスの供給が停止する中、エネルギー供給の安定化と価格高騰への対策となることが期待される。国際原子力機関(IAEA)によると、フィンランドで新たに原発が本格稼働するのは40年以上ぶり。
原発稼働を巡りドイツが事故リスクや放射性廃棄物問題を重視して原発利用を終了したのに対し、英国やスウェーデンでは新たな建設計画が進んでいる」
(産経2023年4月16日)
欧州最大級原発が新たに稼働 フィンランドで40年ぶり - 産経ニュース (sankei.com)
ヨーロッパにとってウクライナ侵攻の影響は、安全保障だけではなく、エネルギー政策にまで及びました。
安全保障面では、ご承知のように北欧は一斉にいままで不変だと信じられてきた中立政策を捨ててNATO加盟申請に走り、フィンランドはつい先日承認が降りたばかりです。
エネルギー面でも傷跡は大きく、ロシアは昨年5月にフィンランドへの電力供給を停止するという蛮行をしでかしました。
やむをえずフィンランドは、急遽スウェーデンやノルウェーから電力を輸入して凌ぎました。
このようにロシアがエネルギーや食料を戦争外交の具にした結果、フィンランドではエネルギーの安定供給のために原発回帰せざるをえなかったのです。
いわばロシアが原発回帰へ押しやったのです。
オルキルオト原発の新型路1基だけで国内の全電力の14%をカバーし、同発電所の旧型の2つの原子炉と合わせれば約30%の電力を発電します。
同じくスウエーデンにおいても新たな原発建設計画が始まっています。
「スウェーデン政府は1月11日、原子力に関する改正法案を提案
した。政府は、既に原子力発電所がある場所以外での原子炉の建設を禁止するという環境法の規定のほか、運転中の原子炉の数を10基までに制限する規定も削除することを提案した。
現在、同国にはフォルスマルク、オスカルスハムン、リンハルスの3カ所に6基の原子炉がある。本提案は今後3カ月間、意見公募を行い、2024年3月に法案を施行する予定。
ウルフ・クリステション首相は会見で、産業および運輸の電化や脱化石燃料への移行が進む中、国全体でさらなるクリーンな電力が必要で、あらゆる種類の非化石エネルギーが必要だと述べた。さらに、より多くの場所に、より多くの原子力発電所を建設することを可能にしたいという意向も示した5
(JETRO2023年1月18日)
スウェーデン、原子力発電所建設に向けた法改正を提案、家庭向け電力補助金も発表(スウェーデン) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ (jetro.go.jp)
スウエーデンがどの形式になるか未定ですが、フィンランドの新原発は運営会社のTVOによると、第3世代の欧州加圧水型原子炉(EPR)です。
「EPRは「3.5世代」(または「第3世代プラス」)と呼ばれる原子炉。1990年代以降に設計され、事故で電源が失われても自動的に原子炉が停止する「受動的安全設備」を備えているのが特徴だ。
アレバの前身である旧仏フラマトムと旧独シーメンス原子力部門が「第3世代」の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)や改良型加圧水型軽水炉(APWR)などに続く次世代型として世界の原子力メーカーのトップを切り、80年代末に共同で開発に着手した」
(日経2015年1月26日)
安全な原発は夢か 仏アレバの新型炉建設が難航 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
この3.5世代のEPR炉の特徴は、ステーションブラックアウトとなった場合、自動的にスクラムされて停止すること、仮に炉心(コア)が融解して落下してもコアキャッチャーがあって格納容器から外に漏らしません。
また外部からの攻撃に対しても極めて強靱で、格納容器へ航空機が直撃しても耐えられます。
160万キロワット級という大出力を持ち、きわめて高い経済性を持っています。
作ったのはフランスのアレバ社です。
●EPRの特徴
・頑丈な原子炉格納容器・ 大型旅客機の衝突に耐える二重構造の格納容器
・安全上重要な設備の多重性・ 独立4系統
・コアキャッチャー・ 原子炉圧力容器外に流出した溶融核燃料を格納容器内に留める。
・格納容器熱除去設備・コアキャッチャーを水で循環冷却する機能と、原子炉を水棺に出来る機能を併せ持ち、溶融炉心を長期間 却可能。
「一方で安全性も飛躍的な向上を目指した。事故で炉心溶融(メルトダウン)が起きても溶け落ちた核燃料は「コアキャッチャー」と呼ばれる巨大な受け皿に流れ込む仕組み。その上部にある貯水タンクは高温になると蓋(ふた)が自動的に溶けて弁が開き、その結果コアキャッチャーを水が満たして溶け落ちた燃料(デブリ)を冷やす機能がある。
また、EPRが備える4基の主ディーゼル発電機と2基の副発電機はいずれも原子炉の向かい側に設けられた高気密防水機能が施された別の建屋に収納され、電源並びに原子炉冷却機能の喪失を回避する狙い。これらの装備は79年に米ペンシルベニア州のスリーマイル島原発で起きた原子炉冷却材喪失事故を教訓に考案されたものだ」
