スーダン邦人退避がなぜ困難なのか
スーダンでやっと停戦合意が結ばれたようです。
まったくヤレヤレというかんじですが、これがアフリカの現実です。
「軍とその傘下にある準軍事組織との間で戦闘が続くアフリカのスーダンでは、双方が3日間の停戦合意を発表し、軍は一部の国が国外退避を進めているとしています。ただ戦闘は依然、続いていて、外国人の国外退避が安全に進められるかは、不透明な情勢です。
スーダンでは、おととし、クーデターで実権を握った軍と軍の傘下にある準軍事組織のRSF=即応支援部隊との間で今月15日以降、激しい戦闘が続いていて、WHO=世界保健機関によりますと、21日の段階で413人が死亡し、3500人以上がけがをしているということです」
(NHK4月23日)
スーダン 3日間の停戦合意発表も戦闘続く 外国人退避は不透明 | NHK | スーダン
珍しく23日から24日にかけて、戦闘開始以来初の戦闘のない夜となっているようで、欧米は航空機を使った退避作戦を開始しています。
ただし、昨日24日午後1時が停戦の終了ですので、そうとうな駆け込み退避となったはずです。
スーダン】米大使館員ら約100人が国外退避 外国人の退避続く - YouTube
【ワシントン=坂口幸裕、テルアビブ=久門武史】軍と準軍事組織の戦闘が続くアフリカ北東部スーダンで、各国の退避活動が本格化している。米国や英国、フランスが外交官らを退避させたほか、サウジアラビアも22日、自国民と外国人の計157人が船で退避したと表明した」
(日経2023年4月24日)
米英仏などがスーダン退避 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
EUも軍用機が自国民を収容して避難させました。
スーダン 各国の退避作戦続く フランス人の車列に攻撃 1人負傷- 名古屋テレビ【メ~テレ】 (nagoyatv.com)
「AFP=時事】スーダン正規軍と準軍事組織「即応支援部隊」との戦闘が続く中、スペイン外務省は23日、スーダンから自国民30人と欧州および中南米出身者70人の計約100人を軍用機で退避させたと発表した。
同機は23日午後11時前に首都ハルツームを出発し、ジブチに向かった。アイルランドやイタリア、ポルトガルの他、スーダン人も搭乗した。 また、ドイツ軍は同日、101人を軍用輸送機で避難させたとツイッターで明らかにした。そのうち1機がまず、現地時間午前0時に「ヨルダンに無事着陸した」としている。輸送機A400M3機で退避を行ったという。
軍の報道官によれば、搭乗者には他国民も含まれる。外務省と国防省は「可能な限り、欧州連合市民やその他の国民も避難させる」としている。
フランス政府高官も同日、「困難な」避難支援の末、第1便で100人以上を退避させたと発表した」
(AFP4月26日)
では、わが国はどうしているのでしょうか。
3機の自衛隊機は、ずっとジブチから動かないままです。
諸外国がわずかな停戦時間を使って軍用機による退避を行っているのに、我が国だけは自衛隊84条で戦闘区域に行く事ができません。
ですから在留邦人は、危険な陸路を通って港まで向かい、さらにそこからジブチまでたどり着いて空自の輸送機に乗ることができます。
途中の陸路こそがもっとも危険なはずです。
国連は陸路で港まで移動して船舶で避難を指示していますが、コンボイを組むと標的にされるので、離れすぎないようにして各個バラバラに港に向かいますが、この港も自衛隊の待つジブチからは1000㎞も離れた港です。
※追記
自衛隊機はポートスーダンで在留邦人を乗せたようです。
「岸田文雄首相は24日深夜、アフリカ北東部スーダンに在留する邦人とその家族計45人が自衛隊機で国外退避したと明らかにした。公邸で記者団に語った。周辺国ジブチに待機している自衛隊輸送機をスーダンに派遣し、北東部ポートスーダンで邦人を乗せてジブチに輸送した。これとは別に、フランスや国際赤十字の協力を受けて合計4人の邦人がジブチやエチオピアに移動。この結果、スーダンに在留し退避を希望している邦人は数人となった」
(共同4月24日)
スーダン邦人ら45人退避 自衛隊機、ジブチへ輸送(共同通信) - Yahoo!ニュース
スーダン 停戦約束も戦闘続く 各国、自国民避難を試みるも空港の滑走路使えず(ABEMA TIMES) - Yahoo!ニュース
自衛隊は各国軍と同様の装備と能力も有しているにもかかわらず、自衛隊法改正時の野党の「自衛隊の海外派兵ハンターイ」というイチャモンづけのために、こういうおかしなことになっています。
