とうとうやっちまったドイツ脱原発
昨日の記事のコメント欄を間違って閉めてしまいました。
すいません。今は開けててあります。
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とうとうやっちまった、って感じですかね。
ドイツが原発ゼロを本当にやってしまいました。
AP
「国内すべての原子力発電所の停止を目指してきたドイツでは、15日、稼働していた最後の3基の原発が送電網から切り離され「脱原発」が実現しました。今後、再生可能エネルギーを柱に電力の安定供給を続けられるかなどが課題となります。
ドイツは2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて当時のメルケル政権が「脱原発」の方針を打ち出し、17基の原発を段階的に停止してきました。
「脱原発」の期限は去年末まででしたが、ウクライナに侵攻したロシアがドイツへの天然ガスの供給を大幅に削減したことで、エネルギー危機への懸念が強まり政府は稼働が続いていた最後の3基の原発について停止させる期限を4月15日まで延期していました」
(NHK2023年4月16日)
ドイツで「脱原発」が実現 稼働していた最後の原発3基が停止 | NHK | ドイツ
実は外から見るのと違って、ドイツの脱原発は簡単ではありませんでした。
最大の理由は、ドイツが世界一高い電気料金に襲われていたからです。
ソーラージャーナルという再エネの専門サイトによれば、このような状況です。
脱炭素に足踏みするドイツの苦悩 part2|SOLAR JOURNAL
上のグラフは天然ガスのスポット価格の推移です。
昨年の秋からウクライナ戦争による影響で急激に上昇し、12月26日には、年初の10倍を超える値を付けています。10倍ですからハンパない。
これは世界共通の動向で、わが国も同様です。
当然この天然ガスの天井知らずの高騰は、欧州の電力卸売市場を直撃しました。
下図は、各国の2021年の年間のスポット市場の平均値です。
同上
ドイツは、1kWhあたり9.7ユーロセント(ユーロ/MWh・12.6円)であり、2020年の平均の3ユーロセント(3.9円)から実に3倍超に及ぶ高騰です。
ブルームバーク
この電気代高騰は企業経営を圧迫し、企業物価を引き上げました。
「ドイツの電気・ガス価格はわずか2カ月で2倍余りに上昇。欧州の指標である1年先の電力価格はメガワット時当たり540ユーロ(約7万4000円)を超えた。2年前の同価格は40ユーロに過ぎなかった。
自動車や航空宇宙、家電業界向けにシリコーン部品を製造するBIWイゾリアーシュトッフェのラルフ・シュトッフェルズ最高経営責任者(CEO)は、「ドイツのエネルギーインフレは、他のどこよりもはるかに急激だ」と指摘。「ドイツ経済で段階的に脱工業化が進むのではないかと懸念している」と述べた。 」
(ブルームバーク2022年8月19日)
ドイツで製造業が大脱出のリスク、エネルギー価格高騰で悲鳴 - Bloomberg
下のグラフは、欧州27ヶ国のこの10年間の化石燃料発電の発電量推移です。
ソーラージャーナル
左から、化石燃料全体、2番目(黒)が石炭、3番目(黄)がガスによる発電量
黒色の石炭火力は、一昨年まで「脱炭素」で大きく減っています。
これを再エネ発電がカバーできていれば、市場の混乱は起きなかったでしょうが、再エネはそう都合よく増えないのです。
国策として再エネに集中したドイツですら3割台、テンマーク、スウエーデンが特出して高いのは水力発電を再エネとしてカウントしているからです。
