小西騒動の目的はSC潰し
元「総務省放送政策課課長補佐」という顕職にして、「憲法学者」の博覧強記を誇る小西議員のアッパレな自爆ぶりについては、まぁいいでしょう。
ほかでもさんざん触れられていますから、立憲の持つ報道統制的体質と、それを持ち上げたメディアの自滅にすぎません。
閑話休題。
小西氏の総務省祭りは大きな傷跡を残しました。
え、立憲に?
いえいえ、セキュリティクリアランス(SC)の政府の取り組みが今国会でできなかったのです。
この国会で、政府は去年5月に成立した経済安全保障推進法の積み残しの課題となっている機密取り扱い資格、いわゆるセキュリティー・クリアランス(SC/適格性評価)の制度化を進めていました。
その担当大臣が高市氏です。
SCが制度化されていないわが国では、米欧と技術交流を進めようとしても、日本に流せば機密情報がダダ漏れになるという理由から消極的対応をされてきました。
「SCの制度導入で先行する米国や欧州の主要国は、ハイテク分野で台頭する中国を念頭に、制度を持たない日本との共同研究で機密情報が漏れる可能性を警戒する。先端技術に関わる国際共同研究に日本企業が参加できなくなる恐れもあるのだ。高市氏も「日本企業が海外との共同研究や民間企業同士の取引からはじき出され、ビジネスチャンスをみすみす失うことになる」(同番組)など危機感を訴えてきた」
(産経2023年1月11日)
【岸田政権考】高市氏ピンチ 経済安保の機密扱い資格に黄信号 - 産経ニュース (sankei.com)
軍事関連情報については、安部氏が渾身の力で2014年に作った特定秘密保護法でなんとかカバーしていますが、それは政府が主体となった案件にとどまります。
民間企業が主体となった情報移転については、いまだ手つかずです。
「SCは、機密情報へのアクセスを一部の民間の研究者・技術者や政府職員に限定する仕組みだ。人工知能(AI)や量子技術など最先端技術に関する機密情報に接する資格を関係者に付与して明確にし、軍事転用が可能な技術や民間の国際競争力に関わる重要な情報が国外に流出することを防ぐ狙いがある」
(産経前掲)
ご承知のように、現代においては民間技術と軍事技術の境目がありません。
たとえば高性能コンピューターは、ミサイルや戦車、軍艦、航空機の中枢に使用されて いると同時に、広く民製品にも利用されています。
そもそもインターネットやGPSも軍事用が民製品にスピンオフしたものです。
民間航空機の管制や自動車の自動運転や自動ブレーキなどに広く使われているレーダー技術は、もともと敵の位置を知るための軍事技術でした。
あるいは、グリーン技術と思われているソーラー発電機すらも、GaAs(ガリウムひ素)半導体を利用した超高効率のソーラーパネルとして米陸軍が使用しています。
携帯電話のCDMA技術は、そもそも軍事で開発された拡散スペクトル通信技術をクアルコム社が民間の携帯電話に使えるように転用した技術です。
5G通信で使われるMIMOアンテナは、軍事用のフェーズドアレイレーダー用のアンテナのこれもスピンオフです。
というふうに民間技術と軍事製品には境目がなく、大量破壊兵器を密造している北朝鮮の弾道ミサイルの部品には、多くのメイドインジャパンの民製品が使われています。
だから学術会議の「軍事研究には協力しない」というご託宣は、工学系の者にとってまったく意味をなさない文系特有の発想なのです。
しかし、日本はいまや多くの国と技術交流しており、さらにCPTPPによってスパンが大きく英国にまで延びようという時代にもかかわらず、いまだに民間企業や研究組織の個々バラバラなセキュリティ基準で対応してきました。
担当大臣の高市氏はこう述べています。
「日本人のビジネスマンや技術者が「セキュリティ・クリアランス」の資格を持っていないばかりに、外国の政府調達や国際共同研究や外国企業との取引から外され、ビジネスチャンスを逃してしまうような現状は、一刻も早く改善しなければなりません」
セキュリティ・クリアランス制度整備に向けたキックオフ | 9期目の永田町から 令和3年11月~ | コラム | 高市早苗(たかいちさなえ) (sanae.gr.jp)
こういう遅れた状態を打破して、SCを一括して、政府が明確なセキュリティランクを作ろうというのが、今回の制度づくりの趣旨です。
つまり、ここまではSCランクいくつ、ここから先はSCランクこれこれ、それを確証するために国が審査をします。
たとえば、セキュリティランクに応じて、親族や交友関係なども審査対象とするわけです。
「セキュリティ・クリアランス制度は、国家における情報保全措置の一環として、政府が保有する安全保障上重要な情報を指定することを前提に、当該情報にアクセスする必要がある者に対して政府による調査を実施し、当該者の信頼性を確認した上でアクセス権を付与する制度。特別の情報管理ルールを定め、当該情報を漏洩した場合には厳罰を科すことが通例となっており、昨年決定した新たな国家安全保障戦略や経済安全保障推進法の附帯決議にも検討を進めるよう明記されている」
