米韓「ワシントン宣言」の意味を読み解く
GW休みのお知らせ
今年は人並みにGW休みを頂戴いたします。
期間は来週5月1日月曜から5月3日水曜日までの3日間です。
木曜日からは平常の更新となりますので、ご了承ください。
少し驚きました。
ユン・ソンニョル韓国大統領が、米国から核配備について前向きとも思える対応を引き出しました。
読売
「米国のバイデン大統領と韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は26日午前、ワシントンのホワイトハウスで会談した。両首脳は会談後、核抑止力の強化に向けた新たな協議体の創設を柱とした文書「ワシントン宣言」を発表する。
米韓両政府の高官によると、協議体は「米韓核協議グループ」(NCG)という名称で定例化する。核・ミサイル開発を進める北朝鮮をにらんだ米軍の核戦略について、韓国に「発言権を与える」(米高官)ものになるという。
北大西洋条約機構(NATO)に核抑止についての閣僚レベルの協議体「核計画グループ」があり、米韓の協議体のモデルになる。韓国では米国の「核の傘」を含む拡大抑止が実際に機能するのかどうか不安視する声があり、これを払拭(ふっしょく)する狙いがある」
(読売4月26日)
米韓首脳が「ワシントン宣言」発表へ…NATOモデルに核抑止の協議体創設(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース 。
ここでユンとバイデンが取り交わしたワシントン宣言について、原文をあたっておきましょう。
報道だけでは、米韓が「核抑止力の強化に向けた新たな協議体の創設」とだけしか書いてありませんが、果たしてそれだけなのでしょうか。
ホワイトハウスから「ワシントン宣言」の原文が公開されています。
ワシントン宣言 |ホワイトハウス (whitehouse.gov)
「日米同盟にとって歴史的な年を記念して、バイデン大統領と尹大統領は、これまで以上に強固な相互防衛関係を発展させることを約束し、米韓相互防衛条約の下での共同防衛態勢へのコミットメントを可能な限り強い言葉で確認した。米国と韓国はインド太平洋の平和と安定にコミットしており、両国が共にとる措置は、その基本的な目標を推進するものである」
「ワシントン宣言」の大前提は日米同盟なのですよ。
米国は「日米同盟の歴史的な年を記念して」とわざわざ断った上で、日米同盟の枠内で米韓安保を強化し、ユンのかねてからの持論であった核の共有について一歩踏み込んだ答えを出しています。
逆に言えば、日米安保から離れた独自核武装など絶対に許さない、ということです。
わかりますか、韓国さん、日米同盟あっての米韓同盟なんですからね。
だからGSOMIAを韓国の側から廃棄するなんて、考えられもしない暴挙だったのです。
「韓国は、米国の拡大抑止力に全幅の信頼を寄せており、米国の核抑止力に永続的に依存することの重要性、必要性、利益を認識している。米国は、米国の核態勢見直しの宣言的方針に沿って、朝鮮半島における核兵器の使用の可能性について韓国と協議するためにあらゆる努力をすることを約束し、同盟はこれらの協議を促進するために強固な通信インフラを維持する。
尹大統領は,世界的な不拡散体制の礎石としての核不拡散条約に基づく義務及び原子力の平和的利用に関する協力に関する米韓協定に対する韓国の長年のコミットメントを再確認した」
(ワシントン宣言前掲)
なるほど、おもしろい。
ともすれば米国の拡大抑止から離れて離米するる傾向のある韓国に対して、核不拡散条約(NPT)の義務を忘れるなと釘を刺した上で、米韓の核について緊密な連絡を取り合おう、というのが米国の回答です。
もちろん「NPTの義務 」と断ったのは、勝手に独自核武装なんかすんじゃねぇぞ、という意味です。
そして今回作ると言っている「核兵器使用のための協議体」(Nuclear Consultative Group NCG) は、誰に対して作るのでしょうか。
共同記者会見でそれについて、はっきりと名指ししています。
直接的には北朝鮮、そしてその背後にいる中国です。
これについては、共同記者会見で明示しています。
「米国のバイデン大統領は26日午後(日本時間27日未明)、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との共同記者会見に臨んだ。北朝鮮が核を使えば「いかなる政権でも終焉につながる」と話した。両氏は核抑止の強化に向けた新たな協議体の創設を発表した。
両氏はホワイトハウスで開いた首脳会談の成果を説明した。バイデン氏は「北朝鮮による米国や同盟国、パートナーへの核攻撃は容認できない」と強調した。「米韓相互防衛条約は鉄壁だ。拡大抑止への責務と核抑止力を含む」と話した。