(日経2015年1月15日)
安全な原発は夢か 仏アレバの新型炉建設が難航 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
フランス誌「クーリエ」は、やや皮肉っぽくこのように述べています。
「4月15日、ドイツでは唯一稼働していた3基の原子力発電所の電源が停止され、脱原発が完了した。しかし、独誌「シュピーゲル」によると、エネルギー危機の最中に原発を廃止するというドイツの決断は、世界の流れに反している。(略)
また、スウェーデンは、かつて2010年までの原発の廃止を決議したものの、すでに方向を転換させていると、独メディア「ターゲスシャウ」は報じる。現在スウェーデンの電力の30%が原子力から発電されているが、現政権はこれを2030年までに50%に増加させようとしている。
ドイツの隣国ポーランドも、エネルギー危機を受け、もともと1基しか稼働していなかった原発を一気に増設すると決めた。米ウェスチングハウスの原子炉3基の建設を2026年に始め、2040年代半ばまでに合計6基の原子炉を設置する予定だ」
(クーリエ・ジャポン2023年4月19日)
本当に原発は「絶対悪」なのか? ヨーロッパで今議論されていること(クーリエ・ジャポン) - Yahoo!ニュース
ヨーロッパでは脱原発の流れは、このドイツの全原発停止で一端終了するでしょう。
ヨーロッパにおいてもドイツに続く国はないようです。
そしてそれに代わって、次世代炉への置き換えが急速に進むと考えられています。
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これで油はまた安くなりますかね?
投稿: 通りすがりの関西人 | 2023年4月21日 (金) 05時59分
かつて太陽光と風力発電で盛んに「ドイツを見倣え」と言っていた元経産官僚の古賀茂明さんは全くブレませんな。つくづく「ドイツが成功している、素晴らしい」という前提が何を言われても脳内で固定されていてアップデートしない人だなあと。
今回の原発停止についても日本の経産省と政権は全く逆のことばかりやってる。岸田よりも道筋をつけた「安倍が悪い!」ですと。もう観念化していて目も当てられませんね、痛々しい。。
投稿: 山形 | 2023年4月21日 (金) 06時12分
私はけっこう陰謀論も好きなんで、地球温暖化やエネルギー危機についても、実はエリート(似非)リベラルさん達の思惑が強く反映されていると推測してますわ。以下は根も葉もないタワゴトです。
人工的なCO2排出量増加が原因かはともかく、地球は温暖化のサイクルに入ったのは事実みたいで、札幌が東京の気候のようになったという縄文時代の再現もあるのかも知れず、そうなれば80億人を超えてきた現世界人口とそのより発展しようとする経済活動の影響は、確かに環境に対する脅威ですわ。人間が多すぎる。
昨日のイーロンマスクさん率いる火星移住を目指すというスペースX社の世界最大級のロケット発射実験は、大爆発して成功しました(いつものように、貴重な多くのデータが取れたんで成功!と本人がそう言ってる)が、火星移住なんてまだまだ先ですわ。大金持ちのエリート(似非)リベラルさん達といえど、この地球からは脱出できないのです。その意味で原発事故での大量放射能流出など、彼らにとってはカネで解決できない頭のイタイ大問題ですわ。
そこで彼らが言い出したのが、脱炭素・脱原子力です。カネ持ちなんで電気代が10倍になったって構やしません。カネで安全と安心を買えるなら安いもんですわ。それで、緑の党など環境至上主義の団体に巨額の支援をしている(たぶん)んですわ。追随している貧乏な(似非)リベラルさん達は基本アタマが悪いので感情と雰囲気だけで騒いでいるだけですが、民主主義国では一票を持ちますからバカにできません。エリート(似非)リベラルさん達も、彼らの利用のしがいがあろうというもんですわ。
そして、脱炭素・脱原子力によるエネルギー危機での世界的な経済大停滞というのは、私など貧乏人には死活問題にさえなるのですが、世界的な人口増問題(100億人を超えていくらしい)という見地からは、食えなくて貧乏人が増えない(これから人口が増えるのは、少子高齢化の先進国ではなくて、インド・中東・アフリカなど途上国)という、地球環境的には好都合なんですわ。
オソロシイ人達もいたもんです。
投稿: アホンダラ1号 | 2023年4月21日 (金) 22時17分
反原発運動の旗手(爆笑)、広瀬某はこの件について未だ何のコメントも出してませんな。まあ彼が関心のあるのはあくまで日本国内の原発だけなんでしょう。
何処からか「日本の国力を削ぐために世論が原発を否定するように仕向けろ」と言うお達しでもあったんでしょうか。
投稿: KOBA | 2023年4月22日 (土) 13時19分