(日本商工会議所)
情報保全強化へセキュリティ・クリアランス制度検討(経済安全保障推進会議) - 日本商工会議所 (jcci.or.jp)
※詳細 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyo/index.html
本来、経済安全保障推進法にこれらが盛り込まれるべきでしたが、特定秘密法とまったく同じ抵抗が生まれました。
例の「治安維持法の復活」「軍靴の音」です。
こういう幻覚や幻視を見る人は、特定秘密法の時になんと言っていたのか「市民生活が抑圧される」です。
たとえば、特定秘密保護法で連日国会前が騒がしかった時、朝日は赤旗翻る集会の写真と共に、こんなお約束の記事を出しています。
朝日は当時の紙面ではこんなことを書いています。もはや世界記憶遺産に登録申請したいようなシロモノですな。
特定秘密保護法に関するタイムラインビューアー:朝日新聞デジタル (asahi.com)
「防衛産業で働くB男がA子と大学の同窓会で再会した。酔ったB男は『あまり知られていない話だけど』といって、数年前に北朝鮮が発射したミサイルが途中で失速して海に落ちたが、『もし失速していなかったらこの辺に落ちていたかも』という情報を暴露。
A子がブログで書き込み、ある防衛マニアかミサイルの飛ぶコースを推測してネットで拡散した。翌月、捜査機関が二人を訪ねて来た。B男は業務で知った秘密を漏らした疑い、A子は漏洩をそそのかした疑いだった」
(朝日 2013年12月6日)
もはやデマというより妄想。
この記事のキモはむしろイラストにあって、そこには思わせぶりに 「有罪!」 という字がデカデカと踊っているのですから、さぁお立ち会い。
もちろん、本文には 「逮捕される」 も、ましてや 「有罪」 もありません。 これが味噌です。 ただ 「捜査機関が訪れた」 と記してあって、そこで寸止めです。 逮捕まで書くとまるっきりの誤報だもんね (苦笑)。
そもそも、特定秘密法は、防衛省や製造に携わった関係者に対しての秘密保全義務に罰則規定を設けただけのもので、世界中どこの国にもあるものです。
たかだか、オスプレイの写真を撮ったら逮捕、ミサイルの弾道を予測したらパクられ、演劇には憲兵が立ち会う、なーんてもんじゃありません(あたりまえだつうの)
それを、「同窓会」だとか、「ネットでの拡散」とか、市民の身近な例に引き寄せて、恐怖を煽っているのですから、まるでアジビラです。
では、SCなどあたりまえの諸外国ではどうでしょうか。
「先行導入している国ではどう認識されているのだろうか。昨年12月、来日中だった米国の経済安全保障政策の専門家、リチャード・マーシャル氏に話を聞く機会があった。同氏はNSA(国家安全保障局)などの政府機関で要職を務めた経歴がある。
日本で人権侵害への懸念があることについて、マーシャル氏は「(SCは)情報にアクセスしたい人が、政府に『私のバックグラウンドチェック(身元調査)をしてください』というものだ。互いに同意して調査するのであって人権侵害は起こらない」と解説した。
日本では「政府に強制的に身元が調査される」というイメージが強い。しかし米国では、政府と個人が「互いに同意する」という、ある意味で対等の立場でやりとりすることと捉えられているように感じる」
(産経前掲)
このようにSCは契約する場合の必須の前提なのです。
SCの経済安全保障推進法への盛り込みは今国会の焦点のひとつでした。
高市氏は意欲をみなぎらせてこう書いています。
「2月14日朝の閣議後、官邸で18名の大臣、官房副長官、国家安全保障局長等をメンバーとする「経済安全保障推進会議」が開催され、私は進行役を務めました。
同会議において、昨年8月10日の経済安全保障担当大臣就任以来の悲願だった「セキュリティ・クリアランス」の制度整備に向け、岸田総理から私に対して検討の御指示を頂くことができました。
会議では、先ず、当方から、「セキュリティ・クリアランス」を含む我が国の情報保全の強化に向けた検討を進める必要があること、経済界からも、主要国の情報保全制度と整合性のある制度の整備を求める声があることなどについて、説明をいたしました。
しかしその担当大臣の高市氏が「小西文書」の自作自演騒動で公務ができなくなってしまい、今回もオジャンです。
「「今の作業状況を見ると、通常国会とは言い切れない」
高市早苗経済安全保障担当相は昨年12月20日のBSフジ番組で、SCの制度化に向けた改正案の提出時期が見通せないと打ち明けた。8月の担当相就任当初から制度化を訴えてきたが、調整は難航しているようだ」
(産経前掲)
小西氏がなにに忖度してこんな馬鹿げた騒動を引き起したのか知りませんが、もっともやってはいけない時期に高市氏の足を引っ張って1カ月間も国会を空転させたのだけは確かです。