ちなみに日本は水力をなぜか再エネとは認めておらず、民主党政権は脱ダム政策で建設を中止させました。
「現在ドイツには220万枚の太陽光パネル(2022年5月)と、陸海合わせて3万基近い風車があるが、これのみでは国内の電力需要は満たせない。その理由は、太陽光パネルや風車が足りないせいではなく、太陽はどんな晴天の日でも夜は照らず、また、風は北ドイツの海岸沿いや海上を除けばそれほど定期的には吹かないからだ。特に、南ドイツにある風車の常態とは、静止状態だといわれている」
(川口マーン恵美 アゴラ2023年4月12日 )
緑の党のドイツ版「大躍進」政策 | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)
120.EUの再生可能エネルギー市場統合戦略-「優遇」から「市場統合」へ-道満治彦 | ユーラシア研究所 レポートサイト (yuken-jp.com)
特にドイツでは洋上風力発電の不振がめだっており、停電を避けるために自国産の褐炭を使った石炭火力発電を多用した結果、ドイツ全体としてのCO2排出量を増やし、脱炭素に逆行してしまいました。
つまり脱炭素というお題目と、脱原発が矛盾し合うものだということを現実が証明してしまったのです。
脱炭素を至上命題に位置付けているなら、今、なぜCO2を排出しない原発を止めるのか理解できません。
原発を停止すれば、その代替は石炭か褐炭、あるいは天然ガスしかなく、そのぶん確実ににCO2は増えるのは、小学生でもわかることです。
これら化石燃料でもっともCO2排出量が少ないのは天然ガスですが、それはベッタリとロシアに依存していました。
脱原発を始めたメルケルは、ロシアとドイツを結ぶノルドストリームがあるから脱原発に踏み切れたのです。
ところがウクライナ戦争によって天然ガスの価格は高騰していますから、原発を速やかに元通り再稼働するしかテはないのは明らかです。
それでも緑の党のハーベック経済・気候保護相は脱原発を強行するというのですから、なんともかとも。
緑の党のような観念のお化けに経済・気候保護大臣をやらせているから、こうなるのです。
BBC
緑の党の結党理由は、一に反原発、ニに反核、三に反戦でした。
しかし彼らは国政に参与するに従って、現実に適応せねばなりませんでした。
緑の党は社民党と連立して政権党となると、起きたのがウクライナ戦争でした。
彼らはむしろウクライナ支援に積極的で、軍事支援の移転にも躊躇しなかったことが世間を驚かせました。
また核についても、核兵器で脅迫するロシアと対峙している状況での非核などナンセンスだと分かったはずです。
したがって、緑の党に残されたアイデンティティは、唯一結党当時の反原発だけになってしまったのです。
緑の党が反原発ゼロに固執したために起きた電気代高騰は、企業経営を圧迫しました。
「ドイツの電気・ガス価格はわずか2カ月で2倍余りに上昇。欧州の指標である1年先の電力価格はメガワット時当たり540ユーロ(約7万4000円)を超えた。2年前の同価格は40ユーロに過ぎなかった。
自動車や航空宇宙、家電業界向けにシリコーン部品を製造するBIWイゾリアーシュトッフェのラルフ・シュトッフェルズ最高経営責任者(CEO)は、「ドイツのエネルギーインフレは、他のどこよりもはるかに急激だ」と指摘。「ドイツ経済で段階的に脱工業化が進むのではないかと懸念している」と述べた。 」
(ブルームバーク2022年8月19日)
ドイツで製造業が大脱出のリスク、エネルギー価格高騰で悲鳴 - Bloomberg
企業はドイツの高いエネルギーコストを嫌って、ドイツ国外に逃避し始めました。