スーダンまで行けない理由を理解するために、自衛隊法84条の3を押さえておきます。
自衛隊法
(在外邦人等の保護措置)第八十四条の三
一 当該外国の領域の当該保護措置を行う場所において、当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たつており、かつ、戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。第九十五条の二第一項において同じ。)が行われることがないと認められること。
つまり条文どおりに解釈すれば、邦人救出は当該の所轄当局が治安を確保しており、かつ戦闘がない地域にしか救援機を派遣できないわけです。
もちろんこのような現実を無視した規定は、今のスーダンにはあてはまりません。
治安が崩壊して在留邦人が危険にさらされているから自衛隊が救援にいくのであって、救援機はジブチで待っているからここまでやってこいというのでは話になりません。
自衛隊法は、すべからくこのようなポジティブリスト方式で作られています。
ポジティブリストとは 、コレをしていい、アレをしていいということを抜き出して法律で指定したものです。
たとえば今回の第84条の3は、前段で「身体に危害が加えられるおそれがある邦人の警護、救出その他の当該邦人の生命又は身体の保護のための措置(輸送を含む)」ができるとしていますが、その後にくだんの戦闘地域ではうんぬんが続いて、実質なにもできないように作られています。
そりゃそうでしょう、このスーダンがそうであるように、内乱が起きている国の治安機関なんかとっくに崩壊していますから、国際空港が平和なはずがないじゃないですか。
そんなことはわかりきっているのに形だけ救援できるように改正して、実際は自衛隊を動かせないような建てつけなのですから、ある意味たいへんに悪質です。
河野克俊氏(元統合幕僚長)はこのように述べています。
「ポジティブリストとは、本来の軍組織はネガティブリスト方式だ。すべて(の国が)そうだ。いま憲法9条に自衛隊明記という話がある。明記すれば違憲論はなくなるが、自衛隊法は恐らくそのまま残る。いま自衛隊が抱えている矛盾は、自衛隊を憲法9条に明記するだけでは変わらないはずだ(略)
今回の派遣も、これをやってはいけない、これをやってはいけないということを与えて、あとはいいよということであれば、隊員としては非常にやりやすい」
有事の自衛隊活動は「ネガティブリスト方式にすべき」
河野氏が言っている「これをやってはいけない」ことだけを徹底させて、後は軍に判断させるのがネガティブリスト方式です。
「原則的に規制がない状態で規制するもの、禁止するものについてリスト化すること。
例として、基本的に何でも許可されている環境下において、「●●はしてもいいが、▲▲はしてはいけない。」とリスト化しているものを指す。
対義語はポジティブリスト」
ネガティブリスト | 用語集 | 株式会社折兼 (orikane.co.jp)
私はこのような具体的な事例の積み重ねから、憲法を考えて行くべきだと思います。
« 政府がテロリストに「報酬」を与えてしまった | トップページ | スーダン内戦、ワグネルの関与 »
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA12ALF0S2A410C2000000/
この改正4条と派遣手続きの変更がアフガンとの違いでしょうか。
派遣命令を巡っては「輸送を安全に実施することができると認めるとき」との文言を削除する。危険を回避するための「方策を講ずることができると認めるとき」に改める。
安全の概念についても岸田総理が「自衛隊が現地に赴く際の安全は民間の安全と同じ意味ではない」
とあらかじめ注文をつけていました。
一旦飛んだ先はジブチでしたが現地からの関係国との連携行動が格段にフレキシブルになったのではと想像します。
菅さんありがとう。
あれは当時の外国人を乗せるのせないに限った話ではなく、その枠を外せば3条を避けて他国と協力して乗り合いや地点連携オペレーションに参加できる、その為の改正だったのかなと。
ただこれだとポジティブリストが曖昧になっていくばかりで、きちんとネガティブリストにしないとある時から己の首が絞まることになるのではと思います。
投稿: ふゆみ | 2023年4月25日 (火) 12時43分
すみません、4条ではなく84条の4、です。
見直しが足りないですね、反省します。
投稿: ふゆみ | 2023年4月25日 (火) 16時46分