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己を含めてヒトは見たいものを見たいようにだけ見てしまいがちな生き物だ、とのメタ認知を常に持っていないと、サルさんやオウムさんみたいな言動の異常さにも、奇妙な見出しや主張に踊り踊らされて論点や本筋が際限なくずれていくのにも、気付けないまま手遅れになるまで修正が効かないってことになりますね。
今回のこと、セキュリティ・クリアランスの無さの露呈を以てセキュリティ・クリアランスの推進強化を潰そうとしたって話であるならば、それってすごくバカだなぁと思います。
マイナンバー制度にある意義は変わらずとも、そのセキュリティにおけるリスクは、政府側というより総務省の中にあるとわかりました。
ともかくも我々の社会、機密文書から詐欺や強盗の標的になる名簿やリストまで、それらを持ち出し、持ち出させ、売り買いする者たちが確実にいるのだという現実、それが本筋です。
日々、決済で己のクレジットカード番号を撒き、アプリや会員システムで囲われてポイントや便利さと引き換えに己の情報を提供している我々が求めるべきは、危険な奴悪い奴駄目な奴は常に存在する現実に対して、民間から政府までそれぞれが、個人から国家まで被る害や損失をどう効果的に抑え込むか、抑え込むには何が必要なのかを考えて、正当なセキュリティ確保を意識する社会にし、対策とその進化を続けること、ではないですかね。
投稿: 宜野湾より | 2023年4月 4日 (火) 10時44分
小西騒動が一段落つきかけた頃合いを見計らったように中国によるスマート農業技術のスパイ行為がニュースになってました。ま、技術を盗んだ当人はすでに出国していますから、逮捕するのは無理で、日本は盗まれっぱなしで終わるわけで。イチゴやブドウ、スマート農業、軍事転用できる民生品だけでなく、色々な特許技術が盗まれているのに、何も対処できない日本と言う国はなんなのでしょうか?
投稿: 一宮崎人 | 2023年4月 4日 (火) 11時21分
濃密なセキュリティクリアランス詳報をありがとうございます。
読めば読むほど、これがないまんま日本が高度な技術を開発すること自体が国際リスクですらあるという危機感を感じます。
https://www.sankei.com/article/20230317-YSAJIEA7CRMNTFIWWYZY2FVZWM/?outputType=amp
進捗を捕捉すると今国会で審議の台に上がるほどまではまだ届かず、政府内では有識者会議を重ね(これに高市大臣が出られなかったのはダメージ)、先月自民が提言をまとめ上げました。
有識者会議は半月に1度ペースでスタートしたようで大枠を下記で参照できます。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyo_sc/index.html
政府は1年程度をめどに検討作業を進め、有識者会議の結論を踏まえ、来年以降の法制化を目指す。
遅く感じますが、何もアナウンスなくいきなりぼん!ではなくて対応する民間が2歩ほど後追いしながら伴走するのとセットで何とかなるでしょうか。
今回の馬鹿騒ぎと野党報道共に犯した失態が共有されることにより、出鱈目な反対運動の説得力が減るように、今朝の記事のような考察がネットメディアや識者からどんどん発信されることを期待しています。
投稿: ふゆみ | 2023年4月 4日 (火) 12時25分
昨年のBSフジの番組内で高市氏は、就任直後に「2023年の通常国会にセキュリティ・クリアランスを入れた経済安保推進法を提出するとは、口が裂けても言わないでくれ」と言われた事を暴露していました。
岸田さん側は政権を揺るがしかねない大問題として、最初から認識していた事が分かります。でも、セキュリティ・クリアランス抜きの経済安保など意味がありません。
情報の取り扱いは一部の面従腹背官僚の価値の原資であって、評価されたり調査されたりは彼らにとって死活問題です。
高市さんと言うよりも、岸田首相自身が安保法制並の闘争を覚悟しないと出来上がりません。
今回の問題は反対側からのジャブのようなもので、憲法改正と同じ要領にて延々と遅らせたすえ、結論が出せないようにする目的での一里塚だと考えています。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年4月 4日 (火) 12時42分
左派界隈が安保法案の時に危惧していた事例は中露で現在進行形で行われているんですが、それに対してはどうお考えなんでしょうね?
林外相訪中直前での邦人拉致は決定的に「いまの中国共産党は信用出来ない」というイメージをより強固にしてしまったでしょうし、防衛費増に続きSC導入に向けての追い風になって欲しいものです。
投稿: しゅりんちゅ | 2023年4月 4日 (火) 16時54分
確かに、そんなことは口が裂けたら言えません!
にしても、小西だけで国費何十億かけて空費したのやらと。。全くやってくれましたね。憲法学者さんがやる正しい姿なのか?と。
投稿: 山形 | 2023年4月 4日 (火) 17時30分