「ドイツ政府は家計に対する値上がりをある程度抑えているものの、企業に保護はなく、多くはコスト上昇を顧客に転嫁するか、操業を止めることになる見通しだ。(略)
産業分野でのドイツの地位低下を示す証拠は見られ始めている。オックスフォード・エコノミクスが分析した政府データによると、今年1-6月の同国の化学品輸入量は前年同期比で約27%増加。一方で6月の化学品生産は昨年12月に比べおよそ8%減少した 」
(ブルームバーク前掲)
また、このような声も企業から上がっています。
NHK
「このうち南部バーデン・ビュルテンベルク州に本社がある車のエンジンなどに使う部品を製造する企業は、鉄などの加工に欠かせないガスと電気の料金が去年、前の年と比べおよそ50%値上がりしたということです。
シュテファン・ウォルフ社長は「残っている3基の原発を止めるとエネルギー価格が上昇すると思う。二酸化炭素の排出がゼロで、いまも利用できる原発を止めるのは大きな間違いだ」と話し、反対の立場を示しています。
そして「ドイツ政府がエネルギー価格を下げることができなければ多くの企業が生産拠点をよりエネルギー価格が安い国へ移してしまう」と強調しました」
(NHK前掲)
間違いなく、この緑の党がゴリ押しした原発ゼロ政策によって、インフレが亢進し、企業は国外へと逃避するはずです。
政権内でも、何が何でも原発は止めたい緑の党と、電力安定のために数年は稼働延長すべきという自民党(FDP)との対立で、予定だった去年12月中の停止ができなくなり、結局緑の党に屈したショルツ首相(社民党・SPD)の無責任な「鶴の一声」で3カ月半間延びて、今全原発停止に踏み切ったようです。
ただこれでオシマイではないと、川口マーン恵美氏は述べています。
「ただ、その秒読み段階に入った今、自民党は再び稼働延長の声を上げ始め、それどころかアンケートによれば、国民の半分以上が、今、原発を停止することは誤りであると考えているらしい。
しかし、時すでに遅し。新しい核燃料棒は今日注文して明日来るわけではなく、しかも、これまではそれもロシアから買っていた。だから今さら、「やはり延長しましょう」とはいかず、ドイツは4月15日、原発の歴史に(一応?)終わりを告げ、今後は2045年の脱炭素に向かって一直線に突き進むことになる。「惑星を救済するため」の政府の遠大な目標である」
(アゴラ同上)
他国のことながら、なんという愚かしさなのか、ひたすら呆れるばかりです。
BBCは、このようなドイツ国民の声を伝えています。
BBC
「有権者の意見は割れている。今週行われた世論調査では、回答者の59%が原発閉鎖に反対しており、賛成は34%にとどまった。原発支持は、年齢層の高い有権者や保守層に特に多かった。
しかし、より詳細な質問では微妙な違いが見えてくる。調査会社ユーガヴの調査によると、最後の3原発を当面の間、運転させておくことに賛成した人は65%だったが、ドイツが恒久的に原発を持つことに賛成したのはわずか33%だった。つまり、いつかはコンセントを抜くが、今ではないということだ」
(BBC4月19日)
【解説】 ドイツが脱原発を実現 国民の意見は今も割れている - BBCニュース
まさに、今ではありません。
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もっとアホらしいのがこの廃炉を推進する切掛けとなったのが福島原発の事故だそうで、事故原因の検証もロクにせずにパニック状態をロシア産天然ガスへの移行を推進したい勢力にまんまと利用された感じです。
日本ほど地震も起きない&津波の心配もない欧州で同じリスクがあるとは到底思えないと判断する冷静さは無いのでしょうか?