会談で拡大抑止の強化に関する「ワシントン宣言」を採択した。協議体の新設方針などを盛り込んだ。
(日経4月27日)
米韓、核抑止へ協議体創設 「核使用なら北朝鮮は終焉」 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
米韓首脳の共同記者会見 | 時事通信ニュース (jiji.com)
表現も、トランプ並に、北朝鮮が核を使えば「いかなる政権でも終焉につながる」という強い表現となっています。
核戦略で「その国の終焉」と言ったなら、これは核報復を意味するのはいうまでもありません。
ユンにとって、ほぼ満額回答じゃないかな。
ユンは大統領候補だった時代から、こう言っていました。
「ユン元総長は、前日に外交安保分野の公約のひとつとして「北朝鮮の核の脅威に対処するために、韓米拡大抑止を強化する」とした。韓米間の大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機など、米国の核兵器戦略資産展開協議の手続きを設け、定例的に核兵器の運用訓練など、北朝鮮の核・ミサイルの能力を抑制するための韓米共助の強化も約束した。
また、韓米拡大抑止の強化にもかかわらず、国民の安全が脅かされる場合には戦術核配置・核の共有などを米国に強く求めるとした」
(朝鮮BIZ 2021年9月23日)
(中, 윤석열 ‘전술핵 배치 요구’ 공약에 반발…“책임 있는 행동 아냐” (naver.com)
ここでユンが主張している「戦術核配置・核の共有 」とは核シェアリングのことで、米国に緊急時の核の持ち込みを要求したものです。
「韓米の核協議グループは、米国とNATO(北大西洋条約機構)の核企画グループ(NPG)とは異なり、戦術核の配備は排除している。北韓大学院大学のヤン・ムジン教授は「NATOより実効性があるだろうとする展望は、韓米2国間の議論の迅速さのみに重点を置いた分析」だとし「(核戦力の使用の)最終決定権が米国にある状況においては、実際に核の傘が作動するのかという疑問は依然として残っている」と評した」
(ハンギョレ4月28日)
韓国への戦略原潜の拡大配備…北東アジアの緊張、コスト負担の「高い請求書」(ハンギョレ新聞) - Yahoo!ニュース
ハンギョレさん、あたりまえです。
ヨーロッパの核シェアリングにしても決定権を持ってるのはあくまでも米国であることは韓国と同じです。
核シェアリングができたのも、冷戦当時に核戦争の危険性がきわめて高かった時期があるからで、米本土から輸送しては間に合わないから、ヨーッパに前進配備したのです。
当該国に核の発射ボタンを渡したら、危なくって仕方がないでしょうが。
勝手に核戦争などやられて全面核戦争に発展したら目も当てられませんからね。
だから、米国にしてやれることは核の協議体を作って韓国の認識とすり合わせを頻繁に行うことと、核ミサイルを搭載した戦略原潜をあえて目立つように韓国に寄港させるデモンストレーションていどのことなのです。
これが単なる示威だとわかるのは、通常米海軍は戦略原潜の位置情報は絶対に公開しないからです。
メディアは「韓国に戦略原潜派遣」などと言っていますが、常に朝鮮半島近海にいるわけじゃあるまいし、潜ってしまえばどこにいても同じことです。
バイデンがユンに花を持たせたのですよ。
〝最恐〟米軍兵器、韓国寄港へ 十数都市の破壊が可能「オハイオ」級原潜とは 位置情報明かすのは極めて異例 北朝鮮にとって脅威 - zakzak:夕刊フジ公式サイト
このユンの発言について中国は敏感に反応し、こう言っています。
「韓半島問題における中国の立場は一貫して明確である」とした。続いて「韓国の政治家が朝鮮半島の核問題を利用して言うことは、責任ある行動ではない」と述べた」
(朝鮮BIZ前掲)
ついで訪米前にユンが、台湾問題に対して「力による現状変更に反対」と至極くあたりまえことを言ったユンの発言についても、中国様はいたくお怒りのようです。
「(尹錫悦大統領の発言は)到底受け入れられない。厳重な憂慮と強烈な不満を提起する」
米中戦略競争の「最前線」である台湾問題について、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が19日のロイター通信とのインタビューで、「力による現状変更に反対する」、「(この問題は)北朝鮮問題のように地域の次元を越えた世界的な問題だ」と述べた発言に対し、中国は4日間にわたって強い反発を示している」
(ハンギョレ4月27日)
尹大統領に怒る中国…崩壊したバランス外交、訪米後に具体的対応 : 中国•台湾 : 日本•国際 : hankyoreh japan (hani.co.kr) 。