昨年の天然ガス高騰のあおりで「原子力はクリーンエネルギー」だと言い始めたあたりも欧州の迷走ぶりがよくわかります。
ドイツは環境問題を政治問題にすげ替えた欺瞞のツケを今後も払わされるのでしょうが、その苦しさから中露におもねる頭の悪い選択をしてしまう可能性がとても高いのが頭の痛い所です。
投稿: しゅりんちゅ | 2023年4月19日 (水) 10時00分
ドイツってナチスやヒトラーを支持してた過去から何も学んでないですね。一時の感情に任せて事を起こすとどうなるかって、深く考える事も無しに脱原発って、古くは半世紀前のオイルショックから現在のウクライナ戦争に至るまで、エネルギー事情は国際情勢によって左右される極めて不安定な代物だと言う現実から逃げ回っていたとしか思えません。
ニュースで脱原発が達成されたと運動家が万歳してましたが、彼らは送り付けられた電気料金の請求書を見ても動じないのでしょうか。
投稿: KOBA | 2023年4月19日 (水) 10時07分
なるほど、それでドイツは…
・不安定な「再生可能エネルギー」による発電が余った時にそれを輸出する
・不安定な「再生可能エネルギー」による発電で足りない時はフランスから電力を高額で輸入する
・結果、ドイツ国民が支払う電気料金はフランス国民や輸出先のオランダ国民が支払う額の2倍
なんてことになっているのですね。
電力が沢山あるはずなのに料金がバカ高く安定もせず経済効率も劣る、どうしてそうなるのか?それはどう良くてどう良くないことなのか?を、せめて我々日本国民は考えたいです。
投稿: 宜野湾より | 2023年4月19日 (水) 12時05分
どれもメルケル時代の尻拭いですね。
で、特に過激な環境派「緑の党」が政権に食い込んでますから···もうやれることは原発停止くらいしか無い原理主義ですから。
いいねえ、自分のトコで風車がガンガン回れば輸出できて、足りなければ川向かいのフランス原発から輸入できるというネットワーク。
日本でも福島事故以後に取り入れたFITという無責任な施策に、ようやく自然エネルギー発電でからの「誰がやるんだよ」の送電部分の整備に七兆円ほどかかるとの真面目な計算がやっと出ました。
で、そのお金はどこからでるんですか?と。
投稿: 山形 | 2023年4月19日 (水) 14時16分
たしかもっと前の別の川口さんの記事で、
技術者の解雇や廃止に向けた削減計画がもう進んでいて、廃炉延長の声が出たとしても、
そんなキワキワでもうちょっと動かしてよとか何それだと原発側も応じない。
というお話もあったと記憶しています。
原子力を汚物のように嫌い「いずれ無くすけど今は必要悪」と無理推しで押し付けながらそれでも忌み嫌う。で、お金かかるから怒ってるんですよ彼ら根っからケチだし。
日本の自衛隊への共産党の姿勢となんだか似てますね。
ただ、ドイツの産業沈下はEUの屋台骨がぐらぐらする案件で、欧州内のどこかに工場が移ったとしてやっぱり品質や生産性が落ちるわけで、全体がダウンするのは困ります。
ウダウダ揉めながらも持ち堪えて、あの地域を安定に保つ責任を独仏が果たすことを望みます。
海の向こうでザマーと思ってられないくらい、日本にスタンスが近いグループでもありますので。
投稿: ふゆみ | 2023年4月19日 (水) 18時16分
こう言っちゃナンですがドイツは商売ガタキなんで、環境フェチゆえに自滅して行くのは日本から見れば二重の意味で有難いことですわ。一つはドイツ企業の競争力が削がれて日本企業が優位に立てること、もう一つは環境フェチに自己陶酔してるとケツに火が点いて大ヤケドすることになるという先行事例を高見から見物できるということですわ。
国内の環境フェチさん達は、昔から何かにつけて「欧米では、特にドイツは先進的だ、ドイツはスゴイ、そのドイツを見習えと言っている私はもっとスゴイ」と仰っていたので、今回のドイツ原発ゼロ実現がどのような結末を迎えるのかを想像すると、彼らの申し開きを聞くのが今から楽しみですわ。
「環境が何よりも大事だ」という主張は、それはそれで個人の自由なので好きにしたらいいのですが、他人にも同じように違う自由があることを認めて、他人を自分達の夢や理想の追及に巻き込まないで欲しいもんですわ。少なくとも自分ん家のバカ高い電気代に対して、「政府がワルイ、企業努力が足らない、皆もっと省エネに努めろ」とか言わないで、黙ってニッコリ笑って支払って欲しいもんですわ。
投稿: アホンダラ1号 | 2023年4月19日 (水) 22時48分