韓国の東京新聞のハンギョレは、この核と台湾をめぐるユンの発言について、中国様を怒らせてしまったぞ、これで韓国の中国様のレッドラインを超えてしまった、さぁたいへんだコウモリ外交はもうできないぞと悲鳴を上げています。
「尹政権のこのような動きがどこへ向かうかは明らかだ。冷戦解体からのこの30年あまりの間、韓国が享受してきた繁栄の土台となった「米中バランス外交」の廃棄と「韓米日3カ国同盟」による中国封鎖だ」
(ハンギョレ前掲)
ハンギョレによれば、これはユン政権の「米中バランス外交の廃棄と韓米日3カ国同盟による中国封鎖 」ということのようですが、ならばけっこうなことで、言い換えればムン・ジェイン政権の外交方針の180度転換です。
ハンギョレなどの韓国左翼は深く勘違いしていますが、韓国が戦後繁栄したのは「米中バランス外交」で米中二股外交をしたからではありません。
むしろそれは「繁栄の土台」どころか、米国に深い失望を招き、米韓同盟の危機に繋がる悪手でした。
韓国が繁栄した真の理由は、ひとつには日韓基本条約による日本からの資金供与、第2に冷戦下において自由主義陣営の最前線として米国の強い軍事的庇護の下にあったこと、そして米国が主導した自由主義貿易によって中国を含む世界貿易で富を稼ぐことができたからです。
そして皮肉にも、韓国は南北分断によって「半島国家」から、大陸との間に北朝鮮を緩衝帯に置く「島国家」へと地政学的性格を変化させることができたのです。
それによって、永年の中国大陸からの圧力を回避でき、韓国は大陸に背を向け太平洋方向を見ることで準海洋国家に生まれ変わったともいえます。まことにメデタイことです。
これを不満として元の「半島国家」に戻そうと画策したのが、かのムン・ジェインでした。
この男については大量に書いていますから、過去ログをお読みください。
簡単にいえば、ムンは南北統一を果たして高麗連邦なるものをデッチ上げて、北の水中発射核ミサイルを韓国の戦略原潜に載せようという、中学生が親父の酒を盗み飲んで悪酔いしたような夢を描いていました。
もっとも正恩は相手にしなかったようですが。
朝日デジタル
もちろん統一朝鮮の核攻撃対象はわが国です。
米国はこの反日中坊の酔っぱらった夢を知っていましたから、ユンの核願望をかなえるような顔をしてNPTと日米安保の枠内に収めたのです。
とまれ、ユンはよくやっていると思います。
ただし誰しもがそう思うように、またムンのようなスットコドッコイが帰ってきたら元の木阿弥となるのは目に見えています。
なにぶんこの国は振り幅がひどすぎて、どこまで信用してよいのやらです。
議会は野党が優勢ですし、ユンの支持率も安定せず、ムン時代に任命された官僚層の動きも悪いと聞きます。
来年の議会選挙で与党が勝利したら、ほんものに近づくかもしれません。
なお、ホワイト国復帰を経産省は早々に認めたいようですが、韓国の言う通り輸出管理体制が強化されたのが事実だとしても、それが正しく運営されているかどうかを見極めるまでには時間がかかります。焦る必要はまったくありません。
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下部記事の解説は流石、感服します。冒頭の部分だけ、米韓同盟70年記念ですね。ひょっとして翻訳時のソースが誤字だったのかな。
投稿: ふゆみ | 2023年4月29日 (土) 08時27分
ふゆみさん。おっしゃるとおりです。
私が日米同盟とかいた部分
To commemorate this historic year for our Alliance,
は冒頭のこの部分を受けています。
President Joseph R. Biden of the United States of America and President Yoon Suk Yeol of the Republic of Korea (ROK) met on this 26th day of April, 2023 to mark the 70th anniversary of the U.S.-ROK Alliance.
修正しておきます。ありがとう。
投稿: 管理人 | 2023年4月29日 (土) 09時23分
ワシントン宣言の原文をざっと確認しましたが、冒頭には To mark the 70th anniversary of the U.S.-ROK Alliance. (米韓同盟70周年を記念して)とありました。アメリカのアジア政策、米韓同盟を維持するうえで日米同盟が一丁目一番地なのは間違いありませんが、わが国不在の共同宣言でそこに言及する義理はないと思います。
投稿: HY | 2023年4月29日 (土) 09時59分